(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
新幹線などの鉄道車両においては、一定期間毎に車両表面の再塗装を行う必要がある。洗浄しただけでは、取れない付着物があるからである。この再塗装の際には、表面のキズや付着物を剥離させ、さらに塗料の接着性を向上させるために「足付け(アラシ)」と呼ばれる研磨工程がおこなわれている。ところで、現在最新型の新幹線は高速運転のために先頭車両に、複雑な3次元形状を有する。
【0003】
このような特殊な3次元形状を有する面の均一なアラシは、従来機械ではできず、作業員による手作業に頼って行われていた。しかし、仮にノーズ部分だけを研磨するとしても、相当な面積の研磨になり、大変な時間がかかっていた。したがって、この研磨を行える(機械)装置の要望があった。
【0004】
このような技術分野においては、例えば、特許文献1がある。これは鋳型の内面に付着した付着物を除去する装置である。ロボットアームの先端にワイヤーブラシ等の掻き取り治具を配置させ、ロボットアームのアーム伸縮手段にトルクセンサ等を配置することで、治具の押圧力を適正範囲に維持しながら、付着物の除去を行う。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1は、鋳型面内の付着物を掻き取る装置であり、新幹線(登録商標)の先頭車両の研磨にも応用できそうに見える。しかし、特許文献1では、掻き取り治具は、鋳型より硬くないことが前提となっている。一方、先頭車両の研磨の場合は、研磨を行うブラシの方が被研磨物よりも固い。したがって、常に押圧力を一定にして研磨しなければ表面にムラができる。
【0007】
さらに、鋳型に比較して鉄道車両の先頭車両の面積は広く、また、ノーズ部分の形状は3次元的に複雑な形状をしている。したがって、3次元的に複雑な形状を有するノーズ部分を常に均一な圧力で研磨する装置が従来なかったという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記の課題に鑑みて想到されたものであり、複雑な3次元曲面を有する新幹線(登録商標)のノーズ部分であっても、常に均一な押圧で研磨できる装置を提供するものである。
【0009】
具体的に本発明に係る鉄道車両の研磨装置は、
フレームと、駆動モータと、前記駆動モータに接続され前記フレームの側面に配置されたプーリと、前記プーリを介したベルト駆動で回転させられる回転ブラシを有する研磨ブラシと、
前記研磨ブラシを先端に配置し、前記研磨ブラシの姿勢を変化させ、移動させることができる6軸多関節ロボット(トレース装置)と、
前記研磨ブラシと前記トレース装置の間に配置された圧力センサと、
前記圧力センサの信号に基づいて前記トレース装置に、前記研磨ブラシ
を3次元曲面を有する
鉄道車両の先頭車両の被研磨面に一定の押圧で押し当て、かつ一定の方向に移動させるように制御
しながら、前記プーリをカバーするプーリカバーを前記先頭車両の先頭側に向け前記被研磨面を研磨させる制御装置を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る鉄道車両の先頭車両の研磨装置は、3次元曲面をトレースできるロボットの先端に圧力センサを介してモータ内蔵の研磨ブラシを装着したので、一定の押圧で研磨ブラシを3次元曲面に沿ってトレースさせることができる。
【0011】
したがって、本発明に係る鉄道車両の先頭車両の研磨装置を用いれば、従来作業員による手作業で行っていた、特異なノーズ形状を持った新幹線(登録商標)の先頭車両の再塗装前の再研磨を、自動で行うことができ、タクトタイムの大幅な短縮につながる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明に係る鉄道車両の先頭車両の研磨装置について説明する。以下の説明は本発明の一実施形態を説明するものであり、本発明は以下の説明に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、以下の実施形態は改変することができる。
【0014】
図1に本発明に係る鉄道車両の先頭車両の研磨装置1の構成を示す。研磨装置1は、トレース装置10と、圧力センサ20と、研磨ブラシ30(
図2参照)と、制御部60を有する。
【0015】
トレース装置10は、研磨ブラシ30をハンドツールとして先端に固定される6軸多関節ロボット11(以後「ロボット11」とも呼ぶ。)が好適に利用される。ロボット11は、ベース部12、下腕部14、上腕部16、手首部18を有する。ベース部12と下腕部14の間には、旋回中心を垂直方向に有し、ベース部12より上方を旋回させるS軸モータ13Sと、旋回中心を水平方向に有し、ベース部12に対して下腕部14を前後に傾斜させるL軸モータ13Lを有する。なお、トレース装置10は、6軸多関節ロボット11に限定されるものではない。
【0016】
下腕部14と上腕部16の間には、旋回中心を水平方向に有し、下腕部14に対して上腕部16を旋回させるU軸モータ15Uと、U軸モータ15Uに対して垂直方向に回転軸を有し、上腕部16を下腕部14に対して回転させるR軸モータ15Rが設けられている。
