特許第6787501号(P6787501)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6787501熱可塑性ポリエステル樹脂組成物および成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6787501
(24)【登録日】2020年11月2日
(45)【発行日】2020年11月18日
(54)【発明の名称】熱可塑性ポリエステル樹脂組成物および成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/02 20060101AFI20201109BHJP
   C08L 23/06 20060101ALI20201109BHJP
   C08L 33/14 20060101ALI20201109BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20201109BHJP
   C08K 5/49 20060101ALI20201109BHJP
   C08K 7/20 20060101ALI20201109BHJP
   C08K 9/08 20060101ALI20201109BHJP
【FI】
   C08L67/02
   C08L23/06
   C08L33/14
   C08K5/17
   C08K5/49
   C08K7/20
   C08K9/08
【請求項の数】22
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2019-551480(P2019-551480)
(86)(22)【出願日】2019年9月13日
(86)【国際出願番号】JP2019036056
(87)【国際公開番号】WO2020059651
(87)【国際公開日】20200326
【審査請求日】2020年2月10日
(31)【優先権主張番号】特願2018-175503(P2018-175503)
(32)【優先日】2018年9月20日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2018-205386(P2018-205386)
(32)【優先日】2018年10月31日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2018-243939(P2018-243939)
(32)【優先日】2018年12月27日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2019-12697(P2019-12697)
(32)【優先日】2019年1月29日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2019-46819(P2019-46819)
(32)【優先日】2019年3月14日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宮本 皓平
(72)【発明者】
【氏名】東城 裕介
(72)【発明者】
【氏名】横江 牧人
(72)【発明者】
【氏名】城谷 幸助
(72)【発明者】
【氏名】前田 恭雄
【審査官】 尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】 特開2018−039970(JP,A)
【文献】 特開2014−088515(JP,A)
【文献】 特開2010−150534(JP,A)
【文献】 特開2009−242759(JP,A)
【文献】 特開2009−155478(JP,A)
【文献】 特開平06−145481(JP,A)
【文献】 特開2010−180261(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/115757(WO,A1)
【文献】 特開2013−131576(JP,A)
【文献】 特開2009−292897(JP,A)
【文献】 特開2011−253958(JP,A)
【文献】 特開平08−041362(JP,A)
【文献】 特開2003−193009(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00− 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、(B)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂を除く熱可塑性樹脂であって、空洞共振摂動法で測定した周波数5.8GHzにおける誘電正接が0.005以下である熱可塑性樹脂45〜150重量部、(C)エポキシ基、酸無水物基、オキサゾリン基、イソシアネート基およびカルボジイミド基から選ばれる少なくとも1種の反応性官能基を有する相溶化剤2〜20重量部、ならびに(D)第3級アミン、アミジン化合物、有機ホスフィンおよびその塩、イミダゾール、およびホウ素化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物0.2〜5重量部を配合してなる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物であって、(B)熱可塑性樹脂がポリオレフィン樹脂、液晶性ポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスチレン樹脂およびポリフェニレンエーテル樹脂から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂であり、(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、(B)熱可塑性樹脂と(C)相溶化剤との合計が50〜150重量部であり、かつ(B)熱可塑性樹脂と(C)相溶化剤の配合量の重量比(B)/(C)が8〜50である熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
前記(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂が、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンデカンジカルボキシレート/テレフタレート、ポリブチレンテレフタレート/ナフタレート、ポリブチレン/エチレンテレフタレート、およびポリブチレンテレフタレート/セバケートの中から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
前記(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂が、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンイソフタレート/テレフタレート、およびポリブチレンテレフタレート/セバケートから選ばれる少なくとも1種である請求項1または2に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
前記(B)熱可塑性樹脂が少なくとも(B−1)ポリオレフィン樹脂を含み、該ポリオレフィン樹脂が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、および環状オレフィンコポリマーから選ばれる少なくとも1種のポリオレフィン樹脂である請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
前記(B)熱可塑性樹脂が少なくとも(B−1)ポリオレフィン樹脂を含み、該ポリオレフィン樹脂が、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、および直鎖状低密度ポリエチレンから選ばれる少なくとも1種の未変性ポリエチレンである請求項4に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項6】
前記(C)エポキシ基、酸無水物基、オキサゾリン基、イソシアネート基およびカルボジイミド基から選ばれる少なくとも1種の反応性官能基を有する相溶化剤が、(C−1)グリシジル基含有エチレン共重合体である請求項1〜5のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項7】
前記(B)熱可塑性樹脂が(B−1)ポリオレフィン樹脂であり、前記(C)エポキシ基、酸無水物基、オキサゾリン基、イソシアネート基およびカルボジイミド基から選ばれる少なくとも1種の反応性官能基を有する相溶化剤が(C−1)グリシジル基含有エチレン共重合体であり、(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂、(B−1)ポリオレフィン樹脂および(C−1)グリシジル基含有エチレン共重合体の合計を100体積%とした場合に、(B−1)ポリオレフィン樹脂と(C−1)グリシジル基含有エチレン共重合体の合計が20〜65体積%である請求項1〜6のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項8】
前記(D)化合物が、化学式(1)で表される化合物である請求項1〜7のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【化1】
(式中R〜Rは水素、炭素数1〜12のアルキル基、フェニル基、ベンジル基から選ばれ、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。Aはリンである。Xはハロゲンである。nは0または1である。)
【請求項9】
示差走査熱量測定により観測される降温結晶化温度が、以下の(2)〜(4)を満たす関係にある請求項4〜8のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
3≦TCB’−TCB<20 (2)
|TCA−TCB|≧20 (3)
|TCA’−TCB’|≧20 (4)
ここでTCA(℃)は熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中の(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂成分由来の降温結晶化温度(TCA)であり、TCB(℃)は熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中の(B−1)ポリオレフィン樹脂成分由来の降温結晶化温度(TCB)であり、TCA’(℃)は(A)成分のみを測定した場合に観測される降温結晶化温度(TCA’)であり、TCB’(℃)は(B−1)成分のみを測定した場合に観測される降温結晶化温度(TCB’)である。
【請求項10】
熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中のエポキシ基濃度が10〜30eq/tである請求項1〜9のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項11】
(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂のマトリクス相中に(B)熱可塑性樹脂の島相が分散径0.01〜10μmで分散している請求項1〜10のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項12】
前記(B)熱可塑性樹脂が、(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、(B−1)ポリオレフィン樹脂10〜140重量部と、(B−2)液晶性ポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスチレン樹脂およびポリフェニレンエーテル樹脂から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂10〜140重量部からなる請求項1〜11のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項13】
前記(B−2)液晶性ポリエステル樹脂が、脂肪族ジオールに由来する構造単位を有する半芳香族液晶性ポリエステルである請求項12に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項14】
(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、さらに(E)有機リン酸エステル金属塩を0.01〜5重量部配合してなる請求項1〜13のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項15】
(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、さらに(F)無機充填材1〜100重量部を配合してなる請求項1〜14のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項16】
前記(F)無機充填材がエポキシ系集束剤で処理されたガラス繊維である請求項15に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項17】
前記ガラス繊維が、周波数1GHzで測定したときの比誘電率が5未満である請求項16に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項18】
金属部品と複合化し使用することを特徴とする請求項1〜17のいずれかに記載のインサート成形用熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を溶融成形してなる成形品。
【請求項20】
高周波環境下で用いられる電気電子部品である請求項19に記載の成形品。
【請求項21】
請求項1〜18のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物からなる樹脂部材と、金属部品とが一体化された金属複合成形品。
【請求項22】
前記金属複合成形品が通信機器部品である、請求項21に記載の金属複合成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物およびそれを成形してなる成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリエステル樹脂は、その優れた射出成形性や機械物性などの諸特性を生かし、機械機構部品、電気・電子部品および自動車部品などの幅広い分野に利用されている。近年では、超高速・大容量・超低遅延通信に対応する次世代高速通信アンテナや、自動車自動運転に対応する車載レーダーなどの高周波対応部材への適用が期待され、高周波数化に対応した電気的特性として、誘電損失を抑制できる低誘電性(低比誘電率化、低誘電正接化)が要求されている。
