(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態について、
図1乃至
図4を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0012】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る四輪駆動車の概略の構成例を示す概略構成図である。
図1に示すように、四輪駆動車100は、車体101と、走行用のトルクを発生する駆動源としてのエンジン102と、トランスミッション103と、エンジン102の駆動力が常時伝達される左右一対の主駆動輪としての左右前輪104a,104b(前輪側の左右輪)と、走行状態に応じてエンジン102の駆動力が断続可能に伝達される左右一対の補助駆動輪としての左右後輪105a,105b(後輪側の左右輪)とを備えている。
【0013】
また、四輪駆動車100は、駆動力伝達系として、フロントディファレンシャル106と、プロペラシャフト107と、駆動力配分装置1とを備えている。左右前輪104a,104bには、フロントディファレンシャル106及び一対のドライブシャフト106a,106bを介して、トランスミッション103によって変速されたエンジン102の駆動力が常時伝達される。左右前輪104a,104bは、運転者によるステアリングホイール109の操作によって転舵される。
【0014】
左右後輪105a,105bには、プロペラシャフト107、駆動力配分装置1、及び一対のドライブシャフト108a,108bを介して、トランスミッション103によって変速されたエンジン102の駆動力が伝達される。駆動力配分装置1は、左後輪105a及び右後輪105bにエンジン102の駆動力を配分比可変に配分することが可能である。駆動力配分装置1の構成については後述する。
【0015】
またさらに、四輪駆動車100は、駆動力配分装置1を制御する駆動力制御装置10を備えている。駆動力制御装置10は、左後輪105a及び右後輪105bに伝達される駆動力をそれぞれ独立して調節可能である。駆動力制御装置10は、第1の旋回半径演算手段11と、第2の旋回半径演算手段12と、目標旋回半径設定手段13と、目標回転速度演算手段14と、駆動力配分比調整手段15と、路面摩擦係数推定手段16とを有している。駆動力制御装置10の詳細については後述する。
【0016】
駆動力制御装置10には、左右前輪104a,104b及び左右後輪105a,105bの回転速度を検出するための回転速センサ111〜114が接続されている。回転速センサ111〜114は、例えば左右前輪104a,104b及び左右後輪105a,105bと共に回転する複数の磁極を有する磁気リングに対向配置されたホールICからなり、回転速度に応じた周期でパルス信号を出力する。これにより、駆動力制御装置10は、左右前輪104a,104b及び左右後輪105a,105bの回転速度を検出可能である。
【0017】
また、駆動力制御装置10には、ステアリングホイール109の中立位置からの回転角度(操舵角)を検出する操舵角センサ115が接続されている。これにより、駆動力制御装置10は、ステアリングホイール109の操舵角を検出可能である。
【0018】
またさらに、駆動力制御装置10には、アクセルペダル110の踏み込み量を検出するアクセル開度センサ116が接続されている。これにより、駆動力制御装置10は、アクセルペダル110の踏み込み量に応じたアクセル開度を検出可能である。
【0019】
(駆動力配分装置1の構成)
図2は、駆動力配分装置1の構成例を示す断面図である。
【0020】
駆動力配分装置1は、内部に第1乃至第3の収容空間20a〜20cを有するケース部材20と、ケース部材20の第1の収容空間20aに収容された入力回転部材3と、第1の収容空間20aを挟む第2及び第3の収容空間20b,20cにそれぞれ収容された一対のトルクカップリング4とを備えている。
【0021】
なお、第2の収容空間20bに収容されたトルクカップリング4と、第3の収容空間20cに収容されたトルクカップリング4とは、共通の構成を有しているが、以下の説明においてこれらを区別する必要がある場合には、第2の収容空間20bに収容されたトルクカップリング4を第1のトルクカップリング4Aとし、第3の収容空間20cに収容されたトルクカップリング4を第2のトルクカップリング4Bとして説明する。
