【実施例】
【0029】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明する。
<実施例1>
セメント100質量部に対して、骨材150質量部、表1に示す種類及び量の分散剤、増粘剤α0.1質量部、凝結遅延剤ア0.25質量部、及び表1に示すカルシウムアルミノシリケート100質量部に対してセッコウを150質量部配合した混合物を20質量部配合するとともに、短繊維aをセメントと骨材の合計100質量部に対して0.2質量部配合し、立体造形用セメント質材料(以下、セメント質材料ということもある)を調製した。この調製した材料100質量部に対して水を17質量部加え、パン型ミキサーで練り混ぜた。得られたウェット材料のミニスランプ(MS、練混ぜ直後と20分後)、硬化時間及び圧縮強度を測定するとともに、MS低減率を算出した。結果を表1に示す。
【0030】
(使用材料)
セメント:普通ポルトランドセメント(デンカ社製、ブレーン比表面積3400cm
2/g)
骨材:石灰石骨材(デンカ社製、最大粒子径1.2mm、比重2.71)
リグニンスルホン酸系分散剤(R):日本製紙社製、商品名「サンエキスP252」
メラミンスルホン酸系分散剤(M):日本シーカ社製、商品名「シーカメントFF86/100」
増粘剤α:ダイユータンガム(三晶社製、商品名「KELCO−CRETE DG」)
凝結遅延剤ア:クエン酸(試薬1級)
カルシウムアルミノシリケートA:市販特級試薬のSiO
2、CaCO
3、Al
2O
3を所定割合になるように混合し、高周波炉を用いて約2000℃で加熱溶融し、水中で急冷し、粉砕して調製したもの(非晶質、SiO
2含有量10.7%、CaO/Al
2O
3モル比1.85、ブレーン比表面積5900cm
2/g)
カルシウムアルミノシリケートB:試薬の配合割合を変えた以外はカルシウムシリケートAと同様にして調製したもの(非晶質、SiO
2含有量15.2%、CaO/Al
2O
3モル比1.85、ブレーン比表面積5800cm
2/g)
カルシウムアルミノシリケートC:試薬の配合割合を変えた以外はカルシウムシリケートAと同様にして調製したもの(非晶質、SiO
2含有量24.4%、CaO/Al
2O
3モル比1.85、ブレーン比表面積5800cm
2/g)
セッコウ:天然無水セッコウ粉砕品(ブレーン比表面積5000cm
2/g)
短繊維a:ビニロン繊維(クラレ社製、商品名「REC15」(平均繊維長12mm、平均繊維径50μm、1gあたりの繊維本数55500本))
【0031】
(試験方法)
各試験はいずれも20℃の環境下で実施した。
ブレーン比表面積:JIS R 5201−1997に準じて測定した。
最大粒子径:JIS A 1102に準じて骨材のふるい分けを行い、完全通過しない一番大きなふるい目の寸法を最大粒子径とした。
ミニスランプ(MS):JIS A 1171に準拠した。測定は練り混ぜ直後と20分後に実施した。
MS低減率:練混ぜ直後と20分後のミニスランプから、下記式を用いて算出した。
スランプ低減率(%)=〔ミニスランプ(練混ぜ直後)−ミニスランプ(20分後)〕/〔ミニスランプ(練混ぜ直後)×100〕
硬化時間:練り混ぜが完了してから、ウェット材料2kgをビニール袋に詰め、指で押しても凹まなくなったときを硬化時間とした。指で押すタイミングは5分間隔とした。
圧縮強度:JIS R 5201の4×4×16cmの三連型枠に練り混ぜた材料を充填し、材齢1日、3日、7日で測定した。
【0032】
【表1】
【0033】
表1より、本発明の減水剤配合割合では、ミニスランプ(直後)が26〜60mmとなるため、ポンプ圧送性に支障をきたさず、かつスランプ低減率が15〜60%となるため、圧送後に自立性を確保することができる。
