(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
円筒状の内周面に径方向内向きに突出した凸部を有する貫通孔を備えたワークを対象として、前記貫通孔の内周面に塗料が付着するのを防止するために、前記貫通孔の両端を封止する、塗装用マスキング治具およびその取外し治具のセットであって、
前記塗装用マスキング治具は、
外周面に形成された第1環状溝と、
前記第1環状溝よりも前記貫通孔の中心軸方向外側に形成され、且つ、前記貫通孔の両端封止時に当該貫通孔の両端面より前記貫通孔の中心軸方向外側に配置される、第2環状溝と、
前記第1環状溝に嵌め込まれたOリングシールと、
を有する、2つのキャップ、及び、
前記2つのキャップに対して互いに近づく方向に力が加えられて、前記2つのキャップがともに前記貫通孔の前記凸部に当接、又は、前記2つのキャップの少なくとも一方が、当該キャップと前記凸部との間に配置されるスペーサーを介して前記凸部に当接し、前記2つのキャップの各Oリングシールが、前記第1環状溝と前記貫通孔の内周面との間に封止配置された状態で、前記2つのキャップの相対位置を固定する固定手段、
を備えており、
前記取外し治具は、
前記貫通孔の中心軸方向が水平になるように前記ワークを保持するワーク保持具、及び、スライド具、を備え、
前記ワーク保持具は、
保持された前記ワークの前記貫通孔の中心軸方向に位置する両端面が、前記中心軸の法線方向とのなす角度であるテーパー角度が1°以上45°未満の範囲になる形状に形成されたテーパー状傾斜面を含んでおり、
前記スライド具は、
前記キャップの外周面に形成された前記第2環状溝の対向両側部分を摺動可能なように、前記貫通孔の中心軸の法線方向と平行な方向に延在し、互いに対向した、一対の突条部、及び、
前記ワーク保持具のテーパー状傾斜面の前記テーパー角度と略等しい角度で、前記中心軸の法線方向に対して傾斜した形状の傾斜面、を有し、
前記スライド具の前記一対の突条部を、前記キャップの前記第2環状溝の対向両側部分に摺動可能に係合させ、前記スライド具の前記傾斜面と前記ワーク保持具の前記テーパー状傾斜面とを当接させた状態で互いを相対移動させて、前記塗装用マスキング治具の前記キャップを前記貫通孔から取外すことを特徴とする、塗装用マスキング治具およびその取外し治具のセット。
前記取外し治具の前記スライド具は、前記ワーク保持具の両端面に対応して、2つ備えられていることを特徴とする、請求項1に記載の塗装用マスキング治具およびその取外し治具のセット。
前記固定手段は、前記貫通孔の中心軸方向に延びており、前記2つのキャップの一方を前記中心軸方向に相対移動可能に貫通すると共に、前記2つのキャップの他方に固定される軸部材を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の塗装用マスキング治具およびその取外し治具のセット。
前記固定手段は、前記貫通孔の中心軸方向に延びており、前記2つのキャップを前記中心軸方向に相対移動可能に貫通する軸部材を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の塗装用マスキング治具およびその取外し治具のセット。
円筒状の内周面に径方向内向きに突出した凸部を有する貫通孔を備えたワークを対象として、前記貫通孔の内周面に塗料が付着するのを防止するために、前記貫通孔の両端を封止した塗装用マスキング治具の、取外し治具であって、
前記塗装用マスキング治具は、
外周面に形成された第1環状溝と、
前記第1環状溝よりも前記貫通孔の中心軸方向外側に形成され、且つ、前記貫通孔の両端封止時に当該貫通孔の両端面より前記貫通孔の中心軸方向外側に配置される、第2環状溝と、
前記第1環状溝に嵌め込まれたOリングシールと、
を有する、2つのキャップ、及び、
前記2つのキャップに対して互いに近づく方向に力が加えられて、前記2つのキャップがともに前記貫通孔の前記凸部に当接、又は、前記2つのキャップの少なくとも一方が、当該キャップと前記凸部との間に配置されるスペーサーを介して前記凸部に当接し、前記2つのキャップの各Oリングシールが、前記第1環状溝と前記貫通孔の内周面との間に封止配置された状態で、前記2つのキャップの相対位置を固定する固定手段、
を備えており、
前記取外し治具は、
前記貫通孔の中心軸方向が水平になるように前記ワークを保持するワーク保持具、及び、スライド具、を備え、
前記ワーク保持具は、
保持された前記ワークの前記貫通孔の中心軸方向に位置する両端面が、前記中心軸の法線方向とのなす角度であるテーパー角度が1°以上45°未満の範囲になる形状に形成されたテーパー状傾斜面を含んでおり、
前記スライド具は、
前記キャップの外周面に形成された前記第2環状溝の対向両側部分を摺動可能なように、前記貫通孔の中心軸の法線方向と平行な方向に延在し、互いに対向した、一対の突条部、及び、
前記ワーク保持具のテーパー状傾斜面の前記テーパー角度と略等しい角度で、前記中心軸の法線方向に対して傾斜した形状の傾斜面を有し、
前記スライド具の前記一対の突条部を、前記キャップの前記第2環状溝の対向両側部分に摺動可能に係合させ、前記スライド具の前記傾斜面と前記ワーク保持具の前記テーパー状傾斜面とを当接させた状態で互いを相対移動させて、前記塗装用マスキング治具の前記キャップを前記貫通孔から取外すことを特徴とする、塗装用マスキング治具の取外し治具。
円筒状の内周面に径方向内向きに突出した凸部を有する貫通孔を備えたワークを対象として、前記貫通孔の内周面に塗料が付着するのを防止するために、前記貫通孔の両端を封止し、且つ、封止された前記貫通孔から取外し治具により取り外し可能とされる、塗装用マスキング治具であって、
前記塗装用マスキング治具は、
外周面に形成された第1環状溝と、
前記第1環状溝よりも前記貫通孔の中心軸方向外側に形成され、且つ、前記貫通孔の両端封止時に当該貫通孔の両端面より前記貫通孔の中心軸方向外側に配置される、第2環状溝と、
前記第1環状溝に嵌め込まれたOリングシールと、
を有する、2つのキャップ、及び、
前記2つのキャップに対して互いに近づく方向に力が加えられて、前記2つのキャップがともに前記貫通孔の前記凸部に当接、又は、前記2つのキャップの少なくとも一方が、当該キャップと前記凸部との間に配置されるスペーサーを介して前記凸部に当接し、前記2つのキャップの各Oリングシールが、前記第1環状溝と前記貫通孔の内周面との間に封止配置された状態で、前記2つのキャップの相対位置を固定する固定手段、
を備えており、
前記取外し治具は、
前記貫通孔の中心軸方向が水平になるように前記ワークを保持するワーク保持具、及び、スライド具、を備え、
前記ワーク保持具は、
保持された前記ワークの前記貫通孔の中心軸方向に位置する両端面が、前記中心軸の法線方向とのなす角度であるテーパー角度が1°以上45°未満の範囲になる形状に形成されたテーパー状傾斜面を含んでおり、
前記スライド具は、
前記キャップの外周面に形成された前記第2環状溝の対向両側部分を摺動可能なように、前記貫通孔の中心軸の法線方向と平行な方向に延在し、互いに対向した、一対の突条部、及び、
前記ワーク保持具のテーパー状傾斜面の前記テーパー角度と略等しい角度で、前記中心軸の法線方向に対して傾斜した形状の傾斜面を有し、
前記スライド具の前記一対の突条部を、前記キャップの前記第2環状溝の対向両側部分に摺動可能に係合させ、前記スライド具の前記傾斜面と前記ワーク保持具の前記テーパー状傾斜面とを当接させた状態で互いを相対移動させて、前記塗装用マスキング治具の前記キャップが前記貫通孔から取外されることを特徴とする、塗装用マスキング治具。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一方で、Oリングシールキャップを有する塗装用マスキング治具をワークの貫通孔から取り外す際は、特許文献1の塗装用マスキング治具の場合と異なり、ナットを緩めても、Oリングシールがキャップ(環状溝の底面)とワークの貫通孔(内周面)との間で全周に渡り径方向に圧縮された状態が維持されているため、無理抜きを強いられる。このため、手作業で容易にキャップを取外しできず、着脱作業性が低下し作業者の作業に負担がかかってしまう。
【0010】
そこで、本発明は、シール部材の位置ずれを確実に抑制しつつ、塗装品質やシール部材の寿命を犠牲にすることなく、量産時のワーク塗装に係るコストを抑制でき、しかもワークに対する着脱作業性が良好で作業者の作業負担を低減できる塗装用マスキング治具およびその取外し治具、並びにそのセットを提供することを目的とする。
【0011】
本発明の一つは、円筒状の内周面に径方向内向きに突出した凸部を有する貫通孔を備えたワークを対象として、前記貫通孔の内周面に塗料が付着するのを防止するために、前記貫通孔の両端を封止する、塗装用マスキング治具およびその取外し治具のセットであって、
前記塗装用マスキング治具は、
外周面に形成された第1環状溝と、
前記第1環状溝よりも前記貫通孔の中心軸方向外側に形成され、且つ、前記貫通孔の両端封止時に当該貫通孔の両端面より前記貫通孔の中心軸方向外側に配置される、第2環状溝と、
前記第1環状溝に嵌め込まれたOリングシールと、
を有する、2つのキャップ、及び、
前記2つのキャップに対して互いに近づく方向に力が加えられて、前記2つのキャップがともに前記貫通孔の前記凸部に当接、又は、前記2つのキャップの少なくとも一方が、当該キャップと前記凸部との間に配置されるスペーサーを介して前記凸部に当接し、前記2つのキャップの各Oリングシールが、前記第1環状溝と前記貫通孔の内周面との間に封止配置された状態で、前記2つのキャップの相対位置を固定する固定手段、
を備えており、
前記取外し治具は、
前記貫通孔の中心軸方向が水平になるように前記ワークを保持するワーク保持具、及び、スライド具、を備え、
前記ワーク保持具は、
保持された前記ワークの前記貫通孔の中心軸方向に位置する両端面が、前記中心軸の法線方向とのなす角度であるテーパー角度が1°以上45°未満の範囲になる形状に形成されたテーパー状傾斜面を含んでおり、
前記スライド具は、
前記キャップの外周面に形成された前記第2環状溝の対向両側部分を摺動可能なように、前記貫通孔の中心軸の法線方向と平行な方向に延在し、互いに対向した、一対の突条部、及び、
