(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態を、リチウムイオン二次電池の各部材ごとに説明する。
【0012】
[負極]
負極は、負極活物質が、負極結着剤により一体化された負極活物質層として集電体上に積層された構造を有する。負極活物質は、充放電に伴いリチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出可能な材料である。
【0013】
負極活物質は、黒鉛およびケイ素酸化物を含み、それぞれ粒子として負極中に存在する。
【0014】
本実施形態において使用される黒鉛は、天然黒鉛および人造黒鉛のいずれであってもよい。黒鉛の形状としては特に限定されることはなくいずれでもよい。天然黒鉛としては鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、土状黒鉛等が挙げられ、人造黒鉛としては塊状人造黒鉛、鱗片状人造黒鉛、MCMB(メゾフェーズ マイクロ ビーズ)等球状の人造黒鉛が挙げられる。使用される黒鉛は、炭素材料などで被覆されていてもよい。
【0015】
使用される黒鉛は、ラマン分光分析による1300〜1400cm
−1のピーク強度Dに対する1550〜1650cm
−1のピーク強度Gの比(G/D)が、2.0〜5.0の範囲であることが好ましい。ここで、ピーク強度Gは結晶質炭素に由来し、ピーク強度Dは非晶質炭素に由来し、G/Dの比率が高いほど結晶性が高い黒鉛である。使用する黒鉛のG/D比率を2.0〜5.0の範囲に調整することで、ケイ素酸化物の充放電時の膨張収縮に追従できる黒鉛とすることができ、本実施形態において好ましい。G/Dが2.0〜5.0の範囲にある黒鉛は、負極活物質中の黒鉛化度が高いことを意味する。
【0016】
黒鉛粒子は、負極活物質中に、好ましくは50質量%、より好ましくは70質量%以上97質量%以下の範囲の量で含まれる。
【0017】
本発明において使用されるケイ素酸化物は、組成がSiO
x(ただし、0<x≦2)で表される。特に好ましいケイ素酸化物は、SiOである。ケイ素酸化物粒子は、炭素材料などで被覆されていてもよい。一般的に炭素被覆されたケイ素酸化物粒子の方が優れたサイクル特性を有する二次電池とすることができるが、本発明によればさらにサイクル特性を改善することができる。ケイ素酸化物粒子は、負極活物質中に、好ましくは1質量%以上20質量%以下、より好ましくは3質量%以上10質量%以下の範囲の量で含まれる。
【0018】
負極において、粒子数平均での黒鉛粒子のアスペクト比をAGとし、粒子数平均でのケイ素酸化物粒子のアスペクト比をASとして定義したとき、本発明において、AG/ASは0.6以上1.6以下の範囲内であり、0.8以上1.2以下が好ましく、0.9以上1.1以下が特に好ましい。黒鉛粒子とケイ素酸化物粒子それぞれのアスペクト比が近い値であることで、黒鉛粒子が、ケイ素酸化物の充放電で生じる膨張収縮による干渉を受けにくくなると推測され、電池のサイクル特性を改善できる。このため本発明においては、充放電サイクルを繰り返すことで生じる黒鉛粒子および/または黒鉛粒子の被膜の損傷が低減され、サイクル特性が改善される。黒鉛粒子およびケイ素酸化物粒子のアスペクト比の調整は、粒子の形状分離や粉砕処理による粒子形状制御などにより行うことができる。
【0019】
アスペクト比とは、粒子の長軸方向と短軸方向の長さの比であり、例えばSEM(走査型電子顕微鏡)などの電子顕微鏡で粒子断面を観測することで確認できる。粒子断面における各粒子の最長径と最短径の比の粒子数平均をアスペクト比とすることができる。
【0020】
本発明において、黒鉛粒子とケイ素酸化物粒子のアスペクト比はともに高い方が、電池のサイクル特性に対して好ましい場合がある。好ましくは、粒子数平均で黒鉛粒子とケイ素酸化物粒子のアスペクト比はそれぞれ2以上であり、さらに好ましくは粒子数平均で黒鉛粒子とケイ素酸化物粒子のアスペクト比はそれぞれ3以上である。
【0021】
本実施形態において、粒子形状に加えて粒径を制御することで電池のサイクル特性がさらに改善される場合がある。黒鉛粒子のメジアン径をD
50Gおよびケイ素酸化物粒子のメジアン径をD
50Sとしたとき、それぞれのメジアン径の範囲が、
5.0μm<D
50G<25.0μm
1.0μm<D
50S<15.0μm
であることが好ましい。また、D
50G/D
50Sが0.6〜5.0の範囲内であることでも好ましい。上記粒径の範囲内とすることで好ましいサイクル特性を得ることができる。これは、上記の範囲において、電解液の浸み込み性や浸透性が特に向上するためである。電解液の浸み込み性が特に優れることで、電解液中の添加剤の効果が発現しやすくなると推測される。メジアン径の測定はレーザ回折・散乱式粒度分布測定装置によって実施することができる。
