(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のタンパク質製造用薬剤は、上記一般式(1)で表される環状ポリエーテルエステル(A)を含む。
【0011】
本発明のタンパク質製造用薬剤は、立体構造が制御されたタンパク質の製造にもちいることができ、例えば、大腸菌等の組換え体で発現させた後、アンフォールディングしたタンパク質をリフォールディングする工程で用いることができる。本発明のタンパク質製造用薬剤をタンパク質のリフォールディングに用いる場合、リフォーディングするタンパク質としては、タンパク質は分子内にジスルフィド結合を含むタンパク質(P1)と分子内にジスルフィド結合を含まないタンパク質(P2)が挙げられる。
分子内にジスルフィド結合を含むタンパク質(P1)としては、リゾチーム、βラクトグロブリン、アルカリ性フォスファターゼ、リボヌクレアーゼ、トリプシン、キモトリプシン、インターフェロン、インスリン、ナトリウム利尿ペプチド及び抗体等が挙げられる。
分子内にジスルフィド結合を含まないタンパク質(P2)として、リパーゼ、ホスホリパーゼ及び2〜10個のアミノ酸で構成されたペプチド等が挙げられる。
これらのうち、本発明の効果が顕著である点から、分子内にS−S結合を含むタンパク質(P1)が好ましく、タンパク質分子内にS−S結合を1個〜10個(好ましくは2個〜4個)有するリゾチーム(4個)、βラクトグロブリン(2〜3個)、トリプシン(2個)等が更に好ましい。
分子内のS−S結合の個数はタンパク質の凝集に大きく関与し、一般的にS−S結合の数が多いほどタンパク質は凝集しやすいため、リフォールディングの際の本発明のタンパク質製造用薬剤の効果が顕著になる。
【0012】
本発明のタンパク質製造用薬剤をタンパク質のリフォーディングに用いる場合、リフォールディングの対象とするタンパク質の分子量は1,000〜300,000であり、リフォールディングのしやすさの観点から好ましくは10,000〜250,000である。ここで分子量とはSDSゲル電気泳動法によって推定された分子量を指す。
一般に分子量の大きさとリフォールディングのしにくさには相関があり、分子量の大きなタンパク(分子量10,000以上程度)になるとリフォールディングが著しく困難になるとされている。本発明のタンパク質製造用薬剤はリフォールディング効果が優れるので、分子量10,000以上の高分子量タンパク質に対しても有効である。
【0013】
本発明のタンパク質製造用薬剤が含む環状ポリエーテルエステル(A)である上記一般式(1)において、R
1は水素原子の少なくとも1つがハロゲノ基、アセチル基、アルコキシ基又はフェノキシ基で置換されていてもよい炭素数2〜21の炭化水素基である。
【0014】
炭素数2〜21の炭化水素基としては、炭素数2〜21のアルキレン基、炭素数2〜21のアルケニレン基、炭素数6〜21のアリーレン基及び炭素数7〜21のアラルキレン基等が挙げられる。
【0015】
炭素数2〜21のアルキレン基としては、炭素数2〜21の直鎖アルキレン基(エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基及びn−ヘンイコサニレン基)及び炭素数3〜21の分岐アルキレン基(1−メチルエチレン基、2−メチルエチレン基、1−エチルエチレン基、2−エチルエチレン基、1−メチルトリメチレン基、2−メチルトリメチレン基、1,1−ジメチルトリメチレン基、1−n−ブチルトリメチレン基、1−n−ヘキシルトリメチレン基、1−n−プロピルトリメチレン基、1−n−ヘプチルトリメチレン基、1−n−オクチルトリメチレン基、1−n−ヘプチルテトラメチレン基及び1−n−オクチルエチレン基等)及び炭素数4〜21のシクロアルキレン基(シクロブチレン基、シクロペンチレン基、2−メチルシクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、1,3−ジメチルシクロヘキシレン基、シクロヘプチレン基、1−エチルシクロペンチレン基、シクロオクチレン基、シクロノニレン基、シクロデシレン基、シクロウンデシレン基、シクロドデシレン基、シクロトリデレン基、シクロテトラデシレン基、シクロペンタデシレン基、シクロヘキサデシレン基、シクロヘプタデシレン基、シクロオクタデシレン基、シクロノナデシレン基、シクロエイコシレン基、ノルボルニレン基、ジシクロペンチレン基、イソプロピリデンジシクロヘキシレン基及びシクロヘキサンジメチレン基等)等が挙げられる。
【0016】
炭素数2〜21のアルケニレン基としては、炭素数2〜21の直鎖アルケニレン基(エテニレン基、プロペニレン基及びヘンイコセニレン基等)及び炭素数3〜21の分岐アルケニレン基(1−エチルエテニレン基、1,2−ジメチルエテニレン基、1−ブチルエテニレン基、1−ヘキシルエテニレン基及び1−オクチルエテニレン基等)等が挙げられる。
【0017】
炭素数6〜21のアリーレン基としては、o−、p−又はm−フェニレン基、2,4−ナフチレン基、ビフェニレン基、ターフェニレン基、アントリレン基、フェナントリレン基、フルオレニレン基、ピレニレン基及び基等が挙げられる。
【0018】
炭素数7〜21のアラルキレン基としては、フェニルメチレン基、ジフェニルメチン基、1−フェニルエチレン基、o−フェニレンエチル基及びナフチルメチレン基等が挙げられる。
【0019】
これらの基の有する水素原子の少なくとも1つがハロゲノ基、アセチル基、アルコキシ基又はフェノキシ基で置換された基としては、1−ブロモ−トリメチレン基、1−アセチル−トリメチレン基、1−メトキシ−トリメチレン基及び1−フェノキシ−トリメチレン基等が挙げられる。
【0020】
これらのうち、R
