特許第6787466号(P6787466)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6787466高強度亜鉛めっき鋼板の製造方法、及び高強度部材の製造方法
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  • 特許6787466-高強度亜鉛めっき鋼板の製造方法、及び高強度部材の製造方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6787466
(24)【登録日】2020年11月2日
(45)【発行日】2020年11月18日
(54)【発明の名称】高強度亜鉛めっき鋼板の製造方法、及び高強度部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/46 20060101AFI20201109BHJP
   C21D 3/06 20060101ALI20201109BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20201109BHJP
   C22C 38/06 20060101ALI20201109BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20201109BHJP
   C22C 18/04 20060101ALN20201109BHJP
   C22C 18/00 20060101ALN20201109BHJP
【FI】
   C21D9/46 J
   C21D3/06
   C22C38/00 301T
   C22C38/06
   C22C38/60
   !C22C18/04
   !C22C18/00
【請求項の数】9
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2019-190132(P2019-190132)
(22)【出願日】2019年10月17日
(62)【分割の表示】特願2019-537007(P2019-537007)の分割
【原出願日】2019年3月29日
(65)【公開番号】特開2020-45568(P2020-45568A)
(43)【公開日】2020年3月26日
【審査請求日】2019年10月17日
(31)【優先権主張番号】特願2018-68994(P2018-68994)
(32)【優先日】2018年3月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】吉冨 裕美
(72)【発明者】
【氏名】小野 義彦
(72)【発明者】
【氏名】中垣内 達也
【審査官】 伊藤 真明
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/029404(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/047836(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/199922(WO,A1)
【文献】 国際公開第2018/124157(WO,A1)
【文献】 国際公開第2018/146828(WO,A1)
【文献】 特許第6525114(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/46− 9/48
C22C 38/00−38/60
C22C 18/00−18/04
C21D 3/06
C23C 2/06
C23C 2/26− 2/28
C23C 2/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.10%以上0.30%以下、
Si:1.0%以上2.8%以下、
Mn:2.0%以上3.5%以下、
P:0.010%以下、
S:0.001%以下、
Al:1%以下、及び
N:0.0001%以上0.006%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成と、
面積率で、残留オーステナイトが4%以上20%以下、フェライトが30%以下(0%を含む)、マルテンサイトが40%以上かつベイナイトが10%以上50%以下である鋼組織と、を有する鋼板と、
前記鋼板上の亜鉛めっき層と、を備え、
鋼中の拡散性水素量が0.20質量ppm未満であり、
引張強さが1100MPa以上であり、
引張強さTS(MPa)、伸びEl(%)および板厚t(mm)の関係が下記(1)式を満たし、
TS×(El+3−2.5t)≧13000 (1)
降伏比YRが67%以上である高強度亜鉛めっき鋼板を製造する、高強度亜鉛めっき鋼板の製造方法であって、
前記成分組成を有する冷延鋼板を、水素濃度1vol%以上13vol%以下の焼鈍炉内雰囲気で、焼鈍炉内温度T1:(Ac3点−10℃)以上900℃以下の温度域で5s以上加熱した後、冷却し、400℃以上550℃以下の温度域で20s以上1500s以下滞留させる焼鈍工程と、
前記焼鈍工程後の鋼板を、めっき処理し、平均冷却速度3℃/s以上で100℃以下まで冷却するめっき工程と、
前記めっき工程後のめっき鋼板を、水素濃度10vol%以下かつ露点50℃以下の炉内雰囲気で、70℃以上450℃以下の温度T2(℃)に、0.02(hr)以上で下記(2)式を満たす時間t(hr)以上滞留させる後熱処理工程と、を有する高強度亜鉛めっき鋼板の製造方法。
135−17.2×ln(t)≦ T2 (2)
【請求項2】
前記成分組成は、さらに、質量%で、
Ti、Nb、V及びZrのうち1種以上の合計:0.005%以上0.10%以下、
Mo、Cr、Cu及びNiのうち1種以上の合計:0.005%以上0.5%以下、及び
B:0.0003%以上0.005%以下のうち少なくとも1つを含有する請求項1に記載の高強度亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記成分組成は、さらに、質量%で、
Sb:0.001%以上0.1%以下及びSn:0.001%以上0.1%以下のうち少なくとも1つを含有する請求項1又は2に記載の高強度亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記成分組成は、さらに、質量%で、Ca:0.0010%以下を含有する請求項1〜3のいずれか一項に記載の高強度亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記焼鈍工程前に、前記冷延鋼板を、Ac1点以上(Ac3点+50℃)以下まで加熱し、酸洗する前処理工程を有する請求項1〜4のいずれか一項に記載の高強度亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記めっき工程後、0.1%以上の伸長率で調質圧延を施す請求項1〜5のいずれか一項に記載の高強度亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記後熱処理工程後に、幅トリムをする請求項6に記載の高強度亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記後熱処理工程前に、幅トリムを行い、
