【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度から平成29年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「海洋エネルギー技術研究開発/海洋エネルギー発電システム実証研究/水中浮遊式海流発電」共同研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
発電用タービンがそれぞれ設けられた複数のポッドと、前記複数のポッドの間に延在して前記複数のポッドを連結する連結部と、を備える水中浮遊式発電装置の姿勢制御システムであって、前記複数のポッドは、第1発電用タービンが設けられた第1ポッドと第2発電用タービンが設けられた第2ポッドとを含み、前記第1発電用タービンと前記第2発電用タービンとは互いに逆向きに回転するように構成されており、
前記水中浮遊式発電装置の少なくともロール方向の傾斜角度を検出する検出部と、
それぞれの前記発電用タービンに対して設けられ、前記発電用タービンの回転数を調整可能な回転数調整手段と、
前記検出部によって検出された前記傾斜角度に応じて前記回転数調整手段を制御し、少なくとも1つの前記発電用タービンの回転数を変更する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記傾斜角度が所定の閾値以上である場合に、前記傾斜角度が小さくなるような前記水中浮遊式発電装置の修正回転方向とは逆向きの回転方向を有する一方の前記発電用タービンの回転数が、当該修正回転方向と同じ向きの回転方向を有する他方の前記発電用タービンの回転数よりも大きくなるように、前記回転数調整手段を制御する、水中浮遊式発電装置の姿勢制御システム。
前記回転数調整手段は、前記発電用タービンに接続された発電機であり、前記発電機における負荷トルクの調整により、前記発電用タービンの回転数が調整される、請求項1または2に記載の水中浮遊式発電装置の姿勢制御システム。
前記回転数調整手段は、前記発電用タービンに接続されたブレーキ装置であり、前記ブレーキ装置におけるブレーキ力の調整により、前記発電用タービンの回転数が調整される、請求項1または2に記載の水中浮遊式発電装置の姿勢制御システム。
発電用タービンがそれぞれ設けられた複数のポッドと、前記複数のポッドの間に延在して前記複数のポッドを連結する連結部と、を備える水中浮遊式発電装置の姿勢制御方法であって、前記複数のポッドは、第1発電用タービンが設けられた第1ポッドと第2発電用タービンが設けられた第2ポッドとを含み、前記第1発電用タービンと前記第2発電用タービンとは互いに逆向きに回転するように構成されており、
前記水中浮遊式発電装置の少なくともロール方向の傾斜角度を検出する検出ステップと、
前記傾斜角度に応じて、少なくとも1つの前記発電用タービンの回転数を変更する回転数変更ステップと、を含み、
前記回転数変更ステップでは、前記傾斜角度が所定の閾値以上である場合に、前記傾斜角度が小さくなるような前記水中浮遊式発電装置の修正回転方向とは逆向きの回転方向を有する一方の前記発電用タービンの回転数が、当該修正回転方向と同じ向きの回転方向を有する他方の前記発電用タービンの回転数よりも大きくなるように、少なくとも1つの前記発電用タービンの回転数を変更する、水中浮遊式発電装置の姿勢制御方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0018】
以下の説明において、「上流」または「下流」との語は、水の流れを基準として用いられる。また、「前」との語は、水の流れの上流側を意味し、「後」との語は、水の流れの下流側を意味する。たとえば、ダウンウィンド型のタービンが用いられる場合には、ポッドの後部側にブレード(翼)が配置される。「ロール」や「ローリング」との語は、ポッドの中心軸線に平行な軸線、すなわち前後方向の軸線を中心とする回転を意味する。また、「左」または「右」との語は、水の流れに対して垂直で且つ水平な方向を意味し、後方すなわち下流側から見た場合を基準として用いられる。「上」または「下」との語は、水中浮遊式発電装置1の姿勢が安定した状態における鉛直方向線を基準とする。
【0019】
図1および
図2を参照して、本実施形態の姿勢制御システムSが適用された水中浮遊式発電装置1について説明する。