【0022】
ケース部材20は、第1の収容空間20aと第2の収容空間20bとの間、及び第1の収容空間20aと第3の収容空間20cとの間が一対の隔壁21によって区画されている。一対の隔壁21には、第1の収容空間20aと第2及び第3の収容空間20b,20cとを連通させる貫通孔21aが形成されている。
【0023】
入力回転部材3は、ケース部材20に回転可能に支持された第1部材31と、環状のリングギヤからなる第2部材32とを有し、第1部材31と第2部材32とが複数のボルト33によって結合されている。第1部材31は、中心部に貫通孔31aが形成された円筒状の筒部311と、筒部311の外周面から外方に突出して形成されたフランジ部312とを一体に有している。第2部材32は、フランジ部312の先端部に固定され、ケース部材20の第1の開口200aを挿通するプロペラシャフト107の一端に形成されたギヤ部107aに噛み合っている。第1部材31は、貫通孔21aの内面との間に配置された一対の軸受22によって回転可能に支持されている。
【0024】
トルクカップリング4は、多板クラッチ41,電磁クラッチ42,カム機構43、インナシャフト44、及びこれらを収容するハウジング40を有している。
【0025】
ハウジング40は、互いに相対回転不能に結合された第1ハウジング部材401と第2ハウジング部材402とからなる。第1ハウジング部材401は有底円筒状であり、第2ハウジング部材402は、第1ハウジング部材401の開口側端部を塞ぐように配置されている。
【0026】
多板クラッチ41は、ハウジング40の第1ハウジング部材401と円筒状のインナシャフト44との間に配置され、インナシャフト44の外周面に相対回転不能にスプライン係合するインナクラッチプレート411と、第1ハウジング部材401の内周面に相対回転不能にスプライン係合するアウタクラッチプレート412とからなる。
【0027】
電磁クラッチ42は、環状のコイル421及びアーマチャカム422を有し、ハウジング40の回転軸線上に配置されている。電磁クラッチ42は、コイル421による電磁力の発生によってアーマチャカム422をコイル421側に移動させ、第2ハウジング部材402にアーマチャカム422を摩擦摺動させるように構成されている。
【0028】
カム機構43は、アーマチャカム422にハウジング40の回転軸線に沿って並列するメインカム431、及びこのメインカム431とアーマチャカム422との間に介在する球状のカムフォロア432を有している。カムフォロア432は、アーマチャカム422及びメインカム431のそれぞれに周方向に延びるように形成されたカム溝を転動可能であり、それぞれのカム溝は周方向の位置に応じて軸方向の深さが徐々に変化している。そして、カム機構43は、コイル421への通電によってアーマチャカム422がハウジング40からの回転力を受け、多板クラッチ41のクラッチ力となる押圧力に変換するように構成されている。
【0029】
コイル421への通電量が多くなるとアーマチャカム422と第2ハウジング部材402との摩擦力が増大し、メインカム431がより強く多板クラッチ41を押圧する。すなわち、トルクカップリング4は、コイル421への通電量に応じて多板クラッチ41の押圧力を可変に制御することができ、ひいてはハウジング40とインナシャフト44との間のトルク伝達量を調節可能である。
【0030】
第1のトルクカップリング4Aにおけるインナシャフト44には、ケース部材20の第2の開口200bを挿通した左後輪側ドライブシャフト108aの一端が、スプライン嵌合によって相対回転不能に連結されている。また、第2のトルクカップリング4Bにおけるインナシャフト44には、ケース部材20の第3の開口200cを挿通した右後輪側ドライブシャフト108bの一端が、スプライン嵌合によって相対回転不能に連結されている。第1のトルクカップリング4Aの多板クラッチ41は、左後輪105aに駆動力を伝達する本発明の「左側クラッチ」の一態様であり、第2のトルクカップリング4Bの多板クラッチ41は、右後輪105bに駆動力を伝達する本発明の「右側クラッチ」の一態様である。
【0031】
