(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記連結通路の前記天井面は、前記第二R部に接続され、前記第二R部から前記外周ボール転動溝の溝底側に延びる直線部をさらに備える、請求項1−4の何れか1項に記載のボールねじ装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<1.第一実施形態>
(1−1.概要)
以下、本発明に係る第一実施形態の電動パワーステアリング装置について、図面に基づき説明する。
図1は、本発明に係るボールねじ装置が車両の電動パワーステアリング装置(ステアリング装置に相当)に適用された態様を例示する電動パワーステアリング装置の全体を示す図である。
【0013】
電動パワーステアリング装置は、操舵補助力によって操舵力を補助するステアリング装置である。なお、本発明のボールねじ装置は、電動パワーステアリング装置の他に、4輪操舵装置、後輪操舵装置、ステアバイワイヤ装置など、ボールねじ装置の適用が可能な様々な装置に適用できる。
【0014】
(1−2.ステアリング装置10の構成)
電動パワーステアリング装置10(以後、ステアリング装置10と称する)は、車両の転舵輪(図略)に連結される転舵シャフト20を転舵シャフト20の軸線方向と一致するA方向(
図1の左右方向)に往復移動させることにより、転舵輪の向きを変える装置である。
【0015】
図1に示すように、ステアリング装置10は、ハウジング11と、ステアリングホイール12と、ステアリングシャフト13と、トルク検出装置14と、電動モータM(以後、モータMと称す)と、前述の転舵シャフト20(ボールねじ軸に相当)と、操舵補助機構30と、ボールねじ装置40と、を備える。
【0016】
ハウジング11は、車両に固定される固定部材である。ハウジング11は、筒状に形成され、転舵シャフト20(ねじ軸)をA方向に相対移動可能に挿通する。ハウジング11は、第一ハウジング11aと、第一ハウジング11aのA方向一端側(
図1中、左側)に固定された第二ハウジング11bとを備える。
【0017】
ステアリングホイール12は、ステアリングシャフト13の端部に固定され、車室内において回転可能に支持される。ステアリングシャフト13は、運転者の操作によってステアリングホイール12に加えられるトルクを転舵シャフト20に伝達する。
【0018】
ステアリングシャフト13の転舵シャフト20側の端部には、ラックアンドピニオン機構を構成するピニオン13aが形成される。トルク検出装置14は、ステアリングシャフト13の捩れ量に基づいて、ステアリングシャフト13に加えられるトルクを検出する。
【0019】
転舵シャフト20は、A方向に延伸している。転舵シャフト20には、ラック22が形成される。ラック22は、ステアリングシャフト13のピニオン13aに噛合し、ピニオン13aとともにラックアンドピニオン機構を構成する。ラックアンドピニオン機構は、ステアリング装置10の用途等に基づいて、ステアリングシャフト13と転舵シャフト20との間で伝達可能な最大軸力が設定される。
【0020】
また、転舵シャフト20は、ラック22とは異なる位置にボールねじ部23が形成される。ボールねじ部23は、後述するボールナット21とともにボールねじ装置40を構成し、操舵補助機構30により操舵補助力を伝達される。転舵シャフト20の両端は、図略のタイロッドおよびナックルアーム等を介して左右の転舵輪(図略)に連結され、転舵シャフト20のA方向への軸動によって転舵輪が左右方向に操舵される。
【0021】
操舵補助機構30は、モータMを駆動源として転舵シャフト20に操舵補助力を付与する機構である。操舵補助機構30は、モータM、モータMを駆動する制御部ECU及び駆動力伝達機構32を備える。モータM、及びモータMを駆動するための制御部ECUは、ハウジング11の第一ハウジング11aに固定されるケース31に収容される。制御部ECUは、トルク検出装置14の出力信号に基づいて、操舵補助トルクを決定し、モータMの出力を制御する。
【0022】
図2に示すように、駆動力伝達機構32は、駆動プーリ36、従動プーリ34及び歯付きベルト35を備える。駆動プーリ36は、モータMの出力軸37に装着される。出力軸37は、転舵シャフト20の軸線(中心軸線)と平行に配置される。従動プーリ34は、ボールナット21の外周側にボールナット21と一体回転可能に配置される。従動プーリ34のA方向一端側(
