(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0025】
高い空間分解能(例えば、10ミクロン以下)で、ワンショットの計測による定量的な位相シフト像を取得するため、本実施例では以下の手順を有する。
(1)試料を光路から待避した状態で、位相シフト量がそれぞれ異なるn枚(n≧3)の干渉像を取得し、X線の位相と干渉像の画素値との関係を求める。
(2)試料を光路上に設置し、1枚の干渉像を得る。
(3)1枚の干渉像から各画素における位相シフトを算出することにより、定量的な位相シフトの空間分布像(位相マップ)を得る。
【0026】
図1及び
図2を用いて、上述の手順を模式的に説明する。
図1及び
図2において、横軸に位相を、縦軸に干渉X線強度をとっている。手順(1)において、例えば、縞走査法により位相シフト量を変えながら複数の干渉像を取得し、ある一画素における干渉X線強度が101a〜101fであったとする。これらにより当該干渉計において、試料が光路上にない場合、波形100のような干渉X線強度を示すことが推定できる。すなわち、当該干渉計から出力される干渉X線の強度は、2つのX線間の位相差を変数とし、位相シフト102、オフセット103、振幅104をもつサインカーブ100となる。なお、X線が試料を透過する際、位相シフトと吸収とが生じるが、波形100のオフセット103及び振幅104が吸収にかかわるパラメータである。位相シフト102、オフセット103、振幅104の3つのパラメータを推定する必要があるため、試料を光路から待避した状態で取得する干渉像は3枚以上とするが、精度を高めるためには走査する測定点は多い方が望ましく、例えばn≧10とする。
【0027】
次に手順(2)において試料を光路上に設置して干渉像を得ることで、当該画素における干渉X線強度I
iが求まる。
【0028】
手順(3)において、試料を光路上に設置したことにより、試料を透過したX線には所定の位相シフトと吸収が生じる。後述するように、試料に関してある程度の情報があれば、試料が光路上にない場合の干渉X線強度の波形100’を推定できる(
図2)。波形100’は、光路上に試料が設置されることに起因して、波形100とは異なる位相シフト102’、オフセット103’、振幅104’を有する。
【0029】
この干渉X線強度I
iと波形100’とに基づき、試料を光路上に設置した場合の干渉X線強度I
iの位相P
iが求められ、試料を光路上に設置していない場合の位相シフトP
oを基準にとることにより、画素ごとに試料を光路上に設置したことによる位相シフトの変化105(=P
i−P
o)を求めることができる。
【0030】
以下、本実施例における位相シフトの算出方法につき、詳細に説明する。X線は波長の短い電磁波であり、可視光と同様に物質(試料)との相互作用を複素屈折率で表すことができる。硬X線領域における屈折率の実部は負の値をとるために、一般に複素屈折率nは(数8)で表される。
【0032】
ここで、屈折率nの実部δ及び虚部βはそれぞれ(数9)、(数10)により表される。
【0035】
なお、λはX線の波長、r
eは古典電子半径、m
jは単位体積中に含まれるj種原子の数、Zは試料を構成する元素の原子番号、f’とf”は原子散乱因子の異常分散項(実部及び虚部)である。
【0036】
さらに、m
jは、j種原子の原子数比x
j、アボガドロ数N
A、電子密度ρ、j種原子の原子量M
jを用いて、(数11)で表される。
【0038】
単一元素の場合は、原子量をMとしたとき、(数12)で表される。
【0040】
以上より硬X線領域において複素屈折率nの実部δ及び虚部βは電子密度ρに比例した量であることがわかる。さらに、(数9)と(数10)から虚部βは実部δを用いて(数13)で表すことができる。
【0042】
物質(試料)の元素の種類(原子番号)が既知であれば、Z、f’及びf”の値は計算で求めることができる。したがって、物質(試料)の元素の種類(原子番号)が既知であれば、実部δ或いは虚部βのいずれか一方が分かれば、他方が算出可能であることがわかる。
【0043】
ところで、X線が試料を透過する際の吸収によって生じる強度の変化(I/I
0)は、線吸収係数μ、試料の厚さtを用いて、(数14)により与えられる。
【0045】
線吸収係数μと屈折率の虚部βには、(数15)の関係がある。
【0047】
これにより、屈折率の虚部βを用いた吸収によって生じる強度の変化(I/I
0)は、(数16)で表されることになる。
【0049】
