特許第6788654号(P6788654)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6788654-圧力に基づくイベント検出 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6788654
(24)【登録日】2020年11月4日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】圧力に基づくイベント検出
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/24 20060101AFI20201116BHJP
   A61M 5/31 20060101ALI20201116BHJP
   A61M 5/32 20060101ALI20201116BHJP
【FI】
   A61M5/24
   A61M5/31 500
   A61M5/32 500
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-500702(P2018-500702)
(86)(22)【出願日】2016年7月1日
(65)【公表番号】特表2018-519938(P2018-519938A)
(43)【公表日】2018年7月26日
(86)【国際出願番号】EP2016065544
(87)【国際公開番号】WO2017009072
(87)【国際公開日】20170119
【審査請求日】2019年6月3日
(31)【優先権主張番号】15176265.5
(32)【優先日】2015年7月10日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】596113096
【氏名又は名称】ノボ・ノルデイスク・エー/エス
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ポウルスン, ウルレク デトレフ ラディッシュ
【審査官】 増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−523299(JP,A)
【文献】 特表2012−506279(JP,A)
【文献】 特表2013−544154(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/24
A61M 5/168
A61M 5/31
A61M 5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤送達装置(1)であって、
−薬剤リザーバ(11)から一定用量の薬剤を吐出するよう動作可能な用量吐出機構を備える、薬剤送達ユニット(10)と、
−前記薬剤送達ユニット(10)の一部分を覆って取り外し可能に装着されるように構成されたキャップ(20)であって、前記薬剤送達ユニット(10)の前記部分を受容するためのキャビティ(25、26)を備える、キャップ(20)と、
−前記キャップ(20)と前記薬剤送達ユニット(10)との間の界面に密封を提供するよう適合した密封体(40)と、
−前記キャビティ(25、26)内の内圧をモニタするよう、かつ、5秒未満の期間にわたる、特定の閾値レベルを数値的に超過する前記内圧の変化を感知することに応じて、イベントを記録するよう構成された、センサシステム(30)と
−前記センサシステム(30)に電力供給するためのエネルギー手段(50)とを備える、薬剤送達装置。
【請求項2】
前記センサシステム(30)が気圧センサ(31)を備える、請求項1に記載の薬剤送達装置。
【請求項3】
前記キャビティ(25、26)が、前記薬剤送達ユニット(10)の前記部分が内部に位置付けられうる第1キャビティ部(25)と、前記第1キャビティ部(25)から分離されているが、前記第1キャビティ部(25)と流体連通している、第2キャビティ部(26)とを含み、
前記センサシステム(30)が、前記第2キャビティ部(26)内に配置される、請求項1又は2に記載の薬剤送達装置。
【請求項4】
