特許第6788260号(P6788260)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6788260
(24)【登録日】2020年11月4日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】美爪料
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/25 20060101AFI20201116BHJP
   A61K 8/37 20060101ALI20201116BHJP
   A61K 8/84 20060101ALI20201116BHJP
   A61Q 3/02 20060101ALI20201116BHJP
   A61K 8/58 20060101ALI20201116BHJP
   A61K 8/35 20060101ALI20201116BHJP
   A61K 8/55 20060101ALI20201116BHJP
【FI】
   A61K8/25
   A61K8/37
   A61K8/84
   A61Q3/02
   A61K8/58
   A61K8/35
   A61K8/55
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-146840(P2016-146840)
(22)【出願日】2016年7月27日
(65)【公開番号】特開2018-16570(P2018-16570A)
(43)【公開日】2018年2月1日
【審査請求日】2019年7月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】509140700
【氏名又は名称】ケーエスエム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120019
【弁理士】
【氏名又は名称】八木 敏安
(72)【発明者】
【氏名】中島 嵩太
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 泰一
(72)【発明者】
【氏名】小山 拓也
【審査官】 山中 隆幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−209390(JP,A)
【文献】 特開2015−209375(JP,A)
【文献】 特開2004−035561(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K8/00−8/99
A61Q1/00−90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(A)〜()を含有し、組成物不揮発分中の35重量%以上が水酸基含有(メタ)アクリレート (A)であり、5〜10重量%がシリカ粒子 (D)
であることを特徴とする美爪料。
水酸基含有(メタ)アクリレート (A)
不飽和基を有するシランカップリング剤 (B)
光重合開始剤 (C)
シリカ粒子 (D)
ウレタンアクリレートオリゴマー (E)
【請求項2】
ベースコートとして使用されるものである請求項1記載の美爪料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、美爪料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、爪の美容のために使用される美爪料は、爪上に塗布した後に紫外線、LED等のエネルギー線照射を行って硬化させることで樹脂層を爪の上に形成させるものである(特許文献1、2等)。これらは、爪の保護、光沢の付与等のほかに、ネイルアート等においても使用される。
【0003】
このような美爪料においては、爪に好適に塗布できるよう適度な粘度を有したものとすること、爪への密着性に優れること、長期間にわたって安定した外観を維持することができる樹脂層を形成できること、安定した硬化を行うことができること等の機能が求められている。更に、塗布時において適度な塗布性能を得るために、適度な粘性を有することが好ましい。特に、近年はネイルアートも盛んになっているため、形成したネイルを長期間にわたって美観を維持した状態で保つことも求められる。
【0004】
しかしながら、公知の美爪料は、このような機能をすべて満足することはなく、特に、爪との密着性の改善が要求されている。これらの目的を達成しつつ、発色性、光沢性、硬化性能、硬化後被膜の硬度等の美爪料に必要とされるすべての機能を備えたものとすることは容易ではなかった。
【0005】
特許文献1には、ラジカル重合性不飽和結合を有するシランカップリング剤を使用した人工爪原料組成物が開示されている。しかし、特許文献1においては、水酸基含有(メタ)アクリレートの使用量が少ないことから、充分な密着性を得ることができず、この点で改善の余地があった。
【0006】
特許文献2には、水酸基含有アクリレートを主要な原料として使用する人工爪組成物が開示されている。しかし、その使用量は20重量%以下である。更に、本発明者らが目標とする密着性という観点からは、その性能は必ずしも十分なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015−209375号
【特許文献2】特開2014−23590号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記に鑑み、より優れた爪への密着性を有し、塗布しやすい適度な粘度を有することを特徴とする美爪料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の(A)〜()を含有し、組成物不揮発分中の35重量%以上が水酸基含有(メタ)アクリレート (A)であり、5〜10重量%がシリカ粒子 (D)
