(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の詳細を説明する。尚、本明細書では、「N−メチル−2−ピロリドン」を「NMP」、「正極活物質または負極活物質」を「電極活物質」または「活物質」、「活物質及びバインダーを含む電池用組成物」を「電池用合剤スラリー」、「合剤スラリー」または「合剤組成物」と略記することがある。
【0019】
<一般式(1)〜(8)で表される化合物>
本発明の電池用組成物は、下記一般式(1)〜(8)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも一つを含有する。
【0020】
一般式(1)
【化1】
一般式(2)
【化2】
一般式(3)
【化3】
一般式(4)
【化4】
一般式(5)
【化5】
一般式(6)
【化6】
一般式(7)
【化7】
一般式(8)
【化8】
【0021】
X
1、X
2は、それぞれ独立に、アルコキシ基、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアリール基、水酸基または−OCORを表し、Rは置換基を有してもよいアルキル基または置換基を有してもよいアリール基を表す。
Y
1、Y
2、Y
7、Y
13は、それぞれ独立に、水素、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基またはハロゲン原子である。
Y
3〜Y
6は、それぞれ独立に、水素、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基またはハロゲン原子であり、少なくとも1つは水素である。
Y
8〜Y
10は、それぞれ独立に、水素、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基またはハロゲン原子であり、少なくとも1つは水素である。
Y
11、Y
12は、それぞれ独立に、水素、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基またはハロゲン原子であり、少なくとも1つは水素である。
R
1〜R
16は、それぞれ独立に、水素、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基またはアミノ基である。
【0022】
シアヌル酸およびその誘導体が一般式(1)で示され、イソシアヌル酸およびその誘導体が一般式(2)で示され、尿酸およびその誘導体が一般式(3)で示され、バルビツール酸およびその誘導体が一般式(4)で示され、1,3,5‐トリアジナン‐2,4‐ジオンおよびその誘導体が一般式(5)で示され、グルタルイミドおよびその誘導体が一般式(6)で示され、ヒダントインおよびその誘導体が一般式(7)で示され、アラントインおよびその誘導体が一般式(8)で示される。
【0023】
X
1、X
2において、アルコキシ基としては、直鎖状または分岐鎖状のアルコキシ基が挙げられる。具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基等が挙げられる。アルコキシ基の炭素数は1〜6の範囲内であることが好ましく、1〜3の範囲内であることがより好ましい。
ハロゲン原子としてはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素等を挙げることができる。
【0024】
アリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。アルキル基としては、直鎖状または分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基イソプロピル基、イソブチル基、イソペンチル基、2−エチルヘキシル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、sec−ペンチル基、tert−ペンチル基等を挙げることができる。アルキル基の炭素数は1〜6の範囲内であることが好ましく、1〜3の範囲内であることがより好ましい。
【0025】
置換基を有してもよいアルキル基、アリール基の「置換基」は、同一でも異なっても良く、その具体例としては、ヒドロキシ基、フッ素、塩素、臭素などのハロゲン原子、ニトロ基、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、アルコキシル基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基等を挙げることができる。また、これらの置換基は、複数あっても良い。
【0026】
Y
1〜Y
13およびR
1〜R
16についても上記と同じ構造が挙げられる。
【0027】
一般式(1)〜(8)で示される化合物の具体例を表1に示す。
【0029】
化合物A〜P、a〜wは互変異性により、互変異性体と共存している。例えば、化合物Aと化合物Cは互変異性体である。上記化合物を存在させる場所は、銅などの金属異物が存在する正極または負極が好ましい。詳細は不明であるが、上記化合物はすべて窒素原子を持っており、かつケト‐エノール互変異性を持っている。それが銅などの金属異物に対し強く作用することで、電池短絡の原因となる銅イオン溶出を抑制できると考えられる。
【0030】
上記化合物を正極または負極に存在させる方法としては特に限定されないが、例えば、導電助剤である炭素材料の分散時に混合する方法が挙げられる。また、バインダー成分の添加時に混合する方法や、活物質の添加時に混合する方法が挙げられる。
金属異物としては特に限定されないが、金属、酸化金属、真鍮や青銅のような合金等を挙げることができ、代表的な金属としては銅が挙げられる。また、金属異物の、の存在状態や混入経路は特に限定されない。例えば、導電助剤である炭素材料由来の混入、仕込みや混合等の組成物調製工程での混入等が挙げられる。カーボンブラック、グラファイト及び、炭素繊維等の炭素材料には、それらの製造工程由来(ラインコンタミや触媒として)の金属異物が含まれている場合が多い。金属異物の含有量は、効果の差はあるが、如何なる量であっても本発明の効果を享受できる。
【0031】
<導電助剤>
本発明における導電助剤は炭素材料が好ましい。炭素材料としては、導電性を有する炭素材料であれば特に限定されるものではないが、グラファイト、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンファイバー、フラーレン等を単独で、もしくは2種類以上併せて使用することができる。導電性、入手の容易さ、及びコスト面から、カーボンブラックまたはカーボンナノチューブの使用が好ましい。
【0032】
カーボンブラックとしては、市販のアセチレンブラック、ファーネスブラック、中空カーボンブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、ケッチェンブラックなど各種のものを用いることができる。カーボンブラックの酸化処理は、カーボンブラックを空気中で高温処理したり、硝酸や二酸化窒素、オゾン等で二次的に処理したりすることによって、例えばヒドロキシ基、キノン基、カルボキシ基、カルボニル基のような酸素含有極性官能基をカーボンブラック表面に直接導入(共有結合)する処理であり、カーボンブラックの分散性を向上させるために一般的に行われている。