前記キャップが第1保持手段を備え、前記薬剤送達ユニットの前記部分が、前記第1保持手段と相互作用してスナップフィット接続を提供するよう適合した嵌合式の第2保持手段を備える、請求項1から3のいずれか一項に記載の薬剤送達装置。
【請求項5】
前記密封体(40)が、前記薬剤送達ユニット(10)の外周に沿って装着された、又は、前記薬剤送達ユニット(10)の前記外周と一体化されている、密封リングを備える、請求項1から4のいずれか一項に記載の薬剤送達装置。
【請求項6】
前記密封体(40)が、前記キャップ(20)の内周に沿って装着された、又は、前記キャップ(20)の前記内周と一体化されている、密封リングを備える、請求項1からのいずれか一項に記載の薬剤送達装置。
【請求項7】
記録されたイベントに関する情報を伝達するための出力装置(33)を更に備える、請求項1から6のいずれか一項に記載の薬剤送達装置。
【請求項8】
記録されたイベントに関する情報を記憶するための記憶手段(32)を更に備える、請求項1から7のいずれか一項に記載の薬剤送達装置。
【請求項9】
前記センサシステム(30)が、
−5秒未満の期間にわたる、特定の第1閾値レベルを数値的に超過する雰囲気圧力の低下を感知することに応じて、第1イベントを記録し、
−5秒未満の期間にわたる、特定の第2閾値レベルを超過する前記雰囲気圧力の上昇を感知することに応じて、第2イベントを記録し、
−前記第1イベントと前記第2イベントとの間の経過時間を判定し、かつ、
−前記第1イベントと前記第2イベントとの間の前記経過時間が所定の期間を超過した場合に用量投与イベントを記録するよう構成される、請求項1から8のいずれか一項に記載の薬剤送達装置。
【請求項10】
リマインダを出力するための出力装置(33)及び治療スケジュールを記憶するための記憶手段(32)を更に備え、
前記薬剤送達装置(1)が、記録された用量投与イベント及び記憶された前記治療スケジュールに基づいて、
−次回の用量投与のための将来の時点を判定し、
−前記次回の用量投与のための前記リマインダを設定し、かつ、
−前記将来時点のときに前記リマインダを出力するよう構成される、請求項9に記載の薬剤送達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、薬剤送達装置に関し、より具体的には、着脱可能な保護キャップを備えるかかる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
策定された投薬間隔を患者が十分に順守しないことは、疾患の治療における大きな問題であると、長期にわたり認識されてきた。典型的には、医師は患者に、特定のスケジュールにしたがって必要な薬剤を摂取するよう推奨するが、医薬品の実際の投与は患者の管理にのみ委ねられることが多い。善意の良心的患者であっても、望ましい時に医薬品を摂取し損ねることがしばしばあり、これは、たとえ患者が一日中医薬品を持ち運んでいても起こることでありうる。
【0003】
かかる順守の欠如によって発生しうる悪影響は、患者が、後の時点により多くの用量を摂取することによって摂取し損ねた投薬分を埋め合わせようすると、更に大きくなりうる。例えば、患者が医薬品を摂取したことを正確に思い出せず、ゆえに、最後の服用量が吸収されてからどのくらいの時間が経過したかを正しく判断することができない場合、不適切な投薬が発生しうる。
【0004】
例えば糖尿病などの、規則的でシステマチックな自己管理型治療レジメンを要する疾患を有する患者は、自分の医薬品をいつ摂取するかを記憶するという課題に常に直面している。かかるレジメンにより、1日ごと〜1週間ごとの投薬療法が処方可能であり、この投薬療法は更に、患者個人のルーチン(例えば食事時間、労働時間、トレーニングセッションなど)に適応するよう、一人一人にカスタマイズされねばならない。患者は多くの場合、予定された用量投与を記憶するのに役立つ、自前のシステムを発展させる必要がある。しかし、特に医薬品を規則的に摂取する人に関しては、用量投与という行為自体が心に深く根付くことがあるため、これらの人々は、例えば意識せずに注射を実施した後、自分が特定用量を実際に受容したか否かについての確信がなくなる。これは、患者が短期間において推奨された又は計算された用量の2倍を摂取することになる、危険な二重投薬事案につながる可能性がある。