一方、メラミンスルホン酸系分散剤のみを配合した場合(実験No.1−2)は、練混ぜ直後の流動性の確保は可能であるが、スランプ低減率が大きいため、ポンプ圧送性に支障をきたすおそれがあり、リグニンスルホン酸系分散剤のみを配合した場合(実験No.1−3)は、ミニスランプが小さく、流動性の確保が難しいと考えられる。さらに、リグニンスルホン酸系分散剤とメラミンスルホン酸系分散剤とを併用した場合でも、メラミンスルホン酸系分散剤の割合が下限値に満たないと(実験No.1−4〜1−6)、所期の流動性を得るために必要な分散剤量が増加するとともに、ミニスランプ(軟らかさ)のスランプ低減率が大きくなり、ポンプ圧送に支障をきたすおそれがある。反対に、メラミンスルホン酸系分散剤の割合が上限値を超えると(実験No.1−7〜1−9)、スランプ低減率が小さくなり、圧送後の自立性を確保できないおそれがある。
【0034】
<実施例2>
セメント100質量部に対して、骨材150質量部、リグニンスルホン酸系分散剤(R)とメラミンスルホン酸系分散剤(M)との質量割合がR/M=100/200の分散剤1.0質量部、増粘剤α0.1質量部、凝結遅延剤ア0.25質量部、及びカルシウムアルミノシリケートBとセッコウとの割合が表2に示す比率である混合物を20質量部配合するとともに、短繊維aをセメントと骨材の合計100質量部に対して0.2質量部配合し、立体造形用セメント質材料を調製した。この調製した材料100質量部に対して水を17質量部加え、パン型ミキサーで練り混ぜた。得られたウェット材料について、実施例1と同様の方法で、ミニスランプ(練混ぜ直後と20分後)、硬化時間及び圧縮強度を測定するとともに、MS低減率を算出した。結果を表2に示す。
【0035】
【表2】
【0036】
カルシウムアルミノシリケート100質量部に対してセッコウを50〜250質量部使用することで、自立性を確保するための適度なミニスランプの低減率と硬化時間とが得られることがわかる。
【0037】
<実施例3>
セメント100質量部に対して、骨材150質量部、リグニンスルホン酸系分散剤(R)とメラミンスルホン酸系分散剤(M)との質量割合がR/M=100/200の分散剤1.0質量部、増粘剤α0.1質量部、凝結遅延剤ア0.25質量部、及びカルシウムアルミノシリケートB100質量部に対してセッコウ150質量部からなる混合物を表3に示す量配合するとともに、短繊維aをセメントと骨材の合計100質量部に対して0.2質量部配合し、立体造形用セメント質材料を調製した。この調製した材料100質量部に対して水を17質量部加え、パン型ミキサーで練り混ぜた。得られたウェット材料について、実施例1と同様の方法で、ミニスランプ(練混ぜ直後と20分後)、硬化時間及び圧縮強度を測定するとともに、MS低減率を算出した。結果を表3に示す。
【0038】
【表3】
【0039】
カルシウムアルミノシリケートとセッコウの使用量をセメント100質量部に対して合計で5〜30質量部とすることで、自立性を確保するための適度なミニスランプの低減率と硬化時間とが得られることがわかる。
【0040】
<実施例4>
セメント100質量部に対して、表4に示す量の骨材とバルーン系骨材、リグニンスルホン酸系分散剤(R)とメラミンスルホン酸系分散剤(M)との質量割合がR/M=100/200の分散剤1.0質量部、増粘剤α0.1質量部、凝結遅延剤ア0.25質量部、並びにカルシウムアルミノシリケートB100質量部に対してセッコウ150質量部からなる混合物20質量部を配合するとともに、短繊維aをセメントと骨材の合計100質量部に対して0.2質量部配合し、立体造形用セメント質材料を調製した。この調製した材料100質量部に対して水を17質量部加え、パン型ミキサーで練り混ぜた。得られたウェット材料について、実施例1と同様の方法で、ミニスランプ(練混ぜ直後と20分後)、硬化時間及び圧縮強度を測定するとともに、MS低減率を算出した。結果を表4に示す。
【0041】
(使用材料)
骨材:石灰石骨材(デンカ社製、最大粒子径1.2mm、比重2.71)
バルーン系骨材:巴工業(株)製、商品名「セノライトSA」(火力発電所で発生したフライアッシュバルーンの粒度調整品、中国産、比重0.88、最大粒子径120μm以下)
【0042】
【表4】
【0043】