【0003】
また昨今の自動車や電気・電子機器の各種パーツは、より高度な機能を付与するために電極や構造部材等の金属部品をインサート成形して複合化された部品(金属複合部品)が多く、例えば、携帯端末筐体等の移動用通信機器では内蔵されたアンテナにとって重要な電波の送受信特性を高めるため、金属部材に樹脂材料を一部含む構成にする場合がある。そのような金属複合部品は、高周波数帯通信時の伝送損失抑制のための樹脂部材の低誘電性に加えて、落下時の強度や防水性の観点から樹脂と金属の接合強度(金属接合性)の向上が求められている。
【0004】
このような課題に対して、熱可塑性ポリエステル樹脂は、分子構造中の極性基に起因する高周波数帯の誘電損失が起こることから低誘電化には限界がある。そのため、他の低誘電性に優れる熱可塑性樹脂、例えば極性基を有さないポリオレフィン樹脂の併用(例えば特許文献1)や、低誘電性に優れるガラス繊維の配合(例えば特許文献2、3)による低誘電化検討が進められている。熱可塑性ポリエステル樹脂と、それに比べて低誘電性に優れる熱可塑性樹脂の併用としては、例えばポリエチレンなどのポリオレフィン樹脂(例えば特許文献4〜6)や、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂(例えば特許文献7)、ポリスチレン樹脂(例えば特許文献8)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(例えば特許文献9)、液晶性樹脂(例えば特許文献10)、ポリフェニレンエーテル樹脂などが提案されている。熱可塑性ポリエステル樹脂と上記の熱可塑性樹脂の併用手法としては、熱可塑性ポリエステル樹脂と上記の熱可塑性樹脂との双方に反応または相溶する構造を含有する化合物である相溶化剤を配合する方法が知られている。また、優れた金属接合性のため、熱可塑性ポリエステル樹脂としてポリブチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートとを用い、誘電正接を規定した樹脂組成物が提案されている(例えば特許文献11)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−131576号公報
【特許文献2】国際公開第2017/203467号
【特許文献3】特開2017−52974号公報
【特許文献4】国際公開第2012/147845号
【特許文献5】国際公開第2012/147847号
【特許文献6】特開平6−145481号公報
【特許文献7】特表2011−526638号公報
【特許文献8】特開2009−292897号公報
【特許文献9】特開2010−180261号公報
【特許文献10】特開2005−23095号公報
【特許文献11】国際公開第2017/115757号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献4〜10においては、開示された樹脂組成物が低誘電性を有することは見出されていなかった。特許文献1、4〜10に開示された技術においては、上記の低誘電性に優れる熱可塑性樹脂の併用による熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の低誘電化が期待されるものの、低誘電性に優れる熱可塑性樹脂の配合量が不十分なことにより、高周波対応部材で求められる誘電特性に対しては効果が不十分であった。また、低誘電性に優れる熱可塑性樹脂の配合割合を増加させた場合には、低誘電性に優れる熱可塑性樹脂の粗大分散化や、樹脂組成物中の残存反応性基の増加による機械特性や耐熱性の悪化が生じる場合があった。さらに、相溶化剤として柔軟なエラストマを使用する場合や、低誘電性化のために強化材として用いられるガラス繊維の配合量を低減する場合には、得られる成形品の曲げ弾性率等の機械特性の低下や耐熱性の低下が生じ、成形品の使用時に剛性不足による変形が生じるといった課題があった。また、特許文献11に記載の方法では、世の中で求められている金属接合性および低誘電特性の必要な製品において、未だ要求を満足するものではなかった。更なる低誘電化のために特許文献1〜10に開示された技術を組み合わせたとしても、低誘電特性を持つガラス繊維の適用のみでは未だ要求を満足するものではなく、低誘電性に優れる熱可塑性樹脂の粗大分散により、機械特性や金属接合性が低下するといった課題があった。
【0007】
本発明は、低誘電性、機械特性、耐熱性、および金属接合性に優れる成形品を得ることのできる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物およびその成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するために検討を重ねた結果、(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂に、(B)特定の誘電特性を有する熱可塑性樹脂および(C)特定の反応性官能基を有する相溶化剤を特定の比率で配合し、さらに(D)特定構造の化合物を配合することにより、上記した課題を解決できることを見出し、本発明に達した。すなわち本発明は、以下の構成を有する。
【0009】
(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、(B)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂を除く熱可塑性樹脂であって、空洞共振摂動法で測定した周波数5.8GHzにおける誘電正接が0.005以下である熱可塑性樹脂45〜150重量部、(C)エポキシ基、酸無水物基、オキサゾリン基、イソシアネート基およびカルボジイミド基から選ばれる少なくとも1種の反応性官能基を有する相溶化剤2〜20重量部、ならびに(D)第3級アミン、アミジン化合物、有機ホスフィンおよびその塩、イミダゾール、およびホウ素化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物0.2〜5重量部を配合してなる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物であって、(B)熱可塑性樹脂がポリオレフィン樹脂、液晶性ポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスチレン樹脂およびポリフェニレンエーテル樹脂から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂であり、(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、(B)熱可塑性樹脂と(C)相溶化剤との合計が50〜150重量部であり、かつ(B)熱可塑性樹脂と(C)相溶化剤の配合量の重量比(B)/(C)が8〜50である熱可塑性ポリエステル樹脂組成物である。
【0010】
本発明は、上記の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を溶融成形してなる成形品を含む。
【0011】
また、本発明は、上記の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物からなる樹脂部材と、金属部品とが一体化された金属複合成形品を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、低誘電性、機械特性、耐熱性および金属接合性に優れた成形品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物について、詳細に説明する。
【0014】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、(B)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂を除く熱可塑性樹脂であって、空洞共振摂動法で測定した周波数5.8GHzにおける誘電正接が0.005以下である熱可塑性樹脂(以下、(B)熱可塑性樹脂と表記する場合がある)45〜150重量部、(C)エポキシ基、酸無水物基、オキサゾリン基、イソシアネート基およびカルボジイミド基から選ばれる少なくとも1種の反応性官能基を有する相溶化剤(以下、(C)相溶化剤と表記する場合がある)2〜20重量部、ならびに(D)第3級アミン、アミジン化合物、有機ホスフィンおよびその塩、イミダゾール、およびホウ素化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物(以下、(D)化合物と表記する場合がある)0.2〜5重量部を配合してなる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物であって、(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、(B)熱可塑性樹脂と(C)相溶化剤との合計が50〜150重量部であり、かつ(B)熱可塑性樹脂と(C)相溶化剤の配合量の重量比(B)/(C)が8〜50である熱可塑性ポリエステル樹脂組成物である。
【0015】
(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂は、射出成形性に優れ、得られた成形品は機械物性に優れるものの、分子構造中の極性基の存在により低誘電化には限界があった。そのため極性基を持たず低誘電性に優れる(B)熱可塑性樹脂を配合することにより、低誘電化させることができる。しかしながら、(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂と(B)熱可塑性樹脂とは相溶性に乏しいため、特定の反応性官能基を有した(C)相溶化剤を配合させるが、(B)熱可塑性樹脂および(C)相溶化剤の配合量が少ないことで、十分な低誘電化の効果が得られないことや、相溶性を向上させようと(C)相溶化剤を多量に配合することで、相溶化剤中の未反応の極性基の存在によって低誘電性の悪化が生じる場合があった。また、さらなる低誘電化を達成するために高誘電性であるガラス繊維などの強化材の配合量を低減させた場合には、得られる成形品の剛性の低下に伴い曲げ弾性率などの機械特性や耐熱性が低下する場合があった。そこで、低誘電性に優れる(B)熱可塑性樹脂および(C)相溶化剤の配合量を特定の範囲に制御し、かつ特定構造の(D)化合物を配合し、(A)、(B)および(C)成分の反応性を制御することによって、(A)成分中に対する(B)成分の分散性が向上し、(A)成分および(C)成分の有する反応性官能基の未反応残基の量を低減でき、その結果、得られる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の低誘電性、曲げ弾性率等の機械特性、耐熱性および金属接合性を向上させることができる。
【0016】
ここで、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、(A)成分、(B)成分、(C)成分および(D)成分が反応した反応物を含むが、当該反応物は複雑な反応により生成されたものであり、その構造を特定することは実際的でない事情が存在する。したがって、本発明は配合する成分により発明を特定するものである。
【0017】
本発明は、(A)非液晶性のポリエステル樹脂を用いる。ここで「非液晶性」とは、溶融時に異方性を示さないことを意味する。本発明で用いられる(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂は、(1)ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体、(2)ヒドロキシカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体、および(3)ラクトンからなる群より選択される少なくとも1種の残基を主構造単位とする重合体または共重合体である。ここで、「主構造単位とする」とは、全構造単位中、(1)〜(3)からなる群より選択される少なくとも1種の残基を50モル%以上有することを指し、それらの残基を80モル%以上有することが好ましい態様である。これらの中でも、(1)ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体の残基を主構造単位とする重合体または共重合体が、機械物性や耐熱性により優れる点で好ましい。
【0018】
上記のジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、1,4−アントラセンジカルボン酸、1,5−アントラセンジカルボン酸、1,8−アントラセンジカルボン酸、2,6−アントラセンジカルボン酸、9,10−アントラセンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸およびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0019】
また、上記のジオールまたはそのエステル形成性誘導体としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、ダイマージオールなどの炭素数2〜20の脂肪族または脂環式グリコール、ポリエチレングリコール、ポリ−1,3−プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどの分子量200〜100,000の長鎖グリコール、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、t−ブチルハイドロキノン、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールFなどの芳香族ジオキシ化合物およびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0020】
ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体を構造単位とする重合体または共重合体としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンイソフタレート、ポリブチレンイソフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリプロピレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート/ナフタレート、ポリブチレンテレフタレート/ナフタレート、ポリブチレンテレフタレート/デカンジカルボキシレート、ポリプロピレンテレフタレート/5−ナトリウムスルホイソフタレート、ポリブチレンテレフタレート/5−ナトリウムスルホイソフタレート、ポリプロピレンテレフタレート/ポリエチレングリコール、ポリブチレンテレフタレート/ポリエチレングリコール、ポリプロピレンテレフタレート/ポリテトラメチレングリコール、ポリブチレンテレフタレート/ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレンテレフタレート/イソフタレート/ポリテトラメチレングリコール、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート/ポリテトラメチレングリコール、ポリブチレンテレフタレート/サクシネート、ポリプロピレンテレフタレート/アジペート、ポリブチレンテレフタレート/アジペート、ポリプロピレンテレフタレート/セバケート、ポリブチレンテレフタレート/セバケート、ポリプロピレンテレフタレート/イソフタレート/アジペート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート/サクシネート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート/アジペート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート/セバケートなどの芳香族ポリエステル樹脂などが挙げられる。これらの重合体および共重合体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。ここで、「/」は共重合体を表す。
【0021】
これらの中でも、機械物性および耐熱性をより向上させる観点から、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体の残基と脂肪族ジオールまたはそのエステル形成性誘導体の残基を主構造単位とする重合体または共重合体がより好ましく、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体の残基とプロピレングリコール、1,4−ブタンジオールから選ばれる脂肪族ジオールまたはそのエステル形成性誘導体の残基を主構造単位とする重合体または共重合体がさらに好ましい。
【0022】
中でも、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリプロピレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート/ナフタレート、ポリブチレンアジペート/テレフタレート、ポリブチレンテレフタレート/セバケートおよびポリブチレンテレフタレート/ナフタレートなどから選ばれる少なくとも1種の芳香族ポリエステル樹脂が特に好ましく、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンデカンジカルボキシレート/テレフタレート、ポリブチレンテレフタレート/ナフタレート、ポリブチレン/エチレンテレフタレートから選ばれる少なくとも1種がより好ましい。機械特性と成形加工性のバランスに優れる点では、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンイソフタレート/テレフタレート、およびポリブチレンテレフタレート/セバケートの中から選ばれる少なくとも1種がさらに好ましい。また、これら2種以上を任意の含有量で用いることもできる。
【0023】
本発明で用いられる(A)非液晶性のポリエステル樹脂は、低誘電性、金属接合性の観点から、ポリブチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレート、またはポリブチレンテレフタレート/イソフタレートとポリエチレンテレフタレートを混合することがさらに好ましい。その混合割合は、ポリブチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレート、またはポリブチレンテレフタレート/イソフタレートとポリエチレンテレフタレートの合計100重量部に対して、ポリブチレンテレフタレートまたはポリブチレンテレフタレート/イソフタレートを60〜95重量部、ポリエチレンテレフタレートを5〜40重量部配合することが好ましい。ポリエチレンテレフタレートの配合量を5重量部以上とし、ポリブチレンテレフタレートまたはポリブチレンテレフタレート/イソフタレートの配合量を95重量部以下とすることで、得られる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の金属接合性が向上する。ポリエチレンテレフタレートを9重量部以上、ポリブチレンテレフタレートまたはポリブチレンテレフタレート/イソフタレートを91重量部以下配合することが好ましい。一方、ポリエチレンテレフタレート樹脂の配合量を40重量部以下とし、ポリブチレンテレフタレート樹脂またはポリブチレンテレフタレート/イソフタレート樹脂の配合量を60重量部以上とすることで、得られる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の機械強度を維持することができる。ポリエチレンテレフタレートを30重量部以下、ポリブチレンテレフタレートまたはポリブチレンテレフタレート/イソフタレートを70重量部以上配合することが好ましい。
【0024】
本発明で用いられる(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂のカルボキシル基量は、成形性の観点から、50eq/t以下であることが好ましい。一方、(C)相溶化剤との反応による熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中の(B)熱可塑性樹脂の分散性向上の点から、10eq/t以上が好ましい。カルボキシル基量の下限値は、0eq/tである。ここで、(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂のカルボキシル基量は、(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂をo−クレゾール/クロロホルム溶媒に溶解させた後、エタノール性水酸化カリウムで滴定し測定した値である。
【0025】
本発明で用いられる(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂は、機械特性をより向上させる点で、重量平均分子量(Mw)が8,000以上であることが好ましい。また、重量平均分子量(Mw)が500,000以下の場合、流動性が向上できるため、好ましい。より好ましくは300,000以下であり、さらに好ましくは250,000以下である。本発明において、(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、溶媒としてヘキサフルオロイソプロパノールを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリメチルメタクリレート(PMMA)換算の値である。
【0026】
本発明で用いられる(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂は、公知の重縮合法や開環重合法などにより製造することができる。製造方法は、バッチ重合および連続重合のいずれでもよく、また、エステル交換反応および直接重合による反応のいずれでも適用することができるが、生産性の観点から、連続重合が好ましく、また、直接重合がより好ましく用いられる。
【0027】
本発明で用いられる(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂が、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体とを主成分とする縮合反応により得られる重合体または共重合体である場合には、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体とを、エステル化反応またはエステル交換反応し、次いで重縮合反応することにより製造することができる。
【0028】
エステル化反応またはエステル交換反応および重縮合反応を効果的に進めるために、これらの反応時に重合反応触媒を添加することが好ましい。重合反応触媒の具体例としては、チタン酸のメチルエステル、テトラ−n−プロピルエステル、テトラ−n−ブチルエステル、テトライソプロピルエステル、テトライソブチルエステル、テトラ−tert−ブチルエステル、シクロヘキシルエステル、フェニルエステル、ベンジルエステル、トリルエステルあるいはこれらの混合エステルなどの有機チタン化合物、ジブチルスズオキシド、メチルフェニルスズオキシド、テトラエチルスズ、ヘキサエチルジスズオキシド、シクロヘキサヘキシルジスズオキシド、ジドデシルスズオキシド、トリエチルスズハイドロオキシド、トリフェニルスズハイドロオキシド、トリイソブチルスズアセテート、ジブチルスズジアセテート、ジフェニルスズジラウレート、モノブチルスズトリクロライド、ジブチルスズジクロライド、トリブチルスズクロライド、ジブチルスズサルファイド、ブチルヒドロキシスズオキシド、メチルスタンノン酸、エチルスタンノン酸、ブチルスタンノン酸などのアルキルスタンノン酸などのスズ化合物、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシドなどのジルコニア化合物、三酸化アンチモンおよび酢酸アンチモンなどのアンチモン化合物などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0029】
これらの重合反応触媒の中でも、有機チタン化合物およびスズ化合物が好ましく、チタン酸のテトラ−n−ブチルエステルがさらに好ましく用いられる。重合反応触媒の添加量は、(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、0.01〜0.2重量部の範囲が好ましい。
【0030】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂に、(B)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂を除く熱可塑性樹脂であって、空洞共振摂動法で測定した周波数5.8GHzにおける誘電正接が0.005以下である熱可塑性樹脂を配合してなることを特徴とする。前述のとおり、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、低誘電性に優れる(B)熱可塑性樹脂を配合することにより、低誘電化させることができる。
【0031】
本発明の低誘電性に優れる(B)熱可塑性樹脂の誘電特性として、空洞共振摂動法で測定した周波数が5.8GHzにおける誘電正接が0.005以下であることにより、高周波環境下における熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の低誘電化効果を発現する。ここで空洞共振摂動法とは、誘電特性の測定方法のなかでも1〜20GHz程度の周波数帯において0.01を下回る誘電正接の値を有する材料の測定に適した測定方法である共振法の一種であり、本発明の(B)成分の誘電特性の測定方法とした。
【0032】
本発明の低誘電性に優れる(B)熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン樹脂、液晶性ポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスチレン樹脂およびポリフェニレンエーテル樹脂から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂であることが好ましい。低誘電性に優れる(B)熱可塑性樹脂が上記樹脂種から選択されることで、得られる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を低誘電化できると同時に、射出成形などの溶融成形への適用が容易となるため好ましい。
【0033】
本発明の低誘電性に優れる(B)熱可塑性樹脂は、上記のなかでも少なくとも(B−1)ポリオレフィン樹脂を含んでいることが好ましい。本発明の(B−1)ポリオレフィン樹脂は、エチレン、プロピレン、ブテン、イソプレン、ペンテンなどのオレフィン類を重合または共重合して得られる熱可塑性樹脂である。(B−1)ポリオレフィン樹脂の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1−ブテン、ポリ1−ペンテン、ポリメチルペンテンなどの単独重合体および共重合体、エチレン/α−オレフィン共重合体、エチレンとテトラシクロドデセンなどの環状オレフィンとの共重合体、共役ジエンとビニル芳香族炭化水素とのブロック共重合体、ならびにそのブロック共重合体の水素化物などが用いられる。ここでいうエチレン/α−オレフィン共重合体は、エチレンと炭素原子数3〜20のα−オレフィンの少なくとも1種以上との共重合体であり、上記の炭素数3〜20のα−オレフィンとしては、具体的にはプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン、1−エイコセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−ヘキセン、3−エチル−1−ヘキセン、9−メチル−1−デセン、11−メチル−1−ドデセン、12−エチル−1−テトラデセンおよびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0034】
本発明の(B−1)ポリオレフィン樹脂は、アミノ基、イソシアネート基、水酸基、メルカプト基、ウレイド基、カルボン酸基、カルボン酸無水物基、カルボン酸エステル基、およびカルボン酸金属塩基などの官能基で末端を変性していてもよい。未反応の官能基による誘電特性の悪化や、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の溶融粘度増加による溶融成形加工性の低下を抑制する観点から、未変性のポリオレフィン樹脂が好ましい。
【0035】
本発明の(B−1)ポリオレフィン樹脂は、なかでも、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、および環状オレフィンコポリマーから選ばれる少なくとも1種のポリオレフィン樹脂であることが好ましく、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、および直鎖状低密度ポリエチレンから選ばれる少なくとも1種の未変性ポリエチレンがより好ましい。ポリオレフィン樹脂が上述の樹脂から構成されることで、得られる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の機械特性と耐熱性のバランスに優れるため好ましい。また本発明の(B−1)ポリオレフィン樹脂は2種以上を併用していてもよい。
