(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
光反射面を有するミラーと、前記ミラーを支持する可動枠と、前記可動枠を両側から支持する一対の駆動梁と、前記駆動梁に設けられ、所定の軸周りに前記可動枠を揺動させる駆動源と、前記駆動梁を支持する固定枠と、を有する光走査装置の製造方法であって、
前記駆動梁の上に下部電極を形成する工程と、
前記下部電極の上に圧電薄膜を形成する工程と、
前記圧電薄膜の上に上部電極を形成する工程と、
前記上部電極の上にDCスパッタリング法により、前記駆動梁に圧縮応力を発生させる応力カウンター膜を形成する工程と、
を有し、
前記駆動梁は、前記ミラーが静止している状態において、前記固定枠に対して撓んだ状態で支持され、
前記駆動梁の下面にはリブが形成され、
前記応力カウンター膜は、圧縮応力を発生させることにより、前記リブが配置された前記駆動梁の下面の方向に前記駆動梁を撓ませる、
光走査装置の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0011】
(第1実施形態)
まず、第1実施形態に係る光走査装置について説明する。
図1及び
図2は、第1実施形態に係る光走査装置の一例を示す斜視図であり、
図1はパッケージカバーを取り外した状態の光走査装置を示し、
図2はパッケージカバーを取り付けた状態の光走査装置を示している。
【0012】
図1及び
図2に示されるように、光走査装置1000は、光走査部100と、光走査部100を搭載するセラミックパッケージ200と、セラミックパッケージ200上に配されて光走査部100を覆うパッケージカバー300とを有する。光走査装置1000は、セラミックパッケージ200の下側に、基板や制御回路等を備えてもよい。
【0013】
光走査装置1000において、パッケージカバー300の略中央部には光反射面を有するミラー110の近傍を露出する開口部300Aが設けられている。開口部300Aは、ミラー110へのレーザ入射光Li及びミラー110からのレーザ出射光Lo(走査光)を遮らない形状とされている。なお、開口部300Aにおいて、レーザ入射光Liが通る側は、レーザ出射光Loが通る側よりも小さく開口されている。すなわち、レーザ入射光Li側が略半円形状に狭く開口しているのに対し、レーザ出射光Lo側は略矩形状に広く開口している。これは、レーザ入射光Liは一定の方向から入射するのでその方向のみを開口すればよいのに対し、レーザ出射光Loは2次元に走査されるため、2次元に走査されるレーザ出射光Loを遮らないように、走査される全範囲を開口する必要があるためである。
【0014】
次に、光走査装置1000の光走査部100について説明する。
図3は、第1実施形態に係る光走査装置の光走査部の一例を示す上面側の斜視図である。
【0015】
図3に示されるように、光走査部100は、ミラー110を揺動させて光源から照射されるレーザ入射光を走査する部分である。光走査部100は、例えば圧電素子によりミラー110を駆動させるMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ミラー等である。光走査部100は、一対の第2の駆動梁170A、170Bの上面に形成された駆動源171A、171Bにおいて、上部電極上又は圧電薄膜と上部電極との間に圧縮応力を発生させる応力カウンター膜8が形成されている。これにより、第2の駆動梁170A、170Bにより形成される平面と、固定枠180により形成される平面とが略同一平面となっている。以下、詳細に説明する。
【0016】
光走査部100は、ミラー110と、ミラー支持部120と、捻れ梁130A、130Bと、連結梁140A、140Bと、第1の駆動梁150A、150Bと、可動枠160と、第2の駆動梁170A、170Bと、固定枠180とを有する。また、第1の駆動梁150A、150Bは、それぞれ駆動源151A、151Bを有する。また、第2の駆動梁170A、170Bは、それぞれ駆動源171A、171Bを有する。第1の駆動梁150A、150B、第2の駆動梁170A、170Bは、ミラー110を上下又は左右に揺動してレーザ光を走査するアクチュエータとして機能する。
【0017】
