(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ベルト基体上に形成された重合性成分を含有する硬化用組成物の塗膜に、紫外線光源から硬化用光を照射することによって、前記重合性成分を重合させて紫外線硬化膜を形成する方法であって、
紫外線光源と硬化用組成物の塗膜との間に紫外線を透過する透光性筺体を介在させ、
硬化用光を照射する前に、前記透光性筺体と前記硬化用組成物の塗膜が配置されるべき硬化用光の被照射領域との間の空間に不活性ガスを供給し、
当該透光性筺体における前記硬化用組成物の塗膜と対向する位置に形成された通気口から前記不活性ガスを吐出させながら、前記透光性筺体を介して硬化用光を照射し、
前記ベルト基体を回転させながら硬化用光を照射することを特徴とする紫外線硬化膜の形成方法。
前記硬化用光の照射が、前記透光性筺体と前記硬化用組成物の塗膜との間の空間における酸素濃度が100〜1000ppmである状態において行われることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の紫外線硬化膜の形成方法。
前記透光性筺体と前記被照射領域との間の空間の酸素濃度を検出する検出手段が設けられていることを特徴とする請求項5〜請求項7のいずれかに記載の紫外線照射装置。
前記紫外線光源と前記被照射領域となる前記硬化用組成物の塗膜との距離は、100〜250mmであることを特徴とする請求項5〜請求項9のいずれかに記載の紫外線照射装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
然るに、特許文献1〜特許文献6に開示された方法においては、紫外線が照射される被照射領域を含む空間に囲いを設け、この囲いの両側部または上部から不活性ガスを供給することにより大気を不活性ガスに置換しているが、このような方法によっては短時間で酸素濃度を所期の値まで低下させることができない、という問題がある。
また、酸素濃度を早期に低下させる手段として紫外線光源と塗膜との距離を短くして被照射領域を含む空間の体積を小さくすることが考えられるが、紫外線光源による照射面積が小さくなるため紫外線光源を増設しなければならず、また、紫外線の照射によって被処理体の温度が過度に上昇してしまう。さらに、このような構成によっても、ある程度は酸素濃度の低下速度を大きくすることができるものの、短時間で酸素濃度を所期の値まで低下させることは困難である。
【0007】
本発明は、以上のような事情を考慮してなされたものであって、その目的は、短時間で被照射領域を含む空間の酸素濃度を所期の値まで低下させることができて、高硬度の紫外線硬化膜を高い効率で形成することができる紫外線硬化膜の形成方法および紫外線照射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の紫外線硬化膜の形成方法は、ベルト基体上に形成された重合性成分を含有する硬化用組成物の塗膜に、紫外線光源から硬化用光を照射することによって、前記重合性成分を重合させて紫外線硬化膜を形成する方法であって、
紫外線光源と硬化用組成物の塗膜との間に紫外線を透過する透光性筺体を介在させ、
当該透光性筺体における前記硬化用組成物の塗膜と対向する位置に形成された通気口から不活性ガスを吐出させながら、前記透光性筺体を介して硬化用光を照射することを特徴とする。
【0009】
本発明の紫外線硬化膜の形成方法においては、前記硬化用組成物の塗膜に、前記透光性筺体を透過した硬化用光のみを照射することが好ましい。
【0010】
本発明の紫外線硬化膜の形成方法においては、前記硬化用光の照射が、前記透光性筺体と前記硬化用組成物の塗膜との間の空間における酸素濃度が100〜1000ppmである状態において行われることが好ましい。
【0011】
本発明の紫外線硬化膜の形成方法においては、前記ベルト基体が無端状のものである構成とすることができる。
【0012】
本発明の紫外線照射装置は、上記の紫外線硬化膜の形成方法を行う紫外線照射装置であって、
紫外線光源と硬化用組成物の塗膜が配置されるべき硬化用光の被照射領域との間に紫外線を透過する透光性筺体が設けられると共に、
当該透光性筺体における前記被照射領域と対向する位置に不活性ガスが吐出される通気口が設けられていることを特徴とする。
【0013】
