特許第6787237号(P6787237)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6787237
(24)【登録日】2020年11月2日
(45)【発行日】2020年11月18日
(54)【発明の名称】数値化装置
(51)【国際特許分類】
   H03M 1/50 20060101AFI20201109BHJP
【FI】
   H03M1/50
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-80543(P2017-80543)
(22)【出願日】2017年4月14日
(65)【公開番号】特開2018-182561(P2018-182561A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2019年5月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 高元
【審査官】 及川 尚人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−287943(JP,A)
【文献】 特開2003−273735(JP,A)
【文献】 特開2010−041098(JP,A)
【文献】 特開2010−259117(JP,A)
【文献】 特開2013−188466(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03M 1/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アナログ信号の電位に応じたデジタル値出力するように構成された数値化装置(1)であって、
(2のn乗−(2m−1))個だけ直列接続された複数の遅延ユニットを備え、パルス信号が前記複数の遅延ユニットを通過した数に応じた信号を出力するように構成された第1のパルス遅延部(10)と、
(2のn乗+(2m−1))個だけ直列接続された複数の遅延ユニットを備え、パルス信号が前記複数の遅延ユニットを通過した数に応じた信号を出力するように構成された第2のパルス遅延部(20)と、
前記第1のパルス遅延部による出力に基づく数値および前記第2のパルス遅延部による出力に基づく数値を加算した加算値を前記デジタル値として出力するように構成された加算出力部(40)と
を備え
前記第1のパルス遅延部および第2のパルス遅延部を構成する各遅延ユニットは、前記遅延ユニットの電源ラインに前記アナログ信号が入力され、前記アナログ信号の電位に応じて前記遅延ユニットを通過する前記パルス信号の遅延時間が変更されるように構成された
数値化装置。
ただし、nおよびmは自然数であり、かつn≧m≧1である。
【請求項2】
請求項1に記載の数値化装置であって、
前記第1のパルス遅延部および前記第2のパルス遅延部は、いずれも前記複数の遅延ユニットをリング状に接続したリング状パルス遅延回路を形成する
ように構成された数値化装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の数値化装置であって、
前記第1のパルス遅延部は、前記遅延ユニットを(2のn乗−1)個備えるように構成され、
前記第2のパルス遅延部は、前記遅延ユニットを(2のn乗+1)個備える
ように構成された数値化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アナログ情報をデジタル値で出力する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1には、数値化装置として、各種ゲート回路からなる複数の遅延ユニットをリング状に接続してなるパルス遅延回路内で、各遅延ユニットの遅延時間に対応した速度でパルス信号を周回させ、パルス信号が通過した遅延ユニットの個数をカウントすることにより、アナログ情報をデジタル値で出力するA/D変換器が開示されている。
【0003】
特許文献1のA/D変換器では、パルス遅延回路の数を2のn乗個とすることで、パルス遅延回路の数が奇数個である際にパルス信号の位相差を2進デジタル信号に符号化する過程で生じる、いわゆるコード欠けを抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平06−216721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術では、コード欠けを抑制できるものの、偶数個の遅延ユニット内でパルスを反転させるために、NAND回路やバイパス線が余分に必要となる。このため、特許文献1の技術では、遅延ユニットそれぞれでの遅延時間に相違が生じたり、寄生容量が生じたりすることによって、アナログ情報をデジタル値で出力する際の精度が低下するという問題があった。