前記後熱処理工程における、70℃以上450℃以下の温度T2(℃)で滞留する滞留時間t(hr)が、0.02(hr)以上かつ前記(2)式に代えて下記(3)式を満たす請求項6に記載の高強度亜鉛めっき鋼板の製造方法。
130−17.5×ln(t)≦ T2 (3)
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の高強度亜鉛めっき鋼板の製造方法によって製造された高強度亜鉛めっき鋼板を、成形加工及び溶接の少なくとも一方を行う工程を有する、高強度部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強度が高くなると劣化しやすい伸び(El)や耐水素脆性に優れ、建材や自動車の骨格・耐衝突部品に好適な高強度亜鉛めっき鋼板、高強度部材およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の衝突安全性および燃費改善が強く求められている昨今、部品素材である鋼板の高強度化が進んでいる。中でも、自動車が衝突した際に乗員の安全を確保する観点から、キャビン周りに使われる部品素材には、高い引張強さだけでなく、高い降伏強さも求められる。また意匠性を反映するため強さのほか素材の延性も重要である。さらに、世界規模で自動車の普及が広がっており、多種多様な地域・気候のなか種々の用途で自動車が使われることに対し、部品素材である鋼板には高い防錆性が求められる。高強度等の特性に関する文献として下記特許文献1〜3がある。
【0003】
特許文献1には、引張強さが980MPa以上であり、強度−延性バランスに優れた鋼板を提供する方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、SiおよびMnを含有する高強度鋼板を母材とする、めっき外観、耐食性、高加工時の耐めっき剥離性および高加工時の加工性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、耐遅れ破壊特性が良好な高強度めっき鋼板の製造方法が開示されている。
【0006】
ところで、鋼板の高強度化に伴い、水素脆化の懸念が出てくる。これに関する文献として、たとえば、特許文献4、5及び6では、加工性と耐水素脆性が高められた残留オーステナイトを活用した鋼板として、ベイニティックフェライトとマルテンサイトを母相とし、残留オーステナイトを含む鋼板であって、残留オーステナイトの面積率や分散形態を適切に制御することにより、耐水素脆性が高められた鋼板が開示されている。水素トラップ能力、水素吸蔵能力が非常に高いベイニティックフェライトおよび残留オーステナイトに着目し、特に、残留オーステナイトの作用を十分発揮させるため、残留オーステナイトの形態を、サブミクロンオーダーの微細ラス状としている。
【0007】
また、特許文献7では、母材強度(TS)<870MPa程度の鋼板の溶接部水素脆性に優れる高強度鋼板とその製造方法が開示されている。この特許文献7においては、鋼中に酸化物を分散させることで水素脆性を改善している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2013−213232号公報
【特許文献2】特開2015−151607号公報
【特許文献3】特開2011−111671号公報
【特許文献4】特開2007−197819号公報
【特許文献5】特開2006−207018号公報
【特許文献6】特開2011−190474号公報
【特許文献7】特開2007−231373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来、延性に優れる、いわゆるDP鋼やTRIP鋼は、引張強さ(TS)に対する降伏強さ(YS)が低く、すなわち降伏比(YR)が低かった。また、板厚が薄い鋼板では水素が侵入しても短時間で放出されることから、いわゆる遅れ破壊に対する問題意識は低かった。なお、「板厚が薄い鋼板」とは板厚が3.0mm以下の鋼板である。
【0010】
特許文献1では、めっき密着性を低下させるSiの添加を抑えているが、Mn含有量が2.0%を超える場合、鋼板表面にはMn系酸化物ができやすく一般的にめっき性を損なう。
【0011】
特許文献2ではめっき層を形成するときの条件は特に限定しておらず、通常用いられる条件を採用しており、めっき性が劣る。さらに、耐水素脆性を改善していない。
【0012】
特許文献2では、鋼組織構成上、Ac3点が800℃を超える素材には適用するのが困難である。さらに焼鈍炉内雰囲気中の水素濃度が高いと鋼中水素濃度が増大し、耐水素脆性が十分とはいえない。
【0013】
特許文献3では、加工後の耐遅れ破壊特性は改善されているものの、焼鈍中の水素濃度も高く、母材そのものに水素が残留し耐水素脆性が劣る。
【0014】
特許文献4〜7は耐水素脆性に関する改善をおこなっているが、これらは使用環境における腐食環境または雰囲気から発生した水素が起因するものであり、製造後、加工前・加工時の素材の耐水素脆性を考慮したものではなかった。一般に、亜鉛やニッケルなどのめっきが施されると、水素は素材から放出・侵入しにくいため、製造中に鋼板に侵入した水素は鋼中に残存しやすくなり、素材の水素脆化が起こりやすくなる。特許文献7では、連続めっきラインの炉内水素濃度の上限が60%であり、Ac3点以上の高温に焼鈍した場合に大量の水素が鋼中に取り込まれる。したがって、特許文献7の方法でTS≧1100MPaの耐水素脆性に優れる超高強度鋼板を製造することはできない。
【0015】
本発明は、水素脆化が懸念される高強度亜鉛めっき鋼板において、めっき外観や素材の耐水素脆性に優れ、建材や自動車の耐衝突部品に好適な高い降伏比を持つ高強度亜鉛めっき鋼板、高強度部材およびそれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決するために、種々の鋼板を用いて、良好な外観に加えて、良好な機械的性質を有しつつ、めっき性および耐水素脆性として抵抗スポット溶接部ナゲットの亀裂割れ克服を両立させるための検討を行った。その結果、鋼板の成分組成に加え、製造条件の適切な調整によって、最適な鋼組織の作り込みと機械的性質のバランスを実現し、さらに鋼中水素量を制御することで、上記課題を解決するに至った。具体的には本発明は以下のものを提供する。
【0017】
[1] 質量%で、
C:0.10%以上0.30%以下、
Si:1.0%以上2.8%以下、
Mn:2.0%以上3.5%以下、
P:0.010%以下、
S:0.001%以下、
Al:1%以下、及び
N:0.0001%以上0.006%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成と、
面積率で、残留オーステナイトが4%以上20%以下、フェライトが30%以下(0%を含む)、マルテンサイトが40%以上かつベイナイトが10%以上50%以下である鋼組織と、を有する鋼板と、
前記鋼板上の亜鉛めっき層と、を備え、
鋼中の拡散性水素量が0.20質量ppm未満であり、
引張強さが1100MPa以上であり、
引張強さTS(MPa)、伸びEl(%)および板厚t(mm)の関係が下記(1)式を満たし、