本発明の紫外線照射装置においては、前記透光性筺体が、複数の通気口を有することが好ましい。
【0014】
本発明の紫外線照射装置においては、前記透光性筺体が、石英ガラスよりなるものであることが好ましい。
【0015】
本発明の紫外線照射装置においては、前記透光性筺体と前記被照射領域との間の空間の酸素濃度を検出する検出手段が設けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の紫外線硬化膜の形成方法によれば、紫外線光源と硬化用組成物の塗膜との間に透光性筺体が介在され、当該透光性筺体の通気口から不活性ガスを吐出させながら当該透光性筺体を介して硬化用光が照射されることにより、短時間で被照射領域を含む空間の酸素濃度を所期の値まで低下させることができ、その結果、高硬度の紫外線硬化膜を高い効率で形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0019】
〔紫外線照射装置〕
図1は、本発明の紫外線照射装置の構成の一例を示す説明図であり、(a)は被処理体の搬送方向に垂直な方向に切断した断面図であり、(b)は被処理体の搬送方向に沿って切断した断面図である。
図2は、
図1の紫外線照射装置の透光性筺体の底板を被処理体と共に示す平面図である。
本発明の紫外線照射装置は、
図3に示されるような、ベルト基体2上に紫外線硬化膜4が積層されてなる中間転写ベルトを得るために用いる装置であって、ベルト基体2上に重合性成分を含有する硬化用組成物の塗膜4aが積層された被処理体Wの当該塗膜4aに対して、紫外線光源10から硬化用光を照射するものである。
【0020】
本発明の紫外線照射装置は、具体的には、紫外線光源10、および、搬送用支持ロール17,18に張架されて搬送される被処理体Wの塗膜4aにおける硬化用光が照射される被照射領域Rと紫外線光源10との間に紫外線を透過する透光性筺体12を有し、当該透光性筺体12における塗膜4aの被照射領域Rと対向する位置に、不活性ガスが吐出される通気口15が設けられたものである。
【0021】
紫外線光源10から放射される硬化用光は、硬化波長が365nmまたは405nmの紫外線とされる。
紫外線光源10としては、例えばLED光源、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプなどを用いることができ、特にLED光源を用いることが好ましい。
【0022】
透光性筺体12は、内部に不活性ガスが流過される板状空間を有する外観が板状の筺体であって、硬化用光の照射方向すなわち紫外線光源10から被処理体Wの塗膜4aに向かう方向と垂直な方向に伸びる姿勢で配置されている。
透光性筺体12は、被処理体Wの塗膜4aにおける被照射領域Rよりも幅方向(
図2における左右方向)および奥行き方向(
図2における上下方向)にそれぞれ大きいものであることが好ましい。
【0023】
この透光性筺体12は、紫外線光源10からの紫外線を透過するものであり、具体的には硬化用光の照射方向(
図1において上から下に向かう方向)における硬化用光の透過率が90%以上のものであることが好ましい。
また、透光性筺体12を構成する材料は、屈折率が低いものであることが好ましく、具体的には屈折率が1.45〜1.49の範囲にあるものであることが好ましい。
また、透光性筺体12を構成する材料は、硬化用光の照射によって発生する熱による変質が防止される程度の耐熱性を有するものであることが好ましく、具体的には耐熱温度が150℃以上であることが好ましい。
透光性筺体12は、石英ガラスの板材からなるものであることが好ましい。石英ガラスは、ほぼ二酸化ケイ素のみから構成され、不純物の割合が極めて少ないので、透光性筺体12が石英ガラスによって構成されることにより、当該透光性筺体12に高い紫外線の透過率が得られる。なお、一般的なソーダ石灰ガラスの紫外線の透過率は80〜85%であってこれによる透光性筺体を用いると被照射領域Rに十分な紫外線の照度が得られず、さらに屈折率が1.51と高いために被処理体Wの塗膜4aにおいて紫外線の照度ムラが生じて得られる紫外線硬化膜に硬さのバラツキが生じ、その結果、使用に伴って紫外線硬化膜が削れ、転写性が低下してしまうために、好ましくない。
【0024】
透光性筺体12の通気口15は、複数設けられていることが好ましい。
