特許第6786885号(P6786885)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6786885
(24)【登録日】2020年11月2日
(45)【発行日】2020年11月18日
(54)【発明の名称】バイオ電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/16 20060101AFI20201109BHJP
   H01M 8/04186 20160101ALI20201109BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20201109BHJP
   C12N 9/04 20060101ALI20201109BHJP
【FI】
   H01M8/16
   H01M8/04186
   H01M4/86 M
   C12N9/04
   C12N9/04 D
【請求項の数】7
【全頁数】38
(21)【出願番号】特願2016-109270(P2016-109270)
(22)【出願日】2016年5月31日
(65)【公開番号】特開2017-216154(P2017-216154A)
(43)【公開日】2017年12月7日
【審査請求日】2019年4月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】伊勢崎 由佳
(72)【発明者】
【氏名】中沖 優一郎
【審査官】 川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−182887(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/098153(WO,A1)
【文献】 特表2015−527056(JP,A)
【文献】 特開平06−189755(JP,A)
【文献】 国際公開第01/094370(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/037261(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/16
H01M 4/86
H01M 4/90
C12N 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料を酸化して有機酸を生成する酵素を電極触媒とする負極を備えるバイオ電池であって、
前記負極による前記燃料の酸化に伴い生成する有機酸による負極内のpH変動を調整するpH調整部を備え、
前記pH調整部が、
(i)前記負極に、前記燃料と前記燃料の0.5倍以上6.0倍以下モル濃度のイミダゾール化合物である緩衝液成分を含み、かつアルカリ性に調整されている交換用の燃料溶液を供給し、使用済みの燃料溶液と交換する燃料溶液交換部、及び、
(ii)前記負極を、前記負極に供給される前記燃料の0.5倍以上6.0倍以下モル濃度のイミダゾール化合物である緩衝液成分を含み、かつアルカリ性に調整されている緩衝液に含浸する負極含浸部、から選択される少なくとも1つから構成される、バイオ電池。
【請求項2】
前記燃料溶液交換部によって前記負極に供給される前記交換用の燃料溶液が、0.75M以上の緩衝液成分を含む請求項1に記載のバイオ電池。
【請求項3】
前記負極含浸部によって前記負極が含浸される前記緩衝液が、1M以上の緩衝液成分を含む請求項1又は2に記載のバイオ電池。
【請求項4】
前記アルカリ性が、pH 8〜11の範囲である請求項1〜3の何れか一項に記載のバイオ電池。
【請求項5】
前記緩衝液成分が、強塩基性化合物によって緩衝能が調整されている請求項1〜の何れか一項に記載のバイオ電池。
【請求項6】
前記pH調整部が、燃料溶液の交換時に繰り返し作動するように構成されている請求項1〜の何れか一項に記載のバイオ電池。
【請求項7】
前記酵素が、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸、又はピロロキノリンキノン依存性脱水素酵素である請求項1〜の何れか一項に記載のバイオ電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオ電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、酵素や微生物が持つエネルギー変換システムを利用したバイオ電池の開発が進められている。バイオ電池は、生体内のエネルギー変換系を応用した燃料電池であり、電極触媒として生体触媒を用いて、生体触媒による酸化還元反応と電極反応を共役させて電気エネルギーを取り出す発電装置である。バイオプロセスを利用するバイオ電池は、緩和な条件かつ高い選択性を有し、燃料として糖やアルコール等の環境中に存在する多様な物質を利用できるという利点を有する。そのため、安全で環境負荷が小さいことから、携帯型機器や体内埋込型機器等の小型電子機器等の次世代電源としての更なる発展が期待されている。
【0003】
電極触媒として酵素を利用したバイオ電池の場合、負極側では燃料の酸化反応により電子とプロトンを生成し、取り出された電子を電極基材に伝達する。電子は、外部回路を介して、また、プロトンは電解質層等を介して正極側に輸送され、正極側では酸素の還元反応が進められる。近年、バイオ電池の性能向上を目指し、安定性向上、電極素材の最適化、電極/酵素間の電子の移動の効率化等の観点からの研究開発が進められている。
【0004】
例えば、バイオ電池を長期間にわたっての安定的な動作を実現するため、正極側の湿度を一定範囲内に調整する技術が報告されている(特許文献1を参照)。特許文献1の技術によれば、相対湿度を一定範囲内に調整することで、正極の劣化を招くことなくその性能を長期にわたって持続でき、バイオ電池の耐久性を向上できる。
【0005】
また、効率的に燃料からエネルギーを取りだすため、負極側では、電極触媒である酵素が好適な環境下で安定的にその触媒活性を保持できることが要求される。例えば、優れた緩衝能を有するイミダゾール環を含む化合物の存在下で安定した活性を有し、少なくともpH 7〜11の範囲で安定である酵素を電極触媒として利用したバイオ電池が報告されている(特許文献2を参照)。特許文献2のバイオ電池は、電極でのプロトン濃度の増減が生じても十分な緩衝作用を得ることができるイミダゾール環を含む化合物を緩衝液成分として電解液等に使用する。これにより、電極上の酵素の周囲のpHを酵素の至適pH範囲から外れることを抑制できると共に、利用される酵素は緩衝能の高いイミダゾール環を有する化合物の存在下で安定に機能できることから、効率的に電気エネルギーを創出できることが可能となることが記載されている。
【0006】
また、燃料溶液を負極に効率的に供給するためのバイオ電池スタックが報告されている(特許文献3を参照)。詳細には、特許文献3のバイオ電池スタックは、少なくとも1以上の燃料容器が組み込まれた燃料マニホールド、及び当該燃料マニホールドに燃料溶液を注入するための入口、及び燃料溶液を放出するための出口を含む燃料供給部を備える。そして、負極は燃料容器において燃料溶液と接触するように配置されており、燃料溶液は、適切な燃料源から燃料マニホールドの燃料容器内に供給される。燃料は、バイオ電池の作動の間に消費され、消費後の燃料は適切な廃棄先に放出されるように構成されている。
【0007】
また、燃料消費に起因する電池性能劣化を判断し、燃料の添加やバイオ電池本体の回転を通した燃料溶液の濃度分布の均等化等を通して、効率的に発電性能を回復させるように構成したバイオ電池も報告されている(例えば、特許文献4を参照のこと)。詳細には、特許文献4のバイオ電池は、燃料溶液のpH変化を色変化により検出するpH検出部を設け、燃料溶液の消費を視覚的に検出可能とするように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2015-228321号公報
【特許文献2】特開2014-182887号公報
【特許文献3】特表2010-516017号公報
【特許文献4】特開2013-33630号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1のバイオ電池に関しては、電流密度がμA/cm2レベルの低出力のみに言及し、mA/cm2レベル以上で燃料を繰り返し供給するケースは検討されていない。特許文献2〜4のバイオ電池は、バイオ電池の作動に伴い、負極側では電極触媒である酵素により燃料が酸化されるが、燃料の酸化に伴って生成する有機酸が酵素に与える影響に関して検討する必要がある。有機酸は電解液や燃料溶液等に含まれる緩衝液成分の濃度と比較して大量に生成するため、負極側のpHが酸性に移行し、その結果、pHが酵素の至適範囲を外れ、酵素活性の低下によりバイオ電池の出力が低下することが予想される。しかしながら、従来の何れの技術においても、有機酸の生成によるバイオ電池の出力低下への対応は改善の余地があった。
【0010】
そこで、燃料の酸化により生成する有機酸に起因する酵素活性の低下を防止することを課題とする。また、電極触媒である酵素が好適な環境下で安定的にその触媒活性を保持できることを課題とする。更には、発電効率を向上できるバイオ電池を提供すること、また、発電持続時間を向上できるバイオ電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、バイオ電池の作動後、燃料の酸化に伴い有機酸を生成した負極を一定濃度以上の緩衝液成分を含むアルカリ性緩衝液に含浸させることによって、負極側のpHを酵素の至適範囲に戻し、電極酵素である酵素を再び活性状態とすることができ、発電効率及び発電持続時間を向上できることを見出した。また、追加で供給する燃料溶液に、一定濃度以上の緩衝液成分を含ませ、かつ、アルカリ性に調整することによっても、電極酵素である酵素を再び活性状態とすることができ、発電効率及び発電持続時間を向上できることを見出した。これらの知見に基づき、本発明者らは本発明を完成した。
【0012】
すなわち、上記課題を解決するため、以下の〔1〕〜〔8〕に示す発明を提供する。
【0013】
〔1〕燃料を酸化して有機酸を生成する酵素を電極触媒とする負極を備えるバイオ電池であって、
前記負極による前記燃料の酸化に伴い生成する有機酸による負極内のpH変動を調整するpH調整部を備え、
前記pH調整部が、
(i)前記負極に、前記燃料と前記燃料の0.5倍以上の濃度の緩衝液成分を含み、かつアルカリ性に調整されている交換用の燃料溶液を供給し、使用済みの燃料溶液と交換する燃料溶液交換部、及び、
(ii)前記負極を、前記負極に供給される燃料の0.5倍以上の濃度の緩衝液成分を含み、かつアルカリ性に調整されている緩衝液に含浸する負極含浸部、から選択される少なくとも1つから構成されるバイオ電池。
【0014】
上記〔1〕の構成によれば、負極の電極触媒である酵素が燃料を酸化する際に発生した有機酸に起因して、負極側のpHが酸性に傾くことを防止し、また、負極側のpHが酸性に傾いたとしても、負極側のpHを負極の酵素の至適範囲に戻すことができる。負極の電極触媒である酵素を活性状態に維持することができる。これにより、バイオ電池の安定的かつ持続的な運転を実現することができ、発電効率、電圧保持時間及び電池容量を向上することができ、ひいては耐久性を向上することができる。したがって、上記構成により優れた電池特性を発揮するバイオ電池を提供することができる。また、負極側のpHの調整は、使用済みの燃料溶液を緩衝液成分濃度及びpHを調整した燃料溶液に交換する、若しくは、緩衝液成分濃度及びpHを調整した緩衝液に含浸するという、簡便な機構で行うことができ、バイオ電池の大型化及び複雑化を招かない。
【0015】
〔2〕前記燃料溶液交換部によって前記負極に供給される前記交換用の燃料溶液が、0.75 M以上の緩衝液成分を含む。
【0016】
上記〔2〕の構成によれば、負極側のpHの調整を効果的に行うことができ、負極側を負極の電極触媒である酵素を活性の発揮に好適な状態に維持することができる。これにより、バイオ電池の安定的かつ持続的な運転を実現することができ、発電効率、電圧保持時間及び電池容量を向上することができ、ひいては耐久性を向上することができる。したがって、上記構成により、更に優れた電池特性を発揮するバイオ電池を提供することができる。
【0017】
〔3〕前記負極含浸部によって前記負極が含浸される前記緩衝液が、1 M以上の緩衝液成分を含む。
【0018】
上記〔3〕の構成によれば、負極側のpHの調整を効果的に行うことができ、負極側を負極の電極触媒である酵素を活性の発揮に好適な状態に維持することができる。これにより、バイオ電池の安定的かつ持続的な運転を実現することができ、発電効率、電圧保持時間及び電池容量を向上することができ、ひいては耐久性を向上することができる。したがって、上記構成により、更に優れた電池特性を発揮するバイオ電池を提供することができる。
【0019】
〔4〕前記アルカリ性が、pH 8〜11の範囲である。
【0020】
上記〔4〕の構成によれば、前記燃料溶液交換部によって前記負極に供給される前記燃料溶液、及び、前記負極含浸部によって前記負極が含浸される前記緩衝液のpHを8〜11の範囲とすることで、負極側のpHの調整を効果的に行うことができ、負極側を負極の電極触媒である酵素を失活させることなく、活性の発揮に好適な状態に維持することができる。これにより、バイオ電池の安定的かつ持続的な運転を実現することができ、発電効率、電圧保持時間及び電池容量を向上することができ、ひいては耐久性を向上することができる。したがって、上記構成により、更に優れた電池特性を発揮するバイオ電池を提供することができる。
【0021】
〔5〕前記緩衝液成分が、イミダゾール化合物を含む。
【0022】
上記〔5〕の構成によれば、緩衝液成分としたイミダゾール化合物は、優れた緩衝作用を有するため、負極側で生成した有機酸によるpH変動を効果的に緩衝でき、特に、高濃度の燃料を用いた高出力時においても、負極側のpHの調整を効果的に行うことができ、負極側を負極の電極触媒である酵素の活性の発揮に好適な状態に維持することができる。これにより、バイオ電池の安定的かつ持続的な運転を実現することができ、発電効率、電圧保持時間及び電池容量を向上することができ、ひいては耐久性を向上することができる。したがって、上記構成により、更に優れた電池特性を発揮するバイオ電池を提供することができる。
【0023】
〔6〕前記緩衝液成分が、強塩基性化合物によって緩衝能が調整されている。
【0024】
上記〔6〕の構成によれば、緩衝液成分に加えて強塩基性化合物の存在により、アルカリ性側での緩衝能が向上されているため、負極側で生成した有機酸によるpH変動を効果的に緩衝できる。特に、高濃度の燃料を用いた高出力時においても、負極側のpHの調整を効果的に行うことができ、負極側を負極の電極触媒である酵素の活性の発揮に好適な状態に維持することができる。これにより、バイオ電池の安定的かつ持続的な運転を実現することができ、発電効率、電圧保持時間及び電池容量を向上することができ、ひいては耐久性を向上することができる。したがって、上記構成により、更に優れた電池特性を発揮するバイオ電池を提供することができる。