前記ワーク保持具のテーパー状傾斜面の前記テーパー角度と略等しい角度で、前記中心軸の法線方向に対して傾斜した形状の傾斜面、を有し、
前記スライド具の前記一対の突条部を、前記キャップの前記第2環状溝の対向両側部分に摺動可能に係合させ、前記スライド具の前記傾斜面と前記ワーク保持具の前記テーパー状傾斜面とを当接させた状態で互いを相対移動させて、前記塗装用マスキング治具の前記キャップを前記貫通孔から取外すことを特徴としている。
【0012】
上記構成の塗装用マスキング治具によれば、ワークにおいて、内周面に凸部が形成された貫通孔の両端に、外周面の第1環状溝にOリングシールが嵌め込まれた2つのキャップを当接させ、固定手段によって、2つのキャップ同士が互いに近づく方向に力を加えることにより、2つのキャップがともに貫通孔の凸部に当接し(キャップと凸部との間にスペーサーが配置されている場合には、2つのキャップの少なくとも一方が、スペーサーを介して凸部に当接)、2つのキャップの各Oリングシールが、第1環状溝と貫通孔の内周面との間に封止配置された状態で、2つのキャップの相対位置を固定することができる。これにより、2つのキャップを、貫通孔の両端に貫通孔の中心軸方向の位置ずれが全く無い程度にまで固定し、貫通孔を封止することができ、ワークの貫通孔の内周面に塗料が付着するのを防止することが可能となる。
【0013】
また、塗装用マスキング治具に備わるキャップの外周面の第1環状溝には、汎用のOリングシールを使用することができる。円筒状の貫通孔の両端にキャップを取り付けた後にOリングシールにかかる面圧は周方向に関して略一様である。このため、Oリングシールの圧縮率が比較的低く(例えば10〜15%程度に)設定された状態で繰り返し使用されても、高いシール性を確保できるとともに、圧縮率が比較的低いゆえ、Oリングシールが早期に寿命に至る虞はほとんどないと考えられる。そのため、特許文献1のように貫通孔を封止するシール部材が非汎用品である場合と比べて、塗装品質やシール部材の寿命を犠牲にすることなく、消耗部品であるシール部材にかかるコストを顕著に抑制できるとともに、特許文献1の塗装用マスキング治具の場合や、塗装用マスキング治具は本発明と同じ構成だが当取外し治具を使わない場合(後述の参考例1)などと比べても量産時のワーク塗装に係るコストを抑制し得る。
【0014】
また、貫通孔を封止した塗装用マスキング治具(キャップ)を貫通孔から取外す作業では、専用の取外し治具を使用する。具体的には、先ず、ワークの貫通孔の中心軸方向が水平、且つ、ワークの貫通孔の両端側がワーク保持具のテーパー状傾斜面側に配置されるように、ワークをワーク保持具に保持する。次に、スライド具の一対の突条部をキャップの第2環状溝の対向両側部分に摺動可能に係合しつつ、スライド具の傾斜面とワーク保持具のテーパー状傾斜面とを当接させた状態にする。そして、スライド具の傾斜面とワーク保持具のテーパー状傾斜面とを当接させた状態で、スライド具とワーク保持具とを互いに相対移動させることにより、一対の突条部を介してキャップ(第2環状溝)に対して貫通孔中心軸方向外向きの力が作用することになり、貫通孔からキャップを取り外すことができる。
【0015】
これにより、貫通孔を封止した塗装用マスキング治具(キャップ)を貫通孔から取外す作業において、エアーや電気などの動力を必要とせず、作業者が手に持って実際に工場で製品を製造する場合に充分に使用に耐えうると予想できる程度まで、ほとんど作業負担を感じることなく取外し作業を行うことができる。また、取外し治具は、作業者によって加えられる貫通孔の中心軸の法線方向の力を、第2環状溝の対向両側部分を作用点として、キャップを貫通孔の中心軸方向外向きへ移動させる力に効率よく変換できる構成になっている。そのため、当取外し治具を使わずにキャップをワークの貫通孔から手作業で無理に引き抜く場合(無理抜きする場合)と比べて、着脱作業性が向上し、作業者の作業負担を低減することができる。
【0016】
また、ワークへの塗装が電着塗装の場合、ワークを塗料に浸した後、焼成炉(例えば炉内温度約200℃)で焼付乾燥するため、塗装終了直後のワークおよび塗装用マスキング治具は、ともに表面が高温になっている。そのため、取外し治具を使わずにキャップをワークの貫通孔から手作業で無理に引き抜く場合は、作業者が火傷する虞があるため、表面温度が下がってから塗装用マスキング治具の取外し作業を行う必要がある。これに対して、当取外し治具を用いてキャップを貫通孔から取り外せば、作業者が直接キャップを把持しなくても済むため、焼成炉から排出直後での塗装用マスキング治具の取外しが実現できる。したがって、当取外し治具を使わない場合と比べて、塗装作業効率を高めることができ、量産時のワーク塗装に係るコストを抑制することができる。
【0017】
また、本発明の一つは、上記塗装用マスキング治具およびその取外し治具のセットにおいて、前記取外し治具の前記スライド具が、前記ワーク保持具の両端面に対応して、2つ備えられていることを特徴としている。
【0018】
上記構成では、スライド具が2つ備えられている。そのため、取外し治具を用いた塗装用マスキング治具の取外し作業において、2つのスライド具のそれぞれの傾斜面を、ワーク保持具のそれぞれのテーパー状傾斜面に略同時に当接させて、貫通孔の両端に封止された2つのキャップを略同時にワークの貫通孔から引き抜くことができる。このため、1つのスライド具を用いて、2つのキャップを片側ずつ順に貫通孔から引き抜く場合と比べて、着脱作業性がより向上し、作業者の作業負担をより低減することができる。
【0019】
また、本発明の一つは、上記塗装用マスキング治具およびその取外し治具のセットにおいて、前記固定手段が、前記貫通孔の中心軸方向に延びており、前記2つのキャップの一方を前記中心軸方向に相対移動可能に貫通すると共に、前記2つのキャップの他方に固定される軸部材を有することを特徴としている。
【0020】
上記構成によると、他方のキャップに固定された軸部材が一方のキャップを貫通孔の中心軸方向に相対移動可能に貫通しているため、2つのキャップの中心軸方向(軸部材の軸方向)に対する傾きのズレを防止することができる(2つのキャップを平行に保持することができる)。これにより、円筒状の貫通孔の両端にキャップを取り付けた際のOリングシールにかかる面圧が周方向に関して不均一になるのを防止できる。そのため、高いシール性を確保できると共に、ワークへの塗装において、非塗装領域と塗装領域の境界の塗装の乱れを防止することができる。
【0021】
また、本発明の一つは、上記塗装用マスキング治具およびその取外し治具のセットにおいて、前記固定手段が、前記貫通孔の中心軸方向に延びており、前記2つのキャップを前記中心軸方向に相対移動可能に貫通する軸部材を有することを特徴としている。
【0022】
上記構成によると、2つのキャップを中心軸方向に相対移動可能に軸部材が貫通しているため、2つのキャップの中心軸方向(軸部材の軸方向)に対する傾きのズレを防止することができる(2つのキャップを平行に保持することができる)。これにより、円筒状の貫通孔の両端にキャップを取り付けた際のOリングシールにかかる面圧が周方向に関して不均一になるのを防止できる。そのため、高いシール性を確保できると共に、ワークへの塗装において、非塗装領域と塗装領域の境界の塗装の乱れを防止することができる。
【0023】
また、本発明の一つは、上記塗装用マスキング治具およびその取外し治具のセットにおいて、前記固定手段は、
前記軸部材と、
前記軸部材の前記キャップを貫通して突出した部分に着脱可能に固定され、前記2つのキャップが離間する方向に移動するのを規制可能な固定部材と、を有することを特徴としている。
【0024】
上記構成によると、固定部材は、軸部材の一方のキャップを貫通して突出した部分に着脱可能に固定されるため、固定部材の着脱が容易である。これにより、塗装用マスキング治具の着脱作業性を向上できる。
【0025】
また、本発明の一つは、上記塗装用マスキング治具およびその取外し治具のセットにおいて、前記軸部材は、少なくとも前記貫通孔の中心軸方向の一部にネジ溝が形成されており、
前記固定部材は、前記軸部材の前記ネジ溝に螺合されるナットであることを特徴としている。
【0026】
上記構成によると、ナットとネジ溝との螺合を解除するだけで、固定部材を容易に着脱することができる。これにより、塗装用マスキング治具の着脱作業性をより向上させることができる。
【0027】
また、本発明の一つは、上記塗装用マスキング治具およびその取外し治具のセットにおいて、前記2つのキャップが、金属製であって、
前記Oリングシールが、シリコーンゴム、フッ素ゴム、およびニトリルゴムのいずれかを含むゴム組成物で形成され、
前記固定部材が、袋ナットであって、
前記2つのキャップの一方を介して前記ワークに至る通電経路を形成することを特徴としている。
【0028】
上記構成によると、2つのキャップの一方とワークとの間で直接通電できる。そのため、ワークを帯電させる塗装に、塗装用マスキング治具を用いることができる。
また、Oリングシールが、シリコーンゴム、フッ素ゴム、およびニトリルゴムのいずれかを含むゴム組成物で形成されるため、耐熱性に優れる。さらに、固定部材が袋ナットであるため、塗装用マスキング治具が装着されたワークを塗料に浸漬しても、非塗装領域に塗料が浸入し付着するのを防止することができる。これらから、電着塗装に塗装用マスキング治具を用いることができる。
【0029】
また、本発明は、円筒状の内周面に径方向内向きに突出した凸部を有する貫通孔を備えたワークを対象として、前記貫通孔の内周面に塗料が付着するのを防止するために、前記貫通孔の両端を封止した塗装用マスキング治具の、取外し治具であって、
前記塗装用マスキング治具は、
外周面に形成された第1環状溝と、
前記第1環状溝よりも前記貫通孔の中心軸方向外側に形成され、且つ、前記貫通孔の両端封止時に当該貫通孔の両端面より前記貫通孔の中心軸方向外側に配置される、第2環状溝と、
前記第1環状溝に嵌め込まれたOリングシールと、
を有する、2つのキャップ、及び、
