特許第6787922号(P6787922)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友電気工業株式会社の特許一覧 ▶ 住友電工プリントサーキット株式会社の特許一覧

特許6787922プリント配線板用ベースフィルム、プリント配線板用原板及びプリント配線板用原板の製造方法
<>
  • 特許6787922-プリント配線板用ベースフィルム、プリント配線板用原板及びプリント配線板用原板の製造方法 図000004
  • 特許6787922-プリント配線板用ベースフィルム、プリント配線板用原板及びプリント配線板用原板の製造方法 図000005
  • 特許6787922-プリント配線板用ベースフィルム、プリント配線板用原板及びプリント配線板用原板の製造方法 図000006
  • 特許6787922-プリント配線板用ベースフィルム、プリント配線板用原板及びプリント配線板用原板の製造方法 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6787922
(24)【登録日】2020年11月2日
(45)【発行日】2020年11月18日
(54)【発明の名称】プリント配線板用ベースフィルム、プリント配線板用原板及びプリント配線板用原板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 1/03 20060101AFI20201109BHJP
   H05K 3/00 20060101ALI20201109BHJP
   H05K 3/38 20060101ALI20201109BHJP
   B32B 15/088 20060101ALI20201109BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20201109BHJP
【FI】
   H05K1/03 610N
   H05K3/00 R
   H05K3/38 A
   B32B15/088
   C08G73/10
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-552670(P2017-552670)
(86)(22)【出願日】2016年11月22日
(86)【国際出願番号】JP2016084644
(87)【国際公開番号】WO2017090625
(87)【国際公開日】20170601
【審査請求日】2019年5月21日
(31)【優先権主張番号】特願2015-230743(P2015-230743)
(32)【優先日】2015年11月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】500400216
【氏名又は名称】住友電工プリントサーキット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 佳世
(72)【発明者】
【氏名】岡 良雄
(72)【発明者】
【氏名】春日 隆
(72)【発明者】
【氏名】岡本 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】木村 淳
(72)【発明者】
【氏名】上田 宏
【審査官】 原田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/079717(WO,A1)
【文献】 特開2012−018946(JP,A)
【文献】 特開2006−287217(JP,A)
【文献】 特開2009−158727(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 1/03
H05K 3/00
H05K 3/38
B32B 15/088
C08G 73/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミドを主成分とするプリント配線板用ベースフィルムであって、
上記ベースフィルムの表面の赤外全反射吸収測定法による入射角45°での吸収強度スペクトルにおける波数1494cm−1付近のピーク強度に対する波数1705cm−1付近のピーク強度の比が0.50以上1.10以下であり、
波数1597cm−1付近のピークを有するプリント配線板用ベースフィルム。
【請求項2】
請求項1に記載のプリント配線板用ベースフィルムと、
上記プリント配線板用ベースフィルムの上記表面に積層される金属層と
を備えるプリント配線板用原板。
【請求項3】
上記金属層が金属粒子の焼結体層を含む請求項2に記載のプリント配線板用原板。
【請求項4】
ポリイミドを主成分とするベースフィルムと、
上記ベースフィルム上に積層される金属層と
を備えるプリント配線板用原板の製造方法であって、
上記ベースフィルムの表面をアルカリ処理する工程と、
上記アルカリ処理工程後の上記ベースフィルムの上記表面の赤外全反射吸収測定法による入射角45°での吸収強度スペクトルを測定する工程と、
上記測定工程で得られる吸収強度スペクトルにおける波数1705cm−1付近のピーク強度又は波数1597cm−1付近のピーク強度の他のピーク強度に対する比が予め設定される範囲内にあるものを判別する工程と、
上記判別工程で判別された上記ベースフィルムの上記表面に金属層を積層する工程と
を備えるプリント配線板用原板の製造方法。
【請求項5】
上記判別工程で、波数1494cm−1付近のピーク強度に対する波数1705cm−1付近のピーク強度の比が0.50以上1.10以下であるものを判別する請求項4に記載のプリント配線板用原板の製造方法。
【請求項6】
上記積層工程が、上記ベースフィルムの上記表面への金属粒子分散液の塗布及び加熱を行う工程を有する請求項4又は請求項5に記載のプリント配線板用原板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板用ベースフィルム、プリント配線板用原板及びプリント配線板用原板の製造方法に関する。
本出願は、2015年11月26日出願の日本出願第2015−230743号に基づく優先権を主張し、上記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば樹脂等で形成される絶縁性のベースフィルムの表面に、例えば金属等で形成される金属層が積層され、この金属層をエッチングすることで導電パターンを形成してプリント配線板を得るためのプリント配線板用原板が広く使用されている。
【0003】
