(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
1本の信号線が全二重通信に供される通信方式が採用されている車載通信システムで用いられて、前記信号線を少なくとも1本収容している通信ケーブル間でのデータの中継を行う中継装置において、
複数の前記通信ケーブルと接続されるための複数の通信部(12)と、
複数の前記通信部と相互接続可能に接続されてあって、複数の前記通信部間でのデータの中継処理を実施する主制御部(10)と、を備え、
複数の前記通信部のそれぞれは、
当該通信部に接続されている前記通信ケーブルである接続ケーブルが備える前記信号線へのアナログ信号の入出力を行う入出力部(121)と、
前記入出力部から出力されるアナログ信号をデジタル信号に変換して出力するアナログデジタル変換部(124)と、
他の前記通信部に入力された信号に基づいて、前記信号線に出力するためのデジタル信号を生成する生成器(122)と、
前記生成器から出力されるデジタル信号と、前記アナログデジタル変換部から出力されるデジタル信号とに基づいて適応フィルタで使用されるフィルタ係数を逐次算出し、当該フィルタ係数を用いて、前記アナログデジタル変換部の出力信号から前記生成器の出力信号に由来する成分を除去する処理を実施するエコーキャンセラ(125)と、を備え、
前記通信部又は前記主制御部は、前記エコーキャンセラが決定する前記フィルタ係数の時間変化に基づいて、当該エコーキャンセラを備える前記通信部と接続している前記信号線に断線が生じそうであるか否かを判定する予兆判定部(128)を備えることを特徴とする中継装置。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1の実施形態について図を用いて説明する。
図1は、第1実施形態における車載通信システム100の概略的な構成の一例を示す図である。車載通信システム100は、乗用車等の車両に搭載されており、車両内の通信網をローカルネットワークとして提供するシステムである。
【0020】
図1に示すように車載通信システム100は、複数の中継装置1と、複数のECU(Electronic Control Unit)2と、複数の通信ケーブル3とを備えている。
図1に示す例では、車載通信システム100は中継装置1として4つの中継装置1A〜1Dを備えている。4つの中継装置1A〜1Dは、リング型のネットワークトポロジを形成するように、複数の通信ケーブル3を用いて接続されている。各中継装置1には、他の中継装置1と接続するための通信ケーブル3に加えて、ECU2と接続されている通信ケーブル3も接続されている。
【0021】
なお、
図1では各中継装置1に3本の通信ケーブル3が接続されている態様を示しているが、中継装置1に接続される通信ケーブル3の本数は3本に限らない。4本以上の通信ケーブルが接続されていてもよい。中継装置1が接続可能な通信ケーブル3の本数(以降、接続可能数)は適宜設計されればよい。中継装置1には接続可能数に応じた数の差込口(いわゆるポート)が設けられている。なお、本実施形態の中継装置1の接続可能数は3に設定されているものとする。
【0022】
ECU2は、他のECU2に向けたデータを送信するとともに、他のECU2から送信されたデータを受信する装置である。各ECU2は、通信ケーブル3及び中継装置1を介して、他のECU2と相互にデータの送受信を行うことができる。中継装置1は、通信ケーブル3間でのデータの中継を行う装置である。
【0023】
車載通信システム100の物理層としては、例えばBroadR-Reach等、種々の方式を採用することができる。本実施形態では一例として、通信ケーブル3は、2本の信号線を組み合せてなる1組のツイストペアケーブルを用いて実現されているものとする。各ECU2は、ツイストペアケーブルを構成する2本の信号線のそれぞれにおいて送信と受信を同時に行うように(つまり全二重通信可能に)構成されている。すなわち、各ECU2は、1本の信号線で全二重通信可能に構成されている。それに伴い、中継装置1もまた、1本の信号線で全二重通信を実施するための構成を備えている。
【0024】
ECU2同士が1本の信号線を用いて全二重通信を実施する構成では、
図2に示すように、通信ケーブル3が備える1つの信号線31上に、一方のECU2(以降、第1ECU2X)が送信する信号Sxと、他方のECU2(以降、第2ECU2Y)が送信する信号Syが流れることになる。故に、第2ECU2Yは、第1ECU2Xが送信した信号Sxに、自分自身の送信信号Syが重畳した信号(つまりSx+Sy)を受信信号として取得することになる。また、受信信号には、自分自身の送信信号が伝送過程で反射されて返ってきた信号Sr1、Sr2も重畳し得る。なお、
図2では中継装置1の図示は省略している。
【0025】
そのため、各ECU2は、1本の信号線を用いて全二重通信を実施するための構成として、エコーキャンセラを備えている。エコーキャンセラは、受信信号から送信信号に由来する成分を除去するための構成である。中継装置1もまた、ECU2と同様に、1本の信号線を用いて全二重通信を実施するための構成として、エコーキャンセラ125を備えている。エコーキャンセラ125については別途後述する。なお、ECU2が備えるエコーキャンセラは、中継装置1が備えるエコーキャンセラ125と同様であるため、ECU2が備えるエコーキャンセラについての説明は省略する。
【0026】
なお、ここで示した車載通信システム100のネットワークトポロジは一例であってこれに限らない。車載通信システム100のネットワークトポロジは、メッシュ型や、スター型、バス型などであってもよい。車載通信システム100に接続するECU2の数や、車載通信システム100が備える中継装置1も適宜設計されればよい。また、通信ケーブル3は複数組(例えば2組や4組)のツイストペアケーブルを備えるケーブルであっても良い。