【0033】
カーボンブラックの物理的特性を表すその他の物性値としては、平均一次粒子径やBET比表面積、pHが知られている。BET比表面積は、窒素吸着によりBET法で測定された比表面積(以下、単に比表面積と記載)を指し、この比表面積はカーボンブラックの表面積に対応している。pHはカーボンブラック表面の官能基や含有不純物の影響を受けて変化する。
【0034】
電池用組成物に用いるカーボンブラックの平均一次粒子径としては、一般的な分散液や塗料に用いられるカーボンブラックの平均一次粒子径範囲と同様に0.01〜1μmが好ましく、特に、0.01〜0.2μmが好ましく、0.01〜0.1μmがさらに好ましい。ここでいう平均一次粒子径とは、電子顕微鏡で測定された算術平均粒子径を示し、この物性値は一般にカーボンブラックの物理的特性を表すのに用いられている。また、BET比表面積は、20〜1500m
2/gのものが好ましく、30〜1000m
2/gのものがより好ましく、30〜500m
2/gのものが特に好ましい。
【0035】
市販のカーボンブラックとしては、例えば、トーカブラック#4300、#4400、#4500、#5500等(東海カーボン社製、ファーネスブラック)、プリンテックスL等(デグサ社製、ファーネスブラック)、Raven7000、5750、5250、5000ULTRAIII、5000ULTRA等、Conductex SC ULTRA、Conductex 975 ULTRA等、PUER BLACK100、115、205等(コロンビヤン社製、ファーネスブラック)、#2350、#2400B、#2600B、#3050B、#3030B、#3230B、#3350B、#3400B、#5400B等(三菱化学社製、ファーネスブラック)、MONARCH1400、1300、900、VulcanXC−72R、BlackPearls2000等(キャボット社製、ファーネスブラック)、Ensaco250G、Ensaco260G、Ensaco350G、SuperP−Li(TIMCAL社製)、ケッチェンブラックEC−300J、EC−600JD(ライオン社製)、デンカブラック、デンカブラックHS−100、FX−35(デンカ社製、アセチレンブラック)等、グラファイトとしては、例えば人造黒鉛や燐片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛などの天然黒鉛が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0036】
<溶剤>
溶剤としては、例えば、アルコール類、グリコール類、セロソルブ類、アミノアルコール類、アミン類、ケトン類、カルボン酸アミド類、リン酸アミド類、スルホキシド類、カルボン酸エステル類、リン酸エステル類、エーテル類、ニトリル類、水等が挙げられる。中でも、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を含むことが好ましい。NMPは、リチウムイオン二次電池の電極製造に用いられている。本発明では、電池性能を損なわない範囲で、他の溶剤を1種類以上併用しても良いが、本発明の想定する産業上の利用可能性から、NMPを単独で用いることが好ましい。
【0037】
<アンモニア>
アンモニアとは、分子式NH
3で表される無機化合物である。
【0038】
本発明で使用する際は、溶媒にバブリングし、アンモニアを溶解させて使用するか、アンモニア水など、アンモニアが溶解している溶液を使用する方法が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0039】
<アンモニウム塩>
アンモニウム塩とは、アンモニアと酸との結合によって生じる塩である。
【0040】
具体的には、例えば、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、酢酸アンモニウム、フッ化アンモニウム、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム、ヨウ化アンモニウム、リン酸アンモニウム、安息香酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、ギ酸アンモニウム、乳酸アンモニウム、ヘキサクロリド白金(IV)酸アンモニウム等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0041】
本発明で使用するアンモニウム塩は、市販品、合成品に関わらず、単独もしくは2種類以上併せて使用することができる。
【0042】
アンモニウム塩としては、入手性、安全性の観点から炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、酢酸アンモニウム、塩化アンモニウムが好ましい。
【0043】
<アミン系化合物>
アミン系化合物としては、第1アミン(1級アミン)、第2アミン(2級アミン)、第3アミン(3級アミン)が用いられ、アンモニアや第4級アンモニウム化合物は含まない。アミン系化合物は、モノアミン以外にも、分子内に複数のアミノ基を有するジアミン、トリアミン、テトラミン、ポリアミンといったアミン系化合物を用いることができる。また、上記以外のものとして、アミノ酸や脂環式含窒素複素環化合物等も使用することができる。よって、本明細書中のアミノ基は1級、2級または3級の官能基である。
【0044】
本発明で用いるアミン系化合物は、脂肪族1級アミン、脂肪族2級アミン、脂肪族3級アミン、アミノ酸、アルカノールアミン、ポリオキシアルキレンアルキルアミン、ポリオキシアルキレンアミン、ポリエチレンイミン、ポリアミン、脂環式含窒素複素環化合物からなる群より選ばれた1種以上のアミン系化合物が好ましく、アミノ基を1つのみ有する、脂肪族1級アミン、脂肪族2級アミン、脂肪族3級アミン、アルカノールアミン、ポリオキシアルキレンアルキルアミンからなる群より選ばれた1種以上のアミン系化合物がより好ましい。
【0045】
本発明で使用するアミン系化合物は、市販品、合成品に関わらず、単独もしくは2種類以上併せて使用することができる。
【0046】
具体的には、例えば、エチルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミンなどの脂肪族1級アミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、ジステアリルアミンなどの脂肪族2級アミン、トリエチルアミン、ジメチルオクチルアミン、ジメチルデシルアミン、ジメチルラウリルアミン、ジメチルミリスチルアミン、ジメチルバルミチルアミン、ジメチルステアリルアミン、ジメチルベヘニルアミン、ジラウリルモノメチルアミン、トリオクチルアミンなどの脂肪族3級アミン、アラニン、メチオニン、プロリン、セリン、アスパラギン、グルタミン、リシン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン酸、グルタミン酸、システインなどのアミノ酸、ジメチルアミノエタノール、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルカノールアミン、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンオクタデシルアミンなどのポリオキシアルキレンアルキルアミン、ポリオキシアルキレンアミン(ポリエーテルアミン)、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミンなどのポリアミン、ヘキサメチレンテトラミン、モルホリン、ピペリジンなどの脂環式含窒素複素環化合物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