【0036】
本発明の低誘電性に優れる(B)熱可塑性樹脂は、(B−1)ポリオレフィン樹脂、ならびに(B−2)液晶性ポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスチレン樹脂およびポリフェニレンエーテル樹脂から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂からなることがより好ましい。本発明の低誘電性に優れる(B)熱可塑性樹脂が上記(B−1)および(B−2)からなることで、低誘電性化のために(B)成分の配合量を増加させた場合においても、(B−1)および(B−2)が(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂のマトリクス相中に微細に分散しやすく、得られる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の機械特性、および耐熱性が向上するため好ましい。また、(B−1)ポリオレフィン樹脂由来の低誘電性と(B−2)熱可塑性樹脂種由来の耐熱性等の特性とを熱可塑性ポリエステル樹脂組成物に付与させることができるため、好ましい。また、(B−1)成分として複数種類の樹脂を併用してもかまわないし、(B−2)成分として複数種類の樹脂を併用してもかまわない。
【0037】
本発明の(B−2)液晶性ポリエステル樹脂は、溶融時に異方性を形成するポリエステル樹脂である。液晶性ポリエステル樹脂の構造単位としては、例えば、芳香族オキシカルボニル単位、芳香族ジオキシ単位、芳香族および/または脂肪族ジカルボニル単位、アルキレンジオキシ単位および芳香族イミノオキシ単位などが挙げられる。
【0038】
本発明の(B−2)液晶性ポリエステル樹脂は、脂肪族ジオールに由来する構造単位を有する半芳香族液晶性ポリエステル樹脂であることが好ましい。液晶性ポリエステル樹脂が半芳香族液晶性ポリエステル樹脂であることで、(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂のマトリクス相中へ微細に分散しやすく、得られる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の機械特性が向上するため好ましい。
【0039】
本発明の(B−2)液晶性ポリエステル樹脂の融点は、耐熱性の観点から200℃以上が好ましく、250℃以上がより好ましい。一方、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の製造性、加工性の観点から350℃以下が好ましく、330℃以下がより好ましい。なお、液晶性ポリエステル樹脂の融点は、示差走査熱量測定により観測される吸熱ピーク温度より求められる。
【0040】
また、本発明の低誘電性に優れる(B)熱可塑性樹脂は、(B−2)としてポリフェニレンスルフィド樹脂を配合していてもよい。
【0041】
本発明の(B−2)ポリフェニレンスルフィド樹脂は、下記構造式で示される繰り返し単位を有する重合体である。耐熱性の観点から、下記構造式で示される繰り返し単位を70モル%以上含むことが好ましく、90モル%以上含むことがより好ましい。
【0042】
【化1】
【0043】
また、(B−2)ポリフェニレンスルフィド樹脂は、その繰り返し単位の30モル%未満程度が、下記構造式で示される繰り返し単位等で構成されていてもよい。かかる繰り返し単位を一部有することにより、ポリフェニレンスルフィド樹脂の融点が低くなるため、成形性の点で有利となる。
【0044】
【化2】
【0045】
本発明の(B−2)ポリフェニレンスルフィド樹脂は、架橋剤を用いた架橋処理により高分子量化して用いてもよい。一方、衝撃強度など機械物性を向上する観点から、架橋処理による高分子量化を行わない、実質的に直鎖状のポリフェニレンスルフィド樹脂であってもよい。
【0046】
また、本発明の低誘電性に優れる(B)熱可塑性樹脂は、(B−2)としてポリスチレン樹脂を配合していてもよい。
【0047】
本発明の(B−2)ポリスチレン樹脂は、ポリスチレン、スチレン/アクリロニトリル共重合体およびゴム変性スチレン系樹脂などが挙げられる。ゴム変性スチレン系樹脂の具体例としては、例えば、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、ABS樹脂(アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体)、AAS樹脂(アクリロニトリル/アクリル/スチレン共重合体)、およびAES樹脂(アクリロニトリル/エチレンプロピレン/スチレン共重合体)などが挙げられる。
【0048】
本発明の(B−2)ポリスチレン樹脂は、メタロセン触媒を用いて重合することにより形成されるシンジオタクチック構造を有していてもよい。
【0049】
また、本発明の低誘電性に優れる(B)熱可塑性樹脂は、(B−2)としてポリフェニレンエーテル樹脂を配合していてもよい。
【0050】
本発明の(B−2)ポリフェニレンエーテル樹脂は、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンエーテルと他樹脂とのアロイである変性ポリフェニレンエーテルが挙げられる。変性ポリフェニレンエーテルに用いられるアロイ樹脂としては、ゴム変性スチレン系樹脂、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイドなどが挙げられる。
【0051】
本発明の(B−2)ポリフェニレンエーテル樹脂は、酸無水物基、イミド基等の官能基を有する置換オレフィン化合物により変性されていてもよい。
【0052】
本発明の低誘電性に優れる(B)熱可塑性樹脂は、上述した(B−2)成分の中でも、耐熱性の観点からは液晶性ポリエステル樹脂を、寸法安定性の観点からはポリスチレン樹脂を配合することが好ましい。
【0053】
本発明の低誘電性に優れる(B)熱可塑性樹脂の配合量は、前記(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、45〜150重量部である。(B)成分の配合量が45重量部未満の場合、得られる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の低誘電化が不十分である。より好ましくは60重量部以上である。一方、(B)成分の配合量が150重量部を超えると、機械特性、耐熱性が低下する。より好ましくは120重量部以下であり、さらに好ましくは100重量部以下である。
【0054】
本発明の低誘電性に優れる(B)熱可塑性樹脂が、(B−1)ポリオレフィン樹脂、ならびに(B−2)液晶性ポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスチレン樹脂およびポリフェニレンエーテル樹脂から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂からなる場合の配合量は、(B−1)は、前記(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して10〜140重量部であることが好ましい。低誘電性の観点から15重量部以上がより好ましく、30重量部以上がさらに好ましい。一方、機械特性、耐熱性の観点から、100重量部以下がより好ましく、75重量部以下がさらに好ましい。また、(B−2)は、前記(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して10〜140重量部であることが好ましい。低誘電性、耐熱性の観点から15重量部以上がより好ましく、30重量部以上がさらに好ましい。一方、機械特性の観点から、100重量部以下がより好ましく、75重量部以下がさらに好ましい。
【0055】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂に、さらに(C)エポキシ基、酸無水物基、オキサゾリン基、イソシアネート基およびカルボジイミド基から選ばれる少なくとも1種の反応性官能基を有する相溶化剤を配合してなることを特徴とする。前述のとおり、上記反応性官能基を有する(C)相溶化剤を配合することで(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂と低誘電性に優れる(B)熱可塑性樹脂との相溶性が向上し、溶融混練時および成形時の(A)成分のマトリクス相中への(B)成分の微分散化による機械特性、耐熱性および金属接合性の向上が可能となる。
【0056】
本発明の(C)相溶化剤は、分子内の主鎖、側鎖、または末端に、エポキシ基、酸無水物基、オキサゾリン基、イソシアネート基およびカルボジイミド基から選ばれる少なくとも1種の反応性官能基を有する化合物であり、単量体であっても、重合体であってもよい。重合体はブロック、グラフト、ランダムのいずれかの共重合体であってもよい。また相溶化剤は、上記反応性官能基以外の官能基を有していてもよい。相溶化剤は、2種以上を併用してもよい。なお、本発明の(C)相溶化剤が、空洞共振摂動法で測定した周波数5.8GHzにおける誘電正接が0.005以下であり、かつ上記の反応性官能基を有する熱可塑性樹脂である場合は、(B)成分として扱う。
【0057】
本発明の(C)相溶化剤は、反応性の制御の観点からエポキシ基を含有する相溶化剤が好ましい。反応性官能基としてエポキシ基を有する化合物としては、グリシジルエーテル化合物、グリシジルエステル化合物、グリシジルアミン化合物、グリシジルイミド化合物および脂環式エポキシ化合物のいずれであってもよい。なかでも、グリシジルエステル化合物である、グリシジル基含有エチレン共重合体が特に好ましい。
【0058】
本発明のグリシジル基含有エチレン共重合体は、エチレンとα,β−不飽和グリシジルエステルとの共重合体であることが好ましい。α,β−不飽和グリシジルエステルとしては、例えば、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジルなどを挙げることができる。これらを2種以上用いてもよい。なかでもメタクリル酸グリシジルが好ましく使用される。
【0059】
本発明のグリシジル基含有エチレン共重合体は、エチレン構造単位とα,β−不飽和グリシジルエステル構造単位の配合比が、共重合体を構成する全成分の合計を100重量%とした場合に、エチレン構造単位が60〜98重量%、α,β−不飽和グリシジルエステル構造単位が2〜40重量%の範囲であることが好ましい。特にエチレン構造単位が86〜95重量%、α,β−不飽和グリシジルエステル構造単位が5〜14重量%の範囲であることが、得られる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の機械特性、耐熱性の観点からより好ましい。
【0060】
また、グリシジル基含有エチレン共重合体は、エチレンおよびα、β−不飽和グリシジルエステルに加え、さらにα、β−不飽和酸エステルを共重合していてもよい。α、β−不飽和酸エステルは、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ノルマルブチル、イソブチル、ターシャリーブチル等のアクリル酸およびメタクリル酸のエステル類が挙げられる。
【0061】
本発明のグリシジル基含有エチレン共重合体は、そのエポキシ当量が、700〜7500g/eqの範囲であることが好ましい。なかでも未反応残基の存在による成形性の低下および誘電特性の悪化を抑制する観点から5000g/eq以下がより好ましい。一方、(B)成分の微分散化による機械特性、耐熱性の向上の観点から1000g/eq以上がより好ましい。
【0062】
本発明の(C)相溶化剤の配合量は、前記(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、2〜20重量部である。(C)成分の配合量が2重量部未満の場合、得られる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂のマトリクス相中で(B)成分が粗大分散化し、機械特性、耐熱性および金属接合性が低下する。より好ましくは3重量部以上であり、さらに好ましくは5重量部以上である。一方、(C)成分の配合量が20重量部を超えると相溶化剤の未反応の反応性官能基に由来する誘電特性の悪化が生じる。より好ましくは15重量部以下であり、さらに好ましくは10重量部以下である。
【0063】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂に、さらに(D)第3級アミン、アミジン化合物、有機ホスフィンおよびその塩、イミダゾール、およびホウ素化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物(以下、(D)化合物と表記する場合がある)を配合してなることを特徴とする。上記(D)化合物を配合することにより、窒素やリン、ホウ素の元素を含む(D)成分が反応触媒として作用し、(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル由来のカルボキシル基と、(C)相溶化剤中の反応性官能基との反応が促進される。そのため、得られる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、(A)成分および(C)成分の有する反応性官能基の未反応残基の量を低減でき、また低誘電性に優れる(B)熱可塑性樹脂の分散性が向上する。その結果、金属接合性を向上させることができる。特に、さらなる低誘電化を達成することを目的として、低誘電性に優れる(B)熱可塑性樹脂の配合量を増加させた場合に、低誘電性や機械特性、耐熱性を保持しつつ、金属接合性を特異的に向上させることができる。
【0064】
第3級アミンとしては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、4−(ジメチルアミノ)ピリジン、ベンジルジメチルアミン、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,6−トリス(ジアミノメチル)フェノール、2,4,6−トリス(ジアミノメチル)フェノールと、トリ−2−エチルヘキシル酸との塩などが挙げられる。
【0065】
