特許第6787852号(P6787852)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6787852圧電単結晶インゴットの製造方法および圧電単結晶インゴット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6787852
(24)【登録日】2020年11月2日
(45)【発行日】2020年11月18日
(54)【発明の名称】圧電単結晶インゴットの製造方法および圧電単結晶インゴット
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/22 20060101AFI20201109BHJP
   C30B 11/00 20060101ALI20201109BHJP
   H01L 41/09 20060101ALI20201109BHJP
   H01L 41/18 20060101ALI20201109BHJP
   H01L 41/187 20060101ALI20201109BHJP
   H01L 41/22 20130101ALI20201109BHJP
   H01L 41/41 20130101ALI20201109BHJP
   H01L 41/47 20130101ALI20201109BHJP
【FI】
   C30B29/22 Z
   C30B11/00 Z
   H01L41/09
   H01L41/18
   H01L41/187
   H01L41/22
   H01L41/41
   H01L41/47
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-153878(P2017-153878)
(22)【出願日】2017年8月9日
(65)【公開番号】特開2019-31420(P2019-31420A)
(43)【公開日】2019年2月28日
【審査請求日】2019年8月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000200301
【氏名又は名称】JFEミネラル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105968
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】中村 啓一郎
(72)【発明者】
【氏名】越前谷 一彦
【審査官】 手島 理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−280413(JP,A)
【文献】 特開2010−143782(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00−35/00
H01L27/20
H01L41/00−41/47
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブリッジマン法を用いた、Pb(B1,B2)O3の組成式をもつリラクサーとPbTiO3の組成をもつチタン酸鉛とからなる全率固溶型圧電単結晶インゴットの製造方法であって、前記チタン酸鉛の濃度が単結晶成長方向にほぼ一定で、かつ該濃度の変動の幅が、単結晶成長方向に100mm以上の長さに亘って±0.5mol%以下となるように、最大粒径が3mm以下の前記リラクサーおよび前記チタン酸鉛を含む原料を育成坩堝中に連続的に供給することを特徴とする圧電単結晶インゴットの製造方法。
【請求項2】
前記圧電単結晶インゴットがさらに、Cr、Mn、Fe、Li、Ca、Sr、Ba、Zrのうちから選ばれた1種または2種以上を、1molのPbを100質量%としたとき、合計で0.5質量ppm〜5質量%含有することを特徴とする請求項1に記載の圧電単結晶インゴットの製造方法。
【請求項3】
Pb(B1,B2)O3の組成式をもつリラクサーとPbTiO3の組成をもつチタン酸鉛とからなる全率固溶型圧電単結晶インゴットであって、チタン酸鉛の濃度がほぼ一定で、かつ該濃度の変動の幅が、単結晶成長方向に100mm以上の長さに亘って±0.5mol%以下であることを特徴とする圧電単結晶インゴット。
【請求項4】
前記圧電単結晶インゴットがさらに、Cr、Mn、Fe、Li、Ca、Sr、Ba、Zrのうちから選ばれた1種または2種以上を、1molのPbを100質量%としたとき、合計で0.5質量ppm〜5質量%含有することを特徴とする請求項に記載の圧電単結晶インゴット。
