(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
駆動源の駆動力が常時伝達される主駆動輪と、車両の前後方向に前記駆動力を伝達する駆動軸と、前記駆動軸を介して前記駆動源の駆動力が伝達される補助駆動輪と、前記補助駆動輪への駆動力伝達経路において前記駆動軸を挟むように配置された第1及び第2の駆動力伝達装置と、前記第1及び第2の駆動力伝達装置を制御する制御装置とを備えた四輪駆動車であって、
前記第1の駆動力伝達装置は、凹部と凸部との係合により駆動力を伝達する噛み合いクラッチを有し、
前記第2の駆動力伝達装置は、同軸上で相対回転可能に支持された外側回転部材及び内側回転部材と、前記外側回転部材と共に回転する外側クラッチプレートと、前記内側回転部材と共に回転する内側クラッチプレートと、前記制御装置から供給される制御電流に応じた押圧力で前記外側クラッチプレート及び前記内側クラッチプレートを軸方向に押圧する押圧機構とを有し、
前記制御装置は、前記押圧機構に前記制御電流を出力する電流出力回路と、前記電流出力回路から実際に出力される前記制御電流の大きさに応じた検出信号を出力する電流検出手段と、前記押圧機構に供給すべき前記制御電流の目標値である目標電流値を演算する目標電流値演算手段と、前記電流検出手段の検出結果に基づいて前記目標電流値演算手段で演算された電流値の前記制御電流が前記押圧機構に出力されるように前記電流出力回路を制御する電流制御手段とを有し、
前記電流制御手段は、前記第1及び第2の駆動力伝達装置による駆動力の伝達が共に遮断される二輪駆動状態であるとき、前記電流検出手段から出力されている前記検出信号が前記電流出力回路から出力される前記制御電流のゼロ点を示すことを記憶するゼロ点補正を行う、
四輪駆動車。
前記電流制御手段は、前記二輪駆動状態になってから第1の所定時間が経過したときに前記ゼロ点補正を行い、その後、前記二輪駆動状態が継続するときは前記第1の所定時間よりも長い第2の所定時間が経過するごとに前記ゼロ点補正を繰り返し行う、
請求項1に記載の四輪駆動車。
前記電流制御手段は、前記駆動源を始動させる始動スイッチがオン状態となったとき、前記電流出力回路から前記押圧機構に前記制御電流が出力される前に前記ゼロ点補正を行う、
請求項1又は2に記載の四輪駆動車。
前記押圧機構は、油圧ポンプと、シリンダ室に供給される作動油の油圧を受けて前記外側クラッチプレート及び前記内側クラッチプレートを押圧するピストンと、前記油圧ポンプから前記シリンダ室に供給される作動油の圧力を調節する電磁弁とを有し、
前記制御装置は、前記電磁弁に前記制御電流を出力する、
請求項1乃至3の何れか1項に記載の四輪駆動車。
前記押圧機構は、電動モータと、前記電動モータにより駆動される油圧ポンプと、前記油圧ポンプからシリンダ室に供給される作動油の油圧を受けて前記外側クラッチプレート及び前記内側クラッチプレートを押圧するピストンとを有し、
前記制御装置は、前記電動モータに前記制御電流を出力する、
請求項1乃至3の何れか1項に記載の四輪駆動車。
駆動源の駆動力が常時伝達される主駆動輪と、車両の前後方向に前記駆動力を伝達する駆動軸と、前記駆動軸を介して前記駆動源の駆動力が伝達される補助駆動輪と、前記補助駆動輪への駆動力伝達経路において前記駆動軸を挟むように配置された第1及び第2の駆動力伝達装置とを備えた四輪駆動車に搭載され、制御部及び電流出力回路を有して前記第1及び第2の駆動力伝達装置を制御する制御装置であって、
前記第1の駆動力伝達装置は、凹部と凸部との係合により駆動力を伝達する噛み合いクラッチを有し、
前記第2の駆動力伝達装置は、同軸上で相対回転可能に配置された外側回転部材及び内側回転部材と、前記外側回転部材と共に回転する外側クラッチプレート及び前記内側回転部材と共に回転する内側クラッチプレートを有する摩擦クラッチと、前記電流出力回路から供給される制御電流に応じた押圧力で前記外側クラッチプレート及び前記内側クラッチプレートを軸方向に押圧する押圧機構とを有し、
前記制御部は、前記押圧機構に供給すべき前記制御電流の目標値である目標電流値を演算する目標電流値演算手段と、前記電流出力回路から実際に出力される前記制御電流の大きさに応じた検出信号を出力する電流検出手段と、前記電流検出手段の検出結果に基づいて前記目標電流値演算手段で演算された電流値の前記制御電流が前記押圧機構に出力されるように前記電流出力回路を制御する電流制御手段とを有し、
前記電流制御手段は、前記噛み合いクラッチ及び前記摩擦クラッチによる駆動力の伝達が共に遮断される二輪駆動状態であるとき、前記電流検出手段から出力されている前記検出信号が前記電流出力回路から出力される前記制御電流のゼロ点を示すことを記憶するゼロ点補正を行う、
四輪駆動車の制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態について、
図1乃至
図7を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0014】
(四輪駆動車の全体構成)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る四輪駆動車の概略の構成を示す構成図である。
【0015】
四輪駆動車1は、走行用の駆動力を発生させる駆動源としてのエンジン11と、エンジン11の出力回転を変速するトランスミッション12と、左右一対の主駆動輪としての前輪13L,13Rと、左右一対の補助駆動輪としての後輪14L,14Rと、トランスミッション12で変速されたエンジン11の駆動力を前輪13L,13R及び後輪14L,14Rに伝達可能な駆動力伝達系10と、制御装置2とを備えている。なお、本実施の形態において、各符号における「L」及び「R」は、車両の前進方向に対する左側及び右側の意味で使用している。
【0016】
この四輪駆動車1は、エンジン11の駆動力を前輪13L,13R及び後輪14L,14Rに伝達する四輪駆動状態と、エンジン11の駆動力を前輪13L,13Rのみに伝達する二輪駆動状態とを切り替え可能である。前輪13L,13Rには、エンジン11の駆動力が常時伝達され、後輪14L,14Rには、走行状態や運転者によるスイッチ操作に応じてエンジン11の駆動力が伝達される。
【0017】
なお、本実施の形態では、駆動源として内燃機関であるエンジンを適用した場合について説明するが、これに限らず、エンジンとIPM(Interior Permanent Magnet Synchronous)モータ等の高出力電動モータとの組み合わせによって駆動源を構成してもよく、高出力電動モータのみによって駆動源を構成してもよい。
【0018】
駆動力伝達系10は、四輪駆動車1におけるトランスミッション12から前輪13L,13R及び後輪14L,14R側に至る駆動力伝達経路を構成している。駆動力伝達系10は、フロントディファレンシャル3と、フロントディファレンシャル3と前輪13L,13Rとの間に配置されたドライブシャフト15L,15Rと、フロントディファレンシャル3に隣接して配置された第1の駆動力伝達装置4と、車両の前後方向にエンジン11の駆動力を伝達する駆動軸としてのプロペラシャフト5と、車両前後方向におけるプロペラシャフト5の後方に配置された第2の駆動力伝達装置6と、第2の駆動力伝達装置6と後輪14L,14Rとの間に配置されたドライブシャフト16L,16Rとを有している。
