(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.複合半透膜
本発明に係る複合半透膜は、基材と、基材上に配置された支持層と、支持層上に配置された分離機能層とを備える。以下、基材および支持層からなる膜を「支持膜」と呼ぶ。
【0016】
(1−1)支持膜
支持膜は実質的にイオン等の分離性能を有さず、複合半透膜に強度を与える。
【0017】
(1−1−1)基材
基材としては、ポリエステル系重合体、ポリアミド系重合体、ポリオレフィン系重合体、あるいはこれらの混合物や共重合体等が挙げられる。中でも、機械的、熱的に安定性の高いポリエステル系重合体の布帛が特に好ましい。布帛の形態としては、長繊維不織布や短繊維不織布、さらには織編物を好ましく用いることができる。ここで、長繊維不織布とは、平均繊維長300mm以上、かつ平均繊維径3〜30μmの不織布のことを指す。
【0018】
基材は、通気量が0.5cc/cm
2/sec以上5.0cc/cm
2/secであることが好ましい。基材の通気量が上記範囲内にあることにより、支持層となる高分子溶液が基材に含浸するため、基材との接着性が向上し、支持膜の物理的安定性を高めることができる。
【0019】
なお、通気度はJIS L1096(2010)に基づき、フラジール形試験機によって測定できる。
例えば、200mm×200mmの大きさに基材を切り出し、サンプルとする。このサンプルをフラジール形試験機に取り付け、傾斜形気圧計が125Paの圧力になるように吸込みファン及び空気孔を調整し、このときの垂直形気圧計の示す圧力と使用した空気孔の種類から基材を通過する空気量、すなわち通気度を算出することができる。フラジール形試験機は、カトーテック株式会社製KES−F8−AP1などが使用できる。
【0020】
基材の厚みは20μm以上200μm以下であることが好ましく、40μm以上がより好ましく、120μm以下がより好ましい。
基材の厚みは、ダイヤルシックネスゲージやデジタルシックネスゲージによって測定することができる。ダイヤルシックネスゲージやデジタルシックネスゲージとしては、尾崎製作所株式会社のPEACOCKや株式会社テクロックの製品などが使用できる。ダイヤルシックネスゲージやデジタルシックネスゲージを用いる場合は、任意の20箇所について厚みを測定してその相加平均を算出し、基材の厚みとする。
【0021】
なお、基材の厚みをダイヤルシックネスゲージやデジタルシックネスゲージによって測定することが困難な場合、光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡で測定してもよい。
【0022】
(1−1−2)支持層
支持層は、多孔質構造を有する熱可塑性樹脂と、ジエン系ポリマー、アクリル系ポリマーおよびエチレン系ポリマーからなる群より選択される少なくとも1種の材料を含有する粒子(以下、「ゴム質粒子」と呼ぶことがある。)とを有する。
熱可塑性樹脂とは、加熱されると外力によって変形または流動するようになる高分子化合物である。熱可塑性樹脂は多孔質構造を有している。ゴム質粒子はこの熱可塑性樹脂内に存在している。
【0023】
前記支持層を厚さ方向に沿って切断した断面における、前記支持層の表面から厚さ方向に3μmかつ前記表面に沿う方向に3μmの範囲(以下、「範囲X」と称することがある。)内において、6個以上のゴム質粒子が存在する。
【0024】
本発明の支持層を厚さ方向に沿って切断した断面画像の一例を
図1に示す。本発明者らは、鋭意検討を行った結果、粒子数を上記範囲とすることで、複合半透膜の透水性が向上することを見出した。支持層の表面付近では、孔径が比較的小さくなる傾向がある。このように小さい孔径を有する部分は、緻密層と呼ばれる。透水性が向上する理由は明確ではないが、範囲X内において、ゴム質粒子が6個以上存在することで、緻密層が疎となり、透過水の流路が形成されるためと考えられる。また、範囲X内における粒子数は9個以上が好ましく、より好ましくは12個以上である。
【0025】
なお、特許文献5では5.5MPaの高圧条件の評価結果しか記載されていないが、低圧条件においては、支持膜の水透過性が複合半透膜の性能に影響するため、特許文献5の膜は、低圧条件ではより透水性能が低くなると考えられる。
【0026】
ゴム質粒子数は、以下の方法で測定することができる。
まず、複合半透膜あるいは支持膜を25℃で乾燥させる。続いて、複合半透膜あるいは支持膜を、膜面に垂直な方向に凍結割断法で割断して、切片サンプルを10個作製する。切片サンプルを走査型電子顕微鏡(SEM)にて10,000〜30,000倍で断面観察する。このとき、支持層の表面(分離機能層と接する面)が画像の上部から10〜20%の位置にくるように、サンプルを配置する。得られた画像の支持層の表面から厚さ方向に3μmかつ前記表面に沿う方向に3μmの任意の範囲内に含まれる、定方向最大径(Krumbein径)が50nm以上の粒子数をカウントする。
【0027】
ここで、1つの切片サンプルから2視野を観察することで、1つの膜から20個の画像が得られ、それぞれの画像から得られた20個の粒子数データの相加平均を算出し、支持層の断面に存在するゴム質粒子数とする(小数点以下切り捨て)。
図1に本発明の支持層を厚さ方向に沿って切断した断面画像の一例を示す。
【0028】
なお、SEMで観察する前には、サンプルを四酸化オスミウムで染色することが好ましい。四酸化オスミウムを用いると、ゴム質粒子にコントラストを付与することができ、ゴム質粒子数をカウントしやすくなる。さらに、四酸化ルテニウムで染色してもよい。また、SEMとしては、日立ハイテクノロジーズ製S−5500型走査型電子顕微鏡などが使用でき、3〜6kVの加速電圧で観察する。
図2に染色した本発明の支持層を厚さ方向に沿って切断した断面画像の一例を示す。なお、
図1と
図2とは異なる倍率で撮影されている。
【0029】
また、SEM−EDX(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)等を利用すれば、染色することなく、ゴム質粒子と熱可塑性樹脂との組成の違いに基づいてゴム質粒子にコントラストを付与することもできる。
【0030】
このように、支持層は、母材である熱可塑性樹脂の多孔質体と、その中に分散しているゴム質粒子との複合物である。また、複合物である支持層自体も多孔質である。
【0031】
ゴム質粒子は、少なくともその表面の一部が多孔質体を構成する熱可塑性樹脂の固体部分に接触していることが好ましい。より具体的には、ゴム質粒子の表面積の30%以上が熱可塑性樹脂の固体部分に接触していることが好ましい。ゴム質粒子数の計測と同様に断面画像を得て、その画像においてゴム質粒子と熱可塑性樹脂との間に空隙がなければ接触していると判断される。
【0032】
上述のゴム質粒子の数の計測において、50nm以上の定方向最大径を有するゴム質粒子の数を計測するが、ここで計測の対象になるゴム質粒子の定方向最大径は、2μm以下、または1μm以下であることが好ましい。
【0033】
支持層をアセトンに溶解した際の、支持層に含まれる体積当たりの不溶性成分量が60mg/m
2・μm以上であることが好ましく、66mg/m
2・μm以上であることがより好ましく、72mg/m
2・μm以上であることがさらに好ましい。不溶性成分はゴム質粒子やその他のエラストマー、添加剤であり、これらが一定量以上支持層内部に存在することで、支持層表面や内部にある孔の連通性向上や孔数増大などが起き、透過水の流路が形成されると考えている。
【0034】
ポリアミド機能層を形成した複合半透膜の支持層に含まれる不溶性成分量を測定する場合は、以下の方法で求めることができる。
