(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
糖尿病、1型糖尿病、2型糖尿病、耐糖能障害、高血糖症、異脂肪血症、肥満症又は代謝症候群(代謝X症候群、インスリン抵抗性症候群)に関連する疾患、障害又は症状の治療又は緩和のための医薬として使用するための、請求項1から4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、その第一の態様において、
A14E,B16H,B25H,B29K((N
ε−エイコサンジオイル(Eicosanedioyl)−γGlu−[2−(2−{2−[2−(2−アミノエトキシ)エトキシ]アセチルアミノ}エトキシ)エトキシ]アセチル)),desB30ヒトインスリン;(化合物1)と;
A14E,B16H,B25H,B29K(N
ε−ヘキサデカンジオイル(Hexadecandioyl)−γGlu),desB30ヒトインスリン(化合物2)と;
A14E,B16H,B25H,B29K(N
ε−エイコサンジオイル−γGlu),desB30ヒトインスリン(化合物3)と、
A14E,B25H,desB27,B29K(N
ε−オクタデカンジオイル(Octadecandioyl)−γGlu),desB30ヒトインスリン(化合物4)とからなる群から選択されるインスリン誘導体を含み、約1から約2%(重量/重量)のグリセリンと;約45から約75mMのフェノールと;約0から約19mMのm−クレゾールと;前記インスリン誘導体6モル当たり約1.5から約2.5モルの亜鉛イオンと;約75mM以下の塩化ナトリウムとをさらに含み、かつ、約7.2から8.0の範囲のpH値である、医薬組成物を提供する。
【0016】
別の態様では、本発明は、インスリン分泌性GLP−1化合物であって、特にセマグルチドとして知られるインスリン分泌性GLP−1化合物をさらに含む医薬組成物を提供する。
【0017】
セマグルチドは、Aib8,Lys26(OEG−OEG−ガンマ−Glu−C18−二酸(diacid)),Arg34)GLP−1 H(7−37)−OHの構造で記載され得、それは(N−イプシロン26−[2−(2−{2−[2−(2−{2−[(S)−4−カルボキシ−4−(17−カルボキシヘプタデカノイルアミノ)ブチリルアミノ]エトキシ}エトキシ)アセチルアミノ]エトキシ}エトキシ)−アセチル][Aib8,Arg34]GLP−1−(7−37)としても示すことができ、国際公開第2006/097537号の開示を参照されたい。
【0018】
本発明は、以下の特徴又は実施形態の一つ又は複数を参照することによってさらに特徴付けられ得る。
【0019】
1. A14E,B16H,B25H,B29K((N
ε−エイコサンジオイル(Eicosanedioyl)−γGlu−[2−(2−{2−[2−(2−アミノエトキシ)エトキシ]アセチルアミノ}エトキシ)エトキシ]アセチル)),desB30ヒトインスリン(化合物1)であるインスリン誘導体を含む、本発明の医薬組成物。
【0020】
2. A14E,B16H,B25H,B29K(N
ε−ヘキサデカンジオイル(Hexadecandioyl)−γGlu),desB30ヒトインスリン(化合物2)であるインスリン誘導体を含む、本発明の医薬組成物。
【0021】
3. A14E,B16H,B25H,B29K(N
ε−エイコサンジオイル−γGlu),desB30ヒトインスリン(化合物3)であるインスリン誘導体を含む、本発明の医薬組成物。
【0022】
4. A14E,B25H,desB27,B29K(N
ε−オクタデカンジオイル(Octadecandioyl)−γGlu),desB30ヒトインスリン(化合物4)であるインスリン誘導体を含む、本発明の医薬組成物。
【0023】
5. インスリン誘導体は、約3.5から約5.0mMの範囲内である、前述の実施形態の医薬組成物。
【0024】
6. インスリン誘導体は、約4.0から約4.5mMの範囲内である、前述の実施形態の医薬組成物。
【0025】
7. インスリン誘導体は、約4.2mMである、前述の実施形態の医薬組成物。
【0026】
8. 約1から約2%(重量/重量)のグリセリンを含む、前述の実施形態の医薬組成物。
【0027】
9. 約1.4から約1.8%(重量/重量)のグリセリンを含む、前述の実施形態の医薬組成物。
【0028】
10. 約1.5%又は1.6%(重量/重量)のグリセリンを含む、前述の実施形態の医薬組成物。
【0029】
11. 約45から約75mMのフェノールを含む、前述の実施形態の医薬組成物。
【0030】
12. 約50から約70mMのフェノールを含む、前述の実施形態の医薬組成物。
【0031】
13. 約55から約65mMのフェノールを含む、前述の実施形態の医薬組成物。
【0032】
14. 約50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69又は70mMのフェノールを含む、前述の実施形態の医薬組成物。
【0033】
15. 約0から約19mMのm−クレゾールを含む、前述の実施形態の医薬組成物。
【0034】
16. 0mM、1mM、2mM、3mM、4mMのm−クレゾールを含む、前述の実施形態の医薬組成物。
【0035】
17. 約0から約15mMのm−クレゾールを含む、前述の実施形態の医薬組成物。
【0036】
18. 約5mM、6mM、7mM、8mM、9mM、10mM、11mM、12mM、13mM、14mM、15mM、16mM、17mM、18mM又は19mMのm−クレゾールを含む、前述の実施形態の医薬組成物。
【0037】
19. インスリン誘導体6モル当たり約1.5から約2.5モルの亜鉛イオンを含む、前述の実施形態の医薬組成物。
【0038】
20. インスリン誘導体6モル当たり約2.0から約2.4モルの亜鉛イオンを含む、前述の実施形態の医薬組成物。
【0039】
21. インスリン誘導体6モル当たり約2.0から約2.1モルの亜鉛イオンを含む、前述の実施形態の医薬組成物。
【0040】
