(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6788670
(24)【登録日】2020年11月4日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】バスシステムを介したデータ受信におけるバス振動を選択的に隠すための装置および方法
(51)【国際特許分類】
H04L 25/03 20060101AFI20201116BHJP
B60R 16/023 20060101ALI20201116BHJP
H04L 25/02 20060101ALI20201116BHJP
【FI】
H04L25/03 Z
B60R16/023 P
H04L25/02 V
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-524384(P2018-524384)
(86)(22)【出願日】2016年11月7日
(65)【公表番号】特表2019-503102(P2019-503102A)
(43)【公表日】2019年1月31日
(86)【国際出願番号】EP2016076778
(87)【国際公開番号】WO2017080938
(87)【国際公開日】20170518
【審査請求日】2018年5月11日
(31)【優先権主張番号】102015222334.5
(32)【優先日】2015年11月12日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100147991
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥居 健一
(72)【発明者】
【氏名】ハルトヴィッチ、フロリアン
(72)【発明者】
【氏名】ウォーカー、シュテッフェン
【審査官】
川口 貴裕
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−257205(JP,A)
【文献】
特開2009−225138(JP,A)
【文献】
特開2011−010053(JP,A)
【文献】
特開2011−244241(JP,A)
【文献】
特開平07−058712(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 25/02
H04L 25/03
B60R 16/023
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バスシステム(1;2)を介したデータ受信におけるバス信号(CAN_H,CAN_L)の振動を選択的に隠す装置(144)を含む加入者局(10;20;30;40;50)であって、
前記装置(144)は、
前記バスシステム(1;2)のバス線(60)上でのバス信号(CAN_H,CAN_L)の差を監視し、ドミナントな状態からレセッシブな状態(96、95)への前記バス信号(CAN_H,CAN_L)の移行後の前記バス信号(CAN_H,CAN_L)の差と、少なくとも1つの所定の閾値(RTH1,RTH2,RTH3)を比較することによって、前記バス信号(CAN_H,CAN_L)の振動の発生を検出する監視要素(1441)と、
前記監視要素(1441)が前記バス信号(CAN_H,CAN_L)の振動の発生を検出したときに、所定のマスク時間(tmask)の間、前記バス信号(CAN_H,CAN_L)の振動をマスクするマスク要素(1442)と、
を備え、
前記加入者局(10;20;30;40;50)は、
受信信号ドライバ(172)と、
を更に備え、
前記マスク要素(1442)は、前記受信信号ドライバ(172)を、前記所定のマスク時間(tmask)の間前記レセッシブな状態に維持するよう構成される、
加入者局(10;20;30;40;50)。
【請求項2】
前記加入者局(10;20;30;40;50)は、
前記バス信号(CAN_H,CAN_L)が供給される受信比較器(143)と、
を更に備え、
前記監視要素(1441)は、前記受信比較器(143)の出力(143A)を監視するよう構成される、
請求項1に記載の加入者局(10;20;30;40;50)。
【請求項3】
前記監視要素(1441)は、
前記少なくとも1つの所定の閾値(RTH1,RTH2,RTH3)として、2つの異なる第1の受信閾値(RTH1)及び第2の受信閾値(RTH2)を有し、前記バス信号(CAN_H,CAN_L)から生成されたアナログ差動信号(VDIFF)が、前記第1の受信閾値(RTH1)又は前記第2の受信閾値(RTH2)のいずれかを超過した回数、又は、
