特許第6786957号(P6786957)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6786957
(24)【登録日】2020年11月2日
(45)【発行日】2020年11月18日
(54)【発明の名称】アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
   F16H 33/02 20060101AFI20201109BHJP
【FI】
   F16H33/02 B
【請求項の数】3
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-165687(P2016-165687)
(22)【出願日】2016年8月26日
(65)【公開番号】特開2018-31456(P2018-31456A)
(43)【公開日】2018年3月1日
【審査請求日】2019年7月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小林 康宏
【審査官】 長清 吉範
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−38091(JP,A)
【文献】 特開2016−52841(JP,A)
【文献】 特開2001−225662(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
該モータに駆動され、入力当接部を有する入力回転部材と、
該入力回転部材と相対回転、あるいは一体回転可能であり、出力当接部を有する出力回転部材と、
該出力回転部材に連結されると共にドグクラッチ機構に接続され、前記出力回転部材に伝達された動力により前記ドグクラッチ機構を断接する出力ロッドと、
前記入力回転部材及び前記出力回転部材と相対回転、あるいは一体回転可能に設けられ、前記入力当接部の一端、及び前記出力当接部の一端と当接可能な第1当接部と、前記入力当接部の他端と当接する第2当接部と、前記出力当接部の他端と当接する第3当接部と、を有する回転伝達部材と、
前記入力回転部材の前記入力当接部の他端、及び前記出力回転部材の前記出力当接部の他端が当接可能な第1端部と、前記回転伝達部材に係止される第2端部とを有すると共に、前記入力回転部材と前記出力回転部材との相対回転量に応じた弾性エネルギとして蓄える弾性部材と、を備え、
前記出力回転部材は、前記入力回転部材と一体回転することで前記出力ロッドを進退移動させる一方、前記入力回転部材と相対回転することで前記出力当接部を介して前記弾性部材に蓄えられた弾性エネルギを前記出力ロッドに伝達し、
前記入力回転部材が正転方向に回転中に前記出力回転部材の回転が停止した時に、前記出力当接部の他端と前記第3当接部とが正転方向制限角度を形成し、
前記入力回転部材が逆転方向に回転中に前記出力回転部材の回転が停止した時に、前記入力当接部の他端と前記第2当接部とが前記正転方向制限角度と絶対値の異なる逆転方向制限角度を形成するアクチュエータ。
【請求項2】
前記回転伝達部材は、周方向において、前記第3当接部を前記第1当接部と前記第2当接部との間に有し、
前記第3当接部の径方向長さは、前記第1当接部及び前記第2当接部の径方向長さよりも短く、
前記入力当接部が逆転方向に回転する場合において、前記第3当接部の周方向外側を通過する請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項3】
前記弾性部材はスパイラルスプリングである請求項1または2に記載のアクチュエータ。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、スイッチの切換により2輪駆動‐4輪駆動の切換または、4輪駆動ディファレンシャルフリー‐4輪駆動ディファレンシャルロックの切換が可能な車両のアクチュエータの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、4輪駆動車のトランスファに適用され、2輪駆動‐4輪駆動の切換、4輪駆動ディファレンシャルフリー‐4輪駆動ディファレンシャルロックの切換等の駆動モードの切換を行うアクチュエータが知られている。
【0003】
トランスファの駆動モード切換部分は、外周の軸方向にスプラインが形成された駆動軸及び従動軸と、内周の軸方向にスプラインが形成され、軸方向に進退移動可能なスリーブとを備え、スリーブのスプラインが駆動軸及び従動軸のスプラインと噛合うことでドグクラッチ機構を構成している。さらに、ドグクラッチ機構はスプラインの位相合わせ(回転同期)を円滑にするため、コーンシンクロ機構を用いた同期装置を有している。このドグクラッチ機構は、アクチュエータからトランスファ内部へ延在する出力ロッドがシフトフォークを介してスリーブを軸方向へ進退移動することで断接させられる。
【0004】
アクチュエータは、動力源のモータと、ウォームギヤを有しモータの回転速度を減速する減速機構と、減速機構の出力軸に取り付けられるピニオンギヤと、ピニオンギヤとともにラックアンドピニオン機構を構成するラックギヤが形成されると共にトランスファ内部へ延在する出力ロッドとを備えている。
【0005】
そして、このアクチュエータは、車室内のスイッチが操作されることで、出力ロッドが進退移動すると共にスリーブを進退移動させて、ドグクラッチ機構が断接される。その結果、2輪駆動‐4輪駆動の切換が行われたり、4輪駆動ディファレンシャルフリー‐4輪駆動ディファレンシャルロックの切換が行われたりする。
【0006】
また、こうしたアクチュエータには、減速機構とラックアンドピニオン機構との間に待ち機構を備えている。
【0007】
例えば、スリーブが駆動軸と従動軸とを連結する際には、スプラインの先端同士が衝突してスリーブの進行が不能となる場合がある。あるいは、駆動軸と従動軸との連結を解除する際には、スプライン側面に作用する伝達トルクに起因する摩擦抵抗よりスリーブの退行が不能となる場合もある。このような場合は、スリーブの進行及び退行が停止すると共に出力ロッドも往復運動を停止する。すなわち、ラックアンドピニオン機構のピニオンギヤも回転を停止する。
【0008】
待ち機構とは、前述の場合において、モータにより駆動されるウォームギヤとピニオンギヤとの相対回転を許容する機構である。詳しくは、ウォームギヤとピニオンギヤとの相対回転を許容するため、待ち機構は、ウォームギヤとピニオンギヤとの相対回転量に応じた弾性力を蓄えるためのスプリングを備えている。
【0009】
そして、前述の場合において、スリーブの進行あるいは退行が可能となった瞬間に、スプリングに蓄えられた弾性力が解放され、モータによる駆動時よりも相対的に高速でスリーブがストロークする。
【0010】
例えば、特許文献1には、モータにより減速機構を介して駆動される入力プレートと、入力プレートに対して同軸で相対回転あるいは一体回転可能なブッシュと、ブッシュに係合されたスパイラルスプリングと、入力プレート及びブッシュと回転軸を同じくし、ピニオンギヤへ駆動力を伝達する出力プレートを備えた待ち機構の具体的な構成が開示されている。
【0011】
特許文献1に記載のアクチュエータにおいて、入力プレートは入力当接部を有し、出力プレートは出力当接部を有する。また、ブッシュは、スパイラルスプリングが係止される係止部と、入力プレートの入力当接部、あるいは出力プレートの出力当接部と当接する、第1当接部及び第2当接部とを有する。さらに、スパイラルスプリングは、ブッシュの係止部に係止される内周フック部と、入力プレートの入力当接部、あるいは出力プレートの出力当接部と当接する外周フック部とを有する。
【0012】
