特許第6787703号(P6787703)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6787703-耐張碍子用部品 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6787703
(24)【登録日】2020年11月2日
(45)【発行日】2020年11月18日
(54)【発明の名称】耐張碍子用部品
(51)【国際特許分類】
   H01B 17/06 20060101AFI20201109BHJP
   H01B 17/12 20060101ALI20201109BHJP
   H01B 3/12 20060101ALI20201109BHJP
   C04B 41/83 20060101ALI20201109BHJP
   C04B 35/111 20060101ALI20201109BHJP
   C04B 35/48 20060101ALI20201109BHJP
   C04B 35/486 20060101ALI20201109BHJP
   C04B 35/584 20060101ALI20201109BHJP
   C04B 35/587 20060101ALI20201109BHJP
【FI】
   H01B17/06 B
   H01B17/12 B
   H01B3/12 336
   H01B3/12 337
   H01B3/12 338
   C04B41/83 A
   C04B41/83 C
   C04B35/111
   C04B35/48
   C04B35/486
   C04B35/584
   C04B35/587
【請求項の数】7
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-128975(P2016-128975)
(22)【出願日】2016年6月29日
(65)【公開番号】特開2018-6077(P2018-6077A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2019年1月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山部 邦宏
【審査官】 神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 実公昭31−006261(JP,Y1)
【文献】 実公昭05−006903(JP,Y1)
【文献】 特開昭63−064221(JP,A)
【文献】 特開平08−264055(JP,A)
【文献】 特開昭59−169004(JP,A)
【文献】 実公昭05−004205(JP,Y1)
【文献】 実開昭51−90096(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 17/06
C04B 35/111
C04B 35/48
C04B 35/486
C04B 35/584
C04B 35/587
C04B 41/83
H01B 3/12
H01B 17/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックスからなり、第1端から第2端に延びる円柱形状の基体部を備え、該基体部は、前記第1端を含む第1部位と、前記第2端を含む第2部位と、前記第1部位と前記第2部位との間に位置する第3部位とを備え、前記第1部位の直径および前記第2部位の直径は、前記第3部位の直径よりも大きく、前記第3部位と、前記第1部位および前記第2部位のそれぞれとの間に繋がり部を備え、該繋がり部は、前記第1部位の外周部および前記第2部位の外周部から前記第3部位の外周部に向かって直径が漸次減少するように凹状に湾曲していることを特徴とする耐張碍子用部品。
【請求項2】
前記セラミックスは、ヤング率が400GPa以下であることを特徴とする請求項1に記載の耐張碍子用部品。
【請求項3】
前記セラミックスは、ジルコニア、窒化珪素、アルミナおよびこれらの複合材のいずれかが主成分であることを特徴とする請求項1または2に記載の耐張碍子用部品。
【請求項4】
前記セラミックスは、ジルコニアが主成分であることを特徴とする請求項に記載の耐張碍子用部品。
【請求項5】
前記基体部上に、フッ素を含む被覆膜を有することを特徴とする請求項1乃至のいずれかに記載の耐張碍子用部品。
【請求項6】
前記被覆膜は、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライドおよびパーフルオロエチレンプロペンコポリマーのいずれかを含むことを特徴とする請求項に記載の耐張碍子用部品。
【請求項7】