このようなプリント配線板用原板を使用して形成したプリント配線板に曲げ応力が作用した際に、ベースフィルムから金属層が剥離しないよう、ベースフィルムと金属層との剥離強度が大きいプリント配線板用原板が求められている。
【0004】
また、近年、電子機器の小型化及び高性能化に伴い、プリント配線板の高密度化が要求されている。高密度化されたプリント配線板は、導電パターンの微細化に伴って導電パターンがベースフィルムから剥離し易くなる。そのため、このような高密度化の要求を満たすプリント配線板用原板として、微細な導電パターンが形成できると共に金属層及びベースフィルム間の密着性に優れたプリント配線板用原板が求められている。
【0005】
このような要求に対し、ベースフィルムの表面に、例えばスパッタリング法等を用いて銅薄膜層を形成し、その上に電気めっき法を用いて銅厚膜層を形成することで、金属層とベースフィルムとの間の密着力を大きくする技術が公知である。しかし、ベースフィルムに金属層を直接積層した場合、時間経過と共に、金属層の主金属原子がベースフィルム中に拡散し、金属層とベースフィルムとの間の密着性を低下させることが知られている。
【0006】
そこで、銅箔のベースフィルムに対する接合面にスパッタリングによってクロムの薄膜を蒸着し、ベースフィルムに対して熱圧着する技術が提案されている(特開2000−340911号公報参照)。このように、金属層とベースフィルムとの界面に金属層の主金属とは異なる種類の金属の薄膜を介在させることによって、金属層の主金属のベースフィルムへの移動を阻害し、金属層の主金属原子のベースフィルムへの拡散による金属層とベースフィルムとの間の密着性の低下を抑制する効果が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−340911号公報
【発明の概要】
【0008】
本発明の一態様に係るプリント配線板用ベースフィルムは、ポリイミドを主成分とするプリント配線板用ベースフィルムであって、このベースフィルムの表面の赤外全反射吸収測定法による入射角45°での吸収強度スペクトルにおける波数1494cm−1付近のピーク強度に対する波数1705cm−1付近のピーク強度の比が0.50以上1.10以下であるプリント配線板用ベースフィルムである。
【0009】
また、本発明の別の態様に係るプリント配線板用原板の製造方法は、ポリイミドを主成分とするベースフィルムと、このベースフィルム上に積層される金属層とを備えるプリント配線板用原板の製造方法であって、上記ベースフィルムの表面をアルカリ処理する工程と、上記アルカリ処理工程後のベースフィルムの上記表面の赤外全反射吸収測定法による入射角45°での吸収強度スペクトルを測定する工程と、上記測定工程で得られる吸収強度スペクトルにおける波数1705cm−1付近のピーク強度又は波数1597cm−1付近のピーク強度の他のピーク強度に対する比が予め設定される範囲内にあるものを判別する工程と、上記判別工程で判別されたベースフィルムの上記表面に金属層を積層する工程とを備えるプリント配線板用原板の製造方法である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の一実施形態のプリント配線板用原板を示す模式的断面図である。
図2図2は、図1のプリント配線板用原板の詳細な模式的断面図である。
図3図3は、図2のプリント配線板用原板の製造方法の手順を示すフローチャートである。
図4図4は、プリント配線板用原板の試作品の赤外全反射吸収測定法による吸収強度スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本開示が解決しようとする課題]
上記の銅箔の表面にスパッタリング法を用いてクロムの薄膜を形成する技術は真空設備を必要とし、設備の建設、維持、運転等におけるコストが高くなる。また設備面において、基板のサイズを大きくすることに限界がある。
【0012】
本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、比較的安価でベースフィルムと金属層との間の密着力に優れるプリント配線板用ベースフィルム、プリント配線板用原板及びプリント配線板用原板の製造方法を提供することを課題とする。
【0013】
[本開示の効果]
本発明の一態様に係るプリント配線板用ベースフィルム及びプリント配線板用原板は、比較的安価でベースフィルムと金属層との間の密着力に優れる。また、本発明の一態様に係るプリント配線板用原板の製造方法は、比較的安価でベースフィルムと金属層との間の密着力に優れるプリント配線板用原板を製造できる。
【0014】
[本発明の実施形態の説明]
本発明の一態様に係るプリント配線板用ベースフィルムは、ポリイミドを主成分とするプリント配線板用ベースフィルムであって、このベースフィルムの表面の赤外全反射吸収測定法による入射角45°での吸収強度スペクトルにおける波数1494cm−1付近のピーク強度に対する波数1705cm−1付近のピーク強度の比が0.50以上1.10以下であるプリント配線板用ベースフィルムである。
【0015】
赤外全反射吸収測定法によるベースフィルム表面の吸収強度スペクトルにおいて、波数1705cm−1付近のピークはポリイミドのイミド結合のカルボニル基によって得られ、波数1494cm−1付近のピークはイミド結合間のベンゼン環によって得られる。従って、当該プリント配線板用ベースフィルムは、上記赤外全反射吸収測での波数1494cm−1付近のピーク強度に対する波数1705cm−1付近のピーク強度の比を上記範囲内としたことによって、つまりポリイミドのイミド結合間のベンゼン環の数に対するイミド結合のカルボニル基の数の比が一定の範囲内である。つまり、当該プリント配線板用ベースフィルムは、イミド環の開環率が一定の範囲内であるため、イミド環が開環した部分に金属層の金属原子が比較的結合し易く、かつイミド環の開環に起因する強度低下が比較的小さい。従って、当該プリント配線板用ベースフィルムに金属層を積層した場合、金属層の剥離強度が比較的大きく、金属層との間の密着力に優れる。なお、「主成分」とは、最も多く含まれる成分であり、例えば含有量が50質量%以上の成分をいう。また、「赤外全反射吸収測定法」とは、ダイヤモンドプリズムを用いた1回反射ATR(Attenuated Total Reflection)測定装置を用いた測定方法を意味する。また、吸収強度スペクトルにおける各波数付近の「ピーク強度」とは、その波数付近での極大値を意味し、測定装置の測定誤差にもよるが、好ましくはその波数の前後8cm−1以内のピークの強度を意味する。