このアクチュエータがモータにより正転方向に駆動されると、入力プレートの入力当接部の一端が、外周フック部を介してスパイラルスプリングを正転方向に回転させる。これと同時に、スパイラルスプリングの内周フック部が、係止部を介してブッシュを正転方向へ回転させる。さらに、ブッシュの第1当接部が出力当接部の他端に当接して、出力プレートを正転方向に回転させる。そして、出力プレートの正転方向の回転は、出力ギヤと出力ロッドを介して、スリーブを進行させる。ここで、上記の理由によりスリーブの進行が不能となると、出力プレートも回転不能となる。この時、待ち機構は作動開始直前の状態であり、入力当接部の一端と第2当接部は所定正転回転角度を形成する。ここから継続して、入力プレートが正転方向に駆動されると、入力当接部の一端は、外周フック部を押動してスパイラルスプリングを撓ませながら回転する。つまり、入力プレートは、ブッシュ及び出力プレートに対して正転方向に相対回転する。これと同時に、出力プレートは、スパイラルスプリングの撓み量に応じた弾性エネルギをピニオンギヤへ伝達する。そして、入力プレートが、所定正転角度分だけ、出力プレートに対して正転方向に相対回転すると、入力当接部の一端がブッシュの第2当接部に当接する。それ以降、入力プレートは、ブッシュを介して出力プレートを正転方向に押すことになる。これにより、ピニオンギヤには、モータ出力と減速機構によって決定されるアクチュエータの最大出力荷重が伝達される。
【0013】
また、このアクチュエータがモータにより逆転方向に駆動されると、入力プレートの入力当接部の他端がブッシュの第1当接部に当接する。そして、入力プレート及びブッシュは逆転方向に一体回転する。これと同時に、ブッシュは、その係止部に係止されたスパイ内周フック部を介してスパイラルスプリングを逆転方向に回転させる。さらに、スパイラルスプリングの外周フック部が、出力当接部の他端に当接して、出力プレートを逆転方向へ回転させる。そして、出力プレートの逆転方向の回転は、出力ギヤと出力ロッドを介して、スリーブを退行させる。ここで、上記の理由によりスリーブの退行が不能となると、正転時と同様に、出力プレートも回転不能となる。この時、待ち機構は作動開始直前の状態であり、出力当接部の一端と第2当接部は所定逆転回転角度を形成する。ここから継続して、入力プレートが逆転方向に駆動されると、入力当接部及びブッシュは、内周フック部を介してスパイラルスプリングを撓ませながら回転する。つまり、入力当接部及びブッシュは、出力プレートに対して逆転方向に相対回転する。これと同時に、出力プレートは、スパイラルスプリングの撓み量に応じた弾性エネルギをピニオンギヤへ伝達する。そして、入力プレート及びブッシュが、所定逆転角度分だけ、出力プレートに対して逆転方向に相対回転すると、ブッシュの第2当接部が入力当接部の一端に当接する。それ以降、入力プレートは、ブッシュを介して出力プレートを逆転方向に押すことになる。これにより、ピニオンギヤには、モータ出力と減速機構によって決定されるアクチュエータの最大出力荷重が伝達される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特許第4513450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、従来知られるアクチュエータの待ち機構は、所定正転回転角度と所定逆転回転角度が等しいため、所定正転回転角度(=所定逆転回転角度)が大きい場合には、アクチュエータが出力する荷重特性に次のような課題がある。すなわち、アクチュエータを正転方向に駆動し、ドグクラッチ機構の駆動軸と従動軸とが連結する方向にスリーブが進行すると、前述と同様に同期装置作動時の摩擦トルクによる抵抗、及びスリーブのスプライン先端と被連結側のスプライン先端とが衝突することでスリーブが停止する。スリーブが停止するとアクチュエータの待ち機構が作動する。しかし、所定正転角度が大きく設定されている場合には、アクチュエータが最大出力荷重を発生するまでに時間を要する。つまり、スリーブ連結動作完了までの時間が長くなる恐れがある。また、スリーブのスプライン先端と連結側のスプライン先端とが衝突する位置は、ウォームギヤの正転方向の回転限度付近である。すなわち、そこから待ち機構が作動してもアクチュエータはスパイラルスプリングを撓ませた分の荷重しか伝達できないので、スプラインを押し分けきれず、ドグクラッチが締結できない恐れもある。
【0016】
また、所定逆転回転角度(=所定正転回転角度)が小さい場合には、アクチュエータが出力する荷重特性に次のような課題がある。すなわち、アクチュエータを逆転方向に駆動し、ドグクラッチ機構の駆動軸と従動軸との連結を解除する方向へスリーブを摺動させる場合、スプラインに作用する伝達トルクによりスリーブは退行を阻害される。スリーブが退行しないので待ち機構が作動し、スパイラルスプリングに弾性エネルギが蓄えられる。そして、伝達トルクが減少すると同時に弾性エネルギが解放され、スリーブは弾き飛ばされるように連結解除方向へ退行する。しかし、所定逆転回転角度が小さい場合には、蓄えられた弾性エネルギは比較的小さく、その弾性エネルギではスリーブをその連結解除完了位置まで弾き飛ばせない恐れがある。つまり、スリーブの連結解除までの時間が長くなる恐れがある。
【0017】
本発明は、こうした課題に鑑みてなされたものである。その目的は、モータの回転方向によって、異なる荷重特性を出力可能なアクチュエータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明のアクチュエータは、モータと、該モータに駆動され、入力当接部を有する入力回転部材と、該入力回転部材と相対回転、あるいは一体回転可能であり、出力当接部を有する出力回転部材と、該出力回転部材に連結されると共にドグクラッチ機構に接続され、前記出力回転部材に伝達された動力により前記ドグクラッチ機構を断接する出力ロッドと、前記入力回転部材及び前記出力回転部材と相対回転、あるいは一体回転可能に設けられ、前記入力当接部の一端、及び前記出力当接部の一端と当接可能な第1当接部と、前記入力当接部の他端と当接する第2当接部と、前記出力当接部の他端と当接する第3当接部と、を有する回転伝達部材と、前記入力回転部材の前記入力当接部の他端、及び前記出力回転部材の前記出力当接部の他端が当接可能な第1端部と、前記回転伝達部材に係止される第2端部とを有すると共に、前記入力回転部材と前記出力回転部材との相対回転量に応じた弾性エネルギとして蓄える弾性部材と、を備え、前記出力回転部材は、前記入力回転部材と一体回転することで前記出力ロッドを進退移動させる一方、前記入力回転部材と相対回転することで前記出力当接部を介して前記弾性部材に蓄えられた弾性エネルギを前記出力ロッドに伝達し、前記入力回転部材が正転方向に回転中に前記出力回転部材の回転が停止した時に、前記出力当接部の他端と前記第3当接部とが正転方向制限角度を形成し、前記入力回転部材が逆転方向に回転中に前記出力回転部材の回転が停止した時に、前記入力当接部の他端と前記第2当接部とが前記正転方向制限角度と絶対値の異なる逆転方向制限角度を形成する構成とした。
【0019】
上記の構成によれば、モータにより入力回転部材が正転方向に駆動されると、入力当接部の一端が回転伝達部材の第1当接部を押動し、その押動力は係止部、弾性部材の第2端部の順に経由し、第1端部が出力当接部の他端を押動して出力ロッドへ伝達される。伝達された動力により出力ロッドはドグクラッチ機構を断接しようとするが、ドグ歯先端同士の衝突及びドグクラッチ内部の伝達トルクに起因するドグ歯の摩擦抵抗により、出力ロッド動作が停止する場合がある。
【0020】
この時、出力ロッドが連結される出力回転部材の回転も停止するので、入力回転部材の一端は弾性部材を付勢力に抗して撓ませながら、回転伝達部材と共に正転方向制限角度だけ出力回転部材に対して相対回転するまで第1当接部を押動する。この間、出力ロッドは出力回転部材を介して弾性部材の特性に従った荷重でドグクラッチ機構を進行方向に押し、あるいは退行方向に引く。
【0021】
正転方向制限角度以降は、第3当接部が出力当接部の他端に当接するので、出力回転部材は弾性部材を介さずにモータの最大出力を伝達し、出力ロッドはアクチュエータの最大出力荷重でドグクラッチ機構を進行方向に押し、あるいは退行方向に引く。
【0022】
また、モータにより入力回転部材が逆転方向に駆動されると、入力当接部の他端が、弾性部材の第1端部を押動し、その押動力は第2端部、回転伝達部材の係止部の順に経由し、第1当接部が出力当接部の一端を押動して出力ロッドへ伝達される。
【0023】