前記被覆膜の色調が、前記基体部の色調と異なることを特徴とする請求項5または6に記載の耐張碍子用部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、耐張碍子用部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、架空電線の引き留めに使用される耐張碍子用部品においては、送電線に繋がれる高電位側金具と支柱側に繋がれるアース側金具とにより掛かる所定の引張り荷重ならびに所定の電圧に耐える必要があり、ポリマー碍子が用いられていた。(特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−315658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、昨今、耐張碍子用部品には、地震、強風等によって生じる高い張力に対しても耐え得る、より高い引張強度が求められるようになってきた。また、送電線は、地震、強風等によって大きく振動し、繰り返し振動を受けた場合は送電線が損傷を受ける。
【0005】
本開示は、このような事情に鑑みて案出されたものであり、地震、強風等によって生じる高い張力に対して耐え得るとともに、送電線の振動を減衰させることのできる耐張碍子用部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の耐張碍子用部品は、セラミックスからなり、第1端から第2端に延びる円柱形状の基体部を備える。この基体部は、第1端を含む第1部位と、第2端を含む第2部位と、第1部位と第2部位との間に位置する第3部位とを備え、第1部位の直径および第2部位の直径が第3部位の直径よりも大きく、第3部位と、第1部位および第2部位のそれぞれとの間に繋がり部を備えている。この繋がり部は、第1部位の外周部および第2部位の外周部から第3部位の外周部に向かって直径が漸次減少するように凹状に湾曲していることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本開示の耐張碍子用部品は、地震、強風等によって生じる高い張力に対して耐え得るため、長期間にわたって使用することができる。また、地震、強風等によって生じる振動を減衰させることができるため、送電線が受ける損傷を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の耐張碍子用部品の一例を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本開示の耐張碍子用部品について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図面は模式的に示したものであり、図における各種構造の寸法および位置関係等は正確に図示したものではない。
【0010】
本開示の耐張碍子用部品1は、セラミックスからなり、第1端11から第2端21に延びる円柱形状の基体部を備える。なお、以下においては、基体部にも符号1を付す場合がある。また、第1端11および第2端21とは、基体部1の長手方向の中心軸に位置する端部のそれぞれのことである。そして、基体部1は、第1端11を含む第1部位10と、第2端21を含む第2部位20と、第1部位10と第2部位20との間に位置する第3部位30とを備える。第1部位10の直径および第2部位20の直径は、第3部位30の直
径よりも大きい。
【0011】
基体部1の長さは、例えば、50mm以上400以下mmに設定でき、第1部位10の直径および第2部位20の直径は20mm以上80mm以下に設定できる。また、第3部位30の直径は、第1部位10の直径および第2部位20の直径よりも小さく、例えば、10mm以上50mm以下に設定できる。
【0012】
本開示の耐張碍子用部品1は、送電線を支柱に接続する際に使用される。接続にあたって耐張碍子用部品1には、送電線に繋がれる固定金具と支柱に繋がれる固定金具とが取り付けられる。この固定金具は、第1部位10の直径および第2部位20の直径が、第3部位30の直径よりも大きいため、寸法の違いによる引っ掛かりによって固定される。
【0013】
本開示の耐張碍子用部品1は、地震、強風等によって生じる高い張力に対して耐え得るため、長期間にわたって使用することができる。また、地震、強風等によって生じる振動を減衰させることができるため、送電線が受ける損傷を少なくすることができる。
【0014】
なお、第1部位10の直径および第2部位20の直径については、使用の際に耐張碍子用部品1の方向性を必要としない場合には直径を同じにすればよく、方向性を必要とする場合は異ならせればよい。
【0015】
本開示の耐張碍子用部品1は、接合部や接着部を有していない一体型構造であり、かつ中空部等を有していない中実部であることが好ましい。