図1に示されるように、水中浮遊式発電装置1は、たとえば海水中に設置されて浮遊し、海流を利用して発電を行う。水中浮遊式発電装置1は、左右に離間して配置された一対のポッドである第1ポッド2Aおよび第2ポッド2Bと、第1ポッド2Aおよび第2ポッド2Bを連結するクロスビーム(連結部)3とを備える。第1ポッド2Aは右側に配置されたポッドであり、第2ポッド2Bは左側に配置されたポッドである。第1ポッド2Aの後部には、第1発電用タービン4Aが設けられている。第2ポッド2Bの後部には、第2発電用タービン4Bが設けられている。以下の説明では、水中浮遊式発電装置1を海流発電装置1という。また、第1発電用タービン4Aおよび第2発電用タービン4Bを、それぞれ、第1タービン4Aおよび第2タービン4Bという。
【0020】
第1ポッド2Aは、第1タービン4Aを回転可能に支持しつつ、第1タービン4Aに適正な浮力を付与する。第2ポッド2Bは、第2タービン4Bを回転可能に支持しつつ、第2タービン4Bに適正な浮力を付与する。第1ポッド2Aおよび第2ポッド2Bは、円筒状をなしており、たとえば、同じ大きさおよび構造を有している。
【0021】
第1ポッド2Aおよび第2ポッド2Bの間には、これらを連結する構造体であるクロスビーム3が延在している(すなわち横断するように延びている)。クロスビーム3は、前後方向に所定の長さを有し、所定の厚みを有する。クロスビーム3は、浮遊する海流発電装置1の姿勢を安定させるべく、たとえば翼形状をなしている。クロスビーム3の左右の両端は、たとえば、第1ポッド2Aおよび第2ポッド2Bの胴部の略中央にそれぞれ固定されている。なお、クロスビーム3が固定される位置は、上記の位置に限られない。クロスビーム3は、ポッドの上部または下部に固定されてもよいし、ポッドの前部または後部に固定されてもよい。クロスビーム3は、その延在方向(すなわち横断方向)において等しい断面形状を有してもよく、延在方向において変化する断面形状を有してもよい。クロスビーム3の中央付近に、1又は複数の物体が設けられてもよい。また、この物体から係留索が接続されていてもよい。
【0022】
海流発電装置1は、海底に固定されたシンカー14に対して、第1係留ロープ11Aおよび第2係留ロープ11Bを介して接続されている。第1係留ロープ11Aおよび第2係留ロープ11Bは、これらの分岐点13(
図2参照)がシンカー14に設けられた、いわゆるV字状の係留索である。第1係留ロープ11Aの下端(他端)および第2係留ロープ11Bの下端(他端)は、たとえば、シンカー14に対して360度回転可能であるように接続されている。シンカー14に対する第1係留ロープ11Aおよび第2係留ロープ11Bの接続部は、たとえばシャックル等を用いた締結構造であってもよい。なお、分岐点13がシンカー14と海流発電装置1との間の途中部分に設けられることで、第1係留ロープ11Aおよび第2係留ロープ11BがY字状をなしてもよい。なお、係留ロープの他端を海底に固定する固定部として、シンカー14に代えて、アンカーが用いられてもよい。
【0023】
海流発電装置1は、たとえば、第1係留ロープ11Aおよび第2係留ロープ11Bによって、異なる2点で係留されている。より詳細には、第1係留ロープ11Aの上端(一端)は、クロスビーム3の右側に接続されている。第2係留ロープ11Bの上端(一端)は、クロスビーム3の左側に接続されている。クロスビーム3に対する第1係留ロープ11Aの係留点12Aと、クロスビーム3に対する第2係留ロープ11Bの係留点12Bとは、たとえば、クロスビーム3の延在方向(
図2の左右方向)に所定の長さ離間している。クロスビーム3の中央付近に、1又は複数の物体が設けられる場合、この物体から係留索が接続されていてもよい。
【0024】
図1に示されるように、第1係留ロープ11Aおよび第2係留ロープ11Bに沿うようにして、第1タービン4Aおよび第2タービン4Bにおいて発電された電力を送電するための送電ケーブル10が設けられている。より詳細には、第1タービン4Aで発電された電力を送電する第1ケーブル10Aが、第1係留ロープ11Aに沿って設けられており、第2タービン4Bで発電された電力を送電する第2ケーブル10Bが、第2係留ロープ11Bに沿って設けられている。第1ケーブル10Aの一端は、第1ポッド2A内の発電機17(