さらに(数13)により、屈折率の実部δを用いた吸収によって生じる強度の変化(I/I
0)は、(数17)で表される。
【0051】
一方、試料によって生じる位相シフトdpは屈折率の実部δを用いて、(数18)で与えられる。
【0053】
したがって、最終的には、強度の変化(I/I
0)と位相シフトdpとの間には(数19)の関係があることが分かる。
【0055】
以上の関係性に基づいて定量的に位相シフトを検出する方法について、まずは
図3に示すボンゼ・ハート型と呼ばれる一般的な結晶X線干渉計を用いた撮像法(X線干渉法)を対象に説明する。
【0056】
干渉計200は3枚の薄い歯を搭載した結晶ブロックで構成されており、光学的な構成は可視光におけるマッハ・ツェンダー型と同一である。すなわち、干渉計200に入射したX線は1枚目の歯201(スプリッター)においてラウエケースのX線回折によって2本の干渉ビームに分割される。試料204を透過させる側の干渉ビーム205を物体波、他方の干渉ビーム206を参照波という。2本の干渉ビームは2枚目の歯202(ミラー)でそれぞれ同様のX線回折により反射され、干渉ビーム205はサンプル204を透過し、干渉ビーム206はそのまま、3枚目の歯203(アナライザー)で結合されて2本の干渉X線ビームを形成する。干渉計内のビームパス(物体波205)に試料204を設置することにより、試料204によって生じた位相シフトが波の重ね合わせにより、干渉ビームの強度変化となって現れる。先述した(数19)の関係より、強度変化から位相シフトを検出することができる。
【0057】
試料が光路上にないときの物体波のX線強度をI
1、参照波の強度をI
2、物体波と参照波の位相差をpとしたとき、アナライザー203から出力される干渉X線の強度I
iは、
【0059】
で与えられる。ここで、γは干渉ビームの複素コヒーレンス度(complex degree of coherence)である。また、(数4)と(数5)との関係では、
【0063】
これに対して、試料を物体波の光路上に設置し、試料を透過したX線の強度がI
1からI
1’に、位相がdpだけ変化した場合、物体波のX線強度I
1’は、(数23)で表される。
【0066】
したがって、干渉X線の強度I
i’は(数24)で表される。
【0067】
図4はX線のエネルギー17.8、35、50keVにおけるf”/(Z+f’)を各元素について理論的に計算した結果である。このグラフから試料を構成する元素の原子番号Zが10以下の軽元素で主に構成されている場合、その比は1/500と非常に小さくなり、その影響をほぼ無視することができる。この場合、(数24)は(数25)に示されるように単純化される。
【0069】
さらに、試料がない状態で得られた背景データから、(数21)および(数2
2)を用いて試料が光路上にないときの物体波のX線強度をI
1、参照波の強度をI
2、物体波と参
照波の
位相差p及び干渉ビームの複素コヒーレンス度γは求められている。
【0071】
したがって、(数26)から、試料を物体波の光路上に設置することで変化する位相シフト量dpを解析的に求めることができる。
【0072】
一方、試料が原子番号20以上となる金属などで構成されている場合は、f”/(Z+f’)が1/10程度になり、この項の影響を無視できなくなる。但し、原子番号が2〜3程度変化しただけでは、その変化に起因するf”/(Z+f’)の変化は20%にも満たない。このため、試料の元素に関するある程度の情報(主成分がシリコンであるとか、金属であるとかなど)がわかっていれば、f”/(Z+f’)を予想して定数と見なすことができる。このため、計測した干渉X線の強度I
i’から(数24)を満たす位相シフト量dpを回帰的な数値計算により求めることができる。
【0073】
次に、
図5に示す2枚の回折格子(位相格子403と吸収格子404)によって構成されるタルボ干渉計を用いた撮像法(タルボ干渉法)を対象に説明する。タルボ干渉法では、位相格子403を透過したX線は格子の間隔とX線の波長とによって一意に決まる距離(タルボ距離)に、位相格子と同じ像(自己像)を形成する。この位置に位相格子とほぼ同じ間隔を有した吸収格子404(吸収格子はX線を完全遮蔽する)を設置すると、自己像と吸収格子のごく僅かな周期の違いによって干渉モアレ縞(タルボ干渉像)が形成される。形成されたタルボ干渉像はX線画像検出器405によって撮像される。光路(X線源401と位相格子403との間)に試料402を設置すると、電子密度ρの空間微分量に応じてX線が屈折され、さらにその角度に対応して干渉モアレ縞がdPだけシフトすることになる。このため、干渉モアレ縞のシフト量dPから位相の空間微分量dp/dxを検出することができる。また、この方法を用いれば、同時に試料による吸収absや散乱ampも求めることが出来る。