まず、所定の面積に切った複合半透膜を温水で良く洗浄し、室温で風乾させる。次に、アセトン(基材や機能層は溶解せず支持層を溶解することができる)に接触させることで、支持層のみを溶解する。続いて、得られた溶液を金属メッシュ(線径0.03mm、メッシュ 300、関西金網株式会社製)にてろ過して基材と機能層を除去する。さらに、得られたろ液を、8800r.p.m(10,000G以上)で40分間遠心分離した後、上澄み液を除去し、底に溜まった沈殿物を40℃で8時間真空乾燥する。最後に、乾燥後の沈殿物重量を測定し、下記式から不溶性成分量を算出する。
不溶性成分量[mg/m
2・μm]=(重量[mg]÷支持膜面積[m
2])÷支持層厚み[μm]
【0035】
ゴム質粒子に含まれるジエン系ポリマー、アクリル系ポリマーおよびエチレン系ポリマーとしては、具体的にはポリブタジエン、ポリ(ブタジエン−スチレン)、ポリ(ブタジエン−アクリロニトリル)、ポリイソプレン、ポリ(ブタジエン−アクリル酸メチル)、ポリ(ブタジエン−アクリル酸エチル)、ポリ(ブタジエン−アクリル酸ブチル)、ポリ(ブタジエン−メタクリル酸メチル)、エチレン−プロピレンラバー、エチレン−プロピレン−ジエンラバー、ポリ(エチレン−イソブチレン)、ポリ(エチレン−アクリル酸メチル)、ポリ(エチレン−アクリル酸エチル)等が挙げられる。
ゴム質粒子は、これらの例示から選択される少なくとも1種の材料を含めばよく、複数の材料を含んでいてもよい。
【0036】
ゴム質粒子の重量平均粒子径は、100nm〜2000nmの範囲であることが好ましい。この範囲にあることで、ゴム質粒子を均一に分散することができ、支持層にゴム質粒子を含有させることが容易となる。
【0037】
ゴム質粒子の重量平均粒子径は、ゴム質粒子を水媒体に分散させ、レーザ散乱回折法粒度分布測定装置(ベックマン・コールター株式会社製 LS 13 320)により測定した粒子径分布から算出できる。また、支持層に含まれているゴム質粒子の重量平均粒子径の場合は、支持層に含まれる不溶性成分量を測定するときに得られた不溶性成分を水に分散させて、レーザ散乱回折法粒度分布測定装置により粒子径分布を測定することで算出できる。
【0038】
また、ゴム質粒子は、ゴム質粒子にラジカル重合可能なモノマーをグラフト共重合したサラミ構造を有するグラフト共重合体含有ゴム質粒子、ゴム質粒子にラジカル重合可能なモノマーをブロック共重合したブロック共重合体含有ゴム質粒子、ゴム質粒子とスチレン系単量体や不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体などによって構成される層状構造を有するコア・シェルゴムや、前記サラミ構造とコア・シェル構造の中間に属するゴム質粒子とその他の樹脂成分が多層構造を形成するオニオン構造体等であることが好ましく、グラフト共重合体含有ゴム質粒子であることがより好ましい。
【0039】
なお、上記グラフト共重合体は、ジエン系ポリマーと、ジエン系ポリマーにラジカル重合可能なモノマー(例えば、シアン化ビニル系単量体および芳香族ビニル系単量体)との重合体であることが好ましい。
【0040】
さらに、グラフト共重合体含有ゴム質粒子としては、ジエン系ポリマーで構成された粒子にシアン化ビニル系単量体と芳香族ビニル系単量体を共重合してなるグラフト共重合体含有ゴム質粒子であることが好ましい。ゴム質粒子はさらに、これらのシアン化ビニル系単量体および芳香族ビニル系単量体に共重合した他の1種類以上のビニル系単量体を含有してもよい。
【0041】
シアン化ビニル系単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタアクリロニトリルおよびエタアクリロニトリル等が挙げられるが、アクリロニトリルが好ましく用いられる。これらのシアン化ビニル系単量体は、必ずしも1種で使用する必要はなく、2種以上混合して使用することもできる。
【0042】
芳香族ビニル系単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、o−エチルスチレン、o−クロロスチレン、およびo,p−ジクロロスチレン等が挙げられるが、特にスチレンとα−メチルスチレンが好ましく用いられる。これらの芳香族ビニル系単量体は、必ずしも1種で使用する必要はなく、2種以上混合して使用することもできる。
【0043】
共重合可能なその他のビニル系共重合体としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸クロロメチル、メタクリル酸2−クロロエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシル、メタクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル等の不飽和カルボン酸アルキルエステル、アクリルアミド等の不飽和アミド、N−マレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド等のマレイミド化合物が挙げられる。その中でも、不飽和カルボン酸アルキルエステルが好ましく用いられ、メタクリル酸メチルがより好ましく用いられる。これらは、必ずしも1種で使用する必要はなく、2種以上混合して使用することもできる。
【0044】
グラフト共重合体含有ゴム質粒子におけるグラフト率は、10〜80重量%の範囲であることが好ましい。グラフト率が10重量%未満では支持層の耐圧性が低下する場合があり、80重量%を超えると支持層の成形性が悪くなり、欠点が発生しやすくなる場合がある。なお、グラフト率は次の方法により求めることができる。
【0045】
まず、80℃で4時間真空乾燥を行ったグラフト共重合体含有ゴム質粒子の所定量(m;約1g)にアセトン100mlを加え、70℃の湯浴中で3時間還流する。次に、この溶液を8800r.p.m(10000G以上)で40分間遠心分離した後、上澄み液を除去し、沈殿物を40℃で8時間真空乾燥する。最後に、乾燥後の沈殿物の重量(n)を測定する。グラフト率は下記式より算出する。ここで、Lはグラフト共重合体含有ゴム質粒子のゴム含有率(重量%)である。
グラフト率[%]={[(n)−((m)×L/100)]/[(m)×L/100]}×100
【0046】
グラフト共重合体含有ゴム質粒子のグラフト部を構成するビニル系単量体中のシアン化ビニル系単量体の割合は、5〜60重量%であることが好ましく、より好ましくは10〜40重量%である。
【0047】
グラフト共重合体含有ゴム質粒子のグラフト部を構成するビニル系単量体中の芳香族ビニル系単量体の割合は、40〜95重量%であることが好ましく、より好ましくは60〜90重量%である。
【0048】
グラフト共重合体含有ゴム質粒子のグラフト部を構成するビニル系単量体中の他のビニル系単量体の割合は、0〜30重量%であることが好ましい。
【0049】
熱可塑性樹脂は、支持層の基本構造(つまり母材)を形成するものであり、AS(アクリロニトリル‐スチレン)樹脂、または、ABS(アクリロニトリル‐ブタジエン‐スチレン)樹脂である。ゴム質粒子がグラフト共重合体含有ゴム質粒子である場合は、母材に含まれるAS樹脂としては、シアン化ビニル系単量体と芳香族ビニル系単量体との重合体(ビニル系共重合体)であることが好ましい。また、これらと共重合可能な他のビニル系単量体から選ばれる1種以上のビニル系単量体を共重合してもよい。なお、ビニル系共重合体を構成するシアン化ビニル系単量体、芳香族ビニル系単量体および共重合可能な他のビニル系単量体としては、それぞれ、グラフト共重合体含有ゴム質粒子の項で説明した各単量体から選択され、グラフト共重合体含有ゴム質粒子で用いられる単量体と同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0050】
ビニル系共重合体を構成するビニル系単量体中のシアン化ビニル系単量体の割合は、5〜60重量%であることが好ましく、より好ましくは10〜40重量%である。
【0051】
