(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を用いて、本開示における典型的な実施形態を説明する。
図1は、本実施形態の眼内レンズ挿入システム1の概略構成図である。本実施形態の眼内レンズ挿入システム1は、水晶体嚢が除去された患者眼Eに対して、水晶体の代わりとなる眼内レンズ2を挿入する。本実施形態では、眼内レンズ挿入システム1が患者眼Eに挿入した眼内レンズ2は、水晶体嚢に設置されるものとして説明する。
【0011】
本実施形態の眼内レンズ挿入システム1は、眼内レンズ挿入デバイス100、顕微鏡部200、および制御装置300を備える。本実施形態の眼内レンズ挿入デバイス100は、患者眼Eの眼外から眼内へと、眼内レンズ2を移動する。換言するなら、本実施形態の眼内レンズ挿入デバイス100は、眼内レンズ2の挿入手段である。本実施形態の顕微鏡部200は、患者眼Eの前眼部Ea、眼内レンズ挿入デバイス100、または眼内レンズ2を観察する。換言するなら、本実施形態の顕微鏡部200は、患者眼E、眼内レンズ挿入デバイス100、または眼内レンズ2の観察手段である。本実施形態の制御装置300は、眼内レンズ挿入デバイス100または顕微鏡部200の制御を司る。換言するなら、本実施形態の制御装置300は、眼内レンズ2の挿入に関わる装置(または器具)の制御を行う制御手段である。
【0012】
<顕微鏡部>
本実施形態の顕微鏡部200は、顕微鏡205、撮像光学系、視野内表示系280、および制御装置(制御部)300を有する。本実施形態の顕微鏡205、撮像光学系、および視野内表示系280は、筐体203内に内蔵(収容)されている。本実施形態の撮像光学系は、正面像撮像光学系270aおよび断層像撮像光学系270bを含む。使用者(術者)は、手術時に患者眼Eを観察するための観察光学系(換言するなら観察手段)の一つとして、顕微鏡205または撮像光学系を用いる。
【0013】
本実施形態の顕微鏡205は、患者眼Eから術者の右眼までの光路PRと、患者眼Eから術者の左眼までの光路PLと、を有する。本実施形態の顕微鏡205は、双眼タイプの顕微鏡である(もちろん単眼タイプであってもよい)。本実施形態の顕微鏡205は、対物レンズ210を有する。本実施形態では、対物レンズ210は、光路PRと光路PLの間の共通光路に配置される。本実施形態では、光路PRにレンズ212R、レンズ214R、および接眼レンズ218Rが配置されており、光路PLにレンズ212L、レンズ214L、および接眼レンズ218Lが配置されている。なお、以降の説明では、光路PRと光路PLの中間を通る軸を、軸L1と呼ぶ場合がある。
【0014】
本実施形態では、レンズ212Rおよびレンズ214Rのセットと、レンズ212Lおよびレンズ214Lのセットとは、顕微鏡駆動部290によりそれぞれ光軸方向に移動されて、一対のズーム系(ズーム系216R,ズーム系216L)を形成する。本実施形態の可視光源277は、患者眼Eの前眼部Eaを、可視光で照明する。本実施形態では、図示無きアームによって、筐体203を3軸(上下左右前後)方向に移動できる。詳細には、対物レンズ210の焦点位置が前眼部Eaに置かれるように、筐体203の位置を、アームで調整できる。
【0015】
可視光源277から出射された照明光は、前眼部Eaを前方から照明する。前眼部Eaで反射した照明光(つまり反射光)は、対物レンズ210及びビームコンバイナ240を通過(透過)する。その後、光路PRを通過する光は、ズーム系216R,ダイクロイックミラー271、接眼レンズ218Rを介して術者の右眼に達する。一方、光路PLを通過する光は、ズーム系216L、ビームコンバイナ240、接眼レンズ218Lを介して術者の左眼に達する。これにより、術者は、術者の左右眼で接眼レンズ218R,218Lを覗くことにより、前眼部Eaの正面像を観察できる。
【0016】
<正面像撮像光学系>
本実施形態の正面像撮像光学系270aは、前眼部Eaの正面像IMGfを撮像(取得)する。本実施形態の正面像撮像光学系270aは、対物レンズ210、ズーム系216R、ダイクロイックミラー271、撮像レンズ272、および受光素子274を有する。本実施形態の受光素子274は、撮像素子(二次元撮像素子)である。本実施形態の受光素子274は、前眼部Eaと略共役位置に配置されている。ダイクロイックミラー271は、赤外光を反射して、可視光を透過する特性を有する。本実施形態の正面像撮像光学系270aは、赤外光源276から発せられた照明光(赤外光)の、患者眼Eでの反射光を撮像する。これによって、本実施形態の正面像撮像光学系270aは、前眼部Eaの正面像IMGfを撮像する。なお、本実施形態の正面像撮像光学系270aは、前眼部Eaの他に、撮像範囲内に位置する眼内レンズ2、および眼内レンズ挿入デバイス100を撮像できる。
【0017】
図2に、本実施形態の正面像撮像光学系270aが撮像した正面像IMGfを例示する。
図2の正面像IMGfには、患者眼Eの前眼部Ea、眼内レンズ挿入デバイス100、眼内レンズ2、患者眼Eの角膜に形成された切開創、水晶体嚢の前嚢に形成されたC.C.C.(continuous curvicular capslotomy)等が映り込んでいる。なお、本実施形態のカードリッジ部101(
図4参照)は半透明(光を通過可能)であるため、カードリッジ部101の内部に充填されている眼内レンズ2の形状を、カードリッジ部101の外部から観察できる。
【0018】
なお、正面像IMGfの撮像手段(取得手段)はこれに限るものではない。例えば、レーザ光を走査して、正面像IMGfを撮像(取得)してもよい。眼内レンズ挿入システム1が、患者眼Eの正面像IMGf(静止画または動画)を撮像できればよい。なお、本実施形態の正面像IMGfはモノクロ画像(無彩色画像)であるが、正面像IMGfがカラー画像(有彩色画像)であってもよい。
【0019】
<断層像撮像光学系>
本実施形態の断層像撮像光学系270bは、例えば、手術位置に配置された患者眼Eの前眼部Eaの断層像IMGtを取得する。
図3に、本実施形態の断層像撮像光学系270bが撮像した断層像IMGtを例示する。
図3の断層像IMGtには、患者眼Eの前眼部Ea、眼内レンズ挿入デバイス100、眼内レンズ2、患者眼Eの角膜、患者眼Eの角膜に形成された切開創等が映り込んでいる。本実施形態の断層像撮像光学系270bは、前述した正面像撮像光学系270aと同様に、カードリッジ部101の内部に充填されている眼内レンズ2の形状を、カードリッジ部101の外部から観察できる。
【0020】
本実施形態の断層像撮像光学系270bは、OCTユニット250を含む。本実施形態の断層像撮像光学系270bは、対物レンズ210を他の光学系と共用する。OCTユニット250は、例えば、光干渉計、および光スキャナを備える。本実施形態の断層像撮像光学系270bは、患者眼Eへ測定光を照射する。本実施形態の断層像撮像光学系270bは、患者眼Eから反射された測定光と,参照光との干渉状態を、受光素子(検出器)で検出する。
【0021】
本実施形態の光スキャナとは、患者眼上における測定光の照射位置を変更する照射位置変更ユニットである。本実施形態では、光スキャナによって、患者眼E上の撮像位置を変更できる。本実施形態の光スキャナは、2次元方向にスキャンできる。本実施形態の光スキャナは、制御装置300に接続されている。本実施形態の制御装置300は、設定された撮像位置情報に基づいて、光スキャナの動作を制御して、検出器からの受光信号に基づいて断層像IMGtを取得する。
【0022】
なお、断層像IMGtを換言するならば、正面像IMGfの撮像面に交差する面の像である。つまり、正面像IMGfの撮像面と断層像IMGtの撮像面(断面)とは交差する。更に換言するなら、正面像IMGfと断層像IMGtとは、撮像対象(患者眼E,眼内レンズ2,眼内レンズ挿入デバイス100等)を、異なる方向から撮像(観察)した画像である。
