(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
それぞれの内側面どうしを互いに対向させた状態で互いに同心的にかつ回転自在に設けられた入力側ディスクおよび出力側ディスクと、これら両ディスクの間に挟持されるパワーローラと、このパワーローラを回転自在に支持するとともに、前記入力側ディスクおよび前記出力側ディスクの中心軸に対して捻れの位置にある枢軸を中心に傾転するトラニオンと、前記トラニオンの内側面と前記パワーローラの外輪の外側面との間に設けられ、前記パワーローラから前記トラニオンに加わるスラスト方向の荷重を支承しつつ、前記パワーローラの揺動を許容する軸受と、を備えたトロイダル型無段変速機において、
前記トラニオンの内側面に前記軸受の外側において設けられたシール受面と、前記外輪の外周面に設けられ、かつ前記シール受面に密接して前記軸受の潤滑油を密封するシール部材とを備え、
前記シール部材は、前記外輪の外周面に設けられた本体部と、この本体部に一体的に設けられて前記シール受け面に弾性的に密接する密接部とを備え、
前記密接部の締め代は、トロイダル型無段変速機の運転時における前記トラニオンの変形量よりも大きく設定されていることを特徴とするトロイダル型無段変速機。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車用変速機として用いるダブルキャビティ式トロイダル型無段変速機は、
図7および
図8に示すように構成されている。
図7に示すように、ケーシング50の内側には入力軸1が回転自在に支持されており、この入力軸1の外周には、二つの入力側ディスク2,2と二つの出力側ディスク3,3とが取り付けられている。また、入力軸1の中間部の外周には出力歯車4が回転自在に支持されている。この出力歯車4の中心部に設けられた円筒状のフランジ部4a,4aには、出力側ディスク3,3がスプライン結合によって連結されている。
【0003】
入力軸1は、図中左側に位置する入力側ディスク2とカム板(ローディングカム)7との間に設けられたローディングカム式の押圧装置12を介して、駆動軸22により回転駆動されるようになっている。また、出力歯車4は、二つの部材の結合によって構成された仕切壁13を介してケーシング50内に支持されており、これにより、入力軸1の軸線Oを中心に回転できる一方で、軸線O方向の変位が阻止されている。
【0004】
出力側ディスク3,3は、入力軸1との間に介在されたニードル軸受5,5によって、入力軸1の軸線Oを中心に回転自在に支持されている。また、図中左側の入力側ディスク2は、入力軸1にボールスプライン6を介して支持され、図中右側の入力側ディスク2は、入力軸1にスプライン結合されており、これら入力側ディスク2は入力軸1と共に回転するようになっている。また、入力側ディスク2,2の内側面(凹面;トラクション面とも言う)2a,2aと出力ディスク3,3の内側面(凹面;トラクション面とも言う)3a,3aとの間には、パワーローラ11(
図8参照)が回転自在に挟持されている。
【0005】
図7中右側に位置する入力側ディスク2の内周面2cには、段差部2bが設けられ、この段差部2bに、入力軸1の外周面1aに設けられた段差部1bが突き当てられるとともに、入力側ディスク2の背面(
図7の右面)は、入力軸1の外周面に形成されたネジ部に螺合されたローディングナット9に突き当てられている。これによって、入力側ディスク2の入力軸1に対する軸線O方向の変位が実質的に阻止されている。また、カム板7と入力軸1の鍔部1dとの間には、皿ばね8が設けられており、この皿ばね8は、各ディスク2,2,3,3の凹面2a,2a,3a,3aとパワーローラ11,11の周面11a,11aとの当接部に押圧力(予圧)を付与する。
【0006】
図8は、
図7のA−A線に沿う断面図である。
図8に示すように、ケーシング50の内側には、入力軸1に対し捻れの位置にある一対の枢軸14,14を中心として揺動する一対のトラニオン15,15が設けられている。なお、
図8においては、入力軸1の図示は省略している。各トラニオン15,15は、支持板部16の長手方向(