【0025】
〔7〕前記pH調整部が、燃料溶液の交換時に繰り返し作動するように構成されている。
【0026】
上記〔7〕の構成によれば、pH調整部を燃料溶液の交換時に繰り返し作動することにより、負極側で生成した有機酸によるpH変動を持続的に緩衝でき、負極側を負極の電極触媒である酵素の活性の発揮に好適な状態に長期にわたって維持することができる。これにより、バイオ電池の安定的かつ持続的な運転を実現することができ、発電効率、電圧保持時間及び電池容量を向上することができ、特には、耐久性を向上することができる。したがって、上記構成により、更に優れた電池特性を発揮するバイオ電池を提供することができる。
【0027】
〔8〕前記酵素が、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸、又はピロロキノリンキノン依存性脱水素酵素である。
【0028】
上記〔8〕の構成によれば、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸、又はピロロキノリンキノン依存性脱水素酵素を負極の電極触媒とするバイオ電池の安定的かつ持続的な運転を実現することができ、発電効率、電圧保持時間及び電池容量を向上することができ、特には、耐久性を向上することができる。ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸、又はピロロキノリンキノン依存性脱水素酵素は、糖の酸化反応を触媒する等のバイオ電池の負極に汎用される酵素であることから、本発明のバイオ電池の利用可能性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】バイオ電池の負極内部構成の検証を行った参考例1にて作製した負極内部構成の酸化還元電位の測定結果を示す図である。
図2】正極及び負極に使用する酵素の至適pHの検証(PQQGDH-mPMS系)を行った参考例2の結果を示すグラフであり、正極酵素及び負極酵素の活性のpH依存性例を示す。
図3】pH環境がバイオ電池出力に与える影響の検証(PQQGDH-mPMS系)を行った参考例3で作製したバイオ電池の模式図である。
図4】燃料溶液の交換による電圧保持時間の検証−1(PQQGDH-mPMS系)を行った比較例1の結果を示すグラフである。
図5】燃料溶液の交換による電圧保持時間の検証−2(NADGDH-ACNQ系)を行った比較例2の結果を示すグラフである。
図6】燃料溶液の交換による電圧保持時間の検証−3(NADGDH-ACNQ系)を行った比較例3の結果を示すグラフである。
図7】電池容量低下要因の電極からの検証(NADGDH-ACNQ系)を行った参考例4で作製したバイオ電池の電極の交換方式を示す模式図である。
図8】電池容量低下要因の電極からの影響の検証(NADGDH-ACNQ系)を行った参考例4の結果を示すグラフである。
図9】電池容量低下要因の負極の内部構成成分からの検証(NADGDH-ACNQ系)を行った参考例5の結果を示すグラフである。
図10】電池容量低下要因の燃料消費によって発生する有機酸からの検証−1(NADGDH-ACNQ系)を行った参考例6の結果を示すグラフである。
図11】電池容量低下要因の燃料消費によって発生する有機酸からの影響の検証−2(NADGDH-ACNQ系)を行った参考例7の結果を示すグラフである。
図12】負極へのpH調整のための緩衝液含浸の影響の検証(NADGDH-ACNQ系)を行った実施例1において負極への構成成分の含浸方式を示す模式図である。
図13】負極へのpH調整のための緩衝液含浸の影響の検証(NADGDH-ACNQ系)を行った実施例1の結果を示すグラフである。
図14】燃料溶液交換時に添加する燃料溶液中の緩衝液濃度の影響の検証(NADGDH-ACNQ系)を行った実施例2の結果を示すグラフである。
図15】燃料溶液交換時に添加する燃料溶液中の緩衝液の種類の検証(NADGDH-ACNQ系)を行った実施例3の結果を示すグラフである。
図16】燃料溶液交換時に添加する燃料溶液中の緩衝液の種類の検証(NADGDH-ACNQ系)を行った実施例3の結果を示すグラフである。
図17】燃料溶液交換時に添加する燃料溶液中の高濃度緩衝液及びそのpHの影響(NADGDH-ACNQ系)を行った実施例4の結果を示すグラフである。
図18】燃料溶液交換時に添加する燃料溶液中の緩衝液濃度の影響の検証(NADGDH-ACNQ系)を行った実施例5の結果を示すグラフである。
図19】燃料溶液の交換時に添加する燃料溶液中の緩衝液濃度、及びpHの影響の検証(PQQGDH-mPMS系)を行った実施例6の結果を示すグラフである。
図20】低濃度燃料溶液時の挙動の検証(NADGDH-ACNQ系)を行った比較例4の結果を示すグラフである。
図21】負極への緩衝液含浸時の緩衝液のpHの影響の検証(NADGDH-ACNQ系)を行った実施例8の結果を示すグラフである。
図22】燃料溶液交換時に添加する燃料溶液中の燃料濃度と緩衝液濃度の影響の検証(NADGDH-ACNQ系)を行った実施例9の結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本願発明について詳細に説明する。
【0031】
(本発明のバイオ電池)
本発明のバイオ電池は、正極と負極が、隔膜を挟んで対向するように配置され、正極と負極は外部回路によって接続されている。本発明のバイオ電池はpH調整部を備え、負極内pHを調整できるように構成されている。
【0032】
本発明のバイオ電池の負極は、燃料を酸化して有機酸を生成する酵素を電極触媒として備え、かかる酵素の触媒作用により、燃料(基質)から生物エネルギーを取り出し電気エネルギーに変換する反応を行う酵素電極として構成される。
【0033】
酵素は、燃料を酸化して有機酸を生成する酵素であり、基質となる燃料よりも酸性度の強い生成物を生成する。ここで、有機酸の生成は、酵素の直接的な触媒作用によるものの他、酵素の直接的な触媒作用により生成した生成物に対するその後の非酵素的な作用により有機酸が生成する場合も含む。
【0034】
酵素は、一種類のみを単独で、若しくは2種以上の複数種類の酵素を組み合わせて利用することができる。複数種類の酵素を組み合わせて多段階反応系を構築する場合には、各段階の何れかで有機酸を生成するものであればよく、好ましくは多段階反応の最終生成物が有機酸となる酵素の組み合わせを利用することができる。
【0035】
前記酵素は、上記性質を有する限り、由来は特に制限されない。したがって、天然に存在する生物体から適当なタンパク質の単離精製技術により精製された天然由来のものであってよく、また遺伝子工学的手法により組み換え体として製造されたものあるいは化学的に合成されたものあってもよい。更には、市販品を利用することもできる。
【0036】
遺伝子工学的手法により製造する場合には公知の方法を利用することができる。具体的には、所望の酵素遺伝子の塩基配列を基にして作成したDNAをプローブとして用いるハイブリダイゼーション法により、生物体由来のゲノムDNA、全RNAから逆転写反応によって合成したcDNA等から所望の酵素をコードする核酸分子を作製することができる。ここで用いられるプローブは、所望の酵素と相補的な配列を含むオリゴヌクレオチドであり、常法に基づいて作製することができる。例えば、化学合成法の他、既に標的となる核酸が取得されている場合にはその制限酵素断片等が利用可能である。
【0037】
また、所望の酵素遺伝子の塩基配列を基にして作成したプライマーとして用いるPCRによっても同様に、生物体由来のゲノムDNA、cDNAを鋳型として所望の酵素をコードする核酸分子を作製することができる。PCRを利用する場合に用いられるプライマーは、所望の酵素をコードする核酸配列と相補的な配列を含むオリゴヌクレオチドであり、上記プローブと同様にして常法に基づいて作製することができる。化学合成法に基づきプローブ又はプライマーを作製する場合には、合成に先立って標的核酸の配列情報に基づいてプローブ又はプライマーの設計を行う。
【0038】
ここで、相補的とは、プローブ又はプライマーと標的核酸分子とが塩基対合則にしたがって特異的に結合し安定な二重鎖構造を形成できることを意味する。ここで、完全な相補性のみならず、プローブ又はプライマーと標的核酸分子が互いに安定な二重鎖構造を形成し得るのに十分である限り、いくつかの核酸塩基のみが塩基対合則に沿って適合する部分的な相補性であっても許容される。プローブ又はプライマーの長さはGC含量等の標的核酸の配列情報、並びに、反応温度、反応液中の塩濃度等のハイブリダイゼーション反応条件等の多くの因子に依存して決定される。
【0039】
更に、常法のホスホルアミダイト法等のDNA合成法を利用して、所望の酵素をコードする核酸分子を化学的に合成することができる。
【0040】
そして、得られた核酸分子を用いて、当業者に公知の遺伝子組換え技術により所望の酵素を製造することができる。
【0041】
具体的には、所望の酵素をコードする核酸分子を適当な発現ベクター中に挿入し、これを宿主に導入することによって形質転換体を作製する。ここで、利用可能なベクターとしては、外来DNAを組み込め、かつ宿主細胞中で自律的に複製可能なものであれば特に制限はない。そして、ベクターは、外来遺伝子がその機能を発現できるように組み込まれ、機能発現に必要な他の既知の塩基配列が含まれていてもよい。例えば、プロモータ配列、リーダー配列、シグナル配列、並びにリボソーム結合配列等が挙げられる。更に、宿主において表現型選択を付与することが可能なマーキング配列等をも含ませることができる。
【0042】
ベクターへの外来遺伝子の挿入は、例えば、適当な制限酵素で所望の酵素をコードする核酸分子を切断し、適当なベクターの制限酵素部位、又はマルチクローニング部位に挿入して連結する方法等を用いることができるが、これに限定されない。
【0043】
形質転換体の作製に際して宿主となる細胞としては、外来遺伝子を効率的に発現できる宿主細胞であれば、特に制限はない。原核生物細胞を好適に利用でき、特には大腸菌を利用することができる。その他、枯草菌、バシラス属細菌、シュードモナス属細菌等をも利用できる。更に、原核生物に限定されず真核生物細胞を利用することが可能である。形質転換法としては、塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポソームフェクション法、マイクロインジェクション法等を既知の方法を利用することができる。
【0044】
続いて、得られた形質転換体を、導入された核酸分子の発現を可能にする条件下で適切な栄養培地中で培養し、所望の酵素を製造する。培養は、常法に準じて行うことができ、宿主細胞の栄養生理学的性質を勘案して、培養条件を選択すればよい。使用される培地としては、宿主細胞が資化し得る栄養素を含み、形質転換体におけるタンパク質の発現を効率的に行えるものであれば特に制限はない。また、培養形態についても特に制限はないが、大量培養の観点から液体培地が好適に利用できる。
【0045】
所望の組換えベクターを保持する宿主細胞の選別は、例えば、マーキング配列の発現の有無により行なうことができる。例えば、マーキング配列として薬剤耐性遺伝子を利用する場合には、薬剤耐性遺伝子に対応する薬剤含有培地で培養することによって行うことができる。
【0046】
形質転換体の培養物から、所望の酵素を単離精製するには、通常のタンパク質の単離、精製法を用いることができる。精製は、上記形質転換体の培養物から、所望の酵素の存在する画分に応じて、一般的なタンパク質の単離精製方法に準じた手法を適用すればよい。具体的には、所望の酵素が宿主細胞外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離、濾過等の工程により宿主細胞を除去して培養上清を得る。続いて、培養上清に、公知のタンパク質精製方法を適宜選択することにより、単離精製することができる。
【0047】
また、所望の酵素が宿主細胞内で産生される場合には、培養物を遠心分離、濾過等の工程により宿主細胞を回収する。続いて、酵素的破砕方法、又は超音波処理、凍結融解、浸透圧ショック等の物理的破砕方法等により、宿主細胞を破砕する。破砕後、遠心分離、濾過等の工程により可溶化画分を収集する。得られた可溶化画分を、前述の細胞外に生産できる場合と同様に処理することにより単離精製することができる。
【0048】
また、アミノ酸配列が公知である酵素については、化学的合成技術によっても製造することができる。例えば、所望の酵素のアミノ酸配列の全部、又は一部を、ペプチド合成機を用いて合成し、得られるポリペプチドを適当な条件の下で、再構築することにより作製することもできる。
【0049】
更に、酵素としては、上記した精製品に限らず、燃料(基質)が持つ化学エネルギーを取り出し電気エネルギーに変換可能な触媒活性を有する限り、微生物、細胞小器官及び細胞等の生物体の形態であってもよい。また、これらの生物体からの粗精製物あってもよい。
【0050】
前記酵素は、補酵素及び補因子要求性の有無についても特に制限はないが、好ましくは、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(以下、「NAD」、又は「NAD」と称する場合がある)、又はニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(「NADP」、又は「NADP」と称する場合がある)依存性酵素、若しくはピロロキノリンキノン(以下、「PQQ」と称する場合がある)依存性酵素である。複数酵素を組み合わせる場合には、少なくとも1の酵素がNAD依存性酵素、NADP依存性酵素、又はPQQ依存性酵素であることが好ましく、全ての酵素がNAD依存性酵素、NADP依存性酵素、又はPQQ依存性酵素であってもよい。ここで、NAD依存性酵素及びNADP依存性酵素は、酵素の触媒活性の発揮に補酵素NAD若しくはNADPを要求する酵素であり、燃料(基質)を酸化しNAD又はNADPを還元する反応を触媒する。PQQ依存性酵素は、酵素の触媒活性の発揮に補酵素PQQを要求する酵素である。
【0051】
酵素は、好ましくは、酸化還元反応を触媒する酵素を利用でき、特に好ましくは、脱水素反応を触媒する脱水素酵素を利用できる。例えば、糖類を酸化してアルドン酸やアルダル酸等の有機酸を生成する酵素が挙げられる。これらに限定するものではないが、グルコース脱水素酵素、ガラクトース脱水素酵素、マンノース脱水素酵素、グリセルアルデヒド脱水素酵素、アラビノース脱水素酵素、キシロース脱水素酵素等を利用することができる。更に、アルデヒド脱水素酵素やアセトアルデヒド脱水素酵素等を挙げることができる。好ましくはグルコース脱水素酵素であり、特に好ましくは、天野エンザイムからGLUCDH“Amano”2として購入できるNAD依存性グルコース脱水素酵素、及びアシネトバクター・カルコアセティカス(Acinetobacter calcoaceticus)NBRC12552株由来のPQQ依存性グルコース脱水素酵素であり、当該グルコース脱水素酵素はグルコースを酸化してグルコノラクトンを生成し、グルコノラクトンは非酵素的に加水分解され有機酸であるグルコン酸を生成する。
【0052】