通気口15は、例えば直径0.3〜0.5mmの円形の孔とされる。
透光性筺体12における被照射領域Rと対向する底板12Aの通気口15による開口率は、0.003〜0.015%であることが好ましい。
透光性筺体12における被照射領域Rと対向する底板12Aの通気口15による開口率が過度に小さい場合は、通気口15から不活性ガスを十分な流速で吐出させることができず、透光性筺体12と被照射領域Rとの間の不活性ガス置換空間Sの酸素濃度を所期の値まで低下させることができないおそれがある。また、透光性筺体12における被照射領域Rと対向する底板12Aの通気口15による開口率が過度に大きい場合は、透光性筐体12内の内圧が低くなるために当該透光性筐体12内の不活性ガス置換に時間を要するという不具合が生じるおそれがある。
通気口15は、透光性筺体12における被照射領域Rと対向する底板12Aに等間隔に縦横に並設されている。特に、透光性筺体12の底板12Aにおける奥行き方向(
図2における上下方向)の中央部12A1のみに通気口15が等間隔に縦横に設けられていることが好ましい。このような構成を有することによって、底板12A奥行き方向の端部12A2が整流板として作用し、不活性ガス置換空間Sの不活性ガスによる置換を高い効率で行うことができる。
【0025】
透光性筺体12の寸法の一例を挙げると、被照射領域Rの寸法が幅(
図1(a)における左右方向)が450mm、奥行(
図1(b)における左右方向)が90mmである場合に、例えば幅が500mm、高さが5mm、奥行が100mmとされ、当該透光性筺体12を構成する石英ガラスの板材の厚みが2mmとされる。
【0026】
透光性筺体12と被処理体Wとの距離は、例えば5mm以下とされ、1〜5mmとされることが好ましい。
透光性筺体12と被処理体Wとの距離が5mmより大きい場合は、透光性筺体12と被照射領域Rとの間の不活性ガス置換空間Sの体積を十分に小さくすることができず、その結果、短時間で不活性ガス置換空間Sの酸素濃度を所期の値まで低下させることができないおそれがある。また、透光性筺体12と被処理体Wとの距離が1mm未満である場合は、被処理体Wの搬送精度が低下すると当該被処理体Wが透光性筐体12と接触するという不具合が生じるおそれがある。
【0027】
紫外線光源10と被処理体Wとの距離は、例えば100〜250mmとされる。紫外線光源10と被処理体Wとの距離が上記の範囲にあることによって、硬化用光の照射によって被処理体Wの温度が過度に上昇することを防止することができる。
紫外線光源10と被処理体Wとの距離が過度に小さい場合は、硬化用光の照射によって被処理体Wの温度が過度に上昇、例えば2〜3秒間で100℃程度に上昇してしまい、ベルト基体2が例えばポリカーボネート樹脂やポリフェニレンサルファイド樹脂などの耐熱性の低い樹脂よりなるものである場合に中間転写ベルトにシワが発生して変形してしまうおそれがある。また、1つの紫外線光源10によって被照射領域Rの全域に硬化用光を照射させることができないために、紫外線光源10の数を増大させる必要が生じてしまう。一方、紫外線光源10と被処理体Wとの距離が過度に大きい場合は、被照射領域Rに所期の照度の硬化用光を照射するために、紫外線光源10の出力を上げなければならないおそれがある。
【0028】
この紫外線照射装置においては、透光性筺体12と被照射領域Rとの間の不活性ガス置換空間Sの酸素濃度を検出する検出手段(図示せず)が設けられていることが好ましい。具体的には、被処理体Wの幅方向の端部は硬化処理後に切断されて除去されるので、検出手段は、不活性ガス置換空間Sにおける当該端部に対応する位置に設けることが好ましい。
【0029】
〔紫外線硬化膜の形成方法〕
本発明の紫外線硬化膜の形成方法は、被処理体Wの塗膜4aに紫外線光源10からの硬化用光を照射することによって、塗膜4a中の重合性成分を重合させ、その結果、当該重合性成分を含有する硬化用組成物を硬化させて紫外線硬化型樹脂を生成させ、これにより、紫外線硬化膜4を形成する方法である。
具体的には、上記の紫外線照射装置を用い、紫外線光源10と塗膜4aとの間に紫外線を透過する透光性筺体12を介在させ、当該透光性筺体12における硬化用組成物の塗膜4aと対向する位置に形成された通気口15から不活性ガスを吐出させて不活性ガス置換空間Sの雰囲気を不活性ガスに置換しながら、透光性筺体12を介して硬化用光を照射する硬化処理が行われる。