降伏比YRが67%以上である高強度亜鉛めっき鋼板。
TS×(El+3−2.5t)≧13000 (1)
[2]前記成分組成は、さらに、質量%で、
Ti、Nb、V及びZrのうち1種以上の合計:0.005%以上0.10%以下、
Mo、Cr、Cu及びNiのうち1種以上の合計:0.005%以上0.5%以下、及び
B:0.0003%以上0.005%以下のうち少なくとも1つを含有する[1]に記載の高強度亜鉛めっき鋼板。
[3]前記成分組成は、さらに、質量%で、
Sb:0.001%以上0.1%以下及びSn:0.001%以上0.1%以下のうち少なくとも1つを含有する[1]又は[2]に記載の高強度亜鉛めっき鋼板。
[4]前記成分組成は、さらに、質量%で、Ca:0.0010%以下を含有する[1]〜[3]のいずれか一つに記載の高強度亜鉛めっき鋼板。
[5][1]〜[4]のいずれか一つに記載の高強度亜鉛めっき鋼板が、成形加工及び溶接の少なくとも一方がされてなる高強度部材。
[6][1]〜[4]のいずれか一つに記載の成分組成を有する冷延鋼板を、水素濃度1vol%以上13vol%以下の焼鈍炉内雰囲気で、焼鈍炉内温度T1:(Ac3点−10℃)以上900℃以下の温度域で5s以上加熱した後、冷却し、400℃以上550℃以下の温度域で20s以上1500s以下滞留させる焼鈍工程と、
前記焼鈍工程後の鋼板を、めっき処理し、平均冷却速度3℃/s以上で100℃以下まで冷却するめっき工程と、
前記めっき工程後のめっき鋼板を、水素濃度10vol%以下かつ露点50℃以下の炉内雰囲気で、70℃以上450℃以下の温度T2(℃)に、0.02(hr)以上で下記(2)式を満たす時間t(hr)以上滞留させる後熱処理工程と、を有する高強度亜鉛めっき鋼板の製造方法。
135−17.2×ln(t)≦ T2 (2)
[7]前記焼鈍工程前に、前記冷延鋼板を、Ac1点以上(Ac3点+50℃)以下まで加熱し、酸洗する前処理工程を有する[6]に記載の高強度亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[8]前記めっき工程後、0.1%以上の伸長率で調質圧延を施す[6]または[7]に記載の高強度亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[9]前記後熱処理工程後に、幅トリムをする[8]に記載の高強度亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[10]前記後熱処理工程前に、幅トリムを行い、
前記後熱処理工程における、70℃以上450℃以下の温度T2(℃)で滞留する滞留時間t(hr)が、0.02(hr)以上かつ下記(3)式を満たす[8]に記載の高強度亜鉛めっき鋼板の製造方法。
130−17.5×ln(t)≦ T2 (3)
[11][6]〜[10]のいずれか一つに記載の高強度亜鉛めっき鋼板の製造方法によって製造された高強度亜鉛めっき鋼板を、成形加工及び溶接の少なくとも一方を行う工程を有する、高強度部材の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、引張強さが1100MPa以上の高強度で、降伏比が67%以上で強度−延性バランスに優れ、耐水素脆性にも優れると共に、表面性状(外観)も良好な高強度亜鉛めっき鋼板、高強度部材およびそれらの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】拡散性水素量と最小ナゲット径との関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0021】
<高強度亜鉛めっき鋼板>
本発明の高強度亜鉛めっき鋼板は、鋼板と、該鋼板上に形成された亜鉛めっき層とを備える。以下では、鋼板、亜鉛めっき層の順で説明する。また、本発明でいう高強度とは、引張強さが1100MPa以上であることを意味する。また、本発明でいう強度−延性バランスに優れるとは、引張強さTS(MPa)、伸びEl(%)および板厚t(mm)の関係が下記(1)式を満たすことをいう。
【0022】
TS×(El+3−2.5t)≧13000 (1)
鋼板の成分組成は以下の通りである。以下の説明において、成分の含有量の単位である「%」は「質量%」を意味する。
【0023】
C:0.10%以上0.30%以下
Cは鋼板の高強度化に有効な元素であり、鋼組織の硬質相の一つであるマルテンサイトを形成することで高強度化に寄与する。これらの効果を得るためには、C含有量は0.10%以上、好ましくは0.11%以上、より好ましくは0.12%以上である。一方、C含有量が0.30%を超えると、本発明ではスポット溶接性が顕著に劣化すると同時に、マルテンサイトの強度増加により鋼板が硬質化し、延性などの成形性が低下する傾向にある。したがってC含有量は0.30%以下とする。C含有量は、好ましくは0.28%以下、より好ましくは0.25%以下である。
【0024】
Si:1.0%以上2.8%以下
Siは固溶強化により高強度化に寄与する元素であるとともに、炭化物の生成を抑え、残留オーステナイトの生成に有効に作用する元素である。この観点からSi含有量は1.0%以上、好ましくは1.2%以上とする。一方でSiは鋼板表面にSi系酸化物を形成しやすく、不めっきの原因となる場合があると共に、過剰に含有すると熱間圧延時にスケールが著しく形成されて鋼板表面にスケール跡疵が付き、表面性状が悪くなることがある。また、酸洗性が低下することがある。これらの観点から、Si含有量を2.8%以下とする。
【0025】
Mn:2.0%以上3.5%以下
Mnは固溶強化およびマルテンサイト形成により高強度化に寄与する元素として有効である。この効果を得るためにMn含有量は2.0%以上にする必要があり、好ましくは2.1%以上、より好ましくは2.2%以上である。一方、Mn含有量が3.5%を超えるとスポット溶接部割れを招くと共に、Mnの偏析などに起因して鋼組織にムラを生じやすくなり、加工性の低下を招く。また、Mn含有量が3.5%を超えると、Mnは鋼板表面に酸化物あるいは複合酸化物として濃化しやすく、不めっきの原因となる場合がある。そこで、Mn含有量は3.5%以下とする。Mn含有量は、好ましくは3.3%以下、より好ましくは3.0%以下である。
【0026】
P:0.010%以下
Pは、不可避的に含有する元素であると共に、固溶強化により鋼板の高強度化に寄与する有効な元素である。その含有量が0.010%を超えると溶接性や、伸びフランジ性などの加工性が低下するほか、粒界に偏析して粒界脆化を助長する。そこで、P含有量は0.010%以下とする。P含有量は、好ましくは0.008%以下、より好ましくは0.007%以下である。P含有量の下限は特に規定しないが、P含有量が0.001%未満では製造過程において生産能率低下と脱燐コストの増加を招くことがある。このため、P含有量は、好ましくは0.001%以上とする。
【0027】
S:0.001%以下
SもPと同様に不可避的に含有する元素であり、熱間脆性を起こす原因となったり、溶接性の低下をもたらしたり、鋼中に硫化物系介在物として存在して鋼板の加工性を低下させる有害な元素である。このため、S含有量は極力低減することが好ましい。そこで、S含有量は0.001%以下とする。S含有量の下限は特に規定しないが、S含有量が0.0001%未満では現状の製造過程において生産能率低下とコストの増加を招くことがある。このため、S含有量は0.0001%以上とすることが好ましい。