【0023】
本実施形態の断層像撮像光学系270bは、いわゆる眼科用光断層干渉計(OCT:Optical Coherence Tomography)の装置構成を持つ。断層像撮像光学系270bは、一例として、眼内レンズ2を患者眼Eへ挿入する際の、患者眼Eの前眼部Eaの断層像IMGtを撮像する。断層像撮像光学系270bは、測定光源から出射された光(赤外光)をカップラー(光分割器)によって、測定光(試料光)と参照光に分割する。そして、断層像撮像光学系270bは、測定光を患者眼Eに導き、参照光を参照光学系に導く。その後、患者眼Eによって反射された測定光と、参照光との合成による干渉光を、検出器(受光素子)により受光する。
【0024】
本実施形態の検出器は、測定光と、参照光との干渉状態を検出する。例えば、フーリエドメインOCTの場合では、干渉光のスペクトル強度が検出器によって検出され、スペクトル強度データに対するフーリエ変換によって、所定範囲における深さプロファイル(Aスキャン信号)が取得される。例えば、Spectral-domain OCT(SD−OCT)、Swept-source OCT(SS−OCT)が挙げられる。また、Time-domain OCT(TD−OCT)であってもよい。 SD−OCTの場合、光源として低コヒーレント光源(広帯域光源)が用いられ、検出器には、干渉光を各周波数成分(各波長成分)に分光する分光光学系(スペクトルメータ)が設けられる。スペクトルメータは、例えば、回折格子とラインセンサからなる。
【0025】
例えば、SS−OCTの場合、光源として出射波長を時間的に高速で変化させる波長走査型光源(波長可変光源)が用いられ、検出器として、例えば、単一の受光素子が設けられる。光源は、例えば、光源、ファイバーリング共振器、及び波長選択フィルタによって構成される。そして、波長選択フィルタとして、例えば、回折格子とポリゴンミラーの組み合わせ、ファブリー・ペローエタロンを用いたものが挙げられる。なお、眼科用光断層干渉計の構成については、特開2012−213634号公報、特開2008−29467号公報などを参照されたし。
【0026】
なお、断層像撮像光学系270bを用いて、患者眼Eの正面像IMGfを撮像してもよい(例えば、特開2011−215134号公報を参照されたし)。この場合、顕微鏡部200が、正面像撮像光学系270aを備えなくてもよい。なお、断層像撮像光学系270bの構成は、例示したOCTの形態に限らない。眼内レンズ挿入システム1が、患者眼Eの断層像IMGt(静止画または動画)を撮像できればよい。一例として、シャインプルークの原理を用いた光学系で、正面像IMGfとは異なる方向から、患者眼E、眼内レンズ2、または眼内レンズ挿入デバイス100を観察してもよい。
【0027】
<視野内表示系>
本実施形態の視野内表示系280は、手術に関連する情報を、顕微鏡205の視野内に表示するために設けられている。本実施形態の視野内表示系280は、表示部282、投影レンズ(投影レンズ系)284、およびハーフミラー286を有する。表示部282として、例えば、LCD,有機EL(OLED)、液晶プロジェクターなどの表示デバイスを用いてもよい。本実施形態のハーフミラー286は、光路PL上に配置されて、可視光源277によって照明された患者眼Eからの反射光と、表示部282からの投影光とを合成する。本実施形態では、表示部282にLCDを用いており、制御装置300が、表示部282の表示内容を制御する。なお、正面像IMGfおよび断層像IMGtを、表示部282に表示してもよい。
【0028】
<制御装置>
次いで
図1に戻り、本実施形態の制御装置300を説明する。本実施形態の制御装置300は、眼内レンズ挿入システム1の動作を制御する。本実施形態の制御装置300は、CPU361(プロセッサ)、ROM362、RAM363、および不揮発性メモリ364を備える。本実施形態のCPU361は、眼内レンズ挿入システム1における各部の制御を司る。制御装置300またはCPU361を、コンピュータと呼んでもよい。本実施形態のROM362には、各種プログラム、初期値等が記憶されている。RAM363は、各種情報を一時的に記憶する。本実施形態の不揮発性メモリ364は、電源の供給が遮断されても記憶内容を保持できる非一過性の記憶媒体である。つまり、ROM362、RAM363、または不揮発性メモリ364は、コンピュータが用いるデータを記憶する記憶手段である。
【0029】
例えば、制御装置300へ着脱可能に装着されるUSBメモリ、制御装置300に内蔵されたフラッシュROM等を、不揮発性メモリ364として使用してもよい。例えば、USBメモリを、コンピュータ(CPU361)で読み取り可能な記憶媒体としてもよい。この場合、USBメモリは、眼内レンズ挿入デバイス100の制御方法を、CPU361(コンピュータ)に実行させるためのプログラムを記憶する。
【0030】
本実施形態の制御装置300には、顕微鏡駆動部290、赤外光源276、可視光源277、OCTユニット250、受光素子274、表示部282、メモリ302、操作部304、外部ディスプレイ306、フットペダル307、眼内レンズ挿入デバイス100等が接続されている。操作部304は、手動にて操作される。術者は、操作部304を用いて、例えば、眼内レンズ挿入デバイス100の動作条件を設定できる。フットペダル307は、例えば、眼内レンズ2の挿入開始のトリガ用として、術者が操作する。本実施形態の制御装置300は、OCTユニット250の出力信号を元に断層像IMGtを得て、受光素子274の出力信号を元に正面像IMGfを得る。つまり、本実施形態の制御装置300は、駆動部125を用いて押された眼内レンズ2の観察像(正面像IMGfまたは断層像IMGt)を入力するためのインタフェースを有している。
【0031】
本実施形態の制御装置300は、正面像撮像光学系270aを用いて取得した正面像IMGf、断層像撮像光学系270bを用いて取得した断層像IMGt、および他の手術関連情報の、少なくともいずれかを外部ディスプレイ306の画面上に表示する。他の手術関連情報として、眼内レンズ挿入デバイス100の設定などが考えられる。
【0032】
本実施形態の制御装置300は、顕微鏡部200から取得(入力)した観察像(正面像IMGfまたは断層像IMGt)を解析して、押出手段(プランジャー121)によって押し出されている最中の、軟性の眼内レンズ2の形状を検知する。そして、制御装置300は、検知した眼内レンズ2の形状を考慮して、駆動部125の制御に用いる駆動パラメータを決定する。
【0033】
換言するなら、本実施形態の制御装置300は、眼内レンズ2の観察像(正面像IMGfまたは断層像IMGt)を入力するための第1インタフェースと、駆動部125(駆動手段)を制御するための第2インタフェースと、観察像を用いて、押し出し中の眼内レンズ2の形状を検知するのと共に、検知した眼内レンズ2の形状を考慮して、駆動部125の制御に用いるパラメータを決定する決定手段と、を含む。
【0034】
本実施形態の眼内レンズ挿入デバイス100は、駆動部125の動力源として、ステッピングモーターを用いている。制御装置300は、検知した眼内レンズ2の形状を考慮して、駆動部125のステッピングモーターの制御信号を決定する。これによって、本実施形態の制御装置300は、駆動部125の動力によって駆動されるプランジャー121の、押し出し速度(ON(動作)/OFF(停止)を含む)を決定する。
【0035】