第1のトルクカップリング4A及び第2のトルクカップリング4Bのハウジング40と、入力回転部材3の第1部材31における筒部311とは、一対の連結部材23によって相対回転不能に連結されている。連結部材23は、円柱状のボス部231と、円板状のフランジ部232とを一体に有している。ボス部231は、第1部材31の貫通孔31aの内面に相対回転不能にスプライン嵌合し、フランジ部232は、ハウジング40に相対回転不能にスプライン嵌合している。ボス部231は、隔壁21の貫通孔21aを挿通している。
【0032】
トルクカップリング4のコイル421には、駆動力制御装置10から励磁電流が供給される。駆動力制御装置10は、第1のトルクカップリング4Aのコイル421に供給する電流を増減することにより、入力回転部材3から左後輪105aに伝達される駆動力を制御することが可能である。また、駆動力制御装置10は、第2のトルクカップリング4Bのコイル421に供給する電流を増減することにより、入力回転部材3から右後輪105bに伝達される駆動力を制御することが可能である。
【0033】
(駆動力制御装置10の制御内容)
駆動力制御装置10は、例えばCPU(Central Processing Unit)と記憶素子とを備え、CPUが記憶素子に記憶されたプログラムに基づいて処理を実行することにより、第1の旋回半径演算手段11、第2の旋回半径演算手段12、目標旋回半径設定手段13、目標回転速度演算手段14、駆動力配分比調整手段15、及び路面摩擦係数推定手段16として機能する。
【0034】
図3は、駆動力制御装置10の制御構成の一例をブロック図の形式で示す説明図である。第1の旋回半径演算手段11は、操舵角センサ115によって検出された操舵角に応じて定まる車両の旋回半径である操舵角対応旋回半径を演算する。本実施の形態では、操舵角及び回転速センサ111〜114の出力信号により求められる車速に基づいて操舵角対応旋回半径を演算する。この操舵角対応旋回半径は、各車輪(左右前輪104a,104b及び左右後輪105a,105b)に空転(スリップ)が発生していないとき、操舵角センサ115によって検出された操舵角で四輪駆動車100が走行する場合の旋回半径である。
【0035】
第2の旋回半径演算手段12は、車速に応じて走行状態の安定性を保ちながら旋回することが可能な旋回半径の最小値である限界旋回半径を演算する。ここで、「走行状態の安定性を保ちながら旋回する」とは、例えばカウンターステアを必要とする程のオーバーステアを発生させることなく、各車輪が路面をグリップした状態を維持して旋回することをいう。本実施の形態では、後述する路面摩擦係数推定手段16によって推定された路面の摩擦係数を考慮して限界旋回半径を演算する。限界旋回半径は、路面摩擦係数推定手段16により演算される路面摩擦係数の推定値が小さいほど大きくなる。
【0036】
目標旋回半径設定手段13は、第1の旋回半径演算手段11により演算された操舵角対応旋回半径が、第2の旋回半径演算手段12により演算された限界旋回半径よりも大きい場合に操舵角対応旋回半径を目標旋回半径として設定し、操舵角対応旋回半径が限界旋回半径よりも小さい場合には限界旋回半径を目標旋回半径して設定する。換言すれば、目標旋回半径設定手段13は、操舵角対応旋回半径と限界旋回半径のうち、何れか大きい方を目標旋回半径とする。
【0037】
目標回転速度演算手段14は、目標旋回半径設定手段13で設定された目標旋回半径及び車速に基づいて、左右後輪105a,105bのそれぞれの目標回転速度を演算する。この目標回転速度は、四輪駆動車100が回転速センサ111〜114の出力信号により求められる車速で目標旋回半径の旋回路を走行状態の安定性を保って走行する場合の左後輪105a及び右後輪105bの回転速度である。本実施の形態では、アクセル開度及び車速から目標スリップ角を求め、この目標スリップ角に基づいて目標回転速度を演算する。
【0038】
図4は、四輪駆動車100が旋回半径Rのカーブを走行しているときの目標スリップ角αを示す説明図である。この目標スリップ角αは、旋回中心点Cと四輪駆動車100の重心点Gを結ぶ線分Lに対して垂直な方向(
