(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る実施形態について、図面に基づいて説明する。
[時計の構成]
図1は、機械式時計である時計1を示す平面図である。
時計1は、円筒状の外装ケース11を備え、外装ケース11の内周側に、円盤状の文字板12が配置されている。外装ケース11の二つの開口のうち、時計表面側の開口は、カバーガラス13で塞がれており、裏面側の開口は図示しない裏蓋で塞がれている。ここで、外装ケース11および裏蓋は、ケースを構成する。
【0018】
時計1は、ケース内に収容されたムーブメント2(
図2参照)、小秒針21、分針22、時針23、日車24を備えている。
各指針21〜23は、文字板12の表面側に配置され、ムーブメント2は、文字板12の裏面側に配置されている。各指針21〜23は、ムーブメント2が備える回転軸361,712,722に取り付けられ、ムーブメント2により駆動される。分針22、時針23は、文字板12の平面中心に設けられた回転軸712,722に取り付けられ、小秒針21は、文字板12の平面中心に対して6時方向側に設けられた回転軸361に取り付けられている。
【0019】
また、文字板12には、カレンダー小窓12Aが設けられており、カレンダー小窓12Aから、日車24の数字が視認可能となっている。日車24の数字は、年月日の「日」を表す。
外装ケース11の側面には、リューズ14が設けられている。リューズ14が操作されることにより、操作に応じた入力を行うことができる。
【0020】
[ムーブメントの構成]
図2は、時計1のムーブメント2(時計用ムーブメント)を裏蓋側から見た平面図である。
図2における図面上側は、3時方向側であり、図面下側は、9時方向側であり、図面右側は、12時方向側であり、図面左側は、6時方向側である。なお、
図2では、受部材のうち、輪列受64のみ二点鎖線で示し、残りの受部材は図示を省略している。また、
図2では、回転錘51、ベアリング52などについても、図示を省略している。
ムーブメント2は、基本輪列30と、小秒車36と、アンクル37と、テンプ38と、手動巻上機構40と、自動巻上機構50とを備えている。
【0021】
図3〜
図6は、ムーブメント2の要部の断面図である。
図3〜
図6における図面上側は裏蓋側であり、図面下側は文字板12側である。
ムーブメント2は、文字板12から裏蓋側に向かって、地板61と、巻真受62と、巻上受63と、輪列受64とを備えている。なお、輪列受64は、回転錘受とも称される。
【0022】
[基本輪列]
図2〜
図4に示すように、基本輪列30は、香箱車31、二番車32、三番車33、四番車34、ガンギ車35を備えている。
【0023】
[香箱車]
図2、
図3に示すように、香箱車31は、香箱真311と、香箱歯車312と、香箱蓋313と、香箱歯車312および香箱蓋313で囲まれた空間に収納された図示しないゼンマイとを備えている。
香箱真311は、平面視において文字板12の平面中心に対して1時方向側に設けられ、地板61および輪列受64で軸支されている。
ゼンマイは、後述する手動巻上機構40または自動巻上機構50によって香箱真311が回転されることで巻き上げられる。香箱歯車312は、巻き上げられたゼンマイが巻き戻されると、香箱真311を軸にして回転する。
【0024】
[二番車]
二番車32は、回転軸323と、二番カナ321と、二番歯車322とを備えている。回転軸323と二番カナ321とは一体で形成されている。回転軸323は、平面視において文字板12の平面中心に対して10時方向側に設けられ、地板61および輪列受64で軸支されている。二番カナ321は香箱歯車312に噛み合い、二番車32は香箱歯車312に連動して回転する。
時計1では、指針22(分針)が取り付けられる分車71を別途備えているため、二番車32の回転軸323は、文字板12の平面中心からずれた位置に設けることができる。
【0025】
[三番車]