本実施形態の制御装置300は、観察像(正面像IMGfまたは断層像IMGt)を、画像処理を用いて解析する。本実施形態の制御装置300は、眼内レンズ2の形状を解析するために、画像処理を用いる。画像処理として、例えば、パターンマッチング、2値化、エッジ検出等を用いてもよい。パターンマッチングに用いるテンプレートデータを、ROM362または不揮発性メモリ364等に記憶してもよい。
【0036】
本実施形態の制御装置300は、眼内レンズ2の形状解析として、変形機構によって変形された眼内レンズ2の、長手方向(押出軸Aに平行な方向)の長さ、変形機構によって変形された眼内レンズ2の、幅方向(押出軸Aに直交する方向)の長さ、支持部4(前方支持部4aまたは後方支持部4b)の形状(一例として、支持部4の先端部が向く方向)等を解析する。
【0037】
このように、本実施形態の制御装置300は、眼内レンズ2の形状を考慮して、駆動部125の制御に用いる駆動パラメータを決定する。これによって、例えば、押し出し中の眼内レンズ2の損傷を抑制できる。また、眼内レンズ挿入デバイス100が、患者眼Eの眼内へ眼内レンズ2を射出した後の、術者の、眼内レンズ2を眼内に設置するための作業を低減できる。例えば、眼内レンズ2の挿入に不慣れな術者であっても、速やか、且つ、より安全に、眼内レンズ2を患者眼Eの眼内へ挿入できる。
【0038】
なお、例えば、眼内レンズ挿入デバイス100が、他の手術装置(白内障手術装置または白内障硝子体手術装置)に接続されていてもよい。例えば、顕微鏡部200は、観察像(正面像IMGfまたは断層像IMGt)を出力する。白内障手術装置に含まれる制御部は、観察像を入力するのと共に、観察像を解析して、検知した眼内レンズ2の形状を考慮して、眼内レンズ2の押し出しに用いる駆動手段の駆動パラメータを決定してもよい。この場合、手術装置が制御装置300として機能する。また、観察像をPC(パーソナルコンピュータ)へ入力させて、PCに含まれるコンピュータが、観察像を解析するのと共に、駆動パラメータを決定して、PCから駆動パラメータを出力してもよい。この場合、PCが制御装置300として機能する。また、制御部を内蔵した眼内レンズ挿入デバイス100が制御装置300として機能してもよい。
【0039】
なお、制御装置300が、眼内レンズ2の形状の検知を、正面像IMGfのみを用いて行ってもよい。正面像IMGfのみとすることで、例えば、眼内レンズ挿入システム1の構成を簡素化できる。また、制御装置300が、眼内レンズ2の形状の検知に、断層像IMGtを用いることで、制御装置300は、患者眼Eの眼内に入り込む眼内レンズ挿入デバイス100の一部、または眼内レンズ2の形状を、好適に検知できる。本実施形態では、断層像IMGtの取得に、OCTを用いており、眼内レンズ挿入システム1の光学系の構成を簡素化できる。なお、制御装置300が、断層像IMGtのみを用いて、眼内レンズ2の形状を検知してもよい。このような場合、異なる光学系で、正面像IMGfと断層像IMGtとを取得するよりも、眼内レンズ挿入システム1の構成を簡素化できる。
【0040】
<挿入器具部>
次いで、
図4,
図5を用いて、本実施形態の眼内レンズ挿入デバイス100を説明する。
図4(a)は、本実施形態の眼内レンズ挿入デバイス100を斜め上方からみた外観斜視図である。
図4(b)は、本実施形態の眼内レンズ挿入デバイス100の内部構成を説明するための概略構成図である。本実施形態の眼内レンズ挿入デバイス100は、患者眼Eの眼外から眼内へと、眼内レンズ2を移動する。換言するなら、本実施形態の眼内レンズ挿入デバイス100は、眼内レンズ2の挿入手段である。
【0041】
本実施形態の眼内レンズ挿入デバイス100は、カードリッジ部101およびハンドピース部102を備える。本実施形態のカードリッジ部101は、ハンドピース部102に着脱可能である。本実施形態では、眼内レンズ2を患者眼Eへ挿入する際には、術者が、カードリッジ部101を、ハンドピース部102に装着する。
【0042】
本実施形態のカードリッジ部101は、少なくとも一部が、患者眼Eの強膜(または角膜)に形成された切開創に挿入される。本実施形態のカードリッジ部101は、眼内レンズ2を変形する変形機構を有する(詳細は後述する)。本実施形態のハンドピース部102は、患者眼Eの眼外から眼内へと眼内レンズ2を移動するための動力手段を有する。
【0043】
本実施形態の眼内レンズ挿入デバイス100は、カードリッジ部101を交換して使用する。本実施形態のカードリッジ部101は、いわゆるディスポーザブルタイプ(使い捨て態様)である。使い終わったカードリッジ部101は、例えば、使用者(術者,介助者)が廃棄する。つまり、本実施形態の眼内レンズ挿入デバイス100は、患者眼E毎に、新品のカードリッジ部101を使用する。本実施形態のカードリッジ部101には、眼内レンズ2が予め充填されている。術者は、患者眼Eの眼特性に対応した眼内レンズ2が充填されたカードリッジ部101を選択して、選択したカードリッジ部101を、ハンドピース部102に装着する。なお、使用現場で、眼内レンズ2を眼内レンズ挿入デバイス100に充填してもよい。
【0044】
本実施形態の眼内レンズ挿入デバイス100は、ケーブル103を介して、制御装置300に接続されている。本実施形態では、眼内レンズ挿入デバイス100が眼内レンズ2を移動するための動力は、ケーブル103を介して、制御装置300から供給される。なお、眼内レンズ挿入デバイス100が、バッテリーを備えてもよい。また、制御装置300と眼内レンズ挿入デバイス100とを無線で接続してもよい。
【0045】
<眼内レンズ>
図5を併用して、本実施形態の眼内レンズ挿入システム1が射出する、眼内レンズ2について説明する。本実施形態の眼内レンズ2は、一例として、光学部3および支持部4を備える。本実施形態では、光学部3と支持部4とが一体成形されている(ワンピース眼内レンズと呼ばれることがある)。本実施形態2の眼内レンズ2は、軟性眼内レンズである。眼内レンズ2を形成する材料として、例えば、HEMA(ヒドロキシエチルメタクリエート)等の単体、アクリル酸エステルとメタクリル酸エステルの複合材料、等の従来折り曲げ可能(または湾曲可能)な軟性の眼内レンズに用いられている材料を使用してもよい。
【0046】
本実施形態の光学部3は、患者眼Eに所定の屈折力を与える。本実施形態では、光学部3を眼内で支持するために、光学部3の周辺部には、支持部4が接続されている。本実施形態の眼内レンズ2は、一対の支持部4(前方支持部4a,後方支持部4b)を備えている。本実施形態では、眼内レンズ2を載置面113c(後述する)へ載置した際に、光学部3からノズル部131の方向に向けられる支持部4を前方支持部4aと称し、プランジャー121の方向に向けられる支持部4を後方支持部4bと称する。
【0047】
各々の支持部4は、光学部3の周辺部(光学部側面3c)から、外側へ伸びる。本実施形態の支持部4は、周方向に湾曲したループ形状とされている。支持部4の先端は、自由端とされている(オープンループ型の支持部と呼ばれることがある)。一対の支持部4は、光学部3の中心(光軸)に対して対照形状であり、同じ周方向へ伸びている。本実施形態の眼内レンズ2の光学部3は、前面光学面3a、後面光学面3b、および光学部側面3cを備える。本実施形態の眼内レンズ2は、一例として、前面光学面3aと後面光学面3bとが、異なる屈折力を有している。本実施形態の前面光学面3aは、眼内で角膜側に向けられ、後面光学面3bは、眼内で網膜側に向けられる。本実施形態の光学部側面3cは、前面光学面3aと後面光学面3bとを繋ぐ。
【0048】
なお、眼内レンズの態様はこれに限るものではない。例えば、スリーピース型と呼ばれる眼内レンズを用いてもよい。スリーピース型の眼内レンズは、例えば、光学部と支持部が別部材(別材料)で形成されている。スリーピース型の眼内レンズの支持部は、例えば、髭状である。また、プレート型と呼ばれる眼内レンズを用いてもよい。プレート型の眼内レンズの支持部は、例えば、板状である。また、支持部を有さない眼内レンズを用いてもよい。
