【実施例1】
【0016】
図1は、本発明の実施例1である面形状計測装置の構成を示している。本実施例の計測装置は、被検物からの反射波面を計測し、その計測データから被検物の面形状を算出する。
【0017】
光源1からの光は、集光レンズ2によって集光されてピンホール3に入射する。ピンホール3から出射した光はハーフミラー9に入射する。ハーフミラー9で反射された光は、光学系(第2の光学系)5を通過することで集光位置6に向かって集光(収斂)する球面波4となって被検物7に照射される。被検物7に照射されて被検物7で反射した光(光線11,12,13)は、再び光学系5を通過することで集光されてハーフミラー9を透過し、光学系(第1の光学系)14により集光されてCCD等を用いて構成されたセンサ8により受光される。センサ8は、受光した光の波面(被検物7からの反射波面)に応じた信号を出力する。
【0018】
計測部(計測手段)26は、パーソナルコンピュータ等により構成され、センサ8からの出力信号を用いてセンサ8が受光した反射波面を形成する光線の角度分布を算出し、該角度分布から被検物7の面形状を算出(計測)する。本実施例では、センサ8をダイナミックレンジが大きいシャックハルトマンセンサとしている。
【0019】
被検物7で反射された光線11,12,13が形成する波面を、センサ8によって計測するための構成について説明する。被検物7は、被検面としての非球面を有する。このため、被検物7に球面波を照射すると、反射光には被検物7が有する非球面成分が付与されるため、大収差を有する波面となる。この大収差波面を構成する光線の一部が光線11,12,13である。光線11,12は互いに交差している。このような波面では、センサ8上において、被検物7で反射した光線同士が重なり合うことがある。
【0020】
被検物7で反射した光線をセンサ8上で重なり合わせずに計測する条件について以下に説明する。まず、
図1に示すように、被検物7で反射した光線は、光学系5、ハーフミラー9および光学系14により構成される計測光学系15を透過してセンサ8に入射する。本実施例では、計測光学系15を、センサ8の受光面を物体面とする結像光学系とする。計測光学系15は、センサ8の共役面(以下、センサ共役面という)10を、被検物上7の異なる2点で反射した光線が互いに交わる位置よりも被検物側に形成する。このような計測光学系15により、被検物7からの反射光の波面(以下、反射波面という)はセンサ共役面10上で光線の重なり合いが生じない波面となる。つまり、計測光学系15によってセンサ8上に結像される波面における光線の重なり合いが生じない。以下の説明において、被検物7(被検面)をセンサ共役面10の近傍に配置するとは、この条件が満たされる位置に被検物7を配置することをいう。
【0021】
大収差波面を計測する際のもう1つの課題は、無収差の波面を計測する際と比較して、計測光学系を通過する光路やセンサへの入射波面が大きく変化することである。この結果、波面が計測光学系でけられる(つまり口径食が生じる)。また、センサに向かう光束の径や光線の角度がセンサの受光可能な許容値を超える。
【0022】
この課題を解決する条件について、
図1に示した光線13を例に挙げて説明する。条件とは、光線13がセンサ共役面10を通過する点において、該光線13の角度が計測光学系15の下側周辺光線16と上側周辺光線17の角度内(像側NA内)入るというものである。大収差波面を計測するには、被検物7からの全ての反射光線についてこの条件が成り立つことが必要である。
【0023】
このため、本実施例では、計測光学系15の射出瞳位置18を、被検物7で反射した全ての光線の角度がセンサ共役面10を通過する点において計測光学系15の上側および下側周辺光線の角度内に入る位置に設定している。言い換えると、計測光学系15の射出瞳位置18を、照明光の集光位置6の近傍に配置している。被検物7からの全ての反射光線がこの条件を満たすことで、被検物7からの反射波面が計測光学系15でけられることはない。
【0024】
被検物7に照射される波面(以下、照射波面という)の曲率は、被検物7の被検面の曲率とほぼ等しく、このため照明光の集光位置6と反射波面の曲率中心とが互いにほぼ一致している。したがって、被検物7からの反射波面が計測光学系15でけられない条件は、計測光学系15の射出瞳位置18を該反射波面の曲率中心の近傍に配置することであると言い換えることができる。
