(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アクセル操作量に応じた制動力又は駆動力を車両に与えるモータを備え、前記アクセル操作量が所定値未満の時は前記制動力を制御し、前記アクセル操作量が所定値以上の時は前記駆動力を制御する電動車両の制御方法において、
勾配に関連する抵抗成分として前記モータに作用する外乱トルクを推定し、
前記制動力を前記外乱トルク推定値に応じて前記抵抗成分を打ち消すように増減させる補正を実行し、
所定勾配以上の降坂路では、前記制動力の補正量を低減し、
前記所定勾配において前記アクセル操作量が0の場合に車両の停車状態を維持するトルク値に基づいて、前記補正量の上限値を算出する、
電動車両の制御方法。
アクセル操作量に応じた制動力又は駆動力を車両に与えるモータと、前記アクセル操作量が所定値未満の時は前記制動力を制御し、前記アクセル操作量が所定値以上の時は前記駆動力を制御するコントローラと、を備える電動車両の制御装置において、
前記コントローラは、
勾配に関連する抵抗成分として前記モータに作用する外乱トルクを推定し、
前記制動力を前記外乱トルク推定値に応じて前記抵抗成分を打ち消すように増減させる補正を実行し、
所定勾配以上の降坂路では、前記制動力の前記補正量を低減し、
前記所定勾配において前記アクセル操作量が0の場合に車両の停車状態を維持するトルク値に基づいて、前記補正量の上限値を算出する、
電動車両の制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下では、本発明による電動車両の制御装置を、電動機(以下、電動モータ、或いは単にモータと呼ぶ)を駆動源とする電気自動車に適用した例について説明する。
【0009】
[一実施形態]
図1は、一実施形態における電動車両の制御装置を備えた電気自動車の主要構成を示すブロック図である。本発明の電動車両の制御装置は、車両の駆動源の一部または全部として電動モータを備え、電動モータの駆動力により走行可能な電動車両に適用可能である。電動車両には、電気自動車だけでなく、ハイブリッド自動車や燃料電池自動車も含まれる。特に、本実施形態における電動車両の制御装置は、アクセルペダルの操作のみで車両の加減速や停止を制御することができる車両に適用することができる。この車両ではドライバは、加速時にアクセルペダルを踏み込み、減速時や停止時には、踏み込んでいるアクセルペダルの踏み込み量を減らすか、または、アクセルペダルの踏み込み量をゼロとする。なお、登坂路においては、車両の後退を防ぐためにアクセルペダルを踏み込みつつ停止状態に近づく場合もある。
【0010】
モータコントローラ2は、車速V、アクセル開度θ、モータ(三相交流モータ)4の回転子位相α、モータ4の三相交流電流iu、iv、iw等の車両状態を示す信号がデジタル信号として入力される。モータコントローラ2は、入力された信号に基づいて、モータ4を制御するためのPWM信号を生成する。また、モータコントローラ2は、生成したPWM信号に応じてインバータ3のスイッチング素子を開閉制御する。モータコントローラ2はさらに、ドライバによるアクセル操作量、あるいは、ブレーキペダル10の操作量に応じて、摩擦制動量指令値を生成する。
【0011】
また、モータコントローラ2は、アクセル操作量(アクセル開度)が所定値未満の時は車両に発生する制動力を制御し、アクセル操作量が所定値以上の時は車両に発生する駆動力を制御するコントローラとして機能する。
【0012】
インバータ3は、相ごとに備えられた2個のスイッチング素子(例えば、IGBTやMOS−FET等のパワー半導体素子)をオン/オフすることにより、バッテリ1から供給される直流の電流を交流に変換し、モータ4に所望の電流を流す。
【0013】
モータ4は、インバータ3から供給される交流電流により駆動力を発生し、減速機5およびドライブシャフト8を介して、左右の駆動輪9a、9bに駆動力を伝達する。また、モータ4は、車両の走行時に駆動輪9a、9bに連れ回されて回転するときに、回生駆動力を発生させることで、車両の運動エネルギーを電気エネルギーとして回収する。この場合、インバータ3は、モータ4の回生運転時に発生する交流電流を直流電流に変換して、バッテリ1に供給する。
【0014】
電流センサ7は、モータ4に流れる3相交流電流Iu、Iv、Iwを検出する。ただし、3相交流電流Iu、Iv、Iwの和は0であるため、任意の2相の電流を検出して、残りの1相の電流は演算により求めても良い。
【0015】
回転センサ6は、例えばレゾルバやエンコーダであり、モータ4の回転子位相αを検出する。
【0016】
ブレーキコントローラ11は、モータコントローラ2で生成された摩擦制動量指令値に応じたブレーキ液圧を発生させるブレーキアクチュエータ指令値を摩擦ブレーキ13に出力する。
【0017】
液圧センサ12は、ブレーキ制動量検出手段として機能し、摩擦ブレーキ13のブレーキ液圧を検出して、検出したブレーキ液圧(摩擦制動量)をブレーキコントローラ11とモータコントローラ2へ出力する。
【0018】
摩擦ブレーキ13は、左右の駆動輪9a、9bにそれぞれ設けられ、ブレーキ液圧に応じてブレーキパッドをブレーキロータに押しつけて、車両に制動力を発生させる。
【0019】
なお、摩擦ブレーキ13による摩擦制動力は、アクセル操作量と車速等から算出されるドライバの意図する制動トルクに対して、最大回生制動トルクが不足する場合に、モータコントローラ2から出力される摩擦制動量指令値に応じて用いられる制動力として機能する。また、摩擦制動力は、ドライバの意図する制動力が最大回生制動トルクより小さい場合であっても、バッテリ1の満充電時やモータ4の加熱保護等によって回生電力が制限されて、ドライバの所望する制動力を回生制動トルクだけでは賄えない場合にも用いられる。さらに、摩擦制動力は、アクセル操作量に応じて要求される場合だけではなく、ドライバのブレーキペダル操作量により所望される制動力を達成するためにも用いられる。
