特許第6786934号(P6786934)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6786934工作物の研削焼け検査方法及び研削焼け検査装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6786934
(24)【登録日】2020年11月2日
(45)【発行日】2020年11月18日
(54)【発明の名称】工作物の研削焼け検査方法及び研削焼け検査装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/90 20060101AFI20201109BHJP
【FI】
   G01N27/90
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-152189(P2016-152189)
(22)【出願日】2016年8月2日
(65)【公開番号】特開2018-21800(P2018-21800A)
(43)【公開日】2018年2月8日
【審査請求日】2019年7月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100130188
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 喜一
(74)【代理人】
【識別番号】100089082
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 脩
(74)【代理人】
【識別番号】100190333
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 群司
(72)【発明者】
【氏名】大久保 勇佐
(72)【発明者】
【氏名】臂 安彦
(72)【発明者】
【氏名】林 則康
(72)【発明者】
【氏名】向出 尚正
【審査官】 村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−206395(JP,A)
【文献】 特開2011−106932(JP,A)
【文献】 特開2013−224916(JP,A)
【文献】 特開2010−276431(JP,A)
【文献】 特開昭49−082384(JP,A)
【文献】 特開2008−290203(JP,A)
【文献】 米国特許第04514934(US,A)
【文献】 特表昭59−500804(JP,A)
【文献】 特開2011−247631(JP,A)
【文献】 特開2011−252877(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/72−27/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
研削加工された検査対象の工作物の内部に励磁電流により渦電流を発生させ、発生した前記渦電流に応じた出力電圧に基づいて前記検査対象の工作物の加工部位の表層部における研削焼けの有無を判定する研削焼けの検査方法であって、
前記研削焼けを有していない基準工作物の所定の位置の内部に高周波励磁電流により前記渦電流を発生させた場合の第一出力電圧を取得する第一取得工程と、
前記基準工作物の前記所定の位置の内部に低周波励磁電流により前記渦電流を発生させた場合の第二出力電圧を取得する第二取得工程と、
前記第一出力電圧及び前記第二出力電圧に基づき、前記検査対象の工作物の所定の検査領域の全範囲に亘って前記研削焼けが発生する全範囲研削焼けの有無を判定するための基準値を設定する基準値設定工程と、
前記検査対象の工作物の前記所定の検査領域の全範囲の内部に前記高周波励磁電流により前記渦電流を発生させた場合の第三出力電圧を取得する第三取得工程と、
前記検査対象の工作物の前記所定の検査領域の全範囲の内部に前記低周波励磁電流により前記渦電流を発生させた場合の第四出力電圧を取得する第四取得工程と、
前記基準値、前記出力電圧が波形で推移する前記第三出力電圧の前記波形の平均値及び前記出力電圧が前記波形で推移する前記第四出力電圧の前記波形の平均値に基づき、前記全範囲研削焼けの有無を判定する第一判定工程と、
を備える、工作物の研削焼け検査方法。
【請求項2】
前記基準値設定工程において、
前記基準値は、前記出力電圧が前記波形で推移する前記第一出力電圧の前記波形の平均値及び前記出力電圧が前記波形で推移する前記第二出力電圧の前記波形の平均値に基づき設定される、請求項1に記載の工作物の研削焼け検査方法。
【請求項3】
前記第一判定工程では、
前記基準値と、前記第三出力電圧の前記波形の平均値及び前記第四出力電圧の前記波形の平均値の差分と、の大小によって前記全範囲研削焼けの有無を判定する、請求項1又は2に記載の工作物の研削焼け検査方法。
【請求項4】
前記基準工作物及び前記検査対象の工作物は、円柱状又は円筒状であり、前記加工部位は外周面である、請求項1−3の何れか1項に記載の工作物の研削焼け検査方法。
【請求項5】
前記研削焼け検査方法は、
さらに、
前記検査対象の工作物の前記所定の検査領域の全範囲の内部に前記高周波励磁電流により前記渦電流を発生させた場合の第五出力電圧を取得する第五取得工程と、
前記第五出力電圧の波形を周波数解析により周波数毎の出力値を演算する演算工程と、
前記周波数毎の前記出力値が前記出力値に対応する前記周波数毎の閾値を超えた場合に、前記検査対象の工作物の前記表層部における前記所定の検査領域の全範囲のうちの一部に所定量以上の前記研削焼けが発生する局所研削焼けがあると判定する第二判定工程と、
を備える、請求項1−4の何れか1項に記載の工作物の研削焼け検査方法。
【請求項6】
研削加工された検査対象の工作物の内部に励磁電流により渦電流を発生させ、発生した前記渦電流に応じた出力電圧に基づいて前記検査対象の工作物の加工部位の表層部における研削焼けの有無を判定する研削焼け検査装置であって、
前記研削焼け検査装置は、センサと、制御部と、を備え、
前記センサは、
前記研削焼けを有していない基準工作物の所定の位置の内部に高周波励磁電流、及び低周波励磁電流により前記渦電流を発生させた場合の第一出力電圧及び第二出力電圧を取得するとともに、前記検査対象の工作物の前記所定の検査領域の全範囲の内部に前記高周波励磁電流、及び前記低周波励磁電流により前記渦電流を発生させた場合の第三出力電圧及び第四出力電圧を取得し、
前記制御部は、
前記センサが取得した前記第一出力電圧及び前記第二出力電圧に基づき、前記検査対象の工作物の前記所定の検査領域の全範囲に亘って前記研削焼けが発生する全範囲研削焼けの有無を判定するための基準値を演算する基準値演算部と、
前記センサが取得した、前記出力電圧が波形で推移する前記第三出力電圧の前記波形の平均値及び前記出力電圧が前記波形で推移する前記第四出力電圧の前記波形の平均値を演算する平均値演算部と、
演算された前記基準値と前記第三出力電圧及び前記第四出力電圧の前記各平均値とに基づき前記全範囲研削焼けの有無を判定する第一判定部と、
を備える、工作物の研削焼け検査装置。
【請求項7】
前記研削焼け検査装置において、
さらに、
前記センサは、
前記検査対象の工作物の前記所定の検査領域の全範囲の内部に前記高周波励磁電流により前記渦電流を発生させた場合の第五出力電圧を取得し、
前記制御部は、
前記センサが取得した前記第五出力電圧の波形を周波数解析し周波数毎の出力値を演算する出力値演算部と、
前記出力値に対応する前記周波数毎の閾値を記憶する記憶部と、
前記周波数毎の前記出力値が前記記憶部に記憶された前記出力値に対応する前記周波数毎の前記閾値を超えた場合に、前記検査対象の工作物の前記表層部における前記所定の検査領域の全範囲のうちの一部に所定量以上の前記研削焼けが発生する局所研削焼けがあると判定する第二判定部と、