22. インスリン誘導体6モル当たり約2.2又は2.3モルの亜鉛イオンを含む、前述の実施形態の医薬組成物。
【0041】
23. インスリン誘導体6モル当たり約2.4又は2.5モルの亜鉛イオンを含む、前述の実施形態の医薬組成物。
【0042】
24. 約75mM未満の塩化ナトリウムを含む、前述の実施形態の医薬組成物。
【0043】
25. 約5から約50mMの塩化ナトリウムを含む、前述の実施形態の医薬組成物。
【0044】
26. 約10から約25mMの塩化ナトリウムを含む、前述の実施形態の医薬組成物。
【0045】
27. 約15から約25mMの塩化ナトリウムを含む、前述の実施形態の医薬組成物。
【0046】
28. 約20mM、50mM又は75mMの塩化ナトリウムを含む、前述の実施形態の医薬組成物。
【0047】
29. 7.2から8.0の範囲のpH値である、前述の実施形態の医薬組成物。
【0048】
30. 7.2から7.6の範囲のpH値である、前述の実施形態の医薬組成物。
【0049】
31. 約7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8又は7.9のpH値である、前述の実施形態の医薬組成物。
【0050】
32. 約4.0から約4.5mMのインスリン誘導体と、
約1から約2%(重量/重量)のグリセリンと、
約50から約70mMのフェノールと、
約0から約15mMのm−クレゾールと、
インスリン誘導体6モル当たり約2.0から約2.5モルの亜鉛イオンと、
約50mM未満の塩化ナトリウムとを含み、かつ、
7.2から7.6の範囲のpH値である、前述の実施形態の医薬組成物。
【0051】
33. 約4.2mMのインスリン誘導体と、
約1.5%(重量/重量)のグリセリンと、
約60mMのフェノールと、
約0mMのm−クレゾールと、
インスリン誘導体6モル当たり約2.0モルの亜鉛イオンと、
約20mMの塩化ナトリウムとを含み、かつ、
約7.4のpH値である、前述の実施形態の医薬組成物。
【0052】
34. 約4.2mMのインスリン誘導体と、
約1.5%(重量/重量)のグリセリンと、
約60mMのフェノールと、
約10mMのm−クレゾールと、
インスリン誘導体6モル当たり約2.0モルの亜鉛イオンと、
約20mMの塩化ナトリウムとを含み、かつ、
約7.4のpH値である、前述の実施形態の医薬組成物。
【0053】
35. 約4.2mMのインスリン誘導体と、
約1.5%(重量/重量)のグリセリンと、
約60mMのフェノールと、
約0mMのm−クレゾールと、
インスリン誘導体6モル当たり約2.2モルの亜鉛イオンと、
約20mMの塩化ナトリウムとを含み、かつ、
約7.4のpH値である、前述の実施形態の医薬組成物。
【0054】
36. 約4.2mMのインスリン誘導体と、
約1.5%(重量/重量)のグリセリンと、
約60mMのフェノールと、
約10mMのm−クレゾールと、
インスリン誘導体の6モル当たり約2.2モルの亜鉛イオンと、
約20mMの塩化ナトリウムとを含み、かつ、
約7.4のpH値である、前述の実施形態の医薬組成物。
【0055】
37. 約4.2mMのインスリン誘導体と、
約1.5%(重量/重量)のグリセリンと、
約60mMのフェノールと、
約0mMのm−クレゾールと、
インスリン誘導体6モル当たり約2.4モルの亜鉛イオンと、
約20mMの塩化ナトリウムとを含み、かつ、
約7.4のpH値である、前述の実施形態の医薬組成物。
【0056】
38. 約4.2mMのインスリン誘導体と、
約1.5%(重量/重量)のグリセリンと、
約60mMのフェノールと、
約10mMのm−クレゾールと、
インスリン誘導体6モル当たり約2.4モルの亜鉛イオンと、
約20mMの塩化ナトリウムとを含み、かつ、
約7.4のpH値である、前述の実施形態の医薬組成物。
【0057】
39. 約4.2mMのインスリン誘導体と、約1から約2%(重量/重量)のグリセリンと;約45から約75mMのフェノールと;約0から約15mMのm−クレゾールと;前記インスリン誘導体6モル当たり約1.5から約2.5モルの亜鉛イオンと;約50mM以下の塩化ナトリウムとを含み、かつ、約7.2から8.0の範囲のpH値である、前述の実施形態の医薬組成物。
【0058】
40. 約0mMのm−クレゾールを含む、前述の実施形態の医薬組成物。
【0059】
41. 約5から約10mMのm−クレゾールを含む、前述の実施形態の医薬組成物。
【0060】
42. 約10mMのm−クレゾールを含む、前述の実施形態の医薬組成物。
【0061】
43. セマグルチドをさらに含む、前述の実施形態に記載の医薬組成物。
【0062】
44. A14E,B16H,B25H,B29K((N
ε−エイコサンジオイル(Eicosanedioyl)−γGlu−[2−(2−{2−[2−(2−アミノエトキシ)エトキシ]アセチルアミノ}エトキシ)エトキシ]アセチル)),desB30ヒトインスリン(化合物1)と;セマグルチドとを含み、約1から約2%(重量/重量)のグリセリンと;約45から約75mMのフェノールと;0から15mMのm−クレゾールと;前記インスリン誘導体6モル当たり約1.5から約2.5モルの亜鉛イオンと;約25mM以下の塩化ナトリウムとをさらに含み、かつ、7.2から8.0の範囲のpH値である、医薬組成物。
【0063】
45. 約0.20から約0.70mMのセマグルチドを含む、前述の実施形態に記載の医薬組成物。
【0064】
46. 約0.30から約0.70mMのセマグルチドを含む、前述の実施形態に記載の医薬組成物。
【0065】
47. 約3.5mMから約5.0mMのA14E,B16H,B25H,B29K((N
ε−エイコサンジオイル−γGlu−[2−(2−{2−[2−(2−アミノエトキシ)エトキシ]アセチルアミノ}エトキシ)エトキシ]アセチル)),desB30ヒトインスリン(化合物1)を含む、前述の実施形態に記載の医薬組成物。
【0066】
48. 約0.30から約0.70mMのセマグルチドと、約3.5mMから約5.0mMのA14E,B16H,B25H,B29K((N
