【実施例1】
【0025】
実施例1の射出成形型Kは、固定型Dと、可動型Mとから成る。可動型Mは、
図1〜
図5に示されるように、正面視で方形状をなす剛体構造のテーブル台Tが側板1に複数本の支柱2を介してベース台3が垂直に支持され、方形状のベース台3における一対の割型B
1 ,B
2 のスライド方向Qの中央部に、中子型A
1 が垂直となって一体に支持され、ベース台3におるけ中子型A
1 の両側に、一対の割型B
1 ,B
2 が互いに接近・離間するように、水平方向にスライド可能に支持された構成である。当該構成の可動型Mの全体が固定型Dに対して接近・離間するように移動する。
【0026】
前記可動型Mにおいて、ベース台3に支持された一対の割型B
1 ,B
2 は、接近端位置(合体位置)と離間端位置との間で、互いに接近及び離間するようにスライドされる。固定型Dの型本体4には、一対の割型B
1 ,B
2 を接近端位置において、合体位置の各割型B
1 ,B
2 の型本体5の外側に嵌合される中空円錐台状の型嵌合凹部6が側方に開口して形成されており、方形状の型本体4の各コーナー部よりも僅かに内側の部分には、一対で一組となった二組である計4本の傾斜アンギュラピン7が下方に突出して設けられている。各組の2本の傾斜アンギュラピン7は、水平面内に配置されて、基端から先端に向けて間隔を広くなるように傾斜した状態で大きく下方に突出している。固定型Dの一対一組となった二組の傾斜アンギュラピン7は、一対の割型B
1 ,B
2 の外周部の厚肉フランジ部8に貫通形成された傾斜ガイド孔11にそれぞれ挿通される構造になっている。よって、
図1及び
図2に示されるように、固定型Dの二組の傾斜アンギュラピン7が、一対の割型B
1 ,B
2 の各傾斜ガイド孔11に挿通された状態で、可動型Mの全体を固定型Dに対して水平方向にスライドさせると、一対の割型B
1 ,B
2 は、互いに離間したり、接近したりする。固定型Dには、溶融状の熱可塑性エラストマーを射出させるスプルーブッシュ12が埋め込まれている。なお、成形品P
1 の抜取りのための空間を確保するため、
図3及び
図4に示されるように、一対の割型B
1 ,B
2 の離間時には、固定型Dの一対の傾斜アンギュラピン7が、各割型B
1 ,B
2 の各傾斜ガイド孔11から脱出することで、固定型Dに対して可動型Mは分離される。
【0027】
そして、
図1に示されるように、一対の割型B
1 ,B
2 が最も接近して各型本体5が台形台状に合体した部分が、固定型Dの型嵌合凹部6に嵌合されることで、前記中子型A
1 の外周面と、各割型B
1 ,B
2 の内周面とで形成される空間がキャビティ(成形空間)Cとなる。なお、キャビティCが形成された状態では、各割型B
1 ,B
2 により、当該キャビティCに連通する短いランナ13が形成される。
【0028】
成形品P
1 は、抜取り方向に沿った横断面形状は大きく異なっていて、抜取り方向の途中にアンダーカット部を有していて、抜取り方向に沿った一端部のみが開放された変則円筒状又は変則袋状をなしている。即ち、成形品P
1 は、抜取り方向の全体が閉塞されて、他端部のみが開口され、開放端部には、一般円筒部P
1aの外径よりも遥かに大きな外径を有していて、縦断面が等脚逆台形状の端末嵌着部P
1cが形成され、本実施例では、符号P
1a, P
1e, P
1cで示される部分がアンダーカット構造となっている。中子型A
1 は、当該成形品P
1 の内周形状と同一である。中子型A
1 の横断面の中央部には、エジェクタピンE
1 が挿通されるロッド挿通孔21が貫通して形成され、前記ベース台3には、前記エジェクタピンE
1 の押出しを支持する支持ブッシュ22が埋設され、当該ロッド挿通孔21及び支持ブッシュ22にエジェクタピンE
1 が挿通されている。ロッド挿通孔21の内径は、エジェクタピンE
1 の外径よりも僅かに大きく形成されて、当該ロッド挿通孔21にエジェクタピンE
1 を挿通した状態で、当該エジェクタピンE
1 の外周面と、ロッド挿通孔21の内周面との間に形成される隙間は、圧縮空気が流通する流通隙間S
1 となっている。当該流通隙間S
1 における支持ブッシュ22に近い部分には、中子型A
1 及びベース台3に貫通して形成された圧縮空気孔23が接続され、当該圧縮空気孔23を通して外部の圧縮空気源から流通隙間S
1 に圧縮空気が供給される。なお、中子型A
1 のロッド挿通孔21の内径と、エジェクタピンE
1 の外径との差は、圧縮空気が必要な速度を有して流通して得ることが必要であり、例えば1mm程度である。
【0029】
前記エジェクタピンE
1 の先端部は、縦断面が逆円錐台状に形成された嵌合凸部24となっていて、中子型A