【0016】
そして、本開示の耐張碍子用部品1は、第1部位10と第3部位30、第2部位20と第3部位30との繋がり部40が曲面状であることが好ましい。基体部1に加わる引張り応力によって掛かる力は、第1部位10と第3部位30との間、第2部位20と第3部位30との間に大きく掛かることとなる。耐張碍子用部品1は、繋がり部40が曲面状であることから、引張り応力によって掛かる力の集中に耐え得るため、長期の使用が可能となる。言い換えれば、耐張碍子用部品1は、引張り強度が高い。
【0017】
また、セラミックスは、ヤング率が400GPa以下であることが好ましい。ヤング率値が400GPa以下であれば、送電線を構成する金属のヤング率に近づくため、地震、強風等によって生じる送電線の振動を減衰させる効果が大きくなる。特に、セラミックスのヤング率は、240MPa以下であることが好適である。なお、ヤング率はJIS R1602−1995に記載の超音波パルス法により求めることができる。
【0018】
そして、セラミックスは、ジルコニア、窒化珪素、アルミナおよびこれらの複合材のいずれかを主成分とすることが好ましい。なお、複合材とは、例えば、ジルコニア強化アルミナ(ZTA)のことである。これらのセラミックスはヤング率が低く、送電線を構成する金属のヤング率値により近づくため、地震、強風等によって生じる送電線の振動を減衰させる効果がさらに大きくなる。なお、ここでいう主成分とはそのセラミックスを構成する全成分の合計100質量%のうち、50質量%以上を占めることをいい、ジルコニア強化アルミナ(ZTA)の場合は、ジルコニアの含有量とアルミナの含有量との合計が主成分の含有量である。
【0019】
セラミックスを構成する成分は、X線回折装置(XRD)を用いて同定することができ、リートベルト法によってその含有量を求めることができる。また、蛍光X線分析装置(XRF)またはICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析装置によって得られた金属元素を同定された成分に換算して求めてもよい。
【0020】
また、ヤング率の観点からは、セラミックスはジルコニアが主成分であることが好ましい。セラミックスがジルコニアを主成分とする場合には、機械的強度が高く、また、炎天下で加熱されてもその機械的強度が低下しにくい。そして、ジルコニアの結晶構造は正方晶であることが好適である。なお、ジルコニアの結晶構造は、X線回折装置(XRD)により確認することができる。
【0021】
セラミックスが窒化珪素を主成分とする場合には、高い熱応力や振動や衝撃を受けても割れにくいことから、組成式がSi6−ZAl8−Z(z=0.1〜1)で表されるβ−サイアロンを主相とし、Al,Si,RE(REは周期表第3族元素)の構成比率がそれぞれAl,SiO,RE換算でAlが5〜50質量%,SiOが5〜20質量%,残部がREおよびNであるRE−Al−Si−O−Nからなる粒界相を含む窒化珪素であることが好適である。
【0022】
また、基体部1は、基体部1上にフッ素を含む被覆膜を有していることが好ましい。このようなフッ素を含む被覆膜は、セラミックスからなる基体部1の表面に存在する開気孔への汚れの浸入を防止することができる。また、フッ素を含むことによりフッ素は撥水性を有することから水垢等の汚れ付着を防止でき、耐張碍子用部品を長期間に亘り外部環境から保護することができる。なお、この被覆膜の厚みは、例えば、25μm以上60μm以下に設定できる。
【0023】
さらに、被覆膜は、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライドまたはパーフルオロエチレンプロペンコポリマーのいずれかを含むことが好ましい。これらの材料はフッ素を含み、容易に入手できるとともに被覆作業を容易に行なうことができる。
【0024】
また、被覆膜は、その色調が基体部1の表面の色調と異なっていることが好ましい。被覆の色調が基体部1の表面の色調と異なっていることにより、被覆膜の剥がれを目視で確認することができる、また、作製にあったって、被覆膜の形成忘れや部分的に被覆膜が無いことを容易に確認することができる。
【0025】
被覆膜の色調が基体部1の表面の色調と異なる状態とは、色調の違いが視認することができる状態をいい、以下の式(A)で定義される色調感の差である色差(△E*ab)が30以上であることが好適である。
△E*ab=((△L*)2+(△a*)2+(△b*)2))1/2・・・(A)
ここで、L*は、CIE1976L*a*b*色空間における明度指数であり、クロマティクネス指数a*,b*は前記色空間におけるクロマティクネス指数である。
【0026】
次に、本開示の耐張碍子用部品の製造方法の一例について説明する。
【0027】
