特許第6788489号(P6788489)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6788489
(24)【登録日】2020年11月4日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】電気回路およびその制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/155 20060101AFI20201116BHJP
   H01H 9/54 20060101ALI20201116BHJP
【FI】
   H02M3/155 B
   H02M3/155 C
   H01H9/54 A
   H01H9/54 F
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-238526(P2016-238526)
(22)【出願日】2016年12月8日
(65)【公開番号】特開2018-98836(P2018-98836A)
(43)【公開日】2018年6月21日
【審査請求日】2019年3月14日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】久保 孝平
【審査官】 鈴木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−262586(JP,A)
【文献】 特開2013−211983(JP,A)
【文献】 特開2008−125160(JP,A)
【文献】 特開2006−254643(JP,A)
【文献】 特開2007−089240(JP,A)
【文献】 特開2009−171645(JP,A)
【文献】 特開2016−174473(JP,A)
【文献】 特開2015−033232(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 9/54−9/56
H02M 3/00−3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンデンサと、前記コンデンサへの充電経路上に設けられた突入電流防止抵抗と、前記突入電流防止抵抗と並列に設けられた開閉器と、前記充電経路上に設けられた電流センサと、を有する電気回路の制御装置であって、
通常動作状態において、前記電流センサからの電流検出値にもとづいて前記電気回路を制御する制御部と、
通常動作状態に先立つ前記突入電流防止抵抗を介した前記コンデンサの初期充電状態において、前記電流センサからの電流検出値にもとづいて異常判定を行う異常判定器と、
を備え、
前記異常判定器は、前記初期充電状態において、前記電気回路への入力電圧と前記コンデンサの電圧の差分の測定値が所定値より大きい期間、あるいは前記入力電圧と前記コンデンサの電圧の測定値から計算される充電電流が所定値より大きい期間を、異常判定期間とすることを特徴とする制御装置。
【請求項2】
前記異常判定器による判定結果を表示する表示部をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
コンデンサと、
前記コンデンサへの充電経路上に設けられた突入電流防止抵抗と、
前記突入電流防止抵抗と並列に設けられた開閉器と、
前記充電経路上に設けられた電流センサと、
請求項1または2に記載の制御装置と、
を備えることを特徴とする電気回路。
【請求項4】
電力変換装置であることを特徴とする請求項に記載の電気回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気回路に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーエレクトロニクスの分野において、直流電圧のレベルを変換するDC/DCコンバータ、トランスで絶縁された1次側と2次側の間で電力を授受する双方向コンバータ、直流電力を交流電力に変換するインバータなど、さまざまな電力変換装置が用いられる。
【0003】
図1は、モータ駆動システム2の回路図である。モータ駆動システム2は、直流電源4、スイッチ6、コンバータ装置100R、インバータ装置8、モータ10を備える。
【0004】
直流電源4は、電池やキャパシタなどの蓄電手段を含み、直流電圧VINを生成する。あるいは直流電源4は、エンジンにより駆動される発電機と整流器の組み合わせを含んでもよい。直流電圧VINは、スイッチ6を介してコンバータ装置100Rの入力端子Pに供給される。