上述の正転時と同様に、出力ロッドの動作が停止すると出力回転部材の回転も停止するので、入力回転部材の他端は逆転方向制限角度に達するまで弾性部材を付勢力に抗して撓ませながら第1端部を押動する。この間、出力部材は弾性部材の特性に従った荷重を伝達する。
【0024】
逆転方向制限角度以降は、入力当接部の他端が回転伝達部材の第2当接部に当接するので、出力回転部材は弾性部材を介さずにモータの最大出力を伝達し、出力ロッドはアクチュエータの最大出力荷重でドグクラッチ機構を進行方向に押し、あるいは退行方向に引く。
【0025】
ここで、正転方向制限角度と逆転方向制限角度とは絶対値が異なるので、出力ロッドが停止した時のアクチュエータの出力荷重特性を駆動方向によって変化させることが可能となる。
【0026】
また、上記の構成において、前記回転伝達部材は、周方向において、前記第3当接部を前記第1当接部と前記第2当接部との間に有し、前記第3当接部の径方向長さは、前記第1当接部及び前記第2当接部の径方向長さよりも短く、前記入力当接部が逆転方向に回転する場合において、前記第3当接部の周方向外側を通過する構成とすると良い。
【0027】
上記した構成によれば、出力回転部材の出力当接部の数を減らすことができ、軽量化が可能となる。
【0028】
また、上記の構成において、前記弾性部材はスパイラルスプリングである構成とすると良い。
【0029】
上記した構成によれば、スパイラルスプリングを回転軸の径方向の空きスペースに組み込むことができ、アクチュエータを大型化することなく弾性部材の耐久性向上が可能となる。また、板ばねを用いる場合と比較して、入力プレートと出力プレートとの相対回転量が多い場合にも対応可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】第1実施形態のアクチュエータを車両に適用した場合の構成図である。
図2】第1実施形態のアクチュエータの側面断面図である。
図3】第1実施形態のアクチュエータの正面断面図(図2においてA−Aに沿う断面図)である。
図4】第1実施形態のアクチュエータの待ち機構の構成及び作動を示す図である。
図5】第1実施形態のアクチュエータの待ち機構作動中の出力特性図である。
図6】第2実施形態のアクチュエータの待ち機構の構成及び作動を示す図である。
図7】第3実施形態のアクチュエータの待ち機構部分の側面断面図である。
図8】第3実施形態のアクチュエータの待ち機構の構成及び作動を示す図である。
図9】第3実施形態のアクチュエータの待ち機構作動中の出力特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態として、車両Aへアクチュエータ4を適用した場合の構成を図1に示す。図1に示す車両Aは、動力源であるエンジン(ENG)1と、トランスミッション(T/M)2と、トランスファ(T/F)3と、アクチュエータ(ACT)4と、制御装置5と、Frプロペラシャフト6と、Frディファレンシャル機構(Frデフ)7と、右Frドライブシャフト8と、左Frドライブシャフト9と、前輪10と、Rrプロペラシャフト11と、Rrディファレンシャル機構(Rrデフ)12と、Rrドライブシャフト13と、後輪14とを備えている。
【0032】
なお、トランスファ3にはアクチュエータ4がボルト締結にて取り付けられる。また、トランスファ3の内部には、トランスミッション2に接続される駆動軸(不図示)と、Frプロペラシャフト6に接続される従動軸(不図示)と、駆動軸と従動軸とを回転同期させるコーンシンクロ機構を備えた回転同期装置(不図示)と、アクチュエータ4により軸方向に進行あるいは退行し、さらに駆動軸と従動軸とをスプライン締結にて断接するスリーブ(不図示)とを備えたドグクラッチ機構とが設けられている。
【0033】
車両Aでは、二輪駆動モードで走行中において、エンジン1で発生した駆動力は、トランスミッション2で増幅あるいは減衰され、トランスファ3を介してRrプロペラシャフト11を通じてRrディファレンシャル機構12へ伝達される。その伝達された駆動力は、Rrディファレンシャル機構12から左右のRrドライブシャフト13へ分配され、左右の後輪14へ伝達される。
【0034】
車両Aが二輪駆動モードで走行中において、運転手のスイッチ操作等により制御装置5にて四輪駆動モードが選択されると、アクチュエータ4が通電されてトランスファ3内部のスリーブを進行させる。スリーブはコーンシンクロ機構を押圧して回転同期装置を作動させ、駆動軸と従動軸とを回転同期させた後に連結する。これにより、トランスファ3はRrプロペラシャフト11に加えてFrプロペラシャフト6にも駆動力を分配可能となる。そして、Frプロペラシャフト6へ分配された駆動力は、Frディファレンシャル機構7を介し、右Frドライブシャフト8と、左Frドライブシャフト9とへ分配され、左右の前輪11へ伝達される。
【0035】
さらに、運転手のスイッチ操作等により制御装置5にて前述の四輪駆動モードを終了し、二輪駆動モードが選択されると、アクチュエータ4が通電されて、トランスファ3内部のスリーブを退行させる。そして駆動軸と従動軸との連結が解除され、トランスファ3はRrプロペラシャフト11にのみ駆動力を伝達する。
【0036】
次に、本発明のアクチュエータ4の構成について図2を参照して説明する。図2に示すように、アクチュエータ4のハウジング40aは有底形状を呈しており、モータ41を支持し、減速軸42及び減速軸42と直角を成す方向に、ウォームホイール43と出力ギヤ44aを軸支している中間軸44を回転可能に軸支する。さらに、開口部40cからトランスファ3(不図示)へ延在する出力ロッド49をその軸方向に進行あるいは退行可能に収容する。
【0037】
モータ41のモータ軸41aに固定されたモータギヤ41bは、減速軸42に固定された減速ギヤ42aと噛合い、減速軸42の外周に形成されたウォームギヤ42bは、ウォームホイール43の外周に形成されたウォームホイールギヤ43aに噛合う。ウォームホイール43は、後述する待ち機構W1を介して出力ギヤ44aに連結されており、出力ギヤ44aは出力ロッド49のラックギヤ部49aと噛合ってラックアンドピニオン機構を構成する。
【0038】
よって、モータ軸41aの回転は、モータギヤ41b、及び減速ギヤ42aを介して減速され、減速軸42に伝達される。減速軸42の回転は、減速軸42の外周に形成されたウォームギヤ42aとウォームホイール43の外周に形成されたウォームホイールギヤ43aを介してさらに減速され、ウォームホイール43の回転(紙面に垂直な軸を中心とした回転)に変換される。ウォームホイール43の回転は、待ち機構W1を介して出力ギヤ44aに伝達され、ラックアンドピニオン機構で直動運動に変換され、出力ロッド49を進行、あるいは退行させる。
【0039】
次に、アクチュエータ4の待ち機構W1の構成について図3及び図4を参照しながら説明する。
【0040】
図3は、アクチュエータ4の図2のA−Aに沿う断面を矢印方向に見た、A−A線視断面図を示している。
【0041】
待ち機構W1は、共に中間軸44が貫通して軸支するウォームホイール43と出力ギヤ44aとの間に設けられ、入力プレート(入力回転部材)45と、ブッシュ(回転伝達部材)46と、スパイラルスプリング(弾性部材)47と、出力プレート(出力回転部材)48とを備えている。ウォームホイール43及び出力ギヤ44aは、ハウジング40aとカバー40bに回転可能に軸支された中間軸44により、同軸かつ互いに相対回転可能に軸支される。ウォームホイール43には金属板から成形された入力プレート45が、出力ギヤ44aには金属板から成形された出力プレート48がカシメ固定される。
【0042】
入力プレート45は、略90度屈曲させられ円弧形状を呈し、その周方向に延びる入力当接部45aが形成され、また、出力プレート48は、略90度屈曲させられ円弧形状を呈し、その周方向に延びる出力当接部48aが形成される。さらに、入力当接部45a及び出力当接部48aは、中間軸44の径方向に向かって入力当接部45aが外側になるように近接対向して、中間軸44の周方向においてブッシュ46とスパイラルスプリング(弾性部材)47とに当接可能である。
【0043】