【0016】
本発明の別の態様に係るプリント配線板用原板は、当該プリント配線板用ベースフィルムと、このプリント配線板用ベースフィルムの上記表面に積層される金属層とを備えるプリント配線板用原板である。
【0017】
当該プリント配線板用原板は、金属層との間の密着力に優れる当該プリント配線板用ベースフィルムに金属層を積層したものであるため、金属層の密着力が大きく、この金属層をパターニングして形成される導電パターンの強度が大きく、信頼性が高いプリント配線板を製造できる。
【0018】
上記金属層が金属粒子の焼結体層を含むとよい。このように、上記金属層が金属粒子の焼結体層を含むことによって、比較的安価に金属層を形成できる。
【0019】
また、本発明のさらに別の態様に係るプリント配線板用原板の製造方法は、ポリイミドを主成分とするベースフィルムと、このベースフィルム上に積層される金属層とを備えるプリント配線板用原板の製造方法であって、上記ベースフィルムの表面をアルカリ処理する工程と、上記アルカリ処理工程後のベースフィルムの上記表面の赤外全反射吸収測定法による入射角45°での吸収強度スペクトルを測定する工程と、上記測定工程で得られる吸収強度スペクトルにおける波数1705cm−1付近のピーク強度又は波数1597cm−1付近のピーク強度の他のピーク強度に対する比が予め設定される範囲内にあるものを判別する工程と、上記判別工程で判別されたベースフィルムの上記表面に金属層を積層する工程とを備えるプリント配線板用原板の製造方法である。
【0020】
赤外全反射吸収測定法によるベースフィルム表面の吸収強度スペクトルにおいて、波数1705cm−1付近のピークはイミド結合のカルボニル基によって得られ、波数1597cm−1付近のピークはイミド環が開環した部分(例えばイミド環の開環により形成されるCOOH又はCOONa)のカルボニル基によって得られる。従って、吸収強度スペクトルの波数1705cm−1付近のピーク強度又は波数1597cm−1付近のピーク強度の他のピーク強度に対する比によってベースフィルムの良否を判別する判別工程を備える当該プリント配線板用原板の製造方法は、イミド環の開環率が一定の範囲内にあるベースフィルムだけを使用することができる。このため、当該プリント配線板用原板の製造方法によって得られるプリント配線板用原板は、ベースフィルムと金属層との密着性(剥離強度)が比較的大きい。
【0021】
上記判別工程で、波数1494cm−1付近のピーク強度に対する波数1705cm−1付近のピーク強度の比が0.50以上1.10以下であるものを判別するとよい。ポリイミドの赤外全反射吸収測定法による吸収強度スペクトルにおいて波数1494cm−1付近のピーク及び波数1705cm−1付近のピークは比較的判別が容易である。従って、上記判別工程で、波数1494cm−1付近のピーク強度に対する波数1705cm−1付近のピーク強度の比が上記範囲内であるものを判別することによって、イミド環の開環率が一定の範囲内であるベースフィルムをより確実に判別できる。これによって、イミド環が開環した部分に金属層の金属原子が比較的結合し易く、かつ強度低下が比較的小さいベースフィルムを用いて、金属層の密着性が比較的大きいプリント配線板用原板をより確実に得ることができる。
【0022】
上記積層工程が、ベースフィルムの上記表面への金属粒子分散液の塗布及び加熱を行う工程を有するとよい。このように、上記積層工程が、ベースフィルムの上記表面への金属粒子分散液の塗布及び加熱により金属粒子の焼結体層を形成する工程を有することによって、大規模な設備を必要とせず、比較的簡単かつ安価にベースフィルムの表面に金属層を積層することができる。
【0023】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、本発明に係るプリント配線板用ベースフィルム、プリント配線板用原板及びプリント配線板用原板の製造方法の各実施形態について図面を参照しつつ詳説する。
【0024】
[プリント配線板用ベースフィルム]
本発明の一実施形態のプリント配線板用ベースフィルムは、ポリイミドを主成分とするプリント配線板用ベースフィルムである。また、当該プリント配線板用ベースフィルムは、その表面が改質されて、ポリイミドのイミド環の一部が開環している。このような改質は、例えばアルカリ処理、プラズマ処理等の処理方法によって行うことができる。
【0025】
(ポリイミド)
当該プリント配線板用ベースフィルムの主成分とされるポリイミドとしては、熱硬化性ポリイミド(縮合型ポリイミドともいう)又は熱可塑性ポリイミドを用いることができる。この中でも、耐熱性、引張強度、引張弾性率等の観点から熱硬化性ポリイミドが好ましい。
【0026】
上記ポリイミドは、1種の構造単位からなる単独重合体であっても2種以上の構造単位からなる共重合体であってもよいし、2種類以上の単独重合体をブレンドしたものであっても良いが、下記式(1)で表される構造単位を有するものが好ましい。
【0027】
【化1】
【0028】
上記式(1)で表される構造単位は、例えばピロメリット酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとを用いてポリイミド前駆体であるポリアミド酸を合成し、これを加熱等によりイミド化することで得られる。
【0029】
上記構造単位の含有量の下限としては、10質量%が好ましく、15質量%がより好ましく、18質量%がさらに好ましい。一方、上記構造単位の含有量の上限としては、50質量%が好ましく、40質量%がより好ましく、35質量%がさらに好ましい。上記構造単位の含有量が上記下限に満たない場合、当該プリント配線板用ベースフィルムの強度が不十分となるおそれがある。逆に、上記構造単位の含有量が上記上限を超える場合、当該プリント配線板用ベースフィルムの可撓性が不十分となるおそれがある。
【0030】
(赤外全反射吸収測定)
当該プリント配線板用ベースフィルムの上記表面の赤外全反射吸収測定法による入射角45°での吸収強度スペクトルにおける波数1494cm−1付近のピーク強度に対する波数1705cm−1付近のピーク強度の比の下限としては、0.50であり、0.60が好ましく、0.70がより好ましい。一方、上記吸収強度スペクトルにおける波数1494cm−1付近のピーク強度に対する波数1705cm−1付近のピーク強度の比の上限としては、1.10であり、1.05が好ましく、1.00がより好ましい。上記吸収強度スペクトルにおける波数1494cm−1付近のピーク強度に対する波数1705cm−1付近のピーク強度の比が上記下限に満たない場合、イミド環の開環率が高過ぎてベースフィルムの強度が不十分となるおそれがある。逆に、上記吸収強度スペクトルにおける波数1494cm−1付近のピーク強度に対する波数1705cm−1付近のピーク強度の比が上記上限を超える場合、イミド環の開環率が低く、金属層の密着力を十分に向上できないおそれがある。