図3中に矢印Aで示す重心の移動方向)と、重心点Gを通って四輪駆動車100の前後方向に延びる車両中心線CLとがなす角度である。目標回転速度演算手段14は、例えば記憶素子に記憶されたマップを参照して目標スリップ角αを求め、求めた目標スリップ角αを用いた演算によって目標回転速度を算出する。この場合、目標回転速度演算手段14が参照するマップには、アクセル開度及び車速と目標スリップ角αとの関係が定義されている。
【0039】
駆動力配分比調整手段15は、回転速センサ113,114の出力信号により求められる左右後輪105a,105bの実回転速度が目標回転速度に近づくように、左右後輪105a,105bへの駆動力の配分比を調整する。より具体的には、アクセル開度センサ116によって検出されたアクセルペダル110の踏み込み量に応じた駆動力を基準とし、回転速センサ113の出力信号により求められる左後輪105aの実際の回転速度が目標回転速度演算手段14で設定された目標回転速度よりも遅ければ第1のトルクカップリング4Aの多板クラッチ41を介して左後輪105aに伝達される駆動力を大きくし、左後輪105aの実際の回転速度が目標回転速度よりも速ければ左後輪105aに伝達される駆動力を小さくする。右後輪105bについても同様に、第2のトルクカップリング4Bの多板クラッチ41を介して伝達される駆動力を調節する。
【0040】
路面摩擦係数推定手段16は、例えば外気温や操舵時のタイヤ反力もしくはワイパーの作動頻度、あるいは路面を撮像した画像によって把握される路面状態などに基づいて、路面の摩擦係数を推定する。
【0041】
駆動力制御装置10は、第1の旋回半径演算手段11、第2の旋回半径演算手段12、目標旋回半径設定手段13、目標回転速度演算手段14、駆動力配分比調整手段15、及び路面摩擦係数推定手段16の各処理を、例えば5msの制御周期ごとに繰り返し実行する。すなわち、駆動力制御装置10は、所定の制御周期ごとに、操舵角対応旋回半径及び限界旋回半径を演算し、操舵角対応旋回半径と限界旋回半径のうち大きい方を目標旋回半径として設定し、目標旋回半径及び車速に基づいて左右後輪105a,105bのそれぞれの目標回転速度を演算し、左右後輪105a,105bの実回転速度が目標回転速度に近づくように左右後輪105a,105bへの駆動力の配分比を調整する。
【0042】
(第1の実施の形態の作用及び効果)
以上説明した第1の実施の形態によれば、ステアリングホイール109が限界旋回半径に対応する操舵角よりも大きく操舵された場合には、限界旋回半径に設定された目標旋回半径及び車速に基づいて左右後輪105a,105bのそれぞれの目標回転速度が演算され、左右後輪105a,105bの実回転速度が演算された目標回転速度に近づくように左右後輪105a,105bへの駆動力が調節される。これにより、過度なオーバーステア状態になることが抑制され、四輪駆動車100の挙動を安定化させることが可能となる。
【0043】
また、本実施の形態では、路面摩擦係数推定手段16によって推定された路面の摩擦係数を考慮して限界旋回半径を演算するので、限界旋回半径をより高精度に演算することができ、例えば必要以上に限界旋回半径を大きくしてしまうことを防ぐことができる。
【0044】
また、本実施の形態では、目標スリップ角に基づいて左右後輪105a,105bの目標回転速度を演算するので、目標回転速度を正確に演算することができる。
【0045】
またさらに、本実施の形態では、第1及び第2のトルクカップリング4A,4Bのそれぞれの多板クラッチ41を介して左後輪105a及び右後輪105bに駆動力が伝達されるので、左右後輪105a,105bへの駆動力の配分比を容易かつ確実に調整することができる。
【0046】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について、
図5乃至
図7を参照して説明する。第2の実施の形態は、左右後輪105a,105bに駆動力を配分する駆動力配分装置1Aの構成が第1の実施の形態に係る駆動力配分装置1とは異なる。以下、第2の実施の形態について、第1の実施の形態と異なる部分を中心に説明する。
【0047】
図5は、第2の実施の形態に係る駆動力配分装置1Aの構成を示す断面図である。
図6は、駆動力配分装置1Aの構成を示す概略構成図である。
図7は、複数のプラネタリギヤ71を保持するプラネタリキャリヤ72を示す斜視図である。
【0048】
