(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
吸気カム軸のクランク軸に対する位相角を変える可変バルブタイミング機構である吸気VVTと、排気カム軸の上記クランク軸に対する位相角を変える可変バルブタイミング機構である排気VVTとを備え、
上記吸気VVT及び上記排気VVT各々は、上記クランク軸と連動して回転するハウジングと各々のカム軸と一体に回転するベーン体とにより区画され、油圧の供給により上記位相角を進角方向に変えるための進角室と、上記位相角を遅角方向に変えるための遅角室とを有する油圧作動式のVVTであるエンジンにおいて、
上記吸気VVTは、上記進角室の数が上記遅角室の数よりも多く、上記排気VVTは、上記遅角室の数が上記進角室の数と同じかそれよりも多く、
吸気弁の開弁期間と排気弁の開弁期間が重なるバルブオーバーラップ量が小さい状態から大きい状態になるように上記吸気弁及び上記排気弁の開閉タイミングを遅角させる上記エンジンの運転状態の過渡期の、上記排気弁の開閉タイミングの遅角速度が上記吸気弁の開閉タイミングの遅角速度よりも速いことを特徴とする可変バルブタイミング機構付エンジン。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、例えば、エンジンの低負荷ないし中負荷運転域において、吸気弁の開弁期間と排気弁の開弁期間が重なるバルブオーバーラップ量を増大させると、ポンピングロスが減少し、エンジンの燃費が良くなることが知られている。
【0006】
一方、エンジンの燃費向上の観点から、エンジンで駆動されるオイルポンプの吐出油圧は可能な限り低めに設定するようにされている。その場合、上記VVTが利用可能な油圧が低めに制限されるから、VVTの作動速度も利用可能な油圧の大きさに応じて制限されることになる。或いは、上記オイルポンプによる油圧を受けてエンジンの一部の気筒の吸気弁及び/又は排気弁の作動を停止させることで、エンジンの減気筒運転を実行する油圧作動式の弁停止機構を備えているケースでは、当該減気筒運転時、オイルポンプから弁停止機構に対する供給油圧が当該弁停止状態の維持に必要な油圧を下回らないように、上記VVTの作動速度が制限される。
【0007】
そのため、例えば、エンジン負荷の増大に伴って、吸気弁及び排気弁のバルブタイミングを遅角させてバルブオーバーラップ量が小さい運転状態から大きい運転状態に移行する場合、この移行過渡期にバルブオーバーラップ量を大きくすることが難しい。つまり、上記作動速度の制限により、排気側の遅角速度を吸気側の遅角速度に対して速めることが難しいから、バルブオーバーラップ量が小さい状態のままで吸気側及び排気側のバルブタイミングを遅角させていくことになる。そのため、上記過渡期においてポンピングロスが小さくならず、燃費が悪化する。しかも、上記作動速度の制限により、バルブタイミングの変更に時間がかかるから、ポンピングロスによる燃費の悪化がさらに大きくなる。
【0008】
そこで、本発明は、VVTが利用可能な油圧が制限されるなかで、バルブタイミングの進角又は遅角によってバルブオーバーラップ量が変更される過渡期のポンピングロスを低減することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記過渡期のポンピングロスが低減するように、吸気側VVT及び排気側VVT各々の進角室及び遅角室を構成した。
【0010】
ここに開示するVVT付エンジンは、吸気カム軸のクランク軸に対する位相角を変える吸気VVTと、排気カム軸の上記クランク軸に対する位相角を変える排気VVTとを備え、
上記吸気VVT及び上記排気VVT各々は、上記クランク軸と連動して回転するハウジングと各々のカム軸と一体に回転するベーン体とにより区画され、油圧の供給により上記位相角を進角方向に変えるための進角室と、上記位相角を遅角方向に変えるための遅角室とを有する油圧作動式のVVTであり
、
上記吸気VVTは上記進角室の数が上記遅角室の数よりも多く、上記排気VVTは上記遅角室の数が上記進角室の数と同じかそれよりも多
く、
吸気弁の開弁期間と排気弁の開弁期間が重なるバルブオーバーラップ量が小さい状態から大きい状態になるように上記吸気弁及び上記排気弁の開閉タイミングを遅角させる上記エンジンの運転状態の過渡期の、上記排気弁の開閉タイミングの遅角速度が上記吸気弁の開閉タイミングの遅角速度よりも速いことを特徴とする。
【0011】
上記吸気カム軸及び排気カム軸はいずれも、進角方向に回転することによって吸気弁及び排気弁をバルブスプリングの付勢力に抗してカムでリフトさせるから、バルブスプリングの付勢力がカム軸に対して遅角方向に働いている。従って、カム軸を遅角方向に回転させるに必要な駆動力は進角方向に比べて少ない。つまり、VVTのベーン体に作用する油圧が同じであれば、遅角速度の方が進角速度よりも速くなる。
【0012】
そうして
、上記VVT付エンジンにおいて
は、上記吸気VVTは、上記進角室の数が上記遅角室の数よりも多く、上記排気VVTは、上記遅角室の数が上記進角室の数と同じかそれよりも多くなっているから、排気側の遅角速度を吸気側の遅角速度よりも速くすることができる。そこで、吸気弁及び排気弁の開閉タイミングを遅角させてバルブオーバーラップ量が小さい状態から大きい状態に切り換える過渡期において、排気側の遅角速度
が吸気側の遅角速度よりも速く
なるようにしている。従って、バルブオーバーラップ量を速やかに増大させることができる。よって、ポンピングロスを低減させて燃費を向上させることができる。