【0019】
制御装置2は、第1の駆動力伝達装置4及び第2の駆動力伝達装置6を制御する。第1の駆動力伝達装置4及び第2の駆動力伝達装置6は、後輪14L,14Rへの駆動力伝達経路においてプロペラシャフト5を挟むように配置されている。後輪14L,14Rには、プロペラシャフト5を介してエンジン11の駆動力が伝達される。この構成により、二輪駆動状態の走行時には、制御装置2が第1の駆動力伝達装置4及び第2の駆動力伝達装置6を制御して駆動力の伝達を遮断することで、プロペラシャフト5を非回転状態にすることができる。これにより、プロペラシャフト5の回転に伴う走行抵抗が低減され、燃費性能の向上が図られる。以下、第1の駆動力伝達装置4及び第2の駆動力伝達装置6による駆動力の伝達が共に遮断された二輪駆動状態を、駆動力伝達系10のディスコネクト状態という。
【0020】
フロントディファレンシャル3は、フロントデフケース30と、フロントデフケース30と一体に回転するピニオンシャフト31と、ピニオンシャフト31に軸支された一対のピニオンギヤ32と、一対のピニオンギヤ32にギヤ軸を直交させて噛み合う一対のサイドギヤ33とを有し、トランスミッション12と第1の駆動力伝達装置4との間に配置されている。一対のサイドギヤ33には、ドライブシャフト15L,15Rがそれぞれ連結されている。
【0021】
プロペラシャフト5は、十字継手を有する複数のユニバーサルジョイント51によって連結された複数の軸部材からなり、その車両前方側の端部にはドライブピニオン52が設けられ、車両後方側の端部には第2の駆動力伝達装置6の連結部材600(後述)と相対回転不能に連結される連結部53が設けられている。また、プロペラシャフト5は、その長手方向の中央部でセンターベアリング50によって車体に対して回転可能に支持されている。
【0022】
(第1の駆動力伝達装置の構成)
図2は、第1の駆動力伝達装置4の構成例を示し、(a)は第1の駆動力伝達装置4の断面図であり、(b)は第1の駆動力伝達装置4の噛み合い部を模式的に示す説明図である。なお、
図2(a)では、第1の駆動力伝達装置4におけるフロントデフケース30の回転軸線O
1よりも上側の半分の範囲を図示している。
【0023】
第1の駆動力伝達装置4は、凹部と凸部との係合により駆動力を伝達する噛み合いクラッチ40を有する。より具体的には、第1の駆動力伝達装置4は、フロントデフケース30と同軸上で回転する第1乃至第3回転部材41〜43によって構成された噛み合いクラッチ40と、噛み合いクラッチ40を作動させるアクチュエータ400と、プロペラシャフト5のドライブピニオン52にギヤ軸を直交させて噛み合うリングギヤ44とを備えている。
【0024】
アクチュエータ400は、電動モータ45と、電動モータ45の出力軸451の回転を減速する減速機構46と、減速機構46で減速された電動モータ45のトルクによって噛み合いクラッチ40の第3回転部材43を軸方向に移動させる移動機構47とを備えている。電動モータ45は、制御装置2から供給される電流によって動作する。
【0025】
第1回転部材41は、フロントデフケース30の軸方向の端部に固定され、フロントデフケース30と一体に回転する。第2回転部材42は、第1回転部材41に対して同軸上で相対回転可能である。第3回転部材43は、第2回転部材42の外周側に設けられた円筒状であり、第2回転部材42に対して軸方向に相対移動可能である。
【0026】
第1回転部材41は、その内周側に右前輪側のドライブシャフト15Rを挿通させる環状であり、外周面に回転軸線O
1と平行に延在して形成された複数のスプライン歯411を有している。複数のスプライン歯411のうち、周方向に隣り合う一対のスプライン歯411の間には、それぞれ凹部410が形成されている。第2回転部材42は、ドライブシャフト15Rを挿通させる筒状であり、その軸方向の一端部にリングギヤ44が固定されている。また、第2回転部材42は、その外周面に、回転軸線O
1と平行に延在して形成された複数のスプライン歯421を有している。複数のスプライン歯421のうち、周方向に隣り合う一対のスプライン歯421の間には、それぞれ凹部420が形成されている。
【0027】
第3回転部材43の内周面には、第1回転部材41の複数のスプライン歯411、及び第2回転部材42の複数のスプライン歯421と係合可能な複数のスプライン歯431が形成されている。本実施の形態では、第3回転部材43の複数のスプライン歯431が第2回転部材42の凹部420に噛み合い、この噛み合い状態を保ちながら第3回転部材43が第2回転部材42に対して軸方向移動可能である。
【0028】
また、第3回転部材43は、移動機構47によって第1回転部材41側に移動したとき、第3回転部材43の凸部としての複数のスプライン歯431が第1回転部材41の凹部410に噛み合い、第1回転部材41と相対回転不能に連結される。これにより、第1回転部材41と第2回転部材42とが第3回転部材43を介して相対回転不能に連結され、第1回転部材41から第2回転部材42にエンジン11の駆動力を伝達可能な状態となる。一方、第3回転部材43が第1回転部材41から離間すると、第3回転部材43の複数のスプライン歯431と第1回転部材41の凹部410との噛み合いが解除され、第1回転部材41と第2回転部材42とが相対回転可能となる。これにより、第1回転部材41から第2回転部材42への駆動力伝達が遮断される。
【0029】
減速機構46は、電動モータ45の出力軸451と一体回転するピニオンギヤ461と、ピニオンギヤ461に噛み合う大径ギヤ部462a、及び大径ギヤ部462aと一体に回転する小径ギヤ部462bとを有する減速ギヤ462とを有している。移動機構47は、減速ギヤ462の小径ギヤ部462bと噛み合うラック歯471aを有する直動軸471と、直動軸471に固定されたシフトフォーク472とを有している。第3回転部材43には、シフトフォーク472が摺動可能に嵌合する環状の環状溝432が外周面に形成されている。
【0030】
電動モータ45の出力軸451が回転すると、その回転が減速機構46で減速され、直動軸471が回転軸線O
1と平行に移動する。そして、この直動軸471の移動に伴って、第3回転部材43が第1回転部材41及び第2回転部材42と噛み合う連結位置と、第1回転部材41と噛み合わない非連結位置との間を移動する。
【0031】
(第2の駆動力伝達装置の構成)
第2の駆動力伝達装置6は、
図1に示すように、車体に支持されるハウジング60と、プロペラシャフト5から駆動力が伝達される後輪側の歯車機構61と、この歯車機構61によって伝達される駆動力を調節して後輪側のドライブシャフト16L,16Rに伝達する第1及び第2の摩擦クラッチ62L,62Rと、第1及び第2の摩擦クラッチ62L,62Rへ油圧を供給する油圧回路70とを有する。ハウジング60は、第1及び第2の摩擦クラッチ62L,62R及び歯車機構61を収容している。