【0005】
コンバータ装置100Rは、直流の入力電圧VINを昇圧し、出力端子P,Nに接続されるDCリンクバス12,12の間に、DCリンク電圧(出力電圧)VDCを発生する。インバータ装置8は、DCリンク電圧VDCを受け、モータ10に交流の駆動電圧を供給する。
【0006】
コンバータ装置100Rは、平滑コンデンサ102、突入電流防止抵抗104、開閉器106、電流センサ108、放電抵抗110、リアクトルL〜L、スイッチング素子MH1〜MH3,ML1〜ML3を備える。
【0007】
N極ラインLは、N極側の入力端子NとN極側の出力端子Nの間を接続する。またP極ラインLは、出力端子Pと接続されている。平滑コンデンサ102は、P極ラインLとN極ラインLの間に設けられる。平滑コンデンサ102は直列に接続される2個のコンデンサC11,C12を含む。放電抵抗110は、平滑コンデンサ102と並列に接続されており、コンバータ装置100Rの停止状態において、平滑コンデンサ102の電荷を放電する。放電抵抗110はコンデンサC11,C12それぞれと並列に接続される抵抗R11,R12を含む。ダイオードD11,D12は回路保護のために設けられる。
【0008】
リアクトルL〜L、スイッチング素子MH1〜MH3,ML1〜ML3、平滑コンデンサ102は、昇圧コンバータ(Boostコンバータ)であり、入力電圧VINを昇圧し、直流電圧VDCを発生する。
【0009】
電流センサ108は、コンバータ装置100Rの動作時において、入力ラインLINおよびリアクトルL〜Lに流れるリアクトル電流Iを検出するために設けられる。制御装置200Rは、DCリンク電圧VDCが所定の目標電圧と一致するように、DCリンク電圧VDCの検出値およびリアクトル電流Iの検出値にもとづいてスイッチングコンバータ130をフィードバック制御する。
【0010】
突入電流防止抵抗104および開閉器106は、コンバータ装置100Rの起動時の突入電流を抑制するために設けられる。起動直後の初期充電状態において、開閉器106がオフされ、突入電流防止抵抗104および保護回路であるダイオードD11,D12を介して、平滑コンデンサ102が充電される。これにより突入電流を抑制しつつ、平滑コンデンサ102を充電し、入力電圧VINの近傍までDCリンク電圧VDCを上昇させる。
【0011】
そしてDCリンク電圧VDCが入力電圧VIN付近まで上昇すると、初期充電状態が終了し、開閉器106がオンされ、突入電流防止抵抗104がバイパスされる。そしてスイッチングコンバータ130の動作が開始し、DCリンク電圧VDCがその目標電圧に安定化される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平6−232646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明者は、図1のコンバータ装置100Rについて検討した結果、以下の課題を認識するに至った。
【0014】
制御装置200Rは、DCリンク電圧VDCの検出値(フィードバック値)とその目標値の誤差に応じて、リアクトル電流Iの目標値を設定し、リアクトル電流Iの検出値が目標値に近づくようにスイッチングコンバータ130のデューティ指令値を生成する。
【0015】
電流センサ108のコネクタが抜ける異常が発生する場合がある。このような異常状態では、制御装置200Rにリアクトル電流Iの正しい検出値が入力されない。たとえばリアクトル電流Iが流れているにもかかわらず、その検出値がゼロを示す場合には、リアクトル電流Iがさらに増加する方向にフィードバックがかかり、リアクトル電流Iが際限なく上昇していき、やがて過電流となる。
【0016】
電流センサ108のコネクタ外れの対策として、特許文献1には、コネクタ抜けの検出回路が開示されている。しかしながら、このような検出回路は、追加の部品が必要となるためコスト増の要因となる。加えて検出できるのはコネクタ抜けのみであり、電流センサ108自体の異常や、電流センサ108と制御装置200Rを接続するケーブルの異常は検出できない。
【0017】
本発明は係る状況においてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、少ない追加部品で、電流検出系の異常を判定可能な制御装置の提供にある