【請求項5】
請求項3または4に記載された圧電単結晶インゴットを原料として用いた圧電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PbTiO3を含有する圧電単結晶インゴットに係り、とくに単結晶成長方向のPbTiO3組成変動が抑制された圧電単結晶インゴットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
実用的な圧電材料として、例えば、ジルコン酸鉛(PbZrO3)とチタン酸鉛(PbTiO3)の固溶体であるジルコン・チタン酸鉛(PbZrxTi(1-x)O3(x≒0.5))が知られている。しかし、このジルコン・チタン酸鉛は、実用に適した大きさ、たとえば、1cm2の断面積を有する単結晶を得ることができないため、ジルコン・チタン酸鉛固有の優れた圧電特性を示す結晶方位を選別して利用することができないという問題があった。
【0003】
一方、リラクサーと呼ばれる鉛系化合物(Pb(B,B2)O3)とチタン酸鉛(PbTiO3)とからなり、複合ぺロブスカイト構造を有する全率固溶型圧電単結晶(リラクサー・チタン酸鉛固溶体単結晶)は、実用に適した大きさの単結晶を育成することが可能で、用途に応じ、固有の優れた圧電特性を示す結晶方位を選別した実用サイズの圧電素子の製造が可能となることから、注目されている。この固溶体単結晶としては、例えば、マグネシウムニオブ酸鉛(Pb(Mg1/3Nb2/3)O3)とチタン酸鉛(PbTiO3)との固溶体(Pb(Mg1/3Nb2/3)(1-x)TixO3)(以下、PMN−PTともいう)や、インジウムニオブ酸鉛(Pb(In1/2Nb1/2)O3)とマグネシウムニオブ酸鉛(Pb(Mg1/3Nb2/3)O3)とチタン酸鉛(PbTiO3)との固溶体(Pb(In1/2Nb1/2)(1-x-y)(Mg1/3Nb2/3)yTixO3)(以下、PIN−PMN−PTともいう)が挙げられる。
【0004】
これらPMN−PTやPIN−PMN−PTの単結晶を、工業的に有用な単結晶を得る方法として広く普及している垂直ブリッジマン法を用いて製造すると、PbTiO3の偏析現象により、単結晶の組成変動が生じやすく、均一な組成を有する単結晶の製造が難しいという問題がある。
【0005】
このような問題に対し、例えば、特許文献1には、ブリッジマン法を用いた、Pb(Mg,Nb)O3の組成式をもつリラクサーと、PbTiO3の組成をもつチタン酸鉛とからなる全率固溶型圧電単結晶インゴットの製造方法が記載されている。特許文献1に記載された技術では、チタン酸鉛の組成分率の変動が30mm以上の長さに亘って±2.0mol%以下となるように、原料を育成ルツボに連続的に供給するとしている。これにより、単結晶成長方向に30mm以上の範囲において、PbTiO3の組成変動が±2.0mol%以下となる均一組成の圧電単結晶インゴットを得ることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-280413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記したような均一組成といわれる圧電単結晶インゴットを使用して圧電単結晶素子を作製しても、圧電単結晶インゴット中の一部の領域から作製した圧電単結晶素子の圧電特性が実用範囲から外れる場合があり、結果として製品歩留りの低下を招くという問題があった。これは、作製された圧電単結晶素子の圧電特性が、圧電単結晶素子中のPbTiO3濃度によって、大きく変動するためと考えられる。すなわち、単結晶成長方向に30mm以上の範囲において、PbTiO3の組成変動の幅が±2.0mol%以下となる組成の圧電単結晶インゴットであってもなお、多様なサイズの単結晶圧電素子作製をするという観点からは、PbTiO3の組成変動幅が大きすぎて、実用上有効な圧電特性を示すPbTiO3の濃度範囲を外れる場合があるという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、単結晶成長方向にチタン酸鉛PbTiO3の組成変動の幅が狭い、圧電単結晶インゴットの製造方法を提供することを目的とする。具体的には、チタン酸鉛PbTiO3の濃度がほぼ一定で、かつ該濃度の変動の幅が、単結晶成長方向に100mm以上の長さに亘って±0.5mol%以下となる、圧電単結晶インゴットを製造する方法である。