【0032】
歯車機構61は、互いにギヤ軸を直交させて噛合するピニオンギヤ610及びリングギヤ611と、リングギヤ611と一体に回転するセンターシャフト612とを備える。センターシャフト612は、その回転軸線が車幅方向に平行であり、リングギヤ611を介してプロペラシャフト5の回転力を受けて回転する。第1の摩擦クラッチ62Lは、センターシャフト612と後輪側のドライブシャフト16Lとの間に配置され、第2の摩擦クラッチ62Rは、センターシャフト612と後輪側のドライブシャフト16Rとの間に配置されている。
【0033】
制御装置2は、四輪駆動車1の走行中に二輪駆動状態から四輪駆動状態へ切り替える際、第2の駆動力伝達装置6を介して後輪14L,14Rの回転力をプロペラシャフト5に伝達し、プロペラシャフト5を回転させて第1の駆動力伝達装置4の第1回転部材41と第2回転部材42とを回転同期させる。そして、この回転同期が完了した後に、第1の駆動力伝達装置4のアクチュエータ400を制御して第3の回転部材43を第1の回転部材41に噛み合わせる。これにより、四輪駆動車1が四輪駆動状態となる。
【0034】
図3は、第2の駆動力伝達装置6の構造の具体例を示す断面図である。
図4は、第1の摩擦クラッチ62L及びその周辺の構成を示す要部断面図である。
【0035】
第2の駆動力伝達装置6は、歯車機構61のピニオンギヤ610が連結部材600によってプロペラシャフト5の連結部53(
図1参照)と相対回転不能に連結されている。また、第2の駆動力伝達装置6は、第1及び第2の摩擦クラッチ62L,62Rをそれぞれ収容する左右一対の外側回転部材としてのクラッチドラム63と、クラッチドラム63の内側に配置された左右一対の内側回転部材としてのインナシャフト64と、クラッチドラム63と後輪側のドライブシャフト16L,16Rとを相対回転不能に連結するための左右一対の連結シャフト65と、各種の軸受661〜669と、ピストン67と、押圧部材68とを有している。クラッチドラム63とインナシャフト64とは、同軸上で相対回転可能に支持されている。
【0036】
ハウジング60は、歯車機構61のピニオンギヤ610、リングギヤ611、及びセンターシャフト612を収容するセンターハウジング部材60Cと、第1及び第2の摩擦クラッチ62L,62Rをそれぞれ収容するサイドハウジング部材60L,60Rとを有する。センターハウジング部材60Cは、車幅方向の左側に配置されるサイドハウジング部材60Lと右側に配置されるサイドハウジング部材60Rとの間に配置されている。センターハウジング部材60C及びサイドハウジング部材60L,60Rは、ボルト締めによって相互に固定されている。ハウジング60の内部には、歯車機構61におけるギヤの噛み合い、ならびに第1及び第2の摩擦クラッチ62L,62Rにおける摩擦摺動を潤滑する図略の潤滑油が封入されている。
【0037】
センターハウジング部材60Cは、歯車機構61のピニオンギヤ610を円すいころ軸受661,662を介して回転可能に保持する第1の保持部601と、歯車機構61のセンターシャフト612を一対の円すいころ軸受663,664を介して回転可能に保持する第2の保持部602と、左右一対のインナシャフト64をそれぞれ玉軸受665を介して回転可能に保持する第3の保持部603と、ピストン67の一部を進退後動可能に収容するシリンダ室604とを備える。シリンダ室604は、車幅方向におけるセンターハウジング部材60Cの両端部に形成され、サイドハウジング部材60L,60R側に向かって開口している。一対の連結シャフト65は、玉軸受666によってサイドハウジング部材60L,60Rに支持されている。
【0038】
センターシャフト612は、その回転軸線O
2に沿って延びる円筒状の円筒部612aと、円筒部612aの端部において径方向外方に突出して形成されたフランジ部612bとを一体に有する。リングギヤ611には、ピニオンギヤ610のギヤ部610aと噛み合う複数の噛み合い歯611aが形成されている。リングギヤ611は、センターシャフト612のフランジ部612bにボルト614によって固定されている。
【0039】
第1及び第2の摩擦クラッチ62L,62Rのそれぞれは、クラッチドラム63に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能に係合する複数のアウタクラッチプレート621、及びインナシャフト64に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能に係合する複数のインナクラッチプレート622を有している。複数のアウタクラッチプレート621及び複数のインナクラッチプレート622は、センターシャフト612の回転軸線O
2に平行な方向に交互に配置され、ピストン67によって押圧される。すなわち、第1及び第2の摩擦クラッチ62L,62Rは、ピストン67からの押圧力を受け、複数のアウタクラッチプレート621と複数のインナクラッチプレート622との間に摩擦力を発生させる。
【0040】
ピストン67は、油圧回路70からシリンダ室604に供給される作動油の油圧を受け、複数のアウタクラッチプレート621及び複数のインナクラッチプレート622を押圧する。センターハウジング部材630には、油圧回路70から供給される作動油をシリンダ室604に導くための供給用流路605が設けられている。ピストン67の外周面と内周面には、それぞれ環状のシール部材671,672が配置されている。
【0041】
第1及び第2の摩擦クラッチ62L,62Rは、作動油の圧力を受けたピストン67の押圧力を針状ころ軸受667及び押圧部材68を介して受け、複数のアウタクラッチプレート621と複数のインナクラッチプレート622とが摩擦接触することにより、インナシャフト64とクラッチドラム63との間で回転力を伝達する。これにより、エンジン11の駆動力が第1及び第2の摩擦クラッチ62L,62Rを介して後輪14L,14Rに伝達される。押圧部材68は、クラッチドラム63と一体に回転し、針状ころ軸受667は、ピストン67と押圧部材68との間に配置されている。
【0042】
一方、第1及び第2の摩擦クラッチ62L,62Rは、ピストン67が作動油の圧力を受けないとき、複数のアウタクラッチプレート621と複数のインナクラッチプレート622とが相対回転自在となる。これにより、第1及び第2の摩擦クラッチ62L,62Rは、エンジン11から後輪14L,14Rへの駆動力伝達を遮断可能である。
【0043】
クラッチドラム63は、大径円筒部631及び小径円筒部632と、大径円筒部631と小径円筒部632との間の側壁部633とを一体に有する。
図4に示すように、複数のアウタクラッチプレート621は、その外周部にスプライン突起621aを有し、このスプライン突起621aがクラッチドラム63の大径円筒部631の内周面に形成されたストレートスプライン嵌合部631aに係合している。これにより、複数のアウタクラッチプレート621は、クラッチドラム63と共に回転する。クラッチドラム63の側壁部633とサイドハウジング部材60L,60Rとの間には、スラスト針状ころ軸受668が配置されている。