【0013】
ここに開示する別のVVT付エンジンは、吸気カム軸のクランク軸に対する位相角を変える吸気VVTと、排気カム軸の上記クランク軸に対する位相角を変える排気VVTとを備え、
上記吸気VVT及び上記排気VVT各々は、上記クランク軸と連動して回転するハウジングと各々のカム軸と一体に回転するベーン体とにより区画され、油圧の供給により上記位相角を進角方向に変えるための進角室と、上記位相角を遅角方向に変えるための遅角室とを有する油圧作動式のVVTであり、
上記吸気VVTは、上記進角室の数が上記遅角室の数と同じかそれよりも多く、上記排気VVTは、上記遅角室の数が上記進角室の数よりも多く、
吸気弁の開弁期間と排気弁の開弁期間が重なるバルブオーバーラップ量が大きい状態から小さい状態になるように上記吸気弁及び上記排気弁の開閉タイミングを進角させる上記エンジンの運転状態の過渡期の、上記吸気弁の開閉タイミングの進角速度が上記排気弁の開閉タイミングの進角速度よりも速いことを特徴とする。
【0014】
このエンジンにおいて、進角速度に着目すると、吸気VVTでは進角室数が遅角室数と同じかそれよりも多く、排気VVTでは進角室数が遅角室数よりも少ないから、吸気側の進角速度を排気側の進角速度よりも速くすることができる。そこで、吸気弁及び排気弁の開閉タイミングを進角させてバルブオーバーラップ量が大きい状態から小さい状態に切り換える過渡期において、吸気側の進角速度を排気側の進角速度よりも速くなるようにしている。従って、バルブオーバーラップ量が大きい状態を暫時継続させることができる。よって、ポンピングロスの増大を抑えて燃費を向上させることができる。
【0015】
一実施形態では、上記吸気VVTのハウジングと上記排気VVTのハウジングとを上記クランク軸によって互いに逆方向に回転するように駆動する伝動手段を備え、
上記吸気VVTの進角室数と上記排気VVTの遅角室数が同数であり、上記吸気VVTの遅角室数と上記排気VVTの進角室数が同数である。
【0016】
吸気VVTのハウジングと排気VVTのハウジングが互いに逆方向に回転するということは、次のことを意味する。ベーン体を一方向に回動させるための第1作動室とベーン体を他方向に回動させるための第2作動室を備えた油圧作動式VVTを吸気VVTとして採用したときに、第1作動室が進角室となり、第2作動室が遅角室となるときは、当該油圧作動式VVTを排気VVTとして採用すると、吸気VVTの場合とは逆に、第1作動室が遅角室となり、第2作動室が進角室となる。
【0017】
そこで、当該実施形態では、吸気VVTの進角室数と排気VVTの遅角室数が同数であり、吸気VVTの遅角室数と排気VVTの進角室数が同数であるという条件下で、吸気VVTのハウジングと排気VVTのハウジングを互いに逆方向に回転させるようにした。従って、吸気VVT及び排気VVT各々に、同じ構造の油圧作動式VVTを採用することができるようになる。よって、吸気VVT及び排気VVT各々に専用の油圧作動式VVTを設ける必要がなくなるため、製造コストの低減に有利になる。
【0018】
一実施形態では、エンジン補機として、上記エンジンの燃焼室に燃料を供給する高圧燃料ポンプを備え、
上記吸気VVTは、上記進角室数が上記遅角室数よりも多くなっており、
上記吸気カム軸に上記燃料ポンプを駆動するカム部が設けられている。
【0019】
燃料ポンプをカム軸によってカム駆動する場合、そのカム軸は進角方向の回転負荷が大きくなる。これに対して、上記吸気VVTでは、進角室数が遅角室数よりも多いから、排気VVTと比べると、吸気カム軸の進角方向の回転負荷に余裕がある。そこで、当該実施形態では、燃料ポンプを吸気カム軸によってカム駆動するようにした。これにより、吸気弁の開閉や開閉タイミングの変更に支障を来すことなく、燃料ポンプを安定して作動させることが容易になる。また、燃料ポンプをエンジンの吸気側に配置し易くなるから、安全面でも有利になる。
【発明の効果】
【0020】
吸気弁の開弁期間と排気弁の開弁期間が重なるバルブオーバーラップ量が小さい状態から大きい状態になるように吸気弁及び排気弁の開閉タイミングを遅角させるエンジン運転状態の過渡期の排気弁の開閉タイミングの遅角速度を吸気弁の開閉タイミングの遅角速度よりも速くした発明によれば、当該過渡期において、バルブオーバーラップ量を速やかに増大させることができる。よって、吸気VVT及び排気VVTが利用可能な油圧が制限されるなかで、開閉タイミング
の遅角によってバルブオーバーラップ量が変更される過渡期のポンピングロスを少なくすることができ、燃費の向上に有利になる。
【0021】
また、上記バルブオーバーラップ量が大きい状態から小さい状態になるように吸気弁及び排気弁の開閉タイミングを進角させるエンジン運転状態の過渡期の吸気弁の開閉タイミングの進角速度を排気弁の開閉タイミングの進角速度よりも速くした発明によれば、当該過渡期において、バルブオーバーラップ量が大きい状態を暫時継続させることができる。よって、吸気VVT及び排気VVTが利用可能な油圧が制限されるなかで、開閉タイミングの進角によってバルブオーバーラップ量が変更される過渡期のポンピングロスを少なくすることができ、燃費の向上に有利になる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0024】
(エンジンの構成)
図1に示すエンジン2は、例えば、第1気筒から第4気筒が
図1の紙面に垂直な方向に直列に順次配置された直列4気筒ガソリンエンジンであって、自動車等の車両に搭載される。
