【実施例】
【0039】
次に、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0040】
〔実施例1〕 MIDの合成
(1)化合物3の合成
【化2】
文献既知の化合物である(Igor B. Sivaev, Nadezhda Yu. Kulikova, Evgeniya A. Nizhnik, Maxim V. Vichuzhanin, Zoya A. Starikova, Andrei A. Semioshkin, and Vladimir I. Bregadze, J. Organomet. Chem. 2008, 693, 519-525)化合物4(1.3 g, 2.0 mmol)を出発原料として、NaBF
4(1.1 g, 10.0 mmol)と4 M HClを1 ml、1, 4-dioxaneを70 ml加えて、温度100 ℃で12時間加熱還流した。室温まで冷却した後、副生成物を濾過して取り除き、濾液を除去した。この沈殿を塩化メチレンに溶かし、セライト濾過で不純物の沈殿を取り除いた後に、固体をエタノールで再結晶し、キリヤマ濾過をして化合物3を得た。収率 87%
1H NMR (400 MHz; CD
3Cl): δ 3.72 (m, 6H), 3.30 (m, 18H), 1.53 (m, 16H), 0.99 (m, 24H)
【0041】
(2)化合物5の合成
【化3】
文献既知の化合物である(Anna V. Orlova, Nikolay N. Kondakov, Boris G. Kimel, Leonid O. Kononov, Elena G. Kononova, Igor B. Sivaev, and Vladimir I. Bregadze, Appl. Organometal. Chem. 2007, 21, 98-100)化合物3(100.0 mg, 0.2 mmol)を塩化メチレン溶媒中、Bu
4NN
3(120.7 mg, 0.4 mmol)を加えて24時間撹拌した。反応混合液を水で3回洗い、水層を塩化メチレンで3回抽出した。有機層をNa
2SO
4で乾燥させた。その後、カラムクロマトグラフィーで精製して、目的化合物5を得た。展開溶媒D:M = 20:1, R
f = 0.4-0.5. 収率 97%
1H NMR (400 MHz; CD
3Cl): δ 4.59 (m, 4H), 3.94 (m, 4H), 3.20 (m, 8H), 1.63 (m, 8H), 1.25 (m, 8H), 1.00 (t, J= 14.8 Hz, 12H)
【0042】
(3)化合物2の合成
【化4】
化合物5(200.0 mg, 0.27 mmol)をTHF / H
2O(10 : 1)溶媒中、Ph
3P(80.8 mg, 0.31 mmol)を加えて24時間撹拌した。混合溶媒を除去して、酢酸エチル / ジエチルエーテル混合溶媒300mlで洗い、化合物2を得た。化合物2は、これ以上精製することなく、化合物MID-TBA(化合物6)の合成に用いた。
【0043】
(4)化合物MID-TBA(化合物6)の合成
【化5】
化合物2(300.0 mg, 0.42 mmol)を塩化メチレン溶媒中、4-Maleimidobutyric Acid(91.0 mg, 0.5 mmol)とBOP(221.0 mg, 0.5 mmol)、Et
3N(0.088 ml, 0.63 mmol)を加えて24時間撹拌した。その後、2M HCl溶液(10 ml)を加え、塩化メチレンで抽出、有機層をNa
2SO
4で乾燥させた。溶液をセライト濾過した後、ロータリーエバポレーターで溶媒を除去、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、油状物質MID-TBA(化合物6)を得た。展開溶媒D:M = 20:1, R
f = 0.2-0.3. 収率 77%
【0044】
(5)化合物MID-TMA(化合物7)の合成
【化6】
化合物MID-TBA(化合物6)(200.0 mg, 0.22 mmol)をメタノールに溶かし、そこへメタノールに溶かした5当量のTMA-Cl(121.8 mg, 1.12 mmol)を加え、キリヤマ濾過をして白色固体の目的化合物MID-TMA(化合物7)を得た。収率94%.