【0044】
押圧部材68は、円環状の板部材によって形成され、クラッチドラム63のストレートスプライン嵌合部631aに係合するスプライン突起68aを外周部に有する。また、押圧部材68は、スプライン突起68aをストレートスプライン嵌合部631aに係合させて、クラッチドラム63に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能に連結されている。
【0045】
クラッチドラム63の小径円筒部632の内周面には、連結シャフト65の外周面に形成されたスプライン嵌合部65aにスプライン嵌合するスプライン嵌合部632aが形成されている。これにより、クラッチドラム63は、連結シャフト65に対して相対回転不能に連結されている。
【0046】
インナシャフト64は、連結シャフト65の一端部を収容する円筒部641と、円柱状の軸部642とを有し、軸部642の先端部がスプライン嵌合によってセンターシャフト612に相対回転不能に連結されている。円筒部641の内周面と連結シャフト65の外周面との間には、針状ころ軸受669が配置されている。サイドハウジング部材60L,60Rの車幅方向の端部における開口内面と連結シャフト65の外周面との間には、シール部材69が配置されている。
【0047】
複数のインナクラッチプレート622は、その内周部にスプライン突起622aを有し、このスプライン突起622aがインナシャフト64の円筒部641の外周面に形成されたストレートスプライン嵌合部641aに係合している。これにより、複数のインナクラッチプレート622は、インナシャフト64と共に回転する。
【0048】
(油圧回路及び制御装置の構成及び制御方法)
図5は、油圧回路70及び制御装置2の構成例を模式的に示す構成図である。油圧回路70は、油圧源である油圧ポンプ71と、油圧ポンプ71を駆動する電動モータ72と、第1及び第2の電磁弁73,74とを有している。油圧ポンプ71と電動モータ72とは、連結軸721によって連結されている。制御装置2は、電動モータ72にモータ電流を供給し、電動モータ72によって油圧ポンプ71を駆動する。
【0049】
なお、連結軸721と電動モータ72との間に、電動モータ72の回転を所定の減速比で減速する減速機を設けてもよい。電動モータ72は、例えばDCブラシレスモータであるが、電動モータ72としてブラシ付きDCモータを用いてもよい。
【0050】
油圧ポンプ71は、それ自体は周知のものであり、電動モータ72の回転数(回転速度)に応じた吐出圧でリザーバ710から汲み上げた作動油を吐出する。油圧ポンプ71の吐出側とリザーバ710との間にはオリフィス711が配置されている。この油圧ポンプ71として、具体的には、外接ギヤポンプや内接ギヤポンプ、あるいはベーンポンプを用いることができる。
【0051】
第1の電磁弁73は、油圧ポンプ71からサイドハウジング部材60Lのシリンダ室604に至る油路に配置されている。第2の電磁弁74は、油圧ポンプ71からサイドハウジング部材60Rのシリンダ室604に至る油路に配置されている。第1及び第2の電磁弁73,74は、油圧ポンプ71からシリンダ室604に供給される作動油の圧力を調節する圧力制御弁であり、より具体的には電磁比例圧力制御バルブである。油圧回路70からシリンダ室604に出力される作動油の圧力は、制御装置2から第1及び第2の電磁弁73,74に供給される電流に応じて変化する。第1及び第2の電磁弁73,74は、図略の電磁ソレノイドを有し、制御装置2から供給される電流は、この電磁ソレノイドのコイルに供給されて弁体を移動させる。以下、シリンダ室604に供給される作動油の圧力を調節するために制御装置2が供給する電流を制御電流という。
【0052】
第1及び第2の電磁弁73,74は、油圧ポンプ71から吐出された作動油の一部を排出し、作動油の圧力を減圧してシリンダ室604側に出力する。第1及び第2の電磁弁73,74からシリンダ室604側に出力される作動油の圧力は、例えば制御電流に比例して変化する。制御装置2は、油圧ポンプ71の吐出圧がサイドハウジング部材60L,60Rのシリンダ室604のそれぞれに供給すべき作動油の油圧よりも高くなるように電動モータ72を制御する。
【0053】
油圧ポンプ71、電動モータ72、第1及び第2の電磁弁73,74、及びピストン67は、制御装置2から供給される制御電流に応じた押圧力で第1及び第2の摩擦クラッチ62L,62Rの複数のアウタクラッチプレート621及び複数のインナクラッチプレート622を軸方向に押圧する押圧機構7を構成する。本実施の形態では、制御装置2が押圧機構7の第1及び第2の電磁弁73,74に制御電流を供給することで、第1及び第2の摩擦クラッチ62L,62Rに付与される押圧力を調節する。
【0054】
制御装置2は、押圧機構7に制御電流を出力する電流出力回路20と、制御部200とを有している。制御部200は、電流出力回路20から実際に出力される制御電流の大きさに応じた検出信号を出力する電流検出手段21と、押圧機構7に供給すべき制御電流の目標値である目標電流値を演算する目標電流値演算手段22と、電流検出手段21の検出結果に基づいて目標電流値演算手段22で演算された電流値の制御電流が押圧機構7に出力されるように電流出力回路20を制御する電流制御手段23とを有している。目標電流値演算手段22は、前輪13L,13R及び後輪14L,14Rの回転速度を検出する車輪速センサ17、及び運転者が踏み込み操作するアクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセル開度センサ18の検出値に基づいて、制御電流の目標電流値を演算する。
【0055】
図6は、制御部200による制御系8の構成例を電流出力回路20の構成例と共に示すブロック図である。電流出力回路20は、第1の電磁弁73と第2の電磁弁74とにそれぞれ独立して制御電流を出力することが可能であり、電流検出手段21は、第1の電磁弁73及び第2の電磁弁74にそれぞれ実際に出力される制御電流の電流値(実電流値)を検出可能であるが、
図6では、電流出力回路20のうち、第1の電磁弁73に制御電流を出力する回路部分のみを示している。なお、第2の電磁弁74への制御電流を出力及び検出するための回路部分も同様に構成されている。
【0056】
電流出力回路20は、四輪駆動車1に搭載された直流電流源(バッテリー)19から電流の供給を受けるコネクタ190と、第1の電磁弁73の電磁ソレノイドにおけるコイル730の一端部及び他端部に電気的に接続される第1端子201及び第2端子202と、第1端子201と第2端子202との間に接続された還流ダイオード203と、スイッチング素子204とを有している。スイッチング素子204は、例えばトランジスタやFETである。
図6では、スイッチング素子204としてFETを用いた場合の回路例を図示している。
【0057】