【0025】
エンジン2においては、ヘッドカバー3、シリンダヘッド4、シリンダブロック5、クランクケース(図示せず)及びオイルパン6(
図10を参照。)が上下に連結されている。また、シリンダブロック5に形成された4つのシリンダボア7内をそれぞれに摺動可能なピストン8と、上記クランクケースに回転自在に支持されたクランク軸9とは、コネクティングロッド10によって連結されている。シリンダブロック5のシリンダボア7とピストン8とシリンダヘッド4とによって燃焼室11が気筒ごとに形成されている。
【0026】
シリンダヘッド4には、燃焼室11にそれぞれ開口する吸気ポート12及び排気ポート13が設けられている。吸気ポート12及び排気ポート13には、それぞれを開閉する吸気弁14及び排気弁15が配設されている。吸気弁14及び排気弁15は、それぞれバルブスプリング16、17により閉方向(
図1の上方)に付勢されている。吸気カム軸18及び排気カム軸19各々の外周に設けたカム部18a、19aによって、スイングアーム20、21のほぼ中央部に回転自在に設けられたカムフォロア20a、21aが下方に押される。これにより、スイングアーム20、21は、それぞれの一端側に設けられたピボット機構25aの頂部を支点として揺動する。これにより、各スイングアーム20、21の他端部において、吸気弁14及び排気弁15がバルブスプリング16、17の付勢力に抗して下方に押されて開動する。
【0027】
エンジン2の気筒列方向の中央部に位置する第2気筒及び第3気筒のスイングアーム20、21におけるピボット機構(後述するHLA25のピボット機構25aと同様の構成を採る。)として、油圧によりバルブクリアランスを自動的に0に調整する公知の油圧ラッシュアジャスタ24(以下、Hydraulic Lash Adjusterの略記を用いてHLA24と呼ぶ。)が設けられている。なお、HLA24は、
図10にのみ示す。
【0028】
エンジン2の気筒列方向の両端部に位置する第1気筒及び第4気筒のスイングアーム20、21に対しては、ピボット機構25aを有する弁停止機構付きHLA25が設けられている。この弁停止機構付きHLA25のピボット機構25aは、上記のHLA24と同様に油圧によりバルブクリアランスを自動的に0に調整可能に構成されている。これに加え、HLA25の弁停止機構は、エンジン2の一部の気筒である第1気筒及び第4気筒の作動を休止させる減気筒運転時には、第1気筒及び第4気筒の吸排気弁14、15の作動を停止(開閉動作を停止)させる一方、全気筒(4気筒)を作動させる全気筒運転時には、第1気筒及び第4気筒の吸排気弁14、15を作動(開閉動作)させる。なお、第2気筒及び第3気筒の吸排気弁14、15は、減気筒運転時及び全気筒運転時の双方で作動する。減気筒運転及び全気筒運転は、エンジン2の運転状態に応じて適宜切り替えられる。
【0029】
シリンダヘッド4における第1及び第4気筒に対応する吸気側及び排気側の部分には、弁停止機構付きHLA25の下端部を挿入して装着するための装着穴26、27が設けられている。シリンダヘッド4における第2気筒及び第3気筒に対応する吸気側及び排気側の部分には、HLA24の下端部を挿入して装着するための装着穴が設けられている。さらに、シリンダヘッド4には、弁停止機構付きHLA25用の装着穴26、27にそれぞれ連通する2つずつの油路(61、63)、(62、64)が穿設されている。弁停止機構付きHLA25が装着穴26、27に嵌合された状態で、各油路61、62から、弁停止機構付きHLA25の弁停止機構25b(
図2(a)〜
図2(c)を参照。)に油圧(作動圧)が供給される。一方、油路63、64から、弁停止機構付きHLA25のピボット機構25aがバルブクリアランスを自動的に0に調整するための油圧が供給される。HLA24用の装着穴には、油路63、64のみが連通している。各油路61〜64については、
図10により後に詳述する。
【0030】
シリンダブロック5には、シリンダボア7の排気側の側壁内を気筒列方向に延びるメインギャラリ54が設けられている。メインギャラリ54の下側の近傍には、該メインギャラリ54と連通するピストン冷却用のオイルジェット28が設けられている。オイルジェット28は、ピストン8の下側に配置されたノズル部28aを有しており、該ノズル部28aからピストン8の頂部の裏面に向けてオイル(エンジンオイル)を噴射する。
【0031】
各カム軸18、19の上方には、パイプで形成されたオイルシャワー29、30が設けられている。オイルシャワー29、30から潤滑用のオイルがカム軸18、19のカム部18a、19aと、さらに下方に位置するスイングアーム20、21及びカムフォロア20a、21aの接触部とに滴下する。
【0032】
ここで、
図2を参照しながら、弁停止機構25bについて説明する。弁停止機構25bは、エンジン2の一部の気筒である第1気筒及び第4気筒の吸排気弁14、15のうち少なくとも一方の弁(本実施形態では、両方の弁)の作動を停止する。エンジン2の減気筒運転時には、弁停止機構25bによって第1気筒及び第4気筒の各吸排気弁14、15の開閉動作が停止する。また、エンジン2の全気筒運転時には、弁停止機構25bによる弁の作動停止が解除され、第1気筒及び第4気筒の各吸排気弁14、15の開閉動作が行われる。
【0033】
弁停止機構25bには、