【0017】
また、上腕部16と手首部18の間には、上腕部16に対して垂直方向に旋回中心を有するB軸モータ17Bと、手首部18に対して平行な回転軸であるT軸モータ17Tが配されている。ロボット11は、これら6つの回転軸モータを有するので、先端の手首部18は、如何なる3次元曲面の表面をもトレースすることができる。なお、ここで3次元曲面とは、平坦な面だけで構成されていない面をいう。以後各モータの回転軸をそれぞれS軸13Sa、L軸13La、U軸15Ua、R軸15Ra、B軸17Ba、T軸17Taとよぶ。
【0018】
手首部18には圧力センサ20を介して研磨ブラシ30が設置されている。研磨ブラシ30は、モータ等を収納するフレーム36と、圧力センサ20が設置されているのと反対の面に、T軸17Taに対して垂直方向の回転軸32aを有する回転ブラシ32を有する。回転ブラシ32は、回転軸32aの周囲に回転軸32aの半径方向に研磨繊維を植毛したもので、回転軸32aを中心に回転すると研磨繊維の先端は略円筒形34を形成する。この略円筒形34の側面が研磨面34sとなる。つまり、ロボット11の先端に研磨面34sを形成することができる。
【0019】
図2に研磨ブラシ30だけを拡大して示す。
図2(a)は研磨ブラシ30の斜視図を表し、
図2(b)は、
図2(a)の矢印Aから見た正面図である。研磨ブラシ30は、フレーム36と、モータ38と、トルクカプラ40と、駆動側プーリ42と、従動側プーリ44と、駆動ベルト46と、回転ブラシ32等で構成されている。
【0020】
フレーム36は、直方体で構成されている。手首部18(
図1参照)と接続される側には、接続フランジを兼ねた圧力センサ20が配置されている。また、圧力センサ20が取り付けられている面と対向する側には、回転ブラシ32が配置されている。以後フレーム36については、圧力センサ20が設置されている面を「上面36u」とし、回転ブラシ32が設置されている面を「下面36d」とする。
【0021】
フレーム36の側壁の一部は開口していてもよい。内部に対して操作調整が行えるためと、全体の重量軽減のためである。下面36dには、回転ブラシ32を枢支する一対のアーム48が配置されている。この一対のアーム48a、アーム48bが回転ブラシ32の回転軸32aを両側から回転可能に挟持する。この状態は回転ブラシ32を枢支していると言ってよい。
【0022】
フレーム36内にはモータ38が固定されている。モータ38の駆動軸38aは、回転ブラシ32の回転軸32aと平行に配置される。モータ38には、トルクカプラ40を介して駆動側プーリ42が接続されている。トルクカプラ40は、モータ38の負荷が一定以上になると、トルクの伝達を切るものである。駆動側プーリ42は、フレーム36の外側に配置されている。
【0023】
駆動側プーリ42が配置されている側のアーム48aには、回転ブラシ32の回転軸32aに直結された従動側プーリ44が配置されている。駆動側プーリ42と従動側プーリ44には、駆動ベルト46が掛止されている。なお、駆動側プーリ42と従動側プーリ44には、駆動ベルト46のテンション調整のためのテンションプーリ43が設けられていてもよい。フレーム36の外側に配置された各プーリはプーリカバー47で覆われている。
【0024】
研磨ブラシ30は、モータ38から遠い位置に駆動側プーリ42および従動側プーリ44を配置することで、T軸17Taに対して左右の重量バランスをとっている。研磨ブラシ30は、上面36u側に設けた圧力センサ20で手首部18に連結している。したがって、T軸17Taに対する左右の重量バランスが異なると、研磨ブラシ30の姿勢によって、圧力センサ20が検出する値が異なっていたり、安定に保持できないといった問題が生じるからである。
【0025】
回転ブラシ32とフレーム36の間には、スカート50が配置される。スカート50は、樹脂製の板材である。スカート50には、回転ブラシ32に対して研磨液や水(以後「研磨液等」と呼ぶ。)を供給するノズル52a、ノズル52b(まとめて呼ぶ場合は「ノズル52」という。)が設けられている。これらのノズル52には、図示しない配管を介してポンプが接続されており、研磨液タンク若しくは水タンクから研磨液や水がノズル52に供給される。
【0026】
図1に戻って、制御部60は、MPU(Micro Procesor Unit)とメモリからなるコンピューターで構成される。制御部60は、ロボット11の各軸モータの駆動部に接続されている。また、圧力センサ20、研磨ブラシ30、ポンプといった機器にも接続されており、これらの駆動を制御する。
【0027】
図3には、研磨装置1が配置された研磨ライン100の平面図を示す。研磨ライン100は、被研磨物である鉄道車両の先頭車両700を搬送する搬送ライン102の両脇にステージ104が設けられている。ステージ104は、研磨装置1のロボット11(
図1参照)が腕を伸ばせば鉄道車両の先頭車両700の屋根に先端の研磨ブラシ30が十分に届く程度の高さに設定されている。
【0028】
ステージ104の縁には、研磨装置1のロボット11が移動するための移動レール104aが設けられている。研磨装置1は、1つのステージ104に複数配置してよい。
