(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記積層方向から見て、複数の前記第2歪付与部は、前記第1歪付与部の長手方向に直交する方向に配列されている、ことを特徴とする請求項3に記載の面発光レーザー。
前記第1領域に位置している前記第2歪付与部の数と前記第2領域に位置している前記第2歪付与部の数とは、等しい、ことを特徴とする請求項5に記載の面発光レーザー。
前記積層方向から見て、前記第1歪付与部の長手方向と直交する方向において前記第2歪付与部と前記基板の端部との間の距離は、前記第2歪付与部と前記積層体との間の距離よりも小さい、ことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の面発光レーザー。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0027】
1. 面発光レーザー
まず、本実施形態に係る面発光レーザーについて、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る面発光レーザー100を模式的に示す平面図である。
図2は、本実施形態に係る面発光レーザー100を模式的に示す
図1のII−II線断面図である。
図3は、本実施形態に係る面発光レーザー100を模式的に示す平面図である。
図4は、本実施形態に係る面発光レーザー100を模式的に示す
図3のIV−IV線断面図である。
図5は、本実施形態に係る面発光レーザー100を模式的に示す
図3のV−V線断面図である。
【0028】
なお、便宜上、
図2では、積層体2および第2歪付与部8を簡略化して図示している。また、
図3では、面発光レーザー100の積層体2および第2歪付与部8以外の部材の図示を省略している。また、
図1〜
図5では、互いに直交する3つの軸として、X軸、Y軸、およびZ軸を図示している。
【0029】
面発光レーザー100は、
図1〜
図5に示すように、基板10と、第1ミラー層20と、活性層30と、第2ミラー層40と、電流狭窄層42と、コンタクト層50と、樹脂層(絶縁層)70と、第1電極80と、第2電極82と、を含む。
【0030】
基板10は、例えば、第1導電型(例えばn型)のGaAs基板である。基板10には、第1歪付与部4および共振部6を有している積層体2と、第2歪付与部8と、が設けられている。
【0031】
第1ミラー層20は、基板10上に形成されている。第1ミラー層20は、第1導電型の半導体層である。第1ミラー層20は、
図4および
図5に示すように、高屈折率層24と低屈折率層26とを交互に積層した分布ブラッグ反射型(DBR)ミラーである。高屈折率層24は、例えば、シリコンがドープされたn型のAl
0.12Ga
0.88As層である。低屈折率層26は、例えば、シリコンがドープされたn型のAl
0.9Ga
0.1As層である。高屈折率層24と低屈折率層26との積層数(ペア数)は、例えば10ペア以上50ペア以下であり、例えば40.5ペアである。
【0032】
第1ミラー層20は、
図2に示すように、基板10上に設けられた第1部分20aと、第1部分20a上に設けられ積層体2の一部を構成している第2部分20bと、第1部分20a上に設けられ第2歪付与部8の一部を構成している第3部分20cと、を有している。
【0033】
活性層30は、第1ミラー層20上に設けられている。活性層30は、例えば、i型のIn
0.06Ga
0.94As層とi型のAl
0.3Ga
0.7As層とから構成される量子井戸構造を3層重ねた多重量子井戸(MQW)構造を有している。活性層30は、第1ミラー層20と第2ミラー層40とで挟まれている。
【0034】
第2ミラー層40は、活性層30上に形成されている。第2ミラー層40は、第2導電型(例えばp型)の半導体層である。第2ミラー層40は、高屈折率層44と低屈折率層46とを交互に積層した分布ブラッグ反射型(DBR)ミラーである。高屈折率層44は、例えば、炭素がドープされたp型のAl
0.12Ga
0.88As層である。低屈折率
層46は、例えば、炭素がドープされたp型のAl
0.9Ga
0.1As層である。高屈折率層44と低屈折率層46との積層数(ペア数)は、
図4に示す積層体2において、例えば3ペア以上40ペア以下であり、例えば20ペアである。また、
図5に示す第2歪付与部8では、高屈折率層44と低屈折率層46との積層数(ペア数)は、例えば
図4に示す積層体2における積層数と同じであってもよいし、積層体2における積層数よりも多くてもよい。
【0035】
共振部6において、第2ミラー層40、活性層30、および第1ミラー層20は、垂直共振器型のpinダイオードを構成している。電極80,82間にpinダイオードの順方向の電圧を印加すると、活性層30において電子と正孔との再結合が起こり、発光が生じる。活性層30で発生した光は、第1ミラー層20と第2ミラー層40との間を往復し(多重反射し)、その際に誘導放出が起こって、強度が増幅される。そして、光利得が光損失を上回ると、レーザー発振が起こり、コンタクト層50の上面から、垂直方向に(第1ミラー層20と活性層30との積層方向に)レーザー光が射出する。
【0036】
電流狭窄層42は、第1ミラー層20と第2ミラー層40との間に設けられている。図示の例では、電流狭窄層42は、活性層30上に設けられている。電流狭窄層42は、第1ミラー層20または第2ミラー層40の内部に設けることもできる。電流狭窄層42は絶縁層である。共振部6において、電流狭窄層42には、開口部43が形成されている。電流狭窄層42によって、電極80,82により垂直共振器に注入される電流が平面方向(第1ミラー層20と活性層30との積層方向と直交する方向)に広がることを防ぐことができる。
【0037】
コンタクト層50は、積層体2において、第2ミラー層40上に設けられている。コンタクト層50は、第2導電型の半導体層である。具体的には、コンタクト層50は、炭素がドープされたp型のGaAs層である。図示の例では、コンタクト層50は、第2歪付与部8には設けられていない。