前記2つのキャップに対して互いに近づく方向に力が加えられて、前記2つのキャップがともに前記貫通孔の前記凸部に当接、又は、前記2つのキャップの少なくとも一方が、当該キャップと前記凸部との間に配置されるスペーサーを介して前記凸部に当接し、前記2つのキャップの各Oリングシールが、前記第1環状溝と前記貫通孔の内周面との間に封止配置された状態で、前記2つのキャップの相対位置を固定する固定手段、
を備えており、
前記取外し治具は、
前記貫通孔の中心軸方向が水平になるように前記ワークを保持するワーク保持具、及び、スライド具、を備え、
前記ワーク保持具は、
保持された前記ワークの前記貫通孔の中心軸方向に位置する両端面が、前記中心軸の法線方向とのなす角度であるテーパー角度が1°以上45°未満の範囲になる形状に形成されたテーパー状傾斜面を含んでおり、
前記スライド具は、
前記キャップの外周面に形成された前記第2環状溝の対向両側部分を摺動可能なように、前記貫通孔の中心軸の法線方向と平行な方向に延在し、互いに対向した、一対の突条部、及び、
前記ワーク保持具のテーパー状傾斜面の前記テーパー角度と略等しい角度で、前記中心軸の法線方向に対して傾斜した形状の傾斜面を有し、
前記スライド具の前記一対の突条部を、前記キャップの前記第2環状溝の対向両側部分に摺動可能に係合させ、前記スライド具の前記傾斜面と前記ワーク保持具の前記テーパー状傾斜面とを当接させた状態で互いを相対移動させて、前記塗装用マスキング治具の前記キャップを前記貫通孔から取外すことを特徴としている。
【0030】
上記構成の塗装用マスキング治具の取外し治具を使用することにより、より簡易に、貫通孔を封止した塗装用マスキング治具(キャップ)を貫通孔から取外すことができる。具体的には、先ず、ワークの貫通孔の中心軸方向が水平、且つ、ワークの貫通孔の両端側がワーク保持具のテーパー状傾斜面側に配置されるように、ワークをワーク保持具に保持する。次に、スライド具の一対の突条部をキャップの第2環状溝の対向両側部分に摺動可能に係合しつつ、スライド具の傾斜面とワーク保持具のテーパー状傾斜面とを当接させた状態にする。そして、スライド具の傾斜面とワーク保持具のテーパー状傾斜面とを当接させた状態で、スライド具とワーク保持具とを互いに相対移動させることにより、一対の突条部を介してキャップ(第2環状溝)に対して貫通孔中心軸方向外向きの力が作用することになり、貫通孔からキャップを取り外すことができる。
【0031】
これにより、貫通孔を封止した塗装用マスキング治具(キャップ)を貫通孔から取外す作業において、エアーや電気などの動力を必要とせず、作業者が手に持って実際に工場で製品を製造する場合に充分に使用に耐えうると予想できる程度まで、ほとんど作業負担を感じることなく取外し作業を行うことができる。また、取外し治具は、作業者によって加えられる貫通孔の中心軸の法線方向の力を、第2環状溝の対向両側部分を作用点として、キャップを貫通孔の中心軸方向外向きへ移動させる力に効率よく変換できる構成になっている。そのため、当取外し治具を使わずにキャップをワークの貫通孔から手作業で無理に引き抜く場合(無理抜きする場合)と比べて、着脱作業性が向上し、作業者の作業負担を低減することができる。
【0032】
また、本発明は、円筒状の内周面に径方向内向きに突出した凸部を有する貫通孔を備えたワークを対象として、前記貫通孔の内周面に塗料が付着するのを防止するために、前記貫通孔の両端を封止し、且つ、封止された前記貫通孔から取外し治具により取り外し可能とされる、塗装用マスキング治具であって、
前記塗装用マスキング治具は、
外周面に形成された第1環状溝と、
前記第1環状溝よりも前記貫通孔の中心軸方向外側に形成され、且つ、前記貫通孔の両端封止時に当該貫通孔の両端面より前記貫通孔の中心軸方向外側に配置される、第2環状溝と、
前記第1環状溝に嵌め込まれたOリングシールと、
を有する、2つのキャップ、及び、
前記2つのキャップに対して互いに近づく方向に力が加えられて、前記2つのキャップがともに前記貫通孔の前記凸部に当接、又は、前記2つのキャップの少なくとも一方が、当該キャップと前記凸部との間に配置されるスペーサーを介して前記凸部に当接し、前記2つのキャップの各Oリングシールが、前記第1環状溝と前記貫通孔の内周面との間に封止配置された状態で、前記2つのキャップの相対位置を固定する固定手段、
を備えており、
前記取外し治具は、
前記貫通孔の中心軸方向が水平になるように前記ワークを保持するワーク保持具、及び、スライド具、を備え、
前記ワーク保持具は、
保持された前記ワークの前記貫通孔の中心軸方向に位置する両端面が、前記中心軸の法線方向とのなす角度であるテーパー角度が1°以上45°未満の範囲になる形状に形成されたテーパー状傾斜面を含んでおり、
前記スライド具は、
前記キャップの外周面に形成された前記第2環状溝の対向両側部分を摺動可能なように、前記貫通孔の中心軸の法線方向と平行な方向に延在し、互いに対向した、一対の突条部、及び、
前記ワーク保持具のテーパー状傾斜面の前記テーパー角度と略等しい角度で、前記中心軸の法線方向に対して傾斜した形状の傾斜面を有し、
前記スライド具の前記一対の突条部を、前記キャップの前記第2環状溝の対向両側部分に摺動可能に係合させ、前記スライド具の前記傾斜面と前記ワーク保持具の前記テーパー状傾斜面とを当接させた状態で互いを相対移動させて、前記塗装用マスキング治具の前記キャップが前記貫通孔から取外されることを特徴としている。
【0033】
上記構成の塗装用マスキング治具を使用することにより、より簡易に、貫通孔を封止した塗装用マスキング治具(キャップ)を貫通孔から取外すことができる。具体的には、先ず、ワークの貫通孔の中心軸方向が水平、且つ、ワークの貫通孔の両端側がワーク保持具のテーパー状傾斜面側に配置されるように、ワークをワーク保持具に保持する。次に、スライド具の一対の突条部をキャップの第2環状溝の対向両側部分に摺動可能に係合しつつ、スライド具の傾斜面とワーク保持具のテーパー状傾斜面とを当接させた状態にする。そして、スライド具の傾斜面とワーク保持具のテーパー状傾斜面とを当接させた状態で、スライド具とワーク保持具とを互いに相対移動させることにより、一対の突条部を介してキャップ(第2環状溝)に対して貫通孔中心軸方向外向きの力が作用することになり、貫通孔からキャップを取り外すことができる。
【0034】
これにより、貫通孔を封止した塗装用マスキング治具(キャップ)を貫通孔から取外す作業において、エアーや電気などの動力を必要とせず、作業者が手に持って実際に工場で製品を製造する場合に充分に使用に耐えうると予想できる程度まで、ほとんど作業負担を感じることなく取外し作業を行うことができる。また、取外し治具は、作業者によって加えられる貫通孔の中心軸の法線方向の力を、第2環状溝の対向両側部分を作用点として、キャップを貫通孔の中心軸方向外向きへ移動させる力に効率よく変換できる構成になっている。そのため、当塗装用マスキング治具を使わずにキャップをワークの貫通孔から手作業で無理に引き抜く場合(無理抜きする場合)と比べて、着脱作業性が向上し、作業者の作業負担を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態の塗装用マスキング治具1およびその取外し治具2について説明する。
【0037】
図1は、本実施形態の塗装用マスキング治具1がワーク50の貫通孔51に装着された状態を示している。塗装用マスキング治具1は、ワーク50の貫通孔51の内周面(後述する非塗装領域53)に塗料が付着するのを防止するためのものである。本実施形態の塗装用マスキング治具1は、ワーク50を帯電させない塗装、または、ワーク50を帯電させる塗装を行う場合にも用いられる。
【0038】
ここで、ワーク50を帯電させない塗装とは、例えば、浸漬塗装、スプレー塗装、手塗り塗装、焼付け塗装などが挙げられる。また、ワーク50を帯電させる塗装とは、例えば、電着塗装、静電塗装、静電粉体塗装などが挙げられる。電着塗装の種類は、防食性に優れるカチオン電着塗装が好ましいが、アニオン電着塗装でもよい。電着塗装とは、被塗装物を水溶性樹脂塗料に浸漬し、被塗装物と電極との間に直流電流を通して、被塗装物と塗料を異なる極性に帯電させ(カチオン電着の場合は陰極が被塗装物)、電気分解反応で被塗装物の表面に塗膜を形成させ、その後、被塗装物を塗料から引き上げて焼付乾燥する塗装方法である。静電塗装とは、被塗装物と霧状の塗料を異なる極性に帯電させて、静電気によって塗料を被塗装物に付着させる塗装方法である。静電粉体塗装とは、被塗装物と粉末状の塗料を異なる極性に帯電させて、静電気によって塗料を被塗装物に付着させた後、加熱して塗膜を形成させる塗装方法である。
【0039】
(ワーク50)
図1及び
図2に示すように、本実施形態の塗装用マスキング治具1が装着されるワーク50は、筒状部材である。ワーク50は、例えばプーリ部品である。そして、ワーク50には、円筒状の内周面を有する貫通孔51が形成されている。この貫通孔51の中心軸52は直線状に延びている。以下の説明において、貫通孔51の中心軸52の方向を、単に軸方向(中心軸方向)という。また、貫通孔51には、貫通孔51の中央部分(貫通孔51の両端面から軸方向に略等しく離れた位置)に、径方向内向きに突出した凸部54が形成されている。なお、本実施形態のワーク50の貫通孔51に形成された凸部54は、詳細は後述するが、塗装用マスキング治具1をワーク50の貫通孔51に装着した際に、後述する2つのキャップ(第1キャップ11、第2キャップ12)がともに直接凸部54に当接する構造をしている。
【0040】
このようなワーク50において、ワーク50の外周面と軸方向両端面とは、貫通孔51に塗装用マスキング治具1が装着された状態で塗装が施される塗装領域である。一方、ワーク50において、貫通孔51の凸部54を含む内周面は、貫通孔51に塗装用マスキング治具1が装着された状態で塗装が施されない非塗装領域53である。なお、非塗装領域53は、ワーク50に塗装用マスキング治具1が装着されていない状態で塗装が施されてもよい。また、非塗装領域53は、
図1に示す範囲よりも軸方向に狭い範囲であってもよい。
【0041】
(塗装用マスキング治具1)
