(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態に係る多段式パイプの支圧治具及び多段式パイプの貫入方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下では、多段式パイプとして、多段式パイプを構成する各管体に排水孔が穿設された多段式排水パイプを例に実施形態を説明するが、多段式パイプは、多段式排水パイプに限られるものではなく、例えば、多段式の杭(テーパー杭)等も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0036】
<多段式パイプの支圧治具>
初めに、
図1〜
図3、
図5及び
図6を参照して本実施形態の多段式排水パイプ10の支圧治具20(以下、単に支圧治具20と称する)の構成について説明する。
【0037】
支圧治具20は、多段式排水パイプ10を地盤内へ貫入する際に、多段式排水パイプ10が地盤内へ引き込まれないようにするために用いられる。具体的には、支圧治具20は、地盤から露出している多段式排水パイプ10の後端部に設けられる係止部11c(係止部11cについては
図5及び
図6を参照)により、多段式排水パイプ10に着脱自在に係止される。
図2(b)に示すように、支圧治具20は、地盤に当接し、多段式排水パイプ10が地盤内に貫入される方向に発生するパイプの引き込みQに対して、地盤との間に生じる反力により、引き込みQに反発する抵抗力Rを作用させて、多段式排水パイプ10の地盤内へ引き込みを防止する。
【0038】
図1に示すように、支圧治具20は、平面矩形の板状部材であり、切欠部21と、複数の第1孔22と、第2孔23を有する。切欠部21は、支圧治具20の略中央部から辺20Cの方向に切り欠いて設けられている。切欠部21の幅W1は、後述する多段式排水パイプ10の後端部に設けられる係止部11cの幅W3よりも狭くなっている。切欠部21の幅W1を係止部11cの幅W3よりも狭くすることで係止部11cが支圧治具20に確実に係止され、多段段式排水パイプ10の地盤内への引き込みQを防止することができる。なお、この実施形態では、幅W3とは、係止部11cの最大幅(最も広い幅)のことをいうものとする。
【0039】
また、切欠部21を辺20Cの向きに切り欠いた構成としているため、支圧治具20を多段式排水パイプ10の係止部11cの前方、すなわち多段式排水パイプ10の係止部11cと地盤との間に差し込むだけの簡易な作業で支圧治具20の設置が完了する。このため、施工作業者の手を煩わせることなく支圧治具20を設置することができ、多段式排水パイプ10の施工にほとんど影響を与えない。
【0040】
さらに、切欠部21としたことにより、支圧治具20を多段式排水パイプ10の軸方向に対して傾けて設置することができる。このため、
図2(b)に示すように、多段式排水パイプ10を貫入する地盤の傾斜角度に関係なく、地盤に対して支圧治具20の平面が平行となるように支圧治具20を設置することができる。結果、支圧治具20と地盤との接触面積が増大し、多段式パイプの地盤内への引き込みQに対する抵抗力Rが増大し、多段式排水パイプ10の地盤内への引き込みQをより効果的に防止することができる。また、多段式排水パイプ10が左右方向(
図1のY軸方向)に対して規制されるので、多段式排水パイプ10の貫入時の横ぶれを防止することができる。
【0041】
複数の第1孔22は、多段式パイプの地盤内への引き込みQに対する抵抗力Rを得るための把持機構を構成し、支圧治具20の互いに対向する辺縁部に同数ずつ設けられている。
図1に示す例では、対向する辺20B及び辺20Dの辺縁部に第1孔22が各々3つずつ設けられている。第1孔22は、ワイヤロープまたはチェーン等(以下、ワイヤ等と記載する)を張設することができるように設けられた貫通孔である。ワイヤ等を張設する際は、
図3に示すように、アイボルト31を第1孔22に固定した後、貫入される多段式排水パイプ10の引き込みQに対して抵抗力Rが生じる向き(矢印の向き)にワイヤ32等を張設する。なお、第1孔22に固定させるボルトは、アイボルト等のワイヤ等を施工用架台やフェンスなどの構造物に固定して張設し易いものが好ましいが、他の種類のボルトでもよい。また、