前記少なくとも1つの所定の閾値(RTH1,RTH2,RTH3)として、3つの異なる第1の受信閾値(RTH1)、第2の受信閾値(RTH2)及び第3の受信閾値(RTH3)を有し、前記バス信号(CAN_H,CAN_L)から生成されたアナログ差動信号(VDIFF)が、前記バス信号(CAN_H,CAN_L)から生成されたアナログ差動信号(VDIFF)が、前記第1の受信閾値(RTH1)、前記第2の受信閾値(RTH2)又は前記第3の受信閾値(RTH3)のいずれかを超過した回数、
を、前記バス信号(CAN_H,CAN_L)の振動の発生の検出の条件としてカウントするよう構成される、
請求項1又は2に記載の加入者局(10;20;30;40;50)。
【請求項4】
前記監視要素(1441)は、
前記少なくとも1つの所定の閾値(RTH1,RTH2,RTH3)として、第2の受信閾値(RTH2)と、前記第2の受信閾値(RTH2)よりも電圧値が小さい第1の受信閾値(RTH1)を有し、
前記バス信号(CAN_H,CAN_L)から生成されたアナログ差動信号(VDIFF)が、前記第1の受信閾値(RTH1)を超過する回数よりより少ない回数で前記第2の受信閾値(RTH2)が超過することを、前記バス信号(CAN_H,CAN_L)の振動の発生の検出の条件とするよう構成される、
請求項1又は2に記載の加入者局(10;20;30;40;50)。
【請求項5】
前記監視要素(1441)は、
前記少なくとも1つの所定の閾値(RTH1,RTH2,RTH3)として、第3の受信閾値(RTH3)を有し、前記バス信号(CAN_H,CAN_L)から生成されたアナログ差動信号(VDIFF)が、前記第3の受信閾値(RTH3)を超過した回数、
を、前記バス信号(CAN_H,CAN_L)の振動の発生の検出の条件としてカウントするよう構成される、
請求項1又は2に記載の加入者局(10;20;30;40;50)。
【請求項6】
前記マスク要素(1442)は、1ビット時間(tdom)後に前記マスク時間(tmask)の間、デジタル受信信号(RxD)をマスクするよう構成される、請求項5に記載の装置(144)。
【請求項7】
前記バス信号(CAN_H,CAN_L)は、CANプロトコル、CAN FDプロトコルのいずれかに準拠して構成される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の加入者局(10;20;30;40;50)。
【請求項8】
バス線(60)と、
前記バス線(60)により通信のために互いに接続された少なくとも2つの加入者局(10;20;30;40;50)と、
を備え、
前記加入者局(10;20;30;40;50)の少なくとも1つは、請求項1〜7のいずれか一項に記載の加入者局(10;20;30;40;50)である、
バスシステム(1;2)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、当業者の視点から見れば車両での適用においてますます粗悪に実現されているバス線の終端およびトポロジを補うための、バスシステムを介したデータ受信におけるバス振動を選択的に隠すための装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CANバスシステムは、例えば自動車内でのセンサと制御装置との間の通信の際に使用される。CANバスシステムでは、メッセージは、ISO11898のCAN仕様書に記載されるように、CANプロトコルを用いて伝送される。
【0003】
CANバスシステムでは、全てのプロトコル部分においてビットレートが同じである。最大ビットレートは1MBit/hであり、すなわち、ビット時間tbitは1μsである。CANプロトコルの発展形態、すなわちCAN FD(CAN with flexible data rate)では、従来のCANプロトコルと比較して、調停フェーズの終りには、後続のデータフェーズのためのデータレートまたはビットレートが、例えば2Mbit/sまたは5MBit/sに上げられる。これにより、データレートまたはビットレートが5Mbit/sの際に、対応するより短いビット時間tbit、すなわち例えばtbit=200msが生じる。このことは、現在のISO標準11898−1(開発中)、または、CAN FDによるCANプロトコル仕様書としての仕様書「Can with Flexible Data−Rate、Specification Version 1.0」(2012年4月17日リリース)に、より詳細に記載されている。
【0004】
CAN物理層標準ISO11898−2/−5/−6によれば、CANバスシステムは、センサまたは制御装置等の少なくとも2つの加入者局またはノードが、それぞれ分岐線によってバス線と接続されるよう構成される。バス線は、当該バス線の2つの末端がそれぞれ理想的に1つの終端抵抗により終了し、または終端している。このトポロジは理想的に、ドミナント(dominant)からリセッシブ(rezessiv)またはリセッシブからドミナントへとバス状態が入れ替わる際に過渡現象を示さない。CAN物理層標準ISO11898−2/−5/−6によれば、上記トポロジのみが利用される。