本発明のバイオ電池の負極は、前記酵素が適当な電極基材上に固定化されている。ここで、酵素は、好ましくは1〜100mg/mlの濃度で固定化される。
【0053】
前記電極基材は、外部回路に接続可能で電子を伝達できる導電性の基材であれば特に制限はない。カーボンクロス、カーボンペーパー、グラファイト、及びグラッシーカーボン等のカーボン材、アルミニウム、銅、金、白金、銀、ニッケル、パラジウム等の金属又は合金、SnO2、In2O3、WO3、TiO2等の導電性酸化物等が例示できるが、これらに限定するものではない。従来公知の材質の導電性の基材を使用することができる。
【0054】
また、これを単層又は2種以上の積層構造をもって構成してもよい。また、導電性向上のため、市販のケッチェンブラック等のカーボンブラック、活性炭粉末等の導電性カーボン微粒子を基材に塗布してもよい。その際に、PVDF等のバインダーを使用してもよい。電極基材の大きさ及び形状等は特に限定されるものではなく、使用目的に応じて適宜調整することができる。マイクロメートルオーダーに電極面積を小さくした微小電極として構成することができる。
【0055】
前記電極基材には、酵素と共に、酵素がその触媒活性を発揮するのに必要な物質を固定化してもよい。例えば、酵素の触媒活性の発揮に補酵素等を要求する酵素の場合には、活性化に必要な物質を電極基材上に酵素と共に固定化することができる。一方、電極基材上に酵素のみを固定化した場合には、活性化に必要な物質を電極基材上に固定化された酵素に供給するための部材を設けてもよい。また、補因子を要求する酵素については、固定化される酵素は、アポ形態及びホロ形態の別を問わないが、電極反応に際しては活性を発揮できるように構成する必要がある。したがって、アポ形態として電極基材上に保持した場合には、電極基材上に固定化された酵素に補因子を供給するための部材を設ける等、アポ形態の酵素を活性型のホロ形態に変換するための部材を設けることが必要となる。更に、前記電極基材には、触媒反応と電極との間の電子授受を媒介する電子メディエータを酵素と共に固定化してもよい。
【0056】
例えば、NAD依存性酵素及びNADP依存性酵素の場合には、酵素の触媒活性の発揮に要求される補酵素であるNAD又はNADPを、酵素と共に電極基材上に固定化してよい。ここで、NAD又はNADPは、NAD依存性酵素又はNADP依存性酵素の燃料の酸化に伴い還元され還元型であるNADH又はNADPHを生成する。したがって、このNADH又はNADPHを酸化して酸化型であるNAD又はNADPに戻すと共に、電子メディエータとの電子の授受を媒介するジアホラーゼ等のNADH酸化酵素又はNADPH酸化酵素、及び電極基材に電子を伝達する電子メディエータを固定化してもよい。PQQ依存性酵素の場合には、酵素の触媒活性の発揮に要求される補酵素であるPQQ、及び電極基材に電子を伝達する電子メディエータを固定化してもよい。
【0057】
電子メディエータは上記性質を有する限り、特に制限はない。例えば、フェロセン、フェリシアン化物、キノン類、シトクロム類、ビオロゲン類、フェナジン類、フェノキサジン類、フェノチアジン類、フェレドキシン類及びその誘導体等が例示されるが、電極触媒の種類に応じて最適な物質を選択すればよい。好ましくは、NAD依存性酵素及びNADP依存性酵素の場合には、2-アミノ-3-クロロ-1,4-ナフトキノン(以下、「ACNQ」と称する)を用いることができる。PQQ依存性酵素の場合には、1-メトキシ-5-フェナジンメトサルフェート(以下「mPMS」と略する)を用いることができる。
【0058】
本発明のバイオ電池の正極は、酸素の還元反応を行えるものであることが好ましい。正極ではオキシダーゼ等の酸素の還元反応を行う酵素を選択することが好ましい。正極は、適当な電極基材上の少なくとも一部に生体触媒を含んだ生物電極の他、金属の触媒反応を利用する白金等の金属電極等として構成しても良い。ここで、生体触媒とは、生物体内に存在する物質変換能を有する物質である。生体由来の天然物質のほか、それを模した人工の物質をも含む。例えば、酵素、微生物、細胞小器官及び細胞等が含まれる。生物電極として正極を構成する場合には、適当な電極基材上に酵素を固定化した酵素電極することが好ましい。電極基材については、上記負極で説明したものと同様の導電性の基材を用いることができる。
【0059】
酵素としては、ビリルビンオキシダーゼ、ピルビン酸オキシダーゼ、ラッカーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼ等の酸化還元酵素の利用が好ましく、酵素は単独で、若しくは複数組み合わせて利用することができる。ここで、ビリルビンオキシダーゼは、銅イオンを活性中心に持つマルチ銅オキシダーゼであり、ビリルビンからビルベルジンへの酸化反応を触媒する酵素である。基質から取り出した電子を用いて分子状酸素を電子還元し水分子を生成する反応を触媒するという性質を有することから、バイオ電池の正極用の電極触媒としての利用価値が高い酵素である。補酵素及び補因子要求性の有無についても特に制限はない。
【0060】
前記電極基材には、酵素と共に、酵素がその触媒活性を発揮するのに必要な物質を固定化してもよい。例えば、酵素の触媒活性の発揮に補酵素等を要求する酵素の場合には、活性化に必要な物質を電極基材上に酵素と共に固定化することができる。一方、電極基材上に酵素のみを固定化した場合には、活性化に必要な物質を電極基材上に固定化された酵素に供給するための部材を設けてもよい。また、補因子を要求する酵素については、固定化される酵素は、アポ形態及びホロ形態の別を問わないが、電極反応に際しては活性を発揮できるように構成する必要がある。したがって、アポ形態として電極基材上に保持した場合には、電極基材上に固定化された酵素に補因子を供給するための部材を設ける等、アポ形態の酵素を活性型のホロ形態に変換するための部材を設けることが必要となる。更に、前記電極基材には、酵素の触媒反応と電極との間の電子授受を媒介する電子メディエータを酵素と共に固定化してもよい。
【0061】
本発明のバイオ電池の隔膜は、プロトン等を透過できるイオン伝導性を有すると共に、プロトン等のイオン以外の負極側の構成成分及び正極側の構成成分を透過させないという性質を有する限り、その素材及び形状等に制限はない。例えば、セルロース膜等を利用することができ、また、固体電解質膜を利用することができる。固体電解質膜としては、スルホン基、リン酸基、ホスホン基、及びホスフィン基等の強酸基、カルボキシル基等の弱酸基、及び極性基を有する有機高分子等のイオン交換機能を有する固体膜等が例示されるが、これらに限定するものではない。具体的にはセルロース膜、及びテトラフルオロエチレンとパーフルオロ〔2−(フルオロスルフォニルエトキシ)プロピルビニルエーテル〕:tetrafluoroethyleneとperfluoro[2-(fluorosulfonylethoxy)propylvinyl ether]の共重合体であるナフィオン(登録商標)等のパーフルオロカーボンスルホン酸(PFS)系の樹脂膜を利用することができる。
【0062】
本発明のバイオ電池の燃料は、前記負極上に固定された酵素によって進められる酸化還元反応により酸化されて有機酸を生成する共に、電子を放出可能な物質であれば特に制限はない。有機酸の生成は、酵素の直接的な触媒作用によるものの他、酵素の触媒作用により生成した生成物に対するその後の非酵素的な作用により有機酸が生成する場合も含む。したがって、燃料は、負極上に固定された酵素の種類に応じて適宜選択することができる。2種以上の複数種類の酵素を組み合わせた多段階反応を利用する場合には、各段階の何れかで有機酸が生成すればよく、好ましくは多段階反応の最終産物として有機酸が生成する燃料が本発明の対象となる。燃料は、好ましくは、バイオマス燃料である。バイオマスとは生物由来の資源を意味し、これら自体でもよいが、これらを加工したものが好ましい。
【0063】
例えば燃料としては、単糖類、二糖類、多糖類の別を問わず、糖類を使用することができる。単糖類としては、炭素数4のエリトロース、トレオース、エリトルロース、炭素数5のアラビノース、キシロース、リボース、リキソース、リブロース、炭素数6のグルコース、ガラクトース、タロース、マンノース、ソルボース、フルクトース、タガソース、ソルボース等が挙げられる。二糖類としては、マルトース、ラクトース、スクロース等を、また、多糖類としては、デンプン、グリコーゲン、セルロース等を例示できる。更に、メタノールや、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド等のアルデヒド類、アラニンやバリン、ロイシン、グリシン等の中性アミノ酸、ペプチド、タンパク質類のポリアミノ酸類等が例示され、酵素の触媒作用で、より酸性度の強い生成物に変換される限り、特に制限はない。
【0064】
燃料は、適当な溶媒に溶解させた燃料溶液として供給される。溶媒は、水性媒体であり、蒸留水の他、適当な緩衝液であってもよい。緩衝液に含まれる緩衝液成分としては、例えば、イミダゾール、炭酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)、4-(2-ヒドロキシエチル)−ピペラジン-1-エタン スルホン酸(HEPES)、3-モルフォリノプロパン スルホン酸(MOPS)等を例示することができる。これらは単独で用いてもよいが、2種以上を組み合わせて使用することができる。ただし、pH調整部が作動する場合には、緩衝液成分の濃度及びpHは、後述する交換用の燃料溶液として調製することになる。
【0065】
燃料溶液には、補酵素や補因子等の酵素がその触媒活性を発揮するのに必要な物質、及び電子メディエータ等の酵素の触媒反応と電極反応と共役させるために必要な物質を含めてもよい。例えば、負極の電極触媒としてNAD又はNADP依存性酵素を利用する場合には、NAD又はNADP、ジアホラーゼ等のNADH又はNADPH酸化酵素、及び適当な電子メディエータを含んで構成することができる。また、負極の電極触媒としてPQQ依存性酵素を利用する場合には、PQQ、及び適当な電子メディエータ等を含んで構成することができる。
【0066】
燃料溶液は、バイオ電池内部に配置された負極上の酵素に供給される。燃料溶液の供給は、燃料溶液供給部によって行われる。燃料溶液供給部は、燃料溶液を負極上の酵素に供給できる限り、その形態に制限はない。バイオ電池内部に、燃料溶液を貯留すると共に、その内部に貯留する燃料溶液を負極に接触可能に供給する燃料溶液貯留空間を設けてもよい。そして、ポンプ等によりバイオ電池の外部から燃料溶液貯留空間に燃料を供給するように構成してもよい。更に、燃料溶液貯留空間に燃料溶液を供給するための供給流路や供給孔、及び負極との接触後の使用済みの燃料溶液を回収し燃料溶液貯留空間から排出する排出流路や排出孔を設けてもよい。また、バイオ電池の組み立て時に燃料溶液貯留空間に燃料溶液を供給するように構成してもよい。
【0067】
本発明のバイオ電池は、pH調整部を備える。負極として酵素電極を用いて燃料を酸化し電子を取り出すバイオ電池においては、その作動に伴い、負極側では酵素による燃料の酸化に応じて有機酸が生成する。かかる有機酸は電解液や燃料溶液等に含まれる緩衝液成分の濃度と比較して大量に生成するため、負極側のpHが酸性に移行する。その結果、pHが酵素の至適範囲を外れ、酵素活性の低下によりバイオ電池の出力が低下する。本発明のバイオ電池は、pH調整部により、負極による前記燃料の酸化により生成する有機酸による負極内のpH変動を調整し、負極側での有機酸によるpH変動による起因する酵素活性の低下を防止し、電極触媒である酵素が好適な環境下で安定的かつ持続的にその触媒活性を保持することができる。
【0068】
pH調整部は、前記負極に、前記燃料と前記燃料の0.5倍以上の濃度の緩衝液成分を含み、かつアルカリ性に調整されている交換用の燃料溶液を供給し、使用済みの燃料溶液と交換する燃料溶液交換部によって構成することができる。また、前記負極を、前記負極に供給される燃料の0.5倍以上の濃度の緩衝液成分を含み、かつアルカリ性に調整されている緩衝液に含浸する負極含浸部により構成することができる。pH調整部は、燃料溶液交換部と負極含浸部の何れか一方により構成されていても、また双方により構成されていてもよい。
【0069】
pH調整部として構成される燃料溶液交換部によって供給される交換用の燃料溶液は、前記燃料と前記燃料の濃度の0.5倍以上、好ましくは1倍以上の緩衝液成分を含み、かつアルカリ性に調整されている。このときの交換用の燃料溶液中の燃料濃度は、好ましくは0.5 M以上である。前記燃料溶液は、更に好ましくは0.75 M濃度以上、特に好ましくは2.0 M濃度以上の緩衝液成分を含む。ここで、緩衝液成分とは、酸や塩基による水素イオン濃度の変化を妨げる緩衝作用のある成分を指し、好ましくは弱酸とその塩や、弱塩基とその塩との混合物である。緩衝液成分の濃度とは、例えば、酸とその塩により緩衝作用を示す場合には、かかる酸とその塩の合計の濃度を、また、塩基とその塩の組み合わせでは、かかる塩基とその塩の合計の濃度を指す。燃料溶液に含まれる燃料濃度が大きくなると、燃料の酸化によって生成する有機酸量が増えpHの変動も大きくなる。多量の有機酸により酸性側に傾いたpHを酵素の至適pHに戻すためには強い緩衝作用が必要となる。一方、緩衝液の緩衝作用は、緩衝液の濃度が大きいほど強くなることから、交換用の燃料溶液中に含ませる緩衝液成分濃度は燃料濃度に応じて設定することが好ましい。
【0070】
交換用の燃料溶液の液性はアルカリ性、即ち、pHが7を超えるように調整される。しかしながら、酵素の種類によっては強アルカリ性環境下では、酵素の立体構造が変化し失活する場合があるため、pHは12以下の範囲に調整されることが好ましい。特には、pHは8〜11の範囲に調整されることが好ましい。これにより、酵素を失活させることなく、活性の発揮に好適な状態に維持することができる。
【0071】
燃料溶液交換部によって供給される交換用の燃料溶液に含まれる緩衝液成分は、アルカリ性領域に緩衝可能であれば制限はない。
【0072】
緩衝液成分としてイミダゾール化合物が好ましく例示される。イミダゾール化合物とは、イミダゾール(CAS番号288-32-4、C3H4N2、MW=68.08)の他、水素イオン濃度に対する緩衝作用を有するイミダゾール環を有する化合物であれば特に制限はない。また、イミダゾール緩衝液には、塩化ナトリウムやエチレンジアミン四酢酸二ナトリム、酢酸マグネシウム等を含んでいてもよい。
【0073】
燃料溶液交換部によって供給される交換用の燃料溶液には、緩衝液成分に加えて、強塩基性化合物を添加することができる。強塩基性化合物としては、例えば、アルカリ土類金属及びアルカリ金属塩の水酸化物が好ましく、特には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムの強塩基性化合物であることが好ましい。これにより、緩衝液成分に加えて強塩基性化合物の存在により、アルカリ性側での緩衝能が向上されているため、負極側で生成した有機酸によるpH変動を効果的に緩衝でき、特に、高濃度の燃料を用いた高出力時においても、負極側のpHの調整を効果的に行うことができ、負極側を負極の電極触媒である酵素の活性の発揮に好適な状態に維持することができる。
