(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも本発明の一具体例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序等は、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、本発明の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。また、各図は、必ずしも厳密に図示したものではない。各図において、実質的に同一の構成については同一の符号を付し、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0013】
図1は、実施の形態に係る個人認証装置100の構成を示す外観図である。本図では、個人認証の対象となる被検者5も併せて図示されている。
【0014】
個人認証装置100は、被検者5を個人認証する装置であり、心電図信号処理装置10、情報処理装置20、及び、表示部25で構成される。
【0015】
心電図信号処理装置10は、被検者5が腰をかけるための椅子の構造をもつ測定装置であり、被検者5の太ももの裏(ハムストリング)で心電図信号を測定し、測定した心電図信号を無線で情報処理装置20に送信する。なお、心電図信号処理装置10は、必ずしも、椅子の構造物を有する必要はない。別体としての椅子の構造物に、心電図信号処理装置10が取り付けられてもよい。
【0016】
情報処理装置20は、心電図信号処理装置10から無線で送信されてくる心電図信号を用いて、被検者5を個人認証し、その結果を表示部25に表示する装置である。なお、情報処理装置20は、プログラムを保持するハードディスク又はROM等の不揮発性メモリ、一時的に情報を保持するRAM、プログラムを実行するプロセッサ、周辺機器と接続するための入出力ポート等を有するコンピュータ装置等で実現される。情報処理装置20は、例えば、パーソナルコンピュータ、スマートフォン等の携帯情報端末等である。
【0017】
表示部25は、情報処理装置20による個人認証の結果等を表示するディスプレイであり、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)等である。なお、個人認証装置100を構成する出力装置としては、表示部25に代えて、あるいは、表示部25に加えて、音声出力装置が備えられていてもよい。
【0018】
なお、この個人認証装置100に、被検者5が心電図信号処理装置10及び情報処理装置20に指示を与えるためのリモートコントローラ、ボタン等の入力装置(図示せず)が備えられていてもよい。その入力装置は、有線又は無線で心電図信号処理装置10及び情報処理装置20に接続される独立した装置であってもよいし、心電図信号処理装置10又は情報処理装置20に組み込まれて固定されるデバイスであってもよい。
【0019】
図2Aは、
図1に示された心電図信号処理装置10が備える電極11の設置例を示す図である。ここでは、電極11は、直方体の椅子構造をもつ心電図信号処理装置10に被検者5が腰をかけた際に、被検者5の両太ももの裏に接触するように、直方体の椅子構造物の上面の2箇所(測定電極用及び参照電極用)に設けられている。電極11の材料は、例えば、金、銀、又は、銀−塩化銀(Ag/AgCl)等である。なお、電極11は、必ずしも心電図信号処理装置10に備えられる必要はなく、被検者5が予め装着した電極が用いられてもよい。
【0020】
図2Bは、
図2Aに示された心電図信号処理装置10に被検者5が腰をかけた状態を示す図である。被検者5の太ももの裏に電極11が位置する。なお、被検者5は、太ももを露出している必要はなく、ズボン等の衣服を身に着けていてもよい。衣服を介して被検者5の太ももの裏の心電図信号が電極11で検出される。本実施の形態では、心電図信号処理装置10は、電極と生体との接触インピーダンスが高い場合であっても、安定して心電図信号を測定できるからである。
【0021】
なお、心電図信号処理装置10及び電極11の形態及び設置位置は、
図1、
図2A及び
図2Bに示されたものに限られず、例えば、
図3及び
図4に示されるものであってもよい。
【0022】
図3は、心電図信号処理装置10の別の形態を示す図である。ここでは、心電図信号処理装置10は、電極11を介して被検者5の左胸に貼り付けて装着されるパッチ型の心電センサである。
【0023】
図4は、心電図信号処理装置10のさらに別の形態を示す図である。ここでは、心電図信号処理装置10は、小型携帯型の操作コントローラのような構造を有し、直方体状の筐体の前面の2箇所に、被検者5の親指が触れる電極11を有している。