【0005】
現在では、これに対して現実的には終端抵抗を1つだけ含むいわゆるスタートポロジがますます頻繁に実装されることが観察されている。このことは、製造プロセスおよび工程内管理が容易になるため、特に車両の製造時には有利である。ただし、上記トポロジおよび終端には以下のような劣悪な特性があり、すなわち、特にドミナントからリセッシブへのバス信号の移行時に、トランシーバ最終段が停止される場合に、振動の形態による強い変化(Dynamik)をバス線上に残すという劣悪な特性がある。最悪の場合、振動は、信号ビットの全ビット時間tbitにわたって減衰せず、その後、以下に記載するような状況により、望ましくないことに、受信加入者局の受信信号RXのための端子で振動として検出される。
【0006】
名目ビット時間Nは、4つのフェーズに分けられ、すなわち、Sync_Seg(N)_Phase、Prop_Seg(N)_Phase、Phase_Seg1(N)_Phase、および、Phase_Seg2(N)_Phaseに分けられる。ここで、Sync_Seg(N)_Phaseは、名目ビット時間Nの1/Nを含み、Prop_Seg(N)_Phaseは、名目ビット時間Nの5/Nを含み、Phase_Seg1(N)_PhaseおよびPhase_Seg2(N)_Phaseはそれぞれ、名目ビット時間Nの4/Nを含む。
【0007】
ビットは、受信加入者局で、名目ビット時間N内の設定可能な時点にサンプリングされる。この設定可能な時点は、サンプリング点またはサンプルポイント(Sample Point)とも呼ばれる。サンプリング点は通常、Phase_Seg1(N)とPhase_Seg2(N)の間にプログラムされている。サンプリング点の時点に、対応する新しいバス状態が受信ノードで存在する場合にのみその新しいバス状態も検出される。
【0008】
したがって、専門的に見て妥当ではないバスシステムの終端およびトポロジによる、バス電圧の長く続く振動は、先に記載した現在の現実的な条件下での受信加入者局でのエラーのないデータ受信を妨げまたは邪魔する一要因である。CAN FDでは、受信者側加入者局でのエラーのないデータ受信を妨げまたは邪魔する別の要因は、ビットレートの上昇によるビット時間tbitの短縮である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の課題は、上記の問題を解決するバスシステムを介したデータ受信におけるバス振動を選択的に隠すための装置および方法を提供することである。特に、当業者の視点から見れば車両での適用においてますます粗悪に実現されているCANバス線の終端およびトポロジを補うことが可能な、バスシステムを介したデータ受信におけるバス振動を選択的に隠すための装置および方法が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本課題は、請求項1の特徴を備えたバスシステムを介したデータ受信におけるバス振動を選択的に隠す装置によって解決される。本装置は、バスシステムのバス線上でのバス信号の差を監視する監視要素と、監視要素による監視結果により、ドミナントな状態からレセッシブな状態へのバス信号の移行後のバス信号の振動が、少なくとも1つの所定の閾値を超過したことが判明した場合に、所定のマスク時間の間、バス信号の振動をマスクするマスク要素とを備える。
【0011】
本装置によって、当業者の視点から見れば粗悪に実現されたバストポロジの場合でも、CAN物理層標準ISO11898−2/−5/−6で定められたものとして、正確なデータ受信を実現することが可能である。これにより、車両で利用されるバスシステムの伝送特性を悪化させること無く、車両の製造プロセス、および、車両の製造時の工程内管理が容易になる。
【0012】
本装置はさらに、バスシステムのユーザのために以下のことを可能とし、すなわちシステム設計の際のサンプリング点またはサンプリングポイント(Sampling point)のパラメータ化またはプログラミングのために、ドミナント・ビットについて図ではtdomとして示される1ビットのビット時間内の時間的に比較的長いフェーズを可能にする。
【0013】
これに加えてさらに、本装置は、シリコン表面に対する必要性が非常に低く、これにより製造コストが非常に低い。
【0014】
本装置のさらなる別の利点は、本装置が、CANプロトコルまたはCAN FDプロトコルに準拠した調停過程の間に、バストポロジおよび終端等の様々な運用に対して適合されることである。