【0074】
更に、燃料溶液交換部によって供給される交換用の燃料溶液には、補酵素や補因子等の酵素がその触媒活性を発揮するのに必要な物質、及び電子メディエータ等の酵素の触媒反応と電極反応と共役させるために必要な物質を含めてもよい。
【0075】
燃料溶液交換部は、バイオ電池内部に配置された負極上の酵素に交換用燃料溶液を使用済みの燃料溶液と交換可能に供給できれば、その形態は特に制限されない。バイオ電池の所定の運転後に、燃料酸化後の使用済みの燃料溶液の全部又は一部を交換用の燃料溶液と交換するように構成することができ、好ましくは、使用済みの燃料溶液の全部を交換する。例えば、燃料溶液交換部は、上記した燃料溶液供給部と同一の部材として構成してもよく、また別個の部材として構成してもよい。燃料溶液交換部を燃料溶液供給部と同一の部材として構成する場合には、バイオ電池の所定の運転後に、燃料溶液貯留空間から排出孔を介して使用済みの燃料溶液を排出し、続いて、供給孔を介して交換用の燃料溶液を燃料貯留空間内に供給するように構成することができる。また、バイオ電池の組み立て時に燃料貯留空間に交換用の燃料溶液を供給するように構成することもできる。
【0076】
燃料溶液交換部による交換用の燃料溶液の供給は、バイオ電池の所定の運転後、即ち、負極による一定量の燃料の酸化後に行うことができる。例えば、バイオ電池の発電量から、負極での燃料の酸化により生じた有機酸の生成物量を推定でき、推定された有機酸の生成量が一定基準を超えた場合に、燃料溶液の供給を行うように構成することができる。また、pH測定部を設けて、pHが一定基準を超えた場合に燃料溶液の供給を行うように構成してもよく、バイオ電池の所定時間の運転後に燃料溶液の供給を行うように構成してもよい。
【0077】
燃料溶液交換部は、バイオ電池の燃料溶液の毎交換時に作動するように構成してもよく、また、毎交換時ではなく一定間隔の交換時に作動するように構成してもよい。一定間隔の交換時に作動するように構成する場合には、pH調整部による燃料溶液交換部を作動時以外の燃料溶液の交換は、緩衝液成分濃度及びpHが上記の交換用燃料溶液として調整されていない通常使用される燃料溶液を燃料溶液供給部により供給するように構成してもよい。バイオ電池作動時に供給される初期燃料溶液は、緩衝液成分濃度及びpHが上記の交換用燃料溶液として調整されていない通常使用される燃料溶液であってもよいし、緩衝液成分濃度及びpHが上記の交換用燃料溶液と同一の組成のものを使用してもよい。
【0078】
燃料溶液交換部は、繰り返し作動するように構成することが好ましい。pH調整部を燃料溶液の交換時に繰り返し作動することにより、負極側で生成した有機酸によるpH変動を持続的に緩衝でき、負極側を負極の電極触媒である酵素の活性の発揮に好適な状態に長期にわたって維持することができる。
【0079】
pH調整部として構成される負極含浸部によって負極が含浸される緩衝液は、燃料の濃度の0.5倍以上の濃度、好ましくは1倍以上の緩衝液成分を含み、かつ、アルカリ性に調整されている。このときの燃料液中の燃料濃度は、好ましくは0.5M以上である。緩衝液は、更に好ましくは1M以上の緩衝液成分を含む。また、pHは7を超えるように調整され、pHは12以下の範囲に調整されることが好ましく、pHは8〜11の範囲に調整されることが特に好ましい。
【0080】
負極含浸部によって負極が含浸される緩衝液に含まれる緩衝液成分は、アルカリ性領域に緩衝可能であれば制限はない。緩衝液成分としてイミダゾール化合物が好ましく例示される。更に、緩衝液成分に加えて、強塩基性化合物を添加することができ、これにより、更に、効果的に負極側のpHが酸性に傾くことを防止でき、負極側の環境を負極酵素の至適範囲に維持することができる。
【0081】
負極含浸部は、バイオ電池の構成要素である負極、特には負極の酵素が固定化された領域を緩衝液中に均一に含浸できれば、その形態は特に制限されない。バイオ電池の所定の運転後に、負極の全部又は一部を緩衝液に含浸するように構成することができ、好ましくは、負極上の酵素が固定化された領域の全部を緩衝液に含浸する。例えば、バイオ電池内部に、緩衝液を貯留すると共に、その内部に貯留する緩衝液を負極に接触可能に供給する緩衝液貯留空間、及びポンプ等によりバイオ電池の電池セルの外部から緩衝液貯留空間に緩衝液を供給するように構成することができる。緩衝液貯留空間に緩衝液を供給するための供給経路や供給孔、及び負極含浸後の緩衝液を回収し緩衝液貯留空間から排出するための排出経路や排出孔を設けてもよい。なお、負極含浸部は、上記した燃料溶液供給部及び燃料溶液交換部の一部又は全部を同一の部材として構成してもよいし、また別個の部材として構成してもよい。例えば、燃料溶液貯留空間と緩衝液貯留空間を同一の部材として構成し、緩衝液の供給する供給経路や供給孔及び排出する排出経路や排出孔のみを、燃料溶液供給部及び燃料溶液交換部とは別個の部材として構成してもよい。また、緩衝液を充填した緩衝液タンクを設け、所定の運転後にバイオ電池から負極を取り出し、取り出した負極を緩衝液タンクに所定時間浸漬した後、当該負極を再び電池セルに組み込むように構成してもよい。
【0082】
負極含浸部による負極の緩衝液への含浸は、バイオ電池の所定の運転後、即ち、負極による一定量の燃料の酸化後に行うことができる。例えば、バイオ電池の発電量から、負極での燃料の酸化により生じた有機酸の生成物量を推定でき、推定された有機酸の生成量が一定基準を超えた場合に、負極を緩衝液に含浸するように構成することができる。また、pH測定部を設けて、pHが一定基準を超えた場合に負極を緩衝液に含浸するように構成してもよく、バイオ電池の所定時間の運転後に負極を緩衝液に含浸するように構成してもよい。
【0083】
負極含浸部は、バイオ電池の燃料溶液の交換時に作動させることが好ましい。燃料溶液の交換時に作動させる場合、毎交換時に作動するように構成してもよく、また、毎交換時ではなく一定間隔の交換時に作動するように構成してもよい。
【0084】
負極含浸部は、繰り返し作動するように構成することが好ましい。特に、燃料溶液の交換時に繰り返し作動することにより、負極側で生成した有機酸によるpH変動を持続的に緩衝でき、負極側を負極の電極触媒である酵素の活性の発揮に好適な状態に長期にわたって維持することができる。
【0085】
このように、pH調整部を設けることにより、負極の電極触媒である酵素が燃料を酸化する際に発生した有機酸に起因して、負極側のpHが酸性に傾くことを防止し、また、負極側のpHが酸性に傾いたとしても、負極側のpHを酵素の至適pH範囲に戻すことができる。酵素の至適pHとは、酵素がその機能を発揮する最適のpHのことであり、バイオ電池の負極の電極触媒として酵素の場合には、酵素の種類によって異なるが、一般にはpH 6.5〜9.5、好ましくはpH 7〜9、特に好ましくはpH 7.5〜8.5である酵素が多い。負極側のpHを酵素の至適pH範囲とすることで、負極の電極触媒である酵素を活性状態に維持することができる。これにより、バイオ電池の安定的かつ持続的な運転を実現することができ、発電効率、電圧保持時間及び電池容量を向上することができ、ひいては耐久性を向上することができる。したがって、上記構成により優れた電池特性を発揮するバイオ電池を提供することができる。また、負極側のpHの調整は、使用済みの燃料溶液を緩衝液成分濃度及びpHを調整した燃料溶液に交換する、若しくは、緩衝液成分濃度及びpHを調整した緩衝液に含浸するという、簡便な機構で行うことができ、バイオ電池の大型化及び複雑化を招かないという利点もある。
【0086】
(本発明のバイオ電池の作製)
本発明のバイオ電池の作製は、公知の方法に基づいて行うことができる。例えば、負極及び正極の作製、電池セルの作製、及び必要に応じて電池セルスタックの作製からなる。
【0087】
酵素電極である負極の作製は、酵素溶液の作製、及び電極基材への酵素の固定化により行われる。正極を酵素電極として作製する場合も負極と同様に、酵素溶液の作製、及び電極基材への酵素の固定化により行われる。
【0088】
酵素溶液の作製は、酵素を適当な溶媒に溶解又は分散させることによって作製することができる。溶媒は、水性媒体であり、蒸留水の他、適当な緩衝液であってもよい。緩衝液に含まれる緩衝液成分としては、例えば、イミダゾール、炭酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)、4-(2-ヒドロキシエチル)−ピペラジン-1-エタン スルホン酸(HEPES)、3-モルフォリノプロパン スルホン酸(MOPS)等を例示することができる。これらは単独で用いてもよいが、2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0089】
酵素の電極基材への固定化は、公知の方法の何れをも利用して行うことができる。例えば、共有結合、物理的吸着、イオン結合、抗体等の生物化学的特異的結合による担体結合法、2以上の官能基をもつ試薬による架橋法、ゲル内に封入する包括法等によって固定化することができる。また、これらを組み合わせてもよく、各々の酵素に最適化な酵素固定化法を適宜選択することが望ましい。
【0090】
包括法としては、種々の天然高分子や合成系高分子等の網目状の三次元構造を持つゲル内に封入する格子型を利用することができる。ゲルとしては、アガロース、アガロペクチン、アラビアゴム、カラーギナン、コラーゲン、ゼラチン等の天然高分子、ポリアクリルアミド系重合体、ポリビニルアルコール系重合体、ポリビニルピロリドン系重合体、ポリビニルエーテル系重合体等の合成高分子等を好適に利用することができ、親水性のポリマーの利用が好ましい。
【0091】
また、透析膜等の半透性膜によって封入するマイクロカプセル型、リン脂質のような液体膜によって封入するリポソーム型等を利用することができる。更に、酵素は結晶状態で固定化してもよい。
【0092】
特に好ましくは、物理的吸着であり、酵素を適当な溶媒に溶解又は分散した酵素溶液を電極基材表面に接触させることにより行うことができる。接触は噴霧、滴下、含浸等の公知の方法で行うことができる。また、スピンコート、スプレー法、スクリーン法、ディップコート、ブレード法等の塗布方法を利用することができる。
【0093】
NADやNADP、PQQ等の補酵素、電極触媒としてNAD又はNADP依存性酵素を用いた場合に要求されるジアホラーゼ等のNADH酸化酵素又はNADPH酸化酵素、及び電子メディエータについても酵素と混合した酵素溶液として固定化してもよいし、また、別個の溶液として作製し、酵素の固定化前、又は固定後に電極基材に固定化してもよい。
【0094】
電池セルは、負極、正極、及び隔膜を1組含んで構成され、負極、隔膜、正極を順に積層することにより作製される。詳細には、負極と正極とが、隔膜を挟んで対向するように配置され、負極と正極は外部回路によって接続する。負極側には燃料を供給し、正極側は大気中の酸素を取り入れられるように構成する。pH調整部は、電池セル内部に設けることができ、また、pH調整部を構成する部材の一部又は全部を電池セル内部に設けてもよい。
【0095】
電池セルは、バイオ電池の最小単位であり、電池セルを複数個直列に電気的に接続して集積させることにより電池セルスタックを作製することができる。電池セルスタックの形状は、平面状に電池セルを配列した平面形状であってもよいし、電池セルを積み重ねる積層形状であってもよい。
【0096】
(本発明のバイオ電池の作動様式)
本発明のバイオ電池の作動様式は、電極基材上に固定化された酵素が、燃料を酸化し有機酸を生成すると共に、電子及びプロトンを生成する。そして、電子メディエータを介して電極基材にこの電子が伝達される。例えば、酵素としてNAD又はNADP依存性グルコース脱水素酵素を用いる場合には、燃料グルコースを酸化しグルコノラクトンが生じる。燃料の酸化反応に伴い、補酵素NAD又はNADPが、それぞれNADH又はNADPHに還元される。NADH又はNADPHは、ジアホラーゼ等のNADH又はNADPH酸化酵素により酸化される。NADH又はNADPHの酸化に伴って生じる電子を電子メディエータが受け取り導電性基板に伝達される。
【0097】
続いて、電子は、負極から外部回路を通って正極に伝達されることにより、酵素によって基質から取り出された燃料の持つ化学エネルギーが電気エネルギーに変換される。燃料の酸化反応に伴い電子と共に生じたプロトンは隔膜を通って正極側に移行する。正極上で、プロトンは大気から取り込んだ酸素と外部回路を通して移動してきた電子との反応により水を生成する。
【0098】
そして、バイオ電池の所定の運転後に、pH調整部を作動させ、燃料酸化後の燃料溶液を所定濃度以上の緩衝液成分を含みアルカリ性に調整された燃料溶液に交換する、及び/又は、燃料酸化後の負極を所定濃度以上の緩衝液成分を含みアルカリ性に調整された緩衝液に含浸する。負極の電極触媒である酵素が燃料を酸化する際に発生した有機酸に起因して、負極側のpHが酸性に傾くことを防止し、また、負極側のpHが酸性に傾いたとしても、負極側のpHを酵素の至適pH範囲に戻すことができる。負極側のpHを酵素の至適pH範囲とすることで、負極の電極触媒である酵素を活性状態に維持することができる。これにより、バイオ電池の安定的かつ持続的な運転を実現することができ、発電効率、電圧保持時間及び電池容量を向上することができ、ひいては耐久性を向上することができる。
【実施例】
【0099】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0100】
参考例1.バイオ電池1の負極内部構成の検証
A.概要
本参考例では、以下の実施例、比較例、及び参考例で使用するバイオ電池1の負極内部構成について説明する。バイオ電池1の出力を向上させる要因の一つとして、セル電圧の向上がある。以下の実施例、比較例、及び参考例では、酸化還元電位に着目して、2種類の負極内部構成を適宜使用した。
【0101】
構成1/PQQGDH-mPMS系
負極22の電極触媒として、電位が劣るが触媒回転速度の高い酵素であるPQQ依存性グルコース脱水素酵素(以下、「PQQGDH」と略する)(触媒回転速度:4000 s-1)と、メディエータとして1-メトキシ-5-フェナジンメトサルフェート(以下、「mPMS」と略する)の組み合わせ
【0102】
構成2/NADGDH-ACNQ系
負極22の電極触媒として、電位のロスが少ないが、触媒回転速度が上記PQQGDHより遅く、もう1種類の酵素ジアホラーゼも必要となるNAD依存性グルコース脱水素酵素(以下、「NADGDH」と略する)(触媒回転速度:500 s-1)とメディエータとして2-アミノ-3-クロロ-1,4-ナフトキノン(以下、「ACNQ」と略する)の組合せ
【0103】
B.バイオ電池1の具体的構成例
以下に、PQQGDH-mPMS系、及びNADGDH-ACNQ系のバイオ電池1の具体的構成例について詳細に説明すると共に、図1に両者の酸化還元電位の測定結果を示す。
【0104】
B−1.PQQGDH-mPMS系
正極21、隔膜3、及び負極22の作製手順について説明する。なお、作製において使用した水は、全てミリポア社製超純水製造装置Direct-Q UVで精製したものである。
【0105】
a.正極21の作製