ミラー支持部120には、ミラー110の円周に沿うようにスリット122が形成されている。スリット122により、ミラー支持部120を軽量化しつつ捻れ梁130A、130Bによる捻れをミラー110へ伝達することができる。
【0018】
光走査部100において、ミラー支持部120の上面にミラー110が支持され、ミラー支持部120は、両側にある捻れ梁130A、130Bの端部に連結されている。捻れ梁130A、130Bは、揺動軸を構成し、軸方向に延在してミラー支持部120を軸方向両側から支持している。捻れ梁130A、130Bが捻れることにより、ミラー支持部120に支持されたミラー110が揺動し、ミラー110に照射された光の反射光を走査させる動作を行う。捻れ梁130A、130Bは、それぞれが連結梁140A、140Bに連結支持され、第1の駆動梁150A、150Bに連結されている。
【0019】
第1の駆動梁150A、150B、連結梁140A、140B、捻れ梁130A、130B、ミラー支持部120及びミラー110は、可動枠160によって外側から支持されている。第1の駆動梁150A、150Bは、可動枠160にそれぞれの一方の側が支持されている。第1の駆動梁150Aの他方の側は内周側に延びて連結梁140A、140Bと連結している。第1の駆動梁150Bの他方の側も同様に、内周側に延びて連結梁140A、140Bと連結している。
【0020】
第1の駆動梁150A、150Bは、捻れ梁130A、130Bと直交する方向に、ミラー110及びミラー支持部120を挟むように、対をなして設けられている。第1の駆動梁150A、150Bの上面には、駆動源151A、151Bがそれぞれ形成されている。駆動源151A、151Bは、第1の駆動梁150A、150Bの上面の圧電素子の薄膜(以下「圧電薄膜」ともいう。)の上に形成された上部電極と、圧電薄膜の下面に形成された下部電極とを含む。駆動源151A、151Bは、上部電極と下部電極に印加する駆動電圧の極性に応じて伸長したり縮小したりする。
【0021】
このため、第1の駆動梁150Aと第1の駆動梁150Bとで異なる位相の駆動電圧を交互に印加すれば、ミラー110の左側と右側で第1の駆動梁150Aと第1の駆動梁150Bとが上下反対側に交互に振動する。これにより、捻れ梁130A、130Bを揺動軸又は回転軸として、ミラー110を軸周りに揺動させることができる。ミラー110が捻れ梁130A、130Bの軸周りに揺動する方向を、以後、水平方向と呼ぶ。例えば第1の駆動梁150A、150Bによる水平駆動には、共振振動が用いられ、高速にミラー110を揺動駆動することができる。
【0022】
また、可動枠160の外部には、第2の駆動梁170A、170Bの一端が連結されている。第2の駆動梁170A、170Bは、可動枠160を左右両側から挟むように、対をなして設けられている。そして、第2の駆動梁170A、170Bは、可動枠160を両側から支持すると共に、光反射面の中心を通る所定の軸周りに揺動させる。第2の駆動梁170Aは、第1の駆動梁150Aと平行に延在する複数個(例えば偶数個)の矩形梁の各々が、隣接する矩形梁と端部で連結され、全体としてジグザグ状の形状を有する。そして、第2の駆動梁170Aの他端は、固定枠180の内側に連結されている。第2の駆動梁170Bも同様に、第1の駆動梁150Bと平行に延在する複数個(例えば偶数個)の矩形梁の各々が、隣接する矩形梁と端部で連結され、全体としてジグザグ状の形状を有する。そして、第2の駆動梁170Bの他端は、固定枠180の内側に連結されている。
【0023】
第2の駆動梁170A、170Bの上面には、それぞれ曲線部を含まない矩形単位ごとに駆動源171A、171Bが形成されている。駆動源171Aは、第2の駆動梁170Aの上面の圧電薄膜の上に形成された上部電極と、上部電極の上面に形成された応力カウンター膜8と、圧電薄膜の下面に形成された下部電極とを含む。駆動源171Bは、第2の駆動梁170Bの上面の圧電薄膜の上に形成された上部電極と、上部電極の上面に形成された応力カウンター膜8と、圧電薄膜の下面に形成された下部電極とを含む。なお、応力カウンター膜8は、圧電薄膜が形成されていない領域には形成されていない。これは、圧電薄膜が形成されていない領域に応力カウンター膜8を形成すると、応力カウンター膜8により不必要な箇所に新たな応力が発生し、変形や破損の原因となるためである。駆動源171A、171Bの詳細については後述する。