【0015】
本装置は、既存のバスシステムの場合にも後から簡単に付け足される。
【0016】
本装置の有利なさらなる別の構成は、従属請求項に示されている。
【0017】
受信比較器の出力を監視する監視要素が配置され、受信比較器の少なくとも2つの入力口にはバス信号の差が供給され、および/または、マスク要素は、加入者局の受信信号ドライバを、所定のマスク時間の間レセッシブな状態に維持するよう構成されるということが可能である。
【0018】
一変形例によれば、加入者局がバス信号の受信者としてまたは送信者として振る舞うかに従って、ドミナント・ビットのビット時間および所定のマスク時間の算定は変更されうる。
【0019】
監視要素は、バス信号から生成された信号が負の値により受信閾値を超過した回数を、マスク要素の作動のための前提条件としてカウントするよう構成され、および/または、監視要素は、2つの受信閾値または3つの異なる受信閾値が超過された回数をカウントするよう構成されうる。
【0020】
好適に、第1の受信閾値は、第2の受信閾値よりも電圧値が小さく、マスク要素は、第1の受信閾値より少ない頻度で第2の受信閾値を超過する場合には、バス信号から生成された信号の振動を所定のマスク時間の間マスクするよう構成される。代替的または追加的に、監視要素は、第3の受信閾値を用いて、信号が負の値により超過した回数を検査するよう構成されうる。代替的または追加的に、マスク要素は、ドミナントからレセッシブへの状態の入れ替わりが起こりかつ第3の受信閾値が超過された場合には、1ビット時間後にマスク時間の間デジタル受信信号をマスクするよう構成されうる。
【0021】
上記の装置は、バスシステムの加入者局のための送信/受信モジュールの一部でありうる。
【0022】
上記の送信/受信モジュールは、バスシステムのための加入者局の一部でありうる。さらに、加入者局は、CANコントローラと、送信/受信モジュールを収容するためのシステムASICとをさらに有し、上記の装置は、送信/受信モジュールの受信比較器の出力口と、CANコントローラの受信信号のための信号ドライバの入力口との間に接続される。
【0023】
好適に、加入者局のためのバス信号は、CANプロトコルおよび/またはCAN FDプロトコルに準拠して構成される。
【0024】
上記の装置は、バス線と、当該バス線により通信のために互いに接続された少なくとも2つの加入者局とを有するバスシステムの一部でもありうる。その際に、加入者局の少なくとも1つは、上記の装置を有しうる。
【0025】
先に挙げた課題はさらに、請求項10の特徴を備えたバスシステムを介したデータ受信におけるバス振動を選択的に隠す方法によって解決される。本方法は、以下の工程、すなわち、監視要素により、バスシステムのバス線上でのバス信号の差を監視する工程と、監視要素による監視結果により、ドミナントな状態からレセッシブな状態へのバス信号の移行後のバス信号の振動が、少なくとも1つの所定の閾値を超過したことが判明した場合に、マスク要素により、所定のマスク時間の間バス信号の振動をマスクする工程とを含む。
【0026】
本方法は、上記装置に関して先に示したのと同じ利点を達成する。
【0027】
本発明のさらなる別の可能な実現は、実施例に関して先に記載しまたは以下に記載する特徴または実施形態の、明示的に挙げられていない組み合わせも含む。その際に、当業者は、本発明の各基本形態に対する改良または補足として、個々の観点も追加するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0028】
以下では、本発明が、添付の図面を参照して実施例を用いて詳細に解説される。
【
図1】第1の実施例に係るバスシステムの簡略化されたブロック図を示す。
【
図2】
図1のバスシステムにおける加入者局の簡素化されたブロック図を示す。
【
図3】
図1のバスシステムの加入者局の送信信号TXの一部の一例を示す。
【
図4】
図3の送信信号TXの結果であるバス信号CAN_HおよびCAN_Lを示す。
【
図5】
図3の送信信号TXに基づき2つのバス線CAN_HとCAN_Lとの間で設定される差動電圧V
DIFFのアナログ信号を示す。
【
図6】
図3の送信信号TXに基づき加入者局で設定される受信者出力信号REC_Cを示す。
【
図7】第1の実施例に係る装置を備えた加入者局の受信信号RxD1と、第1の実施例に係るバスシステムでの従来の加入者局の受信信号RxD2と、が重なって示された図を示す。
【
図8】
図3の送信信号Txから得られた差動信号VDIFFであって、追加的な受信閾値が示された上記差動信号VDIFFを示す。
【
図9】第2の実施例に係るバスシステムの簡略化されたブロック図を示す。