【0022】
黒鉛およびケイ素酸化物以外の負極活物質を負極に追加して使用することもできる。追加の負極活物質は限定されず公知のものを用いることができ、例えばシリコン合金、シリコン複合酸化物およびシリコン窒化物などのケイ素系材料、非晶質炭素およびカーボンナノチューブなどの炭素系材料、Al、Pb、Sn、In、Bi、Ag、Ba、Ca、Hg、Pd、Pt、Te、Zn、La等の金属およびこれらの合金ならびに酸化アルミニウム、酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化リチウムなどの金属酸化物などが挙げられ、これらを1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0023】
負極用結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミドイミド等を用いることができる。前記のもの以外にも、スチレンブタジエンゴム(SBR)等が挙げられる。SBR系エマルジョンのような水系の結着剤を用いる場合、カルボキシメチルセルロース(CMC)等の増粘剤を用いることもできる。使用する負極用結着剤の量は、トレードオフの関係にある十分な結着力と高エネルギー化の観点から、負極活物質100質量部に対して、0.5〜20質量部が好ましい。上記の負極用結着剤は、混合して用いることもできる。
【0024】
負極活物質は、導電補助材と共に用いることができる。導電補助材としては、具体的には、正極において具体的に例示するものと同様のものを挙げることができ、その使用量も同様とすることができる。
【0025】
負極集電体としては、電気化学的な安定性から、アルミニウム、ニッケル、銅、銀、およびそれらの合金が好ましい。その形状としては、箔、平板状、メッシュ状が挙げられる。
【0026】
負極活物質層の形成方法としては、ドクターブレード法、ダイコーター法、CVD法、スパッタリング法等が挙げられる。予め負極活物質層を形成した後に、蒸着、スパッタ等の方法でアルミニウム、ニッケルまたはそれらの合金の薄膜を形成して、負極集電体としてもよい。
【0027】
[正極]
正極は、充放電に伴いリチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出可能な正極活物質を含み、正極活物質が正極結着剤により一体化された正極活物質層として集電体上に積層された構造を有する。
【0028】
本実施形態における正極活物質としては、リチウムを吸蔵放出し得る材料であれば特に限定されないが、高エネルギー密度化の観点からは、高容量の化合物を含むことが好ましい。高容量の化合物としては、ニッケル酸リチウム(LiNiO
2)のNiの一部を他の金属元素で置換したリチウムニッケル複合酸化物が挙げられ、下式(A)で表される層状リチウムニッケル複合酸化物が好ましい。
【0029】
Li
yNi
(1−x)M
xO
2 (A)
(但し、0≦x<1、0<y≦1.2、MはCo、Al、Mn、Fe、Ti及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素である。)
【0030】
高容量の観点では、Niの含有量が高いこと、即ち式(A)において、xが0.5未満が好ましく、さらに0.4以下が好ましい。このような化合物としては、例えば、Li
αNi
βCo
γMn
δO
2(1≦α≦1.2、β+γ+δ=1、β≧0.7、γ≦0.2)、Li
αNi
βCo
γAl
δO
2(1≦α≦1.2、β+γ+δ=1、β≧0.7、γ≦0.2)などが挙げられ、特に、LiNi
βCo
γMn
δO
2(0.75≦β≦0.85、0.05≦γ≦0.15、0.10≦δ≦0.20)が挙げられる。より具体的には、例えば、LiNi
0.8Co
0.05Mn
0.15O
2、LiNi
0.8Co
0.1Mn
0.1O
2、LiNi
0.8Co
0.15Al
0.05O
2、LiNi
0.8Co
0.1Al
0.1O
2等を好ましく用いることができる。
【0031】
また、熱安定性の観点では、Niの含有量が0.5を超えないこと、即ち、式(A)において、xが0.5以上であることも好ましい。また特定の遷移金属が半数を超えないことも好ましい。このような化合物としては、Li
αNi
βCo
γMn
δO
2(1≦α≦1.2、β+γ+δ=1、0.2≦β≦0.5、0.1≦γ≦0.4、0.1≦δ≦0.4)が挙げられる。より具体的には、LiNi
0.4Co
0.3Mn
0.3O