【0027】
<中継装置1の構成について>
ここでは
図3を用いて本実施形態における中継装置1の構成について説明する。
図3は、中継装置1の概略的な構成を示した図である。中継装置1は
図3に示すように、主制御部10と、複数の通信部12と、複数の連結部14と備えている。
【0028】
主制御部10は、中継装置1の作動を制御する構成であって、例えばコンピュータを用いて実現されている。すなわち、主制御部10は、CPU101や、RAM102、ROM103等を用いて実現されている。主制御部10は、或る通信ケーブル3から入力されたデータを所定の出力先に転送する処理(いわゆるルーティング)などを実施する。通信ケーブル3から入力されたデータの出力先は、例えばデータのヘッダ等に記載された宛先情報と、所定のルーティングテーブル等を用いて実施されれば良い。ルーティング自体は周知の方法によって実施されれば良いためここでは詳細な説明は省略する。
【0029】
通信部12は、通信ケーブル3と接続される構成である。中継装置1は、当該中継装置1に設定されている接続可能数に応じた数(ここでは3つ)の通信部12を備える。1つの通信部12には1本の通信ケーブル3が接続される。通信部12は、概略的には、自分自身と接続している通信ケーブル(以降、接続ケーブル)3から入力されたアナログ信号をデジタル信号に変換して主制御部10に出力するとともに、主制御部10から入力されたデジタル信号をアナログ信号に変換して接続ケーブル3に出力する構成である。この通信部12の詳細については別途後述する。
【0030】
連結部14は、通信部12と主制御部10とを相互通信可能に接続する構成である。連結部14は、各通信部12と主制御部10の間に設けられている。連結部14は、例えば、MII(Media Independent Interface)として周知の構成を用いて実現されれば良い。
【0031】
<通信部12の構成について>
次に、
図4を用いて通信部12の構成及び機能について説明する。
図4は、通信部12の概略的な構成の一例を示した図である。通信部12は
図4に示すように、入出力部121、生成器122、デジタルアナログ変換器(以降、DAC)123、アナログデジタル変換器(以降、ADC)124、エコーキャンセラ125、減算器126、調整器127、及び診断部128を備える。
【0032】
以降では便宜上、接続ケーブル3を介して反対側に位置する他の中継装置1又はECU2のことを相手装置と称する。相手装置は、接続ケーブル3を介して接続している他の中継装置1又はECU2に相当する。なお、
図4では、通信ケーブル3が備える1つの信号線31に対する構成を示している。他の信号線31についても同様の構成を備えているものとする。なお、1つの構成が、複数の信号線31で共用されていてもよい。以降では、通信ケーブル3が備える複数の信号線31のうち、説明の対象とする或る1つの信号線31を対象信号線31と記載する。
【0033】
入出力部121は、接続ケーブル3(より具体的には対象信号線31)へのアナログ信号の入出力を行うためのインターフェースとして機能する構成である。入出力部121は、例えばMDI(Media Dependent Interface)として周知の構成を用いて実現されれば良い。入出力部121は、DAC123及びADC124のそれぞれと接続されている。入出力部121は、DAC123から入力されたアナログ信号を対象信号線31に出力する。
【0034】
また、入出力部121は、対象信号線31から入力されているアナログ信号をADC124に出力する。入出力部121は、ADC124に出力する信号が通る経路上に、ECU2間の通信に使用される周波数(例えば10MHz)よりも十分に低い周波数の信号を遮断するハイパスフィルタを備えている。例えば入出力部121は、遮断周波数が100kHzに設定されているハイパスフィルタを備えているものとする。ハイパスフィルタは、対象信号線31に重畳している所定の遮断周波数以下の信号が、通信部12よりも内側の回路(例えばADC124)に伝達することを抑制する。
【0035】
生成器122は、主制御部10から入力されたデジタル信号に基づいて、対象信号線31に出力するためのデジタル信号(いわゆるシンボル)を生成する構成である。生成器122は、主制御部10から入力されたデジタル信号に基づいて生成したデジタル信号を、DAC123に出力する。生成器122の出力信号はエコーキャンセラ125によっても参照される。なお、主制御部10から入力されたデジタル信号とは、対象信号線31を収容している通信ケーブル3とは別の通信ケーブル3から中継装置1に入力されたアナログ信号をアナログデジタル変換してなるデジタル信号に相当する。生成器122は、1つ又は複数のICを用いて実現されれば良い。生成器122は、CPUによるソフトウェアの実行によって実現されていても良い。
【0036】
DAC123は、生成器122から入力されるデジタル信号をアナログ信号に変換して入出力部121に出力する構成である。ADC124は、入出力部121から入力されるアナログ信号をデジタル信号に変換して減算器126に出力する構成である。ADC124が請求項に記載のアナログデジタル変換部に相当する。DAC123やADC124は、1つ又は複数のICを用いて実現されれば良い。なお、DAC123やADC124は、CPUによるソフトウェアの実行によって実現されていても良い。
【0037】
エコーキャンセラ125は、ADC124が出力するアナログ信号(換言すれば受信信号)から、通信部12が対象信号線31に出力した送信信号に由来する成分(以降、送信信号成分)を除去するための構成である。送信信号成分とは、冒頭で述べた通り、送信信号そのものの他、伝送過程で反射されて返ってきた成分(つまりエコー成分)を含む。エコーキャンセラ125は、例えば