【0031】
上記吸収強度スペクトルにおける波数1494cm−1付近のピーク強度に対する波数1705cm−1付近のピーク強度の比について詳しく説明すると、上記吸収強度スペクトルにおける波数1494cm−1付近のピーク強度は、ベンゼン環の数を示すピーク強度であり、ポリイミドのイミド環を開環した場合にも変化しない値である。一方、上記吸収強度スペクトルにおける波数1705cm−1付近のピーク強度は、イミド結合のカルボニル基の伸縮振動に対応するものであり、イミド結合のカルボニル基の数を示すピーク強度であり、ポリイミドのイミド環が開環されることによって減少する値である。従って、上記吸収強度スペクトルにおける波数1494cm−1付近のピーク強度に対する波数1705cm−1付近のピーク強度の比は、ポリイミドのイミド環の開環率を示す指標として用いることができる。
【0032】
当該プリント配線板用ベースフィルムは、上記吸収強度スペクトルにおける波数1494cm−1付近のピーク強度に対する波数1705cm−1付近のピーク強度の比が上記範囲内であることによって、イミド環が開環した部分に金属層の金属原子が比較的結合し易く、かつ強度低下が比較的小さい。従って、当該プリント配線板用ベースフィルムに金属層を積層した場合、金属層の剥離強度が比較的大きく、金属層との間の密着力に優れる。
【0033】
また、上記赤外全反射吸収測定法による入射角45°での吸収強度スペクトルにおいて、イミド環が開環した部分のカルボニル基は、その振動の周期が変化することにより、波数1597cm−1付近のピークを形成する。当該プリント配線板用ベースフィルムにおいてイミド環の開環は、例えば水酸化ナトリウム水溶液を用いたアルカリ処理によって行われる。この場合、水酸化ナトリウム水溶液を用いてイミド環を開環した部分には、カルボニル基の一方に水素が結合したCOOH(カルボキシ基)又はカルボニル基の一方にナトリウムが結合したCOONaが生成される。なお、イミド環が開環した部分のカルボニル基が形成するピークの波数は、そのカルボニル基の末端に結合する原子の種類によらず略一定である。
【0034】
従って、水酸化ナトリウム水溶液を用いたアルカリ処理をしたベースフィルムでは、上記吸収強度スペクトルにおけるイミド結合のカルボニル基による波数1705cm−1付近のピーク強度に対するイミド環が開環した部分のカルボニル基による波数1597cm−1付近のピーク強度の比も、ポリイミドのイミド環の開環率を示す指標として用いることができる。上記吸収強度スペクトルにおける波数1705cm−1付近のピーク強度に対する波数1597cm−1付近のピーク強度の比の下限としては、0.40が好ましく、0.45がより好ましい。一方、上記吸収強度スペクトルにおける波数1705cm−1付近のピーク強度に対する波数1597cm−1付近のピーク強度の比の上限としては、0.90が好ましく、0.70がより好ましい。上記吸収強度スペクトルにおける波数1705cm−1付近のピーク強度に対する波数1597cm−1付近のピーク強度の比が上記下限に満たない場合、イミド環の開環率が低いために金属層の密着力を十分に向上できないおそれがある。逆に、上記吸収強度スペクトルにおける波数1705cm−1付近のピーク強度に対する波数1597cm−1付近のピーク強度の比が上記上限を超える場合、イミド環の開環率が高過ぎてベースフィルムの強度が不十分となるおそれがある。
【0035】
上記吸収強度スペクトルにおける波数1494cm−1付近のピーク強度に対する波数1597cm−1付近のピーク強度の比の下限としては、0.40が好ましく、0.45がより好ましい。一方、上記吸収強度スペクトルにおける波数1494cm−1付近のピーク強度に対する波数1597cm−1付近のピーク強度の比の上限としては、0.60が好ましく、0.50がより好ましい。上記吸収強度スペクトルにおける波数1494cm−1付近のピーク強度に対する波数1597cm−1付近のピーク強度の比が上記下限に満たない場合、イミド環の開環率が低く、金属層の密着力を十分に向上できないおそれがある。逆に、上記吸収強度スペクトルにおける波数1494cm−1付近のピーク強度に対する波数1597cm−1付近のピーク強度の比が上記上限を超える場合、イミド環の開環率が高過ぎてベースフィルムの強度が不十分となるおそれがある。
【0036】
<利点>
当該プリント配線板用ベースフィルムは、上記吸収強度スペクトルにおける波数1494cm−1付近のピーク強度に対する波数1705cm−1付近のピーク強度の比が上記範囲内であることによって、ポリイミドのイミド環の開環率が好ましい範囲内となる。このため、当該プリント配線板用ベースフィルムに金属層を積層した場合、金属層の剥離強度が比較的大きく、金属層との間の密着力に優れる。
【0037】
[プリント配線板用原板]
本発明の一実施形態のプリント配線板用原板は、図1に示すように、上述の当該プリント配線板用ベースフィルム1と、このプリント配線板用ベースフィルム1の表面(改質されている面)に積層される金属層2とを備える。
【0038】
当該プリント配線板用原板は、上述のように、金属層2が積層される面のポリイミドのイミド環が一定範囲の割合で開環されているので、ベースフィルム1と金属層2との密着性(剥離強度)が比較的大きい。
【0039】
<ベースフィルム>
ベースフィルム1の構成については、上述の通りであるが、当該プリント配線板用原板のベースフィルム1の赤外全反射吸収測定は、酸性溶液を用いたエッチングにより金属層2を除去することによって可能となる。
【0040】
(エッチング方法)
金属層2を除去するためのエッチングに用いる酸性溶液としては、一般的に導電層除去に用いられる酸性のエッチング液を使用でき、例えば塩化銅溶液、塩酸、硫酸、王水等が挙げられる。
【0041】
エッチング時の上記エッチング液の温度の下限としては、10℃が好ましく、20℃がより好ましい。一方、上記エッチング液の温度の上限としては、90℃が好ましく、70℃がより好ましい。上記エッチング液の温度が上記下限に満たない場合、エッチングに要する時間が長くなり、作業性が低下するおそれがある。逆に、上記エッチング液の温度が上記上限を超える場合、温度調節のためのエネルギーコストが不必要に増加するおそれがある。
