(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2族元素を含有する塩化物が、塩化カルシウム粉末、焼却飛灰、ばいじん及びクリンカダストからなる群より選択された少なくとも1種の物質を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のナトリウム含有ガラスからナトリウムを除去する方法。
【背景技術】
【0002】
ソーダ石灰ガラスやホウケイ酸ガラスなどのナトリウム含有ガラスは、板ガラス、ガラス瓶、ディスプレイや太陽電池パネルなどの様々な分野で利用されている。ナトリウム含有ガラスは二酸化ケイ素を主成分とすることから、使用済みのナトリウム含有ガラスを、セメントの珪石代替原料として再利用することが検討されている。但し、ナトリウム含有ガラスには、一般にアルカリ金属のナトリウムが酸化物(Na
2O)換算で10〜15質量%含まれており、ナトリウム含有ガラスをそのままセメントの原料として用いると、アルカリ骨材反応を誘発するおそれがある。このため、ナトリウム含有ガラスからナトリウムを除去するための技術が検討され、その成果は、例えば、下記の特許文献に開示されている。
【0003】
特許文献1には、塩素含有可燃物を燃焼させることによって発生させた塩素系ガスと、アルカリ金属含有物(ガラス、陶磁器)とを接触させて、アルカリ金属を塩化物に変化させて揮発させる方法が開示されている。
特許文献2には、酸性ガスと廃ガラスとを接触させて、廃ガラス中のアルカリ成分を塩に変化させて水洗して除去する方法が開示されている。この特許文献2には、酸性ガスとして、二酸化硫黄ガス、亜硫酸ガス、二酸化窒素ガス、臭化水素や塩化水素等のハロゲン化水素ガスが例示されている。
【0004】
特許文献3には、塩素含有廃棄物を加熱することによって生成させた塩素含有ガスにアルカリ金属化合物(廃ガラス)とカルシウム化合物を添加して、塩化アルカリ金属を含む生成物を生成させ、この生成物から塩化アルカリ金属を水洗によって除去する方法が開示されている。この特許文献3には、塩素含有ガスの塩素とカルシウム化合物とを反応させて塩化カルシウムを生成させ、この塩化カルシウムとガラス粉末中のNa
2Oとを反応させて、塩化ナトリウムを生成させることが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜3に記載されているナトリウム含有ガラスからナトリウムを除去する方法は、塩素を含む酸性ガスを利用しているため、設備への負荷が非常に大きいという問題がある。また、塩素源として、塩素含有廃棄物を加熱することによって生成させたガスを用いると、ガラス中のナトリウムとの反応に寄与する塩素量を調整するのが難しいという問題もある。塩素量が少ないと、ナトリウムの除去率が低下する。一方、塩素量が多くなりすぎると、ワダライト(Ca
6Al
5Si
2O
16Cl
3)などの難溶性塩化物が生成するおそれがある。塩素は、金属腐食を起こして、鉄筋の強度低下など、悪影響を与えるため、セメントの原料として用いるガラスは塩化物の混入量が少ない方が好ましい。
【0007】
さらに、特許文献1、2に記載されているガス(気体)とガラス(固体)との接触による気固反応によって塩素とナトリウムとを反応させる方法では、ガスとガラスの接触時間を十分に長く設定しなければならなく、処理に時間を要するといった問題があった。また、ガスの温度が600℃を上回るとガラス表面が次第に溶融してしまい、ガラスのナトリウム除去率が低下するという問題があった。加えて、塩素を含むガスは酸性で腐食性が高いため、反応装置や配管の材質が劣化しやすく、排出ガスの処理が煩雑になる問題もあった。
【0008】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、難溶性塩化物の生成を抑えつつ、比較的短時間でナトリウム含有ガラスからナトリウムを効率よく除去することができる方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明のナトリウム含有ガラスからナトリウムを除去する方法は、