ε−エイコサンジオイル−γGlu−[2−(2−{2−[2−(2−アミノエトキシ)エトキシ]アセチルアミノ}エトキシ)エトキシ]アセチル)),desB30ヒトインスリン(化合物1)とを含む、前述の実施形態に記載の医薬組成物。
【0067】
49. 約0.30mMのセマグルチドと、約3.5mMから約5.0mMのA14E,B16H,B25H,B29K((N
ε−エイコサンジオイル−γGlu−[2−(2−{2−[2−(2−アミノエトキシ)エトキシ]アセチルアミノ}エトキシ)エトキシ]アセチル)),desB30ヒトインスリン(化合物1)とを含む、前述の実施形態に記載の医薬組成物。
【0068】
50. 約0.40mMのセマグルチドと、4.2mMのA14E,B16H,B25H,B29K((N
ε−エイコサンジオイル−γGlu−[2−(2−{2−[2−(2−アミノエトキシ)エトキシ]アセチルアミノ}エトキシ)エトキシ]アセチル)),desB30ヒトインスリン(化合物1)とを含む、前述の実施形態に記載の医薬組成物。
【0069】
51. 約0.49mM又は0.50mMのセマグルチドと、4.2mMのA14E,B16H,B25H,B29K((N
ε−エイコサンジオイル−γGlu−[2−(2−{2−[2−(2−アミノエトキシ)エトキシ]アセチルアミノ}エトキシ)エトキシ]アセチル)),desB30ヒトインスリン(化合物1)とを含む、前述の実施形態に記載の医薬組成物。
【0070】
52. 35. 約0.60mMのセマグルチドと、4.2mMのA14E,B16H,B25H,B29K((N
ε−エイコサンジオイル−γGlu−[2−(2−{2−[2−(2−アミノエトキシ)エトキシ]アセチルアミノ}エトキシ)エトキシ]アセチル)),desB30ヒトインスリン(化合物1)とを含む、前述の実施形態に記載の医薬組成物。
【0071】
53. A14E,B16H,B25H,B29K((N
ε−エイコサンジオイル−γGlu−[2−(2−{2−[2−(2−アミノエトキシ)エトキシ]アセチルアミノ}エトキシ)エトキシ]アセチル)),desB30ヒトインスリン(化合物1)と;セマグルチドとを含み、約1.5%(重量/重量)のグリセリンと;約60mMのフェノールと;約0mMのm−クレゾールと;前記インスリン誘導体6モル当たり約2.2モルの亜鉛イオンと;約20mMの塩化ナトリウムとをさらに含み、かつ、約7.4のpH値である、医薬(合剤)組成物。
【0072】
54. A14E,B16H,B25H,B29K((N
ε−エイコサンジオイル−γGlu−[2−(2−{2−[2−(2−アミノエトキシ)エトキシ]アセチルアミノ}エトキシ)エトキシ]アセチル)),desB30ヒトインスリン(化合物1)と;セマグルチドとを含み、約1.5%(重量/重量)のグリセリンと;約60mMのフェノールと;10mMのm−クレゾールと;前記インスリン誘導体6モル当たり約2.2モルの亜鉛イオンと;約20mMの塩化ナトリウムとをさらに含み、かつ、約7.4のpH値である、医薬(合剤)組成物。
【0073】
55. 一日一回よりも少ない頻度の時間間隔で(すなわち、24時間より長い時間間隔で)、少なくとも3ヶ月、少なくとも6ヶ月又は少なくとも1年の期間の間、それを必要としている対象に対して投与するための、前述の実施形態の医薬組成物。
【0074】
56. 対象であって、平均で1日おきから10日おきまでの範囲の頻度での対象への投与が必要な当該対象に投与するための、前述の実施形態の医薬組成物。
【0075】
57. 対象であって、平均で2日おきから9日おきまでの範囲の頻度での対象への投与が必要な当該対象に投与するための、前述の実施形態の医薬組成物。
【0076】
58. 対象であって、平均で3日おきから8日おきまでの範囲の頻度での対象への投与が必要な当該対象に投与するための、前述の実施形態の医薬組成物。
【0077】
59. 対象であって、平均で4日おきから7日おきまでの範囲の頻度での対象への投与が必要な当該対象に投与するための、前述の実施形態の医薬組成物。
【0078】
60. 対象であって、平均で5日おきから6日おきまでの範囲の頻度での対象への投与が必要な当該対象に投与するための、前述の実施形態の医薬組成物。
【0079】
61. 対象であって、少なくとも3ヶ月、少なくとも6ヶ月又は少なくとも1年の期間の間、平均で週一回、すなわち6日おきに対象への投与が必要な当該対象に投与するための、前述の実施形態の医薬組成物。
【0080】
62. (i)A14E,B16H,B25H,B29K((N
ε−エイコサンジオイル−γGlu−[2−(2−{2−[2−(2−アミノエトキシ)エトキシ]アセチルアミノ}エトキシ)エトキシ]アセチル)),desB30ヒトインスリンを水に溶解することによって溶液を調製することと、
(ii)防腐剤及び等張化剤を水に溶解することによって溶液を調製することと、
(iii)亜鉛イオンを水に溶解することによって溶液を調製することと、
(iv)溶液a)及び溶液b)を混合することと、
(v)溶液a+bに溶液c)を添加することと、
(vi)混合した溶液a+b+cにセマグルチドを溶解することと、
(vii)混合液f)のpHを所望のpHに調節して、次いで無菌ろ過を行うこととを含む、注射用医薬組成物を作製する方法。
【0081】
本明細書に記載した実施形態のうちの二つ以上を任意に組み合わせることは、本発明の範囲内であるとみなされる。
【0082】
生物活性
別の態様においては、本発明は、代謝疾患、障害又は症状、特に糖尿病に関連する疾患、障害又は症状の治療用の医薬として有用である医薬組成物を提供する。
【0083】
一実施形態においては、本発明の医薬組成物は、糖尿病、1型糖尿病、2型糖尿病、耐糖能障害、高血糖症、異脂肪血症、肥満症もしくは低代謝性症候群(代謝X症候群、インスリン抵抗性症候群)に関連する疾患、障害もしくは症状の治療又は緩和に使用するためのものである。
【0084】
一実施形態においては、本発明の医薬組成物は、糖尿病、特に1型糖尿病もしくは2型糖尿病に関連する疾患、障害もしくは症状の治療又は緩和に使用するためのものである。