図5に示すように、適応フィルタを用いて実現されればよい。適応フィルタは、所定のタップ数を有するFIRフィルタ51と、係数制御部52と、を備える。
【0038】
FIRフィルタ51は、周知の有限インパルス応答フィルタである。FIRフィルタ51は、タップ数に応じた数の遅延器511と、遅延器511と同数の乗算器512とを備える。遅延器511は、入力信号を所定単位時間だけ遅延させて出力する構成である。複数の遅延器511はカスケード接続されている。タップ数は適宜設計されればよく、ここでは一例として12に設定されているものとする。
【0039】
各乗算器512は、入力信号を所定の比率で増幅/減衰させた信号を出力する構成である。複数の乗算器512は、それぞれ別の遅延器511と接続されている。各乗算器512には、接続している遅延器511の出力信号が入力される。すなわち、乗算器512は、遅延器511の出力信号を所定の比率で増幅/減衰させた信号を出力する。各乗算器512の入力信号の振幅を調整する比率(いわゆるフィルタ係数)は、後述する係数制御部52によって制御される。
【0040】
FIRフィルタ51は、各乗算器512の出力信号を全て加算した信号を減算器126に出力する。減算器126は、ADC124の出力信号から、エコーキャンセラ125(具体的にはFIRフィルタ51)の出力信号を減算した信号を出力する構成である。減算器126の出力信号は調整器127に入力されるとともに、係数制御部52によっても参照される。
【0041】
便宜上以降では、1つの遅延器511及び当該遅延器511に接続する乗算器512のセットをタップとも記載する。各タップには、最も上流側のタップを1番として、上流から下流に向かって順番にタップ番号が付与されている。タップ番号がn(nは自然数)のタップとは、最も上流側のタップから数えてn番目のタップを意味する。最も上流側のタップとは、最も生成器122に近いタップである。
【0042】
係数制御部52は、生成器122の出力信号と減算器126の出力信号を参照し、減算器126の出力信号から送信信号成分が除去されるように、FIRフィルタ51のフィルタ係数を制御する構成である。係数制御部52は、IC等を用いて実現されていても良いし、CPUが所定のソフトウェアを実行することによって実現されていても良い。
【0043】
係数制御部52は、減算器126の出力信号から送信信号成分が除去されるように、各タップのフィルタ係数を逐次(例えば数μ秒毎に)算出し、各乗算器512の増幅/減衰率を調整する。また、係数制御部52は、逐次算出されるタップ毎のフィルタ係数を示すデータ(以降、フィルタ係数データ)を、診断部128に逐次提供する。なお、タップ毎のフィルタ係数の算出方法自体は周知のアルゴリズムを適用できる。そのため、ここではフィルタ係数の算出方法についての詳細な説明は省略する。
【0044】
ところで、ADC124の出力信号に含まれる送信信号成分(特にエコー成分)は、対象信号線31の状態(具体的にはインピーダンス等の電気的特性)によって定まる。故に、係数制御部52が算出するタップ毎のフィルタ係数は、対象信号線31の状態を示す情報として機能する。対象信号線31の状態には、対象信号線31の相手装置との接続状態も含まれる。また、車両が走行している場合、車両の走行に伴う振動等の外乱に由来して、接続ケーブル3の電気的特性は動的に変化する。そのため、係数制御部52が算出するフィルタ係数もまた逐次変化する。
【0045】
なお、1本の信号線31は1本のツイストペアケーブルを構成する要素であるため、信号線31の状態は、当該信号線31を備えるツイストペアケーブルの状態に相当する。また、ツイストペアケーブルは接続ケーブル3の構成要素であるため、ツイストペアケーブルの状態は接続ケーブル3の状態に相当する。つまり、信号線31の状態は接続ケーブル3の状態に相当する。
【0046】
調整器127は、減算器126の出力信号の周波数や位相などを調整した信号を生成する構成(いわゆるイコライザ)である。調整器127の出力信号は、連結部14を介して主制御部10に提供される。
【0047】
診断部128は、エコーキャンセラ125(具体的には係数制御部52)から逐次提供されるフィルタ係数データに基づいて、対象信号線31に断線の予兆があるか否か、すなわち対象信号線31に断線が発生しそうであるか否かを判定する。ここでの断線とは、信号線31の切断やコネクタの抜け落ち等に起因して、管理者等による復旧作業がなされるまで相手装置と通信が実施できない状態が継続する事象を指すものとする。一時的な接触不良等によって相手装置と一時的に通信できなくなる事象(つまり、瞬間的な断線状態)については、瞬断と記載する。断線と瞬断とは、通信不能な状態から通信可能な状態へと自然に復帰するか否かで相違する。
【0048】
診断部128がフィルタ係数データに基づいて対象信号線31に断線の予兆があるか否かを判定する原理については、
図6、
図7を用いて説明する。
図6は、車両が走行している際に生じる振動によって断線が発生するまでのフィルタ係数の時間変化を試験した結果を示した図である。
図7は、対象信号線31が健全な状態である場合のフィルタ係数の時間変化を試験した結果を示した図である。
図6、
図7に示す図の横軸はタップ番号を表しており、縦軸は時間の経過を下から上向きに表している。
図6におけるTxは断線が発生した時点を表している。
【0049】
接続ケーブル3が断線していない場合には、車両の走行に伴う振動や外部からの電磁波等の外乱に由来して接続ケーブル3の電気的特性は動的に変化する。そのため、
図6に示すようにフィルタ係数は動的に変化する。また、断線及び瞬断が発生している場合には、伝送線路が無負荷となって、送信信号は全反射される。すなわち、断線及び瞬断が発生している場合、伝送線路の反射係数は一定の値(具体的には1)となる。また、エコーキャンセラ125でのフィルタ係数は、送信信号の反射度合い(換言すれば反射係数)に応じて定まるものである。それ故、断線及び瞬断が発生している場合、係数制御部52が算出するフィルタ係数は一定の値で保持される。