【0005】
望ましい投薬療法レジメンの著しい非遵守は大きな懸念であるため、上記の課題は、いくつもの順守支援装置によって対処されてきた。これらの順守支援装置は、所与の用量の医薬品の摂取について計画されたスケジュールを人が順守しなかった場合に、警報又はリマインダを提供するよう、適合している。
【0006】
例えば、WO02/056822(Juselius)では、制御装置が、注射ペン用の保護キャップに配置され、かつ、容量的に若しくは電波検出によって、注射ペンからのキャップの除去を非接触で感知するよう適合している。このイベントは、用量投与として認識され、かつ、所定の警戒期間中に二重投薬を行わないよう、ユーザに警告するために使用される。
【0007】
WO2011/124711(Novo Nordisk A/S)では、弾性的に支持され、付勢された作動部材であって、注射ペンによって動かされる作動部材と、キャップ内のスイッチとの間の物理的接触の確立によって、保護キャップのキャビティ内の注射ペンの存在が感知される。ペンをキャップのキャビティから除去し、その後、キャップのキャビティ内にペンを再位置付けするという行為は、キャップ内の電子的手段によって記録され、一定容量の薬剤を投与すべき時にユーザにリマインダを提供するよう、キャップをプログラミングするために使用される。
【0008】
WO2012/001493(Patients Pending Ltd)では、電気機械的スイッチは、キャップが投薬装置に完全に装着されるとキャップ内の作動し、キャップが投薬装置から除去されると解除される。スイッチの作動と解除はいずれも、タイマのリセットを引き起こし、かつ、所定の期間の後に、ディスプレイが、タイマが最後にリセットされてから経過した時間を表示し始めることにより、投薬装置が最後に使用されてから経過した時間をユーザに示すようにする。
【0009】
上記の従来技術の手法に共通しているのは、これらが全て、キャップ内の薬剤送達装置の物理的な存在及び/又は不存在の検出に基づいていることである。これには、取り付け時に、薬剤送達装置とキャップとを互いに対して正確に位置付けることが必要になる。例えば、ユーザが急いでおり、用量投与後にこの2つの物体を正確な相対位置に配置するのに失敗した場合、この特定の装置によって提供される関連特性は損なわれ、装置が信頼できないものになる。
【0010】
更に、WO02/056822における制御装置がキャップへの外部取り付け体である構成、並びに、WO2012/001493における径方向移動式のスイッチ機構によれば、キャップがかなりかさばるものになる傾向があり、このことは通常、自分の薬剤送達装置を一日中持ち運ぶ必要がある人には望ましくない。
【発明の概要】
【0011】
従来技術の少なくとも1つの欠点をなくす、若しくは軽減すること、又は、従来技術の手法の有用な代替例を提供することが、本発明の1つの目的である。
【0012】
詳細には、薬剤送達装置からの薬剤の投与に関する一又は複数の特定イベントの発生を記録することが可能な、薬剤送達装置を提供することが、本発明の1つの目的である。
【0013】
使用が簡単であり、かつ製造が比較的安価なかかる装置を提供することが、本発明の更なる目的である。
【0014】
装置を一日中持ち運ぶユーザにとって特に望ましい細長い構成に実現されうる、かかる装置を提供することが、本発明のまた更なる目的である。
【0015】
たとえユーザが装置のある部品を装置の別の部品に対する特定のある位置に配置しなくても、記録特性が機能する、かかる装置を提供することが、本発明のまた更なる目的である。
【0016】
本発明の開示では、一又は複数の上記の目的を目指す、及び/又は、下記の記載から明らかになる目的を目指す、態様及び実施形態について説明する。
【0017】
一態様において、本発明は、請求項1に記載の薬剤送達装置を提供する。
【0018】
