(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このとき、マスト4が起立した状態では、
図9に示すように、第1ロープ5および第2ロープ6が撓んだ状態にあるとき、地上やクレーン1の運転室にいる作業者や運転者からは十分に把握できない場合がある。この状態から
図10に示すように第2ロープ6を先に巻き取ってしまい第2ロープ6が張る状態となると、第1ロープ5が張るまでマスト4が突然に後方へ傾倒する可能性がある。仮にマスト4が後方に傾倒してしまうと、マスト4の傾倒を防止するストッパ(例えばマストバックストップ、不図示)と急激に動作しマスト4やストッパが衝撃を受ける惧れや、マスト4がクレーン1やその機器等に接触してしまう惧れがあった。特に、ブーム3を補助クレーンなどを使用せずに自立して引き起こす場合、マスト4の後傾によってブーム3を地切りさせれば、マスト4とブーム3との間には張力が常に働いているが、ブーム3を自立して引き起こさせない場合、つまり、ブーム3が地面に倒伏状態(取り付けた状態)にあり、この状態からマスト4を後傾させるときに、このマスト4の後方への傾倒にあわせてブーム3が地切りしないため、マスト4の先端部42とブーム3の先端部32との間の距離が離れる分、第1ロープ5が緩んだ状態で後傾させる必要があるため、マスト4とブーム3との間には張力がかからないことになるのでこの問題が顕著である。
【0006】
本発明は上記従来の問題点に鑑みて発明したものであって、その目的とするところは、安全にマストの後傾作業を行うことができる、クレーンの組み立て時におけるマストの後傾作業の方法およびクレーンを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するため、請求項1に係る発明は、クレーン本体と、前記クレーン本体に基端部が回動可能に設けられ、前方への倒伏および後方への起立が可能となるブームと、前記クレーン本体に基端部が回動可能に設けられ、前方への傾倒、起立および後方への傾倒が可能となるマストと、前記クレーン本体または前記マストに設けられる第1ウインチおよび第2ウインチと、前記ブームの先端部と前記マストの先端部との間に張設されるとともに一端側が前記第1ウインチに巻き取り可能に接続され、前記第1ウインチによる巻き取りおよび繰り出しにより前記ブームの前記先端部と前記マストの前記先端部との間の長さを調節可能とする第1ロープと、前記マストの前記先端部と前記クレーン本体との間に張設されるとともに一端側が前記第2ウインチに巻き取り可能に接続され、前記第2ウインチによる巻き取りおよび繰り出しにより前記マストが前記クレーン本体に対してなす角度を調節可能とする第2ロープと、を備えたクレーンの組み立て時におけるマストの後傾作業の方法であって、前記第1ロープの張力を検出する第1張力検出手段と、前記第2ロープの張力を検出する第2張力検出手段と、が設けられ、前記第1張力検出手段により検出された前記第1ロープの張力情報と、前記第2張力検出手段により検出された前記第2ロープの張力情報と、に基いて、前記ブームが前方の地面に倒伏するとともに前記マストが前方へ傾倒または起立した状態から、前記第1ウインチによる前記第1ロープの繰り出しおよび前記第2ウインチによる前記第2ロープの巻き取りを行って、前記マストを後方へ傾倒させる作業を行うことを特徴とする。
【0008】
また、請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において、前記第1ロープの張力情報および前記第2ロープの張力情報を表示する張力情報表示手段が設けられ、前記張力情報表示手段に表示される前記第1ロープおよび前記第2ロープの前記張力情報に基いて、
前記マストを後方へ傾倒させる作業を行うことを特徴とする。
【0009】