【0025】
また、センサ8に入射する光線の全てを計測するために、計測光学系15の最大物体高をセンサ8(受光面)の大きさ以下としている。したがって、計測光学系15の倍率を、被検物7の計測領域の半径を最大物体高で除して得られる値以下に設定している。
【0026】
さらに、計測光学系15をセンサ側においてテレセントリックな光学系とし、その開口数をセンサ8が計測可能な光線の最大角度の正弦としている。このような構成とすることで、計測光学系15の瞳端を通過する光線が、計測可能な最大角度でセンサ8に入射する。したがって、計測光学系15を通過する光線の全てがセンサ8により計測することができ、センサ8のダイナミックレンジに対応した計測光学系15を実現することができる。
【0027】
以上、大収差波面を計測するための計測光学系15(を含む計測装置)の条件について説明した。次に、パワーの符号が互いに異なる被検面をそれぞれ計測するときの計測光学系15の構成ついて、
図2を用いて説明する。
【0028】
上述したように、被検面からの反射波面を構成する光線がセンサ8上で重なり合わない条件は、センサ共役面10を被検面の近傍に配置することである。また、反射波面が計測光学系15でけられない条件は、計測光学系15の射出瞳位置18を反射波面の曲率中心の近傍に配置することである。したがって、パワーの符号が互いに異なる被検面をそれぞれ計測するためには、センサ共役面10と射出瞳位置18間の距離を大きく変化させる必要がある。
【0029】
図2(a)は、パワーが正である被検面(凸面)19からの反射波面を計測するときの計測光学系15の近軸配置を示す。
図2(b)は、パワーが負である被検面(凹面)20からの反射波面を計測するときの計測光学系15′の近軸配置を示す。以下、センサ8を物体とし、被検面を像面として、光線をセンサ側から逆トレースしながら説明する。
【0030】
図2(a)においては、光学系5のパワー(第2のパワー)をΦ2とし、光学系14のパワーをΦ1としている。また、センサ8から光学系14の主点位置までの距離をd1とし、光学系14と光学系5の主点間の距離である主点間隔をd2としている。さらに、センサ8から計測光学系15の前側主点位置(物体側主点位置)21までの距離をdとしている。一方、
図2(b)においては、光学系5′のパワーをΦ2′とし、光学系14′のパワーをΦ1′とし、センサ8から光学系14′の主点位置までの距離をd1′とし、光学系14′と光学系5′の主点間隔をd2′としている。さらに、センサ8から計測光学系15′の前側主点位置23までの距離をd′としている。
【0031】
図2(a)において、前述したように計測光学系15はセンサ側においてテレセントリックな光学系であるため、センサ側主光線(実線で示す)は光学系14によって曲げられ、光学系14から距離1/Φ1の点で計測光学系15の光軸と交わる。凸面である被検面19を計測するためには、射出瞳位置18を反射波面の曲率中心の近傍に配置する、言い換えれば計測光学系15の主光線と被検面19の法線とをほぼ一致させる必要がある。したがって、主光線に対する光学系5の物体距離d2+1/Φ1が−1/Φ2より小さくなる近軸配置が選択される。この結果、被検面19に対して主光線が収斂して入射し、計測光学系15の主光線と被検面19の法線とをほぼ一致させることができる。
【0032】
計測光学系15の後側主点位置(像側主点位置)22は、センサ側の主光線を平行のまま延長した線と射出瞳位置18を通過する主光線を延長した線とが交わる位置であるため、射出瞳位置18より計測光学系15から離れた位置に存在する。このため、計測光学系15の全系の合成パワー(第1のパワー:以下、全系パワーという)をΦとするとき、センサ側から入射した平行光線は発散光線となって被検面側に出射するため、Φは負となる。
【0033】
また、計測光学系15の前側主点位置21は、像側主点位置22を通過する周辺光線を近軸光線追跡することで算出されたセンサ側の周辺光線を延長した線が光軸と交わる位置である。このため、結像関係を保つために、前側主点位置21をセンサ8よりも計測光学系15から離れた位置に設定する。すなわち、d>0とする。
【0034】
以上説明した凸面である被検面19からの反射波面を計測するために満足すべき近軸量の条件をまとめると以下のようになる。