コネクタ190と第1端子201との間には、第1の電磁弁73に出力される電流を検出するためのシャント抵抗210が接続されている。シャント抵抗210に流れる電流の電流値は、コイル730に流れる電流(制御電流)の電流値と同じである。スイッチング素子204がオンすると、バッテリー19から供給される電流がコネクタ190及びシャント抵抗210を介してコイル730に電流が流れ、スイッチング素子204がオフした際には、コイル730のインダクタンスによって過渡的に還流ダイオード203を介して電流が流れる。
【0058】
制御部200における目標電流値演算手段22及び電流制御手段23の機能は、例えば制御装置2のCPUが記憶素子に記憶されたプログラムを実行することで実現される。ただし、これらの機能をハードウェアによって実現してもよい。
【0059】
制御系8は、制御要素として、電流検出手段21による増幅回路80及び電流値取り込み部81と、目標電流値演算手段22による目標伝達トルク演算部82及びトルク・電流変換部83と、電流制御手段23によるフィードバック制御部84及びPWM出力部85とを有している。
【0060】
増幅回路80は、オペアンプ800と、オペアンプ800の−(マイナス)入力端子とシャント抵抗210の一端との間に接続された第1の抵抗器801と、オペアンプ800の+入力端子とシャント抵抗210の他端との間に接続された第2の抵抗器802と、オペアンプ800の出力端子とシャント抵抗210の一端との間に接続された第3の抵抗器803と、シャント抵抗210の他端と接地電位との間に接続された第4の抵抗器804とを有して構成されている。この増幅回路80は、シャント抵抗210の両端部の間に電圧降下によって発生する電位差を増幅して出力する。
【0061】
電流値取り込み部81は、増幅回路80の出力電圧をサンプリングし、アナログ信号からデジタル信号に変換するAD変換を行う。電流値取り込み部81は、このAD変換の結果である制御電流の実電流値を示す信号を、検出信号として出力する。
【0062】
目標伝達トルク演算部82には、車輪速センサ17及びアクセル開度センサ18の検出値が入力される。目標伝達トルク演算部82は、後輪14L,14Rに伝達すべき駆動力(目標伝達トルク)を、前輪13L,13Rの平均回転速度と後輪14L,14Rの平均回転速度の差である前後輪回転速差が大きいほど、またアクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)が大きいほど、大きくなるように演算する。また、四輪駆動車1の旋回時には、後輪14L,14Rのうち旋回の外側となる車輪に対し、旋回の内側となる車輪よりも大きな駆動力が配分されるように、後輪14L,14Rのそれぞれに対する目標伝達トルクを調節する。これにより、四輪駆動車1の旋回を安定化させることができる。
【0063】
またさらに、目標伝達トルク演算部82は、後輪14L,14Rに駆動力を伝達する必要がない場合には、目標伝達トルクをゼロとし、駆動力伝達系10をディスコネクト状態とする。この際、制御装置2は、第1の駆動力伝達装置4を制御して駆動力の伝達を遮断する。目標伝達トルク演算部82で演算された目標伝達トルクは、トルク・電流変換部83に入力される。
【0064】
トルク・電流変換部83は、目標伝達トルクに応じて、予め記憶された特性情報を参照し、押圧機構7に出力すべき制御電流の目標電流値を演算する。この特性情報は、押圧機構7(具体的には、第1及び第2の電磁弁73,74)に供給される制御電流と、第1及び第2の摩擦クラッチ62L,62Rによってドライブシャフト16L,16Rに伝達されるトルク(駆動力)との関係を示す情報である。
【0065】
フィードバック制御部84は、トルク・電流変換部83で演算された目標電流値と、電流値取り込み部81から出力された制御電流の実電流値との差に基づいて、この実電流値が目標電流値に近づくようにフィードバック制御を行う。具体的には、スイッチング素子204がオンしている時間の割合を示すデューティー比を演算する。フィードバック制御部84は、このフィードバック制御として、具体的にはPID(Proportional Integral Derivative)制御を行う。PID制御は、フィードバック制御の一種であり、目標値と実値との偏差、ならびに偏差の積分値及び微分値の3つの要素によって、実値を目標値に近づけるように制御対象を制御するものである。
【0066】
PWM出力部85は、フィードバック制御部84により演算されたデューティー比でスイッチング素子204がオン状態となるように、スイッチング素子204にゲート信号を出力する。
【0067】
以上のように構成された制御系によれば、車輪速センサ17及びアクセル開度センサ18の検出値に基づいて演算された目標伝達トルクに相当する駆動力が後輪14L,14Rに伝達される。また、第1の電磁弁73と第2の電磁弁74とにそれぞれ独立して制御電流を出力することにより、例えばウエット路等の低μ路を走行する場合でも、四輪駆動車1の旋回を安定化させることが可能となる。
【0068】
(電流制御手段の処理内容)
次に、電流制御手段23がフィードバック制御部84として実行する処理の内容について、
図7を参照して説明する。
【0069】
図7は、電流制御手段23がフィードバック制御部84として実行する処理の手順を示すフローチャートである。電流制御手段23は、
図7に示す一連の処理を、所定の制御周期(例えば5ms)ごとに実行する。また、電流制御手段23は、第1タイマ及び第2タイマのそれぞれのタイマ値(第1タイマ値及び第2タイマ値)に基づく所定のタイミングで、電流検出手段21から出力されている検出信号が電流出力回路20から出力される制御電流のゼロ点を示すことを記憶するゼロ点補正を行う。なお、以下の説明において、「クリア」とはタイマ値をゼロにすることをいい、「インクリメント」とはタイマ値に1を加算することをいう。
【0070】
このゼロ点補正は、第1及び第2の摩擦クラッチ62L,62Rを制御するために制御装置2が出力する制御電流の精度を高め、後輪14L,14Rに伝達される駆動力を高精度に制御するためのものである。より具体的には、制御装置2の温度上昇等により、電流値取り込み部81が出力する検出信号が変動してしまうこと(温度ドリフト)を抑制するために電流制御手段23がゼロ点補正を行う。
【0071】
この温度ドリフトは、例えば温度上昇によるシャント抵抗210や第1乃至第4の抵抗器801〜804の抵抗値の変化や、オペアンプ800あるいは電流値取り込み部81のAD変換器の特性変化に起因する。温度ドリフトが発生すると、電流検出手段21から出力される検出信号に誤差が生じ、例えば押圧機構7に実際には制御電流が出力されていなくても、制御電流が出力されていることを示す検出信号が出力される場合がある。このような誤差が生じると、後輪14L,14Rに実際に伝達される駆動力と目標伝達トルクとの差が大きくなり、所期の走行性能が得られなくなるおそれがある。
【0072】
図7に示すフローチャートの処理において、電流制御手段23はまず、駆動力伝達系10がディスコネクト状態か否かを判定する(ステップS1)。この判定は、例えば目標伝達トルク演算部82が演算した目標伝達トルクがゼロか否かによって行うことができる。
【0073】
