(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の代表的な実施形態を例示する目的で、必要に応じて図面を参照しながらより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態及び図面に限定されない。なお本開示の種々の特性値は、特記がない限り本開示の[実施例]の項で説明する方法又はこれと同等であることが当業者に理解される方法で測定される値を意図する。
【0015】
本開示は、セメント系材料の表面を覆蓋する粘着シートであって、炭素数4〜18のアルキル(メタ)アクリレートと、含窒素官能基を少なくとも1つ有するモノマーとを含むモノマー成分に由来するポリマーを含む粘着剤層を有し、当該粘着剤層が、湿潤状態のセメント系材料の表面に接着可能であって、且つ、硬化後の当該セメント系材料の表面から剥離可能である、粘着シートを提供する。本開示はまた、本開示に係る粘着シートを巻いて構成されるロールを提供する。
【0016】
本開示で、「コンクリート」は、砂、砂利、水、セメント、及び任意に混和剤を含む混合物、及び該混合物を硬化させて得られる硬化体を包含することを意図する。コンクリートの種類は、従来種々知られており、本開示において目的に応じて適宜選択される。例えば、コンクリートの例としては、一般建築用コンクリート、寒中コンクリート、暑中コンクリート、マスコンクリート、流動化コンクリート、高流動コンクリート、高強度コンクリート、低発熱コンクリート、膨張コンクリート、プレストレストコンクリート、低収縮コンクリート、繊維補強コンクリート、ポリマーコンクリート、水密コンクリート、水中コンクリート、透水性・排水性コンクリート、樹脂含浸コンクリート、遮蔽用コンクリート、軽量コンクリート、プレパックドコンクリート、吹付けコンクリート等が挙げられる。
【0017】
本開示で、「モルタル」とは、砂、水、セメント、及び任意に混和剤を含む混合物、及び該混合物を硬化させて得られる硬化体を包含することを意図する。
【0018】
本開示で「セメント」とは、コンクリート及びモルタルの製造において使用可能な、水、液剤等により水和反応等により硬化する粉体全般、及びこれを硬化させて得られる硬化体を包含することを意図し、有機物、無機物、又はこれらの組合せであってよい。セメントは、ポルトランドセメント、混合セメント、アルミナセメント等の一般的なものに加え、アスファルト、膠、樹脂、石膏、石灰等も包含する。
【0019】
本開示で、「セメント系材料」とは、本開示の、コンクリート、モルタル又はセメントである材料を意図する。
【0020】
本開示の粘着シートは、水和によって硬化するセメントを含むコンクリート、モルタル、及びセメントに有利である。典型的な態様において、セメントの成分としては、珪酸三カルシウム(3CaO・SiO
2)、珪酸二カルシウム(2CaO・SiO
2)、アルミン酸三カルシウム(3CaO・Al
2O
2)、鉄アルミン酸四カルシウム(4CaO・Al
2O
2・Fe
2O
3)、二水石膏(CaSO
4・2H
2O)等が挙げられ、セメントはこれらの1種以上を含むことができる。
【0021】
本開示で、セメント系材料の養生とは、セメント系材料に所要の品質を確保させるために、セメント系材料の施工(型枠への打設(打込み)、吹付け等)後の一定期間、硬化に必要な温度及び湿潤状態を保つ工程を意図する。
【0022】
<粘着シート>
本開示の粘着シートは、セメント系材料の表面を覆蓋するのに用いられる。本開示の粘着シートにおいて、粘着剤層は、湿潤状態のセメント系材料の表面に接着可能であり、且つ当該セメント系材料の表面から、当該セメント系材料の硬化後であっても剥離可能である。本開示で、セメント系材料の表面が湿潤状態であるとは、例えばセメント系材料の打設の翌日に脱型したときのセメント系材料の状態であることを意図する。粘着剤層が湿潤状態のセメント系材料の表面に接着可能であるとは、例えば天井面のそのような湿潤状態のセメント系材料の表面に粘着シートを貼り付けた際にシートの自重で剥がれ落ちず、より望ましくは粘着シートを貼り付ける際にロール状のシートを引き出すときの巻き出し力よりも強い力でセメント系材料に接着可能であることを意図する。また粘着剤層が硬化後のセメント系材料の表面から剥離可能であるとは、粘着剤層をセメント系材料の表面から当該粘着剤層の残留が少なく剥離できることを意図する。