【0074】
タルボ干渉法では前出のX線干渉法と異なり、上述のように干渉モアレ縞のシフト量dPがX線の位相シフトp(電子密度ρ)ではなく、位相シフトの空間微分(電子密度ρの空間微分)に比例していることである。なお、X線干渉法と同様に、f”/(Z+f’)が十分に小さい軽元素の場合は吸収の項を無視して一意に位相シフトの空間微分を求め、積分することによって位相マップを取得することができる。一方、無視できない場合は
図6に示す繰り返し計算によって求めることができる。なお、この方法を用いれば、同時に試料による吸収(abs)や散乱(amp)も求めることが出来る。
図6の計算方法について説明する。
【0075】
まず、試料による吸収を無視して、(数26)により試料による位相シフトの空間微分(dp/dx)を求める(S501)。S501で求めた微分量を積分して、X線の位相シフト量dp
0を求める(S502)。さらに、試料の元素に関する情報からf”/(Z+f’)を推定し、さらにS502で求めた位相シフト量dp
0から、(数19)に基づいてX線が試料を透過する際の吸収によって生じる強度の変化ΔIを計算する。
【0076】
S503で求めた吸収によって生じる強度変化ΔIとS502で求めた位相シフト量dpを再度微分した量(dp/dx)から干渉モアレ縞の強度変化ΔI
iC’を計算する(S504)。
【0077】
S504で計算した干渉モアレ縞の強度変化ΔI
iC’と測定された干渉モアレ縞の強度変化ΔI
iM’との差deを計算する(S505)。この差deは、試料による位相シフトを計算する際に、吸収を無視、すなわち試料による吸収がないものとして計算したことに起因する。そこで、位相シフト量dp
0を変化させ、計算値ΔI
iC’と測定値ΔI
iM’との差があらかじめ定めた設定値以下に収束するまで、S503,S504の計算を繰り返し実施する(S506,S507)。例えば、次ループの位相シフトdp
nは、差deの大きさに応じた量とし、dp
n=dp
n−1+αdeとしている。ここで、αは繰り返しにおける定数である。差deが設定値以下になったところで終了する(S508)。
【0078】
以上は試料の透過像を取得する方法であったが、試料の状態変化、例えば加熱に伴う温度変化、形状の変化、及び不良の検査等を測定する場合は、試料を設置しない状態で取得する背景画像の代わりに、光路上に試料を設置して状態が変化する前の初期状態、或いは正常品の画像を背景画像として用いることができる。この場合、極微少な位相シフト、即ち密度のごく僅かな変化も捉えることが可能で、上述したように密度の変化から温度変化などの可視化や、微妙な不良及び微小なクラックなどの検出なども可能になる。以下の実施例では、試料についての物理量として試料によるX線の位相シフトを求める例を中心に説明するが、位相シフトが分かれば、試料によるX線の吸収や試料の電子密度が算出可能であるのは上述の通りである。
【0079】
さらに、外部のレーザー照射による加熱と同期して繰り返して撮像を行うポンプ&プローブ法も適用可能で、この場合はナノ秒以下の時間分解能で熱の伝播などが位相シフトから検出可能になる。
【0080】
以上、取得した1枚の干渉像の各画素における強度I
i’(x,y)から、空間分解能の低下を招くことなく、試料による位相シフトを定量的に求めることができること、および一枚の干渉像から定量的な位相マップ(位相シフトの空間分布像)を求める算出方法について説明した。
【0081】
以下、図面を用いて実施例につき詳細に説明する。以下に示す図において、同じ機能を有する部分には同じ符号を付し、重複する説明は省略するものとする。
【実施例1】
【0082】
図7は実施例1のX線撮像装置の一例の構成図である。同図に示すようにX線撮像装置は、X線源1、X線干渉計2、X線干渉計用位置調整機構3、試料ホルダー4、試料位置決め機構5、位相シフタ6、位相シフタ位置決め機構7、X線画像検出器8、制御装置9、処理部10、表示装置11から構成される。
【0083】
ここではX線干渉計2として