図8の上下方向)の両端部に、この支持板部16の内側面側に折れ曲がる状態で形成された一対の折れ曲がり壁部20,20を有している。そして、この折れ曲がり壁部20,20によって、各トラニオン15,15には、パワーローラ11を収容するための凹状のポケット部Pが形成される。また、各折れ曲がり壁部20,20の外側面には、各枢軸14,14が互いに同心的に設けられている。
【0007】
支持板部16の中央部には円孔21が形成され、この円孔21には変位軸(支持軸)23の基端部23aが支持されている。そして、各枢軸14,14を中心として各トラニオン15,15を揺動(傾転)させることにより、これら各トラニオン15,15の中央部に支持された変位軸23の傾斜角度を調節できるようになっている。また、各トラニオン15,15の内側面から突出する変位軸23の先端部23bの周囲には、各パワーローラ11が回転自在に支持されており、各パワーローラ11,11は、各入力側ディスク2,2および各出力側ディスク3,3の間に挟持されている。なお、各変位軸23,23の基端部23aと先端部23bとは、互いに偏心している。
【0008】
また、各トラニオン15,15の枢軸14,14はそれぞれ、一対のヨーク23A,23Bに対して揺動自在および軸方向(
図8の上下方向)に変位自在に支持されており、各ヨーク23A,23Bにより、トラニオン15,15はその水平方向の移動を規制されている。各ヨーク23A,23Bは鋼等の金属のプレス加工あるいは鍛造加工により矩形状に形成されている。各ヨーク23A,23Bの四隅には円形の支持孔18が4つ設けられており、これら支持孔18にはそれぞれ、トラニオン15の両端部に設けた枢軸14がラジアルニードル軸受30を介して揺動自在に支持されている。また、ヨーク23A,23Bの幅方向(
図8の左右方向)の中央部には、円形の係止孔19が設けられており、この係止孔19の内周面は円筒面として、球面ポスト64,68を内嵌している。すなわち、上側のヨーク23Aは、ケーシング50に固定部材52を介して支持されている球面ポスト64によって揺動自在に支持されており、下側のヨーク23Bは、球面ポスト68およびこれを支持する駆動シリンダ31の上側シリンダボディ61によって揺動自在に支持されている。
【0009】
なお、各トラニオン15,15に設けられた各変位軸23,23は、入力軸1に対し、互いに180度反対側の位置に設けられている。また、これらの各変位軸23,23の先端部23bが基端部23aに対して偏心している方向は、両ディスク2,2,3,3の回転方向に対して同方向(
図8で上下逆方向)となっている。また、偏心方向は、入力軸1の配設方向に対して略直交する方向となっている。したがって、各パワーローラ11,11は、入力軸1の長手方向に若干変位できるように支持される。その結果、押圧装置12が発生するスラスト荷重に基づく各構成部材の弾性変形等に起因して、各パワーローラ11,11が入力軸1の軸方向に変位する傾向となった場合でも、各構成部材に無理な力が加わらず、この変位が吸収される。
【0010】
また、パワーローラ11の外側面とトラニオン15の支持板部16の内側面との間には、パワーローラ11の外側面の側から順に、スラスト転がり軸受であるスラスト玉軸受(スラスト軸受)24と、スラストニードル軸受25とが設けられている。このうち、スラスト玉軸受24は、各パワーローラ11に加わるスラスト方向の荷重を支承しつつ、これら各パワーローラ11の回転を許容するものである。このようなスラスト玉軸受24はそれぞれ、複数個ずつの玉(以下、転動体という)26,26と、これら各転動体26,26を転動自在に保持する円環状の保持器27と、円環状の外輪28とから構成されている。また、各スラスト玉軸受24の内輪軌道は各パワーローラ11の外側面(大端面)に、外輪軌道は各外輪28の内側面にそれぞれ形成されている。
【0011】
また、スラストニードル軸受25は、トラニオン15の支持板部16の内側面と外輪28の外側面との間に挟持されている。このようなスラストニードル軸受25は、パワーローラ11から各外輪28に加わるスラスト荷重を支承しつつ、これらパワーローラ11および外輪28が各変位軸23の基端部23aを中心として揺動することを許容する。
【0012】
さらに、各トラニオン15,15の一端部(