【0020】
前後Gセンサ15は、主に前後加速度を検出し、検出値をモータコントローラ2へ出力する。これにより、モータコントローラ2は、前後Gセンサ検出値に基づいて、モータ4に作用する勾配抵抗と概ね一致する外乱トルク成分を算出することができる。
【0021】
図2は、モータコントローラ2によって実行されるようにプログラムされたモータ電流制御の処理の流れを示すフローチャートである。
【0022】
ステップS201では、車両状態を示す信号がモータコントローラ2に入力される。ここでは、車速V(m/s)、アクセル開度θ(%)、モータ4の回転子位相α(rad)、モータ4の回転速度Nm(rpm)、モータ4に流れる三相交流電流iu、iv、iw、バッテリ1とインバータ3間の直流電圧値V
dc(V)、ブレーキ操作量、及び、ブレーキ液圧が入力される。
【0023】
車速V(km/h)は、車両駆動時において駆動力を伝達する車輪(駆動輪9a、9b)の車輪速である。車速Vは、車輪速センサ11a、11bや、図示しない他のコントローラより通信にて取得される。または、車速V(km/h)は、回転子機械角速度ωmにタイヤ動半径rを乗算し、ファイナルギヤのギヤ比で除算することにより車速v(m/s)を求め、3600/1000を乗算することにより単位変換して求められる。
【0024】
アクセル開度θ(%)は、ドライバによるアクセル操作量を示す指標として、図示しないアクセル開度センサから取得されるか、図示しない車両コントローラ等の他のコントローラから通信にて取得される。
【0025】
モータ4の回転子位相α(rad)は、回転センサ6から取得される。モータ4の回転速度Nm(rpm)は、回転子角速度ω(電気角)をモータ4の極対数pで除算して、モータ4の機械的な角速度であるモータ回転速度ωm(rad/s)を求め、求めたモータ回転速度ωmに60/(2π)を乗算することによって求められる。回転子角速度ωは、回転子位相αを微分することによって求められる。
【0026】
モータ4に流れる三相交流電流iu、iv、iw(A)は、電流センサ7から取得される。
【0027】
直流電圧値V
dc(V)は、バッテリ1とインバータ3間の直流電源ラインに設けられた電圧センサ(不図示)、または、バッテリコントローラ(不図示)から送信される電源電圧値から求められる。
【0028】
ブレーキ制動量は、液圧センサ12が検出したブレーキ液圧センサ値から取得される。あるいは、ドライバのペダル操作によるブレーキペダルの踏み込み量を検出するストロークセンサ(不図示)等による検出値(ブレーキ操作量)がブレーキ制動量として使用されても良い。
【0029】
ステップS202のトルク目標値算出処理では、モータコントローラ2が第1のトルク目標値Tm1
*を設定する。具体的には、まず初めに、ステップS201で入力されたアクセル開度θおよびモータ回転速度ωmに応じて算出される駆動力特性の一態様を表した
図3に示すアクセル開度−トルクテーブルを参照することにより、ドライバ要求トルクとしての基本トルク目標値Tm0
*(トルク目標値)が設定される。続いて、勾配抵抗と概ね一致する外乱トルク推定値Tdを求める。そして、基本トルク目標値Tm0
*に外乱トルク推定値Tdを勾配アシストトルクとして加算することによって、勾配抵抗成分が打ち消された第1のトルク目標値Tm1
*を設定することができる。
【0030】
ただし、本実施形態では、ドライバの減速要求時に、基本トルク目標値Tm0
*に加算する勾配アシストトルク量を路面勾配に応じて低減させる減速度制御処理が実行される。本発明に特徴的な処理である減速度制御処理の詳細については、後述する。
【0031】
なお、上述したように、本実施形態における電動車両の制御装置は、アクセルペダルの操作のみで車両の加減速や停止を制御することができる車両に適用可能であり、少なくとも所定勾配以下の路面においてアクセルペダルの全閉によって車両を停止させることが可能である。そのため、
図3に示すアクセル開度−トルクテーブルでは、アクセル開度が0(全閉)乃至1/8の時には、回生制動力が働くように負のモータトルクが設定されている。ただし、
図3に示すアクセル開度−トルクテーブルは一例であって、これに限定されない。
【0032】
なお、本実施形態では、安全性等を考慮し、勾配アシスト量の最大値、すなわち、勾配アシストトルクの絶対値の上限値が設定される。本実施形態における該上限値は、−10%勾配の降坂路において、アクセル操作量が0の場合に車両に発生する制動力に加算されることにより、車両を停車させることができる制動トルクの絶対値に相当する値に設定される。
【0033】
ステップS203では、コントローラ2が停止制御処理を行う。具体的には、コントローラ2が、停車間際か否かを判定し、停車間際でない場合は、ステップS202で算出した第1のトルク目標値Tm1
*をモータトルク指令値Tm
*に設定し、停車間際の場合は、第2のトルク目標値Tm2
*をモータトルク指令値Tm
*に設定する。この第2のトルク目標値Tm2
*は、モータ回転速度の低下とともに外乱トルク推定値Tdに収束するものであって、登坂路では正トルク、降坂路では負トルク、平坦路では概ねゼロである。
【0034】
また、第2のトルク目標値Tm2
*がモータトルク指令値Tm
*に設定される停止制御処理中は、後述する減速度低減処理は実施されない。すなわち、停止制御処理中においては、モータトルク指令値Tm
*が勾配抵抗と概ね一致する外乱トルク推定値Tdに収束するので、路面の勾配に関わらず、アクセル操作のみでスムーズに停車し、且つ、停車状態を維持することができる。
【0035】
続くステップS204では、コントローラ2が電流指令値算出処理を行う。具体的には、ステップS203で算出したトルク目標値Tm