ビニル系共重合体を構成するビニル系単量体中の芳香族ビニル系単量体の割合は、40〜95重量%であることが好ましく、より好ましくは60〜90重量%である。40重量%未満では支持層の成形性が低下する場合があり、95重量%を超えると支持層の耐圧性が低下する場合がある。
【0052】
ビニル系共重合体を構成するビニル系単量体中の他のビニル系単量体の割合は、0〜30重量%であることが好ましい。30重量%を超えると、支持層の耐圧性が低下する場合がある。
【0053】
支持層には、エチレン・一酸化炭素・(メタ)アクリル酸エステル共重合体が含まれていることが好ましい。エチレン・一酸化炭素・(メタ)アクリル酸エステル共重合体が含まれていると、範囲X内に含まれるゴム質粒子数を増やすことが容易となるだけでなく、支持層構造が均一となり複合半透膜の除去率が高くなる。
なお、本発明において、(メタ)アクリルとはアクリル又はメタクリルを意味する。
【0054】
支持層におけるエチレン・一酸化炭素・(メタ)アクリル酸エステル共重合体の含有量は、熱可塑性樹脂100重量部に対して、1.0重量部以上10.0重量部以下が好ましい。1.0重量部以上であることでゴム質粒子数を増加させる効果が得られ、10.0重量部以下であることで支持層の成形性を保つことができる。
【0055】
エチレン・一酸化炭素・(メタ)アクリル酸エステル共重合体における(メタ)アクリル酸エステルは直鎖状であってもよく、分岐状であってもよく、側鎖の炭素数は1〜18が好ましい。その側鎖にあるアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、ウンデシル基、ステアリル基等が例示され、炭素数2〜8のものがより好ましい。また、エチレン・一酸化炭素・(メタ)アクリル酸エステル共重合体の各組成比は、エチレンが10〜85重量%、一酸化炭素が5〜40重量%、(メタ)アクリル酸エステルが10〜50重量%であり、必要に応じてその他の共重合可能な単量体と共重合させることもできる。
【0056】
支持層中の熱可塑性樹脂の重量平均分子量(Mw)が60,000以上140,000以下であることが好ましく、100,000以上140,000以下であることがより好ましい。Mwが60,000以上140,000以下であることで、支持層として好ましい機械的強度および耐熱性を得ることができる。
【0057】
上記重量平均分子量(Mw)は、以下の方法で測定することができる。まず、所定の面積に切った支持膜または複合半透膜を温水で良く洗浄し、室温で風乾させる。次に、THFに接触させることで支持層のみを溶解し、得られた溶液を金属メッシュ(線径0.03mm、メッシュ300、関西金網株式会社製)にてろ過して基材および機能層を除去する。続いて、得られたろ液を、8800r.p.m(10,000G以上)で40分間遠心分離した後、上澄み液を分取する。得られた上澄み液を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)でTHFを溶媒に、ポリスチレンを標準物質として測定し、重量平均分子量を求める。
【0058】
支持層の厚みは、10μm以上100μm以下であることが好ましい。支持層の厚みが10μm以上であることで、基材が露出しにくくなり、100μm以下であることで支持層の厚みによる流動抵抗が小さく抑えられる。
【0059】
支持層の厚みは、熱可塑性樹脂を溶解する溶媒の種類、熱可塑性樹脂溶液の粘度、熱可塑性樹脂溶液の濃度、凝固浴温度、基材への熱可塑性樹脂溶液の塗布厚みなどで制御することができる。
【0060】
支持層の厚みは、SEMや光学顕微鏡などによる断面観察によって測定することができる。複合半透膜の場合でも、分離機能層の厚みは基材や支持層と比較して非常に薄いので、複合半透膜の断面観察結果から支持層の厚みを求めることができる。
【0061】
SEMで測定する場合は、以下の方法で求めることができる。複合半透膜あるいは支持膜を凍結割断法で割断して切片サンプルを作製し、切片サンプルをSEMにて100〜500倍で断面観察する。得られた画像から、スケールやノギスを用いて厚み方向に直交する方向(膜の面方向)に任意の10点の厚み(10μm間隔で測定するとよい)を測定する。同様の操作を5つの切片サンプルで行い、50個のデータの相加平均を算出し、支持層の厚みとする。なお、SEMで観察する前には、サンプルに白金または白金−パラジウムまたは四酸化ルテニウムを薄くコーティングする。また、SEMとしては、日立ハイテクノロジーズ製S−5500型走査型電子顕微鏡などが使用でき、3〜6kVの加速電圧で観察する。
【0062】
また、支持膜および支持層の厚みは、基材と同様にダイヤルシックネスゲージやデジタルシックネスゲージによっても測定することもできる。分離機能層の厚みは基材や支持層と比較して非常に薄いので、複合半透膜の厚みを基材と支持層の合計の厚み(支持膜の厚み)とみなすことができる。従って、複合半透膜の厚みをダイヤルシックネスゲージやデジタルシックネスゲージで測定し、複合半透膜の厚みから基材の厚みを引くことで、支持層の厚みを簡易的に算出することができる。ダイヤルシックネスゲージやデジタルシックネスゲージを用いる場合は、任意の20箇所について厚みを測定して、その相加平均を算出する。
【0063】
支持膜の厚み(基材と支持層厚みの合計)は、複合半透膜の強度およびそれをエレメントにしたときの充填密度に影響を与える。十分な機械的強度および充填密度を得るためには、支持膜の厚みの合計が、30μm以上300μm以下であることが好ましく、80μm以上200μm以下であるとより好ましい。
【0064】
支持膜の純水透過係数は、1.0×10
−9m
3/m
2・s・Pa,25℃以上であることが好ましい。
【0065】
支持膜の純水透過係数は以下の方法で求めることができる。まず、支持膜を純水で良く洗浄する。次に、直径4.3cmの円形に切り抜き、切り抜いたサンプルを撹拌型ウルトラホルダー(アドバンテック東洋株式会社製 UHP−43K)にセットする。続いて、セル内に25℃の純水を入れ、キャップを取り付けた後、窒素や圧空で100kPaとなるように昇圧する。最後に、一定時間における純水透過量を測定し、以下の式から純水透過係数(×10
−9m
3/m
2・s・Pa,25℃)を算出する。
純水透過係数=純水透過量÷(膜面積×採水時間×供給圧力)
【0066】
本発明に使用する支持層は、“オフィス・オブ・セイリーン・ウォーター・リサーチ・アンド・ディベロップメント・プログレス・レポート”No.359(1968)に記載された方法に従って製造することができる。
【0067】
(1−2)分離機能層
分離機能層は、多官能性アミンと多官能性酸ハロゲン化物との重縮合反応で得られたポリアミドを主成分とする薄膜を有する。主成分とは分離機能層の成分のうち、50重量%以上を占める成分を指す。
【0068】
分離機能層は、多官能性アミンと多官能性酸ハロゲン化物との界面重縮合により形成することができる。
ここで、多官能性アミン及び多官能性酸ハロゲン化物の少なくとも一方が3官能以上の化合物を含んでいることが好ましい。
【0069】
多官能性アミンとは、一分子中に第一級アミノ基及び第二級アミノ基のうち少なくとも一方のアミノ基を2個以上有するアミンを意味する。
例えば、ピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、2−メチルピペラジン、2,6−ジメチルピペラジン、2,3,5−トリメチルピペラジン、2,5−ジエチルピペラジン、2,3,5−トリエチルピペラジン、2−n−プロピルピペラジン、2,5−ジ−n−ブチルピペラジン、エチレンジアミンなどの脂肪族多官能アミン;o−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、o−キシリレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、o−ジアミノピリジン、m−ジアミノピリジン、p−ジアミノピリジン等の2個のアミノ基がオルト位やメタ位、パラ位のいずれかの位置関係で芳香環に結合した多官能芳香族アミン;1,3,5−トリアミノベンゼン、1,2,4−トリアミノベンゼン、3,5−ジアミノ安息香酸、3−アミノベンジルアミン、4−アミノベンジルアミンなどの多官能芳香族アミンなどが挙げられる。