【0009】
なお、本発明が目的とする圧電単結晶インゴットは、Pb(B1,B2)O3の組成式をもつリラクサーとPbTiO3の組成をもつチタン酸鉛とからなる全率固溶型圧電単結晶インゴットである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記した目的を達成するため、原料を連続供給するブリッジマン法を用いた圧電単結晶の製造において、圧電単結晶の組成ばらつきに影響する因子について鋭意研究した。その結果、圧電単結晶の組成ばらつきは、連続供給する原料のサイズが大きく影響していることに想到した。
【0011】
原料を連続供給するブリッジマン法を用いた圧電単結晶の製造においては、一定の供給速度で追加原料をサブルツボへ供給するが、供給する原料のサイズによって、融解にかかる時間にばらつきが生じることを知見した。そのため、融液層に滴下される原料(融解供給原料)の量がばらつき、成長する単結晶の組成に、変動が生じることになることを見出した。すなわち、供給する原料のサイズが大きい場合には、原料を一定の供給速度でサブルツボへ投下しても、融解にかかる時間がばらつき、そのため、融液層に滴下される原料(融解供給原料)の量がばらつき、成長する単結晶の組成の変動幅が大きくなることを突き止めた。
【0012】
そこで、本発明者らはさらに検討を行い、供給する原料のサイズが、最大粒径で3mm以下であれば、融解にかかる時間のばらつきが小さくなることを見出した。供給する原料のサイズが、最大粒径で3mm以下であれば、融液層に滴下される原料(融解供給原料)の量のばらつきが抑制され、連続供給する原料の供給速度が一定となり、単結晶成長方向にチタン酸鉛PbTiO3の組成変動の幅が小さい、均一な組成の圧電単結晶インゴットを製造できることを、知見した。
【0013】
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)ブリッジマン法を用いた、Pb(B1,B2)O3の組成式をもつリラクサーとPbTiO3の組成をもつチタン酸鉛とからなる全率固溶型圧電単結晶インゴットの製造方法であって、前記チタン酸鉛の濃度が単結晶成長方向にほぼ一定で、かつ該濃度の変動の幅が、単結晶成長方向に100mm以上の長さに亘って±0.5mol%以下となるように、最大粒径が3mm以下の前記リラクサーおよび前記チタン酸鉛を含む原料を育成坩堝中に連続的に供給することを特徴とする圧電単結晶インゴットの製造方法。
(2)(1)において、前記圧電単結晶インゴットがさらに、Cr、Mn、Fe、Li、Ca、Sr、Ba、Zrのうちから選ばれた1種または2種以上を、1molのPbを100質量%としたとき、合計で0.5質量ppm〜5質量%含有することを特徴とする圧電単結晶インゴットの製造方法。
Pb(B1,B2)O3の組成式をもつリラクサーとPbTiO3の組成をもつチタン酸鉛とからなる全率固溶型圧電単結晶インゴットであって、チタン酸鉛の濃度がほぼ一定で、かつ該濃度の変動の幅が、単結晶成長方向に100mm以上の長さに亘って±0.5mol%以下であることを特徴とする圧電単結晶インゴット。
)()において、前記圧電単結晶インゴットがさらに、Cr、Mn、Fe、Li、Ca、Sr、Ba、Zrのうちから選ばれた1種または2種以上を、1molのPbを100質量%としたとき、合計で0.5質量ppm〜5質量%含有することを特徴とする圧電単結晶インゴット。
)()または()に記載された圧電単結晶インゴットを原料として用いた圧電素子。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来の技術に比べ、単結晶成長方向にPbTiO3の濃度がほぼ一定で、かつ該濃度の変動幅が顕著に小さい、圧電単結晶インゴットを容易に製造することができ、産業上格段の効果を奏する。さらに本発明圧電単結晶インゴットからは、優れた圧電特性を有する圧電素子を歩留高く、作製することが可能となる、という効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施に好適な、単結晶育成(製造)装置を模式的に示す説明図(断面図)である。
図2】インゴットの成長方向に沿っての、チタン酸鉛の濃度(mol%)変動の一例を示すグラフである。
図3】インゴットの成長方向に沿っての、圧電定数の変動の一例を示すグラフである。
図4】インゴットの成長方向に沿っての、チタン酸鉛の濃度(mol%)変動の一例を示すグラフである。