ナトリウム含有ガラスと、第2族元素を含有する塩化物とを混合して、前記ナトリウム含有ガラス中のナトリウムに対して前記第2族元素を含有する塩化物中の塩素をモル比で1以上4以下の割合で含み、かつ前記ナトリウム含有ガラス中のナトリウムに対して前記第2族元素を含有する塩化物中の第2族元素をモル比で0.5以上の割合で含む混合物を得る混合工程と、前記混合物を400℃以上900℃以下の温度で加熱する加熱工程と、前記加熱工程で得られた加熱混合物を水洗する水洗工程とを備えることを特徴としている。ここで、第2族元素は、周期表の第2族に属する典型元素を意味する。第2族元素としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよびバリウムが好ましく、セメント構成元素であるカルシウムやマグネシウムがより好ましく、セメント主成分であるカルシウムが特に好ましい。また、第2族元素を含有する塩化物は、第2族元素を2種以上含んでもよく、例えば、カルシウムとマグネシウムの両方を含んでもよい。
【0010】
このような構成とされた本発明のナトリウム含有ガラスからナトリウムを除去する方法によれば、加熱工程において、ナトリウム含有ガラスのナトリウムと第2族元素とが置換反応することによって、ナトリウム含有ガラスのナトリウムが外部に放出される。放出されたナトリウムは、塩素と反応して塩化ナトリウムとして固定化される。一方、ガラスの内部に侵入した第2族元素は、ガラス中のケイ酸と反応して安定なケイ酸塩鉱物を生成する。例えば、第2族元素がカルシウムの場合には、ウォラストナイト(CaSiO
3)の結晶が生成する。そして、加熱工程で生成した塩化ナトリウムと、未反応のまま残留した塩化カルシウムは、水洗工程にて溶解除去される。
【0011】
本発明のナトリウム含有ガラスからナトリウムを除去する方法では、第2族元素を含有する塩化物を用いるため、ナトリウム含有ガラス中のナトリウムを第2族元素によって置換する反応と、置換されたナトリウムを塩化物として固定化する反応とが同時に起こる。このため、ナトリウム含有ガラスの脱ナトリウム反応を効率よく進めることができる。また、ナトリウム含有ガラスに対して過剰に塩素が供給されることを抑制することができる。さらに、加熱工程において生成するケイ酸塩鉱物は、ナトリウム含有ガラスと比較して融点が高い。例えば、ソーダ石灰ガラスの融点は約720℃であるのに対して、第2族元素がカルシウムの場合に生成するウォラストナイト(CaSiO
3)の融点は約1540℃である。そのため、第2族元素を含有する塩化物が共存すると、比較的高温で処理すること可能となり、ガラスの脱ナトリウム反応を促進されるため、短時間でナトリウム含有ガラスからナトリウムを効率よく除去することができる。またさらに、塩素源として、塩素を含む酸性ガスを利用していないため、反応装置や配管の腐食が起こりにくく、加熱工程で生成する排出ガスの処理が簡便になる。
【0012】
ここで、本発明のナトリウム含有ガラスからナトリウムを除去する方法においては
、混合物はナトリウム含有ガラス中のナトリウムNaに対して第2族元素を含有する塩化物中の第2族元素Meをモル比(Me/Na比)で0.5以上の割合で含むので、加熱工程において、ナトリウム含有ガラスのナトリウムと第2族元素の置換反応が進みやすく、ナトリウム含有ガラスのナトリウムを外部により放出させることができる。このため、ナトリウムの除去率が高くなり、またガラスが溶融しにくくなる。さらに、混合物は、前記ナトリウム含有ガラス中のナトリウムNaに対して前記第2族元素を含有する塩化物中の塩素Clをモル比(Cl/Na比)で1以上含むので、放出されたナトリウムを効率よく塩化ナトリウムとして固定化することができる。また、Cl/Na比が4以下とされているので、難溶性塩化物の生成をより確実に抑制することができる。