*(モータトルク指令値Tm
*)に加え、モータ回転速度ωmや直流電圧値Vdcに基づいて、d軸電流目標値id
*、q軸電流目標値iq
*を求める。例えば、トルク指令値、モータ回転速度、および直流電圧値と、d軸電流目標値およびq軸電流目標値との関係を定めたテーブルを予め用意しておいて、このテーブルを参照することにより、d軸電流目標値id
*およびq軸電流目標値iq
*を求める。
【0036】
ステップS205では、d軸電流idおよびq軸電流iqをそれぞれ、ステップS204で求めたd軸電流目標値id
*およびq軸電流目標値iq
*と一致させるための電流制御を行う。このため、まず初めに、ステップS201で入力された三相交流電流iu、iv、iwと、モータ4の回転子位相αとに基づいて、d軸電流idおよびq軸電流iqを求める。続いて、d軸、q軸電流指令値id
*、iq
*と、d軸、q軸電流id、iqとの偏差から、d軸、q軸電圧指令値vd、vqを算出する。なお、算出したd軸、q軸電圧指令値vd、vqに対して、d−q直交座標軸間の干渉電圧を相殺するために必要な非干渉電圧を加算するようにしてもよい。
【0037】
そして、d軸、q軸電圧指令値vd、vqと、モータ4の回転子位相αから、三相交流電圧指令値vu、vv、vwを求める。求めた三相交流電圧指令値vu、vv、vwと直流電圧値Vdcから、PWM信号tu(%)、tv(%)、tw(%)を求める。このようにして求めたPWM信号tu、tv、twにより、インバータ3のスイッチング素子を開閉することによって、モータ4をモータトルク指令値Tm
*で指示された所望のトルクで駆動することができる。
【0038】
図2のステップS202で行われる処理、すなわち、第1のトルク目標値Tm1
*を設定する方法の詳細を、
図4を用いて説明する。
【0039】
基本トルク目標値設定器401は、アクセル開度およびモータ回転速度ωmに基づいて、
図3に示すアクセル開度−トルクテーブルを参照することにより、基本トルク目標値Tm0
*を設定する。
【0040】
外乱トルク推定器402は、モータトルク指令値Tm
*と、モータ回転速度ωmと、ブレーキ制動量Bとに基づいて、外乱トルク推定値Tdを求める。
【0041】
図5は、外乱トルク推定器402の詳細な構成を示すブロック図である。外乱トルク推定器402は、制御ブロック501と、制御ブロック502と、ブレーキトルク推定器503と、加減算器504と、制御ブロック505とを備える。
【0042】
制御ブロック501は、H(s)/Gp(s)なる伝達特性を有するフィルタとしての機能を担っており、モータ回転速度ωmを入力してフィルタリング処理を行うことにより、第1のモータトルク推定値を算出する。Gp(s)は、モータトルクTmからモータ回転速度ωmまでの伝達特性であり、詳細については後述する。H(s)は、分母次数と分子次数との差分が、伝達特性Gp(s)の分母次数と分子次数との差分以上となる伝達特性を有するローパスフィルタである。
【0043】
制御ブロック502は、H(s)なる伝達特性を有するローパスフィルタとしての機能を担っており、モータトルク指令値Tm
*を入力してフィルタリング処理を行うことにより、第2のモータトルク推定値を算出する。
【0044】
ブレーキトルク推定器503は、ブレーキ制動量Bと、車速Vとに基づいて、ブレーキトルク推定値を算出する。ブレーキトルク推定器503では、ブレーキ制動量Bからモータ軸のトルク換算を行うための乗算処理や、液圧センサ12により検出された液圧センサ値から実制動力までの応答性等を考慮してブレーキトルク推定値が算出される。
【0045】
なお、摩擦ブレーキ13による制動力は、車両の前進時、後退時ともに減速方向に作用するので、車両前後速度(車体速度、車輪速度、モータ回転速度、ドライブシャフト回転数、又は、その他車速に比例する速度パラメータ)の符号に応じてブレーキトルク推定値の符号を反転させる必要がある。従って、ブレーキトルク推定器503は、ブレーキトルク推定値の符号を、入力される車速Vに応じて、車両が前進なら負に、車両が後退なら正に設定する。
【0046】
加減算器504は、第2のモータトルク推定値から第1のモータトルク推定値を減算するとともに、ブレーキトルク補正値を加算する。加減算器504において、車両の進行方向に対して負の符号を持つブレーキトルク補正値が加算されることで、ブレーキ制動量Bに起因するブレーキトルクが打ち消された外乱トルク推定値Tdを後段において算出することができる。算出した値は、制御ブロック505へ出力される。
【0047】
制御ブロック505は、Hz(s)なる伝達特性を有するフィルタであり、加減算器504の出力に対してフィルタリング処理を行う事により、外乱トルク推定値Tdを算出して、
図4に示す勾配補正量調整器403に出力する。Hz(s)の詳細については後述する。
【0048】
図4に戻って説明を続ける。外乱トルク推定器402にて算出された外乱トルク推定値Tdは、従来であれば加算器404に入力されて、基本トルク目標値Tm0
*に加算される。これにより、基本トルク目標値Tm0
*に対して、外乱トルク推定値Tdに基づく勾配補正が行われ、勾配抵抗成分に相当する勾配アシストトルクが加算されることにより該勾配抵抗成分が打ち消された第1のトルク目標値Tm1
*が算出される。これにより、例えば、勾配が変化する路面をアクセル開度を一定にした状態で走行する場合でも、勾配抵抗成分の影響を受けることなく、等速を維持することができる。
【0049】
しかしながら、このような勾配補正によって、勾配抵抗成分による加減速への影響を完全になくしてしまうと、ドライバが勾配に期待する車両の加減速への影響を感じられないことによる違和感が生じる場合がある。例えば、降坂路(降り勾配)走行時に、該降坂路の勾配が更に急になることで減速度が増加補正されると、降り勾配が急になったにも拘らず車両に更に大きな減速度が発生する。この時、降坂路を走行中のドライバは勾配が急になることによって車両が加速するのを感覚的に期待するため、期待に反して発生する大きな減速度がドライバに違和感を生じさせてしまう。