【0038】
積層体2は、基板10に設けられている。図示の例では、積層体2は、第1ミラー層20を介して基板10上に設けられている。積層体2は、第1ミラー層20の第1部分20a上において、Z軸方向に突出した凸部を構成している。積層体2は、第1ミラー層20(第2部分20b)、活性層30、第2ミラー層40、電流狭窄層42、およびコンタクト層50で構成されている。
【0039】
積層体2は、樹脂層70によって囲まれている。平面視において(第1ミラー層20と活性層30との積層方向から見て、図示の例ではZ軸方向から見て)、Y軸方向における積層体2の長さは、X軸方向における積層体2の長さよりも長い。すなわち、積層体2の長手方向は、Y軸方向である。平面視において、積層体2は、例えば、積層体2の中心を通りX軸に平行な仮想直線に関して、対称である。また、平面視において、積層体2は、例えば、積層体2の中心を通りY軸に平行な仮想直線に関して、対称である。
【0040】
積層体2は、
図3に示すように平面視において、第1歪付与部4と、共振部6と、を含む。
【0041】
第1歪付与部4は、共振部6に接続されている。第1歪付与部4は、第1部分4aと第2部分4bを有している。第1部分4aおよび第2部分4bは、平面視において、共振部6を挟んでY軸方向に対向している。第1部分4aおよび第2部分4bは、平面視において、共振部6から互いに反対方向に突出している。具体的には、第1部分4aは、平面視において、共振部6から+Y軸方向に突出している。第2部分4bは、平面視において、共振部6から−Y軸方向に突出している。第1部分4aおよび第2部分4bは、共振部6
と一体に設けられている。
【0042】
第1歪付与部4のY軸方向の長さ(第1部分4aのY軸方向の長さと第2部分4bのY軸方向の長さの和)は、第1歪付与部4のX軸方向の長さよりも大きい。すなわち、第1歪付与部4の平面形状(第1ミラー層20と活性層30との積層方向から見た形状)は、Y軸方向に長手方向を有する形状である。なお、第1部分4a(または第2部分4b)のY軸方向の長さとは、第1部分4aにおいて最もY軸方向の長さが大きい部分の長さである。また、第1歪付与部4のX軸方向の長さとは、第1歪付与部4において最もX軸方向の長さが大きい部分の長さである。
【0043】
第1歪付与部4は、活性層30に異方的な歪みを付与して、活性層30にて発生する光を偏光させる。ここで、光を偏光させるとは、光の電場の振動方向を一定にすることをいう。第1歪付与部4を構成する半導体層(第1ミラー層20、活性層30、第2ミラー層40、電流狭窄層42)は、活性層30に付与する歪みを発生させる発生源となる。
【0044】
ここで、第1歪付与部4が、共振部6を構成する活性層30に異方的な歪みを付与できる理由について説明する。
【0045】
図6は、ベア基板の反りを計測した結果を示すグラフである。
図7は、エピ基板の反りを計測した結果を示すグラフである。
図8は、第1歪付与部を備えた面発光レーザーが完成した状態の基板(完成基板)の反りを計測した結果を示すグラフである。
【0046】
なお、ベア基板は、半導体層が成膜されていない状態の基板(ウエハ)である。エピ基板は、ベア基板に面発光レーザーを構成する半導体層(第1ミラー層、活性層、第2ミラー層、電流狭窄層、およびコンタクト層)を成膜した状態の基板(ウエハ)である。なお、エピ基板では、成膜された半導体層はパターニングされていない。完成基板とは、エピ基板に成膜された半導体層をパターニングし、電極、樹脂層等を形成して、面発光レーザーを完成させた状態の基板(ウエハ)である。なお、完成基板に形成された面発光レーザーは、上述した面発光レーザー100から第2歪付与部8を除いたものである。また、完成基板には、複数の面発光レーザーが形成されている。
【0047】
図6〜
図8は、段差計で基板(ウエハ)の横方向(
図1〜
図5に示すX軸方向に相当)および縦方向(
図1〜
図5に示すY軸方向に相当、第1歪付与部の長手方向と同じ方向)をスキャンして、それぞれの方向における基板の反りを計測した結果を示している。なお、ベア基板およびエピ基板の厚さは350μmであり、完成基板の厚さは200μmである。
【0048】
図6および
図7に示すように、ベア基板に半導体層を成膜した場合、ベア基板の線膨張係数と半導体層の線膨張係数との差によって応力が生じ、基板に反りが生じる。ここで、基板(GaAs基板)の線膨張係数は5.97×10
−6/Kである。また、第1ミラー層(n型のAl
0.12Ga
0.88As層とn型のAl
0.9Ga
0.1As層とからなるnDBR層)の線膨張係数は5.037×10
−6/Kである。また、第2ミラー層(p型のAl
0.12Ga
0.88As層とp型のAl
0.9Ga
0.1As層とからなるpDBR層)の線膨張係数は5.019×10
−6/Kである。したがって、基板の線膨張係数に対して第1歪付与部の線膨張係数は小さい。その結果、エピ基板は、
図7に示すように、基板の中央部の高さが基板の端部の高さよりも大きくなるように凸状に反る。
【0049】
ベア基板に半導体層を成膜したことによって生じた基板の反りは、通常、半導体層をパターニング等して面発光レーザーを完成させることにより減少する。これは、ベア基板の線膨張係数と半導体層の線膨張係数との差によって生じた応力が、半導体層がパターニン
グされることによって開放されるためである。
【0050】
図8に示すように、完成基板では、
図7に示すエピ基板と比べて、横方向の反りは減少しているが、縦方向の反りはほぼ維持されている。これは、第1歪付与部の長手方向が基板の縦方向(Y軸方向)と一致するように設けられていることにより、第1歪付与部によって縦方向の応力が開放されずに維持されるためである。
図8に示すように、基板の横方向の反りが減少し、かつ、基板の縦方向の反りが維持されることで、基板(基板上に形成された活性層)に異方的な歪みを付与することができる。
