(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の懸架装置において車輪を回転自在に支持する車輪用軸受装置が知られている。車輪用軸受装置は、懸架装置を構成するナックルに外方部材が固定される。また、車輪用軸受装置は、外方部材の内側に複列の転動体が介装され、この転動体によって内方部材を支持している。こうして、車輪用軸受装置は、転がり軸受構造を構成し、内方部材に取り付けられた車輪を回転自在としているのである。
【0003】
ところで、内方部材は、車輪取り付けフランジが形成されたハブ輪を構成部品としている。ハブ輪は、そのアウター側端面に開口穴が形成されており、その開口穴の内周から中心方向に向けて隆起した複数の掛合部(「ケレ」と称される場合もある)を有している(特許文献1参照)。かかる掛合部は、内方部材を回転させながら車輪取り付けフランジのアウター側端面を削り、平面度を向上させる工程で利用される。つまり、駆動軸の爪を掛合部に引っ掛けて回転動力を伝達し、内方部材を回転させるとともに、回転している車輪取り付けフランジのアウター側端面に刃物若しくは砥石を当てて、その表面を削り取るのである。
【0004】
ここで、車輪取り付けフランジには、同心円上かつ等間隔に複数のハブボルトが固定されている。一方で、掛合部を有する開口穴に代えて多角形の開口穴が形成された車輪用軸受装置が提案されている(特許文献2参照)。すると、各ハブボルトと開口穴の位相が一致しない場合(各ハブボルトに対して開口穴の形状が一定とならない場合)、車輪取り付けフランジの応力分布が位相角ごとに異なってしまうこととなる。この場合、車輪取り付けフランジのアウター側端面をうまく削れず、歪が偏ってしまうという問題があった。また、多角形の開口穴と多角形の駆動軸は、位相が合いにくく、挿嵌性がよくないという問題もあったのである。
【0005】
加えて、車輪用軸受装置を構成する各部品は、鍛造工程を経て完成する。例えば、ハブ輪は、据込鍛造から仕上鍛造まで複数の鍛造工程を経て完成する。そのため、ハブ輪の鍛造型には、開口穴を形成するための半球部に掛合部を形成するための切り立った溝部が設けられている。従って、ハブ輪の鍛造型は、その溝部周辺に応力や摩耗、熱的負荷が集中してしまうという問題があった。ひいては、鍛造型の寿命が短くなるという問題があったのである。
【0006】
更に加えて、特許文献2に開示された車輪用軸受装置は、その多角形の開口穴が小さく、切削加工によって形成したものと考えられる。この場合、加工費用が高くなるという問題があった。ひいては、製品価格が高くなるという問題があったのである。なお、駆動輪用の車輪用軸受装置であれば、センターボルトのボルト座面を形成するなど、切削工程の増加が避けられないので、少なくとも開口穴を鍛造工程で形成することが製品価格の低減に対して重要となる。更に、駆動輪用の車輪用軸受装置においては、高く隆起した掛合部を鍛造工程で形成しても、ボルト座面を形成する切削加工によって削り落とすこととなる。従って、駆動軸の爪を掛合部に引っ掛けて回転動力を伝達し、内方部材を回転させるという構成を実現するのは困難であった。また、このような構成を実現しても、掛合部の周辺に応力が集中して歪が生じてしまうという懸念もあった。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、
図1から
図4を用いて、本発明に係る従動輪用の車輪用軸受装置1について説明する。なお、
図2は、
図1におけるA−A断面図である。
図3および
図4は、
図2における一部領域の拡大図である。
【0018】
車輪用軸受装置1は、自動車等の懸架装置において車輪(従動輪)を回転自在に支持するものである。かかる車輪用軸受装置1は、後述する駆動輪用と同じく、外方部材2、内方部材3(ハブ輪4と内輪5)、転動体6、シール部材7(以降「一側シール部材7」とする)、シール部材10(以降「他側シール部材10」とする)を具備する。なお、以下において、「一側」とは、車輪用軸受装置1の車体側、即ち、インナー側を表す。また、「他側」とは、車輪用軸受装置1の車輪側、即ち、アウター側を表す。