図2において左側)は、第二ハウジング11bの内周面に図略のボールベアリングを介して回転可能に支持される。歯付きベルト35は、駆動プーリ36と従動プーリ34とに懸架される。駆動力伝達機構32は、駆動プーリ36と従動プーリ34との間で、モータMが発生させる回転駆動力を、歯付きベルト35を介して伝達する。
【0023】
(1−3.ボールねじ装置40の構成)
次に、ボールねじ装置40について説明する。
図2、
図3に示すように、ボールねじ装置40は、転舵シャフト20(ボールねじ軸)のボールねじ部23,ボールナット21,複数のデフレクタ43,複数の転動ボール44,リテーナ45、及び壁部材46を備える。
【0024】
ボールねじ部23は、ボールねじ部23の外周面23aに螺旋状に形成された外周ボール転動溝23a1を備える。ボールナット21は、円筒状に形成され、ボールねじ部23の径方向外側に配置される。ボールナット21の内周面21aは、螺旋状に形成された内周ボール転動溝21a1を備える。外周ボール転動溝23a1と内周ボール転動溝21a1との間で螺旋軌道47が形成される(
図3、及び
図4の模式図参照)。
【0025】
デフレクタ43は、ボールナット21の円周上に複数設けられ、外周ボール転動溝23a1間のねじ山52を跨ぐ連結通路43bを形成する。なお、ねじ山52については、後に詳述する。デフレクタ43は、複数巻きの螺旋軌道47のうち、例えば、略一巻きの螺旋軌道47a内において、転動ボール44を循環させる。なお、略一巻きの螺旋軌道47aは、一巻きでも良いし、一巻きに満たなくても良い。
【0026】
図4の模式図に示すように、一個のデフレクタ43は、連結通路43bの出入口43a,43aと、略一巻の螺旋軌道47a内の所定の二箇所と、を接続してひとつながりの循環路51を形成する。このとき、所定の二箇所の位置は任意に設定すればよい。そして、複数の転動ボール44が、循環路51内に収容される。
【0027】
図5に示すように、連結通路43bは、外周ボール転動溝23a1及び外周ボール転動溝23a1間に形成されるねじ山52と、デフレクタ43に形成され外周ボール転動溝23a1及びねじ山52と対向する天井面43cと、の間に形成される。なお、本発明に係る天井面43cの形状は、主に天井面43cと対向するねじ山52の形状に対応して形成されるが、詳細については、後に詳述する。なお、
図5は、何れか一つの連結通路43bを転舵シャフト20の周方向から見たときの投影形状の図である。
【0028】
螺旋軌道47aを転動する転動ボール44は、連結通路43bの一方の出入口43aにおいて、連結通路43b内に誘導された後、A方向で隣接する外周ボール転動溝23a1を区分するねじ山52を乗り越える。このとき、転動ボール44が、ねじ山52を乗り越える方向は、概ね、ボールナット21の円周方向である。
【0029】
このとき、転舵シャフト20(ボールねじ軸)の軸線方向(A方向)から見ると、転動ボール44が乗り越えるねじ山52の外周面の形状(投影形状)は、所定の曲率半径Raを有して形成されている。曲率半径Raの中心は、転舵シャフト20の中心軸線であり、曲率半径Raは、転舵シャフト20の外周面23aの曲率半径Raに一致する。その後、ねじ山52を乗り越えた後、転動ボール44は、ねじ山52の外周面から外周ボール転動溝23a1に移動し他方の出入口43aから螺旋軌道47aに排出され、再び螺旋軌道47aを転動する。このようにして、複数の転動ボール44は、ひとつながりの循環路51を無限循環し続ける。
【0030】
図3に示すように、壁部材46は、ボールナット21の端面21bに取付けられる。壁部材46は、ボールナット21の端面21bと隙間を有して対向する端面46aを備える。このとき、端面21bと端面46aとの間の隙間の大きさは、後述するリテーナ45の鍔部45cが挿入可能な大きさである。
【0031】
図3に示すように、リテーナ45は、薄肉円筒状の円筒部45aと、円筒部45aの一端(
図3においては左側)側の端面にボールナット21の端面21bと当接可能な鍔部45cと、を備える。円筒部45aは、径方向において、転舵シャフト20の外周面23aとボールナット21の内周面21aとの間に配置される。また、リテーナ45は、円筒部45aの円周上に、複数の転動ボール44を保持するための複数のリテーナ溝45dを備える。
【0032】
複数のリテーナ溝45dは、