【0023】
一般に、セメント系材料の養生過程において、セメント系材料の水分率は水和反応により水分が消費されることによって時間とともに低下する。例えば、施工直後又は施工から比較的短時間(例えば材齢が8時間〜15時間)が経過したのみのセメント系材料は、その表面付近の水分率がコンクリート・モルタル水分計で4%以上、場合によっては12%以上が測定されることもままある。本開示の粘着シートは、例えばこのような湿潤状態のセメント系材料の表面に対しても十分な接着力で接着可能であり、しかもセメント系材料が硬化した後でも、セメント系材料の表面から該表面に粘着剤層を残留させずに除去できることが意図される。このような粘着シートによれば、所望の表面形態を損なわずにセメント系構造物を製造でき、且つ、セメント系材料の養生に要する期間を大幅に短縮できるため工期の短縮が可能である。
【0024】
(粘着剤層)
粘着剤層は、炭素数4〜18のアルキル(メタ)アクリレート(本開示で、C
4〜C
18アルキル(メタ)アクリレートともいう。なお本開示で、「(メタ)アクリレート」は、メタクリレート及びアクリレートを包含することを意図する。)と、含窒素官能基を少なくとも1つ有するモノマー(本開示で、窒素官能モノマーともいう。)とを含むモノマー成分に由来するポリマーを含む。
【0025】
C
4〜C
18アルキル(メタ)アクリレートの好適例は、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、イソオクチルアクリレート、ラウリルアクリレート、n−オクチルアクリレート、イソノニルアクリレート、イソデシルアクリレート、イソステアリルアクリレート、イソミリスチルアクリレート、等である。中でも、粘着性と剥離性のバランス、さらに低透水性の観点から、2−エチルヘキシルアクリレート、イソオクチルアクリレート、及びn−オクチルアクリレートが好ましい。
【0026】
窒素官能モノマーは、含窒素官能基を少なくとも1つ有するモノマーである。粘着シートを湿潤状態のセメント系材料表面に良好に接着させるためには粘着剤層が親水性基を有することが有利である。しかし、水和によって水酸化カルシウムを生じさせるセメントを含むセメント系材料において、イオン架橋性の親水性基(例えばカルボキシル基等)は、水和反応によって生じるカルシウムイオンとイオン架橋して粘着剤層とセメント系材料との接着性の低下をもたらす場合がある。更に、このイオン架橋は、水和によって水酸化カルシウムを生じさせるセメントにおける硬化の進行にも影響し、硬化の遅延又は不足をもたらす場合がある。本開示の粘着剤層が有する含窒素官能基は、その構造に起因して、カルシウムイオンと比較的相互作用しにくい親水性基である。従って、窒素官能モノマーは、湿潤状態のセメント系材料に対する粘着剤層の良好な接着性に寄与できるとともに、セメント系材料の硬化を妨げないことによってより緻密、強固、高耐久性等の物性を有する高品質なセメント系構造物の製造にも寄与できる。
【0027】
含窒素官能基は、窒素を含む官能基全般を包含することを意図する。含窒素官能基は、セメント系材料の硬化反応に対する影響が少ないという観点から、好ましくは中性から弱塩基性の基である。中性から弱塩基性の基としては、ピロリドン、アミド、置換アミド、モルフォリン、カプロラクタム、等が例示される。
【0028】
窒素官能モノマーの好ましい例は、親水性、及び凝集性の観点から、N−ビニル−2−ピロリドン(NVP)、N,N−ジメチルアクリルアミド(DMAA)、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド(DAAM)、アクリロイルモルフォリン、N−ビニルカプロラクタム、ヒドロキシエチルアクリルアミド、オクチルアクリルアミド等である。
【0029】
好ましい態様において、モノマー成分は、C
4〜C
18アルキル(メタ)アクリレート:約70質量部〜約92質量部、及び窒素官能モノマー:約8質量部〜約30質量部を含む。上記態様において、C
4〜C