【0051】
共振部6は、第1部分4aと第2部分4bとの間に設けられている。X軸方向における共振部6の長さは、X軸方向における第1歪付与部4(第1部分4aおよび第2部分4b)の長さよりも大きい。共振部6の平面形状は、例えば、円である。
【0052】
共振部6は、活性層30で発生した光を共振させる。すなわち、共振部6では、垂直共振器が形成される。
【0053】
第2歪付与部8は、基板10に設けられている。図示の例では、第2歪付与部8は、第1ミラー層20を介して基板10上に設けられている。第2歪付与部8は、第1ミラー層20の第1部分20a上において、Z軸方向に突出した凸部を構成している。第2歪付与部8は、第1ミラー層20(第3部分20c)、活性層30、第2ミラー層40、および電流狭窄層42で構成されている。
【0054】
第2歪付与部8の平面形状は、Y軸方向に長手方向を有する形状である。すなわち、Y軸方向における第2歪付与部8の長さは、X軸方向における第2歪付与部8の長さよりも長い。第2歪付与部8の平面形状は、例えば、Y軸方向に長辺を有する長方形である。なお、第2歪付与部8の平面形状は、長手方向を有する形状であれば特に限定されない。第2歪付与部8が活性層30に付与する異方的な歪みを大きくするためには、平面視において、第2歪付与部8の短手方向の長さL1と長手方向の長さL2との比(L2/L1)が、大きいほうが望ましい。
【0055】
第2歪付与部8の長手方向と、第1歪付与部4の長手方向とは、同じ方向(Y軸方向)である。すなわち、第2歪付与部8の長手方向と第1歪付与部4の長手方向とは、平行である。第2歪付与部8の長手方向(Y軸方向)の長さは、例えば、積層体2の長手方向(Y軸方向)の長さと等しい。
【0056】
面発光レーザー100において、基板10をGaAs基板、第1ミラー層20および第2ミラー層40をAl
0.12Ga
0.88As層とAl
0.9Ga
0.1As層とからなるDBR層とした場合、第1歪付与部4の線膨張係数は、上述したように、基板10の線膨張係数よりも小さい。また、第2歪付与部8は、コンタクト層50を有さない点を除いて第1歪付与部4と同様の層構造を有している。したがって、第2歪付与部8の線膨張係数は、第1歪付与部4と同様に、基板10の線膨張係数よりも小さい。このように、基板10の線膨張係数に対する第2歪付与部8の線膨張係数の大小関係は、基板10の線膨張係数に対する第1歪付与部4の線膨張係数の大小関係と同じである。
【0057】
なお、ここでは、基板10の線膨張係数に対する第1歪付与部4および第2歪付与部8の線膨張係数がともに小さい場合について説明したが、基板10の線膨張係数に対する第1歪付与部4および第2歪付与部8の線膨張係数がともに大きくてもよい。このような場合でも、基板10の線膨張係数に対する第2歪付与部8の線膨張係数の大小関係は、基板10の線膨張係数に対する第1歪付与部4の線膨張係数の大小関係と同じであるといえる。
【0058】
上記のように、面発光レーザー100では、平面視において、第1歪付与部4の長手方向と第2歪付与部8の長手方向とは同じ方向であり、かつ、基板10の線膨張係数に対する第2歪付与部8の線膨張係数の大小関係が、基板10の線膨張係数に対する第1歪付与部4の線膨張係数の大小関係と同じである。これにより、第2歪付与部8が活性層30に付与する歪みと第1歪付与部4が活性層30に付与する歪みとは、同じ異方性を持つ。すなわち、第2歪付与部8は、第1歪付与部4と同じ異方性を持った歪みを、活性層30に付与することができる。
【0059】
第2歪付与部8は、積層体2と離間して設けられている。すなわち、第2歪付与部8と積層体2とは、接していない。
【0060】
第2歪付与部8は、複数設けられている。図示の例では、第2歪付与部8は、2つ設けられている。なお、図示はしないが、第2歪付与部8は、1つであってもよい。平面視において、共振部6の中心を通り、かつ、第1歪付与部4の長手方向に延びる仮想直線Aを境にして、基板10を第1領域10aと第2領域10bとに分けた場合、2つの第2歪付与部8のうちの一方は第1領域10aに位置し、2つの第2歪付与部8のうちの他方は第2領域10bに位置している。平面視において、2つの第2歪付与部8は、仮想直線Aに関して対称に配置されている。
【0061】
平面視において、第1歪付与部4の長手方向(Y軸方向)と直交する方向(X軸方向)において、第2歪付与部8と積層体2との間の距離D1は、第2歪付与部8と基板10の端部(外縁)との間の距離D2よりも小さい。そのため、第2歪付与部8と基板10の端部との間に電極80を配置することができる。なお、距離D1は、X軸方向における第2歪付与部8と積層体2との間の最短距離である。また、距離D2は、X軸方向における第2歪付与部8と基板10の端部との間の最短距離である。
【0062】
第2歪付与部8は、上述したように、第1ミラー層20、活性層30、第2ミラー層40、および電流狭窄層42で構成されている。第2歪付与部8は、コンタクト層50を含んでいてもよいが、コンタクト層50を含まないほうがより好ましい。コンタクト層50の材質は基板10と同じGaAsであるため(すなわちコンタクト層50と基板10とは線膨張係数が同じであるため)、仮に第2歪付与部8がコンタクト層50を含んで構成されている場合、コンタクト層50は、第2歪付与部8による歪みの効果を低減させるためである。第2歪付与部8の高さ(Z軸方向の大きさ)は、例えば、積層体2の高さ(Z軸方向の大きさ)よりも小さい。図示はしないが、第2歪付与部8の高さと積層体2の高さが同じであってもよい。このとき、第2歪付与部8は、コンタクト層50分だけ第2ミラー層40の膜厚が大きくてもよい。
【0063】
樹脂層70は、積層体2の少なくとも側面に設けられている。
図1に示す例では、樹脂層70は、第1歪付与部4を覆っている。すなわち、樹脂層70は、第1歪付与部4の側面、および第1歪付与部4の上面に設けられている。樹脂層70は、第1歪付与部4を完全に覆っていてもよいし、第1歪付与部4の一部を覆っていてもよい。樹脂層70の材質は、例えば、ポリイミドである。なお、樹脂層70に対応する構成は少なくとも絶縁の機能を有すればよいため、絶縁材料であれば樹脂でなくてもよい。