図3に示すように、転舵シャフト20の軸線方向であるA方向に延在するよう長孔状で、且つ円筒部45aの円周上において等角度間隔(等ピッチ)で配置される。このとき、円筒部45aにおいて周方向で隣り合うリテーナ溝45dを周方向で隔離する隔離部45eは、その幅寸法が転動ボール44の直径寸法φBより十分に小さくなっている。これにより、リテーナ45の円筒部45aのリテーナ溝45d内にボールねじ装置40の負荷容量を満たすに十分な数の転動ボール44を配列できる。
【0033】
リテーナ溝45dは、転舵シャフト20の外周ボール転動溝23a1、及びボールナット21の内周ボール転動溝21a1とほぼ直角をなすように、転舵シャフト20の軸線(つまり、リテーナ45の軸線)に対して所定角度傾斜されている。換言すると、リテーナ溝45dは、外周ボール転動溝23a1、及び内周ボール転動溝21a1のリード角だけ傾斜され、各ボール転動溝21a1、23a1に対して直角に形成される。ただし、この態様には限らず、リテーナ溝45dは、転舵シャフト20の軸線と平行になるよう形成されてもよい。
【0034】
図6のリテーナ45の軸線に垂直な断面形状に示すように、リテーナ溝45dは、両側面が傾斜面で形成される。詳細には、両側面は、円筒部45aの径方向外方に向かうにつれて幅広となるようにそれぞれ所定角度θだけ傾斜した傾斜面45b、45fで形成される。すなわち、リテーナ溝45dの断面形状は、傾斜面45b、45fによってハの字形状となっている。
【0035】
また、
図7に示すように、リテーナ溝45dの溝幅は、傾斜面45b、45fによって、円筒部45aの内周では転動ボール44の直径寸法φBより小さく、円筒部45aの外周では転動ボール44の直径寸法φBより大きくなるよう形成されている。つまり、円筒部45aの内周の溝幅を溝幅WAとし、円筒部45aの外周の溝幅を溝幅WCとすると、WA<φB<WCの関係を有する。
【0036】
このように、リテーナ45は、リテーナ溝45dの傾斜面45b、45f(両側面)によって、リテーナ45の径方向外方への転動ボール44の移動を許容し、且つリテーナ45の径方向内方への転動ボール44の移動を規制する。その結果、
図7に示すように、下方に位置するリテーナ溝45dの傾斜面45b、45fが、転舵シャフト20(ボールねじ軸)とボールナット21との間を転動する転動ボール44に当接することにより、リテーナ45の径方向(
図7において下方向)移動が規制される。これにより、リテーナ45が転舵シャフト20の外周面23aもしくはボールナット21の内周面21aに接触するのを抑制する。従って、
図7に示すリテーナ45と転動ボール44との係り代β1も所定の値で保持される。なお、
図7は、転動ボール44が、外周ボール転動溝23a1内を転動する状態の図である。
【0037】
しかしながら、ここで、例えば、転動ボール44が連結通路43b内を通過するため、転舵シャフト20(ボールねじ軸)のねじ山52上、即ち、転舵シャフト20の外周面23a上を転動している場合について考える。この場合、
図8に示すように、径方向における転動ボール44とリテーナ45との係り代β2の大きさは、転動ボール44が外周ボール転動溝23a1内を転動する場合における係り代β1より小さくなる。
【0038】
従って、転動ボール44がねじ山52上を転動している場合に、転動ボール44とデフレクタ43の天井面43cとの間に、所定の隙間αを超える隙間が生じると、転動ボール44が、リテーナ45の円筒部45a(隔離部45e)の外周面上に乗り上げる虞がある。なお、このとき、所定の隙間αとは、転動ボール44がねじ山52の外周面とデフレクタ43の天井面43cとの間で径方向に移動可能な距離をいう。
【0039】
転動ボール44が、隔離部45eの外周面上に乗り上げると、転動ボール44が天井面43cと隔離部45eとの間に挟まれる。これにより、転動ボール44の良好な転動が阻害され、ボールねじ装置40にトルク変動をもたらす虞がある。
【0040】
そこで、本実施形態では、転動ボール44が、ねじ山52の外周面上を転動する際の、転動ボール44とデフレクタ43の天井面43cとの間の隙間の大きさが、所定の隙間αとなるよう連結通路43bの形状、特に、天井面43cの形状を設定する。なお、所定の隙間αは、前述したように、転動ボール44が良好に転動できるとともに、転動ボール44が径方向に移動してもリテーナ45の隔離部45eの外周面に乗り上げない隙間の大きさである。所定の隙間αの大きさは、事前の実験等により導出すればよい。
【0041】
(1−3−1.連結通路について)