MP. 135-136
oC; IR (KBr, cm
-1): 3027, 2480, 1708, 1638, 1487, 949, 829;
1H NMR (400 MHz; D
2O): δ 7.09 (s, 1H), 6.65 (s, 2H), 3.44 (t, J= 5.2 Hz, 2H), 3.41-3.38 (m, 6H), 3.17 (m, 2H), 3.02 (s, 12H), 2.08 (t, J= 7.2 Hz, 2H), 1.71 (m, 2H);
13C NMR (75 MHz; CD
3CN): δ 173.61, 171.57, 134.50, 72.23, 70.51, 67.49, 58.59, 39.37, 37.19, 33.09, 24.54, 23.60, 19.59, 13.10;
11B NMR (96.3 MHz; D
2O): δ 1.56, -21.09, -22.45, -27.236; HRMS (ESI, negative) m/z calcd. for C
12H
28B
12N
2O
5Na
1 [M + Na]
-: 433.3093, found: 433.3098.
【0045】
(6)化合物MID(化合物1)の合成
【化7】
化合物MID-TMA(化合物7)(300.0 mg, 0.54 mmol)を100 mlナスフラスコに秤量し、そこへ蒸留水 20 ml、ナトリウムフォームのアンバーライトを25 ml加えて、12時間撹拌(KPG-Stirr)した。キリヤマ濾過することで、ナトリウムアンバーライトを取り除き、ろ液をロータリーエバポレーターで除去した後に凍結乾燥して目的化合物MID(化合物1)を得た。収率93%.
1H NMR (400 MHz; D
2O): δ 6.70 (s, 2H), 3.51-3.38 (m, 8H), 3.20 (m, 2H), 2.16 (t, J= 7.2 Hz, 2H), 1.76 (m, 2H);
13C NMR (75 MHz; CD
3CN): δ 176.26, 173.86, 134.99, 71.50, 69.16, 68.20, 39.78, 33.46, 24.33;
11B NMR (96.3 MHz; D
2O): δ 1.71, -21.15, -23.00, -27.96; HRMS (ESI, negative) m/z calcd. for C
12H
28B
12N
2O
5Na
1 [M + Na]
-: 433.3093, found: 433.3095.
【0046】
〔実施例2〕MID-BSAコンジュゲートの生体分布
MIDとBSAをモル比が10:1になるようにPBS(pH 7.4)中で混合し、23℃で、12時間反応させ、MID-BSAコンジュゲートを生成させた。このMID-BSAコンジュゲートを、CT26(マウス大腸癌細胞株)を接種したBALB/cマウスの尾静脈に注入した。MID-BSAコンジュゲートの注入量は、3〜30mg B/kgとなるようにした。注入後の血液、腫瘍組織、肝臓、腎臓、及び脾臓のホウ素濃度を、ICP-AESを用いて測定した。
【0047】
図2に示すように、腫瘍組織におけるホウ素濃度は、60 ppm(注入量:30mg B/kg)又は38 ppm(注入量:15mg B/kg)にも達した。一方、肝臓、腎臓、及び脾臓のホウ素濃度は、10 ppm以下であった。リポソームを利用したホウ素のデリバリーシステムでは、腫瘍組織だけでなく、腎臓及び脾臓にもホウ素が蓄積することから(H. Koganei etal., Bioconjugate Chem. 24, 124-132 (2013))、これらの臓器におけるホウ素濃度が低いということは驚くべきことであった。
【0048】
〔実施例3〕 MIDのBSAに対する結合評価
アルブミンの-SHを前もってIAA(2-iodoacetamide)、及びN-ethymaleimideによりブロックしておいてからMIDを加えることにより-SH以外のアルブミンの結合部位の同定を試みた。BSA溶液(100μM)にIAA及びN-ethymaleimide(10mM)を加えて1h撹拌した後、MID(1mM)を加えて反応を進行させ、SDS-PAGE、Western Blottingを行った。
図3に示すように、SDS-PAGEの結果によりタンパク量が揃っていることが確認され、Western Blottingの結果より-SHをブロックする試薬を加えたレーン(lane 3及びlane 4)においてもアルブミンとMIDとの結合が観察された。