であることを特徴とする美爪料である。
水酸基含有(メタ)アクリレート (A)
不飽和基を有するシランカップリング剤 (B)
光重合開始剤 (C)
シリカ粒子 (D)
ウレタンアクリレートオリゴマー (E)
【0010】
記ベースコートとして使用されるものであることが好ましい。

【発明の効果】
【0011】
本発明の美爪料は、爪への密着性に優れ、更に、形成された樹脂被膜の性能も優れ、更に、適度な粘度であることから、塗布性においても良好な性能を有するものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明の美爪料は、不飽和基を有するシランカップリング剤(B)を必須成分とするとともに、水酸基含有(メタ)アクリレート(A)を組成物不揮発分中に対して30重量%以上という高い割合で使用することに特徴を有するものである。
【0013】
すなわち、不飽和基を有するシランカップリング剤は、不飽和基が水酸基含有(メタ)アクリレート(A)のアクリレート基等の不飽和基の光重合反応に関与することで、被膜中に取り込まれ、かつ、シリケート基が皮膚上の水との反応によって反応を生じ、これによって爪との極めて強固な密着性を有することとなる。また、水酸基含有(メタ)アクリレート(A)を30重量%以上という量で配合していることから、水酸基による密着性の効果が高められる。
【0014】
本発明で使用することができる水酸基含有(メタ)アクリレート(A)としては、特に限定されず、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオール(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオール(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、3−メチルペンタンジオール(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらの2種以上を併用して使用するものであってもよい。
【0015】
上記水酸基含有(メタ)アクリレート(A)は、美爪料の固形分中30重量%以上の割合で含まれるものである。このように多量に水酸基含有(メタ)アクリレート(A)を配合することで、爪上の水酸基と結合すると推測されるので強力な密着性を得ることができる点で好ましい。更に、以下で詳述する不飽和基を有するシランカップリング剤(B)との間でも水酸基の反応による結合を形成し、強力な被膜を形成する上で有効に作用する。
【0016】
上記配合量は、35重量%以上であることがより好ましい。また、配合量の上限は特に限定されるものではないが、50重量%以下であることがより好ましい。
【0017】
上記不飽和基を有するシランカップリング剤(B)は特に限定されず、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、2−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N−2(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらの中でも、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、2−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等のアクリロイル基及び/又はメタクリロイル基を有するシランカップリング剤等を挙げることができる。これらの2種以上を併用して使用するものであってもよい。
【0018】
上記不飽和基を有するシランカップリング剤(B)の配合量は特に限定されるものではないが、好適には組成物不揮発分中0.5〜1.0重量%の割合であることが好ましい。0.5重量%未満であると、密着性不足という点で好ましくなく、1.0重量%を超えると耐久性という点で好ましくない。
【0019】
本発明の美爪料は、光重合開始剤(C)を含有するものである。すなわち、光重合を開始させるための開始剤を配合することによって、エネルギー線照射時に硬化反応を生じるものである。光重合開始剤(C)としては、特に限定されず、公知のものを使用することができる。
例えば、アセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、p−ジメチルアミノプロピオフェノン、シクロロアセトフェノン、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−molホリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−molホリノフェニル)−ブタノン−1等のアセトフェノン類、ベンゾフェノン、2−クロロベンゾフェノン、p,p−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、P,P−ビスジエチルアミノベンゾヘェノン、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド等のベンゾフェノン類、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾインエーテル類、ベンジルジメチルケタール等のケタール類、チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン等のチオキサントン類、アントラキノン、2,4,5−トリアリールイミダゾール二量体、2,4,6−トリス−S−トリアジン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド等が挙げられる。また、これらの2種以上を併用することもできる。
【0020】