【0024】
第2の駆動梁170A、170Bは、矩形単位ごとに隣接している駆動源171A、171B同士で、異なる極性の駆動電圧を印加することにより、隣接する矩形梁を上下反対方向に反らせ、各矩形梁の上下動の蓄積を可動枠160に伝達する。第2の駆動梁170A、170Bは、この動作により、平行方向と直交する方向である垂直方向にミラー110を揺動させる。例えば第2の駆動梁170A、170Bによる垂直駆動には、非共振振動を用いることができる。
【0025】
例えば、駆動源171Aを、可動枠160側から右側に向かって並ぶ駆動源171A1、171A2、171A3、171A4、171A5及び171A6を含むものとする。また、駆動源171Bを、可動枠160側から左側に向かって並ぶ駆動源171B1、171B2、171B3、171B4、171B5及び171B6を含むものとする。この場合、駆動源171A1、171B1、171A3、171B3、171A5、171B5を同波形、駆動源171A2、171B2、171A4、171B4、171A6及び171B6を前者と位相の異なる同波形で駆動することで垂直方向へ遥動できる。
【0026】
駆動源151Aの上部電極及び下部電極に駆動電圧を印加する駆動配線は、固定枠180に設けられた端子群190Aに含まれる所定の端子と接続されている。また、駆動源151Bの上部電極及び下部電極に駆動電圧を印加する駆動配線は、固定枠180に設けられた端子群190Bに含まれる所定の端子と接続されている。また、駆動源171Aの上部電極及び下部電極に駆動電圧を印加する駆動配線は、固定枠180に設けられた端子群190Aに含まれる所定の端子と接続されている。また、駆動源171Bの上部電極及び下部電極に駆動電圧を印加する駆動配線は、固定枠180に設けられた端子群190Bに含まれる所定の端子と接続されている。
【0027】
また、光走査部100は、駆動源151A、151Bに駆動電圧が印加されてミラー110が水平方向に遥動している状態におけるミラー110の水平方向の傾き具合(水平方向の振角)を検出する水平振角センサとして圧電センサ191、192を有する。圧電センサ191は連結梁140Aに設けられ、圧電センサ192は連結梁140Bに設けられている。
【0028】
また、光走査部100は、駆動源171A、171Bに駆動電圧が印加されてミラー110が垂直方向に遥動している状態におけるミラー110の垂直方向の傾き具合(垂直方向の振角)を検出する垂直振角センサとして圧電センサ195、196を有する。圧電センサ195は第2の駆動梁170Aの有する矩形梁の一つに設けられており、圧電センサ196は第2の駆動梁170Bの有する矩形梁の一つに設けられている。
【0029】
圧電センサ191は、ミラー110の水平方向の傾き具合に伴い、捻れ梁130Aから伝達される連結梁140Aの変位に対応する電流値を出力する。圧電センサ192は、ミラー110の水平方向の傾き具合に伴い、捻れ梁130Bから伝達される連結梁140Bの変位に対応する電流値を出力する。圧電センサ195は、ミラー110の垂直方向の傾き具合に伴い、第2の駆動梁170Aのうち圧電センサ195が設けられた矩形梁の変位に対応する電流値を出力する。圧電センサ196は、ミラー110の垂直方向の傾き具合に伴い、第2の駆動梁170Bのうち圧電センサ196が設けられた矩形梁の変位に対応する電流値を出力する。
【0030】
本実施形態では、圧電センサ191、192の出力を用いてミラー110の水平方向の傾き具合を検出し、圧電センサ195、196の出力を用いてミラー110の垂直方向の傾き具合を検出する。なお、各圧電センサから出力される電流値からミラー110の傾き具合の検出を行う傾き検出部が光走査部100の外部に設けられていてもよい。また、傾き検出部の検出結果に基づき駆動源151A、151B、駆動源171A、171Bに供給する駆動電圧を制御する駆動制御部が光走査部100の外部に設けられていてもよい。
【0031】