図3に示す矢印の向きは、一例であり、多段式排水パイプの引き込みQに対して抵抗力Rが生じる向きであれば、他の向きでもよい。
【0042】
また、第1孔22にボルトを固定せず、第1孔22に直接ワイヤ等を挿通するようにしてもよい。また、該実施形態では、支圧治具20の板厚を考慮し、第1孔22を貫通孔としている。しかし、必ずしも貫通孔である必要はなく、支圧治具20の板厚が十分あり、ボルトが外れる虞が低い場合には、第1孔22を貫通していない穴としてもよい。また、支圧治具20の第1孔22は必ずしも必要というわけではなく、アイボルト等のワイヤ等を施工用架台やフェンスなどの構造物に固定して張設しない場合においては、第1孔22のない支圧治具20を用いてもよい。
【0043】
第2孔23は、作業者が支圧治具20を把持するために設けられた貫通孔である。第2孔23は、切欠部21と支圧治具20の辺20Aとの間に配置され、その長手方向が切欠部21の幅方向となるように設けられている。また、第2孔23は、長手方向に直交する幅W2が人間の指を含む手の厚みよりも幅広になっている。このため、作業者は、この第2孔に差し込んで支圧治具20を片手で把持することができる。また、第2孔23は、支圧治具20の横方向の略中央部に配置されているため、支圧治具20を片手で持った際のバランスが良く把持しやすい。結果、作業者の負担が軽減される。
【0044】
<多段式排水パイプ>
次に、
図4〜
図8を参照して、本発明の実施形態に係る多段式排水パイプ10について説明する。
【0045】
図4は、本実施形態に係る多段式排水パイプを設置する、土の斜面の断面を模式的に表した断面図である。
図4に示すように、本実施形態に係る多段式排水パイプ10は、鉄道、道路、宅地等の盛土や切土などの土工構造物において、セメント被覆等がされていない未被覆の地盤内に貫入される。そして、この多段式排水パイプ10は、地下水を排水して、降雨時の地下水位の上昇を抑制するとともに、地震時の過剰間隙水圧を消散して、水圧を下げることで前記斜面の耐降雨性や耐震性を高める機能を有している。勿論、この多段式排水パイプ10は、土工構造物などの人工斜面だけでなく丘陵地や段差地などの自然斜面にも適用できることは云うまでもない。
【0046】
本実施形態に係る多段式排水パイプ10は、板厚が数mmの高耐食性のメッキ鋼板(例えば、NSDH400 K27)からなる、長さが2m程度の大中小の管径の異なる3つの管体を備えている。多段式排水パイプ10は、
図5に示すように、外管となる第1管体11と、中管となる第2管体12と、内管となる第3管体13などから構成される。第2管体12の外径は、第1管体11の内径よりも小さく、第3管体13の外径は、第2管体12の内径よりも小さく構成されている。このため、第2管体12を第1管体11内に収容可能であり、第3管体13を第2管体12に収容可能となっている。また、第1管体11、第2管体12、第3管体13には、
図5等に示すように、それぞれ地下水や過剰間隙水を透水する直径数mmの排水孔H1が複数穿設されている。
【0047】
ここで、管径の大きな第1管体11の後端部11bには係止部11cが設けられる。なお、管径の大きな第1管体11は、多段式排水パイプ10が地盤に貫入された際に該地盤から露出する管体となる。該実施形態では、
図6に示すように、組み合わせると円筒形状となる2つに分割されたブロック15,16(アタッチメント)により係止部11cが構成される。ブロック15は、両端部に軸方向に対し垂直方向に延出した2つの延出部151,152を有し、該延出部151,152には、各々厚み方向に貫通する貫通孔151h,152hが形成されている。また、同様に、ブロック16は、両端部に軸方向に対し垂直方向に延出した2つの延出部161,162を有し、該延出部161,162には、各々厚み方向に貫通する貫通孔161h,162hが形成されている。
【0048】