アミン系化合物の分子量は、30以上、15000以下のものが好ましく、45以上、10000以下のものがより好ましく、89以上、1200以下のものがさらに好ましく、89以上、500以下のものが特に好ましい。
【0048】
アミン系化合物の炭素数は、2以上、1000以下のものが好ましく、3以上、700以下のものがより好ましく、4以上、60以下のものがさらに好ましく、4以上、24以下のものが特に好ましい。
【0049】
アミン系化合物が脂肪族アミンの場合には、炭素数が2以上40以下であるものが好ましく、8以上36以下であるものがより好ましく、8以上24以下であるものが特に好ましい。
【0050】
アミン系化合物の酸解離定数(pKa)は、7以上、12以下であることが好ましく、8以上、11以下であることがより好ましく、9以上、10.5以下であることが特に好ましい。なお、酸解離定数は、25℃の水溶液における値である。
【0051】
アミン系化合物が有するアミノ基の数は、貯蔵安定性の観点から、1以上、4以下であることが好ましく、1以上、2以下であることがより好ましく、1であることが特に好ましい。
【0052】
アミン系化合物の化学構造としては、脂環式含窒素複素環化合物、アミノ基がカルボニル基またはカルボキシル基のα炭素と共有結合したアミン系化合物、2つ以上のカルボニル基またはカルボキシル基を有するアミン系化合物以外のアミン系化合物であることが好ましい。
【0053】
アミン系化合物は、大気圧下、0℃以上、40℃以下において、N−メチル−2−ピロリドン100重量部に対して、1重量部以上溶解することが好ましい。
【0054】
ポリオキシアルキレンアルキルアミンにおいて、アミノ基中の窒素原子が1分子内に1重量%以上、15重量%以下含有されることが好ましく、3重量%以上、6重量%以下含有されることがより好ましい。
【0055】
<無機塩基>
無機塩基としては、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ金属のリン酸塩、アルカリ土類金属のリン酸塩等が挙げられる。
【0056】
アルカリ金属の水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
【0057】
アルカリ土類金属の水酸化物としては、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム等が挙げられる。
【0058】
アルカリ金属の炭酸塩としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられる。
【0059】
アルカリ土類金属の炭酸塩としては、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム等が挙げられる。
【0060】
アルカリ金属のリン酸塩としては、リン酸リチウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム等が挙げられる。
【0061】
アルカリ土類金属のリン酸塩としては、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸ストロンチウム、リン酸バリウム等が挙げられる。
【0062】
無機塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸リチウムが好ましい。
【0063】
アンモニア、アンモニウム塩、アミン系化合物および無機塩基からなる群より選ばれる少なくとも1種は、分散時、分散組成物製造時、合剤作成時に添加することができる。
【0064】
アンモニア、アンモニウム塩、アミン系化合物および無機塩基からなる群より選ばれる少なくとも1種の添加量は、特に限定されるものではないが、一般式(1)〜(8)で表わされる化合物1モルに対して、0.01モル以上、4.0モル以下が好ましく、さらに好ましくは0.1モル以上、4モル以下がより好ましい。
【0065】
これらの化合物のうち好ましくは、アンモニウム塩、アミン系化合物であり、より好ましくはアンモニウム塩である。
【0066】
<合剤スラリー>
本発明の電池用組成物を正極合剤もしくは負極合剤に用いる場合は、導電助剤としての炭素材料、、一般式(1)〜(8)で表される化合物、溶剤以外に、少なくとも正極活物質または負極活物質を含有させる。さらに、必要に応じて、バインダーを含むことが好ましい。
【0067】
<電極活物質(正極活物質または負極活物質)>
リチウムイオン二次電池用の正極活物質としては、特に限定はされないが、リチウムイオンをドーピングまたはインターカレーション可能な金属酸化物、金属硫化物等の金属化合物、及び導電性高分子等を使用することができる。
例えば、Fe、Co、Ni、Mn等の遷移金属の酸化物、リチウムとの複合酸化物、遷移金属硫化物等の無機化合物等が挙げられる。具体的には、MnO、V
2O
5、V
6O
13、TiO
2等の遷移金属酸化物粉末、層状構造のニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、スピネル構造のマンガン酸リチウムなどのリチウムと遷移金属との複合酸化物粉末、オリビン構造のリン酸化合物であるリン酸鉄リチウム系材料、TiS
2、FeSなどの遷移金属硫化物粉末等が挙げられる。また、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性高分子を使用することもできる。また、上記の無機化合物や有機化合物を混合して用いてもよい。
【0068】
リチウムイオン二次電池用の負極活物質としては、リチウムイオンをドーピングまたはインターカレーション可能なものであれば特に限定されない。例えば、金属Li、その合金であるスズ合金、シリコン合金、鉛合金等の合金系、Li
XFe
2O
3、Li
XFe
3O
4、Li
XWO
2、チタン酸リチウム、バナジウム酸リチウム、ケイ素酸リチウム等の金属酸化物系、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレン等の導電性高分子系、ソフトカーボンやハードカーボンといった、アモルファス系炭素質材料や、高黒鉛化炭素材料等の人造黒鉛、あるいは天然黒鉛等の炭素質粉末、カーボンブラック、メソフェーズカーボンブラック、樹脂焼成炭素材料、気層成長炭素繊維、炭素繊維などの炭素系材料が挙げられる。これら負極活物質は、1種または複数を組み合わせて使用することもできる。