【0070】
中でも、膜の選択分離性や透過性、耐熱性を考慮すると、ピペラジン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼン、2−メチルピペラジンが好適に用いられる。これらの多官能性アミンは、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0071】
多官能性酸ハロゲン化物とは、一分子中に少なくとも2個のハロゲン化カルボニル基を有する酸ハロゲン化物をいう。
例えば、3官能酸ハロゲン化物では、トリメシン酸クロリド、1,3,5−シクロヘキサントリカルボン酸トリクロリド、1,2,4−シクロブタントリカルボン酸トリクロリドなどを挙げることができ、2官能酸ハロゲン化物では、ビフェニルジカルボン酸ジクロリド、アゾベンゼンジカルボン酸ジクロリド、テレフタル酸クロリド、イソフタル酸クロリド、ナフタレンジカルボン酸クロリドなどの芳香族2官能酸ハロゲン化物、アジポイルクロリド、セバコイルクロリドなどの脂肪族2官能酸ハロゲン化物、シクロペンタンジカルボン酸ジクロリド、シクロヘキサンジカルボン酸ジクロリド、テトラヒドロフランジカルボン酸ジクロリドなどの脂環式2官能酸ハロゲン化物などを挙げることができる。
【0072】
多官能性アミンとの反応性を考慮すると、多官能性酸ハロゲン化物は多官能芳香族酸塩化物であることが好ましく、また、膜の選択分離性、耐熱性を考慮すると、一分子中に2〜4個の塩化カルボニル基を有する多官能芳香族酸塩化物であることが好ましい。中でも、入手の容易性や取り扱いのしやすさの観点から、トリメシン酸クロリド、テレフタル酸クロリド、イソフタル酸クロリドを用いるとより好ましい。これらの多官能芳香族酸ハロゲン化物は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0073】
また、分離機能層の厚みは、十分な分離性能および透過水量を得るために、通常0.01〜1μmの範囲内、好ましくは0.1〜0.5μmの範囲内である。
【0074】
2.複合半透膜の製造方法
複合半透膜の製造方法について説明する。当該製造方法は、支持層形成工程および分離機能層形成工程を含む。なお、本発明の複合半透膜の製造方法は、本書に記載された製造方法および各層の形成方法に限定されない。
【0075】
(2−1)支持層形成工程
支持層形成工程は、例えば、
(i)ゴム質粒子と支持層の母材となる熱可塑性樹脂とを含有する樹脂溶液を調製する工程、
(ii)上記樹脂溶液を基材上に塗布する工程および
(iii)樹脂溶液が塗布された基材を凝固浴に浸漬することで前記熱可塑性樹脂を凝固させる工程
を含む。
また、支持層形成工程は、ゴム質粒子および熱可塑性樹脂を調製する工程をさらに含んでもよい。
【0076】
上記(i)では、樹脂溶液は、ゴム質粒子と熱可塑性樹脂を溶融混合して得た混合物を溶媒とさらに混合するか、またはゴム質粒子と熱可塑性樹脂を溶媒に直接加えて溶解させる等の方法によって、調整できる。溶融混合する方法は特に制限はないが、加熱装置、ベントを有するシリンダーで単軸または二軸のスクリューを使用して溶融混合する方法などが使用できる。
【0077】
樹脂溶液におけるゴム質粒子と熱可塑性樹脂との重量比は、ゴム質粒子:熱可塑性樹脂=30:70〜50:50が好ましい。つまり、ゴム質粒子と熱可塑性樹脂の合計量が100重量%であって、ゴム質粒子は30重量%以上であることが好ましい。ゴム質粒子の含有量がこの範囲であると、範囲X内に存在するゴム質粒子が6個以上となり優れた透水性が得られる。また、ゴム質粒子と熱可塑性樹脂との合計量に対して、熱可塑性樹脂の含有量が50重量%以上であることで、熱可塑性樹脂により連続的な構造体が形成されるので、欠点の発生が抑制される。
【0078】
樹脂溶液中の熱可塑性樹脂濃度は、好ましくは9重量%以上18重量%以下であり、より好ましくは11重量%以上16重量%以下である。熱可塑性樹脂濃度が9重量%以上18重量%以下であることで、実用に耐えうる強度をもった支持膜が得られる。
【0079】
溶媒は、熱可塑性樹脂の良溶媒であればよい。熱可塑性樹脂の良溶媒とは、熱可塑性樹脂を溶解するものである。良溶媒としては、例えばテトラヒドロフラン(THF)、テトラメチル尿素、ジメチルアセトアミド(DMAC)、ジメチルホルムアミド(DMF)等のアミド、リン酸トリメチル、ジメチルイミダゾリジノン(DMI)およびその混合溶媒が挙げられる。
【0080】
樹脂溶液中には、エチレン・一酸化炭素・(メタ)アクリル酸エステル共重合体を添加することが好ましい。エチレン・一酸化炭素・(メタ)アクリル酸エステル共重合体の配合量は、好ましくは熱可塑性樹脂100重量部に対して1.0〜10.0重量部であり、より好ましくは3.0〜8.0重量部である。熱可塑性樹脂100重量部に対する配合量が1.0重量部以上であることで、ゴム質粒子数を増加させる効果が得られ、10.0重量部以下であることで支持層の成形性を保つことができる。
【0081】
また、樹脂溶液は、支持層の孔径、空孔率、親水性、弾性率などを調節するための添加剤を含有してもよい。孔径および空孔率を調節するための添加剤としては、水、アルコール類、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸等の水溶性高分子またはその塩、さらに塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、硝酸リチウム等の無機塩、ホルムアミド等が例示されるが、これらに限定されるものではない。親水性や弾性率を調節するための添加剤としては、種々の界面活性剤が挙げられる。
【0082】
上記(ii)の基材に樹脂溶液を塗布する工程には、例えば、スピンコーター、フローコーター、ロールコーター、スプレー、コンマコーター、バーコーター、グラビアコーター、スリットダイコーターなどが利用できる。
【0083】
塗布されてから凝固するまでの間に、樹脂溶液は基材中に含浸する。樹脂溶液の基材への含浸量は、基材上に樹脂溶液を塗布した後、凝固浴に浸漬させるまでの時間、樹脂溶液の粘度、またはこれらの条件の組み合わせによって調整できる。
【0084】
基材上に樹脂溶液を塗布した後、凝固浴に浸漬させるまでの時間は、通常0.1〜5秒間の範囲であることが好ましい。凝固浴に浸漬するまでの時間がこの範囲であれば、樹脂溶液が基材の繊維間にまで充分含浸したのち固化される。なお、凝固浴に浸漬するまでの時間の好ましい範囲は、用いる樹脂溶液の粘度などによって適宜調節すればよい。
【0085】
樹脂溶液塗布時の溶液の温度は、5〜60℃の範囲内が好ましく、10〜35℃の範囲内がより好ましい。この範囲内であれば、樹脂溶液が析出することなく、ゴム質粒子を含む熱可塑性樹脂の有機溶媒溶液が基材の繊維間にまで充分含浸したのち固化されやすい。その結果、アンカー効果により支持層が基材に強固に接合した支持膜を得ることができる。
【0086】
工程(iii)において、凝固浴は非溶媒を含めばよい。非溶媒は、熱可塑性樹脂の溶液の調製に用いた良溶媒と比較して溶解度が小さい溶媒が採用される。非溶媒としては、例えば水、ヘキサン、ペンタン、ベンゼン、トルエン、メタノール、エタノール、トリクロルエチレン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、低分子量のポリエチレングリコール等の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族アルコール、またはこれらの混合溶媒などが挙げられる。一般的には水が用いられる。