そして、第1管体11の後端部11bにブロック15,16を組み合わせて緊結することで、第1管体11の後端部11bに係止部11cが設けられる。具体的には、ブロック15,16の延出部251,161の貫通孔151h,161hと、延出部152,162の貫通孔151h,162hとにそれぞれボルトB等を挿通してナットNで緊結することでブロック15,16が第1管体11の後端部11bに緊結されて係止部11cが設けられる。なお、係止部11cの形状は、
図6に示す形状に限らず種々の形状を採用することができる。
【0049】
図7は、本実施形態に係る多段式排水パイプ10の第1管体11と第2管体12との接合部分である継手形状を、第1管体11部分を断面で示し、第2管体12部分を側面図で示す部分切断断面図である。
図7に示すように、第1管体11の先端部11aは、テーパー部分を経て徐々に縮径されているとともに、第2管体12の後端部12bは、テーパー部分を経て徐々に拡径されており、伸長時に第1管体11の先端部11aと第2管体12の後端部12bとがテーパー部分において互いに嵌合して係止するように構成されている。
【0050】
また、同様に、第2管体12の先端部12aは、縮径されているとともに、第3管体13の後端部13bは、拡径され、伸長時に第2管体12の先端部12aと第3管体13の後端部13bとが互いに嵌り合って嵌合する構成となっている。なお、先端とは、多段式排水パイプ10を地盤に押し出して貫入させる際の進行方向の管体の端部を指し、後端とは、その反対側の端部を指している(以下同じ)。
【0051】
多段式排水パイプ10は、管体同士の接合部分がこのような構成となっているため、後述のように、押出治具1を用いて伸長可能となっている。また、前述のように、管体同士の接合部分が、それぞれ先端が縮径されているとともに、後端が拡径されているため、多段式排水パイプ10を伸ばして所定長さまで貫入すると、管体同士の接合が完了する仕組みとなっている。
【0052】
図8は、多段式排水パイプ10の先端部分を管軸方向に沿って切断した状態を示す部分拡大断面図である。
図8に示すように、第3管体13の先端部13aには、貫入時の土圧抵抗を低減するため、円錐状の先端キャップ14が嵌着されている。この先端キャップ14は、例えば、ポリプロピレン(PP樹脂)等の樹脂素材で形成されている。
【0053】
<押出治具>
次に、
図9を参照して、本発明の実施形態に係る多段式排水パイプの押出治具について説明する。
【0054】
図9に示すように、本実施形態に係る多段式排水パイプの押出治具1は、外周面にねじ山が形成された棒鋼からなるロッド2と、このロッドのねじ山に螺合する押出ナット3及び緩み止めナット4と、こられのナットでロッド2上に固定され、前述の多段式排水パイプ10の各管体の管端に当接する大きさの異なる2種類の押出プレート5(5’)(押出部材)など、から主に構成されている。
【0055】
また、押出治具1は、ロッド2の後端に装着されてロッド2の端部を保護するロッドキャップ6を備えるとともに、重機であるブレーカーのチゼルTに外側から嵌着され、ブレーカーでの押出治具1の押し出しを容易とするチゼルキャップ7も備えている。なお、
図9の矢印は、多段式排水パイプ10の貫入方向を示し、一点鎖線の架空線で示す符号11は、前述の多段式排水パイプ10の一番外側の管体である第1管体11を示している。
【0056】
(ロッド)
ロッド2の外表面には、ねじ山が形成されており、
図9に示すように、機械的継手であるカプラー8で簡単に継ぎ足すことができる。このため、1m程度の短尺なロッド2を現場で継ぎ足して長尺なロッドとすることができる。よって、長尺なロッドを地盤に突き立てるスペースがない狭隘な施工現場においても多段式排水パイプ10を設置することが可能となる。
【0057】
(押出ナット及び緩み止めナット)
押出ナット3及び緩み止めナット4は、ロッド2の外周面に形成されたねじ山と螺合する略同形のナットであり、押出プレート5(5’)を両側から挟み込んで挟持し、ロッド2上に押出プレート5(5’)を固定する機能を有している。また、押出ナット3は、前述の第3管体13を押し出す押出部材の機能も兼用している。なお、円筒状のナットではなく、断面外形が多角形(六角形)のナットでもよく、適宜、変更可能である。
【0058】
(押出プレート)