【0050】
そのため、フィルタ係数の値が一定時間変化していない場合、瞬断/断線が発生していることを意味する。具体的には、
図6では、時刻T11〜T12の間、時刻T13〜T14の間、時刻T15〜T16の間、時刻T17〜T18の間に瞬断が発生していることを表している。
【0051】
図6、
図7を比較すれば分かるように、車体の振動によって断線が発生する場合には、事前に瞬断が複数回生じた後に断線状態となる。また、試験において断線に至らなかったパターンにおいては、瞬断が発生する頻度は相対的に小さい。すなわち、瞬断の発生頻度、換言すれば、フィルタ係数の更新が一時的に停止する頻度は、接続ケーブル3が断線しそうであるか否かの判断指標として機能しうる。
【0052】
本実施形態の診断部128は、試験によって得られた上記の知見をもとに断線の予兆があるか否かを判定する構成であって、瞬断の発生頻度が所定の閾値以上となった場合に、断線の予兆があると判定する。また、瞬断の発生頻度が所定の閾値未満となった場合には断線の予兆はないと判定する。断線の予兆があると判定することは、断線の予兆(換言すれば兆候)を検出することに相当する。
【0053】
なお、瞬断が発生したか否かは、フィルタ係数が更新されているか否かに基づいて判定される。例えば診断部128は、フィルタ係数が所定時間同じ値のままである場合に瞬断が発生したと仮判定する。そして、瞬断が発生してから、所定の上限時間以内にフィルタ係数が更新された場合に、瞬断が発生したという判定を確定する。なお、所定の上限時間経過してもフィルタ係数が更新されなかった場合には、瞬断ではなく断線が発生したと判定する。診断部128が請求項に記載の予兆判定部に相当する。
【0054】
<接続状態診断処理>
次に
図8に示すフローチャートを用いて、診断部128が実施する接続状態診断処理について説明する。接続状態診断処理は、対象信号線31に断線の予兆があるか否かを判定する処理に相当する。
図8に示すフローチャートは、所定の診断周期で逐次実施されればよい。
【0055】
診断周期は、係数制御部52がフィルタ係数を算出する間隔(以降、更新間隔)よりも長い範囲において、フィルタ係数の更新間隔に応じて適宜設計されれば良い。例えば診断周期は、更新間隔の5〜10倍した値とすれば良い。もちろん、診断周期を短くすればより早期に予兆を検出することができるが、演算負荷が増加する。許容できる範囲において診断周期を長めの値に設定することで演算負荷を低減することができる。
【0056】
まずステップS1ではエコーキャンセラ125(より具体的には係数制御部52)から現在設定しているフィルタ係数データを取得してステップS2に移る。ステップS2では、ステップS1で取得したフィルタ係数データを図示しないメモリに保存してステップS3に移る。保存先とするメモリはRAM等の書き換え可能であって非遷移的な実体を有する記憶媒体であればよい。なお、逐次取得するフィルタ係数データは、例えば、最新のデータが先頭となるように時系列順にソートされて保存されれば良い。保存されてから一定時間経過したデータは順次破棄されていけば良い。
【0057】
ステップS3では、前回の接続状態診断処理で取得したフィルタ係数データと、今回新たに取得したフィルタ係数データとを比較して、フィルタ係数が変化しているか否か判定する。フィルタ係数が変化している場合にはステップS3が肯定判定されてステップS7に移る。一方、フィルタ係数が変化していない場合にはステップS3が否定判定されてステップS4に移る。
【0058】
ステップS4では、処理上のフラグである瞬断フラグをオンに設定してステップS5に移る。瞬断フラグは、フィルタ係数の更新が停止しているか否かを表すフラグである。フィルタ係数の更新が停止している場合に、瞬断フラグはオンに設定される。フィルタ係数の更新が停止していない場合には、瞬断フラグはオフに設定される。フィルタ係数の更新が停止している場合とは、前述の通り、瞬断/断線が発生している場合に相当する。なお、中継装置1が起動した直後では、瞬断フラグはオフに設定されるものとする。また、通信ケーブル3の抜き挿しが行われる度に瞬断フラグはオフにリセットされても良い。
【0059】
ステップS5では、瞬断フラグがオンになってからの経過時間が所定の上限時間以内であるか否かを判定する。上限時間は、対象信号線31に生じている事象が瞬断であるのか断線であるのかを識別するための時間である。上限時間は、瞬断として取り扱うことができる時間の上限値に相当する。瞬断として取り扱うことができる時間とは、相手装置との通信が出来ない状態が継続する時間として許容される時間に相当する。上限時間の具体的な値は、車載通信システム100に要求される通信ネットワークの信頼性等を鑑みて適宜設計されれば良い。
【0060】
瞬断フラグがオンになってからの経過時間が未だ上限時間以内である場合にはステップS5が肯定判定されて本フローを終了する。一方、瞬断フラグがオンになってからの経過時間が上限時間を超過している場合にはステップS5が否定判定されてステップS6に移る。ステップS6では対象信号線31は断線していると判定して本フローを終了する。なお、断線していると判断した場合にはその旨を主制御部10に通知する。
【0061】