を備える、請求項6に記載の研削焼け検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作物の研削焼け検査方法及び研削焼け検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、研削加工を行なった工作物に対し、研削加工した部位の範囲の一部に研削焼けが発生する局所研削焼けを非破壊検査で検出する技術が、種々開示されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−224916号公報
【特許文献2】特開2011−106932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、近年、上述した局所焼けのみならず、研削した工作物の加工部位の全範囲に亘って研削焼けが発生する全範囲研削焼けの有無についても非破壊検査で検査することが求められている。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、非破壊検査によって、研削加工された工作物の研削加工部位における全範囲研削焼けの検出ができる工作物の研削焼け検査方法及び研削焼け検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る工作物の研削焼け検査方法は、研削加工された検査対象の工作物の内部に励磁電流により渦電流を発生させ、発生した前記渦電流に応じた出力電圧に基づいて前記検査対象の工作物の加工部位の表層部における研削焼けの有無を判定する。研削焼けの検査方法は、前記研削焼けを有していない基準工作物の所定の位置の内部に高周波励磁電流により前記渦電流を発生させた場合の第一出力電圧を取得する第一取得工程と、前記基準工作物の前記所定の位置の内部に低周波励磁電流により前記渦電流を発生させた場合の第二出力電圧を取得する第二取得工程と、前記第一出力電圧及び前記第二出力電圧に基づき、前記検査対象の工作物の所定の検査領域の全範囲に亘って前記研削焼けが発生する全範囲研削焼けの有無を判定するための基準値を設定する基準値設定工程と、前記検査対象の工作物の前記所定の検査領域の全範囲の内部に前記高周波励磁電流により前記渦電流を発生させた場合の第三出力電圧を取得する第三取得工程と、前記検査対象の工作物の前記所定の検査領域の全範囲の内部に前記低周波励磁電流により前記渦電流を発生させた場合の第四出力電圧を取得する第四取得工程と、前記基準値、前記出力電圧が波形で推移する前記第三出力電圧の前記波形の平均値及び前記出力電圧が前記波形で推移する前記第四出力電圧の前記波形の平均値に基づき、前記全範囲研削焼けの有無を判定する第一判定工程と、を備える。
【0007】
このように、高周波励磁電流及び低周波励磁電流により研削焼けのない基準工作物の所定の位置の内部に発生した渦電流に応じ取得した表層部における第一出力電圧、及び表層部より深い位置である深層部における第二出力電圧に基づいて、全範囲研削焼けの有無を判定するための基準値を設定する。また、検査対象である工作物に対しても、基準工作物と同様に、第一出力電圧に対応する第三出力電圧と、第二出力電圧に対応する第四出力電圧を取得する。このとき、第一出力電圧及び第三出力電圧は、工作物の表層部における出力電圧である。このため、第一出力電圧は、母材毎に異なるばらつきによる変動分を含んだ出力電圧となる。
【0008】
また、第三出力電圧は、表層部に研削焼けが生じている場合、母材毎に異なるばらつきによる変動分と研削焼けによる変動分とを含んだ出力電圧となる。よって、第一出力電圧を基準値として、工作物の全範囲研削焼けの有無を基準値と第三出力電圧との比較によって判定しようとすると、工作物の表層部における母材のばらつきによる変動分と、表層部に生じた研削焼けによる変動分との識別がつけにくく、全範囲研削焼けを精度よく判定することが難しい。
【0009】
しかし、本発明では、基準値を設定する際、第一出力電圧だけでなく、母材のばらつきによる変動分のみを含む深層部における第二出力電圧も合わせて全範囲研削焼けの有無の判定に用いる。また、基準値と比較するため工作物から取得する出力電圧も、第三出力電圧だけでなく、研削焼けによる影響を受けず母材のばらつきによる変動分のみを含む第四出力電圧も合わせて用いる。従って、基準値は、第一出力電圧及び第二出力電圧に基づいて母材のばらつきによる変動分を相殺した基準値として設定可能である。また、基準値と比較するために工作物から取得する出力電圧も第三出力電圧及び第四出力電圧に基づいて、母材のばらつきによる変動分を相殺した出力電圧とすることが可能である。即ち、母材のばらつきによる変動分を含まない基準値及び出力電圧(第三出力電圧及び第四出力電圧に基づく)に基づいて表層部における全範囲研削焼けの有無を判定するので、母材のばらつきに影響されない精度のよい判定結果が得られる。
【0010】
また、本発明に係る工作物の研削焼け検査装置は、研削加工された検査対象の工作物の内部に励磁電流により渦電流を発生させ、発生した前記渦電流に応じた出力電圧に基づいて前記検査対象の工作物の加工部位の表層部における研削焼けの有無を判定する研削焼け検査装置であって、前記研削焼け検査装置は、センサと、制御部と、を備える。前記センサは、前記研削焼けを有していない基準工作物の所定の位置の内部に高周波励磁電流、及び低周波励磁電流により前記渦電流を発生させた場合の第一出力電圧及び第二出力電圧を取得するとともに、前記検査対象の工作物の前記所定の検査領域の全範囲の内部に前記高周波励磁電流、及び前記低周波励磁電流により前記渦電流を発生させた場合の第三出力電圧及び第四出力電圧を取得する。
【0011】
前記制御部は、前記センサが取得した前記第一出力電圧及び前記第二出力電圧に基づき、前記検査対象の工作物の前記所定の検査領域の全範囲に亘って前記研削焼けが発生する全範囲研削焼けの有無を判定するための基準値を演算する基準値演算部と、前記センサが取得した、前記出力電圧が波形で推移する前記第三出力電圧の前記波形の平均値及び前記出力電圧が前記波形で推移する前記第四出力電圧の前記波形の平均値を演算する平均値演算部と、演算された前記基準値と前記第三出力電圧及び前記第四出力電圧の前記各平均値とに基づき前記全範囲研削焼けの有無を判定する第一判定部と、を備える。この検査装置によって、上記工作物の研削焼け検査方法と同様、工作物の全範囲研削焼けの有無の判定を精度よく行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第一実施形態の工作物の研削焼け検査装置の概要図である。
図2A】第一出力電圧の特性の一例を説明するグラフである。
図2B】第二出力電圧の特性の一例を説明するグラフである。
図3】第一実施形態における全範囲研削焼けの検査方法のフローチャートである。
図4】第二実施形態の工作物の研削焼け検査装置の概要図である。
図5】第五出力電圧の波形を周波数解析したときに得られる振幅レベル(出力値)の特性を示すグラフである。
図6】第二実施形態における局所研削焼けの検査方法のフローチャートである。
図7】センサヘッドが取得する検査対象の工作物の回転位相角度毎における第五出力電圧の波形を示す図である。
図8】検査対象の工作物の周波数毎の振幅レベルの波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<1.第一実施形態>
(1−1.研削焼け検査装置の概要)