図3参照)に接続されている。第2ケーブル10Bの一端は、第2ポッド2B内の発電機に接続されている。送電ケーブル10の他端は、たとえばシンカー14内に設けられた中継器(または変圧器等)に接続されている。中継器には、海底に敷設されて地上まで延びる送電ケーブルが接続されており、これらの送電ケーブルを介して、第1タービン4Aおよび第2タービン4Bにおいて発電された電力が地上に送電されるようになっている。
【0025】
なお、各ケーブルが設けられる形態は上記形態に限られない。たとえば、送電ケーブル10、第1ケーブル10Aおよび第2ケーブル10Bが、始動時のための給電ケーブルと一体になっていてもよい。第1タービン4Aに接続された第1ケーブル10Aが給電ケーブルであり、第2タービン4Bに接続された第2ケーブル10Bが送電ケーブルであってもよい。中継器は、シンカー14外の海底に設定されてもよい。
【0026】
海流発電装置1に適用される第1タービン4Aおよび第2タービン4Bは、いわゆるダウンウィンド型のタービンである。第1ポッド2Aおよび第2ポッド2Bは、海流の向きに対向した姿勢で浮遊する。この浮遊状態において、第1タービン4Aおよび第2タービン4Bの回転軸線(
図3に示される回転軸16の軸線)は、互いに平行をなしており、略水平に維持される。なお、第1タービン4Aおよび第2タービン4Bは、アップウィンド型のタービンであってもよい。
【0027】
第1タービン4Aは、第1ハブ5Aと、第1ハブ5Aに設けられた2枚の第1ブレード6Aとを含んでいる。第2タービン4Bは、第2ハブ5Bと、第2ハブ5Bに設けられた2枚の第2ブレード6Bとを含んでいる。第1ハブ5Aは、第1ポッド2Aの後端部に配置されている。第2ハブ5Bは、第2ポッド2Bの後端部に配置されている。ダウンウィンド型のタービンを採用した海流発電装置1においては、海流の向きを基準として、第1ポッド2Aの下流側に第1ブレード6Aが配置され、第2ポッド2Bの下流側に第2ブレード6Bが配置される(
図1参照)。
【0028】
第1タービン4Aと第2タービン4Bとにおいて、ブレードのピッチは逆向きとされている。すなわち、第2ブレード6Bのピッチは、第1ブレード6Aのピッチとは逆向きである。これにより、第1タービン4Aと第2タービン4Bとは、海流を受けて互いに逆向きに回転する。
図2に示されるように、第1タービン4Aは、上流側から見て時計回りの回転方向R
Aに回転し、第2タービン4Bは、上流側から見て反時計回りの回転方向R
Bに回転する。
【0029】
言い換えれば、第1タービン4Aと第2タービン4Bとは、第1ブレード6Aおよび第2ブレード6Bが第1ポッド2Aおよび第2ポッド2Bの間の領域(クロスビーム3が配置された領域)で上から下に向けて通過するような回転方向で回転する。すなわち、第1ブレード6Aおよび第2ブレード6Bは、上流側から見て、クロスビーム3を上から下に向けて通過する。なお、1つのタービンに対して、3枚以上のブレードが設けられてもよい。
【0030】
続いて、
図1〜
図3を参照して、海流発電装置1の姿勢(特に、ロール方向の姿勢)を制御する姿勢制御システムSについて説明する。姿勢制御システムSは、上記した第1係留ロープ11Aおよび第2係留ロープ11Bと、海流発電装置1の少なくともロール方向の傾斜角度を検出するジャイロセンサ(検出部)23と、第1タービン4Aおよび第2タービン4Bの回転数を調整可能な回転数調整手段と、を備えている。以下、第1ポッド2Aが備える構成を主に説明する。第2ポッド2Bも第1ポッド2Aと同様の構成を備えるため、第2ポッド2Bに関する説明を省略する。
【0031】
図3に示されるように、第1ポッド2Aの後端部の第1ハブ5Aには、第1ブレード6Aが取り付けられており、第1ブレード6Aは、第1ハブ5Aと一体的に回転可能になっている。第1タービン4Aの回転は、回転軸16を介して発電機17に伝達される。回転軸16は、たとえば第1ポッド2Aの中心軸線に沿って設けられている。
【0032】
海流発電装置1において、第1ブレード6Aのピッチ角度は可変になっている。各第1ブレード6Aの基端部のブレード軸には、油圧式駆動装置21が連結されている。油圧式駆動装置21は、たとえば第1ハブ5A内に搭載される。油圧式駆動装置21は、たとえば、歯車機構を含んでいる。油圧式駆動装置21としては、公知の機構を用いることができる。なお、第1ブレード6Aのピッチ角度を変化させる機構として、油圧式駆動装置21に限られず、サーボモータ等が用いられてもよい。第1ブレード6A(および第2ブレード6B)のピッチ角度は可変でなく、固定されていてもよい。