【0006】
本開示は、アナログ情報をデジタル値で出力する技術において、コード欠けを抑制しつつアナログ情報をデジタル値で出力する際の精度を向上させる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の数値化装置(1)は、第1のパルス遅延部(10)と、第2のパルス遅延部(20)と、加算出力部(40)と、を備える。
第1のパルス遅延部は、(2のn乗−(2m−1))個だけ直列接続された複数の遅延ユニットを備え、パルス信号が複数の遅延ユニットを通過した数に応じた信号を出力するように構成される。第2のパルス遅延部は、(2のn乗+(2m−1))個だけ直列接続された複数の遅延ユニットを備え、パルス信号が複数の遅延ユニットを通過した数に応じた信号を出力するように構成される。ただし、nおよびmは自然数であり、かつn≧m≧1である。
【0008】
加算出力部は、第1のパルス遅延部による出力に基づく数値および第2のパルス遅延部による出力に基づく数値を加算した加算値をデジタル値として出力するように構成される。
【0009】
このような数値化装置によれば、遅延ユニットの数が(2のn乗±(2m−1))個に設定されたパルス遅延部を用い、これらの出力を加算してデジタル値を生成するので、それぞれの遅延ユニットでコード欠け、或いはコード増加が生じたとしても、これらを加算することによって、コード欠けおよびコード増加を相殺することができる。よって、アナログ情報をデジタル値で出力する技術において、コード欠けを抑制しつつアナログ情報をデジタル値で出力する際の精度を向上させることができる。
【0010】
なお、この欄および特許請求の範囲に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、本開示の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】A/D変換器の構成を示すブロック図である。
図2】リングオシレータの一例を示す回路図である。
図3】コード欠け、コード増加を示す説明図である。
図4】コード欠けおよびコード増加が相殺される様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態を説明する。
[1.実施形態]
[1−1.構成]
図1に示すA/D変換器1は、予め設定されたアナログ情報をデジタル値で出力するように構成された装置である。特に、本実施形態のA/D変換器1は、アナログ入力信号の電位に応じたデジタル値を出力するA/D(アナログ/デジタル)変換器として機能する。
【0013】
図1に示すA/D変換器1は、第1TAD10と、第2TAD20と、加算出力部40と、を備える。
第1TAD10および第2TAD20には、電源電圧であるVBB、グランド電圧であるGND、パルス信号であるPA、クロックであるCKs、およびアナログ信号であるVINが入力されうる。第1TAD10および第2TAD20は、A/D変換値を出力する周知のA/D変換器としての機能を有する。
【0014】
ここでのA/D変換値とは、入力されたアナログ信号の電圧に対応するデジタル値を表し、本実施形態では数値データDTc1、DTc2を示す。これら各数値データDTc1、DTc2は、加算出力部40に入力される。
【0015】
加算出力部40は、数値データDTc1と数値データDTc2との和、すなわち、(DTc1+DTc2)を演算し、アナログ入力信号VinのA/D変換データDTとして出力する。ここで、第1TAD10および第2TAD20は、リング状パルス遅延回路11,21と、符号化回路15,25とを備える。
【0016】
リング状パルス遅延回路11,21は、図1図2に示すように、複数の遅延ユニットを備え、複数の遅延ユニットがパルス遅延回路を構成することで、時間A/D変換回路として機能する。リング状パルス遅延回路11,21は、複数の遅延ユニットとして、一方の入力端にパルス信号PAを受けて動作する1つの否定論理積回路NAND12と、反転回路としての多数(偶数個)のインバータINV13とを備える。これらの遅延ユニットをリング状に連結することでリングディレイラインが構成される。
【0017】
特に、本実施形態において、第1TAD10は、127(2の7乗−1)個だけ直列接続された複数の遅延ユニットを備えるように構成される。すなわち、1個の否定論理積回路NAND12と、126個のインバータINV13とを備える。
【0018】