1 に形成された前記ロッド挿通孔21の先端部は、当該エジェクタピンE
1 の嵌合凸部24が隙間なく嵌合されて密着する中空逆円錐台状の嵌合凹部25となっている。このため、
図3、
図5及び
図6に示されるように、エジェクタピンE
1 が後退端に達している状態では、エジェクタピンE
1 の先端部の嵌合凸部24が、中子型A
1 の先端部の嵌合凹部25に隙間なく嵌合されることで、互いの円錐面が密着し合うことで、溶融状の熱可塑性エラストマーが浸入不能な構造になっている〔
図3及び
図6(a)〕。一方、エジェクタピンE
1 が、後方の後退端から成形品P
1 の抜取り方向に僅かに押し出すと、エジェクタピンE
1 の嵌合凸部24の外円錐面24aと、中子型A
1 の嵌合凹部25の内円錐面25aとの間に僅かの隙間が形成される。この隙間は、前記流通隙間S
1 と、成形品P
1 の内周面と中子型A
1 の外周面との間に供給された圧縮空気により形成される抜取り隙間S
3 とを連通する連通隙間S
2 となる。
【0030】
また、
図2〜
図4に示されるように、ベース台3の下方には、方形状のエジェクタプレート26が複数のガイドピン(図示せず)により垂直を維持して、水平方向にスライド可能に配置されている。エジェクタプレート26は、押しロッド27により押されて、当該押しロッド27により前記エジェクタプレート26を介して前記エジェクタピンE
1 を抜取り方向に沿って押し出す。
【0031】
そして、固定型Dの各傾斜アンギュラピン7が一対の割型B
1 ,B
2 の各傾斜ガイド孔11に挿入された状態で、固定型Dに対して可動型Mを前進させると、一対の割型B
1 ,B
2 が互いに近接して、
図1及び
図2に示されるように、各型合せ面28,29(
図1参照)が互いに密着して、一対の割型B
1 ,B
2 が合体して、固定型Dの型嵌合凹部6に嵌合されることで、中子型A
1 の外周面と、合体された各割型B
1 ,B
2 の内周面との間に、成形品P
1 の形状に対応したキャビティCが形成される。この成形状態では、エジェクタピンE
1 が取付けられたエジェクタプレート26は、リターンピン(図示せず)により最後退端に押されることで、エジェクタピンE
1 も、最も後方の後退端位置に配置されて、その先端の嵌合凸部24は、中子型A
1 の先端部に形成された嵌合凹部25に隙間なく嵌合されることで、溶融状の熱可塑性エラストマーが浸入しないようになっている。
【0032】
上記の状態で、スプルーブッシュ12に形成されたスプルー12a及びランナ13を通して、樹脂原料射出装置のノズル51から、溶融状の熱可塑性エラストマーが前記キャビティCに射出される。所定時間が経過して、射出された熱可塑性エラストマーが冷却固化した後に、可動型Mを後退させると、
図3に示されるように、一対の割型B
1 ,B
2 が互いに離間されて、中子型A
1 の外周面に成形された円筒状の成形品P
1 が露出される。なお、
図3〜
図5において、41は、スプルー12a及びランナ13で成形品P
1 と一体に形成された非製品部であり、中子型A
1 から成形品P
1 を抜き取った後に、当該成形品P
1 を型外に取り出す際に、成形品P
1 に接触することなく掴むのに使用される。
【0033】
中子型A
1 の外周面に成形品P
1 が覆い被せられて成形された状態で、ベース台3及び中子型A
1 に形成された圧縮空気孔23から流通隙間S
1 に圧縮空気が供給されている状態において、押しロッド27によりエジェクタピンE
1 を成形品P
1 の抜取り方向に押し出すと、
図5及び
図6に示されるように、中子型A
1 の上端部の嵌合凹部25の内円錐面25aと、エジェクタピンE
1 の嵌合凸部24の外円錐面24aとの間に連通隙間S
2 が形成され、流通隙間S
1 に供給された圧縮空気は、当該連通隙間S
2 を通して、中子型A
1 の外周面と成形品P
1 の内周面との間に供給されることで、熱可塑性エラストマーから成る成形品P
1 がゴム弾性変形により外側に膨らむことで、両面の間に抜取り隙間S
3 が形成される。
【0034】
エジェクタピンE
1 は、その先端部の嵌合凸部24が、成形品P
1 の閉塞部P
1bの内周面に当たった状態で、抜取り方向に押し出すことで、成形品P
1 は、中子型A
1 の外周面との間に抜取り隙間S
3 が形成された状態で抜き取られるために、当該中子型A
1 の外周面に対する摺動抵抗がなくなるか、或いは極めて小さな摺動抵抗のため、当該成形品P
1 は、損傷されることなく、スムーズに中子型A
1 から抜き取られる。なお、
図4で実線で示されるように、中子型A
1 に対して成形品P
1 の閉塞部P
1bの側の部分が所定長だけ抜き取られた後には、流通隙間S