1としては、好ましくは炭素数3〜16の直鎖又は分岐アルキレン基であり、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、テトラデカメチレン基、メチルエチレン基、1−n−プロピルトリメチレン基、1−n−ヘプチルトリメチレン基、1−n−オクチルトリメチレン基、1−n−ヘプチルテトラメチレン基、1−n−ヘキシルトリメチレン基、1−n−ヘキシルテトラメチレン基、1−n−ウンデシルトリメチレン基及び1−n−ウンデシルテトラメチレン基がさらに好ましい。
【0021】
一般式(1)において、R
2は通常炭素数2〜8の2価の炭化水素基である。炭素数2〜8の2価の炭化水素基のうち好ましいものとしては、フェニルエチレン基、炭素数2〜4のアルキレン基が挙げられ、さらに好ましくは炭素数2〜4の直鎖アルキレン基(エチレン基、プロピレン基及びブチレン基等)及び炭素数3又は4の分岐アルキレン基(メチルエチレン基、エチルエチレン基、メチルプロピレン基及び2−メチルプロピレン等)が挙げられ、特に好ましくは炭素数2〜4の直鎖アルキレン基及び炭素数3〜4の分岐アルキレン基であり、最も好ましくはエチレン基及びプロピレン基である。
【0022】
上記一般式(1)において、mは[R
1CO(OR
2)
nO]で表される単位の繰り返し数を意味し、nは(OR
2)で表されるオキシアルキレン基の付加モル数を意味する。
mは1〜3の整数であり、好ましくは1である。
nは1〜30の整数であり、環状ポリエーテルエステル(A)のオキシアルキレン基の付加モル数(n)は、除去対象に応じて調整することができるが、リフォールディング効率等の観点から、好ましくは5〜20の整数である。
なお、mが2又は3である場合、m個あるR
1は同じであっても異なっていてもよく、同じであることが好ましい。また、mが2若しくは3、及び/又はnが2以上の整数である場合、m×n個あるR
2は同じであっても異なっていてもよく、同じであることが好ましい。
【0023】
m×n個あるR
2の組成は、Polym. Chem., 2014, 5, 6905.に記載のマトリックス支援レーザー脱離イオン化法による飛行時間型質量分析(MALDI−TOF MSともいう)により測定分析することができる。
【0024】
本発明のタンパク質製造用薬剤に含まれる環状ポリエーテルエステル(A)としては、mが1〜3であれば、一般式(1)においてnで表されるオキシアルキレン基の付加モル数が特定の値である環状ポリエーテルエステル(A)を用いてもよく、nの値が異なる複数の環状ポリエーテルエステル(A)を併用してもよい。
一般式(1)においてnで表されるオキシアルキレン基の付加モル数の値(n)が異なる複数の環状ポリエーテルエステル(A)を併用する場合、使用する環状ポリエーテルエステル(A)のオキシアルキレン基の付加モル数の値と比率は、対象のタンパク質の種類等に応じて調整することができる。
【0025】
上記一般式(1)中のmの値とnの値の調整は、後述のアルコキシル化反応において用いる活性水素含有基を有さないラクトンと炭素数2〜8のアルキレンオキサイドとの比率の調整及びアルキレンオキサイドの付加方法を変えること等で行うことができる。
なお、後述の合成方法等で得られる環状ポリエーテルエステルは、異なるmと異なるnを有する環状ポリエーテルエステルの混合物であるが、混合物中に含まれる特定のnを有する環状ポリエーテルエステル(A)の含有量は、アルキレンオキサイドの付加方法を変えることで調整することができ、例えば活性水素含有基を有さないラクトンに反応するアルキレンオキサイドを段階的に反応すると特定の値のnを有する環状ポリエーテルエステル(A)の含有量を増やすことができる。
なお、環状ポリエーテルエステル(A)のmの値、及びnの値は、Polym. Chem., 2014, 5, 6905.に記載のMALDI−TOF MSにより分析し、確認することが出来る。
【0026】
本発明のタンパク質製造用薬剤に含まれる環状ポリエーテルエステル(A)の数平均分子量(以下、Mnと略記する)は、本発明のタンパク質製造用薬剤が対象とするタンパク質の種類に応じて調整することができるが、タンパク質のリフォールディング効率等の観点から200〜4000が好ましく、環状ポリエーテルエステル(A)のMnはオキシアルキレン基の付加モル数を調整すること等によって好ましい範囲にすることができる。
【0027】
環状ポリエーテルエステル(A)のMnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPCと略記)を用いて以下の条件で測定することができる。
・装置:「Waters Alliance 2695」[Waters社製]
・カラム:「Guardcolumn Super H−L」(1本)、「TSKgel SuperH2000、TSKgel SuperH3000、TSKgel SuperH4000を各1本連結したもの」[いずれも東ソー(株)製]
・試料溶液:0.25重量%のテトラヒドロフラン溶液
・溶液注入量:10μL
・流量:0.6mL/分
・測定温度:40℃
・検出装置:屈折率検出器
・基準物質:標準ポリエチレングリコール
【0028】
本発明のタンパク質製造用薬剤に用いる環状ポリエーテルエステル(A)として、好ましいものとしては、R
1がテトラデカメチレン基であり、R
2がエチレン基及びプロピレン基であり、mが1〜3、nが5〜15である環状ポリエーテルエステルが挙げられる。
【0029】
本発明のタンパク質製造用薬剤に用いる環状ポリエーテルエステル(A)は、活性水素含有基を有さないラクトンと炭素数2〜8のアルキレンオキサイドとを用いて、前記の活性水素含有基を有さないラクトンのオキシカルボニル基が有するカルボニルと酸素原子との間にオキシアルキレン基を挿入する反応(アルコキシル化反応ともいう)を行うことで得ることができる。前記のアルコキシル化反応は、活性水素含有基を有さないラクトンと炭素数2〜8のアルキレンオキサイドとを、アルキレンオキサイドの開環付加反応及びアルコキシル化反応等に用いられる触媒をアルコキシル化反応の触媒として用いて行ってもよい。