また、請求項3に係る発明は、請求項1または2に係る発明において、前記マストが前記クレーン本体に対してなす角度を検出するマスト角度検出手段が設けられ、前記第1ロープおよび前記第2ロープの前記張力情報と、前記マスト角度検出手段により検出された前記マストの角度情報と、に基いて、前記マストを後方へ傾倒させる作業を行うことを特徴とする。
【0010】
また、請求項4に係る発明は、請求項3に係る発明において、前記マストの角度情報を表示する角度情報表示手段が設けられ、前記第1ロープおよび前記第2ロープの前記張力情報と、前記角度情報表示手段により表示される前記マストの角度情報と、に基いて、前記マストを後方へ傾倒させる作業を行うことを特徴とする。
【0011】
また、請求項5に係る発明は、請求項1〜4のいずれか一項に係る発明において、前記ブームが前方の地面に倒伏するとともに前記マストが前方へ傾倒または起立した状態から、前記第1ウインチによる前記第1ロープの繰り出しおよび前記第2ウインチによる前記第2ロープの巻き取りを行って、前記マストを後方へ傾倒させるように前記第1ウインチおよび前記第2ウインチを操作するにあたり、前記第1張力検出手段により検出された前記第1ロープの張力情報と、前記第2張力検出手段により検出された前記第2ロープの張力情報と、に基くか、あるいは、前記第1ロープおよび前記第2ロープの前記張力情報と、前記マスト角度検出手段により検出された前記マストの角度情報と、に基いて、前記第1ウインチおよび前記第2ウインチの操作をガイドする操作ガイド手段が設けられ、前記操作ガイド手段によるガイドに基いて、前記マストを後方へ傾倒させる作業を行うことを特徴とする。
【0012】
また前記の課題を解決するため、請求項6に係る発明は、クレーンであって、クレーン本体と、前記クレーン本体に基端部が回動可能に設けられ、前方への倒伏および後方への起立が可能となるブームと、前記クレーン本体に基端部が回動可能に設けられ、前方への傾倒、起立および後方への傾倒が可能となるマストと、前記クレーン本体または前記マストに設けられる第1ウインチおよび第2ウインチと、前記ブームの先端部と前記マストの先端部との間に張設されるとともに一端側が前記第1ウインチに巻き取り可能に接続され、前記第1ウインチによる巻き取りおよび繰り出しにより前記ブームの前記先端部と前記マストの前記先端部との間の長さを調節可能とする第1ロープと、前記マストの前記先端部と前記クレーン本体との間に張設されるとともに一端側が前記第2ウインチに巻き取り可能に接続され、前記第2ウインチによる巻き取りおよび繰り出しにより前記マストが前記クレーン本体に対してなす角度を調節可能とする第2ロープと、前記第1ロープの張力を検出する第1張力検出手段と、前記第2ロープの張力を検出する第2張力検出手段と、を備えることを特徴とする。
【0013】
また、請求項7に係る発明は、請求項6に係る発明において、前記第1ロープの張力情報および前記第2ロープの張力情報を表示する張力情報表示手段を備えることを特徴とする。
【0014】
また、請求項8に係る発明は、請求項6または7に係る発明において、前記マストが前記クレーン本体に対してなす角度を検出するマスト角度検出手段を備えることを特徴とする。
【0015】
また、請求項9に係る発明は、請求項8に係る発明において、前記マストの角度情報を表示する角度情報表示手段を備えることを特徴とする。
【0016】
また、請求項10に係る発明は、請求項6〜9のいずれか一項に係る発明において、前記ブームが前方の地面に倒伏するとともに前記マストが前方へ傾倒または起立した状態から、前記第1ウインチによる前記第1ロープの繰り出しおよび前記第2ウインチによる前記第2ロープの巻き取りを行って、前記マストを後方へ傾倒させるように前記第1ウインチおよび前記第2ウインチを操作するにあたり、前記第1張力検出手段により検出された前記第1ロープの張力情報と、前記第2張力検出手段により検出された前記第2ロープの張力情報と、に基くか、あるいは、前記第1ロープおよび前記第2ロープの前記張力情報と、前記マスト角度検出手段により検出された前記マストの角度情報と、に基いて、前記第1ウインチおよび前記第2ウインチの操作をガイドする操作ガイド手段を備えることを特徴とする。