【0069】
本発明で用いる電極活物質は、N−メチル−2−ピロリドン中で塩基性を示すことが好ましく、表面が炭素材料で被覆されていないことがより好ましい。
【0070】
本発明で用いる正極活物質は、Al、Fe、Co、Ni、Mn等の遷移金属を含むリチウムとの複合酸化物であることが好ましく、Al、Co、Ni、Mnのうちいずれかを含むリチウムとの複合酸化物であることがより好ましく、Ni、及び/または、Mnを含むリチウムとの複合酸化物であることが特に好ましい。これらの活物質を用いたとき、特に良好な効果を得ることができる。
【0071】
これらの電極活物質は、BET比表面積が0.1〜10m
2/gのものが好ましく、0.2〜5m
2/gのものがより好ましく、0.3〜3m
2/gのものがさらに好ましい。
【0072】
これらの電極活物質は、平均粒子径が0.05〜100μmの範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは、0.1〜50μmの範囲内である。本明細書でいう電極活物質の平均粒子径とは電子顕微鏡で測定した粒子径の平均値である。
【0073】
<バインダー>
本発明の合剤スラリーには、更に、結着剤としてバインダーを含有させることが好ましい。使用するバインダーとしては、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、マレイン酸、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリロニトリル、スチレン、ビニルブチラール、ビニルアセタール、ビニルピロリドン等を構成単位として含む重合体または共重合体;ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂;カルボキシメチルセルロースのようなセルロース樹脂;スチレン−ブタジエンゴム、フッ素ゴムのようなゴム類;ポリアニリン、ポリアセチレンのような導電性樹脂等が挙げられる。また、これらの樹脂の変性体や混合物、及び共重合体でも良い。特に、耐性面から分子内にフッ素原子を含む高分子化合物、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、テトラフルオロエチレン等の使用が好ましい。
【0074】
また、バインダーとしてのこれら樹脂類の重量平均分子量は、10,000〜1,000,000が好ましい。分子量が小さいとバインダーの耐性が低下することがある。分子量が大きくなるとバインダーの耐性は向上するものの、バインダー自体の粘度が高くなり作業性が低下するとともに、凝集剤として働き、合剤成分が著しく凝集してしまうことがある。
【0075】
合剤スラリー中の総固形分に占める活物質の割合は、80質量%以上、98.5質量%以下が好ましい。また、合剤スラリー中の総固形分に占める、バインダー成分の割合は、1質量%以上、10質量%以下が好ましい。また、合剤スラリーの適正粘度は、合剤スラリーの塗工方法によるが、一般には、100mPa・s以上、30,000mPa・s以下とするのが好ましい。
【0076】
<電池用組成物の製造方法>
次に、本発明の組成物の製造方法について説明する。
本発明の組成物は、例えば、導電助剤としての炭素材料、一般式(1)〜(8)で表される化合物を溶剤と共に混合し、これに、必要に応じて正極活物質、負極活物質、またはバインダー成分を混合することにより、製造することができる。各成分の添加順序などについては、これに限定されるわけではない。また、必要に応じて更に溶剤を追加しても良い。
【0077】
上記製造方法は、一般式(1)〜(8)で表される化合物を、溶剤中に完全ないしは一部溶解、もしくは分散させ、その溶液中に導電助剤としての炭素材料を添加、混合することで、一般式(1)〜(8)で表される化合物と炭素材料とを溶剤中に分散するものである。このときの組成物中における炭素材料の濃度は、使用する炭素材料の比表面積や表面官能基量などの炭素材料固有の特性値等にもよるが、1質量%以上、50質量%以下が好ましく、更に好ましくは5質量%以上、35質量%以下である。炭素材料の濃度が低すぎると生産効率が悪くなり、炭素材料の濃度が高すぎると分散体の粘度が著しく高くなり、混合・分散効率が低下する場合がある。
【0078】
一般式(1)〜(8)で表される化合物の添加量は、特に限定されない。これは、前記化合物そのものが系中に残存しても電池性能に大きな影響を及ぼさないためである。中でも好ましくは、導電助剤である炭素材料100質量%に対して、0.001質量%以上、30質量%以下である。好ましくは0.005質量%以上、25質量%以下、さらに好ましくは、0.01質量%以上、20質量%以下である。前記化合物の量が少ないと、金属異物による金属イオン溶出抑制の効果が十分に得られない。また、過剰に添加しても顕著な電池特性向上効果は得られない。
【0079】
一般式(1)〜(8)で表される化合物と炭素材料とを溶剤に分散するための装置としては、顔料分散等に通常用いられている分散機が使用できる。例えば、ディスパー、ホモミキサー、プラネタリーミキサー等のミキサー類、ホモジナイザー(エム・テクニック社製「クレアミックス」、PRIMIX社「フィルミックス」等)類、ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等)、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等) 、コボールミル等のメディア型分散機、湿式ジェットミル(ジーナス社製「ジーナスPY」、スギノマシン社製「スターバースト」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等) 、エム・テクニック社製「クレアSS−5」、奈良機械社製「MICROS」等のメディアレス分散機、その他ロールミル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
また、メディア型分散機としては、ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、コロイドミル(PUC社製「PUCコロイドミル」、IKA社製「コロイドミルMK」)類、コーンミル(IKA社製「コーンミルMKO」等)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等)、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等)、コボールミル、等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。分散装置は、1種のみを使用しても良いし、複数種の装置を組み合わせて使用しても良い。
【0080】
正極活物質または負極活物質の添加方法としては、導電助剤としての炭素材料を一般式(1)〜(8)で表される化合物と共に溶剤に分散してなる組成物を攪拌しつつ、正極活物質または負極活物質を添加し、分散させる方法が挙げられる。また、導電助剤としての炭素材料を前記化合物と共に溶剤に分散するときに、正極活物質または負極活物質の一部ないしは全量を、同時に添加して分散処理を行うこともできる。また、このときの混合、分散を行うための装置としては、通常の顔料分散等に用いられている上述の分散機が使用できる。
