特許第6788034号(P6788034)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6788034-糖化用原料の製造方法 図000009
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6788034
(24)【登録日】2020年11月2日
(45)【発行日】2020年11月18日
(54)【発明の名称】糖化用原料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 30/02 20060101AFI20201109BHJP
   C08B 30/04 20060101ALI20201109BHJP
   C12P 19/00 20060101ALN20201109BHJP
【FI】
   C08B30/02
   C08B30/04
   !C12P19/00
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-557534(P2018-557534)
(86)(22)【出願日】2017年9月7日
(86)【国際出願番号】JP2017032294
(87)【国際公開番号】WO2018116541
(87)【国際公開日】20180628
【審査請求日】2019年4月23日
(31)【優先権主張番号】特願2016-249982(P2016-249982)
(32)【優先日】2016年12月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】391026210
【氏名又は名称】日本コーンスターチ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武村 翔太
【審査官】 井関 めぐみ
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−148993(JP,A)
【文献】 特開2015−192665(JP,A)
【文献】 特表2015−516157(JP,A)
【文献】 特開2013−188156(JP,A)
【文献】 特開2006−025788(JP,A)
【文献】 CEREAL CHEMISTRY,1996年,Vol.73, No.5,p.632-637,特に要旨、表I-II、図1-10等
【文献】 澱粉科学,1980年,Vol.27, No.4,p.256-270
【文献】 図解 食品加工プロセス,2003年,p.20-23
【文献】 初心者のための食品製造学,2009年,p.94-97
【文献】 澱粉科学ハンドブック,1977年,p.303-308
【文献】 澱粉科学の事典,2003年,p.359-362
【文献】 CEREAL CHEMISTRY,2002年,Vol.79, No.1,p.120-124
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 30/02
C08B 30/04
C12P 19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀物ダストを粉砕する粉砕工程と、
粉砕された前記穀物ダストを亜硫酸含有浸漬液に浸漬する浸漬工程と、
前記粉砕工程及び前記浸漬工程の後に、前記穀物ダストを含む亜硫酸含有浸漬液から蛋白を除去する蛋白除去工程を含む糖化用原料の製造方法。
【請求項2】
前記粉砕工程において、前記穀物ダストは、前記穀物ダストの粒子径のメジアン径のd50の値が500μm以下となるまで粉砕される請求項1に記載の糖化用原料の製造方法。
【請求項3】
前記亜硫酸含有浸漬液は、亜硫酸を前記亜硫酸含有浸漬液に含まれる水の重量に対し20ppm〜2000ppm含有する請求項1又は2に記載の糖化用原料の製造方法。
【請求項4】
前記亜硫酸含有浸漬液は、さらに乳酸を含み、前記乳酸を前記亜硫酸含有浸漬液に含まれる水の重量に対し100ppm〜10000ppm含有する請求項1〜3のいずれか一項に記載の糖化用原料の製造方法。
【請求項5】
前記浸漬工程における前記亜硫酸含有浸漬液の温度は、45℃〜60℃である請求項1〜4のいずれか一項に記載の糖化用原料の製造方法。
【請求項6】
前記浸漬工程において、撹拌機によって粉砕された前記穀物ダストと前記亜硫酸含有浸漬液との撹拌を行う請求項1〜5のいずれか一項に記載の糖化用原料の製造方法。
【請求項7】
前記穀物ダストは、澱粉の製造過程において発生する穀物ダストである請求項1〜6のいずれかに記載の糖化用原料の製造方法。
【請求項8】
前記穀物ダストは、コーンスターチ製造工程において発生する穀物ダストである請求項7に記載の糖化用原料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穀物ダストを原料として、糖化用原料を得る製造方法に関する。
本願は、2016年12月22日に、日本に出願された特願2016−249982号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
糖化用原料の製造方法として、例えば、穀物を亜硫酸浸漬やアルカリ浸漬させることによって、糖化用原料である澱粉(スターチ)を分離し、製造する方法が知られている。
【0003】