【0049】
IAAやN-ethylmaleimideの代わりに、リジン残基を選択的にブロックする試薬であるN-acetyl succinimideを用いて、上記と同様にSDS-PAGE及びWestern Blottingを行った。
図3に示すように、N-acetyl succinimideのみを加えた場合は、弱いバンドが観察された(lane 5)。このバンドは、MIDとアルブミンの-SHとの結合によるものと考えられる。一方、IAAとN-acetyl succinimideを加えた場合(lane 6)、及びN-ethylmaleimideとN-acetyl succinimideを加えた場合は(lane 7)、バンドが検出されなかった。以上のことから、MIDは、-SHとリジン残基の両方でアルブミンと結合していると考えられる。
【0050】
次に、MID-BSAの濃度依存性評価を行ったところ、
図4に示すように、BSA:MID=1:30の反応条件(lane4)において反応は頭打ちとなり、それ以上MIDを加えても結合量は増加しないことが分かった。
【0051】
BSA:MID=1:100の反応比率で反応を進行させた後、どれくらいの時間で反応が頭打ちになるか評価した。その結果、
図5に示すように、BSAとMIDとの反応は反応時間6hまで時間依存的に進行した後、頭打ちになることが分かった。
【0052】
〔実施例4〕 NCS-ドデカボレートの合成
(1)NCS-ドデカボレート テトラブチルアンモニウム(TBA)塩(化合物9)の合成
【化8】
化合物8(400mg, 0.55mmol)を塩化メチレン溶媒中、TCDI(129.9mg, 0.73mmol)とEt
3N(151.9μL, 1.10mmol)を加えて一晩中撹拌した。その後、ロータリーエバポレーターで溶媒を除去し、酢酸エチル:ジエチルエーテル=1:1混合溶媒200mLで洗った。得られた残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(塩化メチレン:メタノール=15:1)を通すことで不純物の除去を行い、化合物9(319.4mg, 75%)を得た。
1H NMR (400 MHz; CD
3CN): δ 3.71-3.65(m, 4H), 3.58-3.54(m, 4H), 3.10-3.06(m, 16H), 1.64-1.58(m, 16H), 1.40-1.36(m, 16H), 0.98-0.95(m, 24H)
MS ESI, negative, m/z calcd. for C
5H
19B
12NO
2S [M /2]
2-:143.5 , found: 144.0.
【0053】
(2)NCS-ドデカボレート テトラメチルアンモニウム(TMA)塩(化合物10)の合成
【化9】
化合物9(319.4mg,0.41mmol)をメタノールに溶かし、そこへメタノールに溶かしたTMA-Cl(226.7mg, 2.07mmol)を滴下した。3h撹拌させた後、濾過を行うことで白色固体の化合物10(152mg, 84%)を得た。
1H NMR (400 MHz; CD
3CN): δ 3.71-3.69(m, 2H), 3.66-3.64(m, 2H), 3.54(m, 4H), 3.10(s, 24H);
13C NMR ( CD
3CN): δ 72.56, 68.53, 67.78, 55.35, 45.42
MS ESI, negative, m/z calcd. for C
5H
19B
12NO
2S [M /2]
2-:143.5 , found: 143.6.
【0054】
(3)NCS-ドデカボレート ナトリウム塩(化合物11)の合成
【化10】
化合物10(522mg, 1.20mmol)にNa+-Amberlite(20mL)と蒸留水(50mL)を加えて一晩中撹拌を行った。キリヤマ濾過を行うことでAmberliteを取り除き、ロータリーエバポレーターで溶媒を除去した後に凍結乾燥することで化合物11(329mg, 83%)を得た。
1H NMR (400 MHz; D
2O): δ 3.79(m,4H), 3.70(m, 4H)
13C NMR ( D
2O): δ 71.14, 68.67, 67.66, 45.00
MS ESI, negative, m/z calcd. for C
5H
19B
12NO
2S [M /2]
2-:143.5 , found: 143.6.