【0085】
実際の剤形は、治療対象の疾患の性質及び重症度に左右され、医師の裁量に任せるものであり、また所望の治療効果を生じさせるために本発明の特定の状況に対する剤形の漸増によって変化し得る。
【0086】
本発明は、以下に説明する添付の図面を参照することによってさらに説明される。
【実施例】
【0088】
本発明について、以下の実施例を参照しながらさらに説明するが、決して本願発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0089】
[実施例1]
[模擬的な注射部位条件における改良された生物物理学的特性]
プロトコル
製剤のAPIは、A14E,B16H,B25H,B29K((N
ε−エイコサンジオイル(Eicosanedioyl)−γGlu−[2−(2−{2−[2−(2−アミノエトキシ)エトキシ]アセチルアミノ}エトキシ)エトキシ]アセチル)),desB30ヒトインスリン(化合物1)であり、例えば国際公開第2009/115469号、実施例33参照に記載されているとおり得られる。
【0090】
化合物1のオリゴマー化は、模擬的な注射部位条件において決定した。模擬的な注射部位条件は、フェノール及び/又はメタクレゾールそれぞれを減少させることと、模擬間質液バッファーへのバッファー交換とによって達成した。この手順により、すべてのフェノール類配位子が事実上除去されたが、親製剤の亜鉛/インスリン比は維持された。
【0091】
製剤は、PD−MidiTrap G−25カラムにより、メーカーのプロトコルに従って、間質液(ISF−)バッファーにバッファー交換した。
【0092】
十分な量のターゲットバッファーによりカラムを洗浄することによって、当該カラムをターゲットバッファーで平衡化し、そして好適な量の製剤を加えて、当該ターゲットバッファーで溶離した。ISFバッファーは、140mMのNaCl、4mMのKCl、1mMのMgSO4、2mMのCaCl2、10mMのヘペス(Hepes)、pH7.4からなる。
【0093】
特に明記しない限り、手順は以下のとおりとした:
22℃でバッファー交換すること、
次いで37℃で14〜18時間インキュベーションすること、及び、
次いで22℃で測定すること(特に明記した場合を除く)。
【0094】
通常、測定は、37℃でのインキュベーション終了の約1時間後に行った。これが可能でなければ、サンプルは測定まで22℃で保存する。
【0095】
特に明記しない限り、サンプルは無希釈で測定する。なお、記載したフェノールの減少手順の結果得られるオリゴマーのサイズはプロセスに依存し、所与の製剤について、時間、温度、カラムのバッチ等の因子により変化し得る。したがって、製剤の所与のセットに関する測定値は、同一の実験内で比較するものとし、実験間での比較はしないものとすることが望ましい。したがって、本発明の種々の製剤と一緒に、様々な実験で同一の参照製剤が試験された。例えば、製剤A 対 製剤B及びC、製剤01 対 製剤02〜06である。
【0096】
動的光散乱法(DLS)によって見掛けの平均流体力学半径(r
H)を測定したが、DynaPro PR(商標)(Wyatt technology社、米国カリフォルニア州サンタバーバラ)を用いた。サンプルは、分析の前に1200rpmで5分間遠心分離して、溶液中のあらゆる塵粒を除去した。測定は、40収集及び2秒の収集時間として25℃で行った。
【0097】
Wyatt Technology社(WTC)のCalypso II滴定装置ユニットと、それを接続したWTC DAWN8+光散乱検出器(664nmで作動)及びWTC Optilab T−rEX屈折計(660nmで作動)とからなるシステムを用いて、組成勾配多角度静的光散乱(Composition−Gradient,Multi−Angle Static Light Scattering)(CG−MALS)によって、25℃で、見掛けの平均分子量(kDa)を測定した。サンプルは、0.45μmフィルターでろ過して、次いで測定前に0.22μmフィルターでろ過した。
【0098】
沈降速度(SV)実験は、サファイア窓でキャップした12−mm又は3−mmのダブルセクターのセンターピース中で、XL−I超遠心分析装置(XL−I Analytical Ultracentrifuge)(ベックマンコールター社、カリフォルニア州ブレア)で行った。サンプルは、沈降が完了するまで40000rpmで20℃で回転させ、機器の干渉顕微鏡で監視した。沈降係数分布(SCD)は、rmsd及び残差ランパターンで判断されるとおりに、すべての沈降物質を描写するのに十分な範囲を網羅する、100個のs値によるグリッドを伴うc(s)モデルを用いて、SedFitバージョン11.8(
www.analyticalultracentrifugation.com)で算出した。摩擦係数比(frictional ratio)f/foを、フィッティング中に最適化されることとなる変数として扱った(P Schuck,MA Perugini,NR Gonzales,GJ Howlett and D Schubert:Size−distribution analysis of proteins by analytical ultracentrifugation:strategies and application to model systems;(
Biophys.J.2002 82:1096))。平均沈降係数の値は、得られたc(s)−分布の積分を経て取得した。
【0099】
温度依存性の動的粘度を、Lovis2000転落球式(rolling−ball type)粘度計(アントンパール社、オーストリア共和国グラーツ)で測定した。温度は、40℃から4℃まで2℃ずつのステップで低下させて、各ステップ間は、5分間温度平衡させた。バッファーの密度は、これもアントンパール社のDMA5000濃度計で同時に測定した。
【0100】