本発明の第一実施形態に係る工作物の研削焼け検査装置1の概要について説明する。図1に示す研削焼け検査装置1は、工作機械(研削盤)によって外周面が研削加工された工作物2のうち、検査対象の工作物2Bにおける所定の検査領域Ar1の全範囲に亘って、所定量以上の研削焼けである全範囲研削焼けの発生の有無を検査(検出)する装置である。
【0014】
なお、工作物2は、上述した検査対象の工作物2B(以後、工作物2Bとのみ称す)と、工作物2Bの研削加工部位における全範囲研削焼けの有無を判定するための基準値Bを設定するのに用いられる基準値設定用の基準工作物2Aとを含む。なお、所定の検査領域Ar1及び全範囲については、後に詳述する。
【0015】
この研削焼け検査装置1は、渦電流により発生させた磁気を用いた磁気方式の非破壊検査によって工作物2Bの研削焼けを検査する。磁気方式の非破壊検査によって、工作物の研削焼けを検査する場合は、通常、検査装置が、高周波の周波数に設定された励磁電流をセンサの一次コイルに供給し、これによって発生する磁場(磁界)を工作物に印加し、高周波励磁電流の周波数に対応する深さ(表層部)で渦電流を誘導する。
【0016】
その後、一次コイルと工作物とを相対移動させ、この移動によって変化する渦電流の出力電圧を、センサの二次コイルによって検出し取得する。そして、研削焼けが発生した部位では、研削焼けの発生前と比較して、その値が低下するとされる出力電圧の大きさに基づき、研削焼けの有無が判定される。
【0017】
しかしながら、工作物が「全範囲研削焼け」を有する場合、通常、研削焼け検査装置1で取得される表層部における出力電圧は、工作物が研削焼けを有さない場合と比較して、全範囲に亘ってほぼ一律に減少することがわかっている。このため、例えば、研削焼け(全範囲研削焼け)のない正常な工作物(基準工作物)の表層部における出力電圧を基準値とし、基準値と工作物2Bの表層部の出力電圧とを単純に比較しても、各母材のばらつきによる出力電圧の変動分と、全範囲研削焼けにより全範囲において一律にシフトする出力電圧の変動分との識別が容易ではない。これにより、全範囲研削焼けの有無の判定が困難となる場合がある。以下、上記の事情を踏まえて構成した全範囲研削焼けの有無の判定が可能な工作物の研削焼け検査装置1について詳細に説明する。
【0018】
なお、本実施形態において、基準工作物2Aは、外周面が研削加工された後において、表層部に研削焼けを有していない正常な工作物である。また、本実施形態において、工作物2は、磁性材料であって浸炭焼き入れした円筒状又は円柱状の部材(例えば、ベアリングの外輪等)を対象とする。ただし、工作物2は、浸炭焼き入れしたものに限らず、ズブ焼入れしたものでもよい。また他の処理が施されたものでもよい。
【0019】
(1−2.工作物の研削焼け検査装置の構成)
まず、第一実施形態に係る工作物の研削焼け検査装置1の構成について図1図2A図2B図3を参照して説明する。図1に示すように、研削焼け検査装置1は、磁気センサ10(本発明の「センサ」に相当)と、回転支持部20と、制御装置30(本発明の「制御部」に相当)と、を主体として構成される。
【0020】
磁気センサ10は、センサ本体11と、センサヘッド12と、測定装置13と、タッチセンサ14と、センサ送り機構15とを有する。センサ本体11には、後述する制御装置30の供給部31から、異なる二つの周波数に設定された励磁電流(高周波励磁電流Hi1、及び低周波励磁電流Li1)がそれぞれ交互に供給される。センサ本体11は、センサヘッド12の図略の一次コイルに上記励磁電流を供給する。
【0021】
センサヘッド12は、一次コイルに交互に供給された高周波励磁電流Hi1、及び低周波励磁電流Li1によって磁場(磁界)を発生させ、発生した磁場を基準工作物2A、工作物2Bの各外周面の所定の位置P1又は所定の検査領域Ar1の全範囲(外周面の周方向全周)に亘って順次印加し、深さの異なる二箇所の内部に渦電流を誘導する。これにより、センサヘッド12は、基準工作物2A、及び工作物2Bに対し、励磁電流の周波数に応じた浸透深さ(表層部及び深層部)で、第一出力電圧V1,第三出力電圧V3,第二出力電圧V2,及び第四出力電圧V4を取得する。
【0022】
第一出力電圧V1は、高周波励磁電流Hi1によって渦電流が基準工作物2Aの表層部で誘導され取得される。また、第三出力電圧V3は、高周波励磁電流Hi1によって渦電流が工作物2Bの表層部で誘導され取得される。また、第二出力電圧V2は、低周波励磁電流Li1によって渦電流が基準工作物2Aの深層部で誘導され取得される。さらに第四出力電圧V4は、低周波励磁電流Li1によって渦電流が工作物2Bの深層部で誘導され取得される。なお、第一出力電圧V1,第三出力電圧V3,第二出力電圧V2,及び第四出力電圧V4は、基準工作物2A及び工作物2Bの状態(変質状態)に伴い、その値が変化する特性を有する。
【0023】
つまり、センサヘッド12により高周波励磁電流Hi1による磁場が印加される基準工作物2A又は工作物2Bの外周面における所定の位置P1又は所定の領域Ar1の内部(表層部)では、第一出力電圧V1,又は第三出力電圧V3(波形)がセンサヘッド12の二次コイル(図略)により取得される。なお、基準工作物2A、又は工作物2Bの各外周面における所定の位置P1又は所定の領域Ar1は、図1に示すように、基準工作物2A及び工作物2Bの外周面の幅方向(つまり軸線方向)の中央において、周方向全周(一周)に亘る位置又は領域である。つまり、全範囲とは、基準工作物2A又は工作物2Bの回転位相角度で現すと360°の範囲となる。
【0024】
ただし、この態様には限らず、基準工作物2A又は工作物2Bの、所定の位置P1又は所定の検査領域Ar1は、外周面の幅方向における中央ではなく、幅方向における中央以外の何れかの位置における周方向全周であってもよい。また、基準工作物2Aの所定の位置P1は、外周面の周方向における全周でなくてもよく、周方向における一部であってもよい。さらには、基準工作物2Aの所定の位置P1は、外周面の一点であってもよい。
【0025】
また、センサヘッド12により低周波励磁電流Li1による磁場(磁界)が印加される基準工作物2A、及び工作物2Bの外周面における所定の位置P1又は所定の検査領域Ar1の内部(深層部)では、第二出力電圧V2(波形),又は第四出力電圧(波形)がセンサヘッド12の二次コイル(図略)により取得される。
【0026】
なお、センサヘッド12が検出し取得する第一出力電圧V1〜第四出力電圧V4は、センサヘッド12が表層部及び深層部にそれぞれ渦電流を誘導した状態で、基準工作物2A及び工作物2Bと、センサヘッド12(センサ本体11)とを相対移動させた場合に渦電流に生じる誘導起電力の出力電圧である。
【0027】
図1に示すように、測定装置13は、センサヘッド12が検出した第一出力電圧V1〜第四出力電圧V4をセンサ本体11から信号線を介して受信する。そして、測定装置13は、この第一出力電圧V1〜第四出力電圧V4を磁気センサ10の検出値として、後述する制御装置30の第一取得部32に出力する。
【0028】
タッチセンサ14は、センサ本体11の内部において、センサヘッド12の基端部に設けられた接触式のセンサである。このタッチセンサ14は、センサヘッド12を工作物2に所定の付勢力(押圧力)によって付勢するばね14aを有する。ばね14aにより、センサヘッド12は、工作物2と常に接触した状態となる。そして、タッチセンサ14は、ばね14aの伸縮状態に基づいて、センサヘッド12が工作物2に対して接触又は非接触の何れの状態にあるかを検出する。タッチセンサ14は、検出したセンサヘッド12の先端部の接触情報を制御装置30に出力する(図略)。
【0029】