1 から噴出される圧縮空気は、成形品P
1 の抜取り部の内部空間に充満された状態を維持して、前記抜取り隙間S
3 を通って成形品P
1 の外部に排出される。このため、成形品P
1 は、その開口側に端末嵌着部P
1cが形成されていたり、中子型A
1 には、成形品P
1 の膨出部P
1dを形成するための膨出部A
1aが存在していても、抜取り隙間S
3 を連続して流れる圧縮空気により、成形品P
1 の各部が膨らむために、中子型A
1 に対して摺動した場合でも、その摺動抵抗は小さくなるため、成形品P
1 は、中子型A
1 から殆ど損傷されることなくスムーズに抜き取られる。
【0035】
このように、抜取り方向に沿った横断面形状が随所で変化していて、しかも抜取り方向に沿った一部にアンダーカット部を有する変則円筒状又は変則袋状の成形品P
1 であっても、成形品P
1 は、ゴム弾性を有する熱可塑性エラストマーで成形されているため、抜取り時に、圧縮空気の作用による膨み量を大きく確保できて、中子型A
1 の外周面との間に、抜取りに必要な抜取り隙間S
3 が形成されるため、成形品P
1 は、損傷されることなく、中子型A
1 から迅速に抜き取ることが可能となって、生産性が高められる。また、実施例1のように、抜取り方向の途中にアンダーカット部P
1eを有する成形品P
1 では、当該成形品P
1 の膨み量を大きくする必要があるため、熱可塑性樹脂は、ゴム弾性を有するエラストマーであることが必要である。なお、成形対象のアンダーカット部を有する筒状又は袋状の成形品の横断面形状は、円形以外に任意の形状であっても、抜取り可能である。
【実施例2】
【0036】
また、
図7(a),(b)は、全長に亘って一定の外径であって、しかも外径に対して長さが比較的長くて、抜取り方向の一端部のみが開放された円筒状の成形品P
2 を中子型A
2 から抜き取る前後の縦断面図である。中子型A
2 は、成形品P
2 の形状に対応して、抜き勾配が設けられずに、全長に亘って横断面形状が一定の円筒状を成していて、内部のロッド挿通孔21には、上記したエジェクタピンE
1 が挿通されている。このような形状の成形品P
2 は、外径に対して長さが長いために、中子型A
2 との総接触面積が大きくなって、当該成形品P
2 を抜き取る際の中子型A
2 に対する摺動抵抗が大きくなり、その結果、抜取りが困難であり、仮に抜き取ることができても、成形品P
2 が損傷され易い。更に、成形品P
2 の抜取りを可能にするために、中子型A
2 の外周面に抜き勾配を設けると、外径が一定の場合には、成形品P
2 の肉厚は、抜取り方向の先端から基端に向けて、漸次薄くなり、全長に亘って一定の肉厚が要求される場合には、対応できない。
【0037】
実施例2では、使用樹脂は、ゴム弾性を有する熱可塑性エラストマーでなくても、一般の熱可塑性樹脂であっても、成形可能である。溶融状で射出された熱可塑性樹脂が冷却固化した状態において、流通隙間S
1 に圧縮空気を供給した状態で、エジェクタピンE
1 を抜取り方向に押し出して、成形品P
2 の抜取りを開始すると、エジェクタピンE
1 の先端部の嵌合凸部24と、中子型A
2 の先端部の嵌合凹部25との間に連通隙間S
2 が形成され、当該連通隙間S
2 を通して、中子型A
2 の外周面と成形品P
2 の内周面との間に圧縮空気が供給されて、両面の間に、空気層による微小な抜取り隙間S
3 が、成形品P
2 の全長に亘って形成される。一般の熱可塑性樹脂であっても、僅かに弾性変形し得るため、連通隙間S
2 に供給された圧縮空気により僅かに膨らんで、抜取り隙間S
3 が形成される。このため、中子型A
2 に対する成形品P
2 の摺動抵抗が皆無となるか、或いは極めて小さくなって、外径に対して長さの長い成形品P
2 を損傷することなく、スムーズに抜き取ることが可能となる。
【0038】
このように、抜取り方向に沿った一端部のみが開放されて、全長に亘って一定の横断面形状を有する円筒状の成形品P
2 の射出成形では、圧縮空気により中子型A
2 の外周面との間に抜取り隙間S
3 が形成されるため、中子型A
2 に抜き勾配を設けなくても成形可能であるのみならず、円筒状の成形品P
2 は、全長に亘って一定の肉厚を確保できて、当該中子型A
2 から全く損傷させないで、しかも迅速に抜き取ることが可能となるので、成形品P
2 の生産性が高められる。特に、成形品P
2 のように、全長に亘って同一の横断面形状の場合には、原料樹脂である熱可塑性樹脂は、ゴム弾性を有するエラストマーに限られず、ゴム弾性を有しない一般の熱可塑性樹脂の使用も可能となる。なお、筒状の成形品の横断面形状、及び横断面の外径寸法に対する長さの比は、いかなるものであっても、成形可能である。