【0030】
本発明の紫外線硬化膜の形成方法を経て得られる中間転写ベルトは、例えば無端ベルト状のものであり、具体的には、ベルト基体上に表面層として紫外線硬化膜が形成されてなるものである。
中間転写ベルトは、ベルト基体2が無端状のものである、すなわち無端状の中間転写ベルトであることが好ましい。
【0031】
〔ベルト基体2〕
ベルト基体2は、無端ベルト状のものであり、単層構成であっても、2層以上の複数層構成であってもよい。
ベルト基体2の構成材料としては、特に限定されないが、例えば、ポリイミド樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル・スチレン共重合樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、アセテート樹脂、ABS樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂などよりなるものを用いることができ、ポリフェニレンサルファイド樹脂よりなるものを用いることが好ましい。また、ベルト基体2は、上記のような樹脂に導電剤を分散させ、導電性を有するものであることが好ましい。
【0032】
ベルト基体2の肉厚は、機械的強度、画質、製造コストなどを考慮し、50〜250μmであることが好ましい。
【0033】
〔紫外線硬化膜4〕
紫外線硬化膜4は、紫外線硬化型樹脂からなり、当該紫外線硬化型樹脂を形成するための重合性成分としては、多官能(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。重合性成分としては、シリコーン変性ビニル系モノマーなどのその他の重合性化合物を含有していてもよい。
【0034】
〔その他添加剤〕
紫外線硬化膜4中には、必要に応じて、表面処理が施された金属酸化物微粒子、有機溶剤、光安定剤、紫外線吸収剤、触媒、着色剤、帯電防止剤、滑剤、レベリング剤、消泡剤、重合促進剤、酸化防止剤、難燃剤、赤外線吸収剤、界面活性剤、表面改質剤などの添加成分が含有されていてもよい。
【0035】
紫外線硬化膜4の層厚は、機械的強度、画質、製造コストなどを考慮し、1〜10μmであることが好ましい。
【0036】
硬化用組成物は、少なくとも重合性成分および重合開始剤を含有するが、塗布性(作業性)を向上させる観点から溶剤などのその他の成分を含んでいてもよい。
硬化用組成物の粘度は、1〜50cPであることが好ましい。
硬化用組成物は、固形分濃度が5〜40質量%であることが好ましい。なお、本発明に係る硬化用組成物において、固形分は重合性成分とされる。
【0037】
重合性成分である多官能(メタ)アクリレートは、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有するもので、中間転写ベルトの紫外線硬化膜4の耐摩耗性、強靱性、密着性を発現させるために用いられる。具体的には、ビス(2−アクリロキシエチル)−ヒドロキシエチル−イソシアヌレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、ウレタンアクリレートなどの2官能性単量体;トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETTA)、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)、ウレタンアクリレート、多価アルコールと多塩基酸および(メタ)アクリル酸とから合成されるエステル化合物、例えばトリメチロールエタン/コハク酸/アクリル酸=2/1/4モルから合成されるエステル化合物などの3官能以上の多官能単量体などが挙げられる。得られる紫外線硬化膜4にハードコート性を持たせるためには、3官能以上の多官能アクリレートを使用することが好ましい。
多官能(メタ)アクリレートは、重合性成分中20〜90質量%の割合で含有されることが好ましい。
【0038】
重合開始剤としては、紫外線光源10からの硬化用光によって重合性成分を重合反応させることができるものであれば特に限定されずに用いることができる。