デフレクタ43の連結通路43bについて説明する。前述したように、連結通路43bは、外周ボール転動溝23a1及び外周ボール転動溝23a1間のねじ山52と、デフレクタ43に形成され外周ボール転動溝23a1及びねじ山52と対向する天井面43cと、の間に形成される。
【0042】
図9は、連結通路43bを径方向視点から見た投影形状(投影図)である。径方向視点とは、
図3に示す連結通路43bを、転舵シャフト20(ボールねじ軸)の径方向に、中心軸線側から外周に向かう向きで見る視点である。径方向視点から見た場合、連結通路43bは、
図9に示すように略S字形状を呈している。
【0043】
連結通路43bは、S字の中央部に直線部43eを備え、直線部43eの両端には、屈曲部43f,43fを備える。なお、
図9における連結通路43bの中心線CL1は、径方向視点において転動ボール44が連結通路43b内を転動して移動したときの転動ボール44の中心点(中心)の移動軌跡と一致する。
【0044】
両端の屈曲部43f,43fは、転動ボール44が外周ボール転動溝23a1内から連結通路43b内にスムーズに流入するため、若しくは、転動ボール44が連結通路43bから排出され外周ボール転動溝23a1内にスムーズに合流するために、外周ボール転動溝23a1に沿った角度で形成される。
【0045】
径方向視点において、連結通路43bは、直線部43eの中心点Oを中心として、点対称形状で形成される。なお、中心点Oは、径方向視点において、転舵シャフト20(ボールねじ軸)の中心軸線と連結通路43bの中心線CL1との交点である。
【0046】
前述したように、
図5は、連結通路43bを、転舵シャフト20(ボールねじ軸)の周方向(
図3と同じ投影方向)から見たときのデフレクタ43の天井面43c、及び転舵シャフト20(ボールねじ軸)のねじ山52の投影形状である(以降、この方向からの視点を周方向視点と称す)。なお、
図5に示す投影形状は、
図9における連結通路43bの中心線CL1に沿った紙面奥行き方向への切断面に対する投影形状である。つまり、
図5に示す天井面43cの投影形状は、連結通路43bにおける最大外径を示す。
【0047】
周方向視点において、ねじ山52は、頂面53と、テーパ面54と、を備える(
図5参照)。本実施形態において、ねじ山52とは、外周ボール転動溝23a1間に形成される壁部55のうち、頂面53とテーパ面54とを備える先端の部位をいう。頂面53は、転舵シャフト20(ボールねじ軸)の外周面23aの一部によって形成される。従って、頂面53は、転舵シャフト20(ボールねじ軸)の中心軸線を中心として円筒面状に形成される。
【0048】
テーパ面54は、頂面53と外周ボール転動溝23a1とを接続する平面である。テーパ面54は、転舵シャフト20において螺旋状に延在するねじ山52の延在方向に沿って、ねじ山52の頂面53の両側に形成される。
【0049】
デフレクタ43側に設けられる天井面43cは、実際には、連結通路43bの中心線CL1の延在方向に沿って形成されている。しかし、本実施形態では、天井面43cの形状を、周方向視点における投影形状によって規定するものとする。
【0050】
天井面43cの形状の設定について
図10に基づき説明する。なお、この説明を行なうため、周方向視点だけでなく、上述した径方向視点に基づく図、及び軸方向視点に基づく図を加えて説明する。また、
図10では、各視点における各図では、連結通路43bにおける点対称の中心点Oを中心に、一方側の直線部43e、及び屈曲部43fのみ記載し説明する。
【0051】
上述したように、周方向視点は、
図10の右下に示すように、転舵シャフト20(ボールねじ軸)の中心軸線と転動ボール44の中心点とを含む平面に垂直な方向から連結通路43bを見る視点である。よって、転動ボール44の移動に応じてその方向は随時変動する。周方向視点からの図は、周方向視点から見たねじ山52の輪郭、及びねじ山52上を転動する転動ボール44の移動の様子を示す。
【0052】
まず、径方向視点に基づいて説明する。
図10に示す径方向視点において、中心点a−中心点fは、連結通路43b内を移動する転動ボール44の中心位置を示す。
中心点aは、径方向視点において、頂面53の中央、即ち、連結通路43bの中心点Oに一致する。そして、中心点aは、周方向視点における転動ボール44の位置を示す円C1に示すように、頂面53との接点である点V(=中心点O)における転動ボール44の外周面の接面FA1(
図11参照)が、周方向視点における頂面53と一致するときの転動ボール44の中心点である。