図3に示したボンゼ・ハート型干渉計を用いている。この干渉計において、入射したX線12はスプリッター13、ミラー14、アナライザー15でX線回折により順次分割・反射・結合され、第1干渉ビーム16a及び第2干渉ビーム16bを形成する。分割された一方のビームの光路に試料位置決め機構5により位置決めされた試料ホルダー4を用いて試料17を設置すると、試料によってビームの強度と位相が変化する。この結果、他方のビームとの重ね合わせ(干渉)により干渉ビーム16a及び16bの強度(空間的には縞模様)が変化する。したがって、この変化から試料17による位相シフトを求めることができる。
【0084】
位相マップ(試料によって生じた位相シフトの空間分布像)の計測は、以下のようにして行う。
(1)試料ホルダー4で固定された試料17を試料位置決め機構5により光路から待避させる。
(2)試料を光路から待避した状態で、位相シフタ6を用いた縞走査法によりX線の位相と干渉像の画素値との関係を求める。
(3)試料位置決め機構5により試料17を光路に設置する。
(4)1枚の干渉像を撮像する。
【0085】
取得した干渉像から、上述したように、試料が軽元素で構成されている場合は(数26)に基づいて、金属の場合は(数24)に基づいて、干渉像の画素毎に計算を処理部10で行い、位相マップ等の物理量を算出する。その結果を表示装置11で表示する。ここで、手順(2)において、試料を光路から待避した状態での位相と吸収を正確に計測しておくことは極めて重要であるので、走査数が10以上の縞走査法を用いる。
【0086】
試料17の光路への挿入・待避を行う試料位置決め機構5は電動モータ駆動によりリモートで制御できるようにすれば、操作者の被曝なく連続的に上記手順を効率よく実施することができる。試料ホルダー4はX線の吸収を避けるためにアクリルなど軽元素で構成された材料を用いる。さらにホルダーの形状による影響を避けるために箱形状とし、更に試料はほぼ同じ密度(有機材料や生体軟部試料であれば水、ホルマリンなど)の液体中に浸けた状態で計測できるようにすれば試料の形状による影響を低減することができ、内部をより詳細に観察することができる。
【0087】
X線源1として、一般的な管球或いはロータリー型のものを用いてもよいし、シンクロトロン放射光を用いてもよい。前者の場合は、管に印加する電圧を調整することによって、X線エネルギーを最適化し、干渉縞の鮮明度が最大にすることができる。後者の場合、非常に強いX線を利用することができ、測定時間を大幅に短縮することができる。
【0088】
X線干渉計2の各結晶板(スプリッター13、ミラー14、及びアナライザー15)におけるX線回折は、非常に狭い角度幅でしか生じない。このため、X線干渉計用位置調整機構3の回転機構には、タンジェンシャルバーなどを採用した位置決め精度の高く、且つドリフトの少ない高精度の回転ステージを用いる。また、入射X線の強度が強い場合、結晶板を水冷することによって、干渉を安定化することできる。また、
図7の構成では各結晶板が1個の結晶ブロック上に形成された一体型X線干渉計を用いているが、
図8に示す複数個の結晶ブロックから形成された結晶分離型干渉計を利用することができる。
【0089】
結晶分離型干渉計は、
図8に示されるように、スプリッター13’、ミラー14a’として機能する2枚の歯をもつ第1の結晶ブロック2aとミラー14b’、アナライザー15’として機能する2枚の歯をもつ第2の結晶ブロック2bを有する。スプリッター13’で分割された2本の干渉ビームはそれぞれミラー14a’,14b’で反射され、アナライザー15’で結合される。図示していないが、第2の結晶ブロック2bは位置決めステージに搭載されている。位置決めステージはz軸、y軸を中心に回転可能である。この場合は、
図7に示した一体型に比べて観察視野を2倍以上に広く確保可能で、更に試料周辺の熱の影響を受け難いために、加熱や圧力など環境を変化させた様々な計測に対応することができる。ただし、分離した結晶ブロック間の角度をnrad以下の精度で安定化する必要があるので、高精度かつ高剛性の位置決めステージの利用が不可欠である。
【0090】
本装置の空間分解能はX線画像検出器8の空間分解能に主に依存する。このため、計測に応じた空間分解能を有したX線画像検出器を用いる。例えば、100ミクロンを超える空間分解能で十分な場合はX線イメージインテンシファイアを用いて、100ミクロン以下の場合はファイバーカップリング型のX線カメラなどを用いればよい。後者のカメラは蛍光体、オプティカルファイバー、及び可視光用CCDから構成されており、入射したX線は蛍光体によって可視光に変換された後にファイバーを経てCCDカメラ上に結像するようになっている。ファイバーと蛍光体との距離が近い、或いはファイバー上に蛍光体が塗布されているために、ファイバーの開口が大きく、非常に明るい(光の利用効率が高い)ことが大きな特徴である。このため、従来のレンズカップリング型に比べて短時間で測定を行うことができる。また、CCDカメラの画素サイズ(〜10ミクロン)程度の空間分解能を実現することができる。
