【実施例】
【0047】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
以下に示す実施例6、実施例7及び実施例11は参考例である。
【0048】
<第1配向制御層形成用組成物の調製>
第1配向制御層形成用組成物の液合成フローは、典型的には以下のプロセスに従った。
まず、反応容器に酢酸ランタン1.5水和物(La源)及び/又はニオブペンタエトキシド(Nb源)と、チタニウムテトライソプロポキシド(Ti源)と、アセチルアセトン(安定化剤)とを入れて、窒素雰囲気中で還流した。次いでこの化合物に酢酸鉛3水和物(Pb源)とを添加するとともに、プロピレングリコール(溶媒)を添加し、窒素雰囲気中で還流し、減圧蒸留して副生成物を除去した後に、この溶液に更にプロピレングリコールを添加して濃度を調節し、更にこの溶液にn−ブタノール(溶媒)を添加することで、以下の表1〜表6に示す、所望の濃度に調整された、各金属原子比を有する第1配向制御層形成用組成物を調製した。なお、比較例2、11、12及び14では、La源及びNb源を用いなかった。
【0049】
<第2配向制御層形成用組成物及び膜厚調整層形成用組成物の調製>
これらの組成物の各液合成フローは、典型的には以下のプロセスに従った。
まず、反応容器にジルコニウムテトラn−ブトキシド(Zr源)と、Tiイソプロポキシド(Ti源)と、アセチルアセトン(安定化剤)とを入れて、窒素雰囲気中で還流した。次いでこの化合物に酢酸鉛3水和物(Pb源)とを添加するとともに、プロピレングリコール(溶媒)を添加し、窒素雰囲気下で還流し、減圧蒸留して副生成物を除去した後に、この溶液に更にプロピレングリコールを添加して濃度を調節し、更に、希釈アルコールを添加することで、以下の表1〜表6に示す所望の濃度に調整された、各金属原子比を有する第2配向制御層形成用組成物及び膜厚調整形成用組成物をそれぞれ調製した。
【0050】
実施例1〜7及び比較例1〜7は、配向制御層のみを形成した例であって、第1配向制御層形成用組成物中のLa及び/又はNbのドーピング量を変えたときの影響を確認するために実施された。この内容を以下の表1に示す。なお、表中、第1及び第2配向制御層形成用組成物は、「第1及び第2配向制御層用組成物」と略記している(以下、同じ。)。
【0051】
<実施例1>
基板として、表面にスパッタリング法にて(111)配向した100nmの膜厚でPt下部電極膜を形成した直径4インチのシリコン基板を用意した。この基板のPt下部電極膜上に、1質量%の第1配向制御層形成用組成物(三菱マテリアル社製、PLT E1液)を500μL滴下後、2500rpmで15秒間スピンコートを行うことにより、塗布した。ここで第1配向制御層形成用組成物は、組成物中のPb、La、Tiの金属の原子比がPb/La/Ti=109/6/100であった。第1配向制御層形成用組成物を塗布した後、300℃のホットプレートで5分間仮焼し、第1配向制御層前駆体を形成した。この塗布と仮焼の操作は1回行った。
【0052】
次いで、この第1配向制御層前駆体の上に、12質量%の第2配向制御層形成用組成物(三菱マテリアル社製、PZT E1液)を500μL滴下後、2500rpmで15秒間スピンコートを行うことにより、塗布した。ここで第2配向制御層形成用組成物は、組成物中のPb、Zr、Tiの金属の原子比がPb/Zr/Ti=115/52/48であった。第2配向制御層形成用組成物を塗布した後、300℃のホットプレートで5分間仮焼し、第2配向制御層前駆体を形成した。この塗布と仮焼の操作は1回行った。
【0053】
Pt下部電極膜上に第1及び第2配向制御層前駆体が形成された基板を、赤外線高速昇温炉(以下、RTAという。)で昇温速度10℃/秒で酸素雰囲気中700℃、1分間保持することにより、焼成を行って結晶化させ、第1及び第2配向制御層からなる配向制御層で構成されたPZT系強誘電体薄膜を得た。
【0054】
<実施例2〜7、比較例1〜7>
第1配向制御層形成用組成物中の金属組成比を表1に示すにように実施例1と異なる金属組成比にした以外、実施例1と同様にして、実施例2〜7、比較例2〜7のPZT系強誘電体薄膜を得た。比較例1は第1配向制御層を形成しないPZT系強誘電体薄膜の例である。また比較例2は第1配向制御層形成用組成物中にLaもNbも含まない例である。