三番車33は、回転軸333と、三番カナ331と、三番歯車332とを備えている。回転軸333と三番カナ331とは一体で形成されている。回転軸333は、平面視において文字板12の平面中心に対して10時方向側であり、かつ、二番車32の回転軸323よりも文字板12の平面中心側に設けられている。また、回転軸333は、地板61および輪列受64で軸支されている。三番カナ331は二番歯車322に噛み合い、三番車33は二番車32に連動して回転する。
【0026】
[四番車]
四番車34は、回転軸343と、四番カナ341と、四番歯車342とを備えている。回転軸343と四番カナ341とは一体で形成されている。回転軸343は、平面視において文字板12の平面中心に設けられ、地板61および輪列受64で軸支されている。四番カナ341は三番歯車332に噛み合い、四番車34は三番車33に連動して回転する。
【0027】
ここで、地板61の文字板12側には、平面視において文字板12の平面中心に回転軸(指針軸)712,722が設けられた分車71および筒車72(
図3参照)と、図示しない日の裏車とが設けられている。
分車71は、回転軸712、分歯車711、回転軸712と一体で形成された分カナ713を備える。分歯車711は三番カナ331に噛み合い、分車71は、三番車33に連動して回転する。日の裏車の歯車は分カナ713に噛み合い、日の裏車は分車71に連動して回転する。筒車72は、回転軸722、および、回転軸722と一体で形成された筒歯車721を備える。筒歯車721は日の裏車のカナに噛み合い、筒車72は日の裏車に連動して回転する。
なお、分車71の回転軸712には、分針22が取り付けられ、筒車72の回転軸722には、時針23が取り付けられる。
【0028】
[ガンギ車]
ガンギ車35は、回転軸351と、第1ガンギカナ352(
図3参照)と、第2ガンギカナ353(
図3参照)と、ガンギ歯車354とを備えている。回転軸351と第1ガンギカナ352とは一体で形成されている。回転軸351は、平面視において文字板12の平面中心に対して6時方向側に設けられ、地板61および輪列受64で軸支されている。第1ガンギカナ352は四番歯車342に噛み合い、ガンギ車35は四番車34に連動して回転する。
【0029】
[アンクルおよびテンプ]
図2、
図4に示すように、アンクル37は、ガンギ歯車354に噛み合う2つの爪石を備え、テンプ38の回転往復運動に応じて、ガンギ歯車354を送り、ガンギ車35の回転速度を制御する。これにより、香箱車31、二番車32、三番車33、四番車34、小秒車36の回転速度が制御される。
なお、時計1は、規制レバー81(
図2参照)を備え、時刻修正時に、当該規制レバー81がテンプ38のテンワに当接し、テンプ38の運動が規制される。規制レバー81は、巻真41に取り付けられた後述するつづみ車43に係合し、つづみ車43の巻真軸方向の移動に連動して回動する。規制レバー81は、巻真41がムーブメント2の中心方向に押し込まれた状態(0段位置)から2段引かれ、時刻修正可能な状態になったとき、テンワに当接する。
【0030】
[小秒車]
図2、
図4に示すように、小秒車36は、小秒針21が取り付けられる回転軸(指針軸)361と、小秒歯車362とを備えている。
回転軸361は、平面視において文字板12の平面中心に対して6時方向側であり、ガンギ車35の回転軸351に対して、文字板12の平面中心側とは反対側に設けられている。また、回転軸361の裏蓋側は、巻真受62で軸支され、回転軸361の文字板12側は、地板61で軸支され、先端が地板61の文字板12側に突出している。
小秒歯車362は第2ガンギカナ353に噛み合い、小秒車36はガンギ車35に連動して回転する。ここで、小秒車36は、四番車34と同じ速さで回転する。
【0031】
[手動巻上機構]
図2、
図5に示すように、手動巻上機構40は、巻真41、きち車42、つづみ車43、丸穴車44、角穴伝え車45,46,47、角穴車48を備えている。ここで、きち車42、つづみ車43、丸穴車44、角穴伝え車45〜47は、巻真41の回転に連動して角穴車48を回転させる手動巻上輪列を構成する。
巻真41は、地板61と、巻真受62および巻上受63との間に設けられている。きち車42、つづみ車43、丸穴車44は、地板61と巻上受63との間に設けられている。
つづみ車43には、回転中心を通る四角い穴が設けられ、この穴に巻真41が挿通している。これにより、つづみ車43は、巻真41と一体で回転する。