【0087】
凝固浴の温度は、−20℃〜50℃が好ましい。より好ましくは0〜40℃である。50℃を超えると、熱運動により凝固浴面の振動が激しくなり、膜形成後の膜表面の平滑性が低下しやすい。−20℃未満だと凝固速度が遅くなり、製膜性が悪くなる場合がある。
【0088】
次に、上記で得られた支持膜を、支持膜中に残存する溶媒を除去するために純水で洗浄する。このときの純水の温度は25〜80℃が好ましい。
【0089】
上述したように、支持層の形成工程は、ゴム質粒子および熱可塑性樹脂を調製する工程をさらに含んでもよい。以下に、ゴム質粒子の製造方法として、グラフト共重合体を含有するゴム質粒子の製造方法を例示する。
【0090】
ゴム質粒子の製造には、乳化重合、懸濁重合、塊状重合および溶液重合等のいずれの重合方法を採用してもよく、2種類以上の方法を組み合わせてもよい。特に乳化重合法または塊状重合法が好ましく、過度の熱履歴によるゴム成分の劣化を抑制することができる観点から、乳化重合法がより好ましい。また、各単量体は、重合開始時に全て重合場に投入されていてもよいし、重合を進めながら単量体の一部または全部を連続的または分割して投入してもよい。用いられる単量体の例は、上述したとおりである。
【0091】
乳化重合法によりグラフト共重合体含有ゴム質粒子を製造する場合、ゴム質含有ラテックスの存在下で、単量体混合物を乳化グラフト重合することができる。乳化重合法において用いられる乳化剤に特に制限はなく、各種の界面活性剤が使用できる。界面活性剤としては、カルボン酸塩型、硫酸エステル塩型、スルホン酸塩型などのアニオン系界面活性剤が好ましく使用される。これらを2種以上用いてもよい。
【0092】
アニオン系界面活性剤の具体例としては、カプリル酸塩、カプリン酸塩、ラウリン酸塩、ミスチリン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、オレイン酸塩、リノール酸塩、リノレン酸塩、ロジン酸塩、ベヘン酸塩、ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、その他高級アルコール硫酸エステル塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルジフェニールエーテルジスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩縮合物、ジアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンラウリル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩などが挙げられる。ここでいう塩としては、アンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、リチウム塩などのアルカリ金属塩などが挙げられる。なかでも、パルチミン酸、ステアリン酸、オレイン酸のカリウム塩またはナトリウム塩が好ましく用いられる。
【0093】
重合に用いる開始剤は特に制限はなく、過酸化物、アゾ系化合物または過硫酸塩などが使用される。
【0094】
過酸化物の具体例としては、ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルイソプロピルカルボネート、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオクテート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートなどが挙げられる。
【0095】
アゾ系化合物の具体例としては、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル、2−フェニルアゾ−2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル、2−シアノ−2−プロピルアゾホルムアミド、1,1’−アゾビスシクロヘキサン−1−カーボニトリル、アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート、1−t−ブチルアゾ−2−シアノブタン、2−t−ブチルアゾ−2−シアノ−4−メトキシ−4−メチルペンタンなどが挙げられる。
【0096】
過硫酸塩の具体例としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0097】
これらの開始剤を2種以上用いてもよい。乳化重合法には、過硫酸カリウム、クメンハイドロパーオキサイドなどが好ましく用いられる。また、開始剤はレドックス系でも用いることができる。
【0098】
グラフト共重合体含有ゴム質粒子のグラフト部の重合度およびグラフト率の調整を目的として、連鎖移動剤を使用することもできる。連鎖移動剤の具体例としては、n−オクチルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、n−オクタデシルメルカプタンなどのメルカプタン、テルピノレンなどのテルペンなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらのなかでも、n−オクチルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタンが好ましく用いられる。
【0099】
乳化重合法により製造されたグラフト共重合体ラテックスに凝固剤を添加することにより、ラテックス分を凝固させ、グラフト共重合体含有ゴム質粒子を回収することができる。凝固剤としては、酸または水溶性塩が用いられる。凝固剤の具体例としては、硫酸、塩酸、リン酸、酢酸などの酸、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化バリウム、塩化アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウムアンモニウム、硫酸アルミニウムカリウム、硫酸アルミニウムナトリウムなどの水溶性の塩などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0100】
なお、酸で凝固した場合は、酸をアルカリにより中和した後にグラフト共重合体含有ゴム質粒子を回収する方法を用いることもできる。ラテックス分を凝固させて得られたグラフト共重合体含有ゴム質粒子スラリーは、脱水・洗浄・再脱水・乾燥工程を経て、パウダー形状とすることが、取り扱い性の点から好ましい。
【0101】
以下、支持層の母材としてビニル系重合体を用いる場合の製造方法について説明する。ビニル系共重合体の製造には、乳化重合、懸濁重合、塊状重合および溶液重合等のいずれの重合方法を採用してもよく、2種類以上の方法を組み合わせてもよい。特に懸濁重合法または塊状重合法が好ましく、重合制御の容易さ、後処理の容易さを考慮すると、懸濁重合法が最も好ましい。また、各単量体は、重合開始時に全て重合場に投入されていてもよいし、重合を進めながら単量体の一部または全部を連続的または分割して投入してもよい。用いられる単量体の例は、上述したとおりである。
【0102】
懸濁重合に用いられる懸濁安定剤としては、粘土、硫酸バリウム、水酸化マグネシウム等の無機系懸濁安定剤、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリルアミド、メタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体等の有機系懸濁安定剤などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらの中でも、溶融時の熱着色安定性の面で有機系懸濁安定剤が好ましく、メタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体がより好ましい。