ステップS7では、瞬断フラグがオンであるか否かを判定する。瞬断フラグがオンに設定されている場合には、ステップS7が肯定判定されてステップS8に移る。一方、瞬断フラグがオフに設定されている場合には、ステップS7が否定判定されて本フローを終了する。なお、ステップS7が肯定判定される場合とは、瞬断フラグにオンに設定されている状態において、フィルタ係数に変化が生じた場合である。つまり、ステップS7が肯定判定される場合とは、切断箇所が再接続(換言すれば瞬断から復帰)した場合を意味する。また、ステップS7が否定判定される場合とは、瞬断フラグがオフに設定されている状態において、フィルタ係数に変化が観測されている状態である。対象信号線31が健全であって、フィルタ係数が逐次更新されている場合が、ステップS7が否定判定されるパターンに該当する。
【0062】
ステップS8では瞬断履歴データを更新する。瞬断履歴データは、過去一定時間に発生した瞬断の履歴を示したデータである。例えば瞬断履歴データは、過去一定時間に発生した瞬断の発生時刻や継続時間等を示すデータとすればよい。ステップS8では、新たに今回観測された瞬断についてのデータを瞬断履歴データに追加してステップS9に移る。なお、瞬断履歴データは、フィルタ係数データと同様に、図示しない書き換え可能なメモリに保存されていれば良い。
【0063】
ステップS9では瞬断フラグをオフに設定してステップS10に移る。ステップS10では、瞬断履歴データを参照し、過去一定時間における瞬断の発生回数(換言すれば瞬断の発生頻度)が所定の前兆閾値以上となっているか否かを判定する。ここで用いる前兆閾値は、断線の予兆があると判定するための閾値であって、その具体的な値は適宜設計されればよい。診断部128は、発生頻度が前兆閾値以上となっている場合、ステップS11に移って断線の予兆があると判定し、本フローを終了する。一方、発生頻度が前兆閾値未満である場合には断線の予兆は無いと判定して本フローを終了する。
【0064】
なお、ここでは一例として過去一定時間における瞬断の発生回数から、断線の予兆が有るか否かを判定する態様を開示したが、これに限らない。過去一定時間において発生した瞬断の継続時間の合計値が所定の閾値以上となっている場合に、断線の予兆があると判定しても良い。また、過去一定時間における瞬断の発生回数と、過去一定時間において発生した瞬断の継続時間の合計値の両方を併用して、断線の予兆があるか否かを判定しても良い。
【0065】
<第1実施形態のまとめ>
以上の構成によれば、フィルタ係数が更新されているか否かに基づいて、瞬断の発生を検出する。そして、車体振動に起因して断線する直前においては瞬断の発生頻度が相対的に高くなるという知見に基づき、直近一定時間の瞬断の発生頻度に基づいて瞬断の予兆を検出する。
【0066】
このような構成によれば、対象信号線31の断線予知、すなわち対象信号線31が断線しそうであるか否かを判定できる。対象信号線31が断線しそうであることを検出できた場合には、断線に至るまでに通信経路を切り替えるなどの事前の処置を講ずることができる。故に上記構成によれば車載通信システム100の信頼性を向上させることができる。
【0067】
ところで、1つの信号線31を用いて全二重通信を実施するためには、受信信号から送信信号成分を除去するためにエコーキャンセラ125が必須である。つまり、以上の構成によれば、上記の車載通信システム100で使用される中継装置1として必要な構成を流用して断線の予兆を検出できるため、断線の予兆を検出するための回路を新たに通信部12に追加する必要がない。その結果、中継装置1の製造コストの増大を抑制しつつ、断線の予兆を検出するといった新たな機能を付加することができる。
【0068】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、以降で述べる種々の変形例も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0069】
なお、前述の実施形態で述べた部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。また、構成の一部のみに言及している場合、他の部分については先に説明した実施形態の構成を適用することができる。
【0070】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態に係る車載通信システム100について、図を用いて説明する。本実施形態と第1実施形態との主たる相違点は、瞬断を検出するための構成にある。以降では、第2実施形態における車載通信システム100のうち、主として上記相違点に係る構成及び作動について説明する。なお、前述の第1実施形態で述べた部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。また、構成の一部のみに言及している場合、他の部分については先に説明した実施形態の構成を適用することができる。
【0071】
本実施形態における通信部12は、
図9に示すように、1つの対象信号線31に対応する構成として、入出力部121、生成器122、DAC123、ADC124、エコーキャンセラ125、減算器126、調整器127、診断部128、低周波信号送信部129、及び、低周波信号受信部130を備える。
【0072】
低周波信号送信部129は、ECU2間のデータ通信に用いられる周波数(以降、通信周波数)よりも十分に低い周波数の信号(以降、低周波信号)を対象信号線31に印加する回路モジュールである。通信周波数よりも十分に低い周波数とは、入出力部121が備えるハイパスフィルタによって遮断される周波数(つまり遮断周波数以下の周波数)である。以降では便宜上、通信周波数よりも十分に低い周波数範囲のことを低周波帯と称する。ここでは100kHz未満の周波数帯が低周波帯に相当する。
【0073】
低周波信号送信部129は、入出力部121よりも接続ケーブル3側、すなわち接続点P1から入出力部121までの間に配置されている。接続点P1は、対象信号線31と通信部12が設けられている回路基板とが電気的に接続する点である。このような構成によれば、低周波信号送信部129が対象信号線31に印加する低周波信号は、入出力部121のハイパスフィルタによって除去されるため、ECU2間のデータ通信に影響を与えない。