【0091】
以上、実施例1によれば、1枚の干渉像から空間分解能の劣化を抑えて定量的な位相マップを求めることができる。このため、試料の経時的な観察を高感度に実施することができる。
【実施例2】
【0092】
1枚の干渉像の取得には少なくとも10msオーダーの露光時間は必要であり、時間分解能の向上の制約になっている。例えば、試料に熱や力などの外部刺激を与えた場合に生じる変化を観察する場合には、より高い時間分解能が求められる場合がある。そこで、実施例2では、ポンプ&プローブ法を用いることにより、時間分解能をマイクロ秒以下に向上する。
【0093】
図9は本実施例で利用する撮像装置の構成例を示した模式図である。試料17をレーザーによる加熱を与えたことによる変化を観察することを目的としている。そのため、
図7の構成に加えて、X線シャッター18と加熱用パルスレーザー19が新たに加わっている。干渉計2の動作は実施例1と同じであるが、像の取得は以下の手順により行う。
(1)試料ホルダー4で固定された試料17を試料位置決め機構5により光路に設置する。
(2)X線シャッター18を開く。
(3)位相シフタ6を用いた縞走査法によりX線の位相と干渉像の画素値との関係を求める。
(4)X線シャッター18を閉じる。
(5)パルスレーザー19より出射したレーザー光20を試料17に照射する。
(6)レーザー照射より予め設定した時間dt1経過後に、X線シャッター18を開く。
(7)干渉像を撮像する。
(8)X線シャッター18を閉じる
(9)干渉像を取得できる露光時間に達するまで(5)から(8)を繰り返して(例えば、数百回以上)撮像した複数の干渉像群を加算して時間dt1における1枚の平均干渉像を取得する。
(10)時間dt1=時間dt1+Δt1に変更し、(5)から(9)を繰り返す。
【0094】
以上の制御は制御装置9により行われる。上述の測定のタイミングチャートを
図10に示す。X線源1は連続的にX線12を出力している。X線シャッター18が開状態になった期間に露光が行われる。このように、レーザー光20により試料が加熱されて時間dt1経過後の試料の状態を、ごく短いt1時間での露光を累積して1枚の干渉像を得、同様に時間dt1+i×Δt1(1≦i≦I)経過後にそれぞれ干渉像を得ることにより、時間分解能を高めることができる。
【0095】
(3)で取得した加熱前の像を背景像として、上述した方法で取得した干渉像から、試料が軽元素で構成されている場合は(数26)に基づいて、金属の場合は(数24)に基づいて、干渉像の画素毎に計算を処理部10で行い、位相マップ等の物理量を算出する。その結果を表示装置11で表示する。
【0096】
X線シャッター18は一般的なPb製のシャッターを用いてもよいが、開閉時間をマイクロ秒以下にする場合は
図11のようなチョッパー型のシャッターを用いることができる。
図11は正面図と側面図とを示している。例えば直径200mmの円盤30上に幅0.1mmの開口パス31を設けて6000rpm(100rps)で回転させれば、およそ1.6マイクロ秒でシャッターのオンオフを行うことができる。
【0097】
また、X線画像検出器8には上記(5)から(8)の繰り返し周期T1(
図10参照)より早いフレームレートの検出器が必要になる。例えば、
図11のシャッターの場合は100rpsであるので、100フレーム/秒以上の画像検出器を用いれば良い。
【0098】
本実施例では、刺激発生機構としてパルスレーザーを用いてレーザー加熱を試料に対する外部の刺激として用いる例を説明したが、これに限定されるものではなく、機械による加圧や曲げなどを外部刺激として試料に与え、このときの変化を同様の繰り返し測定により計測してもよい。この場合は、機械的な刺激に対する試料の変形等を高精細、かつ高時間分解能で可視化することができる。
【0099】
以上、実施例2によれば、刺激発生機構とX線シャッターとを組み合わせて高速に1枚の干渉像を取得し、空間分解能の劣化を抑えて定量的な位相マップ(密度変化像)を求めることができる。
【実施例3】
【0100】
実施例2では用いたシャッターによるX線のオンオフにより、時間分解能をサブマイクロ秒オーダーに高めることができる。実施例3ではさらに、X線としてパルスX線12’を用いることで、時間分解能をns以下とする実施例を示す。