【0064】
図3に示す例では、平面視において、Y軸方向における樹脂層70の長さは、X軸方向における樹脂層70の長さよりも大きい。すなわち、樹脂層70の長手方向は、Y軸方向である。樹脂層70の長手方向と積層体2の長手方向とは、同じ方向である。
【0065】
樹脂層70は、第2歪付与部8を覆っていない。樹脂層70がポリイミドである場合、
樹脂層70の線膨張係数は、基板10の線膨張係数よりも大きい。そのため、仮に樹脂層70が第2歪付与部8を覆っている場合、樹脂層70は、第2歪付与部8による歪みの効果を低減させるためである。
【0066】
第1電極80は、第1ミラー層20上に設けられている。第1電極80は、第1ミラー層20とオーミックコンタクトしている。第1電極80は、第1ミラー層20と電気的に接続されている。第1電極80としては、例えば、第1ミラー層20側から、Cr層、AuGe層、Ni層、Au層の順序で積層したものを用いる。第1電極80は、活性層30に電流を注入するための一方の電極である。
【0067】
第2電極82は、コンタクト層50上(積層体2上)に設けられている。第2電極82は、コンタクト層50とオーミックコンタクトしている。図示の例では、第2電極82は、さらに樹脂層70上に形成されている。第2電極82は、コンタクト層50を介して、第2ミラー層40と電気的に接続されている。第2電極82としては、例えば、コンタクト層50側から、Cr層、Pt層、Ti層、Pt層、Au層の順序で積層したものを用いる。第2電極82は、活性層30に電流を注入するための他方の電極である。
【0068】
第2電極82は、パッド84と電気的に接続されている。図示の例では、第2電極82は、引き出し配線86を介して、パッド84と電気的に接続されている。パッド84は、樹脂層70上に設けられている。パッド84および引き出し配線86の材質は、例えば、第2電極82の材質と同じである。
【0069】
面発光レーザー100は、例えば、以下の特徴を有する。
【0070】
面発光レーザー100は、第2歪付与部8の長手方向と第1歪付与部4の長手方向とは同じ方向であり、かつ、基板10の線膨張係数に対する第2歪付与部8の線膨張係数の大小関係は、基板10の線膨張係数に対する第1歪付与部4の線膨張係数の大小関係と同じである。そのため、第2歪付与部8は、第1歪付与部4と同じ異方性を持った歪みを、活性層30に付与することができる。したがって、面発光レーザー100では、例えば第2歪付与部8を有さず第1歪付与部4のみを有する面発光レーザー(従来の面発光レーザー)と比べて、レーザー光の偏光方向の安定性を高めることができる。
【0071】
例えば、従来の面発光レーザーを高温動作させた場合、基板の線膨張係数と半導体層の線膨張係数との差によって生じた応力は減少する。これにより、活性層に付与されるX軸方向の歪みとY軸方向の歪みとの差が小さくなり、レーザー光の偏光方向の安定性が低下してしまう。これに対して、面発光レーザー100では、第1歪付与部4に加えて第2歪付与部8によっても活性層30に異方的な歪みを付与できるため、高温動作させた場合であっても、従来の面発光レーザーに比べて、レーザー光の偏光方向の安定性が高い。
【0072】
面発光レーザー100では、第2歪付与部8は、積層体2と離間しているため、積層体2の形状を変えることなく、活性層30に歪みを付与することができる。
【0073】
面発光レーザー100では、第2歪付与部8は、複数設けられている。そのため、例えば、第2歪付与部8が1つの場合と比べて、共振部6を構成する活性層30に、より大きな歪みを付与することができ、レーザー光の偏光方向の安定性をより高めることができる。
【0074】
面発光レーザー100では、基板10を第1領域10aと第2領域10bに分けた場合に、2つの第2歪付与部8のうちの一方は、第1領域10aに位置し、2つの第2歪付与部8のうちの他方は、第2領域10bに位置している。そのため、面発光レーザー100
では、例えば一方の領域にのみ第2歪付与部8が位置している場合と比べて、共振部6を構成する活性層30に対称性のよい歪みを付与することができる。
【0075】
ここで、線膨張係数の計測方法の一例について説明する。
【0076】
基板10の線膨張係数に対する歪付与部(第1歪付与部4または第2歪付与部8)の線膨張係数の大小関係は、以下の方法により測定が可能である。
【0077】
まず、基板の全面に、測定対象となる歪付与部と同じ層構造の積層体を形成する。これにより、基板の線膨張係数と積層体の線膨張係数との差によって反りが生じる。積層体を成膜する前の基板の反り量(曲率半径R0)と積層体を成膜した後の基板の反り量(曲率半径Rh)とした場合、積層体による応力は(1/Rh−1/R0)に比例する。
【0078】
(1/Rh−1/R0)が正の場合には、積層体の線膨張係数は基板の線膨張係数よりも小さい。また、(1/Rh−1/R0)が負の場合には、積層体の線膨張係数は基板の線膨張係数よりも大きい。
【0079】
なお、異なる層構造を有する積層体の線膨張係数の大小関係は、(1/Rh−1/R0)の絶対値により決まる。(1/Rh−1/R0)の絶対値が大きい積層体ほど、基板との線膨張係数の差が大きいといえる。
【0080】
2. 面発光レーザーの製造方法
次に、本実施形態に係る面発光レーザーの製造方法について、図面を参照しながら説明する。
図9〜
図11は、本実施形態に係る面発光レーザー100の製造工程を模式的に示す断面図であって、
図2に対応している。
【0081】
図9に示すように、基板10上に、第1ミラー層20、活性層30、酸化されて電流狭窄層42となる被酸化層42a、第2ミラー層40、コンタクト層50をこの順でエピタキシャル成長させる。エピタキシャル成長させる方法としては、例えば、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法、MBE(Molecular Beam Epitaxy)法が挙げられる。次に、第2歪付与部8上のコンタクト層50をエッチングする。