【0028】
Al:1%以下
Alは脱酸剤として添加される。脱酸剤としてAlを添加する場合、その効果を得るには0.01%以上の含有が好ましい。Al含有量は、より好ましくは0.02%以上である。一方Al含有量が1%を超えると原料コストの上昇を招くほか、鋼板の表面欠陥を誘発する原因にもなるため1%を上限とする。Al含有量は、好ましくは0.4%以下、より好ましくは0.1%以下である。
【0029】
N:0.0001%以上0.006%以下
N含有量が0.006%を超えると鋼中に過剰な窒化物が生成して延性や靭性を低下させるほか、鋼板の表面性状の悪化を招くことがある。このためN含有量は0.006%以下、好ましくは0.005%以下、より好ましくは0.004%以下とする。フェライトの清浄化による延性向上の観点からは含有量は極力少ない方が好ましいが、製造過程における生産能率低下とコスト増を招くためN含有量の下限は0.0001%とする。N含有量は、好ましくは0.0010%以上、より好ましくは0.0015%以上である。
【0030】
上記鋼板の成分組成は、任意成分として、Ti、Nb、V及びZrのうち1種以上を合計で0.005%以上0.10%以下、Mo、Cr、Cu及びNiのうち1種以上を合計で0.005%以上0.5%以下、及びB:0.0003%以上0.005%以下のうち少なくとも1つを含有してもよい。
【0031】
Ti、Nb、V及びZrは、CやNと炭化物や窒化物(炭窒化物の場合もある)を形成し、微細析出物とすることで鋼板の高強度化、特に高YR化に寄与する。この効果を得る観点から、Ti、Nb、V及びZrのうち1種以上を合計で0.005%以上含有することが好ましい。より好ましくは0.015%以上、さらに好ましくは0.030%以上である。また、これらの元素は、鋼中水素のトラップサイト(無害化)のためにも有効である。しかしながら合計が0.10%を超える過剰な含有は、冷間圧延時の変形抵抗を高めて生産性を阻害するほか、過剰な或いは粗大な析出物の存在はフェライトの延性を低下させ、鋼板の延性や曲げ性、伸びフランジ性などの加工性を低下させる。そこで、上記合計を0.10%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.08%以下、さらに好ましくは0.06%以下である。
【0032】
Mo、Cr、Cu及びNiは、焼入れ性を高めてマルテンサイトを生成させやすくするため、高強度化に寄与する元素である。そこで、Mo、Cr、Cu及びNiのうち1種以上を合計で0.005%以上含有することが好ましい。合計含有量は、より好ましくは0.010%以上、さらに好ましくは0.050%以上である。また、Mo、Cr、Cu及びNiについては、合計含有量が0.5%を超える過剰な含有は効果の飽和やコスト増につながるので、合計含有量を0.5%以下とすることが好ましい。また、Cuについては熱間圧延時の割れを誘発し表面疵の発生原因となるので最大でもCu含有量は0.5%以下とすることが好ましい。NiについてはCu含有による表面疵の発生を抑止する効果があるためCu含有時に含有することが好ましい。特にCu含有量の1/2以上のNiを含有することが好ましい。
【0033】
Bは、焼入れ性を高めてマルテンサイトを生成させやすくするため、高強度化に寄与する元素である。また、B含有量は、好ましくは0.0003%以上、より好ましくは0.0005%以上、さらに好ましくは0.0010%以上である。B含有量は、焼鈍冷却過程で起こるフェライト生成の抑制効果を得るために、上記下限を設けることが好ましい。また、B含有量が0.005%を超えて含有しても、効果が飽和するので、上記上限を設けることが好ましい。過剰な焼入れ性は溶接時の溶接部割れなどの不利益もある。
【0034】
上記鋼板の成分組成は、任意成分として、Sb:0.001%以上0.1%以下及びSn:0.001%以上0.1%以下のうち少なくとも1つを含有してもよい。
【0035】
SbやSnは脱炭や脱窒、脱硼などを抑制して、鋼板の強度低下抑制に有効な元素である。またスポット溶接割れ抑制にも有効であるため、Sn含有量及びSb含有量は、ぞれぞれ0.001%以上が好ましい。Sn含有量及びSb含有量は、それぞれ、より好ましくは0.003%以上、さらに好ましくは0.005%以上である。しかしながら、Sn及びSbは、それぞれ、0.1%を超える過剰な含有は鋼板の伸びフランジ性などの加工性を低下させる。そこで、Sn含有量及びSb含有量は、それぞれ0.1%以下とすることが好ましい。Sn含有量及びSb含有量は、それぞれ、より好ましくは0.030%以下、さらに好ましくは0.010%以下である。
【0036】
上記鋼板の成分組成は、任意成分として、Ca:0.0010%以下を含有してもよい。
【0037】
Caは鋼中で硫化物や酸化物を形成し、鋼板の加工性を低下させる。このため、Ca含有量は0.0010%以下が好ましい。Ca含有量は、より好ましくは0.0005%以下、さらに好ましくは0.0003%以下である。また、下限は特に限定されないが、製造上、Caを全く含まないようにすることが困難な場合もあることから、それを考慮すると、Ca含有量は0.00001%以上が好ましい。Ca含有量は、より好ましくは0.00005%以上である。
【0038】
上記鋼板の成分組成において、上記以外の残部はFeおよび不可避的不純物である。上記任意成分において、含有量の下限が存在する成分を上記下限値未満で含む場合、本発明の効果が害されないため、その任意成分は不可避的不純物とする。
【0039】
続いて、上記鋼板の鋼組織について説明する。
【0040】
鋼組織は、面積率で、マルテンサイトが40%以上かつフェライトが30%以下(0%を含む)、残留オーステナイトが4%以上20%以下、ベイナイトが10%以上50%以下を含む。
【0041】
残留オーステナイトの面積率が4%以上20%以下
鋼板製造後に室温で確認されるオーステナイト(残留オーステナイト)は加工など応力誘起によりマルテンサイトに変態するため歪伝播しやすく鋼板の延性を向上させる。その効果は、残留オーステナイトの面積率が4%以上で現れ、5%以上で顕著になる。一方で、オーステナイト(fcc相)はフェライト(bcc相)に比べ、鋼中水素の拡散が遅く、鋼中に水素が残存しやすく、また水素吸蔵能が高いため、この残留オーステナイトが加工誘起変態した場合、鋼中の拡散性水素を増加させる懸念がある。そのため、残留オーステナイトの面積率は、20%以下にする。残留オーステナイトの面積率は、好ましくは18%以下、より好ましくは15%以下である。
【0042】
フェライトの面積率が30%以下(0%を含む)
フェライトの存在は、高い引張強さと降伏比を得る観点からは好ましくないが、本発明では延性との両立の観点から面積率で30%以下まで許容される。フェライトの面積率は、好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下である。フェライトの面積率の下限は特に限定されないが、フェライトの面積率は1%以上が好ましく、より好ましくは2%以上、さらに好ましくは3%以上である。なお、比較的高温で生成した炭化物を含まないベイナイトは後述の実施例に記載の走査電子顕微鏡での観察ではフェライトとの区別はせず、フェライトとみなす。