【0074】
また、低周波信号送信部129は、低周波帯に属する複数の周波数の信号を出力可能に構成されている。具体的には、低周波数帯に属する第1周波数Lf1と第2周波数Lf2の、2つの周波数の信号を出力可能に構成されており、第1周波数Lf1、第2周波数Lf2のどちらか一方の周波数の信号を出力する。第1周波数Lf1、第2周波数Lf2の具体的な値は適宜設計されればよい。第1周波数Lf1、第2周波数Lf2のどちらの周波数の信号を出力するかは低周波信号受信部130との連携によって決定される。
【0075】
なお、本実施形態では一例として低周波信号送信部129は2つの周波数の信号を出力可能に構成されているものとするが、低周波信号送信部129が出力可能な周波数の数は2つに限らない。3以上の周波数の信号を出力可能に構成されていても良い。例えば4以上の周波数の信号を出力可能に構成されていることが好ましい。
【0076】
低周波信号受信部130は、対象信号線31に印加されている低周波帯の信号(つまり低周波信号)を受信する回路モジュールである。低周波信号受信部130もまた、低周波信号送信部129と同様に、入出力部121よりも接続ケーブル3側に配置されている。低周波信号受信部130は、対象信号線31に印加されている低周波信号の周波数を特定する機能を備える。すなわち、低周波信号受信部130は、対象信号線31に第1周波数Lf1の信号が流れているか否か、第2周波数Lf2の信号が流れているか否かをそれぞれ判定する。なお、受信信号の周波数を解析/特定する構成は、周知の構成を援用して実現されれば良い。例えば低周波信号受信部130は、第1周波数Lf1の信号を受信するための回路と、第2周波数Lf2の信号を受信するための回路と、それぞれ備えることによって各周波数の信号が流れているか否かを特定すれば良い。
【0077】
以上で述べた低周波信号送信部129及び低周波信号受信部130は、通信ケーブル3が通信部12に接続された場合に、例えば次のような手順によって、低周波信号送信部129が対象信号線31に出力する信号の周波数を決定する。
【0078】
まず低周波信号送信部129は低周波信号の出力をランダム時間だけ停止し、その間に、低周波信号受信部130が、対象信号線31に流れる低周波信号の周波数成分を解析する。なお、低周波信号送信部129による低周波信号の送信が停止している場合に観測される低周波帯の信号とは、相手装置が対象信号線31に送信している低周波信号に相当する。つまり、低周波信号受信部130は、低周波信号送信部129が低周波信号の出力を停止している間に受信する信号に基づいて、相手装置が送信している低周波信号の周波数(以降、相手使用周波数)を特定する。
【0079】
そして、低周波信号受信部130は、上記の処理によって特定した相手使用周波数を低周波信号送信部129に通知する。低周波信号送信部129は、低周波信号受信部130から通知される相手使用周波数とは異なる周波数の信号を出力する。例えば、
図10に示すように、相手装置が第2周波数Lf2の信号を出力している場合には、
図11に示すように第1周波数Lf1の信号を低周波信号として出力する。なお、低周波信号送信部129は低周波信号の送信をランダム時間だけ停止しても相手装置からの低周波信号を受信できず、相手使用周波数を特定できなかった場合には、低周波信号送信部129は、ランダム又は所定の規則に基づいて決定した周波数の信号を出力すれば良い。
【0080】
以上の構成によれば、相手装置が送信する低周波信号とは異なる周波数を用いた低周波信号を送信する。その結果、対象信号線31には2種類の低周波信号が重畳することとなる。なお、最終的に低周波信号送信部129が送信する低周波信号の周波数(以降、自機使用周波数)は、相手使用周波数と異なる周波数に設定されればよく、自機使用周波数の決定方法は上述した方法に限らない。例えば中継装置1が相手装置と相互に通信を実施して、低周波信号の送信に使用する周波数が重複しないように調停してもよい。
【0081】
また、通信ケーブル3の接続後に初めて採用する自機使用周波数は、ランダム/所定の規則で決定されてもよい。その場合、低周波信号の送信を開始してから所定時間経過しても低周波信号受信部130が1種類の周波数しか観測されなかった場合には、さらにランダム時間経過したタイミングで自機使用周波数を変更させる。低周波信号の送信を開始してから所定時間経過しても1種類の周波数しか観測されない場合には、相手使用周波数と自機使用周波数とが一致している可能性があるためである。
【0082】
なお、1種類の周波数(具体的には自機使用周波数)しか観測されない場合としては、対象信号線が断線してしまっている可能性もある。しかしながら、対象信号線31が断線していない場合には、自機使用周波数を順次変更することによって2種類の周波数が観測されることが期待できる。すなわち、自機使用周波数を順次変更していくことによって、対象信号線31が断線している場合と、使用周波数が重複している場合とを切り分けることができる。
【0083】
また、本実施形態の診断部128は、低周波信号受信部130での相手使用周波数の低周波信号の受信状況に基づいて、対象信号線31の瞬断を検出し、接続状態の診断を実施する。具体的には、診断部128は、低周波信号受信部130から相手使用周波数の信号を受信できているか否かを逐次取得する。相手使用周波数の信号を受信できていた状態から相手使用周波数の信号を受信できなくなった場合には、瞬断/断線が発生したと判定する。そして、相手使用周波数の信号を受信できなくなってから所定の上限時間以内に再び相手使用周波数の信号を受信できた場合には、瞬断が発生したと判定して瞬断履歴データを更新する。瞬断履歴データを用いて断線の予兆があるか否かを判定する構成については前述の第1実施形態と同様である。なお、相手使用周波数の信号を受信できなくなってから所定の上限時間以内に再び相手使用周波数の信号を受信できなかった場合には、断線が発生したと判定する。