ゆえに、例えばペン注射装置などの薬剤送達装置であって、薬剤リザーバから一定用量の薬剤を吐出するよう動作可能な用量吐出機構を備える、薬剤送達ユニットと、薬剤送達ユニットの一部分を覆って取り外し可能に装着されるように構成されたキャップとを備える、薬剤送達装置が提供されうる。キャップは、第1閉端部と第2開端部との間に延在し、かつ、薬剤送達ユニットの前記部分を受容するためのキャビティを画定する、キャップ壁を備えうる。薬剤送達装置は、キャップと薬剤送達ユニットとの間の界面に密封を提供するよう適合した密封体と、キャビティ内の内圧(すなわち、キャビティ内の局所圧力)をモニタするよう、かつ、5秒未満で発生する、特定の閾値レベルを数値的に超過するキャビティ内の内圧の変化を感知することに応じてイベントを記録するよう構成された、電力供給されるセンサシステムとを、更に備えうる。
【0019】
密封体は、キャップが薬剤送達ユニットに装着されるとキャップと薬剤送達ユニットとの間を密封する、気密、又は少なくとも実質的な気密を提供するよう適合しうる。密封は、キャップが薬剤送達ユニットから取り外される際、及び/又は薬剤送達ユニットに装着される際に、キャビティ内に圧力変化を起こすのに十分なほどぴったりとしたものである限り、完全に気密である必要はないことに、留意されたい。
【0020】
特定の閾値レベルは、周囲の空間における圧力変動によってもっともらしい(falsepositive)記録が発生することを回避するように、設定される。
【0021】
薬剤送達ユニットからキャップを取り外している間にキャビティ内では急速な圧力低下が発生し、薬剤送達ユニットにキャップを取り付けている間にキャビティ内では急速な圧力上昇が発生するが、その両方が、キャップと薬剤送達ユニットとの間の界面の密封部材によって可能になるというのが、基本的な考えである。かかる急速な圧力変化は、センサデバイスによって検出され、プロセッサによってイベントとして記録される。イベントの記録は、タイムスタンプの割り当てを含みうる。
【0022】
キャップは、例えばキャップ壁の内表面に沿って円周方向に分布した突起の形態の、第1保持手段を備えてよく、薬剤送達ユニットの前記部分は、スナップ界面において第1保持手段と相互作用するよう適合した、例えば周囲隆起部の形態の、嵌合式の第2保持手段を備えうる。これによって提供される、キャップと薬剤送達ユニットとの間のスナップフィット(snap−fit)接続により、キャップの通常操作のもとでは、キャップが薬剤送達ユニットに装着される際、及び/又は薬剤送達ユニットから取り外される際のどこかの時点において、キャップに急激な力が加わることが確実になり、それによって、十分に急速なキャビティ内の内圧の変化が確実に発生する。
【0023】
上記で特定された種類の薬剤送達装置では、一般的に、薬剤送達ユニットからの薬剤の投与に関連して、キャップの取り外しとキャップの再装着のサイクルが行われる。ゆえに、キャップを取り外す動作は、その直後に用量投与が行われることの標識と見なされてよく、したがって、その結果生じる様々な動作を開始することの根拠として好適である。
【0024】
ゆえに、イベントの記録が、一又は複数の用量送達関連動作を始動させうる。例えば、イベントが発生した時点が、薬剤投与のおおよその実行時点として使用されうる。この時点は、例えば、薬剤送達装置内のメモリに記憶されうるか、又は、外部の記録装置に送られうる。ゆえに、特定のユーザの薬剤投与履歴を反映する電子ログを提供するために、一又は複数の記録されたイベントのタイムスタンプが使用されうる。
【0025】
イベントの記録は、非常に単純な形態で、例えばその後の何らかの特定の動作に備えて、薬剤送達装置内の電子機器を作動させうる。タイムスタンプは、例えば携帯電話又はインターネットルータなどの外部の電子装置に、通信手段によって通信されうる。
【0026】
加えて、薬剤送達装置は、記録されたイベントに関する情報又は個々のユーザの治療レジメンに関する情報などといった、薬剤送達装置の使用に関する情報を記憶するよう適合した、記憶手段、及び/又は、装置の使用に関する情報、詳細には記録されたイベントに関する情報を伝達するための、例えば電子ディスプレイ、LED、又はラウドスピーカの形態の、出力装置を備えうる。これにより、装置の使用及び/又は治療レジメンに関する特定の詳細事項についてユーザを注意喚起するためのリマインダ機能、並びに/又は、例えば二重投薬を防止するための警報機能を確立することが可能になる。これにより、例えば処方された投薬間隔の順守を評価するために使用されうる情報を収集することも、可能になる。