アミジン化合物としては、例えば、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]−5−ノネン、5,6−ジブチルアミノ−1,8ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、7−メチル−1,5,7−トリアザビシクロ[4.4.0]−5−デセンなどが挙げられる。また、前記のアミジン化合物は、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン・テトラフェニルボレートなどの無機酸あるいは有機酸との塩の形でも使用できる。
【0066】
有機ホスフィンおよびその塩としては、例えば、トリフェニルホスフィン、トリオルトトリルホスフィン、トリメタトリルホスフィン、トリパラトリルホスフィン、トリス−4−メトキシフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリターシャリーブチルホスフィン、テトラブチルホスホニウムブロマイド、メチルトリフェニルホスホニウムブロマイド、エチルトリフェニルホスホニウムブロマイド、ブチルトリフェニルホスホニウムブロマイド、ベンジルトリフェニルホスホニウムブロマイド、テトラフェニルホスホニウムブロマイド、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィントリフェニルボラン、トリフェニルホスフィン1,4−ベンゾキノン付加物などが挙げられる。
【0067】
イミダゾールとしては、例えば、2−メチルイミダゾール、2−アミノイミダゾール、2−メチル−1−ビニルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、1−アリルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾリウムトリメリテート、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテート、1−ドデシル−2−メチル−3−ベンジルイミダゾリウムクロライド、2−メチルイミダゾリウムイソシアヌレート、2−フェニルイミダゾリウムイソシアヌレート、2,4−ジアミノ−6−[2−(2−メチル−1−イミダゾリル)エチル]−1,3,5−トリアジン、1,3−ジベンジル−2−メチルイミダゾリウムクロライド、1,3−ジアザ−2,4−シクロペンタジエン、1−シアノエチル−2−フェニル−4,5−ジ(シアノエトキシメチル)イミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2,4−ジアミノ−6−[2−(2−ウンデシル−1−イミダゾリル)エチル]−1,3,5−トリアジンなどが挙げられる。
【0068】
ホウ素化合物としては、例えば、三フッ化ホウ素−n−ヘキシルアミン、三フッ化ホウ素−モノエチルアミン、三フッ化ホウ素−ベンジルアミン、三フッ化ホウ素−ジエチルアミン、三フッ化ホウ素−ピペリジン、三フッ化ホウ素−トリエチルアミン、三フッ化ホウ素−アニリン、四フッ化ホウ素−n−ヘキシルアミン、四フッ化ホウ素−モノエチルアミン、四フッ化ホウ素−ベンジルアミン、四フッ化ホウ素−ジエチルアミン、四フッ化ホウ素−ピペリジン、四フッ化ホウ素−トリエチルアミン、四フッ化ホウ素−アニリンなどが挙げられる。
【0069】
本発明の(D)成分として、これらを2種以上配合してもよい。
【0070】
本発明の(D)成分である化合物は、下記化学式(1)で表される構造であることが好ましい。
【0071】
【化3】
【0072】
(式中R〜Rは水素、炭素数1〜12のアルキル基、フェニル基、ベンジル基から選ばれ、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。Aはリンまたは窒素である。Xはハロゲンである。nは0または1である。)
前記式(1)で表される化合物は、式中R〜Rのいずれかがフェニル基またはベンジル基を一つ以上含む構造であり、Aはリンであり、Xは塩素または臭素であり、nは1であることがさらに好ましい。
【0073】
本発明の(D)成分が上記の好ましい構造であることにより、特に低誘電性に優れる(B)熱可塑性樹脂の配合量が多い場合や、(C)相溶化剤の配合量が少ない場合においても、(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂のマトリクス相中へ(B)成分が微分散化し、その結果、得られる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の低誘電性、機械特性、耐熱性および金属接合性を向上することができる。
【0074】
本発明の(D)第3級アミン、アミジン化合物、有機ホスフィンおよびその塩、イミダゾール、ホウ素化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物の配合量は、前記(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、0.2〜5重量部である。(D)成分の配合量が0.2重量部未満の場合、得られる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は(B)成分が粗大分散化し、機械特性、耐熱性および金属接合性が低下する。より好ましくは0.25重量部以上であり、さらに好ましくは0.3重量部以上である。一方、(D)成分の配合量が5重量部を超えると、(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂の分子量低下が促進される。より好ましくは3重量部以下であり、さらに好ましくは1重量部以下である。
【0075】
本発明の低誘電性に優れる(B)熱可塑性樹脂と(C)相溶化剤の配合量の合計は、(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し50〜150重量部である。かつ、(B)熱可塑性樹脂と(C)相溶化剤の配合量の重量比(B)/(C)が8〜50である。(B)成分および(C)成分の配合量が上記関係であることで、低誘電性、機械特性および耐熱性に優れる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物が得られる。
【0076】
(B)成分と(C)成分の配合量の合計が50重量部未満の場合、得られる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の低誘電性は不十分である。より好ましくは60重量部以上であり、さらに好ましくは70重量部以上である。一方、(B)成分と(C)成分の配合量の合計が150重量部を超えると得られる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の機械特性、金属接合性の低下が生じる。より好ましくは120重量部以下であり、さらに好ましくは100重量部以下である。
【0077】
(B)成分と(C)成分の配合量の重量比(B)/(C)が8未満である場合、得られる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中の、(C)相溶化剤由来の未反応の反応性官能基の量が多くなるため、低誘電性が悪化する。また、柔軟な(C)成分の増加による剛性の低下のため、曲げ弾性率等の機械特性の悪化が生じる。(B)/(C)が12以上がより好ましく、15以上がさらに好ましい。一方、(B)/(C)が50を超える場合、低誘電性に優れる(B)熱可塑性樹脂の相溶性が不十分であるため、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中で(B)成分の分散性が悪化し、機械特性、耐熱性、金属接合性が低下する。(B)/(C)が30以下がより好ましく、24以下がさらに好ましく、20以下が特に好ましい。
【0078】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、(B)熱可塑性樹脂として(B−1)ポリオレフィン樹脂を、(C)エポキシ基、酸無水物基、オキサゾリン基、イソシアネート基およびカルボジイミド基から選ばれる少なくとも1種の反応性官能基を有する相溶化剤として(C−1)グリシジル基含有エチレン共重合体を用いた場合において、(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂、(B−1)ポリオレフィン樹脂および(C−1)グリシジル基含有エチレン共重合体の合計を100体積%とした場合に、(B−1)ポリオレフィン樹脂と(C−1)グリシジル基含有エチレン共重合体の合計が20〜65体積%であることが好ましい。
【0079】
(B−1)成分および(C−1)成分の体積分率が上記範囲であることで、低誘電性と機械特性、耐熱性のバランスに優れた熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を得ることができる。上記体積分率が20体積%未満の場合、得られる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の低誘電性が悪化する。好ましくは30体積%以上であり、より好ましくは40体積%である。一方、上記体積分率が65体積%を超えると、機械特性、耐熱性および成形性が低下し、また金属接合性が低下する。好ましくは63体積%以下であり、より好ましくは60体積%以下であり、さらに好ましくは55体積%以下である。なお、上記体積分率は、各成分の配合割合と各成分の比重より算出することができる。
【0080】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、示差走査熱量測定により観測される降温結晶化温度が、以下の(2)〜(4)を満たす関係にあることが好ましい。
3≦TCB’−TCB<20 (2)
|TCA−TCB|≧20 (3)
|TCA’−TCB’|≧20 (4)
ここでTCA(℃)は熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中の(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂成分由来の降温結晶化温度(TCA)であり、TCB(℃)は熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中の(B−1)ポリオレフィン樹脂成分由来の降温結晶化温度(TCB)であり、TCA’(℃)は(A)成分のみを測定した場合に観測される降温結晶化温度(TCA’)であり、TCB’(℃)は(B−1)成分のみを測定した場合に観測される降温結晶化温度(TCB’)である。
【0081】
(B−1)成分由来の降温結晶化温度が上記の範囲である場合、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中の(A)成分と(C)成分との反応の促進により、(B−1)ポリオレフィン樹脂が微分散しているため、得られる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の機械特性、耐熱性に優れるため好ましい。
【0082】
CB’からTCBを引いた値が3℃以上、20℃未満である場合、(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂中への(B−1)ポリオレフィン樹脂の分散性に優れるため、得られる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の機械特性、耐熱性および金属接合性に優れる。5℃以上であることがより好ましく、7℃以上であることがさらに好ましい。一方、TCB’からTCBを引いた値が20℃以上である場合、得られる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中の(B−1)成分の変質による機械特性、および耐熱性の低下が生じるため好ましくない。
【0083】
CBとTCAとの差が20℃以上であることで、得られる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の固化特性が制御され、(B−1)成分の分散性が向上するため好ましい。ここでTCBとTCAとの差は絶対値として得て、TCBおよびTCAのいずれの温度が高くてもよい。TCBとTCAとの差は35℃以上がより好ましく、70℃以上がさらに好ましい。一方、TCBとTCAとの差は200℃以下が好ましい。
【0084】
また、(B−1)成分のみを測定した場合に観測される降温結晶化温度(TCB’)と、(A)成分のみを測定した場合に観測される降温結晶化温度(TCA’)との差が20℃以上であることが好ましい。TCB’とTCA’との差が20℃以上であることで、結晶性が制御された熱可塑性ポリエステル樹脂組成物が容易に得られるため好ましい。TCB’とTCA’との差は絶対値として得て、TCB’およびTCA’のいずれの温度が高くてもよい。TCB’とTCA’との差は35℃以上がより好ましく、70℃以上がさらに好ましい。一方、TCB’とTCA’との差は200℃以下が好ましい。
【0085】
CB’とTCA’の関係について、単体の(A)成分の温度TCA’、(B−1)成分の温度TCB’のいずれの温度が高くてもよいが、通常の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の結晶特性では、得られる熱可塑性ポリエステル中の(A)成分由来の温度TCAと、(B−1)成分由来の温度TCBとの関係は、単体で測定した場合の(A)成分の温度TCA’および(B−1)成分の温度TCB’の高低順から逆転することはない。
【0086】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物が、(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステルと(B−1)ポリオレフィン樹脂に加え、(C)特定の反応性官能基を有する相溶化剤、および特定構造の(D)化合物を配合してなることによって、(A)成分と(C)成分との反応が促進され(B−1)成分が微分散化することで、TCA、TCBが上記の範囲である熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を得ることができる。
【0087】