【0043】
マルテンサイトの面積率が40%以上
ここでマルテンサイトは、焼戻しマルテンサイト(自己焼戻しマルテンサイトを含む)を含む。焼入れままマルテンサイト、焼戻しマルテンサイトは硬質相であり、高い引張強さを得るため本発明において重要である。焼入れままマルテンサイトに比べ、焼戻しマルテンサイトは軟化傾向にある。必要な強度を確保するために、マルテンサイトの面積率は40%以上、好ましくは45%以上とする。マルテンサイトの面積率の上限は特に規定していないが、他の組織とのバランスで、マルテンサイトの面積率は86%以下であることが好ましい。また、延性確保の観点から、80%以下がより好ましい。
【0044】
ベイナイトの面積率が10%以上50%以下
ベイナイトはフェライトに比べ硬質であり、鋼板強度を高めるためにも有効である。上記の通り、本発明では炭化物を含まないベイナイトはフェライトとみなされるため、ここで言うベイナイトは炭化物を含むベイナイトを意味する。一方でベイナイトはマルテンサイトに比べ延性があり、ベイナイトの面積率は10%以上とする。しかしながら必要な強度を確保するために、ベイナイトの面積率は50%以下、好ましくは45%以下とする。
【0045】
なお、鋼組織は上記した組織以外の組織として、残部にパーライトおよび炭化物などの析出物を含む場合がある。これらのその他の組織(フェライト、残留オーステナイト、マルテンサイト、ベイナイト以外の残部)は、面積率で10%以下であることが好ましく、より好ましくは5%以下である。
【0046】
上記の鋼組織における面積率は、実施例に記載の方法で得られる結果を採用する。より具体的な面積率の測定方法は実施例に記載するが、簡潔には以下の通りである。上記面積率は、表面から板厚の1/4厚み位置(1/8〜3/8)の領域における組織を代表して観察して算出される。また、上記面積率は、鋼板のL断面(圧延方向に平行な板厚断面)を研磨後、ナイタール液で腐食しSEMで1500倍の倍率で3視野以上を観察して撮影した画像を解析して求められる。
【0047】
次いで、亜鉛めっき層について説明する。
【0048】
亜鉛めっき層の組成は特に限定されず、一般的なものであればよい。例えば、溶融亜鉛めっき層や合金化溶融亜鉛めっき層の場合、一般的には、Fe:20質量%以下、Al:0.001質量%以上1.0質量%以下を含有し、さらに、Pb、Sb、Si、Sn、Mg、Mn、Ni、Cr、Co、Ca、Cu、Li、Ti、Be、Bi、REMから選択する1種または2種以上を合計で0質量%以上3.5質量%以下含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成であることが好ましい。本発明では、片面あたりのめっき付着量が20〜80g/mの溶融亜鉛めっき層、これがさらに合金化された合金化溶融亜鉛めっき層を有することが好ましい。また、めっき層が溶融亜鉛めっき層の場合にはめっき層中のFe含有量が7質量%未満であり、合金化溶融亜鉛めっき層の場合にはめっき層中のFe含有量は7〜20質量%であることが好ましい。
【0049】
本発明の高強度亜鉛めっき鋼板は、実施例に記載の方法で測定して得られる鋼中の拡散性水素量が0.20質量ppm未満である。鋼中の拡散性水素は、素材の耐水素脆性を劣化させる。鋼中の拡散性水素量が0.20質量ppm以上になると、たとえば溶接時に溶接部ナゲットの亀裂割れが生じやすくなる。本発明では、鋼中の拡散性水素量を0.20質量ppm未満とすることで改善効果があることを明らかにした。好ましくは0.15質量ppm以下、より好ましくは0.10質量ppm以下、さらに好ましくは0.08質量ppm以下である。下限は特に限定しないが、少ないほど好ましいため、下限は0質量ppmである。本発明では、鋼板を成形加工や溶接をする前に、鋼中の拡散性水素が0.20質量ppm未満であることが必要である。ただし、鋼板を成形加工や溶接した後の製品(部材)について、一般的な使用環境おかれた当該製品からサンプルを切り出して鋼中の拡散性水素量を測定した際に、鋼中の拡散性水素が0.20質量ppm未満であれば、成形加工や溶接をする前も0.20質量ppm未満でであったとみなせる。
【0050】
本発明の高強度亜鉛めっき鋼板は、十分な強度を有する。具体的には、1100MPa以上である。本発明の高強度亜鉛めっき鋼板は、降伏比が高い。具体的には降伏比(YR)が67%以上である。本発明の高強度亜鉛めっき鋼板は、引張強さ(TS)と伸び(El)のバランスが、板厚(t)を考慮して調整されている。具体的には、下記(1)式を満たすように調整されている。式(1)において、引張強さTSの単位はMPa、伸びElの単位は%、および板厚tの単位はmmである。機械的性質がこのように調整されることは、本発明の課題を解決する上で重要である。なお、板厚は通常0.3mm以上3.0mm以下であることが好ましい。
TS×(El+3−2.5t)≧13000 (1)
<高強度亜鉛めっき鋼板の製造方法>
本発明の高強度亜鉛めっき鋼板の製造方法は、焼鈍工程と、めっき工程と、後熱処理工程とを有する。なお、以下に示すスラブ(鋼素材)、鋼板等を加熱又は冷却する際の温度は、特に説明がない限り、スラブ(鋼素材)、鋼板等の表面温度を意味する。
【0051】
焼鈍工程とは、上記成分組成を有する冷延鋼板を、水素濃度1vol%以上13vol%以下の焼鈍炉内雰囲気で、焼鈍炉内温度T1:(Ac3点−10℃)以上900℃以下の温度域で5s以上加熱した後、冷却し、400℃以上550℃以下の温度域に20s以上1500s以下滞留させる工程である。
【0052】
先ず、冷延鋼板の製造方法について説明する。
【0053】
本発明の製造方法で使用する冷延鋼板は、鋼素材から製造される。鋼素材は、一般的にスラブ(鋳片)とよばれる連続鋳造方法で製造されたものである。連続鋳造法を採用するのは、合金成分のマクロ偏析を防止する目的である。鋼素材は、造塊法や薄スラブ鋳造法などで製造してもよい。
【0054】
また、鋼スラブを製造したあと、一旦室温まで冷却してその後再加熱する従来法に加え、室温付近まで冷却せずに温片のままで加熱炉に装入して熱間圧延する方法や、わずかの補熱を行った後に直ちに熱間圧延する方法、或いは鋳造後高温状態を保ったまま熱間圧延する方法のいずれでもよい。
【0055】
熱間圧延の条件は特に限定されないが、上記成分組成を有する鋼素材を、1100℃以上1350℃以下の温度で加熱し、仕上げ圧延温度が800℃以上950℃以下の熱間圧延を施し、450℃以上700℃以下の温度で巻き取る条件が好ましい。以下、これらの好ましい条件について説明する。
【0056】
鋼スラブの加熱温度は、1100℃以上1350℃以下の範囲とすることが好ましい。上記上限温度範囲外であると、鋼スラブ中に存在する析出物は粗大化しやすく、例えば析出強化による強度確保をする場合には不利となる場合がある。また、粗大な析出物を核として後の熱処理において組織形成に悪影響を及ぼす可能性がある。また、オーステナイト粒の粗大化が起こり、鋼組織も粗大化して、鋼板の強度や伸びが低下する原因となる場合がある。一方、適切な加熱によりスラブ表面の気泡や欠陥などをスケールオフさせることで鋼板表面の亀裂や凹凸を低減し、平滑な鋼板表面を達成することは有益である。このような効果を得るために、鋼スラブの加熱温度は1100℃以上とすることが好ましい。