【0017】
また、請求項11に係る発明は、請求項6または8に係る発明において、前記第1張力検出手段により検出された前記第1ロープの張力情報と、前記第2張力検出手段により検出された前記第2ロープの張力情報と、に基くか、あるいは、前記第1ロープおよび前記第2ロープの前記張力情報と、前記マスト角度検出手段により検出された前記マストの角度情報と、に基いて、前記ブームが前方の地面に倒伏するとともに前記マストが前方へ傾倒または起立した状態から、前記第1ウインチによる前記第1ロープの繰り出しおよび前記第2ウインチによる前記第2ロープの巻き取りを行って、前記マストを後方へ傾倒させるように前記第1ウインチおよび前記第2ウインチを制御する自動運転制御部を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に係る発明にあっては、従来のように、第1ロープが大きく撓んだまま第2ロープを巻き取ってしまい、突然にマストが後方へ傾倒するのが抑制され、マストの後傾作業を安全に行うことができる。
【0019】
請求項2に係る発明にあっては、作業者は、張力情報表示手段に表示される第1ロープの張力情報および第2ロープの張力情報を見ながら、マストを後方へ傾倒させる作業を行うことができる。
【0020】
請求項3に係る発明にあっては、より精度のよいマストの後傾作業を行うことができる。
【0021】
請求項4に係る発明にあっては、作業者は、角度情報表示手段に表示されるマストの角度情報を見ながら、マストを後方へ傾倒させる作業を行うことができる。
【0022】
請求項5に係る発明にあっては、作業者が手動で第1ウインチおよび第2ウインチを操作する場合の操作のガイドを行うことができ、マストの後傾作業を容易に行うことができる。
【0023】
請求項6に係る発明にあっては、第1ロープの張力情報および第2ロープの張力情報に基いてマストの後傾作業を行うため、従来のように、第1ロープが大きく撓んだまま第2ロープを巻き取ってしまい、突然にマストが後方へ傾倒するのが抑制され、マストの後傾作業を安全に行うことができる。
【0024】
請求項7に係る発明にあっては、作業者は、張力情報表示手段に表示される第1ロープの張力情報および第2ロープの張力情報を見ながら、マストを後方へ傾倒させる作業を行うことができる。
【0025】
請求項8に係る発明にあっては、より精度のよいマストの後傾作業を行うことができる。
【0026】
請求項9に係る発明にあっては、作業者は、角度情報表示手段に表示されるマストの角度情報を見ながら、マストを後方へ傾倒させる作業を行うことができる。
【0027】
請求項10に係る発明にあっては、作業者が手動で第1ウインチおよび第2ウインチを操作する場合の操作のガイドを行うことができ、マストの後傾作業を容易に行うことができる。
【0028】
請求項11に係る発明にあっては、より安全に容易にマストの後傾作業を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、クレーンの組み立て時におけるマストの後傾作業の方法と、その後傾作業の方法に用いられるクレーンに関する。以下に、本発明の第一実施形態について
図1および
図2に基いて説明する。
【0031】
まず、クレーンについて概略説明する。第一実施形態では、クレーン1はクローラクレーンである。
【0032】
クレーン1は、
図1に示すように、クローラ11により走行する下部走行体12と、下部走行体12上に旋回装置13を介在して旋回可能に設置された上部旋回体14と、を備える。なお、本発明におけるクレーン1は、クローラクレーンではなく、トラッククレーン等の移動式クレーン、移動式でないクレーンであってもよく、少なくとも上部旋回体14を備えるもので、上部旋回体14と、これに付随するブーム3およびマスト4を除く部材がクレーン本体10を構成する。