図2(a)に示すように、ピボット機構25aの動作をロックするロック機構250が設けられている。ロック機構250は、一対のロックピン252(ロック部材)を備えている。各ロックピン252は、ピボット機構25aを軸方向に摺動自在に収納する有底外筒251の側面の径方向に対向する2箇所に形成した貫通孔251aにそれぞれ出入り可能に設けられている。一対のロックピン252は、スプリング253により径方向の外側へ付勢されている。外筒251の内底部とピボット機構25aの底部との間には、ピボット機構25aを外筒251の上方に押圧して付勢するロストモーションスプリング254が設けられている。
【0034】
上記の両ロックピン252が外筒251の貫通孔251aに嵌合している場合には、該両ロックピン252の上方に位置するピボット機構25aが上方に突出した状態で固定される。この場合には、ピボット機構25aの頂部がスイングアーム20、21の揺動の支点となるため、カム軸18、19の回転によりそのカム部18a、19aがカムフォロア20a、21aを下方に押すと、吸排気弁14、15がバルブスプリング16、17の付勢力に抗して下方に押されて開弁する。このように、第1気筒及び第4気筒において、ロックピン252が弁停止機構25bを貫通孔251aに嵌合した状態とすることにより、エンジン2は全気筒運転を行うことができる。
【0035】
一方、
図2(b)及び
図2(c)に示すように、作動油圧によって上記の両ロックピン252の外側端面が押圧されると、スプリング253の付勢力に抗して、両ロックピン252が互いに接近するように外筒251の径方向の内側に後退する。その結果、両ロックピン252が外筒251の貫通孔251aから抜けるので、ロックピン252の上方に位置するピボット機構25aがロックピン252と共に外筒251の軸方向の下側に移動して弁停止状態となる。
【0036】
すなわち、吸排気弁14、15を上方に付勢するバルブスプリング16、17が、ピボット機構25aを上方に付勢するロストモーションスプリング254よりも付勢力が強くなるように構成されている。これにより、カム軸18、19の回転により各カム部18a、19aがカムフォロア20a、21aをそれぞれ下方に押すと、吸排気弁14、15の頂部が各スイングアーム20、21の揺動の支点となる。その結果、吸排気弁14、15は閉弁されたまま、ピボット機構25aがロストモーションスプリング254の付勢力に抗して下方に押される。従って、作動油圧によりロックピン252を貫通孔251aに対して非嵌合の状態にすることにより、減気筒運転を行うことができる。
【0037】
(吸気VVT及び排気VVT)
図3に示すように、吸気カム軸18及び排気カム軸19は気筒115の列方向に延びている。吸気カム軸18の一端に吸気VVT32が設けられ、排気カム軸19の一端に排気VVT33が設けられている。吸気VVT32及び排気VVT33各々の後述するハウジング201(
図5,6,8,9参照)には互いに噛み合うギヤ101,102が固定されている。このギヤ101,102の噛合により、吸気VVT32と排気VVT33は、カム軸18,19と共に互いに逆方向に回転する。
【0038】
吸気カム軸18及び排気カム軸19各々の他端部近傍には、該カム軸18,19の回転位相を検出し、このカム角に基づいてVVT32,33の位相角を検出するカム角センサ74が設けられている。さらに、吸気カム軸18の他端には、エンジン2の燃焼室11に燃料を供給する高圧燃料ポンプ81を駆動するポンプカム106が設けられている。ポンプカム106によって燃料ポンプ81のプランジャ81aが駆動され、燃料ポンプ81からエンジン2の燃焼室11に燃料を供給する燃料噴射弁に高圧の燃料が供給され
る。
【0039】
そうして、
図4に示すように、排気VVT33のハウジング201に固定されたカムプーリ(スプロケット)203とクランク軸プーリ(スプロケット)9Aにタイミングチェーン108が巻き掛けられている。クランク軸プーリ9Aとカムプーリ203との間には、中間スプロケット111、油圧式のチェーンテンショナ112及びチェーンガイド113が配設されている。
【0040】
上記ギヤ101,102及びタイミングチェーン108は、吸気VVT32のハウジング201と排気VVT33のハウジング201とをクランク軸9によって互いに逆方向に回転するように駆動する伝動手段を構成している。
【0041】
(排気VVTの構造)
先に排気VVTについて説明する。
図5〜
図7は排気VVT33を示している。なお、
図7には、排気VVT33の作動を油圧により制御する排気側油圧制御弁(Oil Control Valve)35も図示している。
【0042】
排気VVT33は、油圧作動式であり、ほぼ円環状のハウジング201と、該ハウジング201の内部に収容されたベーン体202とを有する。ハウジング201は、クランク軸9と同期して回転するカムプーリ203と一体回転可能に連結されており、クランク軸9と連動して回転する。ベーン体202は、複数のベーン202aを有し、
図7に示すように、締結ボルト205により、排気カム軸19と一体回転可能に連結されている。
【0043】
ハウジング201の内部には、該ハウジング201とベーン体202とによって区画された複数の進角室207及び複数の遅角室208が形成されている。進角室207及び遅角室208は、
図7に示すように、それぞれ進角側油路211及び遅角側油路212を介して、排気側油圧制御弁(第1方向切替弁)35と接続されている。排気側油圧制御弁35は可変容量型オイルポンプ36と接続されている。排気カム軸19及びベーン体202には、これら進角側油路211及び遅角側油路212の一部を構成する進角側通路215及び遅角側通路216がそれぞれ形成されている。