【0055】
【表1】
【0056】
<実施例8〜10、比較例8>
実施例8〜10及び比較例8は、第1配向制御層の層厚を変化させたときの影響を確認するための例である。ここでは、実施例1の第1配向制御層形成用組成物の組成物濃度及び金属組成比を表2に示すように変更した以外、実施例1と同様にして、実施例8〜10及び比較例8のPZT系強誘電体薄膜を得た。
【0057】
【表2】
【0058】
<実施例11、比較例9、10>
実施例11及び比較例9、10は、第1配向制御層形成用組成物中にLaとNbが共ドープしたときの影響を確認するための例である。ここでは、実施例1の第1配向制御層形成用組成物の金属組成比を表3に示すように変更した以外、実施例1と同様にして、実施例11及び比較例9、10のPZT系強誘電体薄膜を得た。
【0059】
【表3】
【0060】
<実施例12〜13、比較例11、12>
実施例12〜13及び比較例11、12は、第1配向制御層形成用組成物を塗布した後の仮焼温度を変化させたときの影響を確認するための例である。比較例11、12は第1配向制御層形成用組成物中にLaもNbも含まないPZT系強誘電体薄膜の例である。ここでは、実施例1の第1配向制御層形成用組成物の金属組成比と仮焼温度を表4に示すように変更した以外、実施例1と同様にして、実施例12〜13及び比較例11、12のPZT系強誘電体薄膜を得た。
【0061】
【表4】
【0062】
<実施例14〜17、比較例13〜18>
実施例14〜17及び比較例13〜18は、第2配向制御層の層厚を変化させたときの影響を確認するための例である。比較例13は第1配向制御層を形成しないPZT系強誘電体薄膜の例である。また比較例14は第1配向制御層形成用組成物中にLaもNbも含まないPZT系強誘電体薄膜の例である。ここでは、実施例1の第1配向制御層形成用組成物の金属組成比、実施例1の第2配向制御層形成用組成物の組成物濃度及び実施例1のスピンコート条件を表5に示すように変更した。これ以外は、実施例1と同様にして、実施例14〜17及び比較例13〜18のPZT系強誘電体薄膜を得た。
【0063】
【表5】
【0064】
<実施例18〜22、比較例19、20>
実施例18〜22及び比較例20は、第1及び第2配向制御層からなる配向制御層に加えて、膜厚調整層を形成した例である。比較例19は第1配向制御層を形成せずに第2配向制御層上に膜厚調整層を形成した例である。また比較例20は第1配向制御層形成用組成物中にLaもNbも含まない例である。
【0065】
<実施例18>
実施例2で作製した第1及び第2配向制御層の上に、15質量%の膜厚調整層形成用組成物(三菱マテリアル社製、PZT E1液)を500μL滴下後、2500rpmで15秒間スピンコートを行うことにより、塗布した。ここで膜厚調整層形成用組成物は、組成物中のPb、Zr、Tiの金属の原子比がPb/Zr/Ti=110/52/48であった。膜厚調整層形成用組成物を塗布した後、300℃のホットプレートで5分間仮焼した。この塗布と仮焼の操作を4回繰り返した後、得られた基板をRTAで昇温速度10℃/秒で酸素雰囲気中700℃、1分間保持することにより焼成を行って結晶化させ、膜厚調整層を形成した。膜厚調整層形成用組成物による塗布、仮焼、焼成の操作を合計6回繰返して、実施例18のPZT系強誘電体薄膜を得た。
【0066】
<実施例19〜22、比較例19、20>
実施例14〜17、比較例13,14でそれぞれ作製した第2配向制御層の上に、実施例18と同じ組成物濃度と金属組成比と仮焼条件にして膜厚調整層を形成した。膜厚調整層の膜厚を変更するために、膜厚調整層形成用組成物のスピンコート条件、塗布と仮焼の操作回数、及び膜厚調整層形成用組成物による塗布、仮焼、焼成の操作回数を表6に示すように変更した。例えば、表6の実施例19における「4×12回」は、膜厚調整層形成用組成物の塗布と仮焼の操作回数が4回であって、膜厚調整層形成用組成物による塗布、仮焼、焼成の操作回数が12回であることを意味する。上記以外は、実施例18と同様にして、実施例19〜22及び比較例19、20のPZT系強誘電体薄膜を得た。
