特許第6787766号(P6787766)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6787766
(24)【登録日】2020年11月2日
(45)【発行日】2020年11月18日
(54)【発明の名称】車両用横転検出装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/0132 20060101AFI20201109BHJP
   B60R 21/13 20060101ALI20201109BHJP
【FI】
   B60R21/0132
   B60R21/13 E
   B60R21/13 Z
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-239035(P2016-239035)
(22)【出願日】2016年12月9日
(65)【公開番号】特開2018-94975(P2018-94975A)
(43)【公開日】2018年6月21日
【審査請求日】2019年9月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100147913
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 義敬
(74)【代理人】
【識別番号】100165423
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 雅久
(74)【代理人】
【識別番号】100091605
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100197284
【弁理士】
【氏名又は名称】下茂 力
(72)【発明者】
【氏名】本村 真也
【審査官】 飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−216747(JP,A)
【文献】 特開2016−060463(JP,A)
【文献】 特開平08−327353(JP,A)
【文献】 特表2005−515931(JP,A)
【文献】 特開2004−042846(JP,A)
【文献】 特開2009−286222(JP,A)
【文献】 特開2007−168598(JP,A)
【文献】 特開2010−100133(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0299632(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/00−21/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設けられ前記車両の側方に存在する被検知体を検知する検知手段と、
前記検知手段の検知結果に基づいて前記車両の横転を判定する制御手段と、を有し、
前記制御手段は、前記検知手段の検知領域の全範囲に対する前記被検知体の存在が検知される範囲の面積比の変化に基づいて前記被検知体の接近度を演算し、前記接近度に基づいて前記車両の横転を判定することを特徴とする車両用横転検出装置。
【請求項2】
車両に設けられ前記車両の側方に存在する被検知体を検知する検知手段と、
前記検知手段の検知結果に基づいて前記車両の横転を判定する制御手段と、を有し、
前記制御手段は、前記検知手段の検知領域に対する前記被検知体の検知結果の変化に基づいて前記被検知体の接近度及び前記接近度の時間当たりの上昇率を演算し、前記接近度及び前記上昇率の変化に基づいて前記車両の横転を判定することを特徴とする車両用横転検出装置。
【請求項3】
車両に設けられ前記車両の側方に存在する被検知体を検知する検知手段と、
前記検知手段の検知結果に基づいて前記車両の横転を判定する制御手段と、を有し、
前記制御手段は、前記検知手段の検知領域に対する前記被検知体の検知結果の変化に基づいて前記被検知体の接近度を演算し、前記接近度が第1の閾値から前記第1の閾値よりも大きい第2の閾値に達するまでの時間と、前記第1の閾値から前記第2の閾値よりも大きい第3の閾値に達するまでの時間と、を比較し、前記接近度の上昇量に対する所要時間が短くなる場合に、前記車両が横転すると判定することを特徴とする車両用横転検出装置。
【請求項4】
車両に設けられ前記車両の側方に存在する被検知体を検知する検知手段と、
前記検知手段の検知結果に基づいて前記車両の横転を判定する制御手段と、を有し、
前記制御手段は、前記検知手段の検知領域に対する前記被検知体の検知結果の変化に基づいて前記被検知体の接近度を演算し、前記接近度に基づいて前記車両の横転を判定し、