図5】インゴットの成長方向に沿っての、圧電定数の変動の一例を示すグラフである。
図6】インゴットの成長方向に沿っての、チタン酸鉛の濃度(mol%)変動の一例を示すグラフである。
図7】インゴットの成長方向に沿っての、圧電定数の変動の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明圧電単結晶インゴットは、Pb(B1,B2)O3の組成式を有するリラクサーと、PbTiO3の組成を有するチタン酸鉛とからなり、複合ぺロブスカイト構造を有する全率固溶型圧電単結晶インゴットである。例えば、Pb(Mg1/3Nb2/3)O3の組成式をもつリラクサーとPbTiO3の組成をもつチタン酸鉛とからなる全率固溶型圧電単結晶インゴット(PMN−PT)や、あるいはPb(In1/2Nb1/2)O3およびPb(Mg1/3Nb2/3)O3の組成式をもつリラクサーとPbTiO3の組成をもつチタン酸鉛とからなる全率固溶型圧電単結晶インゴット(PIN−PMN−PT)などがある。
【0017】
なお、ここでいう「全率固溶型単結晶」とは、単結晶中の2つの材料が、液体状態で完全に溶け合い、固体状態においても完全に固溶しあう単結晶をいうものとする。
【0018】
本発明圧電単結晶インゴットは、垂直ブリッジマン法を用いて製造される。
垂直ブリッジマン法は、その概略を図1に示すように、育成坩堝20内の原料を、熱源(ヒーター)50を用いて、融点以上に加熱して、融液層40としたのちに、低温方向に育成坩堝20を移動(図1では方向A)させて、坩堝の下部から一方向凝固を開始させ、単結晶1を製造する方法である。なお、育成坩堝20は、昇降機構60上に設置され、炉内の上下方向に移動可能とされる。
【0019】
垂直ブリッジマン法を用いて、圧電単結晶を製造する際にはまず、育成坩堝20内に初期原料を充填する。初期原料は、所望の圧電単結晶組成となるように、所定量の、Pb(B1,B2)O3の組成式をもつリラクサーの粉末とPbTiO3の組成をもつチタン酸鉛の粉末を配合し、混合した混合粉末とするか、あるいはリラクサー・チタン酸鉛固溶体の多結晶焼結体ぺレット等とすることが好ましい。また、初期原料は、所望の圧電単結晶組成となるようにPb(B1,B2)O3の組成式をもつリラクサーとPbTiO3の組成をもつチタン酸鉛とを配合し、混合、焼結してペレット等としてもよい。
【0020】
初期原料が充填された育成坩堝20はヒーター50により加熱され、内部の初期原料が融解し融液層40となる。ついで、昇降機構60により育成坩堝20を低温方向である矢印A方向に移動させることにより、坩堝の下部から一方向凝固を開始させ、単結晶1を形成させる。
【0021】
なお、融液層40から析出したリラクサー・チタン酸鉛固溶体単結晶1中のチタン酸鉛の濃度は、チタン酸鉛の偏析係数keffに従って、変化する。keffは、融液層40から析出したリラクサー・チタン酸鉛固溶体単結晶中のチタン酸鉛PbTiO3の濃度の比率を規定した定数である。keffが1と異なる場合には、固溶体単結晶に偏析が進行する。例えば、PMN−PTの場合は、keffが1未満であり、単結晶の成長に伴って、PbTiO3の偏析が起き、融液層40内のPbTiO3濃度が高くなり、融液層40内の組成変動が生じ、結果として、製造される圧電単結晶に、結晶成長方向にPbTiO3の濃度が高くなる、偏析を生じさせることになる。なお、PIN−PMN−PTの場合も、keffは1未満である。
【0022】
そこで、本発明では、単結晶育成時の育成坩堝20内の融液層40の組成変動を抑制する。そのために、供給原料30を、一定の供給速度で連続的に育成坩堝20内のサブ坩堝70に投下する。
【0023】
投下された供給原料30は、サブ坩堝70内で加熱され融解されたのち、融液層40に滴下され供給される。本発明では、供給原料30は、最大粒径で3mm以下の原料とする。これにより、供給原料30の融解時間のばらつきが少なくなり、融解した供給原料を一定の供給速度で、融液層40へ滴下できるようになる。供給原料30のサイズが3mmを超えて大きくなると、サブ坩堝70内での融解時間が大きくばらつき、融液層40に供給される融解供給原料の量が変動し、供給速度が一定とならず、そのため、融液層40の組成変動が大きくなり、得られる圧電単結晶における成長方向の組成変動が大きくなる。なお、供給原料のサイズは、取り扱い易さを考慮すると、1〜3mmサイズの範囲がより好ましい。また、供給原料30は、初期原料に比べPbTiO3分率を減少した配合の原料とすることが好ましい。