【0101】
図12は本実施例で利用する撮像装置の構成例を示した模式図である。X線源1’としてパルスX線源を用い、X線画像検出器8には転送レートが早いX線カメラを用いる。また、外部刺激は実施例2と同様にパルスレーザー19を用いている。干渉計2の動作は実施例1と同様であるが、像の取得は以下の手順により行う。
(1)試料ホルダー4で固定された試料17を試料位置決め機構5により光路に設置する。
(2)位相シフタ6を用いた縞走査法によりX線の位相と干渉像の画素値との関係を求める。
(3)パルスレーザー19より出射したレーザー光20を試料17に照射する。
(4)レーザー照射より予め設定した時間dt2経過後に、パルスX線を照射し、高速X線カメラ8で干渉像を撮像する。
(5)干渉像を取得できる露光時間に達するまで(3)から(4)を繰り返して(例えば、数百回以上)撮像した複数の干渉像群を加算して時間dt2における1枚の平均干渉像を取得する。
(6)時間dt2=時間dt2+Δt2に変更し、(3)から(5)を繰り返す。
【0102】
以上の制御は制御装置9により行われる。上述の測定のタイミングチャートを
図13に示す。例えば、周期T2は2ns以下に設定可能である。これにより、レーザー光20により試料が加熱されて時間dt2経過後の試料の状態を、実施例2よりもさらに短いt2時間での露光を累積して1枚の干渉像を得、同様に時間dt2+i×Δt2(1≦i≦I)経過後にそれぞれ干渉像を得ることにより、時間分解能を高めることができる。
【0103】
(2)で取得した加熱前の像を背景像として、上述した方法で取得した干渉像から、試料が軽元素で構成されている場合は(数26)に基づいて、金属の場合は(数24)に基づいて、干渉像の画素毎に計算を処理部10で行い、位相マップ等の物理量を算出する。その結果を表示装置11で表示する。
【0104】
パルスX線には例えば放射光や自由電子レーザーなどを用いることができる。前者の場合のパルス幅は100ps以下、後者の場合は1fs以下であり、これに応じて周期T2、時間dt2、Δt2の時間を設定することにより、高速に系の反応を追うことができる。また、高速X線カメラとしてはアバランシェフォトダイオード(APD:avalanche photodiode)をアレイ状に並べた検出器などを用いることができる。パルスX線の繰り返し周期(例えば放射光の場合は500MHz)と同期した撮像を行うことにより、多くの繰り返し計測を行うことができ、像のS/Nを大幅に向上することができる。
【0105】
また、一般的なフレームレートが100フレーム/秒程度の検出器を用いる場合は、実施例2にて説明したようなX線シャッターをX線画像検出器8の前に配置し、
図14に示すように、複数のパルスX線12’照射につき1度、パルスX線12’照射と同期したタイミングでシャッターを開き、そのタイミングでのパルスX線による干渉像を検出するようにすればよい。
【0106】
本実施例においても、刺激発生機構である機械による加圧や曲げなどを外部刺激として試料に与え、このときの変化を同様の繰り返し測定により計測しても良い。この場合は、機械的な刺激に対する試料の変形等をさらに高精細、かつ高時間分解能で可視化することができる。
【実施例4】
【0107】
実施例4ではタルボ干渉法を用いた実施例を説明する。結晶ブロックで構成されるX線干渉計は密度のダイナミックが狭い。これに対して、タルボ干渉法ではX線干渉法に比べて感度は低下するものの、ダイナミックレンジが広く、密度差の大きな領域を含む試料の観測に優位である。
図15に本実施例で使用するX線撮像装置の一例の構成図を示す。X線撮像装置は、X線源60、試料ホルダー61、試料位置決め機構62、位相格子63、位相格子位置決め機構64、吸収格子65、吸収格子位置決め機構66、X線画像検出器67、制御装置68、処理部69、表示装置70を有する。X線源60から放射されたX線71は、試料ホルダー61で保持される試料72を照射する。試料ホルダー61は試料位置決め機構62に取り付けられており、本機構によりX線の照射位置の調整を行う。試料72を透過したX線71から位相格子63と吸収格子65とにより形成したタルボ干渉像は、X線画像検出器67で検出する。制御装置68では後述する測定手順に従い、撮像を実行する。さらに、処理部69では取得した投影像の背景除算処理などを行い、表示装置70では処理部69で得られた像を表示する。
【0108】