なお、前記活性水素含有基はアルキレンオキサイドが開環付加し得る官能基を意味し、水酸基、カルボキシル基、メルカプト基及びアミノ基等が挙げられる。
【0030】
前記のアルコキシル化反応では、アルコキシル化反応で生成した一般式(1)で表される環状ポリエーテルエステル(A)に対して、さらに他の一般式(1)で表される環状ポリエーテルエステルが挿入付加する副反応がおこる。
そのため、前記のアルコキシル化反応で得られた反応生成物には、一般式(1)においてm=1である環状ポリエーテルエステル(A)の他に、一般式(1)において[R
1CO(OR
2)
nO]で表される単位を一分子中に2個有する環状ポリエーテルエステル(すなわちm=2)及び/又は3個有する環状ポリエーテルエステル(すなわちm=3)を含み、反応生成物は、一般式(1)において[R
1CO(OR
2)
nO]で表される単位を1〜3個有する環状ポリエーテルエステルを主成分とするポリエーテル組成物となり、そのうち、mが1である環状ポリエーテルエステル(A)とmが2である環状ポリエーテルエステル(A)とmが3である環状ポリエーテルエステル(A)の重量比率は、概ね6:3:1である。
なお、反応生成物に含まれる環状ポリエーテルの組成は、Polym. Chem., 2014, 5, 6905.に記載のMALDI−TOF MSにより分析し、確認することが出来る。
【0031】
前記のアルコキシル化反応の反応生成物[すなわち、環状ポリエーテルエステル(A)を含む混合物]を、さらにゲル透過法及びシリカゲルカラムクロマトグラフィー等の公知の方法により分画、精製を行うことで特定のmとnを有する環状ポリエーテルエステル(A)を得ることができる。なお、本発明のタンパク質製造用薬剤に含まれる環状ポリエーテルエステル(A)としては、前記のアルコキシル化反応の反応生成物をそのまま用いても、反応生成物を分画、精製して得られた環状ポリエーテルエステル(A)を用いてもよい。
【0032】
環状ポリエーテルエステル(A)を得るために用いる活性水素含有基を有さないラクトンとしては、1つの水酸基と1つのカルボキシル基とを有し、前記の1つの水酸基と1つのカルボキシル基とを除く他の活性水素含有基を有していない炭素数4〜22のモノヒドロキシカルボン酸について水酸基とカルボキシル基とを分子内脱水することで得られる環状エステルを用いることができる。分子内脱水してラクトンを合成する方法としては、公知の方法で加熱脱水する方法、J.S.Nimitz,R.H.Wollemberg,Terahedron Lett.1978,19,3523に記載方法、及びリパーゼ等の酵素を用いる方法の公知の合成方法を用いることができる。
【0033】
1つの水酸基と1つのカルボキシル基とを除く他の活性水素含有基を有していない炭素数4〜22のモノヒドロキシカルボン酸としては、炭素数4〜22の直鎖ヒドロキシカルボン酸(3−ヒドロキシプロパン酸、4−ヒドロキシ酪酸、5−ヒドロキシペンタン酸、6−ヒドロキシヘキサン酸、15−ヒドロキシペンタデカン酸、16−ヒドロキシヘキサデカン酸及び4−ヒドロキシ−2−ブテン酸等)及び炭素数3〜22の分岐ヒドロキシカルボン酸(3−ヒドロキシブタン酸、5−ヒドロキシトリデカン酸、2−メチレン−4−ヒドロキシ酪酸、4−フェニル−4−ヒドロキシ酪酸、2,2−ジメチル−4−ヒドロキシ酪酸、4−ヘキシル−4−ヒドロキシ酪酸及び4−ヒドロキシ−2−メチル−2−ブテン酸等)等が挙げられる。
【0034】
活性水素含有基を有さないラクトンとしては、前記の炭素数4〜22のヒドロキシカルボン酸の炭素原子に結合した水素原子のうち、少なくとも1つの水素原子がハロゲノ基、アセチル基、アルコキシ基又はフェノキシ基で置換されたヒドロキシカルボン酸が分子内脱水した構造を有するラクトンも用いることもできる。
前記の炭素数4〜22のモノヒドロキシカルボン酸のうち、炭素原子に結合した水素原子の少なくとも1つがハロゲノ基で置換されたヒドロキシカルボン酸としては、2−ブロモ−4−ヒドロキシ酪酸等が挙げられ、アセチル基で置換されたヒドロキシカルボン酸としては、2−アセチル−4−ヒドロキシブタン酸等が挙げられ、アルコキシ基で置換されたヒドロキシカルボン酸としては、2−メトキシ−4−ヒドロキシ酪酸等が挙げられ、フェノキシ基で置換されたヒドロキシカルボン酸としては、2−フェニル−4−ヒドロキシ酪酸等が挙げられる。
【0035】
活性水素含有基を有さないラクトンとして、好ましいものとしては、β−ラクトン(β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン等)、γ−ラクトン(γ−ブチロラクトン等)、δ−ラクトン(δ−バレロラクトン等)、ε−ラクトン(ε−カプロラクトン等)、長鎖アルキル基を有するラクトン(γ−エナントラクトン、γ−ウンデカノラクトン、γ−ドデカラクトン及びδ-ドデカノラクトン等)、大環状ラクトン(15−ペンタデカノラクトン)及び芳香族ラクトン(3,4−ジヒドロクマリン)等が挙げられる。
これらのラクトンは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0036】
アルコキシル化反応に用いる炭素数2〜8のアルキレンオキサイド(以下、AOと略記する場合がある)としては、エチレンオキサイド、1,2−プロピレンオキサイド、オキセタン、1,2−、1,3−、1,4−又は2,3−ブチレンオキサイド及びスチレンオキサイド等が挙げられ、炭素数2〜3のアルキレンオキサイド(エチレンオキサイド、1,2−プロピレンオキサイド及びオキセタン)が好ましく、エチレンオキサイド及び1,2−プロピレンオキサイドがさらに好ましい。