【0049】
<カードリッジ部>
図4に戻り、本実施形態のカードリッジ部101を説明する。本実施形態のカードリッジ部101は、樹脂材料を用いた射出成形で形成されている。本実施形態のカードリッジ部101は、筒状である。本実施形態のカードリッジ部101は、基端から先端まで、中空部140が連通している(
図5参照)。本実施形態のカードリッジ部101は、挿入部111および載置部113を備えている。本実施形態のカードリッジ部101は、半透明である。つまり、光を通過できる。これによって、顕微鏡部200の撮像手段(正面像撮像光学系270a,断層像撮像光学系270b)は、カードリッジ部101の内部に収容されている眼内レンズ2の形状を、カードリッジ部101の外部から観察(撮像)できる。
【0050】
本実施形態の挿入部111は、先端部分が、患者眼Eの角膜に形成された切開創に挿入される。本実施形態の挿入部111は、ノズル部131および先細り部132を備える。本実施形態のノズル部131は、両端に開口部が形成された中空の円柱形状である。本実施形態のノズル部131は、先端に、ベベル131aが形成されている。本実施形態のベベル131aは、押出軸Aに直交する面に対して、傾斜した端面を有する。
図4(a)を用いてベベル131aの端面が向く向きを説明するならば、端面は、押出軸Aに直交する面に対して、左方向に傾斜している。本実施形態の眼内レンズ挿入デバイス100は、ベベル131aの端面を患者眼Eの網膜に向けて、眼内レンズ2を射出する。
【0051】
ノズル部131の基端には、先細り部132が接続されている。本実施形態の先細り部132は、筒形状である。先細り部132の内腔形状は、先端に向かって先細る。本実施形態では、先細りの内腔形状によって、眼内レンズ2が小さく折り畳まれる。本実施形態では、前面光学面3aが谷折りされる。先細り部132の基端には、載置部113が接続される。プランジャー121(後述する)によって押される前の眼内レンズ2は、載置部113に配置(セット)されている。本実施形態の載置部113は、載置部本体113a、セット蓋113b、および載置面113cを備える。
【0052】
セット蓋113bは、載置部本体113aに対して回動できる。セット蓋113bが閉じられると、載置部113には、筒状の内腔空間(中空部140)が形成される。本実施形態のカードリッジ部101は、セット蓋113bを開いて、眼内レンズ2を充填する。詳細には、使用者または製造者は、セット蓋113bを一時的に開いて、載置面113cに眼内レンズ2を載置する。セット蓋113bが閉じられると、充填された眼内レンズ2は、係止機構によって、載置部113の内部で係止される。使用現場では、セット蓋113bを閉じた状態で、眼内レンズ2が射出される。
【0053】
<ハンドピース部>
本実施形態のハンドピース部102の筐体は、金属で形成されている。本実施形態のハンドピース部102は、眼内レンズ2を移動するための動力手段を有する。動力手段によって、眼内レンズ2は、患者眼Eの眼外から眼内へと移動する。本実施形態のハンドピース部102は、プランジャー121、動力変換部123、および駆動部125を備える。本実施形態のプランジャー121は、眼内レンズ2に接触して、眼内レンズ2を押す。本実施形態のプランジャー121は、棒状部材である。本実施形態のプランジャー121は、先端部121aおよびベース部121bを備える。プランジャー121の先端には、先端部121aが設けられている。本実施形態の先端部121aは、眼内レンズ2に接触して、眼内レンズ2を押す。
【0054】
先端部121aの基端側には、ベース部121bが接続されている。ベース部121bの基端側には、動力変換部123が接続されている。本実施形態のプランジャー121は、駆動部125が発生する動力によって、押出軸Aに沿って移動する。本実施形態のプランジャー121は、制御装置300からの制御信号によって、押出軸Aの先端方向への移動(前進)、または押出軸Aの基端方向への移動(後退)ができる。
【0055】
本実施形態の動力変換部123は、変換機構を有する。本実施形態の変換機構は、ステッピングモーター(詳細は後述する)が発生する回転運動を、直進運動(押出軸Aと平行な方向)に変換する。プランジャー121は、動力変換部123の変換機構に接続されている。動力変換部123の基端側には、駆動部125が接続されている。本実施形態では、駆動部125として、ステッピングモーターを用いている。ステッピングモーターの回転軸は、駆動部125の変換機構に接続されている。駆動部125と制御装置300とは、ケーブル103を介して接続されている。本実施形態のケーブル103は、軟性の眼内レンズ2を押し出すための駆動部125を制御するためのインタフェースとして用いられている。
【0056】
本実施形態の制御装置300は、ステッピングモーターの軸の回転方向、ステッピングモーターの軸の回転角度、およびステッピングモーターの軸の回転量を、制御可能である。これによって、制御装置300は、先端部121aの進行位置(押出軸A上)を、検知できる。また、本実施形態の制御装置300は、ステッピングモーターが消費する電流量を検知できる。本実施形態の制御装置300は、ステッピングモーターが消費する電流量の変化を解析して、プランジャー121の移動負荷を検知できる。換言するなら、本実施形態の制御装置300は、プランジャー121の移動負荷を検知することで、移動中(または静止中)の眼内レンズ2が受けている負荷(応力等)を検知できる。例えば、カードリッジ部101に注入される粘弾性物質、眼内レンズ2と中空部140を形成する内壁との摩擦力等によって、押し出し中の眼内レンズ2は、応力を受ける。
【0057】
<眼内レンズの射出準備>
図5〜10を併用して、本実施形態の眼内レンズ挿入システム1を用いた、眼内レンズ挿入手術の手順(一例)を説明する。
図5(a)〜(e)は、
図4のI−I断面図であり、説明用として、カードリッジ部101の筐体部分のみを断面化した部分断面図としている。眼内レンズ2の射出時の説明として、術者の操作により、制御装置300がプランジャー121を、
図5(a)、
図5(b)、
図5(c)、
図5(d)、
図5(e)の順で進めるものとして説明する。なお、
図10の横軸は、眼内レンズ2の進行位置を示している。
図10の横軸に記されているa〜eは、
図5の(a)〜(e)の各々の眼内レンズの位置に対応する。また、
図10の縦軸は、眼内レンズの押出速度を示している。
図10の縦軸の数値は、速度SPD3を値1.0とした相対値である。
【0058】
術者は、患者眼Eを手術位置に配置するため、手術台の上に患者を仰向けで寝かせる。術者は、左手で眼内レンズ挿入デバイス100を持つ。このとき、眼内レンズ挿入デバイス100には、カードリッジ部101が装着されていない。術者は、右手で操作部304を操作して、眼内レンズ2の挿入モードを選択する。また、術者は、使用するカードリッジ部101の種類(型番等)を入力する。挿入モードが選択されると、制御装置300は、プランジャー121を、初期位置(
図5(a)の位置)まで後退させる。
【0059】
術者は、プランジャー121が初期位置まで後退されたことを確認して、カードリッジ部101を、ハンドピース部102に装着する(
図5(a)状態)。なお、術者は、患者眼Eの視度に対応した眼内レンズ2が充填されているカードリッジ部101を、ハンドピース部102に装着する。続けて、術者は、シリンジ等を用いて、カードリッジ部101の中空部140に、粘弾性物質(滑動剤)を注入する。
【0060】
続けて、術者は、眼内レンズ2を待機位置(