3種の単一製剤、すなわち従来技術(例えば、国際公開第2013/153000号を参照)を表す製剤A、本発明を表す製剤B、C(60mMのフェノール/10mMのm−クレゾール)を調製した。
【0101】
【表1】
【0102】
他の6種の単一製剤、すなわち製剤01(製剤Aと同一)ならびに本発明を表す製剤02、03、04、05及び06を作製した(表1B)。亜鉛含有量は、4.5Zn
++/6インスリンから、2.4、2.2及び2.0Zn
++/6インスリンに変化させた。さらに、25/25mMのフェノール/m−クレゾール又は60/0mMのフェノール/m−クレゾールのいずれかによる防腐系も試験した。
【0103】
【表2】
【0104】
<60mMのフェノール及び10のm−クレゾールを有するバッファー交換した単一製剤の改良されたオリゴマーサイズ(表2A;
図1A、1B及び1C)>
【表3】
【0105】
<60mMのフェノール及び0のm−クレゾールを有するバッファー交換した単一製剤の改良されたオリゴマーサイズ(表2B;
図2A及び2B)>
【表4】
【0106】
結論
亜鉛含有量は、製剤Aにおける4.5Zn
++/6インスリンから、製剤B及びCそれぞれにおける2.4及び2.2Zn
++/6インスリンに減少させた(フェノールは増加させ、メタクレゾールは減少させながら)。この亜鉛の減少に伴い、上記に記載の方法による模擬的な注射部位条件において求めた場合に、オリゴマーサイズが縮小した(
図1A、1B及び1C参照)。
【0107】
製剤01〜06での結果からも、亜鉛(Zn)を4.5Zn
++/6インスリンから2.2±0.2Zn
++/6インスリンに減少させると、オリゴマーサイズが縮小されることがさらに確認された。2.2±0.2Zn
++/6インスリンでは、フェノール/クレゾールを25mM/25mMから60mM/0mMに減少させると、オリゴマーサイズがさらに縮小する。
図2A及び2Bを参照されたい。
【0108】
<60mMのフェノール及び10mMのm−クレゾールを有するバッファー交換した単一製剤の改良された粘度(表3A;
図3A及び3B)>
【表5】
【0109】
<60mMのフェノール及び0のm−クレゾールを有するバッファー交換した単一製剤の改良された粘度(表3B;
図3C及び3D参照)>
【表6】
【0110】
結論
これら実験は、この方法に係る模擬的な注射部位条件における製剤の粘度が、亜鉛含有量に大きく依存するために、亜鉛の割合を減らすことが密度の低下につながるということを示している。
【0111】
[実施例2]
[t
max及び消失t
1/2]
t
maxは、最高濃度(最高血中濃度)までの時間を表し、t
1/2は、投与後に化合物の半分が血漿から消える消失半減期を表す。
【0112】
実施例1において記載した変化する生物物理学的特性は、ブタにおいてより早くt
maxを示すPKプロファイルと一致している(表3を参照)。このことは、本発明に従って調合されると、従来技術に係る製剤で提供されている同一の化合物と対照的に、皮下組織内での化合物1の滞留時間が低減するものであるということを示している。
【0113】
驚くべきことに、亜鉛濃度を減少させることは、作用持続時間にほぼ影響がないが(すなわち、消失t
1/2が影響を受けない)、それが本発明に係る製剤と従来技術に係る製剤とを、週一回投与用に平等に適したものにさせる。
【0114】
【表7】
【0115】
結論
これら実験は、Zn
++/ヘキサマーを減少させた結果として、皮下組織内での化合物1の滞留時間(t
max)が有意に低減するということを示している。この知見は、実施例1で表したデータと一致しており、模擬的な注射部位条件において形成されるオリゴマーのサイズが縮小することを示している。
【0116】
そのため、本発明に従って調合されると、化合物1は、注射の部位においてより小さいオリゴマーを形成し、皮下組織内でより短い滞留時間(低減したt
max)となるPK/PDプロファイルを結果としてもたらす。
【0117】
しかし驚くべきことに、皮下組織内での化合物1の滞留時間(t
max)は有意に低減したが、本発明の製剤は、同じ消失半減期を維持した(消失t
1/2は影響を受けない)。このことは、本発明の製剤が、より長い持続時間の最高濃度も維持しながら、持効型インスリン誘導体を循環中でより素早く最高濃度に達するように促進できるということを意味している。
【0118】
この予期せぬ知見はまた、週一回投与プロファイルに見合う長い作用持続時間も保持しながら、注射部位において大きいオリゴマーの形成を制限することも可能にしている。注射部位で高い粘度となる大きいオリゴマーの形成は、注射すると不快感をもたらし得る。
【0119】
[実施例3]
[製剤中における改良された立体構造状態]
亜鉛の存在下で、ヒトインスリンは製剤中で六量体(ヘキサマー)として存在する。ヒトインスリンヘキサマーは、そのモノマーの立体構造に依存して、2種類の立体構造を採用することが可能である。インスリンモノマーB鎖の8つのN−末端アミノ酸残基が、伸長した立体構造(T状態)又はα−ヘリカル立体構造(R状態)のいずれかをとることが可能であることによる。フェノール及びNaClの存在下では、ヒトインスリンは、物理的及び化学的安定性に有利な立体構造であるR立体構造をとる(Dunn MF.Zinc−ligand interactions modulate assembly and stability of the insulin hexamer:A review.Biometals 2005;18;295−303)。
【0120】
プロトコル
インスリンヘキサマーの立体構造的変化は、251nmのCD−シグネチャで追跡した(Kruger P,Gilge G,Cabuk Y and Wollmer A;
Biol.Chem.Hoppe−Seyler 1990 371 669−673)。サンプルは、Jasco 815機器を用いて経路長0.02cmで測定した。空滴定を減算して、得られたΔε 251nmを、Zn/6インスリン(モル/モル)に対してプロットした。
【0121】
<60mMのフェノール/0のm−クレゾールを有する単一製剤の立体構造状態>