アルキレンオキサイドは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合、その結合形式はランダムであっても、ブロックであっても、その両方であってもよい。
アルキレンオキサイドとして2種以上を併用する場合、得られる環状ポリエーテルエステル(A)は、一般式(1)においてn個あるR
2として、使用したアルキレンオキサイドの種類に対応した異なる種類のR
2を有する環状ポリエーテルエステルである。
【0037】
前記のアルコキシル化反応は、金属(ホウ素、錫、ニッケル、亜鉛及びアルミニウム等)のハロゲン化物、無機酸(硫酸及びリン酸等)、アルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウム及びセシウム等)の水酸化物、アミン化合物(ジエチルアミン及びトリエチルアミン等)、特開2000−354763号公報に記載された酸化物複合体及びその焼成物並びに層状複水酸化物等を用いて行うことができる。
なお、層状複水酸化物とは、2価の金属(Mg、Fe、Zn、Ca、Li、Ni、Co及びCu等)と3価の金属(Al、Fe及びMn等)の水酸化物とが複合して積層構造を形成した無機の層状化合物を意味し、通常、一般式が[M
2+1−aM
3+a(OH)
2][(A
n−)
a/n・mH
2O][ここで、M
2+は2価の金属、M
3+は3価の金属、A
n−はn価の陰イオン(HCO
3−、PO
43−、SO
42−、Cl
−、NO
2−及びNO
3−等)、m>0である。]で表さる化合物であり、ハイドロタルサイト、モツコレアイト、マナセイト、スティッヒタイト、パイロアウライト、タコバイト、イヤードライト及びメイキセネライト等が含まれる。これらの層状複水酸化物は、粘土鉱物として知られており、天然に産する鉱物に含まれたものであっても、合成によって得られたものであってもよく、そのまま用いてもこれを400〜950℃(好ましくは400〜700℃)で焼成したものを用いてよい。
【0038】
アルコキシル化反応に用いることができる層状複水酸化物として市場から入手できるものとしては、一般式(2)で示される層状複水酸化物が挙げられ、キョーワード500(Mg
6A
l2(OH)
16CO
3・4H
2O)(協和化学工業株式会社製、「キョーワード」は同社の登録商標である。以下、「キョーワード」を含む名称の製品について同じ。)、キョーワード1000(Mg
4.5A
l2(OH)
13CO
3・3.5H
2O)等が挙げられる。
【0040】
一般式(2)中、x及びyは0<x≦0.5、0<y≦1.0である。
【0041】
本発明のタンパク質製造用薬剤に含まれる環状ポリエーテルエステル(A)の重量は、タンパク質のリフォールディング効率等の観点から、タンパク質製造用薬剤の合計重量に基づいて0.1〜100重量%であることが好ましい。
【0042】
本発明のタンパク質製造用薬剤は、取り扱い性等の観点から、さらに水及び/又は有機溶剤に希釈して用いることができる。
本発明のタンパク質製造用薬剤を希釈する水としては、水道水、蒸留水、イオン交換水、純水等が挙げられ、なかでも、貯蔵安定性の点から、イオン交換水が好ましい。
【0043】
本発明のタンパク質製造用薬剤を有機溶剤で希釈する場合、有機溶剤としては環状ポリエーテルエステル(A)を溶解又は分散することができ、環境に無害な有機溶剤を制限無く用いることができ、なかでもアルコール(メタノール及びイソプロパノール等)が好ましい。
【0044】
本発明のタンパク質製造用薬剤は、必要により、さらに公知のその他の成分、例えば特開2014−122331号公報及び特開2016−37525号公報等に記載のその他の界面活性剤(非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤及び両性界面活性剤等)等を含有してもよい。
【0045】
本発明のタンパク質製造用薬剤をタンパク質のリフォールディングに用いる場合、本発明のタンパク質製造用薬剤はリフォールディングする対象のタンパク質が含まれる溶液中(好ましくは水溶液)に溶解して用いることができる。
【0046】
本発明のタンパク質製造用薬剤が優れた効果を奏する理由は明らかではないが、環状の空間を有する嵩高い構造を有することから、従来の方法に比べて優れたタンパク質の再凝集を抑制する効果を奏すると考えられる。
【0047】
本発明のタンパク質の製造方法は、前記のタンパク質製造用薬剤を含む水溶液中で対象となるタンパク質のリフォールディングを行う工程(以下、リフォールディング工程と記載する)を含む。
【0048】
リフォールディング工程は、前記タンパク質製造用薬剤を含む水溶液中でリフォールディングする対象のタンパク質であるアンフォールディングされたタンパク質を撹拌・混合することで行うことができ、その後さらに、リフォールディングをより充分に進めるために必要により一定時間静置することも含まれる。
アンフォールディングされたタンパク質と前記タンパク質製造用薬剤を撹拌・混合する際には、目視で不均一部分が無くなるまで撹拌混合することが好ましい。さらに一定時間静置する場合の静置時間は特に限定されないが、1〜50時間で行うことができる。またリフォールディング工程での温度は、特に限定されないが、4〜30℃で行うことができる。
【0049】
前記のリフォールディング工程において用いる水溶液に含まれる環状ポリエーテルエステル(A)の濃度は、水溶液の合計重量に基づいて、0.01〜1重量%であることが好ましい。
【0050】
本発明の製造方法におけるリフォールディング工程において用いる水溶液には、必要に応じて塩(塩化ナトリウム、塩化アンモニウム及び塩化カリウム等)、及び緩衝剤(トリスバッファー及びHEPESバッファー等)等を含有させることもできる。