【0019】
外方部材2は、内方部材3(ハブ輪4と内輪5)を支持するものである。外方部材2は、略円筒形状に形成されたS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で構成されている。外方部材2のインナー側端部には、拡径部2aが形成されている。また、外方部材2のアウター側端部には、拡径部2bが形成されている。更に、外方部材2の内周には、環状に外側転走面2cと外側転走面2dとが互いに平行となるように形成されている。外側転走面2cと外側転走面2dには、高周波焼入れが施され、表面硬さが58〜64HRCの範囲となるように硬化処理されている。なお、外方部材2の外周には、懸架装置を構成するナックルに取り付けるためのナックル取り付けフランジ2eが一体的に形成されている。
【0020】
内方部材3は、図示しない車輪を回転自在に支持するものである。内方部材3は、ハブ輪4と内輪5で構成されている。
【0021】
ハブ輪4は、略円筒形状に形成されたS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で構成されている。ハブ輪4のインナー側端部には、小径段部4aが形成されている。小径段部4aには、内輪5が圧入されている。また、小径段部4aには、そのインナー側端部を径方向外側へ折り曲げることにより、内輪5のカシメ部分4bが形成されている。更に、ハブ輪4の外周には、車輪取り付けフランジ4cが一体的に形成されている。車輪取り付けフランジ4cには、内方部材3の回転軸Lを中心とする同心円上に等間隔にボルト穴4dが設けられ、それぞれのボルト穴4dにハブボルト4eが螺合されている。また、ハブ輪4の外周には、環状に内側転走面4fが形成されている。ハブ輪4は、小径段部4aから内側転走面4fを経てシールランド部(後述の軸面部4gと曲面部4hと側面部4iで構成される)まで高周波焼入れが施され、表面硬さが58〜64HRCの範囲となるように硬化処理されている。これにより、ハブ輪4は、車輪取り付けフランジ4cに付加される回転曲げ荷重に対して十分な機械的強度と耐久性を有している。なお、内側転走面4fは、外方部材2の外側転走面2dに対向する。
【0022】
内輪5は、略円筒形状に形成されたSUJ2等の高炭素クロム軸受鋼で構成されている。内輪5の外周には、環状に内側転走面5aが形成されている。つまり、内輪5は、ハブ輪4の小径段部4aに圧入嵌合され、小径段部4aの外周に内側転走面5aを構成している。内輪5は、いわゆるズブ焼入れが施され、芯部まで58〜64HRCの範囲となるように硬化処理されている。これにより、内輪5は、車輪取り付けフランジ4cに付加される回転曲げ荷重に対して十分な機械的強度と耐久性を有している。なお、内側転走面5aは、外方部材2の外側転走面2cに対向する。
【0023】
転動体6は、外方部材2と内方部材3(ハブ輪4と内輪5)の間に介装されているものである。転動体6は、インナー側のボール列6a(以降「一側ボール列6a」とする)とアウター側のボール列6b(以降「他側ボール列6b」とする)を有している。一側ボール列6aと他側ボール列6bは、SUJ2等の高炭素クロム軸受鋼で構成されている。一側ボール列6aと他側ボール列6bには、いわゆるズブ焼入れが施され、芯部まで58〜64HRCの範囲となるように硬化処理されている。一側ボール列6aは、複数のボールが保持器によって環状に保持されている。一側ボール列6aは、内輪5に形成されている内側転走面5aと、それに対向する外方部材2の外側転走面2cとの間に転動自在に収容されている。他側ボール列6bは、複数のボールが保持器によって環状に保持されている。他側ボール列6bは、ハブ輪4に形成されている内側転走面4fと、それに対向する外方部材2の外側転走面2dとの間に転動自在に収容されている。このようにして、一側ボール列6aと他側ボール列6bは、外方部材2と内方部材3(ハブ輪4と内輪5)とで複列アンギュラ玉軸受を構成している。なお、車輪用軸受装置1は、ハブ輪4の外周に他側ボール列6bの内側転走面4fが直接形成されている第3世代構造の車輪用軸受装置であるがこれに限定するものではなく、ハブ輪4に一対の内輪5が圧入固定された第2世代構造や、ハブ輪4を備えずに外方部材2である外輪と内方部材3である内輪とから構成される第1世代構造であっても良い。