Φ≦0 (1)
d2+1/Φ1<−1/Φ2 (2)
さらに、計測光学系15の後側主点位置22が射出瞳位置18よりも計測光学系15から離れた位置にあり、前側主点位置21はセンサ8よりも計測光学系15から離れた位置(d>0)という条件を満足する必要がある。
【0035】
一方、
図2(b)においても、計測光学系15′はセンサ側においてテレセントリックな光学系であるため、センサ側主光線(実線で示す)は光学系14′によって曲げられ、光学系14′から距離1/Φ1′の点で計測光学系15′の光軸と交わる。凹面である被検面20を計測するために、計測光学系15′の主光線と被検面20の法線とをほぼ一致させる必要がある。したがって、主光線に対する光学系5′の物体距離d2′+1/Φ1′が−1/Φ2′より大きくなる近軸配置が選択される。この結果、被検面20に対して主光線が発散して入射し、計測光学系15′の主光線と被検面20の法線とをほぼ一致させることができる。
【0036】
計測光学系15′の後側主点位置24は、センサ側の主光線を平行のまま延長した線と射出瞳位置28を通過する主光線を延長した線とが交わる位置であるため、射出瞳位置28より計測光学系15′に近い位置に存在する。このため、計測光学系15′の全系パワー(第1のパワー)をΦ′とするとき、センサ側から入射した平行光線は収斂光線となって被検面側に出射するため、Φ′は正となる。
【0037】
また、計測光学系15′の前側主点位置23は、像側主点位置24を通過する周辺光線を近軸光線追跡することで算出されたセンサ側の周辺光線を延長した線が光軸と交わる位置である。このため、結像関係を保つために、前側主点位置23をセンサ8よりも計測光学系15′に近い位置に設定する。すなわち、d′<0とする。
以上説明した凹面である被検面20からの反射波面を計測するために満足すべき近軸量の条件をまとめると以下のようになる。
Φ′≧0 (3)
d2′+1/Φ1′>−1/Φ2′ (4)
さらに、後側主点位置24は射出瞳位置28よりセンサ8に近い位置、前側主点位置23はセンサ8より被検物7に近い位置(d′<0)という条件を満足する必要がある。
【0038】
さらに、計測光学系15′の後側主点位置24が射出瞳位置28よりも計測光学系15′に近い位置にあり、前側主点位置23はセンサ8よりも計測光学系15′に近い位置(d′<0)という条件を満たす必要がある。
【0039】
そして、上述した凸面と凹面である被検面をそれぞれ計測するための近軸量の条件から以下のことが言える。計測光学系(15,15′)の全系パワー(Φ,Φ′)とセンサ8から計測光学系(15,15′)の前側主点位置(21,23)までの距離(d,d′)との積(dΦ,d′Φ′)は、被検面の曲率によらず常に零より小さい(<0)。このことを言い換えると、センサ8を物体とする場合に、結像光学系である計測光学系15の前側主点位置21がセンサ8を挟んで光学系14とは反対側に位置するときは計測光学系15の全系パワーΦが負である。つまり、被検面側から順に、光学系(第1の光学系)14、センサ8、計測光学系(結像光学系)の前側主点の順に並んでいるとき、計測光学系15の全系のパワーは負である。また、計測光学系15′の前側主点位置23がセンサ8に対して光学系14′側に位置する(光学系14′を挟んでセンサ8とは反対側に位置する)ときは、計測光学系15′の全系のパワーΦ′が正である。つまり、被検面側から順に、計測光学系(結像光学系)の前側主点一23、光学系(第1の光学系)14′、センサ8、の順に並んでいるとき、計測光学系15の全系のパワーは正である。
【0040】
上述したように、パワーが互いに異なる被検面をそれぞれ計測するためには、光学系のパワーや間隔を大きく変える必要がある。この構成を実現可能な簡単な方法は凸面計測用と凹面計測用に別々の計測装置を用意する方法であるが、コストや設置スペースが増加して好ましくないため、1つの計測装置で凸面と凹面の両方の計測が行えることが望ましい。このため、本実施例は、パワーの符号が互いに異なる被検面をそれぞれ計測可能な光学配置を有する1つの計測装置を実現する。以下の説明では、
図2(a),(b)に示した2つの計測光学系15,15′のうち光学系5,5′を照明光学系といい、光学系14,14′を投影光学系という。
【0041】