【0044】
図5は、各遅角側通路216を通して供給されたオイルにより、各ベーン202aがカムプーリ203に対して、すなわちクランク軸9に対して、最遅角位置に保持されている状態を示す。これとは逆に、
図6は、各進角側通路215を通して供給されたオイルにより、各ベーン202aがカムプーリ203に対して最進角位置に保持されている状態を示す。
【0045】
進角側通路215は、ベーン体202において中心部近傍から放射状に延びて各進角室207とそれぞれ接続されている。遅角側通路216は、ベーン体202において中心部近傍から放射状に延びて各遅角室208とそれぞれ接続されている。
【0046】
図6に示す室207aは進角側通路215と連通しておらず、オイルの供給はなく、ベーン202aに対する回転トルクは生じない。すなわち、室207aは進角室を構成しない。よって、進角室207の数は遅角室208の数よりも一つ少ない。本実施形態の排気VVT33は、3つの進角室207と4つの遅角室208を備えている。
【0047】
図7に示すように、排気VVT33には、該排気VVT33の動作をロックするロック機構230が設けられている。なお、
図5及び
図6ではロック機構230の図示を省略している。ロック機構230は、排気カム軸19のクランク軸9に対する位相角を最進角と最遅角の中間の位相角でロックするためのロックピン231を有する。
【0048】
ロックピン231は、ハウジング201の径方向に摺動可能に配設されている。ハウジング201におけるロックピン231に対する該ハウジング201の径方向の外側の部分には、ばねホルダ232が固定されている。このばねホルダ232とロックピン231との間には、該ロックピン231をハウジング201の径方向の内側に付勢するロックピン付勢ばね233が設けられている。ベーン体202の外周面のベーン202aが形成されていない部分に設けられた嵌合凹部202bがロックピン231と対向する位置にあるときには、ロックピン付勢ばね233によって、ロックピン231が嵌合凹部202bと嵌合してロック状態となる。これにより、ベーン体202がハウジング201に固定されて、排気カム軸19のクランク軸9に対する位相角がロックされる。
【0049】
図7に示すように、排気側油圧制御弁35は、3ポート3位置の電磁弁であり、供給ポート351がオイルポンプ36に接続され、出力ポート352,353が進角側通路215及び遅角側通路216にそれぞれ接続されている。
図7において、符号354は、スプール356に電磁力を作用させるソレノイドである。
【0050】
図7は供給ポート351が出力ポート352に連通した状態を示している。その連通度に応じた量のオイルが排気VVT33の進角室207に供給される。これにより、ベーン体202が進角方向に回動し、遅角室208の容積が縮小される。この容積縮小に伴って遅角室208から排出されるオイルが出力ポート353からドレンポート357を通ってオイルパン6にドレンされる。
【0051】
スプール356がリターンスプリング359の付勢に抗して前進(
図7における下方へ移動)し、出力ポート352及び353の両方が閉じられた中立位置になると、進角室207及び遅角室208へのオイルの供給が遮断される。
【0052】
スプール356がリターンスプリング359の付勢に抗してさらに前進すると、供給ポート351が出力ポート353に連通した状態になる。これにより、オイルが排気VVT33の遅角室208に供給されてベーン体202が遅角方向に回動し、進角室207の容積縮小に伴ってこの進角室207から排出されるオイルが出力ポート352からドレンポート358を通ってオイルパン6にドレンされる。
【0053】
以上のように、排気油圧制御弁35によって、排気VVT33の進角室207及び遅角室208へのオイルの供給を制御し、排気側の開閉タイミングを変更することができる。具体的には、進角室207に遅角室208よりも多くの供給量(高い油圧)でもってオイルを供給すると、排気カム軸19がハウジング201に対して該カム軸19の回転方向(
図5及び
図6の矢印方向)に回動して、排気弁15の開時期が早くなる。一方、遅角室208に進角室207よりも多くの供給量(高い油圧)でもってオイルを供給すると、排気カム軸19がその回転方向とは逆方向に回動して、排気弁15の開時期が遅くなる(
図5参照)。
【0054】
(吸気VVT32の構造)
図8及び
図9は吸気VVT32を示している。この吸気VVT32には、排気VVT33と同じ構造の油圧作動式VVTを採用している。この場合、上述の如く、吸気VVT32と排気VVT33は互いに逆方向に回転するから、排気VVT33の進角室207を構成する要素は吸気VVT32では遅角室208になり、排気VVT33の遅角室208を構成する要素は吸気VVT32では進角室207となる。同じく、排気VVT33の進角側通路215を構成する要素は吸気VVT32では遅角側通路216となり、排気VVT33の遅角側通路216を構成する要素は吸気VVT32では進角側通路215となる。
【0055】
従って、吸気VVT32では、進角室207の数が4つとなり、遅角室208の数が3つになっている。吸気VVT32は
図10に示す吸気側油圧制御弁(第1方向切換弁)34に接続されている。吸気側油圧制御弁34は、排気側油圧制御弁35と同じく3ポート3位置の電磁弁である。具体的な図示は省略するが、吸気油圧制御弁34の場合、