【0024】
一側シール部材7は、外方部材2と内方部材3の間に形成された環状空間Sのインナー側端部に装着されるものである。一側シール部材7は、円環状のシールリング8と円環状のスリンガ9で構成されている。
【0025】
シールリング8は、外方部材2の拡径部2aに嵌合されて外方部材2と一体的に構成される。シールリング8は、芯金81と弾性部材であるシールゴム82とを有する。
【0026】
芯金81は、フェライト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS430系等)やオーステナイト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS304系等)、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板(JIS規格のSPCC系等)で構成されている。芯金81は、円環状の鋼板がプレス加工によって屈曲され、軸方向断面が略L字状に形成されている。これにより、芯金81は、円筒状の嵌合部81aと、その一端から内方部材3(内輪5)に向かって延びる円板状の側板部81bとが形成されている。嵌合部81aと側板部81bは、互いに略垂直に交わっており、嵌合部81aは、後述するスリンガ9の嵌合部9aに対向する。また、側板部81bは、後述するスリンガ9の側板部9bに対向する。なお、嵌合部81aと側板部81bには、弾性部材であるシールゴム82が加硫接着されている。
【0027】
シールゴム82は、NBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)、耐熱性に優れたHNBR(水素化アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、EPDM(エチレンプロピレンゴム)、耐熱性、耐薬品性に優れたACM(ポリアクリルゴム)、FKM(フッ素ゴム)、あるいはシリコンゴム等の合成ゴムで構成されている。シールゴム82には、シールリップであるラジアルリップ82a、内側アキシアルリップ82bおよび外側アキシアルリップ82cが形成されている。
【0028】
スリンガ9は、内方部材3の外周(内輪5の外周)に嵌合されて内方部材3と一体的に構成される。
【0029】
スリンガ9は、フェライト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS430系等)やオーステナイト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS304系等)、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板(JIS規格のSPCC系等)で構成されている。スリンガ9は、円環状の鋼板がプレス加工によって屈曲され、軸方向断面が略L字状に形成されている。これにより、スリンガ9は、円筒状の嵌合部9aと、その端部から外方部材2に向かって延びる円板状の側板部9bとが形成されている。嵌合部9aと側板部9bは、互いに垂直に交わっており、嵌合部9aは、前述したシールリング8の嵌合部81aに対向する。また、側板部9bは、前述したシールリング8の側板部81bに対向する。なお、側板部9bには、磁気エンコーダ9cが設けられている。
【0030】
一側シール部材7は、シールリング8とスリンガ9とが対向するように配置される。このとき、ラジアルリップ82aは、油膜を介してスリンガ9の嵌合部9aに接触する。また、内側アキシアルリップ82bは、油膜を介してスリンガ9の側板部9bに接触する。そして、外側アキシアルリップ82cも、油膜を介してスリンガ9の側板部9bに接触する。このようにして、一側シール部材7は、いわゆるパックシールを構成し、砂塵等の侵入やグリースの漏出を防止しているのである。
【0031】
他側シール部材10は、外方部材2と内方部材3の間に形成された環状空間Sのアウター側端部に装着されるものである。他側シール部材10は、円環状のシールリング11で構成されている。