【0033】
第1ポッド2Aには、第1タービン4Aの回転数を検出するレゾルバが搭載されている。第1タービン4Aの回転数を検出するための検出機構として、レゾルバに限られず、エンコーダ等のセンサが用いられてもよい。レゾルバや回転数センサ等は、検出した第1タービン4Aの回転数(第1ブレード6Aの回転数)を制御部25に逐次出力する。また、油圧式駆動装置21には、駆動量を計測するセンサが搭載されている。
【0034】
第1ポッド2A内には、海流発電装置1の姿勢の傾斜を検出するジャイロセンサ23が設けられている。ジャイロセンサ23は、海流発電装置1のロール方向、ピッチ方向、およびヨー方向の傾斜角度を検出する。ジャイロセンサ23は、検出した各傾斜角度を、制御部25に逐次出力する。なお、第1ポッド2A内に、海流発電装置1の深度を計測する深度センサ(圧力センサ)が設けられてもよい。
【0035】
第1ポッド2A内には、上記した回転数調整手段としての発電機17およびブレーキ装置30が設けられている。発電機17は、たとえばインバータ17aを備えている。発電機17は、インバータ17aが電気的に制御されることにより、回転軸16に対する負荷トルクT
Lを調整可能である。発電機17は、負荷トルクT
Lの調整により、第1タービン4Aの回転数(第1ブレード6Aの回転数)を調整する。発電機17は、油圧ドライブトレイン等であってもよい。ブレーキ装置30は、たとえば回転軸16に接続されている。ブレーキ装置30は、たとえば摩擦力を用いて第1タービン4Aの回転数を低減させるパッド等を備えており、第1タービン4Aにブレーキ力を作用させ得る。ブレーキ装置30は、たとえば油圧ブレーキ装置等であってもよい。ブレーキ装置30は、ブレーキ力の調整により、第1タービン4Aの回転数(第1ブレード6Aの回転数)を調整する。なお、回転数調整手段として、発電機17およびブレーキ装置30のいずれか一方が用いられてもよい。
【0036】
なお、姿勢制御システムSは、第1ポッド2Aの外部との間で海水を注排水して海流発電装置1全体の重量を変化させる浮力調整装置(図示せず)を備えてもよい。浮力調整装置は、第1ポッド2A内に設けられたタンクと、タンクと第1ポッド2Aの外部とを接続する注排水管と、注排水管に設けられたポンプとを含んでもよい(いずれも図示せず)。
【0037】
上記構成を有する第1ポッド2Aにおいては、
図4に示される各種のトルクが作用し得る。すなわち、回転軸16には、第1タービン4Aの回転により、軸トルクT
Sが作用し得る。発電機17では、軸トルクT
Sに対応して、負荷トルクT
Lが生じ得る。この負荷トルクT
Lは、回転軸16の回転すなわち第1タービン4Aの回転に影響を及ぼす。一方で、第1タービン4Aの回転に対応して、第1ポッド2Aには、反トルクT
Rが生じ得る。この反トルクT
Rは、上記した回転方向R
Aと同じ向きの回転力である。
【0038】
海流発電装置1には、各センサからの情報を得て各アクチュエータ等を制御し、海流発電装置1全体を制御する制御部25が設けられている。この制御部25は、姿勢制御システムSの一部を構成している。制御部25は、ジャイロセンサ23によって検出された海流発電装置1のロール方向の傾斜角度に応じて、発電機17のインバータ17aおよび/またはブレーキ装置30を制御する。また、制御部25は、浮力調整装置を制御して、海流発電装置1全体の浮力を調整する。制御部25は、たとえば、第1ポッド2A内に設けられている。制御部25は、たとえばCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、およびRAM(Random Access Memory)等のハードウェアと、ROMに記憶されたプログラム等のソフトウェアとから構成されたコンピュータである。
【0039】