図8の下端部)にはそれぞれ駆動ロッド(トラニオン軸)29,29が設けられており、各駆動ロッド29,29の中間部外周面に駆動ピストン(油圧ピストン)33,33が固設されている。そして、これら各駆動ピストン33,33はそれぞれ、上側シリンダボディ61と下側シリンダボディ62とによって構成された駆動シリンダ31内に油密に嵌装されている。これら各駆動ピストン33,33と駆動シリンダ31とで、各トラニオン15,15を、これらトラニオン15,15の枢軸14,14の軸方向に変位させる駆動装置32を構成している。
【0013】
このように構成されたトロイダル型無段変速機の場合、入力軸1の回転は、押圧装置12を介して、各入力側ディスク2,2に伝えられる。そして、これら入力側ディスク2,2の回転が、一対のパワーローラ11,11を介して各出力側ディスク3,3に伝えられ、更にこれら各出力側ディスク3,3の回転が、出力歯車4より取り出される。
【0014】
入力軸1と出力歯車4との間の回転速度比を変える場合には、一対の駆動ピストン33,33を互いに逆方向に変位させる。これら各駆動ピストン33,33の変位に伴って、一対のトラニオン15,15が互いに逆方向に変位する。例えば、
図8の左側のパワーローラ11が同図の下側に、同図の右側のパワーローラ11が同図の上側にそれぞれ変位する。
【0015】
その結果、これら各パワーローラ11,11の周面11a,11aと各入力側ディスク2,2および各出力側ディスク3,3の内側面2a,2a,3a,3aとの当接部に作用する接線方向の力の向きが変化する。そして、この力の向きの変化に伴って、各トラニオン15,15が、ヨーク23A,23Bに枢支された枢軸14,14を中心として、互いに逆方向に揺動(傾転)する。
【0016】
その結果、各パワーローラ11,11の周面11a,11aと各内側面2a,3aとの当接位置が変化し、入力軸1と出力歯車4との間の回転速度比が変化する。また、これら入力軸1と出力歯車4との間で伝達するトルクが変動し、各構成部材の弾性変形量が変化すると、各パワーローラ11,11およびこれら各パワーローラ11,11に付属の外輪28,28が、各変位軸23,23の基端部23a、23aを中心として僅かに回動(揺動)する。これら各外輪28,28の外側面と各トラニオン15,15を構成する支持板部16の内側面との間には、それぞれスラストニードル軸受25,25が存在するため、前記回動(揺動)は円滑に行われる。したがって、前述のように各変位軸23,23の傾斜角度を変化させるための力が小さくて済む。
【0017】
ところで、パワーローラ11に設けられているスラスト玉軸受24、スラストニードル軸受25、パワーローラ11を回転自在に支持する支持軸(変位軸)23に設けられたラジアルニードル軸受等の軸受には潤滑油を供給する必要があり、このような潤滑油の供給は、例えばトラニオンに形成された油路を通じて行われている。
また、特許文献1には、トロイダル型無段変速機において、支持軸に供給される潤滑油をトラニオンの孔内に密封するシール部について記載されている。
【0018】
また、特許文献2には、スラストニードル軸受において、保持器の各ポケットの内周側環状リム部の両面に、その内径側端面と各ポケットの内径側端面とに連なる通油溝を設け、保持器の回転に伴って発生する遠心力で、潤滑油をこれらの通油溝から各ポケットに供給することについて記載されている。
さらに、特許文献3には、スラストニードル軸受において、他方の軌道輪に、鍔と保持器の間を通る突壁を設け、突壁に、一方の軌道輪の軌道面に対してニードル側に進むに連れて漸次接近する傾斜面を形成することにより、スラストニードル軸受内に入った潤滑油の一部が、軌道輪の軌道面と傾斜面と鍔とで形成される空間に保持することについて記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
ところで、トロイダル形無段変速機のパワーローラおよびトラニオンは、動力を伝達する際、多大な押付荷重の反力を受ける。
パワーローラはそのスラスト荷重を受けながら、さらにローディングカム式の押圧装置によって押付けられて、軸方向に移動するディスクに合わせて揺動するため、パワーローラの背面(外側面)とトラニオンの内側面との間に前記スラストニードル軸受が設けられている。