2(NCM433と略記)、LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2、LiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2(NCM523と略記)、LiNi
0.5Co
0.3Mn
0.2O
2(NCM532と略記)など(但し、これらの化合物においてそれぞれの遷移金属の含有量が10%程度変動したものも含む)を挙げることができる。
【0032】
また、式(A)で表される化合物を2種以上混合して使用してもよく、例えば、NCM532またはNCM523とNCM433とを9:1〜1:9の範囲(典型的な例として、2:1)で混合して使用することも好ましい。さらに、式(A)においてNiの含有量が高い材料(xが0.4以下)と、Niの含有量が0.5を超えない材料(xが0.5以上、例えばNCM433)とを混合することで、高容量で熱安定性の高い電池を構成することもできる。
【0033】
上記以外にも正極活物質として、例えば、LiMnO
2、Li
xMn
2O
4(0<x<2)、Li
2MnO
3、Li
xMn
1.5Ni
0.5O
4(0<x<2)等の層状構造またはスピネル構造を有するマンガン酸リチウム;LiCoO
2またはこれらの遷移金属の一部を他の金属で置き換えたもの;これらのリチウム遷移金属酸化物において化学量論組成よりもLiを過剰にしたもの;及びLiFePO
4などのオリビン構造を有するもの等が挙げられる。さらに、これらの金属酸化物をAl、Fe、P、Ti、Si、Pb、Sn、In、Bi、Ag、Ba、Ca、Hg、Pd、Pt、Te、Zn、La等により一部置換した材料も使用することができる。上記に記載した正極活物質はいずれも、1種を単独で、または2種以上を組合せて用いることができる。
【0034】
正極用結着剤としては、負極用結着剤と同様のものを用いることができる。中でも、汎用性や低コストの観点から、ポリフッ化ビニリデンまたはポリテトラフルオロエチレンが好ましく、ポリフッ化ビニリデンがより好ましい。使用する正極用結着剤の量は、トレードオフの関係にある「十分な結着力」と「高エネルギー化」の観点から、正極活物質100質量部に対して、2〜10質量部が好ましい。
【0035】
正極活物質を含む塗工層には、インピーダンスを低下させる目的で、導電補助材を添加してもよい。導電補助材としては、鱗片状、煤状、線維状の炭素質微粒子等、例えば、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック、気相法炭素繊維(例えば、昭和電工製VGCF)等が挙げられる。
【0036】
正極集電体としては、負極集電体と同様のものを用いることができる。特に正極としては、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄・ニッケル・クロム・モリブデン系のステンレスを用いた集電体が好ましい。
【0037】
正極は、負極と同様に、正極集電体上に、正極活物質と正極用結着剤を含む正極活物質層を形成することで作製することができる。
【0038】
[電解液]
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の電解液としては特に限定されないが、電池の動作電位において安定な非水溶媒と支持塩を含む非水電解液が好ましい。
【0039】
非水溶媒の例としては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)等の環状カーボネート類;ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)等の鎖状カーボネート類;プロピレンカーボネート誘導体、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチル等の脂肪族カルボン酸エステル類;ジエチルエーテル、エチルプロピルエーテル等のエーテル類、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリプロピル、リン酸トリオクチル、リン酸トリフェニル等のリン酸エステル類等の非プロトン性有機溶媒、及び、これらの化合物の水素原子の少なくとも一部をフッ素原子で置換したフッ素化非プロトン性有機溶媒等が挙げられる。
【0040】
これらの中でも、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(MEC)、ジプロピルカーボネート(DPC)等の環状または鎖状カーボネート類を含むことが好ましい。
【0041】
非水溶媒は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0042】
支持塩としては、LiPF