制御部25には、海流発電装置1の姿勢制御に用いられる、ロール方向の傾斜角度に関する2つの閾値が予め記憶されている。制御部25は、ピッチ方向の閾値を記憶していてもよい。制御部25は、ロール方向の閾値として、第1閾値および第2閾値を記憶している。第2閾値は、第1閾値よりも大きい。第1閾値および第2閾値は、たとえば、海流発電装置1が有している、重心および浮心に基づく復原力の許容モーメントに基づいて決められ得る。制御部25は、第1ポッド2Aにおける回転方向R
Aと第2ポッド2Bにおける回転方向R
Bとを記憶している。
【0040】
続いて、姿勢制御システムSによる、海流発電装置1の姿勢制御方法について説明する。まず、海流発電装置1は、海水中に浮遊しており、海水の流れを受けて、通常運転状態にある。
図5に示されるように、制御部25は、ジャイロセンサ23によって検出された海流発電装置1のロール方向の傾斜角度を取得する(ステップS01;検出ステップ)。そして、制御部25は、海流発電装置1の傾斜角度が第1閾値未満であるか否かを判断する(ステップS02)。
【0041】
海流発電装置1の運転中においては、流れの変化や何らかの外力(浮遊物や水棲生物の衝突等)によって、海流発電装置1のロール方向またはピッチ方向の姿勢が変化することがある。ここで、浮力調整装置による姿勢制御を実施してもよい。浮力調整装置による姿勢制御は、公知の方法に従って行うことができる。制御部25は、海流発電装置1の傾斜角度が第1閾値以上であると判断すると(ステップS02:NO)、インバータ17aおよび/またはブレーキ装置30を制御して、第1タービン4Aおよび第2タービン4Bのいずれか一方の回転数を変更する(ステップS03;回転数変更ステップ)。なお、制御部25は、海流発電装置1の傾斜角度が第1閾値未満であると判断すると(ステップS02:YES)、ステップS01の処理に戻る。
【0042】
海流発電装置1の姿勢変化メカニズムは、上記したような外力に起因するもの以外にも考えられる。たとえば、
図6(a)および(b)に示されるように、第1ポッド2Aおよび第2ポッド2Bのそれぞれには、流体力であるスラスト力F(
図1も参照)が作用している。スラスト力Fは、後方に向けて作用する。たとえば、第1ポッド2Aに作用するスラスト力F
Aよりも、第2ポッド2Bに作用するスラスト力F
Bの方が大きくなった場合、
図6に示されるように、第2係留ロープ11Bに作用する張力TE
Bは、第1係留ロープ11Aの張力TE
Aよりも大きくなる。
図6(b)からも理解されるように、その場合、張力TE
Bの鉛直成分は、張力TE
Aの鉛直成分よりも大きくなる。
【0043】
したがって、その結果として、
図7に示されるように、海流発電装置1に対してロール方向のモーメントがはたらき、海流発電装置1全体が、第2ポッド2Bが沈み込む方向(
図7の方向D1参照)に傾斜する。このような、スラスト力差に起因するメカニズムにより、海流発電装置1がロール方向に傾斜する場合もある。
【0044】
さらには、別の姿勢変化メカニズムとして、
図8に示されるように、第1ポッド2Aに作用する反トルクT
Aと、第2ポッド2Bに作用する反トルクT
Bとの差である反トルク差に基づくものがある。たとえば、第1タービン4Aの回転数と第2タービン4Bの回転数とに起因して、第2ポッド2Bにおける反トルクT
Bよりも第1ポッド2Aにおける反トルクT
Aの方が大きくなった場合、
図8に示されるように、水中浮遊式発電装置1に対してロール方向のモーメントがはたらく。すなわち、海流発電装置1全体に対して、反トルク差に基づくトルクTが作用する。このトルクTは、小さい方の反トルクT
Bを持つ第2ポッド2Bの回転方向と逆向きであり、大きい方の反トルクT
Aを持つ第1ポッド2Aの回転方向とは同じ向きである。
【0045】
その結果として、
図9に示されるように、海流発電装置1全体が、第2ポッド2Bが沈み込む方向(
図9の方向D1参照)に傾斜する。このような、反トルク差に起因するメカニズムにより、海流発電装置1がロール方向に傾斜する場合もある。
【0046】
そこで、
図5に示されるステップS03では、制御部25は、インバータ17aおよび/またはブレーキ装置30を制御して、傾斜角度が小さくなるような海流発電装置1の修正回転方向とは逆向きの回転方向を有する第1タービン4Aの回転数を増大させる。より具体的には、制御部25は、ステップS01で取得した傾斜角度に基づいて、海流発電装置1の修正回転方向を算出する。制御部25は、当該修正回転方向と、第1タービン4Aの回転方向R
Aおよび第2タービン4Bの回転方向R