ディスコネクト状態でない場合(ステップS1:No)、電流制御手段23は、第1タイマ値及び第2タイマ値をクリアし(ステップS2)、続けて前述のフィードバック制御部84としてのフィードバック制御処理を実行する(ステップS3)。そして、1回の制御周期における処理を終了する。
【0074】
一方、電流制御手段23は、ディスコネクト状態である場合(ステップS1:Yes)、第1タイマ値及び第2タイマ値を共にインクリメントする。(ステップS4)。次に電流制御手段23は、第1タイマ値が第1閾値であるか否かを判定する(ステップS5)。この第1閾値は、例えば100msに相当する値(制御周期が5msである場合には20(=100/5))である。電流制御手段23は、第1タイマ値が第1閾値である場合(ステップS5:Yes)、ゼロ点補正を実行し(ステップS6)、1回の制御周期における処理を終了する。
【0075】
また、電流制御手段23は、第1タイマ値が第1閾値でない場合(ステップS5:No)、第2タイマ値が第2閾値であるか否かを判定する(ステップS7)。この判定の結果、第2タイマ値が第2閾値である場合(ステップS7:Yes)には、第2タイマ値をクリアし(ステップS8)、ゼロ点補正を実行して(ステップS6)、1回の制御周期における処理を終了する。一方、第2タイマ値が第2閾値である場合(ステップS7:No)には、ステップS8及びS6の処理を実行することなく、1回の制御周期における処理を終了する。第2閾値は、例えば5秒に相当する値(制御周期が5msである場合には1000(=5000/5))である。
【0076】
ステップS6のゼロ点補正は、具体的には、ディスコネクト状態において電流検出手段21から出力されている検出信号の値が、電流出力回路20から出力される制御電流のゼロ点を示すことを記憶する処理である。電流制御手段23は、この処理の後、電流検出手段21から出力される検出信号の値から記憶された値を差し引いて、ステップS3のフィードバック制御処理を行う。
【0077】
また、本実施の形態では、ディスコネクト状態になってから第1閾値によって規定される第1の所定時間が経過したときにゼロ点補正を行い、その後ディスコネクト状態が継続するときは、第2閾値によって規定される第2の所定時間が経過するごとにゼロ点補正を繰り返し行う。この第2所定時間は、第1の所定時間よりも長い時間である。
【0078】
またさらに、本実施の形態では、
図7に示すフローチャートの処理とは別に、エンジン11を始動させる始動スイッチ(例えばイグニッションスイッチ)がオン状態となったとき、電流出力回路20から押圧機構7に制御電流が出力される前にゼロ点補正を行う。この処理は、例えば制御装置2の温度が高い状態で始動スイッチがオン状態となり、かつ運転者のスイッチ操作によって四輪駆動モードが選択されていることによりエンジン11の始動後に直ちに四輪駆動状態となる場合でも、後輪14L,14Rに伝達される駆動力を高精度に制御するためのものである。なお、制御装置2の温度が高い状態で始動スイッチがオン状態になる場合としては、長時間の走行後に一旦始動スイッチがオフ状態となり、その後、短時間の駐車を経て再び発進する場合等が挙げられる。
【0079】
(第1の実施の形態の作用及び効果)
以上説明した第1の実施の形態によれば、所定の時間間隔でゼロ点補正の処理が実行されるので、制御装置2が第1及び第2の摩擦クラッチ62L,62Rを制御するために出力する制御電流の精度を高めることができ、後輪14L,14Rに伝達される駆動力を高精度に制御することができる。
【0080】
また、第1の実施の形態によれば、ディスコネクト状態になったとき、第2の所定時間よりも短い第1の所定時間が経過したときにゼロ点補正が行われるので、ディスコネクト状態が短時間しか継続しなかった場合でも、ゼロ点補正が少なくとも1回は実行される。また、その後ディスコネクト状態が継続するときは、第1の所定時間よりも長い第2の所定時間が経過するごとにゼロ点補正を繰り返し行うので、制御装置2のCPUの演算負荷の増大を抑制しながら、ディスコネクト状態での走行中に制御装置2の温度が変動した場合でも、その後に四輪駆動状態となった際の制御電流の精度を高めることができる。
【0081】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について、
図8を参照して説明する。
図8は、第2の実施の形態に係る油圧回路70A及び制御装置2Aの構成例を模式的に示す構成図である。
図8において、第1の実施の形態について説明したものと共通する構成要素については、
図7等に付したものと同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0082】
本実施の形態に係る油圧回路70Aは、第1及び第2の油圧ポンプ71L,71Rと、第1及び第2の油圧ポンプ71L,71Rをそれぞれ駆動する第1及び第2の電動モータ72L,72Rとを有している。第1の電動モータ72Lは、第1の油圧ポンプ71Lと第1の連結軸721Lによって連結され、第1の油圧ポンプ71Lを正転及び逆転させることが可能である。同様に、第2の電動モータ72Rは、第2の油圧ポンプ71Rと第2の連結軸721Rによって連結され、第2の油圧ポンプ71Rを正転及び逆転させることが可能である。
【0083】
第1及び第2の油圧ポンプ71L,71R、第1及び第2の電動モータ72L,72R、及び左右のピストン67は、第1及び第2の摩擦クラッチ62L,62Rの複数のアウタクラッチプレート621及び複数のインナクラッチプレート622を軸方向に押圧する押圧機構7Aを構成する。ピストン67は、シリンダ室604に供給される作動油の油圧を受け、複数のアウタクラッチプレート621及び複数のインナクラッチプレート622を押圧する。
【0084】
また、本実施の形態に係る制御装置2Aは、押圧機構7の第1及び第2の電動モータ72L,72Rに制御電流としてのモータ電流を出力する電流出力回路20Aと、制御部200Aとを有している。制御部200Aは、電流検出手段21Aと、目標電流値演算手段22Aと、電流制御手段23Aとを有している。
【0085】
第1及び第2の摩擦クラッチ62L,62Rを介して後輪14L,14Rに駆動力を伝達するとき、第1及び第2の電動モータ72L,72Rは、電流出力回路20Aから出力されるモータ電流に応じたトルクを発生し、第1及び第2の油圧ポンプ71L,71Rを正転させる。第1及び第2の油圧ポンプ71L,71Rは、第1及び第2の電動モータ72L,72Rが発生したトルクに応じた圧力の作動油をシリンダ室604側に供給する。
【0086】
また、駆動力伝達系10をディスコネクト状態とするとき、第1及び第2の電動モータ72L,72Rは、第1及び第2の油圧ポンプ71L,71Rを逆転させてシリンダ室604を減圧する。第1及び第2の油圧ポンプ71L,71Rは、正転時にはリザーバ710から作動油を汲み上げ、逆転時にはリザーバ710に作動油を吐出する。
【0087】