【0051】
リフォールディング工程においてリフォールディングの対象とするタンパク質は、分子内にS−S結合を含むタンパク質(例えばリゾチームなど)である場合が本発明の効果が顕著であるので好ましい。その場合リフォールディングされるものは塩酸グアニジンまたは尿素と共に、さらに2−メルカプトエタノール、ジチオスレイトール、シスチン、チオフェノール等の還元剤を加えてアンフォールディングされたタンパク質である。
【0052】
本発明の製造方法において用いるタンパク質は分子内にジスルフィド結合を含むタンパク質(P1)と分子内にジスルフィド結合を含まないタンパク質(P2)に分類できる。
分子内にジスルフィド結合を含むタンパク質(P1)として、リゾチーム、βラクトグロブリン、アルカリ性フォスファターゼ、リボヌクレアーゼ、トリプシン、キモトリプシン、インターフェロン、インスリン、ナトリウム利尿ペプチド及び抗体等が挙げられる。
分子内にジスルフィド結合を含まないタンパク質(P2)として、リパーゼ、ホスホリパーゼ及び2〜10個のアミノ酸で構成されたペプチド等が挙げられる。
これらのうち、本発明の製造方法においてリフォールディングの対象となるタンパク質としては、本発明の効果が顕著である点から、分子内にS−S結合を含むタンパク質(P1)が好ましい。分子内のS−S結合の個数はタンパク質の凝集に大きく関与し、一般的に個数が大きいほど凝集しやすい。本発明の対象となるタンパク質分子内のS−S結合の数は1個〜10個が好ましく、さらに好ましくは2個〜4個である。具体的にはリゾチーム(4個)、βラクトグロブリン(2〜3個)、トリプシン(2個)等が挙げられる。
【0053】
本発明の製造方法において用いるタンパク質の分子量は1,000〜300,000であり、リフォールディングのしやすさの観点から好ましくは10,000〜250,000である。ここで分子量とはSDSゲル電気泳動法によって推定された分子量を指す。
一般に分子量の大きさとリフォールディングのしにくさには相関があり、分子量の大きなタンパク(分子量10,000以上程度)になるとリフォールディングが著しく困難になるとされている。本発明のリフォールディング方法はリフォールディング効果が優れるので、分子量10,000以上の高分子量タンパク質に対しても非常に有効な方法となる。
【0054】
本発明のリフォールディング工程において、さらにpH調整剤(D)、タンパク質安定化剤(E)を使用してもよい。
【0055】
pH調整剤(D)としては、Tris(N−トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノエタンスルホン酸)、HEPES(N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸)などが挙げられる。
また、リフォールディング工程はpH7〜8で行われることが好ましく、pH調整剤(D)を水溶液に必要量添加することで調整することができ、使用量は水の種類、タンパク質の種類及び濃度等に応じて調整することができる。
【0056】
タンパク質安定化剤(E)としては、ポリオール、金属イオン及びキレート試薬などが挙げられる。ポリオールとしてはグリセリン、ブドウ糖、ショ糖、エチレングリコール、ソルビトール及びマンニトールなどが挙げられ、金属イオンとしてはマグネシウムイオン、マンガンイオン及びカルシウムイオンなどの2価金属イオンが挙げら、キレート試薬としてはエチレンジアミン4酢酸(EDTA)及びグリコールエーテルジアミン−N,N,N’,N’−4酢酸(EGTA)などが挙げられる。
タンパク質安定化剤(E)の使用量は、タンパク質の種類及び濃度等に応じて調整することができる。
【0057】
本発明の製造方法におけるリフォールディング工程において用いる水溶液に含まれるアンフォールディングされたタンパク質の系中の濃度は、0.2〜30mg/mLが好ましく、さらに好ましくは0.2〜20mg/mL、特に好ましくは0.25〜5mg/mLである。0.2mg/mL以上であればタンパク質の生産効率の観点から好ましく、30mg/mL以下であれば系内の粘度が高くなりすぎることが少ないため生産効率が低下しないので好ましい。
【0058】
本発明の製造方法において得られるタンパク質は、前記の製造用薬剤を使用して得られるため、リフォールディング工程中の凝集が少なく、収率が著しく向上する。
【0059】
本発明のタンパク質の産生方法としては、例えば、以下のような順序の工程による産生方法が挙げられる。
(1)タンパク質の培養工程:大腸菌などのタンパク質生産体に酵素又は組み換えタンパク質を培養させる。
(2)溶菌工程:溶菌剤などの使用によってタンパク質生産体内のインクルージョンボディを取り出す。
(3)アンフォールディング工程:インクルージョンボディ懸濁液(例えば10mgタンパク質/mL)に0.5モル/L以上のアンフォールディング剤及び20ミリモル/L以下の還元剤を加え軽くかきまぜ室温で数時間放置する。
(4)リフォールディング工程:アンフォールディングされたタンパク質溶液に、(I)又は(II)を加えて軽くかき混ぜ、室温で1晩放置しリフォールディングを行う。
(5)分離・取り出し工程:懸濁液から目的とするリフォールディングされたタンパク質をカラムクロマトグラフィーなどによって分離して取り出す。
【0060】
上記の(1)のタンパク質の培養工程におけるタンパク質生産体としては、以下の細菌細胞、エシェリヒア属菌及びバチルス属菌などが挙げられる。