ブッシュ46は、板状部461と、その回転軸方向に突出したボス部462とを有する。また、ブッシュ46は、入力プレート45及び出力プレート48と同軸で相対回転可能に両者の間でボス部462を中間軸44が貫通して軸支される。図4(a)に示すように、板状部461には、その外径方向に延在する羽根形状の第1当接部461aと、第2当接部461bと、第3当接部461cとが設けられる。第3当接部461cはブッシュ46の周方向において、第1当接部461aと第2当接部461bとの間に位置する。さらに、第3当接部461cの径方向長さは、第1当接部461a及び第2当接部461bの径方向長さよりも短くなっている。その結果、入力プレート45が軸中心に回転する時、入力当接部45aが第3当接部461cの径方向外側を通過可能となる。また、ボス部462には、スパイラルスプリング47が係止される溝形状の係止部462aが設けられる。
【0044】
スパイラルスプリング47は、断面が矩形のばね鋼を渦巻き状に巻いて形成される。図4に示すように、スパイラルスプリング47は、その外端部において巻き方向と逆側に屈曲させられフック形状となった第1端部47aが設けられ、その内端部において巻き中心方向に屈曲させられフック形状となった第2端部47bが設けられる。また、スパイラルスプリング47は、第2端部47bがブッシュ46の係止部462aに係止されると共に、第1端部47aが入力当接部45a及び出力当接部48aとその周方向軌跡上で当接可能に配置される。ここで、第1実施形態のアクチュエータ4において、出力プレート48は出力当接部48aをただ一つ有する。一方、後述する第2実施形態のアクチュエータ4Bにおいて、出力プレート48は第1出力当接部48c及び第2出力当接部48dを有する(図6示)。これは第1実施形態の構成が第2実施形態の構成と比較して、軽量化の観点で有利であることを示している。
【0045】
また、スパイラルスプリング47は、待ち機構W1の回転軸の径方向の空きスペースに組み込むことができる。これにより、アクチュエータ4を大型化することなく、弾性部材としての耐久性向上が可能である
次に、図4(a)を参照しながら待ち機構W1の作動開始直前の状態を説明する。
【0046】
図4(a)は、アクチュエータ4の駆動によりドグクラッチ機構を断接中の出力ロッド49が停止、つまり出力当接部48aが停止した瞬間であり、待ち機構W1の作動開始直前の状態における各部材の当接関係を示している。
【0047】
図4(a)において、入力当接部45aが正転方向(紙面上で反時計回り)に回転しようとする時、入力当接部45aの正転方向端部(一端)45a+がブッシュ46の第1当接部461aに当接して押圧する。その押圧力は、ブッシュ46と共に、係止部462aに第2端部47bを係止されたスパイラルスプリング47を正転方向へ回転させようとする。そして、スパイラルスプリング47の第1端部47aが、停止している出力当接部48aの逆転方向端部48a−(他端)と当接する。この時、出力当接部48aの逆転方向端部とブッシュ46の第3当接部461cとが正転方向制限角度αを形成する。ここで、正転方向制限角度αは、待ち機構W1が正転方向へ作動中に発生する、ウォームホイール43と出力ギヤ44aとの正転方向への相対回転角度(=相対回転量)、すなわち、入力当接部45aと出力当接部48aとの正転方向への相対回転角度を制限する角度である。
【0048】
一方、図4(a)において、入力当接部45aが逆転方向(紙面上で時計回り)に回転しようとする時、入力当接部45aの逆転方向端部(他端)45a−がスパイラルスプリング47の第1端部47aに当接して押圧する。その押圧力は、スパイラルスプリング47と共に、係止部462aを介してブッシュ46を逆転方向へ回転させようとする。そして、ブッシュ46の第1当接部461aが、停止している出力当接部48aの正転方向端部(一端)48a+と当接する。この時、入力当接部45aの逆転方向端部45a−とブッシュ46の第2当接部461bとが逆転方向制限角度βを形成する。ここで、逆転方向制限角度βは、待ち機構W1が逆転方向へ作動中に発生する、ウォームホイール43と出力ギヤ44aとの逆転方向の相対回転角度(=相対回転量)を制限する角度、すなわち、入力当接部45aと出力当接部48aとの逆転方向の相対回転角度を制限する角度である。
【0049】
なお、正転方向制限角度α及び逆転方向制限角度βは絶対値が異なるように設定される。詳しくは、正転方向制限角度αの絶対値が逆転方向制限角度βの絶対値よりも小さくなるように設定される。
【0050】
次に、図4及び図5を参照しながら、待ち機構W1の作動と出力荷重の関係を説明する。図4は、アクチュエータ4の待ち機構W1が正転あるいは逆転方向へ作動した時の動作を示している。なお、図4においては、反時計回り方向を正転方向、時計回り方向を逆転方向と定義する。図5は、アクチュエータ4の待ち機構W1が作動した時の出力荷重特性であり、ウォームホイール43と出力ギヤ44aとの相対回転角度に対する、出力ロッド49上に発生する荷重特性を示している。
【0051】
図4(a)は、ウォームホイール43と出力ギヤ44aとの間、換言すると入力当接部45aと出力当接部48aとの間に相対回転が生じていない、待ち機構W1の作動開始直前の状態を示しており、図5の点P0に相当する。具体的には、ウォームホイール43と出力ギヤとが一体回転し、ドグクラッチ機構の断接中に出力ロッド49が停止した瞬間の状態である。
【0052】
また、出力ロッド49が停止することなくドグクラッチ機構を断接する場合は、ウォームホイール43の回転に対し、入力当接部45a(入力プレート45)、ブッシュ46、スパイラルスプリング47、出力当接部48a(出力プレート48)及び出力ギヤ44aが一体回転する。このため、出力ロッド49に作用する荷重は図5の点P0付近の荷重である。
【0053】
続いて、図4(b)及び図4(c)は、ウォームホイール43が正転方向に回転し、ドグクラッチの締結動作中に待ち機構W1が作動した様子を示している。
【0054】
例えば、ウォームホイール43が正転方向に回転し、ドグクラッチ機構を締結するべく、出力ロッド49がスリーブを進行させている最中に、スリーブがコーンシンクロ機構を押圧し回転同期装置が作動、あるいは、スリーブのスプライン先端と締結側(駆動軸または従動軸)のスプライン先端とが衝突した場合は、スリーブの進行が停止させられる。このとき、待ち機構W1は図4(a)に示す状態となる。ここから、さらにウォームホイール43が正転方向に回転すると、図4(b)に示すように、入力当接部45aの正転方向端部45a+がブッシュ46の第1当接部461aを押圧しながら正転方向に回転する。このとき、スパイラルスプリング47は、その第1端部47aが、停止している出力当接部48aの逆転方向端部48a−に当接しているので、ブッシュ46の回転と共に撓んで弾性エネルギを蓄える。つまり、ウォームホイール43と出力ギヤ44aとの間に相対回転が発生し、その相対回転角度分だけスパイラルスプリング47は撓み、撓み量に応じた弾性エネルギで出力ロッド49を進行させようとする。これは図5の点P0から点A100の区間で示される荷重特性である。
【0055】
そして、出力ロッド49が停止したまま、さらにウォームホイール43が正転方向へ回転し、ウォームホイール43と出力ギヤ44aとの間の相対回転角度が正転方向制限角度αに達すると、図4(c)に示すように、ブッシュ46の第3当接部461cが出力当接部48aの逆転方向端部48a−に当接する。つまり、入力当接部45aがブッシュ46を介して出力当接部48aを押圧する状態となる。出力ロッド49に発生する荷重は、スパイラルスプリング47の撓み量、すなわちウォームホイール43と出力ギヤ44aとの間の相対回転角度に応じた弾性エネルギから、減速機構を介したモータ41の最大出力へと急上昇する。これは図5の点A100から点A200で示される出力特性である。
【0056】
一方、図4(d)及び図4(e)は、ウォームホイール43が逆転方向に回転し、ドグクラッチの締結解除中に待ち機構W1が作動した様子を示している。
【0057】