【0081】
バインダー成分の添加方法としては、導電助剤としての炭素材料を一般式(1)〜(8)で表される化合物と共に溶剤に分散してなる組成物を攪拌しつつ、固形のバインダー成分を添加し、溶解させる方法が挙げられる。また、バインダー成分を溶剤に溶解したものを事前に作製しておき、上記組成物と混合する方法が挙げられる。また、バインダー成分を上記組成物に添加した後に、上記分散装置で再度分散処理を行っても良い。また、導電助剤としての炭素材料を前記化合物と共に溶剤に分散するときに、バインダー成分の一部ないしは全量を、同時に添加して分散処理を行うこともできる。
【0082】
<電極>
本発明の合剤スラリーを電極基材上に、例えば、塗工・乾燥して電池用カーボンブラック合剤膜を形成させることで、電極を得ることができる。
【0083】
(電極基材、集電体)
電極に使用する電極基材の材質や形状は特に限定されず、各種二次電池にあったものを適宜選択することができる。例えば、集電体が挙げられる。集電体の材質としては、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、白金、又はステンレス等の金属や合金が挙げられる。また、形状としては、一般的には平板上の箔が用いられるが、表面を粗面化したものや、穴あき箔状のもの、及びメッシュ状の集電体も使用できる。また、集電体には導電性の下地層形成用組成物を用いた下地層を設けても良い。
【0084】
集電体上に合剤スラリーや下地層形成用組成物を塗工する方法としては、特に制限はなく公知の方法を用いることができる。具体的には、ダイコーティング法、ディップコーティング法、ロールコーティング法、ドクターコーティング法、ナイフコーティング法、スプレーコーティング法、グラビアコーティング法、スクリーン印刷法または静電塗装法等が挙げる事ができ、乾燥方法としては放置乾燥、送風乾燥機、温風乾燥機、赤外線加熱機、遠赤外線加熱機などが使用できるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0085】
また、塗布後に平版プレスやカレンダーロール等による圧延処理を行っても良い。電極合剤層の厚みは、一般的には1μm以上、500μm以下であり、好ましくは10μm以上、300μm以下である。
【0086】
<二次電池>
正極もしくは負極の少なくとも一方に上記の電極を用い、リチウムイオン二次電池を得ることができる。このとき、リチウム二次電池において、従来から知られている電解液やセパレーター等を適宜用いることができる。また、電気二重層キャパシタやリチウムイオンキャパシタ、これらのハイブリッドキャパシタに用いても良い。
【0087】
<電解液>
電解液としては、リチウムを含んだ電解質を非水系溶媒に溶解したものを用いる。電解質としては、LiBF
4、LiClO
4、LiPF
6、LiAsF
6、LiSbF
6、LiCF
3SO
3、Li(CF
3SO
2)
2N、LiC
4F
9SO
3、Li(CF
3SO
2)
3C、LiI、LiBr、LiCl、LiAlCl、LiHF
2、LiSCN、又はLiBPh
4(ただし、Phはフェニル基を表す)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0088】
非水系溶媒としては、特に限定はされないが、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びジエチルカーボネート等のカーボネート類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、及びγ−オクタノイックラクトン等のラクトン類;テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,2−メトキシエタン、1,2−エトキシエタン、及び1,2−ジブトキシエタン等のグライム類;メチルフォルメート、メチルアセテート、及びメチルプロピオネート等のエステル類;ジメチルスルホキシド、及びスルホラン等のスルホキシド類;並びに、アセトニトリル等のニトリル類等が挙げられる。これらの溶媒は、それぞれ単独で使用し ても良いが、2種以上を混合して使用しても良い。
【0089】
(セパレーター)
セパレーターとしては、例えば、ポリエチレン不織布、ポリプロピレン不織布、ポリアミド不織布及びこれらに親水性処理を施したものが挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0090】
(電池構造・構成)
本発明の組成物を用いたリチウムイオン二次電池の構造については特に限定されないが、通常、正極及び負極と、必要に応じて設けられるセパレーターとから構成され、ペーパー型、円筒型、ボタン型、積層型等、使用する目的に応じた種々の形状とすることができる。
【実施例】
【0091】
以下、実施例に基づき、本発明を詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。本実施例中、部は質量部を、%は質量%を、それぞれ表す。実施例及び比較例で使用した化合物、炭素材料、電極活物質等を以下に示す。
【0092】
また、明細書では、原料として炭素材料のみ銅異物を含む場合の実施例を記載するが、電池用組成物へ銅異物を混入させる原料は炭素材料に限られない。さらに、原料に含まれる銅異物だけではなく、電池用組成物の製造工程中で混入する銅や酸化銅も本発明の対象となる。尚、詳細な結果は記載しないが、銅以外の金属であるニッケル、スズでも同様の効果が確認された。
【0093】
<一般式(1)〜(8)で表される化合物>
実施例及び比較例で使用した化合物の構造を表2に示した。
ただし、本明細書において化合物A、B、C、F、G、H、I以外を使用した例は参考例である。
【0094】
【表2】
【0095】
上記化合物は以下の会社から購入した。
化合物A(C):東京化成工業(株)
化合物B:東京化成工業(株)
化合物D:シグマアルドリッチジャパン(株)
化合物E:富士フイルム和光純薬(株)
化合物F:東京化成工業(株)
化合物G:富士フイルム和光純薬(株)
化合物H:富士フイルム和光純薬(株)
化合物I:富士フイルム和光純薬(株)
化合物J:富士フイルム和光純薬(株)
化合物K:東京化成工業(株)
化合物L:東京化成工業(株)
化合物M:富士フイルム和光純薬(株)
化合物N:富士フイルム和光純薬(株)
化合物O:富士フイルム和光純薬(株)
化合物P:富士フイルム和光純薬(株)
化合物AA:東京化成工業(株)
化合物AB:シグマアルドリッチジャパン(株)
化合物AC:シグマアルドリッチジャパン(株)
【0096】
<アミン系化合物>
・n−ブチルアミン:脂肪族1級アミン。C
4H
9NH
2
・n−オクチルアミン: 脂肪族1級アミン。分子式C
8H
17NH
2。分子量129。以下、オクチルアミンと略記する。
・ステアリルアミン: 脂肪族1級アミン。分子式C1
8H
37NH
2。分子量269.5。
・ジエチルアミン:脂肪族2級アミン。分子式C
4H
11N。分子量73。
・ジステアリルアミン: 脂肪族2級アミン。分子式C
