(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面に従って本発明のMRI装置の好ましい実施形態について詳説する。なお、本発明の各実施形態を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0012】
最初に、
図1に基づいて、各実施例に係るMRI装置の全体概要の一例を説明する。
図1は、各実施例に係るMRI装置の全体構成の一例を示すブロック図である。このMRI装置は、NMR現象を利用して被検体の断層画像を得るもので、
図1に示すように、MRI装置は静磁場発生系2と、傾斜磁場発生系3と、送信系5と、受信系6と、信号処理系7と、シーケンサ4と、中央処理装置(CPU)8とを備えて構成される。なお、本明細書において、静磁場発生系2、傾斜磁場発生系3、送信系3、受信系6、信号処理系7を制御するシーケンサ4と、信号処理系7と、CPU8とを総称して処理部と呼ぶ場合がある。
【0013】
静磁場発生系2は、垂直磁場方式であれば、被検体1の周りの空間にその体軸と直交する方向に、水平磁場方式であれば、体軸方向に均一な静磁場を発生させるもので、被検体1の周りに永久磁石方式、常電導方式あるいは超電導方式の静磁場発生源が配置されている。
【0014】
傾斜磁場発生系3は、MRI装置の座標系(静止座標系)であるX,Y,Zの3軸方向に傾斜磁場を印加する傾斜磁場コイル9と、それぞれの傾斜磁場コイルを駆動する傾斜磁場電源10とから成り、後述のシ−ケンサ4からの命令に従ってそれぞれのコイルの傾斜磁場電源10を駆動することにより、X,Y,Zの3軸方向に傾斜磁場Gx,Gy,Gzを印加する。撮像時には、スライス面(撮像断面)に直交する方向にスライス方向傾斜磁場パルス(Gs)を印加して被検体1に対するスライス面を設定し、そのスライス面に直交して且つ互いに直交する残りの2つの方向に位相エンコード方向傾斜磁場パルス(Gp)と周波数エンコード方向傾斜磁場パルス(Gf)を印加して、エコー信号にそれぞれの方向の位置情報をエンコードする。
【0015】
シーケンサ4は、高周波磁場パルス(以下、「RFパルス」という)と傾斜磁場パルスをある所定のパルスシーケンスで繰り返し印加する制御手段で、CPU8の制御で動作し、被検体1の断層画像のデータ収集に必要な種々の命令を送信系5、傾斜磁場発生系3、および受信系6に送る。
【0016】
送信系5は、被検体1の生体組織を構成する原子の原子核スピンに核磁気共鳴を起こさせるために、被検体1にRFパルスを照射するもので、高周波発振器11と変調器12と高周波増幅器13と送信側の高周波コイル(送信コイル)14aとから成る。高周波発振器11から出力されたRFパルスをシーケンサ4からの指令によるタイミングで変調器12により振幅変調し、この振幅変調されたRFパルスを高周波増幅器13で増幅した後に被検体1に近接して配置された高周波コイル14aに供給することにより、RFパルスが被検体1に照射される。
【0017】
受信系6は、被検体1の生体組織を構成する原子核スピンの核磁気共鳴により放出されるエコー信号(NMR信号)を検出するもので、受信側の高周波コイル(受信コイル) 14bと信号増幅器15と直交位相検波器16と、A/D変換器17とから成る。送信側の高周波コイル14aから照射された電磁波によって誘起された被検体1の応答のNMR信号が被検体1に近接して配置された高周波コイル14bで検出され、信号増幅器15で増幅された後、シーケンサ4からの指令によるタイミングで直交位相検波器16により直交する二系統の信号に分割され、それぞれがA/D変換器17でディジタル量に変換されて、信号処理系7に送られる。
信号処理系7は、各種データ処理と処理結果の表示及び保存等を行うもので、光ディスク19、磁気ディスク18等の外部記憶装置と、CRT等からなるディスプレイ20とを有する。受信系6からのデータがCPU8に入力されると、CPU8が信号処理、画像再構成等の処理を実行し、その結果である被検体1の断層画像をディスプレイ20に表示すると共に、外部記憶装置の磁気ディスク18等に記録する。
【0018】
操作部25は、MRI装置の各種制御情報や上記信号処理系7で行う処理の制御情報を入力するもので、トラックボール又はマウス23、及び、キーボード24から成る。この操作部25はディスプレイ20に近接して配置され、操作者がディスプレイ20を見ながら操作部25を通してインタラクティブにMRI装置の各種処理を制御する。
【0019】
なお、