【0042】
上記エッチング時間の下限としては、1分が好ましく、10分がより好ましい。一方、上記エッチング時間の上限としては、60分が好ましく、30分がより好ましい。上記エッチング時間が上記下限に満たない場合、エッチング液の濃度が高くなり取扱い難くなるおそれがある。逆に、上記エッチング時間が上記上限を超える場合、作業性が低下するおそれがある。
【0043】
<金属層>
当該プリント配線板用原板において、金属層2は、金属粒子の焼結体層を含んでもよい。金属粒子の焼結体層は、真空設備等の大がかりな装置を必要とせず、比較的容易かつ安価に形成することができるので、金属粒子の焼結体層を設けることで当該プリント配線板用原板の製造コストを抑制することができる。
【0044】
具体的には、金属層2は、例えば図2に示すように、複数の金属粒子を焼結することによって、ベースフィルム1の表面に積層される焼結体層3と、この焼結体層3の表面に無電解めっきにより積層される無電解めっき層4と、この無電解めっき層4の表面に電気めっきによりさらに積層される電気めっき層5とを有する構成とすることができる。
【0045】
金属層2の主金属としては、例えば銅(Cu)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、金(Au)又は銀(Ag)等を用いることができる。この中でも、導電性がよく、ベースフィルム1との密着性に優れると共に、エッチングによるパターニングが容易で比較的安価な金属として、銅が好適に使用される。また、金属層2の主金属が銅である場合、ベースフィルム1のポリイミドのイミド環の開環による密着力低下の抑制効果が顕著となる。
【0046】
(焼結体層)
焼結体層3は、ベースフィルム1の改質された面への上記金属層2の主金属となる金属を主成分とする複数の金属粒子を含む金属粒子分散液(インク)の塗工及び焼成によって、ベースフィルム1の表面に積層することができる。このように、金属粒子分散液を用いることで、ベースフィルム1の表面に容易かつ安価に金属層2を形成することができる。
【0047】
焼結体層3を形成する金属粒子の平均粒子径の下限としては、1nmが好ましく、30nmがより好ましい。一方、上記金属粒子の平均粒子径の上限としては、500nmが好ましく、100nmがより好ましい。上記金属粒子の平均粒子径が上記下限に満たない場合、例えば上記金属粒子分散液中での金属粒子の分散性及び安定性が低下することにより、ベースフィルム1の表面に均一に積層することが容易でなくなるおそれがある。逆に、上記金属粒子の平均粒子径が上記上限を超える場合、金属粒子間の隙間が大きくなり、焼結体層3の空隙率を小さくすることが容易でなくなるおそれがある。なお、「平均粒子径」とは、レーザー回折法により測定される粒子径の分布において体積積算値が50%となる粒子径を意味する。
【0048】
焼結体層3の平均厚さの下限としては、50nmが好ましく、100nmがより好ましい。一方、焼結体層3の平均厚さの上限としては、2μmが好ましく、1.5μmがより好ましい。焼結体層3の平均厚さが上記下限に満たない場合、平面視で金属粒子が存在しない部分が多くなり導電性が低下するおそれがある。逆に、焼結体層3の平均厚さが上記上限を超える場合、焼結体層3の空隙率を十分低下させることが困難となるおそれや、金属層2が不必要に厚くなるおそれがある。
【0049】
(無電解めっき層)
無電解めっき層4は、焼結体層3の外面に無電解めっきを施すことにより、焼結体層3を形成する金属粒子の主金属と同一の金属を積層して形成される。また、無電解めっき層4は、焼結体層3の内部に含浸するよう形成されている。つまり、焼結体層3を形成する金属粒子間の隙間に無電解めっきにより主金属が充填されることにより、焼結体層3の内部の空隙を減少させている。このように、無電解めっき金属が金属粒子間の隙間に充填されることによって、金属粒子間の空隙を減少させることで、空隙が破壊起点となって焼結体層3がベースフィルム1から剥離することを抑制できる。
【0050】
無電解めっき層4は、無電解めっきの条件によっては焼結体層3の内部にのみ形成される場合もある。一般論としては、焼結体層3の外面に形成される無電解めっき層4の平均厚さ(焼結体層3の内部のめっき金属の厚さを含まない)の下限としては、0.2μmが好ましく、0.3μmがより好ましい。一方、焼結体層3の外面に形成される無電解めっき層4の平均厚さの上限としては、1μmが好ましく、0.7μmがより好ましい。焼結体層3の外面に形成される無電解めっき層4の平均厚さが上記下限に満たない場合、無電解めっき層4が焼結体層3の金属粒子の隙間に十分に充填されず、空隙率を十分に低減できないことからベースフィルム1と金属層2との剥離強度が不十分となるおそれがある。逆に、焼結体層3の外面に形成される無電解めっき層4の平均厚さが上記上限を超える場合、無電解めっきに要する時間が長くなり製造コストが増大するおそれがある。
【0051】
(電気めっき層)
電気めっき層5は、焼結体層3の外面側、つまり無電解めっき層4の外面に電気めっきにより上記主金属をさらに積層することで形成される。この電気めっき層5によって、金属層2の厚さを容易かつ正確に調節することができる。また、電気めっきを用いることにより、金属層2の厚さを短時間で大きくすることが可能である。
【0052】
電気めっき層5の厚さは、当該プリント配線板用原板を用いて形成するプリント配線板に必要とされる導電パターンの種類や厚さに応じて設定されるものであって、特に限定されない。一般的には、電気めっき層5の平均厚さの下限としては、1μmが好ましく、2μmがより好ましい。一方、電気めっき層5の平均厚さの上限としては、100μmが好ましく、50μmがより好ましい。電気めっき層5の平均厚さが上記下限に満たない場合、金属層2が損傷し易くなるおそれがある。逆に、電気めっき層5の平均厚さが上記上限を超える場合、当該プリント配線板用原板が不必要に厚くなるおそれや、当該プリント配線板用原板の可撓性が不十分となるおそれがある。
【0053】
<利点>
当該プリント配線板用原板は、上述のように、ポリイミドのイミド環が一定範囲の割合で開環されているベースフィルム1を使用するので、ベースフィルム1と金属層2との密着性(剥離強度)が比較的大きい。従って、当該プリント配線板用原板の金属層2をパターニングして形成されるプリント配線板は、導電パターンの剥離強度が比較的大いため、信頼性が比較的高いものとなる。
【0054】
[プリント配線板用原板の製造方法]