【0029】
研磨ライン100には、研磨ライン制御装置110が備えられている。研磨ライン制御装置110は、鉄道車両の先頭車両700の外装面の3次元曲面データを有している。また、搬送ライン102の付近に位置センサ106が備えられており、研磨ライン制御装置110は、位置センサ106および各研磨装置1の制御部60と接続されている。
【0030】
以上の要素から構成される鉄道車両の先頭車両700の研磨装置1の動作について説明する。被研磨物である鉄道車両の先頭車両700は、搬送ライン102で移動され、所定の位置に設置される。研磨ライン制御装置110は、位置センサ106によって、鉄道車両の先頭車両700が所定の位置についたことを検知する。
【0031】
研磨ライン制御装置110は、鉄道車両の先頭車両700の表面の研磨の手順を決め、それぞれの研磨装置1に対して、研磨予定領域の指示を行う。ここで研磨予定領域とは、1台の研磨装置1が担当する領域をいう。各研磨装置1は、研磨ライン制御装置110から研磨予定領域の指示を受ける際に、研磨予定領域の3次元曲面データを受け取る。結果、各研磨装置1は、自分が研磨する被研磨面700sの曲面データを保持することとなる。言い換えると、各研磨装置1の制御部60は自分を中心とした空間において、被研磨面700sがどの位置にあるかを知ることができる。
【0032】
次に、制御部60は、決められた被研磨面700sの研磨予定領域に研磨ブラシ30を移動させる。この時、研磨ブラシ30が研磨予定領域に届く位置まで、移動レール104a上を移動してもよい。
【0033】
図4(a)を参照する。次に研磨ブラシ30を被研磨面700sの法線方向700aから研磨方向に対して0度以上20度以下の角度に設定させ、研磨ブラシ30を回転させる。圧力センサ20は研磨ブラシ30と手首部18の間に配置されている(
図1参照)。したがって、圧力センサ20は、手首部18のT軸17Ta方向の力を検出することとなる。
【0034】
被研磨面700sに対してできるだけT軸17Ta方向に沿って押し当てることで、正確な押圧力を検出することができる。被研磨面700sの法線方向700aと研磨方向に向かったT軸17Taとの角度を当接角θと呼ぶ。当接角θが決まると、被研磨面700sに対する押圧量は、圧力センサ20からの値をFとすると、F*cosθで正確に求めることができる(「*」は乗算を表す)。
【0035】
そして、研磨ブラシ30を被研磨面700sに当接させる前に、圧力センサ20のゼロ設定を行う。ゼロ設定とは、現在の圧力センサ20の出力値をゼロと見なす工程である。圧力センサ20は、圧力を面で受けているので、研磨ブラシ30の姿勢によって、若干ゼロ点が異なる。したがって、研磨する都度圧力センサ20のゼロ設定を行う。
【0036】
図4(b)を参照する。次に被研磨面700sに研磨ブラシ30を押圧が所定の値になるまで当接させ、一定速度で被研磨面700sをトレースする。この際のトレースは、研磨予定領域の3次元曲面データに沿って行われる。
【0037】
また、研磨予定領域をトレースする際には、研磨ブラシ30の押圧が一定になるように、被研磨面700sに対する垂直方向の位置を調整する。すなわち、圧力センサ20の値が所定値以下になれば、被研磨面700sとの間の距離を縮め、圧力センサ20の値が所定値以上になれば、被研磨面700sとの間の距離を離す。
【0038】
研磨のためのトレースは、回転ブラシ32の回転軸32a(
図2参照)の進行方向に平行な方向に直線的に行われる。
図5(a)には、研磨装置1が鉄道車両の先頭車両700のノーズ部に研磨ブラシ30の部分を伸ばし、所定の当接角θで表面に押し付けたのち、車両側方向に直線的な軌跡で研磨を行った様子を示す。
図5(b)は、研磨された領域を示す。これを研磨済み領域と呼ぶ。
【0039】
また、研磨予定領域をトレースする際には、研磨装置1は、研磨ブラシ30のプーリカバー47のある側面を、鉄道車両の先頭車両700の先頭方向に向ける。プーリカバー47のある側面は、フレーム36からプーリカバー47が飛び出ている(
図2(b)参照)ので、万一この部分が鉄道車両の先頭車両700の表面に接触しないようにするためである。
【0040】
また、研磨装置1による研磨では、研磨ブラシ30は被研磨面700sに対して、常に一定の当接角θに設定された。この当接角θは、トレースを行っている最中も一定に保持される。
図4(c)には、この様子を示す。
【0041】
図4(c)は水平部分700fから傾斜部分700gに研磨ブラシ30が進む様子を示したものである。水平部分700fと傾斜部分700gの間には、Rのついた角部700cがある。研磨ブラシ30は、当接角θを角部でも維持するため、曲面上の法線方向700aに対して、研磨ブラシ30の軸(T軸17Ta)を一定の角度に保持しながら研磨が進む。
【0042】
以上のように、本発明に係る研磨装置1は、鉄道車両の先頭車両700の3次元曲面で形成された長いノーズを含め、表面の再塗装前の足付け(アラシ)を自動で行うことができ、作業時間の短縮に寄与する。
【0043】
また、研磨は全被研磨面に対して一定の圧力で研磨ブラシを押し付けて行っているので均一な研磨が可能となる。