センサ送り機構15は、センサ本体11の後方部(センサ本体11に対して工作物2と反対側)に設けられ、センサ本体11を工作物2の軸方向に移動可能に保持する。このセンサ送り機構15は、例えば、ボールねじとサーボモータ、又は、油圧機構等により構成される。また、センサ送り機構15は、工作物2とセンサ本体11との距離を変動させるように、工作物2に対してセンサ本体11を相対移動させる移動手段である。
【0030】
そして、センサ送り機構15は、センサ本体11を保持する保持部の移動方向位置(工作物2における径方向位置)を、図示しないサーボモータから検出する。位置センサ15aは、サーボモータから検出したセンサ本体11の位置情報を制御装置30へ出力する。これにより、制御装置30は、タッチセンサ14によるセンサヘッド12の接触情報及びセンサ送り機構15によるセンサ本体11の位置情報に基づいて、センサヘッド12の検査表面に対する離間距離(クリアランス)を検知する。
【0031】
回転支持部20は、駆動輪21と、調整車22を有し、工作物2を回転可能に支持する。駆動輪21は、工作物2の外周面と接触し、図示しないモータにより回転駆動することで工作物2を回転させる。また、駆動輪21は、図示しないモータの回転位置を検出するエンコーダ21aを有する。
【0032】
エンコーダ21aは、検出したモータの回転位置情報を制御装置30へ出力する。これにより、制御装置30は、初期情報である工作物2の直径や周長などを含む形状情報及びモータの回転位置情報に基づいて、センサヘッド12の工作物2に対する周方向位相(回転位相)を検知する。調整車22は、駆動輪21と共に工作物2を支持し、工作物2の外周面との摩擦力により従動回転する。
【0033】
制御装置30(制御部)は、図1に示すように、供給部31と、第一取得部32と、基準値演算部33と、第二取得部34と、平均値演算部35と、第一判定部36とを備える。
【0034】
供給部31は、測定装置13を介してセンサ本体11と連結され、高周波励磁電流Hi1、及び低周波励磁電流Li1をセンサ本体11にそれぞれ供給する。高周波励磁電流Hi1は、基準工作物2A,及び工作物2Bの表層部を浸透深さとする周波数帯に含まれる周波数の励磁電流である。この周波数は、100kHzより高く1.0MHzより低い範囲に設定され、本実施形態では250kHzに設定される。工作物2において、表層部は、工作物2の外周面に研削加工を行なうことによって、研削焼けが生じうる範囲の深さである。
【0035】
また、低周波励磁電流Li1は、表層部の下方の深層部を浸透深さとする周波数帯に含まれる周波数の励磁電流である。この周波数は、100kHzより低く0.1kHzより高い範囲に設定され、本実施形態では500Hzに設定される。深層部は、工作物2の外周面に研削加工を行なっても、研削焼けが生じない範囲の深さである。つまり、深層部は、主に母材の特性のみを有している。
【0036】
第一取得部32は、測定装置13と接続される。第一取得部32は、研削焼けを有さない複数(例えば5個)の正常な基準工作物2Aの表層部における第一出力電圧V1及び深層部における第二出力電圧V2を取得する。基準工作物2Aから、第一出力電圧V1及び第二出力電圧V2を取得する方法については、上述したとおりである。第一取得部32は、基準値演算部33と接続され、取得した第一出力電圧V1及び第二出力電圧V2を基準値演算部33に出力する。なお、このとき、第一出力電圧V1及び第二出力電圧V2を取得する基準工作物2Aの個数は、一個でもよいが、その数は多いほど好ましい。
【0037】
基準値演算部33は、センサヘッド12(磁気センサ10)が取得した第一出力電圧V1(図2A参照)及び第二出力電圧V2(図2B参照)に基づき、検査対象の工作物2Bの所定の検査領域Ar1(図1参照)の全範囲(外周面の周方向全周)に亘って研削焼けが発生する全範囲研削焼けの有無を判定するための基準値Bmを演算する。
【0038】
基準値演算部33は、基準値Bmを設定する基になる基準値Bを、下記式(1)に基づき演算する。
[数1] B=Av1−Av2・・・(1)
Av1:第一出力電圧V1の平均値
Av2:第二出力電圧V2の平均値
【0039】
このとき、基準値Bは、各基準工作物2A毎に、それぞれ各第一出力電圧V1の平均値Av1から各第二出力電圧V2の平均値Av2を減算して求める。本実施形態においては、通常、第一出力電圧V1の平均値Av1は、第二出力電圧V2の平均値Av2よりも大きい。このため、式(1)によって、基準値Bは、基準値として適する正の値で得られる。また、第一出力電圧V1の平均値Av1から各第二出力電圧V2の平均値Av2を減算することで、第一出力電圧V1及び第二出力電圧V2にともに含まれる母材のばらつきによる変動分が相殺される。
【0040】
そして、本実施形態においては、このように演算した複数の基準値Bのうち最大の基準値Bを基準値Bmとして設定する。ただし、この態様には限らず、基準値Bmは、演算した複数の基準値Bのばらつき(σ)を求めたうえで、3σ、若しくは4σ等に相当する出力電圧としてもよい。そして、設定された基準値Bmは、第一判定部36に出力され記憶される。
【0041】
なお、上記態様に限らず、基準値Bは、各基準工作物2A毎に、それぞれ各第一出力電圧V1の平均値Av1の絶対値|Av1|から各第二出力電圧V2の平均値Av2の絶対値|Av2|を減算して求めてもよい。これによっても、基準値Bは、基準値として適する正の値で得られる。
【0042】
第二取得部34は、測定装置13と接続される。第二取得部34は、センサヘッド12(磁気センサ10)が取得した工作物2Bの表層部における第三出力電圧V3、及び深層部における第四出力電圧V4を測定装置13から取得する。工作物2Bから第三出力電圧V3及び第四出力電圧V4を取得する方法については、上述したとおりである。また、第二取得部34は、平均値演算部35に接続される。そして、取得した第三出力電圧V3、及び第四出力電圧V4を平均値演算部35に出力する。
【0043】
平均値演算部35は、第三出力電圧V3及び第四出力電圧V4の全範囲(工作物2Bの外周面全周)に亘る各平均値Av3、Av4を演算する。なお、各平均値Av3、Av4は、どのような計算方法により求めてもよい。
【0044】
第一判定部36は、演算された基準値Bmと、第三出力電圧V3及び第四出力電圧V4の各平均値Av3,Av4と、に基づき全範囲研削焼けの有無を判定する。具体的には、基準値Bmと、第三出力電圧V3の平均値Av3の絶対値|Av3|から第四出力電圧V4の平均値Av4の絶対値|Av4|を減算した差分と、の大小によって全範囲研削焼けの有無を判定する。つまり、下記式(2)を満たしたときに工作物2Bには全範囲研削焼けがあると判定される。
【0045】
[数2] Bm<|Av3|−|Av4|・・・(2)
Bm:基準値
Av3:第三出力電圧V3の平均値
Av4:第四出力電圧V4の平均値
【0046】
なお、表層部に研削焼けが生じている場合、第三出力電圧V3は低下する傾向にあり、値として負となる場合がある。このため、上記式(2)では、第三出力電圧V3及び第四出力電圧V4の平均値を共に絶対値とすることで、差分を正側の数値にし、基準値Bmとの比較を成立させる。
【0047】
また、第三出力電圧V3の平均値Av3の絶対値|Av3|から第四出力電圧V4の平均値Av4の絶対値|Av4|を減算することで、第三出力電圧V3及び第四出力電圧V4にともに含まれる母材のばらつきによる変動分が相殺される。
【0048】
また、上記態様に限らず、基準値Bmと比較する第三出力電圧V3及び第四出力電圧V4の各平均値Av3,Av4の間の差分は、|Av4−Av3|によって求めてもよい。また、工作物2Bの各回転位相において、それぞれ対応する第三出力電圧V3及び第四出力電圧V4の各出力電圧値v3、v4に対し、|v4−v3|の平均値を演算して、基準値Bmと比較してもよい。さらには、各出力電圧値v3、v4に対し、(v4−v3)の平均値を演算して、基準値Bmと比較してもよい。いずれにおいても相応の効果が期待できる。