細菌細胞としては、連鎖球菌属(streptococci)、ブドウ球菌属(staphylococci)、エシェリヒア属菌(Escherichia)、ストレプトミセス属菌(streptomyces)及びバチルス属菌(Bacillus)細胞、真菌細胞:例えば酵母細胞及びアスペルギルス属(Aspergillus)細胞、昆虫細胞:例えばドロソフィラS2(DrosophilaS2)、スポドプテラSf9(SpodopteraSf9)細胞、動物細胞:例えば、CHO、COS、Hela、C127、3T3、BHK、293及びボウズ(Bows)メラノーマ細胞、並びに植物細胞等が挙げられる。
エシェリヒア属菌(Escherichia)としては、大腸菌(E.coli)K12DH1〔プロシージング・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.)60巻、160頁(1968年)を参照〕、JM103〔ヌクレイック・アシッズ・リサーチ(Nucleic Acids Research)9巻、309頁(1981年)を参照〕、JA221〔ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(Journal of Molecular Biology)120巻、517頁(1978年)を参照〕、HB101〔ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(Journal of Molecular Biology)41巻、459頁(1969年)を参照〕、C600〔ジェネティックス(Genetics)39巻、440頁(1954年)を参照〕、MM294〔ネイチャー(Nature)217巻、1110頁(1968年)を参照〕などが挙げられる。
バチルス属菌(Bacillus)としては、枯草菌(Bacillussubtilis)MI114〔ジーン、24巻、255頁(1983年)を参照〕、207−21〔ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(Journal of Biochemistry)95巻、87頁(1984年)を参照〕などが挙げられる。
【0061】
組み換えタンパク質の培養方法として、目的タンパク質をコードするcDNAを含有する発現ベクターは、以下の方法で製造することができる。
(i)目的タンパク産生細胞からメッセンジャーRNA(mRNA)を分離し、該mRNAから単鎖のcDNAを、次に二重鎖DNAを合成し、該相補DNAをファージまたはプラスミドに組み込む。
(ii)得られた組み換えファージ又はプラスミドで宿主を形質転換し、培養後、目的タンパクの一部をコードするDNAプローブとのハイブリダイゼーション、あるいは抗体を用いたイムノアッセイ法により目的とするDNAを含有するファージあるいはプラスミドを単離する。
(iii)その組み換えDNAから目的とするクローン化DNAを切りだし、該クローン化DNA又はその一部を発現ベクター中のプロモーターの下流に連結することによって製造することができる。
その後、さらに適当な方法により、宿主を発現ベクターで形質転換し培養する。培養は通常15〜43℃で3〜24時間行い、必要により通気、攪拌を加えることもできる。
【0062】
前記の溶菌工程における溶菌方法としては、超音波による物理的破砕、リゾチーム等の溶菌酵素による処理、界面活性剤等の溶菌剤による処理などのいずれもが使用でき、生産性の観点から溶菌剤による処理が好ましく、有用タンパクを変性させないといった観点から特に特開2006−320313号公報記載の溶菌剤による処理が好ましい。
【0063】
本発明の製造方法でリフォールディングしたタンパク質の分離・取り出し工程におけるカラムクロマトグラフィーに使用される充填剤としてはシリカ、デキストラン、アガロース、セルロース、アクリルアミド、ビニルポリマーなどが挙げられ、市販品ではSephadexシリーズ、Sephacrylシリーズ、Sepharoseシリーズ(以上、Pharmacia社)、Bio−Gelシリーズ(Bio−Rad社)等があり入手可能である。
【実施例】
【0064】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
なお、実施例中の部は重量部を示す。
【0065】
<製造例1:アンフォールディング溶液の調製>
塩酸グアニジンの濃度が6モル/L、ジチオスレイトールの濃度が10ミリモル/L、塩化ナトリウムの濃度が150ミリモル/L、トリス緩衝液(pH=8)の濃度が50ミリモル/L、エチレンジアミン4酢酸ナトリウムの濃度が1ミリモル/Lとなるように滅菌水で混合溶解し、アンフォールディング溶液を調製した。
【0066】
<実施例1>
撹拌装置及び温度調節機能の付いたステンレス製のオートクレーブに、15−ペンタデカノラクトン240部(1モル)、「キョーワード500」[協和化学工業(株)製:Mg
6 Al
2 (OH)
16 CO
3 ・4H
2 O]24.2部(0.04モル)及び過塩素酸アルミニウム九水和物1部(0.002モル)を入れて密閉した後、減圧下で160℃にて3時間加熱し、脱水処理した。次いで180℃まで昇温し、180℃でゲージ圧が1〜5kgf/cm
2 の範囲に入るように調整しながらエチレンオキサイド(以下、EOと略記する)88部(2モル)をオートクレーブ内に導入した。EO全量を導入した後、圧力が0.13kgf/cm
2Gになるまで撹拌を継続した。その後、水酸化カリウム0.3部を追加して、さらにEO176部(4モル)を180℃でゲージ圧が1〜5kgf/cm
2 となるように導入した。EO全量を導入した後、圧力が0.13kgf/cm
2Gになるまで撹拌を継続して15−ペンタデカノラクトンとEOとの反応を行った。EOの付加反応に要した合計時間は8時間であった。その後、EOの付加反応で得られた反応混合物から触媒をろ別して、本発明のタンパク質製造用薬剤である環状ポリエーテルエステル組成物(A1)を得た。