圧電センサ191、192、195、196は、圧電薄膜の上面に形成された上部電極と、圧電薄膜の下面に形成された下部電極とを含む。本実施形態では、各圧電センサの出力は、上部電極と下部電極とに接続されたセンサ配線の電流値となる。
【0032】
圧電センサ191の上部電極及び下部電極から引き出されたセンサ配線は、固定枠180に設けられた端子群190Bに含まれる所定の端子と接続されている。また、圧電センサ195の上部電極及び下部電極から引き出されたセンサ配線は、固定枠180に設けられた端子群190Aに含まれる所定の端子と接続されている。また、圧電センサ192の上部電極及び下部電極から引き出されたセンサ配線は、固定枠180に設けられた端子群190Bに含まれる所定の端子と接続されている。また、圧電センサ196の上部電極及び下部電極から引き出されたセンサ配線は、固定枠180に設けられた端子群190Bに含まれる所定の端子と接続されている。
【0033】
図4は、第1実施形態に係る光走査装置の光走査部の一例を示す下面側の斜視図である。
図4に示されるように、ミラー支持部120の下面には、リブ125が設けられている。リブ125を設けることで、駆動中にミラー110に歪みが発生することを抑制し、ミラー110を平坦に保つことができる。リブ125は、ミラー110の形状とほぼ外形が一致するように形成される。これにより、ミラー110を全体に亘って平坦にすることができる。また、ミラー支持部120に形成されたスリット122により、捻れ梁130A、130Bから伝達される応力をミラー支持部120内で分散させ、リブ125にまで応力が伝達することを防ぐことができる。
【0034】
第2の駆動梁170A、170Bの下面において、可動枠160との連結部分(
図4においてA41、A42で示す領域)には、リブ175A、175Bが設けられている。リブ175A、175Bを設けることで、可動枠160と駆動梁を連結する部分を補強し、剛性を高めて変形を防止している。また、第2の駆動梁170A、170Bの下面において、隣接する駆動梁同士を連結する部分(
図4においてA43、A44で示す領域)には、リブ176A、176Bが設けられている。リブ176A、176Bを設けることで、隣接する駆動梁同士を連結する部分を補強し、剛性を高めて変形を防止している。
【0035】
次に、リブ175Bについて説明する。
図5は、
図4のリブ175B近傍の応力を説明するための図である。
図5(a)は
図4のリブ175B近傍の拡大図であり、
図5(b)は
図5(a)の領域における応力の大きさを説明するための図である。
図5(b)では、白色に近いほど応力が大きく、黒色に近いほど応力が小さいことを示している。なお、以下では、リブ175Bを例に挙げて説明するが、リブ175A、176A、176Bについても同様である。
【0036】
光走査部100は、例えば支持層、埋め込み(BOX:Buried Oxide)層及び活性層を有するSOI(Silicon On Insulator)基板を用いて形成することができる。その場合、
図4に示されるように、第2の駆動梁170A、170Bにおいて、曲げの起点となる領域A41、A42、A43、A44が、応力集中部分となる。応力集中部分に支持層、BOX層及び活性層が存在すると破壊されやすく、特にシリコン酸化膜(SiO
2膜)により形成されるBOX層が破壊されやすい。
【0037】
すなわち、第2の駆動梁170A、170Bの破壊の主な原因は、応力集中部分となる曲げの起点におけるBOX層の破壊である。そこで、応力集中部分にリブ175A、175B、176A、176Bを設けているが、例えば
図5(a)に示されるように、リブ175Bの破線で囲まれた部分が外形端面よりも内側に位置するようにし、更に角を丸めることで応力を分散している。また、リブ175A、176A、176Bについてもリブ175Bと同様の構造により応力を分散している。なお、リブ175A、175B、176A、176Bの効果は、幅と高さにより決まるが、体積が大きいと1次共振周波数の低下を招くため、より少ない体積で高い変形防止効果を得る必要がある。リブ176A、176Bでは、隣接する駆動梁の隙間部分の端部近傍に半円環状部分を設けることで、より少ない体積で高い変形防止効果を得ている。
【0038】