特許文献1には、穀物として、米、コーン、小麦、ソルガム又は粟をアルカリ浸漬させることによって、糖化用原料である澱粉を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−242038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
澱粉の製造に使用される穀物には、輸送時における衝撃などによって生じる穀物破砕粒や穀物規格外粒が存在し、澱粉の製造には、この穀物破砕粒や穀物規格外粒が除かれ精選された穀物が使用される。この際に、除かれた穀物破砕粒や穀物規格外粒は、有効的に使用されることはなく、飼料や肥料として処理されている。
【0006】
しかしながら、穀物破砕粒や穀物規格外粒(以下、穀物ダストとする。)は、原材料となる穀物の0.1質量%〜10質量%程度発生するものであり、原材料の割合としては少ないが、例えば、1日当たりの発生量とすると、数十〜数百トン単位で発生するものである。そして、穀物ダストは、穀物ダスト全体に対する澱粉の割合が50質量%以上含有されているものであり、相当量の澱粉が有効的に使用されることなく、飼料や肥料として処理されている。
【0007】
一方、穀物ダストの有効活用のため、穀物ダストを澱粉の製造における亜硫酸浸漬やアルカリ浸漬の浸漬槽に投入し、澱粉の抽出及び分離することも試みられたが、穀物ダストは、浸漬不良や浸漬後の液抜き時の詰まりの原因となり、使い勝手が良くなく、澱粉を有効的に得るためには、複数の処理工程が必要となり、製造コストが嵩む。
【0008】
本発明は、穀物ダストから、簡便にかつ効率よく糖化用原料である澱粉を製造することができる糖化用原料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る糖化用原料の製造方法は、穀物ダストを粉砕する粉砕工程と、粉砕された前記穀物ダストを亜硫酸含有浸漬液に浸漬する浸漬工程と、前記粉砕工程及び前記浸漬工程の後に、前記穀物ダストを含む亜硫酸含有浸漬液から蛋白を除去する蛋白除去工程を含む。
【0010】
本願発明者らは、穀物ダストには、比重の軽い胚芽が殆んど含まれていないことを発見したものである。このため、穀物ダストは、糖化用原料の製造方法において、粉砕した穀物ダストや浸漬工程後の穀物ダストを含む亜硫酸含有浸漬液から胚芽を分離する工程を必要としないことを見出したものである。本発明の糖化用原料の製造方法によれば、穀物ダストは、粉砕した穀物ダストや浸漬工程後の穀物ダストを含む亜硫酸含有浸漬液から胚芽を分離する工程を必要とすることなく澱粉(スターチ)を得ることができるため、簡便に穀物ダストから糖化用原料としての澱粉を得ることができる。また、飼料や肥料として処理されていた穀物ダストを、糖化用原料として有効に使用することができるため、製造コストを抑えて糖化用原料を製造することができる。
【0011】
上記糖化用原料の製造方法において、前記粉砕工程において、前記穀物ダストは、前記穀物ダストの粒子径のメジアン径のd50の値が500μm以下となるまで粉砕されてもよい。これによれば、浸漬工程において、この穀物破砕粒と亜硫酸含有浸漬液との接触を大きくすることができ、穀物ダストから、効率よく糖化用原料としての澱粉を得ることができる。
【0012】
また、上記糖化用原料の製造方法において、前記亜硫酸含有浸漬液は、亜硫酸を前記亜硫酸含有浸漬液に含まれる水の重量に対し20ppm〜2000ppm含有するものとすることができる。これによれば、浸漬工程において、効率よく、澱粉と蛋白との結合を切断することができ、穀物ダストから、より効率よく澱粉を得ることができる。
【0013】
また、上記糖化用原料の製造方法において、前記亜硫酸含有浸漬液は、さらに乳酸を含み、前記乳酸を前記亜硫酸含有浸漬液に含まれる水の重量に対し100ppm〜10000ppm含有するものとすることができる。これによれば、浸漬工程において、澱粉の含有率(歩留り)を高めることができる。
【0014】
また、上記糖化用原料の製造方法において、前記浸漬工程における前記亜硫酸含有浸漬液の温度は、45℃〜60℃であるとすることができる。これによれば、浸漬工程において、穀物ダストの中の澱粉と蛋白との結合を効率よく切断することができるため、より効率よく糖化用原料としての澱粉を得ることができる。
【0015】
また、上記糖化用原料の製造方法において、前記浸漬工程において、撹拌機によって粉砕された前記穀物ダストと前記亜硫酸含有浸漬液との撹拌を行うものとすることができる。これによれば、穀物ダストが細かく粉砕されたものであっても、穀物ダストと亜硫酸含有浸漬液とが分離することなく、混合及び循環を行うことができる。
【0016】
また、上記糖化用原料の製造方法において、前記穀物ダストは澱粉(スターチ)の製造過程において発生する穀物ダストであるものとすることができる。これによれば、澱粉の製造過程において発生する穀物ダストを再利用することができる。
【0017】
また、上記糖化用原料の製造方法において、前記穀物ダストはコーンスターチ製造工程において発生する穀物ダストであるものとすることができる。これによれば、コーンスターチ製造工程において発生する穀物ダストの澱粉含有率が高いため、効率よく穀物ダストを再利用することができる。
【0018】