図7に示す排気側油圧制御弁35の出力ポート352に相当するポートが遅角用出力ポートとなり、出力ポート353に相当するポートが進角用出力ポートなる。
【0056】
(オイル供給装置)
図10に示すように、エンジン2にオイルを供給するオイル供給装置1は、クランク軸9の回転によって駆動される可変容量型オイルポンプ36と、該オイルポンプ36と接続され、オイルポンプ36によって昇圧されたオイルをエンジン2の潤滑部及び排気VVT33等の油圧作動装置に導く給油路50(油圧経路)とを備えている。
【0057】
給油路50は、第1連通路51と、メインギャラリ54と、第2連通路52と、第3連通路53と、複数の油路61〜69とから構成されている。
【0058】
第1連通路51は、オイルポンプ36の吐出口361bから、シリンダブロック5内の分岐点54aまで延びている。メインギャラリ54は、シリンダブロック5内で気筒列方向に延びている。第2連通路52は、メインギャラリ54上の分岐点54bからシリンダヘッド4まで延びている。第3連通路53は、シリンダヘッド4内で吸気側と排気側との間をほぼ水平方向に延びている。複数の油路61〜69は、シリンダヘッド4内で第3連通路53から分岐している。
【0059】
オイルポンプ36は、ハウジング361と、駆動軸362と、ポンプ要素と、カムリング366と、スプリング367と、リング部材368とを有している。
【0060】
ハウジング361は、一端側が開口するように形成され、且つ内部が断面円形状の空間からなるポンプ収容室を有するポンプボディと該ポンプボディの上記一端側の開口を閉塞するカバー部材とから構成される。駆動軸362は、ハウジング361に回転自在に支持され、ポンプ収容室のほぼ中心部を貫通し、且つクランク軸9によって回転駆動される。ポンプ要素は、ポンプ収容室内に回転自在に収容されて中心部が駆動軸362に結合されたロータ363及び該ロータ363の外周部に放射状に切欠き形成された複数のスリット内にそれぞれ出没自在に収容されたべーン364から構成される。カムリング366は、ポンプ要素の外周側にロータ363の回転中心に対して偏心可能に配置され、ロータ363及び相隣接するベーン364と共に複数の作動油室であるポンプ室365を画成する。スプリング367は、ポンプボディ内に収容され、ロータ363の回転中心に対するカムリング366の偏心量が増大する側へ、カムリング366を常時付勢する付勢部材である。リング部材368は、ロータ363の内周側の両側部に摺動自在に配置され、ロータ363よりも小径の一対のリング状部材である。
【0061】
また、ハウジング361は、内部のポンプ室365にオイルを供給する吸入口361aと、ポンプ室365からオイルを吐出する吐出口361bとを有している。ハウジング361の内部には、該ハウジング361の内周面とカムリング366の外周面とによって画成された圧力室369が形成されており、該圧力室369にはそれに開口する導入孔369aが設けられている。
【0062】
このように、オイルポンプ36は、導入孔369aから圧力室369にオイルを導入することにより、カムリング366が支点361cに対して揺動して、ロータ363がカムリング366に対して相対的に偏心し、該オイルポンプ36の吐出容量が変化するように構成されている。
【0063】
オイルポンプ36の吸入口361aには、オイルパン6に臨むオイルストレーナ39が接続されている。オイルポンプ36の吐出口361bと連通する第1連通路51には、上流側から下流側に順に、オイルフィルタ37及びオイルクーラ38が配置されている。オイルパン6内に貯留されたオイルは、オイルポンプ36により、オイルストレーナ39を通して汲み上げられ、その後、オイルフィルタ37で濾過され、且つオイルクーラ38で冷却された後、シリンダブロック5内のメインギャラリ54に導入される。
【0064】
メインギャラリ54は、上述した、4つのピストン8の背面側に冷却用オイルを噴射するためのオイルジェット28と、クランク軸9を回動自在に支持する5つのメインジャーナルに配置されたメタルベアリングのオイル供給部41と、4つのコネクティングロッドを回転自在に連結する、クランク軸9のクランクピンに配置されたメタルベアリングのオイル供給部42とに接続されている。メインギャラリ54には、オイルが常時供給される。
【0065】
メインギャラリ54上の分岐点54cの下流側には、油圧式チェーンテンショナにオイルを供給するオイル供給部43と、リニアソレノイド弁49を介してオイルポンプ36の圧力室369に、導入孔369aからオイルを供給する油路40とが接続されている。
【0066】
排気弁側のオイル供給系を説明する。第3連通路53の分岐点53aから分岐する油路68は、排気VVT33の油圧制御弁35と接続されている。分岐点53aから分岐する油路64は、オイル供給部45(
図10の白抜き三角△を参照。)と、HLA24(
図10の黒三角▲を参照。)と、弁停止機構付きHLA25(
図10の白抜き楕円を参照。)とに接続されている。オイル供給部45は、排気側のカム軸19のカムジャーナルにオイルを供給する。油路64には、オイルが常時供給される。さらに、油路64の分岐点64aから分岐する油路66は、排気側のスイングアーム21に潤滑用オイルを供給するオイルシャワー30と接続されており、該油路66にもオイルが常時供給される。
【0067】