なお、ここで、TCA、TCB、TCA’、TCB’は以下のようにして求めることができる。熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を示差走査熱量測定にて、室温から20℃/分の昇温条件で(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂の融点+20℃の温度まで加熱し、5分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで冷却した際に観測される(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂由来の結晶化発熱ピーク温度をTCA、および(B−1)ポリオレフィン樹脂由来の結晶化発熱ピーク温度をTCBとする。また(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂、または(B−1)ポリオレフィン樹脂の単体を、昇温後の到達温度を(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂、または(B−1)ポリオレフィン樹脂の融点+20℃に変更した以外は同様の条件で測定した際の結晶化発熱ピーク温度をそれぞれTCA’、TCB’とする。
【0088】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中のエポキシ基濃度が10〜30eq/tの範囲であることが好ましい。熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中のエポキシ基濃度が10eq/t以上の場合、(A)成分と(B)成分の相溶化に必要な(C)成分の量が十分であり、(A)成分中への(B)成分の微分散化が進行するため、得られる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の機械特性、耐熱性および金属接合性に優れるため好ましい。15eq/t以上がより好ましい。一方、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中のエポキシ基濃度が30eq/t以下の場合、未反応エポキシ基による成形滞留時の過剰な反応による機械特性の低下が抑制されるため好ましい。27eq/t以下がより好ましい。なお、熱可塑性ポリエステル組成物中のエポキシ基濃度は、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物をo−クレゾール/クロロホルム(2/1,vol/vol)混合溶液に溶解させた後、酢酸および臭化トリエチルアンモニウム/酢酸溶液を加え、0.1mol/L過塩素酸酢酸によって電位差滴定することにより算出することができる。
【0089】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂のマトリクス相中に低誘電性に優れる(B)熱可塑性樹脂の島相が分散径0.01〜10μmで分散していることが好ましい。(B)成分の分散径が上記範囲であることで、得られる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の機械特性、耐熱性が向上するため好ましい。また成形品の寸法安定性を向上できるため好ましい。(B)成分の分散径は、生産性の観点から0.1μm以上が好ましい。一方、機械特性、耐熱性の観点から7μm以下がより好ましく、5μm以下がさらに好ましい。(B)成分が2種以上からなる場合は、いずれの(B)成分も上記範囲の分散径であることが好ましい。
【0090】
なおここでいう(B)成分の分散径は、以下の方法により求める。熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の成形品中央部を樹脂の流れ方向に対して垂直方向に切断した断面について、走査型電子顕微鏡を用いて1000〜20000倍程度の倍率で観察し、任意の50個の(B)成分の分散相についてそれぞれの最大径と最小径の平均値を求め、それらを平均した値を熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中の(B)成分の分散径とする。走査型電子顕微鏡での観察の際、エネルギー分散型X線分光法(EDX)による(B)成分のマッピングを実施してもよい。
【0091】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物には、さらに(E)有機リン酸エステル金属塩を配合することができる。(E)有機リン酸エステル金属塩を配合することにより、低誘電性、機械特性および耐熱性をより向上させることができる。
【0092】
前記の(E)有機リン酸エステル金属塩としては、一般に樹脂組成物の造核剤として用いられている化合物を使用することができる。有機リン酸エステル金属塩の具体例として、例えば、ナトリウム−2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェニル)ホスフェート、ナトリウム−2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)ホスフェート、リチウム−2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)ホスフェート、ナトリウム−2,2’−エチリデンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)ホスフェート、リチウム−2,2’−エチリデンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)ホスフェート、アルミニウム−ヒドロキシ−ビス[2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)ホスフェート]、アルミニウム−ヒドロキシ−ビス[2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェニル)ホスフェート]、アルミニウム−ヒドロキシ−ビス[2,2’−エチリデン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)ホスフェート]等を挙げることができる。また、本発明に使用する上記の有機リン酸エステル金属塩は、2種以上を併用してもよい。
【0093】
本発明で用いられる(E)有機リン酸エステル金属塩は、市販の化合物を使用してもよく、例えばADEKA(株)製“アデカスタブ”(登録商標)NA−11、NA−21、NA−71などが挙げられる。
【0094】
本発明で用いられる(E)有機リン酸エステル金属塩の配合量は、(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し0.01〜5重量部であることが好ましい。(E)有機リン酸エステル金属塩を0.01重量部以上配合することにより、低誘電性と機械強度、耐熱性をより向上させることができる。0.05重量部以上がより好ましく、0.1重量部以上がさらに好ましい。一方、(E)有機リン酸エステル金属塩を5重量部以下配合することにより、靱性をより向上させることができる。2重量部以下がより好ましく、1重量部以下がさらに好ましい。
【0095】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物には、さらに(F)無機充填材を配合することが好ましい。(F)無機充填材により、機械強度と耐熱性をより向上させることができる。
【0096】
前記の(F)無機充填材の具体例としては、例えば、繊維状、ウィスカー状、針状、粒状、粉末状および層状の無機充填材が挙げられ、具体的には、ガラス繊維、PAN系やピッチ系の炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維、芳香族ポリアミド繊維や液晶性ポリエステル繊維などの有機繊維、石膏繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維、ロックウール、チタン酸カリウムウィスカー、チタン酸バリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカー、硫酸カルシウムウィスカー、針状酸化チタン、ガラスビーズ、ミルドファイバー、ガラスフレーク、ワラステナイト、シリカ、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムと酸化アルミニウムの混合物、微粉ケイ酸、ケイ酸アルミニウム、酸化ケイ素、スメクタイト系粘土鉱物(モンモリロナイト、ヘクトライト)、バーミキュライト、マイカ、フッ素テニオライト、燐酸ジルコニウム、燐酸チタニウム、およびドロマイトなどが挙げられる。本発明に使用する上記の無機充填材は、その表面が公知のカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤など)、その他の表面処理剤で処理されていてもよい。また、本発明に使用する上記の無機充填材は、2種以上を併用してもよい。
【0097】
本発明で用いられる(F)無機充填材は、特に機械強度、耐熱性の点からガラス繊維が好ましい。ガラス繊維としては、チョップドストランドタイプやロービングタイプのガラス繊維であり、その表面をアミノシラン化合物やエポキシシラン化合物などのシランカップリング剤および/またはウレタン、アクリル酸/スチレン共重合体などのアクリル酸からなる共重合体、アクリル酸メチル/メタクリル酸メチル/無水マレイン酸共重合体などの無水マレイン酸からなる共重合体、酢酸ビニル、ビスフェノールAジグリシジルエーテルやノボラック系エポキシ化合物などの1種以上のエポキシ化合物などを含有した集束剤で処理されたガラス繊維が好ましく用いられる。
【0098】
本発明で用いられる(F)無機充填材は、エポキシ化合物などを含有した集束剤で処理されたガラス繊維が、(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂との反応性に優れ、得られる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の機械特性、耐熱性に優れる点から、さらに好ましい。シランカップリング剤および/または集束剤はエマルジョン液に混合されて使用されていてもよい。また、繊維状強化材の繊維径は通常1〜30μmの範囲が好ましい。ガラス繊維の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中の分散性の観点から、その下限値は好ましくは5μmである。機械強度の観点からその上限値は好ましくは15μmである。また、前記の繊維断面は通常円形状であるが、任意の縦横比の楕円形ガラス繊維、扁平ガラス繊維およびまゆ型形状ガラス繊維など任意な断面を持つ繊維状強化材を用いることもでき、射出成形時の流動性向上と、反りの少ない成形品が得られる特徴がある。また、ガラス繊維の種類としては一般に樹脂の強化材として用いるものであれば特に限定はないが、機械特性、耐熱性に優れるEガラスや、低誘電性に優れる低誘電ガラスが好ましい。
【0099】
本発明で用いられるガラス繊維は、空洞共振器法にて周波数1GHzで測定したときの比誘電率が7未満であることが好ましく、5未満がさらに好ましい。ガラス繊維の比誘電率が上述の範囲であることで、得られる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の比誘電率および誘電正接を低く抑えることができる。
【0100】
本発明で用いられる(F)無機充填材の配合量は、(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し1〜100重量部であることが好ましい。(F)無機充填材を1重量部以上配合することにより、機械強度と耐熱性をより向上させることができ、成形品の寸法安定性を向上することができる。30重量部以上がより好ましく、40重量部以上がさらに好ましく、50重量部以上が特に好ましい。一方、(F)無機充填材を100重量部以下配合することにより、成形性をより向上させることができる。90重量部以下がより好ましく、80重量部以下がさらに好ましい。
【0101】
また、本発明で用いられる(F)無機充填材として、上記のガラス繊維以外に例えばミルドファイバー、ガラスフレーク、カオリン、タルクおよびマイカを用いた場合は、異方性低減に効果があるため反りの少ない成形品が得られる。また、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムと酸化アルミニウムの混合物、微粉ケイ酸、ケイ酸アルミニウムおよび酸化ケイ素を(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、0.01〜1重量部の範囲で配合した場合は、滞留安定性をより向上させることができる。
【0102】
粒状、粉末状および層状の無機充填材の平均粒径は、衝撃強度の点から0.1〜20μmであることが好ましい。無機充填材の樹脂中での分散性の観点から、特に0.2μm以上であることが好ましく、機械強度の観点から10μm以下であることが好ましい。
【0103】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、(A)成分および(B)成分以外の熱可塑性樹脂を配合してもよく、成形性、寸法精度、成形収縮および靭性などを向上させることができる。(A)成分および(B)成分以外の熱可塑性樹脂としては、例えば、ビニル系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリウレタン樹脂、芳香族または脂肪族ポリケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、熱可塑性澱粉樹脂、ポリウレタン樹脂、芳香族ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、酢酸セルロース樹脂、ポリビニルアルコール樹脂などを挙げることができる。なお、(A)成分および(B)成分以外の熱可塑性樹脂を配合する場合、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中の樹脂種の中で、(A)成分または(B)成分の割合が最も多いことが好ましい。
【0104】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、難燃剤を配合することができる。難燃剤としては、例えば、リン系難燃剤、臭素系難燃剤などのハロゲン系難燃剤、トリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸との塩、シリコーン系難燃剤および無機系難燃剤などが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。
【0105】
難燃剤の配合量は、(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、1〜50重量部が好ましい。難燃性の観点から、5重量部以上がより好ましく、耐熱性の観点から40重量部以下がより好ましい。