図2(a),(b)に示した計測光学系15,15′において、これら光学系を構成するレンズを共用したりレンズ間隔を固定したりすることは、レンズの交換や駆動を行う必要をなくせるため、装置構成の簡素化に大きな効果がある。ただし、凹面の被検面を計測するときと凸面の被検面を計測するときとでは、計測光学系の全系パワーΦの符号を反転させる必要があるため、計測光学系を構成する全てのレンズの共用とレンズ間隔の固定は困難である。
【0042】
そこで、本実施例では、計測光学系15,15′のうち照明光学系5,5′を共通のレンズにより構成する。そして、投影光学系と照明光学系の主点間隔d2と、投影光学系(光学系14,14′)のパワーを変化させることで、前述した被検面のパワーの符号が反転した場合の計測光学系の条件を満足する構成とする。このような構成の利点は、レンズ径が大きな照明光学系を共用できるため、凸面計測用と凹面計測用に別々の計測装置を用意する場合に比べて装置コストや設置スペースを減少させられることである。照明光学系のレンズ径が投影光学系より大きくなるのは、計測対象である被検面がセンサ径より大きい径を有し、凸面の被検面を計測する場合は該被検面に収斂光を照射するためである。
【0043】
照明光学系を共通のレンズにより構成する場合の計測光学系15(15′)の構成について説明する。本実施例では、
図1に示すようにピンホール3からの発散光を照明光学系5(5′)を介して被検物7に照射する。凸面と凹面を計測する際に共通の照明光学系を用いる場合には、照明光学系を透過した光は常に収斂光となる。このため、凸面である被検面を照明光学系5からの光の集光位置6よりも計測光学系側(装置側)に配置し、凹面である被検物を照明光学系5′からの光の集光位置(図示せず)よりも計測光学系側とは反対側に配置する。
【0044】
この構成では、凸面の被検面を配置する位置と凹面の被検面を配置する位置が大きく異なる。被検面からの反射波面の収差が大きい場合には、上述したように光線の重なり合いを避けるためにセンサ8と被検面(被検物7)とを共役に関係付ける必要がある。このため、本実施例では、
図1に示すように、センサ8を光軸方向に移動させることが可能な駆動部25を設け、センサ8を移動させることで被検面とセンサ8とを常に共役に関係付ける構成を有する。
【0045】
さらに、
図2(b)に示す凹面の被検面20を
図2(a)に示す凸面の被検面19へと変える、すなわち計測光学系の全系(合成)パワーを小さくするときには、被検面が計測光学系15に近づく。このため、センサ8を計測光学系15から離れる方向に移動させることが望ましい。言い換えれば、凸面の被検面を計測する場合のセンサ8の位置は、凹面の被検面を計測する場合のセンサ8の位置に比べて、計測光学系15から離れる方向に移動した位置であることが望ましい。別の観点から述べると、凸面を計測する場合のセンサ8の位置と光学系(正のパワーを持つ固定光学系)5との間の距離は、凹面を計測する場合のセンサ8の位置と光学系5′との間の距離よりも大きいことが望ましい。
【0046】
次に、照明光学系を共通のレンズで構成した場合の照明光学系(5,5′)と投影光学系(14,14′)との間の主点間隔(d2,d2′)と投影光学系のパワー(Φ1,Φ1′)との関係について説明する。ここでは、照明光学系5,5′のパワーΦ2,Φ2′はΦ2=Φ2′とする。この場合、式(2)と式(4)から以下の式(5)が導かれる。
d2′−d2+1/Φ1′−1/Φ1>0 (5)
式(5)は、照明光学系と投影光学系との間の距離および投影光学系のパワーのうち少なくとも一方を可変とする必要があることを示す。ただし、光学系のパワーや間隔を可変とすると計測光学系の倍率が変わるため、センサ8に結像される被検面からの反射波面の径も凸面と凹面の計測時で変化してしまう。センサ8に入射する波面の径が小さくなると、計測される波面のデータ点数が少なくなり、好ましくない。このため、凸面と凹面の計測時にセンサ8に入射する波面の径があまり変化しないように、言い換えれば凸面と凹面の計測時に計測光学系の倍率が大きく変化しないように投影光学系のパワーや照明光学系と投影光学系との間の間隔を変化させる必要がある。
【0047】
以下では、凸面と凹面の計測時、つまりは計測光学系の全系パワーが正の場合と負の場合とで計測光学系の倍率が互いに近くなる条件について説明する。計測光学系の全系パワーΦと結像倍率βは以下の式(6),(7)で表される。