【0050】
本実施形態では、ドライブフィーリングの観点から、ドライバの減速要求時におけるこのような違和感の発生を抑制するために、走行路面の勾配に応じて勾配アシストトルクの大きさ(勾配アシスト量)を低減させる減速度低減処理を実行する。以下、減速度低減処理を実行する構成について説明する。
【0051】
図4に示す勾配補正量調整器403は、減速度低減処理を実行するための構成であって、外乱トルク推定器402にて推定された外乱トルク推定値Tdと、アクセル開度とを入力して、減速度低減処理が施された勾配アシストトルクを算出する。より具体的には、勾配補正量調整器403は、外乱トルク推定値Tdから検知できる路面の勾配と、アクセル開度から検知できるドライバの加減速要求とから、ドライブフィーリングの観点から、官能的にも最適化された勾配補正低減率を算出する。そして、入力される外乱トルク推定値Tdと、算出した勾配補正低減率とを乗算して、勾配アシストトルクを算出する。これにより、ドライバに違和感を生じさせない程度の勾配アシスト量に調整された勾配アシストトルクが算出される。勾配アシストトルクの算出に係る勾配補正低減率の設定方法の詳細については後述する。
【0052】
加算器404は、基本トルク目標値設定器401で算出されたドライバ要求トルクとしての基本トルク目標値Tm0
*と、勾配補正量調整器403で算出された勾配アシストトルクとを加算することにより、リミッタ処理前の第1のトルク目標値Tm1
*を算出する。リミッタ処理前の第1のトルク目標値Tm1
*は、レイトリミッタ405に入力される。
【0053】
レイトリミッタ405では、第1のトルク目標値Tm1
*の変化率の上限を制限する。これにより、トルク目標値が急峻に変化することを防止することができる。なお、該変化率の上限は車速に応じて変更してもよい。レイトリミッタ405の出力は、更に、高周波ノイズ等を除去するためにローパスフィルタ406に入力される。
【0054】
ローパスフィルタ406は、高周波ノイズ成分を除去するために構成されたローパスフィルタであり、レイトリミッタ405の出力にフィルタリング処理を行うことにより、制駆動トルク指令値としての第1のトルク目標値Tm1
*を算出する。
【0055】
このように算出された第1のトルク目標値Tm1
*によれば、違和感を生じさせることなくドライバのアクセル操作量(ストローク量)を低減させることができるので、特に勾配路を走行する際のドライブフィーリングを向上させることができる。
【0056】
ここで、減速度制御処理の説明に先立って、本実施形態の電動車両の制御装置におけるモータトルクTmからモータ回転速度ωmまでの伝達特性Gp(s)について説明する。なお、この伝達特性Gp(s)は、外乱トルク推定値を算出する際に、車両の駆動力伝達系をモデル化した車両モデルとして用いられる。
【0057】
図6は、車両の駆動力伝達系をモデル化した図であり、同図における各パラメータは、以下に示すとおりである。
J
m:電動モータのイナーシャ
J
w:駆動輪のイナーシャ
M:車両の重量
K
d:駆動系の捻り剛性
K
t:タイヤと路面の摩擦に関する係数
N:オーバーオールギヤ比
r:タイヤの荷重半径
ω
m:モータ回転速度
T
m:トルク目標値Tm
*
T
d:駆動輪のトルク
F:車両に加えられる力
V:車両の速度
ω
w:駆動輪の角速度
そして、
図6より、以下の運動方程式を導くことができる。
【0063】
ただし、式(1)〜(3)中の符号の右上に付されているアスタリスク(
*)は、時間微分を表している。
【0064】
式(1)〜(5)で示す運動方程式に基づいて、モータ4のモータトルクTmからモータ回転速度ωmまでの伝達特性Gp(s)を求めると、次式(6)で表される。
【0066】
ただし、式(6)中の各パラメータは、次式(7)で表される。
【0068】
式(6)に示す伝達関数の極と零点を調べると、次式(8)の伝達関数に近似することができ、1つの極と1つの零点は極めて近い値を示す。これは、次式(8)のαとβが極めて近い値を示すことに相当する。
【0070】
従って、式(8)における極零相殺(α=βと近似する)を行うことにより、次式(9)に示すように、Gp(s)は、(2次)/(3次)の伝達特性を構成する。
【0072】
続いて、
図7、8を参照して、ステップS203で実行される停止制御処理の詳細について説明する。
【0073】
図7は、停止制御処理を実現するためのブロック図である。停止制御処理は、モータ回転速度F/Bトルク設定器701と、加算器702と、トルク比較器703とを用いて行われる。以下、それぞれの構成の詳細を説明する。
【0074】
モータ回転速度F/Bトルク設定器701は、検出されたモータ回転速度ωmに基づいて、モータ回転速度フィードバックトルク(以下、モータ回転速度F/Bトルクと呼ぶ)Tωを算出する。詳細は
図8を用いて説明する。
【0075】
図8は、モータ回転速度ωmに基づいて、モータ回転速度F/BトルクTωを算出する方法を説明するための図である。モータ回転速度F/Bトルク設定器701は、乗算器801を備え、モータ回転速度ωmにゲインKvrefを乗算することにより、モータ回転速度F/BトルクTωを算出する。ただし、Kvrefは、電動車両の停止間際に電動車両を停止させるのに必要な負(マイナス)の値であり、例えば、実験データ等により適宜設定される。モータ回転速度F/BトルクTωは、モータ回転速度ωmが大きいほど、大きい制動力が得られるトルクとして設定される。
【0076】