【0032】
他側シール部材10は、外方部材2の拡径部2bに嵌合されて外方部材2と一体的に構成される。シールリング11は、芯金111と弾性部材であるシールゴム112とを有する。
【0033】
芯金111は、フェライト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS430系等)やオーステナイト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS304系等)、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板(JIS規格のSPCC系等)で構成されている。芯金111は、円環状の鋼板がプレス加工によって屈曲され、軸方向断面視で略C字状に形成されている。これにより、芯金111は、円筒状の嵌合部111aと、その一端から内方部材3(ハブ輪4)に向かって延びる円板状の側板部111bとが形成されている。嵌合部111aと側板部111bは、互いに湾曲しながら交わっており、嵌合部111aは、ハブ輪4の軸面部4gに対向する。また、側板部111bは、ハブ輪4の曲面部4hおよび側面部4i(車輪取り付けフランジ4cの端面を指す)に対向する。なお、側板部111bには、弾性部材であるシールゴム112が加硫接着されている。
【0034】
シールゴム112は、NBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)、耐熱性に優れたHNBR(水素化アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、EPDM(エチレンプロピレンゴム)、耐熱性、耐薬品性に優れたACM(ポリアクリルゴム)、FKM(フッ素ゴム)、あるいはシリコンゴム等の合成ゴムで構成されている。シールゴム112には、シールリップであるラジアルリップ112a、内側アキシアルリップ112bおよび外側アキシアルリップ112cが形成されている。
【0035】
他側シール部材10は、シールリング11とハブ輪4とが対向するように配置される。このとき、ラジアルリップ112aは、油膜を介してハブ輪4の軸面部4gに接触する。また、アキシアルリップ112bは、油膜を介してハブ輪4の曲面部4hに接触する。そして、外側アキシアルリップ112cも、油膜を介してハブ輪4の側面部4iに接触する。このようにして、他側シール部材10は、砂塵等の侵入やグリースの漏出を防止しているのである。
【0036】
次に、ハブ輪4の鍛造工程について説明する。
【0037】
図5は、ハブ輪4の鍛造工程を示している。
図5の(A)から(G)は、各鍛造工程の具体的な内容を示している。
【0038】
図5の(A)は、S53C等の円柱材を切断する工程である。つまり、円柱材からワークWを切り出す工程である。
【0039】
図5の(B)は、ワークWを加熱する工程である。つまり、ワークWを炉に投入して所定の温度になるまで熱する工程である。
【0040】
図5の(C)は、ワークWを据え込む工程である。つまり、ハンマーを用いて押圧し、ワークWを軸方向に圧縮するとともに、径方向に拡張する工程である。かかる工程により、ワークWは、樽型に膨らんだ形状となる。
【0041】
図5の(D)は、ワークWを粗成形する工程である。つまり、ハブ輪4の大まかな形状を転写した鍛造型Faを用いて押圧し、ワークWを所定形状に形成する工程である。かかる工程により、ワークWは、その外周に段差が形成された形状となる。また、ワークWは、そのアウター側端面の中央部分が大きく窪んだ形状となる。
【0042】
図5の(E)は、ワークWを仕上成形する工程である。つまり、ハブ輪4の精密な形状を転写した鍛造型Fbを用いて押圧し、ワークWを所定形状に形成する工程である。かかる工程により、ワークWは、切削工程における削り代を含んだハブ輪4の形状となる。このとき、ワークWのアウター側端面における中央部分には、多角形の開口穴Whが形成される。
【0043】