本装置では制御装置68の制御により、試料72によって生じた干渉モアレ像を以下の手順により測定する。
(1)試料ホルダー61で固定された試料72を試料位置決め機構62により光路から待避させる。
(2)試料を光路から待避した状態で、吸収格子65を用いた縞走査法によりX線の位相と干渉像の画素値との関係を求める。
(3)試料位置決め機構62により試料72を光路に設置する。
(4)1枚の干渉モアレ像を撮像する。
【0109】
取得した干渉モアレ像から、上述したように、試料が軽元素で構成されている場合は(数26)に基づいて、金属の場合は
図6に示した計算フローに基づいて、干渉モアレ像の画素毎に計算を処理部69で行い、位相微分マップ或いは、位相マップ等の物理量を算出し、その結果を表示装置11で表示する。ここで、手順(2)において、試料を光路から待避した状態での位相と吸収を正確に計測しておくことは極めて重要であるので、走査数が10以上の縞走査法を用いる。
【0110】
位相格子63及び吸収格子65として、
図16のようにシリコン基板75上にニッケルや金などのラインがストライプ状に形成された格子76を用いる。空間分解能が回折格子76のピッチに影響されるために狭いほどよいが、LIGAプロセスを用いて得られる数ミクロン程度のものでも十分に撮像を行うことができる。位相格子63におけるラインの高さは使用するX線のエネルギーに依存しており、設定エネルギーのX線の位相がπ或いはπ/2だけ空気に対して相対的に変化(シフト)する高さにすると、Visibilityのよいタルボ干渉像を得ることができる。例えば、エネルギー17.8keVのX線における格子のライン(ニッケル)の高さはπの場合は6.2ミクロン、π/2の場合は3.1ミクロンとなる。一方、吸収格子65ではX線を完全に遮蔽する必要があることから、回折格子のラインの高さは高いほどよい。また、ラインの高さが同じであっても元素としてはX線をより吸収できる金や白金などの重元素を用いることが望ましい。
【0111】
回折格子76が形成されたシリコン基板75は例えばアルミ製のフレームに固定することで、製造時に生じる基板の歪みなども補正でき、全面でVisibilityの高い干渉像を形成することができる。また、位置決めはこのフレームごと各位置決め機構64及び66で行うことができる。本機構に必要な位置決め精度はサブmm程度であるので、同機構にはステッピングモータ駆動の一般的なリニアステージを用いる。また、各ステージをリモートで制御できるようにしておけば、エネルギーの変更に伴い位相格子63と吸収格子65との距離を自動的に最適化でき、調整の時間を短縮することができる。位相格子63と吸収格子65とは光軸上に直線に並ぶために、光学レールの上に各位置決めステージを設置するようにすれば、位置決めステージのストロークを超えるような長距離の位相格子63−吸収格子65間の調整も容易に行うことができる。
【0112】
図15の例では2枚の格子から構成されたタルボ干渉計を示しているが、1枚の位相格子だけを用いて吸収格子の位置で直接干渉縞を観察する方法を用いてもよいし、X線源60のサイズが大きく十分な空間コヒーレント長が得られない場合は、別途吸収格子と同様の格子をX線源60の直下流に設けたタルボ・ロー干渉計を用いてもよい。
【0113】
X線源60として、実施例1と同様に一般的な管球或いはロータリー型のものを用いてもよいし、シンクロトロン放射光を用いても良い。前者の場合は、管に印加する電圧を調整することによって、干渉モアレ縞の鮮明度が最大にすることができる。但し、測定に十分な縞鮮明度を得るためには、光源がミクロン以下である必要があるので、マイクロ線源或いはスリットを光源直後に設ける必要がある。さらに、スリットによる強度の損失が問題となる場合は、スリットに代えて吸収格子と同様の格子をX線源60の直下流に設置することにより、強度の損失を抑えつつコヒーレンスを向上することができる。一方、後者の場合は非常に強いX線を利用することができ、測定時間を大幅に短縮することができる。また、X線画像検出器67に関しても、実施例1と同様なX線カメラを用いればよい。
【0114】
以上、実施例4によれば、1枚の干渉モアレ像から空間分解能の劣化を抑えて定量的な位相マップを求めることができる。このため、試料の経時的な観察を広ダイナミックレンジ、かつ高感度に実施することができる。
【0115】
また、実施例2及び実施例3によりポンプ&プローブ法によりX線干渉計を用いた計測において時間分解能を高める構成について説明したが、本実施例であるタルボ干渉計を用いた計測においてもポンプ&プローブ法により時間分解能を高めることが可能である。干渉計の構成が変わるのみであるので、詳細な説明は省略する。