【0029】
図では、特に記載がない限り、同一または機能的に同一の構成要素には同一の符号が付される。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1は、車両で、特に自動車、飛行機等で利用され、または病院等で利用されうるバスシステム1を示している。
【0031】
図1では、バスシステム1は、第1の加入者局10と、第2の加入者局20と、第3の加入者局30と、第4の加入者局40と、第5の加入者局50と、バス線60と、終端抵抗70とを有する。
【0032】
バスシステム1は、例えば、CANバスシステムまたはCAN FDバスシステム等でありうる。全く一般的に、本実施例でのバスシステム1は、加入者局10〜50のうちの1つの加入者局によるバス線60への衝突のない排他的なアクセスが少なくとも部分的に保証された通信のために構成されている。
【0033】
第1の加入者局10は、例えば、自動車の制御装置でありうる。第2の加入者局20、第4の加入者局40、および第5の加入者局50はそれぞれ、例えば、自動車のセンサでありうる。第3の加入者局30は、例えば、自動車の表示装置でありうる。
【0034】
図2は、加入者局10の構造を、当該加入者局のCANモジュールに関してより詳細に示している。他の加入者局20〜50のCANモジュールはそれぞれ、加入者局10のCANモジュールと同じように構成されている。
【0035】
加入者局10は、大半の部分が、CANモジュールを備えた従来の加入者局と同じように構成される。したがって以下では、加入者局10の、CANモジュールを備えた従来の加入者局とは異なる部分または本発明の説明のために言及する部分についてのみ記載する。
【0036】
加入者局10のCANモジュールは、システムASIC10Aと、組み込まれた送信/受信モジュール10Bとを有し、組み込まれた送信/受信モジュール10Bは、システムASIC10Aを介してCANコントローラ10Cと接続されている。システムASIC10Aには、CANコントローラ10Cからの送信信号TxDのためのデジタル端子TxDと、CANコントローラ10Cのための受信信号RxDのためのデジタル端子RxDとが設けられている。
【0037】
送信/受信モジュール10Bには、バス線60への接続のために、端子CAN_H、CAN_Lが設けられており、この端子CAN_H、CAN_Lは、CANモジュールの外部の抵抗RL/2を介して互いに接続されている。2つの抵抗RL/2の接続は、一方では、コンデンサCを介してアースに接続され、他方では、端子VSPLITと接続されている。端子CAN_GNDでは、送信/受信モジュール10Bがアースと接続されている。さらに、送信/受信モジュール10Bは、端子CAN_SUPPLYを有し、この端子CAN_SUPPLYを介して、送信/受信モジュール10Bのための値5Vの供給電圧が、フィルタ80を介して供給される。
【0038】
さらに、加入者局10の送信/受信モジュール10Bは、ESD保護ユニット11と、任意で利用可能なまたは既存のVSPLITユニット12と、送信ユニット13と、受信ユニット14と、ウェイクアップロジック部(Wake−up−Logik)とも称されうるウェイクアップユニット15と、デジタルユニット16と、入力/出力ユニット17とを有する。送信ユニット13は、MOSFETおよびダイオードで構成されるさらに詳細には示されない回路の他に、TxDドライバまたは送信信号ドライバ131を有する。受信ユニット14は、抵抗で構成されるさらに詳細に示されない回路の他に、バスバイアス電圧装置141と、ウェイクアップパルスを受信するウェイクアップ受信機142と、受信比較器143と、装置144とを有する。入力/出力ユニット17は、TXドライバ171と、RxDドライバまたは受信信号ドライバ172を有する。
【0039】
装置144は、監視要素1441と、マスク要素1442とを有する。任意に、装置144は、フィルタ1443も有する。監視要素1441は、
図8に関して示され解説されるように、3つの受信閾値RTH1、RTH2、RTH3を有するロジック部として実現されうる。
【0040】
図3は、CANコントローラ10Cにより端子TxDで送信ユニット13宛てに入力されるデジタル送信信号TxDを示しており、この送信信号TxDは、送信ユニット13によって、端子CAN_HおよびCAN_Lでバス線60へと送信される。
【0041】
図4は、デジタル送信信号TxDから得られた、バス線60上での信号CAN_HおよびCAN_Lを示している。
【0042】
端子CAN_Hの信号は、さらに、受信比較器143の第1の入力部に印加される。さらに、端子CAN_Lの信号は、受信比較器143の第2の入力口に印加される。この結果、受信比較器143の入力側では、CANバス線60から入ってきた上記信号が、その振幅に関して分圧されて印加される。受信比較器143の上記入力口の間には、