Φ=Φ1+Φ2−d2×Φ1×Φ2 (6)
β=1/(1+d1×Φ1×d2×Φ2+d1×Φ2+d1×d2×Φ1×Φ2)
(7)
図3(a)は、d1とΦ2をある値に設定して計測光学系の全系パワーΦを変化させたすなわちΦ1を変化させたときの結像倍率βの変化を示している。
図3中の丸点と四角点は、d2の値を互いに異なる値(丸点はd2=a、四角点はd2=b)に設定したときのβを示している。また、
図3(b)は、d1=0とし、Φ2をある値に設定して計測光学系の全系パワーΦを変化させたときの結像倍率βの変化を示している。式(7)からも分かるように、d1=0とすると、計測光学系の全系パワーΦが変化しても結像倍率β(=1/(1+d2×Φ2))は変化しない。
【0048】
また、計測光学系の全系パワーΦを0とすると、結像倍率βは式(7)から、
β=1/(1+d2×Φ2) (8)
で与えられる。つまり、d1=0としたときの結像倍率βと一致する。言い換えれば、計測光学系の全系パワーΦを変化させたときの結像倍率βのグラフの切片は、d1=0のときの結像倍率βと一致する。
【0049】
上述した計測光学系のパワーΦと結像倍率βとの関係を踏まえて、凸面と凹面の計測時に計測光学系の結像倍率βが互いに近くなるためのd1、Φ1およびd2の条件について説明する。
【0050】
まず、d1の条件について説明する。
図3(b)に示すように、d1=0とすれば結像倍率βは凸面と凹面の計測時に変化しない。ただし、メカ的な干渉を考慮すると、d1=0を常に維持することは現実的ではない。このため、d1は0ではない有限な負の値をとることとなる。この場合、
図3(a)に示すように、計測光学系の全系パワーΦが増加するほど結像倍率βが増加する。
【0051】
次に、Φ1の条件について説明する。
図3(a)に示すように、Φ1のみを変化させた場合には、計測光学系の全系パワーΦが増加するほど結像倍率βも増加する。このため、Φ1のみを変化させても、凸面と凹面の計測時における計測光学系の倍率を互いに近づけることができない。
【0052】
次に、d2の条件について説明する。計測光学系の全系パワーΦの増加に伴って結像倍率βが増加する場合に凸面と凹面の計測時に計測光学系の結像倍率βを互いに近づける(Φの符号が反転したときにβの値が互いに近くなる)ためには、
図3(a)に示すようにグラフの切片を変える必要がある。具体的には、凸面の計測時(Φ<0)の切片が、凹面の計測時(Φ>0)の切片よりも大きい必要がある。
【0053】
凸面の計測時における照明光学系のパワーをΦ2とし、照明光学系と投影光学系の主点間隔をd2とする。また、凹面の計測時における照明光学系のパワーをΦ2′とし、照明光学系と投影光学系の主点間隔をd2′とする。このとき、上述した条件は以下の式(9)で表される。
1/(1+Φ2×d2)>1/(1+Φ2′×d2′)
すなわち、
Φ2×d2<Φ2′×d2′ (9)
式(9)より、共通の照明光学系(Φ2=Φ2′)を用いる場合に、凹面の計測時における照明光学系と投影光学系の主点間隔d2を凸面の計測時における照明光学系と投影光学系の主点間隔d2′よりも小さくするように計測光学系を構成すればよい。d2とd2′はともに0より小さい(d2,d2′<0である)ためである。
【0054】
そして、Φ1を変化させて計測光学系の全系パワーΦを変える(凸面計測用から凹面計測用に構成に変えるときはΦ1を小さくする)ことにより、凸面計測時と凹面計測時とで計測光学系の結像倍率βを互いに近づけることができる。
【0055】
次に、パワーが異なる(ただし、符号は反転しない)被検面をそれぞれ計測するときの計測光学系の構成について、
図4(a),(b)を用いて説明する。
図4(a),(b)では、凸面である被検面を計測するときの計測光学系15のみを示し、図中の矢印は光学素子または計測光学系の物点および像点の移動方向を示す。
【0056】
図4(a)は、中心曲率が小さい(パワーが小さい)被検面29を計測するときの計測光学系15の構成を示す。
図4(b)は、中心曲率が大きい(パワーが大きい)被検面30を計測するときの計測光学系15の構成を示す。
図4(a),(b)中の31,32はそれぞれ、被検面29,30からの反射波面の曲率成分を表している。
【0057】
また、
図4(a)と