【0082】
図10に示すように、コンタクト層50、第2ミラー層40、被酸化層42a、活性層30、および第1ミラー層20をパターニングして、積層体2および第2歪付与部8を形成する。パターニングは、例えば、フォトリソグラフィーおよびエッチングによって行われる。
図9に示す工程で形成されたコンタクト層50は、積層体2を構成する。
【0083】
図11に示すように、被酸化層42aを酸化して、電流狭窄層42を形成する。被酸化層42aは、例えば、Al
xGa
1−xAs(x≧0.95)層である。例えば、400℃程度の水蒸気雰囲気中に、積層体2が形成された基板10を投入することにより、Al
xGa
1−xAs(x≧0.95)層を側面から酸化して、電流狭窄層42を形成する。
【0084】
図2に示すように、積層体2を取り囲むように樹脂層70を形成する。樹脂層70は、例えば、スピンコート法等を用いて第1ミラー層20の上面および積層体2の全面にポリイミド樹脂等からなる層を形成し、該層をパターニングすることにより形成される。パターニングは、例えば、フォトリソグラフィーおよびエッチングによって行われる。次に、樹脂層70を加熱処理(キュア)することにより硬化させる。
【0085】
次に、コンタクト層50上および樹脂層70上に第2電極82を形成し、第1ミラー層
20上に第1電極80を形成する。電極80,82は、例えば、真空蒸着法およびリフトオフ法の組合せ等により形成される。なお、電極80,82を形成する順序は、特に限定されない。また、第2電極82を形成する工程で、パッド84および引き出し配線86(
図1参照)を形成してもよい。
【0086】
以上の工程により、面発光レーザー100を製造することができる。
【0087】
3. 面発光レーザーの変形例
次に、本実施形態に係る面発光レーザーの変形例について、図面を参照しながら説明する。以下、本実施形態の変形例に係る面発光レーザーにおいて、上述した面発光レーザー100の例と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する。
【0088】
3.1. 第1変形例
図12は、第1変形例に係る面発光レーザー200を模式的に示す平面図である。
【0089】
上述した面発光レーザー100では、
図1に示すように、第2歪付与部8の長手方向(Y軸方向)の長さは、積層体2の長手方向(Y軸方向)の長さと等しかった。
【0090】
これに対して、第1変形例に係る面発光レーザー200では、
図12に示すように、第2歪付与部8の長手方向の長さは、積層体2の長手方向の長さよりも大きい。第2歪付与部8の長手方向の長さを大きくすることにより、共振部6を構成する活性層30に、より大きな歪みを付与することができ、レーザー光の偏光方向の安定性をより高めることができる。
【0091】
3.2. 第2変形例
図13は、第2変形例に係る面発光レーザー300を模式的に示す平面図である。
【0092】
上述した面発光レーザーでは、
図1に示すように、平面視において、第1歪付与部4の長手方向(Y軸方向)と直交する方向(X軸方向)において、第2歪付与部8と積層体2との間の距離D1は、第2歪付与部8と基板10の端部との間の距離D2よりも小さかった。
【0093】
これに対して、第2変形例に係る面発光レーザー300では、
図13に示すように、平面視において、第1歪付与部4の長手方向(Y軸方向)と直交する方向(X軸方向)において、第2歪付与部8と積層体2との間の距離D1は、第2歪付与部8と基板10の端部との間の距離D2よりも大きい。これにより、積層体2と第2歪付与部8との間にスペースをつくることができるため、当該スペースに第1電極80を配置することができる。この結果、例えば、第1電極80が第2歪付与部8と基板10の端部との間に配置されている場合(
図1参照)と比べて、第1電極80を積層体2の近くに配置することができ、第1電極80と第2電極82との間の電流の経路を短くすることができる。
【0094】
第2歪付与部8は、
図13に示す例では、基板10の+Y軸方向の端部から−Y軸方向の端部まで延在している。このように、第2歪付与部8の長手方向の長さを大きくすることにより、第2歪付与部8によって活性層30に付与される歪みを大きくすることができ、レーザー光の偏光方向の安定性をより高めることができる。
【0095】
3.3. 第3変形例
図14は、第3変形例に係る面発光レーザー400を模式的に示す平面図である。
図15は、第3変形例に係る面発光レーザー400を模式的に示す
図14のXV−XV線断面図である。
【0096】
上述した面発光レーザー100では、
図1および
図2に示すように、第1電極80は、第1ミラー層20上に設けられていた。
【0097】
これに対して、第3変形例に係る面発光レーザー400では、
図14および
図15に示すように、第1電極80は、基板10の下面(積層体2が形成される側の面とは反対側の面)に設けられている。第1電極80は、例えば、基板10の下面の全面に設けられている。
【0098】
第1電極80を基板10の下面に設けることで、例えば第1電極80が第1ミラー層20上に形成される場合と比べて、第2歪付与部8の配置の自由度を高めることができる。
【0099】
3.4. 第4変形例
図16は、第4変形例に係る面発光レーザー500を模式的に示す平面図である。
図17は、第4変形例に係る面発光レーザー500を模式的に示す
図16のXVII−XVII線断面図である。
【0100】
上述した面発光レーザー100は、
図1に示すように、2つの第2歪付与部8を有しており、平面視において、2つの第2歪付与部8のうちの一方が第1領域10aに位置し、他方が第2領域10bに位置していた。
【0101】
これに対して、面発光レーザー500は、
図16および