スラストニードル軸受にはトラニオン、パワーローラの外輪に加工された油穴より潤滑油を供給しているが、潤滑油の供給油穴は、剛性ダウンが懸念されるため多くは設けられず、また油量においてもパワーローラの軸受(スラスト玉軸受)、支持軸(変位軸)のラジアルニードル軸受への必要流量の確保のため、スラストニードル軸受への供給量は少ないうえ、供給された潤滑油がスラストニードル軸受の外周側から漏れ出て、潤滑油不足の虞がある。
その結果、パワーローラの背面およびスラストニードル軸受のレース面にはフレッチングが発生している場合が多い。スラストニードル軸受にフレッチングが発生すると、パワーローラがスムーズに揺動できない他、パワーローラの組付け寸法が変わり伝達効率のダウンが懸念される。
【0021】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたもので、スラスト方向の荷重を支承しつつ、パワーローラの揺動を許容する軸受(スラストニードル軸受)に潤滑油を十分に確保できるトロイダル型無段変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
前記目的を達成するために、本発明のトロイダル型無段変速機は、それぞれの内側面どうしを互いに対向させた状態で互いに同心的にかつ回転自在に設けられた入力側ディスクおよび出力側ディスクと、これら両ディスクの間に挟持されるパワーローラと、このパワーローラを回転自在に支持するとともに、前記入力側ディスクおよび前記出力側ディスクの中心軸に対して捻れの位置にある枢軸を中心に傾転するトラニオンと、前記トラニオンの内側面と前記パワーローラの外輪の外側面との間に設けられ、前記パワーローラから前記トラニオンに加わるスラスト方向の荷重を支承しつつ、前記パワーローラの揺動を許容する軸受と、を備えたトロイダル型無段変速機において、
前記トラニオンの内側面に前記軸受の外側において設けられたシール受面と、前記外輪の外周面に設けられ、かつ前記シール受面に密接して前記軸受の潤滑油を密封するシール部材とを備えていることを特徴とする。
【0023】
本発明においては、シール部材がシール受面に密接して軸受の潤滑油を密封するので、軸受に潤滑油を十分に確保できる。したがって、潤滑油不足などによるフレッチングを防止できる。
また、シール部材が外輪の外周面に設けられているので、外輪の径方向外側においてシール部材をシール受面に密接させることができる。したがって、軸受に、より十分に潤滑油を確保できる。
また、軸受からの潤滑油の漏れを低減できるので、パワーローラの回転を支持する支持軸の軸受への潤滑流量を確保し、ポンプロスも低減することができる。
【0024】
また、本発明の前記構成において、前記シール部材は、前記外輪の外周面に設けられた本体部と、この本体部に一体的に設けられて前記シール受面に弾性的に密接する密接部とを備え、
前記密接部の締め代は、トロイダル型無段変速機の運転時における前記トラニオンの変形量よりも大きく設定されているのが好ましい。
【0025】
このような構成によれば、トロイダル型無段変速機の運転時に、トラニオンが変形し、これに伴ってシール受面が変形しても、シール部材の密接部が常にシール受面に弾性的に密接するので、軸受に、より確実に潤滑油を十分に確保できる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、シール部材がシール受面に密接して軸受の潤滑油を密封するので、軸受に潤滑油を十分に確保できる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しながら、本発明に係るトロイダル型無段変速機の実施形態について説明する。
なお、本実施形態のトロイダル型無段変速機の主な特徴は、トラニオンにシール部材を設ける点であり、その他の構成および作用は
図6および
図7に示す従来のトロイダル型無段変速機と同様であるので、以下では実施の形態の特徴部分について説明し、それ以外の部分については、
図6および
図7と同一の符号を付してその説明を省略または簡略化する。
【0029】
図1は、本実施の形態のトロイダル型無段変速機のトラニオンを示す縦断面図、
図2は
図1における要部の拡大図である。