【0013】
また、本発明のナトリウム含有ガラスからナトリウムを除去する方法においては、前記ナトリウム含有ガラスが、粒子径が150μm以下であることが好ましい。
この場合、ナトリウム含有ガラスは粒子径が150μm以下と微細であるので、ナトリウムを外部にさらに放出させやすくなり、ナトリウムの除去率が高くなる。
【0014】
さらに、本発明のナトリウム含有ガラスからナトリウムを除去する方法においては、前記第2族元素を含有する塩化物が、塩化カルシウム粉末、焼却飛灰、ばいじん及びクリンカダストからなる群より選択された少なくとも1種の物質を含むことが好ましい。
この場合、上記の物質は第2族元素と塩素をバランスよく含有するので、ナトリウムを外部にさらに放出させやすくなり、ナトリウムの除去率が高くなる。なお、廃棄物由来の焼却飛灰やばいじんあるいは副産物由来のクリンカダストには、カルシウム以外にもマグネシウムなどの第2族元素を含有するが、これらもナトリウム含有ガラス中のナトリウムの除去に寄与する。これらの物質を利用することによって、ナトリウム含有ガラスからナトリウムを除去するときの処理コストを低減することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、難溶性塩化物の生成を抑えつつ、比較的短時間でナトリウム含有ガラスからナトリウムを効率よく除去することができる方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態であるナトリウム含有ガラスからナトリウムを除去する方法について添付した
図1を参照して説明する。
本実施形態でナトリウムの除去の対象となるナトリウム含有ガラスは、例えば、家庭やガラス製品の製造工場により廃棄された使用済みガラス、使用済みのディスプレイや太陽電池パネルをリサイクルするときに回収される使用済みガラスである。ナトリウム含有ガラスの例としては、ソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸ガラスが挙げられる。
【0018】
本実施形態のナトリウム含有ガラスからナトリウムを除去する方法は、使用済みガラスを粉砕する粉砕工程S01、粉砕工程S01で得られたガラス粉末と第2族元素を含有する塩化物(第2族元素含有塩化物)とを混合する混合工程S02、混合工程S02で得られた混合物を加熱する加熱工程S03、加熱工程S03で加熱された加熱混合物を水洗する水洗工程S04を備えている。
【0019】
(粉砕工程S01)
粉砕工程S01では、使用済みガラスを粉砕してガラス粉末を得る。粉砕は乾式で行ってもよいし、湿式で行ってもよい。粉砕装置としては、一般的に無機鉱物の粉砕に使用される粉砕装置、例えば、ロールミル、ハンマーミル、ピンミル、ウイングミル、トルネードミル、ボールミル、ロッドミルまたは振動ミルなどを単独で、あるいは組合せて使用することができる。使用済みガラスが大きい場合には、粉砕する前に、ジョークラッシャー、ハンマークラッシャーのような衝撃式の破砕機で粗粉砕するとよい。
【0020】
粉砕によって得られたガラス粉末は、分級により粗大なガラス粒子を除去することが好ましい。分級は、粉体ふるい分けに使用されるふるい分け装置、例えば、円型振動ふるい、超音波振動ふるい、ジャイロシフター、バイブレーティングスクリーン、エアセパレータ、サイクロンなどを用いることができる。分級によって除外された粗大ガラス粒子は、再度、粉砕装置で目標粒度まで微粉砕することが好ましい。
【0021】
本実施形態では、粉砕工程S01で得られるガラス粉末は、粒子径が150μm以下とされている。ガラス粉末の粒子径が150μm以下と微細であると、後述の加熱工程S03において、ガラス粉末のナトリウムを外部に放出させやすくなるので、ナトリウムの除去率が高くなる。なお、本実施形態において、粒子径はJIS Z8801−1に規定された試験用ふるいを用いて測定した値である。粒子径が150μm以下のガラス粉末は、公称見開き150μmのふるいを通過したガラス粉末を意味する。