【0106】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物には、離型剤を配合することができ、溶融加工時に金型からの離型性をよくすることができる。離型剤としては、モンタン酸やステアリン酸などの高級脂肪酸エステル系ワックス、ポリオレフィン系ワックス、エチレンビスステアロアマイド系ワックスなどが挙げられる。
【0107】
離型剤の配合量は、(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、0.01〜1重量部が好ましい。離型性の観点から、0.03重量部以上がより好ましく、耐熱性の観点から0.6重量部以下がより好ましい。
【0108】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物には、さらにカーボンブラック、酸化チタンおよび種々の色の顔料や染料を1種以上配合することができ、種々の色への調色や、耐候(光)性および導電性を改良することも可能である。カーボンブラックとしては、チャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、アントラセンブラック、油煙、松煙、および、黒鉛などが挙げられる。カーボンブラックは、平均粒径が500nm以下であり、ジブチルフタレート吸油量が50〜400cm/100gであるものが好ましく用いられる。酸化チタンとしては、ルチル形あるいはアナターゼ形などの結晶形を持ち、平均粒径5μm以下の酸化チタンが好ましく用いられる。
【0109】
これらカーボンブラック、酸化チタンおよび種々の色の顔料や染料は、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、ポリオール、およびシランカップリング剤などで処理されていてもよい。また、本発明の樹脂組成物における分散性向上や製造時のハンドリング性の向上のため、種々の熱可塑性樹脂と溶融ブレンドあるいは単にブレンドした混合材料として用いてもよい。
【0110】
顔料や染料の配合量は、(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、0.01〜3重量部が好ましい。着色ムラ防止の観点から、0.03重量部以上がより好ましく、機械強度の観点から1重量部以下がより好ましい。
【0111】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、結晶核剤、可塑剤、難燃助剤、および帯電防止剤などの任意の添加剤を1種以上配合してもよい。
【0112】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、例えば、前記(A)〜(D)成分および必要に応じてその他の成分を溶融混練することにより得ることができる。
【0113】
溶融混練の方法としては、例えば、(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂、低誘電性に優れる(B)熱可塑性樹脂、(C)相溶化剤、特定構造の(D)化合物、および各種添加剤などを予備混合して、押出機などに供給して十分溶融混練する方法、あるいは、重量フィダーなどの定量フィダーを用いて各成分を所定量押出機などに供給して十分溶融混練する方法などが挙げられる。
【0114】
上記の予備混合の例として、ドライブレンドする方法や、タンブラー、リボンミキサーおよびヘンシェルミキサー等の機械的な混合装置を用いて混合する方法などが挙げられる。また、(F)無機充填材を配合する場合は、二軸押出機などの多軸押出機の元込め部とベント部の途中にサイドフィーダーを設置して添加してもよい。また、液体の添加剤の場合は、二軸押出機などの多軸押出機の元込め部とベント部の途中に液添ノズルを設置してプランジャーポンプを用いて添加する方法や、元込め部などから定量ポンプで供給する方法などを用いてもよい。
【0115】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、ペレット化してから成形加工することが好ましい。ペレット化の方法として、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を構成する各成分を、例えば“ユニメルト”あるいは“ダルメージ”タイプのスクリューを備えた単軸押出機、二軸押出機、三軸押出機、コニカル押出機およびニーダータイプの混練機などを用いて、ストランド状に吐出し、ストランドカッターでカッティングする方法が挙げられる。
【0116】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を溶融成形することにより、フィルム、繊維およびその他各種形状の成形品を得ることができる。溶融成形方法としては、例えば、射出成形、押出成形およびブロー成形などが挙げられ、射出成形が特に好ましく用いられる。
【0117】
射出成形の方法としては、通常の射出成形方法以外にもガスアシスト成形、2色成形、サンドイッチ成形、インモールド成形、インサート成形およびインジェクションプレス成形などが知られているが、いずれの成形方法も適用できる。
【0118】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、インサート成形により金属と複合化し使用することが好ましい。
【0119】
本発明で使用する金属には特に制限はないが、アルミニウム、銅、鉄、ニッケル、クロム、マグネシウム、モリブデン、金、銀、亜鉛、スズおよびこれらを主成分とする合金が好ましく用いられ、中でもアルミニウム、銅、鉄、ニッケル、クロム、マグネシウム、モリブデン、およびこれらの合金が特に好ましく用いられる。
【0120】
本発明で使用する金属の形状や加工方法には特に制限はないが、切断、切削、曲げ、絞り等の加工、即ち、鋸加工、フライス加工、放電加工、ドリル加工、プレス加工、研削加工、研磨加工等の機械加工により、所望の形状、構造に加工することができる。これらの機械加工により、部品として必要な形状・構造を有する金属部品を得ることができる。この金属部品が射出成形でのインサート品となる。必要な形状、構造に加工された金属部品は、接着すべき面が厚い酸化膜、水酸化膜等が形成されていないことが好ましい。錆以外の汚れ、即ち、金属加工工程で付着した表面の加工油、指脂、切粉等、持ち運びで付着した指脂等は脱脂工程で除くことが好ましい。
【0121】
本発明で使用する金属は、金属接合性を向上させるために表面を粗面化処理していることが好ましい。粗面化処理方法としては、特に限定させるものではなく、ブラスト加工、レーザー加工などの物理的粗面化処理、化学エッチング、陽極酸化法などの化学的粗面化処理を使用することができ、1種または2種以上使用してもよい。
【0122】
具体的には例えば、金属表面に、特定のトリアジン化合物と、該特定のトリアジン化合物と化学反応が可能な有機化合物とを含む密着剤を用いて接着層を形成するTRI(株式会社東亜電化、登録商標)システムや、金属表面をアルカリ性溶液による脱脂処理、酸性溶液による中和処理、ヒドラジン系特殊溶液による浸漬処理、水洗・乾燥などの後処理を順に施し金属表面に微細凹凸を形成するNMT(大成ブラス株式会社、登録商標)、金属表面を特殊エッチング溶液中で処理するアマルファ(メック株式会社、登録商標)と称される表面処理技術によっても表面処理を促すことができる。
【0123】
本発明の成形品は、自動車部品、電気・電子部品、建築部材、各種容器、日用品、生活雑貨および衛生用品など各種用途に利用することができる。また、本発明の成形品は、低誘電に優れることから、特に無線LAN、ETC、衛星通信用アンテナや車載レーダーなどの高周波領域に対応した電気・電子部品、自動車部品に有用である。また、インサート成形により金属部品と複合化して使用される成形品に有用である。
【0124】
具体的な用途としては、エアフローメーター、エアポンプ、イグニッションホビン、イグニッションケース、クラッチボビン、センサーハウジング、アイドルスピードコントロールバルブ、バキュームスイッチングバルブ、ECUハウジング、インヒビタースイッチ、回転センサー、加速度センサー、ディストリビューターキャップ、コイルベース、ABS用アクチュエーターケース、エアクリーナーハウジング、ブレーキブースター部品、各種ケース、各種チューブ、各種タンク、各種ホース、各種クリップ、各種バルブ、各種パイプなどの自動車用アンダーフード部品、トルクコントロールレバー、レジスターブレード、ウォッシャーレバー、ウインドレギュレーターハンドル、ウインドレギュレーターハンドルのノブ、パッシングライトレバー、サンバイザーブラケット、各種モーターハウジングなどの自動車用内装部品、ルーフレール、フェンダー、ガーニッシュ、バンパー、ドアミラーステー、グリルエプロンカバーフレーム、ランプリフレクター、ランプベゼル、ドアハンドルなどの自動車用外装部品、ワイヤーハーネスコネクター、SMJコネクター、PCBコネクターなど各種自動車用コネクター、電気用コネクター、リレーケース、コイルボビン、光ピックアップシャーシ、モーターケース、ノートパソコンハウジングおよび内部部品、CRTディスプレーハウジング、および内部部品、プリンターハウジングおよび内部部品、携帯電話、モバイルパソコン、ハンドヘルド型モバイルなどの携帯端末ハウジングおよび内部部品、記録媒体(CD、DVD、PD、FDDなど)ドライブのハウジングおよび内部部品、コピー機のハウジングおよび内部部品、ファクシミリのハウジングおよび内部部品などに代表される電気・電子部品を挙げることができる。更に、VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、ビデオカメラ、プロジェクターなどの映像機器部品、レーザーディスク(登録商標)、コンパクトディスク(CD)、DVD−ROM、DVD−R、ブルーレイディスクなどの光記録媒体の基板、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品などに代表される家庭・事務電気製品部品を挙げることができる。また、電子楽器、家庭用ゲーム機、携帯型ゲーム機などのハウジングや内部部品、各種ギヤー、各種ケース、センサー、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、光ピックアップ、発振子、各種端子板、プリント配線板、スピーカー、ヘッドホン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、半導体、液晶、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、トランス部材などの電気・電子部品、サッシ戸車、ブラインドカーテンパーツ、配管ジョイント、カーテンライナー、ブラインド部品、ガスメーター部品、水道メーター部品、湯沸かし器部品、ルーフパネル、天井釣り具などの建築部材、軸受、レバー、カム、ラチエット、ローラー、給水部品、玩具部品、ファン、洗浄用治具、モーター部品、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などの機械部品などとして有用である。
【0125】
本発明の樹脂組成物は、機械強度および金属接合強度を併せ持つことから、上記の中でもイグニッションボビン、イグニッションケース、クラッチボビン、センサーハウジング、アイドルスピードコントロールバルブ、バキュームスイッチングバルブ、ECUハウジング、バキュームポンプケース、インヒビタースイッチなどの自動車部品用途及び電気用コネクター、リレーケース、コイルボビン、光ピックアップシャーシ、モーターケース、ノートパソコンハウジングおよび内部部品、携帯電話、モバイルパソコン、ハンドヘルド型モバイルなどの携帯端末ハウジングおよび内部部品に特に有用である。さらに、本発明の樹脂組成物は、低誘電特性に優れるため、インサート成形により金属部品と一体化し金属複合成形品を構成する。係る金属複合成形品は、移動用通信機器部品に好適に使用することができる。
【実施例】
【0126】
次に、実施例により本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物についての効果を、具体的に説明する。実施例および比較例に用いられる原料を次に示す。ここで%および部とは、特記のない限り重量%および重量部を表し、下記の樹脂名中の「/」は共重合を意味する。
【0127】
(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂
<A−1>ポリブチレンテレフタレート樹脂:東レ(株)製、カルボキシル基量30eq/t、固有粘度0.85、比重1.31、降温結晶化温度(TCA’)175℃のポリブチレンテレフタレート樹脂を用いた。
<A−2>ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート樹脂(重量比:テレフタル酸/イソフタル酸=90/10):東レ(株)製、固有粘度0.85、比重1.31、降温結晶化温度(TCA’)145℃のポリブチレンテレフタレート樹脂を用いた。
<A−3>ポリエチレンテレフタレート樹脂:東レ(株)製、カルボキシル基量40eq/t、固有粘度0.65、比重1.38、降温結晶化温度(TCA’)173℃のポリエチレンテレフタレート樹脂を用いた。
【0128】
(B)低誘電性に優れる熱可塑性樹脂
なお、誘電正接は、空洞共振摂動法で測定した周波数5.8GHzにおける誘電正接を示している。
<B−1−1>直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(本願発明の(B−1)に相当する。):(株)プライムポリマー製“ウルトゼックス”(登録商標)4570、誘電正接0.0004、比重0.945、降温結晶化温度(TCB’)106℃を用いた。
<B−1−2>高密度ポリエチレン樹脂(本願発明の(B−1)に相当する。):(株)プライムポリマー製“ハイゼックス”(登録商標)2100J、誘電正接0.0004、比重0.953、降温結晶化温度(TCB’)106℃を用いた。
<B−1−3>ポリプロピレン樹脂(本願発明の(B−1)に相当する。):(株)プライムポリマー製“プライムポリプロ”(登録商標)J704UG、誘電正接0.0005、比重0.91、降温結晶化温度(TCB’)118℃を用いた。
<B−2−1>液晶性ポリエステル樹脂(本願発明の(B−2)に相当する。):以下によって製造した液晶性ポリエステル樹脂を用いた。
【0129】