製剤01〜06の立体構造状態を表5A及び
図4Aに示している。
【0122】
【表8】
【0123】
図4Aは、製剤01〜06に関して、6インスリン当たりのZn
++(モル:モル)の関数としての立体構造変化(T状態、混合TR状態、R状態)を示している。
【0124】
<60mMのフェノール及び10mMのm−クレゾールを有する単一製剤の立体構造状態>
二つのシリーズの製剤を調製した。すべての製剤が、4.2mMの化合物1、16mg/ml(1.6%)のグリセリン、20mMのNaClを含み、pHを7.4とした。B製剤シリーズは、60mMのフェノール及び10mMのm−クレゾールを含み、亜鉛濃度を6インスリン当たり1.5(B1)、2.0(B2)、2.3(B3)、2.5(B4)、3.0(B5)及び4.0(B6)として多様化させた。D製剤シリーズは、25mMのフェノール及び25mMのm−クレゾールを含み、亜鉛濃度を6インスリン当たり1.5、2.0、2.3、2.5、3.0、4.0及び4.5として多様化させた。ヒトインスリン製剤のシリーズもまた、種々の亜鉛濃度として調製した。立体構造状態を表5B及び
図4Bに示している。
【0125】
【表9】
【0126】
図4Bは、B製剤シリーズ及びD製剤シリーズならびにヒトインスリン製剤に関して、6インスリン当たりのZn++(モル:モル)の関数としての立体構造変化(T状態、混合TR状態、R状態)を示している。
【0127】
結論
近紫外CD(Near−UV CD)データが、化合物1のT/R立体構造が、亜鉛濃度に依存していたことを示している。亜鉛を減少させることに伴い、混合T/R状態からR状態に製剤中の化合物1の立体構造状態が変化したが、これにはまた、製剤中でより高濃度のヘキサマーの形成も伴った(以下の実施例4を参照)。R状態及びヘキサマーの濃度は、25/25mMから60/10mMへとフェノール/メタ−クレゾールの比を変化させることによってさらに増加した(
図4B)。
【0128】
製剤01〜06のデータは、製剤中の化合物1のR状態が、亜鉛(Zn)を4.5から2.2Zn±0.2Zn/6化合物1に減少させることと、m−クレゾールをなくすこととによってさらに増加することを示している(
図4A)。
【0129】
[実施例4]
[製剤中の改良されたオリゴマーの分布]
プロトコル
サイズ排除クロマトグラフィー(Size Exclusion Chromatography)は、インスリン製剤の非共有結合性オリゴマーの分布を定量化する高感度な方法である。SECは、1.7μm 4.6x150mmのBEH200カラムを用いて、8.0mMのフェノール、140mMのNaCl、10mMのTris−HCl、pH 7.4からなるランニングバッファーで行った。クロマトグラフィーは、22℃で、注入量2μL及び流量0.3ml/minで行った。分子量標準として、アルブミン、共有結合性インスリン六量体及び 単量体インスリンを用いた。積分によってクロマトグラムを分析して、六量体より大きい種(3.0〜3.8分)、六量体(3.8〜4.3分)及び六量体より小さい種(4.3〜5.5分)を表した。各データセットに対する厳密な積分限界は、カラム性能のバリエーションに起因してわずかに変動することとなるということに留意されたい。
【0130】
フローセルを備えたBioSAXS−2000機器と0.008〜0.661Å
−1のqレンジをカバーするDectris 100K検出器とを用いて、X線小角散乱(SAXS)データを収集した。サンプルの測定値からバッファーの測定値を減算し、タンパク質の散乱プロファイルを得た。同じ手順に従って、0.6mMのヒトインスリン、3Zn
++/6インスリン、16mMのフェノール、20mMのNaCl及び7mMのリン酸バッファーpH7.4のサンプルから、R立体構造をもつ六量体状態のヒトインスリンの参照サンプルからのデータを収集した。
【0131】
<60mMのフェノール及び0のm−クレゾールを含む製剤に関するオリゴマー分布>
製剤01、02、03、04、05及び06を含むネイティブSECクロマトグラムを生成した(表6及び
図5Aを参照)。
【0132】
【表10】
【0133】
<60mMのフェノール及び10mMのm−クレゾールを含む製剤に関するオリゴマー分布>
製剤B1〜B6と製剤Aとを比較するネイティブSECクロマトグラムを生成した(表6及び
図5Bを参照)。曲線の下の面積は、すべてのクロマトグラムに関して類似している。積分によってクロマトグラムを分析して、六量体より大きい種(3.0〜3.8分)、六量体(3.8〜4.3分)及び六量体より小さい種(4.3〜5.5分)を表した。各データセットに対する厳密な積分限界は、カラム性能のバリエーションに起因してわずかに変動することとなるということに留意されたい。
【0134】
【表11】
【0135】
結論
製剤01〜06のSECデータ(表6、
図5A)が、化合物1の製剤01のオリゴマー分布は、明らかに大多数を占めるオリゴマー種が存在しないブロードな波形を特徴とすることを示している。製剤03〜06の化合物1のオリゴマー分布は、製剤01及び02と比べて幅が狭い。製剤03〜06のメインピークの保持時間は、六量体と一致しており、保持時間5分にある小さいピークは、単量体又は2量体と一致している。
【0136】
製剤B1〜B6及びAのSECデータ(表7、
図5B)はまた、2.0〜2.5亜鉛/6インスリンでは、4.0又は4.5Znのものと比較して、六量体ピークが増すということも示している。
【0137】
したがって、六量体ピークは、亜鉛濃度が高い場合(例えば、4.0又は4.5Zn)と比較して、亜鉛濃度が低い場合(例えば、2.0Zn〜2.5Zn)で増える。4.5Zn及び2.2Znの両方に関して、六量体は、25/25mMのフェノール/m−クレゾールと比べて、60mM/0又は10mMのフェノール/m−クレゾールで増える。本発明に従って調合すると、六量体含有量が増加し、オリゴマー化がより明確になる。
【0138】
SAXSデータにより、4.5Zn