この駆動力配分装置1Aは、ケース部材5と、ケース部材5に組み込まれたモータ50と、プロペラシャフト107から入力された駆動力を一対のドライブシャフト108a,108bに差動を許容して配分する差動歯車機構6と、遊星歯車機構7と、変速機構8とを有して構成されている。モータ50は、駆動力制御装置10Aによって制御される。
【0049】
ケース部材5は、第1乃至第3部材51〜53を連結することにより形成されている。差動歯車機構6は、第1部材51内に収容され、遊星歯車機構7及び変速機構8は、第3部材53内に収容されている。第2部材52は、第1部材51と第3部材53との間に配置されている。
【0050】
差動歯車機構6は、プロペラシャフト107のギヤ部107aに噛み合うリングギヤ61と、リングギヤ61と一体に回転するデフケース62とを有している。デフケース62は、一対のドライブシャフト108a,108bと同軸上で軸受54,55により回転自在に支持され、その内周面にインターナルギヤ621aが形成された有底円筒状の本体部621と、本体部621の開口側に配置された蓋部622とを結合して構成されている。
【0051】
ドライブシャフト108aには、デフケース62内に配置されたサンギヤ63が一体回転するように連結されている。サンギヤ63とデフケース62の本体部621の内周面との間には、複数のプラネタリギヤ対64が配置されている。各プラネタリギヤ対64は、インターナルギヤ621aに噛み合わされた第1プラネタリギヤ641と、サンギヤ63に噛み合わされた第2プラネタリギヤ642とからなる。第1プラネタリギヤ641及び第2プラネタリギヤ642は、互いに噛み合わされた状態で、プラネタリキャリヤ65によりそれぞれ自転可能且つ公転可能に保持されている。そして、プラネタリキャリヤ65は、デフケース62内でドライブシャフト108bと相対回転不能に連結されている。
【0052】
プロペラシャフト107から入力される駆動力は、リングギヤ61からデフケース62へと伝達される。そして、デフケース62に複数のプラネタリギヤ対64を介して連結されたサンギヤ63及びプラネタリキャリヤ65が回転することにより、入力された駆動力がドライブシャフト108a,108bへと伝達される。また、車両旋回時等、左右後輪105a,105bに回転差が生じた場合には、第1プラネタリギヤ641及び第2プラネタリギヤ642が、自転しつつサンギヤ63の周りを公転する。これにより、差動歯車機構6は、プロペラシャフト107から入力された駆動力を一対のドライブシャフト108a,108bに差動を許容して配分する。
【0053】
図6に示すように、ドライブシャフト108aとドライブシャフト108bとの間には、これらドライブシャフト108a,108bの間に回転差を発生させることが可能な遊星歯車機構7、及び遊星歯車機構7に隣接して配置された変速機構8が設けられている。遊星歯車機構7及び変速機構8は、左後輪105aと右後輪105bとの差動回転速度を可変とする本発明の歯車機構の一態様である。
【0054】
遊星歯車機構7は、中空状に形成されたモータ50と駆動連結され、モータ50が出力するモータトルクに基づいてドライブシャフト108a,108b間に回転差を生じさせる。また、遊星歯車機構7は、ピッチ円径の異なる第1ピニオン711及び第2ピニオン712を相対回転不能に連結してなる複数(4つ)のプラネタリギヤ71と、これらのプラネタリギヤ71を公転可能かつ自転可能に支持するプラネタリキャリヤ72とを備えている。プラネタリギヤ71は、第2ピニオン712のピッチ円径が、第1ピニオン711のピッチ円径よりも僅かに大きく形成されている。
【0055】
図7に示すように、プラネタリキャリヤ72は、円筒状の外周壁721と、外周壁721の両端部の一部を閉塞して対向する一対の蓋部722とを有している。外周壁721の外周面には、プラネタリギヤ71の数に対応する複数の開口部720が形成されている。そして、各プラネタリギヤ71は、第1ピニオン711及び第2ピニオン712の各歯部711a,712aを開口部720から外方に突出させた状態で、プラネタリキャリヤ72内に回転自在に収容されている。なお、このようなプラネタリギヤ71のギヤの支持構造は、後述する変速機構8側のプラネタリギヤ81についても同様であるため、括弧内に変速機構8に対応する符号を付し、変速機構8の構成についての詳細な説明を省略する。
【0056】