図5(c)の位置)まで進めるために、フットペダル307を第1段階(第1傾斜角度)まで踏み込む。制御装置300は、フットペダル307が踏まれたことを検出すると、眼内レンズ2が待機位置に到達するまで、プランジャー121を、所定速度で進行させる(
図8のステップS101,ステップS103参照)。このとき、本実施形態の制御装置300は、眼内レンズ2が先細り部132に侵入するまでは、眼内レンズ2を速度SPD1で押し出す(
図10の区間a〜bを参照)。なお、本実施形態の制御装置300は、プランジャー121の移動量(前進量)を検知する。検知したプランジャー121の移動量から、眼内レンズ2の進行位置を推測する。なお、制御装置300が、正面像IMGfまたは断層像IMGtを解析して、眼内レンズ2の進行位置を検知してもよい。
【0061】
眼内レンズ2が先細り部132へ侵入するまでの間に、プランジャー121に接触した後方支持部4bは、根元部分を支点として、折り曲がる。折り曲がった後方支持部4bの先端部分は、押出軸Aの先端方向を向く。つまり、後方支持部4bが、光学部3上にタッキングされた状態となる。本実施形態では、後方支持部4bがタッキングされると、後方支持部4bの先端部分は、前面光学面3aに面した状態となる。なお、後述するように、前方支持部4aも、先細り部132で、同じ光学面(前面光学面3a)にタッキングされる。
【0062】
後方支持部4bをタッキングした状態で、プランジャー121は光学部3に接触する。プランジャー121は、眼内レンズ2全体を押出軸Aの先端方向へ移動させてゆく。眼内レンズ2全体が先細り部132に侵入すると、光学部3は、押出軸Aの基端方向からみて、湾曲形状に変形してゆく(
図5(b)参照)。また、前方支持部4aの先端部分は、光学部3へ近づくように変形してゆく。本実施形態の制御装置300は、眼内レンズ2を先細り部132に侵入させると、眼内レンズ2の押出速度を、一旦、速度SPD2まで上げて、その後、速度SPD3まで下げつつ、眼内レンズ2を待機位置に達せさせる(
図10の区間a〜cを参照)。このとき、眼内レンズ2の押出速度の関係は、速度SPD1<速度SPD2の関係とされる。また、速度SPD2>速度SPD3の関係とされる。本実施形態の制御装置300は、眼内レンズ2が先細り部に侵入した際に、押出速度を上げることで、眼内レンズ2の変形量が大きい先細り部132での、眼内レンズ2の意図しない変形を抑制する。詳細には、制御装置300は、SPD2まで押出速度を上げることで、先細り形状による応力(摩擦力または反発力等)を、より高めて、支持部4(前方支持部4a)を光学部3に近づける。これによって、例えば、支持部4のタッキング不良(支持部4が光学部3上に載らない等)を抑制する。また、本実施形態の制御装置300は、速度SPD2から速度SPD3へと下げることで、支持部4をタッキングした後の、眼内レンズ2にかかる応力の急激な変化を抑制している。換言するなら、眼内レンズ2の意図せぬ変形を抑制している。
【0063】
プランジャー121が、押出軸Aの先端方向へ進むほど、眼内レンズ2は、小さく折り畳まれてゆく。眼内レンズ2が待機位置に達すると、制御装置300は、プランジャー121の移動(前進)を停止する(
図5(c)参照)。待機位置に達した眼内レンズ2は、前方支持部4aおよび後方支持部4bが、光学部3上にタッキングされた状態であり、且つ、光学部3全体が小さく折り畳まれている(
図5(c)参照)。換言するなら、本実施形態のカードリッジ部101は、前方支持部4aおよび後方支持部4bを抱え込むように、光学部3全体を変形する。
【0064】
前述したように、制御装置300は、駆動部125への制御信号を用いて、プランジャー121の進行位置を、逐次検知している。また、制御装置300は、駆動部125への制御信号を用いて、プランジャー121の移動負荷を逐次検知している。制御装置300は、眼内レンズ2が初期位置(
図5(a)参照)から待機位置(
図5(c)参照)へ移動するまでの間に、プランジャー121の移動負荷が所定量を超えたことを検知すると、プランジャー121の進行(駆動)を止めて、ブザーから報知音を鳴らす。このとき、制御装置300は、異常状態を検知したことを示すメッセージを、外部ディスプレイ306に表示する。プランジャー121の移動負荷が所定量よりも少ない場合に、制御装置300が、異常状態と判断してもよい。
【0065】
眼内レンズ2が待機位置まで達すると、術者は、対物レンズ210の焦点位置に、カードリッジ部101を配置する。制御装置300は、正面像撮像光学系270aを用いて、カードリッジ部101が映りこんだ正面像IMGfを取得する(
図8のステップS102参照)。制御装置300は、取得した正面像IMGfを、外部ディスプレイ306に表示する。制御装置300が、外部ディスプレイ306に表示される正面像IMGfを、逐次更新(動画で表示)してもよい。
【0066】
制御装置300は、取得した正面像IMGfから、眼内レンズ2の形状(輪郭形状等)を、画像処理を用いて検出する。制御装置300は、検出した眼内レンズ2の形状を判定する。制御装置300は、眼内レンズ2が許容形状と判定すると、外部ディスプレイ306に、対応するメッセージ(例えば「射出可能」)を表示する。制御装置300は、眼内レンズ2が許容できない形状と判定すると、外部ディスプレイ306に、対応するメッセージ(例えば、カードリッジ部101の交換を促す警告)を表示する(
図8のステップS105参照)。
【0067】
眼内レンズ2を許容できない形状として判定した場合、制御装置300が、カードリッジ部101の交換方法を、外部ディスプレイ306に表示してもよい。眼内レンズ2の形状を、許容できない形状として判定した場合、制御装置300は、プランジャー121を初期位置まで後退する。術者は、外部ディスプレイ306に表示されたメッセージを参照して、カードリッジ部101を交換する。その後、先に説明した作業を再び行い、待機位置まで眼内レンズ2を進める。
【0068】
以上説明した内容を換言すると、本実施形態の制御装置300は、待機位置に達した眼内レンズ2の形状を解析して、眼内レンズ2を引き続き押し出して良いか否かを判定する。つまり、本実施形態の制御装置300は、観察像を用いて眼内レンズ2の形状を検知するのと共に、検知結果を用いて駆動部125の駆動パラメータを決定する決定手段である。なお、制御装置300が、検知結果を入力して、駆動部125の駆動パラメータを決定してもよい。眼内レンズ2の形状が許容できない場合、制御装置300は、プランジャー121の前進を禁止する。つまり、本実施形態の制御装置300は、眼内レンズ2の形状を考慮して、眼内レンズ2の押し出しに用いる駆動パラメータを決定する。
【0069】
図6は、制御装置300が判定する、眼内レンズ2の形状の一例である。
図6(a)〜(c)は、待機位置に達した眼内レンズ2の形状を示している。
図6(a)は、本実施形態の制御装置300が許容形状と判定する、眼内レンズ2の形状(変形形状)の例である。
図6(b)および
図6(c)は、本実施形態の制御装置300が許容できない形状と判定する、眼内レンズ2の形状(変形形状)の例である。
【0070】
図6(a)で例示する、待機位置に達した眼内レンズ2の形状は、前方支持部4aの先端部分、および後方支持部4bの先端部分が、光学部3上(光学部3の輪郭の内側)に配置されている。換言するなら、前方支持部4aおよび後方支持部4bが、光学部3上にタッキングされている。
【0071】
一方、
図6(b)で例示する、待機位置に達した眼内レンズ2の形状は、前方支持部4aの先端部が、押出軸Aの先端方向(紙面左方向)へ伸びている。換言するなら、
図6(b)の眼内レンズ2は、前方支持部4aのタッキングが行われていない。また、
図6(b)で例示する眼内レンズ2の形状は、前方支持部4aの先端部が、ノズル部131の先端から飛び出している。(領域ER1内の眼内レンズ2の形状を、