36H
75N。
・トリエチルアミン:脂肪族3級アミン。分子式C
6H
15N。分子量101。
・トリ−n−オクチルアミン: 脂肪族3級アミン。分子式C
24H
51N。分子量354。以下、トリオクチルアミンと略記する。
・エタノールアミン:アルカノールアミン系1級アミン。分子式C
2H
7NO、分子量61。
・トリエタノールアミン: アルカノールアミン系3級アミン。分子式C
6H
15NO3。pKa=7.6。
・アミート102(花王社製): ポリオキシエチレンドデシルアミン(平均EO=2モル付加、3級アミン)。
・アミート105(花王社製): ポリオキシエチレンドデシルアミン(平均EO=5モル付加、3級アミン)。
・アミート302(花王社製): ポリオキシエチレンオクタデシルアミン(平均EO=2モル付加、3級アミン)。
・アミート320(花王社製): ポリオキシエチレンオクタデシルアミン(平均EO=20モル付加、3級アミン)。
・ポリエチレンイミン 1200(純正化学社製): 分子量1200、アミン価19。以下、PEI1200と略記する。
・ポリエチレンイミン 1800(純正化学社製): 分子量1800、アミン価19。以下、PEI1800と略記する。
・ポリエチレンイミン 10000(純正化学社製): 分子量10000、アミン価18。以下、PEI10000と略記する。
・ヘキサメチレンテトラミン: 脂環式含窒素複素環化合物(3級アミン)。分子式C
6H
12N
4。
・L−アスパラギン酸: 酸性アミノ酸。分子式C
4H
7NO
2。以下、アスパラギン酸と略記する。
・L−アスパラギン1水和物: 中性アミノ酸。分子式C
4H
8N
2O
3。以下、アスパラギンと略記する。
【0097】
<炭素材料>
・デンカブラックHS−100(デンカ社製):アセチレンブラック、窒素吸着量からS−BET式で求めた39m
2/g、以下「HS100」と略記する。
・LITX(登録商標)HP(CABOT社製):ファーネスブラック、窒素吸着量からS−BET式で求めた比表面積100m
2/g、以下「LITXHP」と略記する。
・EC−300J(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製):ケッチェンブラック、窒素吸着量からS−BET式で求めた比表面積800m
2/g、以下「EC300J」と略記する。
・カーボンナノチューブ:多層カーボンナノチューブ(Cnano社製、Flotube7010)、繊維径7〜11μm、以下「FT7010」と略記する。
【0098】
<その他>
・銅粉末:富士フイルム和光純薬(株)、75μm、純度99.9%
・酸化銅:キシダ化学(株)、150μm(100mesh)
【0099】
<バインダー>
・KFポリマーW7300(クレハ社製):ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、重量平均分子量約100万。以下、PVDFと略記する。
【0100】
<電極活物質>
・LiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2:正極活物質、ニッケルマンガンコバルト酸リチウム。電子顕微鏡で観察して求めた平均一次粒子径が5.5μm、窒素吸着量からS−BET式で求めた比表面積0.62m
2/g、以下、「NCM」と略記する。
・人造黒鉛:負極活物質、平均粒子径12μm、以下、「黒鉛」と略記する。
【0101】
<電池用組成物の評価>
一般式(1)〜(8)で表される化合物を電池用組成物に添加することによる、銅異物混入時の電池組成物への溶出抑制効果は、HSフラットセル(Hohsen社製)を用いたリニアスイープボルタンメトリー測定(以下、LSV測定)により評価した。電池用組成物の評価は、(1)銅異物を添加した電池用組成物のLSV測定、(2)電池用組成物の濾過残渣を使用したLSV測定、により行った。(1)の評価により、一定量の銅異物に対する前記化合物の効果を確認し、(2)の評価により、炭素材料由来の銅異物に対して実際に前記化合物が効果を示すかどうかを確認した。
【0102】
LSV測定とは、電極の電位を特定の範囲で掃引させ、それに応じて流れる反応電流を測定し電気化学的な各情報を解析する手法であり、この測定において、電流量より反応量を、傾きより反応速度をそれぞれ定量的に確認することができる。正極に銅が存在するとき、負極リチウム箔に対する銅の酸化還元電位は、標準電極電位から考えると約3.4Vとなり、これは、約3.4V以上の電圧において銅の溶出反応に伴う電子移動が起こることを意味する。LSV測定での反応電流の立ち上がりは反応開始電位を表し、反応電流量と傾きは銅の溶出しやすさを表す。前記化合物が銅異物に作用し、銅イオン溶出を抑制することができる場合、銅の酸化還元電位が高くなるため、LSV測定での反応開始電位は高電圧側にシフトする。
【0103】
(電池用組成物の調製)
<原料中の金属イオン・原子含有量測定方法>
実施例に使用する炭素材料を、日本工業規格JIS K 0116;2014に従い酸分解法にて前処理し、ICP発光分析法にて銅のイオン・原子の含有量測定を行った。これらの炭素材料を原料として使用することで組成物中に銅異物が混入する。
・HS100:100ppb
・LITXHP:100ppb
・EC300J:140ppb
・FT7010:120ppb
【0104】
[実施例1]
ガラス瓶にNMP79.8部を仕込み、HS10020部、化合物A(C) 0.2部と炭酸アンモニウムを加え、さらに、銅粉末が電池用組成物総量に対し250ppmになるように銅粉末を加え、ディスパーで十分に混合撹拌し、電池用組成物D−1を得た。
【0105】
[実施例2〜53、比較例1〜4]
表2に示す組成に従い、実施例1と同様の方法で電池用組成物を作製し、電池用組成物D−2〜58を得た。
【0106】
[実施例54]
ガラス瓶にNMP90部を仕込み、HS10010部、化合物A(C) 0.05部と炭酸アンモニウム0.3部を加え、ディスパーで十分に混合撹拌し、電池用組成物D−59を得た。
【0107】
[実施例55〜63、比較例5〜8]
表4に示す組成に従い、実施例34と同様の方法で電池用組成物を作製し、電池用組成物D−59〜72を得た。
【0108】
<(1)銅異物を添加した電池用組成物のLSV測定>
実施例1〜53、比較例1〜4で得られた電池用組成物について、以下の手順でLSV測定を行った。
(1)作製した電池用組成物に、導電助剤、バインダーとしてPVDF、そして有機溶剤としてNMPを加えて混合撹拌した導電ペーストを作製する。
(2)(1)で作製した導電ペーストを、アルミニウム箔の表面上に塗布し、NMPが完全に除去されるまで乾燥させ、アルミニウム箔の単位面積当たりの固形分量が2mg/cm
2で、導電助剤:PVDF=8:2の評価試験用作用極を作製する。
(3)対極としてリチウム箔を使用し、リチウム箔を、セパレーターを介して(2)で作製した作用極と積層して得た電極体を、非水電解液と共に収容して二極密閉式金属セルを構築する。
(4)構築した試験用電池を用いて以下の条件でLSV測定する。
・掃引開始電位;3.0V(vsLi/Li
+)
・掃引終了電位;4.3V(vsLi/Li
+)
・掃引速度;10mV/min.