【0027】
センサ装置は、直接的に圧力勾配を検出する気圧センサ、圧力勾配によって作動可能なスイッチ、又は、圧力勾配によって作動可能な双安定要素でありうる。これらのいずれであっても、記録は、非接触で実施され、かつ、薬剤送達ユニットがキャップに対してある特定の位置にあることとは無関係である。
【0028】
薬剤送達ユニットとキャップとの間の界面における密封体は、薬剤送達ユニットの外表面に沿って(例えばリザーバホルダの周囲に)配置され、かつ/又は、キャップの内表面に沿って(例えばキャップ壁の内側部分に沿って)配置された、密封リングなどの可撓性のタイトフィット構造物を含みうる。密封体は、キャップ壁と薬剤送達装置との間のキャビティに空気が進入することを、少なくとも実質的に防止するよう適合しており、したがって、キャップが従来型の様態で薬剤送達ユニットから取り外される際、又は薬剤送達ユニットに装着される際の(すなわち、5秒未満、例えば、4秒未満、3秒未満、2秒未満、1秒未満、又は二分の一秒未満の)急勾配かつ急激な圧力勾配の生成に、著しく寄与するものである。かかる圧力勾配は、例えば、飛行機の上昇中、車の運転中、又は登山中に起こる自然な圧力変化よりもずっと短い時間にわたって発生し、ゆえに、キャップの装着動作又は取り外し動作の確実な標示を提示する。密封リングは、キャップの内周に沿って、若しくは、薬剤送達ユニットの外周に沿って装着される、別個の構成要素でありうるか、又は、例えば2K成型によって、キャップ内に、若しくは薬剤送達ユニットと一体化されうる。
【0029】
本発明の特定の実施形態では、キャップが薬剤送達ユニットに完全に装着されると、キャップと薬剤送達ユニットのカートリッジホルダの遠位部との間の、カートリッジホルダの針マウント部の近位に、少なくとも実質的に気密な密封が提供されるように、密封リングが配置される。これによって、キャップの密封された内部容積が最小化されることにより、圧力変化が相対的に増大し、圧力変化のより容易な検出が可能になる。
【0030】
薬剤送達ユニットに、又はキャビティ内に(例えばキャップ壁の内壁部に沿って)、センサシステムが配置されうる。本発明の特定の実施形態では、キャビティは、薬剤送達ユニットの一部分を受容するよう適合した第1キャビティ部と、センサシステムを収容するよう適合した第2キャビティ部とを含む。第1キャビティ部と第2キャビティ部とは、物体が第1キャビティ部に進入することによりセンサシステムが損傷するリスクを最少化するために、物理的に分離される。しかし、第1キャビティ部と第2キャビティ部とは、センサシステムがキャビティ内の雰囲気圧力を全体的にモニタすることを可能にするよう、流体連通している。
【0031】
上述の類の薬剤送達装置のユーザの多くは、使用と使用との間には自身の装置を保管し、一定用量をいざ投与しようという時にだけ、薬剤送達ユニットからキャップを除去する。しかし、一部のユーザはあまり厳格ではないことがある。一部の人々は、薬剤送達ユニットからのキャップの取り外し及び薬剤送達ユニットへの再装着を繰り返すことを含め、装置をもてあそぶことすらある。そのような場合、単一動作についてのイベントの記録に基づくことは、不正確になりうる。
【0032】
ゆえに、本発明の別の態様において、薬剤送達装置であって、A)薬剤リザーバから一定用量の薬剤を吐出するよう動作可能な用量吐出機構を備える、薬剤送達ユニットと、B)薬剤送達ユニットの一部分を覆って取り外し可能に装着されるように構成されたキャップであって、薬剤送達ユニットのその部分を受容するためのキャビティを備える、キャップと、C)キャップと薬剤送達ユニットとの間の界面に気密密封を提供するよう適合した、密封体と、D)センサシステムであって、d1)キャビティ内の雰囲気圧力をモニタし、d2)5秒未満の期間にわたる、特定の第1閾値レベルを数値的に超過する雰囲気圧力の低下を感知することに応じて、第1イベントを検出し、d3)5秒未満の期間にわたる、特定の第2閾値レベルを超過する雰囲気圧力の上昇を感知することに応じて、第2イベントを検出し、d4)第1イベントと第2イベントとの間の経過時間を判定し、かつ、d5)第1イベントと第2イベントとの間の経過時間が所定の期間を超過した場合に用量投与イベントを記録するよう構成された、センサシステムとを備える、薬剤送達装置が提供される。