図6(a)の形状と比較されたし)
【0072】
図6(c)で例示する、待機位置に達した眼内レンズ2の形状は、後方支持部4bの先端部が、押出軸Aの基端方向(紙面右方向)へ向いている。換言するなら、
図6(c)の眼内レンズ2は、後方支持部4bのタッキングが行われていない。また、
図6(c)で例示する眼内レンズ2の形状は、後方支持部4bがS字形状に曲がっている。(領域ER2内の眼内レンズ2の形状を、
図6(a)の形状と比較されたし)
【0073】
本実施形態の制御装置300は、画像処理を用いて、眼内レンズ2の形状を検知する。例えば、画像処理として、パターンマッチング、2値化、エッジ検出等を用いてもよい。パターンマッチングに用いるテンプレートデータを、記憶手段(ROM362または不揮発性メモリ364)に記憶しておいてもよい。なお、眼内レンズ2の一部が映り込んだ観察像(正面像IMGfまたは断層像IMGt)を用いて、眼内レンズ2の形状を検知してもよい。
【0074】
制御装置300は、正面像IMGfから検知した眼内レンズ2の大きさが、所定の大きさに収まっているか否かによって、眼内レンズ2の形状を判定してもよい。例えば、押出軸Aの方向に延伸した眼内レンズ2の長さが、許容範囲内か否かで判定してもよい(
図6の、符号Daの箇所の長さと符号Dbの箇所の長さを比較されたし)。または、例えば、制御装置300は、押出軸Aに直交する方向の長さによって、眼内レンズ2の形状を判定してもよい(
図6の、符号Haの箇所の長さと符号Hbの箇所の長さを比較されたし)。
【0075】
なお、本実施形態では、待機位置で静止している眼内レンズを撮像するが、プランジャー121で押し出されている最中(動いている状態)の眼内レンズ2を撮像して、眼内レンズ2の形状を判定してもよい。また、待機位置に移動する途中の眼内レンズ2を撮像してもよい。後ほど
図9を用いて説明するように、眼内レンズ2の形状を考慮して、眼内レンズ2の押し出しに用いる駆動パラメータ(例えば押し出し速度)を変更してもよい。
【0076】
<眼内レンズの射出>
引続き、
図5〜10を併用して、眼内レンズ2の射出を説明する。術者は、顕微鏡205を覗く。続けて、術者は、患者眼Eの切開創に挿入部111を挿入する。続けて、術者は、ベベル131aの端面が網膜を向くように、眼内レンズ挿入デバイス100の向きを操作する。続けて、術者は、フットペダル307を第2段階(第2傾斜角度)まで踏み込む。制御装置300は、フットペダル307が第2段階まで踏まれたことを検知すると、待機位置付近で停止していたプランジャー121を、押出軸Aの先端方向へ進行(前進)させる。
【0077】
プランジャー121の前進が再開すると、眼内レンズ2は、先細り部132で更に小さく折り畳まれる。プランジャー121が更に進むと、眼内レンズ2は、ノズル部131に侵入して、ノズル部131の先端から、眼内レンズ2が徐々に飛び出し始める(
図5(d)参照)。ノズル部131から飛び出した眼内レンズ2は、その形状が徐々に復元してゆく。このとき、本実施形態の制御装置300は、待機位置からノズル部131へと眼内レンズ2を移動させる際に、眼内レンズ2の押出速度を、速度SPD3一定で進める(
図10の区間c〜dを参照)。眼内レンズ2を低速で押し進めることで、眼内レンズ2を小さく圧縮(押出軸Aに直交する断面積を小さくする)する際の、眼内レンズ2にかかる応力を、低減させている。なお、
図10の位置dでは、眼内レンズ2は、ノズル部131から半分飛び出した状態である。
【0078】
プランジャー121が更に進むと、ノズル部131から飛び出した前方支持部4aおよび光学部3は、後方支持部4bの根元部分を支点として徐々に復元してゆく。復元した前面光学面3aは、患者眼Eの角膜を向く。復元した眼内レンズ2の後面光学面3bは、患者眼Eの網膜を向く。プランジャー121が更に進むと、眼内レンズ2は、挿入部111から完全に射出される(
図5(e)参照)。本実施形態のプランジャー121は、その先端部分がノズル部131から飛び出しても前進して、飛び出し量が所定量に達すると前進を停止する。
【0079】
本実施形態の制御装置300は、ノズル部131から眼内レンズ2を飛び出した直後に、一旦、速度SPD4まで加速させる。速度SPD4まで達せさせたら、速度SPD4から減速させてゆく(
図10の区間d〜eを参照)。眼内レンズの移動速度は、速度SPD3<速度SPD4の関係となる。なお、速度SPD3<速度SPD1<速度SPD4<速度SPD2の関係である。例えば、眼内レンズ2の移動速度(排出速度)を上げることで、眼内レンズ挿入デバイス100から射出された眼内レンズ2が水晶体嚢に設置されるまでに、眼内レンズ2の全部または大部分が復元してしまう事象を抑制できる。これによって、眼内レンズ挿入デバイス100が眼内レンズ2を眼内に排出した後に、患者眼の前房で復元してしまった眼内レンズ2を、術者が、水晶体嚢に設置する作業を抑制できる。また、速度SPD4まで上げた後に減速することで、例えば、眼内レンズ2およびプランジャー121の少なくともいずれかが水晶体嚢を押して、水晶体嚢が損傷させてしまう可能性を抑制している。
【0080】
なお、制御装置300が、速度SPD3および速度SPD4の少なくともいずれかを変化させてもよい。例えば、制御装置300が、断層像IMGtを解析して、眼内レンズ2の速度SPD4を調節してもよい。詳細には、制御装置300は、断層像IMGtを解析して、眼内レンズ2と水晶体後嚢の距離を検知する(
図7参照)。制御装置300は、眼内レンズ2と水晶体後嚢の距離に応じて、速度SPD4を変更する。例えば、制御装置300は、眼内レンズ2と水晶体後嚢の距離が所定値よりも近いときには、眼内レンズ2の移動速度を、速度SPD4を遅くする。これによって、例えば、眼内レンズ2が水晶体嚢を押して、水晶体嚢が損傷する可能性を抑制できる。なお、所定値を、予め記憶手段(不揮発性メモリ364等)に記憶しておく。また、例えば、制御装置300は、眼内レンズ2と水晶体後嚢の距離が所定値よりも遠いときには、眼内レンズ2の移動速度を、速度SPD4よりも速くする。これによって、例えば、眼内レンズ2が水晶体嚢内に達するまでに、意図している以上に復元してしまう事象を抑制できる。
【0081】
本実施形態の制御装置300は、眼内レンズ2が、眼内レンズ挿入デバイス100から射出される際の、眼内レンズ2の変形状態を検知する。詳細には、制御装置300は、断層像撮像光学系270bが取得する断層像IMGtを用いて、眼内レンズ2の形状を検知する。制御装置300は、プランジャー121が進行する過程の、断層像IMGtを取得する(
図9のステップS201参照)。制御装置300は、前述した正面像IMGfの解析と同様にして、眼内レンズ2の形状を検知する。
【0082】
なお、本実施形態の制御装置300は、正面像IMGfを用いて、断層像IMGtを取得する位置(断層面)を決定する。詳細には、制御装置300は、正面像IMGfを解析することで、眼内レンズ挿入デバイス100が向く方向を検知する。制御装置300は、断層像IMGtに押出軸Aが含まれるように、断層面を設定する(断層像撮像光学系270bの光スキャナを制御する)。
【0083】
制御装置300は、プランジャー121の進行位置、または断層像IMGtから、眼内レンズ2が、眼内レンズ挿入デバイス100から射出されたか否かを判定する(
図9のステップS202参照)。眼内レンズ2が射出されている場合、制御装置300は、外部ディスプレイ306に、射出完了を示すメッセージを表示する(
図9のステップS203参照)。眼内レンズ2が射出されていない場合、制御装置300は、眼内レンズ2の形状を判定する(
図9のステップS204,ステップS206参照)。