前記検知手段は、前記検知領域を上下に少なくとも2つの領域に分割してそれぞれの前記領域について前記被検知体の存在を検知可能なものであり、
前記制御手段は、下方の前記領域のみに前記被検知体が検知される場合に、前記車両が横転すると判定することを特徴とする車両用横転検出装置。
【請求項5】
車両に設けられ前記車両の側方に存在する被検知体を検知する検知手段と、
前記検知手段の検知結果に基づいて前記車両の横転を判定する制御手段と、を有し、
前記制御手段は、前記検知手段の検知領域に対する前記被検知体の検知結果の変化に基づいて前記被検知体の接近度を演算し、前記接近度に基づいて前記車両の横転を判定し、
前記検知手段は、前記検知領域を上下に少なくとも2つの領域に分割してそれぞれの前記領域について前記被検知体の存在を検知可能なものであり、
前記制御手段は、分割された前記領域のそれぞれについて前記接近度を演算し、下方の前記領域の前記接近度が上方の前記領域の前記接近度よりも先に上昇する場合に、前記車両が横転すると判定することを特徴とする車両用横転検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の横転を検出する車両用横転検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の横転を予測して、エアバッグ等の安全装置を早期に作動させる乗員保護装置が知られている。この種の乗員保護装置では、車両に設けられた角速度センサを用いて車両が横転するか否かを判定して、安全装置を制御する。
【0003】
例えば、特許文献1には、車両の前後方向軸周りに作用する回転角速度をロール角速度として検出するロール角速度センサを備える車両の乗員保護装置が開示されている。同文献に開示された車両の乗員保護装置は、ロール角速度センサによってロール角速度を検出し、ロール角速度によって車両のロール角を求める。そして、車両の乗員保護装置は、ロール角速度とロール角によって、保護装置の動作・非動作を判定する。また、特許文献2にも、ロール角速度センサを利用した類似の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−168598号公報
【特許文献2】特開2010−100133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した従来技術のように、ロール角速度センサを用いて車両の横転を判定する方法では、横転する車両の回転速度が遅い場合、車両の横転を検出できない恐れがあった。
【0006】
詳述すると、車両の横転を検出するために用いられる従来技術のロール角速度センサは、比較的高速で回転する事象を対象としたものである。具体的には、従来技術のロール角速度センサの分解能は、例えば、10〜20deg/s程度であった。そのため、従来技術のロール角速度センサでは、ロール角速度センサの分解能よりも低い、例えば、1〜3deg/s程度の回転を検出することができなかった。換言すれば、従来、低速度の回転を検出することができる高感度のロール角速度センサは、存在しなかった。
【0007】
従って、従来のロール角速度センサを用いて車両の横転を判定する方法では、ロール角速度センサで検出可能な回転速度よりも遅い回転速度で車両がゆっくりと横転する場合、車両の横転を検出することができなかった。そして、車両の横転を適切に検出することができないと、横転を知らせるための緊急通報を行うことや、エアバッグ等の安全装置を早期に作動させることができないという問題点がある。
【0008】
また、例えば、1G程度またはそれ以下の加速度を高精度に検出可能な加速度センサ等を車両の複数箇所に設け、車両の幅方向、高さ方向の加速度を高精度に測定して車両の回転を検出するという方法も考えられる。しかしながら、このような検出方法を実現するためには、専用に設計された複数個の高精度加速度センサ及び制御装置を車両に搭載する必要があり、部品数が増加して車両の生産コストが増大してしまうという問題点がある。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、従来のロール角速度センサでは検知できない程度にゆっくりと回転する車両の横転を検出することができる車両用横転検出装置を提供することにある。
【0010】