18アルキル(メタ)アクリレートの量は、良好な粘着力を得る観点から、好ましくは約70質量部以上、又は約72質量部以上、又は約74質量部以上であり、窒素官能モノマーの配合による利点を良好に得る観点から、好ましくは約92質量部以下、又は約91質量部以下、又は約90質量部以下である。また、上記態様において、窒素官能モノマーの量は、高水分率のセメント系材料表面に対する良好な接着性、及びセメント系材料硬化後の粘着剤層の良好な剥離除去性を得る観点から、好ましくは約8質量部以上、又は約9質量部以上、又は約10質量部以上であり、良好な粘着力を得る観点から、好ましくは30質量部以下、又は約28質量部以下、又は約26質量部以下である。
【0030】
典型的な態様において、モノマー成分は、上記に加え、架橋性部位を有する追加のモノマーを含むことができる。架橋することにより凝集性が向上し、接着面からの剥離時に粘着剤残留減少が期待される。例えば、追加のモノマーとしてベンゾフェノン基含有(メタ)アクリレートを用いる場合、UV照射による架橋が可能である。また例えば、追加のモノマーとして水酸基含有(メタ)アクリレート及び多官能イソシアネート化合物を用いる場合、ウレタン結合による架橋が可能である。
【0031】
追加のモノマーの、C
4〜C
18アルキル(メタ)アクリレートと窒素官能モノマーとの合計100質量部基準での使用量は、良好な架橋性を得る観点から、例えば約0.001質量部以上、又は約0.01質量部以上、又は約0.05質量部以上であることができ、また良好な粘着性の観点から、例えば約10質量部以下、又は約8質量部以下、又は約5質量部以下であることができる。水酸基含有(メタ)アクリレートと多官能イソシアネート化合物とを使用する場合、水酸基含有(メタ)アクリレートの水酸基当量に対する多官能イソシアネート化合物のイソシアネート基当量の比(NCO/OH)は、例えば約0.005以上約1.2以下、又は約0.01以上約0.5以下であってよい。
【0032】
好ましい一態様において、湿潤状態のセメント系材料への接着を良好にする観点、及びセメント系材料の硬化反応の阻害を防いで硬化反応を良好に進行させる観点から、モノマー成分はエチレン性不飽和基を有するカルボン酸(例えば(メタ)アクリル酸)、又はエチレン性不飽和基を有するリン酸、又はエチレン性不飽和基を有するスルホン酸を含まない。別の好ましい態様において、上述の接着及び硬化反応の2つの観点に加えて、硬化前及び硬化後のセメント系材料から粘着剤層の残留なく粘着シートをより容易に剥離除去する観点とのバランスを鑑みて、モノマー成分は、エチレン性不飽和基を有するカルボン酸、エチレン性不飽和基を有するリン酸、及び/又はエチレン性不飽和基を有するスルホン酸を、合計で、C
4〜C
18アルキル(メタ)アクリレートと窒素官能モノマーとの合計100質量部に対して、約0.001質量部以上、又は約0.01質量部以上、又は約0.05質量部以上、約6質量部以下、又は約4質量部以下、又は約2質量部以下の量で含んでもよい。
【0033】
好ましい態様において、C
4〜C
18アルキル(メタ)アクリレートと窒素官能モノマーとを含むモノマー成分に由来するポリマーのガラス転移温度は、セメント系材料表面に対する粘着シートの良好な接着性を得る観点から、約25℃以下、又は約10℃以下、又は約0℃以下であり、良好な接着性と凝集性のバランスの観点から、約−100℃以上、又は約−90℃以上、又は約−80℃以上である。
【0034】
典型的な態様において、粘着剤層は、前述の、C
4〜C
18アルキル(メタ)アクリレートと窒素官能モノマーとを含むモノマー成分に由来するポリマーで構成されるが、本発明の目的を損なわない範囲で追加のポリマーを更に含んでもよい。追加のポリマーの量は、粘着剤層の総質量基準で、約25質量%以下、又は約20質量%以下、又は約15質量%であってよい。
【0035】
粘着剤層は、例えば酸化防止剤、顔料、染料、フィラー、耐光剤(紫外線吸収剤、光安定剤、等)、粘着付与剤、可塑剤、等の添加剤を更に含んでもよい。
【0036】
好ましい態様において、粘着剤層の厚みは、セメント系材料表面に対する粘着シートの良好な接着性を得る観点から、約5μm以上、又は約10μm以上、又は約15μm以上であり、材料コスト低減の観点から、約300μm以下、又は約200μm以下、又は約150μm以下である。
【0037】