しかしながら、光走査部100においては、圧電薄膜、上部電極及び下部電極に起因する応力により、上部電極及び下部電極に電圧を印加していない状態(以下「初期状態」ともいう。)において、例えば
図6に示されるように、第2の駆動梁170A、170Bが固定枠180に対して上反りする場合がある。第2の駆動梁170A、170Bを固定枠180に対して上反りさせる応力を引張応力という。なお、
図6は、第2の駆動梁の上反りを説明するための図である。また、初期状態において上反りした第2の駆動梁170A、170Bに対し、上部電極及び下部電極に電圧を印加することにより、光走査部100を駆動させると、第2の駆動梁170A、170Bが更に上反りすることになる。その結果、
図5(b)に示されるように、リブ175B近傍(
図5(b)においてA5で示す領域)に応力が集中して破損が生じやすくなる。また、破損まで至らなくても、リブ175B近傍に応力が繰り返し加わるため、材料疲労が生じて性能劣化を招く。
【0039】
そこで、本実施形態の光走査装置では、駆動源171A、171Bの上部電極上又は圧電薄膜と上部電極との間に第2の駆動梁170A、170Bを固定枠180に対して下反りにさせる応力を発生させる応力カウンター膜8を形成し、第2の駆動梁170A、170Bの反りを解消する。第2の駆動梁170A、170Bを固定枠180に対して下反りにさせる応力を圧縮応力という。これにより、光走査装置1000の破損や材料疲労を低減させることができる。
【0040】
また、応力カウンター膜8を形成することにより、初期状態において、例えば
図7に示されるように、第2の駆動梁170A、170Bに対して圧縮応力を発生させて、固定枠180に対して下方向に撓んだ状態(下反りの状態)になるようすることが好ましい。
図7は、第1実施形態に係る光走査装置の光走査部の他の例を示す上面側の斜視図である。この場合、上部電極及び下部電極に電圧を印加することによって、第2の駆動梁170A、170Bが上方に反るように動作した場合、初期状態と比較してリブ175A、175B、176A、176B近傍に応力が集中することになる。しかし、第2の駆動梁170A、170Bが初期状態において下反りになっているので、上方に反るように動作した場合であっても、第2の駆動梁170A、170Bが固定枠180に対して上反りにならない、又は、上反りになりにくい。このため、初期状態において第2の駆動梁170A、170Bに反りがない光走査部100よりも光走査装置1000の破損や材料疲労を低減させることができる。
【0041】
尚、上述では、初期状態において第2の駆動梁170A、170Bが固定枠180に対して下方向に撓んだ状態(下反りの状態)とすることを説明したが、第2の駆動梁170A、170Bの上部電極及び下部電極に電圧は印加するが、ミラー110は揺動せずに静止している状態においても、第2の駆動梁170A、170Bに発生させる圧縮応力によって、下方向に撓んだ状態(下反りの状態)となる。この時、第2の駆動梁170A、170Bの撓み量は初期状態に比べて小さい。上記構成によっても光走査装置1000の破損や材料疲労を低減させることができる。
【0042】
次に、応力カウンター膜8について説明する。
図8は、
図4のリブ175Bを含む領域A42の部分断面図である。なお、
図8においては、リブ175Bが形成される下面側を下方向として示している。
【0043】
図8に示されるように、光走査部100は、シリコン基板1の上面に、シリコン酸化膜2、下部電極3、第1の圧電薄膜4、中間電極5、第2の圧電薄膜6、上部電極7及び応力カウンター膜8がこの順番で積層された積層構造を有する。また、下部電極3、中間電極5及び上部電極7には、それぞれ層間絶縁膜9によって電気的に絶縁された配線10、11、12が接続されている。また、層間絶縁膜9及び配線10、11、12の上には、層間絶縁膜9及び配線10、11、12を覆うように保護膜13が形成されている。さらに、シリコン基板1の下面には、BOX層14及びリブ175Bが形成されている。
【0044】
シリコン酸化膜2は、例えば熱酸化プロセスにより形成することができる。
【0045】
下部電極3、中間電極5及び上部電極7は、例えば白金(Pt)等の導電性材料により形成されている。下部電極3、中間電極5及び上部電極7は、例えばスパッタリング法、電子ビーム蒸着法により形成することができる。