制御部200Aは、電流検出手段21Aが第1及び第2の電動モータ72L,72Rに実際に出力されるモータ電流を検出し、目標電流値演算手段22Aは、車輪速センサ17及びアクセル開度センサ18の検出値に基づいて第1及び第2の電動モータ72L,72Rに供給すべきモータ電流の目標値(目標電流値)を演算する。電流制御手段23Aは、電流検出手段21Aの検出結果に基づいて、フィードバック制御により目標電流値演算手段22Aで演算された目標電流値のモータ電流が第1及び第2の電動モータ72L,72Rに出力されるように電流出力回路20Aを制御する。
【0088】
電流制御手段23Aは、第1の実施の形態において
図7を参照して説明したフローチャートの処理と同様の処理を実行する。すなわち、電流流制御手段23Aは、第1タイマ及び第2タイマのそれぞれのタイマ値に基づく所定のタイミングで、電流検出手段21Aから出力されるモータ電流の電流値を示す検出信号が電流出力回路20Aから出力される制御電流のゼロ点を示すことを記憶するゼロ点補正を行う。
【0089】
以上説明した第2の実施の形態によっても、第1の実施の形態と同様の作用及び効果が得られる。
【0090】
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施の形態について、
図9及び
図10を参照して説明する。
図9は、本発明の第3の実施の形態に係る四輪駆動車1Bの概略の構成を示す構成図である。四輪駆動車1Bには、第2の駆動力伝達装置9、ならびに第1の駆動力伝達装置4及び第2の駆動力伝達装置9を制御する制御装置2Bが搭載されている。
図10は、四輪駆動車1Bに搭載された第2の駆動力伝達装置9のクラッチ装置91の構成例を示す断面図である。
図9において、第1の実施の形態について説明したものと共通する構成要素については、
図1等に付したものと同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0091】
第2の駆動力伝達装置9は、リヤ側のディファレンシャル装置90とクラッチ装置91とを有し、ディファレンシャル装置90とクラッチ装置91とがピニオンシャフト910によって連結されている。クラッチ装置91は、ピニオンシャフト910を介してディファレンシャル装置90に伝達される駆動力を断続可能であり、ディファレンシャル装置90は、伝達された駆動力を後輪14L,14Rのドライブシャフト16L,16Rに差動を許容して配分する。
【0092】
ディファレンシャル装置90は、フロントデフケース900と、フロントデフケース900と一体に回転するピニオンシャフト901と、ピニオンシャフト901に軸支された一対のピニオンギヤ902と、一対のピニオンギヤ902にギヤ軸を直交させて噛み合う一対のサイドギヤ903とを有している。一対のサイドギヤ903には、ドライブシャフト16L,16Rがそれぞれ連結されている。
【0093】
クラッチ装置91は、プロペラシャフト5に連結された外側回転部材としてのクラッチハウジング92と、このクラッチハウジング92に対して同軸上で相対回転可能に支持された内側回転部材としてのインナシャフト93と、軸方向の押圧力を受けてクラッチハウジング92とインナシャフト93とを駆動力伝達可能に連結する多板クラッチからなるメインクラッチ94と、メインクラッチ94の軸方向に並列配置されたパイロットクラッチ95と、パイロットクラッチ95に対して軸方向の押圧力を作用させる電磁アクチュエータ96と、パイロットクラッチ95によって伝達されるクラッチハウジング92のトルクをメインクラッチ94への押圧力に変換するカム機構97とから大略構成されている。
【0094】
図10に示すように、クラッチハウジング92は、有底円筒状のフロントハウジング921、及びフロントハウジング921の開口端に螺着して一体回転するように結合された環状のリヤハウジング922からなる。フロントハウジング921の内周面には、回転軸線Oに沿って設けられた複数のスプライン歯921aが形成されている。フロントハウジング921の底部921bには、プロペラシャフト5が連結される。
【0095】
リヤハウジング922は、フロントハウジング921に結合された軟磁性材料からなる第1部材922a、第1部材922aの内周側に結合されたオーステナイト系ステンレス等の非磁性材料からなる第2部材922b、及び第2部材922bの内周側に結合された軟磁性材料からなる第3部材922cからなる。
【0096】
インナシャフト93は、フロントハウジング921の内側に配置され、玉軸受981及び針状ころ軸受982によって回転可能に支持されている。インナシャフト93におけるフロントハウジング921の底部921b側の外周面には、回転軸線Oに沿って設けられた複数のスプライン歯93aが形成されている。また、インナシャフト93におけるフロントハウジング921の底部921bとは反対側の端部の内周面には、ピニオンギヤシャフト910(
図9参照)の一端部を相対回転不能に連結するための複数のスプライン嵌合部930が形成されている。
【0097】
メインクラッチ94は、フロントハウジング921と共に回転する複数のメインアウタクラッチプレート941、及びインナシャフト93と共に回転する複数のメインインナクラッチプレート942を有している。メインアウタクラッチプレート941は、フロントハウジング921の複数のスプライン歯921aに係合する複数の係合突起941aを有し、フロントハウジング921に対して相対回転不能かつ軸方向移動可能である。メインインナクラッチプレート942は、インナシャフト93の複数のスプライン歯93aに係合する複数の係合突起942aを有し、インナシャフト93に対して相対回転不能かつ軸方向移動可能である。
【0098】
パイロットクラッチ95は、回転軸線Oに沿って交互に配置されたパイロットアウタクラッチプレート951及びパイロットインナクラッチプレート952を有する。パイロットアウタクラッチプレート951は、フロントハウジング921の複数のスプライン歯921aに係合する複数の係合突起951aを有し、フロントハウジング921に対して相対回転不能かつ軸方向移動可能に係合している。パイロットインナクラッチプレート952は、後述するカム機構97のパイロットカム971の外周面に形成された複数のスプライン歯971bに係合する複数の係合突起952aを有し、パイロットカム971に対して相対回転不能かつ軸方向移動可能に係合している。
【0099】
電磁アクチュエータ96は、電線960から励磁電流を受ける電磁コイル961、及びアーマチャ962を有している。電磁コイル961は、リヤハウジング922の第1部材922aと第3部材922cとの間に配置されている。アーマチャ962は、第2部材922bを含むリヤハウジング222の一部との間にパイロットクラッチ95を挟む位置に配置されている。電磁コイル961は、リヤハウジング922の第3部材922cに玉軸受983を介して支持されたヨーク963に保持されている。
【0100】
アーマチャ962の外周面には、フロントハウジング921の複数のスプライン歯921aに係合する複数の係合突起962aが設けられている。これにより、アーマチャ962は、フロントハウジング921に対して相対回転不能かつ軸方向移動可能である。
【0101】