【0053】
中心点bは、転動ボール44が頂面53とテーパ面54との交線である第二交線CR2上の点Wと接した状態における転動ボール44の中心点の位置である。なお、このとき、径方向視点において、中心点bは、点Wと一致している。また、このとき、周方向視点から見ると、転動ボール44は、転動ボール44の位置を示す円C2に示すように、点Wにおける転動ボール44の外周面の接面FA2(
図11参照)が、周方向視点における頂面53と一致している。つまり、転動ボール44は、第二交線CR2上の点Wにおいて周方向視点における頂面53と接している。
【0054】
次に、中心点cは、転動ボール44が頂面53とテーパ面54との交線である第二交線CR2上に位置する点W1と接した状態で、且つ点W1を支点として所定角度だけ回転した状態における転動ボール44の中心点の位置である。回転した状態は、周方向視点における図に示す(回転後の転動ボール44の位置を示す円C3参照)。なお、このとき、点W1は、点Wに対して第二交線CR2上において第二交線CR2方向に若干、変位している。
【0055】
また、このとき、周方向視点から見ると、転動ボール44は、円C3に示すように、点W1における転動ボール44の外周面の接面FA3(
図11参照)が、周方向視点におけるテーパ面54と一致している。つまり、転動ボール44は、第二交線CR2上の点W1において、テーパ面54と接している。
【0056】
次に、中心点dは、転動ボール44がテーパ面54と外周ボール転動溝23a1との交線である第一交線CR1上に位置する点Xと接した状態における転動ボール44の中心点の位置である。なお、このときの転動ボール44は、テーパ面54に対し、周方向視点から見た円C3と同じ傾きを有したままテーパ面54上を移動している(移動後の転動ボール44の位置を示す円C4参照)。
【0057】
また、転動ボール44は、周方向視点から見た円C4に示すように、点Xにおける転動ボール44の外周面の接面FA4(
図11参照)が、周方向視点におけるテーパ面54と一致している。つまり、転動ボール44は、第一交線CR1上の点Xにおいて、テーパ面54と接している。
【0058】
次に、中心点eは、転動ボール44がテーパ面54と外周ボール転動溝23a1との交線である第一交線CR1上に位置する点X1と接した状態で、且つ点X1を支点として所定角度だけ回転した状態における転動ボール44の中心点の位置である。回転した状態は、周方向視点における図に示す(回転後の転動ボール44の位置を示す円C5参照)。なお、このとき、点X1は、点Xに対して第一交線CR1上において第一交線CR1方向に若干、変位している。
【0059】
また、このとき、周方向視点から見ると、転動ボール44は、円C5に示すように、点X1における転動ボール44の外周面の接面FA5(
図11参照)が、周方向視点における外周ボール転動溝23a1の点X1における接面と一致している。つまり、転動ボール44は、第二交線CR2上の点X1において、外周ボール転動溝23a1と接している。
【0060】
次に、中心点fは、転動ボール44が外周ボール転動溝23a1内に移動し、連結通路43bの出入口43aに到達した状態での転動ボール44の径方向視点における転動ボール44の中心点である。よって、中心点fの径方向位置は、PCD(Pitch Circle Diameter)に一致する。なお、PCDは、公知であるので、詳細な説明は省略する。
【0061】
(1−3−2.天井面の形状の設定)
次に、天井面43cの形状の設定について説明する。
図10の左上の軸方向視点の図に示すように、天井面43cは、軸方向視点において、第一R部56と、第二R部57と、直線部58と、を備える。本実施形態においては、第一R部56は、転動ボール44が、連結通路43bに沿って移動する、ねじ山52の頂面53におけるVとWとの間の範囲に対向する範囲に設定される。
【0062】
つまり、第一R部56は、径方向視点において、転動ボール44の中心点が中心点aから中心点bまで移動する範囲内において、軸方向視点における転動ボール44と天井面43cとの間に、一定の第一隙間α1(α)が設けられるように形成される。このとき、一定の第一隙間α1は、連結通路43b内において、転動ボール44が良好に転動できるとともに、転動ボール44が第一隙間α1内を径方向に移動しても、転動ボール44がリテーナ45の外周面上に乗り上げることがない寸法である。また、第一隙間α1は半径分の隙間とする。
【0063】