【0067】
【表6】
【0068】
<比較試験及び評価>
実施例1〜22及び比較例1〜20で得られた強誘電体薄膜について、以下の手法により、次の項目を評価した。その結果を表7及び表8にそれぞれ示す。
【0069】
(i) 各層の組成:蛍光X線分析装置(リガク社製 型式名:Primus III+)を用いた蛍光X線分析により、第1配向制御層と第2配向制御層と膜厚調整層の各層の組成を分析した。なお、表7及び表8には、この分析した層組成から算出した、Ti100モルに対するLa又はNbのモルの含有割合(モル%)を示す。
【0070】
(ii) 各層の層厚の測定と全体の膜厚の算出:各層の層厚は、強誘電体薄膜を分光エリプソメーター(J.A.Woollam社製:M-2000)により測定して、「第1配向制御層と第2配向制御層の合算の層厚」、「第2配向制御層の層厚」及び「膜厚調整層の層厚」をそれぞれ求めた。また「第1配向制御層の層厚」は、「第1配向制御層と第2配向制御層の合算の層厚」から「第2配向制御層の層厚」を減することにより算出した。表7及び表8では、各層の層厚とともに、各層の層厚を合計したPt電極上の全体の膜厚も示している。
【0071】
(iii) I(100):強誘電体薄膜をX線回折装置(パナリティカル社製、型式名:Empyrean)により測定し、得られたX線回折チャートにおけるPZT系強誘電体薄膜のペロブスカイトの(100)面の回折線のピーク強度をI(100)として求めた。なお、正方晶のPZTにおいては(100)面と(001)面のピークを区別することが難しいためこれらの区別は行わず(100)として表記した。
【0072】
(iv)(100)面における配向度:上記(iii)で用いたXRD装置を用いた集中法により得られた回折結果から、(100)面における配向度を以下の式により求めた。
(100)面配向度(%)=[I(100)/[I(100)+I(110)+I(111)]]×100
【0073】
(v) 圧電定数d
33(pm/V):実施例18〜22、比較例19、20で得られたPZT系強誘電体薄膜にスパッタリング法により円形のPt上部電極(膜厚150nm、直径3mm)を形成し、aix ACCT社Double Beam Laser Interferometerにより±25Vの電圧を印加したときの圧電定数d
33を測定した。
【0074】
(vi) ドーピング元素の確認:Pt下部電極近傍でのドーピング元素の存在を確認するために、実施例5の強誘電体薄膜を集束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)装置にて厚さ30nmの薄片状に加工し、走査透過電子顕微鏡(STEM:Scanning Transmission Electron Microscope)に備えられたEDS装置(EDS:Energy Dispersive X-ray Spectrometry)にてTEM−EDS評価を行った。
図2及び
図3に得られた電極界面活性剤近傍のTEM−EDS分析結果を示す。
図2(a)は強誘電体薄膜薄片の断面のTEM像を示し、
図2(b)はドーピング元素であるLaのマッピング結果を示す。また
図3はPt下部電極上の構成元素の線分析を示す。
図2及び
図3から明らかなように、Pt下部電極から5nm未満の範囲でドーピング元素のLaが存在し、成膜により大きく拡散しないことが確認できた。
【0075】
【表7】
【0076】
【表8】
【0077】
表7及び表8から明らかなように、第1配向制御層を形成しない比較例1及びLaもNbも第1配向制御層形成用組成物に含まない比較例2では、XRDのピーク強度が「1.7〜1.8×10
4」と低く、また(100)配向性も「95〜97」と低かった。また第1配向制御層形成用組成物中のLa又はNbの含有量が6モル%未満の比較例3〜6では、XRDのピーク強度が「1.7〜2.1×10