6、LiAsF
6、LiAlCl
4、LiClO
4、LiBF
4、LiSbF
6、LiCF
3SO
3、LiC
4F
9SO
3、LiC(CF
3SO
2)
3、LiN(CF
3SO
2)
2等のリチウム塩が挙げられる。支持塩は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。低コスト化の観点からはLiPF
6が好ましい。
【0043】
電解液は、さらに添加剤を含むことができる。添加剤としては特に限定されるものではないが、ハロゲン化環状カーボネート、不飽和環状カーボネート、及び、環状または鎖状ジスルホン酸エステル等が挙げられる。これらの化合物を添加することにより、サイクル特性等の電池特性を改善することができる。これは、これらの添加剤がリチウムイオン二次電池の充放電時に分解して電極活物質の表面に皮膜を形成し、電解液や支持塩の分解を抑制するためと推定される。本発明では、その黒鉛表面被膜の損傷を防止する作用効果から、添加剤による負極表面の被膜形成効果がさらに高まると考えられる。このため、本発明においては添加剤によりさらにサイクル特性が改善できる場合がある。上記に列記した添加剤を具体的に以下で説明する。
【0044】
ハロゲン化環状カーボネートとしては、例えば、下記式(B)で表される化合物を挙げることができる。
【0046】
式(B)において、A、B、CおよびDは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基またはハロゲン化アルキル基であり、A、B、CおよびDの少なくともひとつは、ハロゲン原子またはハロゲン化アルキル基である。アルキル基およびハロゲン化アルキル基の炭素数は1〜4であることがより好ましく、1〜3であることがさらに好ましい。
【0047】
一実施形態において、ハロゲン化環状カーボネートはフッ素化環状カーボンネートであることが好ましい。フッ素化環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)等の一部または全部の水素原子をフッ素原子に置換した化合物等を挙げることができ、中でも、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(フルオロエチレンカーボネート:FEC)が好ましい。
【0048】
フッ素化環状カーボネートの含有量は、特に制限されるものではないが、電解液中0.01質量%以上1質量%以下であることが好ましい。0.01質量%以上含有することにより十分な皮膜形成効果が得られる。また、含有量が1質量%以下であるとフッ素化環状カーボネート自体の分解によるガス発生を抑制することができる。本実施形態では、特に、0.8質量%以下がさらに好ましい。フッ素化環状カーボネートの含有量を0.8質量%以下とすることにより、負極活物質の活性低下を抑制し、良好なサイクル特性を維持できる。
【0049】
不飽和環状カーボネートは、分子内に炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有する環状カーボネートであり、例えば、ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、4,5−ジメチルビニレンカーボネート、4,5−ジエチルビニレンカーボネート等のビニレンカーボネート化合物;4−ビニルエチレンカーボネート、4−メチル−4−ビニルエチレンカーボネート、4−エチル−4−ビニルエチレンカーボネート、4−n−プロピル−4−ビニレンエチレンカーボネート、5−メチル−4−ビニルエチレンカーボネート、4,4−ジビニルエチレンカーボネート、4,5−ジビニルエチレンカーボネート、4,4−ジメチル−5−メチレンエチレンカーボネート、4,4−ジエチル−5−メチレンエチレンカーボネート等のビニルエチレンカーボネート化合物等が挙げられる。中でも、ビニレンカーボネート又は4−ビニルエチレンカーボネートが好ましく、ビニレンカーボネートが特に好ましい。
【0050】
不飽和環状カーボネートの含有量は、特に制限されるものではないが、電解液中0.01質量%以上10質量%以下であることが好ましい。0.01質量%以上含有することにより十分な皮膜形成効果が得られる。また、含有量が10質量%以下であると不飽和環状カーボネート自体の分解によるガス発生を抑制することができる。本実施形態では、特に、負極活物質の活性低下を抑制する観点から、5質量%以下がより好ましい。
【0051】
環状または鎖状ジスルホン酸エステルとしては、例えば、下記式(C)で表される環状ジスルホン酸エステル、または下記式(D)で表される鎖状ジスルホン酸エステルを挙げることができる。
【0053】