トラニオン15は、上下に長尺な支持板部16と、この支持板部16の両端部(上下端部)に、この支持板部16の内側面側に折れ曲がる状態で形成された一対の折れ曲がり壁部20,20を有している。この折れ曲がり壁部20,20によって、トラニオン15には、パワーローラ11を収容するための凹状のポケット部Pが形成されている。また、各折れ曲がり壁部20,20の外側面には、枢軸14,14が互いに同心的に設けられている。
【0030】
前記パワーローラ11は、外輪28と内輪28Aとを備えている。また、パワーローラ11の外側面とトラニオン15の支持板部16の内側面との間には、パワーローラ11の外側面の側から順に、スラスト転がり軸受であるスラスト玉軸受(スラスト軸受)24と、スラストニードル軸受25とが設けられている。
このうち、スラスト玉軸受24は、パワーローラ11に加わるスラスト方向の荷重を支承しつつ、パワーローラ11の回転を許容するものである。このようなスラスト玉軸受24はそれぞれ、複数個ずつの玉(以下、転動体という)26,26と、これら各転動体26,26を転動自在に保持する円環状の保持器27と、円環状の外輪28とから構成されている。また、スラスト玉軸受24の内輪軌道はパワーローラ11の外側面(大端面)に、外輪軌道は外輪28の内側面にそれぞれ形成されている。
【0031】
また、スラストニードル軸受25は、
図2に示すように、トラニオン15の支持板部16の内側面と外輪28の外側面との間に挟持されており、トラニオン15の支持板部16の内側面に添って配置された平板状のレース25aと、ポケット穴を周方向に所定間隔をあけて形成した円盤形状の保持器25bと、ポケット穴に収納されている複数のニードル25cとを備えている。支持板部16の内側面には、段を有する凹所17が設けられており、この凹所17の底部にレース25aが設けられ、このレース25aに保持器25bが設けられている。レース25aは凹所17の段差面17aより若干突出しており、保持器25bは凹所17の開口表面、すなわち、支持板部16の内側面より若干突出している。
このようなスラストニードル軸受25は、パワーローラ11から外輪28に加わるスラスト荷重を支承しつつ、パワーローラ11および外輪28が変位軸23の基端部23aを中心として揺動することを許容する。
【0032】
トラニオン15の内部には、
図1に示すように、複数の油路80,81,83が設けられている。
油路80はトラニオン15外から潤滑油を当該トラニオン15の内部に導入するための導入油路80であって、トラニオン15の下側の折れ曲がり壁部20に枢軸14の軸方向と平行に設けられた油路80aと、この油路80aに接続されるとともに、枢軸14の軸方向に対して傾斜して設けられた油路80bとから構成されている。
また、油路81の下端部に油路80bが接続されている。油路81はトラニオン15の支持板部16を上下に貫通して設けられており、油路81の上下端部の開口にはそれぞれ栓部材81aが嵌め込まれている。この油路81の中間部には、支持軸23の基端部23aを支持するラジアルニードル軸受23cを嵌め込むための孔が設けられており、この孔を介して油路81からラジアルニードル軸受23cに潤滑油が供給されるようになっている。
また、油路81の中央部には油路83が接続されている。この油路83はパワーローラ11側に潤滑油を供給するものであり、その先端部は支持板部16の内側面の凹所17の底面に開口している。この油路83からスラストニードル軸受25に潤滑油が供給されるようになっている。
【0033】
また、支持軸23には油路74が設けられている。この油路74は支持軸23の内部にその軸方向に沿って延びて設けられており、その周面には開口74a,74bが形成されている。そして、この開口74a,74bからスラスト玉軸受24、ラジアルニードル軸受23dに潤滑油を供給するようになっている。なお、ラジアルニードル軸受23dは支持軸23の先端部23bを支持するものである、
また、外輪28には油路75が設けられている。油路75は外輪28をその厚さ方向に貫通して設けられており、この油路75からスラスト玉軸受24に潤滑油を供給するようになっている。
【0034】