図17に示すように、複数(8個)の第2歪付与部8を有しており、平面視において、複数の第2歪付与部8のうちの一部(4個)の第2歪付与部8が第1領域10aに位置し、他の一部(4個)の第2歪付与部8が第2領域10bに位置している。
【0102】
第1領域10aに配置される第2歪付与部8の数と第2領域10bに配置される第2歪付与部8の数とは、等しい。これにより、例えば第1領域10aに位置している第2歪付与部8の数と第2領域10bに位置している第2歪付与部8の数とが異なる場合と比べて、共振部6を構成する活性層30に対称性のよい歪みを付与することができる。
【0103】
複数の第2歪付与部8は、第2歪付与部8の長手方向(Y軸方向)と直交する方向(X軸方向)に配列されている。そのため、例えば複数の第2歪付与部8をY軸方向に配列した場合と比べて、基板10のY軸方向の大きさを小さくすることができる。例えば、複数の第2歪付与部8をY軸方向に配列した場合、第2歪付与部8の長手方向と第2歪付与部8の配列方向とが同じ方向となってしまうため、基板10のY軸方向の大きさが大きくなってしまう。
【0104】
複数の第2歪付与部8は、積層体2(樹脂層70)が形成された領域を除いて、基板10の−X軸方向の端部から基板10の+X軸方向の端部まで配列されている。第1領域10aおよび第2領域10bのそれぞれにおいて、第2歪付与部8は、等間隔に配置されている。隣り合う第2歪付与部8間の距離は、適宜設定可能である。複数の第2歪付与部8は、仮想直線Aに関して、対称に配置されている。
【0105】
第2歪付与部8は、基板10の+Y軸方向の端部から−Y軸方向の端部まで延在している。第1領域10aおよび第2領域10bに配置されている複数(8個)の第2歪付与部8は、同じ形状を有している。
【0106】
面発光レーザー500では、第1電極80は基板10の下面に設けられているため、例えば第1電極80が第1ミラー層20上に設けられる場合と比べて、より多くの第2歪付
与部8を第1ミラー層20上に配置することができる。
【0107】
なお、面発光レーザー500において、第2歪付与部8の数は特に限定されない。また、第2歪付与部8の長手方向の長さは、
図16に示すように、積層体2の長手方向の長さよりも大きい。なお、第2歪付与部8の長手方向の長さは、図示はしないが,積層体2の長手方向の長さよりも小さくてもよい。
【0108】
3.5. 第5変形例
図18は、第5変形例に係る面発光レーザー600を模式的に示す断面図である。
【0109】
上述した面発光レーザー100では、
図2に示すように、第2歪付与部8の高さ(Z軸方向の大きさ、第1ミラー層20と活性層30との積層方向の大きさ)は、積層体2の高さよりも小さかった。
【0110】
これに対して、第5変形例に係る面発光レーザー600では、
図18に示すように、第2歪付与部8の高さは、共振部6(積層体2)の高さよりも大きい。これにより、例えば第2歪付与部8の高さが共振部6の高さよりも小さい場合に比べて、共振部6を構成する活性層30に、より大きな歪みを付与することができる。
【0111】
図18に示す例では、第2歪付与部8を構成する第2ミラー層40の膜厚を、積層体2を構成する第2ミラー層40の膜厚よりも厚くすることで(例えば高屈折率層24と低屈折率層26のペア数を多くすることで)、第2歪付与部8の高さを共振部6の高さよりも大きくしている。
【0112】
また、例えば、
図19に示すように、第2歪付与部8の周囲に溝9を形成することで、第2歪付与部8の高さを積層体2の高さよりも大きくしてもよい。
【0113】
なお、ここでは、第1歪付与部4の高さと共振部6の高さが同じであり、かつ、第2歪付与部8の高さを第1歪付与部4の高さおよび共振部6の高さよりも大きくする例について説明したが、第2歪付与部8の高さを共振部6の高さよりも大きくし、かつ、第2歪付与部8の高さと第1歪付与部4の高さとを等しくしてもよい。
【0114】
3.6. 第6変形例
図20は、第6変形例に係る面発光レーザー700を模式的に示す平面図である。
図21は、第6変形例に係る面発光レーザー700を模式的に示す
図20のXXI−XXI線断面図である。
【0115】
上述した面発光レーザー100では、
図1および
図2に示すように、第2歪付与部8は、積層体2と離間していた。
【0116】
これに対して、第6変形例に係る面発光レーザー700では、
図20および
図21に示すように、第2歪付与部8と積層体2とは、導熱部710を介して接続されている。
【0117】
導熱部710は、図示の例では2つ設けられている。一方の導熱部710は、積層体2(共振部6)から−X軸方向に延在して、第1領域10aに配置された2つの第2歪付与部8に接続されている。また、他方の導熱部710は、積層体2(共振部6)から+X軸方向に延在して第2領域10bに配置された2つの第2歪付与部8に接続されている。導熱部710は、積層体2と第2歪付与部8とを接続するとともに、隣り合う第2歪付与部8を接続している。
【0118】
導熱部710および第2歪付与部8は、平面視において、仮想直線Aに関して対称に配置される。
【0119】
導熱部710は、第1ミラー層20の第4部分20d、活性層30、および電流狭窄層42を含んで構成されている。第1ミラー層20の第4部分20dは、第1ミラー層20の第1部分20a上に設けられており、共振部6、第2歪付与部8、導熱部710を構成する部分である。導熱部710の熱伝導率は、例えば、基板10の熱伝導率よりも高い。
【0120】
導熱部710の高さ(Z軸方向の大きさ)は、積層体2の高さおよび第2歪付与部8の高さよりも小さい。これにより、導熱部710が活性層30に付与する歪みの影響を小さくすることができる。導熱部710の平面形状は、X軸方向に長手方向を持つ形状であるため、導熱部710が活性層30に付与する歪みと第1歪付与部4および第2歪付与部8が活性層30に付与する歪みとは、異なる異方性を持つ。そのため、導熱部710が活性層30に付与する歪みの影響は小さくすることが望ましい。
【0121】