本発明に係る糖化用原料の製造方法は、穀物ダストを原料とする糖化用原料の製造方法であって、粉砕工程(前記穀物ダストを粉砕する工程)と、浸漬工程(前記穀物ダストを亜硫酸含有浸漬液に浸漬する工程)と、を含み、前記粉砕工程及び前記浸漬工程の後に、蛋白除去工程を含んでもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の糖化用原料の製造方法によれば、穀物ダストは、粉砕した穀物ダストや浸漬工程後の穀物ダストを含む亜硫酸含有浸漬液から胚芽を分離する工程を必要とすることなく澱粉を得ることができるため、簡便に穀物ダストから糖化用原料としての澱粉を得ることができる。また、飼料や肥料として処理されていた穀物ダストを、糖化用原料として有効に使用することができるため、製造コストを抑えて糖化用原料を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態における糖化用原料の製造方法のフローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態について説明する。本実施形態の糖化用原料の製造方法は、図1に示すように、穀物ダストを原料とする糖化用原料の製造方法であって、粉砕工程(穀物ダストを粉砕する工程)と、浸漬工程(穀物ダストを亜硫酸含有浸漬液に浸漬する工程)と、を含み、粉砕工程及び浸漬工程の後に、異物除去工程(果皮及び繊維質並びに砂、金属粉及びその他異物を除去する工程)と、蛋白除去工程(比重差によって蛋白を除去する工程)と、洗浄工程(水でさらに蛋白を洗い流す工程)と、必要により脱水工程とを含むものである。なお、脱水工程を省くことにより、糖化用原料の製造方法はより簡便なものとすることができるものである。また、実施形態において、粉砕工程は浸漬工程の前に行ったが、浸漬工程の前の粉砕工程を省略して浸漬工程の後に粉砕工程を設けることもできる。
【0022】
穀物ダストの元となる穀物は、特に限定されるものではないが、米、大麦、はと麦、きび、たかきび、とうきび、コーン、小麦、稗、粟、ソルガム、小豆、大豆、そら豆、落花生、ささげ、いんげん豆、えんどう豆、緑豆、胡麻、荏胡麻、蕎麦、アマランサス、キヌアなどが挙げられる。これらの中でも、穀物ダストに加工される量が多く、入手が容易な、米、コーン、小麦、ソルガム、粟からなる穀物粉砕粒を好んで使用することができ、特にコーンからなる穀物粉砕粒は澱粉含有率が高いため、より好んで使用することができる。なお、澱粉含有率は、穀物の輸送条件などによって異なるものである。
【0023】
穀物ダストとは、穀物破砕粒と穀物規格外粒とを含むものである。穀物ダストは、澱粉(スターチ)の製造の原材料である穀物の精選工程において、使用されることなく、除かれていたものである。澱粉(スターチ)の製造の原材料である穀物の精選工程では、一般的にシフター(篩)が用いられる。具体的には、例えばとうもろこしの場合、目開き17mmの篩と3.5mmの篩を使用し、3.5mmの篩上に残るものが通常のとうもろこし整粒であり、目開き17mmの篩の上に残るものが穀物規格外粒であり、目開き3.5mmの篩を通過するものが穀物破砕粒である。穀物破砕粒とは、穀物の輸送時における衝撃などによって発生する、穀物が破砕された粒や種子以外の茎等を含むもののことであり、細かすぎるために、澱粉の製造における穀物の精選工程において、使用されることなく除かれていたものである。穀物破砕粒のように細かい粒が原料に含まれると、以下の現象が生じる。1つ目として、撹拌機を使用しない浸漬工程では、亜硫酸含有浸漬液中に穀物を沈めておくが、穀物破砕粒が含まれると亜硫酸含有浸漬液が穀物破砕粒を含む原料中でチャネリングし、前記原料中に生じた一定の流路にしか前記亜硫酸含有浸漬液が入らず、穀物全体に行き渡り難くなり、浸漬不良に繋がる。二つ目として、浸漬工程後、亜硫酸含有浸漬液と穀物を分離する際、穀物破砕粒の割合が多いと浸漬液の流路が制限され、液が浸漬槽から排出されにくい。3つ目として、穀物破砕粒は、その多くが亜硫酸含有浸漬液を浸漬槽から排出する際に亜硫酸含有浸漬液と共に排出されてしまうため、その後の澱粉回収工程に用いることができない。穀物破砕粒の大きさは、穀物の種類によって異なり、例えば、3.5mm未満(コーン)、2.0mm未満(米、粟)、1.5mm未満(ソルガム、粟)となる。穀物規格外粒とは、一定以上の大きさの規格外品であり、澱粉の製造における穀物の精選工程において品質低下の恐れのある粒として、使用されることなく除かれていた粒のことである。穀物規格外粒は、そのほとんどが穂軸や茎などで澱粉の含有量が少なく、また、浸漬に続く浸漬工程に続く粗砕や磨砕の工程で十分に砕けず、配管の詰まりなどを引き起こす場合がある。穀物規格外粒の大きさは、穀物の種類によって異なり、例えば、6mm以上(ソルガム、粟)、10mm以上(米、粟)、17mm以上(コーン)となる。穀物破砕粒と穀物規格外粒からなる穀物ダストは、澱粉の製造の原材料となる穀物の0.1〜10質量%程度発生するものであり、原材料全体に対する割合としては少ないが、例えば、1日当たりの発生量とすると、数十〜数百トン単位で発生するものである。
なお本実施形態において、穀物破砕粒や穀物規格外粒の大きさは、規定のメッシュの篩を通過するか否かにより判定され、例えば目開き17mmの篩を使用し、篩を通過せず残った穀物を大きさが17mm以上の穀物規格外粒と定義し、目開き3.5mmの篩を使用し、篩を通過した穀物を大きさが3.5mm以下の穀物破砕粒と定義する。
【0024】