式(C)において、R
1、R
2は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、ハロゲン基、アミノ基からなる群の中から選ばれる置換基である。R
3は炭素数1〜5のアルキレン基、カルボニル基、スルホニル基、炭素数1〜6のフルオロアルキレン基、または、エーテル基を介してアルキレン単位もしくはフルオロアルキレン単位が結合した炭素数2〜6の2価の基を示す。
【0054】
式(C)において、R
1、R
2は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜3のアルキル基またはハロゲン基であることが好ましく、R
3は、炭素数1または2のアルキレン基またはフルオロアルキレン基であることがより好ましい。
【0055】
式(C)で表される環状ジスルホン酸エステルの好ましい化合物としては、例えば以下の式(1)〜(20)で表される化合物を挙げることができる。
【0058】
式(D)において、R
4およびR
7は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数1〜5のフルオロアルキル基、炭素数1〜5のポリフルオロアルキル基、−SO
2X
3(X
3は炭素数1〜5のアルキル基)、−SY
1(Y
1は炭素数1〜5のアルキル基)、−COZ(Zは水素原子、または炭素数1〜5のアルキル基)、およびハロゲン原子から選ばれる原子または基を示す。R
5およびR
6は、それぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、フェノキシ基、炭素数1〜5のフルオロアルキル基、炭素数1〜5のポリフルオロアルキル基、炭素数1〜5のフルオロアルコキシ基、炭素数1〜5のポリフルオロアルコキシ基、水酸基、ハロゲン原子、−NX
4X
5(X
4およびX
5は、それぞれ独立して、水素原子、または炭素数1〜5のアルキル基)、および−NY
2CONY
3Y
4(Y
2〜Y
4は、それぞれ独立して、水素原子、または炭素数1〜5のアルキル基)から選ばれる原子または基を示す。
【0059】
式(D)において、R
4およびR
7は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1もしくは2のアルキル基、炭素数1もしくは2のフルオロアルキル基、またはハロゲン原子であることが好ましく、R
5およびR
6は、それぞれ独立して、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、炭素数1〜3のフルオロアルキル基、炭素数1〜3のポリフルオロアルキル基、水酸基またはハロゲン原子であることがより好ましい。
【0060】
式(D)で表される鎖状ジスルホン酸エステル化合物の好ましい化合物としては、例えば以下の化合物を挙げることができる。
【0062】
環状または鎖状ジスルホン酸エステルの含有量は、電解液中0.005mol/L以上10mol/L以下であることが好ましく、0.01mol/L以上5mol/L以下であることがより好ましく、0.05mol/L以上0.15mol/L以下が特に好ましい。0.005mol/L以上含有することにより、十分な皮膜効果を得ることができる。また、含有量が10mol/L以下であると電解液の粘性の上昇、およびそれに伴う抵抗の増加を抑制することができる。
【0063】
添加剤は1種を単独で、または2種以上を混合して用いることができる。2種以上の添加剤を組合せて使用する場合、添加剤の含有量の合計が、電解液中10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0064】
[セパレータ]
セパレータは、正極および負極の導通を抑制し、荷電体の透過を阻害せず、電解液に対して耐久性を有するものであれば、いずれであってもよい。具体的な材質としては、ポリプロピレンおよびポリエチレン等のポリオレフィン、セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデンならびにポリメタフェニレンイソフタルアミド、ポリパラフェニレンテレフタルアミドおよびコポリパラフェニレン3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド等の芳香族ポリアミド(アラミド)等が挙げられる。これらは、多孔質フィルム、織物、不織布等として用いることができる。
【0065】
[リチウムイオン二次電池の製造方法]