【0103】
また、ビニル系共重合体の懸濁重合に使用される開始剤および連鎖移動剤としては、前記グラフト共重合体含有ゴム質粒子の開始剤および連鎖移動剤として例示したものを挙げることができる。
【0104】
ビニル系共重合体を懸濁重合により製造する場合、重合温度に特に制限はないが、ビニル系共重合体の重量平均分子量を前述の範囲に調整しやすいという観点、懸濁安定性の観点から60〜80℃で重合を開始し、重合率が50〜70%となった時点で昇温を開始し、最終的に100〜120℃にすることが好ましい。
【0105】
ビニル系共重合体の重量平均分子量は、前述の開始剤や連鎖移動剤を用いること、重合温度を前述の好ましい範囲にすることなどにより、容易に調整可能である。
【0106】
(2−2)分離機能層の形成工程
次に、複合半透膜を構成する分離機能層の形成工程について説明する。なお、分離機能層は、ポリアミドを主成分とする層である。
分離機能層の形成工程では、前述の多官能性アミンを含有する水溶液と、多官能性酸ハロゲン化物を含有する水と非混和性の有機溶媒溶液とを用い、支持膜の表面で界面重縮合を行うことにより、ポリアミド骨格を形成することができる。
【0107】
多官能性アミン水溶液における多官能性アミンの濃度は0.1重量%以上15重量%以下の範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.5重量%以上10重量%以下の範囲内である。この範囲であると十分な透水性と溶質除去性能を得ることができる。
【0108】
多官能性アミン水溶液には、多官能性アミンと多官能性酸ハロゲン化物との反応を妨害しないものであれば、界面活性剤、アルカリ性化合物、アシル化触媒、酸化防止剤などの添加剤を加えることができる。
【0109】
界面活性剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0110】
アルカリ性化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、リン酸三ナトリウム、トリエチルアミンなどが挙げられる。
【0111】
界面重縮合を支持膜上で行うために、まず、上述の多官能性アミン水溶液を支持膜に接触させる。接触は、支持膜表面上に均一にかつ連続的に行うことが好ましい。
具体的には、例えば、多官能性アミン水溶液を支持膜にコーティングする方法や支持膜を多官能性アミン水溶液に浸漬する方法を挙げることができる。
【0112】
支持膜と多官能性アミン水溶液との接触時間は、1秒以上10分以下の範囲内であることが好ましく、5秒以上3分以下の範囲内であるとさらに好ましい。
【0113】
多官能性アミン水溶液を支持膜に接触させた後は、膜上に液滴が残らないように十分に液切りする。十分に液切りすることで、複合半透膜形成後に液滴残存部分が欠点となって複合半透膜の除去性能が低下することを防ぐことができる。
【0114】
液切りの方法としては、例えば、多官能性アミン水溶液接触後の支持膜を垂直方向に把持して過剰の水溶液を自然流下させる方法や、エアーノズルから窒素などの気流を吹き付け、強制的に液切りする方法などを用いることができる。また、液切り後、膜面を乾燥させて水溶液の水分を一部除去することもできる。
【0115】
次いで、多官能性アミン水溶液接触後の支持膜に、多官能性酸ハロゲン化物を含む水と非混和性の有機溶媒溶液を接触させ、界面重縮合により架橋ポリアミド分離機能層を形成させる。
【0116】
水と非混和性の有機溶媒溶液中の多官能性酸ハロゲン化物濃度は、0.01重量%以上3重量%以下の範囲内であると好ましく、0.05重量%以上2重量%以下の範囲内であるとさらに好ましい。多官能性酸ハロゲン化物濃度が0.01重量%以上であることで十分な反応速度が得られ、また、3重量%以下であることで副反応の発生を十分に抑制することができる。
【0117】
水と非混和性の有機溶媒は、多官能性酸ハロゲン化物を溶解し、支持膜を破壊しないものが望ましく、多官能性アミン化合物および多官能性酸ハロゲン化物に対して不活性であるものであればよい。例えば、炭化水素系溶媒が挙げられ、単体であっても、混合物であってもよい。有機溶媒の例として、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等の飽和炭化水素;IPソルベント1620、IPクリーンLX、IPソルベント2028、エクソンモービル社製のISOPAR E、ISOPAR G、ISOPAR H、ISOPAR L等のイソパラフィン系溶媒;エクソンモービル社製のエクソールD30、エクソールD40、エクソールD60、エクソールD80等のナフテン系溶媒が挙げられる。
【0118】
有機溶媒溶液には、他の多官能性アミン反応性モノマーや有機溶媒、アシル化触媒、界面活性剤、可溶化剤、錯化剤などが含まれていてもよい。例えば、他の多官能性アミン反応性モノマーとしては、ハロゲン化スルホニルおよび酸無水物から選択される少なくとも1つ、好ましくは2〜4のアミン反応性官能基を含む化合物、少なくとも1つのカルボキシ基と少なくとも1つのハロゲン化アシルを含む化合物が挙げられる。有機溶媒としては、ベンゼン、トルエン、アセトン、酢酸エチルなどが挙げられる。アシル化触媒としては、DMFなどが挙げられる。
【0119】
多官能性酸ハロゲン化物を含む有機溶媒溶液を支持膜へ接触させる方法は、多官能性アミン水溶液を支持膜へ被覆する方法と同様に行えばよい。
【0120】
本発明の分離機能層形成工程においては、支持膜上を架橋ポリアミド薄膜で十分に覆い、かつ、接触させた多官能性酸ハロゲン化物を含む水と非混和性の有機溶媒溶液を支持膜上に残存させておくことが重要である。このため、界面重縮合を実施する時間は、0.1秒以上3分以下が好ましく、0.1秒以上1分以下であるとより好ましい。界面重縮合を実施する時間が0.1秒以上3分以下であることで、支持膜上を架橋ポリアミド薄膜で十分に覆うことができ、かつ多官能性酸ハロゲン化物を含む有機溶媒溶液を支持膜上に保持することができる。
【0121】
界面重縮合によって支持膜上にポリアミド分離機能層を形成した後は、余剰の溶媒を液切りする。液切りの方法は、例えば、膜を垂直方向に把持して過剰の有機溶媒を自然流下して除去する方法、送風機で風を吹き付けることで有機溶媒を乾燥除去する方法、水とエアーの混合流体(2流体)で過剰の有機溶媒を除去する方法等を用いることができる。
【0122】
さらに、25℃以上80℃以下の純水で1分間以上洗浄処理する工程を付加することが好ましい。
【0123】
3.複合半透膜の利用
本発明の複合半透膜は、スパイラル型の複合半透膜エレメントとして好適に用いられる。さらに、このエレメントを直列または並列に接続して圧力容器に収納した複合半透膜モジュールとすることもできる。
【0124】
また、上記の複合半透膜やそのエレメント、モジュールは、それらに原水を供給するポンプや、その原水を前処理する装置などと組み合わせて、流体分離装置を構成することができる。この分離装置を用いることにより、原水から飲料水などを目的とした透過水と膜を透過しなかった濃縮水とに分離して、目的にあった水を得ることができる。
【0125】
流体分離装置の操作圧力は高い方が塩除去性は向上するが、運転に必要なエネルギーも増加すること、また、本発明の複合半透膜の耐久性を考慮すると、複合半透膜に被処理水を透過する際の操作圧力は、0.2MPa以上、2MPa以下が好ましい。
【0126】
供給水温度は、高くなると塩除去性が低下するが、塩除去性が低下するに従い膜透過流束も減少するので、5℃以上、35℃以下が好ましい。
【0127】