a−1.正極酵素溶液の作製
正極酵素として、ビリルビンオキシダーゼ(Bilirubin Oxidase:天野エンザイム、BO-3、以下「BOD」と略する。)を使用した。BODは、適当量の1 Mのイミダゾール pH 4.6に溶解し、280 nm吸光度測定から吸光度1=1.0 mg/mlと換算して100 mg/mlに、また、フェリシアン化カリウムを50 mMになるように濃度調整した溶液を正極酵素溶液とした。
【0106】
a−2.電極基材への酵素の固定
上記で作製した正極酵素溶液を電極基材1枚当たり51μl塗布し、これを正極21とした。正極21は2枚使用した。電極基材としては、カーボンクロスを10 mm×10 mmにカッターで切断し、これに活性炭粉末を塗布したものを使用した。活性炭粉末の塗布は、活性炭粉末、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、1-メチル-2-ピロリジノン(NMP)を乳鉢で混合の後、適当量をスパチュラでカーボンクロス両面に塗抹して60 ℃で8時間以上乾燥させることにより行った。
【0107】
b.負極22の作製
b−1.負極酵素溶液の作製
ここで用いた負極酵素PQQGDHは、アシネトバクター・カルコアセティカス(Acinetobacter calcoaceticus)NBRC12552株由来のPQQ依存可溶性グルコース脱水素酵素(以下、「sPQQGDH」と略する)である。かかる酵素の作製方法及び配列情報は特開2013-45647号に開示されている。具体的には、sPQQGDH遺伝子(GeneID:X15871)をベクターpET-22b(+)のマルチクローニング部位(NdeI/BamHI)に挿入した。sPQQGDH遺伝子を挿入したpET-22b(+)ベクターを用いて大腸菌BL21(DE3)株をトランスフォーメーションし、出てきたコロニーをLB/Amp(含アンピシリン50 μg/ml)培地300 mlに接種し、37 ℃で一晩培養した。つぎにジャーファーメンターにLB/Amp培地を20 L仕込み、前培養液200 mlを加え、37℃で約1時間(O.D.=0.1になるまで)培養し、0.01 mM IPTGを加えてタンパク発現誘導をかけ、28 ℃で一晩振盪培養した。培養液を遠心、上清を除去した沈殿を−80 ℃で凍結保存した。凍結保存されたタンパク質発現菌体5 gをPBSバッファー15 mlに懸濁した。氷上で、超音波破砕機XL2000(MISONIX)を用いて15 Wで15秒間破砕を10回行なった。破砕した液は4 ℃、5000 rpmで20分間遠心分離し、分取した上清をCellulose Acetate 0.45μm filter (ADBANTEC)でフィルタリングしたものをサンプルとした。オープンカラム(Bio-Rad)にヒスチジンタグ精製用レジン:TALON(Clontech)を10 ml充填し、ベッドボリュームの5倍量の平衡化バッファー(PBS + 50 mM NaCl)で平衡化した。前処理を行なったサンプルをカラムにアプライし、ベッドボリュームの5倍量の洗浄バッファー(PBS + 50 mM NaCl +10 mM イミダゾール)で洗浄後、ベッドボリュームの3倍量の溶出バッファー(PBS + 50 mM NaCl +150 mM イミダゾール)で溶出した。回収した溶出液をAmicon Ultra-4 (Millipore)を用いて濃縮し、微量透析装置 低速タイプ及び透析カップMWCO1200(共にBio-Tec)を用いて、透析バッファー(10 mM Tris-HCl(pH 7.5)+ 0.1 mM CaCl2)を1時間ごとに交換し合計2時間透析した。透析サンプルは4 ℃、15000 rpmで5分間遠心分離し、分取した上清を20 mg/ml以上になるように再度濃縮した。使用時に、CaCl2を1 mM、及びPQQを1μMとなるように添加し4℃で30分以上インキュベートした。更に、1 M イミダゾール pH 8.0に溶解し、sPQQGDH を1 mg/ml、mPMSを30 mMとなるように濃度調整した溶液を負極酵素溶液とした。
【0108】
b−2.電極基材への酵素の固定
上記で作製した負極酵素溶液を電極基材1枚当たり51μl塗布し、これを負極22とした。負極22は2枚使用した。電極基材としては、カーボンクロスを10 mm×10 mmにカッターで切断したものを使用した。
【0109】
c.隔膜3
セルロース膜を隔膜3として使用した。
【0110】
B−2.NADGDH-ACNQ系
正極21、隔膜3、及び負極22の作製手順について説明する。なお、作製において使用した水は、全てミリポア社製超純水製造装置Direct-Q UVで精製したものである。
【0111】
a.正極21の作製
正極21は、上記のPQQGDH-mPMS系と同様にして作製した。
【0112】
b.負極22の作製
b−1.酵素溶液の作製
ここで用いた負極酵素NADGDHは、NAD依存性グルコース脱水素酵素(天野エンザイム、GLUCDH“Amano”2、以下、「NADGDH」と略する。)である。適当量の1Mのイミダゾール pH 8.7に溶解し、NADGDHを10 mg/ml、ジアホラーゼ(東洋紡DAD301)を20 mg/ml、及びNADH(β-Nicotinamide-adenine dinucleotide reduced、和光純薬工業 Wako 305-50451)を10 mMになるように濃度調整した溶液を負極酵素溶液とした。
【0113】
b−2.電極基材への負極酵素の固定
60 mMの ACNQを予め塗布した電極基材に、上記で作製した負極酵素溶液を電極基材1枚当たり51μl塗布し、これを負極22とした。負極22は2枚使用した。電極基材は、カーボンクロスを10 mm×10 mmにカッターで切断したものを使用した。
【0114】
c.隔膜3
セルロース膜を隔膜3として使用した。
【0115】
参考例2.正極及び負極に使用する酵素の至適pHの検証(PQQGDH-mPMS系)
A.概要
本参考例では、正極21及び22負極の反応系での水素イオン濃度の動態からも正極21及び負極22に使用する酵素のpH依存性を検証した。
【0116】
B.検証
バイオ電池1では、正極21には、O2、H+及びe-からH2Oに還元する酵素が使用され、例えば、参考例1で使用したBOD等が使用できる。負極22には、ブドウ糖等のバイオマスを酸化して有機酸、H+、e-を生成する酵素が使用され、例えば、グルコース脱水素酵素、更に詳細には、参考例1で使用したPQQGDH等が使用できる。
【0117】
ここで、試験管中での上記BOD(正極酵素)及びPQQGDH(負極酵素)の酵素活性のpH依存性を検討した例を図2に示す。この結果からも理解できるが、使用する酵素の種類によらず、正極21ではH+を消費する反応であるためにH+豊富な環境(低pH)である方が本質的に好ましく、反対に、負極22ではH+を生成する反応であるためにH+欠乏の環境(高pH)である方が本質的に好ましい。
【0118】
参考例3.pH環境がバイオ電池出力に与える影響の検証(構成1/PQQGDH-mPMS系)
A.概要
本参考例では、参考例2の結果に基づき正極21及び負極22のpHを設定し、pH環境がバイオ電池1の出力に与える影響を検討した。
【0119】
B.方法
B−1.バイオ電池1の構成、及び当該構成を用いたバイオ電池1の作製手順
B−1−1.各構成の作製
正極21、負極22、燃料溶液の作製について説明する。なお、作製において使用した水は、全てミリポア社製超純水製造装置Direct-Q UVで精製したものである。
【0120】
a.正極21の作製
a−1.酵素溶液の作製
正極酵素として、参考例1で使用したBODを使用した。BODを適当量の1Mの Sodium phosphate Bufferに溶解し、280 nm吸光度測定から吸光度1=1.0 mg/mlと換算して100 mg/mlとなるように濃度調整したものを正極酵素溶液とした。
【0121】
a−2.電極基材への酵素の固定
上記で作製した正極酵素溶液を電極基材1枚当たり51μl塗布し、これを正極21とした。正極21は2枚使用した。電極基材としては、カーボンクロスを10 mm×10 mmにカッターで切断し、これに活性炭粉末を塗布したものを使用した。活性炭粉末の塗布は、活性炭粉末、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、1-メチル-2-ピロリジノン(NMP)を乳鉢で混合の後、適当量をスパチュラでカーボンクロス両面に塗抹して60 ℃で8時間以上乾燥させることにより行った。
【0122】
b.負極22の作製
b−1.酵素溶液の作製
負極酵素として、参考例1に記載のアシネトバクター・カルコアセティカスNBRC12552株由来のグルコース脱水素酵素を用いた。かかる酵素の作製方法等の詳細は参考例1に記載の通りである。上清を20 mg/ml以上になるように再度濃縮したサンプルに、使用時に、CaCl2を1 mM、及びPQQを0.8 mMとなるように添加し4℃で30分以上インキュベートした。更に、PQQGDH 1 mg/ml、30 mM mPMS、1 M Sodium Phosphate Buffer pH 7.0となるように調整した溶液を負極酵素溶液とした。
【0123】
b−2.電極基材への酵素の固定
上記で作製した負極酵素溶液を電極基材1枚当たり51μl塗布し、これを負極22とした。負極22は2枚使用した。電極基材としては、カーボンクロスを10 mm×10 mmにカッターで切断したものを使用した。
【0124】
c.隔膜3の作製
正極21と負極22の間を隔てる隔膜3として、セルロース膜を使用した。
【0125】
d.燃料溶液の作製
1M D-Glucose、1 M Sodium Phosphate Buffer pH 7.0に作製し、これを燃料溶液として使用した。
【0126】
B−1−2.電池セルの組み立て
上記で作製した正極21、負極22、及び隔膜3を組み合わせてバイオ電池1の電池セル1aを作製した。ここで作製した電池セル1aの構成の模式的に示す図3を参照して説明する。図3の電池セル1aは、2 mm厚アクリル板100aに燃料溶液供給用に3 mmφの丸穴(燃料供給孔)110を2箇所を開けたものと、5mm厚アクリル板100bに10 mm×10 mmの角穴111を開けたものを使用した。角穴111の4辺には、ねじ止め用に穴を開けた。なお、集電板としてチタンメッシュ103(Alfa Aesar 40921)を10 mm×40 mm、0.4 mm厚SUS網10メッシュ102を14 mm×14 mm、スペーサーとして0.5 mm厚シリコンシート101a(アズワン等)に16 mm×16 mmの角穴をあけたもの、又は1 mm厚のシリコンシート101bに10 mm×10 mmの角穴をあけたもの、隔膜3として、セルロース膜(和光純薬工業 生化学用透析膜 047-30941)を使用した。これらを図3の順番通りに、正極21|隔膜3|負極22となるよう積層し、四方をねじ止めし電池セル1aを組み立てた。バイオ電池1の駆動時には、負極22には丸穴から燃料溶液が導入され、正極21にはダイアフラムポンプ((5.5 L-air/min、KNF LAB、LABOPORT N86 KT.18)で大気を送気するように構成した。
【0127】
B−2.測定条件
測定時には、燃料溶液供給用の丸穴から、下記負極22側の緩衝液と同じpHの緩衝液を使用して作製された燃料溶液150μlが注入し、上記で作製した電池セル1aを電子負荷装置(菊水電子PLZ164WA)に接続し、0.5 mAずつ負荷電流を上げ、各電流値での安定電圧を測定することにより、電池出力を測定した。正極21及び負極22側の緩衝液は、下記表1に示す各種pHの1 M Sodium phosphate Buffer組合せを使用した。
【0128】
C.結果
各種pHにおける最大電力密度を比較した結果を表1に示す。その結果、負極22がpH 8.0、正極21がpH 4.3の組合せが、最大電力密度が最も高かった。なお負極22がpH 8.8と正極21がpH 4.3の組み合わせでは、酵素の凝集が認められ最大電力密度も低下した。
【0129】
【表1】
【0130】
本参考例の結果を受け、以下の実施例及び比較例では、別途注記した場合を除き、電極に含浸する酵素-メディエータ溶液のpHは、PQQGDH-mPMS系では正極21はpH 4.6、負極22はpH 8.0、最初に添加する燃料はpH 8.0とし、NADGDH-ACNQ系では正極21はpH 4.6、負極22はpH 8.7、最初に添加する燃料はpH 8.7とした。
【0131】
比較例1.燃料溶液の交換による電圧保持時間の検証−1(PQQGDH-mPMS系)
A.概要
本比較例では、PQQGDH-mPMS系のバイオ電池1の電圧保持時間を検証した。このとき、燃料溶液を交換しながら検証を行った。
【0132】
B.方法
B−1.バイオ電池1の構成
バイオ電池1の構成は、参考例1で使用したPQQGDH-mPMS系であり、参考例1のPQQGDH-mPMS系と同様にしてバイオ電池1を作製した。
【0133】
B−2.測定条件
PQQGDH-mPMS系を使用した使用した電極面積1 cm2の電池セル1aに対し、1回目の燃料溶液を添加し、1回目の一定電流負荷(2.5 mA/cm2)による発電を行った。電圧が0.1 Vとなった時点で、燃料溶液を2回目の燃料溶液に交換した。続いて、電極面積1 cm2の電池セル1aに対して2回目の一定電流負荷(2.5 mA/cm2)をかけた。燃料溶液の組成は以下の通りである。燃料溶液の組成は以下の通りである。
1回目の燃料溶液:2.4 M ブドウ糖 / 1 M イミダゾール pH 8.0
2回目の燃料溶液:2.4 M ブドウ糖 / 1 M イミダゾール pH 8.0
【0134】
C.結果
結果を図4に示す。図4は、電圧保持時間(秒)を横軸に、電圧(V)を縦軸に示す。1回目の燃料溶液における電池容量は2.0 mWh(4.5 mAh)であったが、2回目の燃料溶液における電池容量は0.3 mWh(1.1 mAh)と、2回目の電池容量(Wh)は約1/6に低下した。1回目の燃料溶液には、ブドウ糖2.4 M×78 μl(188 μmole)が含まれていると算出できる。してみると、1回目の電池容量が4.5 mAh=4.5 mC/s×3600 s=16.2 C=16.2 C/96500 C/mole=168μmole-電子であったこと。ブドウ糖の脱水素が2電子反応であることを考慮すると、168 μmole-電子/(188μmole-ブドウ糖×2)=0.45となり、ブドウ糖の少なくとも45 %(0.45×2.4 M=1.1 M)が脱水素されグルコン酸になっていると推定される。これは燃料溶液の緩衝液成分(イミダゾール)濃度の1 Mを超える濃度であり、pHへの影響は大きいと推定できる。燃料溶液の交換に際して、1回目の発電の後、燃料溶液をピペッタにて極力吸い取り、1回目と同様の燃料溶液を入れて発電したが、電極基材がカーボンクロスであるため、電極中には未反応のブドウ糖とグルコン酸が残留していることが想定される。2回目の燃料溶液に含まれるブドウ糖を基準とすると、同様の計算でブドウ糖の11 %(0.26 M)が脱水素されたと推定され、大幅に発電効率が低下していることが理解できる。
【0135】