骨材の使用量をセメント100質量部に対して50〜300質量部とすることで、自立性を確保するための適度なミニスランプの低減率と硬化時間とが得られることがわかる。また、バルーン系骨材の使用により、MS低減率が増加し、自立性が向上することがわかる。
【0044】
<実施例5>
セメント100質量部に対して、骨材150質量部、リグニンスルホン酸系分散剤(R)とメラミンスルホン酸系分散剤(M)との質量割合がR/M=100/200の分散剤1.0質量部、表5に示す種類及び量の増粘剤、凝結遅延剤ア0.25質量部、並びにカルシウムアルミノシリケートB100質量部に対してセッコウ150質量部からなる混合物20質量部を配合するとともに、短繊維aをセメントと骨材の合計100質量部に対して0.2質量部配合し、立体造形用セメント質材料を調製した。この調製した材料100質量部に対して水を17質量部加え、パン型ミキサーで練り混ぜた。得られたウェット材料について、実施例1と同様の方法で、ミニスランプ(練混ぜ直後と20分後)、硬化時間及び圧縮強度を測定するとともに、MS低減率を算出した。結果を表5に示す。
【0045】
(使用材料)
増粘剤β:セルロースエーテル系(信越化学工業社製、商品名「hi90SH−30000」(20℃で2質量%水溶液の粘度が30000mP・s))
増粘剤γ:セルロースエーテル系(信越化学工業社製、商品名「hi90SH−100000」(20℃で2質量%水溶液の粘度が100000mP・s))
(試験方法)
粘度:B型粘度計を用いて、10rpmの条件下で測定した。
【0046】
【表5】
【0047】
天然多糖類系増粘剤又は2質量%水溶液の粘度が30000mPa・s以上を示すセルロースエーテル系増粘剤を、セメント100質量部に対して0.03〜1.0質量部使用することで、自立性を確保するための適度なミニスランプの低減率と硬化時間とが得られることがわかる。
【0048】
<実施例6>
セメント100質量部に対して、骨材150質量部、リグニンスルホン酸系分散剤(R)とメラミンスルホン酸系分散剤(M)との質量割合がR/M=100/200の分散剤1.0質量部、増粘剤α0.1質量部、表6に示す種類及び量の凝結遅延剤、並びにカルシウムアルミノシリケートB100質量部に対してセッコウ150質量部からなる混合物20質量部を配合するとともに、短繊維aをセメントと骨材の合計100質量部に対して0.2質量部配合し、立体造形用セメント質材料を調製した。この調製した材料100質量部に対して水を17質量部加え、パン型ミキサーで練り混ぜた。得られたウェット材料について、実施例1と同様の方法で、ミニスランプ(練混ぜ直後と20分後)、硬化時間及び圧縮強度を測定するとともに、MS低減率を算出した。結果を表6に示す。
【0049】
(使用材料)
凝結遅延剤イ:グルコン酸(試薬1級)
凝結遅延剤ウ:クエン酸三ナトリウム(試薬1級)
【0050】
【表6】
【0051】
オキシカルボン酸類を含有する凝結遅延剤をセメント100質量部に対して0.05〜0.7質量部使用することで、自立性を確保するための適度なミニスランプの低減率と硬化時間とが得られることがわかる。
【0052】
<実施例7>
セメント100質量部に対して、骨材150質量部、リグニンスルホン酸系分散剤(R)とメラミンスルホン酸系分散剤(M)との質量割合がR/M=100/200の分散剤1.0質量部、増粘剤α0.1質量部、凝結遅延剤ア0.25質量部、及びカルシウムアルミノシリケートB100質量部に対してセッコウ150質量部からなる混合物20質量部を配合するとともに、セメントと骨材の合計100質量部に対して表7に示す種類及び量の短繊維を配合し、立体造形用セメント質材料を調製した。この調製した材料100質量部に対して水を17質量部加え、パン型ミキサーで練り混ぜた。得られたウェット材料について、実施例1と同様の方法で、ミニスランプ(練混ぜ直後と20分後)、及び圧縮強度を測定するとともに、MS低減率を算出した。また、下記試験方法で初期ひび割れ幅を測定した。結果を表7に示す。
【0053】
(使用材料)