【0049】
(1−3.工作物の全範囲研削焼けの検査方法)
次に、工作物の全範囲研削焼けの検査方法について図3のフローチャートに基づき説明する。第一実施形態に係る研削焼け検査装置1を用いた研削焼け検査方法は、研削加工された検査対象の工作物2Bにおける所定の検査領域Ar1の全範囲に亘って所定量以上の研削焼けである全範囲研削焼けが発生したか否かを検査する。なお、以下の検査を行なうに当たって、制御装置30は、回転支持部20を制御し、基準工作物2A、及び工作物2Bを所定の回転数で回転させる。
【0050】
工程S10(第一取得工程)では、第一出力電圧V1を取得する。このため、まず、制御装置30が供給部31を制御し、センサヘッド12に高周波励磁電流Hi1を供給する。これにより、センサヘッド12は、基準工作物2Aの外周面の所定に位置P1の一部に磁場を印加し、基準工作物2Aの表層部(内部)に渦電流を誘導する。なお、このとき、センサヘッド12は、研削焼けを有していない正常な基準工作物2Aの外周面の所定の位置P1に接触している。
【0051】
そして、基準工作物2Aとセンサヘッド12とが相対移動することにより、表層部に第一出力電圧V1が生じ、センサヘッド12は、生じた第一出力電圧V1を取得する。このとき、正常な基準工作物2Aの第一出力電圧V1は、表層部における母材のばらつきによる変動分を含んだ出力電圧である。取得された第一出力電圧V1は、センサ本体11を介して測定装置13に入力される。その後、取得された第一出力電圧V1は測定装置13から制御装置30の第一取得部32に出力され、第一取得部32で記憶される。
【0052】
次に、工程S20(第二取得工程)では、第一取得工程S10において、所定の位置P1の一部で第一出力電圧V1の取得が完了した直後に、制御装置30が供給部31を制御し、センサヘッド12に低周波励磁電流Li1を供給する。これにより、センサヘッド12は、基準工作物2Aに磁場を印加し、基準工作物2Aの深層部(内部)に渦電流を誘導する。
【0053】
そして、基準工作物2Aとセンサヘッド12とが相対移動することにより、深層部に第二出力電圧V2が生じ、センサヘッド12は、生じた第二出力電圧V2を取得する。このとき、正常な基準工作物2Aの第二出力電圧V2は、第一出力電圧V1と同様、深層部における母材のばらつきによる変動分を含んだ出力電圧である。取得された第二出力電圧V2は、センサ本体11を介して測定装置13に入力される。その後、取得された第二出力電圧V2は測定装置13から制御装置30の第一取得部32に出力され、第一取得部32で記憶される。なお、上記において、工程S10(第一取得工程)及び工程S20(第二取得工程)は、その処理順序を逆にしてもよい。
【0054】
工程S30(第一確認工程)では、工程S10及び工程S20における第一出力電圧V1及び第二出力電圧V2の取得が、予め設定した基準工作物2Aの外周面の所定の位置P1の全範囲に亘って終了したか否かが確認される。なお、本実施形態では、全範囲とは、基準工作物2Aの外周面の周方向一周(360度)であるものとする。
【0055】
第一出力電圧V1及び第二出力電圧V2の取得が、外周面の全範囲に亘って行われていれば、次に工程S40の処理を行なう。全範囲に亘って行われていなければ、全範囲に亘って行われたことが工程S30で確認できるまで、S10〜S30の処理を繰り返し行なう。
【0056】
工程S40(第二確認工程)では、第一出力電圧V1及び第二出力電圧V2の取得が完了した基準工作物2Aの個数の確認が行なわれる。第一出力電圧V1及び第二出力電圧V2の取得が完了した基準工作物2Aの個数が、予め設定した数(例えば5個)に到達していれば、次に工程S50の処理を行なう。予め設定した数に到達していなければ、完了した基準工作物2Aの個数が、予め設定した数に到達するまで、S10〜S40の処理を繰り返し行なう。なお、第一出力電圧V1、及び第二出力電圧V2を取得する基準工作物2Aの個数は、任意に設定すればよい。基準工作物2Aの個数が多いほど、後に設定する基準値Bに対する信頼性は向上するが、測定にコストがかかるので、実施者が各自で設定すればよい。
【0057】
なお、上記において、基準工作物2Aが実際に研削焼けのない正常な工作物であるか否かの判断は、工程S10から工程S40において第一出力電圧V1及び第二出力電圧V2を取得したのち、対応する各基準工作物2Aに対して、例えばエッチングによる破壊検査を行ない確認すればよい。そして、実際に研削焼けがなかった工作物のみを基準工作物2Aとし、これに対応する第一出力電圧V1及び第二出力電圧V2を基準工作物2Aの出力電圧として使用すればよい。なお、上記態様には限らず、工程S10(第一取得工程)及び工程S20(第二取得工程)の処理を行なう前に、正常品であることの確認検査を行ない、正常品と確認された工作物を基準工作物2Aとして準備しておいてもよい。
【0058】
工程S50(基準値設定工程)では、基準値演算部33によって基準値Bmが演算され設定される。基準値Bmは、検査対象の工作物2Bの所定の検査領域Ar1の全範囲に亘る全範囲研削焼けの有無を判定するための基準値である。詳細には、まず、第一取得部32が記憶する複数の基準工作物2Aの各第一出力電圧V1及び各第二出力電圧V2のそれぞれの平均値Av1,Av2を求める。そして、各基準工作物2A毎における第一出力電圧V1の平均値Av1及び各第二出力電圧V2の平均値Av2の差分である基準値Bを上記式(1)に基づいて算出する。
【0059】
このようにして得られた各平均値Av1,Av2の差分(基準値B)は、正常な基準工作物2Aの第一出力電圧V1及び第二出力電圧V2に基づくものであり、母材のばらつき分が相殺されて除去された出力電圧となっている。そして、得られた複数の差分(基準値B)のうち、最大の差分を本実施形態で使用する基準値Bmとする。基準値Bmは、制御装置30の第一判定部36に出力される。上記工程S10−工程S50は、第一出力電圧V1及び第二出力電圧V2に基づいて基準値Bmを設定するための工程である。
【0060】
次に、工程S60(第三取得工程)では、第三出力電圧V3を取得する。このため、工程S10と同様、制御装置30が供給部31を制御し、センサヘッド12に高周波励磁電流Hi1を供給する。これにより、センサヘッド12は、工作物2Bの外周面の所定の検査領域Ar1の一部に磁場を印加し、工作物2Bの表層部(内部)に渦電流を誘導する。
【0061】
そして、工作物2Bとセンサヘッド12とが相対移動することにより、表層部に第三出力電圧V3が生じ、センサヘッド12は、生じた第三出力電圧V3を取得する。このとき、工作物2Bの第三出力電圧V3は、工作物2Bの表層部における母材のばらつきによる変動分のみ、若しくは母材のばらつきによる変動分及び研削焼けによる変動分を含んだ出力電圧である。取得された第三出力電圧V3は、センサ本体11を介して測定装置13に入力される。センサヘッド12に取得された第三出力電圧V3は測定装置13を介して制御装置30の第二取得部34に出力され、第二取得部34で記憶される。
【0062】
工程S70(第四取得工程)では、工程S60において、工作物2Bの外周面の所定の検査領域Ar1の一部で第三出力電圧V3の取得が完了した直後に、制御装置30が供給部31を制御し、センサヘッド12に低周波励磁電流Li1を供給する。これにより、センサヘッド12が、工作物2Bの検査領域Ar1に磁場を印加し、工作物2Bの深層部(内部)に渦電流を誘導する。
【0063】