図1において、送信側の高周波コイル14aと傾斜磁場コイル9は、被検体1が挿入される静磁場発生系2の静磁場空間内に、垂直磁場方式であれば被検体1に対向して、水平磁場方式であれば被検体1を取り囲むようにして設置されている。また、受信側の高周波コイル14bは、被検体1に対向して、或いは取り囲むように設置されている。
【0020】
現在MRI装置の撮像対象核種は、臨床で普及しているものとしては、被検体の主たる構成物質である水素原子核(プロトン)である。プロトン密度の空間分布や、励起状態の緩和時間の空間分布に関する情報を画像化することで、人体頭部、腹部、四肢等の形態または、機能を2次元もしくは3次元的に撮像する。
【実施例1】
【0021】
次に、実施例1としてBin間で個別に算出した受信ゲインを適用することによりBin辺縁部での信号低下を抑制した後、Bin合成を行う構成のMRI装置の実施例を説明する。すなわち、実施例1は、被検体を収容する空間に均一な静磁場を発生させる静磁場発生系と、静磁場へ重畳して傾斜磁場を発生させる傾斜磁場発生系と、被検体へ照射する高周波磁場を発生する送信系と、被検体から発生するNMR信号を受信する受信系と、各系を制御し、受信系で検出された信号を画像化する処理部とを備え、処理部は、周波数帯域を複数回シフトしてプリスキャン計測して取得した複数のNMR信号各々の最大信号値を算出し、算出した最大信号値を用いて、3次元画像毎の受信ゲインを計算し、計算された受信ゲインを適用して、周波数帯域を複数回シフトしてメインスキャン計測を実施して複数のNMR信号を得る構成のMRI装置の実施例である。
図2に、実施例1のMRI装置の動作例のフローチャートを示す。以下、
図2のフローチャートに基づき実施例1を説明する。
【0022】
(ステップ101)
処理部であるシーケンサ4は、スライス選択傾斜磁場、スライスエンコード傾斜磁場、位相エンコード傾斜磁場、周波数エンコード傾斜磁場を印加せず、照射および受信の周波数帯域を中心周波数から1000Hz間隔で正負にシフトさせ、31回NMR信号を発生させる。以後、このNMR信号をプリスキャンBinと呼ぶ。また、得られた信号値をS(i, ETL, t)とし、iはBin番号であり範囲が-15 < i < 15、ETLはエコートレイン数(echo train length : ETL)、tは受信時間を表す。受信系6は全てのNMR信号を受信し信号処理系7に送信する。
【0023】
図3にプリスキャンBin時に印加されるパルスシーケンスと受信信号値の強度を示す。同図の(a)はRFパルスを、同図の(b)はエコー(Echo)信号、同図の(c)は受信信号強度を示す。同図において、180°パルスを番号(#)1〜4で示しているが、これは必要とする ETL により、適宜増減することができる。
【0024】
図4にこのプリスキャン計測によって取得されるBin数とETLのデータ空間上の信号強度の相関を示した。横軸は、-15〜15のBin数、縦軸はETLであり、同図右側のカラーバーに従い、Bin数とETLのデータ空間に信号強度を表示した。
【0025】
この時プリスキャンBinの信号は一般的に以下の特性を持つ。金属が発生する磁場の乱れは金属からの距離が近いほど大きく、遠いほど小さくなる。静磁場強度1.5TのMRIでは金属の最近傍にて10000Hz程度である。中心周波数に近い-2000Hzから2000HzのBinでは、金属から離れて磁場の乱れをほとんど受けていないスピンからの信号であり、撮像部位に対して金属の占める割合が小さい場合、他のBinと比べて強い信号強度となる。また、反対に-10000Hzまたは10000Hzに近いBinでは金属近傍の狭い領域にあるスピンからの信号であり、他のBinと比べて弱い信号強度となる。
【0026】
(ステップ102)
処理部である信号処理系7は、ステップ101で得られた信号値S(i, ETL, t)である
図3の(c)の受信信号強度をt方向に見ることで、最大信号値A(i)を算出する。
図5にA(i)の模式図を示す。同図において、横軸はプリスキャン計測のBin数(-15〜15)である。本実施例の構成においては、
図5に示すように、各Binに対して最大信号値A(i)は一個となる。すなわち、各BinのNMR信号各々は、複数のETLから構成されているが、これら複数のETLに対応する信号の最大信号値A(i)を算出する。
【0027】
(ステップ103)
信号処理系7は、ステップ102で算出した最大信号値A(i)を用いて、式1より各Binの受信ゲインを算出する。すなわち、受信系が受信する複数のNMR信号各々は、複数のETLを有しているが、処理部はNMR信号各々に対して最大信号値A(i)を算出し受信ゲインを計算する。