【0033】
上部旋回体14の前部には、キャブ15と、ブーム3と、マスト4と、を備えている。
【0034】
ブーム3は、上部旋回体14に基端部31が回動可能に設けられ、前方への倒伏および起立が可能となる。
【0035】
マスト4は、上部旋回体14に基端部41が回動可能に設けられ、前方への傾倒、起立および後方への傾倒が可能となる。
【0036】
上部旋回体14の後部には、ガントリ16(クレーン本体10を構成する部材)と、カウンターウェイト17と、を有している。なお、クレーン1が、ウェイトが載置される台車やパレットをさらに備えてもよい。
【0037】
ブーム3の先端部32からは巻上ロープ18を介して吊フック19が吊り下げられている。巻上ロープ18の一端部は、ブーム3の背面側を通して、上部旋回体14またはブーム3の基端部31(第一実施形態では上部旋回体14)に設けた巻き取りドラム20に巻き取られている。そして、巻き取りドラム20により巻上ロープ18を巻き取りまたは繰り出すことにより、吊フック19を巻き上げまたは巻き下げるようになっている。
【0038】
ブーム3の先端部32とマスト4の先端部42との間に、第1ロープ5が張設される。第1ロープ5は、一端側が第1ウインチに巻き取り可能に接続され、第1ウインチによる巻き取りおよび繰り出しにより、ブーム3の先端部32とマスト4の先端部42との間の長さを調節可能とする。第一実施形態では、第1ロープ5はブーム起伏ガイライン21とブーム起伏ロープ22とにより構成される。なお、第1ロープ5は、ブーム起伏ガイライン21とブーム起伏ロープ22とにより構成されるものでなくてもよい。例えば、第1ロープ5が、ブーム起伏ロープ22のみで構成されたり、一部に複数のリンク部材を連結してなるいわゆるガイリンクを有するとともに残りがブーム起伏ロープ22で構成されてもよい。
【0039】
ブーム3の先端部32には、第1ロープ5を構成するブーム起伏ガイライン21の一端が連結され、ブーム起伏ガイライン21の他端には、スプレッダ23が設けられている。このスプレッダ23と、マスト4の先端部42に設けられたスプレッダ24との間には、第1ロープ5を構成するブーム起伏ロープ22が巻き掛けられており、ブーム起伏ロープ22の一端部は、スプレッダ24からマスト4の背面側を通して、マスト4の基端部41に設けた第1ウインチのブーム起伏ドラム25に巻き取られている。なお、第1ウインチは、マスト4ではなく上部旋回体14(クレーン本体10)に設けられてもよい。
【0040】
この第1ウインチによりブーム起伏ロープ22を巻き取りまたは繰り出すことにより、ブーム3の先端部32とマスト4の先端部42との間の長さが調節され、ブーム3が起伏動作をするようになっている。
【0041】
マスト4の先端部42とクレーン本体10との間に、第2ロープ6が張設される。第2ロープ6は、一端側が第2ウインチに巻き取り可能に接続され、第2ウインチによる巻き取りおよび繰り出しにより、マスト4がクレーン本体10に対してなす角度を調節可能とする。第一実施形態では、第2ロープ6はマスト起伏ガイライン26とマスト起伏ロープ27とにより構成される。なお、第2ロープ6は、マスト起伏ガイライン26とマスト起伏ロープ27とにより構成されるものでなくてもよい。例えば、第2ロープ6が、マスト起伏ロープ27のみで構成されたり、一部に複数のリンク部材を連結してなるいわゆるガイリンクを有するとともに残りがマスト起伏ロープ27で構成されてもよい。
【0042】
マスト4の先端部42には、第2ロープ6を構成するマスト起伏ガイライン26の一端が連結され、マスト起伏ガイライン26の他端には、スプレッダ28が設けられている。このスプレッダ28と、ガントリ16の頂部に設けられたスプレッダ29との間には、第2ロープ6を構成するマスト起伏ロープ27が巻き掛けられており、マスト起伏ロープ27の一端部は、スプレッダ29から面側を通してガントリ16の基端部に設けた第2ウインチのマスト起伏ドラム30に巻き取られている。なお、第2ウインチは、ガントリ16ではなく上部旋回体14に設けられてもよい。