【0057】
加熱された鋼スラブに対し、粗圧延および仕上げ圧延を含む熱間圧延を施す。一般的に鋼スラブは粗圧延でシートバーとなり、仕上げ圧延によって熱延コイルとなる。また、ミル能力等によってはそのような区分けにこだわらず、所定のサイズになれば問題ない。熱間圧延条件としては、以下が好ましい。
【0058】
仕上げ圧延温度:800℃以上950℃以下が好ましい。仕上げ圧延温度を800℃以上とすることで、熱延コイルで得られる鋼組織を均一にできる傾向にある。この段階で鋼組織を均一にできることは、最終製品の鋼組織が均一になることに寄与する。鋼組織が不均一だと、伸び等の加工性が低下する。一方950℃を超えると酸化物(スケール)生成量が多くなり地鉄と酸化物の界面が荒れて、酸洗および冷間圧延後の表面品質が劣化する場合がある。
【0059】
また、鋼組織において結晶粒径が粗大になることで、鋼スラブ同様鋼板の強度や伸び等の加工性が低下する原因となる場合がある。上記熱間圧延を終了した後、鋼組織の微細化や均一化のため、仕上げ圧延終了後3秒以内に冷却を開始し、[仕上げ圧延温度]〜[仕上げ圧延温度−100℃]の温度域を10〜250℃/sの平均冷却速度で冷却することが好ましい。この平均冷却速度は、[仕上げ圧延温度]と[仕上げ圧延温度−100℃]との温度差(℃)を、[仕上げ圧延温度]から[仕上げ圧延温度−100℃]までの冷却に要した時間で除して算出する。
【0060】
巻取り温度は450℃以上700℃以下とすることが好ましい。熱延後のコイル巻取り直前の温度、すなわち巻取り温度が450℃以上であれば、Nbなどを添加した際には炭化物の微細析出の観点から好ましく、巻取り温度が700℃以下であればセメンタイト析出物が粗大になりすぎないため好ましい。また、450℃以下や700℃以上の温度域になると、コイルに巻き取った後の保持中に組織が変化しやすく、後工程の冷間圧延において素材の鋼組織の不均一性に起因した圧延トラブルなどが起こりやすい。熱延板の鋼組織の整粒化などの観点からより好ましい巻取り温度は500℃以上680℃以下とする。
【0061】
次いで、冷間圧延工程を行う。通常、酸洗によりスケールを落とした後、冷間圧延が施され冷延コイルとなる。この酸洗は必要に応じて行われる。
【0062】
冷間圧延は圧下率20%以上とすることが好ましい。これは引続き行う加熱において均一微細な鋼組織を得るためである。20%未満では加熱時に粗粒になりやすい場合や、不均一な組織になりやすい場合があり、前述したように、その後の熱処理後最終製品板での強度や加工性低下が懸念されほか、表面性状を劣化させる。圧下率の上限は特に規定しないが、高強度の鋼板ゆえ、高い圧下率は圧延負荷による生産性低下のほか、形状不良となる場合がある。圧下率は90%以下が好ましい。
【0063】
焼鈍工程では、上記冷延鋼板を、上記成分組成を有する冷延鋼板を、水素濃度1vol%以上13vol%以下の焼鈍炉内雰囲気で、焼鈍炉内温度T1:(Ac3点−10℃)以上900℃以下の温度域で5s以上加熱した後、冷却し、400℃以上550℃以下の温度域に20s以上1500s滞留させる。
【0064】
焼鈍炉内温度T1:(Ac3点−10℃)以上900℃以下の温度域にするための平均加熱速度は特に限定されないが、平均加熱速度は鋼組織の均一化という理由で10℃/s未満が好ましい。また、製造効率低下を抑える観点から平均加熱速度は1℃/s以上が好ましい。
【0065】
焼鈍炉内温度T1は、材質とめっき性いずれも担保するために、(Ac3点−10℃)以上900℃以下に設定する。焼鈍炉内温度T1が(Ac3点−10℃)未満では、最終的に得られる鋼組織で、フェライトの面積率が高くなるとともに、必要な量の残留オーステナイトやマルテンサイト、ベイナイトの生成が難しくなる。また、焼鈍炉内温度T1が900℃を超えると結晶粒が粗大化して伸び等の加工性が低下するため好ましくない。また、焼鈍炉内温度T1が900℃を超えると、表面にMnやSiが濃化しやすくなってめっき性を阻害する。また、焼鈍炉内温度T1が900℃を超えると設備への負荷も高く安定して製造できなくなる可能性がある。
【0066】
また、本発明の製造方法では、焼鈍炉内温度T1:(Ac3点−10℃)以上900℃以下の温度で5s以上加熱する。上限は特に限定されないが、過剰なオーステナイト粒径の粗大化を防ぐという理由で600秒以下が好ましい。
【0067】
(Ac3点−10℃)以上900℃以下の温度域における水素濃度は1vol%以上13vol%以下とする。本発明においては、上述の焼鈍炉内温度T1に対し炉内雰囲気も同時に制御することでめっき性が担保されると同時に、鋼中への過剰な水素侵入を防ぐ。水素濃度が1vol%未満では不めっきが多発する。13vol%を超える水素濃度ではめっき性に対する効果が飽和すると同時に、鋼中への水素侵入が著しく増大し、最終製品の耐水素脆性を劣化させる。なお、上記(Ac3点−10℃)以上900℃以下の温度域以外については、水素濃度は1vol%以上の範囲になくてもよい。
【0068】
上記水素濃度雰囲気での滞留の後、冷却するに際し、400℃以上550℃以下の温度域で20s以上滞留させる。これはベイナイトの生成と残留オーステナイトを得やすくするためである。さらに、この滞留は、鋼中の水素が除去されるという効果もある。ベイナイトと残留オーステナイトを所望量生成させるためにはこの温度域で20s以上滞留させる必要がある。滞留時間の上限は製造コスト等の観点から1500s以下とする。400℃未満での滞留は、後に続くめっき浴温を下回ることになりやすく、めっき浴の品質を落とすため好ましくないが、その場合はめっき浴までに板温を加熱すればよく、そのため上記温度域の下限を400℃とする。一方、550℃を超える温度域ではベイナイトではなくフェライトやパーライトが出やすくなり、残留オーステナイトが得にくくなる。上記焼鈍炉内温度T1からこの温度域までの冷却については、3℃/s以上の冷却速度(平均冷却速度)とすることが好ましい。冷却速度が3℃/s未満ではフェライトやパーライト変態を起こしやすく、所望の鋼組織が得られなくなる場合があるためである。好ましい冷却速度の上限は特に規定はない。また、冷却停止温度としては、上述の400〜550℃とすればよいが、これ以下の温度に一旦冷却し、再加熱により400〜550℃の温度域での滞留をさせることも可能である。この場合、Ms点以下まで冷却した場合にはマルテンサイトが生成された後、焼戻されることもある。
【0069】
めっき工程では、焼鈍工程後の鋼板を、めっき処理し、平均冷却速度3℃/s以上で100℃以下まで冷却する。
【0070】
めっき処理の方法は、溶融亜鉛めっき処理が好ましい。条件は適宜設定すればよい。また、必要に応じて合金化処理してもよく、合金化する際は、溶融亜鉛めっき後に加熱する合金化処理を行う。例えば、合金化処理する際の温度は、480℃以上600℃以下の温度域に1秒(s)以上60秒以下程度保持する処理が例示できる。なお、処理温度が600℃超では残留オーステナイトが得にくくなるため、600℃以下で処理することが好ましい。