ナトリウムの除去率をより向上させるためには、粉砕工程S01で得られるガラス粉末の粒子径は100μm以下であることが好ましく、75μm以下であることがより好ましく、45μm以下であることが特に好ましい。なお、ガラス粉末の粒子形状は特に制限はなく、例えば、球状、楕円球状、角柱状、針状、鱗片状であってもよい。
【0022】
(混合工程S02)
混合工程S02では、粉砕工程S01で得られたガラス粉末と、別に用意した第2族元素含有塩化物とを混合して混合物を得る。混合は乾式で行ってもよいし、湿式で行ってもよい。混合装置としては、タンブラーミキサー、ドラムミキサーまたはリボンミキサーなどの一般的な微粉体の混合に利用される混合装置を用いることができる。
【0023】
第2族元素含有塩化物は、第2族元素と塩素を高濃度に含んでいるものであれば、第2族元素と塩素が化学的に結合している必要はない。但し、塩素は、後述の水洗工程S04で除去できるように、水溶性の
塩化物を形成していることが好ましい。第2族元素含有塩化物中の第2族元素の含有量は、10質量%以上40質量%以下の範囲にあることが好ましい。第2族元素含有塩化物中の塩素含有量は、10質量%以上70質量%以下の範囲にあることが好ましい。第2族元素を含有する塩化物中の第2族元素Meの含有量と塩素Clの含有量のモル比(Me/Cl比)は0.1以上7以下の範囲にあることが好ましい。
【0024】
本実施形態では、第2族元素含有塩化物として、カルシウムと塩素を高濃度に含む粉末、例えば塩化カルシウム粉を使用することができる。また、カルシウムと塩素を高濃度に含むものであれば、都市ゴミの焼却処理で発生する焼却飛灰や産業廃棄物の焼却処理で発生するばいじんなどの廃棄物、またはセメント工場で副生するクリンカダストなどの高塩素含有粉を広く使用することができる。これらの物質を単独あるいは所定の比率で調合した混合粉末を使用することにとよって、後述の加熱工程S03において、ガラス粉末のナトリウムを外部に放出させやすくなり、ナトリウムの除去率が高くなる。
焼却飛灰やばいじんは、都市ごみや産業廃棄物に含有されていた塩素と、排出ガス処理の中和剤として使用したカルシウムが高濃度に残存している。クリンカダストは、セメント製造用のロータリーキルンの塩素バイパスから外部に取り出された微粉末である。このクリンカダストには、セメント原料に含有されていた塩素が濃縮されており、またセメント主成分のカルシウムを含む。焼却飛灰やばいじんは廃棄物であり、クリンカダストはセメントの原料の一部であるので、これらを使用することによって処理コストを低減させることができる。
【0025】
第2族元素含有塩化物は、ガラス粉末との反応効率を上げるために、微粉末にして比表面積を大きくした方がよい。第2族元素含有塩化物の粒子径は5μm以上、500μm以下の範囲であることが望ましい。第2族元素含有塩化物の粒度が大きくなり過ぎると、第2族元素含有塩化物とガラス粉末との接触面積が小さくなり、ナトリウムの除去率が低下するおそれがある。一方、第2族元素含有塩化物の粒度が小さくなり過ぎると、第2族元素含有塩化物が凝集しやすくなり、ガラス粉末との均一な混合が困難となるおそれがある。また、第2族元素含有塩化物の微粉末が浮遊して排出ガスに移行してしまい、ロスするおそれがある。
【0026】
混合工程S02においては、先ず、ガラス粉末中のナトリウム量と第2族元素含有塩化物中の第2族元素量と塩素量とを測定することが好ましい。次いで、得られる混合物が、第2族元素含有塩化物中の塩素Clとガラス粉末中のナトリウムNaのモル比(Cl/Na比)と、第2族元素含有塩化物中の第2族元素Meとガラス粉末中のナトリウムNaのモル比(Me/Na比)が所定の割合となるように、ガラス粉末とカルシウム塩素含有物とを混合することが好ましい。
【0027】
混合物中の第2族元素は、後述の加熱工程S03において、ガラス粉末のナトリウムと置換反応して、ナトリウムを外部に放出させる作用がある。