【0028】
【数1】
【0029】
ここで、RxGain(i): i番目のBinへ設定する受信ゲイン、DefaultRxGain: 計測時受信ゲイン、TargetSignalValue: 目標信号値を表す。
【0030】
図6に式1に示した受信ゲインRxGain(i)の一例を模式的に示す。同図において横軸は、プリスキャン計測のBin数である。信号処理系7は求めた最大信号値A(i)、受信ゲインRxGain(i)を処理部であるCPU8に送り、プリスキャン計測を終了する。次に、CPU8は適宜記憶部に記憶し、続いてシーケンサ4を起動することにより、画像を取得するためのメインスキャン計測が実施される。
【0031】
(ステップ104)
ここでは、照射および受信の周波数帯域を複数回シフトしてメインスキャン計測および再構成信号補正を行う。シーケンサ4は、31個のBinごとに式1で計算した受信ゲインを適用し、照射および受信の周波数帯域を複数回シフトしてメインスキャン計測を実施し、31個のメインスキャンBinの信号を得る。メインスキャン計測において、シーケンサ4はスライス選択傾斜磁場を印加しない。また、上述の処理で受信系7が取得した信号の受信ゲイン値がBinごとに異なるため、受信系6がNMR信号を信号処理系7へ送信した後、信号処理系7による複数のNMR信号を使った再構成処理時に、式2よりNMR信号のゲインレベルを補正する。
【0032】
【数2】
【0033】
(ステップ105)
最後に信号処理系7は、式2でゲインレベルが補正された値に基づき取得した全てのBin画像を二乗和合成し、ディスプレイ20に合成されたBin画像が出力され、本実施例の装置による撮像を完了する。
【0034】
以上説明したように、本実施例のMRI装置においては、NMR信号である複数のBin間で個別に受信ゲインを適用する可変受信ゲインとすることにより、Bin辺縁部での信号低下を個別に抑制した後にBin合成を行うことで、金属アーチファクト低減計測時のS/Nを向上することができる。
【実施例2】
【0035】
次に、実施例2の構成を
図7のフローチャートに基づき説明する。本実施例は、NMR信号である複数のBin間で個別に受信ゲインを適用する、すなわちNMR信号であるBin毎に異なる受信ゲインを適用する実施例1の構成に加え、各Binの複数のETLに対しても個別に受信ゲインを可変する実施例である。すなわち、本実施例においては、NMR信号であるBin各々は、複数のETLから構成されているが、これら複数のETL各々に対応する信号の最大信号値A(i, ETL)を算出して、受信ゲインを計算する。
【0036】
(ステップ201)
ステップ101と同様に、シーケンサ4は、スライス選択傾斜磁場、スライスエンコード傾斜磁場、位相エンコード傾斜磁場、周波数エンコード傾斜磁場を印加せず、照射および受信周波数帯域を中心周波数から1000Hz間隔で正負にシフトさせ、31個のプリスキャンBinの信号値S(i, ETL, t)を得る。これら31個のBin各々には、
図3に示したように複数のETLが含まれている。
【0037】
(ステップ202)
信号処理系7は、ステップ201で得られた信号値S(i, ETL, t)をt方向に見ることで、ETLの最大信号値A(i, ETL)を算出する。このように、本実施例においては、ETLの最大信号値は、各Binの複数のETL各々に対して一個となる。
図8に最大信号値A(i, ETL)の一例を模式的に示す。同図において、奥行き方向に示した複数のETLの個数分の信号値A(i, ETL)各々において、横軸にプリスキャン計測のBin数が示されている。
【0038】
(ステップ203)
信号処理系7は、ステップ202で算出した最大信号値A(i, ETL)を用いて、式3より各Bin及び各ETLの受信ゲインを算出する。すなわち、本実施例においては、処理部は、受信系が受信する複数のNMR信号各々の複数のETL各々に対して最大信号値を算出し、受信ゲインを計算する。
【0039】
【数3】
【0040】
RxGain(i, ETL): i番目のBinのETL番目へ設定する受信ゲイン、DefaultRxGain: 計測時受信ゲイン、TargetSignalValue: 目標信号値を表す。
【0041】
また、