また、供給水pHは、高くなると海水などの高塩濃度の供給水の場合、マグネシウムなどのスケールが発生する恐れがあり、また、高pH運転による膜の劣化が懸念されるため、中性領域での運転が好ましい。
【0128】
複合半透膜によって処理される原水としては、海水、かん水、排水等の500mg/L〜100g/LのTDS(Total Dissolved Solids:総溶解固形分)を含有する液状混合物等が挙げられる。一般に、TDSは総溶解固形分量を指し、「重量÷体積」で表されるか、1Lを1kgと見なして「重量比」で表される。TDSは、定義によれば、0.45μmのフィルターで濾過した溶液を39.5〜40.5℃の温度で蒸発させ残留物の重さから算出できるが、より簡便には実用塩分から換算する。
【実施例】
【0129】
以下に実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0130】
<1.グラフト共重合体含有ゴム質粒子のグラフト率の測定>
80℃で4時間真空乾燥を行ったグラフト共重合体含有ゴム質粒子の所定量(m;約1g)にアセトン100mlを加え、70℃の湯浴中で3時間還流した。この溶液を遠心分離機(KUBOTA 6900)で8800r.p.m(12,300G)、5℃で40分間遠心分離した後、上澄み液を除去した。続いて、容器の底に沈殿した物質を容器ごと40℃で8時間真空乾燥した。最後に、容器ごと重量を測定し、風袋重量を引くことで沈殿物重量(n)を測定した。グラフト率は下記式より算出した。ここで、Lはグラフト共重合体含有ゴム質粒子のゴム含有率(重量%)である。
グラフト率[%]={[(n)−((m)×L/100)]/[(m)×L/100]}×100
【0131】
<2.ゴム質粒子の重量平均粒子径>
ゴム質粒子を水媒体に分散させ、レーザ散乱回折法粒度分布測定装置(ベックマン・コールター株式会社製 LS 13 320)により粒子径分布を測定した。その粒子径分布より、ゴム質粒子の重量平均粒子径を算出した。
【0132】
<3.支持膜厚みの測定>
70℃の純水で5分間洗浄した支持膜を25℃で風乾させた。乾燥したサンプルを、デジタルシックネスゲージ(株式会社テクロック製 SMD−565J−L)にて、任意の20箇所について厚みを測定して、その相加平均を算出し、支持膜厚みとした。
【0133】
<4.支持層厚みの測定>
70℃の純水で5分間洗浄した支持膜を凍結割断法で切断して、5個の切片を得た。それぞれの切片サンプルに白金を薄くコーティング後、高分解能電界放出形走査電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製S−5500型走査型電子顕微鏡)を用いて、5kVの加速電圧で、100〜500倍で断面写真を撮影した。撮影で得た各画像において、スケールで厚み方向に直交する方向(膜の面方向)に任意の10点の支持層の厚さを測定した。1枚の支持膜について得られた50個の値から、相加平均を算出し、これを支持層厚みとした。
【0134】
<5.支持層に含まれる不溶性成分量の測定>
70℃の純水で1時間以上洗浄した支持膜(面積0.1m
2)を25℃で風乾し、25℃のアセトン200mlに20時間浸漬させることで、支持層部分を溶解し、溶液を得た(浸漬時は事前に風袋重量測定した250ml容器を使用)。次に、得られた溶液を、金属メッシュ(線径0.03mm、メッシュ300、関西金網株式会社製)にてろ過して基材を除去した。続いて、得られたろ液を、遠心分離機(KUBOTA 6900)で8800r.p.m(12,300G)、5℃で40分間遠心分離した後、上澄み液を除去した。さらに、容器の底に沈殿した物質を容器ごと40℃で8時間真空乾燥した。最後に、容器ごと重量を測定し、風袋重量を引くことで沈殿物重量を算出、次の式から不溶性成分量を算出した。
不溶性成分量 [mg/m
2・μm]=(沈殿物重量[mg] ÷ 支持膜面積[m
2])÷支持層厚み[μm]
【0135】
<6.支持膜の純水透過係数の測定>
まず、作製した支持膜を70℃の純水で5分間洗浄した。次に、直径4.3cmの円形に切り抜き、切り抜いたサンプルを撹拌型ウルトラホルダー(アドバンテック東洋株式会社製 UHP−43K)にセットした(有効ろ過面積:10.9cm
2)。続いて、セル内に25℃の純水を入れ、キャップを取り付けた後、窒素で100kPaとなるように昇圧した。最後に、一定時間における純水透過量を測定し、以下の式から純水透過係数(×10
−9m
3/m
2・s・Pa,25℃)を算出した。
純水透過係数=純水透過量÷(膜面積×採水時間×供給圧力)
【0136】
<7.支持層に含まれるゴム質粒子数の測定>
70℃の純水で5分間洗浄した支持膜を凍結割断法で切断して、10個の切片を得た。それぞれの切片サンプルを四酸化オスミウムで染色し、高分解能電界放出形走査電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製S−5500型走査型電子顕微鏡)を用いて、5kVの加速電圧で、10,000倍で断面写真を撮影した。1つの切片サンプルから2視野観察し、得られた20枚の画像について、支持層の表面から厚さ方向に3μmかつ前記表面に沿う方向に3μmの範囲に含まれる定方向最大径(Krumbein径)が50nm以上の粒子をカウントした。得られた20個のデータから相加平均を算出し(小数点以下は切り捨て)、支持層に含まれるゴム質粒子数とした。なお、ゴム質粒子数は、複合半透膜の断面写真から求めることもできる。
【0137】
<8.支持層中の熱可塑性樹脂の重量平均分子量Mwの測定>
70℃の純水で1時間以上洗浄した支持膜または複合半透膜(面積0.1m
2)を風乾し、25℃のTHF(200ml)に4時間浸漬させることで、支持層部分を溶解し、熱可塑性樹脂溶液を得た(浸漬時は250ml容器を使用)。次に、得られた溶液を、金属メッシュ(線径0.03mm、メッシュ300、関西金網株式会社製)にてろ過して基材および機能層を除去した。続いて、得られたろ液を、遠心分離機(KUBOTA 6900)で8800r.p.m(12,300G)、5℃で40分間遠心分離した後、上澄み液を分取した。得られた上澄み液について、GPCを用いて以下の条件で測定し、重量平均分子量(Mw)を算出した。なお、検量線はポリスチレンを用いた。
【0138】
溶媒:テトラヒドロフラン
装置:Waters製 2695セパレーションモジュール
カラム:東ソー製 TSKgel Super II ZM−M、Super II ZM−N、SuperHZ−L(計3本)
カラム温度:40℃
溶媒流量:0.35ml/分
検出器:Waters製 2414示差屈折率検出器
【0139】
<9.膜性能評価>
以下に示す方法で、複合半透膜の性能を評価した。
(塩除去性)
複合半透膜に、温度25℃、pH7に調整した供給水(NaCl濃度500ppm)を操作圧力0.5MPaで供給して膜ろ過処理を3時間行ない、その後の供給水および透過水の電気伝導度を東亜ディーケーケー株式会社製マルチ水質計(MM60R)で測定した。次に、事前に作成した検量線を用いて、この電導度を換算しNaCl濃度を算出した。このNaCl濃度から、次の式により塩除去性すなわちNaCl除去率を求めた。
NaCl除去率(%)=100×{1−(透過水中のNaCl濃度/供給水中のNaCl濃度)}
【0140】
(膜透過流束(Flux))
上記塩除去性試験において、膜透過水量も測定し、膜面1平方メートルあたり、1日あたりの透水量(立方メートル)に換算し、膜透過流束(m
3/m
2/日)として表した。
【0141】
各実施例、比較例に使用した材料を以下に示す。
【0142】
(製造例1)グラフト共重合体含有ゴム質粒子(A)
窒素置換した反応器に、純水150重量部、ブドウ糖0.5重量部、ピロリン酸ナトリウム0.5重量部、硫酸第一鉄0.005重量部およびポリブタジエンラテックス(重量平均粒子径350nm)60重量部(固形物換算)を仕込み、撹拌しながら反応器内の温度を65℃に昇温した。