そして、工作物2Bとセンサヘッド12とが相対移動することにより、深層部に第四出力電圧V4が生じ、センサヘッド12が、生じた第四出力電圧V4を取得する。このとき、第四出力電圧V4は、工作物2Bの深層部における母材のばらつきによる変動分のみを含んだ出力電圧である。取得された第四出力電圧V4は、センサ本体11を介して測定装置13に入力される。その後、取得された第四出力電圧V4は測定装置13から制御装置30の第二取得部34に出力され、第二取得部34で記憶される。なお、上記において、工程S60(第三取得工程)及び工程S70(第四取得工程)は、その処理順序を逆にしてもよい。
【0064】
工程S80(第三確認工程)では、工程S30と同様、第三取得工程S60及び第四取得工程S70における第三出力電圧V3、及び第四出力電圧V4の取得が、予め設定した工作物2Bの外周面の所定の検査領域Ar1の全範囲に亘って終了したか否かが確認される。なお、本実施形態では、全範囲とは、工作物2Bの外周面の周方向一周(360度)である。
【0065】
第三出力電圧V3及び第四出力電圧V4の取得が、外周面の周方向全周に亘って行われていれば、次に工程S90の処理を行なう。第三出力電圧V3及び第四出力電圧V4の取得が、外周面の周方向全周に亘って行われていなければ、工程S80で周方向全周に亘って行われたことが確認できるまで、S60〜S80の処理を繰り返し行なう。
【0066】
工程S90(平均値演算工程)では、平均値演算部35が、第二取得部34から第三出力電圧V3及び第四出力電圧V4を取得し、第三出力電圧V3及び第四出力電圧V4の全範囲(外周面全周)に亘る各平均値Av3、Av4を演算する。このように、上記工程S60〜工程S90は、第三出力電圧V3及び第四出力電圧V4の各平均値Av3,Av4を得るための工程である。
【0067】
次に、工程S100(第一判定工程)では、第一判定部36が、基準値Bmと、各平均値Av3,Av4とに基づき全範囲研削焼けの有無を判定する。具体的には、基準値Bmと、平均値Av3及び平均値Av4の差分と、の大小によって判定する。つまり、上記式(2)を満たしたときに、工作物2Bに全範囲研削焼けがあると判定される(工程S102)。上記式(2)を満たさない場合は、工作物2Bには全範囲研削焼けがないと判定される(工程S104)。
【0068】
このとき、基準値Bmは、上述したように、母材のばらつきによる変動分が除去されたデータとなっている。また、(|Av3|−|Av4|)についても、基準値Bmと同様の理由によって母材のばらつきによる変動分が除去されている。即ち、母材のばらつきによる変動分が除去された「基準値Bm」及び「|Av3|−|Av4|」に基づき判定を行なうので、平均値Av3が有する全範囲研削焼による変動分が良好に抽出でき、精度よく全範囲研削焼の有無の判定が行なえる。
【0069】
そして、工程S100,S102,S104において、1個の工作物2Bの全範囲研削焼けの有無が判定されると、次の工作物2Bに対して全範囲研削焼けの有無の検査が開始される。この場合、工作物2Bに対する処理は工程S60(第三取得工程)から開始すればよい。そして、検査が必要な全ての工作物2Bの検査が終了するまで、S10〜S104までの工程(処理)が繰り返し実施される。このように、工程S100,S102,S104は、基準値Bと、各平均値Av3,Av4とに基づいて全範囲研削焼けの判定を行なう工程である。
【0070】
なお、上記実施形態においては、工程S10−工程S50によって、基準値を設定したがこの態様には限らない。基準値Bmは、どのようにして設定してもよい。例えば、事前に別の場所で設定し、その設定値を使用してもよい。
【0071】
<2.第二実施形態>
(2−1.研削焼け検査装置の概要)
次に、第二実施形態について図4図8に基づき説明する。第二実施形態の研削焼け検査装置100は、上記の第一実施形態に対し、さらに工作物2Bの外周面における全範囲のうちの一部に研削焼けが生じる局所研削焼けの検出も精度よく行なうことが可能な検査装置である。このため、研削焼け検査装置100は、第一実施形態の研削焼け検査装置1に対して、局所研削焼けを検出する構成が追加されており、その他については、研削焼け検査装置1と同様である。よって、変更部のみ説明し、他の同様部分についての詳細な説明は省略する。また、同様の構成については、同じ符号を付して説明する場合がある。
【0072】
なお、局所研削焼けを検出する場合、高周波励磁電流Hi1のみを使用して検査を行なう。このため、第一実施形態の研削焼け検査装置1のように、高周波励磁電流Hi1、及び低周波励磁電流Li1を使用して全範囲研削焼けを検出する場合よりも簡易である。また、低周波励磁電流Li1を使用し全範囲研削焼けを検出する研削焼け検査装置1よりも、高速で局所研削焼けの検出ができる。このため、第二実施形態では、検査を効率的に行なうため、工作物2Bの局所研削焼けを全数検査したのち、局所研削焼けがなかった良品のみに対して全範囲研削焼けの検出を行なう。
【0073】
局所研削焼けがなかった良品のみに対して全範囲研削焼けの検出を行なう理由は、「局所研削焼け無し」と判定された工作物2Bの中には、全範囲研削焼けが生じているために、局所研削焼けと判定されなかったものも含まれている場合があるためである。つまり、工作物2Bに全範囲研削焼けが生じている場合には、第五出力電圧V5に対し周波数解析(高速フーリエ変換(FFT))して周波数毎の出力値を演算すると、出力値は正常品と同等の結果となる場合があるためである。また、局所研削焼けを検出する場合、工作物は、研削焼けのない正常な基準工作物2Aを使用する必要はない。この点においても、局所研削焼けは、短時間で検査可能となる。
【0074】
一般的に、工作物2に研削焼けがあると、第一実施形態で説明したように出力電圧(誘導起電力)は低下する。しかし、出力電圧は、前述したように母材のばらつきによっても低下する。発明者は、高周波励磁電流Hi1により渦電流を誘導し得られる出力電圧を周波数解析して振幅レベル(本発明の「出力値」に相当)を求めることで工作物2の研削焼けと母材のばらつきを切り分けられることを見出した。そこで、研削焼け検査装置100で検出される出力電圧を周波数解析して求めた振幅レベルに基づいて工作物2の局所研削焼けを検査することにした。
【0075】
(2−2.研削焼け検査装置の詳細)
研削焼け検査装置100は、制御装置30が供給部31を制御し、磁気センサ10(センサに相当)のセンサヘッド12に高周波励磁電流Hi1を供給する。そして、センサヘッド12は、検査対象の工作物2Bの所定の検査領域Ar1の全範囲(外周面の周方向全周)に順次磁場を印加し、工作物2Bの表層部(内部)に渦電流を誘導する。なお、このときセンサヘッド12は、工作物2Bの外周面に接触していなくてもよいし、接触していてもよい。
【0076】
そして、工作物2Bとセンサヘッド12とが相対移動することにより、表層部に第五出力電圧V5が生じ、センサヘッド12は、生じた第五出力電圧V5を取得する。取得された第五出力電圧V5は、センサ本体11を介して測定装置13に入力され、その後、測定装置13から制御装置30の第一取得部32に出力され、第一取得部32で記憶される。なお、第五出力電圧V5は、第一実施形態における第三出力電圧V3と同じものである。
【0077】
図4に示すように、制御部30は、出力値演算部37と、記憶部38と、第二判定部39と、をさらに備える。出力値演算部37は、第一取得部32及び第二判定部39に接続される。出力値演算部37は、磁気センサ10が取得した第五出力電圧V5の波形を第一取得部32から取得し、周波数解析して周波数毎の振幅レベル(出力値)を演算する。また、出力値演算部37は、演算した振幅レベル(出力値)を第二判定部39に出力する。
【0078】