Me/Na比が低くなりすぎると、ナトリウムを外部に放出させにくくなり、ナトリウムの除去率が低下するおそれがある。このため、本実施形態では、Me/Na比を0.5以上と設定している。第2族元素がカルシウムの場合には、カルシウムはセメントの原料として利用できるため、カルシウム量とナトリウム量のモル比(Ca/Na比)の上限は特に制限はないが、通常、Ca/Na比は2以下である。
【0028】
混合物中の塩素は、後述の加熱工程S03において、ガラス粉末から放出されたナトリウムを塩化ナトリウムとして固定化する作用がある。
Cl/Na比が低くなりすぎると、放出されたナトリウムが、再度ガラス粉末に侵入してしまい、ナトリウムの除去率が低下するおそれがある。一方、Cl/Na比が高くなりすぎると、加熱工程S03において生成する難溶性塩化物の量が多くなるおそれがある。このため、本実施形態では、Cl/Na比を1以上4以下と設定している。難溶性塩化物の生成を確実に抑えつつ、ナトリウムの除去率をより向上させるためには、Cl/Na比は2以上3以下であることが特に好ましい。
【0029】
(加熱工程S03)
加熱工程S03では、混合工程S02で得られた混合物を加熱する。加熱装置としては、電気炉、マッフル炉などのバッチ式の加熱装置、ロータリーキルンなどの連続式の加熱装置を用いることができる。
【0030】
加熱工程S03において混合物を加熱すると、ガラス粉末のナトリウムと第2族元素含有塩化物の第2族元素とが置換反応して、ケイ酸塩鉱物が生成する。このケイ酸塩鉱物が生成することによって、ガラス粉末の融点が高くなり、溶融しにくくなる。置換反応によって外部に放出されたナトリウムは、第2族元素含有塩化物の塩素と反応して、塩化ナトリウムとして固定化される。
【0031】
本実施形態において加熱温度は、400℃以上900℃以下の範囲とされている。加熱温度が低くなりすぎると、ナトリウムと第2族元素との置換反応が起こりにくくなり、ナトリウムの除去率が低下する。一方、加熱温度が高くなりすぎると、ガラス粉末が溶融して固結するおそれある。また、ガラスと塩素が反応し易くなり、ワダライト(Ca
6Al
5Si
2O
16Cl
3)などの難溶性塩化物が生成しやすくなるおそれがある。
難溶性塩化物の生成を抑えつつ、ナトリウムの除去率を向上させるためには、加熱温度は、500℃以上800℃以下の範囲が好ましく、700℃以上750℃以下の範囲が特に好ましい。
【0032】
加熱時間は、加熱装置の容量や混合物の組成などの条件によって変動するが、一般に15分以上120分以下の範囲、好ましくは20分以上60分以下の範囲にある。
【0033】
(水洗工程S04)
水洗工程S04では、加熱工程S03で得られた加熱混合物を水洗する。この水洗によって、加熱混合物中の塩化ナトリウムや残存した第2族元素含有塩化物などの可溶性塩類を溶解させて除去する。水洗の方法としては、加熱混合物を水に懸濁させた後に脱水ケーキとして回収する方法、加熱混合物に水をシャワーリングして回収する方法などを用いることができる。
【0034】
水洗工程S04で得られた洗浄物は、Na
2Oの含有量が、通常は、7質量%以下であり、好ましくは5質量%以下であり、特に好ましくは3質量%以下である。また、塩素の含有量は、通常は0.7質量%以下であり、好ましくは0.5質量%以下であり、特に好ましくは0.2質量%以下である。
【0035】
以上の本実施形態の方法によって、ナトリウムが除去された脱ナトリウムガラスは、ナトリウムおよび塩素の含有量が少ないことから、例えば、ポルトランドセメント、シリカセメント、アルミナセメントなどの珪石を含む各種セメントの原料として用いることができる。
【0036】