重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン系化合物、ベンゾインエーテル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、硫黄化合物、アゾ化合物、パーオキサイド化合物、ホスフィンオキサイド系化合物などの光重合開始剤を用いることができる。
【0039】
溶剤としては、具体的には、例えば、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどが挙げられる。
【0040】
硬化用組成物は、例えば、重合性成分および重合開始剤を溶剤に添加して分散または溶解させることにより調製することができる。
【0041】
硬化用組成物の塗布方法としては、例えば、スパイラル塗布法、浸漬塗布法やスプレー塗布法などが挙げられる。
【0042】
硬化用組成物をベルト基体2上に塗布した後、乾燥させることが好ましい。これにより溶剤が除去される。
塗膜4aの乾燥は、硬化用光の照射の前後、およびその硬化用光の照射中のいずれにおいて行われてもよく、これらを組み合わせて適宜選択することができるが、具体的には、塗膜4aの流動性がなくなる程度まで一次乾燥した後、硬化用光の照射を行い、その後、さらに紫外線硬化膜中の揮発性物質の量を規定量にするために二次乾燥を行うことが好ましい。
【0043】
本発明の紫外線硬化膜の形成方法においては、硬化用光による硬化処理前に、不活性ガス置換空間Sに不活性ガスを供給して当該不活性ガス置換空間Sの酸素濃度を所期の値まで低下させる事前置換処理が行われる。
この事前置換処理に要する時間、すなわち不活性ガス置換空間Sに不活性ガスを供給し始めてから不活性ガス置換空間Sの酸素濃度が所期の値に到達するまでの時間は、例えば180秒間以下であることが好ましく、より好ましくは50秒間以下であり、特に好ましくは10秒間以下である。
【0044】
不活性ガス置換空間Sに供給される不活性ガスとしては、例えば窒素ガスを用いることができる。
【0045】
事前置換処理および硬化処理中における不活性ガスの供給流量は、例えば5L/min以上であることが好ましい。
【0046】
硬化処理における不活性ガス置換空間Sの酸素濃度は、低い程好ましく、例えば100〜1000ppmとされる。
不活性ガス置換空間Sの酸素濃度が過大である場合は、酸素ガスによる重合阻害が生じてしまう。
【0047】
硬化処理における被処理体Wの搬送速度は、紫外線光源10からの硬化用光の照度によっても異なるが、例えば搬送用支持ロール17,18の周速度が30〜100mm/sとされる。
被処理体Wの搬送速度が過度に小さい場合は、生産時間が過大になって生産タクトが小さくなるおそれがある。一方、被処理体Wの搬送速度が過度に大きい場合は、被照射領域Rにおいて十分な硬化用光の積算光量が得られず、塗膜4aを十分に硬化させることができないおそれがある。
【0048】
硬化処理において、塗膜4aには、透光性筺体12を透過した硬化用光のみを照射することが好ましい。これにより、硬化ムラの発生が抑制された紫外線硬化膜4を得ることができる。
【0049】
硬化用光の積算光量は、硬化ムラ、硬度、硬化時間、硬化速度などを考慮し、1500mJ/cm
2 以上であることが好ましい。
照射光量は、紫外線積算光量計UIT250(ウシオ電機(株)製)で測定した値を示す。
【0050】
硬化処理における硬化用光の照射時間は60秒以下とされることが好ましい。
【0051】
以上のような紫外線硬化膜の形成方法によれば、紫外線光源10と被処理体Wの塗膜4aとの間に透光性筺体12が介在され、当該透光性筺体12の通気口15から不活性ガスを吐出させながら当該透光性筺体12を介して硬化用光が照射されることにより、不活性ガスに置換すべき不活性ガス置換空間Sの体積が小さなものとなるので、短時間で不活性ガス置換空間Sの酸素濃度を所期の値まで低下させることができる。また、紫外線光源10を被処理体Wに近接させる必要がないことから、少数の紫外線光源10によって広範囲の被照射領域Rに確実に硬化用光を照射することができ、かつ、硬化用光の照射による被処理体Wの温度の上昇を抑制することができて、高硬度の紫外線硬化膜4を高い効率で形成することができる。
【0052】
以上のような中間転写ベルトは、モノクロの画像形成装置やフルカラーの画像形成装置など電子写真方式の公知の種々の画像形成装置において好適に用いることができる。
【0053】