撹拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸994重量部、4,4’−ジヒドロキシビフェニル126重量部、テレフタル酸112重量部、固有粘度が約0.6dl/gのポリエチレンテレフタレート216重量部および無水酢酸960重量部(フェノール性水酸基合計の1.10当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら145℃で1時間反応させた後、145℃から320℃まで4時間で昇温させた。その後、重合温度を320℃に保持し、1.0時間で1.0mmHg(133Pa)に減圧し、更に反応を続け、撹拌に要するトルクが20kg・cmに到達したところで重合を完了させた。次に反応容器内を直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズして液晶性ポリエステル樹脂<B−2−1>を得た。この液晶ポリエステル樹脂<B−2−1>について組成分析を行ったところ、p−ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位の割合が66.7モル%、4,4’−ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位の割合が6.3モル%、ポリエチレンテレフタレート由来のエチレンジオキシ単位の割合が10.4モル%、テレフタル酸由来の構造単位の割合が16.7モル%であった。また融点は313℃、誘電正接は、0.0014であった。
<B−2−2>ポリフェニレンスルフィド樹脂(本願発明の(B−2)に相当する。):東レ(株)製“トレリナ”(登録商標)、誘電正接0.0034のものを用いた。
<B−2−3>ポリスチレン樹脂(本願発明の(B−2)に相当する。):PSジャパン(株)製GPPS、HF77、誘電正接0.0004を用いた。
<B−2−4>ポリフェニレンエーテル樹脂(本願発明の(B−2)に相当する。):旭化成(株)製“ザイロン”(登録商標)1000H、誘電正接0.0003を用いた。
【0130】
(C)グリシジル基含有エチレン共重合体
<C−1>エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体:グリシジルメタクリレート含有割合6%、比重0.93、住友化学(株)製“ボンドファースト”(登録商標)BF−2Cを用いた。
<C−2>酸無水物基含有エチレン共重合体:変性率2重量%、無水マレイン酸変性エチレン/1−ブテン共重合体、三井化学(株)製“タフマー”(登録商標)MH7020を用いた。
<C−3>オキサゾリン基含有ポリスチレン樹脂:オキサゾリン基量0.27mmol/g、(株)日本触媒製“エポクロス”(登録商標)RPS−1005を用いた。
<C−4>イソシアネート基含有有機シラン化合物:イソシアネート基当量247g/molの3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、信越化学工業(株)製KBE−9007を用いた。
<C−5>ポリカルボジイミド化合物:カルボジイミド基当量278g/molの日清紡ケミカル(株)製“カルボジライト”(登録商標)HMV−8CAを用いた。
【0131】
(D)特定構造の化合物
<D−1>有機ホスホニウム塩:テトラフェニルホスホニウムブロマイド、東京化成工業(株)製テトラフェニルホスホニウムブロマイド(試薬)を用いた。
<D−2>第3級アミン:ベンジルジメチルアミン、東京化成工業(株)製N,N−ジメチルベンジルアミン(試薬)を用いた。
<D−3>アミジン化合物:1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7、サンアプロ(株)製“DBU”(登録商標)を用いた。
<D−4>イミダゾール:2−エチル−4−メチルイミダゾール、四国化成(株)製2E4MZを用いた。
<D−5>ホウ素化合物:三フッ化ホウ素モノエチルアミン、東京化成工業(株)製三フッ化ホウ素エチルアミン(試薬)を用いた。
【0132】
(E)有機リン酸エステル金属塩
<E−1>リン酸エステルナトリウム塩:ADEKA(株)製“アデカスタブ”(登録商標)NA−11(ナトリウム−2、2’−メチレンビス(4、6−ジ−t−ブチルフェニル)ホスフェート)を用いた。
【0133】
(F)無機充填材
<F−1>ガラス繊維:日本電気硝子(株)製ガラス繊維ECS03T―187、断面の直径13μm、繊維長3mm、誘電率(1GHz)=約6.6、エポキシ系集束剤処理品を用いた。
<F−2>ガラス繊維:CPIC製ガラス繊維ECS303N−3KNHL、断面の直径13μm、繊維長3mm、誘電率(1GHz)=約4.5、エポキシ系集束剤処理品を用いた。
【0134】
[各特性の測定方法]
実施例、比較例においては、次に記載する測定方法によって、その特性を評価した。
【0135】
1.誘電特性
日精樹脂工業(株)製NEX1000射出成形機を用いて、シリンダー温度250℃、金型温度80℃の温度条件で、射出時間と保圧時間は合わせて15秒、冷却時間10秒の成形サイクル条件で、80mm角、1mm厚(フィルムゲート)の板状試験片を得た。また、(A)成分としてポリエチレンテレフタレート樹脂を使用した場合は、シリンダー温度を270℃の温度条件とした。得られた板状成形品の中心部を樹脂の流れ方向に1mm幅で切削して得た角柱状成形品を、アジレント・テクノロジー(株)製ネットワークアナライザE5071Cおよび(株)関東電子応用開発製空洞共振器CP521を用いた空洞共振摂動法によって5.8GHzにおける比誘電率および誘電正接を求めた。それぞれの値が小さいほど低誘電性に優れると判断した。
【0136】
2.機械特性(曲げ強度および曲げ弾性率)
日精樹脂工業(株)製NEX1000射出成形機を用いて、シリンダー温度250℃、金型温度80℃の温度条件で、射出時間と保圧時間は合わせて10秒、冷却時間10秒の成形サイクル条件で、試験片長さ127mm、幅12.7mm、厚み3.2mmの曲げ物性評価用試験片を得た。また、(A)成分としてポリエチレンテレフタレート樹脂を使用した場合、シリンダー温度を270℃の温度条件とした。得られた曲げ物性評価用試験片を用い、ASTMD790に従い、曲げ強度および曲げ弾性率を測定した。値は3本の測定値の平均値とした。曲げ強度および曲げ弾性率の値が大きい材料を機械特性に優れると判断した。
【0137】
3.耐熱性(熱変形温度)
日精樹脂工業(株)製NEX1000射出成形機を用いて、上記2.項の機械特性の評価と同一の射出成形条件で、試験片長さ127mm、幅12.7mm、厚み3.2mmの熱変形温度評価用試験片を得た。得られた熱変形温度評価用試験片を用い、ASTMD648(2005年)に従い、測定荷重1.82MPaの条件で熱変形温度を測定した。値は3本の測定値の平均値とした。熱変形温度が高い材料ほど耐熱性に優れると判断した。
【0138】
4.金属接合性(金属接合強度)
評価用試験片は、ISO19095−2:2015「Overlapped test specimens(type B)」に準拠した形状とし、日精樹脂工業(株)製NEX1000射出成形機を用い、実施例および比較例の組成の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を金属部品にインサート成形により作成した。射出条件は、シリンダー温度270℃、金型温度140℃、充填時間0.5秒となるように射出速度を調整、保圧40MPa、射出時間15秒、冷却時間15秒にて実施した。なお、金属部品は、アルミニウム(A5052)片に(株)東亜電化社のTRI技術による表面処理を施した試験片を使用した。
【0139】
作成した試験片を用いて、ISO19095−3:2015に従い、樹脂部と金属部のせん断接合強度を測定し、強度が20MPa以上のものを「A」、15MPa以上20MPa未満のものを「B」、15MPa未満のものを「C」と区分し、15MPa以上のものを合格と判断した。
【0140】
5.(B−1)ポリオレフィン樹脂の降温結晶化温度の特性(ΔTCAB、ΔTCA’B’、ΔTCBB’
熱可塑性ポリエステル樹脂組成物10mgを、示差走査熱量計DSC−7(パーキンエルマー製)により室温から20℃/分の昇温条件で(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂の融点+20℃の温度まで加熱し、5分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで冷却した際に観測される(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂由来の発熱ピーク温度および(B−1)ポリオレフィン樹脂由来の発熱ピーク温度を求め、それらを熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中の(A)成分由来の降温結晶化温度TCA、および(B−1)成分由来の降温結晶化温度TCBとした。また原料である(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂の単体および(B−1)ポリオレフィン樹脂の単体をそれぞれ用いて、昇温後の到達温度を(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂または(B−1)ポリオレフィン樹脂の融点+20℃に変更した以外は同様の条件で測定し、(A)成分単独の降温結晶化温度TCA’および(B)成分単独の降温結晶化温度TCB’を求めた。TCAとTCBの差を求め、その絶対値を熱可塑性ポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂の降温結晶化温度の差(ΔTCAB)とした(すなわち、|TCA−TCB|=ΔTCABである。)。また、TCA’とTCB’の差を求め、その絶対値を熱可塑性ポリエステル樹脂の単体とポリオレフィン樹脂の単体の降温結晶化温度の差(ΔTCA’B’)とした(すなわち、|TCA’−TCB’|=ΔTCA’B’である。)。さらに、TCB’とTCBの差を求め、得られた値をポリオレフィン樹脂の降温結晶化温度の変化量(ΔTCBB’)とした(すなわち、TCB’−TCB=ΔTCBB’である)。
【0141】
6.熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中のエポキシ基濃度
熱可塑性ポリエステル樹脂組成物2gをo−クレゾール/クロロホルム(2/1,vol/vol)30mL混合溶液に溶解させた後、酢酸20mLおよび臭化トリエチルアンモニウム/酢酸20wt%溶液10mLを加え、0.1mol/L過塩素酸酢酸によって電位差滴定することにより算出した。
【0142】
7.低誘電性に優れる(B)熱可塑性樹脂の分散径
2.機械特性の評価と同様の条件にて曲げ物性評価用試験片を得た。得られた曲げ物性評価用試験片中央部を樹脂の流れ方向に対して垂直方向に切断し、その断面を、走査型電子顕微鏡を用いて1000〜20000倍程度の倍率で観察した。(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂のマトリクス相中の、任意の50個の低誘電性に優れる(B)熱可塑性樹脂の分散相について、それぞれ最大径の平均値と最小径の平均値を求め、それらの平均値を平均した値を熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中の(B)成分の分散径とした。(B)成分として2種以上の熱可塑性樹脂を用いている場合は、適宜染色や元素マッピングにより島相樹脂種を判別してそれぞれ分散径を求めた。なお、(B)熱可塑性樹脂相がマトリクス相を形成している場合や、共連続様の構造を形成している場合は、「N」とした。
【0143】
[実施例1〜29]、[比較例1〜13]
スクリュー径30mm、L/D35の同方向回転ベント付き二軸押出機(日本製鋼所製、TEX−30α)を用いて、(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂、低誘電性に優れる(B)熱可塑性樹脂、(C)相溶化剤、(D)化合物、および(E)有機リン酸エステル金属塩を表1〜5に示した組成で混合し、二軸押出機の元込め部から添加した。なお、(F)無機充填材は、元込め部とベント部の途中にサイドフィーダーを設置して添加した。さらに、混練温度260℃、スクリュー回転150rpmの押出条件で溶融混合を行い、ストランド状に吐出し、冷却バスを通し、ストランドカッターによりペレット化した。
【0144】
得られたペレットを110℃の温度の熱風乾燥機で6時間乾燥後、前記方法で評価し、表1〜5にその結果を示した。
【0145】
【表1】
【0146】
【表2】
【0147】
【表3】
【0148】
【表4】
【0149】
【表5】
【0150】
実施例1〜29と比較例1〜13の比較より、(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して(B)成分、(C)成分および(D)成分の配合量を特定の範囲とすることで、低誘電性と機械特性、耐熱性、金属接合性のバランスに優れる材料が得られた。
【0151】
実施例1〜4の比較より、(A)非液晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂がポリブチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートである場合、およびポリブチレンテレフタレート/イソフタレート樹脂である場合に、さらに金属接合性に優れる材料が得られた。
【0152】
実施例1、10、11の比較より、(B−1)ポリオレフィン樹脂が高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンから選ばれる少なくとも1種の未変性ポリエチレンである場合に、さらに機械特性に優れる材料が得られた。
【0153】
実施例1、9〜13の比較より、低誘電性に優れる(B)熱可塑性樹脂が、(B−1)ポリオレフィン樹脂と(B−2)低誘電性に優れる他の熱可塑性樹脂である場合に、さらに機械特性、耐熱性に優れる材料が得られた。
【0154】
実施例1、18〜21の比較より、(C)相溶化剤がグリシジル基含有エチレン共重合体である場合に、さらに機械特性、耐熱性に優れる材料が得られた。
【0155】
実施例1、22〜26の比較より、(D)化合物が有機ホスホニウム塩である場合に、さらに機械特性、耐熱性に優れる材料が得られた。
【0156】
実施例1、5〜9と比較例1〜3、6〜13の比較より、低誘電性に優れる(B)熱可塑性樹脂と(C)相溶化剤を特定量配合することで、機械特性、耐熱性、低誘電性、金属接合性のバランスに優れる材料が得られた。
【0157】
実施例1、比較例3、4の比較より、(D)成分を特定量配合することで、低誘電性に優れる(B)熱可塑性樹脂が微分散化し、機械特性、耐熱性、金属接合性に優れる材料が得られた。
【0158】
実施例1、26、28の比較より、さらに(F)無機充填材を配合することで、機械特性、耐熱性に優れる材料が得られた。
【0159】
実施例1、27の比較より、(F)無機充填材として低誘電ガラスを配合することで、さらに低誘電性に優れる材料が得られた。
【0160】
実施例1、29の比較より、(E)有機リン酸エステル金属塩を配合することで、低誘電性、機械特性および耐熱性に優れる材料が得られた。