記憶部38は、第二判定部39に接続される。記憶部38は、工作物2Bの局所焼けの有無を判定するための振幅レベル(出力値)の閾値を記憶する。なお、閾値は予め正常品を評価して設定し記憶部38に記憶させておけばよい。閾値の設定の方法は、まず、第五出力電圧V5の波形を周波数解析(高速フーリエ変換(FFT))して周波数毎の振幅レベル(出力値)を求める。そして、この処理を複数の工作物2Bに対して行ない、取得した複数の周波数毎の振幅レベル(出力値)のうち最大値を閾値とする(図5参照)。
【0079】
第二判定部39は、出力値演算部37で求めた周波数毎の振幅レベル(出力値)のうち周波数F1(図5図8参照)以上で、且つ記憶部38から読み出した閾値を超えた場合に、検査対象の工作物2Bの表層部における所定の検査領域Ar1の全範囲のうちの一部に所定量以上の研削焼けが発生する局所研削焼けがあると判定する。
【0080】
(2−3.局所研削焼け検査方法)
前述したように、第二実施形態では、はじめに全ての検査対象の工作物2Bに対して局所焼けに対する検査を実施する。そして、その後、第一実施形態の全範囲研削焼けの検査を行なう。全範囲研削焼けについては第一実施形態と同様であるので、説明を省略する。研削焼け検査装置100による局所研削焼けの検査方法を図6のフローチャートを参照して説明する。
【0081】
工程S110(第五取得工程)では、第五出力電圧V5を検出し取得する。取得方法は上記で説明したとおりであり、第三出力電圧V3の取得方法と同様である。このとき、第五出力電圧V5は、工作物2Bの表層部における母材のばらつきによる変動分のみ、若しくは、母材のばらつきによる変動分及び研削焼けによる変動分を含んだ出力電圧である。
【0082】
取得された第五出力電圧V5は、センサ本体11を介して測定装置13に入力される。その後、取得された第五出力電圧V5は、測定装置13から制御装置30の第一取得部32に出力され、第一取得部32で記憶される。
【0083】
工程S120(演算工程)では、図7に示す第五出力電圧V5の波形を周波数解析(高速フーリエ変換(FFT))して周波数毎の出力値を演算する。図7の一点鎖線で示す第五出力電圧V5の波形のうち、値が低下している部分B11,B12,B13が母材のばらつきによる変動分を示し、第五出力電圧V5の値が低下している部分A11,A12,A13,A14が、研削焼けによる変動分を示す。このように、第五出力電圧V5の波形には、母材のばらつきによる変動分と研削焼けによる変動分が含まれるので、第五出力電圧V5の波形のみでは母材のばらつきによる反応と研削焼けによる反応を区別することが困難である。
【0084】
図8は、図7に示す第五出力電圧V5(誘導起電力)を高速フーリエ変換して求めた工作物2Bの周波数毎の振幅レベル(出力値)である。そして、制御装置30は、1Hz以上の周波数領域において振幅レベルと閾値とを比較する。
【0085】
工程S130(第二判定工程)では、周波数毎の振幅レベル(出力値)が予め設定した閾値を超えている場合、工程S140において、工作物2Bは、表層部における所定の検査領域Ar1の全範囲(外周面全周)のうちの一部に所定量以上の局所研削焼けを有すると判定する。また、振幅レベルが閾値を超えていない場合、工程S150において、局所研削焼け無し、と判定する。
【0086】
ただし、前述したように、工程S150において、「局所研削焼け無し」と判定された工作物2Bの中には、全範囲研削焼けが生じているものも含まれている場合がある。つまり、工作物2Bに全範囲研削焼けが生じている場合には、第五出力電圧V5に対し周波数解析(高速フーリエ変換(FFT))して周波数毎の出力値を演算すると、出力値は正常品と同等の結果となる場合がある。
【0087】
そこで、工作物2Bの局所研削焼けの検査が全数個完了したのち、工程S150で局所研削焼けがなく良品とされた工作物2Bのみに対して、第一実施形態において説明した全範囲研削焼けの検査を行なう。これにより、局所研削焼け及び全範囲研削焼けが全てもれなく検出できる。このように、研削焼け検査装置100は、工程S110〜工程S150の処理によって、工作物2Bに対する局所研削焼けが短時間で検出できる。
【0088】
<3.その他>
なお、上記第一、第二実施形態によれば、工作物2は円筒状又は円柱状の部材であるとしたが、これには限らず、センサヘッド12によって、出力電圧を取得して研削焼けの検査ができればどのような形状で形成されていてもよい。例えば、工作物2は平面状の部材であってもよい。また、波状の表面を有する部材であってもよい。これらによっても、上記実施形態と同様の効果が得られる。
【0089】
また、上記第一実施形態によれば、センサヘッド12は、工作物2と常に接触した状態で出力電圧を取得するものとして説明した。しかし、この態様には限らない。センサヘッド12は、工作物2と非接触の状態で出力電圧を取得するタイプのものでもよい。これによっても相応の効果は得られる。
【0090】
また、上記第二実施形態の研削焼け検査方法においては、局所研削焼けの検査が完了したのち、全範囲研削焼けの検査を行なうものとして説明した。これは、局所研削焼けの方が、全範囲研削焼けに比べて発生しやすいため、局所研削焼けの検査を先に行なうことで、効率よく異常品の抽出ができるためである。ただし、加工条件等の諸条件によっては、全範囲研削焼けのほうが局所研削焼けよりも発生しやすくなる場合もある。このような場合には、全範囲研削焼けの検査を、局所研削焼けの検査に先んじて行ってもよい。つまり、先に全範囲研削焼けの検査を行なったのち、良品と判定された工作物2Bに対して局所研削焼けの検査を行なってもよい。
【0091】
また、上記第二実施形態の研削焼け検査方法においては、局所研削焼けの検査を行う際、閾値は別の場所で設定し、設定した値を記憶部38に記憶させて検査を行なうものとした。しかし、この態様には限らない。閾値は、研削焼け検査方法の工程の中で設定してもよい。
【0092】
<4.実施形態による効果>
上記実施形態によれば、研削焼けの検査方法は、研削加工された検査対象の工作物2Bの内部に励磁電流により渦電流を発生させ、発生した渦電流に応じた出力電圧に基づいて検査対象の工作物の加工部位の表層部における研削焼けの有無を判定する。研削焼けを有していない基準工作物2Aの所定の位置の内部に高周波励磁電流Hi1により渦電流を発生させた場合の第一出力電圧V1を取得する第一取得工程S10と、基準工作物2Aの所定の位置P1の内部に低周波励磁電流Li1により渦電流を発生させた場合の第二出力電圧V2を取得する第二取得工程S20と、第一出力電圧V1及び第二出力電圧V2に基づき、検査対象の工作物2Bの所定の検査領域Ar1の全範囲に亘って研削焼けが発生する全範囲研削焼けの有無を判定するための基準値Bmを設定する基準値設定工程S50と、検査対象の工作物2Bの所定の検査領域Ar1の全範囲の内部に高周波励磁電流Hi1により渦電流を発生させた場合の第三出力電圧V3を取得する第三取得工程S60と、検査対象の工作物2Bの所定の検査領域Ar1の全範囲の内部に低周波励磁電流Li1により渦電流を発生させた場合の第四出力電圧V4を取得する第四取得工程S70と、基準値Bm、第三出力電圧V3の平均値Av3及び第四出力電圧V4の平均値Av3に基づき、全範囲研削焼けの有無を判定する第一判定工程S100と、を備える。
【0093】
このように、高周波励磁電流Hi1及び低周波励磁電流Li1により、研削焼けのない基準工作物2Aの所定の位置P1の内部(表層部)に発生した渦電流に応じ取得した表層部における第一出力電圧V1、及び表層部より深い位置である深層部における第二出力電圧V2に基づいて、全範囲研削焼けの有無を判定するための基準値Bmを設定する。また、検査対象である工作物2Bに対しても、基準工作物2Aと同様に、第一出力電圧V1に対応する第三出力電圧V3と、第二出力電圧V2に対応する第四出力電圧V4を取得する。このとき、第一出力電圧V1及び第三出力電圧V3は、工作物の表層部における出力電圧である。