図4(b)の間では、被検面29,30に照射される波面の曲率と被検面29,30の曲率とが一致する又は互いに近くなるように、被検面29,30および光学系5を光軸方向に移動させている。これに加えて、センサ8を光軸方向に駆動させることで、センサ共役面10も被検面29,30の移動に合わせて変化させることができる。この結果、センサ共役面10を常に被検面29,30の近傍に形成することができ、センサ8上で光線の重なり合いが発生しない。
【0058】
さらに、
図4(a),(b)に示すように、計測光学系15の射出瞳位置18は反射波面の曲率中心33,34の近傍に配置している。このような構成により、センサ共役面10における計測光学系15の主光線の角度と、反射波面の曲率成分の角度とがほぼ一致する。したがって、被検面の曲率成分の値が変化しても、計測光学系15に入射する反射波面の曲率成分の角度は、主光線の角度とほぼ一致する。この結果、反射波面が計測光学系15でけられる(つまりは計測光学系15の像側周辺光線に反射光が入射する)条件は、被検面の曲率成分には依存させず、収差量(非球面量)のみに依存させることが可能となる。言い換えれば、反射波面が無収差である場合にはセンサ8に平行光が入射するため、センサ8のダイナミックレンジの全てを反射波面の収差量の計測に割り当てることができる。
また、本実施例の計測光学系は、光学系14(14’)、光学系5(5’)、センサ8および被検物7の全ての位置関係おいてけられ(口径食)を生じない。
表1には、上述した実施例1の計測光学系の数値例を示す。表1は、凸面と凹面の被検面の計測に対して共通の照明光学系を用いる計測光学系の諸元値(設計値)である。ここでも、計測光学系の物体位置にセンサが配置され、像位置に被検面が配置されているものとする。また、照明光学系の物体位置に点光源が配置される。
表1に示す計測光学系(結像光学系)のセンサ側開口数は0.2であり、物体高は12である。表1の面番号は光学系内を光線が進行する方向(物体側から像面側の奉公)の光学面(レンズ面等)の順序を、rは光学面の曲率半径を、dは光学面間の間隔を示す。また、表1中の各光学面の欄に示した4つの値は、上から順に、凸面の曲率が大きい被検面を計測するとき、凸面の曲率が小さい被検面を計測するとき、凹面の曲率が大きい被検面を計測するときおよび凹面の曲率が小さい被検面を計測するときの諸元値である。nは基準波長632.8nmに対する媒質の屈折率であり、空気の屈折率1.000000は省略している。
また、表1において、面番号3〜13は照明光学系を構成する光学面であり、それら光学面のr,dおよびnは計測光学系と同じである。また、上記4つの被検面に対して共用される照明光学系の諸元値は、該4つの被検面に対して共通である。なお、以下の全ての諸元値におけるr,dおよびその他の寸法の単位は[mm]である。
【0059】
【表1】
【0060】
図5(a)〜(d)には、表1に示した計測光学系の断面を示す。
図5(a),(b)はそれぞれ、凸面の曲率が大きい被検面を計測するときおよび凸面の曲率が小さい被検面を計測するときの断面である。また、
図5(c),(d)はそれぞれ、凹面の曲率が大きい被検面を計測するときおよび凹面の曲率が小さい被検面を計測するときの断面である。
【0061】
表1および
図5(a)〜(d)において、計測光学系の第3面および第4面はハーフミラー9であり、
図1に示した光源1からの発散光を折り返して第5面〜第14面により構成される照明光学系に光を入射させる。照明光学系は、正の屈折力を有するため、光源1からの発散光を収斂光として被検物(被検面)7に照射する。また、計測光学系の物体位置は移動可能であり、凹面である被検面を計測するときは、該物体位置を凸面の被検面を計測するときよりも計測光学系に近づける。この結果、凹面の被検面を計測するときの計測光学系の像面位置は、凸面の被検面を計測するときの像面位置と比べて計測光学系から離れる。
【0062】
計測光学系のうち投影光学系は第1面および第2面により構成され、凸面の被検面を凹面の被検面に変更するときに、正の屈折力を有する投影光学系から負の屈折力を有する投影光学系に交換される。さらに、投影光学系は、凹面の被検面を計測するときの照明光学系と該投影光学系の主点間隔が凸面の被検面を計測するときの該主点間隔に比べて狭くなるように移動される。このような投影光学系の交換と移動によって、式(1)〜式(4)の条件を全て満足することができる。