・測定温度;25℃
(5)銅の溶出しやすさの指標である銅の酸化還元開始電位は、電位掃引開始から、電流密度が20μA/cm
2到達時点の電位とした。本測定における銅の酸化還元開始電位は、その電位が高いほど、銅の溶出が遅延していることを示すものである。また、掃引している間に短絡(ショート)するかどうかを確認した。短絡せずに測定できたものを○、途中で短絡したものを×、とした。
【0109】
<(2)電池用組成物の濾過残渣を使用したLSV測定>
実施例54〜63、比較例5〜8で得られた電池用組成物について、以下の手順で濾過残渣を使用したLSV測定を行った。
(1)作製した電池用組成物を25μmメッシュで濾過し、炭素材料由来の銅異物を含む残渣を回収し、それをNMPでリスラリーし40℃で減圧乾燥させる。
(2)(1)の残渣、導電助剤、バインダーとしてPVDF、そして有機溶剤としてNMPを加えて混合撹拌した導電ペーストを作製する。
(3)(2)で作製した導電ペーストをアルミニウム箔の表面上に塗布し、NMPが完全に除去されるまで乾燥させ、アルミニウム箔の単位面積当たりの固形分量が2mg/cm
2で、導電助剤:PVDF=8:2、さらに当該残渣を対導電助剤5%含む、評価試験用作用極を作製する。
(4)対極としてリチウム箔を使用し、リチウム箔を、セパレーターを介して(3)で作製した作用極と積層して得た電極体を、非水電解液と共に収容して二極密閉式金属セルを構築する。
(5)構築した試験用電池を用いて以下の条件でLSV測定する。
・掃引開始電位;3.0V(vsLi/Li
+)
・掃引終了電位;4.3V(vsLi/Li
+)
・掃引速度;10mV/min.
・測定温度;25℃
(6)銅の溶出しやすさの指標である銅の酸化還元開始電位は、電位掃引開始から、電流密度が20μA/cm
2到達時点の電位とした。本測定における銅の酸化還元開始電位は、その電位が高いほど、銅の溶出が遅延していることを示すものである。また、掃引している間に短絡(ショート)するかどうかを確認した。短絡せずに測定できたものを○、途中で短絡したものを×、とした。
【0110】
実施例1、54を例に、より具体的な評価方法を示す。
(1)実施例1で得られた電池用組成物のLSV測定評価
まず、作製した電池用組成物D−1に、導電助剤としてHS100、バインダーとしてPVDFをそれぞれ使用し、導電助剤:バインダーが8:2となるように秤量し、これらを全て溶媒NMPに添加し混合撹拌して導電ペーストを調製した。調製した導電ペーストを厚さ20μmのアルミニウム箔にドクターブレードを用いて塗布した後、減圧下120℃で加熱乾燥し、これを半径9mmに打ち抜き作用極とした。金属リチウム箔(厚さ0.15mm)を対極として、作用極及び対極の間に多孔質ポリプロピレンフィルムからなるセパレータ(厚さ20μm、空孔率50体積%)を挿入積層し、非水電解液(エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを容量比1:1で混合した混合溶媒にLiPF
6を1Mの濃度で溶解させた非水電解液)を満たして二極密閉式金属セル(宝泉社製HSフラットセル)を組み立てた。セルの組み立ては、アルゴンガス置換したグローブボックス内で行った。
(2)実施例54で得られた電池用組成物の濾過残渣を使用したLSV測定
まず、作製した電池用組成物D−56を25μmメッシュで濾過し、銅異物含む残渣を回収し、それをNMP洗浄し40℃で減圧乾燥させ、残渣固形物を0.05g得た。導電助剤としてHS−100、バインダーとしてPVDFをそれぞれ使用し、導電助剤:バインダーが8:2となるように秤量し、これにさらに対導電助剤1%の残渣固形物を加え、これらを溶媒NMPに分散させて導電ペーストを調製した。調製した導電ペーストを厚さ20μmのアルミニウム箔にドクターブレードを用いて塗布した後、減圧下120℃で加熱乾燥し、これを半径9mmに打ち抜き作用極とした。金属リチウム箔(厚さ0.15mm)を対極として、作用極及び対極の間に多孔質ポリプロピレンフィルムからなるセパレータ(厚さ20μm、空孔率50体積%)を挿入積層し、非水電解液(エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを容量比1:1で混合した混合溶媒にLiPF
6を1Mの濃度で溶解させた非水電解液)を満たして二極密閉式金属セル(宝泉社製HSフラットセル)を組み立てた。セルの組み立ては、アルゴンガス置換したグローブボックス内で行った。
【0111】
【表3】
【0112】
【表4】
【0113】
実施例1〜53で得られた電池用組成物D−1〜53は、銅異物を添加していてもLSV評価結果が良好であった。比較例1のLSV評価結果とこれらより、一般式(1)〜(8)で表される化合物を添加することで、銅の電位反応が高くなり、LSV評価において短絡等の電池性能低下が改善されることが示された。比較例2〜4の結果より、類似構造を有する化合物であっても、本発明で特徴とした構造を有していない場合は銅異物に対する十分な効果が発揮されず、LSV評価で電池性能低下(電池短絡)することが確認された。
【0114】
実施例54〜63で得られた電池用組成物D−59〜68の濾過残渣を使用したLSV測定でも、同様に効果が確認された。比較例5のLSV評価で短絡が確認されたため、銅異物が微量しか存在しない場合でも(炭素材料由来の銅異物のみであっても)、前記化合物が銅異物に対して十分に作用することが示された。すなわち、この評価により、炭素材料由来の銅異物に対して実際に前記化合物が効果を示すことが確認できた。
【0115】
<合剤スラリーの調製>