比較例2.燃料溶液の交換による電圧保持時間の検証−2(NADGDH-ACNQ系)
A.概要
本比較例では、比較例1と同様にして、NADGDH-ACNQ系のバイオ電池1の電圧保持時間を検証した。NADGDH-ACNQ系は、電位を至適化し高出力が期待される。
【0136】
B.方法
B−1.バイオ電池1の構成
バイオ電池1の構成は、参考例1で使用したNADGDH-ACNQ系であり、参考例1のNADGDH-ACNQ系と同様にしてバイオ電池1を作製した。
【0137】
B−2.測定条件
NADGDH-ACNQ系を使用した電極面積1 cm2の電池セル1aに対し、1回目の燃料溶液を添加し、1回目の一定電流負荷(2.5 mA/cm2)による発電を行った。電圧が0.1 Vとなった時点で、燃料溶液を2回目の燃料溶液に交換した。続いて、電極面積1 cm2の電池セル1aに対して2回目の一定電流負荷(2.5 mA/cm2)をかけた。燃料溶液の組成は以下の通りである。燃料溶液の組成は以下の通りである。
1回目の燃料溶液:2.4 M ブドウ糖 / 1 M イミダゾール pH 8.7
2回目の燃料溶液:2.4 M ブドウ糖 / 1 M イミダゾール pH 8.7
【0138】
C.結果
結果を図5に示す。図5は、電圧保持時間(秒)を横軸に、電圧(V)を縦軸に示す。その結果、2回目の発電での電池容量(Wh)は約1/3に低下することが判明した。
【0139】
比較例3.燃料溶液の交換による電圧保持時間の検証−3(NADGDH-ACNQ系)
A.概要
本比較例では、比較例2に続いて、NADGDH-ACNQ系のバイオ電池1の電圧保持時間を検証した。本比較例では、正極21及び負極22に含浸する酵素溶液、及び燃料溶液のpHを7.0とした系で検証した。
【0140】
B.方法
B−1.バイオ電池の構成
バイオ電池の構成は、参考例1で説明したNADGDH-ACNQ系であり、正極酵素溶液及び負極酵素溶液の作製をpH 7.0のイミダゾールで行った以外は、参考例1のNADGDH-ACNQ系と同様にしてバイオ電池1を作製した。
【0141】
詳細には、正極酵素溶液としては、BODを100 mg/ml、フェリシアン化カリウムを50 mMになるように1 MイミダゾールpH 7.0 に溶解することで作製したものを使用した。負極酵素溶液としては、NADGDHを10 mg/ml、ジアホラーゼを20 mg/ml、及びNADHを10 mMになるように1 MイミダゾールpH 7.0に溶解することで作製したものを使用した。
【0142】
B−2.測定条件
比較例2と同様にNADGDH-ACNQ系において、電極に含浸する酵素-メディエータ溶液、最初に添加する燃料溶液ともにpH 7.0とした系で、1回目の燃料溶液を添加し、電極面積1 cm2の電池セル1aに対して1回目の一定電流負荷(2.5 mA/cm2)による発電を行った。電圧が0.1 Vとなった時点で、燃料溶液を2回目の燃料溶液に交換した。続いて、電極面積1 cm2の電池セル1aに対して2回目の一定電流負荷(2.5 mA/cm2)をかけた。燃料溶液の組成は以下の通りである。
1回目の燃料溶液:2.4 M ブドウ糖 / 1 M イミダゾール pH 7.0
2回目の燃料溶液:2.4 M ブドウ糖 / 1 M イミダゾール pH 7.0
【0143】
C.結果
結果を図6に示す。図6は、電圧保持時間(秒)を横軸に、電圧(V)を縦軸に示す。その結果、2回目の発電での電池容量(Wh)は約1/5に低下することが判明した。
【0144】
参考例4.電池容量低下要因の電極からの検証(NADGDH-ACNQ系)
A.概要
本参考例では、比較例1〜3で確認された燃料溶液の交換による2回目の発電での電池容量低下が正極21又は負極22の何れに起因しているのかを検証した。
【0145】
B.方法
B−1.バイオ電池1の構成
バイオ電池1の構成は、比較例2で使用したNADGDH-ACNQ系であり、比較例2と同様にしてNADGDH-ACNQ系のバイオ電池1を作製した。そして、図7に示すように、一定電流負荷による1回目の発電により電圧が低下した電池セル1aを解体し、正極21、又は負極22を新しいものに交換することにより、電池容量低下が正極21、又は負極22の何れに起因しているのかを検証した。正極21及び負極22の交換方式は以下の通りである。
1.2回目の発電において、負極22はそのまま1回目と同じもの、正極21は新しいものに交換した電池セル
2.2回目の発電において、正極21はそのまま1回目と同じもの、負極22は新しいものに交換した電池セル
【0146】
B−2.測定条件
比較例2と同様に、1回目の燃料溶液を添加し、電極面積1 cm2の電池セル1aに1回目の一定電流負荷(2.5 mA/cm2)による発電を行った。電圧が0.1 Vに低下した時点で、上記した通り、正極21又は負極22の交換を行うと共に燃料溶液を2回目の燃料溶液に交換した。続いて、電極面積1 cm2の電池セル1aに対して2回目の一定電流負荷(2.5 mA/cm2)をかけた。燃料溶液の組成は以下の通りである。
1回目の燃料溶液:2.4 M ブドウ糖 / 1 M イミダゾール pH 8.7
2回目の燃料溶液:2.4 M ブドウ糖 / 1 M イミダゾール pH 8.7
【0147】
C.結果
結果を図8に示す。図8は、電圧保持時間(秒)を横軸に、電圧(V)を縦軸に示す。その結果、正極21を交換し負極22を交換しなかった“1”の電池セル1aにおいては、2回目の発電では1回目に比べて短い時間で電圧が低下し、電池容量(Wh)も約1/5に低下することが判明した。負極22を交換し正極21を交換しなかった“2”の電池セル1aにおいては、2回目の発電でも1回目同様に電圧は保持された。このことから、負極22が電池容量低下の要因であることが判明した。
【0148】
参考例5.電池容量低下要因の負極の内部構成成分からの検証(NADGDH-ACNQ系)
A.概要
本参考例では、参考例4で確認された負極22に起因する電池容量低下の要因について、負極22の内部構成成分に着目し詳細に検証した。
【0149】
B.方法
B−1.バイオ電池1の構成
バイオ電池1の構成は、比較例2で使用したNADGDH-ACNQ系であり、比較例2と同様にしてNADGDH-ACNQ系のバイオ電池1を作製した。そして、一定電流負荷による1回目の発電により電圧が低下した電池セル1aを解体し、正極21はそのままで2回目も使用し、負極22についても2回目も使用するが、負極22の内部構成成分のうちの一部を負極22に含浸させてから、電池セル1aを組み立て、電池容量低下が負極22の内部構成成分の何れに起因しているのかを検証した。2回目の発電の際に負極22に含浸させる負極22の内部構成成分は表2に要約した。
【0150】
【表2】
【0151】
B−2.測定条件
比較例2と同様に、1回目の燃料溶液を添加し、電極面積1 cm2の電池セル1aに1回目の一定電流負荷(2.5 mA/cm2)により発電を行った。電圧が0.1 Vに低下した時点で、上記した通り、負極22に内部構成成分を含浸させた後、再び電池セル1aを組み立てた。続いて、燃料溶液を2回目の燃料溶液に交換し、電極面積1 cm2の電池セル1aに対して2回目の一定電流負荷(2.5 mA/cm2)をかけ、電圧保持時間を測定した。燃料溶液の組成は以下の通りである。
1回目の燃料溶液:2.4 M ブドウ糖 / 1 M イミダゾール pH 8.7
2回目の燃料溶液:2.4 M ブドウ糖 / 1 M イミダゾール pH 8.7
【0152】
C.結果
結果を図9に示す。図9中、横軸は、2回目発電時に負極22に含浸させた負極22の内部構成成分を示す凡例、縦軸は1回目の電圧保持時間を100%とし、それに対する相対値を示す。その結果、酵素及びメディエータ等の負極22の内部構成成分の何れを含浸させても1回目の発電の電圧保持時間まで復活するものはなかった。
【0153】
参考例6.電池容量低下要因の燃料消費によって発生する有機酸からの検証−1(NADGDH-ACNQ系)
A.概要
本参考例では、参考例4で確認された負極22に起因する電池容量低下の要因について、燃料消費によって発生する有機酸に着目し詳細に検証した。参考例5で負極22の内部構成成分に着目し電池容量低下要因を検証したが、2回目の発電に際して、酵素及びメディエータ等の負極22の内部構成要素の何れを含浸させても1回目の電圧保持時間まで復活しなかったことから、本参考例では、他の要因として、燃料のブドウ糖の消費で発生するグルコン酸に着目した。特に、グルコン酸が及ぼす影響の1つ目として、グルコン酸生成によるpH変化による影響を検証した。
【0154】
B.方法
B−1.バイオ電池1の構成
バイオ電池1の構成は、比較例2で使用したNADGDH-ACNQ系であり、負極酵素溶液の作製をpH 6.4又はpH 10.8のイミダゾールで行った以外は、比較例2と同様にしてバイオ電池1を作製した。
【0155】
詳細には、負極酵素溶液として、NADGDHを10 mg/ml、ジアホラーゼを20 mg/ml、及びNADHを10 mMになるように1 MイミダゾールpH 6.4又はpH 10.8に溶解することで作製したものを使用した。
【0156】
B−2.測定条件
比較例2の1回目の発電と同様にして、負極酵素溶液のpHと同じpHに作製した燃料溶液を添加し、電極面積1 cm2の電池セル1aに一定電流負荷(2.5 mA/cm2)をかけ、1回の発電による電圧保持時間を検証した。燃料溶液の組成は以下の通りである。
燃料溶液:2.4 M ブドウ糖 / 1 M イミダゾール pH 6.4、又は、
2.4 M ブドウ糖 / 1 M イミダゾール pH 10.8
【0157】
C.結果
結果を図10に示す。図10は、電圧保持時間(秒)を横軸に、電圧(V)を縦軸に示す。その結果、pH 6.4ではpH 10.8の1/10程度と大幅に電圧保持時間は低下することが判明した。
【0158】
参考例7.電池容量低下要因の燃料消費によって発生する有機酸からの検証−2(NADGDH-ACNQ系)
A.概要
本参考例では、参考例4で確認された負極22に起因する電池容量低下の要因について、参考例6に続き燃料消費によって発生する有機酸に着目し詳細に検証した。参考例5で負極22の内部構成成分に着目し電池容量低下要因を検証したが、2回目の発電に際して酵素及びメディエータ等の負極22の内部構成要素の何れを含浸させても1回目の電圧保持時間まで復活しなかったことから、本参考例では、他の要因として、燃料のブドウ糖の消費で発生するグルコン酸に着目した。特に、グルコン酸が及ぼす影響の2つ目として、グルコン酸生成による生成物阻害の影響を検証した。
【0159】
B.方法
B−1.バイオ電池1の構成
バイオ電池1の構成は、比較例2で使用したNADGDH-ACNQ系である。ただし、負極22として、グルコン酸が電池容量に与える影響を検証するため、比較例2と同様にして作製した負極酵素溶液に加えてグルコン酸(pH未調整又は調整済み)を含浸して作製したものを使用し、その他は比較例2と同様にしてバイオ電池1を作製した。作製した負極酵素溶液の詳細は以下の通りである。なお、pH未調整のグルコン酸を含浸したものは負極22内pHが5前後の酸性側に傾いているものと推定される。
【0160】
1.グルコン酸のpH未調整のものを含浸
NADGDHを10 mg/ml、ジアホラーゼを20 mg/ml、及びNADHを10 mMになるように1 MイミダゾールpH 8.7に溶解し、続いて、グルコン酸のpH未調整のものを0.36 Mとなるよう添加したもの
2.グルコン酸のpH調整済みのものを含浸
NADGDHを10 mg/ml、ジアホラーゼを20 mg/ml、及びNADHを10 mMになるように1 MイミダゾールpH 8.7に溶解し、続いて、グルコン酸をNaOHでpH 8付近に調整したものを0.36 Mとなるよう添加したもの
3.グルコン酸添加なし(コントロール)
参考例1と同様にNADGDHを10 mg/ml、ジアホラーゼを20 mg/ml、及びNADHを10 mMになるように1 MイミダゾールpH 8.7に溶解し、グルコン酸を加えないもの。
【0161】
B−2.測定条件
比較例2の1回目の発電と同様にして、燃料溶液を添加し、電極面積1 cm2の電池セル1aに一定電流負荷(2.5 mA/cm2)をかけ、1回の発電による電圧保持時間を検証した。燃料溶液の組成は以下の通りである。
燃料溶液:2.4 M ブドウ糖 / 1 M イミダゾール pH 8.7
【0162】
C.結果
結果を図11に示す。図11は、電圧保持時間(秒)を横軸に、電圧(V)を縦軸に示す。その結果、pH未調整のグルコン酸を添加した“1”においては、グルコン酸を添加しない“3”に比べて短い時間で電圧が低下したが、pHを調整した“2”では、グルコン酸を添加しない“3”と同等の電圧保持時間となった。
【0163】
参考例6の結果と併せて鑑みると、電池容量低下は、グルコン酸による生成物阻害の影響ではなく、グルコン酸生成による電極内pHの変化が電圧保持時間に与える影響が大きいことが判明した。
【0164】
実施例1.負極へのpH調整のための緩衝液含浸の影響の検証(NADGDH-ACNQ系)
A.概要
本実施例では、参考例7で負極22内pHの変化が電圧保持時間に与える影響が大きいことが判明したことから、その詳細検証を行った。本実施例では、負極22側で使用する緩衝液が電圧保持時間及び電池容量に与える影響を検証した。緩衝液は水素イオン濃度に対する緩衝作用を有することから、負極22で生成するグルコン酸による負極22内pHの変動を小さくする。
【0165】
B.方法
B−1.バイオ電池1の構成
バイオ電池1の構成は、比較例2で使用したNADGDH-ACNQ系であり、比較例2と同様にしてNADGDH-ACNQ系のバイオ電池1を作製した。そして、図12に示すように、一定電流負荷による1回目の発電により電圧が低下した電池セル1aを解体し、正極21はそのままで2回目も使用し、負極22についても2回目も使用するが、負極22の内部構成成分及び緩衝液成分のうちの一部を負極22に含浸させてから、電池セル1aを組み立て、電池容量が負極22の内部構成成分及び緩衝液成分の何れにより回復できるのかを検証した。2回目の発電の際に負極22に含浸させる負極22の内部構成成分及び緩衝液成分の種類、並びにその濃度及び液量は以下の通りである。
【0166】
1.緩衝液+内部構成成分(緩衝液、酵素、メディエータ、及び補酵素を含浸)
2.5 Mイミダゾール pH 10.8を11μl、NADGDH 100 mg/mlを5.5μl、ジアホラーゼ200 mg/mlを11μl、NADH 200 mMを2.8μl、ACNQ 60 mMを2μl加えて混合し、負極22に1枚あたり32.3μl含浸した。負極22の2枚の何れにも含浸した。
2.緩衝液(緩衝液のみを含浸)
1 Mイミダゾール pH 10.8を負極22に1枚あたり32μl含浸した。負極22の2枚の何れにも含浸した。
3.内部構成成分(酵素、メディエータ、及び補酵素のみを含浸)
NADGDH 100 mg/mlを5.5μl、ジアホラーゼ200 mg/mlを11μl、NADH 200 mMを2.8μl、ACNQ60mMを2μl、水を11μl加えて混合し、負極22に1枚あたり32μl含浸した。負極22の2枚の何れにも含浸した。
4.含浸なし(コントロール)
1回目の発電後の負極22をそのまま使用
【0167】
B−2.