【0043】
この第2ウインチによりマスト起伏ロープ27を巻き取りまたは繰り出すことにより、マスト4の先端部42とガントリ16の先端部との間の長さが調節され、マスト4が起伏動作をするようになっている。
【0044】
クレーン1は、
図2に示すように、第1ロープ5の張力を検出する第1張力検出手段71と、第2ロープ6の張力を検出する第2張力検出手段72と、を備える。
【0045】
第1張力検出手段71は、例えば、ロードセルからなり、ブーム3の先端部32のブーム起伏ガイライン21(第1ロープ5)の一端が連結される部分に設けられる。第2張力検出手段72は、例えば、ロードセルからなり、マスト4の先端部42のマスト起伏ガイライン26(第2ロープ6)の一端が連結される部分に設けられる。なお、第1張力検出手段71および第2張力検出手段72は、ロードセルに限定されず、また、設けられる位置も限定されず、従来よりクレーンにおいて広く用いられている様々な張力検出手段が適宜利用可能である。
【0046】
第1張力検出手段71により検出された第1ロープ5の張力のデータと、第2張力検出手段72により検出された第2ロープ6の張力のデータは、制御部8により処理される。制御部8は、例えばマイクロコンピュータおよび周辺機器を備え、プログラムに従って各種の処理を行うもので、従来より広く用いられている様々なものが適宜利用可能であり特に限定されない。
【0047】
クレーン1は、分解された状態で現場に搬送され、現場にて組み立てられる。クレーン1の組み立て作業のほぼ最終段階において、ブーム3が前方の地面に倒伏状態で取り付けられるとともにマスト4が前方へ傾倒または起立した状態から、マスト4を後方へ傾倒させる作業を行う。マスト4の後方への傾倒(後傾)は、第1ウインチによる第1ロープ5の繰り出しおよび第2ウインチによる第2ロープ6の巻き取りにより行う。
【0048】
そして、本発明においては、第1張力検出手段71により検出された第1ロープ5の張力情報と、第2張力検出手段72により検出された第2ロープ6の張力情報と、に基いて、マスト4の後傾作業を行うものである。この第一実施形態および後述する第二実施形態、第三実施形態は、第1ロープ5の張力情報および第2ロープ6の張力情報に基いて手動でマスト4の後傾作業を行うものであり、後述する第四実施形態および第五実施形態は、第1ロープ5の張力情報および第2ロープ6の張力情報に基いて自動でマスト4の後傾作業を行うものである。
【0049】
この第一実施形態のクレーン1は、第1ロープ5の張力情報および第2ロープ6の張力情報を表示する張力情報表示手段90を備える。
【0050】
この張力情報表示手段90は、運転席(キャブ15)内に備え付けられている操作画面やML(過負荷防止装置)の画面等に表示されることが好ましいが、この他にクレーン本体10の外表面の一部に表示されたり、携帯電話網や無線通信等を用いた(移動)端末に表示されてもよい。
【0051】
作業者は、張力情報表示手段90に表示される第1ロープ5の張力情報および第2ロープ6の張力情報を見ながら、マスト4を後方へ傾倒させる作業を行う。
【0052】
上述したように、本発明においては、第1ロープ5の張力情報および第2ロープ6の張力情報に基いてマスト4の後傾作業を行う。このため、従来のように、第1ロープ5が大きく撓んだまま第2ロープ6を先に巻き取ってしまい、突然にマストが後方へ傾倒して、マスト4がクレーン1やその機器等に接触してしまうことが抑制され、マスト4の後傾作業を安全に行うことができる。
【0053】
なお、張力情報表示手段90としては、上記のもの以外に、例えば、第1ロープ5の張力情報および第2ロープ6の張力情報に基いて、それぞれの張力の値(数値)を表示するもの、棒グラフやメーター等張力の値を視覚的な情報として表示するもの、数値を音声で伝えるもの等が挙げられる。