【実施例5】
【0116】
実施例5では実施例4に基づいた製品(試料)の不良検査装置の例について説明する。検査装置には高速な処理が要求されるため、実施例4の基本的な構成に加えて、試料の高速位置決めを行うベルトコンベア機構を加える。
【0117】
図17の検査装置は、試料設置機構81、運搬用コンベア82、及び試料取り出し機構83を有する。試料設置機構81により運搬用コンベア82に設置された試料72は、運搬用コンベア82によりX線の光路(照射位置)まで搬送される。そして、照射位置で撮像された後に、運搬用コンベア82により取り出し口まで運搬された後に、試料取り出し機構83により取り出される。撮像は試料72を連続的に運搬しながら行ってもよいし、運搬を停止して試料毎に行ってもよい。前者の場合は、撮像した像を合成する必要があるが、より高速に検査を行うことができる。後者の場合はより高精細な像を得ることができ、詳細な検査に適している。
【0118】
本実施例において、制御装置9の制御により、試料17によって生じた干渉モアレ像を以下の手順により測定する。
(1)正常品を運搬用コンベア82に設置し、照射位置まで搬送する。
(2)吸収格子65を用いた縞走査法により、正常品の場合のX線の位相と干渉像の画素値との関係を求める。
(3)正常品を取り除いた後に、製品(試料)の検査工程を開始する。
(4)各製品(試料)を運搬用コンベア82で順次運搬して干渉モアレ像を撮像する。
【0119】
取得した各製品(試料)の干渉モアレ像について、正常品のデータを背景データの代わりに用いて、位相マップを計算する。検査対象製品に問題がなければ、ほぼ同じ干渉モアレ像が得られるために、検査装置で得られる画像には何も写らない(均一な値となる)。一方、不良があるとその箇所でX線の位相が変調を受けるために、画像にコントラストとなって現れる。このため、処理部69では予め設定した閾値を超える、或いは下回る値を含む画像が検出された場合は不良の判定を行うようにすることによって高感度に検査を実施できる。
【0120】
以上、実施例5によれば、1枚の干渉モアレ像から空間分解能の劣化を抑えて求めた定量的な位相マップから、高速かつ高感度に、製品の検査を行うことができる。
【実施例6】
【0121】
実施例6では観察する試料を回転させることにより、Computed Tomographyにより非破壊で断面像や3次元像を取得する方法について説明する。
【0122】
実施例における断面像の測定は、通常のX線CT装置と同様に、試料を回転させ、X線が試料に照射する角度を変えつつ、実施例1〜実施例4の測定を回転角度が180°あるいは360°になるまで実施する。このために試料位置決め機構92は、
図18に示すように、Z軸を中心に回転する回転ステージ93を有している。本機構はステッピングモータで駆動し、リモートによって制御できるようにすれば、制御装置によって回転と撮像をシームレスに行うことができ、手動で行う場合に比べて大幅に測定時間を短縮することができる。なお、試料95の回転は原理的には180°でよいが、密度が大きく異なる領域が存在するとライン状のアーチファクト(疑似像)が発生する場合がある。このため、360°回転させて撮像することが望ましい。さらに、照射されるX線の光軸がy軸とし、回転ステージ93の下に光軸と直交するx軸方向に移動可能なXステージ94を設けることにより、回転ステージ93の回転中心と光軸とを容易に一致させることができる。
【0123】
実施例1〜3のX線干渉法の場合は断面像の再構成計算は、X線CT装置で一般に利用されているフィルタードバックプロジェクション法を用いて行う。フィルターとしてはShepp-Logan関数などを用いればよい。一方、実施例4のタルボ干渉法の場合は、取得した像が位相微分像であるために、
(1)各投影角度で取得した位相微分像をそれぞれ積分した後にサイノグラムを作り、従来のフィルタードバックプロジェクションを行う方法
(2)位相微分像のままサイノグラムを作り、ランプ関数をコンボリューションした後にフィルタードバックプロジェクションを行う方法
のいずれかを用いて像の再構成を行う。前者の場合は、投影像の段階で位相シフトを確認できるという利点があり、後者の場合は比較的雑音に強いという特徴がある。
【0124】
以上、実施例6によれば、試料を回転しながら得た投影干渉像あるいは投影干渉モアレ像から高速・高感度に試料の断面及び3次元像を再構成することができる。