セラミックスの主成分をアルミナ(酸化アルミニウム)とする場合、まず、主原料であるアルミナ粉末と、焼結助剤である酸化カルシウム、酸化珪素および酸化マグネシウムの各粉末とを準備する。そして、所望量秤量した後、溶媒およびボールとともにミルに入れて、所定の粒度となるまで粉砕し、スラリーを作製する。
【0028】
次に、得られたスラリーにバインダーを添加した後、スプレードライヤーを用いて、噴霧乾燥を行なうことで顆粒を作製する。
【0029】
次に、この顆粒を冷間等方圧成形法(CIP成形)等の乾式加圧成形法により所定サイズの円柱状の成形体を作製する。そして、この成形体に切削加工を行ない、両端部である第1部位10の直径と第2部位20の直径が中央部である第3部位30直径よりも大きくなるように加工を行ない基体部1となる成形体を得る。
【0030】
なお、同じ原料から作製したペレットを用いてインジェクション成形法やプレス成形法で成形体を作製しても構わない。
【0031】
次に、得られた基体部1となる成形体を、例えば、アルミナが主原料である場合には、大気雰囲気中で最高温度を1450〜1750℃とし、この最高温度での保持時間を1〜8時間として焼成すればよい。
【0032】
また、セラミックスの主成分をジルコニア(酸化ジルコニウム)とする場合、まず、安定化剤成分を含むジルコニア粉末を準備する、この安定化剤成分を含むジルコニア粉末とは、例えば、酸化ジルコニウムに、2モル%以上4モル%以下の酸化イットリウムが固溶した粉末のことであり、次の通り作製されたもののことである。酸化ジルコニウムに、2モル%以上4モル%以下の酸化イットリウムが固溶したものとなるように、ジルコニウム化合物の水溶液およびイットリウム化合物の水溶液を混合する。このようなジルコニウム化合物としては、例えば、オキシ塩化ジルコニウムを用いることができ、またイットリウムの化合物としては、例えばオキシ塩化イットリウムを用いることができる。
【0033】
その後、加水分解により水和物を得る共沈法を用いてスラリーを作製した後、脱水、乾燥し、500℃〜1200℃で仮焼することにより仮焼粉体を得る。そして、仮焼粉体を湿式によりボールミル等にて粉砕し、これを乾燥することによって安定化剤成分を含むジルコニア粉末を得ることができる。
【0034】
なお、酸化イットリウムにより安定化された酸化ジルコニウムの粉末の平均粒径(D50)が0.05μm以上0.2μm以下であれば、酸化ジルコニウムの結晶が微細となるので、セラミックスの機械的強度および破壊靱性を高くすることができ、特に、その平均粒径(D50)は0.05μm以上0.1μm以下であることがより好適である。
【0035】
次に、安定化剤成分を含むジルコニア粉末および焼結助剤成分を所定量秤量し、シリカゾルおよびバインダーを添加した後、スプレードライヤーを用いて、噴霧乾燥することにより、平均粒径(D50)が例えば40μm以上55μm以下の顆粒を作製する。
【0036】
そして、得られた顆粒を成形型に充填して、プレス成形、CIP成形等の方法によって成形体を得ることができる。
【0037】
最後に、成形体を大気雰囲気中、保持温度を1400℃以上1500℃以下、保持時間を1時間以上3時間以下として焼成すればよい。
【0038】
なお、最高温度や保持時間等の焼成条件は、製品の形状や大きさにより変化するため、必要に応じて調整すればよい。また、必要に応じて基体部1の表面に研磨等の加工を施して、表面粗さ状態を改質してもよい。
【0039】
次に、基体部上に、フッ素を含む被覆膜を有するものとするには、次に通りに行なえばよい。ポリテトラフルオロエチレンを含む場合には、ポリテトラフルオロエチレンをクロロホルム、メタノール、ギ酸、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、1,2−ジクロロエタン、酢酸エチル、メチルエチルケトン等の有機溶剤に混ぜて所定濃度の溶液を作製し、被覆部にスプレー装置を用いて被覆すればよい。また、基体部を溶液漕に浸して被覆してもよい。なお、非被覆部にはあらかじめマスキングをしておくことにより、非被覆部に被覆膜が付着しないようにしてもよい。また、アルミナを主成分とするセラミックスを白色を呈するものとし、黒色の顔料を含ませた被覆部を形成することにより、基体部の色調と被覆部との色調を異ならせることができる。
【0040】
また、本開示の耐張碍子用部品は、上述の実施形態に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲において種々の変更、改良等が可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 :基体部
10:第1部位
11:第1端
20:第2部位
21:第2端
30:第3部位
40:繋がり部
図1