得られた環状ポリエーテルエステル組成物(A1)についてMALDI−TOF MSによる分析を行った。
環状ポリエーテルエステル組成物(A1)は、mが1〜3であり、nが1〜30である一般式(1)で表される環状ポリエーテルエステル(A1−1)を合計して90重量%含む環状ポリエーテルエステルの混合物であり、環状ポリエーテルエステル(A1−1)のnの平均値(すなわちEOの平均付加モル数)は6であり、環状ポリエーテルエステル(A1−1)のうち、nが5〜10である環状ポリエーテルエステルの合計重量が、環状ポリエーテルエステル(A1−1)の合計重量に対して85重量%であった。
【0067】
<実施例2>
撹拌装置及び温度調節機能の付いたステンレス製のオートクレーブに、15−ペンタデカノラクトン240部(1モル)、「キョーワード500」24.2部(0.04モル)、及び過塩素酸アルミニウム九水和物1部(0.002モル)を入れて密閉した後、減圧下で160℃にて3時間加熱し、脱水処理した。次いで150℃に温調し、150℃でゲージ圧が1〜3kgf/cm
2Gとなるように調整しながらプロピレンオキサイド(以下、POと略記する)61部(1.05モル)をオートクレーブ内に導入した。PO全量を導入した後、圧力が0.13kgf/cm
2Gになるまで撹拌を継続して15−ペンタデカノラクトンとPOとの反応を行った。POの付加反応に要した時間は12時間であった。次いで180℃に温調し、180℃でゲージ圧が1〜3kgf/cm
2 となるように調整しながらEO220部(5モル)をオートクレーブ内に導入した。EO全量を導入した後、さらに圧力が0.13kgf/cm
2Gになるまで撹拌を継続してEOの反応を行った。EOの付加反応に要した時間は7時間であった。EOの付加反応を終えて得られた反応混合物から触媒をろ別し、本発明のタンパク質製造用薬剤である環状ポリエーテルエステル組成物(A2)を得た。
得られた環状ポリエーテルエステル組成物(A2)についてMALDI−TOF MSによる分析を行った。
環状ポリエーテルエステル組成物(A2)は、mが1〜3であり、nがそれぞれ1〜30である前記の一般式(1)で表される環状ポリエーテルエステル(A2−1)を合計して90重量%含む混合物であり、環状ポリエーテルエステル組成物(A2)に含まれる環状ポリエーテルエステル(A2)のnの平均値は6であり、そのうちPOの平均付加モル数は1であり、EOの平均付加モル数は5であり、環状ポリエーテルエステル(A2−1)のうち、nが5〜10である一般式(1)で表される環状ポリエーテルエステルの合計重量が、環状ポリエーテルエステル(A2−1)の合計重量に対して90重量%であった。
【0068】
<実施例3>
撹拌装置及び温度調節機能の付いたステンレス製のオートクレーブに、15−ペンタデカノラクトン240部(1モル)、及び「キョーワード500」〔協和化学工業(株)製:Mg
6 Al
2 (OH)
16 CO
3 ・4H
2 O〕24.2部(0.04モル)を入れて密閉した後、減圧下で160℃にて3時間加熱し、脱水処理した。次いで180℃に温調し、180℃でゲージ圧が1〜5kgf/cm
2 の範囲に入るように調整しながらEO264部(6モル)をオートクレーブ内に導入した。EO全量を投入した後、圧力が0.13kgf/cm
2Gになるまで撹拌を継続して15−ペンタデカノラクトンとEOとの反応を行った。EOの付加反応に要した時間は10時間であった。その後、EOの付加反応で得られた反応混合物から触媒をろ別して、本発明のタンパク質製造用薬剤である環状ポリエーテルエステル組成物(A3)を得た。
得られた環状ポリエーテルエステル組成物(A3)についてMALDI−TOF MSによる分析を行った。
環状ポリエーテルエステル組成物(A3)は、mが1〜3であり、nがそれぞれ1〜30である前記の一般式(1)で表される環状ポリエーテルエステル(A3−1)を合計して85重量%含む混合物であり、環状ポリエーテルエステル(A3−1)のnの平均値(すなわちEOの平均付加モル数)は6であり、環状ポリエーテルエステル(A3−1)のうち、nが5〜10である環状ポリエーテルエステルの合計重量は環状ポリエーテルエステル(A3−1)の合計重量に対して28重量%であった。
【0069】
<実施例4> 撹拌装置及び温度調節機能の付いたステンレス製のオートクレーブに、15−ペンタデカノラクトン240部(1モル)、「キョーワード500」[協和化学工業(株)製:Mg6 Al2 (OH)16 CO3 ・4H2 O]24.2部(0.04モル)及び過塩素酸アルミニウム九水和物1部(0.002モル)を入れて密閉した後、減圧下で160℃にて3時間加熱し、脱水処理した。次いで180℃まで昇温し、180℃でゲージ圧が1〜5kgf/cm2の範囲に入るように調整しながらエチレンオキサイド(以下、EOと略記する)88部(2モル)をオートクレーブ内に導入した。EO全量を導入した後、圧力が0.13kgf/cm2Gになるまで撹拌を継続した。その後、水酸化カリウム0.3部を追加して、更にEO352部(8モル)を180℃でゲージ圧が1〜5kgf/cm2となるように導入した。EO全量を導入した後、圧力が0.13kgf/cm2Gになるまで撹拌を継続して15−ペンタデカノラクトンとEOとの反応を行った。EOの付加反応に要した合計時間は8時間であった。その後、EOの付加反応で得られた反応混合物から触媒をろ別して、本発明のタンパク質製造用薬剤である環状ポリエーテルエステル組成物(A4)を得た。
得られた環状ポリエーテルエステル組成物(A4)についてMALDI−TOF MSによる分析を行った。