【0054】
次に、第二実施形態について
図3に基いて説明する。なお、第二実施形態は第一実施形態と大部分において同じであるため同じ部分については説明を省略し、主に異なる部分について説明する。
【0055】
この第二実施形態のクレーン1は、作業者が第1ウインチおよび第2ウインチを操作するための操作のガイドを行う操作ガイド手段91を備える。
【0056】
操作ガイド手段91は、例えば、ランプ、音声を発するスピーカ、文字を表示する液晶パネル等からなり、公知の様々なものが適宜利用可能であり特に限定されない。また、この操作ガイド手段91は、運転席(キャブ15)内に備え付けられている操作画面やML(過負荷防止装置)の画面等に表示されることが好ましいが、この他にクレーン本体10の外表面の一部に表示されたり、携帯電話網や無線通信等を用いた(移動)端末に表示されてもよい。この操作ガイド手段91により、例えば、操作が適正であるか、操作が不適正であるかを作業者に報知することで、作業者の操作をガイドする。
【0057】
例えば、操作ガイド手段91が緑および赤の二種類のランプにより構成される場合、緑のランプが点灯すると操作が適正であり、赤のランプが点灯すると操作が不適正であることを報知し、適正な操作を行うようにガイドすることができる。操作ガイド手段91は、制御部8により制御される。
【0058】
制御部8は、第1ロープ5の張力情報および第2ロープ6の張力情報に基いて、作業者が行う操作が適正か不適正かを判断する判断機能を備える。第二実施形態では、制御部8が第1ロープ5の張力値が適正範囲にあるか否かを判断して、適正範囲内にあれば緑のランプを点灯させ、適正範囲内になければ赤のランプを点灯させる。第2ロープ6の張力値についても、適正範囲(ただし第1ロープ5の張力値の適正範囲と同じでなくてもよい)にあるか否かを判断して、適正範囲内にあれば緑のランプを点灯させ、適正範囲内になければ赤のランプを点灯させる。なお、この例は一例であり、他の判断基準により、作業者が行う操作が適正か不適正かを判断してもよい。
【0059】
また、第二実施形態では、クレーン1に操作ガイド手段91が設けられているため、作業者が手動で第1ウインチおよび第2ウインチを操作する場合の操作のガイドを行うことができ、マスト4の後傾作業を容易に行うことができる。
【0060】
なお、操作ガイド手段91としては、上記のもの以外に、例えば、第1ロープ5の張力情報および第2ロープ6の張力情報に基いて、それぞれの張力の値(数値)を表示し、その値が適正範囲にあるかどうかを表示色や音声でガイドするもの、棒グラフやメーター等張力の値を視覚的な情報として表示し、その値が適正範囲にあるかどうかを表示や音声でガイドするもの、音声のみでその値が適正範囲にあるかどうかを伝えるもの等が挙げられる。
【0061】
次に、第三実施形態について
図4に基いて説明する。なお、第三実施形態は第一実施形態の構成に加えて追加の構成を有するもので、第一実施形態と同じ部分については説明を省略し、主に異なる部分について説明する。
【0062】
第三実施形態のクレーン1は、
図4に示すように、マスト4がクレーン本体10に対してなす角度を検出するマスト角度検出手段73が設けられる。マスト角度検出手段73としては、ロータリーエンコーダ式、ポテンショメータ等のすべり抵抗式、インダクタンス式といった原理による角度計等、従来よりクレーンにおいて広く用いられている様々な角度検出手段が適宜利用可能であり、特に限定されない。
【0063】
さらに、クレーン1は、マスト4の角度情報を表示する角度情報表示手段93を備える。
【0064】
この角度情報表示手段93は、張力情報表示手段90と同様に、運転席(キャブ15)内に備え付けられている操作画面やML(過負荷防止装置)の画面等に表示されることが好ましいが、この他にクレーン本体10の外表面の一部に表示されたり、携帯電話網や無線通信等を用いた(移動)端末に表示されてもよい。
【0065】