【0063】
また、投影光学系の交換と移動によって上述した凸面と凹面の計測時に計測光学系の結像倍率が互いに近くなる条件も満足することができる。
図5(a)〜(d)に示した計測光学系では、
図5(a),(c)の計測光学系の結像倍率は1であり、
図5(b),(d)の計測光学系の結像倍率は1.3である。つまり、凸面と凹面の計測時の計測光学系の結像倍率が互いに等しい。
【0064】
さらに、
図5(a)〜(d)に示した計測光学系では、照明光学系の第5面および第6面を構成するレンズを移動させ、第7面〜第14面を構成する複数のレンズを固定する構成を用いている。この構成により、被検面に照射される波面のパワーや計測光学系の射出瞳位置を変えることができ、その結果、符号は互いに同じであるがパワーが互いに異なる被検面を計測することができる。
【0065】
計測光学系と照明光学系を表1および
図5(a)〜(d)に示した構成とすることで、凸面である被検面を計測するときのセンサ共役面(像面)を照明光学系からの光の集光位置よりも計測光学系側に形成することができる。また、凹面である被検面を計測するときのセンサ共役面を照明光学系からの光の集光位置よりも計測光学系から離れた位置に形成することができる。したがって、凸面の被検面には収斂波を、凹面の被検面には発散波の照射を可能にしつつ、被検面とセンサとの結像関係を保つことができる。さらに、被検面のパワーの符号によらずに、計測光学系の射出瞳位置を照明光学系からの光の集光位置の近傍に配置することができ、かつ凸面および凹面の被検面の計測時における計測光学系の結像倍率を互いに近づけることができる。この結果、1つの計測装置で計測光学系の一部を共用して非球面形状を有す凸面と凹面を計測することが可能となり、計測装置の高スループット化や低コスト化を実現することができる。
【0066】
図6のフローチャートは、センサ8により取得した計測データから被検面の面形状を算出する処理の流れを示している。
図1に示した計測部26がコンピュータプログラムに従って本処理を実行する。ステップS101において、計測部26は、シャックハルトマンセンサであるセンサ8を通じて、計測データとして被検面からの反射波面を構成する光線の角度分布のデータを取得(計測)する。
【0067】
ステップS102において、計測部26は、センサ8により取得された光線角度分布データをセンサ共役面での光線位置のデータに変換する。さらに、ステップS103において、計測部26は、光線角度分布データをセンサ共役面での光線角度のデータに変換する。光線位置の変換とは、センサ上での位置(座標)をセンサ共役面上での位置(座標)に変換することである。具体的には、計測部26は、計測光学系の近軸倍率、横収差およびディストーションの情報から得られた倍率でセンサ上の位置を除することで、センサ共役面上での位置座標を計算する。また、光線角度の変換とは、センサ上での光線角度をセンサ共役面上での角度に変換することである。具体的には、計測部26は、センサ8で計測された光線角度に、計測光学系の収差を考慮した角度倍率を乗じることで計算する。そして、センサ共役面から被検面まで光線追跡を行うことで、被検面で反射した波面の光線角度分布を得る。最後に、計測部26は、被検面上の反射光の角度分布と照明光学系から被検面に向かう光線の角度分布とから、被検面の面傾斜を計算し、その結果を積分することで被検面の面形状を算出する。
【0068】
本実施例の計測装置では、面形状が既知である被検物(原器)と形状が未知である被検物とを計測し、それぞれで得られた計測データに対して
図6に示した処理を行う。そして、算出した2つの面形状の差を計算する。これにより、算出された面形状のうち光学系のシステムエラーで発生する成分を除去して、面形状の計測精度を高めることができる。
【0069】
上記数値例では、投影光学系を交換することで投影光学系のパワーを可変とした。しかし、投影光学系を挿抜したり(例えば凸面の計測時には正の屈折力のレンズを挿入し、凹面の計測時にはこれを抜き取る)、投影光学系を構成する複数のレンズのうち一部を移動させたりすることでパワーを可変としてもよい。また、上記数値例では、ハーフミラーと被検面との間の光学系の一部を移動させて、被検面への照射波面のパワーを可変としたが、光学系全体を移動させたり該光学系を交換したりすることで照射波面のパワーを可変としてもよい。