例えば、ウォームホイール43が逆転方向に回転し、ドグクラッチ機構の締結を解除するべく、出力ロッド49がスリーブを退行させようとするが、ドグクラッチの伝達トルクに起因するドグ歯面の摩擦抵抗により、スリーブが退行しない場合がある。このとき、待ち機構W1は図4(a)に示す状態となる。ここから、さらにウォームホイール43が逆転方向に回転すると、図4(d)に示すように、入力当接部45aの逆転方向端部45a−がスパイラルスプリング47の第1端部47aを押圧しながら逆転方向に回転し、ブッシュ46の第3当接部461cの径方向外側を通過する。このとき、ブッシュ46の第1当接部461aが、停止している出力当接部48aの正転方向端部48a+に当接しているので、スパイラルスプリング47は入力当接部45aの逆転方向への回転と共に撓んで弾性エネルギを蓄える。つまり、ウォームホイール43と出力ギヤ44aとの間に相対回転が発生し、その相対回転角度分だけスパイラルスプリング47は撓み、撓み量に応じた弾性エネルギで出力ロッド49を退行させようとする。これは図5の点P0から点B100の区間で示される荷重特性である。
【0058】
そして、出力ロッド49が停止したまま、さらにウォームホイール43が逆転方向へ回転し、ウォームホイール43と出力ギヤ44aとの間の相対回転角度が逆転方向制限角度βに達すると、図4(e)に示すように、入力当接部45aの逆転方向端部45a−がブッシュ46の第2当接部461bに当接する。つまり、入力当接部45aがブッシュ46を介して出力当接部48aを逆転方向に押圧する状態となる。出力ロッド49に発生する荷重は、スパイラルスプリング47の撓み量、すなわちウォームホイール43と出力ギヤ44aとの間の相対回転角度に応じた弾性エネルギから、減速機構を介したモータ41の最大出力へと急上昇する。これは図5の点B100から点B200で示される出力特性である。
【0059】
なお、本実施形態では、正転方向制限角度αの絶対値が逆転方向制限角度βの絶対値よりも小さく設定されるため、待ち機構W1の作動開始から早期にアクチュエータの最大出力荷重でスリーブを押すことが可能となり、次のような作用効果が得られる。
【0060】
ドグクラッチ機構の締結動作中において、同期装置が作動して駆動軸と従動軸とを回転同期させる場合は、スリーブが同期装置のコーンシンクロ機構を押す荷重が高いほど、同期完了までの時間が短縮できる。
【0061】
また、スリーブのスプライン先端と締結側(駆動軸または従動軸)のスプライン先端とが衝突してスリーブが停止した場合は、両者のスプラインが互いに押し分ける荷重が高いほど、スプライン同士の噛合い完了までの時間が短縮できる。
【0062】
さらに、正転方向制限角度αの絶対値を0度よりも大きくすることで、スリーブが進行限界点(進行側スリーブストッパ)に衝突する際の衝撃を緩和することができる。
【0063】
なお、正転方向制限角度αは、スリーブ及び締結側のスプラインの噛合い開始点から進行限界点まで、待ち機構W1が作動せずにスリーブを前進させるのに必要なウォームホイールの回転角度よりも小さく設定されると良い。これにより、スリーブのスプライン先端と締結側のスプライン先端とが衝突して停止した場合において、スプラインを押し分けるために、アクチュエータ4の最大荷重を確実に出力することができる。
【0064】
一方、逆転方向制限角度βの絶対値が正転方向制限角度αの絶対値よりも大きく設定されるため、待ち機構W1の作動時にスパイラルスプリング47に蓄えられる弾性エネルギを大きくすることができ、次のような作用効果が得られる。
【0065】
ドグクラッチ締結解除動作の開始直後において、ドグクラッチの伝達トルクに起因し、スプライン歯面に作用する摩擦抵抗により、スリーブが退行しない場合がある。このとき、アクチュエータ4内部では、逆転方向制限角度βに達するまでウォームホイール43と出力ギヤ44aとが逆転方向に相対回転し、スパイラルスプリング47に弾性エネルギが蓄えられる。そして、ドグクラッチの伝達トルクが減少すると同時に、待ち機構W1の動作が終了し、それと共に弾性エネルギが解放されてスリーブを弾き飛ばすように退行させる。これにより、ウォームホイール43と出力ギヤ44aとが一体回転して出力ロッドがスリーブを後退させるよりも、相対的に高速でスリーブを退行させることができ、ドグクラッチ締結解除完了までの時間が短縮できる。
【0066】
なお、逆転方向制限角度βは、スリーブの進行限界点からスリーブ及び締結側のスプラインの噛合い開始点まで、待ち機構W1が作動せずにスリーブを後退させるのに必要なウォームホイール43の回転角度よりも大きく設定されると良い。これにより、ドグクラッチ締結解除動作時に、逆転方向制限角度β付近で待ち機構W1の弾性エネルギが解放されると、スリーブがスプラインの噛合い不能の位置まで弾き飛ばされるように後退し、確実にドグクラッチ締結解除ができる。
【0067】
また、正転方向制限角度α及び逆転方向制限角度βの絶対値を大きく設定する場合は、入力プレートと出力プレートとの相対回転量も大きくなる。この場合は、実施形態1で示したように、スパイラルスプリングを弾性部材として用いることが好ましい。逆に、正転方向制限角度α及び逆転方向制限角度βの絶対値が小さくても良い場合は、板ばねを弾性部材として用いた方が軽量化の観点から有利である。
【0068】
ところで、アクチュエータ4のドグクラッチの断接動作は、ウォームホイール43の回転角度に基づいて制御装置5により制御される。ここで、アクチュエータ4における、ウォームホイール43の回転可能範囲は、ドグクラッチにおけるスリーブの進行限界点から退行限界点(退行側スリーブストッパ)への移動に必要なウォームホイール43の回転範囲よりも大きく設定されている。よってドグクラッチの断接完了時において、スリーブは、進行限界点、あるいは退行限界点に押しつけられることになる。すなわち、待ち機構W1が作動した状態でアクチュエータ4は動作を停止することになる。これは、図4(b)、あるいは図4(d)の状態を示しており、実際には両者のいずれかの状態からアクチュエータ4は動作を開始する。
【0069】
例えば、ドグクラッチを締結の状態から解除する場合には、図4(b)の状態がアクチュエータ4の動作開始位置となる。図4(b)の状態では、スパイラルスプリング47の弾性力が正転方向に付勢されている。つまり、スリーブが進行側スリーブストッパに押しつけられている状態である。ここから、ウォームホイール43が逆転方向に回転を開始すると、入力当接部45aの正転方向端部45a+とブッシュ46の第1当接部461aとが当接したまま、逆転方向に一体回転を開始する。この時、出力当接部48a及びそれの逆転方向端部48a−に第1端部47aが当接しているスパイラルスプリング47は、スパイラルスプリング47の正転方向への付勢力が消滅するまで共に回転しない。そして、スパイラルスプリング47の正転方向への付勢力が消滅すると、入力当接部45aの逆転方向端部45a−がスパイラルスプリング47の第1端部47aに当接すると共に、ブッシュ46の第1当接部461が出力当接部48aの正転方向端部48a+に当接する。すなわち、入力プレート45、スパイラルスプリング47、ブッシュ46、及び出力プレート48が逆転方向に一体回転を開始し、スリーブも退行を開始する。その後、上述したようにスリーブの退行が停止させられると、図4(a)の状態へと遷移する。
【0070】
一方、ドグクラッチを解除の状態から締結する場合には、図4(d)の状態がアクチュエータ4の動作開始位置となる。図4(d)の状態では、スパイラルスプリング47の弾性力が逆転方向に付勢されている。つまり、スリーブが退行側スリーブストッパに押しつけられている状態である。ここから、ウォームホイール43が正転方向に回転を開始すると、入力当接部45aの逆転方向端部45a−とスパイラルスプリング47の第1端部47aとが当接したまま正転方向に一体回転を開始する。この時、出力当接部48a及びそれの正転方向端部48+に第1当接部461aが当接しているブッシュ46は、スパイラルスプリング47の逆転方向への付勢力が消滅するまで回転しない。そして、スパイラルスプリング47の逆転方向への付勢力が消滅すると、入力当接部45aの正転方向端部45a+がブッシュ46の第1当接部461に当接すると共に、スパイラルスプリング47の第1端部47aが出力当接部48aの逆転方向端部48a−に当接する。すなわち、入力プレート45、ブッシュ46、スパイラルスプリング47、及び出力プレート48が正転方向に一体回転を開始し、スリーブも進行を開始する。さらに正転方向への回転が進み、上述したようにスリーブの進行が停止させられると、図4(a)の状態へと遷移する。