図1は、本開示の粘着シートの一態様を示す図である。
図1を参照し、好ましい態様において、粘着シート1は、互いに対向する第1の主面及び第2の主面を有する基材11と、基材の第1の主面上に配置された粘着剤層12とを有する。このような粘着シートは、例えばロールとして運搬し、その巻回を解きながらセメント系材料表面に粘着剤層を順次貼り付けていくことができるため、運搬性及び施工性の点で有利である。
【0038】
基材11は、典型的にはフィルム11aを含む。フィルムとしては、ポリオレフィン(ポリプロピレン、ポリエチレン等)、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル等のプラスチックフィルム、紙、織布、不織布、等を使用できる。セメント系材料の表面からの蒸発を防ぎ、その湿潤状態を保つ観点から、基材は好ましくは水不透過性である。
【0039】
好ましい態様において、基材の厚みは、良好な強度を得る観点から、約5μm以上、又は約7μm以上、又は約10μm以上であり、また材料コストの低減、及び、操作性の観点から、約400μm以下、又は約300μm以下、又は約250μm以下である。基材の色は例えば白色、乳白色、黒色、透明等であってよいが、濃色では太陽光が偏って集光されるため粘着テープ下のセメント系材料表面の温度にバラツキが生じ、養生の均一性が低い傾向があり、また透明では粘着シートの視認性が低い傾向があるという観点で、白色及び乳白色は好ましい。
【0040】
基材の第1の主面には、粘着剤層と基材との接着性を向上させるために、コロナ処理、プラズマ処理、及び/又は、プライマー処理を施してよい。プライマー処理としては、エポキシ樹脂、カルボキシル基を有するビニル共重合体、(メタ)アクリル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリウレタン、ゴム系材料等から選ばれる1種以上のプライマー層を形成してよい。
【0041】
基材11の第2の主面には、離型剤層11bを設けてもよい。すなわち、ロール状に巻かれたシートの粘着層が、その直下のシートの基材に張り付いて引き出せない/剥せないことを防ぐために、ロールにおいてシートの粘着剤層(シートの内周側の面)に接する面(シートの外周側の面)に離型剤層を設けることができる。かかる離型剤層としては、低接着性物質の塗布層が挙げられ、低接着性物質としてはフッ素系、オレフィン系、シリコーン系、ウレタン系、アクリル系等の材料で構成された剥離処理剤を使用することができる。
【0042】
また、粘着シートは、粘着剤層の基材側とは反対側に剥離ライナーを更に有してもよい。剥離ライナーは、一般的な粘着シートに使用される種々の剥離フィルム、剥離紙等から所望に応じて選択できる。ただし、基材と粘着剤層と(必要に応じて離型剤層と)によって、剥離ライナーを有さないロールによれば、ロールの巻回を解きながら粘着シートをセメント系材料表面に適用していくことができ、施工が簡便であるとともに施工場所で剥離ライナー等の廃棄物が生じないという利点が得られるため好ましい。
【0043】
粘着シートは、種々の方法で製造できる。例えば、基材用のフィルムを用意し、その一方の主面に、コーティング等によって前述のようなプライマー層を形成し、更にプライマー層上に、粘着剤層用の粘着剤を塗布し、一方上記フィルムの他方の主面に、コーティング等によって離型剤層を形成することで、粘着シートを得ることができる。
【0044】
湿潤状態のセメント系材料の表面に粘着シートを貼り付けた際の該表面と粘着シートとの剥離強度は、好ましくは約0.5N/cm以上、又は約1N/cm以上であることができる。上記のような剥離強度は、良好な養生効果を得るために有利である。該剥離強度は、セメント系材料硬化後の粘着シートの剥離容易性の観点から、例えば約8N/cm以下、又は約6.5N/cm以下であってよい。
【0045】
好ましい態様において、粘着シートを湿潤状態のセメント系材料の表面に貼り付け、7日後に剥離した際の剥離強度は、養生を良好に進行させる観点から約0.5N/cm以上、又は約1N/cm以上、又は約1.5N/cm以上であり、セメント系材料硬化後の粘着シートの剥離容易性の観点から、約8N/cm以下、又は約7N/cm以下、又は約6N/cm以下である。
【0046】