第2TAD20は、129(2の7乗+1)個だけ直列接続された複数の遅延ユニットを備えるように構成される。すなわち、1個の否定論理積回路NAND12と、128個のインバータINV13とを備える。
【0019】
ここで、各TAD10、20は、外部からパルス信号PAを受けて作動するように構成されている。リング状パルス遅延回路11,21を構成する遅延ユニットは、図2に例示すように、PチャネルトランジスタとnチャネルトランジスタとからなるCMOSインバータ(INV13)およびCMOSナンドゲート(NAND12)を備える。
【0020】
そして、これら各遅延ユニットには、正の電源ラインおよび負の電源ラインが接続されており、各遅延ユニットは、電源端子VINに正の電源電圧を印加し、グランド端子GNDを電源端子VINよりも低電位に設定することにより、これら各端子間電圧に応じた遅延時間でパルス信号PAを遅延させつつ伝送する。つまり、第1TAD10および第2TAD20は、アナログ信号をパルス遅延回路にVINとして入力し、VINの電位に応じてパルス信号PAが遅延ユニットを通過しつつ周回する際の速度が変更されるように構成される。
【0021】
また、図2に示すように、遅延ユニットに含まれるNAND12やINV13を構成するPチャネルトランジスタのバックゲートバイアスには、電源であるVBBが印加される。VBBの電位によってもパルス信号PAが遅延ユニットを通過する際の速度を変更することができる。
【0022】
なお、ここでいう「速度」とは、単位時間あたりにパルス信号が通過できる遅延ユニットの個数を表す。速度が速くなるとパルス信号が通過できる遅延ユニットの個数が多くなる。
【0023】
符号化回路15,25は、ラッチ&エンコーダ16,26と、ラッチ17,27と、加算器18,28と、を備える。
ラッチ&エンコーダ16,26は、クロックCKsに従う所定のタイミングで、リング状パルス遅延回路11,21を構成する遅延ユニットの出力P1〜P127またはP1〜P129を取り込み、その出力、すなわち遅延ユニットを通過しているパルス信号の位置に対応した数値データを発生させる。第1TAD10におけるラッチ&エンコーダ16からの出力DTpは、7ビットで出力され、第2TAD20におけるラッチ&エンコーダ26からの出力DTpは、8ビットで出力される。
【0024】
これらの出力DTpは、それぞれ、ラッチ17,27および加算器18に入力される。ラッチ17,27は、ラッチ&エンコーダ26から受けた最新の出力DTpを保持するとともに、最新の出力DTpの直前に保持していた出力DTpを比較値として加算器18,28に送る。
【0025】
加算器18,28では、最新の出力DTpから比較値を減算する。すなわち、予め設定されたクロックCKs数に対応する時間が経過する前後におけるパルス信号の位置の差分を演算する。ここでは、加算器,28において減算ができるように、2進数における補数による減算を行う。加算器18,28は、演算結果をDTc1、DTc2として加算出力部40に出力する。
【0026】
加算器18,28において補数による減算を行うと、第1TAD10からの出力DTc1は、図3の上図に示すように、遅延ユニットの数が2のn乗よりも1だけ少ないので、正しい値Cよりも1だけ大きくなる現象を表すコード増加が生じる場合がある。また、一方で、第2TAD20からの出力DTc2は、図3の下図に示すように、遅延ユニットの数が2のn乗よりも1だけ多いので、正しい値Cよりも1だけ小さくなる現象を表すコード欠けが生じる場合がある。
【0027】
しかしながら、加算出力部40は、各TAD10,20からの出力DTc1,DTc2を加算して出力するので、図4に示すように、コード増加とコード欠けとが同時に生じたときに、これらを相殺して正しい値2Cとして出力できるようにしている。
【0028】
[1−2.効果]
以上詳述した第1実施形態によれば、以下の効果を奏する。
(1a)上記実施形態のA/D変換器1は、第1TAD10と、第2TAD20と、加算出力部40と、を備える。
【0029】
上記のA/D変換器1において、第1TAD10は、(2のn乗−1)個だけ直列接続された複数の遅延ユニットを備えるように構成され、第2TAD20は、(2のn乗+1)個だけ直列接続された複数の遅延ユニットを備えるように構成される。また、第1TAD10および第2TAD20おいて、複数の遅延ユニットは、それぞれリング状に直列接続される。
【0030】
加算出力部40は、第1TAD10による出力に基づく数値および第2TAD20による出力に基づく数値を加算した加算値をデジタル値として出力するように構成される。ただし、nは自然数である。
【0031】