本願発明者らは、穀物ダストには、比重の軽い胚芽が殆んど含まれていないことを発見したものである。とうもろこしの場合の穀物破砕粒が胚芽をほとんど含んでいない理由としては、胚芽は胚乳のように粉質の組織とは異なり、比較的柔軟な組織から構成されているため、穀物破砕粒ほど細かくなることが少ないことが考えられる。本実施形態において穀物ダストとして用いられる穀物破砕粒における胚芽の含有量は、穀物破砕粒全体に対し0質量%〜6質量%である。穀物規格外粒が胚芽をほとんど含んでいない理由としては、そのほとんどが穂軸や茎であり、とうもろこし整粒や胚芽がほとんど含まれていないことが挙げられる。本実施形態において穀物ダストとして用いられる穀物規格外粒における胚芽の含有量は、穀物破砕粒全体に対し0質量%〜6質量%である。このため、穀物ダストは、糖化用原料の製造方法において、粉砕した穀物ダストや浸漬工程後の穀物ダストを含む亜硫酸含有浸漬液から胚芽を分離する工程を必要としないことを見出したものである。このため、図1に示すように、浸漬工程の前の粉砕工程において、穀物ダストを粉砕しても、胚芽が粉砕及び分散されることがないため、胚芽の回収を考慮する必要がなく、穀物ダストを細かく粉砕することができるため、浸漬工程において、簡便かつ効率よく澱粉を分離することができるものである。また、穀物ダストを細かく粉砕し、撹拌することにより、浸漬効率を向上し、亜硫酸含有浸漬液中の亜硫酸及び乳酸濃度を低く抑えられるため、浸漬工程後に亜硫酸含有浸漬液を除去する必要がない。よって従来における浸漬工程後の亜硫酸含有浸漬液の液抜き時の詰まりを解決することができる。なお、浸漬工程の後に粉砕工程を組み込んだとしても、製造上の手間が嵩むことを省いて、糖化用原料の製造方法として何ら問題が生じるものではない。
【0025】
本実施形態における穀物ダストは、穀物破砕粒のみを含んでもよく、穀物規格外粒のみを含んでもよく、穀物破砕粒と穀物規格外粒の両方を含んでいてもよい。穀物ダストが穀物破砕粒と穀物規格外粒の両方を含んでいる場合においても、穀物破砕粒と穀物規格外粒の割合は特に限定されないが、穀物ダスト全体に対する穀物破砕粒の割合が大きいことが好ましい。穀物ダストが穀物規格外粒のみを含む場合においても、穀物ダストがその他の種子以外の茎等を含んでもよい。
【0026】
糖化用原料とは、澱粉を多く含む糖化製品製造工程における中間製品である。糖化用原料に含まれる澱粉の割合が、糖化用原料全体の重量(乾燥重量)に対し、93質量%〜96質量%であれば、糖化製品製造工程の原料として用いることができる。糖化用原料に含まれる澱粉の割合は、高いほど好ましいが、一般的には99.9質量%以下である。糖化用原料は、加水分解され、加水分解の程度によって中間的な糖類の混合物から最終的なぶどう糖までの糖化製品を得ることができる。糖化製品として、水飴、異性化液糖、果糖、ぶどう糖などが挙げられる。本実施形態における糖化用原料は、不純物として蛋白、繊維、灰分などの内の一つ以上を含んでいてもよい。また、本実施形態における糖化用原料に含まれる不純物が4質量%〜7質量%であれば、糖化製品製造工程の原料として用いることができる。なお、加水分解後の精製の工程において、原料に含まれる不純物が除去されるため、上述のように糖化用原料に精製の工程において負荷がかからない程度に不純物が含まれていても、問題が生じるものではない。
【0027】
粉砕工程とは、穀物ダストを粉砕する工程であり、粉砕機を用いておよそ乾燥状態である穀物ダストを500μm(メジアン径)以下まで粉砕するものである。粉砕機として、ローラーミル、ピンミルなどの粉砕機を使用することができる。本実施形態において、「乾燥状態である穀物ダスト」とは、穀物ダスト全体の質量に対する水分量が12質量%〜16質量%であることと定義する。また、本実施形態における穀物ダストに含まれる水分量は、以下の方法によって測定される。穀物ダスト5gを、間接加熱式の乾燥機により135℃で2時間乾燥させる。乾燥前の穀物ダストの重量である5gと乾燥させた穀物ダストの重量との差を穀物ダストに含まれる水分量とする。粉砕後の穀物ダストの粒子径は、1μm〜500μm(メジアン径)であることが好ましい。浸漬工程において、穀物ダストが分離することなく撹拌することができるからである。穀物ダストの粒子径が1μm未満だと、乾燥状態の場合、粉砕工程において周辺に飛散するおそれがある。一方、穀物ダストの粒子径が500μmを超えると、浸漬工程において、澱粉と蛋白の結合の切断が不十分となるおそれがある。穀物ダストの粒子径が1μm以上であれば、乾燥状態でも、粉砕工程において周辺に飛散しにくい。穀物ダストの粒子径が500μm以下であれば、浸漬工程において、澱粉と蛋白の結合の切断を十分に行える。穀物ダストの粒子径は、より好ましくは、5μm〜200μmであり、さらに好ましくは、10μm〜100μm以下である。なお、本実施形態におけるメジアン径はd50の値である。
なお、本実施形態の穀物ダストのメジアン径は、レーザ回折式粒度分布測定装置を用いて測定される。
【0028】
本実施形態において、粉砕工程は浸漬工程の前に行ったが、浸漬工程の前の粉砕工程を省略して浸漬工程の後に粉砕工程を設けることもできる。粉砕工程を浸漬工程の前に行う場合には、およそ乾燥状態である穀物ダストの粉砕に適した上記の粉砕機を使用することができるが、粉砕工程を浸漬工程の後に行う場合には、湿潤状態である穀物ダストの粉砕に適した粉砕機(例えば、バワーミル、エントレーターミルなど)を使用する。
【0029】