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明のある態様は電気回路の制御装置に関する。電気回路は、コンデンサと、コンデンサへの充電経路上に設けられた突入電流防止抵抗と、突入電流防止抵抗と並列に設けられた開閉器と、充電経路上に設けられた電流センサと、を有する。制御装置は、通常動作状態において、電流センサからの電流検出値にもとづいて電気回路を制御する制御部と、通常動作状態に先立つ突入電流防止抵抗を介したコンデンサの初期充電状態において、電流センサからの電流検出値にもとづいて異常判定を行う異常判定器と、を備える。
【0019】
電気回路が正常である場合に、初期充電状態において突入電流防止抵抗に流れる充電電流は、その抵抗値および印加される電圧にもとづいて計算することができる。通常動作状態に使用される電流センサを、初期充電状態における充電電流の監視に流用し、電流センサにより測定される充電電流を、その理想波形から導かれる判定基準に照らすことにより、電流検出系の異常を判定できる。この態様は、追加の部品をほとんど、あるいは全く必要としない。
【0020】
突入電流防止抵抗の抵抗値をR、電気回路への入力電圧をVIN、コンデンサの電圧をVDCとするとき、正常時に期待される充電電流ICHG(IDEAL)は式(1)で与えられる。
CHG(IDEAL)=(VIN−VDC)/R …(1)
したがって式(1)で計算される充電電流ICHG(IDEAL)にもとづいて判定基準を定めて、電流検出系の異常を判定してもよい。
【0021】
制御装置は、異常判定器による判定結果を表示する表示部をさらに備えてもよい。これにより、ユーザに電流検出系の異常発生を通知でき、適切な処理を促すことができる。
【0022】
異常判定器は、電気回路への入力電圧およびコンデンサの電圧の少なくとも一方の測定値にもとづいて、異常判定を行ってもよい。
【0023】
異常判定器は、初期充電状態において、入力電圧とコンデンサの電圧の差分の測定値が所定値より大きい期間、あるいは入力電圧とコンデンサの電圧の測定値から計算される充電電流が所定値より大きい期間を、異常判定期間としてもよい。
【0024】
電気回路への入力電圧およびコンデンサの電圧の少なくとも一方の測定値にもとづいて、充電電流の正常範囲が設定されてもよい。これにより電流検出系の異常をさらに正確に判定できる。
【0025】
本発明の別の態様は、電気回路に関する。電気回路は、コンデンサと、コンデンサへの充電経路上に設けられた突入電流防止抵抗と、突入電流防止抵抗と並列に設けられた開閉器と、充電経路上に設けられた電流センサと、上述のいずれかの制御装置と、を備えてもよい。
【0026】
電気回路は、電力変換装置であってもよい。コンデンサは、DCリンクバスに接続される平滑コンデンサであってもよい。
【0027】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【0028】
さらに、この項目(課題を解決するための手段)の記載は、すべての欠くべからざる特徴を説明するものではなく、したがって、記載されるこれらの特徴のサブコンビネーションも、本発明たり得る。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、少ない追加部品で、電流検出系の異常を判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】モータ駆動システムの回路図である。
図2】実施の形態に係るコンバータ装置の回路図である。
図3】初期充電状態における充電電流ICHG(IDEAL)とDCリンク電圧VDCの波形図である。
図4】異常判定処理のフローチャートである。
図5】コンバータ装置の正常時の動作波形図である。
図6】コンバータ装置の異常時の動作波形図である。
図7】変形例に係るスイッチングコンバータの回路図である。
図8】コンバータ装置を備える産業機械のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0032】
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合のほか、部材Aと部材Bが、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0033】
同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に設けられた状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0034】
本明細書において参照する波形図やタイムチャートの縦軸および横軸は、理解を容易とするために適宜拡大、縮小したものであり、また示される各波形も、理解の容易のために簡略化され、あるいは誇張もしくは強調されている。