押出プレート5(5’)は、機械構造用炭素鋼(S45C)からなる円板状の部材であり、前述の多段式排水パイプ10の管端に当接して地盤内に押し出す機能を有いている。押出プレート5(5’)は、多段式排水パイプ10の管体11〜13の管径ごとに大きさが異なる複数種類あり、押出プレート5が、第1管体11の押し出し用であり、押出プレート5’が、第2管体12の押し出し用である。なお、第3管体13の押し出し用の押出部材は、押出ナット3で兼用されている。
【0059】
(ロッドキャップ)
ロッドキャップ6は、オーステンパダクタイル鋳鉄(ADI処理:FCAD1200−2)からなり、D32のロッド2に丁度外嵌される内周面を有したキャップ状の部材である。このロッドキャップ6は、
図9に示すように、後端側がキノコ状の丸く滑らかな形状となっている。このため、ブレーカーや油圧杭打機の押圧力を効果的にロッド2に伝達することがきる。
【0060】
また、ロッドキャップ6の形状により、ロッド2の鋭利な端部にブレーカーや油圧杭打機が引っ掛かるおそれが低減され、ロッド2を重機で曲げてしまうことを防止することができる。その上、作業員がロッド2の鋭利な端部と接触して怪我をすることも防止することができる。
【0061】
(チゼルキャップ)
チゼルキャップ7は、機械構造用炭素鋼(S45C)からなる円筒状の部材であり、円筒状のチゼルキャップ本体7Aと、このチゼルキャップ本体7Aの先端側がラッパ状に拡径した拡径部7Bを備えている。また、チゼルキャップ本体7Aには、チゼルキャップ本体7Aの軸芯方向と直交する2本のボルトが進退自在に取り付けられたねじ止め部7Cが形成されている。
【0062】
このため、チゼルキャップ7は、チゼルキャップ本体7AにブレーカーのチゼルTを収容して、ねじ止め部7Cの2本のボルトで締め付けて圧着することにより、ブレーカーのチゼルTに装着される。そして、ラッパ状に拡径した拡径部7Bの形状を利用して、ブレーカーの油圧力により、ロッド2の後端に装着されたロッドキャップ6及び押出治具1全体を押し出し、多段式排水パイプ10を地盤内に貫入する。チゼルキャップ7によれば、ブレーカーの油圧力を効率良く押出治具1へ伝達することができ、押出治具1の押し出しが容易となる。
【0063】
<土砂の詰まり>
次に、
図10及び
図11を参照して、多段式排水パイプ10内への土砂の流入とその問題について説明する。本実施形態に係る多段式排水パイプ10には、上述したように直径数mmの排水孔H1が複数穿設されている。このため、
図10に示すように、これら排水孔H1から土砂Xが多段式排水パイプ10内へと流入する。また、第1管体11の内周面と第2管体12の外周面、及び第2管体12の内周面と第3管体13の外周面との間にはそれぞれ隙間があるため、多段式排水パイプ10の先端部の隙間からも土砂Xが流入したり、コンクリートブレーカ等を用いた場合に振動により土砂Xが流動化するためにより土砂Xが管体内へ流入する。
【0064】
ゆるい状態での地盤で施工する場合、第1管体11と第2管体12との間に流入した土砂Xは、第2管体12を押し出すに従い、拡径された第2管体12の後端部12bに第1管体11内で集積され、
図11に示すように、縮径された第1管体11の先端部11aと拡径された第2管体12の後端部12bとの間に土砂Xが圧密された状態(詰まった状態)となる。このため、縮径された第1管体11の先端部11aと拡径された第2管体12の後端部12bとが嵌合せず、本来係止すべき位置(正確な係止位置)の手前で係止した状態となる。
【0065】
多段式排水パイプ10の貫入作業では、各管体が嵌合するまで管体を押し込むことができるために、押し込み量が所定長に達するまで管体の押し込みを行うが、上述したように土砂Xの圧密により本来係止すべき位置の手前で係止し、伸長した際の多段式排水パイプ10の長さが短くなると、所定長までロッドによる押し込み施工を行うと多段式排水パイプ10が土砂X内に引き込まれてしまう現象が生じる。このように、第2管体12を押し込む際に上記現象が生じると第1管体11が土砂X内に引き込まれるため、その後の作業を行うためには、土砂X内に引き込まれて埋もれた状態となった多段式排水パイプ10を土砂X内から引き出す、もしくは掘り起こす作業が必要となる。本実施形態では、多段式排水パイプ10の貫入作業に、
