特許第6787630号(P6787630)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6787630マイクロ波加熱前処理を含む加工食品の殺菌方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6787630
(24)【登録日】2020年11月2日
(45)【発行日】2020年11月18日
(54)【発明の名称】マイクロ波加熱前処理を含む加工食品の殺菌方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 3/00 20060101AFI20201109BHJP
   A23L 3/01 20060101ALI20201109BHJP
   A23L 3/3463 20060101ALI20201109BHJP
   A23L 3/3508 20060101ALI20201109BHJP
   A23L 3/3526 20060101ALI20201109BHJP
   A23L 3/358 20060101ALI20201109BHJP
【FI】
   A23L3/00 101C
   A23L3/01
   A23L3/3463
   A23L3/3508
   A23L3/3526 501
   A23L3/358
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-505501(P2019-505501)
(86)(22)【出願日】2017年8月1日
(65)【公表番号】特表2019-524127(P2019-524127A)
(43)【公表日】2019年9月5日
(86)【国際出願番号】KR2017008289
(87)【国際公開番号】WO2018026168
(87)【国際公開日】20180208
【審査請求日】2019年3月19日
(31)【優先権主張番号】10-2016-0099998
(32)【優先日】2016年8月5日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】512088051
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダン コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】CJ CheilJedang Corporation
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】チョ, ウォンイル
(72)【発明者】
【氏名】チェ, スヒ
(72)【発明者】
【氏名】パク, ヒジュン
(72)【発明者】
【氏名】ユン, サンウン
(72)【発明者】
【氏名】リ, ナムジュ
(72)【発明者】
【氏名】リ, ジョンイル
【審査官】 村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第105685762(CN,A)
【文献】 韓国登録特許第10−1552080(KR,B1)
【文献】 特開2010−119327(JP,A)
【文献】 韓国登録特許第10−1636626(KR,B1)
【文献】 中国特許出願公開第105725028(CN,A)
【文献】 特開平09−163961(JP,A)
【文献】 特開2005−261380(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2016−0002159(KR,A)
【文献】 特開昭56−131132(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)天然抗菌剤溶液に浸漬された原料をマイクロ波加熱処理する前処理減菌ステップと、
2)前処理された原料ソースまたはだし汁とともに包装する包装ステップと、
3)包装された原料及びソースまたは原料及びだし汁121〜125℃で7〜12分加熱するレトルト殺菌する殺菌ステップと
を含む加工食品の殺菌方法。
【請求項2】
前記1)ステップは、1,000〜1,700mmHgの条件で行うことである、請求項1に記載の加工食品の殺菌方法。
【請求項3】
前記1)ステップは、1分〜30分間マイクロ波加熱処理することである、請求項1に記載の加工食品の殺菌方法。
【請求項4】