次に吸気弁側のオイル供給系を説明する。第3連通路53の分岐点53cから分岐する油路67は、吸気側油圧制御弁34に接続されている。この吸気側油圧制御弁34の制御により、進角側油路211及び遅角側油路212を介して、吸気VVT32の進角室207及び遅角室208にオイルがそれぞれ供給される。この油路67には、該油路67の油圧を検出する油圧センサ70が配設されている。また、分岐点53dから分岐する油路63は、吸気カム軸18のカムジャーナルのオイル供給部44(
図10の白抜き三角△を参照)と、HLA24(
図10の黒三角▲を参照)と、弁停止機構付きHLA25(
図10の白抜き楕円を参照)と、燃料ポンプ81と、バキュームポンプ82とに接続されている。バキュームポンプ82は、カム軸18により駆動され、ブレーキマスタシリンダの圧力を確保する。さらに、油路63の分岐点63aから分岐する油路65は、吸気側のスイングアーム20に潤滑用オイルを供給するオイルシャワー29に接続されている。
【0068】
第3連通路53の分岐点53cから分岐する油路69には、オイルの流れる方向を上流側から下流側への一方向のみに規制する逆止弁48が配設されている。この油路69は、逆止弁48の下流側の分岐点69aで、弁停止機構付きHLA25用の装着穴26,27に連通する上記2つの油路61,62に分岐する。油路61,62は、吸気側第2方向切替弁46及び排気側第2方向切替弁47を介して、吸気側及び排気側の弁停止機構付きHLA25の弁停止機構25bにそれぞれ接続されている。吸気側及び排気側第2方向切替弁46,47を制御することで各弁停止機構25bにオイルが供給されるように構成されている。
【0069】
クランク軸9を回転自在に支持するメタルベアリングや、ピストン8、カム軸18,19等に供給された潤滑用及び冷却用のオイルは、冷却や潤滑を終えた後、図示しないドレイン油路を通ってオイルパン6内に滴下し、オイルポンプ36により再び環流される。
【0070】
(制御系)
エンジン2の作動は、コントローラ100によって制御される。コントローラ100には、エンジン2の運転状態を検出する各種センサからの検出情報が入力される。コントローラ100は、例えば、クランク角センサ71によりクランク軸9の回転角度を検出し、この検出信号に基づいてエンジン回転速度を検出する。また、アクセルポジションセンサ72により、エンジン2が搭載された車両の乗員によるアクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)を検出し、これに基づいて要求トルクを算出する。さらに、油圧センサ70により油路67の圧力を検出する。また、油圧センサ70とほぼ同じ位置に設けた油温センサ73により、油路67におけるオイルの温度を検出する。なお、油圧センサ70及び油温センサ73は、給油路50におけるいずれの場所に配設してもよい。さらに、カム角センサ74によって、検出されるVVT32,33の現在の位相角に基づいて、エンジン2の運転状態に応じて設定した目標の位相角になるように、VVT32,33の油圧制御弁31,35が作動される。また、水温センサ75によって、エンジン2を冷却する冷却水の温度(以下、水温という)を検出する。
【0071】
コントローラ100は、公知のマイクロコンピュータをベースとする制御装置であって、各種センサ(油圧センサ70、クランク角センサ71、スロットルポジションセンサ72、油温センサ73、カム角センサ74、及び水温センサ75等)からの検出信号を入力する信号入力部と、制御に係る演算処理を行う演算部と、制御対象となる装置(油圧制御弁35,46,47、及びリニアソレノイド弁49等)に制御信号を出力する信号出力部と、制御に必要なプログラム及びデータ(油圧制御マップ及びデューティ比マップ等)を記憶する記憶部とを有している。
【0072】
リニアソレノイド弁49は、エンジン2の運転状態に応じてオイルポンプ36の吐出量を制御するための流量(吐出量)制御弁である。リニアソレノイド弁49の開弁時に、オイルポンプ36の圧力室369にオイルが供給されるように構成されている。ここでは、リニアソレノイド弁49自体の構成は公知であるため説明を省略する。
【0073】
コントローラ100は、リニアソレノイド弁49に対し、エンジン2の運転状態に応じたデューティ比の制御信号を送信して、該リニアソレノイド弁49を介して、オイルポンプ36の圧力室369に供給する油圧を制御する。この圧力室369の油圧により、カムリング366の偏心量を制御してポンプ室365の内部容積の変化量を制御することによって、オイルポンプ36の流量(吐出量)を制御する。すなわち、上記のデューティ比によって、オイルポンプ36の容量が制御される。
【0074】
(VVT32,33の制御)
図11は排気VVT33の制御方法を示すブロック図である。エンジン運転状態(エンジン回転数及び空気充填効率)に対応して設定された排気VVT要求進角マップC01から、エンジン運転状態に応じて、排気VVT33の要求進角量が取得される。取得されたマップ要求進角量は、排気VVT速度制限要求ブロックC04に入力される。
【0075】
一方、ブロックC02において、エンジン油温に基づいて、排気VVT33の作動速度の制限値が取得される。減気筒運転と全気筒運転各々について、別個の油温−速度制限テーブルが予め作成されており、そのテーブルから排気VVT33の作動速度の制限値が取得される。
【0076】