【0084】
制御装置300は、先ず、眼内レンズ2の形状が、許容形状か否かを判定する。かかる判定として、例えば、先に説明した
図6と同様の、眼内レンズ2の形状判定を行ってもよい。眼内レンズ2の形状が、許容できない形状である場合、制御装置300は、外部ディスプレイ306に、対応するメッセージを表示する(
図9のステップS205参照)。例えば、切開創に挿入している挿入部111を、術者に抜いてもらうためのメッセージを警告表示として表示する。眼内レンズ2の形状が許容できない形状である場合、制御装置300は、プランジャー121の進行(前進)を禁止する(駆動パラメータを決定する)。
【0085】
眼内レンズ2が許容できる形状である場合、制御装置300は、プランジャー121の進行位置と、眼内レンズ2の形状とを対比して、眼内レンズ2の形状復元の状況を判定する(
図9のステップS206参照)。記憶手段には、プランジャー121の進行位置と、該当する位置における眼内レンズ2の形状データとが関連付けられて記憶されている(テーブルデータの態様で記憶されている)。制御装置300は、テーブルデータを参照して、当該位置における眼内レンズ2の形状を判定する。テーブルデータは、実験、シミュレーション等を用いて、予め記憶手段(ROM362等)に記憶されている。
【0086】
眼内レンズ2の形状復元が早い場合、制御装置300は、プランジャー121を低速度で進行させる(
図9のステップS208参照)。詳細には、制御装置300は、駆動部125の駆動に用いる駆動パラメータを決定して、プランジャー121を低速度で進行させる。眼内レンズ2の形状復元が早くない場合、制御装置300は、プランジャー121を通常速度で進行させる(
図9のステップS207参照)。詳細には、制御装置300は、駆動部125の駆動に用いる駆動パラメータを決定して、プランジャー121を通常速度で進行させる。
【0087】
このようにして、制御装置300は、眼内レンズ2をプランジャー121で押し出しつつ、眼内レンズ2の形状を考慮して、眼内レンズ2の押し出し速度を逐次変更してゆく。これによって、眼内レンズ2の意図しない復元を抑制できる。プランジャー121の進行速度を変化させることで、折り曲げられた眼内レンズ2にかかる応力が変化しても、眼内レンズ2を好適な形状で射出できる。
【0088】
図7は、制御装置300が行う、眼内レンズ2の形状判定の変容例である。制御装置300は、画像処理を用いて、ノズル部131の先端から飛び出す眼内レンズ2の、射出方向を検知する。制御装置300は、検知した射出方向に応じて、プランジャー121の進行速度を決定する。
図7で符号S2および符号S3を付けた方向は、本実施形態の制御装置300が、許容外と判定する射出方向である。
【0089】
例えば、眼内レンズ2と中空部140を形成する内壁との摩擦力が局所的に増加すると、眼内レンズ2が意図しない方向(一例として、符号S2,符号S3の方向)に射出される可能性がある。制御装置300が、眼内レンズ2の射出方向を検知して、検知結果に基づいて眼内レンズ2の押し出し速度を調節することで、前述した摩擦力の偏りによる射出方向の不都合を抑制し易くなる。
【0090】
一方、符号S1で示す方向は、本実施形態の制御装置300が許容内と判定する、眼内レンズ2の射出方向である。眼内レンズ2の射出方向が許容外の場合、制御装置300は、プランジャー121の進行速度を変化させる。眼内レンズ2が、符号S1の方向に射出されることで、復元する眼内レンズ2は、患者眼Eの水晶体嚢に収まり易くなる。これによって、眼内レンズ挿入デバイス100が眼内レンズ2を射出した後の、術者の作業が低減される。
【0091】
以上説明したように、本実施形態の制御装置300は、眼内レンズ2の形状を検知して、検知した結果に基づいて、眼内レンズ2を押し出す駆動部を制御する。これによって、眼内レンズ挿入デバイス100の取り扱いに不慣れな術者でも、患者眼Eの眼内に、眼内レンズ2を速やかに挿入できる。なお、制御装置300は、眼内レンズ2にかかる応力(プランジャー121の進行負荷)を検知して、前述した眼内レンズ2の変形検知結果と組み合わせて、プランジャー121の進行制御を行ってもよい。
【0092】
なお、制御装置300が、観察像を用いて、眼内レンズ挿入デバイス100の挿入状態(挿入量,挿入角度等)を検知してもよい。例えば、制御装置300は、眼内レンズ挿入デバイス100の映り込んだ観察像(
図2,
図3参照)を解析する。制御装置300は、瞳孔の中心位置、切開創の位置、および眼内レンズ挿入デバイス100の輪郭を検出して、押出軸Aが向いている方向を推測する。そして制御装置300は、押出軸Aが許容方向を向いているか否かを判定する。例えば、制御装置300は、切開創と瞳孔中心とを結ぶ直線が伸びる方向と、押出軸Aの方向とが略一致するか否かを判定する。制御装置300は、判定結果に応じて、押出軸Aの方向を誘導するガイドを、外部ディスプレイ306に表示(観察像に重畳させる)する。
【0093】
また、
図11は、変容例として示す、外部ディスプレイ306への表示態様である。変容例では、制御装置300は、外部ディスプレイ306に、正面像IMGfと断層像IMGtを並べて表示する。この変容例では、制御装置300は、正面像IMGfと断層像IMGtを、動画で表示させる。制御装置300は、観察像(正面像IMGfまたは断層像IMGt)上に、ガイドG(ガイドGa〜Gd)を重畳させる。例えば、制御装置300は、観察像を解析して瞳孔の中心位置と切開創の中心位置とを検知する。制御装置300は、その線上に、瞳孔中心と切開創の中心位置とが位置するガイドGを表示する。制御装置300は、動画として表示させる観察像を、逐次解析して、ガイドGの表示を更新する。
【0094】
術者は、ガイドGaとガイドGcとに眼内レンズ挿入デバイス100の中心軸を合わせればよい。つまり、ガイドGaまたはガイドGcは、眼内レンズ挿入デバイス100の向き(換言するなら押出軸Aの方向)を誘導する誘導手段である。また術者は、ガイドGbとガイドGdとにノズル部131の先端を合わせればよい。つまり、ガイドGbとガイドGdは、患者眼Eへの眼内レンズ挿入デバイス100の挿入量を誘導する誘導手段である。なお、変容例のガイドGbとガイドGdは、ベベル131aの向きも誘導する。眼内レンズ挿入デバイス100の向き(押出軸Aの周方向)が好適な場合は、ガイドGb(ガイドGd)と、観察像に映り込むノズル部131の輪郭形状が合致する。
図11では、眼内レンズ挿入デバイス100が好適な向きであるため、ガイドGb(ガイドGd)の形状とノズル部131の形状とが合致している。つまり、ガイドGdは、眼内レンズ挿入デバイス100の向き(押出軸Aの周方向)を誘導する誘導手段である。
【0095】
なお、制御装置300が、観察像から眼内レンズ挿入デバイス100を検知して、不適当な位置でフットペダル307が踏み込まれた場合に警告(報知)を行ってもよい。制御装置300が、警告として、外部ディスプレイ306への警告メッセージの表示、ブザーを鳴らしてもよい。また、制御装置300が、ガイドGと眼内レンズ挿入デバイス100との位置関係(アライメント関係)を元に、眼内レンズ挿入デバイス100の位置合わせ状態を報知してもよい。例えば、制御装置300の報知方法として、ガイドGと眼内レンズ挿入デバイス100との近接状態に応じて、ガイドGの色を変化させてもよい。もしくは、例えば、制御装置300が、観察像を解析して、眼内レンズ挿入デバイス100のアライメント位置を誘導する音声メッセージを発せさせてもよい。
【0096】
ガイドGによって、術者は、眼内レンズ挿入デバイス100を好適な位置に配置して、眼内レンズ2を眼内に挿入(射出)できる。したがって、例えば、眼内レンズ挿入デバイス100の操作に不慣れな術者であっても、眼内レンズ2を好適に挿入できる。