塗装用マスキング治具1は、ワーク50の貫通孔51に装着され、貫通孔51を封止するために使用される。塗装用マスキング治具1は、2つのキャップ(第1キャップ11、第2キャップ12)と、軸部材13と、ナット14(固定部材)とを有する。
【0042】
(キャップ)
第1キャップ11は、貫通孔51の端面の形状に対応した円柱形状をしている。第1キャップ11の外径は、貫通孔51の内径と略同じ、若しくは若干小さい。第1キャップ11の外周面には、第1キャップ11が貫通孔51に装着された際に、貫通孔51の端面に対して平行になる環状の第1環状溝111が形成されている。この第1環状溝111は、第1キャップ11が貫通孔51に装着され、第1キャップ11の底部が凸部54に当接した際に、貫通孔51の端面より軸方向内側に配置されるように形成されている。そして、この第1環状溝111には、Oリングシール113が嵌め込まれている。また、第1キャップ11の外周面には、第1環状溝111よりも軸方向外側に環状の第2環状溝112が形成されている。この第2環状溝112は、第1キャップ11が貫通孔51に装着され、第1キャップ11の底部が凸部54に当接した際に、貫通孔51の端面より軸方向外側に配置されるように形成されている。また、第1キャップ11には、軸方向に貫通する軸孔114が形成されている。
【0043】
第2キャップ12も、第1キャップ11と同様に、貫通孔51の端面の形状に対応した円柱形状をしている。第2キャップ12の外径は、貫通孔51の内径と略同じ、若しくは若干小さい。第2キャップ12の外周面には、第1キャップ11と同様に、第1環状溝121及び第2環状溝122が形成されている。そして、第1環状溝121には、Oリングシール123が嵌め込まれている。また、第2環状溝122は、第2キャップ12が貫通孔51に装着され、第2キャップ12の底部が凸部54に当接した際に、貫通孔51の端面より軸方向外側に配置されるように形成されている。また、第2キャップ12の底部には軸部材13の一端が固定されている。
【0044】
第1キャップ11及び第2キャップ12の材質としては、ワーク50を帯電させない塗装の場合は、例えば、ナイロン樹脂、超高分子量ポリエチレン樹脂、ポリアセタール樹脂等の硬質樹脂で形成されていてもよく、金属製であってもよい。一方、ワーク50を帯電させる塗装の場合には、第1キャップ11及び第2キャップ12は、導電性を有する金属で形成される。金属の種類は、鉄よりも軽量で、腐食し難く、切削が容易で、汎用な、アルミニウム合金が好ましいが、それ以外の導電性金属(例えば鉄鋼)でもよい。
【0045】
Oリングシール113・123は、弾性部材により構成され、その断面径が第2環状溝112・122の深さよりも若干大きくなるように形成されている。それ故、このOリングシール113・123が第2環状溝112・122に嵌め込まれると、Oリングシール113・123は、第1キャップ11・第2キャップ12の外周面よりやや突出した(膨らんだ)状態で保持されることになる。
【0046】
このOリングシール113・123には、JIS B2401−1の規定に適合した汎用品を用いている。Oリングシール113・123の材料としては、例えば、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(H−NBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、エチレン・プロピレンジエンモノマー(EPDM)、シリコーンゴム(Si、Q)、フッ素ゴム(FKM)、ウレタンゴム(U)等を主成分とするゴム組成物を採用することができる。Oリングシール113・123の材料は、上記ゴム組成物に限らず、例えば、熱可塑性エラストマーや熱硬化性エラストマー等のうち、弾力性の高い材料であってもよい。電着塗装や焼付塗装など焼付工程を伴う塗装の場合は、Oリングシール113・123の材料は、耐熱性に優れた、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ニトリルゴム等が好ましい。その中でも、品質・コスト・取扱性のバランスから、特にシリコーンゴムが好ましい。
【0047】
また、Oリングシール113・123の硬さに関しては、Oリングシール113・123のデュロメータA硬さが、70程度(JIS B2401−1準拠)であることが好ましい。なお、デュロメータA硬さは、室温23℃に保たれた空気雰囲気下で、硬さ試験に関してJIS K6253−3によって行い、試験片はOリングシール113・123と同一条件で製造したもの(板材)を用いて測定した値である。
【0048】
(軸部材13及びナット14)
軸部材13は、第2キャップ12の底部から軸方向に延びており、第1キャップ11に形成された軸孔114を軸方向に相対移動可能に貫通する。軸部材13の外周面の少なくとも第1キャップ11側の外周部分には、ネジ溝(図示せず)が形成されている。
【0049】
ナット14(固定手段)は、軸部材13の、軸孔114から突出した部分のネジ溝に螺合されることで、軸部材13に着脱可能に固定される。ナット14は、第1キャップ11に当接する位置で軸部材13に固定されることで、第1キャップ11と第2キャップ12とが離間する方向に移動するのを規制できる。このようにナット14は、螺合により軸部材13のネジ溝に固定されるため、ナット14と軸部材13のネジ溝との螺合を解除するだけで、ナット14を軸部材13から容易に着脱することができる。これにより、塗装用マスキング治具1の着脱作業性を向上させることができる。なお、浸漬による塗装の場合であれば、ナット14に、
図3に示すような袋ナットを用いてもよい。その上で、シール性をより高めるために、ナット14と第1キャップ11との間に、樹脂製の平ワッシャーを配置してもよい。
【0050】
(取外し治具2)
取外し治具2は、
図7及び
図8に示すように、ワーク50の貫通孔51に装着された塗装用マスキング治具1を取り外す治具であり、端的には第1キャップ11及び第2キャップ12をワーク50の貫通孔51から引き抜くために使用される。取外し治具2は、ワーク50を相対移動不能に保持するワーク保持具21、及び、ワーク保持具21の両端面に対応する2つのスライド具(第1スライド具22、第2スライド具23)を備えている(
図7及び
図8参照)。
【0051】
(ワーク保持具21)
ワーク保持具21は、
図4に示すように、貫通孔51に塗装用マスキング治具1が装着された、筒状のワーク50を、貫通孔51の軸方向が水平になるように保持する、U字状のU字溝211を備えている。U字溝211の両端にはワーク50の軸方向の位置を位置決めするフランジ212・213が形成されている。また、ワーク保持具21は、保持されたワーク50の貫通孔51の軸方向に位置する両端面に、軸方向に対する法線方向(鉛直方向)とのなす角度であるテーパー角度が付けられたテーパー状傾斜面214・215が形成されている。このテーパー状傾斜面214・215のテーパー角度は、1°以上45°未満の範囲としている。
【0052】
ワーク保持具21の材質としては、金属製であってもよいが、例えば、ナイロン樹脂、超高分子量ポリエチレン樹脂、ポリアセタール樹脂等の硬質樹脂で形成されるのがよい。ワーク保持具21と接触するワーク50の外面塗装面の保護、および、後述する第1スライド具22・第2スライド具23との摺動性や両者の摩耗防止を考慮する必要があるためである。
【0053】
(第1スライド具22及び第2スライド具23)
第1スライド具22は、ワーク保持具21のテーパー状傾斜面214に対応しており、第2スライド具23は、ワーク保持具21のテーパー状傾斜面215に対応している。
【0054】
第1スライド具22は、
図5に示すように、鉛直方向に延在し、互いに対向した、一対の突条部221・222を有している。この突条部221・222は、ワーク保持具21にワーク50が保持された際に、貫通孔51の軸方向に対する法線方向と平行な方向に延在するように形成されていればよい。突条部221・222の軸方向の幅は、第1キャップ11の第2環状溝112に対して摺動可能なように、第2環状溝112の溝幅よりも若干小さい。また、対向する突条部221と突条部222と間の距離は、突条部221と突条部222とが第2環状溝112の対向両側部分を摺動可能に挟み込める程度の距離が保たれている必要がある。
【0055】
第1スライド具22は、ワーク保持具21のテーパー状傾斜面214のテーパー角度と略等しい角度で傾斜した傾斜面223を有している。即ち、傾斜面223は、軸方向に対する法線方向(鉛直方向)とのなす角度(傾斜角度)が、テーパー状傾斜面214のテーパー角度に対応して1°以上45°未満の範囲となるように形成されている。これにより、ワーク保持具21のテーパー状傾斜面214と第1スライド具22の傾斜面223とを当接させた場合、第1スライド具22の突条部221・222は、ワーク保持具21に保持されたワーク50の貫通孔51の軸方向に対して、垂直方向に位置付けられることになる。
【0056】
また、第1スライド具22には、第1キャップ11の軸孔114から突出した軸部材13が移動可能な空間を確保するためのスリット224が設けられている。
【0057】
第2スライド具23は、スリット224が設けられていない点以外は、第1スライド具22と同構造をしており、
図6に示すように、一対の突条部231・232を有している。そして、突条部231・232の軸方向の幅は、第2キャップ12の第2環状溝122に対して摺動可能なように、第2環状溝122の溝幅よりも若干小さい。また、対向する突条部231と突条部232と間の距離についても、突条部231と突条部232とが第2環状溝122の対向両側部分を摺動可能に挟み込める程度の距離が保たれている必要がある。
【0058】
第2スライド具23は、ワーク保持具21のテーパー状傾斜面215のテーパー角度と略等しい角度で傾斜した傾斜面233を有している。即ち、傾斜面233は、軸方向に対する法線方向(鉛直方向)とのなす角度が、テーパー状傾斜面215のテーパー角度に対応して1°以上45°未満の範囲となるように形成されている。これにより、ワーク保持具21のテーパー状傾斜面215と第2スライド具23の傾斜面233とを当接させた場合、第2スライド具23の突条部231・232は、ワーク保持具21に保持されたワーク50の貫通孔51の軸方向に対して、垂直方向に位置付けられることになる。