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明の実施形態は上記の例に限定されるものではなく、種々の変更を加えることができる。
例えば、ベルト基体が無端状のものではなく例えば長尺なシート状のものである場合などにおいては、被処理体を回転移動させながらではなく、被処理体をロール・トゥ・ロール方式で連続搬送しながら、硬化用光を照射してもよい。
また例えば、本発明の紫外線硬化膜の形成方法を経て得られる中間転写ベルトは、ベルト基体上に直接、紫外線硬化膜が形成されたものに限定されず、ベルト基体上に、必要に応じて弾性体や接着剤よりなる中間層を介して紫外線硬化膜が形成されていてもよい。
【実施例】
【0054】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0055】
〔実施例1:中間転写ベルトの製造例1〕
(1)ベルト基体の作製
ポリフェニレンサルファイド樹脂「E2180」(東レ社製)100質量部、導電フィラー「ファーネス#3030B」(三菱化学社製)16質量部、グラフト共重合体「モディパーA4400」(日本油脂社製)1質量部および滑材(モンタン酸カルシウム)0.2質量部を、単軸押出機に投入し、溶融混練させて樹脂混合物とした。
次いで、単軸押出機の先端にスリット状でシームレスベルト形状の吐出口を有する環状ダイスを取り付け、混練された上記樹脂混合物を、シームレスベルト形状に押し出した。そして、押し出されたシームレスベルト形状の樹脂混合物を、吐出先に設けた円筒状の冷却筒に外挿させて冷却して固化することにより、厚さ120μmでシームレス円筒状のベルト基体〔1〕を作製した。
【0056】
(2)硬化用組成物の調製
・多官能(メタ)アクリレート:下記式(1)で表される化合物 75質量部
・シリコーン変性ビニル系モノマー 25質量部
・光重合開始剤:「Irgacure TPO」(BASF社製) 4質量部
を、固形分濃度が10質量%となるよう、溶剤:メチルイソブチルケトン中に溶解、分散させることにより、硬化用組成物〔1〕を調製した。
【0057】
【化1】
【0058】
(3)塗膜の形成
上記のベルト基体〔1〕上に、硬化用組成物〔1〕を、塗布装置を使用してスパイラル塗布法によって乾燥膜厚が5μmとなるように塗布して塗膜を形成して被処理体を得た。
次いで、下記条件の紫外線照射装置を用い、表1に記載の供給条件で窒素ガスの供給を開始し、透光性筺体と塗膜との間の空間における酸素濃度が目標濃度となった後、継続して窒素ガスを供給しながら、被処理体の塗膜に紫外線を下記の照射条件で照射することにより、重合性成分の重合により塗膜を硬化して紫外線硬化膜を形成した。これにより、無端状の中間転写ベルト〔1〕を得た。
紫外線の照射は、光源を固定し、被処理体を周速度1mm/sで回転しながら行なった。
−紫外線照射装置−
透光性筺体の材質:石英ガラス(紫外線の透過率:90%)
透光性筺体の開口率:表1の通り
塗膜と透光性筺体との距離:表1の通り
−紫外線の照射条件−
光源の種類:LED光源「SPX−UV365」(レボックス社製)
硬化用光の波長:365nm
照射口から塗膜の表面までの距離:150mm
積算光量:1800mJ/cm
2
【0059】
〔実施例2〜6:中間転写ベルトの製造例2〜6〕
中間転写ベルトの製造例1において、(3)塗膜の形成工程において、透光性筺体として表1に記載の開口率のものを用い、透光性筺体と塗膜の距離を表1に記載の通りとし、不活性ガスの供給流量を表1に記載の通りとしたこと以外は同様にして、中間転写ベルト〔2〕〜〔6〕を作製した。
【0060】
〔比較例1:中間転写ベルトの製造例7〕
中間転写ベルトの製造例1において、透光性筺体を用いず、不活性ガスを光源と被処理体との間隙に両側部から流入させたこと以外は同様にして、中間転写ベルト〔7〕を作製した。
【0061】
〔評価:膜強度〕
中間転写ベルト〔1〕〜〔7〕を、円形状に切り取り、下記の条件でテーバー摩耗試験を行った後、紫外線硬化膜の表面について、レーザー顕微鏡「VK−X100」(キーエンス社製)によって算術平均粗さRaを測定した。結果を表1に示す。
−テーバー摩耗試験の条件−
・テーバー摩耗試験機:「ロータリーアブレージョンテスタTS−2」(東洋精機製作所社製)
・回転数:70rpm
・荷重:500g(片側250g)
・摩耗輪:CS10F
・摩耗試験時間:10分間
【0062】
【表1】