好ましい態様において、第1の主面と粘着剤層との剥離強度は約8N/cm以上であり、かつ、第2の主面と粘着剤層との剥離強度はセメント系材料の表面に粘着シートを貼り付けた際の該表面と粘着シートとの剥離強度の約0.1%以上約95%以下であることができる。上記のように剥離強度を制御することで、粘着シートとしての特性は良好に有しながら、例えばロールにおいて第2の主面と粘着剤層とが接していても、施工時にロールの巻回を小さい剥離力で解くことができる。この剥離力が小さいと、ロールを解きながら粘着シートをセメント系材料表面に貼り付ける際に、既に貼り付けられた部分の粘着シートにかかる外力が少ないため、既に貼り付けられた部分の剥離が防止されて作業性が極めて良好になる。
【0047】
好ましい態様において、粘着シートがロールである場合の巻き出し時の剥離強度は、良好な作業性の観点から、湿潤状態のセメント系材料の表面に粘着シートを貼り付けた際の該表面と粘着シートとの剥離強度以下であり、粘着シートの製造容易性の観点から、約0.001N/cm以上、又は約0.01N/cm以上、又は約0.1N/cm以上である。
【0048】
<セメント系構造物の製造方法>
本開示はまた、
セメント系構造物の製造方法であって、
露出した表面を有するセメント系材料を得ること、
該露出した表面が湿潤状態にあるときに、本開示の粘着シートの粘着剤層を露出した表面に貼り付けること、
セメント系材料を硬化させてセメント系構造物を得ること、及び
セメント系構造物から粘着シートを取り除くこと、
を含む、製造方法を提供する。
【0049】
露出した表面を有するセメント系材料は、型枠内にセメント系材料を打設また吹付け等によって形成できる。
【0050】
型枠が外される時点は、めざす構造体の設計強度、現場の温度及び湿度等の環境、セメント系材料組成等によっても前後するが、例示の態様において、施工の翌日、セメント系材料の材齢は8〜15時間、セメント系材料の圧縮強度は約2N/mm
2以上である。
【0051】
次いで、露出した表面が湿潤状態にあるときに、本開示の粘着シートの粘着剤層を、該露出した表面に貼り付ける。すなわち、例示の態様において、型枠内にセメント系材料を打設し、その後セメント系材料が自己の形状を保持できる程度に流動性を失った状態(例えば転化率50%超までセメントの水和が進んだ時点)で脱型し、直後、湿潤状態にあるセメント系材料表面に本開示の粘着シートを貼る。
【0052】
露出した表面に粘着シートを貼り付けた際の該表面と粘着シートとの剥離強度は、好ましくは約0.5N/cm以上、又は約1N/cm以上であることができる。上記のような剥離強度は、良好な養生効果を得るために有利である。該剥離強度は、硬化後のセメント系材料からの粘着シートの剥離容易性の観点から、例えば約8N/cm以下、又は約6N/cm以下であってよい。
【0053】
次いで、セメント系材料を硬化させる。硬化は、加熱、冷却、散水等の特段の処置を必要とせずに良好に進行させることができるが、本開示は、これらの処置の1つ以上を更に用いることを排除しない。例示の態様において、粘着シートの適用から硬化完了までの期間は、約1か月超、例えば約3か月程度である。
【0054】
セメント系材料が硬化すると、硬化体としてのセメント系構造物が得られる。セメント系構造物から粘着シートを手動又は他の方法で剥離除去する。好ましい態様において、セメント系構造物と粘着シートとの剥離強度は、約8N/cm以下、又は約6.5N/cm以下であることができる。上記のような剥離強度は、粘着剤層をセメント系構造物に残留させることなく粘着シートを剥離除去できる点で有利である。該剥離強度は、硬化前のセメント系材料に対する粘着シートの良好な接着性を得る観点から、例えば約0.5N/cm以上、又は約1N/cm以上であってよい。
【0055】
以上の手順で、所望のセメント系構造物を製造できる。
【0056】
本開示のセメント系構造物としては、例えば建築物、道路、橋梁、ダム、トンネル、港湾設備等のコンクリート構造物等、種々の構造物を例示できる。本開示の粘着シートは、湿潤状態のセメント系材料の表面に対する接着性が良好であるため、例えばトンネル等の高温多湿の条件下での使用にも好適である。
【実施例】
【0057】