なお、モータ回転速度F/Bトルク設定器701は、モータ回転速度ωmにゲインKvrefを乗算することによりモータ回転速度F/BトルクTωを算出するものとして説明したが、モータ回転速度ωmに対する回生トルクを定めた回生トルクテーブルや、モータ回転速度ωmの減衰率を予め記憶した減衰率テーブル等を用いて、モータ回転速度F/BトルクTωを算出してもよい。
【0077】
図7に戻って説明を続ける。加算器702は、モータ回転速度F/Bトルク設定器701によって算出されたモータ回転速度F/BトルクTωと、上述した勾配補正量調整器403において、外乱トルク推定値Tdに勾配補正量低減率を乗じて算出された勾配アシストトルクとを加算することによって、第2のトルク目標値Tm2
*を算出する。
【0078】
ここで、外乱トルク推定値Tdに関して、
図5に示した制御ブロック505の詳細を説明する。制御ブロック505は、Hz(s)なる伝達特性を有するフィルタであり、加減算器504の出力を入力してフィルタリング処理を行う事により、外乱トルク推定値Tdを算出する。
【0079】
伝達特性Hz(s)について説明する。式(9)を書き換えると、次式(10)が得られる。ただし、式(10)中のζz、ωz、ζp、ωpはそれぞれ、式(11)で表される。
【0082】
以上より、Hz(s)を次式(12)で表す。ただし、ζ
c>ζ
zとする。また、例えばギヤのバックラッシュを伴う減速シーンにおける振動抑制効果を高めるために、ζ
c>1とする。
【0084】
このように、本実施形態における外乱トルク推定値Tdは、
図5に示す通り、外乱オブザーバにより推定される。ただし、外乱トルク推定値Tdは、前後Gセンサ15の検出値に基づいて、より精度を高めるために補正されても良い。また、前後Gセンサ15の検出値に基づいて算出された勾配抵抗成分のトルク換算値を外乱トルク推定値Tdとして使用しても良い。
【0085】
ここで、外乱としては、空気抵抗、乗員数や積載量に起因する車両質量の変動によるモデル化誤差、タイヤの転がり抵抗、路面の勾配抵抗等が考えられるが、特に停車間際で支配的となる外乱要因は勾配抵抗である。外乱要因は運転条件により異なるが、外乱トルク推定器402は、モータトルク指令値Tm
*とモータ回転速度ωmと、伝達特性Gp(s)に基づいて、外乱トルク推定値Tdを算出するので、上述した外乱要因を一括して推定することができる。これにより、いかなる運転条件においても、減速からの滑らかな停車を実現することができる。
【0086】
図7に戻って説明を続ける。加算器702は、モータ回転速度F/Bトルク設定器701によって算出されたモータ回転速度F/BトルクTωと、勾配アシストトルクとを加算することによって、第2のトルク目標値Tm2
*を算出する。
【0087】
トルク比較器703は、第1のトルク目標値Tm1
*と第2のトルク目標値Tm2
*の大きさを比較し、値が大きい方のトルク目標値をモータトルク指令値Tm
*に設定する。車両の走行中、第2のトルク目標値Tm2
*は第1のトルク目標値Tm1
*よりも小さく、車両が減速して停車間際(所定車速以下、或いは車速に比例する速度パラメータが所定値以下)になると、第1のトルク目標値Tm1
*よりも大きくなる。従って、トルク比較器703は、第1のトルク目標値Tm1
*が第2のトルク目標値Tm2
*より大きければ、停車間際以前と判断して、第1のトルク目標値Tm1
*をモータトルク指令値Tm
*に設定する。
【0088】
また、トルク比較器703は、第2のトルク目標値Tm2
*が第1のトルク目標値Tm1
*より大きくなると、車両が停車間際と判断して、モータトルク指令値Tm
*を第1のトルク目標値Tm1
*から第2のトルク目標値Tm2
*に切り替える。この時、勾配アシストトルクは、外乱トルク推定値Tdと一致する値に設定される。したがって、第2のトルク目標値Tm2
*がモータトルク指令値Tm
*に設定される間は、後述する減速度制御処理は行われないか、あるいは、勾配補正量低減率は0%に設定される。なお、停車状態を維持するため、第2のトルク目標値Tm2
*は、登坂路では正トルク、降坂路では負トルク、平坦路では概ねゼロに収束する。
【0089】
以上、伝達特性G
p(s)及び停止制御処理の詳細について説明した。続いて、
図4で示した勾配補正量調整器403において実行される勾配補正量低減率の算出および、該勾配補正量低減率に基づく勾配アシストトルクの算出について説明する。
【0090】
<減速度制御処理>
図9は、本実施形態における減速度低減処理の流れを示すフローチャートである。該フローは、モータコントローラ2において、一定のサイクルで繰り返し実行されるようにプログラムされている。
【0091】
ステップS901では、モータコントローラ2が外乱トルク推定値Tdを算出する。外乱トルク推定値Tdは、
図5を参照して説明した外乱オブザーバを用いて算出される。
【0092】
続くステップS902では、モータコントローラ2が、ドライバが要求している加減速度を検知するためにアクセル開度を取得する。アクセル開度は、
図3を参照して説明したとおり、所定以上のアクセル開度は加速要求となり、正のモータトルク(駆動トルク)が設定される。一方、所定未満のアクセル開度は減速要求となり、回生制動力が働くように負のモータトルク(制動トルク)が設定される。例えば、
図3に一例を示したアクセル開度―トルクテーブルによれば、アクセル開度が1/8以下であれば、負のモータトルクが設定され、アクセル開度が2/8以上であれば、正のモータトルクが設定される。モータコントローラ2は、アクセル開度を取得した後、続くステップS903の処理を実行する。
【0093】
ステップS903では、モータコントローラ2が、取得したアクセル開度に基づいて、ドライバが減速要求しているか否かを判定する。アクセル開度が所定値未満、すなわち、駆動トルクが設定されるアクセル開度の下限値より小さければ、ドライバが減速要求していると判定される。ドライバが減速要求していると判定された場合は、基本トルク目標値Tm0