図5に示される、分圧された形による差動電圧VDIFFが存在する。受信比較器143の出力口では、
図6に係る受信者出力信号REC_Oが出力され、この受信者出力信号REC_Oは、3つまである入力口を介して装置144に入力される。受信信号ドライバ172は、装置144の出力から、
図7に係るデジタル受信信号RxD1を形成する。
【0043】
図3〜
図7による概要から分かるように、加入者局10では、送信ユニット13が、
図3に係るTxD端子に届いたレベル91、92を、
図4に示すようなCANバス線60上でのドミナント状態およびリセッシブ状態に変換する。受信ユニット14は、このバス状態ドミナントおよびレセッシブを、
図5に係る差動電圧VDIFFへの受信閾値THRXを利用して、
図6に係る受信者出力信号REC_Oとして検出する。検出されたバス状態は、RxD端子で、
図7に示すようなレベル97、98として出力される。その際に、ドミナントレベル98は、時間tdomの間続く。ドミナントレベル98の後に続くリセッシブレベル97は、以下で詳細に記載するように、時間tmaskの間維持される。
【0044】
VDIFFは、2つのバス線CAN_HとCAN_Lとの間のアナログ差動信号である。ここでは、VDIFF=CAN_H−CAN_Lが有効である。差動信号VDIFFは、リセッシブ・ビットについては0Vであり、ドミナント・ビットについては典型的に2Vである。
【0045】
加入者局10の駆動時には、受信比較器143(
図2)の入力口に、抵抗RL/2により分圧されたバス電圧が印加される。受信比較器143は、上記分圧されたバス電圧の差を受信者出力信号REC_Oに変換し、この受信者出力信号REC_Oは、
図2に示すように、装置144を介してかつ受信信号ドライバ172(
図2)によって、加入者局10のCANコントローラ10CのためのRxD端子へと移動させられる。
【0046】
従来では、CANトランシーバ(Tranceiver)では、切り替え閾値または受信閾値RTH1のみ、ドミナントなバス状態とリセッシブなバス状態とを区別するために実装される。これについて、双方の閾値監視の結果を示すためには、受信比較器143の1つの出力で十分である。この場合、受信比較器143は、分圧された差動電圧VDIFFを受信閾値RTH1と比較する。
【0047】
本発明の実施のために、2つのさらなる別の受信閾値RTH2、RTH3が差動電圧VDIFFの振動の振幅を検出するために利用されるため、受信比較器143は、閾値監視の結果を示すために3つの出力を有する。
【0048】
受信比較器143の3つまである出力は、装置144への入力として提供される。
【0049】
装置144は、その監視要素1441(
図8)によって、加入者局10の通常駆動の間、受信比較器143の3つまである出力143A(
図2)を監視する。この監視を介して、
図6および
図7に示すように、リセッシブ状態95(
図6)の後に少なくともドミナントな状態の時間の間またはドミナント・ビット時間tdomの間、ドミナントなバス状態(
図6)が確認される場合には、バス線60上での次の状態の入れ替わり、すなわちドミナントからリセッシブへの状態の入れ替わりで、受信信号ドライバ172が、
図7で図示される時間tmaskの間リセッシブに維持されうる。これにより、以下のことが達成され、すなわち、高いビットレートおよび劣悪な終端に典型的な差動電圧VDIFF(
図5)の振動によって、
図7に示される上記ビットのサンプリング点APの時間でのリセッシブ状態の検出が影響されないことが達成される。
図7に係る時間tdomおよび時間tmaskは、送信され伝送される信号のビットレートおよびバストポロジと関連している。
【0050】
非常に短時間のグリッチから影響を受けないために、トリガエッジ(ausloesende Flanke)の検出、すなわち
図6でのドミナント状態96からリセッシブ状態95への移行の検出に対して、
図2のフィルタ1443によってフィルタリングを施すことが可能である。
【0051】
振動検出の堅牢性が、
図8で詳細に解説する予防措置によって実現される。
【0052】
図8に示すように、装置144では、典型的な受信閾値RTH1に加えて、別の受信閾値RTH2が導入される。さらに、VDIFFの負の値を検査するさらに別の受信閾値TTH3が設けられる。
【0053】
受信比較器143の出力口により信号が供給される監視要素1441は、3つの受信閾値RTH1、RTH2、およびRTH3が超過された回数をカウントする。劣悪な終端による典型的な振動の場合に、受信閾値RTH2は、受信閾値RYH1よりも超過される回数が少ない。