短繊維b:ナイロン繊維(東レ・アムテックス社製、商品名「タフバインダー」(平均繊維長10mm、平均繊維径28μm、1gあたりの繊維本数185200本))
短繊維c:ナイロン繊維(東レ・アムテックス社製、商品名「タフバインダー」(平均繊維長5mm、平均繊維径28μm、1gあたりの繊維本数370500本))
短繊維d:ビニロン繊維(クラレ社製、商品名「RECS100L」(平均繊維長12mm、平均繊維径130μm、1gあたりの繊維本数8300本))
【0054】
(試験方法)
初期ひび割れ幅:コンクリート製平版(縦30cm×横30cm×厚さ6cm)に型枠を設置し、厚み2cmとなるように本発明のウェット材料を打設し、表面をコテで仕上げて試験体とした。その試験体を湿度60%、温度5℃の環境下で養生し、72時間経過後のひび割れ幅を測定した。ここでのひび割れ幅とは、試験体に発生した任意のひび割れを1つ選んだときの、その長さの中心付近の幅をいう。72時間経過してもひび割れを発生しない場合は0.0mmとした。
【0055】
【表7】
【0056】
平均繊維長が5〜15mmの短繊維を、セメントと骨材の合計100質量部に対して0.1〜1.0質量部使用することで、自立性を確保するための適度なミニスランプの低減率と硬化時間とが得られるとともに、初期ひび割れを抑制できることがわかる。
【0057】
<実施例8>
実験No.1−22の配合で実際に立体造形実験を実施した。環境温度は22℃であった。使用したシステム及び条件を以下に示す。また、実験システムの模式図を
図1に、使用したノズルの模式図を
図2に、それぞれ示す。ミキサーに実験No.1−22の立体造形用セメント質材料を30kg、水を5.1kg加えて3分間練り混ぜてウェット材料を調製した。得られたウェット材料をホッパー付きの回転容積式一軸偏心ねじポンプに投入し、フレキシブルホースを介してウェット材料を圧送し、ノズル先端より吐出することで立体造形体の造形を行った。その結果、立体造形用セメント質材料からなる層を順次積み重ねることでき、連続積層高さが30cm以上である立体造形体が得られた。即ち、連続積層高さ30cm以上の連続積層が可能であった(
図3参照)。
【0058】
(システム)
ミキサー:パン型ミキサー(岡三機工社製、商品名「ダマカットミキサー2.8型」)
圧送ポンプ:回転容積式一軸偏心ねじポンプ(PFT社製、商品名「PFT BOLERO」)
圧送ホース:4MPa耐圧フレキシブルホース(PFT社製、内径1インチ、圧送配管の距離は10m)
ノズル:自作品(
図2参照)、ノズル吐出口径12mm(円形)
ロボットアーム:安川電機社製のロボットアーム(商品名「MOTOMAN−MA2010」)を改造しアーム先端にノズルを固定して使用
【0059】
(造形条件)
立体造形体の形状:中空円筒形(内径29cm、1層あたりのセメント質材料の高さ1〜2cm、積層幅(肉厚)20mm程度)
ウェット材料の吐出量:0.25m
3/hr
ノズル移動速度:150mm/分
ノズル垂直移動距離:15mm
【0060】
<実施例9>
実験No.1−22、No.7−17及びNo.7−18の配合で、実施例8と同じシステム及び条件で、立体造形実験を実施した。環境温度は24℃であった。そのときの、ミキサーで練り混ぜた直後のウェット材料の温度、回転容積式一軸偏心ねじポンプで圧送されノズル先端から吐出されたウェット材料の温度、硬化時間及び連続積層高さ測定した。その結果を表8に示す。
【0061】
(試験方法)
材料の温度:デジタル温度計で測定
硬化時間:ノズル先端より吐出した材料をサンプリングし実施例1と同様の方法で測定
連続積層高さ:造形体が崩れるまで積層したときの高さをメジャーで計測
【0062】
【表8】
【0063】
平均繊維長が5〜15μm、平均繊維径が100〜250μmで、1gあたりの繊維本数が5000本以上である短繊維を用いることで、ノズル先端で吐出されたときの材料温度が高くなり、硬化時間がより早くなるとともに、連続的により高い積層を実現できることがわかる。これは、ウェット材料がポンプ及び圧送ホース中を移動する際に、摩擦により加熱されたためと考えられる。