図9にRxGain(i)の一例を模式的に示す。同図において、ETLの個数分の計測時受信ゲインRxGain(i, ETL)各々において、横軸はプリスキャン計測のBin数である。信号処理系7は求めたA(i, ETL)、RxGain(i, ETL)を実施例1と同様にCPU8に返し、プリスキャン計測を終了する。次に、CPU8の制御によってシーケンサ4が起動され、3次元画像を取得するためのメインスキャン計測が実施される。
【0042】
(ステップ204)
シーケンサ4は、BinおよびETLごとに適用された受信ゲインを用いてメインスキャン計測を実施する。メインスキャン計測において、シーケンサ4はスライス選択傾斜磁場を印加しない。また、本実施例においては、受信系6が取得した信号の受信ゲインがBinおよびETLごとに異なるため、受信系6が受信したNMR信号を信号処理系7へ送信した後、信号処理系7における再構成処理時に、式4によりNMR信号のゲインレベルが補正される。
【0043】
【数4】
【0044】
(ステップ205)
実施例1同様、信号処理系7は取得したすべてのBin画像を二乗和合成し、ディスプレイ20に画像が出力され、撮像を完了する。
【0045】
本実施例により、金属アーチファクトの低減効果を得つつ、ETL毎に受信ゲインを調整しているので、更にS/Nを向上することができる。なお、上述の実施例1、2の説明においては、各Binに対して全て異なる受信ゲインを個別に設定することを想定しているが、複数のBin毎に纏めて受信ゲインを分類し、段階的に受信ゲインを適用しても良い。
【0046】
図10に、実施例2の構成に対して段階的に受信ゲインを適用した場合の受信ゲインRxGain(i, ETL)の一例を模式的に示した。本変形例の場合、段階的に受信ゲインを適用することで、受信ゲインの調整時間、スキャン時間の短縮に寄与することができる。なお、
図10は実施例2に対して、段階的に受信ゲインを適用する場合を示したが、実施例1においても、段階的に受信ゲインを適用することにより、スキャン時間の短縮を図ることができる。いずれにしても、処理部はメインスキャン計測で得られた複数のNMR信号に対して、受信ゲインを個別或いは段階的に適用することにより、金属アーチファクト低減計測時のS/Nを向上することが可能となる。
【実施例3】
【0047】
続いて実施例3として、1回の励起パルスで複数のコントラスト画像を取得できるマルチエコーシーケンスに適用した構成の実施例を説明する。すなわち、実施例3は、処理部が、プリスキャン計測、及びメインスキャン計測をマルチエコーシーケンスで実行するMRI装置の実施例である。
【0048】
図11にマルチエコーシーケンスのパルスシーケンスと受信信号値の強度を示す。
図3同様、同図の(a)はマルチエコーシーケンスの場合のRFパルスを、同図の(b)はそのエコー(Echo)信号、同図の(c)はその受信信号の信号強度を示す。すなわち、マルチエコーシーケンスに適用することにより、TE1(15msec)中の番号(#)1、2のRFパルスで得られるエコー信号を使ってPD強調画像を得、またTE2(15〜80msec)内の番号(#)1、2、3、4のRFパルスで得られるエコー信号を使ってT2強調画像を得る場合に、実施例1、実施例2同様、Bin間で個別に受信ゲインを適用する可変受信ゲイン構成とする。ここで、180°パルスとして番号(#)1〜4の4個を示しているが、必要に応じて適宜増減することができる。これにより、マルチエコーシーケンスにおいて、各Bin辺縁部での信号低下を抑制した後にBin合成を行うことで、金属アーチファクト低減計測時のS/Nを向上することができる。実施例2の構成に対して、上述したマルチエコーシーケンスを適用しても良い。
【0049】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明のより良い理解のために詳細に説明したのであり、必ずしも説明の全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることが可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0050】
更に、上述した各構成、機能、処理部等は、それらの一部又は全部を実現するプログラムを作成する例を説明したが、それらの一部又は全部を例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現しても良いことは言うまでもない。すなわち、処理部の全部または一部の機能は、プログラムに代え、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)などの集積回路などにより実現してもよい。