【0024】
育成坩堝20の上部まで、凝固が完了した後に、室温まで冷却し、圧電単結晶インゴットを得る。これにより、PbTiO3の濃度がほぼ一定となり、かつ該濃度の変動幅が小さい、具体的には、PbTiO3の濃度がほぼ一定となり、かつ該濃度の変動幅が単結晶成長方向に100mm以上の長さに亘って±0.5mol%以下となる、均一な組成を有する圧電単結晶インゴットを製造できる。
【0025】
なお、圧電単結晶素子の特性である比誘電率εrや、機械的品質係数Qmを大きくする必要がある場合には、上記した圧電単結晶インゴットにさらに、Cr、Mn、Fe、Li、Ca、Sr、Ba、Zrのうちから選ばれた1種または2種以上を、1molのPbを100質量%としたとき、合計で0.5質量ppm〜5質量%含有させることが好ましい。含有量が0.5質量ppm未満では、効果が顕著でなく、一方、含有量が5質量%を超えると、多結晶になる恐れが大きくなる。このため、これらの元素を含有する場合は、合計で0.5質量ppm〜5質量%の範囲に限定することが好ましい。なかでも、Cr、Mn、Feの添加は機械的品質係数の向上や、経時劣化の抑制に、Liの添加は、多結晶領域の発生の抑制に、Ca、Sr、Ba、Zrの添加は、比誘電率εrの向上に、それぞれ有効に寄与する。
【0026】
以下に、実施例に基づき、さらに本発明を説明する。
【実施例】
【0027】
(実施例1)
垂直ブリッジマン法を用いて、PMN−PT圧電単結晶インゴットを製造した。なお、使用した単結晶育成(製造)装置を図1に示す。
初期原料として、初期原料全量に対する質量%で、66%のPMNと34%のPTとを配合し、混合した原料3000gを育成坩堝20内に、充填した。なお、育成坩堝20は炉内の昇降機構60上に設置した。次に、育成坩堝20を、ヒーター50で、融点以上である1350℃以上に加熱し、初期原料20を融解させ、融液層40を形成させた。ついで、昇降機構60により、育成坩堝20をA方向に下降させて、育成坩堝20内の融液層40の下部から凝固を開始させた。
【0028】
次に、供給原料30を、育成坩堝20内のサブ坩堝70へ、一定の供給速度で連続的に投下した。投下した供給原料30は、供給原料全量に対する質量%で、71%のPMNと29%のPTとを配合し混合したものを使用した。使用した供給原料30は、最大粒径で3mm以下のものとした。なお、粒径はふるい分け法により測定した。
【0029】
投下された供給原料30は、サブ坩堝70で加熱され、融解されて、融液層40に供給された。一定量の供給原料30を投下した時点で投下を停止し、単結晶の長さが220mmに達したとき、育成坩堝20の降下を停止し、室温まで冷却した。冷却後、製造装置から、得られた圧電単結晶インゴットを取り出し、本発明例1とした。
なお、最大粒径で3〜4mmの供給原料30を、サブ坩堝70に投入し、他の条件は本発明例と同じとして、圧電単結晶インゴット(比較例1)を得た。
【0030】
得られた圧電単結晶インゴット(直径:約80mmφ)について、X線方位測定機によりインゴットの側面の結晶方位の確認を行った後、切断機で、{001}方位のウェーハが得られるようにインゴットの粗切断を行った。その後、精密切断機を用いて、粗切断を行ったウェーハから所望のサイズの{100}方位の圧電素子材料を切り出し、単結晶成長方向に沿った各長さ位置で、蛍光X線分析装置XRFを用いてチタン酸鉛PbTiO3の濃度(mol%)を測定した。得られた結果を図2に示す。
【0031】
図2から、本発明例1は、単結晶成長方向の各位置で、チタン酸鉛PbTiO3の濃度(mol%)がほぼ一定で、かつ単結晶成長方向の100mm以上に亘って、チタン酸鉛PbTiO3の濃度(組成比率)の変動幅が±0.5mol以下となっている。一方、比較例1は、単結晶成長方向で、チタン酸鉛PbTiO3の濃度(組成比率)の変動幅が±0.5molを超えて大きなばらつきを示している。
【0032】
また、必要な結晶学的方位を決定された圧電単結晶インゴットから、粗切断で所望のウェーハを得た。ついで、研削、研磨し、所定の厚さのウェーハとしたのち、精密切断機でウェーハから圧電単結晶素子材料を切り出した。得られた圧電単結晶素子材料の上下面に対し、電極を作製し、分極処理を施して圧電単結晶素子とし、d33メータを用いて圧電定数d33の測定を行った。得られた結果を図3に示す。
【0033】