【0143】
内温が65℃に達した時点を重合開始として、スチレン28重量部、アクリロニトリル12重量部、t−ドデシルメルカプタン0.2重量部を4時間かけて連続添加した。同時並行でクメンハイドロパーオキサイド0.2重量部およびオレイン酸カリウムからなる水溶液を7時間かけて連続添加し、反応を完結させた。
【0144】
その後、90℃の温度の0.3重量%希硫酸水溶液中に添加して凝集させ、水酸化ナトリウム水溶液により中和し、洗浄ろ過・脱水・乾燥工程を経て、パウダー状のグラフト共重合体含有ゴム質粒子Aを得た。
【0145】
このグラフト共重合体含有ゴム質粒子Aのグラフト率は41%であった。また、グラフト共重合体含有ゴム質粒子Aのアセトン可溶分において、アクリロニトリル由来成分、スチレン由来成分の割合は、両者の合計100重量%中、スチレン:アクリロニトリル=72:28であった。
【0146】
(製造例2)懸濁重合用媒体(メタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体)
メタクリル酸メチル20重量部、アクリルアミド80重量部、過硫酸カリウム0.3重量部、イオン交換水1800重量部を反応器中に仕込み、反応器中の気相を窒素ガスで置換した。良く撹拌しながら70℃に保ち、重合率が99%に到達した時点で重合を終了し、メタクリル酸メチルとアクリルアミドの共重合体の水溶液を得た。
【0147】
この水溶液に、水酸化ナトリウム35重量部とイオン交換水15000重量部を加え、0.6重量%のメタクリル酸メチルとアクリルアミドとの共重合体の水溶液を得た。70℃で2時間撹拌してケン化させた後、室温まで冷却し、懸濁重合用の媒体の水溶液を得た。
【0148】
(製造例3)ビニル系共重合体(B−1)
20Lのステンレス製オートクレーブに、製造例2で製造したメタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体水溶液6重量部、純水150重量部を入れて400rpmで撹拌し、系内を窒素ガスで置換した。次に、スチレン72重量部、アクリロニトリル28重量部の合計100重量部とt−ドデシルメルカプタン0.40重量部、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.4重量部の混合溶液を撹拌下の系内に添加し、60℃に昇温して重合を開始した。重合開始後、30分かけて反応温度を65℃まで昇温した後、3時間かけて100℃の温度まで昇温した。その後、系内を室温まで冷却し、重合物の分離、洗浄および乾燥をすることでビニル系共重合体B−1を得た。このビニル系共重合体B−1の重量平均分子量Mwは、100,000であった。
【0149】
(製造例4)ビニル系共重合体(B−2)
t−ドデシルメルカプタンの添加量を0.30重量部に変更したこと以外は、製造例3と同様にしてビニル系共重合体B−2を得た。このビニル系共重合体B−2の重量平均分子量Mwは、140,000であった。
【0150】
エチレン・一酸化炭素・(メタ)アクリル酸エステル共重合体
三井・デュポンポリケミカル株式会社製“エルバロイ”HP−4051を使用した。
【0151】
<実施例1>
製造例1で得られたグラフト共重合体含有ゴム質粒子Aおよび製造例3で得られたビニル系共重合体B−1を表1に示す割合で、16重量%となるようにDMFに加え、攪拌しながら90℃で3時間加熱保持することで樹脂溶液を調製した。
【0152】
調製した樹脂溶液は25℃まで冷却し、金属メッシュ(線径0.03mm、メッシュ400、関西金網株式会社製)を用いてろ過した。その後、抄紙法で製造されたポリエステル繊維からなる不織布(厚み:約90μm、通気度:1.0cc/cm
2/sec)上に樹脂溶液を100μmの厚みで塗布した。塗布後、直ちに純水中に浸漬して相分離させ、続いて70℃の純水で5分間洗浄することによって支持膜を得た。
【0153】
得られた支持膜を、純水で調製したm−フェニレンジアミン(m−PDA)の2.0重量%水溶液中に10秒間浸漬した後、膜面が鉛直になるようにゆっくりと引き上げた。エアーノズルから窒素を吹き付け支持膜表面から余分な水溶液を取り除いた後、膜面が水平となるように支持膜を置き、トリメシン酸クロリド0.07重量%を含む25℃のn−デカン溶液を膜表面が完全に濡れるように塗布した。
【0154】
30秒間静置した後、膜から余分な溶液を除去するために膜面を1分間鉛直に保持して液切りし、送風機を使い25℃の空気を吹き付けて乾燥させた。その後、70℃の純水で5分間洗浄することで、複合半透膜を得た。得られた複合半透膜の膜性能を表1に示す。
【0155】
<実施例2〜3、比較例1〜2>
グラフト共重合体含有ゴム質粒子Aとビニル系共重合体B−1の割合および樹脂濃度を表1に示す数値に変えた以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜3、比較例1〜2の複合半透膜をそれぞれ得た。得られた複合半透膜の膜性能を表1に示す。
【0156】
<比較例3>
熱可塑性樹脂としてABS樹脂(トヨラック(登録商標)100)とDMFとの混合物を撹拌しながら、100℃で2時間加熱保持することで、樹脂溶液を調製した。樹脂溶液におけるABS樹脂の濃度は20重量%であった。
【0157】
調製した樹脂溶液を室温まで冷却し、金属メッシュ(線径0.03mm、メッシュ400、関西金網株式会社製)を用いてろ過した。その後、抄紙法で製造されたポリエステル繊維からなる不織布(厚み:約90μm、通気度:1.0cc/cm
2/sec)上に樹脂溶液を120μmの厚みで塗布した。塗布後、直ちに純水中に浸漬して相分離させ、続いて70℃の純水で5分間洗浄することによって支持膜を得た。
【0158】
得られた支持膜を、純水で調製したm−フェニレンジアミン(m−PDA)の2.0重量%水溶液中に10秒間浸漬した後、膜面が鉛直になるようにゆっくりと引き上げた。エアーノズルから窒素を吹き付け支持膜表面から余分な水溶液を取り除いた後、膜面が水平となるように支持膜を置き、トリメシン酸クロリド0.07重量%を含む25℃のn−デカン溶液を膜表面が完全に濡れるように塗布した。
【0159】
30秒間静置した後、膜から余分な溶液を除去するために膜面を1分間鉛直に保持して液切りし、送風機を使い25℃の空気を吹き付けて乾燥させた。その後、70℃の純水で5分間洗浄することで、複合半透膜を得た。得られた複合半透膜の膜性能を表1に示す。
【0160】
<比較例4>
樹脂溶液のABS樹脂の濃度を16重量%とした以外は、比較例3と同様にして、比較例4の複合半透膜を得た。得られた複合半透膜の膜性能を表1に示す。
【0161】
【表1】
【0162】
<実施例4>
ビニル系共重合体B−1の代わりにB−2を用いた以外は、実施例1と同様にして、複合半透膜を得た。得られた複合半透膜の膜性能を表2に示す。
【0163】
【表2】
【0164】
<実施例5〜8>
添加剤としてHP−4051を表3に示す割合で添加したこと以外は、実施例1と同様にして、複合半透膜を得た。得られた複合半透膜の膜性能を表3に示す。
【0165】
【表3】
【0166】
実施例1〜8より、支持層に含まれる粒子数を6個以上とすることで、0.5MPaの低圧条件において透過流束が高い複合半透膜が得られることが分かった。本発明により、低圧条件で使用した場合でも、高い透水性を有する複合半透膜を得られる。
【0167】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2018年2月28日出願の日本特許出願(特願2018−034863)及び2018年2月28日出願の日本特許出願(特願2018−034864)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。