【0055】
〔実施例5〕 ヒト血清トランスフェリンに対するホウ素化合物結合評価
ヒト血清トランスフェリン(Tf)に対してNCS-ドデカボレート ナトリウム塩(化合物11)を反応させた後にSDS-PAGE及びWestern Blottingにより結合評価を行った。結果を
図6に示す。ここでは反応溶液のpHを変えることにより結合評価を行った。pH=10においてTfとの結合能が最も大きいことが観察された(lane 5)。また、末端にアミノ基を有するホウ素クラスター化合物との結合は観察されなかった(lane 6)。
【0056】
続いてTfに対してNCS-ドデカボレート ナトリウム塩(化合物11)の結合評価を濃度依存性について確認を行った。反応時間1時間、Tf : ホウ素クラスター化合物=1:1, 1:10, 1:50, 1:100の濃度比で反応を行った。結果を
図7に示す。NCS-ドデカボレート ナトリウム塩(化合物11)は濃度依存的にTfに結合した。また、pH=10 (Lanes 2-5) の方が、pH=7.4 (lanes 6-9)よりも効率よく結合することが分かった。
【0057】
また、Tfに対してMIDの結合実験を行った。Tfはfreeの-SHを含まないことが分かっており、通常マレイミドを含む化合物はTfには結合しない。
図8に示すように、BSAに対してはpH 7.4において、MIDの方がNCS-ドデカボレート ナトリウム塩(化合物11)よりも結合能が高いことが分かった(lanes 2 and 3)。また、興味深いことにfreeの-SHを含まないTfに対してもMIDはNCS-ドデカボレート ナトリウム塩(化合物11)と同様に結合することが分かった(lanes 5 and 6)。
【0058】
〔実施例6〕 Tfに対するMIDの結合評価
MID-TfコンジュゲートをWestern Blottingにより分析した。PBS緩衝液(pH 7.4)中で、12時間、Tf(0.1mM)をMID(1mM)と反応させた。比較のため、Na
2B
12H
11SH (BSH)及び Na
2B
12H
12もTfと反応させ、同様に分析した(
図9)。
【0059】
図9に示すように、TfをMIDと反応させた場合、両者の結合が確認された(lane 4)。一方、TfとNa
2B
12H
11SH又はNa
2B
12H
12と反応させた場合、結合は確認されなかった(lane 5及びlane 6)。
【0060】
〔実施例7〕 MID-BSAコンジュゲートとpHとの関係
BSAとMIDの結合性とpHとの関係をSDS-PAGEとWestern Blottingにより調べた。様々なpH条件(pH 5-10)下で、BSA(0.1mM)をMID(1mM)で処理し、処理後の混合物を電気泳動し、Western Blottingを行った(
図10)。Western Blottingは、抗BSH抗体を用いて行った。
【0061】
図10に示すように、酸性条件下では、BSAとMIDはほとんど結合しなかった(lane 2及びlane 3)。
【0062】
〔実施例8〕 ホウ素取込み量の評価
マウス大腸癌細胞(colon 26細胞)へのホウ素試薬(MID又はMID-BSAコンジュゲート)の取込み量を調べた。
【0063】
細胞を培養皿中で24時間プレインキュベートした後、FBSの存在又は非存在下で、ホウ素試薬(ホウ素濃度は30、100、又は300ppmになるようにした。)で1時間処理し、その後、PBS(5mL x 3)で洗浄した。細胞を集め、2mLの60% HClO
4 / 30% H
2O
2 (1:2)で70℃、1時間消化した。溶液中のホウ素濃度をICP-AESを用いて測定した。比較のため、BSHの取込み量も調べた。結果を
図11に示す。図中の黒いバーがFBS存在下でのホウ素濃度を示し、白いバーがFBS非存在下でのホウ素濃度を示す。
【0064】
図11に示すように、いずれのホウ素試薬を用いた場合も、処理濃度に依存したホウ素の取込みが観察された。BSHの場合、FBSの非存在下の方がホウ素濃度は低かった。このことは、BSHの細胞への取込みには、FBSが必須であることを示唆する。MIDの取込みにおいても、BSHと同様の現象が観察された。これに対し、MID-BSAコンジュゲートの取込みは、FBSの存在下で抑制され、FBS非存在下で促進された。このことは、MID-BSAコンジュゲートの細胞内における蓄積がアルブミンを介在した能動的な取込みメカニズムによって誘発されることを示唆する。
【0065】
〔実施例9〕 MIDで処理したマウス血液のWestern Blotting
マウスの血液をPBS(lane 1)又はMIDを含むPBS(lane 2)中で1時間インキュベートした。処理後の血液を、抗BSH抗体を用いたWestern Blottingによって分析した(
図12)。
【0066】