なお、角度情報表示手段93としては、上記のもの以外に、例えば、マスト4の角度(数値)を表示するもの、棒グラフやメーター等角度の値を視覚的な情報として表示するもの、数値を音声で伝えるもの等が挙げられる。
【0066】
さらに、クレーン1は、操作ガイド手段91ではなく第一実施形態と同様の張力情報表示手段90を備える。
【0067】
作業者は、張力情報表示手段90に表示される第1ロープ5の張力情報および第2ロープ6の張力情報に加えてマスト4の角度情報を見ながら、マスト4を後方へ傾倒させる作業を行う。
【0068】
上述したように、第三実施形態では、マスト4の後傾作業をマスト4の角度情報にも基くため、第一実施形態のマスト4の後傾作業より精度のよいマスト4の後傾作業を行うことができる。
【0069】
次に、第四施形態について
図5および
図6に基いて説明する。なお、第四実施形態は第二実施形態の構成に加えて追加の構成を備えるもので、第二実施形態と同じ部分については説明を省略し、主に異なる部分について説明する。
【0070】
第四実施形態では、
図5に示すように、クレーン1に、マスト4がクレーン本体10に対してなす角度を検出するマスト角度検出手段73が設けられる。そして、制御部8は、第1ロープ5の張力情報および第2ロープ6の張力情報と、マスト角度検出手段73により検出されたマスト4の角度情報とに基いて、作業者が行う操作が適正か不適正かを判断する。
【0071】
例えば、制御部8は、
図6に示すように、マスト4の角度毎に、第1ロープ5の張力値の適正範囲および第2ロープ6の張力値の適正範囲が異なっている。このような適正範囲は、予め実験や計算により求め、制御部8がアクセス可能な記憶手段に記憶させておく。
【0072】
制御部8は、マスト4の角度毎に、第1ロープ5の張力値が適正範囲にあるか否かを判断して、適正範囲内にあれば緑のランプを点灯させ、適正範囲内になければ赤のランプを点灯させる。第2ロープ6についても同様である。
【0073】
具体的には、マスト4の角度が垂直(90度)になっており、第1ロープ5の張力および第2ロープ6の張力がバランスしていなければ、張力が大きい方に倒れる可能性があるため、この状態であることを作業者に伝える。また、マスト4の角度が後傾している状態(例えば、90度を超える)であっても第1ロープ5の張力および第2ロープ6の張力がバランスしていれば問題がない状態であることを作業者に伝える。さらには、マスト4が後傾している状態であって、第2ロープ6の張力が第1ロープ5の張力よりも大きくなる方向、または、第1ロープ5の張力が第2ロープ6の張力よりも小さくなる方向にあれば、より倒れやすい状況になるので、このような状態であることを作業者に伝える、といったこと等を行う。
【0074】
次に、第五実施形態について
図7に基いて説明する。なお、第五実施形態は第二実施形態と大部分において同じであるため同じ部分については説明を省略し、主に異なる部分について説明する。
【0075】
第五実施形態のクレーン1は、
図7に示すように、第二実施形態における操作ガイド手段91にかえて、第1ウインチおよび第2ウインチを自動で制御する自動運転制御部92を備える。自動運転制御部92は、例えばマイクロコンピュータおよび周辺機器を備え、プログラムに従って各種の処理を行うもので、従来より広く用いられている様々なものが適宜利用可能であり特に限定されない。なお、自動運転制御部92は、制御部8と別に設けられるのではなく、制御部8が一機能として備えるものであってもよい。
【0076】
第五実施形態では、自動運転制御部92は、制御部8より第1ロープ5の張力情報および第2ロープ6の張力情報を得て、第1ウインチおよび第2ウインチを自動で制御する。
【0077】
自動運転制御部92は、第1ロープ5の張力情報に基いて、フィードバック制御等により、第1ロープ5の張力値が適正範囲を維持するように、第1ウインチを制御する。第2ウインチについても同様である。
【0078】