【0033】
この所定の期間は、ユーザが多かれ少なかれ意識的にキャップを操作することで発生する可能性があるもっともらしいケースを記録するリスクを、最小化するように選ばれうる。薬剤送達装置が、糖尿病治療の分野により既知の注射装置である場合、この装置の適切な使用は、一般的に、キャップを取り外すステップ、針を取り付けるステップ、用量を設定するステップ、針を挿入するステップ、用量を吐出するステップ、針を後退させる(除去することもある)ステップ、及び、キャップを再装着するステップを、含む。熟練したユーザであっても、これらのステップを実施するためには一定量の時間を必要とする。ゆえに、一例としては、所定の期間は10秒間に設定されうる。
【0034】
この場合、薬剤送達装置は、キャップを取り外す動作とキャップを再装着する動作との間の時間が所定の期間を超過した場合にだけ、関連する用量送達としての1つのイベントを記録する。薬剤投与のおおよその実行時点は、第1イベントが検出された時点と第2イベントが検出された時点とによって規定される、終了時点を含む時間範囲内の任意の時点でありうる。一例としては、記録された用量投与イベントのおおよその実行時点は、第2イベントの発生時点として選ばれうる。
【0035】
本発明の例示的な実施形態では、特定の第1閾値レベルは特定の第2閾値レベルに等しい。
【0036】
薬剤送達装置は、センサシステムが用量投与イベントを記録することに応じて、かつ、記憶されている治療スケジュールに基づいて、次回の用量投与のための将来の時点を判定し、次回の用量投与のためのリマインダを設定し、かつ、その将来の時点のときにリマインダを出力するよう、構成されうる。それにより、薬剤送達装置は、差し迫った用量投与について対象ユーザを注意喚起するために使用されうる、自動警報機能を提供しうる。代替的又は追加的には、薬剤送達装置は、次回の用量投与のための既定の将来の時点に基づいて、ユーザに投与関連通知を提供するよう、例えば、次回の用量投与がいつになるかなどの情報を表示するよう、構成されうる。本文脈において、次回の用量投与のための既定の将来の時点とは、必ずしも正確な時刻のことではなく、むしろ、ユーザが次回用量を投与することが推奨される期間でありうることに、留意されたい。ゆえに、次回の用量投与のリマインダは、例えば、この期間の開始時に出力されてよく、かつ、期間に関する通知(その終了時など)を内包しうる。
【0037】
本発明による、上記で概説した薬剤送達装置は、従来技術の手法を凌駕するいくつかの利点を有する。例えば、1)センサデバイスとそれに関連する電子機器が、キャップ内及び/又は薬剤送達ユニット内に個別に配置されて、薬剤送達装置の設計が大いに柔軟になりうる。2)圧力検出システム自体が占める空間が非常に小さく、したがって、薬剤送達装置のサイズに対する影響を最小限にするように(例えばキャップのキャビティ内の端部壁に)配置されうる。ゆえに、径方向寸法が増大する原因になりうるのは、キャップと薬剤送達ユニットとの間の密封体だけとなる。3)圧力検出手法が、電子部品同士の物理的接触を必要とせず、ゆえに、薬剤送達ユニット及びキャップの形状に対して、並びに、キャップが取り付けられている時に薬剤送達ユニットに注射針が装着されうるか否かに対して、影響を有さないか、又は、最小限の影響しか有さず、装置構成が柔軟になる。4)圧力検出システム及び密封体がキャップ内だけに実装されてよく、このキャップを、種々の医薬品を伴う薬剤送達ユニットを含む複数の薬剤送達ユニットと共に再使用することが可能になる。5)薬剤送達ユニットが、キャップ内に挿入されている時に装着済みの注射針を備えている場合、密封体が薬剤の蒸発を(それにより針凝固のリスクを)減少させる。