環状ポリエーテルエステル組成物(A4)は、mが1〜3であり、nが1〜30である一般式(1)で表される環状ポリエーテルエステル(A4−1)を合計して90重量%含む環状ポリエーテルエステルの混合物であり、環状ポリエーテルエステル(A4−1)のnの平均値(すなわちEOの平均付加モル数)は10であり、環状ポリエーテルエステル(A4−1)のうち、nが8〜13である環状ポリエーテルエステルの合計重量が、環状ポリエーテルエステル(A4−1)の合計重量に対して85重量%であった。
【0070】
<実施例5> 撹拌装置及び温度調節機能の付いたステンレス製のオートクレーブに、15−ペンタデカノラクトン240部(1モル)、「キョーワード500」[協和化学工業(株)製:Mg6 Al2 (OH)16 CO3 ・4H2 O]24.2部(0.04モル)及び過塩素酸アルミニウム九水和物1部(0.002モル)を入れて密閉した後、減圧下で160℃にて3時間加熱し、脱水処理した。次いで180℃まで昇温し、180℃でゲージ圧が1〜5kgf/cm2の範囲に入るように調整しながらエチレンオキサイド(以下、EOと略記する)1232部(2モル)をオートクレーブ内に導入した。EO全量を導入した後、圧力が0.13kgf/cm2Gになるまで撹拌を継続した。その後、水酸化カリウム0.3部を追加して、更にEO352部(28モル)を180℃でゲージ圧が1〜5kgf/cm2となるように導入した。EO全量を導入した後、圧力が0.13kgf/cm2Gになるまで撹拌を継続して15−ペンタデカノラクトンとEOとの反応を行った。EOの付加反応に要した合計時間は8時間であった。その後、EOの付加反応で得られた反応混合物から触媒をろ別して、本発明のタンパク質製造用薬剤である環状ポリエーテルエステル組成物(A5)を得た。
得られた環状ポリエーテルエステル組成物(A5)についてMALDI−TOF MSによる分析を行った。
環状ポリエーテルエステル組成物(A5)は、mが1〜3であり、nが1〜30である一般式(1)で表される環状ポリエーテルエステル(A5−1)を合計して90重量%含む環状ポリエーテルエステルの混合物であり、環状ポリエーテルエステル(A5−1)のnの平均値(すなわちEOの平均付加モル数)は30であり、環状ポリエーテルエステル(A5−1)のうち、nが28〜33である環状ポリエーテルエステルの合計重量が、環状ポリエーテルエステル(A5−1)の合計重量に対して85重量%であった。
【0071】
<実施例6〜12、比較例1>
(リフォールディング工程用水溶液の調製)
20mL容の滅菌済みバイアル瓶中で、リン酸水素ナトリウムの濃度が1.0モル/L、ソルビタンモノオレエートEO付加物(「TWEEN80」:和光純薬製)の濃度が0.10重量%、トリス緩衝液(pH=8)の濃度が50ミリモル/Lとなるように滅菌水で混合溶解し、さらに実施例1〜5で得られた本発明のタンパク質製造用薬剤(A1)〜(A5)、及びタンパク質製造用薬剤(A’1)(特開2016−88862号公報の実施例1に記載のC12GD)をそれぞれ表1に記載の濃度で含む水溶液となるように均一混合し、リフォールディング工程用水溶液(R1〜R7、R’1)を調製した。
【0072】
(アンフォールディングとリフォールディング工程)
1.5mL容の滅菌済みエッペンドルフチューブに、2mgのリゾチーム(「塩化リゾチーム」ナカライテスク社製:以下、同様のものを使用)及び製造例1で調整したアンフォールディング溶液を1mL加えて、4℃で12時間放置しリゾチームをアンフォールディングした。
このアンフォールディングされたタンパク質を含む溶液0.25mLのそれぞれに、実施例6〜12、及び比較例1で調整したリフォールディング工程用水溶液(R1)〜(R7)、及び(R’1)を0.75mL加えて、10℃で12時間放置してリフォールディングを行った。
【0073】
(タンパク質の凝集防止率の測定)
実施例6〜12及び比較例1でフォールディング後に得られたタンパク質を含む水溶液が入ったエッペンドルフチューブをそれぞれ遠心分離器(TOMY社製「PMC−060」)で3000rpmで10分遠心し、得られた上澄みの280nmにおける吸光度(L)を紫外可視分光光度計(島津製作所製、UV−2550)で測定した。また、製造例1に示したアンフォールディング液でリゾチームをアンフォールディングしたアンフォールディング液の280nmにおける吸光度(L’)を以下の計算式を用いて測定し、結果を表1に記載した。なお、凝集防止率は値が大きい程、タンパク質の凝集が防止できており、タンパク質製造用薬剤として優れていることを示す。
凝集防止率(%)=(L’×1)/(L×0.25)×100
【0074】
(リゾチームの酵素活性収率の測定)
10mlの滅菌済み試験管に0.5重量%濃度の枯草菌溶液を3ml入れ、実施例6〜12及び比較例1でフォールディング後に得られたタンパク質を含む水溶液を10μlマイクロピペットで加えて軽くかき混ぜた。タンパク質を加えた直後の450nmにおける吸光度(L0)を紫外可視分光光度計(島津製作所製、UV−2550)で測定し、さらに(L0)を測定して5分後に5分後の吸光度(L5)を測定し、A0とA5の差を算出して5分間の吸光度変化量(DL)とした。
さらに実施例6〜12及び比較例1でフォールディング後に得られたタンパク質を含む水溶液に含まれるリゾチームの濃度と同じ濃度でリゾチームを含み、他に添加剤を加えないブランクのリゾチーム水溶液を調製し、上記と同様に、450nmにおける5分間の吸光度変化(DLb)を算出し、前記の吸光度変化量(DL)と吸光度変化(DLb)とから、リフォールディング後の酵素の活性収率(酵素活性収率)を以下の式を用いて算出し、結果を表1に記載した。
酵素活性収率(%)=(DL/DLb) ×100
【0075】
【表1】
本発明のタンパク質製造用薬剤及びタンパク質の製造方法を用いると、有用な各種のタンパク質を凝集させること無く高収率で、かつ効率よく産生することができる。本発明のタンパク質産生方法で得られるタンパク質としては、酵素、組み換えタンパク質などが挙げられる。