前記天然抗菌剤溶液は、有機酸、界面活性剤、バクテリオシン、カルシウム製剤のうちいずれか一つ以上の天然抗菌剤を含むものである、請求項に記載の加工食品の殺菌方法。
【請求項5】
前記天然抗菌剤溶液は、天然抗菌剤を0.01〜3.0重量%含むものである、請求項に記載の加工食品の殺菌方法。
【請求項6】
前記ソースまたはだし汁は、マイクロ波加熱によって前処理されたものである、請求項に記載の加工食品の殺菌方法。
【請求項7】
前記加工食品は、常温流通用のものである、請求項1に記載の加工食品の殺菌方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、マイクロ波加熱前処理を含むレトルト殺菌方法を利用することで、従来の殺菌方法に比べ、野菜、肉、海産物の原物食感と、唐辛子、ニンニク、生姜などの香辛野菜の味とが多く残っているとともに、かび、酵母、病原性菌及び胞子型耐熱性微生物を効果的に死滅させる殺菌方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、現代人の生活循環に伴い、電子レンジ調理食品などのような便利加工食品に対する需要が増大している。便利食品の代表的な例にはレトルト殺菌した常温流通パウチ、トレー製品がある。これらの大量生産のためには、原料の前処理、調味、料理、殺菌及び包装などの多様な加工工程の適用が必要であり、このような工程等に対する最適化条件の確立は、優れた品質と微生物安全性などの確保において何よりも重要な過程である。
【0003】
このような便利食品の主な原料中の一つがニンニク、たまねぎなどの香辛野菜とじゃがいも、にんじんなどの根菜類とであって、この原料には、土壌から起因するバチルス系の栄養細胞と胞子が多く生育しているため、微生物安全性が大幅に低下する問題が発生することになる。
【0004】
特に、バチルス系の胞子型耐熱性微生物による汚染は、酸味の発生によって官能品質の低下をもたらし、甚だしい場合はガスの発生、膨張などの原因になるため、商品化のためには優先的に適した殺菌工程の設計と適用が検討されなければならない。
【0005】
一般に、耐熱性胞子類を死滅させるため、商業的に密封した後、121の高温、高圧で数十分加熱するレトルト殺菌方法を適用するところ、この際、耐熱性胞子は死滅できるが、高温によって原物の味、外観、食感などの官能品質の損傷が甚だしく、栄養成分も多く破壊されるので、高品質の多様な加工食品の商品化において制約が多い。
【0006】
一方、マイクロ波殺菌の機序は、主に、高い周波数による、誘電体の役割を担う食品の急速な熱の発生による微生物の死滅であることが明らかになっており、微生物に対する電磁場の非加熱的殺菌の効果は未だ明確に究明されていない。マイクロ波を利用した加工食品に対する殺菌の研究は、主に大部分の冷蔵製品に適用可能な低温殺菌(pasteurization)による50〜82℃での病原性及び腐敗微生物、酵素の不活性化などに関し、滅菌(sterilization)において重要な影響因子であるエネルギーの使用量、処理食品の初期温度、食品及び包装材の物理的特性、通過速度に対する詳細な研究はあまり行われていない。
【0007】
したがって、現在商用化された加工及び殺菌の工程では、原物の官能品質と栄養成分を保つとともに、多様な野菜原料内の耐熱性微生物を効果的に制御することができる方法がないという問題点があるので、品質を保ちながらも微生物を効果的に制御することができる新しい殺菌方法が求められてきた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本出願は、前記原物の官能品質と栄養成分を保つとともに、多様な野菜原料内の耐熱性微生物を効果的に制御することができる方法がないという問題点を解決するためのものであって、原物の官能品質と栄養成分を保ちながらも微生物を効果的に制御することができる殺菌方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本出願は、前記目的を達成するため、1)原物をマイクロ波加熱処理する前処理減菌ステップ、2)前処理された原物を包装する包装ステップ、及び3)包装された原物をレトルト殺菌する殺菌ステップを含む殺菌方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本出願の殺菌方法は、野菜、肉、海産物を原料として用いる代用食、おかず、料理などの多様な便利加工食品において、熱による固有の味、香りと食感のような品質の損傷を最少化して、野菜、肉、海産物の原物食感と、唐辛子、ニンニク、生姜などの香辛野菜の味とが多く残っているようにし、原料内の衛生及び品質の低下に係わるかび、酵母、病原性菌及び胞子型耐熱性微生物を効果的に調節することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本出願の加工食品殺菌方法のフローチャートである。