【0059】
第1スライド具22・第2スライド具23の材質は、金属製であってもよいが、例えば、ナイロン樹脂、超高分子量ポリエチレン樹脂、ポリアセタール樹脂等の硬質樹脂で形成されるのがよい。第1スライド具22(第2スライド具23)の突条部221・222(突条部231・232)と第2環状溝112(第2環状溝122)との摺動性や両者の摩耗防止、および、ワーク保持具21のテーパー状傾斜面214(テーパー状傾斜面215)と第1スライド具22(第2スライド具23)の傾斜面223(傾斜面233)との摺動性や両者の摩耗防止を考慮する必要があるためである。
【0060】
(塗装用マスキング治具1の取り付け手順)
次に、塗装用マスキング治具1のワーク50の貫通孔51への取り付け手順について説明する。
【0061】
まず、第1キャップ11の底部(第1環状溝111が形成された側)から、ワーク50の貫通孔51の一方端に嵌め込み装着する。この際、第1環状溝111に嵌め込まれたOリングシール113は、貫通孔51の一方端面より軸方向外側に配置された状態でもよい。
【0062】
次に、第1キャップ11の軸孔114に軸部材13を通しながら、第2キャップ12の底部(第1環状溝121が形成された側)から、ワーク50の貫通孔51の他方端に嵌め込み装着する。この際、第1環状溝121に嵌め込まれたOリングシール123は、貫通孔51の他方端面より軸方向外側に配置された状態でもよい。なお、第1キャップ11と第2キャップ12とを装着する順番は上記と逆でもよい。
【0063】
その後、第1キャップ11の軸孔114から突出した軸部材13のネジ溝にナット14を螺合することにより、第1キャップ11と第2キャップ12とが軸方向に互いに近づく方向に力が加えられて、第1キャップ11と第2キャップ12との間の距離が縮まる。そして、ナット14の軸部材13のネジ溝への螺合を、第1キャップ11の底部が凸部54に当接、及び、第2キャップ12の底部が凸部54に当接するまで行う。これにより、第1キャップ11のOリングシール113が、第1環状溝111と貫通孔51の内周面との間に封止配置された状態で固定され、第2キャップ12のOリングシール123が、第1環状溝121と貫通孔51の内周面との間に封止配置された状態で固定される(第1キャップ11と第2キャップ12との相対位置が固定される)。
【0064】
なお、ナット14の締め付けには、トルクレンチを用いることが好ましい。適正な締付トルクを決めてから、トルクレンチの締付トルクを設定することで、常に一様な締め付けができる。それにより、高いシール性を確保できると共に、第1キャップ11・第2キャップ12及び凸部54に過度な力が加わることを防止でき、第1キャップ11・第2キャップ12の早期へたりを防止できる。
【0065】
上記構成によると、第2キャップ12に固定された軸部材13が第1キャップ11の軸孔114を貫通孔51の軸方向に相対移動可能に貫通しているため、第1キャップ11及び第2キャップ12の軸方向(中心軸52方向)に対する傾きのズレを防止することができる(第1キャップ11と第2キャップ12とを平行に保持することができる)。これにより、円筒状の貫通孔51の両端に第1キャップ11及び第2キャップ12を取り付けた際のOリングシール113・123にかかる面圧が周方向に関して不均一になるのを防止できる。そのため、高いシール性を確保できると共に、ワーク50への塗装において、非塗装領域53と塗装領域の境界の塗装の乱れを防止することができる。
【0066】
(取外し治具2を用いた塗装用マスキング治具1の取外し手順:取外し形態(a))
(1)まず、塗装完了後のワーク50を、貫通孔51の軸方向が水平になるように、ワーク保持具21のU字溝211にセットする。このとき、U字溝211の両端に形成されたフランジ212とフランジ213との間にワーク50が収納される。これにより、ワーク50は、ワーク保持具21に対して相対移動不能に固定される。
【0067】
(2)次に、ナット14を緩めて(ナット14と軸部材13のネジ溝との螺合を解除して)、ナット14を軸部材13から取り外した後、
図7に示すように、第1スライド具22に備わる1対の突条部221・222を、第1キャップ11の第2環状溝112の対向両側部分に摺動可能に係合させつつ、第1スライド具22の傾斜面223をワーク保持具21のテーパー状傾斜面214に摺動可能に当接させる。同様に、第2スライド具23に備わる1対の突条部231・232を、第2キャップ12の第2環状溝122の対向両側部分に摺動可能に係合させつつ、第2スライド具23の傾斜面233をワーク保持具21のテーパー状傾斜面215に摺動可能に当接させる。
【0068】
(3)次に、
図8及び
図9に示すように、ワーク保持具21を不動に固定した状態で、第1スライド具22に対して下方に力を加える。即ち、ワーク保持具21が固定された状態で、第1スライド具22の傾斜面223をワーク保持具21のテーパー状傾斜面214に対して摺動させる。これにより、第1キャップ11の第2環状溝112とワーク50の貫通孔51の一方端面との間の軸方向の距離が増す方向に力が加わり、第1キャップ11の第1環状溝111と貫通孔51の内周面との間に封止配置されたOリングシール113が、貫通孔51の一方端面より軸方向外側に移行することにより、第1キャップ11が貫通孔51から引き抜かれる。同様に(第1スライド具22に対して下方に力を加えたのと同時が好ましい)、ワーク保持具21を不動に固定した状態で、第2スライド具23に対して下方に力を加える。即ち、ワーク保持具21が固定された状態で、第2スライド具23の傾斜面233をワーク保持具21のテーパー状傾斜面215に対して摺動させる。これにより、第2キャップ12の第2環状溝122とワーク50の貫通孔51の他方端面との間の軸方向の距離が増す方向に力が加わり、第2キャップ12の第1環状溝121と貫通孔51の内周面との間に封止配置されたOリングシール123が、貫通孔51の他方端面より軸方向外側に移行することにより、第2キャップ12が貫通孔51から引き抜かれる。
【0069】
上記(3)をより詳細すると、第2スライド具23を用いて第2キャップ12を貫通孔51から引き抜く場合、
図10及び
図11に示すように、ワーク保持具21を不動に固定した状態で、第2スライド具23に対して下方に力を加えると、第2スライド具23に対する下方への力を加えた箇所が力点、第2スライド具23の傾斜面233とワーク保持具21のテーパー状傾斜面215とが当接する箇所が支点(第2スライド具23の傾斜面233とワーク保持具21のテーパー状傾斜面215とが当接する面と、中心軸52とが交差する部分)、1対の突条部231・232に係合する第2環状溝122の対向両側部分が作用点として作用し、第2キャップ12の第2環状溝122とワーク50の貫通孔51の他方端面との間の軸方向の距離(Xs)が増す方向に(Xs1>Xs0となる方向に)、第2スライド具23の傾斜面233がワーク保持具21のテーパー状傾斜面215に対して相対移動する。このとき、1対の突条部231・232を第2環状溝122の対向両側部分に摺動可能に係合させているため、テーパー状傾斜面215が上記規定のテーパー角度範囲内(1°以上45°未満)にある限り、力点に対し必要以上に大きな力を掛けなくても、距離(Xs)が増した分だけ、第2キャップ12を効率よく軸方向外側に移動させることができる。したがって、第2スライド具23に対して作業者が軸方向に対する法線方向(鉛直方向)に加える力を、1対の突条部231・232に係合する第2環状溝122の対向両側部分を作用点として第2キャップ12を軸方向外向きへ移動させる力に効率よく変換できるため、作業性が良好で作業者の作業に負担をかけることなく、第2キャップ12を貫通孔51から容易に引き抜くことができる。なお、第1スライド具22についても同様の作用により、第1キャップ11を貫通孔51から容易に引き抜くことができる。
【0070】
ここで、第2スライド具23の傾斜面233がワーク保持具21のテーパー状傾斜面215に沿って移動した相対移動量をΔL、テーパー角度をθ、第2キャップ12の軸方向外向きへの移動量をΔXcとすると、移動量ΔXcは、(1)式で表すことができる。
ΔXc=ΔL×sinθ ・・・(1)
すなわち、テーパー角度θ、および、相対移動量ΔLの大きさに応じて、(1)式によって導かれる移動量ΔXcだけ、第2キャップ12が貫通孔51から軸方向外向きに移動し、Oリングシール123の圧縮が解かれたとき、第2キャップ12が貫通孔51から外れた状態になり得る。なお、第1スライド具22についても同様である。
【0071】
第1キャップ11(第2キャップ12)が貫通孔51に取り付けられた状態では、Oリングシール113(Oリングシール123)は、貫通孔51の軸方向の端部に配置されている。そのため、第1キャップ11(第2キャップ12)が軸方向外向きに若干程度移動するだけで(例えば、Oリングシール113・123の断面径が4mm程度で、圧縮率10〜15%程度の場合、必要な移動量ΔXcは、1〜1.5mm)、Oリングシール113(Oリングシール123)の圧縮が解かれ、第1キャップ11(第2キャップ12)が貫通孔51から外れた状態になり得る。したがって、着脱作業性がより向上し作業者の作業負担をより低減させるためには、テーパー角度θおよび相対移動量ΔLの大きさは、ともに必要最小限に小さい値に設定されていればよい(例えば、θ=5°、ΔL=15mmの設定で、ΔXc=1.3mm)。
【0072】