【0094】
このため、第一出力電圧V1は、母材毎に異なるばらつきによる変動分を含んだ出力電圧となる。また、第三出力電圧V3は、表層部に研削焼けが生じている場合、母材毎に異なるばらつきによる変動分と研削焼けによる変動分とを含んだ出力電圧となる。よって、第一出力電圧V1を基準値として、工作物2Bの全範囲研削焼けの有無を基準値と第三出力電圧V3との比較によって判定しようとすると、工作物2Bの表層部における母材のばらつきによる変動分と、表層部に生じた研削焼けによる変動分との識別がつけにくく、全範囲研削焼けを精度よく判定することが難しい。
【0095】
しかし、本発明では、基準値を設定する際、第一出力電圧V1だけでなく、母材のばらつきによる変動分のみを含む深層部における第二出力電圧V2も合わせて全範囲研削焼けの有無の判定に用いる。また、基準値Bmと比較するため工作物2Bから取得する出力電圧も、第三出力電圧V3だけでなく、研削焼けによる影響を受けず母材のばらつきによる変動分のみを含む第四出力電圧V4も合わせて用いる。
【0096】
従って、基準値Bmは、第一出力電圧V1及び第二出力電圧V2に基づいて母材のばらつきによる変動分を相殺した基準値Bmとして設定可能である。また、基準値Bmと比較するために検査対象の工作物2Bから取得する出力電圧も第三出力電圧V3及び第四出力電圧V4に基づいて、母材のばらつきによる変動分を相殺した出力電圧とすることが可能である。即ち、母材のばらつきによる変動分を含まない基準値Bm及び出力電圧(第三出力電圧V3及び第四出力電圧V4に基づく)に基づいて表層部における全範囲研削焼けの有無を判定するので、母材のばらつきに影響されない精度のよい判定結果が得られる。
【0097】
また、上記実施形態の検査方法によれば、基準値設定工程S50において、基準値Bmは、第一出力電圧V1の平均値Av1及び第二出力電圧V2の平均値Av2に基づき設定される。これにより、基準値Bmが簡易に設定できるとともに、第一出力電圧V1及び第二出力電圧V2の一部に特異な点があっても基準値Bmとして良好に設定できる。
【0098】
また、上記実施形態の検査方法によれば、第一判定工程S100では、基準値Bmと、第三出力電圧V3の平均値Av3及び第四出力電圧V4の平均値Av4の差分と、の大小によって全範囲研削焼けの有無を判定する。これにより、母材のばらつきによる変動分が除去された状態で基準値Bmと差分とが比較されるので、精度のよい全範囲研削焼けの判定結果が得られる。
【0099】
また、上記実施形態の検査方法によれば、基準工作物2A及び検査対象の工作物2Bは、円柱状又は円筒状であり、加工部位は外周面である。これにより、工作物を軸線周りに回転させながら安定した状態で出力電圧の取得ができるので、精度のよい判定結果が得られる。
【0100】
また、上記第二実施形態の研削焼け検査方法によれば、第一実施形態に対し、さらに、検査対象の工作物2Bの所定の検査領域Ar1の全範囲の内部に高周波励磁電流Hi1により渦電流を発生させた場合の第五出力電圧V5を取得する第五取得工程S110と、第五出力電圧V5の波形を周波数解析により周波数毎の出力値を演算する演算工程S120と、周波数毎の出力値が出力値に対応する周波数毎の閾値を超えた場合に、検査対象の工作物2Bの表層部における所定の検査領域Ar1の全範囲のうちの一部に所定量以上の研削焼けが発生する局所研削焼けがあると判定する第二判定工程S130と、を備える。これにより、工作物2Bの母材にばらつきがあっても、局所研削焼けが精度よく検出できる。
【0101】
また、上記実施形態によれば、研削焼け検査装置1,100は、研削加工された検査対象の工作物の内部に励磁電流により渦電流を発生させ、発生した渦電流に応じた出力電圧に基づいて前記検査対象の工作物の加工部位の表層部における研削焼けの有無を判定する。そして、研削焼け検査装置1,100は、磁気センサ10(センサ)と、制御装置30(制御部)と、を備える。
【0102】
磁気センサ10は、研削焼けを有していない基準工作物2Aの所定の位置P1の内部に高周波励磁電流Hi1、及び低周波励磁電流Li1により渦電流を発生させた場合の第一出力電圧V1及び第二出力電圧V2を取得するとともに、検査対象の工作物2Bの所定の検査領域Ar1の全範囲の内部に高周波励磁電流Hi1、及び低周波励磁電流Li1により渦電流を発生させた場合の第三出力電圧V3及び第四出力電圧V4を取得する。
【0103】
また、制御装置30(制御部)は、磁気センサ10が取得した第一出力電圧V1及び第二出力電圧V2に基づき、検査対象の工作物2Bの所定の検査領域Ar1の全範囲に亘って研削焼けが発生する全範囲研削焼けの有無を判定するための基準値Bmを演算する基準値演算部33と、磁気センサ10が取得した第三出力電圧V3及び第四出力電圧V4の各平均値Av3,Av4を演算する平均値演算部35と、演算された基準値Bmと第三出力電圧V3及び第四出力電圧V4の各平均値Av3,Av4と、に基づき全範囲研削焼けの有無を判定する第一判定部36と、を備える。これにより、研削焼け検査装置1,100で得られる工作物2Bの検査結果において、上記研削焼け検査方法で得られる工作物2Bの検査結果に対する効果と同等の効果が得られる。
【0104】
また、上記第二実施形態の研削焼け検査装置100によれば、第一実施形態の研削焼け検査装置1に対し、磁気センサ10(センサ)は、検査対象の工作物2Bの所定の検査領域Ar1の全範囲の内部に高周波励磁電流Hi1により渦電流を発生させた場合の第五出力電圧V5を取得する。また、制御装置30(制御部)は、磁気センサ10(センサ)が取得した第五出力電圧V5の波形を周波数解析し周波数毎の出力値を演算する出力値演算部37と、出力値に対応する周波数毎の閾値を記憶する記憶部38と、周波数毎の出力値が記憶部38に記憶された出力値に対応する周波数毎の閾値を超えた場合に、検査対象の工作物2Bの表層部における所定の検査領域Ar1の全範囲のうちの一部に所定量以上の研削焼けが発生する局所研削焼けがあると判定する第二判定部39と、を備える。これにより研削焼け検査装置100で得られる工作物2Bの検査結果において、上記第二実施形態の研削焼け検査方法で得られる工作物2Bの検査結果に対する効果と同等の効果が得られる。
【符号の説明】
【0105】
1,100・・・研削焼け検査装置、 2,2A,2B・・・工作物、 10・・・センサ(磁気センサ)、 30・・・制御部(制御装置)、 31・・・供給部、 32・・・第一取得部、 33・・・基準値演算部、 34・・・第二取得部、 35・・・平均値演算部、 36・・・第一判定部、 37・・・出力値演算部、 38・・・記憶部、 39・・・第二判定部、 Ar1・・・検査領域、 Av1,Av2,Av3,Av4・・・平均値、 Bm・・・基準値、 Hi1・・・高周波励磁電流、 Li1・・・低周波励磁電流、 P1・・・位置、 S10・・・第一取得工程、 S20・・・第二取得工程、 S50・・・基準値設定工程、 S60・・・第三取得工程、 S70・・・第四取得工程、 S90・・・平均値演算工程、 S100・・・第一判定工程、 S110・・・第五取得工程、 S120・・・演算工程、 S130・・・第二判定工程、 V1・・・第一出力電圧、 V2・・・第二出力電圧、 V3・・・第三出力電圧、 V4・・・第四出力電圧、 V5・・・第五出力電圧。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8