図2】実施例2(1)の実験の結果であって、野菜内の総菌、耐熱性菌及び真菌に対するマイクロ波加熱及びマイルドレトルトの組合せ殺菌の結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本出願を具体的に説明する。
【0013】
本出願は、1)原物をマイクロ波加熱処理する前処理減菌ステップ、2)前処理された原物を包装するパウチ包装ステップ、及び3)包装された原物をレトルト殺菌する殺菌ステップを含む殺菌方法に関する(図1参照)。
【0014】
本出願の前記1)ステップは、原物をマイクロ波加熱処理して前処理減菌するステップであって、前記原物は食品に用いられる野菜、肉、海産物であってよいが、これらに限定されない。前記原物は、本出願の減菌ステップの前に選別、洗浄及び切断して準備されてよい。具体的に、異常のない原物を選別し、原物の表面に付いてあるほこり、異物などの汚染物質を除去するため、きれいな水で数回洗浄した後、製品別に適当な大きさに切断して準備されてよい。このように準備された原物は、マイクロ波加熱処理することで前処理減菌してよい。
【0015】
前記マイクロ波加熱処理による減菌は、高い周波数による、誘電体の役割を担う食品の急速な熱の発生による微生物の死滅によるものであることが明らかになっている。マイクロ波による発熱は、周波数300MHz〜300GHz、波長1mm〜1mの電磁波(electromagnetic wave)による双極子(dipole)及び分極(polarization)現象で発生する誘電損失(dielectric loss)によって起こる。食品の場合は、マイクロ波による水分子の振動エネルギーで急速な発熱が起こり、速い乾燥速度、水分の均一化、表面硬化及び亀裂の防止、漂白効果、殺菌効果が発生するので、現在、殺菌、解凍、料理、膨化などに利用されている。特に最近は、微生物と害虫の駆除、賞味期限の延長、殺菌時間の短縮による品質の向上、及び包装後の殺菌処理可能性などの幾多の利点により、新しい殺菌方法として多く活用されている。
【0016】
前記マイクロ波は、既知のマイクロ波発生装置によって発生してよく、好ましくは、連続式またはバッチ式マイクロ波加熱装置を利用してよいが、これらに限定されない。前記マイクロ波は、700〜1,200W出力のマイクロ波であってよい。前記マイクロ波出力が700W未満の場合は減菌の効果が僅かであり、1,200W超の場合は過度な加熱で品質が低下するという問題点がある。
【0017】
前記1)ステップの減菌効果を向上させるため、前記マイクロ波加熱処理は加圧状態で行われてもよい。具体的に、1,000〜1,700mmHgの条件で行われてよい。加圧条件が1,000mmHg未満の場合は減菌効果の向上を期待し難く、1,700mmHg超の場合は工程の費用が増加し、原物の品質が悪くなり得る。
【0018】
前記1)ステップは、1〜30分間行われてよい。好ましくは、2〜10分間行われてよい。マイクロ波加熱処理が1分未満の場合、前処理減菌の効果を得難く、30分を超過する場合、原物が過度に加熱され、全体殺菌を経た後に品質が低下するという問題点がある。
【0019】
本出願の前記2)ステップは、前処理された原物を包装するステップである。前処理された原物を包装する包装材は、既知の包装材を用いてよく、好ましくはトレーまたはパウチが用いられてよいが、これらに限定されない。包装装置は既知の装置を用いてよく、好ましくは、自動ロータリーパッカーまたはトレー自動包装機を用いてよいが、これらに限定されない。前記2)ステップの一例として、前処理された原物をパウチまたはトレーに投入し、ソースまたはだし汁を投入した後、シールして包装することが挙げられる。
【0020】