また、トラニオン15の支持板部16の内側面には、スラストニードル軸受25の径方向外側においてシール受面100が設けられている。このシール受面100は枢軸14の軸方向と平行な平面であり、
図3に示すように、正面視において支持軸23を中心とした略円環状に形成されている。また、シール受面100の外周縁は、支持板部16の内側面の外縁とほぼ一致しており、シール受面100の内周縁は、スラストニードル軸受25が設けられた凹所17の開口縁とほぼ一致している。なお、
図3では、シール受面100にハッチングを施しており、また、後述するシール部材110は図示していない。
【0035】
図1および
図2に示すように、パワーローラ11の外輪28の外周面には、シール受面100に密接して、スラストニードル軸受25の潤滑油を密封するシール部材110が設けられている。このシール部材110はゴム等の弾性材で形成されており、
図2に示すように、円形リング状の本体部110aと、この本体部110aの内周縁部に当該本体部110aと一体的に形成された密接部110bとから構成されている。
本体部110aの内径は、外輪28の外径より所定寸法だけ小さくなっており、これによって、本体部110aは外輪28の外周面に弾性的に圧着された状態で嵌め込まれている。
密接部110bは、本体部110aのシール受面100側を向く内周縁部から径方向外側にシール部材110の軸と傾斜してシール受面100側に向けて延在するような、円錐筒状に形成されており、その先端縁部がシール受面100に弾性的に密接している。
したがって、凹所17に設けられたスラストニードル軸受25に供給される潤滑油は密接部110bによってその内側に密封されている。
【0036】
また、シール部材110の密接部110bの締め代は、トラニオン15の変形量よりも大きく設定されている。
すなわち、トロイダル型無段変速機の運転時には、トラクション部からパワーローラ11、外輪28を介してトラニオン15の支持板部16に加わるスラスト荷重により、トラニオン15が外輪28を設置した側が凹となる方向に弓なりに弾性変形する。これに伴って、
図4(a)に示すように、シール受面100も凹曲面状に弾性変形する。
したがって、シール受面100が凹曲面状に弾性変形しても、シール部材110の密接部110bの先端部が常にシール受面100に弾性的に密接するように、密接部110bの締め代が設定されている。
また、トロイダル型無段変速機の運転時にトラニオン15には、上述したスラスト荷重等が繰り返し作用するため、
図4(b)に示すように、シール受面100の表面にうねりが生じる場合がある。
したがって、シール受面100の表面にうねりが生じるように変形しても、シール部材110の密接部110bの先端部が常にシール受面100に弾性的に密接するように、密接部110bの締め代が設定されている。
【0037】
また、トロイダル型無段変速機の運転時には、押圧装置12の押圧力によって、動力の伝達に供されるそれぞれの部材、すなわち、入力側ディスク2および出力側ディスク3とパワーローラ11とが弾性変形する。この弾性変形に基づき、パワーローラ11を入力側ディスク2および出力側ディスク3の軸方向に変位させる必要が生じると、パワーローラ11を回転自在に支持しているスラスト玉軸受24の外輪28が、変位軸23の基端部23aを中心として僅かに回動(揺動)して、パワーローラ11の周面とこれらのディスク2,3の内側面との接触状態を適正に維持する。
このように、外輪28が揺動するために、この揺動に伴って、当該外輪28の外周面に設けられているシール部材110も、
図5に示すように、変位軸23の基端部23aの中心O回りに矢印方向に揺動する。
したがって、外輪28が揺動する際のシール部材110のシール受面100に対する接触部、すなわち、密接部110bの先端部の移動範囲よりも、シール受面100が大きい形状となっている。つまり、シール受面100は、密接部110bの先端部の移動範囲を含むような大きな形状となっている。なお、
図5において、シール受面100にはハッチングを施している。
【0038】