4」と低く、また(100)配向性も「93〜96」と低かった。更に第1配向制御層形成用組成物中のLaの含有量が20モル%を超えた比較例7では、液の保存安定性が下がり、常温で1か月保存したところ沈殿が発生した。これに対して、第1配向制御層形成用組成物中のLa又はNbの含有量が6〜20モル%である実施例1〜7では、XRDのピーク強度が「2.6〜4.9×10
4」と高くなり、また(100)配向性が「99」と向上し、結晶性が向上することが確認できた。
【0078】
第1配向制御層の層厚が20nmを超えた比較例8では、XRDのピーク強度が「1.4×10
4」と低く、また(100)配向性も「97」と低かった。これに対して第1配向制御層の層厚が9〜20nmの範囲にある実施例8〜10では、XRDのピーク強度が「2.7〜3.9×10
4」と高く、また(100)配向性も「99」と高かった。
【0079】
第1配向制御層形成用組成物にLa、Nbを共ドープした場合、少なくともLa、Nbのいずれか元素がTi100モルに対して6モル未満の割合で含有した比較例9、10では、XRDのピーク強度が「1.8〜1.9×10
4」と低く、また(100)配向性も「95〜97」と低かった。これに対してLaとNbをそれぞれ6モル含有する実施例11では、XRDのピーク強度が「3.8×10
4」と高く、また(100)配向性も「99」と高かった。このことから、La、Nbを共ドープした場合、少なくともLa、Nbのいずれか元素がTi100モルに対して6モル以上含有しなければ(100)配向性、結晶性とも劣ることが確認できた。
【0080】
仮焼温度を300℃から250℃及び325℃に変化させた場合、第1配向制御層形成用組成物にLa、Nbをドーピングしない比較例11、12では、XRDのピーク強度が「0.7〜1.2×10
4」と低く、また(100)配向性も「48〜67」と低かった。これに対してLaを8モル含有する実施例12、13では、XRDのピーク強度が「3.8×10
4」と高く、また(100)配向性も「99」と高かった。このことから、第1配向制御層形成用組成物にLaをドーピングすることにより(100)配向を得るための仮焼温度範囲が拡大されたことが確認できた。
【0081】
第2配向制御層の層厚を58nmから330nmに変化させた場合、第1配向制御層を形成しない比較例13及びLaもNbも第1配向制御層形成用組成物に含まない比較例14では、XRDのピーク強度が「0.2〜1.2×10
4」と低く、また(100)配向性も「14〜51」と低かった。また第1配向制御層形成用組成物にLaをドーピングしたものの第2配向制御層の層厚を58nmにした比較例17では、XRDのピーク強度が「1.5×10
4」と低く、また(100)配向性も「94」と低かった。また第1配向制御層形成用組成物にLaをドーピングしたものの第2配向制御層の層厚が150nmを超えた比較例15、16及び18では、XRDのピーク強度が「0.3〜0.7×10
4」と大幅に低く、また(100)配向性も「19〜32」と大幅に低かった。これに対して第1配向制御層形成用組成物にLaをドーピングし、かつ第2配向制御層の層厚が60nm〜150nmの範囲にある実施例14〜17では、XRDのピーク強度が「2.6〜4.6×10
4」と高く、また(100)配向性も「98〜99」と高かった。このことから、第2配向制御層の厚さが60nm〜150nmの下限値の60nmを下回ると、結晶性が劣化し、上限値の150nmを超えると、結晶性、(100)配向度とも大幅に劣化することが確認できた。
【0082】
配向制御層上に膜厚調整層を形成した場合、第1配向制御層を形成しない比較例19及びLaもNbも第1配向制御層形成用組成物に含まない比較例20では、XRDのピーク強度が「45.0〜43.0×10
5」と低く、また(100)配向性も「87〜91」と低く、圧電定数も「147〜156pm/V」で低かった。これに対して第1配向制御層形成用組成物にLaをドーピングし、かつ第2配向制御層上に膜厚調整層を形成した実施例18〜22では、XRDのピーク強度が「12.0〜180×10
4」と高く、また(100)配向性も「96〜98」と高く、圧電定数も「114〜182pm/V」で高かった。このことから、結晶性が良好で(100)配向性が高い配向制御層上に膜厚調整層を形成したほうが圧電特性が良好な膜が得られることが確認できた。