また、本発明は、車両の側方衝突を検知するシステムを利用して、部品数の増加を抑えつつ、車両の横転を判定することができる車両用横転検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の車両用横転検出装置は、車両に設けられ前記車両の側方に存在する被検知体を検知する検知手段と、前記検知手段の検知結果に基づいて前記車両の横転を判定する制御手段と、を有し、前記制御手段は、前記検知手段の検知領域の全範囲に対する前記被検知体の存在が検知される範囲の面積比の変化に基づいて前記被検知体の接近度を演算し、前記接近度に基づいて前記車両の横転を判定することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の車両用横転検出装置は、前記制御手段は、前記接近度の時間当たりの上昇率を演算し、前記接近度及び前記上昇率の変化に基づいて前記車両の横転を判定することを特徴とする。
【0016】
また、本発明の車両用横転検出装置は、前記制御手段は、前記接近度が第1の閾値から前記第1の閾値よりも大きい第2の閾値に達するまでの時間と、前記第1の閾値から前記第2の閾値よりも大きい第3の閾値に達するまでの時間と、を比較し、前記接近度の上昇量に対する所要時間が短くなる場合に、前記車両が横転すると判定することを特徴とする。
【0017】
また、本発明の車両用横転検出装置は、前記検知手段は、前記検知領域を上下に少なくとも2つの領域に分割してそれぞれの前記領域について前記被検知体の存在を検知可能なものであり、前記制御手段は、下方の前記領域のみに前記被検知体が検知される場合に、前記車両が横転すると判定することを特徴とする。
【0018】
また、本発明の車両用横転検出装置は、前記検知手段は、前記検知領域を上下に少なくとも2つの領域に分割してそれぞれの前記領域について前記被検知体の存在を検知可能なものであり、前記制御手段は、分割された前記領域のそれぞれについて前記接近度を演算し、下方の前記領域の前記接近度が上方の前記領域の前記接近度よりも先に上昇する場合に、前記車両が横転すると判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の車両用横転検出装置によれば、車両に設けられ前記車両の側方に存在する被検知体を検知する検知手段と、前記検知手段の検知結果に基づいて前記車両の横転を判定する制御手段と、を有し、前記制御手段は、前記検知手段の検知領域に対する前記被検知体の検知結果の変化に基づいて前記被検知体の接近度を演算し、前記接近度に基づいて前記車両の横転を判定する。これにより、従来技術のロール角速度センサでは検出することができなかった、例えば、1〜3deg/s程度の低速回転で車両が横転する場合であっても、車両の挙動を的確に捉えて、車両の横転を検知することができる。
【0020】
また、本発明の車両用横転検出装置は、車両の側方に存在する被検知体を検知する検知手段によって車両の横転を判定している。そのため、車両の側方から接近する被検知体を検知して乗員を保護するためにエアバッグ等を展開させる装置等を備えている車両であれば、新たなセンサ等を追加することなく、車両の側方衝突を検知するシステムを利用して車両の横転を判定することができる。
【0021】
また、本発明の車両用横転検出装置によれば、前記制御手段は、前記検知領域の全範囲に対する前記被検知体の存在が検知される範囲の面積比に基づいて前記接近度を演算しても良い。面積比に基づく接近度を演算することにより、横転の際に回転して地面に対して徐々に接近する車両の挙動を接近度の変化として適格に捉えることができる。具体的には、車両が横転する際には、検知手段の検知領域に対して地面が検知される範囲が徐々に広がって、接近度が徐々に高くなる。これにより、低速回転で車両が横転する場合であっても、車両の横転を検知することができる。
【0022】
また、本発明の車両用横転検出装置によれば、前記検知手段は、前記車両と前記被検知体との距離を測定可能なものであり、前記制御手段は、前記面積比と、前記検知手段で検知される前記距離に基づいて前記接近度を演算しても良い。これにより、制御手段は、車両の横転を高精度に判定することができる。
【0023】
また、本発明の車両用横転検出装置によれば、前記制御手段は、前記接近度の時間当たりの上昇率を演算し、前記接近度及び前記上昇率の変化に基づいて前記車両の横転を判定しても良い。これにより、横転の判定の正確性を高めることができる。
【0024】
また、本発明の車両用横転検出装置によれば、前記制御手段は、前記上昇率が大きくなる場合に、前記車両が横転すると判定しても良い。これにより、横転する車両に対して側方から徐々に地面が接近することを正確に判定することができ、車両がゆっくりと横転する場合であっても、車両の横転を検知することができる。
【0025】