図3から、本発明例1では、単結晶成長方向に沿っての各位置における、圧電定数d33のばらつきが少なく、優れた圧電定数を有する圧電素子を歩留り高く作製できる均一な圧電単結晶インゴットであるといえる。一方、比較例1は、圧電定数d33のばらつきが大きく、優れた圧電特性を有する圧電素子を歩留り高く作製できる圧電単結晶インゴットとなっているとはいえない。
(実施例2)
垂直ブリッジマン法を用いて、PIN−PMN−PT圧電単結晶インゴットを、実施例1と同様に製造し、本発明例2とした。なお、実施例1と同様に、図1に示す単結晶育成(製造)装置を使用した。
初期原料として、初期原料全量に対する質量%で、26%のPINと40%のPMNと34%のPTとを配合し、混合した原料3000gを用いた。なお、供給原料30として、供給原料全量に対する質量%で26%のPINと45%のPMNと29%のPTとを配合し混合したものを用いた。供給原料30は、最大粒径で3mm以下のものとした。なお、粒径は、ふるい分け法により測定した。
【0034】
これらの原料を使用し、本発明例1と同様の方法で、圧電単結晶インゴットを製造し、このインゴットから圧電単結晶素子材料、圧電単結晶素子を作製し、実施例1と同様の評価を行った。なお、供給原料30は、同様の組成で、最大粒径3〜4mmの原料を使用し、圧電単結晶インゴット(比較例2)を製造し、このインゴットから、圧電単結晶材料、圧電単結晶を作製し、同様の評価を行った。得られた結果を図4図5に示す。
【0035】
図4から、本発明例2は、本発明例1と同様に単結晶成長方向の各位置で、チタン酸鉛PbTiO3の濃度(mol%)がほぼ一定で、かつ単結晶成長方向の100mm以上に亘って、チタン酸鉛PbTiO3の濃度の変動幅が±0.5mol以下となっている。また、比較例2は、単結晶成長方向で、チタン酸鉛PbTiO3の濃度の変動幅が±0.5molを超えて大きなばらつきを示している。
【0036】
図5から、本発明例2は、単結晶成長方向に沿っての各位置における、圧電定数d33のばらつきが少なく、優れた圧電定数を有する圧電素子を歩留り高く作製できる均一な圧電単結晶インゴットであるといえる。一方、比較例2は、圧電定数d33のばらつきが大きく、優れた圧電特性を有する圧電素子を歩留り高く作製できる圧電単結晶インゴットとなっているとはいえない。
(実施例3)
垂直ブリッジマン法を用いて、Mn添加PMN−PT圧電単結晶インゴットを、実施例1と同様に製造し、本発明例3とした。なお、実施例1と同様に、図1に示す単結晶育成(製造)装置を使用した。
初期原料として、初期原料全量に対する質量%で、9%のMnOと57%のPMNと34%のPTとを配合し、混合した原料3000gを用いた。なお、供給原料30として、供給原料全量に対する質量%で4%のMnOと67%のPMNと29%のPTとを配合し混合したものを用いた。供給原料30は、最大粒径で3mm以下のものとした。なお、粒径は、ふるい分け法により測定した。
【0037】
これらの原料を使用し、本発明例1と同様の方法で、圧電単結晶インゴットを製造し、このインゴットから圧電単結晶素子材料、圧電単結晶素子を作製し、実施例1と同様の評価を行った。なお、供給原料30は、同様の組成で、最大粒径3〜4mmの原料を使用し、圧電単結晶インゴット(比較例3)を製造し、このインゴットから、圧電単結晶材料、圧電単結晶を作製し、同様の評価を行った。得られた結果を図6図7に示す。
【0038】
図6から、本発明例3は、本発明例1と同様に単結晶成長方向の各位置で、チタン酸鉛PbTiO3の濃度(mol%)がほぼ一定で、かつ単結晶成長方向の100mm以上に亘って、チタン酸鉛PbTiO3の濃度の変動幅が±0.5mol以下となっている。また、比較例3は、単結晶成長方向で、チタン酸鉛PbTiO3の濃度の変動幅が±0.5molを超えて大きなばらつきを示している。
【0039】
図7から、本発明例3は、単結晶成長方向に沿っての各位置における、圧電定数d33のばらつきが少なく、優れた圧電定数を有する圧電素子を歩留り高く作製できる均一な圧電単結晶インゴットであるといえる。一方、比較例3は、圧電定数d33のばらつきが大きく、優れた圧電特性を有する圧電素子を歩留り高く作製できる圧電単結晶インゴットとなっているとはいえない。
【符号の説明】
【0040】
1 圧電単結晶インゴット
10 単結晶育成(製造)装置
20 育成坩堝
30 供給原料
40 融液層
50 ヒーター(熱源)
60 昇降機構
70 サブ坩堝
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7