本実施形態のナトリウム含有ガラスからナトリウムを除去する方法によれば、塩素源として、第2族元素含有塩化物を用いるため、ナトリウム含有ガラス中のナトリウムを第2族元素によって置換する反応と、置換されたナトリウムを塩化物として固定化する反応とが同時に起こる。このため、ナトリウム含有ガラスの脱ナトリウム反応を効率よく進めることができる。また、ナトリウム含有ガラスに対して過剰に塩素が供給されることを抑制することができる。このため、難水溶性塩化物の生成を抑えることができる。さらに、加熱工程S03において生成するケイ酸塩鉱物は、ナトリウム含有ガラスと比較して融点が高いので、比較的高温で処理すること可能となり、短時間でナトリウム含有ガラスからナトリウムを効率よく除去することができる。またさらに、塩素源として、酸性ガスを利用していないため、反応装置や配管の腐食が起こりにくく、加熱工程S03で生成する排出ガスの処理が簡便になる。
【0037】
また、本実施形態においては、混合工程S02で得られる混合物は、ナトリウム含有ガラス中のナトリウムNaに対して第2族元素を含有する塩化物中の第2族元素Meをモル比(Me/Na比)で0.5以上の割合で含むので、加熱工程S03において、ナトリウム含有ガラスのナトリウムと第2族元素の置換反応が進みやすく、ナトリウム含有ガラスのナトリウムを外部により放出させることができる。このため、ナトリウムの除去率が高くなり、またガラスが溶融しにくくなる。さらに、混合物は、ナトリウム含有ガラス中のナトリウムNaに対して第2族元素含有塩化物中の塩素Clをモル比(Cl/Na比)で1以上含むので、放出されたナトリウムを効率よく塩化ナトリウムとして固定化することができる。また、Cl/Na比が4以下とされているので、難溶性塩化物の生成をより確実に抑制することができる。
【0038】
さらに、本実施形態においては、粉砕工程S01で得られるガラス粉末の粒子径が150μm以下と微細であるので、ナトリウムを外部にさらに放出させやすくなり、ナトリウムの除去率が高くなる。
【0039】
またさらに、本実施形態においては、第2族元素含有塩化物として用いる塩化カルシウム粉末、焼却飛灰、ばいじん及びクリンカダストなどの物質は、第2族元素と塩素をバランスよく含有するので、ナトリウムを外部にさらに放出させやすくなり、ナトリウムの除去率が高くなる。特に、廃棄物由来の焼却飛灰やばいじんあるいは副産物由来のクリンカダストを利用することによって、ナトリウム含有ガラスからナトリウムを除去するときの処理コストを低減することができる。
【0040】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、粉砕工程S01にてガラス粉末とした後、混合工程S02にてガラス粉末と脱ナトリウム剤とを混合しているが、これに限定されることはない。例えば、使用済みガラスと脱ナトリウム剤とを粉砕しながら混合してもよい。また、混合工程S02で得られる混合物は、Cl/Na比が1未満であってもよいし、4を超えていてもよい。さらに、ガラス粉末は粒子径が150μmを超える粒子を含有していてもよい。但し、粒子径が150μmを超える粒子の含有量は10質量%以下であることが好ましい。またさらに、脱ナトリウム剤として、塩化カルシウム粉末、焼却飛灰、産業廃棄物のばいじんおよびクリンカダスト以外のものを使用してもよい。
【実施例】
【0041】
以下に、本発明に係るナトリウム含有ガラスからナトリウムを除去する方法の作用効果について評価した評価試験の結果について説明する。
【0042】
[本発明例1]
ソーダ石灰ガラス(SiO
2:73.2質量%、CaO:8.0質量%、Al
2O
3:1.7質量%、Na
2O:12.9質量%、K
2O:0.4質量%、Cl:0.02質量%)を、ハンマークラッシャーと振動ミルとを用いて粉砕した。
得られたソーダ石灰ガラス粉砕物を、目開きが45μm、75μm、100μm、150μmの篩を用いて分級した。第2族元素含有塩化物(塩化カルシウム粉末、焼却飛灰、クリンカダスト)の粒子径は走査型電子顕微鏡により測定した。
【0043】