【0046】
第1の圧電薄膜4及び第2の圧電薄膜6は、例えばチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)薄膜により形成されている。PZT薄膜は、一般に、ゾルゲル液を塗布し、熱処理(乾燥・焼成)するゾルゲル法により形成されるが、熱処理する工程において強い圧縮が発生する。これにより、
図6を用いて説明したように、第2の駆動梁170A、170Bに引張応力が発生して固定枠180に対して上反りする。
【0047】
応力カウンター膜8は、第2の駆動梁170A、170Bに圧縮応力を発生させる膜であり、第1の圧電薄膜4、第2の圧電薄膜6、下部電極3、中間電極5、上部電極7等により発生される引張応力によって固定枠180に対して上反りする第2の駆動梁170A、170Bにカウンター圧を加える。これにより、
図3に示されるように、第2の駆動梁170A、170Bの上反りが解消される、又は、
図7に示されるように、第2の駆動梁170A、170Bが固定枠180に対して下反りになる。その結果、光走査部100の破損や材料疲労を低減させることができる。
【0048】
応力カウンター膜8は、第2の駆動梁170A、170Bに対して強い圧縮応力を発生させることができるという観点から、高融点材料により形成されていることが好ましい。具体的には、応力カウンター膜8は、例えばチタン(Ti)とタングステン(W)の合金であるTiW(Ti:W=30:70[at%])等の高融点金属により形成されていることが好ましい。これにより、応力カウンター膜8を電極として機能させることができ、素子形成プロセスを増加させることなく光走査部100を形成することができる。
【0049】
応力カウンター膜8は、例えばDCスパッタリング法により形成することができる。DCスパッタリング法により応力カウンター膜8を形成するときの条件は、特に限定されないが、例えば常温、アルゴン(Ar)雰囲気下とすることができる。応力カウンター膜8の膜厚は、例えば100nm〜1000nmとすることができ、膜厚を調整することにより第2の駆動梁170A、170Bの反り量を調整することができる。具体的には、応力カウンター膜8の膜厚を厚くすることにより第2の駆動梁170A、170Bの反り量を大きくすることができ、応力カウンター膜8の膜厚を薄くすることにより第2の駆動梁170A、170Bの反り量を小さくすることができる。
【0050】
層間絶縁膜9は、例えばアルミ酸化膜(アルミナ:Al
2O
3)、シリコン酸化膜等の絶縁性材料により形成されている。層間絶縁膜9は、例えばスパッタリング法、化学気相堆積法を用いて形成することができる。
【0051】
配線10、11、12は、例えば金(Au)、アルミニウム(Al)等の金属材料により形成されている。配線10、11、12は、例えばスパッタリング法、電子ビーム蒸着法により形成することができる。
【0052】
本実施形態では、下部電極3、第1の圧電薄膜4及び中間電極5によって第1の圧電素子が形成され、中間電極5、第2の圧電薄膜6及び上部電極7によって第2の圧電素子が形成されている。このように、2つの圧電素子(第1の圧電素子、第2の圧電素子)が直列に接続されているので、1つの圧電素子を用いる場合よりも第2の駆動梁170A、170Bの反り量を大きくすることができる。なお、圧電素子は、例えば1つの圧電素子により構成されていてもよく、3つ以上の圧電素子により構成されていてもよい。
【0053】
なお、応力カウンター膜8は、第2の駆動梁170A、170Bに対して圧縮応力を発生させる膜であればよく、絶縁性材料により形成されていてもよい。この場合、例えば応力カウンター膜8に開口を形成し、上部電極7と配線12とが開口を介して電気的に接続されるようにする。
【0054】
また、
図8では、応力カウンター膜8が上部電極7上に形成されている場合を例に挙げて説明したが、応力カウンター膜8は第2の圧電薄膜6上、すなわち、第2の圧電薄膜6と上部電極7との間に形成されていてもよい。
【0055】