++/六量体を含む化合物1の製剤Aのオリゴマー化パターンは、従来のヒトインスリン六量体と類似していないが、一方で、化合物1の六量体ベースの構造は、製剤Cにおいて大多数を占めるということも確認された(
図6)。本発明に従って調合すると(製剤C)、オリゴマー化パターンは、より明確に定義されるようになり、またヒトインスリンに類似する六量体ベースの構造と一致する。
【0139】
[実施例5]
[改良された化学的安定性及び物理的安定性]
この実施例における実験結果により、化合物1の化学的安定性及び物理的安定性の両方が、参照製剤Aと比べて、新規製剤で改善していることが示された。特に、高濃度のフェノール及び低濃度のm−クレゾールで、亜鉛濃度が減少すると、化合物1の化学的安定性及び物理的安定性の両方が増加する。
【0140】
プロトコル
逆相超高速液体クロマトグラフィー(RP−UHPLC)によって純度を決定したが、130Å、1.7μm、2.1x150mmのAcquity CSH Fluoro Phenylカラムを用いて、アセトニトリル及びリン酸バッファーの水溶液である移動相中でアセトニトリルによってグラジエント溶離し、次いでUV検出(215nm)することによって、流量0.30ml/min下、サンプル注入量2〜3μlでサンプルを分析した。純度は、すべてのピーク面積でメインピークの面積を除算して、100%を乗算することで評価した。
【0141】
<60mMのフェノール及び10mMのm−クレゾールを含む化合物1製剤の化学的安定性>
RP−UHPLCにより全ペプチドのうちの純度%として測定した安定性により、25mMのフェノール及び25mMのm−クレゾールを含んだ化合物1の製剤Aと比較して、60mMのフェノール及び10mMのm−クレゾールを含んだ製剤B及び製剤C中で化合物1の安定性が有意に増加したことが示された。表8及び
図7Aを参照されたい。
【0142】
【表12】
【0143】
<60mMのフェノール及び0のm−クレゾールを含む化合物1製剤の化学的安定性>
RP−UHPLCを用いて全ペプチドのうちの純度%として測定した、表9に示す製剤の安定性により、それぞれ高濃度のフェノール及び低濃度のm−クレゾールを含む製剤中での亜鉛濃度の関数として、化合物1の化学的安定性が増加するということがさらに確認された。この結果は、製剤中で、25/25mMのフェノール/m−クレゾールを60mMのフェノール及び0のm−クレゾールにさせる防腐系における変化と共に、亜鉛を4.5Zn
++/6インスリンから2.4、2.2及び2.0Zn
++/6インスリンに減少させたときに、化合物1の安定性が増加することを示している。表9及び
図7Bを参照されたい。
【0144】
【表13】
【0145】
結論
本発明(製剤B、C、04、05及び06;表8及び9ならびに
図7A及び
図7Bを参照)に従って調合すると、従来技術(製剤A及び製剤01)と比べて化学的安定性が増す。
【0146】
[物理的安定性]
プロトコル:
化合物1の製剤は、200μlの4つの複製とともに、96ウェルマイクロタイタープレート中で試験した。各製剤からの1.0mlに対して、ThT(チオフラビンT)を1μMまで添加した。Thermo Fluoroskanを用いて、アミロイド線維を形成する傾向に関するチオフラビンT(ThT)アッセイを、960rpmで振とうしながら、37℃で45時間行った。アッセイ前及びアッセイ後のThT発光をスキャンした。ThT蛍光発光が開始するまでのラグタイムが、物理的安定性の測定値となる。ラグタイムは、4つの複製に対して平均をとった蛍光曲線より決定した。ラグタイムが長いほど、物理的安定性が高いことを示す。
【0147】
記載したプロトコルより得られたThTの結果は、実験間で変動することがあるということに留意されたい。したがって、製剤の所与のセットに関する測定値は、同一の実験内で比較するものとし、実験間での比較はしないものとすることが望ましい。この実施例においては、本発明の種々の製剤と一緒に、様々な実験で同一の参照製剤が試験された。例えば、製剤A対製剤C、製剤01対製剤04〜06である。
【0148】
上記ラグタイムを以下の表10に示している。製剤A又は製剤01は、比較用の参照製剤としてである。
【0149】
結果を、表10A及び表10Bに示している。
【0150】
<60mMのフェノール及び10のm−クレゾールを含む製剤中の化合物1の物理的安定性>
【表14】
【表15】
【0151】
結論
ThTアッセイで得られたラグタイムにより、化合物1の物理的安定性は、低濃度の亜鉛、高濃度のフェノール及び低濃度のm−クレゾールを含む製剤において向上することが示唆されている。このデータは、亜鉛を4.5Zn/6インスリンから2.2±0.2Zn/6インスリンに減少させて、同時にフェノールを25mMから60mMに増加させてm−クレゾールを25mMから10mMに減少させると、ラグタイムがより長くなり、ゆえに物理的安定性が向上するということを示した。m−クレゾールを除去すると、低濃度の亜鉛を含む製剤において、化合物1の物理的安定性がさらに向上した(表10Bを参照)。
【0152】
[実施例6]
[複合製剤とその化学的安定性及び物理的安定性]
化合物1は、固定比の配合で、週一回のGLP−1アナログ、セマグルチドと一緒に複合製剤化することができる。
【0153】
化合物1とセマグルチドとの以下の複合製剤1から6を調製した。化合物1の単一製剤もまた、参照単一製剤1として調製した。意図した目標値を以下の表11に示している。
【0154】
【表16】
生成した製剤中の化合物1及びセマグルチドの濃度は、RP−HPLC及び基準物質を用いて測定した。これら濃度を、以下の表12A及び12Bに記載している。
【0155】
【表17】
【表18】
【0156】
測定した濃度は、意図した目標値から3%未満の逸脱であった。
【0157】
化合物1とセマグルチドとの以下の複合製剤I〜VIもまた、後に調製した。化合物1の単一製剤は、参照単一製剤2として調製した。意図した目標値を以下の表13に示している。
【0158】
【表19】
【0159】
<物理的安定性>