図1及び
図2を参照して説明した支圧治具20を用いることで、該問題を解決している。
【0066】
<多段式排水パイプの貫入方法>
次に、
図12〜
図19を参照して、本発明の実施形態に係る多段式排水パイプの貫入方法について説明する。なお、以下の説明では、多段式排水パイプ10の引き込みQが生じやすい、コンクリートブレーカを用いて多段式排水パイプ10の貫入を行う場合について説明する。なお、
図15〜
図19においては、多段式排水パイプ10の各管体11〜13に穿設された排水孔H1及びロッド2のねじ山の図示を省略している。
【0067】
(1)位置決め工程(
図12のS101)
初めに、多段式排水パイプ10の貫入位置を位置決めする(図示せず)。具体的には、地盤調査や測量等により多段式排水パイプ10を地盤内に貫入させる位置、貫入角度等を特定し、マーキング等により目印を付ける。
【0068】
(2)架台設置工程(
図12のS102)
次に、多段式排水パイプ10を地盤内へ貫入させる作業の事前準備として、架台の組み立て及び設置を行う。具体的には、
図13に示すように、クランプ等を用いて単管パイプを鳥居状に組むとともに、倒れないように地盤に対して控えの単管パイプを組み、その控えのパイプがずれないように支保工で支える。この架台の鳥居状の横パイプにより多段式排水パイプ10の貫入方向の規定が容易となる。
【0069】
(3)押出治具組立工程(
図12のS103)
次に、
図14に示すように、前述の押出治具1を組み立てて、多段式排水パイプ10内に挿置する。具体的には、第1管体11押し出し用の押出プレート5を押出ナット3及び緩み止めナット4で挟み込んで1本のロッド2の中央付近に装着する。そして、ロッド2の後端に、ロッドキャップ6を嵌着する。このとき、
図15にも示すように、チゼルキャップ7もブレーカーのチゼルTに装着する。
【0070】
(4)第1管体押出工程(
図12のS104)
次に、
図15に示すように、前工程で組み立てた押出治具1を用いて、多段式排水パイプ10を地盤内に貫入させる。具体的には、押出治具1の押出プレート5で第1管体11ごと多段式排水パイプ10全体を押し出して地盤内に貫入させる。なお、押出治具1を用いずに、チゼルキャップ7で直接多段式排水パイプ10を押し出して地盤内に貫入させてもよい。この場合、前工程である押出治具組立工程を省略することができる。
【0071】
(5)支圧治具設置工程(
図12のS105)
次に、
図16に示すように、
図6を参照して説明したブロック15,16を組み立てて、多段式排水パイプ10の第1管体11の後端部11b外周面に係止部11cを設ける。次に、第1管体11の後端部11bに設けた係止部11cに支圧治具20を係止する。具体的には、係止部11cと地盤との間の第1管体11に支圧治具20の切欠部21を差し入れ、支圧治具20の平面が地盤と平行となるように支圧治具20を設置する。
【0072】
また、
図3に示したように、多段式排水パイプ10の引き込みQ対する抵抗力Rをさらに得るために、第1孔22にアイボルトを固定した後、貫入される多段式排水パイプ10の引き込みQに対して抵抗力Rとなる向きに該アイボルトと架台との間にワイヤ等を張設してもよい。なお、この支圧治具設置工程は、次の押出プレート取替工程の後に行ってもよい。
【0073】
(6)押出プレート取替工程(
図12のS106)
次に、
図17に示すように、押出部材である押出プレートを取り替える。具体的には、ブレーカーでの押圧を中断して、
図17に示す押出プレートの位置まで押出治具1を多段式排水パイプ10から引き抜いて、第1管体11押し出し用の押出プレート5から第2管体12押し出し用の押出プレート5’に交換する。
【0074】
(7)第2管体押出工程(
図12のS107)
次に、
図18に示すように、前工程で押出プレート5’に交換した押出治具1を用いて、多段式排水パイプ10の第2管体12を地盤内に貫入させる。具体的には、カプラー8を用いてロッド2を延長して行き、前工程で取り替えた押出治具1の押出プレート5’で第2管体12を押し出して、第2管体12を、該第2管体12内に挿入された第3管体13ごと地盤奥深くに貫入させる。
【0075】