このようなA/D変換器1によれば、遅延ユニットの数が(2のn乗±1)個に設定されたパルス遅延部を用い、これらの出力を加算してデジタル値を生成するので、それぞれの遅延ユニットでコード欠け、コード増加が生じたとしても、これら加算することによって相殺することができる。よって、アナログ情報をデジタル値で出力する技術において、コード欠けを抑制しつつアナログ情報をデジタル値で出力する際の精度を向上させることができる。
【0032】
(1b)また、このようなA/D変換器1によれば、第1TAD10および第2TAD20からの出力差を小さくすることができるので、アナログ情報をデジタル値で出力する際の精度をより向上させることができる。
【0033】
(1c)また、このようなA/D変換器1によれば、否定論理積回路NAND13の数を少なくすることができるので、遅延ユニットの種類の違いに由来する遅延ユニットでの遅延時間の差を小さくすることができる。
【0034】
(1d)上記実施形態のA/D変換器1において、第1TAD10および第2TAD20は、アナログ信号をパルス遅延回路に入力し、アナログ信号の電位に応じてパルス信号が遅延ユニットを通過する速度が変更されるように構成される。
【0035】
このようなA/D変換器1によれば、アナログ信号の電位に応じたデジタル値を出力することができるので、A/D変換器として機能させることができる。
[2.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0036】
(2a)上記実施形態では、各TAD10,20の遅延ユニットの数が(2のn乗±1)個となるように構成したが、これに限定されるものではない。例えば、各TAD10,20の遅延ユニットの数が(2のn乗±(2m−1))個となるように構成してもよい。
【0037】
すなわち、第1TAD10は、(2のn乗−(2m−1))個だけ直列接続された複数の遅延ユニットを備え、パルス信号が複数の遅延ユニットを通過した数に応じた信号を出力するように構成されてもよい。一方で、第2TAD20は、(2のn乗+(2m−1))個だけ直列接続された複数の遅延ユニットを備え、パルス信号が複数の遅延ユニットを通過した数に応じた信号を出力するように構成されてもよい。ただし、nおよびmは自然数であり、かつn≧m≧1である。
【0038】
(2b)上記実施形態では、複数の遅延ユニットをリング状に直列接続したが、これに限定されるものではない。例えば、複数の遅延ユニットを直線的に配置し、パルスが最後尾の遅延ユニットを通過すると、先頭の遅延ユニットに別のパルスを入力してもよい。
【0039】
これらようにしても、上記(1a)と概ね同様の効果を享受できる。
(2c)上記実施形態では、本開示の数値化装置をA/D変換器として機能させる例について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、時間、温度、応力等、予め設定されたアナログ情報をデジタル値で出力する数値化装置として構成されてもよい。
【0040】
時間については、VIN、VBB、GNDを一定として、CKsを計測開始時刻と計測終了時刻とに入力すれば、これらの時刻の差分を表す値がデジタル値として得られる。
温度や応力については、VIN、VBB、GNDを一定とし、CKsが入力される間隔を一定としたときに得られるデジタル値を温度や応力ごとに予め記録しておき、実際に温度や応力を測定する際には、得られたデジタル値がどの温度または応力に対応するかを調べればよい。
【0041】
このようにしても、上記(1a)と概ね同様の効果を享受できる。
(2d)上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加または置換してもよい。なお、特許請求の範囲に記載した文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【0042】
(2e)上述したA/D変換器を含む数値化装置の他、当該数値化装置を構成要素とするシステム数値化方法など、種々の形態で本開示を実現することもできる。
[3.実施形態の構成と本開示の構成との対応関係]
上記実施形態におけるA/D変換器1は、本開示でいう数値化装置に相当し、上記実施形態における第1TAD10は、本開示でいう第1のパルス遅延部に相当する。また、上記実施形態における第2TAD20は、本開示でいう第2のパルス遅延部に相当し、上記実施形態における加算出力部40は、本開示でいう加算出力部に相当する。
【符号の説明】
【0043】
1…A/D変換器、11,21…リング状パルス遅延回路、15,25…符号化回路、16,26…ラッチ&エンコーダ、17,27…ラッチ、18,28…加算器、40…加算出力部。
図1
図2
図3
図4