第一隙間α1は、事前に、設計検討及び実験結果等に基づき設定される。第一R部56は、転舵シャフト20(ボールねじ軸)の中心軸線を中心とする単一の第一曲率半径R1で形成される。また、本実施形態において、第一隙間α1は、転動ボール44が連結通路43bの天井面43cに沿って移動する場合の転動ボール44の中心と、転動ボール44が頂面53に沿って移動する場合の転動ボール44の中心と、の間の距離であると定義してもよい。
【0064】
このように、第一R部56の範囲、即ち第一R部56と第二R部57との境界は、転動ボール44が、点Wに接し、且つ転動ボール44の外周面の接面FA2が頂面53に一致する状態(周方向視点における円C2参照)において、転動ボール44の中心点bと点Wとをつなぐ線L1の延長線上で、且つ天井面43c上の点である点Bに位置するものとする(軸方向視点の図参照)。
【0065】
なお、上記において、第一R部56の第一曲率半径R1は、下記式(1)で表すことができる。
R1=Ra+φB+α1・・・(1)
Ra;ねじ山52の頂面53の曲率半径(mm)
φB;転動ボール44の直径(mm)
α1;第一隙間(mm)
【0066】
このように、第一隙間α1を設けたことにより、転動ボール44は、第一R部56と対向する範囲内において、ねじ山52の頂面53(外周面)上をスムーズに転動できる。また、上述したように、第一隙間α1は、転動ボール44が、天井面43cと頂面53との間を第一隙間α1の分だけ径方向に自在に移動しても、転動ボール44が、リテーナ45の外周面に乗りあげることがない寸法である。
【0067】
しかし、リテーナ45においては、リテーナ溝45dの傾斜面45b、45fの各溝幅WA,WC、所定角度θ、及び転動ボール44の直径寸法φB等が、それぞれ公差を有して製造される。このため、各寸法の組み合わせ次第では、円筒部45aの径方向位置が、径方向において設計計算上の中心位置に対し、径方向内方にばらつく場合がある。このため、これらのばらつきも全て考慮に入れた上で、転動ボール44とリテーナ45との間の係り代β2が0以下とならないよう、第一隙間α1が設定されることが好ましい。これにより、転動ボール44が、リテーナ45の円筒部45a(隔離部45e)の外周面上に乗り上げることを確実に防止できる。
【0068】
第二R部57は、第一R部56の第一曲率半径R1より小さな第二曲率半径R2で形成される(R1>R2)。第二R部57は、天井面43c上の点Bにおいて、第一R部56に内接(接線接続)するよう配置される。従って、第二R部57の中心は、点Bと転舵シャフト20(ボールねじ軸)の中心軸線とを結んだ線上にある。また、
図10に示すように、第二R部57は、第一R部56が形成される範囲より、外周ボール転動溝23a1の溝底側に形成される。
【0069】
そして、第二R部57から外周ボール転動溝23a1の溝底側に延びる直線部58と点Fとが接続される。点Fとは、上述した径方向視点における転動ボール44の中心点fと、このときの転動ボール44が外周ボール転動溝23a1内で接する点(図略)と、をつなぐ線(図略)の延長線上で、且つ天井面43c上の点である。点Fは、連結通路43bの出入口43aにおける最大外径点である。
【0070】
点Fにおける転舵シャフト20(ボールねじ軸)の中心軸線からの距離R3は、下記式(2)で表すことができる。
R3=(PCD/2)+(φB/2)+α2・・・(2)
PCD;ピッチ円直径(mm)
φB;転動ボール44の直径(mm)
α2;第二隙間(mm)
【0071】
つまり、転動ボール44が、外周ボール転動溝23a1に配置された状態で、転動ボール44と点Fとの間に第二隙間α2が確保されるように、点Fにおけるボールねじ中心からの距離(R3)が形成される。これにより、連結通路43bは滑らかに形成され、転動ボール44がスムーズに循環可能となる。
【0072】
(1−4.作用)
上記実施形態のボールねじ装置40において、径方向視点における中心点a−中心点fの間の各位置に対する、軸方向視点における転動ボール44と天井面43cとの間の隙間α及びリテーナ45と転動ボール44との係り代の計算データを
図12に示す。なお、
図12には、本発明との比較のため、従来技術の一例として、単一の曲率半径Rのみによって天井面を形成した場合における計算データ(破線参照)も合わせて記載する。ただし、従来技術を構成する各部品の形状及び寸法等は、天井面の形状以外、本実施形態と同じであるものとして計算する。