この第2管体押出工程においては、
図16に示すように、多段式排水パイプ10の第1管体11の後端部11b外周面に係止部11cを設け、第1管体11の後端部11b外周面に形成した係止部11cに支圧治具20を係止している。このため、土砂が管体内に侵入して圧密状態となっても、支圧冶具20と地盤との間に生じる反力により多段式排水パイプ10の地盤内への引き込みQに対する抵抗力Rが増大しているので、多段式排水パイプ10の地盤内への引き込みQを防止することができる。なお、多段式排水パイプ10内に侵入した土砂は、第1管体11に穿設されている排水孔H1や管体先端部の隙間(第1管体11及び第2管体12の先端部における隙間や第2管体12及び第3管体13の先端部における隙間)から排出される。
【0076】
(8)押出プレート撤去工程(
図12のS108)
次に、押出部材である押出プレートを撤去する押出プレート撤去工程を行う。具体的には、押出プレート5’の位置まで押出治具1を多段式排水パイプ10から引き抜いて、緩み止めナット4を緩め、ロッド2の軸と略直交する方向に押出プレート5’を引き抜いて撤去する。
【0077】
押出治具1の押出ナット3は、第3管体13の押し出し用の押出部材を兼用しているので、最後の押出部材の装着の手間を省くことができ、押出治具の取替作業の時間短縮が可能となる。また、押出部材の種類を低減することができ、押出治具1の製作費用も低減することができる。
【0078】
(9)第3管体押出工程(
図12のS109)
次に、
図19に示すように、前工程で押出プレート5’を撤去した押出治具1を用いて、多段式排水パイプ10を地盤内に貫入させる第3管体押出工程を行う。具体的には、カプラー8を用いてロッド2を延長して行き、前工程で押出プレート5’を撤去するとともに、押出ナット3に当接するまで、緩み止めナット4を締め込んで固定する。その後、押出治具1の押出ナット3で第3管体13を押し出して、第3管体13を所定の深さまで地盤内に貫入させる。
【0079】
本工程が終了すれば、設置した架台、支圧治具20及び第1管体11に設けた係止部11c等を撤去して後片付けをすることにより、多段式排水パイプ10の設置作業が終了する。
【0080】
なお、上記説明では、油圧ショベルの先端にコンクリートブレーカを取り付けて、多段式排水パイプ10を地盤内へ貫入する場合を例示して説明したが、重機を搬入できないような狭隘な現場においては、持ちの杭打機等で押出治具1を押圧して多段式排水パイプ10を地盤内に貫入させるようにしてもよい。
【0081】
<実施形態に係る多段式排水パイプの支圧治具及び貫入方法の作用効果>
以上のように、本実施形態に係る多段式排水パイプの支圧治具20は、多段式排水パイプが備える管径の異なる複数の管体11〜23のうち、地盤から露出した管体である管径の大きな第1管体11の後端部11bに設けられる係止部11cに係止され、地盤に当接し、多段式排水パイプ10が地盤内に貫入される方向に発生するパイプの引き込み力に対して、地盤との間に生じる反力により多段式排水パイプ10の土砂内への引き込みQが抑制される。このため、多段式排水パイプ10を地盤内に貫入する際に、この支圧治具20を、地盤から露出した管体である第1管体11の後端部に設けられる係止部11cに係止することで、多段式排水パイプ10を地盤内に貫入する際の地盤内への引き込みQに対する抵抗力Rが増大し、多段式排水パイプ10の地盤内への引き込みQを防止することができる。このため、いわゆる「ゆるい」状態の地盤であっても多段式パイプの地盤内への引き込みQを防止することができる。
【0082】
また、支圧治具20は、係止部11cの幅W3よりも幅の狭い切欠部21を備えているので、この支圧治具20を地盤から露出した管体である第1管体11の後端部11bに設けられる係止部11cと地盤との間に設置することで、多段式排水パイプ10が支圧治具20に確実に係止され、多段式排水パイプ10の地盤内への引き込みQを効果的に防止することができる。
【0083】