【0071】
(第2実施形態)
以下、図6を参照して、第2実施形態のアクチュエータ4Bの構成及び作用について説明する。アクチュエータ4Bは、第1実施形態のアクチュエータ4において、待ち機構W1を、以下に説明する待ち機構W2に置き換えた形態である。なお、第2実施形態では、第1実施形態と共通する構成部材については、同一の符号を付して説明を省略するものとする。
【0072】
図6(a)に示すように、待ち機構W2の出力プレート48には第1出力当接部48cと同一円周上に第2出力当接部48dが設けられる。また、ブッシュ46はその径方向に延在する第3当接部461fを有し、第2出力当接部48dの逆転方向端部(他端)48d−と円周方向に対向する。なお、図6においては、反時計回り方向を正転方向、時計回り方向を逆転方向と定義する。
【0073】
図6(a)は、アクチュエータ4Bの駆動によりドグクラッチ機構を断接中の出力ロッド49が停止、つまり第1出力当接部48c及び第2出力当接部48dが停止した瞬間であり、待ち機構W2の作動開始直前の状態における各部材の当接関係を示している。
図6(a)において、入力当接部45aが正転方向(紙面上で反時計回り)に回転しようとする時、入力当接部45aの正転方向端部(一端)45a+がブッシュ46の第1当接部461aに当接して押圧する。その押圧力は、ブッシュ46と共に、係止部462aに第2端部47bを係止されたスパイラルスプリング47を正転方向へ回転させようとする。そして、スパイラルスプリング47の第1端部47aが、停止している第1出力当接部48cの逆転方向端部(他端)48c−と当接する。この時、第2出力当接部48dの逆転方向端部48d−とブッシュ46の第3当接部461dとが正転方向制限角度αを形成する。ここで、正転方向制限角度αは第1実施形態と同様に、待ち機構W2の作動中に発生する、ウォームホイール43と出力ギヤ44aとの正転方向の相対回転角度(=相対回転量)を制限する角度である。
【0074】
一方、入力当接部45aが逆転方向(紙面上で時計回り)に回転しようとする時、入力当接部45aの逆転方向端部(他端)45a−がスパイラルスプリング47の第1端部47aに当接して押圧する。その押圧力は、スパイラルスプリング47と共に、係止部462aを介してブッシュ46を逆転方向へ回転させようとする。そして、ブッシュ46の第1当接部461aが、停止している第1出力当接部48cの正転方向端部(一端)48c+と当接する。この時、入力当接部45aの逆転方向端部45a−とブッシュ46の第2当接部461bとが逆転方向制限角度βを形成する。ここで、逆転方向制限角度βは第1実施形態と同様に、待ち機構W2の作動中に発生する、ウォームホイール43と出力ギヤ44aとの逆転方向の相対回転角度(=相対回転量)を制限する角度である。
【0075】
なお、正転方向制限角度α及び逆転方向制限角度βは絶対値が異なるように設定される。詳しくは、正転方向制限角度αの絶対値が逆転方向制限角度βの絶対値よりも小さくなるように設定される。
【0076】
次に、図5及び図6を参照しながら、待ち機構W2の作動と出力荷重の関係を説明する。図6は、アクチュエータ4Bの待ち機構W2が正転あるいは逆転方向へ作動した時の動作を示している。
【0077】
図6(a)は、ウォームホイール43と出力ギヤ44aとの間、換言すると入力当接部45aと第1出力当接部48a及び第2出力当接部48bとの間に相対回転が生じていない、待ち機構W2の作動開始直前の状態を示しており、図5の点P0に相当する。具体的には、ウォームホイール43と出力ギヤ44aとが一体回転し、ドグクラッチ機構の断接中に出力ロッド49が停止した瞬間の状態である。
【0078】
また、出力ロッド49が停止することなくドグクラッチ機構を断接する場合は、ウォームホイール43の回転に対し、入力当接部45a(入力プレート45)、ブッシュ46、スパイラルスプリング47、第1出力当接部48a及び第2出力当接部48b(出力プレート48)及び出力ギヤ44aが一体回転する。このため、出力ロッド49に作用する荷重は図5の点P0付近の荷重である。
【0079】
図6(b)及び図6(c)は、ウォームホイール43が正転方向に回転し、ドグクラッチの締結動作中に待ち機構W2が作動した様子を示している。
【0080】
例えば、ウォームホイール43が正転方向に回転し、出力ロッド49がスリーブを進行させている最中に、スリーブがコーンシンクロ機構を押圧し回転同期装置が作動、あるいは、スリーブのスプライン先端と締結側(駆動軸または従動軸)のスプライン先端とが衝突した場合は、スリーブの進行が停止させられる。このとき、待ち機構W2は図6(a)に示す状態となる。ここから、さらにウォームホイール43が正転方向に回転すると、図6(b)に示すように、入力当接部45aの正転方向端部45a+がブッシュ46の第1当接部461aを押圧しながら正転方向に回転する。このとき、スパイラルスプリング47は、その第1端部47aが、停止している第1出力当接部48cの逆転方向端部48c−に当接しているので、ブッシュ46の回転と共に撓んで弾性エネルギを蓄える。つまり、ウォームホイール43と出力ギヤ44aとの間に相対回転が発生し、その相対回転角度分だけスパイラルスプリング47は撓み、撓み量に応じた弾性エネルギで出力ロッド49を進行させようとする。これは図5の点P0から点A100の区間で示される荷重特性である。
【0081】
そして、出力ロッド49が停止したまま、さらにウォームホイール43が正転方向へ回転し、ウォームホイール43と出力ギヤ44aとの間の相対回転角度が正転方向制限角度αに達すると、図6(c)に示すように、ブッシュ46の第3当接部461dが第2出力当接部48dの逆転方向端部48d−に当接する。つまり、入力当接部45aがブッシュ46を介して第2出力当接部48dを正転方向に押圧する状態となる。このとき、出力ロッド49に発生する荷重は、スパイラルスプリング47の撓み量、すなわちウォームホイール43と出力ギヤ44aとの間の相対回転角度に応じた弾性エネルギから、減速機構を介したモータ41の最大出力へと急上昇する。これは図5の点A100から点A200で示される出力特性である。
【0082】
一方、図6(d)及び図6(e)は、ウォームホイール43が逆転方向に回転し、ドグクラッチの締結解除中に待ち機構W2が作動した様子を示している。
【0083】
ウォームホイール43が逆転方向に回転し、出力ロッド49がスリーブを退行させようとするが、ドグクラッチの伝達トルクに起因するドグ歯面の摩擦抵抗により、スリーブが退行しない場合がある。このとき、待ち機構W2は図6(a)に示す状態となる。ここから、さらにウォームホイール43が逆転方向に回転すると、図6(d)に示すように、入力当接部45aの逆転方向端部45a−がスパイラルスプリング47の第1端部47aを押圧しながら逆転方向に回転する。このとき、ブッシュ46の第1当接部461aが、停止している第1出力当接部48cの正転方向端部48c+に当接しているので、スパイラルスプリング47は入力当接部45aの回転と共に撓んで弾性エネルギを蓄える。つまり、ウォームホイール43と出力ギヤ44aとの間に相対回転が発生し、その相対回転角度分だけスパイラルスプリング47は撓み、撓み量に応じた弾性エネルギで出力ロッド49を退行させようとする。これは図5の点P0から点B100の区間で示される荷重特性である。
【0084】
そして、出力ロッド49が停止したまま、さらにウォームホイール43が逆転方向へ回転し、ウォームホイール43と出力ギヤ44aとの間の相対回転角度が逆転方向制限角度βに達すると、図6(e)に示すように、入力当接部45aの逆転方向端部45a−がブッシュ46の第2当接部461bに当接する。つまり、入力当接部45aがブッシュ46を介して第1出力当接部48cを逆転方向に押圧する状態となる。このとき、出力ロッド49に発生する荷重は、スパイラルスプリング47の撓み量、すなわちウォームホイール43と出力ギヤ44aとの間の相対回転角度に応じた弾性エネルギから、減速機構を介したモータ41の最大出力へと急上昇する。これは図5の点B100から点B200で示される出力特性である。