【0071】
上記めっき処理後(合金化処理を行う場合は合金化処理後)、平均冷却速度3℃/s以上で100℃以下まで冷却する。これは高強度化に必須なマルテンサイトを得るためである。この平均冷却速度は、めっき処理後の冷却開始温度から100℃までの温度差を、当該冷却開始温度から100℃までの冷却に要した時間で除して算出する。3℃/s未満では強度に必要なマルテンサイトを得ることが難しく、また100℃より高い温度で冷却を止めてしまうと、マルテンサイトがこの時点で過度に焼戻され(自己焼戻し)たり、オーステナイトがマルテンサイトにならずフェライトに変態してしまい必要な強度を得にくくなるためである。平均冷却速度は、上限は特に規定されないが、200℃/s以下とすることが好ましい。これ以上速くすると、設備投資の負担が大きくなるためである。なお、めっき処理後すぐに冷却してもよい。
【0072】
上記めっき工程後に後熱処理工程を行う。後熱処理工程は、めっき工程後のめっき鋼板を、水素濃度10vol%以下かつ露点50℃以下の炉内雰囲気で、70℃以上450℃以下の温度T2(℃)に、0.02(hr)以上で下記(2)式を満たす時間t(hr)以上滞留させる工程である。
【0073】
135−17.2×ln(t)≦T2 (2)
鋼中の拡散性水素量を低減させるため、後熱処理工程を行う。水素濃度10vol%以下かつ露点50℃以下の炉内雰囲気にすることで、鋼中の拡散性水素量の増加を抑えることができる。水素濃度は少ない方が好ましく5vol%以下が好ましく、より好ましくは2vol%以下である。水素濃度の下限は特に限定されず、上記の通り少ない方が好ましいため、好ましい下限は1vol%である。また、上記効果を得るために、露点は、50℃以下、好ましくは45℃以下、より好ましくは40℃以下である。露点の下限は特に限定されないが、製造コストの観点からは−80℃以上が好ましい。
【0074】
滞留させる温度T2について、450℃を超える温度では残留オーステナイトの分解による延性低下、引張強さの低下や、めっき層の劣化や外観の劣化が起きるため温度T2の上限は450℃とした。好ましくは430℃以下、より好ましくは420℃以下である。また、滞留させる温度T2の下限が70℃未満では、鋼中の拡散性水素量を十分に低下させることが難しくなり、溶接部の亀裂割れが生じる。そこで、上記温度T2の下限を70℃とした。好ましくは80℃以上、より好ましくは90℃以上である。
【0075】
また、鋼中の水素を低減させるためには、温度だけでなく時間を適正化することが重要である。滞留させる時間を0.02hr以上かつ上記(2)式を満たす時間にように調整することで、鋼中の拡散性水素量を低減できる。
【0076】
上記冷間圧延後、焼鈍工程の前に、冷間圧延で得られた冷延板をAc1点以上(Ac3点+50℃)以下の温度域に加熱し、酸洗する前処理工程を行うことも可能である。
【0077】
c1点以上(Ac3点+50℃)以下の温度域に加熱
「Ac1点以上(Ac3点+50℃)以下の温度域に加熱」は、鋼組織の形成による高い延性とめっき性を最終製品で担保するための条件である。引続く焼鈍工程の前に、マルテンサイトを含む組織を得ておくことが材質上好ましい。さらに、めっき性の観点からもこの加熱により鋼板表層部にMnなどの酸化物を濃化させることが好ましい。その観点で、Ac1点以上(Ac3点+50℃)以下の温度域に加熱することが好ましい。ここで、上述のAc1やAc3については以下の式で得られる値を用いた。
c1=751−27C+18Si−12Mn−23Cu−23Ni+24Cr+23Mo−40V−6Ti+32Zr+233Nb−169Al−895B
c3=910−203(C)1/2+44.7Si−30Mn−11P+700S+400Al+400Tiとする。
なお、上記式における元素記号は各元素の含有量(質量%)を意味し、含有しない成分は0とする。
【0078】
上記加熱後の酸洗は、引続く焼鈍工程においてめっき性を担保するため、鋼板表層部に濃化したSiやMnなどの酸化物を酸洗により除去する。なお、前処理工程を行う場合には酸洗を行う必要がある。
【0079】
また、めっき工程後に調質圧延を行ってもよい。
【0080】
調質圧延は、めっき工程の冷却の後に、0.1%以上の伸長率で行われることが好ましい。調質圧延は行わなくてもよい。調質圧延する場合は、形状矯正や表面粗度調整の目的に加え、YSを安定的に得る目的で、0.1%以上の伸長率で調質圧延をすることが好ましい。形状矯正や表面粗度調整については調質圧延に代えてレベラー加工を施してもよい。過度な調質圧延は、鋼板表面に過剰な歪が導入されて延性や伸びフランジ性の評価値を下げる。また、過度な調質圧延は延性も低下させるほか、高強度鋼板ゆえ設備負荷も高くなる。そこで、調質圧延の圧下率は3%以下とすることが好ましい。
【0081】
上記調質圧延の前または後に幅トリムを行うことが好ましい。この幅トリムにより、コイル幅調整を行うことができる。また、下記の通り、幅トリムを後熱処理工程より前に行うことで、引続く後熱処理で効率的に鋼中水素を放出させることができる。
【0082】
幅トリムを行う場合は、後熱処理工程前に行うことが好ましい。後熱処理工程前に幅トリムを行う場合、後熱処理工程における、70℃以上450℃以下の温度T2(℃)で滞留する滞留時間t(hr)を、0.02(hr)以上かつ下記(3)式を満たす条件にすることが好ましい。
130−17.5×ln(t)≦T2 (3)
上記(3)式から明らかなように、上記(2)式の場合と比較して、温度条件が同じであれば短時間化でき、滞留時間の条件が同じであれば低温化することができる。
<高強度部材およびその製造方法>
本発明の高強度部材は、本発明の高強度亜鉛めっき鋼板が、成形加工及び溶接の少なくとも一方がされてなるものである。また、本発明の高強度部材の製造方法は、本発明の高強度亜鉛めっき鋼板の製造方法によって製造された高強度亜鉛めっき鋼板を、成形加工及び溶接の少なくとも一方を行う工程を有する。
【0083】
本発明の高強度部材は、引張強さが1100MPa以上の高強度で、降伏比が67%以上で強度−延性バランスに優れ、耐水素脆性にも優れると共に、表面性状(外観)も良好である。そのため、本発明の高強度部材は、例えば、自動車部品に好適に用いることができる。
【0084】
成形加工は、プレス加工等の一般的な加工方法を制限なく用いることができる。また、溶接は、スポット溶接、アーク溶接等の一般的な溶接を制限なく用いることができる。
【実施例】
【0085】
[実施例1]
表1に示す鋼Aの成分組成の溶鋼を転炉で溶製し、連続鋳造機でスラブとした。このスラブを1200℃に加熱し、仕上圧延温度840℃、巻取り温度550℃で熱延コイルとした。この熱延コイルを冷間圧下率50%で板厚1.4mmの冷延鋼板とした。この冷延鋼板を、種々の水素濃度で露点−30℃の焼鈍炉内雰囲気の焼鈍処理で、(Ac3点−10℃)以上900℃以下の範囲内まで加熱し、60秒滞留させた後、500℃まで冷却し、100秒滞留させた。その後亜鉛めっきを施して合金化処理をおこない、めっき後は水温40℃の水槽を通すことで、冷却停止温度100℃以下、平均冷却速度を3℃/s以上の条件で冷却して、高強度亜鉛めっき鋼板(製品板)を製造した。調質圧延はめっき後に実施し伸長率は0.2%とした。幅トリムは実施しなかった。