Bとを比較し、いずれのタービンの回転数を変更するかを決定する。制御部25は、発電機17の負荷トルクT
L(またはブレーキ力)を小さくすることにより、第1タービン4Aの回転数を増大させる。ここで、修正回転方向とは、
図7,9における方向D1とは逆の方向である。したがって、この場合、修正回転方向とは逆の方向D1と同じ回転方向を有する第1タービン4Aの回転数が増大させられる。なお、制御部25は、第1タービン4Aの回転数を増大させるのに代えて、第2タービン4Bの回転数を減少させてもよい。すなわち、制御部25は、発電機17の負荷トルクT
L(またはブレーキ力)を大きくすることにより、第2タービン4Bの回転数を減少させてもよい。これらの制御により、第1タービン4Aの回転数は、第2タービン4Bの回転数よりも大きくなる。また、第1タービン4Aの回転数を増大させる制御と、第2タービン4Bの回転数を減少させる制御とを併用してもよい。
【0047】
そうすると、
図10に示されるように、第2タービン4Bのスラスト力F
Bが減少し、これに伴って張力TE
Bが減少する。張力TE
Bの減少に伴い、海流発電装置1に対して、スラスト力差に基づくトルクT
1が作用する。これと同時に、第1タービン4Aの回転数の相対的な増大(第2タービン4Bの回転数の相対的な減少)に伴い、海流発電装置1に対して、反トルク差に基づくトルクT
2が作用する。ここで、トルクT
1とトルクT
2とは同じ方向に作用するため、トルクT
1とトルクT
2との協同により、海流発電装置1のロール方向の傾斜が止まり、姿勢を戻す方向に海流発電装置1が動き始める。なお、発電機17は、第2タービン4Bの回転を止めないような制御を行ってもよい。
【0048】
制御部25は、海流発電装置1の傾斜角度が第1閾値未満であるか否かを再び判断する(ステップS04)。制御部25は、海流発電装置1の傾斜角度が第1閾値未満であると判断すると(ステップS04:YES)、ステップS01の処理に戻り、浮力調整装置のみによる姿勢の修正を実施する。一方、制御部25は、海流発電装置1の傾斜角度が第1閾値以上であると判断すると(ステップS04:NO)、再びステップS03の回転数の変更処理を実施する。
【0049】
以上説明した姿勢制御システムSおよび姿勢制御システムSによる姿勢制御方法によれば、第1タービン4Aおよび第2タービン4Bが回転することで発電が行われる。制御部25は、海流発電装置1のロール方向の傾斜角度に応じて、第1タービン4Aおよび第2タービン4Bの少なくとも一方の回転数を変更する。発電用タービン4A,4Bの回転数が変更されると、2つの発電用タービン4A,4Bに作用する反トルクに、差が生じる。反トルクに差が生じることにより、海流発電装置1の全体に対して、ロール方向のモーメント(
図10に示されるトルクT
2)が生じる。これにより、海流発電装置1のロール方向の姿勢が修正され得る。この姿勢制御システムSは、発電を行うために元々設けられている発電用タービン4A,4Bを用いて姿勢を制御しているため、従来検討されていたスラスタ等の別途の手段を要さず、効率的である。さらには、浮力調整装置を用いて水の注排水によって姿勢制御を行う場合に比して、応答性に優れている。優れた応答性により、急激な姿勢変化にも追従して、速やかに姿勢を修正することができる。なお、姿勢制御システムSを用いることで、浮力調整装置によるロール方向の姿勢制御を不要としてもよい。
【0050】
海流発電装置1の姿勢がロール方向に傾斜した場合に、海流発電装置1を回転させるべき方向すなわち修正回転方向とは逆向きに回転する発電用タービン(たとえば
図10における第1タービン4A)の回転数が、相対的に大きくなる。この第1タービン4Aの回転方向と、第1タービン4Aに発生し得る反トルクの回転方向とは、同じである。回転数が相対的に大きくなった第1タービン4Aでは、第1ポッド2Aに作用する反トルクは小さくなり、第2タービン4Bが設けられた第2ポッド2Bに作用する反トルクは、相対的に大きくなる。これにより、修正回転方向と同じ向きの大きな反トルクが得られる。したがって、海流発電装置1の全体に対して、修正回転方向のモーメント(
図10に示されるトルクT
2)が生じ、海流発電装置1のロール方向の姿勢が適切に修正され得る。
【0051】
発電用タービン(たとえば