また、前記制御手段は、前記接近度が第1の閾値から前記第1の閾値よりも大きい第2の閾値に達するまでの時間と、前記第1の閾値から前記第2の閾値よりも大きい第3の閾値に達するまでの時間と、を比較し、前記接近度の上昇量に対する所要時間が短くなる場合に、前記車両が横転すると判定しても良い。このような方法によっても、車両の横転を正確に判定することができる。
【0026】
また、本発明の車両用横転検出装置によれば、前記検知手段は、前記検知領域を上下に少なくとも2つの領域に分割してそれぞれの前記領域について前記被検知体の存在を検知可能なものであり、前記制御手段は、下方の前記領域のみに前記被検知体が検知される場合に、前記車両が横転すると判定しても良い。これにより、車両の横転を正確に判定することができる。
【0027】
また、本発明の車両用横転検出装置によれば、前記検知手段は、前記検知領域を上下に少なくとも2つの領域に分割してそれぞれの前記領域について前記被検知体の存在を検知可能なものであり、前記制御手段は、分割された前記領域のそれぞれについて前記接近度を演算し、下方の前記領域の前記接近度が上方の前記領域の前記接近度よりも先に上昇する場合に、前記車両が横転すると判定しても良い。これにより、車両の横転を正確に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の実施形態に係る車両用横転検出装置を備える車両の正面図である。
図2】本発明の実施形態に係る車両用横転検出装置の概要を示すブロック図である。
図3】本発明の実施形態に係る車両用横転検出装置を備える車両が(A)傾いた状態、(B)更に傾いた状態、を示す車両の正面図である。
図4】本発明の実施形態に係る車両用横転検出装置を備える車両が横転する場合の接近度の変化の例を示すグラフである。
図5】本発明の実施形態に係る車両用横転検出装置を備える車両の側方から被検知体が接近する場合を示す(A)車両の正面図、(B)接近度の変化の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態に係る車両用横転検出装置を図面に基づき詳細に説明する。
【0030】
図1は、本発明の実施形態に係る車両用横転検出装置10を備える車両1の正面図である。図1に示すように、車両用横転検出装置10は、車両1に設けられ、被検知体となる地面Gの接近を検知することにより、車両1の横転を判定する装置である。
【0031】
図2は、本発明の実施形態に係る車両用横転検出装置10の概要を示すブロック図である。図2に示すように、車両用横転検出装置10は、車両1の周囲、詳しくは側方、に存在する被検知体を検知する検知手段11と、車両用横転検出装置10を制御する制御手段20と、を有する。
【0032】
図1及び図2を参照して、検知手段11は、例えば、レーダやソナー等であり、車両1の左右両側の側面等に設けられている。検知手段11は、車両1の側面から外側に向かって電波等を送信することにより、車両1の側方に存在する被検知体を検出することができる。
【0033】
なお、検知手段11としてレーダやソナー等が用いられるとしたが、検知手段11はこれに限定されず、例えば、カメラ等の撮像装置であっても良い。具体的には、例えば、ステレオカメラ等によって車両1の周囲を撮影し、撮影された画像を解析処理することにより、被検知体の存在や、被検知体との距離等が求められても良い。
【0034】
検知手段11は、電波等の送信波を発信する送信部12と、電波等の反射波を受信する受信部13と、を有する。検知手段11は、制御手段20から送信波を送信する信号を受信すると、送信部12から車両1の外側に向かって送信波を送信する。そして、送信波は被検知体によって反射され、反射された反射波は、受信部13によって受信される。受信部13が反射波を受信すると、検知手段11は、反射波を受信した受信結果を制御手段20に送信する。
【0035】
制御手段20は、例えば、演算装置等を含む電子制御ユニット(ECU)等であり、車両1の横転を判定するための各種演算や、車両1の乗員保護装置30等の制御を行う装置である。
【0036】
制御手段20は、検知手段11の検知領域の全範囲に対する被検知体の存在が検知される範囲の面積比に基づいて被検知体の接近度を演算する。そして、制御手段20は、算出された接近度に基づいて、車両1が横転するか否かを判定する。
【0037】
即ち、接近度とは、車両1が横転するか否かを判定するための指標として制御手段20によって計算される値である。接近度の演算においては、検知手段11によって検出される車両1と被検知体との距離に関する情報が用いられても良い。なお、接近度の算出方法や横転の判定について、詳しくは後述する。
【0038】