【0086】
それぞれからサンプルを切出し、鋼中の水素量分析、耐水素脆性の評価として溶接部のナゲット割れを評価した。結果を図1に示す。
【0087】
鋼中の水素量
鋼中の水素量を以下の方法で測定した。先ず、後熱処理まで施した亜鉛めっき鋼板から、5×30mm程度の試験片を切り出した。次いで、ルータ(精密グラインダ)を使って試験片表面のめっきを除去して石英管中に入れた。次いで、石英管中をArで置換した後、200℃/hrで昇温し、400℃までに発生した水素をガスクロマトグラフにより測定した。このように、昇温分析法にて放出水素量を測定した。室温(25℃)から250℃未満の温度域で検出された水素量の累積値を拡散性水素量とした。
【0088】
耐水素脆性(溶接割れ)
耐水素脆性の評価として、鋼板の抵抗スポット溶接部のナゲット割れを評価した。評価方法は、30×100mmの板の両端に板厚2mmの板をスペーサとして挟み、スペーサ間の中央をスポット溶接にて接合して部材としての試験片を作製した。この際、スポット溶接は、インバータ直流抵抗スポット溶接機を用い、電極はクロム銅製の先端径6mmのドーム型を用いた。加圧力は380kgf、通電時間は16サイクル/50Hz、保持時間は5サイクル/50Hzとした。溶接電流値を変化させて種々のナゲット径のサンプルを作製した。
【0089】
両端のスペーサ間隔は40mmとし、鋼板とスペーサは、予め溶接により固縛した。溶接後24時間放置したのち、スペーサ部を切り落として、溶接ナゲットの断面観察を行い、水素脆化による割れ(亀裂)の有無の評価を行い、亀裂がなかった最小のナゲット径を求めた。図1に拡散性水素量(質量ppm)と最小ナゲット径(mm)との関係を示した。
【0090】
図1に示す通り、鋼中の拡散性水素量が0.20質量ppmを超えると最少ナゲット径が急激に大きくなり、最少ナゲット径が4mmを超えて劣化している。
【0091】
なお、拡散性水素量が本発明範囲の場合、鋼組織や機械的性質も本発明範囲である。
【0092】
【表1】
[実施例2]
表1に示す鋼A〜Nの成分組成の溶鋼を転炉で溶製し、連続鋳造機でスラブとしたあと、1200℃に加熱してから熱間圧延を行い、仕上げ圧延温度910℃とし、巻取り温度560℃で熱延コイルとした。その後、冷圧率50%で1.4mmの板厚の冷延コイルとした。これを表2に示す種々の条件で加熱(焼鈍)、酸洗(酸洗は、酸洗液のHCl濃度を5mass%、液温を60℃に調整したものを使用した)、めっき処理、調質圧延、幅トリム、後熱処理を施し、1.4mm厚の高強度亜鉛めっき鋼板(製品板)を製造した。なお、冷却(めっき処理後の冷却)では水温50℃の水槽を通すことで、100℃以下まで冷却した。また、めっき処理では、530℃で20秒の条件で、亜鉛めっきの合金化処理を行った。
【0093】
以上により得られた亜鉛めっき鋼板のサンプルを採取し、下記の方法で鋼組織観察および引張試験を行って組織の分率(面積率)、降伏強さ(YS)、引張強さ(TS)、降伏比(YR=YS/TS)を測定・算出した。また、外観を目視観察してめっき性(表面性状)を評価した。評価方法は以下の通りである。耐水素脆性の評価として溶接部のナゲット割れを評価した。
【0094】
組織観察
亜鉛めっき鋼板から組織観察用試験片を採取し、L断面(圧延方向に平行な板厚断面)を研磨後、ナイタール液で腐食しSEMで表面から1/4t(tは全厚)近傍の位置を1500倍の倍率で3視野以上を観察して撮影した画像を解析した(観察視野ごとに面積率を測定し、平均値を算出した)。ただし、残留オーステナイトの体積率(体積率を面積率とみなす)についてはX線回折強度により定量したため、各組織の合計が100%超える結果になる場合がある。表3のFはフェライト、Mはマルテンサイト、Bはベイナイト、残留γは残留オーステナイトを意味する。
【0095】
なお、上記組織観察において、一部の例においては、その他の相として、パーライト、析出物や介在物の凝集が観察された。
【0096】
引張試験
亜鉛めっき鋼板から圧延方向に対して直角方向にJIS5号引張試験片(JISZ2201)を採取し、引張速度(クロスヘッドスピード)10mm/min一定で引張試験を行った。降伏強さ(YS)は、応力150〜350MPa弾性域の傾きから0.2%耐力を読み取った値とし、引張強さは引張試験における最大荷重を初期の試験片平行部断面積で除した値とした。平行部の断面積算出における板厚はめっき厚込みの板厚値を用いた。引張強さ(TS)、降伏強さ(YS)、伸び(El)を測定し、降伏比YRと(1)式を算出した。
【0097】
耐水素脆性
耐水素脆性の評価として、鋼板の抵抗スポット溶接部の水素脆性を評価した。評価方法は、実施例1と同様である。溶接電流値は、それぞれの鋼板強度に応じたナゲット径を形成する条件とした。1100MPa以上1250MPa未満では3.8mmのナゲット径とし、1250MPa以上1400MPa以下では4.8mmのナゲット径とした。実施例1同様、両端のスペーサ間隔は40mmとし、鋼板とスペーサは、予め溶接により固縛した。溶接後24時間放置したのち、スペーサ部を切り落として、溶接ナゲットの断面観察をおこない、割れ(亀裂)の有無の評価をおこなった。表3の溶接割れの欄で、亀裂なしを「○」、亀裂ありを「×」であらわした。
【0098】
表面性状(外観)
めっき後、後熱処理したのちの外観を目視観察し、不めっき欠陥が全くないものを「良好」、不めっき欠陥が発生したものを「不良」、不めっき欠陥はないがめっき外観ムラなどが生じたものは「やや良好」とした。なお、不めっき欠陥とは数μm〜数mm程度のオーダーで、めっきが存在せず鋼板が露出している領域を意味する。
【0099】
鋼中の拡散性水素量
鋼中の拡散性水素量の測定は、実施例1と同様の方法で行った。
【0100】
得られた結果を表3に示す。発明例はTS、YR、表面性状、耐水素脆性がいずれも良好であった。比較例はいずれかが劣っていた。また、発明例と比較例との対比から、本発明の成分組成や鋼組織の範囲内において、拡散性水素量と耐水素脆性との関係は図1と同様であり、拡散性水素量が0.20質量ppm未満のときに、耐水素脆性として、抵抗スポット溶接部ナゲット割れの評価が良好になることが分かる。
【0101】
【表2】
【0102】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の高強度亜鉛めっき鋼板は、高い引張強さを有するだけでなく、高い降伏強度比と良好な延性を有し、素材の耐水素脆性や表面性状にも優れる。このため、自動車車体の骨格部品、特に衝突安全性に影響するキャビン周辺の部品に、本発明の高強度亜鉛めっき鋼板を用いて得た高強度部材を適用した場合、その安全性能の向上と共に、高強度薄肉化効果による車体軽量化に寄与する。その結果、本発明は、CO排出など環境面にも貢献することができる。また、本発明の高強度亜鉛めっき鋼板は、良好な表面性状・めっき品質を兼ね備えているため、足回りなど雨雪による腐食が懸念される箇所にも積極的に適用することが可能である。このため、本発明によれば、車体の防錆・耐腐食性についても性能向上が期待できる。このような特性は自動車部品に限らず、土木・建築、家電分野にも有効である。
図1