当該プリント配線板用原板は、具体例として、図3に示すように、ポリイミドを主成分とするベースフィルム1の表面をアルカリ処理する工程(ステップS1:アルカリ処理工程)と、このアルカリ処理工程後のベースフィルム1の上記表面(アルカリ処理した面)の赤外全反射吸収測定法による吸収強度スペクトルを測定する工程(ステップS2:測定工程)と、この測定工程で得られる吸収強度スペクトルにおける波数1705cm−1付近のピーク強度又は波数1597cm−1付近のピーク強度の他のピーク強度に対する比が予め設定される範囲内にあるものを判別する工程(ステップS3:判別工程)と、この判別工程で判別されたベースフィルム1の上記表面(アルカリ処理した面)に金属層を積層する工程(ステップS4:積層工程)とを備える方法によって製造することができる。
【0055】
<アルカリ処理工程>
ステップS1のアルカリ処理工程では、ベースフィルム1の金属層2を積層する予定の面にアルカリ液を接触させることによって、ベースフィルム1の主成分であるポリイミドのイミド環の一部を開環する。
【0056】
このアルカリ処理工程で用いるアルカリ液としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、水酸化カルシウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化リチウム、モノエタノールアミン等の水溶液やこれらと過酸化水素との水溶液などが挙げられる。このうち、水酸化ナトリウム水溶液が好ましく用いられる。
【0057】
アルカリ処理工程で用いるアルカリ液のpHとしては、例えば12以上15以下とすることができる。また、ベースフィルム1のアルカリ液との接触時間としては、例えば15秒以上10分以下とすることができる。アルカリ液の温度としては、例えば10℃以上70℃以下とすることができる。
【0058】
アルカリ処理工程は、ベースフィルム1を水洗いする水洗工程を有することが好ましい。この水洗工程では、ベースフィルム1を水洗いして、ベースフィルム1の表面に付着しているアルカリ液を除去する。また、アルカリ処理工程は、水洗工程に洗浄水を乾燥する乾燥工程を有することがさらに好ましい。ベースフィルム1中の水分を蒸発させることによって、ベースフィルム1内のイオンを金属や金属酸化物として析出させたり、ベースフィルム1の樹脂成分等と結合させることによって、ベースフィルム1の品質を安定化することができる。
【0059】
<測定工程>
ステップS2の測定工程では、ダイヤモンドプリズムを用いた1回反射ATR(Attenuated Total Reflection)測定装置を使用して、赤外全反射吸収測定法により、ベースフィルム1のアルカリ処理した面の入射角45°での赤外線吸収強度スペクトルを測定する。この吸収強度スペクトルの測定は、アルカリ処理したベースフィルム1の一部をサンプリングして行えばよい。
【0060】
<判別工程>
ステップS3の判別工程では、上記測定工程で得られる吸収強度スペクトルにおいて、イミド結合のカルボニル基によって得られる波数1705cm−1付近のピーク強度又はイミド環が開環した部分(例えばCOOH又はCOONa)のカルボニル基によって得られる波数1597cm−1付近のピーク強度と、他のピークの強度との比を算出し、この比が予め設定される範囲内であるベースフィルム1を良品とし、算出した比が設定範囲外であるベースフィルム1を除外する。
【0061】
上記他のピークとの強度の比を算出するピークとしては、比較的ピークが明確となる波数1705cm−1付近のピークが好ましい。また、他のピークとしては、ピーク強度が比較的大きく、かつアルカリ処理によって値が変化しないピークが好ましく、ポリイミドのイミド結合間のベンゼン環に対応する波数1494cm−1付近のピークが特に好ましい。しかしながら、他のピークとして、アルカリ処理によって、イミド環の開環と対応して値が変化するピークを採用することができる。このように値が変化するピークとしては、波数1705cm−1に対して波数1597cm−1付近のピークを用いてもよく、波数1597cm−1に対して波数1705cm−1付近のピークを用いてもよい。
【0062】
このようなピーク強度の比の範囲としては、プリント配線板用ベースフィルムについて説明した通りである。
【0063】
<積層工程>
ステップS4の積層工程では、上記判別工程で上記ピーク強度の比が予め設定される範囲内であったベースフィルム1の表面に金属層を積層する。この積層工程は、複数の金属粒子を含む金属粒子分散液の塗布及び加熱により焼結体層3を形成する工程(焼結体層形成工程)を有することが、比較的安価に金属層を形成できる点で好ましい。また、積層工程は、無電解めっきにより無電解めっき層4を形成する工程(無電解めっき層形成工程)と、電気めっきにより電気めっき層5を形成する工程(電気めっき層形成工程)とを有することが好ましい。
【0064】
(焼結体層形成工程)
この焼結体層形成工程で用いる金属粒子分散液としては、金属粒子の分散媒と、この分散媒中に金属粒子を均一に分散させる分散剤とを含むものが好適に使用される。このように均一に金属粒子が分散する金属粒子分散液を用いることで、ベースフィルム1の表面に金属粒子を均一に付着させることができ、ベースフィルム1の表面に均一な焼結体層3を形成することができる。
【0065】
上記金属粒子分散液に含まれる金属粒子は、高温処理法、液相還元法、気相法等で製造することができるが、粒子径が均一な粒子を比較的安価に製造できる液相還元法により製造されるものを使用することが好ましい。
【0066】
上記金属粒子分散液に含まれる分散剤としては、特に限定されないが、分子量が2,000以上300,000以下の高分子分散剤を用いることが好ましい。このように、分子量が上記範囲の高分子分散剤を用いることで、金属粒子を分散媒中に良好に分散させることができ、得られる焼結体層3の膜質を緻密でかつ欠陥のないものにすることができる。上記分散剤の分子量が上記下限に満たない場合、金属粒子の凝集を防止して分散を維持する効果が十分に得られないおそれがあり、その結果、ベースフィルム1に積層される焼結体層3を緻密で欠陥の少ないものにできないおそれがある。逆に、上記分散剤の分子量が上記上限を超える場合、分散剤の嵩が大き過ぎ、金属粒子分散液の塗布後に行う加熱時に、金属粒子同士の焼結を阻害してボイドを生じさせるおそれがある。また、分散剤の嵩が大き過ぎると、焼結体層3の膜質の緻密さが低下したり、分散剤の分解残渣が導電性を低下させるおそれがある。
【0067】