【0035】
図2は、実施の形態に係るコンバータ装置100の回路図である。コンバータ装置100は、平滑コンデンサ102、突入電流防止抵抗104、開閉器106、電流センサ108、スイッチングコンバータ130および制御装置200を備える。
【0036】
平滑コンデンサ102、突入電流防止抵抗104、開閉器106、電流センサ108、放電抵抗110、保護回路120、スイッチングコンバータ130については、図1を参照して説明した通りである。
【0037】
電流センサ108は、たとえばカレントトランスであり、フィードバック制御において参照されるリアクトル電流Iの経路であって、かつ初期充電状態における平滑コンデンサ102への充電電流ICHGの経路の上に設けられる。電流センサ108は、センス抵抗とセンス抵抗の電圧降下を増幅するアンプを含むセンサであってもよい。電流センサ108が生成する電流検出値DCSは、スイッチングコンバータ130の動作状態において、リアクトル電流Iの検出値IL(MEAS)を示し、初期充電状態において充電電流ICHGの測定値ICHG(MEAS)を示す。
【0038】
開閉器106は、電磁接触器(MC:Electromagnetic Contactor)や電磁開閉器(MW:Electromagnetic Switch)、電磁リレーなどの機械的な接点を有するスイッチ素子である。
【0039】
制御装置200は、制御部210、異常判定器220、表示装置230、シーケンサ240を備える。
【0040】
制御部210は、通常動作状態において、電流センサ108が生成する電流検出値DCSにもとづいてスイッチングコンバータ130を制御する。制御部210は、パルス発生器212およびドライバ214を含む。パルス発生器212には、電流検出値DCSに加えて、DCリンク電圧VDCの検出値DVSが入力されている。パルス発生器212はたとえばパルス幅変調器あるいはパルス周波数変調器を含む。パルス発生器212の構成は特に限定されず、公知技術を用いて構成すればよい。
【0041】
一例としてパルス発生器212は、電圧制御器と、電流制御器と、パルス変調器と、を含んでもよい。電圧制御器は、PI(比例・積分)コントローラやPID(比例・積分・微分)コントローラであり、DCリンク電圧VDCの検出値DVSと目標値の誤差に応じた電流指令値を生成する。電流制御器は、電流検出値IL(MEAS)と電流指令値IREFの誤差に応じたデューティ指令値を生成する。パルス変調器は、デューティ指令値に応じたデューティ比を有するパルス信号SPWMを生成する。
【0042】
ドライバ214は、パルス信号SPWMに応じて、スイッチングコンバータ130のスイッチング素子MH1〜MH3,ML1〜ML3を駆動する。
【0043】
異常判定器220は、突入電流防止抵抗104を介した平滑コンデンサ102の初期充電状態において、電流センサ108が検出した電流検出値DCSにもとづいて異常判定を行う。
【0044】
表示装置230は、異常判定器220による判定結果を表示する。たとえば表示装置230は、異常が検出されると、「電流検出系の異常」などのメッセージを表示してもよいし、異常を示すアイコンや画像を表示してもよい。
【0045】
シーケンサ240は、コンバータ装置100全体の動作を制御する。シーケンサ240は、コンバータ装置100の起動が指示されると、初期充電状態となり、開閉器106をオフする。そして初期充電状態において突入電流防止抵抗104および保護回路120のダイオードを介して、平滑コンデンサ102の充電が完了すると、通常動作状態に遷移し、開閉器106をオンする。シーケンサ240による処理は、後出の図4のフローチャートに例示的に示される。
【0046】
通常動作状態では、開閉器106がオンとなり、突入電流防止抵抗104がバイパスされる。制御部210は通常動作状態においてアクティブとなり、DCリンク電圧VDCが目標電圧に安定化されるようにスイッチングコンバータ130を制御する。
【0047】
異常判定器220、シーケンサ240、パルス発生器212は、コンピュータやプロセッサなどのハードウェアとソフトウェアの組み合わせで構成してもよいし、FPGAやロジック回路などのハードウェアで構成してもよい。
【0048】
以上がコンバータ装置100の構成である。