以上に説明したように、第1実施形態に係る光走査装置1000は、第2の圧電薄膜6上又は第2の圧電薄膜6と上部電極7との間に第2の駆動梁170A、170Bを固定枠180に対して下反りさせる圧縮応力を発生させる応力カウンター膜8が形成されている。これにより、第2の駆動梁170A、170Bの上反りを解消し、さらに、第2の駆動梁170A、170Bを下反りにすることができる。その結果、光走査装置1000の破損や材料疲労を低減させることができる。
【0056】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る光走査装置について説明する。
図9は、第2実施形態に係る光走査装置の光走査部の一例を示す上面側の斜視図である。
【0057】
図9に示されるように、第2実施形態に係る光走査装置は、応力カウンター膜8が第2の駆動梁170A、170Bの上面の圧電薄膜(第2の圧電薄膜6)の上の一部の領域に形成されている点で第1の実施形態に係る光走査装置1000と異なる。なお、その他の構成については、第1実施形態に係る光走査装置1000と同様であるので、同様の構成については、説明を省略する。
【0058】
第2の駆動梁170A、170Bの上面には、それぞれ曲線部を含まない矩形単位ごとに駆動源171A、171Bが形成されている。駆動源171Aは、第2の駆動梁170Aの上面の圧電薄膜の上に形成された上部電極と、上部電極の上面における曲線部の近傍に形成された応力カウンター膜8と、圧電薄膜の下面に形成された下部電極とにより構成される。駆動源171Bは、第2の駆動梁170Bの上面の圧電薄膜の上に形成された上部電極と、上部電極の上面における曲線部の近傍に形成された応力カウンター膜8と、圧電薄膜の下面に形成された下部電極とにより構成される。
【0059】
以上に説明したように、第2実施形態に係る光走査装置は、上部電極上又は圧電薄膜と上部電極との間に第2の駆動梁170A、170Bを固定枠180に対して下反りさせる圧縮応力を発生させる応力カウンター膜8が形成されている。これにより、第2の駆動梁170A、170Bの上反りを解消し、さらに、第2の駆動梁170A、170Bを下反りにすることができる。その結果、光走査装置の破損や材料疲労を低減させることができる。
【実施例】
【0060】
次に、実施例として、第1実施形態に係る光走査装置1000を所定時間動作させたときの光走査部100の破損の有無を、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いて評価した。なお、比較のために、応力カウンター膜8が形成されていない光走査部を備える光走査装置についても、所定時間動作させ、光走査部の破損の有無を、SEMを用いて評価した。
【0061】
図10は、実施例に係る光走査装置の動作前後におけるリブ近傍のSEM像である。
図11は、比較例に係る光走査装置の動作前後におけるリブ近傍のSEM像である。
図10(a)及び
図11(a)は光走査装置を動作させる前のSEM像を示し、
図10(b)及び
図11(b)は光走査装置を動作させた後のSEM像を示している。
【0062】
図10(a)及び
図10(b)に示されるように、実施例に係る光走査装置1000(応力カウンター膜8を有する光走査部100を含む。)では、リブ近傍においてクラック等は発生しなかった。これは、上部電極上に第2の駆動梁170A、170Bに対して圧縮応力を発生させる応力カウンター膜8を形成することによって、第2の駆動梁170A、170Bの上反りが解消され、又は、第2の駆動梁170A、170Bが下反りとなったからであると考えられる。
【0063】
これに対して、
図11(a)及び
図11(b)に示されるように、比較例に係る光走査装置(応力カウンター膜8を有していない光走査部を含む。)では、破線で示す領域A11において、BOX層とリブとの間にクラックが発生した。これは、圧電薄膜、電極等により発生される第2の駆動梁170A、170Bに対する引張応力により第2の駆動梁170A、170Bが上反りし、光走査装置を動作させることにより第2の駆動梁170A、170Bが更に上反りし、リブ近傍に応力が集中したからであると考えられる。
【0064】
以上、好ましい実施の形態について説明したが、上述した実施の形態に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態に種々の変形及び置換を加えることができる。