【0097】
なお、眼内レンズ挿入システムがロボットアームを備え、制御装置300がロボットアームを制御してもよい。この場合、制御装置300が、前述した判定結果に基づいて、ロボットアームが把持する眼内レンズ挿入デバイス100を変位(患者眼Eとの相対位置、方向等)させてもよい。
【0098】
また、制御装置300が、ベベル131aの端面が向く方向を検知してもよい。例えば、制御装置300は、眼内レンズ挿入デバイス100が映り込む断層像IMGt(
図3参照)から、ベベル131aが向いている方向を画像処理で検知する。例えば、ベベル131aの端面が眼底方向を向いていない場合には、制御装置300は、ベベル131aの端面が向く方向を誘導するガイドを断層像IMGtに重ねて、外部ディスプレイ306に表示する。
【0099】
<作用および効果>
本実施形態の眼内レンズ挿入システム1は、駆動部を有しており、駆動部を用いて軟性の眼内レンズ2を押し出す押出手段と、押出手段によって押された眼内レンズ2の観察像を取得する観察手段と、観察像に基づいて駆動部の駆動パラメータを決定する決定手段とを備えている。これによって、眼内レンズ2を好適に押し出すことができる。例えば、眼内レンズ挿入デバイス100の一部または全体、もしくは眼内レンズ2の一部または全体を観察して、駆動部の駆動パラメータを決定することで、眼内レンズ2の意図しない押し出しを抑制できる。例えば、意図しない形状のまま、眼内レンズ2を患者眼Eの眼内へ射出してしまう事象を抑制できる。なお、決定手段が、観察像を用いて眼内レンズ2の形状を検知するのと共に、検知結果を用いて駆動部の駆動パラメータを決定してもよい。これによって、例えば、意図しない形状のまま、眼内レンズ2を患者眼Eの眼内へ射出してしまう事象を、より抑制できる。
【0100】
また、本実施形態の眼内レンズ挿入システムに用いる眼内レンズ2は、光学部3と、患者眼Eの眼内で光学部3を支持する支持部4とを有しており、決定手段は、少なくとも支持部4の形状を考慮して、駆動パラメータを決定する。これによって、眼内レンズ2が支持部4を有していても、眼内レンズ2を好適に押し出すことができる。例えば、眼内レンズ2の押し出し中に、支持部4のタッキングが外れてしまう事象を抑制できる。
【0101】
また、本実施形態の眼内レンズ挿入システム1で用いる駆動パラメータとは、眼内レンズ2の押し出し速度を含む。眼内レンズ2の押し出し速度を変化させることで、眼内レンズ2を好適に押し出すことができる。例えば、眼内レンズ2の形状を、許容範囲内に維持できる。なお、押し出し速度には、押し出し停止も含まれる。
【0102】
また、本実施形態の眼内レンズ挿入システムに含まれる観察手段は、患者眼Eの正面像IMGfおよび断層像IMGtの少なくともいずれかを取得できる。これによって、システムの構成を複雑にすることなく、眼内レンズの形状を検知できる。例えば、手術顕微鏡の構成を流用できる。
【0103】
また、本実施形態の眼内レンズ挿入用の制御装置300は、眼内レンズ挿入デバイスを制御するための制御装置であって、軟性の眼内レンズ2を押し出すための駆動部を制御する第1インタフェースと、駆動部を用いて押された眼内レンズ2の観察像を入力する第2インタフェースと、観察像に基づいて駆動部の駆動パラメータを決定する決定手段と、を備えている。これによって、眼内レンズ2を好適に押し出すことができる。例えば、意図しない形状のまま、眼内レンズ2を患者眼Eの眼内へ射出してしまう事象を抑制できる。例えば、眼内レンズ挿入デバイス100、手術顕微鏡、白内障手術装置、またはパーソナルコンピュータが、制御装置300を有してもよい。
【0104】
また、本実施形態の眼内レンズ挿入器具の制御方法は、眼内レンズ2の少なくとも一部が映り込んだ観察像を入力する第1ステップと、第1ステップで入力した前記観察像を用いて、眼内レンズ2の形状を検知する第2ステップと、第2ステップの検知結果を用いて、眼内レンズ2を押し出すための駆動部の駆動パラメータを決定する第3ステップと、を含んでいる。これによって、眼内レンズ2を好適に押し出すことができる。例えば、意図しない形状のまま、眼内レンズ2を患者眼Eの眼内へ射出してしまう事象を抑制できる。本実施形態では、かかる制御方法をプログラムとして、コンピュータに実行させる。そして、本実施形態の記憶媒体には、かかるプログラムが記憶されており、コンピュータで読み取り可能である。なお、観察像が、厳密な画像でなくてもよい。観察像に関するデータであればよい。
【0105】
眼内レンズ挿入システムの態様はこれに限るものではない。例えば、患者眼Eの前房へ設置する眼内レンズ(フェイキックレンズと呼ばれる場合がある)を挿入する場合に対しても適用できる(フェイキックレンズについては、例えば、特表2005−523095号公報を参照されたし)。
【0106】
なお、本実施形態の眼内レンズ挿入デバイス100は、カードリッジ部101とハンドピース部102とで構成されているが、眼内レンズ挿入デバイス100の態様はこれに限るものではない。例えば、術者の手の力によって眼内レンズ2を押し出す、手動方式の眼内レンズ挿入デバイスに適用してもよい(例えば、特開2013−081759号公報に記載の眼内レンズ挿入器具)。例えば、制御装置300が、正面像IMGfおよび断層像IMGtを用いて眼内レンズ2の形状を検知して、眼内レンズ2が不適切な形状の場合には、外部ディスプレイ306への表示とブザーとによって、術者に異常状態を報知してもよい。
【0107】
また、術者の手の力によって眼内レンズ2を押し出す眼内レンズ挿入デバイスの押出部材(プランジャー等)を、眼内レンズ挿入システムが有するアクチュエータで押してもよい。本実施形態の眼内レンズ挿入システム1を用いて例えるならば、カードリッジ部101の代わりに、眼内レンズ挿入器具(手動方式)をハンドピース部102に装着する。つまり、眼内レンズ挿入器具(手動方式)のプランジャーを、ハンドピース部102の動力手段(ステッピングモーター等)で押し出す。術者は、ハンドピース部102を用いずに眼内レンズ2を手動で射出するか、ハンドピース部102を用いて非手動(電動等)で射出するかを選択できる。
【0108】
また、本実施形態の眼内レンズ挿入システム1は、眼内レンズ2を観察して、眼内レンズ2の形状に基づいて駆動部125の駆動パラメータを決定する。しかし、これら手法を用いずに、眼内レンズ挿入システムが、
図10で例示した眼内レンズの押出制御を行うだけでも良い。つまり、眼内レンズ2の変形具合に関わらず、制御装置300が、プランジャー121の進行位置に応じて、プランジャー121の進行速度を可変させてもよい。この場合、眼内レンズ挿入システムが、観察手段を備えなくてもよい。これによって、例えば、眼内レンズ挿入システムを簡素な構成にできる。例えば、眼内レンズ挿入デバイスの筐体内に、かかる押出制御を行う制御装置を備えてもよい。眼内レンズを押し出すための動力源は、モーターに限るものではない。例えば、気体(ガス等)を用いてもよい。例えば、プランジャー121に与える摩擦力を変化させて、眼内レンズを押し出す押出速度を変化させてもよい。
【0109】
また、眼内レンズ挿入システムが駆動部125を備えずに、患者眼Eに対する眼内レンズ挿入デバイス100のアライメントを誘導する、誘導手段(例えば、
図11のガイドG)を備えてもよい。これによって、例えば、手動方式の眼内レンズ挿入デバイスであっても、眼内レンズ挿入デバイスを好適な位置に配置して、眼内レンズ2を挿入できる。
【0110】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲及びこれと均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。