面発光レーザー700では、導熱部710によって共振部6で発生する熱を第2歪付与部8に伝達することができる。第2歪付与部8に伝達された熱は、第2歪付与部8で放熱される。したがって、面発光レーザー700では、共振部6の温度上昇を抑制することができる。
【0122】
3.7. 第7変形例
上述した面発光レーザー100の例では、第1ミラー層20および第2ミラー層40がAl
0.12Ga
0.88As層とAl
0.9Ga
0.1As層とからなるDBR層である例について説明したが、本変形例では、第1ミラー層20および第2ミラー層40を構成するDBR層がその他の半導体材料を用いて形成されていてもよい。
【0123】
例えば、第1ミラー層20および第2ミラー層40は、AlN層とGaN層とからなるDBR層であってもよい。この場合、基板10としてはサファイア基板を用いることができる。ここで、サファイア基板の線膨張係数は、7×10
−6/Kである。また、AlNの線膨張係数は、4.6×10
−6/Kである。また、GaNの線膨張係数は、5.6××10
−6/Kである。したがって、基板10の線膨張係数に対する第1歪付与部4の線膨張係数は小さい。同様に、基板10の線膨張係数に対する第2歪付与部8の線膨張係数は小さい。したがって、このような材料を用いた場合であっても、第2歪付与部8は、第1歪付与部4と同じ異方性を持った歪みを、活性層30に付与することができる。
【0124】
3.8. 第8変形例
上述した面発光レーザー100の例では、第2歪付与部8は、第1ミラー層20、活性層30、第2ミラー層40、および電流狭窄層42で構成されており、積層体2を構成する材料と同様の半導体材料で構成されていた。
【0125】
これに対して、本変形例では、第2歪付与部8を構成する材料は、基板10の線膨張係数に対する第2歪付与部8の線膨張係数の大小関係が、基板10の線膨張係数に対する第1歪付与部4の線膨張係数の大小関係と同じであれば、積層体2を構成する材料と異なっていてもよい。例えば、第2歪付与部8は、半導体材料以外の材料(金属や樹脂等)で構成されていてもよい。
【0126】
4. 原子発振器
次に、本実施形態に係る原子発振器について、図面を参照しながら説明する。
図22は、本実施形態に係る原子発振器1000を示す機能ブロック図である。
【0127】
原子発振器1000は、
図22に示すように、本発明に係る面発光レーザー(図示の例では、面発光レーザー100)と、ガスセル1002と、光検出部1004と、中心波長可変部1006と、高周波発生部1008と、吸収検出部1010と、EIT検出部1012と、制御部1020と、を含む。制御部1020は、中心波長制御部1022と、高周波制御部1024と、を有している。原子発振器1000は、2つの異なる周波数成分を有する共鳴光対(第1光および第2光)によってアルカリ金属原子にEIT現象を発生させる。
【0128】
面発光レーザー100は、互いに周波数が異なる第1光および第2光を発生させて、ガスセル1002に封入されたアルカリ金属原子を照射する。
【0129】
ここで、
図23は、共鳴光の周波数スペクトラムを示す図である。
図24は、アルカリ金属原子のΛ型3準位モデルと第1側帯波(第1光)W1および第2側帯波(第2光)W2の関係を示す図である。面発光レーザー100から射出される光Lは、
図23に示す、中心周波数f
0(=c/λ
0:cは光の速さ、λ
0はレーザー光の中心波長)を有する基本波Fと、中心周波数f
0に対して上側サイドバンドに周波数f
1を有する第1側帯波W1と、中心周波数f
0に対して下側サイドバンドに周波数f
2を有する第2側帯波W2と、を含む。第1側帯波W1の周波数f
1は、f
1=f
0+f
mであり、第2側帯波W2の周波数f
2は、f
2=f
0−f
mである。
【0130】
図24に示すように、第1側帯波W1の周波数f
1と第2側帯波W2の周波数f
2との周波数差が、アルカリ金属原子の基底準位GL1と基底準位GL2とのエネルギー差ΔE
12に相当する周波数と一致している。したがって、アルカリ金属原子は、周波数f
1を有する第1側帯波W1と、周波数f
2を有する第2側帯波W2と、によってEIT現象を起こす。
【0131】
ここで、EIT現象について説明する。アルカリ金属原子と光との相互作用は、Λ型3準位系モデルで説明できることが知られている。
図24に示すように、アルカリ金属原子は、2つの基底準位を有し、基底準位GL1と励起準位とのエネルギー差に相当する波長(周波数f
1)を有する第1側帯波W1、あるいは基底準位GL2と励起準位とのエネルギー差に相当する波長(周波数f
2)を有する第2側帯波W2を、それぞれ単独でアルカリ金属原子に照射すると、光吸収が起きる。ところが、
図23に示すように、このアルカリ金属原子に、周波数差f
1−f
2が基底準位GL1と基底準位GL2のエネルギー差ΔE
12に相当する周波数と正確に一致する第1側帯波W1と第2側帯波W2とを同時に照射すると、2つの基底準位の重ね合わせ状態、すなわち量子干渉状態になり、励起準位への励起が停止して第1側帯波W1と第2側帯波W2とがアルカリ金属原子を透過する透明化現象(EIT現象)が起きる。このEIT現象を利用し、第1側帯波W1と第2側帯波W2との周波数差f
1−f
2が基底準位GL1と基底準位GL2とのエネルギー差ΔE
12に相当する周波数からずれた時の光吸収挙動の急峻な変化を検出し制御することで、高精度な発振器をつくることができる。
【0132】
ガスセル1002は、容器中に気体状のアルカリ金属原子(ナトリウム原子、ルビジウム原子、セシウム原子等)を封入したものである。セシウム原子は、例えば、80℃程度に加熱されて気体状となる。ガスセル1002に対して、アルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数(波長)を有する2つの光波(第1光および第2光)が照射されると、アルカリ金属原子がEIT現象を起こす。例えば、アルカリ金属原子がセシウム原子であれば、D1線における基底準位GL1と基底準位GL2とのエネルギー差に相当する周波数が9.19263・・・GHzなので、周波数差が9.19263・・・GHzの2つの光波が照射されるとEIT現象を起こす。