以上のように、本実施の形態によれば、トラニオン15の支持板部16の内側面にスラストニードル軸受25の径方向外側において、シール受面100が設けられ、パワーローラ11の外輪28にシール部材110が設けられ、このシール部材110の密接部110bの先端部がシール受面100に密接してスラストニードル軸受25の潤滑油を密封するので、スラストニードル軸受25に潤滑油を十分に確保できる。したがって、潤滑油不足などによるフレッチングを防止できる。
また、スラストニードル軸受25からの潤滑油の漏れを低減できるので、パワーローラ11の回転を支持する支持軸23のラジアルニードル軸受23dへの潤滑流量を確保し、ポンプロスも低減することができる。
【0039】
さらに、シール部材110の密接部110bの締め代は、トラニオン15の変形量よりも大きく設定されているので、トロイダル型無段変速機の運転時に、トラニオン15が外輪28を設置した側が凹となる方向に弓なりに弾性変形し、これに伴ってシール受面100が凹曲面状に弾性変形したり、シール受面100の表面にうねりが生じるように変形しても、シール部材110の密接部110bの先端部が常にシール受面100に弾性的に密接するので、スラストニードル軸受25により確実に潤滑油を十分に確保できる。
【0040】
また、外輪28が揺動する際のシール部材110の密接部110bの先端部の移動範囲よりも、シール受面100が大きい形状となっているので、密接部110bの先端部はシール受面100をはみ出ることなく、常に当該シール受面100に弾性的に密接するので、この点においても、スラストニードル軸受25により確実に潤滑油を十分に確保できる。
【0041】
図6は他の実施の形態を示すもので、トラニオンの要部の拡大断面図である。この図に示すトラニオン15が、
図1〜
図3に示すトラニオン15と主に異なる点は、支持板部16の内側面に形成した凹所、スラストニードル軸受、シール受面およびシール部材の構成であるので、以下ではこの点について説明し、上述した実施の形態と同一構成には同一符号を付してその説明を省略する。
【0042】
本実施の形態では、支持板部16の内側面に形成された凹所117には段差がなく、かつ前記凹所17より上下方向の長さが長くなっている。
また、凹所117には、平板リング状のレース125aが設けられており、このレース125aと、パワーローラ11の外輪28との間にスラストニードル軸受125が設けられている。外輪28の外周部の外側面側にリング状の凹部が形成され、この凹部にスラストニードル軸受125の一部が嵌め込まれている。また、外輪28は支持軸23と一体的に形成されている。
また、油路81は支持板部16を上下に貫通しておらず、油路81の先端部が油路83に接続されている。この油路83から凹所117に設けられたレース125aの内側に潤滑油が供給され、ここから外輪28とレース125aとの間の隙間を通ってスラストニードル軸受125に潤滑油が供給されるようになっている。
【0043】
また、凹所117は凹所17より上下方向の長さ(外輪28の径方向の長さ)が長くなっているので、この凹所117の底面でかつレース125aより外側の部分にシール受面101が形成されている。
このシール受面101にシール部材111が密接されている。シール部材111は、前記シール部材110と同様に、円形リング状の本体部111aと、この本体部111aの内周縁部に当該本体部111aと一体的に形成された密接部111bとから構成されているが、密接部111bは前記密接部110bより長くなっている。これは、シール受面101が凹所117の底面に形成されているためである。そして、この密接部111bの先端部が上述した前記密接部110bと同様の締め代にて、シール受面101に弾性的に密接している。また、密接部111bの先端部の移動範囲よりも、シール受面101が大きい形状となっている。
【0044】
その他の構成は上述した実施の形態とほぼ同様の構成となっている。
本実施の形態では、上述した実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0045】
なお、上述した2つの実施の形態では本発明を、ダブルキャビティ式ハーフトロイダル型無段変速機に適用する場合を例にとって説明したが、これに限ることなく、本発明はダブルキャビティ式フルトロイダル型無段変速機にも適用でき、さらに、シングルキャビティ式のハーフトロイダル型やフルトロイダル型のトロイダル型無段変速機にも適用できる。