図12のグラフは、横軸が、連結通路43bにおける転動ボール44の位置を示し、縦軸が隙間α、及びリテーナ45と転動ボール44との係り代の大きさを示す。なお、
図12のグラフにおいては、係り代をβ1、β2で区別せず、係り代βとして表す。
【0073】
図12のグラフの破線に示すように、従来技術においては、中心点a−中心点bの範囲内では中心点aの位置において、隙間αが最も大きくなっている。また、中心点bを越えた位置で隙間αが最も小さくなっている。そして、これに伴い、中心点aにおいて、リテーナと転動ボールとの係り代が大幅に小さくなっている。このため、中心点aの位置近傍においては、転動ボールが隙間α分だけ径方向外方に移動し、リテーナの外周面に乗り上げる虞がある。
【0074】
しかしながら、本実施形態においては、従来技術において最も、リテーナ45と転動ボール44との係り代が小さくなる中心点a−中心点bの範囲において、一定の第一隙間α1が確保されている。また、これに伴い、リテーナ45と転動ボール44との間には、一定の第一隙間α1に応じた一定の係り代βが確保されている。このため、転動ボール44が第一隙間α1分だけ径方向外方に移動しても、リテーナ45と転動ボール44との間における係り代は所定値を超えて小さくならないので、転動ボール44がリテーナ45の外周面に乗り上げる虞はない。
【0075】
なお、中心点a−中心点bの範囲を超えた、中心点b−中心点fの範囲については、ともに、隙間αが移動とともに大きくなる。しかし、中心点b−中心点fにおいては、転動ボール44は、外周ボール転動溝23a1内に向かって移動していく。このため、リテーナ45と転動ボール44との間の係り代の大きさとしては、十分な大きさが確保でき、ともに転動ボール44がリテーナ45の外周面に乗り上げる虞はない。
【0076】
<2.その他>
(2−1.変形例1)
上記実施形態では、天井面43cにおける第一R部56と第二R部57との境界を点Bとした。しかし、この態様には、限らない。変形例1として、第一R部56と第二R部57との境界は、点Dよりねじ山52の頂面53と径方向で対向する側に位置するようにしてもよい(
図10参照)。つまり、第一R部56と第二R部57との境界を点Bと点Dの間の範囲に設けても良い。
【0077】
図10に示すように、このとき、点Dは、テーパ面54と外周ボール転動溝23a1との交線である第一交線CR1上に位置する点Xに接し、且つ転動ボール44の外周面の接面FA4がテーパ面54に一致する状態において、転動ボール44の中心点d(中心)と点Xとをつなぐ線の延長線上の点であって、天井面43c上における点である。なお、第一R部56と第二R部57との接続、及び第二R部57と点Fとの接続は上記実施形態と同様である。これによっても、相応の効果が得られる。
【0078】
(2−2.変形例2)
また、変形例2として、第一R部56と第二R部57との境界は、点Bと点Cとの間の範囲に設けてもよい。
図10に示すように、このとき、点Cは、頂面53とテーパ面54との交線である第二交線CR2上に位置する点W1と接し、且つ点W1における転動ボール44の外周面の接面FA3が、周方向視点におけるテーパ面54と一致している状態において、転動ボール44の中心点cと点W1とをつなぐ線の延長線上の点であって、天井面43c上における点である。なお、第一R部56と第二R部57との接続、及び第二R部57と点Fとの接続は上記実施形態と同様である。これによっても、相応の効果が得られる。
【0079】
(2−3.変形例3)
また、変形例3として、第二R部57と点Fとの間には、直線部58を有していなくても良い。つまり第二R部57を点Fに直接接続してもよい(図略)。これにより、第二R部57と点Fとの間に若干の段差が生じる場合はあるが、相応の効果は得られる。
【0080】
(2−4.変形例4)
また、変形例4として、ねじ山52は、テーパ面54を備えていなくても良い。これによっても、同様の効果が得られる。
【0081】
<3.実施形態による効果>
上記実施形態によれば、ボールねじ装置40は、外周面23aに外周ボール転動溝23a1を螺旋状に形成したボールねじ軸20(転舵シャフト)と、内周面に内周ボール転動溝21a1を螺旋状に形成し、外周ボール転動溝23a1と内周ボール転動溝21a1との間で螺旋軌道47を形成するボールナット21と、ボールナット21に設けられ、外周ボール転動溝23a1間のねじ山52を跨ぐ連結通路43bを形成するデフレクタ43と、略一巻きの螺旋軌道47aと連結通路43bとにより形成される循環路51内に整列して収容される複数の転動ボール44と、ボールねじ軸20(転舵シャフト)とボールナット21との間に配置されると共に、転動ボール44を保持するリテーナ溝45dを有するリテーナ45と、を備える。