図5の(F)は、ワークWのバリ等を除去する工程である。つまり、ワークWに対して粒状体を吹き付け、ワークWに残ったバリ等を取り除く工程である。
【0044】
図5の(G)は、ワークWの外観を検査する工程である。つまり、ワークWの外観を目視し、ワークWの不良品を取り除く工程である。
【0045】
その後、ワークWは、搬送されて切削工程に供給される。ワークWは、切削工程を経ることでハブ輪4となるのである。なお、開口穴Whの内側に切削加工は施されない。従って、ハブ輪4の開口穴Whは、全て鍛造肌のままである。
【0046】
以下に、本車輪用軸受装置1の特徴点について説明する。
【0047】
図6は、ハブ輪4の車輪取り付けフランジ4cを示している。
図6は、
図2における矢印Bから見た図である。
【0048】
本車輪用軸受装置1は、ハブ輪4のアウター端面に多角形の開口穴Whが形成されている。開口穴Whは、回転軸Lを中心として位相角が72°ごとに内角が形成されている。また、内角の角度は、全て108°となっている。つまり、開口穴Whは、回転軸Lを中心とする正五角形である。なお、車輪取り付けフランジ4cのアウター側端面を削り、平面度を向上させる工程において、内方部材3を回転させる駆動軸Dも正五角形となっている。そのため、開口穴Whに駆動軸Dを挿嵌して回転動力を伝達し、内方部材3を回転させることができるのである。但し、駆動軸Dの形状については、正五角形でなくとも良い。例えば、開口穴Whの三箇所の内角に接して回転動力を伝達するとしても良い(
図7の(A)および(B)参照)。また、その他の形状として回転動力を伝達するとしても良い。
【0049】
以上のように、本発明に係る車輪用軸受装置1は、ハブ輪4のアウター側端面における中央部分に多角形の開口穴Whが鍛造工程により形成されている。かかる発明により、ハブ輪4を形成する鍛造型Fa・Fbに掛合部を形成するための切り立った溝部を設ける必要がなくなる。従って、ハブ輪4を形成する鍛造型Fa・Fbの一部に応力や摩耗、熱的負荷が集中しないので、鍛造型Fa・Fbの寿命向上を実現できる。また、開口穴Whの加工費用がかからないので、製品価格を抑えることができる。
【0050】
加えて、車輪用軸受装置1は、計五本のハブボルト4eを有している。ハブボルト4eは、回転軸Lを中心とする同心円上であって位相角が72°ごとに配置されている。そのため、各ハブボルト4eと開口穴Whは、互いの位相が一致する。これは、正十角形の開口穴Whであったとしても、互いの位相が一致する(
図8参照)。また、理論的には、正十五角形の開口穴Whであったとしても、互いの位相が一致する(図示せず)。
【0051】
このように、本発明に係る車輪用軸受装置1は、車輪取り付けフランジ4cに同心円上かつ等間隔に固定されるハブボルト4eの本数に対し、開口穴Whの角数が同数若しくは倍数となっているとしても良い。かかる発明により、各ハブボルト4eと開口穴Whの位相が一致することとなる(各ハブボルト4eに対して開口穴Whの形状が一定となる)。従って、車輪取り付けフランジ4cの応力分布が位相角ごとに等しくなるので、歪が偏らずに平面度向上を実現できる。
【0052】
更に加えて、正五角形の駆動軸Dは、正十角形の開口穴Whにも挿嵌することができる(
図8参照)。また、理論的には、正十五角形の開口穴Whにも挿嵌することができる(図示せず)。
【0053】
このように、本発明に係る車輪用軸受装置1は、開口穴Whに挿嵌される駆動軸Dの角数に対し、開口穴Whの角数が倍数となっているとしても良い。かかる発明により、開口穴Whと駆動軸Dの位相が合いやすくなるので、挿嵌性向上を実現できる。
【0054】
以下に、他の実施形態である車輪用軸受装置1の特徴点について説明する。
【0055】
図9は、ハブ輪4の車輪取り付けフランジ4cを示している。
図9は、
図2における矢印Bから見た図に相当する。
【0056】