【0038】
センサシステムは、小型バッテリ又は太陽電池の配置などといったエネルギー手段によって、電力供給されうる。エネルギー手段は、例えば、キャップのキャビティ内に、及び/又は薬剤送達ユニットに、位置付けられうる。
【0039】
本明細書では、ある種の態様又はある種の実施形態(例えば「一態様(an aspect)」「第1態様(a first aspect)」「一実施形態(one embodiment)」「例示的な一実施形態(an exemplary embodiment)」等)への言及は、それぞれの態様又は実施形態に関連して説明されている特定の特徴、構造、又は特性が、本発明の少なくともその1つの態様又は実施形態に含まれ、又はそれに内在することを表すが、必ずしも、本発明の全ての態様又は実施形態に含まれ/内在することを表すわけではない。しかし、本発明に関連して説明されている様々な特徴、構造、及び/又は特性の任意の組合せが、本書に明示的に記載されない限り、又は、文脈によって明確に否定されない限り、本発明によって包含されることを強調しておく。
【0040】
本文における、あらゆる例又は例示的な文言(例えば「など(such as)」等)の使用は、本発明を明白にすることを意図しているにすぎず、特許請求されない限り、本発明の範囲に限定を課するものではない。更に、本明細書中のいかなる文言又は言い回しも、特許請求されない要素のいずれかが本発明の実践に不可欠であることを示していると、解釈すべきではない。
【0041】
下記では、図面を参照しつつ本発明について更に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】本発明の一実施形態による薬剤送達装置の側面図である。
図2図1の薬剤送達装置の遠位部の長手方向断面図である。
図3】キャップが取り外された状態の、薬剤送達装置の斜視図である。
図4】薬剤送達装置によって記録された投薬関連イベントを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0043】
図面では、同様の構造体は主に同様の参照番号により特定されている。
【0044】
下記で「上向き(upper)」及び「下向き(lower)」などの相対表現が使用される場合、これらは付随する図に言及するものであり、必ずしも実際の使用状況に言及するものではない。示されている図は概略表現であり、そのため、種々の構造体の構成、並びにそれらの相対寸法は、例示目的の役割を果たすことのみを意図している。
【0045】
図1は、本発明の例示的な一実施形態による、注射装置1の側面図である。注射装置1は、注射ペン10と保護キャップ20とを備える。注射ペン10は、糖尿病治療において一般的に使用される種類のものであり、送達される用量を選択的に設定するための近位用量設定スリーブ14と、設定用量16を表示するためのウインドウ17とが設けられた、管状ハウジング11を有する。注射ペン10は、ハウジング11内に収容された用量送達機構を作動させるための、注射ボタン15を更に有する。キャップ20は、上述の種類の注射ペンにより既知の様態で、注射ペン10に装着される。
【0046】
図2は、注射装置1の遠位部の長手方向断面図であり、注射ペン10に完全に装着されている時のキャップ20の内部を示している。キャップ20は、実質的に管状の側壁21、及び横断端部壁22によって画定される。内部通気孔24を有する横断仕切り23が、キャップ20の内部を、物理的に分離された2つのキャビティ(カートリッジホルダ12を受容するための近位キャビティ25と、センサシステム30を収納するための遠位キャビティ26)に分割している。
【0047】
カートリッジホルダ12は、注射ペン10の一部を形成し、かつ、薬剤カートリッジ19を保持するよう作用する。カートリッジホルダ12の遠位端部には、ペン針アセンブリ60を受容するための針マウント13が設けられる。キャップ20が注射ペン10に完全に装着された時には、カートリッジホルダ12は、キャビティ25内の最大進入点に到達している。
【0048】