きち車42には、回転中心を通る円形の穴が設けられており、この穴に巻真41が回転可能に挿通している。巻真41が0段位置にある場合、きち車42は、つづみ車43と噛み合い、つづみ車43に連動して回転する。
丸穴車44は、きち車42に噛み合い、きち車42に連動して回転する。
【0032】
角穴伝え車45〜47および角穴車48は、巻上受63と輪列受64との間に設けられている。角穴伝え車45の文字板12側は、巻上受63で軸支されている。角穴伝え車46,47の裏蓋側は、輪列受64で軸支されている。
角穴伝え車45,46,47は、丸穴車44に連動して回転し、角穴車48を回転させる。角穴車48が回転すると、香箱真311が角穴車48と一体で回転し、ゼンマイが巻き上げられる。
このような手動巻上機構40によれば、ユーザーが巻真41の先端に取り付けられたリューズ14を回転させることで、ゼンマイを巻き上げることができる。
【0033】
[自動巻上機構]
図7は、ムーブメント2の要部の平面図である。
図2、
図6、
図7に示すように、自動巻上機構50は、回転錘51(
図6参照)、ベアリング52(
図6、
図7参照)、偏心車53、爪レバー54、伝え車55を備える。ここで、偏心車53、爪レバー54、伝え車55は、回転錘51に連動して角穴車48を回転させる自動巻上輪列を構成する。
ベアリング52は、平面視において、回転軸が文字板12の平面中心に設けられている。ベアリング52は、輪列受64の裏蓋側に設けられ、輪列受64で軸支されている。
回転錘51は、平面視において、ベアリング52の回動軸を中心とする半円形状を有している(
図8参照)。回転錘51は、輪列受64の裏蓋側に設けられ、ベアリング52の外輪521に取り付けられている。これにより、外輪521は、回転錘51と一体で回動する。
【0034】
偏心車53は、偏心軸部材532と、偏心軸部材532に取り付けられた偏心歯車531とを備えている。偏心軸部材532は、平面視において文字板12の平面中心に対して4時方向側に設けられている。偏心軸部材532は、巻上受63に設けられた孔を挿通し、文字板12側が巻真受62で軸支され、裏蓋側が輪列受64で軸支されている。
また、偏心軸部材532は、回転軸532Bから偏心した偏心軸532Aを備えている。この偏心軸532Aに後述する爪レバー54が回動自在に取り付けられる。
偏心歯車531は、軸方向において巻上受63と輪列受64との間に設けられている。偏心歯車531は、ベアリング52の外輪521の外周に設けられた回転錘カナ522と噛み合い、偏心車53は、回転錘51に連動して回動する。これにより、偏心軸532Aは、偏心車53の回転軸532Bを中心にして公転し、偏心軸532Aに取り付けられた爪レバー54は、伝え車55に近づく方向および遠ざかる方向に進退運動する。なお、爪レバー54の進退運動のストロークは、回転軸532Bの中心と偏心軸532Aの中心との距離の2倍の長さとなる。
【0035】
爪レバー54は、巻上受63と輪列受64との間に設けられ、偏心軸532Aに回動自在に取り付けられている。また、爪レバー54の文字板12側は、巻上受63で支持されている。
爪レバー54は、
図7に示すように、偏心軸532Aが挿通する孔を備えた基端部541と、基端部541から延出し、平面視において伝え車55の伝え歯車551を挟む引き爪レバー部542および押し爪レバー部543とを備える。ここで、平面視において、引き爪レバー部542と押し爪レバー部543との間隔は、基端部541から遠ざかるほど広くなっている。
【0036】
引き爪レバー部542は、基端部541から直線上に延出した延出部542Aと、延出部542Aに連続し、平面視において伝え歯車551の外周に沿って湾曲した湾曲部542Bと、湾曲部542Bの先端から伝え歯車551に向かって突出し、伝え歯車551に係合する引き爪542Cとを備えている。
押し爪レバー部543は、基端部541から直線上に延出した延出部543Aと、延出部543Aに連続し、平面視において伝え歯車551の外周に沿って湾曲した湾曲部543Bと、湾曲部543Bの先端から伝え歯車551に向かって突出し、伝え歯車551に係合する押し爪543Cとを備えている。