なお、上述したように本実施形態では、テーパー状傾斜面214・215のテーパー角度は、1°以上45°未満の範囲にしている。その理由としては、テーパー角度が1°未満では、作業者が、ワーク保持具21および第1スライド具22・第2スライド具23の他方に対して加える軸方向の法線方向の力は少なくて済むが、第1キャップ11及び第2キャップ12を貫通孔51から引き抜くために、第1スライド具22の傾斜面223(第2スライド具23の傾斜面233)がワーク保持具21のテーパー状傾斜面214・215に沿って移動した相対移動量をΔLを顕著に増加させなければならず、取外し治具2も高さ方向に大型化するため、テーパー角度が上記範囲にある場合と比べ、着脱作業性が低下し作業者の作業負担が増加してしまうことが挙げられる。一方、テーパー角度が45°以上では、ワーク保持具21および第1スライド具22・第2スライド具23の他方に対して加える中心軸の法線方向の力を、1対の突条部221・222(突条部231・232)に係合する第2環状溝112(第2環状溝122)の対向両側部分を作用点として第1キャップ11(第2キャップ12)を軸方向外向きへ移動させる力に効率よく変換できなくなり、必要以上に作業者の力を要するとともに、第1キャップ11・第2キャップ12および取外し治具2がワーク50の軸方向に大型化するため、テーパー角度が上記範囲にある場合と比べ、着脱作業性が低下し作業者の作業負担が増加してしまうことが不都合な理由として挙げられる。
【0073】
(取外し治具2を用いた塗装用マスキング治具1の取外し手順:取外し形態(b))
なお、上記取外し手順(取外し形態(a))では、ワーク保持具21を不動に固定した状態で、第1スライド具22及び第2スライド具23に対して下方に力を加える手順を示したが、取外し形態(b)では、
図12〜
図14に示すように、第1スライド具22及び第2スライド具23を軸方向に対する法線方向(鉛直方向)に不動に固定した状態(第1スライド具22及び第2スライド具23は軸方向に対しては移動自在な状態)で、ワーク保持具21に対して下方に力を加えてもよい。即ち、第1スライド具22及び第2スライド具23が軸方向に対する法線方向(鉛直方向)に固定された状態(第1スライド具22及び第2スライド具23は軸方向に対しては移動自在な状態)で、ワーク保持具21のテーパー状傾斜面214・215を第1スライド具22の傾斜面223及び第2スライド具23の傾斜面233に対して摺動させる。これにより、第1キャップ11の第2環状溝112とワーク50の貫通孔51の一方端面との間の軸方向の距離が増す方向に力が加わり、第1キャップ11の第1環状溝111と貫通孔51の内周面との間に封止配置されたOリングシール113が、貫通孔51の一方端面より軸方向外側に移行することにより、第1キャップ11が貫通孔51から引き抜かれる。同様に、第2キャップ12の第2環状溝122とワーク50の貫通孔51の他方端面との間の軸方向の距離が増す方向に力が加わり、第2キャップ12の第1環状溝121と貫通孔51の内周面との間に封止配置されたOリングシール123が、貫通孔51の他方端面より軸方向外側に移行することにより、第2キャップ12が貫通孔51から引き抜かれる。
【0074】
上記第1実施形態の構成では、スライド具が2つ(第1スライド具22及び第2スライド具23)備えられている。そのため、取外し治具2を用いた塗装用マスキング治具1の取外し作業において、第1スライド具22及び第2スライド具23のそれぞれの傾斜面223・233を、ワーク保持具21のそれぞれのテーパー状傾斜面214・215に略同時に当接させて、貫通孔51の両端に封止された2つのキャップ(第1キャップ11・第2キャップ12)を略同時にワーク50の貫通孔51から引き抜くことができる。このため、1つのスライド具を用いて、2つのキャップ(第1キャップ11・第2キャップ12)を片側ずつ順に貫通孔51から引き抜く場合に比べて、着脱作業性がより向上し、作業者の作業負担をより低減することができる。
【0075】
(第1実施形態の変更例)
次に、上記第1実施形態の変更例に係る塗装用マスキング治具1´について
図3を用いて説明する。但し、第1実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を用いて適宜その説明を省略する。この塗装用マスキング治具1´は、ワーク50の貫通孔51に装着され、ワーク50を帯電させる塗装を行う場合(電着塗装、静電塗装、静電粉体塗装など)に用いられる。
【0076】
第1キャップ11及び第2キャップ12´は金属製である。また、第2キャップ12´には、浸漬時に通電される吊り台座70に突設されたピン71(台座70上に塗装用マスキング治具1´が装着されたワーク50を設置するためのガイドピンを兼ねる)が挿入される孔124が設けられている。また、軸部材13の、軸孔114から突出した部分のネジ溝に螺合されるナット14´は、袋ナットである。袋ナットを使用することで、塗装用マスキング治具1´が装着されたワーク50を塗料に浸漬しても、非塗装領域53に塗料が浸入し付着するのを防止することができる。また、電着塗装または静電粉体塗装の場合、Oリングシール113及びOリングシール123´は、耐熱性の高い、シリコーンゴム、フッ素ゴム、およびニトリルゴムのいずれかを含むゴム組成物で形成されることが好ましい。
【0077】
これにより、第1キャップ11及び第2キャップ12´自体を通電部材とした単純な構成により、ピン71から第2キャップ12´を介してワーク50に至る通電経路を直接形成でき、塗装用マスキング治具1´を、ワーク50を帯電させる塗装に用いることができる。電着塗装の場合、第2キャップ12´に電流が供給され、ワーク50を帯電させて使用される。また、静電塗装または静電粉体塗装の場合、ワーク50又は第1キャップ11を介してアースに接続され、ワーク50を正極に帯電させて使用される。
【0078】
(第2実施形態)
次に、上記第1実施形態に係る塗装用マスキング治具1を、
図15に示すように、ワーク250の貫通孔251に装着した場合について、第2実施形態として説明する。
【0079】
第2実施形態のワーク250は、
図15に示すように、凸部254が、貫通孔251の内周面の中央部分よりも、第1キャップ11が装着される端面側に形成されている他は、第1実施形態のワーク50と同様である。このため、第1キャップ11が貫通孔251に装着された場合、第1キャップ11の底部は凸部254に当接するが、第2キャップ12が貫通孔251に装着された場合、第2キャップ12の底部は凸部254に直接当接しない状態になる。
【0080】
そこで、第2実施形態では、第2キャップ12の底部と凸部254との間にスペーサー15が配置された構成にしている。スペーサー15は、ワーク250の貫通孔251の内周面に対応した筒状の剛体であって、貫通孔251の中に凸部254に当接するように挿入されている。スペーサー15の外径は、貫通孔251の内径より若干小さい。これにより、第2キャップ12が貫通孔251に装着された場合、第2キャップ12の底部はスペーサー15を介して凸部254に間接的に当接する。
【0081】
(第2実施形態の変更例)
次に、上記第1実施形態に係る塗装用マスキング治具1を、ワーク250´の貫通孔251´に装着した場合について、第2実施形態の変更例として説明する。
【0082】
第2実施形態の変更例のワーク250´は、凸部254´が、貫通孔251´の内周面の中央部分に形成されているが、この凸部254´は、第1キャップ11及び第2キャップ12が貫通孔251´に装着された場合、第1キャップ11の底部及び第2キャップ12の底部の両方が、凸部254´に直接当接しない形状(大きさ)をしている(図示せず)。
【0083】
そこで、第2実施形態の変更例では、第1キャップ11の底部と凸部254´との間にスペーサー16´が配置され、第2キャップ12の底部と凸部254´との間にスペーサー15´が配置された構成にしている。スペーサー15´及びスペーサー16´は、ワーク250´の貫通孔251´の内周面に対応した筒状の剛体であって、貫通孔251´の中に凸部254´に当接するようにそれぞれ挿入されている。スペーサー15´及びスペーサー16´の外径は、貫通孔251´の内径より若干小さい。これにより、第1キャップ11及び第2キャップ12が貫通孔251に装着された場合、第1キャップ11の底部はスペーサー16´を介して凸部254´に間接的に当接し、第2キャップ12の底部はスペーサー15´を介して凸部254´に間接的に当接する。
【0084】
(その他の実施形態)
取外し治具2を用いた塗装用マスキング治具1の取外し作業において、第1スライド具22及び第2スライド具23を用い、それぞれの傾斜面223・233をワーク保持具21のそれぞれのテーパー状傾斜面214・215に略同時に当接させて、第1キャップ11及び第2キャップ12を略同時にワーク50の貫通孔51から引き抜く形態の場合、テーパー状傾斜面214とテーパー状傾斜面215とは、互いに逆方向に傾斜する面であり、かつ、テーパー角度が1°以上45°未満の範囲内である限りにおいて、テーパー状傾斜面214及びテーパー状傾斜面215の双方のテーパー角度は、異なる値(絶対値)に設けられていてもよい。
【0085】
また、ワーク保持具21および第1スライド具22・第2スライド具23の一方を不動にする方向、およびワーク保持具21および第1スライド具22・第2スライド具23の他方に対して力を加える方向は、鉛直方向(天地方向)に限定されない。第2環状溝112(第2環状溝122)とワーク50の貫通孔51の端面との間の軸方向の距離が増す方向に力を加える限りにおいて、ワーク保持具21および第1スライド具22・第2スライド具23の一方を不動にする方向、およびワーク保持具21および第1スライド具22・第2スライド具23の他方に対して力を加える方向は、軸方向に対する法線方向であればどの方向でもよい。
【0086】
また、ワーク保持具21のテーパー状傾斜面214・215は、第1スライド具22の傾斜面223及び第2スライド具23の傾斜面233と当接可能であれば、軸方向双方の端面の全面でなく一部分にだけ形成されていてもよく、同様に、第1スライド具22の傾斜面223及び第2スライド具23の傾斜面233は、軸方向一方の端面の全面でなく一部分にだけ形成されていてもよい。
【0087】
また、1つのスライド具(第1スライド具22)を用いて、2つのキャップ(第1キャップ11及び第2キャップ12)を片側ずつ順に貫通孔51から引き抜いてもよい。
【0088】