パイロットアウタクラッチプレート951及びパイロットインナクラッチプレート952は、電磁コイル961への通電により発生する磁束を透過させる軟磁性材料からなる。制御装置2Bから電磁コイル961に励磁電流が供給されると、ヨーク963、リヤハウジング922の第1部材921a及び第3部材921c、パイロットアウタクラッチプレート951、パイロットインナクラッチプレート952、ならびにアーマチャ962を通過する磁路Gに磁束が発生し、この磁束の磁力によってアーマチャ962がリヤハウジング922側に吸引される。
【0102】
そして、このアーマチャ962の軸方向移動によってパイロットクラッチ95が押圧され、パイロットアウタクラッチプレート951とパイロットインナクラッチプレート952とが摩擦接触して、フロントハウジング921からパイロットカム971へトルクが伝達される。パイロットカム971へ伝達されるトルクは、電磁コイル961に供給される励磁電流に応じて変化する。
【0103】
カム機構97は、一対のカム部材としてのパイロットカム971及びメインカム972と、パイロットカム971とメインカム972との間に配置された複数の球状のカムボール973とを有する。パイロットカム971及びメインカム972は、クラッチハウジング92及びインナシャフト93と同軸上に配置されている。メインカム972は、その内周面に形成された複数の係合突起972bがインナシャフト93の複数のスプライン歯93aに係合し、インナシャフト93との相対回転が規制されている。パイロットカム971とリヤハウジング922の第3部材922cとの間には、スラスト針状ころ軸受984が配置されている。
【0104】
パイロットカム971には、カムボール973を転動させるカム溝971aが形成されている。また、メインカム972には、カムボール63を転動させるカム溝972aが形成されている。パイロットカム971及びメインカム972のカム溝971a,972aは、周方向に沿って所定の角度範囲で延在し、その中央部で軸方向の深さが最も深く、端部ほど浅くなるように形成されている。
【0105】
上記のように構成されたクラッチ装置91は、制御装置2Bから電磁コイル961に励磁電流が供給されると、電磁コイル961の磁力によってアーマチャ962がリヤハウジング922側に吸引され、パイロットクラッチ95を押圧する。これによりパイロットアウタクラッチプレート951とパイロットインナクラッチプレート952が摩擦摺動し、フロントハウジング921の回転力がパイロットクラッチ95を介してカム機構97のパイロットカム971に伝達され、パイロットカム971がメインカム972に対して相対回転する。
【0106】
パイロットカム971とメインカム972との相対回転によってカムボール973がカム溝971a,972aを転動すると、メインカム972にパイロットカム971から離間する方向の軸方向の推力が発生する。そして、このカム機構97の推力によってメインクラッチ94がメインカム972によって押圧され、複数のメインアウタクラッチプレート941と複数のメインインナクラッチプレート942との間に摩擦力が発生し、フロントハウジング921とインナシャフト93とが駆動力伝達可能に連結される。
【0107】
一方、制御装置2Bから電磁コイル961への励磁電流の供給が遮断されると、パイロットクラッチ95がアーマチャ962に押圧されなくなり、パイロットクラッチ95を介してフロントハウジング921からパイロットカム971に回転力が伝達されなくなるため、メインクラッチ94がメインカム972に押圧されず、メインクラッチ94による駆動力伝達がなされなくなる。
【0108】
パイロットクラッチ95、電磁アクチュエータ96、及びカム機構97は、制御装置2Bから供給される励磁電流に応じた押圧力でメインクラッチ94の複数のメインアウタクラッチプレート941と複数のメインインナクラッチプレート942とを軸方向に押圧する押圧機構911を構成する。電磁コイル961に供給される励磁電流は、制御装置2Bがメインクラッチ94によって伝達される駆動力を調節するために押圧機構911に出力する制御電流である。
【0109】
制御装置2Bは、電磁アクチュエータ96の電磁コイル961に制御電流としての励磁電流を出力する電流出力回路20Bと、制御部200Bとを有している。制御部200Bは、電流出力回路20Bから実際に出力される励磁電流の大きさに応じた検出信号を出力する電流検出手段21Bと、押圧機構911に供給すべき励磁電流の目標値である目標電流値を演算する目標電流値演算手段22Bと、電流検出手段21Bの検出結果に基づいて目標電流値演算手段22Bで演算された電流値の励磁電流が押圧機構911に出力されるように電流出力回路20Bを制御する電流制御手段23Bとを有している。
【0110】
電流出力回路20Bは、制御電流としての励磁電流の供給先が電磁コイル961である他は、
図6を参照して説明した第1の実施の形態に係る電流出力回路20と同様に構成されている。また、電流検出手段21B、目標電流値演算手段22B、及び電流制御手段23Bは、それぞれ第1の実施の形態について説明した電流検出手段21、目標電流値演算手段22、及び電流制御手段23と同様の処理を実行する。すなわち、電流制御手段23Bは、第1タイマ及び第2タイマのそれぞれのタイマ値に基づく所定のタイミングで、電流検出手段21Bから出力される励磁電流の電流値を示す検出信号が電流出力回路20Bから出力される制御電流のゼロ点を示すことを記憶するゼロ点補正を行う。
【0111】
以上説明した第3の実施の形態によっても、第1の実施の形態と同様の作用及び効果が得られる。なお、カム機構97のパイロットカム971とメインカム972を相対回転させる電磁アクチュエータ96としては、電動モータを用いることも可能である。この場合、電動モータのトルクによってパイロットカム971がメインカム972に対して相対回転し、メインカム972がモータ電流に応じた押圧力でメインクラッチ94を押圧する。制御装置は、電動モータに制御電流としてのモータ電流を供給する。また、電磁アクチュエータ96として、電磁ソレノイドを用いてもよい。
【0112】
(付記)
以上、本発明を第1乃至第3の実施の形態に基づいて説明したが、これらの実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0113】
また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能であり、各実施の形態の構成要素を適宜組み合わせることも可能である。例えば、第1の実施の形態に係る第2の駆動力伝達装置6の第1及び第2の摩擦クラッチ62L,62Rに替えて、第3の実施の形態に係るクラッチ装置91を2つ用いることも可能である。また、油圧によって外側クラッチプレートと内側クラッチプレートとが押圧される第2の駆動力伝達装置を、
図9に示すようにリヤ側のディファレンシャル装置90とプロペラシャフト5との間に配置してもよい。あるいは、第3の実施の形態において、クラッチ装置91の配置を変更し、ディファレンシャル装置90とドライブシャフト16L又はドライブシャフト16Rとの間にクラッチ装置91を配置してもよい。