上述のように、穀物ダストには胚芽がほとんど含まれていないため、穀物ダストの粉砕工程後に胚芽を分離する工程を必要としない。このことにより、一般的な穀物原料を用いて糖化用原料を製造する場合より簡便に糖化用原料を製造することができる。
【0030】
浸漬工程とは、穀物ダストを亜硫酸含有浸漬液に浸漬する工程であり、これにより、穀物ダストの中の澱粉と蛋白との結合を効率よく切断することができ、穀物ダストから、効率よく澱粉を分離することができる。なお、本実施形態において、亜硫酸は、亜硫酸、次亜硫酸及びピロ亜硫酸並びにこれらのナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩及びカルシウム塩を含むものである。
【0031】
亜硫酸含有浸漬液における亜硫酸は、亜硫酸含有浸漬液に含まれる水の重量に対し20ppm〜2000ppm含有するものが好ましい。穀物ダストの中の澱粉と蛋白との結合を効率よく切断することができるためである。亜硫酸含有浸漬液における亜硫酸が亜硫酸含有浸漬液に含まれる水の重量に対し20ppm未満である場合には、浸漬工程の工程時間を長く要し、糖化用原料の製造効率が劣るおそれがある。また、製造された糖化用原料の防藻防黴性が劣るおそれがある。一方、亜硫酸が亜硫酸含有浸漬液に含まれる水の重量に対し2000ppmを超える場合には、亜硫酸の濃度が過剰であり、非経済的である。亜硫酸含有浸漬液における亜硫酸が亜硫酸含有浸漬液に含まれる水の重量に対し20ppm以上であれば、浸漬工程の工程時間が長すぎず、糖化用原料の製造を効率よく行うことができ、製造された糖化用原料の防藻防黴性も保たれる。亜硫酸が亜硫酸含有浸漬液に含まれる水の重量に対し2000ppmを以下であれば、経済的に糖化用原料の製造を行うことができる。亜硫酸含有浸漬液における亜硫酸は、より好ましくは、亜硫酸含有浸漬液に含まれる水の重量に対し40ppm〜1500ppmであり、さらに好ましくは、50ppm〜800ppmである。
【0032】
亜硫酸含有浸漬液はさらに乳酸を含有しても良い。なお、乳酸は、酸又は塩であることを問わない。亜硫酸含有浸漬液における乳酸は、亜硫酸含有浸漬液に含まれる水の重量に対し100ppm〜10000ppm含有するものが好ましい。本実施形態の糖化用原料の製造方法から生産される糖化用原料の澱粉の含有率(歩留り)を高めることができるからである。亜硫酸含有浸漬液における乳酸が亜硫酸含有浸漬液に含まれる水の重量に対し100ppm未満である場合には、糖化用原料の澱粉の含有率(歩留り)を高める効果が不十分となるおそれがある。一方、乳酸が亜硫酸含有浸漬液に含まれる水の重量に対し10000ppm(1%)を超える場合には、生産される糖化用原料の蛋白除去が不十分となるおそれがある。亜硫酸含有浸漬液における乳酸が亜硫酸含有浸漬液に含まれる水の重量に対し100ppm以上であれば、糖化用原料の澱粉の含有率(歩留り)を高めることができる。乳酸が亜硫酸含有浸漬液に含まれる水の重量に対し10000ppm(1%)以下であれば、生産される糖化用原料の蛋白除去を十分に行うことができる。亜硫酸含有浸漬液における乳酸は、より好ましくは、亜硫酸含有浸漬液に含まれる水の重量に対し500ppm〜5000ppmであり、さらに好ましくは、1000〜2000ppmである。
【0033】
浸漬工程における、穀物ダストと亜硫酸含有浸漬液の混合物(穀物ダストと亜硫酸含有浸漬液との混合液ともいう)中の穀物ダストの固形分は、穀物ダストと亜硫酸含有浸漬液の混合物の全質量に対し10質量%〜50質量%が好ましい。穀物ダストと亜硫酸含有浸漬液との混合効率に優れるためである。穀物ダストの固形分が穀物ダストと亜硫酸含有浸漬液の混合物に対し10質量%未満である場合には、糖化用原料の製造方法によって得られる糖化用原料の澱粉収率が低くなり好ましくない。一方、穀物ダストの固形分が穀物ダストと亜硫酸含有浸漬液の混合物に対し50質量%を超えると、穀物ダストの量に対して水分(亜硫酸含有浸漬液)が少なく、撹拌機による撹拌が十分にできないおそれがある。穀物ダストの固形分が穀物ダストと亜硫酸含有浸漬液の混合物に対し10質量%以上であれば、糖化用原料の製造方法によって得られる糖化用原料の澱粉収率が十分である。穀物ダストの固形分が穀物ダストと亜硫酸含有浸漬液の混合物に対し50質量%を以下であれば、撹拌機によって十分に撹拌できる。穀物ダストの固形分は、より好ましくは、穀物ダストと亜硫酸含有浸漬液の混合物に対し、20質量%〜40質量%であり、さらに好ましくは、30質量%〜35質量%である。
【0034】
浸漬工程における亜硫酸含有浸漬液の温度は、45℃〜60℃であることが好ましい。穀物ダストの中の澱粉と蛋白との結合を効率よく切断することができるため、より効率よく糖化用原料としての澱粉を得ることができる。亜硫酸含有浸漬液の温度が45℃未満である場合には、穀物ダストの中の澱粉と蛋白との結合の切断が不十分となるおそれがあり、また、殺菌効果が不十分となるおそれがある。一方、亜硫酸含有浸漬液の温度が60℃を超えると、穀物ダストの中の澱粉と蛋白との結合を効率よく切断することができるものの、澱粉が糊化するおそれがあり、また、熱量の観点から非経済的である。亜硫酸含有浸漬液の温度が45℃以上であれば、穀物ダストの中の澱粉と蛋白との結合の切断を十分に行うことができ、また、十分な殺菌効果が得られる。亜硫酸含有浸漬液の温度が60℃以下であれば、穀物ダストの中の澱粉と蛋白との結合を効率よく切断することができ、澱粉の糊化も生じない。亜硫酸含有浸漬液の温度は、より好ましくは、50℃〜55℃である。