上述したように、第五実施形態では、自動運転制御部92によりマスト4の後傾作業が行われるため、第二実施形態のマスト4の後傾作業よりも安全に容易にマスト4の後傾作業を行うことができる。
【0079】
次に、第六実施形態について
図8に基いて説明する。なお、第六実施形態は第五実施形態の構成に加えて追加の構成を有するもので、第五実施形態と同じ部分については説明を省略し、主に異なる部分について説明する。
【0080】
第六実施形態のクレーン1は、
図8に示すように、第五実施形態においてさらにマスト角度検出手段73が設けられる。マスト角度検出手段73は第三実施形態におけるのと同じである。
【0081】
第六実施形態では、自動運転制御部92は、制御部8より第1ロープ5の張力情報および第2ロープ6の張力情報に加えてマスト4の角度情報を得て、第1ウインチおよび第2ウインチを自動で制御する。
【0082】
自動運転制御部92は、マスト4の角度毎に、第1ロープ5の張力情報に基いて、フィードバック制御等により、第1ロープ5の張力値が適正範囲を維持するように、第1ウインチを制御する。第2ウインチについても同様である。
【0083】
上述したように、第六実施形態では、第五実施形態のマスト4の後傾作業より精度のよいマスト4の後傾作業を行うことができる。
【0084】
なお、自動運転制御部92は、例えば、第1ロープ5の張力情報および第2ロープ6の張力情報に基づいて、第1ロープ5の張力値、第2ロープ6の張力値がそれぞれ適切な範囲(制御目標値または目標範囲)にあるかどうかを判断し、その範囲をはずれ張力値が小さければウインチ(第1ウインチまたは第2ウインチ)でロープ(第1ロープ5または第2ロープ6)を巻き取り、逆に張力値が大きければウインチからロープを繰り出すようにそれぞれ制御する。
【0085】
また、第1ロープ5の張力値と第2ロープ6の張力値との差分が適切な範囲にあるかどうかを判断し、その範囲をはずれ差分(ここでは、第1ロープ5の張力値−第2ロープ6の張力値とする)がマイナスになった場合は、第1ロープ5の張力値が第2ロープ6の張力値より小さくなったことになるので、より後傾する方向にある。従って、第1ウインチでロープを巻き取り、第2ウインチからロープを繰り出す制御を行うことになる。
【0086】
さらに、マスト4の角度情報からほぼ垂直(90度)になっている場合は、上記制御をし、マスト4を所定の傾きまで徐々に後傾(例えば、90度を超える)させているときには、第1ロープ5でマスト4を支えている状態にあることからこちら側の張力が大きく、一方で第2ロープ6はマスト4が倒れる側から引っ張るものであるので、第2ロープ6の張力値は小さくてもよい。つまり、第1ロープ5の張力値−第2ロープ6の張力値とすれば、ゼロではなく常に正の値となっていてもよい。このとき自動運転制御部92としては、第1ロープ5の張力値が所定以上に小さくならないように第1ロープ5を繰り出しつつ、第2ロープ6の張力が所定以上に大きくならないように第2ロープ6を巻き取り、マスト4を所定の傾きまで後傾させるようにすればよい。
【0087】
ここで、第1ウインチおよび第2ウインチが油圧式ウインチである場合は、そこに供給する油の流量や流れる方向を制御するバルブなどを制御して各ウインチの動作を制御することとなる。
【0088】
なお、上述した第一実施形態〜第六実施形態にあっては、上部旋回体14に固定されたガントリ16を有するものとして説明したが、ガントリの代わりに箱マスト又はクレーンマスト(クレーン本体10を構成する部材)を使用するものであってもよい。この場合、マスト4と箱マストの間はガイリンクで連結されてその間の間隔は変わらず、箱マストと上部旋回体14とにそれぞれスプレッダを配置してその間にロープをかけ、固定式のガントリと異なりその間を伸縮させることで箱マストを起伏させて、これによりマスト4を起伏させる。このとき、箱マストの起伏ウインチは、通常は上部旋回体14に設けられるが、箱マストに設けられてもよい。