【0084】
以上で述べた構成によっても第1実施形態と同様に、対象信号線31が断線しそうであるか否か(つまり断線の予兆)を判定することができる。
【0085】
なお、以上では、1本の信号線31の両端に接続する2つの通信部12のそれぞれで、当該信号線31を診断する構成を開示したが、これに限らない。1本の信号線31の両端に接続する2つの通信部12のうちの一方が送信側装置、他方が受信側装置と役割を決定して、送信側装置のみが低周波信号を送信する構成としても良い。その場合、受信側装置のみが、対象信号線31に低周波信号が流れているかに基づく診断処理を実施する。なお、2つの通信部12のうち、どちらが送信側装置となるかは、通信ケーブル3が接続された順番や相互通信などによって決定されれば良い。
【0086】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態に係る車載通信システム100について、図を用いて説明する。なお、前述の第1実施形態で述べた部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。また、構成の一部のみに言及している場合、他の部分については先に説明した実施形態の構成を適用することができる。
【0087】
本実施形態における通信部12は、
図12に示すように、1つの対象信号線31に対応する構成として、入出力部121、生成器122、DAC123、ADC124、エコーキャンセラ125、減算器126、調整器127、診断部128、及びSパラメータ計測部131を備える。
【0088】
Sパラメータ計測部131は、対象信号線31の電気的特性を示すSパラメータを計測する構成である。Sパラメータ計測部131は、ネットワークアナライザとして周知の構成を用いて実現されればよい。すなわち、Sパラメータ計測部131は、伝送線路の電気的特性を検出するための所定の周波数の信号(以降、検知用信号)をDAC131に入力し、その検知用信号に対応するADC124の出力信号を参照することで、Sパラメータを計測する。
【0089】
Sパラメータは、例えば、検知用信号の周波数を30kHz〜3GHzの範囲で掃引した際の、周波数毎のDAC123に入力した検知用信号に対するADC124の出力信号の位相の変化量を示すデータとすれば良い。その場合、Sパラメータは、周波数毎の位相変化量を要素として備えるベクトルとして表現されれば良い。また、Sパラメータは、DAC123に入力した検知用信号に対するADC124の出力信号の振幅の比や、位相の変化量を示すデータとしてもよい。その場合、Sパラメータは、振幅比と位相変化量を要素として備えるベクトルとして表現されれば良い。
【0090】
Sパラメータ計測部131は、例えば生成器122がデータを出力していない場合に、検知用信号を出力してSパラメータの計測を行う。本実施形態では一例としてSパラメータ計測部131は所定の計測周期で定期的にSパラメータの計測を行うように構成されているものとする。また、生成器122は、Sパラメータ計測部131がSパラメータの計測を行う際には、シンボルの出力を停止するように構成されているものとする。もちろん、他の態様においては、Sパラメータの計測よりも生成器122によるデータ出力が優先されるように構成されていてもよい。Sパラメータ計測部131は、計測したSパラメータを示すデータを診断部128に逐次提供する。
【0091】
第3実施形態における診断部128は、Sパラメータ計測部が計測したSパラメータの時間変化に基づいて断線が生じそうであるか否かを判定する。例えば診断部128は、断線が発生する前に観測されるSパラメータの変動パターンである予兆パターンと、実際に観測されているSパラメータの変動パターンとを比較して、一致度合いが所定の閾値以上となっている場合には断線の予兆ありと判定する。なお、予兆パターンは、予め試験等によって特定し、モデルデータとしてROM等の不揮発性の記憶媒体に登録されていれば良い。
【0092】
また、他の態様として、Sパラメータとして観測される伝送線路の反射係数が所定のレベル以上となっている場合に断線の予兆があると判定しても良い。対象信号線31が断線しかけている場合には、伝送路の反射係数が高くなることが期待できるためである。
【0093】
さらに、複数時点で取得した複数のSパラメータを時系列順に並べた時の単位時間当りの変動幅が所定の閾値以上となっている場合に、断線の予兆があると判定しても良い。対象信号線31が断線しかけている場合には、瞬断の発生頻度が高まりうる。瞬断が生じている場合のSパラメータと、瞬断が生じていない場合のSパラメータとでは、Sパラメータを構成する種々の要素の値が相対的に大きく変動することが想定される。故に、Sパラメータの変動幅からも断線の予兆は検出可能である。
【0094】
以上の構成によれば、第1、第2実施形態と同様に、対象信号線31が断線しそうであるか否かを判定することができる。また、上記の構成によれば、診断部128は、断線の予兆を検出するだけでなく、例えば伝送過程における送信信号の減衰度合いを示すリターンロスなど、複数種類の情報を取得可能である。
【0095】
[変形例1]
通信部12は、診断部128の診断結果に基づいて対象信号線31を通信部12から切り離す遮断器132を備えていても良い。遮断器132は、例えば、診断部128によって対象信号線31の断線/断線の予兆が検出した場合に、対象信号線31を通信部12から切り離す。遮断器132は、対象信号線31と入出力部121の電気的な接続状態を切り替える構成であって、スイッチやリレー等を用いて実現されればよい。
【0096】