*としてドライバが要求する制動トルクを算出するために、続くステップS904の処理を実行する。
【0094】
取得したアクセル開度が所定値以上、すなわち、アクセル開度が駆動トルクが設定される範囲内であれば、ドライバが加速要求していると判定されるので、本フローに係る減速度制御処理を終了する。
【0095】
ステップS904では、モータコントローラ2が、アクセル開度θとモータ回転速度ωmとから、
図3で一例を示すアクセル開度−トルクテーブルを参照して、ドライバ要求トルクとしての基本トルク目標値Tm0
*を算出する。基本トルク目標値Tm0
*が算出されると、車両が走行している路面が降坂路か否かを判定するために、続くステップS905の処理が実行される。
【0096】
ステップS905では、モータコントローラ2が、路面の勾配(%)が所定値未満か否かを判定する。ここでは、路面が降坂路であるか否かを判定したいので、該所定値を0%とする。なお、上述した通り、路面の勾配は外乱トルク推定値Tdから取得できる。そして、外乱トルク推定値Tdは、登坂路では正トルク、降坂路では負トルク、平坦路では概ねゼロである。したがって、本ステップでは、外乱トルク推定値Tdが0未満であれば、路面が降坂路であると判定して、続くステップS906の処理を実行する。外乱トルク推定値Tdが0以上であれば、路面は降坂路ではないと判定され、ステップS907の処理が実行される。
【0097】
ステップS906では、モータコントローラ2が、車両が降坂路を走行している時の勾配補正量低減率を算出する。本ステップにおいて算出される勾配補正量低減率の算出方法の詳細を
図10を用いて説明する。
【0098】
図10は、勾配補正量低減率の算出方法を説明するための図である。横軸は勾配(%)を表し、縦軸は勾配アシストトルクのG換算値を表している。勾配(%)は、正の値は登坂路を示し、負の値は降坂路を示す。また、勾配(%)の絶対値が大きいほど、より急な勾配であることを示す。
【0099】
また、
図10に示す点線は、路面の勾配抵抗に概ね一致する勾配アシストトルクであって、減速度低減処理が施される前の外乱トルク推定値Tdを表している。この点線は、すなわち、100%の勾配アシストを行う場合、換言すると、勾配補正量低減率が0%の場合の勾配アシストトルクを示す。そして、実線で表されるのが、本実施形態における勾配アシストトルクである。勾配アシストトルクは、外乱トルク推定値Tdに本ステップで算出される勾配補正量低減率を乗じることにより算出される。なお、降坂路における勾配アシストトルクは、
図10の横軸上の負の勾配(%)(図の左半分)において図示される実線で表される。
【0100】
図示するとおり、本実施形態では、−10(%)程度までの比較的緩い勾配路においては、勾配補正量低減率を約50%とし、勾配アシスト量を半分程度にする。これにより、ドライバに降坂路を走行していることを感じさせることができる一方で、ドライバによる制動力を発生させるためのアクセル操作量を低減させることができる。
【0101】
続いて、−10(%)勾配から−20(%)勾配までの降坂路における勾配補正量低減率は、50%から100%にまで増加するように算出される。上述したとおり、本実施形態における勾配アシストトルクの上限値は、−10(%)勾配路において、アクセル開度全閉時に車両を停車させることができるトルク値である。すなわち、本実施形態における電動車両の制御装置が適用された車両では、−10(%)勾配路までは、ドライバのアクセル操作のみによって車両を停車させることができる。
【0102】
一方で、−10(%)勾配より急な降坂路では、勾配補正量低減率が0%であってもアクセル操作だけでは車両を停車させることができないので、ブレーキ操作が必要になる。したがって、本実施形態では、車両を停車させるためにブレーキ操作が必要となる下限の勾配(%)である−10(%)勾配より急な降坂路では、ドライバが生じる違和感の抑制を優先させて、勾配補正量を小さくするために勾配補正低減率を増加させる。
【0103】
具体的には、本実施形態における勾配補正量低減率は、−10(%)勾配から−15(%)勾配にかけて50%から100%まで線形に増加し、100%の低減率が−20(%)勾配まで維持されるように算出される。ただし、本実施形態においては、勾配補正量低減率が−10(%)勾配から−20(%)勾配にかけて増加すること、および、勾配補正量低減率が−20(%)勾配において略100%となればよく、その推移については不連続にならない限りは特に限定されない。また、−10(%)勾配時点における勾配補正低減率は必ずしも50%である必要はなく、特に限定されない。
【0104】
なお、勾配補正量低減率を増加させ始める起点となる勾配を−10(%)勾配としたのは、勾配アシストトルクの上限値が、−10(%)勾配路においてアクセル開度全閉時に車両を停車させることができるトルク値として設定されているのに合わせるためである。すなわち、勾配補正量低減率を増加させ始める起点となる所定勾配は、アクセル操作量が0の場合に車両に発生する制動力に、予め設定された勾配アシストトルクの上限値を加算して得られる制動トルクにより停車可能な勾配の最大値が設定される。したがって、該所定勾配(%)は、勾配アシストトルクの上限設定値が変更されれば、それに応じて適宜変更される。
【0105】
そして、−20(%)勾配より急な急勾配では、勾配補正量低減率を小さくする。本実施形態では、−20(%)勾配において100%だった勾配補正量低減率を線形に減少させて、−30(%)勾配では約30%の低減率となるように設定される。
【0106】
ここで、−20(%)勾配において、勾配補正量低減率を100%とする理由について説明する。
図3で示したアクセル開度−トルクテーブルでは、アクセル開度を0(全閉)とした場合に、約0.2Gの制動力が発生する。そして、−20(%)勾配における勾配抵抗は、進行方向へのG換算値として0.2G程度である。すなわち、