制御手段20は、車両1が横転すると判断した場合、乗員保護装置30となるエアバッグ装置31、通報装置32及びシートベルト装置33等へ信号を送信する。エアバッグ装置31は、制御手段20から送信される信号に基づき、車両1に設けられている図示しないエアバッグを展開する。
【0039】
また、通報装置32は、制御手段20から送信される信号に基づき、予め設定された条件で、車両1が転倒したことを報知するための緊急通信等を行う。また、シートベルト装置33は、例えば、横転時の衝撃等によって乗員が負傷しないように、図示しないシートベルトの張力を調節する。
【0040】
このように、車両用横転検出装置10によって横転を検出して乗員保護装置30を作動させることにより、車両1の乗員に対する安全性が高められる。なお、車両用横転検出装置10によって判定される車両1の横転に関する情報は、上記の乗員保護装置30の他にも車両1の走行や安全に関する装置等の制御に利用されても良い。
【0041】
また、車両用横転検出装置10は、詳細については後述するが、車両1の横転の判定だけでなく、例えば、車両1の側方から接近する被検知体が、車両1に衝突するか否かを判定することができる。
【0042】
換言すれば、車両用横転検出装置10は、側方衝突に対する安全装置としての機能を兼ね備えても良い。即ち、制御手段20は、他の車両等である被検知体が車両1に衝突すると判定した際に、エアバッグ装置31、通報装置32及びシートベルト装置33へ信号を送信し、前記各装置31、32、33を動作させても良い。
【0043】
図1に示すように、検知手段11が被検知体の存在を検出することができる検知領域は、検知手段11から車両1の側方外側に向かって上下方向に所定の角度で広がり、所定の距離L1までの範囲に設定される。被検知体と検知手段11との距離が所定の距離L1よりも小さくなるまで被検知体が車両1に接近すると、被検知体が検知手段11に検知される。なお、被検知体を検出可能な距離L1は、車両1の大きさや検知手段11が設けられる位置によって適宜設定される。
【0044】
ここで、検知領域は、少なくとも上下方向に広がる所定の範囲であることが望ましい。即ち、検知領域は、車両1の前後方向及び上下方向に所定の幅を有する領域でも良いし、上下方向にのみに所定の広がりを持つ略直線的な検知範囲となるものでも良い。これにより、車両1が横転する際に、被検知体となる地面Gを好適に検知し、車両1の横転を正確に判定することができる。
【0045】
また、検知領域は、上下方向に2つ以上の領域、例えば、上方の領域15と、下方の領域16と、に分割され、夫々の領域15、16について被検知体を検出することができるよう構成されても良い。
【0046】
このように、検知領域が上下方向に分割されることにより、被検知体が検知領域の上部または下部のどちらに存在するかを検知することができる。これにより、制御手段20は、被検知体が下方から接近することを把握して、車両1の横転を正確に判定することができる。
【0047】
なお、検知領域の分割は、複数個の検知手段11を設けることにより実現されても良い。即ち、車両1の一方の側面に設けられる検知手段11は、1つに限定されず複数個設けられても良い。例えば、検知手段11を車両1の一方の側面に2つ配設し、一方の検知手段11で上方の領域15を検出し、他方の検知手段で下方の領域16を検出しても良い。これにより、より簡便なセンサで同様の効果を得ることができる。
【0048】
また、単一の検知手段11で検出される情報を制御手段20で演算処理することにより、検知領域が複数の領域に分割されても良い。
【0049】
次に、図3及び図4を参照して、車両用横転検出装置10の横転の判定について詳しく説明する。
【0050】
図3(A)は、車両1が傾いた状態を示す正面図であり、図3(B)は、車両1が図3(A)の状態よりも更に傾いた状態を示す正面図である。図4は、車両1が転倒する場合における時間と地面Gの接近度との関係を示すグラフである。なお、図3(A)及び(B)では、車両1が運転席側に横転する場合について示しているが、反対側、即ち助手席側に横転する場合も同様の制御によって横転を判定することができる。
【0051】
前述のとおり、車両用横転検出装置10は、被検知体となる地面Gについて、検知手段11によって検出される情報に基づいて接近度を求め、車両1が横転するか否かを判定する。具体的には、図3(A)及び(B)に示すように、車両1が横転する場合、車両1が傾き、検知手段11と地面Gとが接近する。これにより、車両用横転検出装置10は、検知手段11によって車両1の側方から地面Gが接近していることを検知し、車両1が横転することを判定することができる。
【0052】