上記光重合開始剤(C)の配合量は特に限定されるものではないが、組成物不揮発分中の3.0〜10.0%であることが好ましい。このような範囲内のものとすることで、光重合反応が良好に進行し、短時間で高品質の被膜形成を行うことができる。
【0021】
本発明の美爪料は、更に、シリカ(D)を配合することが好ましい。シリカを配合することで、組成物の粘性を高めることができ、これによって、塗布作業を効率よく行うことができる点で好ましい。上記シリカ(D)としては、疎水変性されているものが好ましい。疎水変性とは、シリカ表面に存在するシラノール基の水素原子がアルキル基等の疎水基に置換されるこという。シリカ(D)の平均粒径が5〜500nmであり、更に5〜100nmであることが好ましい。
【0022】
シリカ(D)は、組成物不揮発分中の5〜10重量%であることが好ましい。このような範囲内のものとすることで、好適な粘性を組成物に付与できる点で好ましい。
【0023】
本発明の美爪料は、更に、ウレタンアクリレートオリゴマー(E)を含有するものであってもよい。ウレタンアクリレートオリゴマー(E)は、塗布後エネルギー線照射前の段階において、樹脂被膜を良好に形成させる上で好ましい成分である。
【0024】
上記ウレタンアクリレートオリゴマー(E)は特に限定されるものではなく、ウレタン結合と不飽和結合とを有するものを使用することができる。具体的には、各種ジオール化合物をジイソシアネート化合物と反応させ、その後、水酸基含有(メタ)アクリレートと反応させて得られた化合物等を挙げることができる。
【0025】
上記ウレタンアクリレートオリゴマー(E)は、その配合量を特に限定するものではないが、組成物不揮発分中の30〜50重量%であることが好ましい。このような配合割合とすることで、密着性と好的な粘性を得るという点で好ましい。
【0026】
本発明の美爪料は、上述した水酸基含有(メタ)アクリレート(A)やウレタンアクリレートオリゴマー(E)に該当しないその他の(メタ)アクリレートを含有するものであってもよい。必要に応じてその他の(メタ)アクリレートを配合することによって、被膜強度、硬化性、粘性等の物性を調整することができる。
【0027】
本発明の美爪料は、本発明の目的を阻害しない範囲で、美爪料において一般的に配合されるその他の成分を配合するものであってもよい。配合する成分としては、例えば、着色顔料、体質顔料、パール顔料等の色材、光増感剤等を挙げることができる。
【0028】
美爪料を適用する際には、複層の組成物によって複数の層からなるネイル層を形成することがしばしば行われている。この場合、ベース層、マニキュア層、トップコート層といった層を形成することが行われている。本発明の美爪料は、特にベース層を形成するための組成物として好適に使用することができる。すなわち、爪との密着性が特に優れたものであることから、ベース層として使用すると、その効果が特に好適に発揮される。
【0029】
本発明の美爪料をベース層の形成に使用した場合、マニキュア層、トップコート層も同様の本発明の美爪料であってもよいし、マニキュア層、トップコート層はその他の組成の美爪料を使用してもよい。
【0030】
本発明の美爪料の適用方法は、従来のエネルギー線硬化タイプの一般的な美爪料と同様の方法で適用することができ、例えば、塗布後、光源LED、波長402nm、6Wの条件下で0.5〜5分エネルギー線照射を行うことによって硬化することで適用することができる。
【実施例】
【0031】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0032】
(実施例1、2及び比較例1〜5)
以下の表1に示す配合で原料を混合することで、美爪料を調製した。
【0033】
得られた美爪料を使用して、以下の工程で爪への処理を行った。手の爪に対し、美爪料を刷毛にて塗布した後、光源LED、波長402nm、6Wの条件下で0.5分エネルギー線照射を行い光硬化した。

このようにして得られた爪上の被膜に対して、以下の基準に基づいて評価を行った。
【0034】
(塗工性)
塗工時の作業性を以下の基準に基づいて判断した。
〇:作業者の塗工において問題を生じることがなく、均一な被膜を容易に形成することができる。
△:作業者の塗工において、若干のムラを生じたが、基本的にはほぼ均一な皮膜を形成することができた。
×:作業者の塗工において均一な被膜を形成することができず、爪からの液垂れや塗工ムラを生じた。
【0035】
(硬化性)
硬化時の作業性を以下の基準に基づいて判断した。
〇:上述した条件での硬化によって、均一性高く充分な硬化が行われた。
△:上述した条件での硬化によって、一応の硬化が行われたが、ごくわずかに未硬化部が存在した。
×:上述した条件での硬化によって、未硬化を生じ、良好な被膜を形成することができない。
【0036】
(初期密着)
被膜と爪との密着性について、以下の基準に基づいて評価を行った。
〇:初期状態の密着性が良好であった。
×:初期状態でも力がかかると皮膜のハガレを生じた。
【0037】
(硬度)
形成された被膜の硬度を以下の基準に基づいて判断した。
〇:鉛筆硬度2B以上である。
×:鉛筆硬度2B未満である。
【0038】
(耐久性)
被膜と爪との耐久性について、以下の基準に基づいて評価を行った。
〇:初期状態と比し、2週間後の外観に変化が確認されなかった。
△:初期状態と比し、2週間後の外観に、剥離、白化等は生じなかったが、若干の曇りが見られた。
×:初期状態と比し、2週間後の外観に剥離、白化などの異常が確認された。
【0039】
【表1】
【0040】
上記表1の結果から、本発明の美爪料は、バランスのとれた優れた物性を有するものであることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の美爪料は、ネイルサンロンや個人によって使用されるマニキュア、ネイルアートにおいて使用することができる。