【0085】
なお、第2実施形態も第1実施形態と同様に、ウォームホイール43の回転可能範囲は、ドグクラッチにおけるスリーブの進行限界点から退行限界点への移動に必要なウォームホイール43の回転範囲よりも大きく設定されている。
【0086】
また、アクチュエータ4Bの動作は、図6(b)、あるいは図6(d)に示す状態から開始する。具体的には、ドグクラッチを締結の状態から解除する場合には、図6(b)の状態からアクチュエータ4Bは動作を開始し、ドグクラッチを解除の状態から締結する場合には、図6(d)の状態からアクチュエータ4Bは動作を開始する。なお、それぞれの動作は第1実施形態と同じであるので説明は省略する。
【0087】
(第3実施形態)
以下、図7及び図8を参照して、第3実施形態のアクチュエータ4Cの構成及び作用について説明する。アクチュエータ4Cは、第2実施形態と同様に、第1実施形態のアクチュエータ4において、待ち機構W1を、以下に説明する待ち機構W3に置き換えた形態である。なお、第3実施形態においても、第1実施形態と共通する構成部材については、同一の符号を付して説明を省略するものとする。
【0088】
図7はアクチュエータ4Cの待ち機構W3の断面を示している。図7に示すように待ち機構W3は、共に中間軸44が貫通して軸支するウォームホイール43と出力ギヤ44aとの間に設けられ、入力プレート(入力回転部材)45と、ブッシュ(回転伝達部材)46と、トーションスプリング(弾性部材)471と、出力プレート(出力回転部材)48とを備えている。
【0089】
第1実施形態と同様に、入力プレート45は入力当接部45aが形成され、出力プレート48は出力当接部48aが形成される。さらに、入力当接部45a及び出力当接部48aは、中間軸44の径方向に向かって入力当接部45aが外側になるように近接対向している。また、入力当接部45a及び出力当接部48aは、中間軸44の周方向においてブッシュ46とトーションスプリング471とに当接可能である。
【0090】
ブッシュ46は、板状部463と、その回転軸方向に突出し、中間軸44に軸支されるボス部464と、ボス部464を中心とし、板状部463の外縁に沿って形成された円筒部465とを備える。また、ブッシュ46は第1形態と同様に入力プレート45及び出力プレート48と同軸で相対回転可能に両者の間でボス部464を中間軸44が貫通して軸支される。図8(a)に示すように、板状部463には、第1当接部463aと、第2当接部463bと、第3当接部463cとが設けられる。第3当接部463cは、径方向において、第2当接部463bと軸中心の間かつ、出力当接部48aの周方向軌跡上に設けられる。その結果、入力当接部45が当接してブッシュ46を軸中心に回転させるとき、ブッシュ46の第2当接部463bは出力当接部48aの径方向外側を通過可能となる。また、板上部463の周縁にはトーションスプリング471が係止される係止部463dが設けられる。
【0091】
トーションスプリング471は、断面が円形のばね鋼をらせん状に巻いて形成される。図7及び図8(a)に示すように、トーションスプリング471は、その一端が巻き中心に向かって屈曲させられた第1端部471aが設けられ、その他端が巻き中心の軸方向と平行な方向(図8において紙面に対し垂直な方向)に屈曲させられた第2端部471bが設けられる。また、トーションスプリング471は、第2端部471bがブッシュ46の係止部463dに係止されると共に、第1端部47aが入力当接部45a及び出力当接部48aとその周方向軌跡上で当接可能に、ブッシュ46の円筒部465の内周に沿って配置される。ここで、ブッシュ46の円筒部465は、トーションスプリング471の外径方向への変形を規制し、ばね特性のへたりを防止する。
【0092】
図8(a)は、アクチュエータ4Cの駆動によりドグクラッチ機構を断接中の出力ロッド49が停止、つまり出力当接部48aが停止した瞬間であり、待ち機構W3の作動開始直前の状態における各部材の当接関係を示している。なお、図8においては、反時計回り方向を正転方向、時計回り方向を逆転方向と定義する。
【0093】
図8(a)において、入力当接部45aが正転方向(紙面上で反時計回り)に回転しようとする時、入力当接部45aの正転方向端部(一端)45a+がブッシュ46の第1当接部463aに当接して押圧する。その押圧力は、ブッシュ46と共に、第2端部471bが係止部463dに係止されたトーションスプリング471を正転方向へ回転させようとする。そして、トーションスプリング471の第1端部471aが、停止している出力当接部48aの逆転方向端部(他端)48a−と当接する。この時、出力当接部48aの逆転方向端部48a−とブッシュ46の第3当接部463cとが正転方向制限角度αを形成する。ここで、正転方向制限角度αは第1実施形態及び第2実施形態と同様に、待ち機構W3の作動中に発生する、ウォームホイール43と出力ギヤ44aとの正転方向の相対回転角度(=相対回転量)を制限する角度である。
【0094】
一方、入力当接部45aが逆転方向(紙面上で時計回り)に回転しようとする時、入力当接部45aの逆転方向端部(他端)45a−がトーションスプリング471の第1端部471aに当接して押圧する。その押圧力は、トーションスプリング471と共に、係止部463dを介してブッシュ46を逆転方向へ回転させようとする。そして、ブッシュ46の第1当接部463aが、停止している出力当接部48aの正転方向端部(一端)48a+と当接する。この時、入力当接部45aの逆転方向端部45a−とブッシュ46の第2当接部463cとが逆転方向制限角度βを形成する。ここで、逆転方向制限角度βは第1実施形態及び第2実施形態と同様に、待ち機構W3の作動中に発生する、ウォームホイール43と出力ギヤ44aとの逆転方向の相対回転角度(=相対回転量)を制限する角度である。
【0095】
なお、正転方向制限角度α及び逆転方向制限角度βは絶対値が異なるように設定される。詳しくは、正転方向制限角度αの絶対値が逆転方向制限角度βの絶対値よりも大きくなるように設定される。
【0096】
次に、図8及び図9を参照しながら、待ち機構W3の作動と出力荷重の関係を説明する。図8は、アクチュエータ4Cの待ち機構W3が正転あるいは逆転方向へ作動した時の動作を示している。
【0097】
図8(a)は、ウォームホイール43と出力ギヤ44aとの間、換言すると入力当接部45aと出力当接部48aとの間に相対回転が生じていない、待ち機構W3の作動開始直前の状態を示しており、図9の点P0に相当する。具体的には、ウォームホイール43と出力ギヤ44aとが一体回転し、ドグクラッチ機構の断接中に出力ロッド49が停止した瞬間の状態である。
【0098】
また、出力ロッド49が停止することなくドグクラッチ機構を断接する場合は、ウォームホイール43の回転に対し、入力当接部45a(入力プレート45)、ブッシュ46、トーションスプリング471、出力当接部48a(出力プレート48)及び出力ギヤ44aが一体回転する。このため、出力ロッド49に作用する荷重は図9の点P0付近の荷重である。
【0099】
図8(b)及び図8(c)は、ウォームホイール43が逆転方向に回転し、ドグクラッチの締結動作中に待ち機構W3が作動した様子を示している。
【0100】