本実施例及び比較例では、銅異物混入時の電池耐性を評価するために、電池用組成物作製時に銅異物を添加して(銅異物量が一律となるように添加)、それらを合剤スラリー調製に用いた。使用した電池用組成物の組成は上記の表2に示した通りである。
【0116】
<正極合剤スラリー>
[実施例64]
先に調製した電池用組成物D−1(カーボンブラック量が8部となるように)に対し、予めPVDFを固形分10%となるようにNMPに溶解させたバインダー溶液20部(すなわち、PVDF2部)、正極活物質としてLiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2(NCM)90部を仕込み、ホモミキサーにより充分に混合し、正極合剤スラリーBC−1を得た。
【0117】
[実施例65〜116、比較例9〜12]
表5に示す組成に従い、実施例64と同様にして、正極合剤スラリーBC−2〜53、61〜64を得た。
【0118】
<負極合剤スラリー>
[実施例117]
先に調製した電池用組成物D−1(カーボンブラック量が8部となるように)に対し、予めPVDFを固形分10%となるようにNMPに溶解させたバインダー溶液20部(すなわち、PVDF2部)、負極活物質として黒鉛90部を仕込み、ホモミキサーにより充分に混合し、負極合剤スラリーBC−54を得た。
【0119】
[実施例118〜123、比較例13〜16]
表5に示す組成に従い、実施例117と同様にして、負極合剤スラリーBC−54〜60、65〜68を得た。
【0120】
【表5】
【0121】
<二次電池用電極の作製>
上記の各実施例、比較例で得られた合剤スラリーを用いて電極を作製した。
正極合剤スラリーは厚さ20μmのアルミ箔上に、負極合剤スラリーは厚さ20μmの銅箔上にそれぞれドクターブレードを用いて塗工した後、減圧下120℃で30分間乾燥し、乾燥後膜厚100μmの電極を作製した。
【0122】
<リチウムイオン二次電池評価用セルの組み立て>
先に作製した正極及び負極を半径9mmに打ち抜き作用極とし、金属リチウム箔(厚さ0.15mm)を対極として、作用極及び対極の間に多孔質ポリプロピレンフィルムからなるセパレーター(厚さ20μm、空孔率50%)を挿入積層し、電解液(エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを容量比1:1で混合した混合溶媒にLiPF
6を1Mの濃度で溶解させた非水電解液)を満たして二極密閉式金属セル(宝泉社製HSフラットセル)を組み立てた。セルの組み立ては、アルゴンガス置換したグローブボックス内で行った。
【0123】
<リチウムイオン二次電池正極評価用セルの評価>
[実施例64〜116][比較例9〜12]
作製した正極評価用セルを30℃で、充放電装置(北斗電工社製SM−8)を使用して、充電レート1.0Cの定電流定電圧充電(上限電圧4.2V)で満充電とし、充電時と同じレートの定電流で、放電下限電圧3.0Vまで放電を行う充放電を1サイクル(充放電間隔休止時間30分)とし、このサイクルを合計20サイクル行い、充放電を行った。アルゴンガス置換したグローブボックス内で評価後のセルを分解し、20サイクルの間に短絡(ショート)するかどうかを確認した。評価結果を表
6に示した。
【0124】
<リチウムイオン二次電池負極評価用セルの評価>
[実施例117〜123][比較例13〜16]
作製した正極評価用セルを30℃で、充放電装置(北斗電工社製SM−8)を使用して、充電レート1.0Cの定電流定電圧充電(下限電圧0.0V)で満充電とし、充電時と同
じレートの定電流で、放電下限電圧2.0Vまで放電を行う充放電を1サイクル(充放電間隔休止時間30分)とし、このサイクルを合計20サイクル行い、充放電を行った。アルゴンガス置換したグローブボックス内で評価後のセルを分解し、20サイクルの間に短絡(ショート)するかどうかを確認した。評価結果を表
6に示した。
【0125】
電池異常は、下記の2段階で評価した。
×;サイクル中に短絡
〇;20サイクル以上充放電可能
容量維持率は、1サイクル目の放電容量に対する20サイクル目の放電容量の百分率であり、数値が100%に近いものほど良好であることを示す。
◎(極めて良好);容量維持率が95%以上の場合
○(良好);容量維持率が90%以上95%未満の場合
△(普通);容量維持率が80%以上90%未満の場合
数値無し(−);集電体からの塗膜の剥離やショート等により正常な充放電曲線が得られず、容量が求められなかった場合
【0126】
表
6より、本発明の合剤スラリーで作製した電極を使用した実施例64〜123は、正極または負極に銅異物が混入しているにも関わらず、20サイクル後も短絡なく充放電でき、容量維持率についても良好な結果であった。
一方、比較例9〜16は全て、正極で金属異物が酸化され、負極で還元されることで電圧不良を起こし、短絡した。これら評価結果より、電池用組成物に一般式(1)〜(8)で表される化合物を添加することで、混入する銅異物による電池異常を抑制できることが示された。
【0127】
【表6】
【課題】本発明の課題は、銅などの金属異物が混入しても短絡等による電池性能低下せず優れた電池特性を達成することができる電池用組成物、及びその用途を提供することである。
前記課題は、シアヌル酸、イソシアヌル酸、アラントイトン、バルビツール酸、1,3,5‐トリアジナン‐2,4‐ジオン、グルタルイミド、ヒダントイン、尿酸、またはそれぞれの誘導体である一般式(1)〜(8)のいずれかの化合物と、導電助剤及び/又は溶剤とを含むことを特徴とする電池用組成物、、およびそれを用いた電池用合剤膜、電池用電極、二次電池によって解決される。