本出願の前記3)ステップは、包装された原物をレトルト殺菌するステップである。従来のレトルト殺菌は、密封した後、121℃の高温、高圧で15〜20分内外に加熱するので、耐熱性胞子は死滅できるが、長時間の高温によって原物の品質が阻害される問題があった。しかし、本出願は、前述したマイクロ波加熱処理する前処理減菌ステップを含み、かつ、追加で天然抗菌剤溶液処理済みの原物を用いることにより、従来のレトルト殺菌に比べてマイルドなレトルト殺菌を施しても、従来の殺菌方法と同一の減菌効果が得られる。前記3)ステップは、既知の装置によって行われてよく、好ましくは熱水式またはスプレー式レトルト設備で殺菌してよいが、これらに限定されない。さらに、前記3)ステップは、従来のレトルト殺菌に比べてマイルドな条件で行ってよい。好ましくは、110〜115℃では20〜40分加熱する低温レトルト殺菌、または、121〜125℃で5〜15分、好ましくは7〜12分加熱する短期レトルト殺菌によって加熱殺菌できる。前記3)ステップ以後、加工の利便性のため、製品の表面を乾燥するステップをさらに含んでよい。
【0021】
本出願の殺菌方法は、従来のレトルト殺菌方法に比べ、野菜、肉、海産物を原料として用いる代用食、おかず、料理などの多様な便利加工食品において、熱による固有の味、香りと食感のような品質の損傷を最少化して、野菜、肉、海産物の原物食感と、唐辛子、ニンニク、生姜などの香辛野菜の味とが多く残っているようにし、原料内の衛生及び品質の低下に係わるかび、酵母、病原性菌及び胞子型耐熱性微生物を効果的に殺菌することができるという効果がある。
【0022】
一方、選択的に本出願の殺菌方法は、前記1)ステップにおける原物が、天然抗菌剤溶液に浸漬処理された原物であってよい。前処理減菌の前に天然抗菌剤溶液に浸漬処理することにより、原物の初期微生物の菌数を減らして以後の前処理減菌ステップ及びマイルドレトルト工程における減菌、殺菌の効果が上昇できる。前記天然抗菌剤溶液は、有機酸、界面活性剤、バクテリオシン、カルシウム製剤の中から選択されるいずれか一つ以上の天然抗菌剤を含んでよい。前記有機酸は、乳酸、クエン酸、フィチン酸、リンゴ酸、酢酸、コハク酸のうち一つ以上であってよい。
【0023】
前記天然抗菌剤溶液は、天然抗菌剤を0.01〜3.0重量%含み、原物を10〜120分間浸漬処理するものであってよい。天然抗菌剤の重量が0.01重量%未満であるか、浸漬時間が10分未満の場合、原物の初期微生物の菌数を減らす効果を得難く、天然抗菌剤の重量が3.0重量%を超過するか、浸漬時間が120分を超過する場合、原物の官能に影響を及ぼして品質が低下し得る。
【0024】
前記天然抗菌剤溶液への浸漬処理の一例に、天然抗菌剤としてバクテリオシン系のナイシン(Nisin)またはナイシンを含有した発酵抽出物、そしてポリリジン、ビタミンB1ラウリル硫酸塩などの界面活性剤を0.01〜1.0重量%含む溶液に原物を浸漬して処理することが挙げられる。
【0025】
前記天然抗菌剤溶液への浸漬は、前記マイクロ波加熱処理する前処理減菌ステップとの組み合わせを介して原物内の初期菌数を減らすことにより、レトルト条件をマイルドにするとしても、さらに効果的に微生物を殺菌するとともに、原物の官能品質と栄養成分を保つことができるという効果がある。
【0026】
また、選択的に本出願の殺菌方法は、前記2)ステップにおいて、原物をソースまたはだし汁とともに包装することができる。前記ソースまたはだし汁は、別途のソースまたはだし汁の製造ステップによって製造されてよい。具体的には、目的とする製品に従って決められたソースまたはだし汁の材料及び含量を85〜95℃で10〜30分間加熱撹拌しながら製造されてよいが、これに限定されない。
【0027】
前記ソースまたはだし汁は、マイクロ波加熱処理して前処理されてよい。前記マイクロ波加熱処理は、前述した原物の減菌処理と同一であってよいが、ソースまたはだし汁の特性に従って詳細な前処理条件を変更してもよい。
【0028】
本発明の前記加工食品は、常温流通用であってよい。前記加工食品の殺菌方法によって殺菌された加工食品は、従来の殺菌方法に比べ、加工食品の原料において、熱により発生する固有の味、香りと食感のような品質の損傷を最少化して、野菜、肉、海産物の原物食感と、唐辛子、ニンニク、生姜などの香辛野菜の味とが多く残っているようにし、原料内の衛生及び品質の低下に係わるかび、酵母、病原性菌及び胞子型耐熱性微生物を効果的に殺菌することができるという効果があるので、前記加工食品は常温流通が可能である。
【0029】