上記実施形態およびその変更例では、軸部材13は、第1キャップ11の軸孔114を貫通し、第2キャップ12に固定された構成をしているが、軸部材13は、第1キャップ11及び第2キャップ12の双方を軸方向に相対移動可能に貫通していてもよい。この場合、軸部材13の両端部にネジ溝を設け、第2キャップ12にも軸方向に貫通するネジ溝が形成された軸孔を設け、軸部材13の軸孔114から突出した一方端のネジ溝にナット14を螺合させ、軸部材13の他方端のネジ溝には、第2キャップ12に設けられた軸孔のネジ溝に螺合させる(螺合距離を調整)ことで、軸部材13が第1キャップ11及び第2キャップ12の双方に対して相対移動可能にする。
【0089】
上記構成によると、第1キャップ11及び第2キャップ12の双方を軸方向に相対移動可能に軸部材13が貫通しているため、第1キャップ11及び第2キャップ12の軸方向(中心軸52方向)に対する傾きのズレを防止することができる(第1キャップ11と第2キャップ12とを平行に保持することができる)。これにより、円筒状の貫通孔51の両端に第1キャップ11及び第2キャップ12を取り付けた際のOリングシール113・123にかかる面圧が周方向に関して不均一になるのを防止できる。そのため、高いシール性を確保できると共に、ワーク50への塗装において、非塗装領域53と塗装領域の境界の塗装の乱れを防止することができる。
【実施例】
【0090】
次に、実施例1、実施例2、参考例1および参考例2に係る塗装用マスキング治具及び取外し治具の使用態様に関して、後述する7つの評価項目の評価を行った。
【0091】
実施例1及び実施例2は、上記第1実施形態の変更例に係る塗装用マスキング治具1´を使用して、ワーク50を帯電させる塗装を行った場合(電着塗装)の塗装用マスキング治具1´及び取外し治具2の使用態様である。具体的な構成を以下に説明する。
【0092】
ワーク50は、鉄鋼材料S45Cを切削加工して得られたプーリ部品とした。このワーク50の非塗装領域53の軸方向長さは約39mm、非塗装領域53のうち第1キャップ11のOリングシール113及び第2キャップ12´のOリングシール123´が配置される部分の径は42mmとした。また、ワーク50の重量は、350gである。
【0093】
塗装用マスキング治具1´の第1キャップ11及び第2キャップ12´は、材質が金属製(アルミニウム合金:A2026)、無垢のアルミ材を機械加工(削り出し)することで作製した。第1キャップ11及び第2キャップ12´の軸方向全長(厚み)は約22mmとした。Oリングシール113・Oリングシール123´は、汎用品(JIS B2401−1準拠、ミスミ社製、品番:NPS−35.5)とした(材質:シリコーンゴム、外力が作用していない状態の断面径および内径は、それぞれ3.5mm、約35mm、デュロメータA硬さ:約70)。そして、ワーク50の貫通孔51に第1キャップ11(第2キャップ12´)が装着され、Oリングシール113(Oリングシール123´)が第1環状溝111(第1環状溝121´)と貫通孔51の内周面との間に封止配置され、圧縮された状態でのOリングシール113(Oリングシール123´)の圧縮率は、約14%(=圧縮比:0.5mm/断面径3.5mm)とした。なお、第2キャップ12´には、浸漬時に通電される吊り台座70に突設されたピン71が挿入される孔124が設けられている。また、軸部材13に螺合されるナット14´は、袋ナットである。
【0094】
また、塗装用マスキング治具1´の総重量、即ち、Oリングシール113を備えた第1キャップ11、Oリングシール123´を備えた第2キャップ12´、軸部材13、及び、ナット14´(袋ナット)の総重量は、160gである。
【0095】
取外し治具2のワーク保持具21は、耐熱性も考慮し、無垢のナイロン樹脂(比重1.15)を機械加工(削り出し)することで作製した。ワーク保持具21の重量は、250gである。ワーク保持具21のテーパー状傾斜面214・215のテーパー角度は、4°とした。第1スライド具22・第2スライド具23も、ワーク保持具21と同様、無垢のナイロン樹脂(比重1.15)を機械加工(削り出し)することで作製した。第1スライド具22及び第2スライド具23の重量は、それぞれ200gである。第1スライド具22・第2スライド具23の傾斜面223・傾斜面233の傾斜角度は、4°とした。
【0096】
(取外し治具2を用いた塗装用マスキング治具1´の取外し手順)
取外し治具2を用いた塗装用マスキング治具1´の取外し手順に関しては、実施例1では、上記第1実施形態で説明した、『取外し形態(a)』(取外し前:
図7、取外し後:
図8、
図9)の手順で行った。一方、実施例2では、上記第1実施形態で説明した、『取外し形態(b)』(取外し前:
図12、取外し後:
図13、
図14)の手順で行った。尚、実施例2は、付帯治具として、リニアガイド(ガイドレール&ガイドブロック)を用いた。
【0097】
(実施例1:取外し形態(a))
(1)作業者側(正面)からみて、テーパー状傾斜面214とテーパー状傾斜面215とが逆Vの字状になるように、ワーク保持具21を作業台上に設置した状態で、塗装用マスキング治具1´が装着された塗装完了後のワーク50を、貫通孔51の軸方向が水平になるように、ワーク保持具21のU字溝211に相対移動不能に保持された状態でセットした(
図7参照)。天地関係は、ワーク50が天(紙面上)、ワーク保持具21が地(紙面下)である。
【0098】
(2)袋ナット14´を緩めて、袋ナット14´を軸部材13から取り外してから、第1スライド具22に備わる1対の突条部221・222を、第1キャップ11の第2環状溝112の対向両側部分に摺動可能に係合させつつ、第1スライド具22の傾斜面223をワーク保持具21のテーパー状傾斜面214に摺動可能に当接させた。これと略同時に、第2スライド具23に備わる1対の突条部231・232を、第2キャップ12´の第2環状溝122´の対向両側部分に摺動可能に係合させつつ、第2スライド具23の傾斜面233をワーク保持具21のテーパー状傾斜面215に摺動可能に当接させた(
図7参照)。
【0099】
(3)ワーク保持具21を不動に固定した状態で、第1スライド具22及び第2スライド具23を略同時に重力方向に押し下げた(
図8の紙面下方向に力を加えた)。即ち、ワーク保持具21が固定された状態で、第1スライド具22の傾斜面223及び第2スライド具23の傾斜面233を、ワーク保持具21のテーパー状傾斜面214・215に対して摺動させた。これにより、第1キャップ11及び第2キャップ12´を貫通孔51から略同時に引き抜いた(
図8参照)。
【0100】
なお、一般的な作業台上に取外し治具2を設置した場合は、この重力方向に「押し下げる」動作の方が、ワーク保持具21のテーパー状傾斜面214・215を逆向き(Vの字状)にして、重力に抗して「押し上げる」動作をさせるよりも、作業性が良好で作業者の作業負担を低減できる点で好適である。いずれにしても、第1スライド具22及び第2スライド具23に対して作業者が軸方向に対する法線方向(鉛直方向)に加える力を、1対の突条部221・222に係合する第2環状溝112の対向両側部分を作用点、1対の突条部231・232に係合する第2環状溝122´の対向両側部分を作用点として、第1キャップ11及び第2キャップ12´を軸方向外向きへ移動させる力に効率よく変換できるため、量産時のワーク塗装で、取外し治具2を使わずに無理抜き構造の当キャップを貫通孔から手作業で無理に引き抜く場合と比べて、着脱作業性が向上し、作業者の作業負担を低減できるものであった。
【0101】
(実施例1の第1キャップ11・第2キャップ12´の引き抜き動作の実績値)
・テーパー角度θ:4°
・第1スライド具22(第2スライド具23)の相対移動量ΔL:20mm
・第1キャップ11(第2キャップ12´)の軸方向外向きへの移動量ΔXc(必要量):0.9mm
・移動量ΔXc(狙い値):上記必要量+α
・移動量ΔXc(=ΔL×sinθ):1.4mm >0.9mm(必要量)
【0102】
(実施例2:取外し形態(b))
(1)まず、作業台上に附帯治具のリニアガイド1式(ガイドレール1つ、ガイドブロック2つ)を敷設した(
図13参照)。リニアガイドは、2つのガイドブロックがそれぞれ1つのガイドレールに係合してガイドレールに沿って直線移動自在に構成されている。そして、第1スライド具22の傾斜面223と第2スライド具23の傾斜面233とをリニアガイドレールの延在方向で対向させ、かつ、傾斜面223と傾斜面233とがリニアガイドレールと直交する方向の作業者側(正面)からみてVの字状になるように、第1スライド具22及び第2スライド具23をそれぞれ、ガイドブロック上にネジ止め等で固定した。この状態で、第1スライド具22及び第2スライド具23はそれぞれガイドレールに沿う方向にのみ直線移動自在な状態になった。
【0103】
次に、塗装完了後のワーク50の貫通孔51に装着された塗装用マスキング治具1´について、袋ナット14´を緩めて、袋ナット14´を軸部材13から取り外してから、第1キャップ11の第2環状溝112の対向両側部分を、第1スライド具22に備わる1対の突条部221・222に摺動可能に係合させた状態にした。これと略同時に、第2キャップ12´の第2環状溝122´の対向両側部分を、第2スライド具23に備わる1対の突条部231・232に摺動可能に係合させた状態にした。
【0104】
(2)作業者側(正面)からみて、テーパー状傾斜面214とテーパー状傾斜面215とがVの字状になるように、ワーク保持具21のU字溝211部分をワーク50の上部に被せつつ、ワーク保持具21のテーパー状傾斜面214・215が、第1スライド具22の傾斜面223及び第2スライド具23の傾斜面233に摺動可能に当接するように、ワーク保持具21をワーク50の上にセットした。天地関係は、ワーク保持具21が天(紙面上)、ワーク50が地(紙面下)である。
【0105】
(3)ワーク保持具21を重力方向に押し下げた(
図13の紙面下方向に力を加えた)。即ち、ワーク保持具21のテーパー状傾斜面214・215を、第1スライド具22の傾斜面223及び第2スライド具23の傾斜面233に対して摺動させた。これにより、第1キャップ11及び第2キャップ12´を貫通孔51から略同時に引き抜いた(
図13参照)。なお、第1スライド具22及び第2スライド具23は、第1キャップ11及び第2キャップ12´が貫通孔51から引き抜かれるのに伴い、それぞれガイドレール上を離間する方向に移動した。