図3で示したアクセル開度−トルクテーブルによれば、−20(%)勾配での勾配補正量低減率を100%にすれば、−20(%)勾配においてアクセル開度を0(全閉)にした場合に車両に発生する制動力と、車両に作用する勾配抵抗とを一致させることができる。また、−20(%)の降坂路は、人の感覚的にも相当な急勾配であるため、一般のドライバがアクセルを踏んで加速要求することはほぼなく、アクセル開度全閉によって減速要求する場合がほとんどである。
【0107】
したがって、−20(%)勾配までであれば、勾配補正量低減率を略100%としても、アクセル開度全閉時において少なくとも車両が加速することはないので、アクセル操作によるドライバの減速要求に対して車両が加速するような場面を排除することができる。
【0108】
一方で、−20(%)勾配より急な降坂路では、アクセル開度全閉時に発生する制動力よりも勾配抵抗が大きくなるので、アクセル開度全閉時でも車両が加速してしまう。したがって、アクセル開度全閉時における加速度が0以下となるように、勾配補正量低減率を減少させて、勾配アシスト量を増加させる。これにより、比較的急な降坂路を走行している際に、アクセル操作量が0にもかかわらず車両が加速することによりドライバに不安を感じさせることがなくなる。これにより、急勾配な降坂路において、安心感を伴うドライブフィーリングを担保することができ、且つ、ドライバに停車意思があれば、ブレーキ操作を促すことができる。
【0109】
以上、降坂路における勾配補正量低減率の算出方法を説明した。しかしながら、上述した具体的な数字は、
図3で一例を示したアクセル開度―トルクテーブル等を前提として算出された値であり、アクセル開度―トルクテーブルの値が変わればそれに応じて適宜変更される。また、勾配補正量低減率は、アクセル開度―トルクテーブルと、路面勾配(%)とに応じて適宜算出されても良いし、勾配補正量低減率と路面勾配(%)との関係をアクセル開度―トルクテーブルに応じて求めたテーブルを予め記憶しておき、該テーブルを参照して、路面勾配(%)から算出してもよい。
【0110】
図9で示すフローに戻って説明を続ける。
【0111】
ステップS905では、外乱トルク推定値Tdが0以上であれば、路面は降坂路ではないと判定されるので、登坂路での勾配補正量低減率を算出するためにステップS907の処理が実行される。
【0112】
ステップS907では、モータコントローラ2が、登坂路における勾配補正量低減率を算出する。本実施形態では、登坂路における勾配補正量低減率は、
図10の横軸における正の勾配(%)において図示される実線で表される。図示するとおり、本実施形態における登坂路での勾配補正量低減率は約50%に設定される。このように設定することで、登坂路においては勾配アシスト量が半分程度になるので、ドライバに登坂路を走行中であることを感じさせながら、制動力を発生させるためのアクセル操作量を低減させることができる。
【0113】
ステップS908では、外乱トルク推定値Tdに、上述した勾配補正量低減率を乗じることにより、勾配アシストトルクを算出する。モータコントローラ2は、勾配アシストトルクを算出した後、続くステップS909の処理を実行する。
【0114】
ステップS909では、モータコントローラ2が、第1のトルク目標値Tm1
*を算出する。より具体的には、
図4に示すとおり、ドライバ要求トルクとしての基本トルク目標値Tm0
*と、ステップS908で算出した勾配アシストトルクとを足し合わせて、第1のトルク目標値Tm1
*を算出する。そして、停止間際ではない通常走行時は第1のトルク目標値Tm1
*がモータトルク指令値Tm
*に設定される(
図7参照)。
【0115】
そして、ステップ910において、モータコントローラ2は、モータトルク指令値Tm
*として設定された第1のトルク目標値Tm1
*によってモータ4を制御することにより、ドライバの減速要求に基づく車両の制動コントロールを実行する。
【0116】
以上説明した一実施形態の電動車両の制御装置を電気自動車に適用した際の効果について
図11を参照して説明する。
【0117】
図11は、本実施形態における電動車両の制御装置による制御結果の一例を説明するタイムチャートである。
図11に示すのは、車速を一定にしての走行時において、走行路面の勾配(%)と、勾配路を走行中における一般的なドライバによるアクセル又はブレーキの操作量と、これらに応じて算出される勾配アシストトルクである。上から順に、勾配(%)、勾配アシストトルク、アクセル開度、ブレーキ操作量を表している。なお、勾配(%)は、正が登坂路、負が降坂路を表し、絶対値が大きいほど、より急な勾配であることを示している。
【0118】
また、勾配アシストトルクを示す図中の点線は、勾配補正量低減率が常に0%の場合の勾配アシストトルク、すなわち、勾配抵抗と概ね一致する外乱トルク推定値Tdを表している。
【0119】
また、アクセル開度を示す図中の点線は、勾配補正量低減率が常に0%、すなわち、減速度制御処理を行わない場合のアクセル操作量を表す。そして、図中の一点鎖線は、勾配補正量低減率が常に100%、すなわち、勾配補正を行わない場合の、一般的なドライバによるアクセル操作量を表している。
【0120】
t1〜t2では、路面の勾配が、登坂路から−10(%)の降坂路へと変化する。この時、減速度制御処理を行わない場合の勾配アシストトルクは、図の点線で示すように、外乱トルク推定値Tdと一致する。この場合は、勾配アシストトルクによって勾配抵抗成分が打ち消されるので、ドライバによるアクセル開度は常に一定となる。
【0121】