【0035】
浸漬工程における、穀物ダストと亜硫酸含有浸漬液の混合時間は、亜硫酸含有浸漬液の温度や亜硫酸濃度にもよるが、1時間〜48時間であることが好ましい。穀物ダストの中の澱粉と蛋白との結合を効率よく切断することができるためである。亜硫酸含有浸漬液の混合時間が1時間未満である場合には、穀物ダストの中の澱粉と蛋白との結合の切断が不十分となるおそれがある。一方、亜硫酸含有浸漬液の混合時間が48時間を超えると、穀物ダストの中の澱粉と蛋白との結合を効率よく切断することができるものの、浸漬工程の間は加熱し続けるため、熱量の観点から非経済的である。亜硫酸含有浸漬液の混合時間が1時間以上であれば、穀物ダストの中の澱粉と蛋白との結合の切断を十分に行うことができる。亜硫酸含有浸漬液の混合時間が48時間以下であれば、穀物ダストの中の澱粉と蛋白との結合を効率よく切断することができ、熱量の観点からも経済的である。亜硫酸含有浸漬液の混合時間は、より好ましくは、2時間〜24時間であり、さらに好ましくは、3時間〜16時間である。
【0036】
浸漬工程では、亜硫酸含有浸漬液の温度を一定に保つことができる温水(冷水)循環ジャケットを有する反応器を使用することが好ましい。また、反応器には、撹拌機による撹拌を行うことができるものが好ましい。穀物ダストが細かく粉砕されたものであっても、穀物ダストと亜硫酸含有浸漬液とが分離することなく、混合及び循環を行うことができるからである。撹拌機は、プロペラ型などの軸回転撹拌機を使用することが好ましい。浸漬工程における穀物ダストと亜硫酸含有浸漬液との混合液の粘度変化に対応し易いからである。攪拌機により撹拌する速度は、200〜300rpmであることが好ましい。撹拌速度が200rpm以上であれば、穀物ダストが沈殿せず、浸漬効率を向上することができ、かつ穀物ダストを反応器内に残すことなく、その後の工程に用いることができる。撹拌速度が300rpm以下であれば、過剰な動力コストの発生を抑えることができる。なお、循環型攪拌機も使用することができるが、浸漬工程の混合液の粘度変化に循環型攪拌機が対応し得るか否かを事前に確認する必要がある。
【0037】
上述のように、穀物ダストには胚芽がほとんど含まれていないため、浸漬工程後に胚芽を分離する工程を必要としない。このことにより、一般的な原料を用いて糖化用原料を製造する場合より簡便に糖化用原料を製造することができる。
【0038】
異物除去工程とは、穀物ダストと亜硫酸含有浸漬液との混合液から、果皮及び繊維質並びに砂、金属粉及びその他異物を除去する工程である。異物除去工程は、スクリーンメッシュによるろ過工程、遠心分離による除去工程の少なくとも一つを工程に備えることができる。
【0039】
スクリーンメッシュによるろ過工程とは、スクリーンメッシュに通すことによって、一定の径(スクリーンメッシュの目開き径)以上の異物を、混合液から除去する工程である。スクリーンメッシュによるろ過工程によって、スクリーンメッシュの目開き径を超える大きさの異物がスクリーンメッシュを通過できないため、穀物ダストと亜硫酸含有浸漬液との混合液は、これら異物が除去されたものとなる。スクリーンメッシュによるろ過工程に使用するスクリーンメッシュは、500mesh(目開き25μm)〜60mesh(目開き250μm)が好ましい。異物を好適に除去することができるためである。スクリーンメッシュが500meshより細かいと、スクリーンメッシュを透過させるのに時間を要し、経済的でない。一方、60meshより粗いと、異物除去性能に劣るものとなる。スクリーンメッシュが500meshもしくはそれより荒ければ、スクリーンメッシュを透過させる時間が長すぎず、経済的である。60meshもしくはそれより細かければ、異物除去性能が十分である。本実施形態におけるスクリーンメッシュは、より好ましくは、440mesh(目開き32μm)〜100mesh(目開き150μm)であり、さらに好ましくは、390mesh(目開き38μm)〜200mesh(目開き75μm)である。
【0040】
遠心分離による除去工程とは、穀物ダストと亜硫酸含有浸漬液との混合液より、砂や金属など比重の大きい異物を、遠心分離によって、混合液から除去する工程である。具体的には、デグリッティングサイクロン、ハイドロサイクロンなどの遠心分離器を使用することによって、穀物ダストと亜硫酸含有浸漬液との混合液から砂や金属など比重の大きい異物を除去することができる。
【0041】
蛋白除去工程とは、穀物ダストと亜硫酸含有浸漬液との混合液から、比重差によって蛋白を除去し、澱粉を残す工程である。具体的には、遠心分離機を使用することにより蛋白の除去を行うことができる。具体的には、穀物ダストと亜硫酸含有浸漬液との混合液を遠心分離器に投入すると、比重の軽い蛋白は、オーバーフローへ流れ、比重の重い澱粉は、アンダーフローへ流れるため、蛋白を除去することができる。蛋白除去工程に使用する遠心分離機としては、ノズルセパレーター、ハイドロサイクロンなどを使用することができる。なお、ラボレベルでは、テーブリングによっても蛋白の除去をすることができる。テーブリングとは、穀物ダストと亜硫酸含有浸漬液との混合液を充填した容器の上縁に僅かながら高低差を設け、容器に水を流すことによって、比重の重い澱粉を容器の下部に残しつつ、比重の軽い蛋白を容器の上縁から水と共に流して、蛋白を除去する方法である。
【0042】