プラネタリキャリヤ72の蓋部722には、各開口部720に対応する位置において、互いに対向するように形成された支持穴722aが形成されている。各プラネタリギヤ71は、その軸線方向に沿って延びる軸部がこれら支持穴722a内に差し込まれることにより、プラネタリキャリヤ72に対して回転自在に支持されている。
【0057】
プラネタリキャリヤ72の蓋部722の中心部には、その軸線方向に沿ってドライブシャフト108aの挿通が可能な挿通孔722bが形成されている。そして、プラネタリキャリヤ72は、これら挿通孔722bにドライブシャフト108aが挿通され、ドライブシャフト108aにより回転自在に支持されている。
【0058】
プラネタリキャリヤ72の上記各開口部720を介して外部に突出された各第1ピニオン711及び第2ピニオン712には、それぞれ第1リングギヤ91及び第2リングギヤ92が噛み合わされている。そして、第2ピニオン712に噛み合わされた第2リングギヤ92は、差動歯車機構6を構成するプラネタリキャリヤ65に対して相対回転不能に連結されている。
【0059】
第2リングギヤ92は、ドライブシャフト108aが挿通される筒状部921を有し、この筒状部921が玉軸受56及びニードル軸受57によって回転可能に支持されている。そして、第2リングギヤ92は、筒状部921の先端が差動歯車機構6のプラネタリキャリヤ65にスプライン嵌合されることにより、プラネタリキャリヤ65を介して、ドライブシャフト108bと連結されている。
【0060】
プラネタリキャリヤ72の外周壁721には、径方向外側に延びるフランジ部723が設けられており、フランジ部723の外周には、外歯723aが形成されている。このフランジ部723は、モータ50に連結されている。
【0061】
モータ50は、例えばブラシレスモータからなり、遊星歯車機構7の径方向外側に同軸配置され、駆動力制御装置10Aからのモータ電流の供給によって回転する。駆動力制御装置10Aは、図示しないバッテリーを電力供給源とし、PWM(Pulse Width Modulation)制御によるスイッチングによってモータ電流を調整する。また、プラネタリキャリヤ72は、その外周壁721に設けられたフランジ部723がモータ50の回転子の内周にスプライン嵌合されることにより、モータ50と連結されている。
【0062】
また、駆動力配分装置1Aは、遊星歯車機構7に設定された変速比を補正するための変速機構8を備えている。そして、プラネタリギヤ71の第1ピニオン711に噛み合わされた第1リングギヤ91は、この変速機構8を介してドライブシャフト108a側に連結されている。すなわち、遊星歯車機構7には、プラネタリギヤ71の第1ピニオン711と第2ピニオン712とのピッチ円径差による所定のギヤ比が存在することから、変速機構8を有しない場合には、走行時にドライブシャフト108a,108b間に差動が発生していなくてもプラネタリキャリヤ72が回転することになり、モータ50等に負荷がかかる。
【0063】
このため、本実施の形態では、遊星歯車機構7の第1リングギヤ91とドライブシャフト108aとの間に、遊星歯車機構7に設定された変速比を相殺する変速機構8が介在している。これにより、ドライブシャフト108a,108b間に差動が発生していない場合には、走行中であっても、モータ50が回転しないように構成されている。すなわち、モータ50は、ドライブシャフト108a,108bの差動回転速度に対応する速度で回転する。モータ50が出力するモータトルクは、左右後輪105a,105bのうち一方の車輪を加速し、他方の車輪を減速するように作用する。これにより、左右後輪105a,105bへの駆動力の配分比が調整される。
【0064】
より具体的には、変速機構8は、プラネタリギヤ71を構成する第1ピニオン711と同一のピッチ円径を有する第3ピニオン811、及び第2ピニオン712と同一のピッチ円径を有する第4ピニオン812を相対回転不能に連結してなる複数(4つ)のプラネタリギヤ81を有し、これらの各プラネタリギヤ81は、プラネタリキャリヤ82により公転可能且つ自転可能に支えられている。このプラネタリキャリヤ82は、その軸心に形成された挿通孔822bに挿通されたドライブシャフト108aに回転自在に支持されている。
【0065】