比較例2と同様にして、1回目の燃料溶液を添加し、電極面積1 cm2の電池セル1aに1回目の一定電流負荷(2.5 mA/cm2)による発電を行った。電圧が0.1 Vに低下した時点で、上記した通り、負極22に内部構成成分を含浸させ、再び電池セル1aを組み立てた。続いて、燃料溶液を2回目の燃料溶液に交換し、電極面積1 cm2の電池セル1aに対して2回目の一定電流負荷(2.5 mA/cm2)をかけた。燃料溶液の組成は以下の通りである。
1回目の燃料溶液:2.4 M ブドウ糖 / 1 M イミダゾール pH 10.8
2回目の燃料溶液:2.4 M ブドウ糖/ 1 M イミダゾール pH 10.8
【0168】
C.結果
結果を図13に示す。図13は、電圧保持時間(秒)を横軸に、電圧(V)を縦軸に示す。緩衝液、酵素、メディエータ、及び補酵素を含浸した“1”、及び緩衝液のみを含浸した“2”では、2回目の発電においても1回目と同様の電圧保持間を示し、電池容量も同等であった。この結果から、負極22内のpHが低下し、酵素、及びメディエータが充分に機能できない条件になったことが電圧保持時間低下要因であることが判明した。また、発電1回目の後に負極22に緩衝液を含浸させるという簡単な操作だけで、2回目の発電に際して電池容量を同じにすることができることも判明した。
【0169】
実施例2.燃料溶液交換時に添加する燃料溶液中の緩衝液濃度の影響の検証(NADGDH-ACNQ系)
A.概要
本実施例では、実施例1にてグルコン酸の生成により負極22内のpHが低下し、酵素、及びメディエータが充分に機能できない条件になったことが電圧保持時間低下要因であることが判明したことから、燃料溶液の交換時に添加する燃料溶液中の緩衝液濃度が電圧保持時間及び電池容量に与える影響を検証した。1回目の発電終了後の負極22内pHをアルカリ性に調整する方策として、燃料溶液による負極22内pHの調整を試みた。
【0170】
B.方法
B−1.バイオ電池1の構成
バイオ電池1の構成は、比較例2で使用したNADGDH-ACNQ系であり、比較例2と同様にしてNADGDH-ACNQ系のバイオ電池1を作製した。
【0171】
B−2.測定条件
1回目の発電終了後の負極22内pHをアルカリ性に調整する方策として、燃料溶液による負極22内pHの調整を試み、2回目に添加する燃料溶液をこれまでの2.4 M ブドウ糖 / 1 M イミダゾール pH 8.7から1.5 M ブドウ糖 / 2.5 M イミダゾール pH 10.8に変更した。比較例2と同様にして、1回目の燃料溶液を添加し、電極面積1 cm2の電池セル1aに1回目の一定電流負荷(2.5 mA/cm2)による発電を行った。電圧が0.1 Vに低下した時点で、燃料溶液を2回目の燃料溶液と交換した。続いて、電極面積1 cm2の電池セル1aに対して2回目の一定電流負荷(2.5 mA/cm2)をかけた。燃料溶液の組成は以下の通りである。
1回目の燃料溶液:2.4 M ブドウ糖 / 1 M イミダゾール pH 8.7
2回目の燃料溶液:2.4 M ブドウ糖 / 1 M イミダゾール pH 8.7、又は、
1.5 M ブドウ糖 / 2.5 M イミダゾール pH 10.8
【0172】
結果を図14に示す。図14は、電圧保持時間(秒)を横軸に、電圧(V)を縦軸に示す。2回目の燃料溶液の緩衝液として2.5 MイミダゾールpH 10.8を使用することで、2回目の発電においても1回目と同様の電圧保持時間を示し、電池容量も向上した。一方、2回目の燃料溶液として2.4 Mブドウ糖/1 MイミダゾールpH 8.7を使用した場合に、電圧保持時間の低下が観察されたが、ブドウ糖濃度を濃くすることにより大量に生成したグルコン酸に対して、1 MイミダゾールpH 8.7の緩衝液ではpH調整機能が十分に機能しなかったためと想定される。
【0173】
実施例3.燃料溶液交換時に添加する燃料溶液中の緩衝液の種類の検証(NADGDH-ACNQ系)
A.概要
本実施例では、実施例2で燃料溶液による負極22内pHの調整により電池容量を高く維持できることが判明したことから、燃料溶液の交換時に添加する燃料溶液中の緩衝液濃度が電圧保持時間及び電池容量に与える影響を検証した。1回目の発電終了後の負極22内pHをアルカリ性に調整する方策として、交換時に添加する燃料溶液の緩衝液の種類の影響を検証した。
【0174】
B−1.バイオ電池の構成
バイオ電池1の構成は、比較例2で使用したNADGDH-ACNQ系であり、比較例2と同様にして参考例1と同様にしてNADGDH-ACNQ系のバイオ電池1を作製した。
【0175】
B−2.測定条件
1回目の発電終了後の負極2内pHをアルカリ性に調整する方策として、燃料溶液による負極22内pHの調整を試み、2回目に添加する燃料溶液の緩衝液の種類を変え、その影響を検証した。そして、比較例2と同様にして、1回目の燃料溶液を添加し、電極面積1 cm2の電池セル1aに対する1回目の一定電流負荷(2.5 mA/cm2)による発電を行った。電圧が0.1 Vとなった時点で、燃料溶液を2回目の燃料溶液に交換した。続いて、電極面積1 cm2の電池セル1aに対して2回目の一定電流負荷(2.5 mA/cm2)をかけた。燃料溶液の組成は以下の通りである。
1回目の燃料溶液:2.4 M ブドウ糖 / 1 Mイミダゾール pH 8.7
2回目の燃料溶液:2.4 M ブドウ糖 / 0.9 M CHES pH 9.5、
2.4 M ブドウ糖 / 0.7 M CAPS pH 10.0、
2.4 M ブドウ糖 / 1 M イミダゾール pH 8.7、
2.4 M ブドウ糖 / 1 M イミダゾール pH 10.8、
1.5 M ブドウ糖 / 2.5 M リン酸 pH10.6、又は、
1.5 M ブドウ糖 / 1 M イミダゾール pH 8.7/1.5 M NaOH
【0176】
C.結果
結果を図15及び16に示す。図15及び図16は、電圧保持時間(秒)を横軸に、電圧(V)を縦軸に示し、図15は、2回目の燃料溶液が2.4 M ブドウ糖 / 0.9 M CHES pH 9.5、2.4 M ブドウ糖 / 0.7 M CAPS pH 10.0、2.4 Mブドウ糖 / 1 M イミダゾール pH 8.7、又は、2.4 Mブドウ糖 / 1 M イミダゾール pH 10.8、及び、1.5 Mブドウ糖 / 2.5 Mリン酸 pH 10.6の結果を示し、図16は、1.5 Mブドウ糖 / 1 M イミダゾール pH 8.7 / 1.5 M NaOHの結果を示す。図15より、1 M イミダゾール緩衝液はpH 8.7(1.0 mWh(1.8 mAh))及びpH 10.8(1.0 mWh(1.8 mAh))では、2回目の発電に際し電池容量の回復効果が認められたが、その効果は小さかった。一方、CHES(0.3 mWh(0.5 mAh))、CAPS(0.3 mWh(0.5 mAh))、及びリン酸(0.3 mWh(0.5 mAh))では電池容量の回復効果が認められなかった。そして、図16より、1 Mイミダゾール緩衝液pH 8.7 / 1.5 M NaOH(2.5 mWh(4.0 mAh))では2回目の発電においても1回目の発電と同等の電池容量が得られることが判明した。
【0177】
実施例4.燃料溶液交換時に添加する燃料溶液中の高濃度緩衝液及びそのpHの影響の検証(NADGDH-ACNQ系)
A.概要
本実施例では、実施例2〜3で燃料溶液による負極22内pHの調整により電池容量を高く維持できることが判明したことから、燃料溶液の交換時に添加する燃料溶液中の緩衝液濃度が電圧保持時間及び電池容量に与える影響を検証した。1回目の発電終了後の負極22内pHをアルカリ性に調整する方策として、交換時に添加する燃料溶液中の緩衝液濃度を高濃度に調整すると共に、そのpHが与える影響についても検証した。
【0178】
B.方法
B−1.バイオ電池1の構成
バイオ電池1の構成は、比較例2で使用したNADGDH-ACNQ系であり、比較例2と同様にしてバイオ電池1を作製した。
【0179】
B−2.測定条件
1回目の発電終了後の負極22内pHをアルカリ性に調整する方策として、燃料溶液中の緩衝液を高濃度(1.5 Mブドウ糖 / 2.5 Mイミダゾール)にし、高濃度緩衝液が電圧保持時間及び電池容量に与える影響を検証する共に、pHがどのように影響するのかを検証した。比較例2と同様にして、1回目の燃料溶液を添加し、電極面積1 cm2の電池セル1aに対して1回目の一定電流負荷(2.5 mA/cm2)による発電を行った。電圧が0.1 Vとなった時点で、燃料溶液を2回目の燃料溶液に交換した。続いて、電極面積1 cm2の電池セル1aに対して2回目の一定電流負荷(2.5 mA/cm2)をかけた。燃料溶液の組成は以下の通りである。
1回目の燃料溶液:2.4 M ブドウ糖 / 1 M イミダゾール pH 8.7
2回目の燃料溶液:1.5 M ブドウ糖 / 2.5 M イミダゾール pH 7.0、
1.5 M ブドウ糖 / 2.5 M イミダゾール pH 8.7、又は、
1.5 M ブドウ糖 / 2.5 M イミダゾール pH 10.8
【0180】
C.結果
結果を図17に示す。図17は、電圧保持時間(秒)を横軸に、電圧(V)を縦軸に示す。その結果、2回目の燃料溶液の緩衝液をpH 10.8とすることで更に大きな電池容量の向上が得られた。なお pH 10.8での2回目の発電による電池容量は3.5 mWh(5.6 mAh)であった。これを、比較例1と同様に計算すると2回目の燃料に含まれるブドウ糖を基準とすると同様の計算でブドウ糖の89 %(1.3 M)が脱水素されたと計算できる。しかしながら、1回目の燃料に含まれるブドウ糖が残留した分が加算されていることも考慮すべきである。
【0181】
実施例5.燃料溶液交換時に添加する燃料溶液中の緩衝液濃度の影響の検証(NADGDH-ACNQ系)
A.概要
本実施例では、実施例2〜4で燃料溶液による負極22内pHの調整により電池容量を高く維持できることが判明したことから、燃料溶液交換時に添加する燃料溶液中の緩衝液濃度が電圧保持時間及び電池容量に与える影響を検証した。1回目の発電終了後の負極22内pHをアルカリ性に調整する方策として、緩衝液濃度の影響を検証した。
【0182】
B.方法
B−1.バイオ電池1の構成
バイオ電池1の構成は、比較例2で使用したNADGDH-ACNQ系であり、比較例2と同様にしてバイオ電池1を作製した。
【0183】
B−2.測定条件
1回目の発電終了後の負極22内pHをアルカリ性に調整する方策として、燃料溶液中の緩衝液を高pH(0.5 Mブドウ糖 / イミダゾールpH 10.8)にした場合、更に緩衝液の濃度がどのように影響するか検証した。比較例2と同様にして、1回目の燃料溶液を添加し、電極面積1 cm2の電池セル1aに対して1回目の一定電流負荷(2.5 mA/cm2)による発電を行った。電圧が0.1Vとなった時点で、燃料溶液を2回目の燃料溶液に交換した。続いて、電極面積1 cm2の電池セル1aに対して2回目の一定電流負荷(2.5 mA/cm2)をかけた。燃料溶液の組成は以下の通りである。
1回目の燃料溶液:2.4 M ブドウ糖 / 1 M イミダゾール pH 8.7
2回目の燃料溶液:0.5 M ブドウ糖 / 0.5 M イミダゾール pH 10.8
0.5 M ブドウ糖 / 1 M イミダゾール pH 10.8、
0.5 M ブドウ糖 / 2.5 M イミダゾール pH 10.8
0.5 M ブドウ糖 / 3 M イミダゾール pH 10.8、又は、
0.5 M ブドウ糖 / 4.2 M イミダゾール pH 10.8
【0184】
C.結果