洗浄工程とは、必要により蛋白除去工程を経た澱粉を含む沈殿物を更に水によって洗浄する工程である。例えば、複数のハイドロサイクロンを繋げ、一方から蛋白除去工程を経た沈殿物を投入し、もう一方から水を投入し、向流式で澱粉を洗浄する方法が挙げられる。洗浄工程によって、沈殿物から蛋白を更に除き、さらに澱粉より比重の軽い蛋白、繊維、油分等のその他不純物についても除去することができる。
【0043】
脱水工程は、洗浄工程を経た沈殿物から水(水分)を除去する工程であり、糖化用原料として必要な場合に採り得る。脱水工程は、濾過や遠心分離による脱水後、間接加熱式の乾燥機による乾燥などで行うことができる。なお、脱水工程を省くことにより、糖化用原料の製造方法はより簡便なものとすることができるものである。
【0044】
洗浄工程又は脱水工程を経た糖化原料に含まれる蛋白の割合は、糖化原料の乾燥重量に対し乾燥重量で0.3〜0.8重量%であることが好ましい。蛋白が糖化原料の重量に対し乾燥重量で0.8重量%以下であれば、糖化原料の糖化後の精製工程における負荷が少ない。糖化原料に含まれる蛋白の割合は小さいことが好ましいが、蛋白が糖化原料の乾燥重量に対し乾燥重量で0.3重量%以上であれば、洗浄工程における水の量を増やす等によるコストの増大を必要としない。
【0045】
このように糖化用原料の製造方法によって、穀物ダストから糖化用原料を得ることができる。得られた糖化用原料は、前述のように澱粉を含み、その乾燥重量は、93.0〜99.9質量%である。脱水工程を経た糖化用原料は、粉体であり、その粒径は、5〜20μmである。が、前述のように糖化用原料は澱粉以外の不純物を含むものである。糖化用原料が糖化される工程には、イオン交換など種々の精製が含まれているため、糖化用原料の製造方法によって得られた糖化用原料の澱粉は、糖化される工程にて不純物が除かれることとなる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。実施例1〜21がラボレベルの実施例であり、実施例22〜24がプラントレベルの実施例である。穀物ダストは、日本コーンスターチ株式会社衣浦事業所のコーンスターチ製造工程において発生したコーンの穀物ダストを使用した。穀物ダストは、3.5mm(メジアン径、d50)未満の穀物破砕粒と、17mm(メジアン径、d50)以上の穀物規格外粒とからなるものである。
【0047】
(実施例1〜7)
実施例1〜7は、コーンスターチ製造工程において発生した穀物ダストの採取の日をランダムに選定し、穀物ダストの状態によって糖化用原料としての使用に問題がないことを確認したものである。
【0048】
実施例1の糖化用原料の製造は、表1に示す製造条件により行った。具体的には、まず乾燥状態の穀物ダスト100gを、家庭用ミキサーにて1分間粉砕した。粉砕した穀物ダストを、亜硫酸含有浸漬液200ml(亜硫酸含有浸漬液中の水に対し、乳酸5000ppm、亜硫酸500ppmを含む)と混合した。得られた混合液をステンレス製の1Lジョッキに入れ、ウォーターバス内で撹拌しながら180分間、亜硫酸含有浸漬液に穀物ダストを浸漬させた。浸漬温度は52℃であり、穀物ダストの固形分は、穀物ダストと亜硫酸含有浸漬液の混合物に対し、33質量%であった。その後、325mesh(目開き45μm)のスクリーンメッシュにより穀物ダストと亜硫酸含有浸漬液の混合物をろ過し、異物を除去した。得られた混合物を少し傾けて設置した樋の上に流し、比重の重い澱粉を樋に残すことにより蛋白質を除去した(テーブリング)。その後、水500mlを樋の上に残った澱粉に流すことにより、澱粉を洗浄した。樋の上に残った澱粉を一晩乾燥させ、糖化用原料を得た。
得られた糖化用原料の乾燥重量は、以下のように測定した。得られた糖化用原料を間接加熱式の乾燥機を用いて135℃にて2時間加熱することにより乾燥させ、得られた糖化用原料の重量を測定した。
得られた糖化用原料に含まれる澱粉の含有量は、以下の方法で算出した。得られた糖化用原料を、αアミラーゼやグルコアミラーゼなどの酵素を用いて全てブドウ糖まで加水分解した後、フェーリング・レーマン・ショール法により還元糖量を測定し、その数値に加水分解の際に付与されたHO分を補正して澱粉量を得た。
ここで、フェーリング・レーマン・ショール法による還元糖量の測定は、以下の方法で行った。乾燥させた糖化用原料1gを秤取して250mLに定容し、試料溶液とした。硫酸銅69.3gを蒸留水に溶かして1Lに定容し、試薬aとした。ロッセル塩346gと水酸化ナトリウム103gとを蒸留水に溶かして1Lにし、試薬bとした。200mLの三角フラスコに試薬aと試薬bを各々10mLずつ採取し、これに試料溶液10mLと蒸留水20mLを加えて、全量を50mLとした。これを加熱して3分以内に沸騰を開始させ、正確に2分間沸騰させた後、すみやかに流水中に没して25℃に冷却した。次いで、30重量%ヨウ化カリウム水溶液10mLと25重量%硫酸水溶液10mLを加えて、ただちに0.1Nチオ硫酸ナトリウムにて滴定を開始し、終点近くで指示薬として1%澱粉溶液を2〜3滴添加し、その澱粉反応が消失するまで滴定を続け、終点とした。試料溶液の代わりに蒸留水を用いて上記と全く同じ操作を行い、その滴定数の差とチオ硫酸ナトリウムの係数に基づいて糖量を算出し、その糖量と希釈倍率から値を求めた。
穀物ダストの採取日と澱粉の収率を表2に記載する。澱粉の収率は、穀物ダストの乾燥重量に対する得られた澱粉の乾燥重量の割合として算出した。
【0049】