以下では、実施例を介して本出願をさらに具体的に説明する。しかし、実施例に記載された内容は本出願の一例であるだけで、本出願の範囲が実施例の範囲に限定されるものではない。
【実施例】
【0030】
製造例1:マイクロ波加熱前処理減菌及びマイルドレトルトを適用した野菜、肉、海産物及びソース(だし汁)ベースの加工食品の製造
本出願のマイクロ波加熱前処理減菌及びマイルドレトルトを融合した殺菌工法を適用した野菜、肉、海産物、及びソースまたはだし汁ベースの加工食品の代表的な製造工程は次の通りである。その工程図は図1に示した。
【0031】
(1)原物原料の選別、洗浄及び切断の工程
野菜、肉、海産物の表面に付いてあるほこり、異物などの汚染物質を除去するため、先ずきれいな水で3回位洗浄した後、メニューの特性に好適な大きさに切断して原料として準備する。
【0032】
(2)天然抗菌剤溶液の浸漬前処理減菌の工程
選別、洗浄及び切断が終わった野菜、肉、海産物の原料は、それぞれ水の重量に対して0.01〜3.0(w/w、%)の天然抗菌剤溶液で30〜120分間浸漬した後、洗浄して用いる。この時に用いる天然抗菌剤は、有機酸、界面活性剤、バクテリオシン、カルシウム製剤などであり、原物の官能特性及び微生物の現況などを考慮し、選択的に単独でまたは混合して用いてよい。原料内に耐熱性菌などの土着菌が少ない場合、天然抗菌剤溶液への浸漬工程は省いて直ちにマイクロ波予熱減菌工程を適用してよい。
【0033】
(3)マイクロ波加熱前処理減菌の工程
天然抗菌剤溶液への浸漬を済ませた野菜、肉、海産物の原物原料は、連続式またはバッチ式マイクロ波加熱装置を通過させて高温で短時間加熱殺菌を実施する。マイクロ波加熱時間は、原物の官能特性と微生物特性を考慮し、常圧で2〜10分の間を選択的に適用してよく、殺菌の効果を向上させるために加圧状態で加熱殺菌を実施してよい。また、マイクロ波加熱前処理工程は、殺菌効果の他にも、水またはスチームのブランチング効果を出すことができるという利点もある。
【0034】
また、野菜、肉、海産物の原物以外にソースまたはだし汁もマイクロ加熱設備を利用して連続的に殺菌してよい。
【0035】
(4)ソースまたはだし汁の製造工程
ソースまたはだし汁の原料を計量、準備して混合した後、85〜95℃で10〜30分間加熱して製造する。香辛野菜などの原料を多く用いるソースまたはだし汁の場合、原料内に耐熱性菌が多く自生しているので、選択的にマイクロ波加熱殺菌設備を通過させて前処理減菌してよい。
【0036】
(5)原物とソースまたはだし汁の包装工程
マイクロ波加熱前処理減菌した野菜、肉、海産物の原物とソースまたはだし汁を、メニューの特性を考慮してパウチまたはトレーに定量投入し、シール、包装する。パウチの場合は自動ロータリーパッカー設備を、トレーの場合はトレー自動包装機を利用し、重量及び異物を確認した後で包装する。
【0037】
(6)マイルドレトルト本殺菌の工程
パウチまたはトレーに包装した完成品は、熱水式またはスプレー式レトルト設備を利用して110〜121℃で10〜40分間加熱殺菌する。この時の殺菌の条件は、天然抗菌剤の浸漬及びマイクロ波加熱を利用した前処理減菌を予め適用したので、既存のレトルト条件より50%内外に低減化された加熱殺菌条件を適用してよい。具体的に、110〜115℃では20〜40分加熱する低温レトルト殺菌、もしくは、121〜125℃で5〜15分、好ましくは7〜12分加熱する短期レトルト殺菌によって加熱殺菌できる。
【0038】
実験例1:原物内微生物に対するマイクロ波加熱前処理減菌及びマイルドレトルトの組合せ殺菌の効果の測定
野菜、肉、海産物のマイクロ波加熱前処理減菌処理は、対象の試料を2〜10分間それぞれ処理した後、総菌、バチルス系の耐熱性菌、酵母及びかびのような真菌類に対する殺菌の効果をそれぞれ考察した。
【0039】
(1)野菜にマイクロ波加熱を適用した時の殺菌効果の測定
常温流通製品において主な殺菌目標菌であるバチルス系耐熱性菌に対するマイクロ波加熱殺菌の効果を検討してみた結果、図2に示す通り、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquenfaciens)を対象とした場合、3分以上加熱した時、10(CFU/g)内外の減菌効果を奏した。通常、加工食品内の胞子形成微生物の数は10〜10(CFU/g)なので、10(CFU/g)内外の減菌効果を奏するマイクロ波加熱を商業的な前処理殺菌方法として適用することができる。
【0040】