結果を図18に示す。図18は、電圧保持時間(秒)を横軸に、電圧(V)を縦軸に示す。その結果、燃料溶液のイミダゾール濃度1.0 Mの場合と比較して、イミダゾール2.5 Mの場合には電池容量向上効果が有ったが、3 M以上では若干の低下が発生した。これにより、緩衝液濃度に至適範囲があることが判明した。
【0185】
実施例6.燃料溶液の交換時に添加する燃料溶液中の緩衝液濃度、及びpHの影響の検証(PQQGDH-mPMS系)
A.概要
本実施例では、NADGDH-ACNQ系において、実施例2〜5で燃料溶液による負極22内pH及び緩衝液濃度の調整により電池容量を高く維持できることが判明したことから、PQQGDH-mPMS系における燃料溶液の交換時に添加する燃料溶液中の緩衝液濃度及びpHが電圧保持時間及び電池容量に与える影響を検証した。具体的には、PQQGDH-mPMS系において、1回目の発電終了後の負極22内pHをアルカリ性に調整する方策として、燃料溶液中の緩衝液を高pH、及び高濃度にした場合の影響を検証した
【0186】
B.方法
B−1.バイオ電池1の構成
バイオ電池1の構成は、比較例1で説明したPQQGDH-mPMS系であり、比較例1と同様にしてバイオ電池1を作製した。
【0187】
B−2.測定条件
PQQGDH-mPMS系において、1回目の発電終了後の負極22内pHをアルカリ性に調整する方策として、燃料溶液中の緩衝液を高pH、及び高濃度にした場合の影響を検証した。比較例1と同様にして、1回目の燃料溶液を添加し、電極面積1 cm2の電池セル1aに対して1回目の一定電流負荷(2.5 mA/cm2)による発電を行った。電圧が0.1 Vとなった時点で、燃料溶液を2回目の燃料溶液に交換した。続いて、電極面積1 cm2の電池セル1aに対して2回目の一定電流負荷(2.5 mA/cm2)をかけた。燃料溶液の組成は以下の通りである。
1回目の燃料溶液:1 M ブドウ糖 / 1 M イミダゾール pH 8.0
2回目の燃料溶液:1 M ブドウ糖 / 1 M イミダゾール pH 8.0、
1 M ブドウ糖 / 2.5 M イミダゾール pH 8.0、又は、
1 M ブドウ糖 / 2.5 M イミダゾール pH 10.8
【0188】
C.結果
結果を図19に示す。図19は、電圧保持時間(秒)を横軸に、電圧(V)を縦軸に示す。その結果、1 Mブドウ糖/1 MイミダゾールpH 8.0、1 Mブドウ糖/2.5 MイミダゾールpH 8.0、1 M ブドウ糖/2.5 M イミダゾールpH 10.8に対して、2回目の発電による電池容量はそれぞれ0.9 mWh(2.2 mAh)、1.1 mWh(2.7 mAh)、1.2 mWh(2.9 mAh)であった。このことから、燃料溶液中の緩衝液のpHと濃度が高いほど電池容量向上が得られることが確認できた。
【0189】
比較例4.低濃度燃料溶液時の挙動の検証(NADGDH-ACNQ系)
A.概要
本比較例では、比較例2で確認された電池容量の低下について、燃料濃度が低い場合における挙動を検証した。
【0190】
B.方法
B−1.バイオ電池1の構成
バイオ電池1の構成は、比較例2で説明したNADGDH-ACNQ系であり、比較例2と同様にしてバイオ電池1を作製した。
【0191】
B−2.測定条件
比較例2と同じ実験を、燃料濃度を2.4 Mから1.0 M又は0.5 Mに下げて実施した。比較例2と同様に、1回目の燃料溶液を添加し、電極面積1 cm2の電池セル1aに対して1回目の一定電流負荷(2.5 mA/cm2)による発電を行った。電圧が0.1 Vとなった時点で、燃料溶液を2回目の燃料溶液に交換した。続いて、電極面積1 cm2の電池セル1aに対して2回目の一定電流負荷(2.5 mA/cm2)をかけた。燃料溶液の組成は以下の通りである。
1回目、2回目の燃料溶液ともに:0.5 Mブドウ糖 / 1 M イミダゾール pH 8.7、又は、
1回目、2回目の燃料溶液ともに:1 M ブドウ糖 / 1 M イミダゾール pH 8.7
【0192】
C.結果
結果を図20に示す。図20は、電圧保持時間(秒)を横軸に、電圧(V)を縦軸に示す。その結果、低濃度燃料溶液の場合には、2回目の発電での電池容量(Wh)の低下は目立たなかった。燃料溶液中の燃料濃度が緩衝液濃度と比べて同じあるいは低い場合に電池容量はほとんど低下せず、有機酸が発生してもpH変動による負極側での酵素の活性低下が起こらないことが理解できる。
【0193】
実施例7.燃料溶液交換時に添加する燃料溶液中の燃料濃度と緩衝液濃度の影響の検証(NADGDH-ACNQ系)
A.概要
本実施例では、実施例5において、緩衝液濃度に至適範囲があることが判明した結果に基づき、燃料溶液中の燃料濃度と緩衝液濃度の関係が電池容量に与える影響を検証した。
【0194】
B.方法
B−1.バイオ電池1の構成
バイオ電池1の構成は、比較例2で使用しNADGDH-ACNQ系であり、比較例2と同様にしてバイオ電池1を作製した。
【0195】
B−2.測定条件
比較例2と同様にして、1回目の燃料溶液を添加し、電極面積1 cm2の電池セル1aに対して1回目の一定電流負荷(2.5 mA/cm2)による発電を行った。電圧が0.1 Vとなった時点で、燃料溶液を2回目の燃料溶液に交換した。続いて、電極面積1 cm2の電池セル1aに対して2回目の一定電流負荷(2.5 mA/cm2)をかけた。燃料溶液の組成は、下記表3及び表4に要約する。
【0196】
結果を、下記表3及び表4に示す。表3は、1回目の発電による電池容量の平均値とバラツキを示す。表4は、2回目の燃料溶液中の各燃料濃度及び各緩衝濃度の組み合わせによる2回目発電での電池容量 (mWh)を示す。その結果、電池容量を高く維持するためには、燃料溶液中の燃料濃度が高くなると、それに応じて緩衝液濃度も高くする必要があることが判明した。
【0197】
【表3】
【0198】
【表4】
【0199】
実施例8.負極への緩衝液含浸時の緩衝液のpHの影響の検証(NADGDH-ACNQ系)
A.概要
本実施例では、実施例1にて1回目の発電の後に負極22に緩衝液を含浸させるという簡単な操作だけで、2回目の発電においても電池容量を同じにすることができることが判明したことから、1回目の発電後に負極22に含浸させる緩衝液のpHが電圧保持時間及び電池容量に与える影響について検証した。
【0200】
B.方法
B−1.バイオ電池の構成
バイオ電池1の構成は、比較例2で使用したNADGDH-ACNQ系であり、比較例2と同様にしてバイオ電池1を作製した。
【0201】
B−2.測定条件
1回目の発電後に負極22に含浸させる緩衝液のpHについて、pH 7.0、pH 8.7、pH 10.8の3条件で電池容量への影響を検証した。比較例2と同様にして、1回目の燃料溶液を添加し、電極面積1 cm2の電池セル1aに対して1回目の一定電流負荷(2.5 mA/cm2)による発電を行った。電圧が0.1 Vとなった時点で、負極22を1 M イミダゾール pH 7.0、pH 8.7、又はpH 10.8に含浸させ、再び電池セル1aを組み立てた。続いて、燃料溶液を2回目の燃料溶液に交換し、電極面積1 cm2の電池セル1aに対して2回目の一定電流負荷(2.5 mA/cm2)をかけた。1回目の発電の後に負極22を緩衝液に含浸しなかったものについても同様に検討した。燃料溶液の組成は以下の通りある。
1回目燃料溶液:2.4 M ブドウ糖 / 1 M イミダゾール pH8.7
2回目燃料溶液:2.4 M ブドウ糖 / 1 M イミダゾール pH8.7
【0202】
C.結果
結果を図21に示す。図21は、電圧保持時間を(秒)を横軸に、電圧(V)を縦軸に示す。その結果、1回目の発電による電池容量の平均が2.5 mWh(3.7 mAh)であるのに対して、緩衝液含浸なしでは2回目の発電による電池容量が0.7 mWh(2.0 mAh)と1/3以下に低下した。一方、pH 7.0での含浸では2回目の発電による電池容量は1.1 mWh(2.0 mWh)、pH8.7では1.3 mWh(2.3 mAh)、pH 10.8では1.8 mWh(3.1 mAh)であり、pH 7.0以上の緩衝液を負極22に含浸させることでpH調整が可能となり、電池容量は向上することが判明した。
【0203】
実施例9.燃料溶液交換時に添加する燃料溶液中の燃料濃度と緩衝液濃度の影響の検証(NADGDH-ACNQ系)
A.概要
本実施例では、比較例4にて燃料溶液中の燃料濃度が緩衝液濃度と比べて同じあるいは低い場合に電池容量はほとんど低下せず、有機酸が発生してもpH変動による負極側での酵素の活性低下が起こらないこと確認されたことから、燃料濃度と緩衝液濃度の関係が電圧保持時間及び電池容量に与える影響に更に詳細に検証した。
【0204】
B.方法
B−1.バイオ電池1の構成
バイオ電池1の構成は、比較例2で使用したNADGDH-ACNQ系であり、比較例2と同様にしてバイオ電池1を作製した。
【0205】
B−2.測定条件
1回目の発電の後に負極22内pHをアルカリ性に調整する方策として、燃料溶液による負極22内pHの調整を試み、燃料濃度と緩衝液濃度の関係を検証するため、1 回目及び2回目に添加する燃料溶液をブドウ糖0.5 Mに対して緩衝液濃度を0.125 M、0.25 M、0.5 M、1 Mとした。比較例2と同様にして、1回目の燃料溶液を添加し、電極面積1 cm2の電池セル1aに対して1回目の一定電流負荷(2.5 mA/cm2)による発電を行った。電圧が0.1 Vとなった時点で、燃料溶液を2回目の燃料溶液に交換した。続いて、電極面積1 cm2の電池セル1aに対して2回目の一定電流負荷(2.5 mA/cm2)をかけた。燃料溶液の組成は以下の通りあり、1回目及び2回目の燃料溶液は、同じイミダゾール濃度のものを使用した。
1回目の燃料溶液:0.5 M ブドウ糖 / 0.125 M イミダゾール pH 8.7、
0.5 M ブドウ糖 / 0.25 M イミダゾール pH 8.7、
0.5 M ブドウ糖 / 0.5 M イミダゾール pH 8.7、
0.5 M ブドウ糖 / 1 M イミダゾール pH 8.7、
2回目の燃料溶液:0.5 M ブドウ糖 / 0.125 M イミダゾール pH 8.7、
0.5 M ブドウ糖 / 0.25 M イミダゾール pH 8.7、
0.5 M ブドウ糖 / 0.5 M イミダゾール pH 8.7、
0.5 M ブドウ糖 / 1 M イミダゾール pH 8.7、
【0206】
C.結果
結果を図22に示す。図22は、電圧保持時間を(秒)を横軸に、電圧(V)を縦軸に示す。その結果、1回目の発電による電池容量の平均は0.9mWh(1.3mAh)であるのに対し、2回目の発電の電池容量は緩衝液濃度0.125 Mで0.5 Wh(0.7 mAh)、0.25 Mでは0.6 Wh(1.0 mAh)、0.5 Mでは0.8 Wh(1.3 mAh)、1 Mでは0.8 Wh(1.2 mAh)となり、燃料濃度に比べて緩衝液濃度が低い濃度である場合はpH調整ができず、2回目の発電による電池容量は低下することが判明した。効果的なpH調整のためには燃料溶液の0.5倍以上の濃度に緩衝液を調整することが好ましいことが理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0207】
本発明は、バイオ電池に関し、バイオ電池が要求されるあらゆる分野、特に、電子、医療、食品、環境分野等の産業分野において利用可能である。詳細には、卓上電卓等の携帯型機器や心臓ペースメーカー等の体内埋め込み式機器等の小型電子機器の電源等への応用が可能である。
【符号の説明】
【0208】
バイオ電池1
電池セル1a
正極21
負極22
隔膜3
図1
図2
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図20
図21
図22