プラネタリキャリヤ82の開口部820から外部に突出された各第3ピニオン811及び第4ピニオン812には、それぞれ第1リングギヤ91と同一の構成を有する第3リングギヤ93、及び第2リングギヤ92と同一の構成を有する第4リングギヤ94が噛み合わされている。第3ピニオン811に噛み合わされた第3リングギヤ93は、遊星歯車機構7側の第1リングギヤ91と相対回転不能に連結され、第4リングギヤ94は、ドライブシャフト108aと相対回転不能に連結されている。そして、各プラネタリギヤ81を支えるプラネタリキャリヤ82は、その外周壁821に設けられたフランジ部823(外歯823a)を連結部として、ケース部材5の第3部材53と相対回転不能に連結されている。
【0066】
第1リングギヤ91及び第3リングギヤ93は、筒状のスリーブ9の内周両端に同一形状の内歯を並列に配置することにより一体に形成されている。また、第4リングギヤ94は、ドライブシャフト108aが挿通される筒状部941を有しており、この筒状部941が玉軸受58により回転自在に支持されている。そして、第4リングギヤ94は、筒状部941がドライブシャフト108aにスプライン嵌合されることにより、ドライブシャフト108aと相対回転不能に連結されている。
【0067】
以上のように構成された駆動力配分装置1Aにおいては、ドライブシャフト108a,108b間に差動が発生していない場合には、モータ50に連結された遊星歯車機構7のプラネタリキャリヤ72は回転しない。一方、モータトルクによりフランジ部723を介してプラネタリキャリヤ72を回転駆動することにより、ドライブシャフト108a,108b間に回転差を生じさせることができる。そして、その制御用トルクとして遊星歯車機構7に入力されるモータトルクを制御することにより、両ドライブシャフト108a,108bに配分するエンジン102の駆動力を配分比可変に配分することが可能となっている。
【0068】
駆動力配分装置1Aを制御する駆動力制御装置10Aは、第1の実施の形態に係る駆動力制御装置10と同様に、第1の旋回半径演算手段11と、第2の旋回半径演算手段12と、目標旋回半径設定手段13と、目標回転速度演算手段14と、駆動力配分比調整手段15と、路面摩擦係数推定手段16とを有しているが、駆動力制御装置10Aの駆動力配分比調整手段15の制御内容は、駆動力制御装置10の駆動力配分比調整手段15の制御内容と異なる。
【0069】
具体的には、第1の実施の形態に係る駆動力制御装置10の駆動力配分比調整手段15は、第1及び第2のトルクカップリング4A,4Bの多板クラッチ41を介して左右後輪105a,105bに伝達される駆動力を調節するが、本実施の形態に係る駆動力制御装置10Aの駆動力配分比調整手段15は、駆動力配分装置1Aのモータ50に供給するモータ電流の大きさ及び向きを調整することで、目標回転速度演算手段14で演算された目標回転速度に左右後輪105a,105bの実回転速度が近づくように、遊星歯車機構7及び変速機構8による左右後輪105a,105bの差動回転速度を調節する。
【0070】
以上説明した第2の実施の形態によっても、第1の実施の形態と同様に、ステアリングホイール109が限界旋回半径に対応する操舵角よりも大きく操舵された場合でも、過度なオーバーステア状態になることが抑制され、車両の挙動を安定化させることが可能となる。
【0071】
(付記)
以上、本発明を第1及び第2の実施の形態に基づいて説明したが、これらの実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0072】
また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。例えば、上記第1及び第2の実施の形態では、駆動力制御装置10,10Aが、路面の摩擦係数を推定する路面摩擦係数推定手段16を有する場合について説明したが、これに限らず、駆動力制御装置10,10Aが路面摩擦係数推定手段16を有しなくてもよい。この場合、駆動力制御装置10,10Aの第2の旋回半径演算手段12は、路面の摩擦係数を予め設定された所定の定数として限界旋回半径を演算する。この所定の定数は、安全性を考慮して、乾燥した舗装路(ドライ路)の摩擦係数よりも低い、例えばウエット路の摩擦係数に相当する値(例えば0.4〜0.6)とすることが望ましい。