【0082】
連結通路43bは、外周ボール転動溝23a1、及び外周ボール転動溝23a1間のねじ山52と、デフレクタ43に形成され外周ボール転動溝23a1及びねじ山52と対向する天井面43cと、の間に形成され、ねじ山52の頂面53は、ボールねじ軸20の中心軸線を中心とする円筒面状に形成され、連結通路43bの天井面43cは、ボールねじ軸20の軸線方向から見たときの天井面43cの投影形状が、少なくとも、転動ボール44がねじ山52の頂面53を転動可能な範囲内において、転動ボール44と天井面43cとの間に一定の第一隙間α1が設けられるように、ボールねじ軸20の中心軸線を中心とする単一の第一曲率半径R1で形成される第一R部56と、天井面43cの投影形状が、第一R部56の範囲より外周ボール転動溝23a1の溝底側において、第一曲率半径R1より小さな第二曲率半径R2で形成される第二R部と、を備える。
【0083】
これにより、少なくとも、転動ボール44が、リテーナ45の外周面に最も乗り上げ易いとされる、ねじ山52の頂面を転動する範囲内において、転動ボール44と天井面43cとの間が、一定の第一隙間α1を確保するよう天井面43cの第一R部56が形成されるので、転動ボール44が、リテーナ45の外周面に乗り上げることを確実に防止できる。
【0084】
また、上記変形例1によれば、ねじ山52は、ねじ山52の頂面53と外周ボール転動溝23a1とを接続するテーパ面54を備え、テーパ面54と外周ボール転動溝23a1との交線である第一交線CR1上に位置する点を点Xとし、転動ボール44が点Xに接し且つ転動ボール44の外周面の接面がテーパ面54に一致する状態において、転動ボール44の中心と点Xとをつなぐ線の延長線上の点であって、天井面43c上における点を点Dとし、第一R部56と第二R部57との境界は、点Dよりねじ山52の頂面53と径方向で対向する側に位置する。これにより、連結通路43bにおいて、より広い範囲で転動ボール44のリテーナ45の外周面への乗り上げが防止される。
【0085】
また、上記実施形態によれば、テーパ面54と頂面53との交線である第二交線CR2上に位置する点を点Wとし、転動ボール44が点Wに接し且つ転動ボール44の外周面の接面が頂面53に一致する状態において、転動ボール44の中心と点Wとをつなぐ線の延長線上の点であって、天井面43c上における点を点Bとし、境界は、点Bに位置する。これにより、転動ボール44のリテーナ45の外周面への乗り上げが防止される範囲が明確に設定される。
【0086】
また、上記実施形態によれば、第二R部57は、単一の第二曲率半径R2で形成される。これにより、加工が簡易となり、コスト低減に寄与する。ただし、第二R部57は、複数の曲率半径をつないで形成しても良い。これにより、コストは上昇するが、転動ボール44と天井面43cとの間の隙間をより精度よく制御できる。
【0087】
また、上記実施形態によれば、連結通路43bの天井面43cは、第二R部57に接続され、第二R部57から外周ボール転動溝23a1の溝底側に延びる直線部58をさらに備える。これにより、第二R部57と螺旋軌道47とをスムーズに接続することができる。
【0088】
また、上記実施形態によれば、ステアリング装置10が、上記実施形態に記載のボールねじ装置40を備える。これにより、転動ボール44が、リテーナ45の外周面に乗り上げることを確実に防止できる信頼性の高いボールねじ装置40を備える信頼性の高いステアリング装置10が得られる。
【0089】
また、上記実施形態では、操舵補助機構30は、転舵シャフト20のボールねじ軸と、回転軸が平行に配置されたモータMを駆動源として転舵シャフト20に操舵補助力を付与した。しかし、この態様には限らない。操舵補助機構は、従来技術(特許第5120040号公報)に示す、モータの回転軸が転舵シャフト20のボールねじ軸と同一位置に配置されるタイプのものでもよい。これによっても、同様の効果が期待できる。
【0090】
また、上記実施形態においては、ボールねじ装置40を、電動パワーステアリング装置10等に適用した例について述べたが、本発明は、例えば、工作機械等に用いられるボールねじ装置にも同様に適用できる。さらには、ボールねじ装置40は、他のどのようなボールねじ装置にも適用できる。