なお、爪レバー54の材料としては、炭素工具鋼(例えば、SK−5,SK−4)などを例示できる。
【0037】
伝え車55は、
図2、
図6、
図7に示すように、回転軸553と、伝え歯車551と、伝えカナ552とを備えている。回転軸553と伝えカナ552とは一体で形成されている。
回転軸553は、平面視において文字板12の平面中心に対して2時方向側に設けられ、巻上受63および輪列受64で軸支されている。
伝え歯車551には、爪レバー54の引き爪542Cおよび押し爪543Cが係合し、伝え車55は、爪レバー54の進退運動に連動して一方向に回転する。そして、角穴車48は、伝え車55に連動して回転する。角穴車48が回転すると、香箱真311が角穴車48と一体で回転し、ゼンマイが巻き上げられる。
このような自動巻上機構50によれば、例えば、ユーザーが腕に時計1を装着した状態で腕を振り、回転錘51を回動させることで、ゼンマイを巻き上げることができる。
【0038】
[輪列受の貫通孔の構成]
輪列受64は、
図2に示すように、平面視において自動巻上輪列と重なり、
図2、
図7に示すように、爪レバー54に対応した位置に、平面視で円形形状を有する2つの貫通孔641(第1貫通孔)および貫通孔642(第2貫通孔)を備えている。貫通孔641,642には、詳しくは後述するが、爪レバー54と伝え車55との係合を解除するための操作ピンが挿通される。すなわち、貫通孔641,642は、前記係合を解除するための解除部に相当する。
【0039】
図7は、爪レバー54が進退運動における可動範囲において最も伝え車55に近づいた位置(接近位置)にある状態を示している。すなわち、偏心車53の偏心軸532Aと、伝え車55の回転軸553との距離D1が最も短くなる状態を示している。この状態のときに、貫通孔641,642に操作ピンが挿通される。
爪レバー54が前記接近位置に位置しているとき、
図7に示すように、平面視において、貫通孔641の文字板12側の開口641Aは、一部が延出部542Aにおける湾曲部542B側の端部と重なり、残りの部分が当該端部の押し爪レバー部543側に位置している。また、平面視において、開口641Aの中心は、当該端部の押し爪レバー部543側に位置している。
ここで、開口641Aと重なっている延出部542Aの部分の面積は、操作ピンが当該部分に当たっても、引き爪レバー部542が撓むことで操作ピンの挿入方向と直交する方向に逃げることが可能な範囲で設定される。
【0040】
一方、貫通孔642の文字板12側の開口642Aは、一部が延出部543Aにおける湾曲部543B側の端部と重なり、残りの部分が当該端部の引き爪レバー部542側に位置している。また、平面視において、開口642Aの中心は、当該端部の引き爪レバー部542側に位置している。
ここで、開口642Aと重なっている延出部543Aの部分の面積は、操作ピンが当該部分に当たっても、押し爪レバー部543が撓むことで操作ピンの挿入方向と直交する方向に逃げることが可能な範囲で設定される。
【0041】
なお、開口641A,642Aの直径は、操作ピンの直径とほぼ同じ大きさである。また、貫通孔641の裏蓋側の開口641Bの直径は、開口641Aの直径よりも大きく、貫通孔642の裏蓋側の開口642Bの直径は、開口642Aの直径よりも大きい。
【0042】
[進退運動する爪レバーと貫通孔との位置関係]
本実施形態では、
図8に示すように、回転錘51が9時方向側に位置する場合、偏心軸532Aが伝え車55の回転軸553に最も近づく。このとき、
図7にも示したように、平面視において、開口641Aは、一部が引き爪レバー部542と重なり、開口642Aは、一部が押し爪レバー部543と重なっている。
次に、
図9に示すように、回転錘51が裏蓋側から見て時計回りに90度回転し、6時方向側に移動すると、偏心軸532Aは、偏心車53の回転軸532Bを中心にして、反時計回りに90度回転する。これにより、爪レバー54は、伝え車55から遠ざかる。このとき、平面視において、開口641Aは、引き爪レバー部542と重なっておらず、開口642Aは、一部が押し爪レバー部543と重なっている。
【0043】
次に、