このような遮断器132を設けることによって、対象信号線31が断線した場合であっても、断線後のショート等に由来する他の回路の故障(つまり二次故障)が発生する可能性を抑制することができる。なお、
図13では、第1実施形態の通信部12に遮断器132を配置した構成を示したが、遮断器132は、第2実施形態や第3実施形態の通信部12にも適用可能である。
【0097】
[変形例2]
また、主制御部10は、診断部128の診断結果に基づいて信号の出力先を、断線の予兆が検出されていない通信ケーブル3へと切り替える機能を備えていても良い。以下、そのような構成を変形例2として説明する。
【0098】
変形例2における主制御部10は、
図14に示すようにケーブル状態管理部F1、ルーティングテーブル管理部F2、及び経路切替部F3を備える。主制御部10が備える各機能は、CPU101によるソフトウェアの実行によって実現される。なお、他の態様において、主制御部10が備える機能の一部又は全部は、論理回路等を用いたハードウェアとして実現されていてもよい。ハードウェアとして実現される態様には1つ又は複数のICを用いて実現される態様も含まれる。また、主制御部10が備える機能ブロックの一部又は全部は、CPU101によるソフトウェアの実行と電子回路の組み合わせによって実現されていてもよい。
【0099】
ケーブル状態管理部F1は、各通信部12が備える診断部128から提供される診断結果に基づいて、自装置に接続されている全ての通信ケーブル3の状態を示すデータ(以降、ケーブル管理データ)の内容を更新する。通信ケーブル3の状態を示す項目としては、当該通信ケーブル3が断線の予兆が検出されているか否かが含まれる。ケーブル状態管理部F1は、或る1つの通信ケーブル3が備える2本の信号線31のうちの少なくとも何れか一方において断線の予兆があると判定されている場合には、当該通信ケーブル3を、断線の予兆が検出されている通信ケーブル3(以降、準断線ケーブル)として取り扱う。
【0100】
また、本実施形態ではより好ましい態様として、通信ケーブル3の状態を示す項目として、通信ケーブル3が断線しているか否かも含むものとする。通信ケーブル3が断線しているか否かは、各通信部12の診断部128から取得すれば良い。各通信ケーブル3について上記の項目を示すケーブル管理データはRAM102に保存されてあって、診断部128から診断結果を取得する度に逐次更新される。なお、各通信ケーブル3の情報は、当該通信ケーブル3が接続しているポート番号と対応付けられているものとする。
【0101】
ルーティングテーブル管理部F2は、ネットワークの経路情報を示すデータ(つまりルーティングテーブル)を更新及び保持する構成である。ルーティングテーブルは、例えば、宛先に設定されているECU2のネットワークアドレスと、当該ECU2宛のデータを取得した場合の転送先としての出力ポート番号とを対応付けたデータである。ルーティングテーブルはRAM102等に保存されていれば良い。
【0102】
ルーティングテーブルは、車載通信システム100が提供する通信ネットワークにECU2が接続/取り外しされる度に更新されれば良い。また、中継装置1や通信ケーブル3の追加/削除が行われた場合にも同様に更新されれば良い。つまりネットワークトポロジが変更される度に更新されれば良い。中継装置1同士でのルーティング情報の共有及びルーティングテーブルの動的な更新(いわゆるダイナミックルーティング)は、例えばRIP(Routhing Information Protocol)等の周知の方法を援用して実施されれば良い。
【0103】
経路切替部F3は、ケーブル管理データに示されている通信ケーブル3毎の状態に基づいて、或るECU2から他のECU2までのデータの伝達経路(換言すれば通信経路)を切り替える処理を実施する構成である。経路切替部F3によるECU2間の通信経路の変更は、ルーティングテーブル管理部F2と連携して行われる。この経路切替部F3の作動について
図15、
図16を用いて説明する。
図15は、ECU2AとECU2Dとのデータの伝達経路として、通信ケーブル3Dを用いる経路が設定されている状態を示した図である。
【0104】
ECU2AとECU2Dの通信経路として
図15に示す経路が採用されている状態において、中継装置1Aの診断部128が通信ケーブル3Dに断線の予兆を検出した場合、中継装置1Aの経路切替部F3は、ECU2AとECU2Dの通信経路として通信ケーブル3を使用しない経路を設定する。具体的にはECU2D宛のデータの出力先を通信ケーブル3Aに設定する。なお、経路切替部F3によって決定された新たな通信経路情報は、ルーティングテーブル管理部F2が管理するルーティングテーブルに速やかに反映される。
【0105】
また、中継装置1Aの経路切替部F3は、他の中継装置1にも通信ケーブル3Dの使用を控えるように指示するルーティング情報をブロードキャストする。これにより、中継装置1Aだけでなく中継装置1B、1C、1Dでもルーティングテーブルが更新されて、その結果、ECU2AとECU2Dの通信経路として
図16に示すように、通信ケーブル3を迂回する経路が生成される。
【0106】
以上の構成によれば、実際に断線に至る前に通信経路を切り替えるため、ECU2間での通信が失敗する可能性を低減できる。換言すれば、通信ネットワークの信頼性を向上させることができる。なお、以上では或る通信ケーブル3に断線の予兆が検出された場合を例にとって経路切替部F3の作動を説明したが、断線が検出された場合も同様に作動すればよい。
【0107】
[変形例3]
上述した種々の実施形態では、通信部12に診断部128を設ける構成を開示したが、これに限らない。診断部128は、
図17に示すように診断部128は、主制御部10が備えていても良い。その場合、主制御部10は各通信部12から、断線の予兆が在るか否かを判定するための情報を取得して、接続状態診断処理を実施するものとする。