各テーブルから取得された速度制限値は、スイッチブロックC03に入力される。スイッチブロックC03には、上記テーブルの速度制限値の他、減気筒運転時には「減気筒判定運転判定」が入力され、全気筒運転時には、弁停止維持のための「速度制限なし」が入力される。そして、減気筒運転時には、減気筒運転用の油温−速度制限テーブルから取得された速度制限値が排気VVT速度制限要求ブロックC04に入力される。全気筒運転時には、全気筒運転用の油温−速度制限テーブルから取得された速度制限値が排気VVT速度制限要求ブロックC04に入力される。
【0077】
排気VVT速度制限要求ブロックC04からは、排気VVT要求進角量が出力される。この排気VVT要求進角量と現時点の排気VVT実進角量との差分が算出される。この差分から、進角量の要求値(目標値)と実進角量との偏差が算出されて、進角F/B制御ブロックC05に入力される。
【0078】
進角F/B制御ブロックC05において、入力された進角量の目/実偏差に基づいて、例えばPID(Proportional-Integral-Differential)制御法により上記排気VVT33の作動速度の制限値に応じたOCV駆動デューティ比が求められ、油圧制御弁35が駆動される。
【0079】
図示は省略するが、吸気VVT32の制御方法も、排気VVT33と同様であって、エンジン運転状態(エンジン回転数及び空気充填効率)に対応して設定された吸気VVT要求進角マップ、エンジン油温に対応して減気筒運転と全気筒運転各々に設定された油温−速度制限テーブルを用いて、吸気VVT32の作動が制御される。
【0080】
(バルブタイミングの変更例)
図12はエンジン2が中回転・中負荷運転状態から低回転・低負荷運転状態に移行するときの、上記VVT要求進角マップに基づいて設定される吸排気弁14,15の開閉タイミングの変化を示す。同図の細実線は移行前の開閉タイミングを示し、太実線は移行後の開閉タイミングを示す。これは、吸排気弁14,15の開閉タイミングを進角させて、バルブオーバーラップ量が大きい運転状態から小さい運転状態へ移行するケースである。
【0081】
上述の如く、吸気VVT32の進角室207の数は「4」、遅角室208の数は「3」であり、一方、排気VVT33の進角室207の数は「3」、遅角室208の数は「4」である。すなわち、吸気VVT32は排気VVT33よりも進角室207の数が多い。そのため、VVT32,33に加わる油圧が同じであるとき、吸気弁14の開閉タイミングの進角速度が排気弁15の開閉タイミングの進角速度よりも速くなる。
【0082】
従って、VVT32,33を同時に作動させたとき、
図12に示すように、排気弁15の開閉タイミングが同図の細実線位置から例えば同図の破線位置まで少ししか進角していないときに、吸気弁14の開閉タイミングは同図の細実線位置から太実線位置まで大きく進角する。これにより、バルブオーバーラップ量が大きい状態から小さい状態に切り換わる過渡期において、バルブオーバーラップ量が比較的大きい状態が暫時継続することになる(バルブオーバーラップ量を一時的に増大させることもできる。)。よって、当該過渡期にポンピングロスの増大を抑えて燃費を向上させることができる。
【0083】
図13はエンジン2が低回転・低負荷運転状態から中回転・中負荷運転状態に移行するときの、上記VVT要求進角マップに基づいて設定される吸排気弁14,15の開閉タイミングの変化を示す。同図の
太実線は移行前の開閉タイミングを示し、
細実線は移行後の開閉タイミングを示す。これは、吸排気弁14,15の開閉タイミングを遅角させて、バルブオーバーラップ量が小さい運転状態から大きい運転状態へ移行するケースである。
【0084】
上述の如く、排気VVT33は吸気VVT32よりも遅角室208の数が多いため、VVT32,33に加わる油圧が同じであるとき、排気弁15の開閉タイミングの遅角速度が吸気弁14の開閉タイミングの遅角速度よりも速い。
【0085】
従って、VVT32,33を同時に作動させたとき、
図13に示すように、吸気弁14の開閉タイミングが同図の細実線位置から例えば同図の鎖線位置まで少ししか遅角していないときに、排気弁15の開閉タイミングは同図の細実線位置から破線位置まで大きく遅角する。これにより、バルブオーバーラップ量が小さい状態から大きい状態に切り換わる過渡期において、バルブオーバーラップ量が速やかに増大することになる。よって、ポンピングロスを低減させて燃費を向上させることができる。
【0086】
以上のように、吸気VVT32及び排気VVT33が利用可能な油圧が制限され、該VVT32,33の作動速度が制限されるなかでも、開閉タイミングの進角又は遅角によってバルブオーバーラップ量が変更される過渡期のポンピングロスを少なくすることができ、燃費の向上に有利になる。
【0087】
また、上記実施形態では、排気VVT33では進角室数が遅角室数よりも少ないが、吸気VVT32では進角室数の方が遅角室数よりも多いから、吸気カム軸18は排気カム軸19に比べて進角方向の回転負荷に余裕がある。このことを利用して、当該実施形態では、燃料ポンプ105を吸気カム軸18によってカム駆動するようにしている。従って、吸気弁14の開閉や開閉タイミングの変更に支障を来すことなく、燃料ポンプ105を安定して作動させることが容易になる。また、燃料ポンプ105をエンジン2の吸気側に配置し易くなるから、安全面でも有利になる。
【0088】
上記実施形態では、吸気VVT32の進角室数を遅角室数よりも多くし、排気VVT33の遅角室数を進角室数よりも多くしたが、吸気VVT32の進角室数を遅角室数よりも多くするときは、排気VVT33の遅角室と進角室を同数にしてもよく、また、排気VVT33の遅角室数を進角室数よりも多くするときは、吸気VVT32の進角室と遅角室を同数にしてもよい。