図10に示すように、回転錘51が時計回りにさらに90度回転し、3時方向側に移動すると、偏心軸532Aは、偏心車53の回転軸532Bを中心にして、さらに反時計回りに90度回転する。この場合、偏心軸532Aが伝え車55の回転軸553から最も遠ざかる。このとき、平面視において、開口641Aは、引き爪レバー部542と重なっておらず、開口642Aは、押し爪レバー部543と重なっていない。
次に、
図11に示すように、回転錘51が時計回りにさらに90度回転し、12時方向側に移動すると、偏心軸532Aは、偏心車53の回転軸532Bを中心にして、さらに反時計回りに90度回転する。これにより、爪レバー54は、伝え車55に近づく。このとき、平面視において、開口641Aは、一部が引き爪レバー部542と重なり、開口642Aは、押し爪レバー部543と重なっていない。
そして、回転錘51が時計回りにさらに90度回転し、9時方向側に移動すると、
図8に示した状態に戻る。
【0044】
すなわち、引き爪レバー部542と押し爪レバー部543との間隔は、伝え車55に近づくほど広くなるため、爪レバー54が前記接近位置以外に位置する場合(
図9〜
図11に示す状態の場合)、平面視において、引き爪レバー部542の開口641Aと重なる面積、および、押し爪レバー部543の開口642Aと重なる面積が、爪レバー54が前記接近位置に位置する場合と比べて大きくなることはない。
このため、爪レバー54が前記接近位置以外に位置する場合に、貫通孔641,642に操作ピンを挿入したとしても、操作ピンに押されて爪レバー54が変形することを抑制できる。すなわち、操作ピンが爪レバー54に当たらないようにしたり、操作ピンが爪レバーに当たっても、爪レバー54が撓んで逃げるように動ける。
【0045】
[爪レバーの係合解除方法]
ムーブメント2において、爪レバー54と伝え車55との係合を解除するには、まず、回転錘51を9時方向側に移動させ、
図7、
図8に示すように、貫通孔641,642を裏蓋側に露出させるとともに、爪レバー54を伝え車55に最も近い位置に配置させる。
次に、貫通孔641,642に対して、それぞれ、裏蓋側から先端が丸い操作ピン(操作部材)を挿入する。貫通孔641に操作ピンを挿入すると、操作ピンの先端が延出部542Aに当たる。そして、さらに操作ピンを挿入すると、延出部542Aは、操作ピンの先端を滑り、平面視において操作ピンに対して押し爪レバー部543側とは反対側に撓んで移動する。すなわち、伝え歯車551から離れる方向に移動する。これにより、引き爪542Cと伝え歯車551との係合が解除される。
貫通孔642に操作ピンを挿入すると、操作ピンの先端が延出部543Aに当たる。そして、さらに操作ピンを挿入すると、延出部543Aは、操作ピンの先端を滑り、平面視において操作ピンに対して引き爪レバー部542側とは反対側に撓んで移動する。すなわち、伝え歯車551から離れる方向に移動する。これにより、押し爪543Cと伝え歯車551との係合が解除される。
このようにして、爪レバー54と伝え歯車551との係合を解除できる。
【0046】
[ゼンマイの巻き解き方法]
ムーブメント2において、ゼンマイを巻き解く際は、まず、リューズ14を指で固定し、角穴車48の回転を規制する。
そして、角穴車48の回転を規制した状態で、上記爪レバーの係合解除方法によって、爪レバー54と伝え車55との係合を解除する。
そして、前記係合が解除された状態で、リューズ14を巻き上げ方向とは反対方向に回転させる。これにより、角穴車48が、巻き上げ方向とは反対方向に回転し、ゼンマイが所定位置まで巻き解かれる。
なお、リューズ14の操作に代えて、ドライバーで角穴ネジを固定したり、角穴ネジを回したりすることで、角穴車48の回転を規制したり、回転させたりしてもよい。
【0047】
[実施形態の作用効果]
時計1によれば、輪列受64を取り外すことなく、爪レバー54と伝え車55との係合を解除できる。このため、例えば、輪列受64を取り外し、自動巻上機構50を分解して前記係合を解除する場合と比べて、作業を簡略化できる。また、ムーブメント2をケースから取り出すことなく、前記係合を解除することも可能である。
また、貫通孔641,642に操作ピンを挿入するだけで、爪レバー54と伝え車55との係合を解除できるため、作業をより簡略化できる。