【0106】
実施例2(取外し形態(b))の場合も、実施例1(取外し形態(a))と同等程度に、量産時のワーク塗装において、作業性良好で作業者の作業負担を低減できるものであった。なお、実施例2の第1キャップ11・第2キャップ12´の引き抜き動作の実績値は、実施例1と同じであった。
【0107】
(実施例1、実施例2、参考例1、参考例2の評価)
次に、実施例1の塗装用マスキング治具及び取外し治具(取外し形態(a))の使用態様、及び、実施例2の塗装用マスキング治具及び取外し治具(取外し形態(b))の使用態様をそれぞれ評価した。また、参考対象として、実施例1の構成と同一の塗装用マスキング治具をワークの貫通孔に装着した状態で、取外し治具を使用しないで作業者が第1キャップ及び第2キャップを手作業で無理に引き抜いた場合の使用態様を参考例1とし、特許文献1の第3実施形態変更例(特許文献1の
図6参照)で挙げられた塗装用マスキング治具の使用態様を参考例2としてそれぞれ評価した。
【0108】
(評価方法、評価項目、評価基準)
具体的には、実施例1、実施例2、参考例1および参考例2の各塗装用マスキング治具を用いてカチオン電着塗装を行った。電着塗装の前処理として、脱脂、水洗、素地表面調整、化成皮膜形成(リン酸亜鉛皮膜形成)、水洗をこの順で行った。電着塗装に用いる水溶性樹脂塗料は、エポキシ樹脂にアミンを付加し酸で中和した水溶液である。電着塗装の後は、水洗、焼付乾燥(160℃×30分)を行った。
【0109】
上述の一連の電着塗装処理を、各塗装用マスキング治具につき、50個のワークを対象に行った。その後で、以下の(1)〜(7)の7つの評価項目の評価を行った。なお、ワークに対する塗装用マスキング治具の着脱作業は、23℃±2℃の環境下で行った。袋ナットは、トルクレンチを用いて締め付けた。軸部材のねじ呼び径はM6であり、トルクレンチによる締付トルクは、1.2N・m(手応え感有り)に設定した。
【0110】
(1)シール部材の位置ずれ
ワークから塗装用マスキング治具を取り外す前に、シール部材(第1キャップ・第2キャップの各Oリングシール等)の位置ずれを目視で確認した。50個目(またはその付近)においても、位置ずれが全く無い場合には評価「○」とし、軽微な(部分的な)位置ずれがある場合は評価「△」とし、ずれ落ちがある場合には評価「×」とした。
【0111】
(2)シール性
ワークから塗装用マスキング治具を取り外した後、ワークの非塗装領域への塗料の侵入の有無について目視で確認した。50個目(またはその付近)においても、侵入が全く無い場合は評価「○」とし、軽微な侵入(部分的な滲み等)がある場合には評価「△」とし、侵入が顕著な場合は評価「×」とした。
【0112】
(3)塗装の境界乱れ
ワークから塗装用マスキング治具を取り外した後、ワークの非塗装領域と塗装領域との境界の塗装の乱れ(滲み、かすれ等)の有無を目視で確認した。50個目(またはその付近)においても、乱れが無い場合は評価「○」とし、軽微な(部分的な)乱れがある場合には評価「△」とし、顕著な乱れがある場合は評価「×」とした。
【0113】
(4)塗装用マスキング治具の不具合
ワークから塗装用マスキング治具を取り外した後、塗装用マスキング治具に不具合があるか否かを目視で確認した。50個目(またはその付近)においても、不具合が全く無い場合は評価「○」とし、軽微な(再使用可能な)不具合がある場合は評価「△」とし、例えば第1キャップ・第2キャップの亀裂、割れ、凹み等の再使用不可な不具合がある場合は評価「×」とした。なお、Oリングシールの寿命は、本評価項目に含まれる。
【0114】
(5)着脱作業性および着脱時の作業負担
作業者が塗装用マスキング治具をワークに対し着脱する際の作業性および作業負担について評価した。50個目(またはその付近)の着脱作業を終えた段階で、終始、着脱作業性が良好でほとんど作業負担を感じることがなく、実際に工場で製品を製造する場合に、充分に使用に耐えうると予想できる場合は評価「○」、実際に工場で製品を製造する場合に使用に耐えうる範囲で1回目と比べて着脱作業性が軽微に低下し作業負担が増したと感じた場合は評価「△」、実際に製品を製造する場合には使用できない程度まで1回目と比べて着脱作業性が低下し作業負担が増したと感じた場合は評価「×」とした。
【0115】
(6)塗膜の品質(膜厚、膜硬さ、密着性など)
上記カチオン電着塗装が施されたワークに対して、塗膜の厚さ、硬さ、密着性等を測定した。50個目(またはその付近)においても、全ての項目で良好な場合は評価「○」とし、製品として出荷可能な範囲内の軽微な不良がある場合は評価「△」とし、品質不良がある場合は評価「×」とした。なお、膜厚は、JIS K5400に準拠して電磁式膜厚計で測定し、膜厚20μm±6μmを良好(評価「○」)とした。膜硬さは、JIS K5400に準拠したすり傷判定で評価し、鉛筆引っかき値がH以上を良好(評価「○」)とした。密着性は、JIS K5400に準拠した碁盤目法で評価し、10点(100/100)を良好(評価「○」)とした。なお、塗装品質は、評価項目(3)および(6)を含む総合的なものとする。
【0116】
(7)塗装に係るコスト(シール部材費用、作業効率など)
シール部材(Oリングシール等)が汎用品である場合および塗装作業効率が良好な場合(焼成炉から排出直後に取外しができる場合)は評価「○」とし、シール部材(Oリングシール等)が汎用品であるが、塗装作業効率がさほど良くない場合(焼成炉から排出直後に取外しができない場合)は評価「△」とし、シール部材(Oリングシール等)が非汎用品である場合は評価「×」とした。
【0117】
表1に、実施例1、実施例2、参考例1および参考例2に対する各評価項目の評価結果を示す。
【表1】
【0118】
取外し治具を使用した実施例1、及び、実施例2では、どちらの取外し形態(a、b)であっても、上記7つの評価項目に関して全て「○」の評価であった。なお、実施例1、及び、実施例2で使用した取外し治具は、作業者が手に持って実際に50個の塗装用マスキング治具の着脱作業を行っても、作業性良好でほとんど作業負担を感じることなく取り扱うことができる程度に軽いものであった。
【0119】
参考例1の塗装用マスキング治具は、1回目と比べて50個目(またはその付近)においては、作業者が実際に製品を製造する場合には使用できない程度まで着脱作業性が低下し、第1キャップ・第2キャップをワークから引き抜く際の作業負担が増したと感じた結果、「着脱作業性および着脱時の作業負担」の評価が「×」となり、また、シール部材(Oリングシール)が汎用品であるが、焼成炉から排出直後に取外しができず、塗装作業効率がさほど良いとはいえなかった結果、「塗装に係るコスト」の評価が「△」となった。
【0120】
参考例2の塗装用マスキング治具に備わるシール部材は、非汎用品であるため、実施例1、及び、実施例2の塗装用マスキング治具に備わるOリングシール(汎用品)と比べて、調達コストが4倍程度かかった結果、「塗装に係るコスト」の評価が「×」となった。
【0121】
(得られた効果)
(1)シール部材の位置ずれの抑制
実施例1、及び、実施例2の塗装用マスキング治具は、Oリングシールが嵌め込まれた、第1キャップと第2キャップとの間の相対位置を固定する、軸部材13及びナット14´(袋ナット)を備える。そのため、塗装用マスキング治具を貫通孔の内周面に凸部が形成されているワークに取り付ける際は、第1キャップと第2キャップとがともに直接凸部に当接するか、又は、第1キャップと第2キャップとの少なくとも一方が、凸部との間に配置されるスペーサーを介して凸部に当接できた。この結果、Oリングシールの軸方向の位置ずれが全く無い程度にまでOリングシール(シール部材)の位置ずれを確実に抑制できた。
【0122】
(2)量産時のワーク塗装に係るコストの抑制
実施例1、及び、実施例2の塗装用マスキング治具に備わるOリングシール(汎用品)は、参考例2の塗装用マスキング治具に備わるシール部材(非汎用品)と比べて、1/4程度の調達コストで済んだ。
【0123】
また、塗装用マスキング治具を用いてワークへ電着塗装を行う場合の塗装品質やシール部材の寿命については、実施例1、実施例2および参考例1は、参考例2の場合と同等に問題なきレベルであった。その理由としては、シール部材が単純なOリングシールのため、ワークに取り付けた後のシール部材にかかる面圧は周方向に関して略一様であり、このため、Oリングシールの圧縮率が比較的低く設定(実施例は14%)された状態で繰り返し50回使用されても、高いシール性を確保できるとともに、圧縮率が比較的低いゆえ、Oリングシールが早期に寿命に至る虞はほとんどなかったことが挙げられる。
【0124】
また、取外し治具を使用した実施例1、及び、実施例2の塗装用マスキング治具は、焼成炉から排出直後に取外しができるため、取外し治具を使用しない場合と比べて、塗装作業効率を高めることができることがわかった。この結果、実施例1、及び、実施例2の塗装用マスキング治具、およびその取外し治具を使用する場合は、塗装品質やシール部材(Oリングシール)の寿命を犠牲にすることなく、消耗部品(シール部材:Oリングシール)の調達コストを顕著に抑制できるとともに、量産時のワーク塗装に係るコストを抑制できることがわかった。
【0125】
(3)着脱作業性の向上および作業者の作業負担の低減
また、実施例1、及び、実施例2の塗装用マスキング治具をワークから取り外す作業に使用される取外し治具は、『取外し形態(a)』又は『取外し形態(b)』のどちらの形態によっても、比較的構造が簡単で、エアーや電気などの動力を必要とせず、作業者が手に持って実際に工場で製品を製造する場合に充分に使用に耐えうると予想できる程度まで作業性良好でほとんど作業負担を感じることなく取り扱うことができた。つまり、取外し治具は、作業者によって加えられる貫通孔の中心軸の法線方向の力を、第2環状溝の対向両側部分を作用点として、キャップを貫通孔の中心軸方向外向きへ移動させる力に効率よく変換できる構成になっている。その結果、量産時のワーク塗装で、取外し治具を使わずに無理抜き構造の当キャップをワークの貫通孔から手作業で無理に引き抜く、参考例1の場合と比べて、着脱作業性が向上し、作業者の作業負担を低減できることがわかった。