先ず、図3(A)に示すように、車両1が傾くことにより、検知手段11は、下方の領域16において地面Gを検知することができる。このとき、検知手段11は、上方の領域15において地面Gを検知していない。地面Gの存在が検知される範囲は狭く、領域16の下部において、検知手段11から地面Gまでの距離が、検出可能な所定の距離L1よりも近づいた領域のみで地面Gが検知される。
【0053】
図3(B)に示すように、車両1が図3(A)に示す状態から更に傾くことにより、領域16における地面Gの存在が検知される範囲が広がる。具体的には、図3(B)において、地面Gが検知される範囲の面積は、領域16の略全体であり、図3(A)に示す状態において地面Gが検知される範囲の面積よりも大きい。即ち、車両1が横転する場合、検知領域に対して地面Gの存在が検知される範囲の面積比は、時間と共に大きくなる。
【0054】
そのため、制御手段20(図2参照)は、検知手段11の検知領域の全範囲に対する被検知体の存在が検知される範囲の面積比に基づいて接近度を演算し、その面積比に基づいて算出された接近度によって、車両1の横転を判定することができる。
【0055】
具体的には、前述のように車両1が横転する場合、前記面積比は時間と共に大きくなるので、その面積比に基づいて演算される接近度も、図4に示すように、徐々に大きくなる。そこで、接近度が徐々に大きくなり、所定の閾値を超えた場合に、車両1が横転する、または、横転したと判定することができる。これにより、車両1がゆっくりと回転して横転する場合であっても、車両1の横転を検知することができる。
【0056】
このように、制御手段20は、検知手段11の検知結果に基づいて車両1の横転を判定しており、車両1の回転速度を検出する角速度センサ等を用いずに車両1の横転を判定することができる。即ち、制御手段20は、車両1の回転速度によらず、車両1の横転を検知することができる。
【0057】
図4を参照して更に詳しく説明すると、車両1が横転する場合、地面Gの接近度は、時間と共に徐々に増加する。また、地面Gの接近度の上昇率は、時間と共に大きくなる。具体的には、時間T1から時間T2までの接近度の上昇量、即ち接近度D2と接近度D1との差は、同一の時間長さである時間T2から時間T3までの接近度の上昇量、即ち接近度D3と接近度D2との差よりも少ない。換言すれば、車両1が横転する場合、接近度は時間と共に大きくなり、且つ接近度の傾きである上昇率も時間と共に大きくなり、接近度の時間変化を示すグラフは、略2次曲線状になる。
【0058】
そのため、制御手段20(図2参照)は、接近度の時間当たりの上昇率を演算し、接近度及び上昇率の変化に基づいて車両1の横転を判定することができる。これにより、制御手段20は、車両1の側方から地面Gが接近していることを検知でき、車両1の横転の判定を正確に行うことができる。よって、適切なタイミングで乗員保護装置30等を作動させることができる。
【0059】
また、制御手段20は、接近度の上昇量に対する所要時間の変化に基づいて、車両1の横転を判定することもできる。具体的には、制御手段20は、接近度が第1の閾値から第1の閾値よりも大きい第2の閾値に達するまでに要する時間から、接近度が第1の閾値から第2の閾値に上昇する際の接近度の上昇量に対する所要時間を演算する。また、制御手段20は、接近度が第1の閾値から第2の閾値よりも大きい第3の閾値に達するまでに要する時間から、接近度が第1の閾値から第3の閾値に上昇する際の接近度の上昇量に対する所要時間を演算する。そして、接近度が第1の閾値から第2の閾値になるまでの接近度の上昇量に対する所要時間よりも、第1の閾値から第3の閾値になるまでの接近度の上昇量に対する所要時間が短くなる場合に、制御手段20は、車両1が横転すると判定しても良い。このような方法によっても、車両1の横転を正確に判定することができる。
【0060】
また、図3(A)及び(B)に示すように、車両1が傾くことにより、検知手段11は、地面Gに接近する。例えば、図3(A)に示す状態よりも、図3(B)に示す状態の方が、検知手段11は、地面Gに近い。即ち、車両1が横転する場合、検知手段11と地面Gとの距離は、時間と共に短くなる。
【0061】
横転時における検知手段11と地面Gとの距離について、更に詳しくは、図3(B)に示すように、領域16の車両1側(紙面右側)で検知される地面Gは、領域16の車両1から離れた反対側(紙面左側)で検知される地面Gよりも検知手段11に近い。換言すれば、領域16の下部で検出される地面Gは、領域16の上部で検出される地面Gよりも検知手段11との距離が近い。
【0062】
このように、車両1が横転する場合、領域16内において、領域16の上部と領域16の下部とでは、検知手段11と地面Gとの距離が異なっている。そのため、領域16内における被検知体との距離の差を検出することにより、車両1の横転の判定に用いることができる。