一方、本発明の一実施形態における勾配補正量低減率は50%に設定されるので、勾配アシストトルクは減速度制御処理を行わない場合の約半分程度となり、適度なアシスト量でドライバに勾配路を走行中であることを感じさせることができる一方で、アクセル操作量は勾配補正を行わない場合の半分程度となる。このように、登坂路から比較的緩い降坂路における勾配補正量低減率を約50%とすることで、ドライバに勾配路を走行していることを違和感なく感じさせながら、勾配補正を行わない場合よりもアクセル操作量を低減させることができる。
【0122】
t2〜t3では、路面勾配が−10(%)から−20(%)の範囲で変化する比較的急な降坂路を走行する。この時、減速度制御処理を行わない場合は、勾配アシストトルクにより勾配抵抗成分が打ち消されるので、アクセル開度は一定でありながら、急な勾配が更に急な勾配に変化するような場面で制動力(減速度)が増加するので、ドライバに制御の違和感を生じさせてしまう。
【0123】
一方、本発明の一実施形態における勾配補正量低減率は、勾配が急になるのに応じて増加し、−15(%)より急な勾配において100%となる。したがって、勾配が急になるほど勾配アシスト量も低減されるので、制動力増加の違和感を排除することができる。また、急な降坂路において車速を維持あるいは減速するためには、アクセル開度を小さくする必要がある。その結果、制動コントロールをドライバに委ねることになるため、ドライバのアクセル操作に違和感を生じさせることもない。さらに、−15(%)より緩い勾配においては適度な勾配アシストがなされるので、ドライバのアクセル操作量を、勾配補正を行わない場合(一点鎖線)よりも低減させることができる。
【0124】
t3以降では、路面勾配が−20(%)より急な降坂路を走行する。この時、減速度制御処理を行わない場合は、これまでと同様に勾配アシストトルクにより勾配抵抗成分が打ち消されるので、アクセル開度は一定でありながら、一定の車速が維持される。
【0125】
一方、本発明の一実施形態における勾配補正量低減率は、−20(%)より急な降坂路でアクセル開度を0にしても加速しない値まで減少させて、勾配アシスト量を増加させる。これにより、−20(%)より急な勾配路において、アクセル開度全閉状態での車速の増加が抑制されるので、急勾配の降坂路においてアクセル開度全閉状態で加速される場合に生じ得る不安を排除し、ドライバの安心感を向上させることができる。また、ドライバに減速又は停車意思がある場合には、アクセルペダル全閉状態からブレーキペダル操作への移行を促すことができる。
【0126】
以上、一実施形態の電動車両の制御装置は、アクセル操作量に応じた制動力又は駆動力を車両に与えるモータ4を備え、アクセル操作量が所定値未満の時は制動力を制御し、アクセル操作量が所定値以上の時は駆動力を制御する電動車両の制御方法を実現する制御装置であって、勾配に関連する抵抗成分としてモータ4に作用する外乱トルクを推定し、制動力又は駆動力を外乱トルク推定値Tdに応じて抵抗成分を打ち消すように増減させる補正を実行する。そして、所定勾配以上の降坂路では、制動力又は駆動力の補正量を低減する。なお、所定勾配以上の降坂路とは、所定勾配以上に急な勾配の降坂路のことを示す。これにより、勾配路においてドライバの加減速要求を実現するために必要なアクセル操作量を低減しながら、勾配が比較的大きい降坂路においては、勾配補正量を適度な勾配補正量に低減することにより、ドライバに生じる違和感を抑制することができる。
【0127】
また、一実施形態の電動車両の制御装置によれば、補正量(勾配アシスト量)の上限値が設定される場合は、補正量を低減する所定勾配は、アクセル操作量が0の場合に車両に発生する制動力に上限値の補正量を加算して得られる制動トルクにより停車可能な勾配の最大値が設定される。これにより、勾配補正量を低減する場面が、そもそも車両を停車させるためにブレーキ操作を要する降坂路に限定されるので、勾配補正量を低減させたことでブレーキ操作をより多く必要とすることなく、ドライバに生じる違和感を抑制することができる。
【0128】
また、一実施形態の電動車両の制御装置によれば、上記の所定勾配よりも急な所定急勾配以上の降坂路では、補正量(勾配アシスト量)を、アクセル操作量が0の場合に車両に発生する制動力により車両の加速度が0以下になるように設定する。また、上記の所定急勾配は、アクセル操作量が0の場合に車両に発生する制動力により車両の加速度が0となる勾配に設定される。これにより、急勾配の降坂路において、アクセル開度全閉状態にもかかわらず車両が加速することを抑制できるので、勾配補正量を低減することによりドライバの違和感を抑制しながら、アクセル操作のみによって車両の制動力をコントロールすることに対しての安心感をドライバに与えることができる。
【0129】
以上、本発明に係る一実施形態の電動車両の制御装置について説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されることはなく、様々な変形や応用が可能である。例えば、
図4を参照して第1のトルク目標値Tm1
*を算出するための制御ブロック構成を説明したが、
図4に示す構成を全て備える必要は必ずしもなく、例えば、レイトリミッタ405やローパスフィルタ406は削除しても良い。
【0130】
また、上述した説明では、アクセル操作量が所定値以下であり、かつ、電動車両が停車間際になると、モータ4の回転速度の低下とともにモータトルク指令値Tm
*を補正後の外乱トルク推定値Td(外乱アシストトルク)に収束させる停止制御が実行されるものとして説明した。しかし、車輪速や車体速度、ドライブシャフトの回転速度などの速度パラメータは、モータ4の回転速度と比例関係にあるため、モータ4の回転速度に比例する速度パラメータの低下とともにモータトルク指令値Tm
*を外乱トルク推定値Tdに収束させるようにしてもよい。また、そもそも、上述の停止制御は停車間際において必ずしも実行される必要はなく、
図2のステップS203に係る停止制御処理は削除しても良い。