以下、本発明の具体的な態様を実施例により更に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0058】
1.材料
水不透過性下地フィルム(80μm厚のポリプロピレン/ポリエチレンブレンドポリオレフィンフィルム)
2EHA:2−エチルヘキシルアクリレート、株式会社日本触媒から入手可能
BA:n−ブチルアクリレート、三菱化学株式会社から入手可能
AA:アクリル酸、東亜合成株式会社から入手可能
HEA:2−ヒドロキシエチルアクリレート、大阪有機化学工業株式会社から入手可能
NVP:N−ビニル−2−ピロリドン、和光純薬工業株式会社から入手可能
DMAA:N,N−ジメチルアクリルアミド、興人フィルム&ケミカルズ株式会社から入手可能
DAAM:ダイアセトンアクリルアミド、日本化成株式会社から入手可能
ABP:アクリロイルオキシベンゾフェノン
AEBP:アクリロイルオキシエチルベンゾフェノン
Coronate
TM L−45:多官能イソシアネート化合物の固形分45質量%の酢酸エチル溶液、綜研化学株式会社から入手可能
ビスアミド系架橋剤:1,1'−イソフタロイルビス(2−メチルアジリジン)の3質量%のトルエン溶液
V−65:アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、和光純薬工業株式会社から入手可能
【0059】
2.PSA溶液の調製
(1)PSA溶液(PSA−1)
90.00質量部の2EHA、10.00質量部のNVP、0.10質量部のABP、233.33質量部の酢酸エチル(溶媒として)、及び0.20質量部のV−65(開始剤として)を混合した。窒素ガスをパージし、50℃で24時間反応させて、30質量%のPSAポリマーの酢酸エチル溶液(PSA−1)を得た。
(2)PSA溶液(PSA−2〜PSA−11)
表1に示す組成のモノマーを用いた他はPSA−1と同様に、PSA−2〜PSA−11を調製した。
【0060】
3.粘着シートの作製
[実施例1]
上記で調製したPSA−1を、水不透過性下地フィルム上にコートし、オーブン内で100℃にて5分間乾燥させて、乾燥厚み30μmのPSA層を形成した。FUSION UVシステムを用い、UV照射(UV−C強度:75mJ/cm
2)にてPSA層を架橋させ、実施例1に係るPSAテープを粘着シートとして得た。
【0061】
[実施例2〜7]
表1に示すPSA溶液を用いた他は実施例1と同様にして、PSAテープを得た。
【0062】
[実施例8]
0.67質量部のCoronate
TM L−45を100質量部のPSA−8(前述のとおり調製したもの)に添加してコーティング液を得た。このコーティング液を水不透過性下地フィルム上にコートし、オーブン内で100℃にて5分間乾燥させて、乾燥厚み30μmのコーティング層を形成し、25℃で7日間放置して、実施例8に係るPSAテープを得た。
【0063】
[実施例9]
表1に示すPSA溶液を用いた他は実施例8と同様にして、PSAテープを得た。
【0064】
[実施例10]
1.2質量部のビスアミド系架橋剤を100質量部のPSA−10(前述のとおり調製したもの)に添加してコーティング液を得た。このコーティング液を水不透過性下地フィルム上にコートし、オーブン内で100℃にて5分間乾燥させて、乾燥厚み30μmのコーティング層を形成し、実施例10に係るPSAテープを得た。
【0065】
[比較例]
PSA溶液としてPSA−11を用いた他は実施例1と同様にして、比較例に係るPSAテープを得た。
【0066】
4.評価
(1)PSAのガラス転移温度(Tg)
各PSAポリマーの動的粘弾性特性を、ARES(レオメトリック・サイエンティフィック社製)にて、剪断モード、周波数1.0Hz、測定温度範囲−40℃〜120℃、昇温速度5.0℃/分で評価した。tanδ(損失弾性率G”/貯蔵弾性率G’)のピーク温度をTgとした。結果を表1に示す。
【0067】
(2)モルタル表面に対する剥離強度