本実施形態によるリチウムイオン二次電池は、通常の方法に従って作製することができる。積層ラミネート型のリチウムイオン二次電池を例に、リチウムイオン二次電池の製造方法の一例を説明する。まず、乾燥空気または不活性雰囲気において、正極および負極をセパレータを介して対向配置して、前述の電極素子を形成する。次に、この電極素子を外装体(容器)に収容し、電解液を注入して電極に電解液を含浸させる。その後、外装体の開口部を封止してリチウムイオン二次電池を完成する。
【0066】
本実施形態によるリチウムイオン二次電池は、例えば、
図3および
図4のような構造の二次電池としてよい。この二次電池は、電池要素20と、それを電解質と一緒に収容するフィルム外装体10と、正極タブ51および負極タブ52(以下、これらを単に「電極タブ」ともいう)とを備えている。
【0067】
電池要素20は、
図4に示すように、複数の正極30と複数の負極40とがセパレータ25を間に挟んで交互に積層されたものである。正極30は、金属箔31の両面に電極材料32が塗布されており、負極40も、同様に、金属箔41の両面に電極材料42が塗布されている。
【0068】
二次電池は
図3のように電極タブが外装体の片側に引き出された構成であってもよいが、電極タブが外装体の両側に引き出されたものであってもいい。詳細な図示は省略するが、正極および負極の金属箔は、それぞれ、外周の一部に延長部を有している。負極金属箔の延長部は一つに集められて負極タブ52と接続され、正極金属箔の延長部は一つに集められて正極タブ51と接続される(
図4参照)。このように延長部どうし積層方向に1つに集めた部分は「集電部」などとも呼ばれる。
【0069】
フィルム外装体10は、この例では、2枚のフィルム10−1、10−2で構成されている。フィルム10−1、10−2どうしは電池要素20の周辺部で互いに熱融着されて密閉される。
図4では、このように密閉されたフィルム外装体10の1つの短辺から、正極タブ51および負極タブ52が同じ方向に引き出されている。
【0070】
当然ながら、異なる2辺から電極タブがそれぞれ引き出されていてもよい。また、フィルムの構成に関し、
図3、
図4では、一方のフィルム10−1にカップ部が形成されるとともに他方のフィルム10−2にはカップ部が形成されていない例が示されているが、この他にも、両方のフィルムにカップ部を形成する構成(不図示)や、両方ともカップ部を形成しない構成(不図示)なども採用しうる。
【0071】
[組電池]
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池を複数組み合わせて組電池とすることができる。組電池は、例えば、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池を2つ以上用い、直列、並列又はその両方で接続した構成とすることができる。直列および/または並列接続することで容量および電圧を自由に調節することが可能になる。組電池が備えるリチウムイオン二次電池の個数については、電池容量や出力に応じて適宜設定することができる。
【0072】
[車両]
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池またはその組電池は、車両に用いることができる。本実施形態に係る車両としては、ハイブリッド車、燃料電池車、電気自動車(いずれも四輪車(乗用車、トラック、バス等の商用車、軽自動車等)のほか、二輪車(バイク)や三輪車を含む)が挙げられる。なお、本実施形態に係る車両は自動車に限定されるわけではなく、他の車両、例えば電車等の移動体の各種電源として用いることもできる。
【0073】
[蓄電装置]
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池またはその組電池は、蓄電装置に用いることができる。本実施形態に係る蓄電装置としては、例えば、一般家庭に供給される商用電源と家電製品等の負荷との間に接続され、停電時等のバックアップ電源や補助電力として使用されるものや、太陽光発電等の、再生可能エネルギーによる時間変動の大きい電力出力を安定化するための、大規模電力貯蔵用としても使用されるものが挙げられる。
【実施例】
【0074】
[実施例1]
<リチウムイオン二次電池の作製>
結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を正極活物質の質量に対し3質量%、これ以外の残部は層状リチウムニッケル複合酸化物(LiNi
0.8Co
0.15Al
0.05O
2)を、攪拌混合に優れた自転公転式3軸ミキサーを用いてNMP中に均一に分散させて正極スラリーを調製した。厚さ20μmのアルミニウム箔の正極集電体にコーターを用いて正極スラリーを均一に塗布し、NMPを蒸発させて乾燥後、裏面も同様にコーティングし、乾燥後ロールプレスにて密度を調整し、集電体の両面に正極活物質層を作製した。単位面積当たりの正極活物質層の質量は、50mg/cm