また、切欠部21とすることにより支圧治具20を多段式排水パイプ10の軸方向に対して傾けて設置することができる。このため、地盤の傾斜角度に関係なく、支圧治具20の平面を地盤に対して平行にして支圧治具20を設置することができる。結果、支圧治具20と地盤との接触面積が増大し、多段式排水パイプ10の地盤内への引き込みQに対する抵抗力Rが増大し、多段式排水パイプ10の地盤内への引き込みQをより効果的に防止することができる。また、多段式排水パイプ10が左右方向に対して規制されるので、多段式排水パイプ10の貫入時の横ぶれを防止することができる。
【0084】
また、本実施形態に係る多段式排水パイプ10の係止部11cは、地盤から露出した管体である管径の大きな第1管体11の後端部11bに第1管体11とは別部材であるブロック15,16を設けて構成される。このため、既存の多段式排水パイプ10にも適用することができる。
【0085】
また、本実施形態に係る支圧治具20は、支圧治具20が係止部11cにより、多段式排水パイプ10に着脱自在に係止されるため、多段式排水パイプ10の貫入施工時のみ支圧治具20を取り付けて、多段式排水パイプ10の貫入施工が終了すれば支圧治具20を容易に取外すことができる。従って、支圧治具20を使いまわすことができるので、連続して多段式排水パイプ10の貫入施工を行うことができ、多段式排水パイプ10の貫入施工に要する工期を短したり、多段式排水パイプ10の貫入施工や支圧治具20の製造にかかるコストを低く抑えることができる。
【0086】
また、本実施形態に係る多段式排水パイプ10が備える第1管体11〜第3管体13には、各々複数の排水孔H1が形成されている。この場合、該排水孔H1を通じて土砂が管体内に流入しやすいが、支圧治具20を設置することで、多段式排水パイプ10の地盤内への引き込みQに対する抵抗力Rが増大し、多段式排水パイプ10の地盤内への引き込みQを防止することができる。つまり、本実実施形態に係る支圧治具20は、このような排水孔H1が形成された多段式排水パイプ10に好適に使用することができる。
【0087】
また、本実施形態に係る多段式排水パイプ10の支圧治具20は、多段式排水パイプ10の地盤内への引き込みQに対する抵抗力Rを得るための把持機構を有している。この場合、該把持機構にワイヤ等を張設し、多段式排水パイプ10の貫入向きとは反対向きに引っ張ることで支圧治具20による抵抗力Rを増大することができる。このため、地盤のよりゆるい状態での施工においても多段式排水パイプ10の地盤内への引き込みQを防止することができる。
【0088】
また、本実施形態に係る多段式排水パイプ10の支圧治具20の把持機構は、貫通孔である第1孔22を有する。このため、第1孔22にアイボルトを通して支圧治具20の背面でナット(不図示)と螺合させてアイボルトを固定し、該アイボルトにワイヤ等を張設することができる。また、アイボルトを取り外した状態では、突出した部分がないため支圧治具20を場所をとらずに収容できる。
【0089】
また、本実施形態に係る多段式排水パイプ10の貫入方法は、管径の異なる複数の管体を備える多段式排水パイプ10を地盤内に貫入する多段式排水パイプの貫入方法である。そして、管径の大きな第1管体11(1の管体)を、一部が地盤から露出するように地盤内に貫入する工程と、地盤との間に生じる反力により多段式排水パイプ10の地盤内への引き込みが抑制される本実施形態に係る支圧治具20を、地盤内に貫入した第1管体11の後端部11bに設けられる係止部11cに係止して、支圧治具20を地盤に当接する工程と、地盤内に貫入した第1管体11以外の他の管体である第2管体12,第3管体13を地盤内に貫入する工程とを有する。
【0090】
また、多段式排水パイプ10を地盤内に貫入する際には、複数の管体のうち管径の大きな第1管体11内に他の管体(第2管体12,第3管体13)を挿入し、管径の大きな第1管体11の一部が地盤から露出して地盤内に貫入し、支圧治具20を、管径の大きな第1管体11の後端部11bに設けられる係止部11cに係止して、地盤に当接し、地盤から露出した管径の大きな第1管体11内に挿入されている他の第2管体12,第3管体13を地盤内に貫入している。
【0091】
このため、多段式排水パイプ10を地盤内に貫入する際の地盤内への引き込みQに対する抵抗力Rが増大し、多段式排水パイプ10の地盤内への引き込みQを防止することができ、結果、いわゆる「ゆるい」状態の地盤内に貫入する場合でも、多段式排水パイプ10の地盤内への引き込みQを防止することができる。