PSAテープから、10mm×100mmサイズの試験片を切り出した。10mm×70mm×120mmサイズのモルタル板(株式会社日本タクト製)を基材として用いた。当該モルタル板は、水分計(株式会社ケツト科学研究所製)で水分値が4%未満の値を示したものを使用した。PSAテープ試験片のPSA側をモルタル板に対向させた状態で、2.0kgローラで25℃にてPSAテープをモルタル板にラミネートした。20分後に、25℃、剥離速度300mm/分での90°剥離(テンシロン万能材料試験機 RTC−1325A、株式会社オリエンテック製)によって、モルタル板表面に対するPSAテープの剥離強度を評価した。
【0068】
一方、同様のモルタル板を水中に24時間浸漬した後、取出した。モルタル板表面の水をペーパータオルで拭取った。当該モルタル板は、水分計(株式会社ケツト科学研究所製)で水分値が4%以上の値を示したものを使用した。PSAテープ試験片のPSA側をモルタル板に対向させた状態で、2.0kgローラで25℃にてPSAテープをモルタル板にラミネートした。20分後に、25℃、剥離速度300mm/分での90°剥離(テンシロン万能材料試験機 RTC−1325A、株式会社オリエンテック製)によって、モルタル板表面に対するPSAテープの剥離強度を評価した。
【0069】
(3)コンクリート表面に対する剥離強度
PSAテープから70mm×120mmサイズの試験片を切り出した。生コンクリート(88質量部の株式会社カインズ製インスタントコンクリートを12質量部の水と混合したもの)を、10mm×70mm×120mmサイズの型枠に入れ、24時間25℃で放置した。型枠を外し(この時、水分計(株式会社ケツト科学研究所製)で水分値が7%以上の値を示したものを使用した。)、試験片のPSA側をコンクリート表面に対向させた状態で、2.0kgローラで25℃にてPSAテープをコンクリート表面にラミネートした。硬化前のコンクリートにも良好に貼り付け可能であった。ラミネートしたコンクリートをオーブン内で60℃にて1週間加熱してコンクリートの硬化を完了させた。上記(2)と同様の、25℃、剥離速度300mm/分での90°剥離によって、硬化前に貼り付けて硬化させた後のコンクリート表面に対するPSAテープの剥離強度を評価した。
【0070】
【表1】
【0071】
各実施例に係るPSAテープは、比較例に係るPSAテープと比べて、湿潤状態のセメント系材料表面に対して良好な剥離強度を示した。更に、60℃で1週間という過酷な環境を経た後であっても、PSAテープはコンクリート表面から容易に剥離できた。なお各実施例及び比較例において、PSAテープを剥離した後の硬化後のコンクリート表面には、PSAの残留はみられなかった。
【0072】
粘着シートロールの作製
[実施例11]
オレフィン系フィルム80μm厚(PP/PE/マスターバッチ=57/38/5(質量比))の第1の主面に、プライマーとしてポリメント(登録商標)NK350(10%固形分調製品、株式会社日本触媒から入手可能)をグラビアコーターで塗工し、乾燥炉にて溶媒を蒸発させた。続いて、第2の主面にKS−3703(信越化学工業株式会社から入手可能)/酢酸エチル/CAT PL−50T(信越化学工業株式会社から入手可能)=10/90/0.3(質量比)である付加型シリコーンの離型剤をグラビアコーターで塗工し、乾燥炉にて溶媒を蒸発させた。更に、0.67質量部のCoronate
TM L−45を100質量部のPSA−8(前述のとおり調製したもの)に添加して得た塗工液を、第1の主面にナイフコーターにより塗布量30g/m
2で塗工し、次に表面に塗工された塗工液を乾燥炉にて熱風乾燥した。これを巻き取りロールにより巻き取った。このロールを25℃で7日間放置し、実施例11に係るPSAシートロールを得た。
【0073】
粘着シートロールの巻き出し時の剥離強度
実施例11に示した粘着シートロールを5cm幅にスリットし、高速剥離試験機(テスター産業株式会社製)を用い、粘着シートロールの巻き出し時の剥離強度を剥離速度毎に評価した。
【0074】
【表2】
【0075】
表2に示すように、実施例11に係るPSAテープロールの巻きだし時の剥離強度は、表1に示した湿潤状態のセメント系材料の表面からの剥離強度よりも小さい。すなわち、湿潤状態のセメント系材料に貼り付けた状態でロールを引くことでシートを巻き出すことが可能であることが示されている。実際、実施例11に係るPSAテープロールは、湿潤状態のコンクリート表面においても、あらかじめ巻き出した試験片端のPSA側の当該コンクリート表面に対する接着力で、ロールを巻き出すことが可能であった。