2であった。
【0075】
負極活物質中の人造黒鉛(G/D比=4.8)とSiO(G/D比=0.84)の混合比率を95:5として、攪拌混合に優れた自転公転式3軸ミキサーを用いて、CMC(カルボキシメチルセルロース)の1質量%の水溶液中に均一に分散させて、その後結着材として、SBRバインダ(負極中の2質量%)を用いて、負極スラリーを調製した。厚さ10μmの銅箔の負極集電体にコーターを用いて負極スラリーを均一に塗布し、水分を蒸発させて乾燥後、裏面も同様にコーティングし、乾燥後ロールプレスにて密度を調整し、集電体の両面に正極活物質層を作製した。単位面積当たりの負極活物質層の質量は、20mg/cm
2であった。
【0076】
電解液は、エチレンカーボネート(EC):ジエチルカーボネート(DEC)=30:70(体積%)の溶媒に、電解質として1mol/LのLiPF
6を溶解した。
【0077】
得られた正極を13cmx7cm、負極を12cmx6cmに切断した。14cmx8cmのポリプロピレンセパレータで正極の両面を覆い、その上に正極活物質層と対向するように負極活物質層を配置し、電極積層体を作製した。次に、電極積層体を15cmx9cmの2枚のアルミラミネートフィルムで挟み、長辺の片側を除いた3辺を幅8mmで熱封止し、電解液を注入した後、残りの一辺を熱封止して、ラミネートセルの電池を作製した。
【0078】
<容量維持率の測定>
45℃の恒温槽中で300回の充放電サイクル試験を行い、その容量維持率を測定し、寿命を評価した。充電は、1Cの定電流充電を上限電圧4.2Vまで行い、続いて4.2Vで定電圧充電を行い、総充電時間を2.5時間で行った。放電は、1Cで定電流放電を2.5Vまで行った。充放電サイクル試験後の容量を測定し、充放電サイクル試験前の容量に対する割合を算出した。結果を表1に示す。
【0079】
<SEMによる断面確認>
電池の作製に用いたものと同様に作製した、アスペクト比確認用の負極を切断し、その断面をSEMにて観察した。20個のランダムに選択した人造黒鉛粒子および20個のランダムに選択したSiO粒子の数平均のアスペクト比をそれぞれ求めた。結果を表1に示す。
【0080】
<粒径の測定>
メジアン径を、レーザ回折散乱法による粒度分布測定装置により測定した。本実施例でセル評価に用いた人造黒鉛材の50%累積径D
50Gは14μm、本実施例でセル評価に用いたSiO材の50%累積径D
50Sは5μmと測定された。結果を表1に示す。
【0081】
<ラマン分光分析>
負極中の黒鉛材の結晶性について、レーザラマン分光測定装置を用いて測定した。レーザの励起波長は、532.15nmを用いて露光時間は20秒の2回の積算とした。G/D比について結果を表1に示す。
【0082】
[実施例2〜17]
各実施例において粒子形状が実施例1と異なり、表1に記載される通りのアスペクト比を有するSiO粒子と人造黒鉛粒子を使用し、実施例1と同様に負極を作製した。また層状リチウムニッケル複合酸化物についてもLiを1molとしたときの各金属のモル比率(%)を表1の通りとした、式Li
αNi
βCo
γMn
δO
2またはLi
αNi
βCo
γAl
δO
2で表されるリチウムニッケル複合酸化物を正極活物質として使用した。それ以外は実施例1と同様にリチウムイオン二次電池を作製し、容量維持率の測定およびSEMによる断面の観察からアスペクト比の算出を人造黒鉛、SiOそれぞれについて同様に行った。また人造黒鉛粒子およびSiO粒子の粒径、黒鉛のラマン分光G/D比も同様に測定した。結果を実施例1に加えて表1に示す。
【0083】
[比較例1〜18]
各比較例において粒子形状が実施例1〜17と異なり、表2に記載される通りのアスペクト比を有するSiO粒子と人造黒鉛粒子を使用し、実施例1と同様に負極を作製した。これ以外は実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製し、容量維持率の測定およびSEMによる断面の観察からアスペクト比を人造黒鉛、SiOそれぞれについて同様に算出した。また人造黒鉛およびSiO粒子の粒径、人造黒鉛のラマン分光G/D比も同様に測定した。結果を表2に示す。
【0084】
人造黒鉛粒子のアスペクト比(AG)とSiO粒子のアスペクト比(AS)の比率が0.6〜1.6の範囲内の値となっている実施例の方が、比較例よりも45℃300サイクル後の容量維持率が高い値となっており、サイクル特性が改善される傾向となっている。その中でもAG/ASが1である実施例が最もサイクル特性が良い結果であった。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】