また、貫通孔641,642の裏蓋側の開口641B,642Bが、操作ピンの直径よりも大きいため、貫通孔641,642に操作ピンを挿入し易くできる。
【0048】
ゼンマイを所定位置まで巻き解く際に、輪列受64を取り外す必要がないため、コハゼなどの角穴車48の回転を規制する部品を設ける必要がない。すなわち、輪列受64を取り外した場合は、自動巻上機構50が分解され、角穴車48の回転は、自動巻上機構50によって規制されなくなる。このため、角穴車48が巻上方向とは反対方向に回転し、ゼンマイが完全に巻き解かれてしまう。これを規制するには、角穴車48が巻上方向とは反対方向に回転しないようにするコハゼなどの部品が必要となる。時計1によれば、ゼンマイを所定位置まで巻き解く際に、輪列受64を取り外す必要がないため、前記部品を設ける必要がない。このため、コストを低減でき、ムーブメント2の組み立て工程も簡略化できる。
【0049】
輪列受64に貫通孔641,642を形成するだけで解除部を設けることができるため、ムーブメント2を容易に製造できる。
爪レバー54が前記接近位置以外に位置する場合に、貫通孔641,642に操作ピンを挿入したとしても、操作ピンに押されて爪レバー54が変形することを抑制できる。
操作ピンによって、爪レバー54および伝え車55の係合を解除した状態で、巻真41を巻き上げ方向とは反対方向に回転させることで、ゼンマイを巻き解くことができるため、例えば、ゼンマイを巻き解くために、ドライバーで角穴ネジを回す必要などがない。
【0050】
平面視において、二番車32の回転軸323と四番車34の回転軸343とが重なっていないため、二番車32および四番車34の裏蓋側を、共通の輪列受64で軸支できる。また、平面視において、四番車34の回転軸343と偏心車53の回転軸532Bとが重なっていないため、四番車34および偏心車53の裏蓋側を、共通の輪列受64で軸支できる。これにより、時計1では、基本輪列および自動巻上輪列は、裏蓋側で、1つの受部材(輪列受64)によって軸支されている。
このため、基本輪列および自動巻上輪列の裏蓋側が、厚み方向に重なった複数の受部材によって軸支されている場合と比べて、ムーブメント2を薄型化し易い。また、部品の数を削減できるため、ムーブメント2を軽量化できたり、ムーブメント2のコストを低減できたりする。
また、基本輪列の裏蓋側が、複数の受部材で軸支されている場合と比べて、受部材の製造ばらつきの影響を受けにくくでき、時計の精度を向上できる。
【0051】
分針(指針22)が取り付けられる分車71は、地板61に対して文字板12側に設けられているため、四番車34および分車71を同軸上に設けても、四番車34の裏蓋側を輪列受64で軸支できる。これにより、時計1では、基本輪列および自動巻上輪列の裏蓋側を、共通の輪列受64で軸支し、かつ、分針の指針軸を四番車34の回転軸343と同軸上に設けることができる。
【0052】
手動巻上輪列を構成する角穴伝え車46,47の裏蓋側は、輪列受64で軸支されているため、輪列受64とは異なる受部材で軸支する場合と比べて、受部材の数を削減できる。
【0053】
[他の実施形態]
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【0054】
前記実施形態では、時計1は、指針22(分針)が取り付けられる分車71を備えているが、本発明はこれに限定されない。例えば、指針22の指針軸と四番車34の回転軸343とがずれている場合には、分車71をなくし、二番車32の回転軸323に指針22を取り付けてもよい。
【0055】
手動巻上輪列を構成する角穴伝え車46,47の裏蓋側は、輪列受64で軸支されているが、本発明はこれに限定されない。例えば、角穴伝え車46,47の裏蓋側は、輪列受64とは異なる受部材で軸支されていてもよい。
【0056】
前記実施形態では、時計1は小秒針21を備えているが、本発明はこれに限定されない。例えば、時計は、小秒針21の代わりに、四番車34の回転軸343に取り付けられた秒針を備えていてもよい。この場合、小秒車36、および、ガンギ車35の第2ガンギカナ353はなくてよい。