上記分散剤は、部品の劣化防止の観点より、硫黄、リン、ホウ素、ハロゲン元素及びアルカリ金属を含まないものが好ましい。好ましい分散剤としては、分子量が上記範囲にあるもので、ポリエチレンイミン、ポリビニルピロリドン等のアミン系の高分子分散剤;ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース等の分子中にカルボン酸基を有する炭化水素系の高分子分散剤;ポバール(ポリビニルアルコール)、スチレン−マレイン酸共重合体、オレフィン−マレイン酸共重合体、あるいは1分子中にポリエチレンイミン部分とポリエチレンオキサイド部分とを有する共重合体等の極性基を有する高分子分散剤等を挙げることができる。
【0068】
上記分散剤は、水又は水溶性有機溶媒に溶解した溶液の状態で反応系に添加することもできる。分散剤の含有割合としては、金属粒子100質量部当たり1質量部以上60質量部以下が好ましい。分散剤が金属粒子を取り囲むことで凝集を防止して金属粒子を良好に分散させるが、上記分散剤の含有割合が上記下限に満たない場合、この凝集防止効果が不十分となるおそれがある。逆に、上記分散剤の含有割合が上記上限を超える場合、金属粒子分散液の塗布後の加熱工程において、過剰の分散剤が金属粒子の焼結を阻害してボイドが発生するおそれがあり、また、高分子分散剤の分解残渣が不純物として焼結体層3中に残存して導電性を低下させるおそれがある。
【0069】
金属粒子分散液における分散媒となる水の含有割合としては、金属粒子100質量部当たり20質量部以上1900質量部以下が好ましい。分散媒の水は、分散剤を十分に膨潤させて分散剤で囲まれた金属粒子を良好に分散させるが、上記水の含有割合が上記下限に満たない場合、水によるこの分散剤の膨潤効果が不十分となるおそれがある。逆に、上記水の含有割合が上記上限を超える場合、金属粒子分散液中の金属粒子割合が少なくなり、ベースフィルム1の表面に必要な厚さと密度とを有する良好な焼結体層3を形成できないおそれがある。
【0070】
上記金属粒子分散液に必要に応じて配合する有機溶媒として、水溶性である種々の有機溶媒が使用可能である。その具体例としては、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;エチレングリコール、グリセリン等の多価アルコールやその他のエステル類;エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル類等を挙げることができる。
【0071】
金属粒子分散液における水溶性の有機溶媒の含有割合としては、金属粒子100質量部当たり30質量部以上900質量部以下が好ましい。上記水溶性の有機溶媒の含有割合が上記下限に満たない場合、上記有機溶媒による分散液の粘度調整及び蒸気圧調整の効果が十分に得られないおそれがある。逆に、上記水溶性の有機溶媒の含有割合が上記上限を超える場合、水による分散剤の膨潤効果が不十分となり、金属粒子分散液中で金属粒子の凝集が生じるおそれがある。
【0072】
ベースフィルム1に金属粒子分散液を塗布する方法としては、例えばスピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ダイコート法、スリットコート法、ロールコート法、ディップコート法等の従来公知の塗布方法を用いることができる。また、例えばスクリーン印刷、ディスペンサ等によりベースフィルム1の表面の一部のみに金属粒子分散液を塗布するようにしてもよい。
【0073】
そして、金属粒子分散液をベースフィルム1に塗布した金属粒子分散液の塗膜を加熱する。これにより、金属粒子分散液の溶媒分散剤が蒸発又は熱分解し、残る金属粒子が焼結されてベースフィルム1の表面に固着された焼結体層3が得られる。なお、上記加熱の前に金属粒子分散液の塗膜を乾燥させることが好ましい。
【0074】
上記焼結は、一定量の酸素が含まれる雰囲気下で行うことが好ましい。焼結時の雰囲気の酸素濃度の下限としては、1体積ppmが好ましく、10体積ppmがより好ましい。一方、上記酸素濃度の上限としては、10,000体積ppmが好ましく、1,000体積ppmがより好ましい。上記酸素濃度が上記下限に満たない場合、焼結体層3の界面近傍における金属酸化物の生成量が少なくなり、ベースフィルム1と焼結体層3との密着力を十分に向上できないおそれがある。逆に、上記酸素濃度が上記上限を超える場合、金属粒子が過剰に酸化してしまい焼結体層3の導電性が低下するおそれがある。
【0075】
上記焼結温度の下限としては、150℃が好ましく、200℃がより好ましい。一方、上記焼結温度の上限としては、500℃が好ましく、400℃がより好ましい。上記焼結温度が上記下限に満たない場合、金属粒子間を接続できず、次の無電解めっき層4の形成時に焼結体層3が崩壊するおそれがある。逆に、上記焼結温度が上記上限を超える場合、ベースフィルム1が変形するおそれがある。
【0076】
(無電解めっき層形成工程)
上記無電解めっき層形成工程では、上記焼結体層形成工程でベースフィルム1の表面に積層した焼結体層3の外面に、無電解めっきを施すことにより無電解めっき層4を形成する。
【0077】
なお上記無電解めっきは、例えばクリーナ工程、水洗工程、酸処理工程、水洗工程、プレディップ工程、アクチベーター工程、水洗工程、還元工程、水洗工程等の処理と共に行うことが好ましい。
【0078】
また、無電解めっきにより無電解めっき層4を形成した後、さらに熱処理を行うことが好ましい。無電解めっき層4形成後に熱処理を施すと、焼結体層3のベースフィルム1との界面近傍の金属酸化物等がさらに増加し、ベースフィルム1と焼結体層3との間の密着力がさらに大きくなる。この無電解めっき後の熱処理の温度及び酸素濃度としては、上記焼結体層形成工程における加熱温度及び酸素濃度と同様とすることができる。
【0079】
(電気めっき層形成工程)
電気めっき層形成工程では、無電解めっき層4の外面に、電気めっきによって電気めっき層5を積層する。この電気めっき層形成工程において、金属層3全体の厚さを所望の厚さまで増大させる。
【0080】
この電気めっきは、例えば銅、ニッケル、銀等のめっきする金属に応じた従来公知の電気めっき浴を用いて、かつ適切な条件を選んで、所望の厚さの金属層3が欠陥なく速やかに形成されるように行うことができる。
【0081】
<利点>
当該プリント配線板用原板の製造方法は、ポリイミドを主成分とするベースフィルム1の表面の赤外全反射吸収測定を行う判別工程を備えることによって、ベースフィルム1のポリイミドのイミド環の開環率が一定の範囲内にあるものとすることができる。このため、当該プリント配線板用原板の製造方法によって得られるプリント配線板用原板は、ベースフィルム1と金属層2との密着性(剥離強度)が比較的大きい。