粒子径45−75μmのソーダ石灰ガラス粉末と、塩化カルシウム粉末(粒子径:10−500μm)とを、塩素とナトリウムのモル比(Cl/Na比)が1で、カルシウムとナトリウムのモル比(Me/Na比)が0.5となる割合で混合した。得られた混合物をアルミナボードに充填し、電気炉を用いて、昇温速度20℃/分で400℃(加熱温度)まで昇温し、次いで400℃で1時間加熱した。加熱後、室温まで放冷した。
【0044】
放冷後の混合物を、電気炉から取り出して、水洗した。水洗は、該加熱混合物10gと水100mLとを混合してスラリーとした後に、振とう機を用いて30分間振とうした。その後、スラリーを減圧ろ過して、ケーキを得て、得られたケーキを水100mLで洗浄した。
水洗によって得られた洗浄物(ケーキ)を、乾燥機を用いて105℃の温度で乾燥した。以上のようにしてナトリウムを除去した洗浄乾燥物を用いて、ナトリウム除去率と残留塩素含有量を下記の方法により測定した。その結果を、下記の表1に示す。
【0045】
(ナトリウム除去率の測定方法)
洗浄乾燥物を酸で溶解し、得られた溶液をろ過して試験溶液を調製した。調製した試験溶液中のNa量をICP−AES法にて測定し、Na
2O含有量に換算した。得られたNa
2O含有量から、下記の式よりナトリウム除去率を算出した。
ナトリウム除去率(質量%)=[1−{洗浄乾燥物のNa
2O含有量(g)/ソーダ石灰ガラスのNa
2O含有量(g)]×100
【0046】
(残留塩素含有量の測定方法)
JIS Z 7302−6に規定された方法で塩素含有量を測定した。950℃に加熱した石英製燃焼管中に空気を導入して洗浄乾燥物を燃焼させ、生じたガスを水に吸収させた。得られた溶液中の塩素量をイオンクロマトグラフにて測定し、洗浄乾燥物中に残留する塩素含有量を算出した。
【0047】
[本発明例2〜15、比較例1]
ソーダ石灰ガラス粉末の粒子径、混合物のCl/Na比とMe/Na比、加熱温度を、表1に示すように変えたこと以外は本発明例1と同様にして、ソーダ石灰ガラス粉末のナトリウムを除去し、得られた洗浄乾燥物のナトリウム除去率と残留塩素含有量を測定した。その結果を、表1に示す。
【0048】
[本発明例16]
焼却飛灰(粒子径:5−100μm、組成:SiO
2:4.2質量%、CaO:24.7質量%、Al
2O
3:1.7質量%、Na
2O:3.0質量%、K
2O:2.9質量%、Cl:18.1質量%)を用意した。
塩化カルシウム粉末の代わりに上記焼却飛灰を用い、ソーダ石灰ガラス粉末の粒子径、混合物のCl/Naモル比とMe/Naモル比、加熱温度を、表1に示すように変えたこと以外は本発明例1と同様にして、ソーダ石灰ガラス粉末のナトリウムを除去し、得られた洗浄乾燥物のナトリウム除去率と残留塩素含有量を測定した。その結果を、表1に示す。
【0049】
[本発明例17]
クリンカダスト(粒子径:5−100μm、組成:SiO
2:4.0質量%、CaO:24.9質量%、Al
2O
3:2.6質量%、Na
2O:2.7質量%、K
2O:25.5質量%、Cl:19.7質量%)を用意した。
塩化カルシウム粉末の代わりに上記クリンカダストを用い、ソーダ石灰ガラス粉末の粒子径、混合物のCl/Na比とMe/Na比、加熱温度を、表1に示すように変えたこと以外は本発明例1と同様にして、ソーダ石灰ガラス粉末のナトリウムを除去し、得られた洗浄乾燥物のナトリウム除去率と残留塩素含有量を測定した。その結果を、表1に示す。
【0050】
[本発明例18]
塩化カルシウムの代わりに塩化マグネシウム六水和物(粒子径:10−500μm)を用い、ソーダ石灰ガラス粉末の粒子径、混合物のCl/Na比とMe/Na比、加熱温度を、表1に示すように変えたこと以外は本発明例1と同様にして、ソーダ石灰ガラス粉末のナトリウムを除去し、得られた洗浄乾燥物のナトリウム除去率と残留塩素含有量を測定した。その結果を、表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
表1に示す結果から、本発明によれば、難水溶性塩化物の生成を抑えつつ、比較的短時間でナトリウム含有ガラスからナトリウムを効率よく除去することが可能となることが確認された。