(2)野菜内の総菌、耐熱性菌及び真菌に対するマイクロ波加熱及びマイルドレトルトの組合せ殺菌の効果の測定
製造例1で処理した野菜原物に対してマイクロ波加熱を単独で、また、マイルドレトルトと組み合わせて行なった後の減菌及び殺菌の効果を観察し、従来の加熱レトルトの殺菌効果と比べてその結果を表1に示した。
【0041】
【表1】

* 有意差検証(P<0.05)、同一英文字の有意差なし
【0042】
表1に示す通り、野菜の代表試料であるじゃがいも、さつまいも、セイヨウカボチャのいずれも、マイクロ波加熱処理のみした時、総菌は10(CFU/g)内外、耐熱性菌は10(CFU/g)内外に減菌され、真菌類は全て死滅された。マイクロ波加熱前処理減菌の後、マイルドレトルトを組み合わせて適用した時、全ての菌が死滅された。また、本出願のマイクロ波前処理及びマイルドレトルト処理の際、従来のレトルト処理に比べて全般の味の点数が高かった。したがって、本出願の殺菌方法を利用すれば、既存のレトルト方式より、高温加熱による官能品質の損傷を低減させることができるので、常温製品の品質の向上を図ることができるということが確認でき、これは本出願の差別化要素であると言える。
【0043】
(3)肉及び海産物内の総菌、耐熱性菌及び真菌に対するマイクロ波加熱及びマイルドレトルトの組合せ殺菌の効果の測定
製造例1で処理した肉及び海産物の原物に対してマイクロ波加熱を単独で、また、マイルドレトルトと組み合わせて行なった後の減菌及び殺菌の効果を観察し、従来の加熱レトルトの殺菌効果と比べてその結果を表2に示した。
【0044】
【表2】

* 有意差検証(P<0.05)、同一英文字の有意差なし
【0045】
表2に示す通り、肉及び海産物の代表試料である鳥肉、牛肉、海老のいずれも、マイクロ波加熱処理のみした時、総菌は10(CFU/g)内外、耐熱性菌は10(CFU/g)内外に減菌され、真菌類は全て死滅された。本出願のマイクロ波加熱前処理減菌の後、マイルドレトルトを組み合わせて適用した時、全ての菌が死滅された。また、本出願のマイクロ波前処理及びマイルドレトルト処理の際、従来のレトルト処理に比べて全般の味の点数が高かった。したがって、本出願の殺菌方法を利用すれば、既存のレトルト方式より、高温加熱による官能品質の損傷を低減させることができるので、常温製品の品質の向上を図ることができるということが確認でき、これは本出願の差別化要素であると言える。
【0046】
以上の結果から、マイクロ波加熱とマイルドレトルトを適宜組み合わせた時、品質を向上させるとともに、野菜、肉、海産物などの食品原料内の多様な土着菌と汚染菌の滅菌に到達することができるという結論を導き出し、本出願のマイクロ波加熱殺菌法を前処理殺菌技術として有用に活用することができた。
【0047】
実験例2:天然抗菌剤浸漬前処理減菌を組み合わせた時の殺菌効果の測定
製造例1で天然抗菌剤に浸漬した後にマイクロ波加熱前処理減菌及びマイルドレトルトを行った野菜ベースソース(コチュジャンソース)と肉ベーススープ(クリームスープ)に対する減菌及び殺菌の効果を処理ステップ別に観察し、従来の加熱レトルトの殺菌効果と比べてその結果を表3に示した。
【0048】
【表3】

* 有意差検証(P<0.05)、同一英文字の有意差なし
【0049】
表3に示す通り、1重量%の有機酸ベース天然抗菌剤に60分間浸漬した時、総菌及び耐熱性菌の数が10〜10(CFU/g)内外に減菌され、マイクロ波加熱及びマイルドレトルト条件の低減化が可能なので、さらに一層の品質向上をもたらすことができるものと期待された。また、本出願の天然抗菌剤処理した原物をマイクロ波前処理及びマイルドレトルト処理した時、従来のレトルト処理と比べても全般の味の点数が高かった。したがって、天然抗菌剤に原物を浸漬するステップを追加しても、従来のレトルト処理より常温製品の品質の向上を図ることができるということが確認できる。
【0050】
以上の研究の結果から、天然抗菌剤浸漬及びマイクロ波加熱前処理減菌とマイルド熱殺菌工法を融合して適用した時、野菜、肉、海産物の原物ベースの加工食品内の栄養細胞及び耐熱性胞子類、真菌類などの微生物が滅菌の水準に到達され、既存の高温、高圧の殺菌方式のレトルト製品に比べて同一の殺菌効果を得るとともに、レトルト加熱殺菌の強度を50%内外に低減化できるので、本出願の加工食品の殺菌技術は、今後差別化された常温製品の開発に活用することができる有用な技術であることが分かる。
図1
図2