図10における第1タービン4A)の回転数が変更されることより、2つの発電用タービン4A,4Bに作用するスラスト力F
A,F
Bにも差が生じる。スラスト力F
A,F
Bに差が生じることにより、離間する2つの係留点12A,12Bに接続された2本の係留ロープ11A,11Bにおける張力TE
A,TE
Bに、差が生じる。2本の係留ロープ11A,11Bの張力に差が生じることにより、2つのポッド2A,2Bとクロスビーム3とを含む水中浮遊式発電装置1の全体に対して更なるロール方向のモーメント(
図10に示されるトルクT
1)が生じる。スラスト力の差に基づくモーメントと、反トルクの差に基づくモーメントとの協同によって、より一層効率的な姿勢の制御が可能である。
【0052】
姿勢制御システムSでは、元々設けられている発電機17を用いて回転数を調整し姿勢を制御するため、別途の手段を要さず、効率的な姿勢の制御が可能である。
【0053】
姿勢制御システムSでは、第1タービン4Aおよび第2タービン4Bに設けられたブレーキ装置30を用いて回転数を調整し姿勢を制御するため、別途の手段を要さず、効率的な姿勢の制御が可能である。
【0054】
本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限られない。たとえば、第1閾値による判断に加えて、さらに大きい第2閾値による判断を付加してもよい。その場合、制御部25は、海流発電装置1の傾斜角度が第1閾値以上であると判断すると、浮力調整装置における貯水量を変更する。その後、制御部25は、海流発電装置1の傾斜角度が第1閾値以上であると判断すると、海流発電装置1の傾斜角度が第2閾値未満であるか否かを判断する。制御部25は、海流発電装置1の傾斜角度が第2閾値未満であると判断すると、浮力調整装置における貯水量を変更する。制御部25は、海流発電装置1の傾斜角度が第2閾値以上であると判断すると、回転数の変更制御を実施する。そして、制御部25は、海流発電装置1の傾斜角度が第2閾値未満であるか否かを判断し、その傾斜角度が第2閾値以上であると判断すると、再び回転数の変更制御を実施する。制御部25は、海流発電装置1の傾斜角度が第2閾値未満であると判断すると、再び傾斜角度を取得する。なお、上記の第2閾値に代えて、第1閾値を用いてもよい。このように、姿勢制御システムSによる姿勢制御と浮力調整装置による姿勢制御とを併用してもよい。
【0055】
制御部25は、第1タービン4Aおよび第2タービン4Bの両方の回転数を変更する制御を実施してもよい。
【0056】
また、姿勢制御システムSは、2つの係留点12A,12Bの間隔を調整可能な係留点移動機構を備えてもよい。係留点12A,12Bの間隔を調整することにより、回転数の変更に対する、上記のトルクT
1とトルクT
2が生じる際の応答性を変更することができる。したがって、姿勢制御の応答性を変更することができる。
【0057】
係留点の調整は、制御部による自動調整でもよいし、手動による設定でもよい。係留点は、クロスビーム3ではなくて、ポッド2Aおよび2Bに設けられてもよい。制御部がポッド内には設けらず、海上に設けられてもよい。海流発電装置1は、海水中に設置される場合に限られず、淡水中に設置されてもよい。
【0058】
1本の係留ロープが海流発電装置1に接続されていてもよい。すなわち、係留点は1つであってもよい。その場合、反トルク差に基づくトルクのみが姿勢制御に利用され得る。
【0059】
上記実施形態とは逆に、第1タービン4Aが、上流側から見て反時計回りに回転し、第2タービン4Bが、上流側から見て時計回りに回転してもよい。言い換えれば、第1タービン4Aと第2タービン4Bとは、第1ブレード6Aおよび第2ブレード6Bが第1ポッド2Aおよび第2ポッド2Bの間の領域(クロスビーム3が配置された領域)で下から上に向けて通過するような回転方向で回転してもよい。すなわち、第1ブレード6Aおよび第2ブレード6Bは、上流側から見て、クロスビーム3を下から上に向けて通過してもよい。その場合、スラスト力によるモーメントと、反トルクによるモーメントとの大小関係を調整することにより、姿勢を修正することができる。係留点が2点の場合であっても(上記実施形態よりも応答性は多少低くなるが)、姿勢の修正が可能である。
【0060】
回転数調整手段として、たとえば減速比を変更するギヤ機構等が用いられてもよい。