遠位キャビティ26は、内部通気孔24を介して近位キャビティ25と流体連通しており、ゆえに、遠位キャビティ26においても、カートリッジホルダ12を挿入するか、又は後退させることによる、近位キャビティ25内の圧力変化を検知しうる。センサシステム30は、遠位キャビティ26内に配置されており、統合型プロセッサ・メモリユニット32と、かつ、例えば携帯電話(図示せず)などの外部装置にデータを自動送信するよう適合したRF送信器33と、電気的に接続された気圧センサ31を備える。センサシステム30は、バッテリ50によって電力供給される。
【0049】
注射装置1で実装されるのに適した例示的な圧力センサは、Bosch Sensortech社によるBMP280、StrainSense社によるMS5561C、又は、Rhopoint Components社によるHP203Bである。
【0050】
図3は、キャップ20と注射ペン10との間のスナップフィットとして作用する周囲隆起部18の遠位側に隣接して、カートリッジホルダ12にきつく巻きつくように配置された、密封リング40が見えるよう、キャップ20が注射ペン10から取り外されている状態の、注射装置1の斜視図である。密封リング40は、弾性であり、かつ、キャップ20が注射ペン10に完全に装着されると、カートリッジホルダ12と側壁21との間に、気密な、又は実質的に気密な密封を提供する。密封リング40は、代替的には、カートリッジホルダ12のより遠位の部分に、又は、側壁21の内側部分に沿って、位置付けられうることに留意されたい。
【0051】
ゴム製Y字密封リングが、注射装置1の密封体として使用されるのに特に適している。しかし、例えば従来型のOリングなどの他の密封体も、代替的に使用されうる。キャップと薬剤送達ユニットとの間にプレスフィット形状を有することによっても、十分な密封を得ることが可能である。
【0052】

図4は、注射装置1のイベントログ機能を定性的に示しているグラフである。t=1秒の時点で、ユーザは注射ペン10からキャップ20を引き抜いている。この動作は、二分の一秒未満で行われており、密封リング40が側壁21に沿って摺動するにつれて、近位キャビティ25と遠位キャビティ26の両方において急激かつ局所的な20mbarの圧力低下を引き起こしている。この圧力低下は、センサシステム30によって検出され、特定の閾値レベルを数値的に超過することと、5秒未満で行われることという両方の要件を満たしていることから、キャップ外しイベントとして記録される。その後、t=n秒の時点で、ユーザが注射ペン10にキャップ20を戻している。この動作は、近位キャビティ25と遠位キャビティ26の両方において急激かつ局所的な80mbarの圧力上昇を引き起こし、センサシステム30によって検出されている。この圧力上昇は、特定の閾値レベルを数値的に超過することと、5秒未満で行われることという両方の要件を満たしていることから、キャップ付けイベントとして記録される。この例では、センサシステム30は、20〜80mbarの範囲内の、数値的な圧力変化を検出した。発生した圧力変化は、密封された内部キャップ容積に、並びに、キャップと注射ペンとの間の密封の気密性と、キャップの装着/取り外しの速度に、依存することに留意されたい。
【0053】
ここまでに、注射装置1は、t=1秒のキャップ外しイベントと、t=n秒のキャップ付けイベントとを記録している。n-1≦(例えば10秒間の)所定の期間である場合、2つのイベントはノイズ信号として無視される。しかし、n-1>所定の期間である場合、注射装置1は、用量投与イベントのログを付け、かつ、タイムスタンプを含むこの用量投与イベントの情報を、RF送信器33を介して予め決まっている携帯電話体に自動送信する。
【0054】
この携帯電話は、情報を受信し、注射装置1からの情報、並びに、予め計画された投与スケジュールに基づいて、次回の用量投与のためのリマインダを生成する。RF送信器33に代えて、又はそれに加えて、注射装置1は、プロセッサ32によって生成されたリマインダを視覚的に表示し、かつ/又は聴覚的に出力するための、電子ディスプレイ及び/又は音源を備えうることに、留意されたい。
図1
図2
図3
図4