他の実施形態である車輪用軸受装置1においても、ハブ輪4のアウター端面に多角形の開口穴Whが形成されている。開口穴Whは、回転軸Lを中心として位相角が60°ごとに内角が形成されている。また、内角の角度は、全て120°となっている。つまり、開口穴Whは、回転軸Lを中心とする正六角形である。なお、車輪取り付けフランジ4cのアウター側端面を削り、平面度を向上させる工程において、内方部材3を回転させる駆動軸Dも正六角形となっている。そのため、開口穴Whに駆動軸Dを挿嵌して回転動力を伝達し、内方部材3を回転させることができるのである。但し、駆動軸Dの形状については、正六角形でなくとも良い。例えば、開口穴Whの二箇所の内角に接して回転動力を伝達するとしても良い(
図10の(A)および(B)参照)。また、その他の形状として回転動力を伝達するとしても良い。
【0057】
以上のように、本発明に係る車輪用軸受装置1は、ハブ輪4のアウター側端面における中央部分に多角形の開口穴Whが鍛造工程により形成されている。かかる発明により、ハブ輪4を形成する鍛造型Fa・Fbに掛合部を形成するための切り立った溝部を設ける必要がなくなる。従って、ハブ輪4を形成する鍛造型Fa・Fbの一部に応力や摩耗、熱的負荷が集中しないので、鍛造型Fa・Fbの寿命向上を実現できる。また、開口穴Whの加工費用がかからないので、製品価格を抑えることができる。
【0058】
加えて、正六角形の駆動軸Dは、正十二角形の開口穴Whにも挿嵌することができる(
図11参照)。また、理論的には、正十八角形の開口穴Whにも挿嵌することができる(図示せず)。
【0059】
このように、本発明に係る車輪用軸受装置1は、開口穴Whに挿嵌される駆動軸Dの角数に対し、開口穴Whの角数が倍数となっているとしても良い。かかる発明により、開口穴Whと駆動軸Dの位相が合いやすくなるので、挿嵌性向上を実現できる。
【0060】
以下に、
図12および
図13を用いて、本発明に係る駆動輪用の車輪用軸受装置1について説明する。なお、
図13は、
図12におけるA−A断面図に相当する。
【0061】
車輪用軸受装置1は、自動車等の懸架装置において車輪(駆動輪)を回転自在に支持するものである。かかる車輪用軸受装置1は、上述した従動輪用と同じく、外方部材2、内方部材3(ハブ輪4と内輪5)、転動体6、シール部材7、シール部材10を具備する。なお、従動輪用の車輪用軸受装置1と同様の構造部分には、同じ符号を付すものとし、簡単のために当該部分の説明を省略する。従って、ここでは、異なる部分を中心に説明する。
【0062】
本車輪用軸受装置1は、ハブ輪4のインナー側端面からアウター側へ向けて大径の自在継手取り付け穴4jが設けられている。また、自在継手取り付け穴4jと開口穴Whをつなぐように小径の貫通穴4kが設けられている。更に、開口穴Whの底面には、貫通穴4kを中心とするボルト座面4lが形成されている。一方で、かかる車輪用軸受装置1に対応する自在継手12は、その先端にスプライン軸12aを有している。スプライン軸12aは、その端面における中心部分にボルト穴12bが形成されている。従って、ハブ輪4の自在継手取り付け穴4jに自在継手12のスプライン軸12aを圧入するとともに、ハブ輪4のアウター側からセンターボルト13によって締結すると、ガタつくことなく完全に嵌合されることとなる。このような連結方法をプレスコネクトスプライン・ハブジョイント(PCS−H/J)という。
【0063】
以下に、本車輪用軸受装置1の特徴点について説明する。
【0064】
図14は、ハブ輪4の車輪取り付けフランジ4cを示している。
図14は、
図13における矢印Bから見た図である。
【0065】
本車輪用軸受装置1は、ハブ輪4のアウター端面に多角形の開口穴Whが形成されている。開口穴Whは、回転軸Lを中心として位相角が72°ごとに内角が形成されている。また、内角の角度は、全て108°となっている。つまり、開口穴Whは、回転軸Lを中心とする正五角形である。なお、車輪取り付けフランジ4cのアウター側端面を削り、平面度を向上させる工程において、内方部材3を回転させる駆動軸Dも正五角形となっている。そのため、開口穴Whに駆動軸Dを挿嵌して回転動力を伝達し、内方部材3を回転させることができるのである。但し、駆動軸Dの形状については、正五角形でなくとも良い。例えば、開口穴Whの三箇所の内角に接して回転動力を伝達するとしても良い(
図15の(A)および(B)参照)。また、その他の形状として回転動力を伝達するとしても良い。