電気回路が正常である場合に、初期充電状態において突入電流防止抵抗104に流れるであろう充電電流ICHG(IDEAL)は、その抵抗値および印加される電圧にもとづいて計算(推定)することができる。通常動作状態に使用される電流センサ108を、初期充電状態における充電電流ICHGの監視に流用し、電流センサ108により測定される充電電流ICHG(MEAS)を、その理想波形ICHG(IDEAL)から導かれる判定基準に照らすことにより、電流検出系の異常を判定できる。
【0049】
図1のコンバータ装置100Rと図2のコンバータ装置100を対比すると、制御装置200の構成(機能)のみが異なっており、それ以外の部分については、追加の部品をほとんど、あるいは全く必要としないという利点がある。
【0050】
また制御装置200によれば、電流センサ108のコネクタ外れのみでなく、電流センサ108の故障や異常、ケーブルやハーネスの異常なども検出できる。さらには、突入電流防止抵抗104の抵抗値が設計値と異なるような異常も検出対象とすることができる。
【0051】
本発明は、図2のブロック図や回路図として把握され、あるいは上述の説明から導かれるさまざまな装置、回路に及ぶものであり、特定の構成に限定されるものではない。以下、本発明の範囲を狭めるためではなく、発明の本質や回路動作の理解を助け、またそれらを明確化するために、より具体的な制御例や構成例を説明する。
【0052】
異常判定器220による異常判定について詳細に説明する。初期充電状態において、平滑コンデンサ102には、突入電流防止抵抗104を介して入力電圧VINが印加される。実際には、電流センサ108や保護回路120において電圧降下が発生するが、それらを無視すると、突入電流防止抵抗104の両端間電圧は、VIN−VDCとなり、したがって回路が正常である場合に期待される充電電流ICHG(IDEAL)(t)は式(1)で表される。
CHG(IDEAL)(t)=(VIN(t)−VDC(t))/R …(1)
【0053】
図3は、初期充電状態における充電電流ICHG(IDEAL)とDCリンク電圧VDCの波形図である。時刻t=0におけるDCリンク電圧VDC(0)を0V、平滑コンデンサ102の容量をCとすると、式(2)を得る。
DC(t)=∫ICHG(IDEAL)(t)dt/C …(2)
【0054】
INを一定とすると、式(1)および(2)から式(3A),(3B)を得る。
DC(t)=VIN×(1−e−t/CR) …(3A)
CHG(IDEAL)(t)=VIN×e−t/CR/R …(3A)
【0055】
初期充電状態における充電電流ICHGの測定値ICHG(MEAS)の正常範囲は、式(1)あるいは(3A)で表される理想充電電流ICHG(IDEAL)にもとづいて規定される。たとえば正常範囲は、充電電流ICHG(IDEAL)の最大値IMAXにもとづいて決定してもよい。充電電流ICHG(IDEAL)は、充電開始時刻であるt=0において最大となる。t=0においてVDC=0Vとすれば、式(4)を得る。VIN(NOM)は入力電圧の設計値(公称値)である。
MAX=ICHG(IDEAL)(0)=VIN(NOM)/R …(4)
正常範囲は、この充電電流ICHG(IDEAL)の最大値IMAXにもとづいて規定してもよい。一例として正常範囲の下限を式(5)で規定し、ICHG(MEAS)<ITHAとなると異常と判定してもよい。
THA=α×IMAX=α×ICHG(IDEAL)(0)
=α×VIN(NOM)/R …(5)
αは定数であり、電流検出や電圧検出の精度、マージン等を考慮して定めればよい。
【0056】
初期充電状態において、充電が進んでDCリンク電圧VDCが入力電圧VINに近づくと、充電電流ICHGが減少するため、異常判定が難しくなる。そこで充電電流ICHGがある程度大きい期間が異常判定期間TDETに設定される。そして異常判定期間TDETにおいて測定値ICHG(MEAS)が正常範囲から逸脱したときに異常と判定する。
【0057】
具体的には異常判定器220は、各時刻において式(6)にもとづいて充電電流ICHGの計算値ICHG(CALC)を逐次計算する。そして計算値ICHG(CALC)が、所定のしきい値ITHBより大きい状態を異常判定期間TDETとする。
CHG(CALC)(t)=(VIN(MEAS)(t)−VDC(MEAS)(t))/R …(6)
【0058】
たとえば、しきい値ITHBは、充電電流ICHGの最大値IMAXにもとづいて式(7)で規定してもよい。
THB=β×IMAX=β×VIN(NOM)/R …(7)
ただし、βは、α<β<1を満たす定数である。
【0059】
たとえば、VIN(NOM)=600V、R=10Ω、IMAX=60Aであるとき、ITHA=10A、ITHB=20Aとしてもよい。
【0060】