例えば、ウォームホイール43が逆転方向に回転し、出力ロッド49がスリーブを進行させている最中に、スリーブがコーンシンクロ機構を押圧し回転同期装置が作動、あるいは、スリーブのスプライン先端と締結側(駆動軸または従動軸)のスプライン先端とが衝突した場合は、スリーブの進行が停止させられる。このとき、待ち機構W3は図8(a)に示す状態となる。ここから、さらにウォームホイール43が逆転方向に回転すると、図8(b)に示すように、入力当接部45aの逆転方向端部45a−がトーションスプリング471の第1端部471aを押圧しながら逆転方向に回転する。このとき、ブッシュ46の第1当接部463aが、停止している出力当接部48aの正転方向端部48a+に当接しているので、トーションスプリング471は、その径方向をブッシュ46の円筒部465の内周に規制されながら、入力当接部45aの回転と共に撓んで弾性エネルギを蓄える。つまり、ウォームホイール43と出力ギヤ44aとの間に相対回転が発生し、その相対回転角度分だけトーションスプリング471は撓み、撓み量に応じた弾性エネルギで出力ロッド49を退行させようとする。これは図9の点P0から点B100の区間で示される荷重特性である。
【0101】
そして、出力ロッド49が停止したまま、さらにウォームホイール43が逆転方向へ回転し、ウォームホイール43と出力ギヤ44aとの間の相対回転角度が逆転方向制限角度βに達すると、図8(c)に示すように、入力当接部45aの逆転方向端部45a−がブッシュ46の第2当接部463bに当接する。つまり、入力当接部45aがブッシュ46を介して出力当接部48aを逆転方向に押圧する状態となる。このとき、出力ロッド49に発生する荷重は、トーションスプリング471の撓み量、すなわちウォームホイール43と出力ギヤ44aとの間の相対回転角度に応じた弾性エネルギから、減速機構を介したモータ41の最大出力へと急上昇する。これは図9の点B100から点B200で示される出力特性である。
【0102】
一方、図8(d)及び図8(e)は、ウォームホイール43が正転方向に回転し、ドグクラッチの締結解除中に待ち機構W3が作動した様子を示している。
【0103】
例えば、ウォームホイール43が正転方向に回転し、出力ロッド49がスリーブを退行させようとするが、ドグクラッチの伝達トルクに起因するドグ歯面の摩擦抵抗により、スリーブが退行しない場合がある。このとき、待ち機構W3は図8(a)に示す状態となる。ここから、さらにウォームホイール43が正転方向に回転すると、図8(d)に示すように、入力当接部45aの正転方向端部45a+がブッシュ46の第1当接部463aを押圧しながら正転方向に回転する。この正転方向の回転動作中において、ブッシュ46の第2当接部463bは、出力当接部48aの逆転方向端部48a−に当接することなく、出力当接部48aの径方向外側を通過する。このとき、トーションスプリング471は、その第1端部471aが、停止している出力当接部48aの逆転方向端部48a−に当接しているので、ブッシュ46の回転と共に、円筒部465によりその径方向を規制されながら撓んで弾性エネルギを蓄える。つまり、ウォームホイール43と出力ギヤ44aとの間に相対回転が発生し、その相対回転角度分だけトーションスプリング471は撓み、撓み量に応じた弾性エネルギで出力ロッド49を進行させようとする。これは図9の点P0から点A100の区間で示される荷重特性である。
【0104】
そして、出力ロッド49が停止したまま、さらにウォームホイール43が正転方向へ回転し、ウォームホイール43と出力ギヤ44aとの間の相対回転角度が正転方向制限角度αに達すると、図8(e)に示すように、ブッシュ46の第3当接部463cが出力当接部48aの逆転方向端部48a−に当接する。つまり、入力当接部45aがブッシュ46を介して出力当接部48aを正転方向に押圧する状態となる。このとき、出力ロッド49に発生する荷重は、トーションスプリング471の撓み量、すなわちウォームホイール43と出力ギヤ44aとの間の相対回転角度に応じた弾性エネルギから、減速機構を介したモータ41の最大出力へと急上昇する。これは図9の点A100から点A200で示される出力特性である。
【0105】
なお、第3実施形態も第1実施形態及び第2実施形態と同様に、ウォームホイール43の回転可能範囲は、ドグクラッチにおけるスリーブの進行限界点から退行限界点への移動に必要なウォームホイール43の回転範囲よりも大きく設定されている。
【0106】
また、第3実施形態においては、アクチュエータ4Cの動作は、図8(b)、あるいは図8(d)に示す状態から開始する。
【0107】
例えば、ドグクラッチを締結の状態から解除する場合には、図8(b)の状態がアクチュエータ4Cの動作開始位置となる。図8(b)の状態では、トーションスプリング471の弾性力が逆転方向に付勢されている。つまり、スリーブが進行側スリーブストッパに押しつけられている状態である。ここから、ウォームホイール43が正転方向に回転を開始すると、入力当接部45aの逆転方向端部45a−とトーションスプリング471の第1端部471aとが当接したまま、正転方向に一体回転を開始する。この時、出力当接部48a及びそれの正転方向端部48+に第1当接部463aが当接しているブッシュ46は、トーションスプリング471の逆転方向への付勢力が消滅するまで共に回転しない。そして、トーションスプリング471の逆転方向への付勢力が消滅すると、入力当接部45aの正転方向端部45a+がブッシュ46の第1当接部463aに当接すると共に、トーションスプリング471の第1端部471aが出力当接部48aの逆転方向端部48a−に当接する。すなわち、入力プレート45、ブッシュ46、トーションスプリング471、及び出力プレート48が正転方向に一体回転を開始し、スリーブも退行を開始する。その後、上述したようにスリーブの退行が停止させられると、図8(a)の状態へと遷移する。
【0108】
一方、ドグクラッチを解除の状態から締結する場合には、図8(d)の状態がアクチュエータ4Cの動作開始位置となる。図8(d)の状態では、トーションスプリング471の弾性力が正転方向に付勢されている。つまり、スリーブが退行側スリーブストッパに押しつけられている状態である。ここから、ウォームホイール43が逆転方向に回転を開始すると、入力当接部45aの正転方向端部45a+とブッシュ46の第1当接部463aとが当接したまま正転方向に一体回転を開始する。この時、出力当接部48a及びそれの逆転方向端部48a−に第1端部471aが当接しているトーションスプリング471は、トーションスプリング471の正転方向への付勢力が消滅するまで共に回転しない。そして、トーションスプリング471の正転方向への付勢力が消滅すると、入力当接部45aの逆転方向端部45a−がトーションスプリング471の第1端部471aに当接すると共に、ブッシュ46の第1当接部463aが出力当接部48aの正転方向端部48a+に当接する。すなわち、入力プレート45、トーションスプリング471、ブッシュ46、及び出力プレート48が逆転方向に一体回転を開始し、スリーブも進行を開始する。さらに逆転方向への回転が進み、上述したようにスリーブの進行が停止させられると、図8(a)の状態へと遷移する。
【0109】
なお、第1実施形態のアクチュエータ4、あるいは、第2実施形態のアクチュエータ4Bにおいて、正転方向をドグクラッチの解除方向に設定し、逆転方向をドグクラッチの締結方向に設定しても良い。この場合、正転方向制限角度αの絶対値が逆転方向制限角度βの絶対値よりも大きくなるように設定すれば、目的の作用効果を得ることができる。
【0110】
また、第1実施形態及び第2実施形態で用いたスパイラルスプリング47は弾性部材であれば良い。例えば、板ばねであっても良いし、コイルスプリングでも良い。
【0111】
以上に説明した本発明のアクチュエータは、上述した車両のトランスファ装置に限らず、車両のフリーハブ装置や各種のドグクラッチ機構に適用しても良い。
【符号の説明】
【0112】
3 トランスファ
4 アクチュエータ
W1 待ち機構
41 モータ
43 ウォームホイール
44 中間軸
44a 出力ギヤ
45 入力プレート(入力回転部材)
45a 入力当接部
45a+ 正転方向端部(一端)
45a− 逆転方向端部(他端)
46 ブッシュ(回転伝達部材)
461a 第1当接部
462b 第2当接部
461c 第3当接部
47 スパイラルスプリング(弾性部材)
47a 第1端部
47b 第2端部
48 出力プレート(出力回転部材)
48a 出力当接部
48a+正転方向端部(一端)
48a−逆転方向端部(他端)
49 出力ロッド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9