【0066】
以上のように、本発明に係る車輪用軸受装置1は、ハブ輪4のアウター側端面における中央部分に多角形の開口穴Whが鍛造工程により形成されている。かかる発明により、ハブ輪4を形成する鍛造型Fa・Fbに掛合部を形成するための切り立った溝部を設ける必要がなくなる。従って、ハブ輪4を形成する鍛造型Fa・Fbの一部に応力や摩耗、熱的負荷が集中しないので、鍛造型Fa・Fbの寿命向上を実現できる。また、開口穴Whの加工費用がかからないので、製品価格を抑えることができる。
【0067】
加えて、車輪用軸受装置1は、計五本のハブボルト4eを有している。ハブボルト4eは、回転軸Lを中心とする同心円上であって位相角が72°ごとに配置されている。そのため、各ハブボルト4eと開口穴Whは、互いの位相が一致する。これは、正十角形の開口穴Whであったとしても、互いの位相が一致する(
図16参照)。また、理論的には、正十五角形の開口穴Whであったとしても、互いの位相が一致する(図示せず)。
【0068】
このように、本発明に係る車輪用軸受装置1は、車輪取り付けフランジ4cに同心円上かつ等間隔に固定されるハブボルト4eの本数に対し、開口穴Whの角数が同数若しくは倍数となっているとしても良い。かかる発明により、各ハブボルト4eと開口穴Whの位相が一致することとなる(各ハブボルト4eに対して開口穴Whの形状が一定となる)。従って、車輪取り付けフランジ4cの応力分布が位相角ごとに等しくなるので、歪が偏らずに平面度向上を実現できる。
【0069】
更に加えて、正五角形の駆動軸Dは、正十角形の開口穴Whにも挿嵌することができる(
図16参照)。また、理論的には、正十五角形の開口穴Whにも挿嵌することができる(図示せず)。
【0070】
このように、本発明に係る車輪用軸受装置1は、開口穴Whに挿嵌される駆動軸Dの角数に対し、開口穴Whの角数が倍数となっているとしても良い。かかる発明により、開口穴Whと駆動軸Dの位相が合いやすくなるので、挿嵌性向上を実現できる。
【0071】
以下に、他の実施形態である車輪用軸受装置1の特徴点について説明する。
【0072】
図17は、ハブ輪4の車輪取り付けフランジ4cを示している。
図17は、
図13における矢印Bから見た図に相当する。
【0073】
他の実施形態である車輪用軸受装置1においても、ハブ輪4のアウター端面に多角形の開口穴Whが形成されている。開口穴Whは、回転軸Lを中心として位相角が60°ごとに内角が形成されている。また、内角の角度は、全て120°となっている。つまり、開口穴Whは、回転軸Lを中心とする正六角形である。なお、車輪取り付けフランジ4cのアウター側端面を削り、平面度を向上させる工程において、内方部材3を回転させる駆動軸Dも正六角形となっている。そのため、開口穴Whに駆動軸Dを挿嵌して回転動力を伝達し、内方部材3を回転させることができるのである。但し、駆動軸Dの形状については、正六角形でなくとも良い。例えば、開口穴Whの二箇所の内角に接して回転動力を伝達するとしても良い(
図18の(A)および(B)参照)。また、その他の形状として回転動力を伝達するとしても良い。
【0074】
以上のように、本発明に係る車輪用軸受装置1は、ハブ輪4のアウター側端面における中央部分に多角形の開口穴Whが鍛造工程により形成されている。かかる発明により、ハブ輪4を形成する鍛造型Fa・Fbに掛合部を形成するための切り立った溝部を設ける必要がなくなる。従って、ハブ輪4を形成する鍛造型Fa・Fbの一部に応力や摩耗、熱的負荷が集中しないので、鍛造型Fa・Fbの寿命向上を実現できる。また、開口穴Whの加工費用がかからないので、製品価格を抑えることができる。
【0075】
加えて、正六角形の駆動軸Dは、正十二角形の開口穴Whにも挿嵌することができる(
図19参照)。また、理論的には、正十八角形の開口穴Whにも挿嵌することができる(図示せず)。
【0076】
このように、本発明に係る車輪用軸受装置1は、開口穴Whに挿嵌される駆動軸Dの角数に対し、開口穴Whの角数が倍数となっているとしても良い。かかる発明により、開口穴Whと駆動軸Dの位相が合いやすくなるので、挿嵌性向上を実現できる。