以上が異常判定処理の詳細である。図4は、異常判定処理のフローチャートである。開閉器106がオフされ(S100)、突入電流防止抵抗104を介した初期充電が開始する(S102)。異常判定器220は、入力電圧VIN、DCリンク電圧VDCを測定し(S104)、それらの測定値VIN(MEAS)、VDC(MEAS)にもとづいて、充電電流ICHG(CALC)を計算する(S106)。そして、ICHG(CALC)>ITHBであれば、異常判定期間と判定される(S108のY)。
【0061】
異常判定期間において、電流センサ108からの電流検出値DCSが示す充電電流ICHGの測定値ICHG(MEAS)が、正常範囲に含まれるか否かが判定される(S110)。そして測定値ICHG(MEAS)が正常範囲に含まれる場合(S110のY)、正常と判定され、S104に戻る。処理S108においては、より詳しくは、測定値ICHG(MEAS)が正常範囲の下限しきい値ITHAと比較される。そしてICHG(MEAS)>ITHAであるとき、正常と判定される。
【0062】
正常な状態が持続すると、平滑コンデンサ102の充電が進み、DCリンク電圧VDCが上昇し、それにともない処理S106で計算される充電電流ICHG(CALC)が減少していく。処理S108において、ICHG(CALC)<ITHBと判定されると(S108のN)、異常判定期間が終了する(S112)。続いて初期充電状態が完了するまで充電が継続する(S114のN)。やがてVINとVDCの電位差が、突入電流の発生のおそれが無い程度まで小さくなると、初期充電の完了と判定される(S114のY)。そして開閉器106がオンされ(S116)、スイッチングコンバータ130が始動する(S118)。
【0063】
異常判定期間中の処理S110において、測定値ICHG(MEAS)が正常範囲から逸脱すると(S110のN)、異常判定がなされる(S120)。そして必要なエラーを表示し(S122)、起動が停止する(S124)。
【0064】
図5は、コンバータ装置100の正常時の動作波形図である。回路が正常であるとき、充電電流ICHGの測定値ICHG(MEAS)は、実際の充電電流ICHGを表しており、理想波形ICHG(IDEAL)と一致する。
【0065】
入力電圧VINおよびDCリンク電圧VDCの測定値から計算される充電電流ICHG(CALC)の波形もまた理想波形と一致する。ICALC>ITHBが成り立つ期間t〜tが、異常判定期間TDETとなる。異常判定期間TDETにおいて、ICHG(MEAS)>ITHAが成り立つため、正常と判定され、判定信号はローレベルとなる。
【0066】
時刻tにVINとVDCの電位差が所定値より小さくなると、言い換えれば、充電電流ICHGの計算値ICHG(CALC)が所定値ITHCより小さくなると、初期充電が完了し、開閉器106がオンする。
【0067】
続いて、異常状態における動作を説明する。
図6は、コンバータ装置100の異常時の動作波形図である。ここでは、電流センサ108のコネクタ外れや、電流センサ108の故障が生じているものとする。このとき電流センサ108からの電流検出値DCSが表す測定値ICHG(MEAS)と実際の充電電流ICHGとの間には相関がなく、測定値ICHG(MEAS)はゼロ付近の一定値をとる。
【0068】
CALC>ITHBが成り立つ期間t〜tが異常判定期間TDETとなる。ICHG(MEAS)<ITHAであるから、直ちに異常と判定される。
【0069】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。以下、こうした変形例を説明する。
【0070】
(第1変形例)
正常範囲に関して、実施の形態では下限のみを設定する場合を説明したがその限りではなく、上限と下限を設定してもよい。
【0071】
(第2変形例)
また、正常範囲を規定する際に、入力電圧VINの公称値VIN(NORM)を用いることとしたがその限りではなく、コンバータ装置100の起動毎に、入力電圧VINを測定し、測定値VIN(MEAS)にもとづいて、正常範囲(しきい値ITHA)を計算してもよい。
【0072】
(第3変形例)
また正常範囲を固定したが、その限りではなく、理想充電電流ICHG(IDEAL)の波形にしたがって、正常範囲を時間と共に変化させてもよい。
【0073】
(第4変形例)
異常判定期間の終了判定に関して、実施の形態では、入力電圧VINとDCリンク電圧VDCの測定値から計算される充電電流ICHG(CALC)を用いたがその限りではない。入力電圧VINの変動やばらつきが小さい場合、入力電圧VINに関しては公称値VIN(NORM)を用いてもよい。