【0063】
具体的には、レーダやソナー等のように、送信波の送信から反射波の受信までの時間差によって被検知体との距離を測定可能な検知手段11を備えている場合には、検知手段11によって測定される被検知体までの距離情報を、制御手段20(図2参照)における接近度の演算に利用することができる。
【0064】
つまり、制御手段20は、被検知体が検知される範囲の面積比と、検知手段11で検知される距離と、に基づいて接近度を演算し、算出された接近度によって、車両1の横転を判定することができる。
【0065】
具体的には、被検知体が検知される範囲の面積比を、検知手段11から被検知体までの距離で除した値として接近度を演算しても良い。この場合の接近度は、被検知体が検知される範囲が広くなることにより大きくなり、また、検知手段11と被検知体との距離が近づくことにより大きくなる。即ち、接近度は、被検知体が検知手段11に接近することにより上昇する値である。
【0066】
このように、検知手段11で検出される被検知体との距離に基づいて接近度を演算することにより、横転時の接近度の変化がより明確になり、制御手段20は、車両1の横転を高精度に判定することができる。
【0067】
また、車両1が転倒する際、車両1が傾くことにより、領域16において地面Gが検知されており、領域15において地面Gが検知されていない状態がある。そのため、領域15では被検知体の存在が検知されず、領域16のみにおいて被検知体の存在が検知される場合に、車両1が横転すると判定することができる。その結果、例えば、車両1の側方から被検知体が近づいて、領域15及び領域16の双方で被検知体を検知した場合等に、誤って車両1が横転すると判定されることを防止することができる。
【0068】
また、図3及び図4を参照して既に説明したとおり、車両1が横転する場合、検知手段11は先ず領域16において地面Gを検知し、時間経過と共に、被検知体が検知される範囲は領域15側へと広くなる。そのため、制御手段20は、分割された領域15、16のそれぞれについて接近度を演算し、領域16の接近度が領域15の接近度よりも先に上昇する場合に、車両1が横転すると判定しても良い。
【0069】
このように、上下方向に分割された検知領域の情報を利用することにより、制御手段20は、被検知体が車両1の側方からどのように接近しているかをより正確に把握することができる。そのため、制御手段20は、接近する被検知体が地面Gであるか否かを判定することができ、車両1の横転を正確に判定することができる。
【0070】
なお、図4に示すグラフは、地面Gが略平らな場合を示しており、例えば、地面Gの上に凹凸等が形成される場合は、接近度の変化が異なってくる。そのため、算出される接近度のばらつきを考慮して閾値等判定の条件を予め設定し、算出された接近度及び接近度の上昇率が所定の範囲内である場合に、車両1が横転すると判定しても良い。
【0071】
図5(A)は、車両1の側方から他の車両Wが接近する場合を示す車両1の正面図であり、図5(B)は、車両1の側方から他の車両Wが接近して車両1に衝突する場合の接近度の変化の例を示すグラフである。
【0072】
図5(A)に示すように、車両1の側方から、被検知体として、例えば、他の車両Wが接近する場合、他の車両Wは、上方の領域15及び下方の領域16の双方において検知される。詳しくは、他の車両Wが接近する際、先ず、検知領域のうちで車両1から最も離れた領域である上下方向の略中央で車両Wが検出され、その後、車両Wの接近に伴って瞬時に、領域15及び領域16の略全体で車両Wが検出されるようになる。
【0073】
図5(B)に示すように、車両1の側方から他の車両Wが衝突する場合、車両Wの接近度は、短時間で急激に上昇する。即ち、車両Wの接近度の時間変化を示すグラフは、略直線状に急峻に立ち上がって最大値である衝突した状態の値になる。
【0074】
このように、車両1の側方から他の車両Wが衝突する場合には、接近度が急激に上昇し、接近度の時間当たりの上昇率は、車両1が転倒する場合に比べると大きく、また、略一定である。これにより、制御手段20は、接近度及び接近度の上昇率等から車両Wが衝突すると判定することができる。
【0075】
図3及び図4を参照して説明したように、車両1が横転する場合と、図5を参照して説明したように、車両1の側方から他の車両Wが衝突する場合とでは、検知手段11による被検知体の検知結果が異なっている。
【0076】