【0092】
<その他の実施形態>
以上、本発明を、具体例を挙げながら詳細に説明してきたが、本発明は上記内容に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいてあらゆる変形や変更が可能である。
【0093】
例えば、
図20(a)に示す支圧治具40のように、
図1及び
図2を参照して説明した支圧治具20の切欠部21に替えて、筒状のパイプジョイント41が設けられている構成としてもよい。パイプジョイント41は、多段式排水パイプを挿通するための挿通孔42と、多段式排水パイプを支圧治具40に固定するための固定用ボルト43(11c)とを有する。なお、
図20(a)に示す支圧治具40のその他の構成は、
図1及び
図2を参照して説明した支圧治具20と同じであるため、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0094】
支圧治具40の場合、多段式排水パイプを支圧治具40のパイプジョイント41の挿通孔42に挿通した後、固定用ボルト43(11c)により係止することで、多段式排水パイプが支圧治具40に固定される。これにより、支圧治具40と地盤との間に生じる反力により多段式排水パイプの土砂内への引き込みQが抑制され、いわゆる「ゆるい」状態の地盤であっても多段式パイプの地盤内への引き込みQを防止することができる。また、多段式排水パイプが挿通孔42内に挿通されることにより、多段式排水パイプの動きが左右方向のみならず、上下方向に対しても規制されるので多段式排水パイプの貫入時の横ぶれを防止することができる。
【0095】
なお、多段式排水パイプの第1管体の後端部11bに、
図6に示すような、組み合わせると円筒形状となる2つに分割されたブロック15,16(アタッチメント)により係止部11cを設ける場合、係止部11cの幅W3がパイプジョイント41の挿通孔42の内径よりも大きくなるように構成しておけば、固定用ボルト43(11c)による係止が必要なくなる。
【0096】
また、上記実施形態と同様に、支圧治具40は、
図20(b)に示すように、支圧治具40の辺縁部に設けられている第1孔22にボルト(アイボルト)31を固定した後、貫入される多段式排水パイプの引き込みQに対して抵抗力Rが生じる向き(矢印の向き)にワイヤ32等を張設してもよい。なお、
図20(b)に示す矢印の向きは、一例であり、多段式排水パイプの引き込みQに対して抵抗力Rが生じる向きであれば、他の向きでもよい。
【0097】
また、支圧治具20の切欠部21を、板厚方向に貫通する貫通孔としてもよい。この場合、貫通孔の内径を第1管体11の後端部11bに設けられる係止部11cの幅W3よりも小さくすることに留意が必要である。また、貫通孔は、平面視において長孔形状とすることが好ましい。貫通孔を平面視において長孔形状とすることで、支圧治具20を多段式排水パイプ10の軸方向に対して傾けて設置することができ、地盤の傾斜角度に関係なく、支圧治具20の平面を地盤に対して平行にして支圧治具20を設置することができる。
【0098】
さらに、多段式排水パイプ10の係止部11cを第1管体11の後端部11bに一体成形するようにしてもよい。この場合、係止部11c第1管体11の後端部11bに一体成形されているので、現場もしくは事前に係止部11cを第1管体11の後端部11bに設置する作業を必要とせず、係止部11cの取り付け工程を省略することができる。
【0099】
また、第1管体11の後端部11bの排水孔H1に棒状部材を挿通して係止部11cに換えても良い。排水孔H1がスリット状の場合は、棒状部材ではなく板状部材を排水孔H1に挿通してもよい。さらに、棒状部材または板状部材を挿通する貫通孔を第1管体11の後端部11bに新たに設けるようにしてもよい。
【0100】
なお、上記実施形態では、多段式パイプとして、多段式パイプを構成する各管体に排水孔が穿設された多段式排水パイプを例に実施形態を説明したが、本発明の適用は、多段式排水パイプに限られるものではなく、例えば、多段式の杭にも適用可能である。