CHG(CALC)(t)=(VIN(NORM)−VDC(MEAS)(t))/R
【0074】
(第5変形例)
異常判定期間の終了を、充電開始からの経過時間にもとづいて判定してもよい。具体的にはタイマー回路を設け、充電開始からの経過時間が所定のしきい値に達すると、異常判定期間を終了してもよい。
【0075】
(第6変形例)
スイッチングコンバータ130の構成は、図2のそれに限定されない。図7は、変形例に係るスイッチングコンバータ130Aの回路図である。スイッチングコンバータ130Aは、1個のリアクトルLと、1組のハイサイドトランジスタMH1,ローサイドトランジスタML1、平滑コンデンサ102を備える。
【0076】
スイッチングコンバータ130や130Aにおいて、ハイサイドトランジスタMおよびローサイドトランジスタMは、バイポーラトランジスタに限定されず、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やFETを用いることができる。
【0077】
(第7変形例)
実施の形態では、電気回路の例としてスイッチングコンバータを備えるコンバータ装置について説明したが、その限りではなく、その他の形式の電源回路やインバータなどに広く適用することができる。
【0078】
(用途)
続いて、コンバータ装置100の用途を説明する。図8は、コンバータ装置100を備える産業機械のブロック図である。産業機械は、作業機械、工作機械、作業車両、建設機械であり、クレーンやショベル、二次電池の充放電検査装置などが例示される。
【0079】
産業機械300は、バッテリと油圧のハイブリッド型であり、エンジン発電機302、スイッチ304、整流器306、エンジンコンバータ308、蓄電手段312、スイッチ314、バッテリコンバータ316、インバータ318、モータ320を備える。
【0080】
エンジン発電機302はエンジンによって駆動される発電機であり、三相交流電力を発生する。整流器306は、スイッチ304を介して三相交流電力を受け、直流電圧VIN1に変換する。エンジンコンバータ308は直流電圧VIN1を受け、それを昇圧した電圧VDCをDCリンクバス310に発生させ、その電圧レベルを安定化する。
【0081】
蓄電手段312は、バッテリあるいはキャパシタであり、直流電圧VIN2を生成する。バッテリコンバータ316の出力は、エンジンコンバータ308の出力と共通のDCリンクバス310と接続される。バッテリコンバータ316は、スイッチ314を介して直流電圧VIN2を受け、それを昇圧して、DCリンクバス310の直流電圧VDCを安定化する。インバータ318は、DCリンクバス310のDCリンク電圧VDCを受け、交流電力に変換し、モータ320を駆動する。
【0082】
モータ320が回生動作する際には、モータ320からの回生電流が、インバータ318を介してDCリンクバス310に流れ込む。バッテリコンバータ316は、モータ320の回生動作時には充電モードとなり、DCリンクバス310側を入力、蓄電手段312側を出力とする降圧コンバータとして動作する。これにより余った電力を、蓄電手段312に回収することができる。
【0083】
エンジンコンバータ308およびバッテリコンバータ316はそれぞれ、上述のコンバータ装置100と同様の構成を有する。これにより、エンジンコンバータ308、バッテリコンバータ316それぞれにおける電流検出系の異常を判定できる。
【0084】
実施の形態にもとづき、具体的な語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0085】
2…モータ駆動システム、4…直流電源、6…スイッチ、8…インバータ装置、10…モータ、12…DCリンクバス、100…コンバータ装置、102…平滑コンデンサ、104…突入電流防止抵抗、106…開閉器、108…電流センサ、110…放電抵抗、120…保護回路、130…スイッチングコンバータ、200…制御装置、210…制御部、212…パルス発生器、214…ドライバ、220…異常判定器、230…表示装置、240…シーケンサ、P…入力端子、P…出力端子、C11,C12…コンデンサ、R11,R12…抵抗、300…産業機械、302…エンジン発電機、304…スイッチ、306…整流器、308…エンジンコンバータ、310…DCリンクバス、312…蓄電手段、314…スイッチ、316…バッテリコンバータ、318…インバータ、320…モータ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8