【0054】
VDIFFの負の値を検査する別の受信閾値RTH3が、追加的にまたは単独で、マスク要素1442の作動のための前提条件として使用されうる。したがって、
図7によれば、状態の入れ替わりが起こり(エッジ)かつ受信閾値RTH3が超過された場合には、デジタル受信信号RxDが、ビット時間tdomの後に時間tmaskの間マスクされる。
【0055】
上記形態による振動検出が、既に進行しているビットの間に行われるという事実に基づいて、このメカニズムは、低いビットレートで実行される調停において作動されうる。このメカニズムが有効な場合には、進行中のデータフェーズのために、
図2の受信信号ドライバ172が、先に記載したように時間tmaskの間マスクされる。
【0056】
加入者局10が送信者または受信者であるかに従って、時間tdomおよび時間tmaskの算定は変更されうる。その際に、ドミナント・ビットのビット時間tdomおよびマスク時間tmaskの算定は、有利に、加入者局10がバス信号CAN_H、CAN_Lの受信者としてまたは送信者として振る舞うかに従って変更される。このことには、比較的強い振動が予期される個々のノードまたは加入者局10、20、30を、バストポロジに従ってマスク特性に関して様々にパラメータ化できるという利点がある。
【0057】
先に記載したように、装置144(
図2および
図8)は、受信比較器143(
図2)の出力を観察している。出力口で1ビット時間の間、受信信号RxD(
図7)のドミナントレベルが存在する場合には、後段の受信信号ドライバ172(
図2)を所定の時間tmask(
図7)の間リセッシブに維持するために、リセッシブへの各次の状態の入れ替わりが利用される。
【0058】
これにより、バス振動により発生した状態変化が装置144により抑制されうる。
【0059】
図9は、第2の実施例に係るバスシステム2を示している。第2の実施例に係るバスシステム2は、大半の部分は、第1の実施例に係るバスシステム1に関して記載したのと同じように構成されている。
【0060】
しかしながら、第1の実施例に係るバスシステム1とは異なって、第2の実施例に係るバスシステム2は、2つの終端抵抗70を有し、この2つ終端抵抗70はそれぞれバス線60の末端に設けられている。これにより、バスシステム2は、ISO11898に記載されるようなCAN仕様書に係るバストポロジを形成する。このようなバストポロジは、ISOバストポロジとも呼ばれる。
【0061】
加入者局10〜50は、バスシステム2でも、前述の実施例に関して記載され
図2に示されたのと同じように構成されている。
【0062】
バスシステム2のISOバストポロジに基づいて、加入者局10〜50は、調停過程において、ドミナントからリセッシブへの送信信号TXの状態の入れ替わりの際に、前述した実施例に関して
図4で記載したような振動が発生しないことを検出する。したがって、装置144は、受信信号ドライバ172を所定の時間の間リセッシブ状態に維持するためのマスク時間tmaskを、値ゼロまで短縮することが可能である。すなわち、バス振動により発生した状態変化を抑制する必要がない。したがって、装置144は、調停過程の間に、バストポロジおよび終端抵抗70による終端等の様々な運用に対して適合されうる。
【0063】
バスシステム1、2と、加入者局10〜50と、バス線60と、本方法との先に記載した全ての構成は、個別にまたは全ての可能な組み合わせにおいて利用されうる。特に、先に記載した実施例の全ての特徴は任意に組み合わされてもよく、または省略されてもよい。追加的に、特に以下の変更が構想されうる。
【0064】
上記の実施例に係るバス線60を備えたバスシステム1、2は、CANプロトコルに基づくバスシステムを用いて記載されている。しかしながら、上記の実施例に係るバスシステムは、他の形態による通信ネットワークであってもよい。通信システム1において第1のバスシステムで少なくとも特定時間の間、共有チャネルへの加入者局10〜50による排他的で衝突のないアクセスが保証される場合には有利であるが、必須条件ではない。
【0065】
加入者局10〜50の数は任意に選択されうる。加入者局10〜50のうちの2つの加入者局のみ存在してもよい。複数の加入者局10または複数の加入者局20または複数の加入者局30…等のみがバスシステム1、2に存在してもよい。
【0066】
装置144は、加入者局10〜50のうちの1つの加入者局のCANモジュールの一部でなくてもよい。装置144は、別体の装置として、加入者局10〜50のうちの1つの加入者局のCANモジュールの外部に提供されてもよい。このことは特に、既存のCANバスシステム1、2のための追加装備のために有利である。