プロトコル:
製剤は、200μlの8つの複製とともに、96ウェルマイクロタイタープレート中で試験した。各製剤からの1.0mlに対して、ThT(チオフラビンT)を1μMまで添加した。Thermo Fluoroskanを用いて、アミロイド線維を形成する傾向に関するチオフラビンT(ThT)アッセイを、960rpmで振とうしながら、37℃で45時間行った。アッセイ前及びアッセイ後のThT発光をスキャンした。ThT蛍光発光が開始する(
アミロイド線維の形成)までのラグタイムが、物理的安定性の測定値となる。ラグタイムは、8つの複製に対して平均をとった蛍光曲線より決定した。ラグタイムは、複合製剤1〜4と、複合製剤5及び6とのそれぞれについて二回試験したが、それぞれ、単一製剤を参照として試験し、結果を比較できるようにした。ラグタイムが長いほど、物理的安定性が高いことを示す。
【0160】
化合物1の参照単一製剤と、複合製剤とを、96ウェルマイクロタイタープレート中で、アミロイド線維を形成する傾向に関するチオフラビンT(ThT)アッセイを試験した。
【0161】
そのラグタイムを以下の表14A、14B、14Cに示している。
【0162】
【表20】
【表21】
【表22】
【0163】
結論:
ThTアッセイにより、亜鉛濃度を増加させない場合、化合物1及びセマグルチドの複合製剤は、化合物1の単一製剤の物理的安定性と比べて、化合物1の物理的安定性を損なわなかったということが示唆された。実際に、複合製剤のラグタイムは、化合物1の単一製剤のラグタイムよりずっと長かったが、これは、実際にセマグルチドを用いて化合物1を複合製剤にすることが、望ましくないアミロイド線維形成に向かう製剤を安定化させるということを示している。他の持効型インスリン誘導体とGLP−1誘導体との複合製剤(例えば、デグルデクとリラグルチド)と比較すると、この知見は予想されなかったことであり驚くべきことである。
【0164】
表14Cの結果は、m−クレゾールの濃度を低下させることにより、化合物1とセマグルチドとの複合製剤の物理的安定性をさらに向上させることが可能であり、またフェノールの濃度を増加させることがまた、化合物1とセマグルチドとの複合製剤の物理的安定性を向上させるということを示している。
【0165】
表14Cの結果もまた、本発明に係る製剤中で化合物1をセマグルチドと複合製剤化すると、化合物1とセマグルチドとの複合製剤化に従来技術の製剤(製剤I)を用いた場合と比較して、化合物1の物理的安定性を高めるということも示している。
【0166】
<化学的安定性>
プロトコル
逆相超高速液体クロマトグラフィー(RP−UHPLC)によって純度を決定したが、130Å、1.7um、2.1x150mmのAcquity CSH Fluoro Phenylカラムを用いて、アセトニトリル及びリン酸バッファーの水溶液である移動相中でアセトニトリルによってグラジエント溶離し、次いでUV検出(215 nm)することによって、流量0.30ml/min下、サンプル注入量2〜3μlでサンプルを分析した。純度は、すべてのピーク面積でメインピークの面積を除算して、100%を乗算することで評価した。
【0167】
表15に示す製剤の安定性は、RP−UHPLCにより、全化合物1のうちの純度%として測定した。
【0168】
亜鉛を4.5Zn++/6インスリンから2.4、2.2及び2.0Zn++/6インスリンに減少させると、複合製剤中の化合物1の化学的安定性が増すことが、結果から確認される。25/25mMのフェノール/m−クレゾールから60mMのフェノール及び0のm−クレゾールへと防腐系を変化させることで、結果として複合製剤中の化合物1の化学的安定性のさらなる向上が得られた。
【0169】
【表23】
【0170】
結論
本発明に係る製剤中で化合物1をセマグルチドと複合製剤化すると、化合物1とセマグルチドとの複合製剤化に従来技術の製剤(製剤I)を用いた場合と比較して、化合物1の化学的安定性が高まる。
【0171】
[実施例7]
[LYDブタPKモデルにおけるセマグルチドとの合剤のPK特性]
実施例6で生成した製剤のうち、化合物1の参照単一製剤と複合製剤1及び複合製剤2とを、LYDブタPK動物モデルにおいて特性決定した。化合物1のPKパラメータであるt
max及びt
1/2ならびに化合物1の平均滞留時間(MRT)は、セマグルチドと合剤化することによって有意に変化しなかった。
【0172】
16例の動物(各製剤についてn=8)によるクロスオーバー試験を行った。
【0173】
【表24】
【0174】
化合物1のPKパラメータは、複合製剤1及び複合製剤2中でセマグルチドと合剤化した場合、単一製剤として投与した化合物1と比較して、有意に変化しなかった。t
max値は、当該合剤に関してわずかに低下したが、参照である化合物1についての標準偏差についての値が重複している。t
1/2及びMRTは、参照単一製剤と比較して、合剤中の化合物1に非常に類似していた。結論として、化合物1のPK特性は、セマグルチドとの合剤化によって有意な影響を受けなかった。
【0175】
[実施例8]
[60/0バッファー交換した複合製剤60/0の改良されたオリゴマーサイズ]
化合物1の模擬的な注射部位条件において形成される複合製剤I〜VIのオリゴマー化を、実施例1に記載のプロトコルに従って決定した。この結果を表17及び
図9A及び
図9Bに示している。
【0176】
【表25】
【0177】
結論
これらの実験により、模擬的な注射部位条件において形成されるオリゴマーのサイズが、亜鉛含有量に大きく依存するということが示されている。
【0178】
模擬的な注射部位条件において複合製剤から形成されるオリゴマーの平均サイズは、高濃度の亜鉛(例えば、4.5Zn++/6インスリン)を含む製剤と比較して、低濃度の亜鉛(例えば2.4及び2.2Zn++/6インスリン)を含む製剤中では著しく縮小する。フェノールの濃度を増加させて、かつ、m−クレゾールの濃度を減少させると、模擬的な注射部位条件において複合製剤から形成されるオリゴマーの平均サイズはさらに縮小する。