図12に示すように、抗BSH抗体と結合するバンドが60 kDa付近に観察された。このバンドは、血清アルブミンのものであると考えられる。従って、MIDは、注入後、循環する血液中の血清アルブミンと結合し、MID-BSAコンジュゲートと同様の作用を示すと考えられる。
【0067】
〔実施例10〕 MID-BSAコンジュゲートを注入したマウスにおける腫瘍量の変化
BSAへのMIDの結合を、PBS中、12時間、37℃で実施した。腫瘍を有するマウスに、尾静脈からMID-BSAのPBS溶液を注入し、京都大学研究用原子炉(KUR)で、投与後12時間に、熱中性子を照射した。照射後、時間間隔をおいて腫瘍量を測定した。この結果を
図13に示す。図中の○はMID-BSAを注入せず、熱中性子を照射した場合を示す。図中の△、●、及び■は、それぞれ7.5、15、及び30mg[
10B]/kgのMID-BSAを注入し、熱中性子を照射した場合を示す。
【0068】
図13に示すように、MID-BSAを注入しなかった場合は、時間の経過に伴い腫瘍量が増えた。これに対し、15及び30mg[
10B]/kgの容量でMID-BSAを注入した場合は、腫瘍増殖の有意な抑制が観察された。30mg[
10B]/kgのMID-BSAを注入した場合、照射から3日後に腫瘍サイズの一時的な増加が観察されたが、これは、おそらく腫瘍組織において高い中性子捕獲反応によって引き起こされる急性炎症に起因すると考えられる。また、腫瘍増殖の有意な抑制は、7.5mg[
10B]/kgの容量で注入した場合においても観察された。
【0069】
本発明者らは、以前に腫瘍を有するマウスにおけるホウ素クラスター脂質リポソームの抗腫瘍効果を報告した(M. Ueno et al., Bioorg. Med. Chem., 18 (2010) 3059-3065.)。この場合、1週間、腫瘍増殖はある程度抑制されたが、熱中性子照射から1週間後に腫瘍の再増殖が観察された。これらの結果は、腫瘍組織におけるホウ素の分布はリポソームとMID-BSAで異なっており、MID-BSAはリポソームよりも積極的に腫瘍細胞に蓄積され、その結果、腫瘍を有するマウスにより高い抗腫瘍効果を示すことを示唆する。熱中性子を照射している間、高レベルのホウ素が血液中を循環しているが、照射後の右大腿部の領域では深刻な障害は観察されなかった。これらの現象は、ホウ素化リポソームの本発明者らの以前の研究でも観察された(S. Tachikawa et la., Chem. Commun., 50 (2014) 12325-12328.及びH. Koganei et la., Bioconjug. Chem., 24 (2013) 124-132.)。障害は、おそらく各ホウ素試薬に依存すると考えられる。MID-BSAは、血管や血液内容物(例えば赤血球、白血球、及び血小板)と相互作用せず、その結果、血管の損傷を最小限に留めると考えられる。また、有意なホウ素の蓄積が肝臓や腎臓など他の臓器でも観察されたが、これらのオフターゲット分布は毒性に影響を与えると考えられない。なぜなら、MID自体が潜在的に低毒性(IC
50 > 1 mM)であり、これらの臓器に中性子が照射されない限り、有意な毒性を示さないからである。
【0070】
〔実験方法〕
上記実施例においてSDS-PAGE及びWestern Blottingは、以下のように行った。
(1)SDS-PAGE
Tf溶液(50μL, 100μM)に対して化合物11(0.5μL, 100mM)を加えた後、1時間ボルテックスによる撹拌を行った。反応溶液を低分子除去カラム(Micro Bio-Spin(登録商標) 6 Chromatography Columns)に通した後、DTTを含む5×sample buffer(12.5μL)を加え、95℃で5分間加熱した。得られたサンプルを30倍希釈したものを用いてSDS-PAGE(10%アクリルアミドゲル, 200V, 50min)を行い、CBB染色することでタンパク質のバンドを可視化した。
【0071】
(2)Western Blotting
SDS-PAGEにより得られたアクリルアミドゲルをメンブレンフィルターへと転写(300mA, 45min)した後、メンブレンにイムノブロックを加えシェーカーにより1時間振とうさせた。TTBSバッファーによる10分間の洗浄を3回行った後、抗BSH抗体を用いた1次抗体結合反応を4℃環境下、一晩中撹拌を行った。TTBSバッファーによる10分間の洗浄を3回行った後、HRPを有する2次抗体結合反応を4℃環境下、3時間撹拌を行った。TTBSバッファーによる10分間の洗浄を3回行った後、化学発光検出試薬を加え、イメージャーによる検出測定を行った。
【0072】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。