【0082】
[その他の実施形態]
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0083】
当該プリント配線板用原板は、図3の製造方法とは異なる方法で製造されてもよい。具体的には、当該プリント配線板用原板は、ベースフィルムの表面がアルカリ処理によらず例えばプラズマ処理等によって改質されているものであってもよい。
【0084】
さらに、当該プリント配線板用原板は、当該プリント配線板用ベースフィルムに金属層を積層したものあればよく、その詳細構造や積層方法は任意である。具体的には、当該プリント配線板用原板の金属層は、焼結体層、無電解めっき層及び電気めっき層の一又は複数を有しないものであってもよく、例えば当該プリント配線板用ベースフィルムに金属板を熱圧着したものであってもよい。また、当該プリント配線板用ベースフィルムの両面に金属層を積層したものであってもよい。
【実施例】
【0085】
以下、実施例に基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0086】
以下の要領で、市販のポリイミドフィルムの表面をアルカリ処理(一部の試作品は未処理)したベースフィルムに金属層を積層したプリント配線板用原板の試作品No.1〜No.9を作成した。これらのプリント配線板用原板の試作品No.1〜No.9について、アルカリ処理した後の金属層積層前のベースフィルムの表面及び金属層を酸性溶液を用いて除去して露出したベースフィルムの表面の赤外光の吸収強度スペクトルをそれぞれ測定し、波数1494cm−1付近のピーク強度に対する波数1705cm−1付近のピーク強度の比を算出した。また、プリント配線板用原板の試作品No.1〜No.9の金属層の剥離強度をそれぞれ測定した。
【0087】
(ポリイミドフィルム)
試作品No.1〜No.6は、ポリイミドフィルム(ベースフィルム)として、カネカ社のポリイミドシート「アピカルNPI」(平均厚さ25μm)を使用した。一方、試作品No.7〜No.9は、ポリイミドフィルムとして、東レ・デュポン社のポリイミドシート「カプトンENS」(平均厚さ25μm)を使用した。
【0088】
(アルカリ処理)
アルカリ液として、温度40℃、濃度9質量%の水酸化ナトリウム水溶液に、上記ベースフィルムをそれぞれ表1に示す時間浸漬した。
【0089】
(金属層)
金属層は、先ず、ベースフィルムの表面に銅ナノインク(粒径80nmの銅粒子を26質量%含む金属粒子分散液)を塗布及び乾燥し、酸素濃度が100体積ppmの窒素雰囲気で2時間、350℃で焼成して焼結体層を形成した。次に、無電解銅めっきにより平均合計厚さが0.5μmとなるよう銅を積層し、酸素濃度が100体積ppmの窒素雰囲気で2時間、350℃で焼成して無電解めっき層を形成した。さらに、電気銅めっきにより銅を積層して電気めっき層を積層することにより、平均合計厚さ20μmの金属層を形成した。
【0090】
(酸性溶液)
上記金属層の除去は、プリント配線板用原板の各試作品を、温度40℃、濃度4mol/Lの塩化銅エッチング液に、5分浸漬することによって行った。
【0091】
(赤外全反射吸収測定)
赤外全反射吸収測定は、サーモフィッシャーサイエンティフィック社(Thermo Fisher Scientific K.K.)の赤外全反射吸収測定(FT−IR)装置「Nicolet8700」を用い、SensIR Technologies社の1回反射ATRアクセサリ「DuraScope」(ダイヤモンドプリズム)を使用して、入射角45°での測定波数4000〜650cm−1付近の範囲における吸収強度スペクトルを積算回数(スキャン回数)16回としてそれぞれ、分解能を4cm−1に設定して測定した。得られた吸収強度スペクトルから、波数1494cm−1付近のピーク強度に対する波数1705cm−1付近のピーク強度の比を算出した。
【0092】
また、図4に、試作品No.1、No.4及びNo.6のアルカリ処理した後の金属層積層前のベースフィルム表面の吸収強度スペクトルを示す。図示するように、アルカリ処理時間が増加するほど、波数1705cm−1付近のピーク強度は低下し、波数1597cm−1付近のピーク強度は上昇するが、波数1494cm−1付近のピーク強度はほとんど変化していない。絶対値については測定装置等によって変化するおそれがあるが、これらのピーク強度の比を算出することで、ピーク値を正規化することができ、プリント配線板用ベースフィルムと金属層との密着性を確保するための管理項目として使用できると考えられる。
【0093】
(剥離強度)
金属層の剥離強度は、ベースフィルムをたわみ性被着材としてJIS K 6854−2:1999「接着剤−はく離接着強さ試験方法−第2部:180度はく離」に準じた方法により測定した。
【0094】
次の表1に、試作品No.1〜No.9のアルカリ処理時間、アルカリ処理した後の金属層積層前及び金属層除去後のベースフィルム表面の吸収強度スペクトルにおける波数1494cm−1付近のピーク強度に対する波数1705cm−1付近のピーク強度の比、及び剥離強度の測定値を示す。また、上記吸収強度スペクトルの強度比からイミド環の開環率に換算した値(開環率は、アルカリ処理していないもののピーク強度比の場合を0%、ピーク強度比がゼロの場合を100%とした値)を合わせて示す。
【0095】
【表1】
【0096】
表に示すように、波数1494cm−1付近のピーク強度に対する波数1705cm−1付近のピーク強度の比は、金属層積層前のベースフィルムの測定値と金属層除去後のベースフィルムの測定値とで大きく異ならないことが確認された。また、ポリイミドフィルムの種類により、アルカリ処理の時間と剥離強度との関係は大きく異なるものの、吸収強度スペクトルにおける波数1494cm−1付近のピーク強度に対する波数1705cm−1付近のピーク強度の比と剥離強度との間には比較的高い相関関係があることがわかる。具体的には、8N/cm以上の剥離強度を得るためには、波数1494cm−1付近のピーク強度に対する波数1705cm−1付近のピーク強度の比を0.50以上1.10以下とすればよいことが確認できた。
【符号の説明】
【0097】
1 プリント配線板用ベースフィルム
2 金属層
3 焼結体層
4 無電解めっき層
5 電気めっき層
S1 アルカリ処理工程
S2 測定工程
S3 判別工程
S4 積層工程
図1
図2
図3
図4