具体的には、車両1が横転する場合、先ず下方の領域16のみで地面Gが検知されるが、他の車両Wが衝突する場合は、検出開始直後から領域15、16の双方で車両Wが検知される。よって、前述のとおり、検知領域を上方の領域15及び下方の領域16のように上下方向に分割することにより、車両用横転検出装置10は、車両1の横転と、側方からの車両Wの接近と、を判別することができる。
【0077】
また、車両1が横転する場合、先ず、領域16の下方から地面Gが検知され、地面Gが検知される範囲は上方に向かって徐々に広がる。これに対して、他の車両Wが側方から衝突する場合、短い時間間隔で、領域15及び領域16の略全体で車両Wが検出されるようになる。そのため、領域15、16において、被検知体が検知される範囲を求めることにより、車両1の横転と、他の車両Wの側方接近と、を判別することができる。
【0078】
また、前述のとおり、車両1が横転する場合と、側方から他の車両Wが接近する場合とでは、接近度の上昇率が異なる。そのため、制御手段20は、被検知体の接近度の上昇率を算出することにより、車両1の横転と、他の車両Wの側方衝突と、を判別することができる。
【0079】
上記のように、車両用横転検出装置10は、車両1の横転と、他の車両Wの側方からの接近と、を判定する機能を有するので、車両Wの側方衝突を検出するために他の検出装置等を別途設ける必要がない。換言すれば、車両1の側方から接近する車両Wを検知して乗員を保護する装置や、車両1の側方にある被検知体を検知して車両1を制御する装置等を備えている車両1であれば、側方の被検知体を検知するための新たな装置を追加することなく、共通の検知手段11を利用して、車両1の横転を検知することができる。
【0080】
以上、本実施形態では、検知領域が上下2つに分割される例ついて説明したが、検知領域の分割数は、これに限定されるものではない。例えば、検知領域は、上下方向により多くの領域に分割されても良い。これにより、制御手段20は、車両1の回転挙動をより詳細に把握することができる。
【0081】
また、上記の実施形態では、検知手段11から所定の距離L1までの範囲を検知領域として、車両1の横転と、他の車両Wの側方接近と、を判定する例を示したが、検知領域の範囲は、これに限定されない。例えば、横転の判定を検知手段11から距離L1の検知領域で判定し、他の車両Wの側方接近を距離L1よりも長い距離で判定しても良い。
【0082】
即ち、車両1の横転の判定と、他の車両Wの接近の判定と、をそれぞれ異なる範囲の検知領域を基準として行っても良い。これにより、車両1の横転及び車両Wの接近の判定をより適切に行うことができる。
【0083】
また、車両1の横転を判定する際に、車両1が倒れる方向の反対側の検知手段11による検知結果を用いても良い。具体的には、車両1の横転を判定する際に、左右何れか一方の側面側の検知手段11が被検知体を検出して、反対側となる他方の側面側の検知手段11が被検知体を検出していない場合に、横転と判定しても良い。
【0084】
即ち、一方の側面側の検知手段11による検知結果の基づく接近度が上昇し、反対側となる他方の側面側の検知手段11による検知結果に基づく接近度が変化しない場合に、車両1が前記一方の側面側に横転すると判定しても良い。これにより、横転の判定の正確性を高めることができる。
【0085】
また、上記のように、車両1の左右両側に配設される検知手段11の情報を同時に利用する場合、例えば、通常の状態において、検知手段11の検知領域の下部に地面Gが検知される状態に設定されても良い。
【0086】
このような設定により、一方の側面側の検知手段11による検知結果の基づく接近度が上昇し、反対側となる他方の側面側の検知手段11による検知結果に基づく接近度が低下する場合に、車両1が前記一方の側面側に横転すると判定しても良い。例えば、運転席側の接近度が上昇し、助手席側の接近度が低下する場合には、車両1が運転席側に倒れる恐れがあると判定しても良い。
【0087】
また、上記の実施形態では、検知手段11によって検知される地面Gが、車両1が走行する面と同一平面である例を示しているが、地面Gの形状や検知情報は、上記の例に限定されるものではない。例えば、地面Gの形状や路上障害物の有無、位置、大きさ等を検知手段11により検知し、それらの情報を地面Gの検知情報に織り込んでも良い。
【0088】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の変更実施が可能である。
【符号の説明】
【0089】
1 車両
10 車両用横転検出装置
11 検知手段
12 送信部
13 受信部
15、16 領域
20 制御手段
30 乗員保護装置
31 エアバッグ装置
32 通報装置
33 シートベルト装置
図1
図2
図3
図4
図5