実施例2〜7の糖化用原料の製造は、表2に記載される採取日に穀物ダストを採取した以外は、実施例1と同様の手順で行った。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
表2に示される実施例1〜7の結果を見ると、採取日にかかわらず、澱粉の収率(穀物ダストに含まれる澱粉の含有率)は、54〜73質量%の範囲に収まっており、糖化用原料として使用可能なものであった。なお、実施例には記載しなかったが、他の穀物であっても、澱粉の収率が相対的に下がるものの、同様の結果が得られた。
【0053】
(実施例8〜12)
実施例8〜12は、浸漬工程の浸漬時間の違いによる澱粉の収率(含有率)を確認したものである。浸漬工程の浸漬時間以外の糖化用原料の製造条件は、実施例1と同じとした。各実施例の浸漬時間は、表3に示す通りとした。なお、穀物ダストの採取日は、2015年6月15日であった。浸漬時間に対する澱粉の収率(穀物ダストに含まれる澱粉の含有率)を表3に記載する。
【0054】
【表3】
【0055】
実施例8〜12の結果から、浸漬時間の長い方が澱粉の収率(含有率)は高くなることが確認できたが、浸漬時間が長時間になると収率の伸びが鈍くなることが確認できた。3〜16時間が最も好ましいことが確認できた。
【0056】
(実施例13〜15)
実施例13〜15は、浸漬工程における穀物ダストと亜硫酸含有浸漬液の混合物中の穀物ダストの固形分の割合を変更したものである。各実施例における穀物ダストと亜硫酸含有浸漬液の混合物中の穀物ダストの固形分の割合は、表4に示す通りとした。浸漬工程の固形分の割合以外の製造条件は、実施例1と同じであった。穀物ダストの採取日は、実施例8と同じであった。各実施例における穀物ダストに対する澱粉の収率(穀物ダストに含まれる澱粉の含有率)を表4に記載する。
【0057】
【表4】
【0058】
穀物ダストと亜硫酸含有浸漬液の混合物中の穀物ダストの固形分の割合が10.0〜33.0%の範囲であると、澱粉収率は53%以上であった。なお、実施例には記載しなかったが、固形分が50質量%を超えた試験例では、穀物ダストの量に対して水分(亜硫酸含有浸漬液)が少なく、撹拌機による撹拌が十分にできなかった。
【0059】
(実施例16〜21)
実施例16〜21は、浸漬工程の、亜硫酸含有浸漬液の亜硫酸と乳酸の含有量を変更したものである。各実施例における亜硫酸含有浸漬液の亜硫酸と乳酸の含有量は、表5に示す通りとした。浸漬工程の亜硫酸と乳酸の含有量以外の製造条件は、実施例1と同じであった。穀物ダストの採取日は、実施例8と同じであった。各実施例における穀物ダストに対する澱粉の収率(穀物ダストに含まれる澱粉の含有率)を表5に記載する。
【0060】
【表5】
【0061】
実施例16〜21における亜硫酸含有浸漬液の亜硫酸含有量の範囲では、亜硫酸の増減によって、穀物ダストに対する澱粉の収率に大きな変化は見られなかった。なお、抗菌性の観点から、他の添加剤を加えない場合には、亜硫酸は500ppm以上が必要であった。抗菌性の評価は、穀物ダストを亜硫酸含有浸漬液と混合直後の混合物及び180分間浸漬させた後の混合物の双方をフィルム培地で30℃で24時間培養し、コロニー数の差が10%以下であれば、抗菌性に問題がないと判断した。また、亜硫酸含有浸漬液の乳酸含有量の増加によって、穀物ダストに対する澱粉の収率が上がることが確認できた。なお、評価の記載は省略するが、乳酸が亜硫酸含有浸漬液に含まれる水に対し7000ppmを超えると、糖化用原料からの蛋白の除去が不良となる傾向があった。
【0062】
(実施例22〜24)
実施例22〜24は、プラントレベルの製造方法によって糖化用原料を製造した場合の澱粉の収率を確認したものである。糖化用原料の製造は、表6に記載される製造条件で行った。
【0063】
実施例22の糖化用原料の製造は、以下のように行った。まず、乾燥状態の穀物ダスト28kgを、ピンミル(相互産業社製)にて粉砕した。粉砕した穀物ダストを、亜硫酸含有浸漬液56L(亜硫酸含有浸漬液中の水に対し、乳酸1500ppm、亜硫酸500ppmを含む)と混合し、撹拌器を設けたタンク内で撹拌しながら240分間浸漬させた。浸漬温度は52℃であり、穀物ダストの固形分は、穀物ダストと亜硫酸含有浸漬液の混合物に対し、33質量%であった。その後、325°DSMスクリーン(DORR-OLIVER社製)のスクリーンメッシュにより穀物ダストと亜硫酸含有浸漬液の混合物をろ過し、異物を除去した。得られた混合物を、ハイドロサイクロン(DORR-OLIVER社製)を用いて遠心分離することにより蛋白質を除去した。得られた沈殿物は、ハイドロサイクロン(DORR-OLIVER社製)により一回の洗浄に20Lの水を用いて遠心分離することによって複数回洗浄を行った。各実施例における穀物ダストの使用量、洗浄回数(表6記載のハイドロサイクロンを通す回数)、澱粉収率、蛋白含有量を表7に記載する。なお、得られた糖化用原料全体に対する蛋白含有量は、ケルダール方法により測定した。実施例22〜24で得られた穀物ダストに対する澱粉の収率は、50質量%以上であることから、プラントレベルであっても、穀物ダストを原料とする糖化用原料の製造が可能であることが確認できた。
【0064】
【表6】
【0065】
【表7】
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明に関わる糖化用原料の製造方法は、穀物ダストから、簡便にかつ効率よく糖化用原料を製造することができる。
図1