【0133】
光検出部1004は、ガスセル1002を透過した(ガスセル1002に封入されたアルカリ金属原子を透過した)光の光量を(強度を)検出する。光検出部1004は、アルカリ金属原子を透過した光の量に応じた検出信号を出力する。光検出部1004としては、例えば、フォトダイオードを用いる。
【0134】
中心波長可変部1006は、中心波長制御部1022からの信号に基づいて、面発光レーザー100の電極80,82(
図1参照)間に電圧を印加して活性層30に電流を注入し、面発光レーザー100から射出される光Lの中心波長を変化させる。これにより、光Lに含まれる共鳴光対(第1光および第2光)の中心波長を変化させることができる。中心波長可変部1006は、電極80,82間に電圧を印加する電源を含んで構成されていてもよい。
【0135】
高周波発生部1008は、高周波制御部1024からの信号に基づいて、面発光レーザー100の電極80,82間に高周波信号を供給して共鳴光対を生成する。高周波発生部1008は、専用回路によって実現されていてもよい。
【0136】
吸収検出部1010は、例えば、光Lの中心波長を変えたときの光検出部1004が出力した検出信号の信号強度の最小値(吸収の底)を検出する。吸収検出部1010は、専用回路によって実現されていてもよい。
【0137】
EIT検出部1012は、光検出部1004が出力した検出信号を同期検波して、EIT現象を検出する。EIT検出部1012は、専用回路によって実現されていてもよい。
【0138】
中心波長制御部1022は、吸収検出部1010からの信号に基づいて、中心波長可変部1006を制御することにより、面発光レーザー100の活性層30(
図2参照)に注入する電流を制御して、面発光レーザー100から射出される光Lの光出力(光量)および波長(中心波長)を変化させる。
【0139】
高周波制御部1024は、EIT検出部1012からの信号に基づいて、高周波発生部1008に、高周波信号を発生する信号を入力する。
【0140】
なお、制御部1020は、専用回路によって実現して上記の制御を行うように構成されていてもよい。また、制御部1020は、例えばCPU(Central Processing Unit)がROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等の記憶装置に記憶された制御プログラムを実行することによってコンピューターとして機能し、上記の制御を行うように構成されていてもよい。
【0141】
次に、原子発振器1000の動作について説明する。まず、停止状態の原子発振器1000を起動する際の初期動作について説明する。
【0142】
高周波制御部1024は、高周波発生部1008に信号を入力し、高周波発生部1008から面発光レーザー100に高周波信号を入力する。このとき、高周波信号の周波数を、EIT現象が発生しないように僅かにずらしておく。例えばガスセル1002のアルカリ金属原子としてセシウムを用いた場合、4.596・・・GHzの値からずらす。
【0143】
次に、中心波長制御部1022は、中心波長可変部1006を制御して、光Lの中心波長をスイープさせる。このとき、高周波信号の周波数は、EIT現象が発生しないように設定されているので、EIT現象は発生しない。吸収検出部1010は、光Lの中心波長をスイープしたときに、光検出部1004において出力される検出信号の強度の最小値(
吸収の底)を検出する。吸収検出部1010は、例えば、光Lの中心波長に対する、検出信号の強度変化が一定となったところを、吸収の底とする。
【0144】
吸収検出部1010が吸収の底を検出すると、中心波長制御部1022は、中心波長可変部1006を制御して、中心波長を固定する(ロックする)。すなわち、中心波長制御部1022は、光Lの中心波長を、吸収の底に相当する波長に固定する。
【0145】
次に、高周波制御部1024は、高周波発生部1008を制御して、高周波信号の周波数をEIT現象が発生する周波数に合わせる。その後、ループ動作に移行して、EIT検出部1012によりEIT信号を検出する。
【0146】
次に、原子発振器1000のループ動作について説明する。
【0147】
EIT検出部1012は、光検出部1004が出力した検出信号を同期検波し、高周波制御部1024は、EIT検出部1012から入力される信号に基づいて、高周波発生部1008が発生する高周波信号の周波数を、ガスセル1002のアルカリ金属原子のΔE
12の半分に相当する周波数となるように制御する。
【0148】
吸収検出部1010は、光検出部1004が出力した検出信号を同期検波し、中心波長制御部1022は、吸収検出部1010から入力される信号に基づいて、光Lの中心波長が、光検出部1004において出力される検出信号の強度の最小値(吸収の底)に相当する波長となるように、中心波長可変部1006を制御する。
【0149】
原子発振器1000は、面発光レーザー100を含むため、光源として、偏光方向の安定したレーザー光を射出可能な面発光レーザーを用いることができる。そのため、例えば、λ/4板を介して、ガスセル1002に円偏光の光を安定して照射することができる。その結果、原子発振器の周波数安定度を高めることができる。例えば、面発光レーザーから射出されるレーザー光の偏光方向が不安定な場合、λ/4板を介して得られる光が楕円偏光となる場合や、円偏光の回転方向が変動してしまう場合がある。
【0150】
なお、上述した実施形態及び変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば各実施形態及び各変形例は、適宜組み合わせることが可能である。
【0151】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。