【0024】
図5は、心電図信号処理装置10が有する電極11の形状例を示す図である。電極11の形状は、
図5の(a)に示されるような円形、
図5の(b)に示されるような楕円形、
図5の(c)に示されるような正方形、
図5の(d)に示されるような長方形、及び、それらの組み合わせ(複数の電極11における組み合わせ)のいずれであってもよい。
【0025】
図6は、本実施の形態に係る個人認証装置100の構成を示すブロック図である。個人認証装置100は、心電図信号処理装置10、情報処理装置20及び表示部25で構成される。
【0026】
心電図信号処理装置10は、電極11、信号処理回路12、同相信号生成回路13及び通信部14を備える。
【0027】
電極11は、
図2A及び
図2Bに示されるように、生体に装着される電極(測定電極及び参照電極を含む電極)であり、ドライ電極だけでなく、ウェット電極であってもよい。なお、「生体に装着される」とは、生体から心電図信号を測定できるように生体の近くに設けられる意味であり、生体の皮膚に直接接触する場合だけでなく、衣服等を介して生体に対して相対的に固定される場合も含まれる。
【0028】
信号処理回路12は、生体に装着される電極11によって検出される心電図信号を増幅して出力する回路である。
【0029】
同相信号生成回路13は、信号処理回路12で増幅された心電図信号を用いて、心電図信号が示す心電図波形におけるピークの振幅を大きくするための同相信号を生成し、生成した同相信号を電極11に印加する回路である。
【0030】
通信部14は、信号処理回路12から出力される心電図信号に関する情報を情報処理装置20に送信する通信インタフェースであり、例えば、Bluetooth(登録商標)又はWiFi(登録商標)用の無線通信アダプタである。ここで、「心電図信号に関する情報」とは、心電図信号、及び、心電図信号に対する信号処理から得られる特徴量(心電図波形のピークに関する情報等)の少なくとも一つを含む意味である。なお、通信部14は、無線通信用に限られず、有線通信用の通信インタフェースであってもよい。
【0031】
なお、図示されていないが、心電図信号処理装置10は、信号処理回路12、同相信号生成回路13及び通信部14に直流電力を供給する電源回路を備える。電源回路は、バッテリ及びバッテリの電圧を必要な直流電圧に変換するDC/DCコンバータ、あるいは、商用電源から一定の直流電圧を生成するレギュレータ回路等で構成される。
【0032】
情報処理装置20は、通信部21、認証部22及び記憶部23を備える。
【0033】
通信部21は、心電図信号処理装置10から送信されてくる心電図信号に関する情報を受信する通信インタフェースであり、例えば、Bluetooth(登録商標)又はWiFi(登録商標)用の無線通信アダプタである。なお、通信部21は、無線通信用に限られず、有線通信用の通信インタフェースであってもよい。
【0034】
記憶部23は、心電図信号処理装置10が備える信号処理回路12が出力する心電図信号が示す心電図波形の特徴量を複数のユーザのそれぞれ(ユーザ識別子)ごとに対応づけた登録情報を保持する装置であり、例えば、ハードディスク等である。
【0035】
認証部22は、被検者5について、心電図信号処理装置10の信号処理回路12が出力する心電図信号が示す心電図波形の特徴量と、記憶部23に保持された登録情報とを照合することで、被検者が複数のユーザのいずれであるかを識別する処理部である。認証部22は、識別した結果を表示部25に表示する。このような認証部22は、上述したように、情報処理装置20が有するプロセッサがプログラムを実行することによって実現される。なお、認証部22は、このような個人認証だけでなく、登録情報を取得して記憶部23に登録する処理もする。具体的には、認証部22は、心電図信号処理装置10から送信されてくる心電図信号から個人認証に必要な特徴量を抽出し、又は、心電図信号処理装置10から送信されてくる特徴量を取得する。そして、抽出又は取得した特徴量を被検者5に対応づけて、登録情報として、記憶部23に保存する。
【0036】
なお、図示されていないが、情報処理装置20は、通信部21、認証部22及び記憶部23に直流電力を供給する電源回路を備える。電源回路は、商用電源から一定の直流電圧を生成するレギュレータ回路等で構成される。
【0037】
図7は、
図6に示された心電図信号処理装置10の詳細な構成を示すブロック図である。ここでは、心電図信号処理装置10を構成する信号処理回路12及び同相信号生成回路13の詳細な回路図が示されている。なお、本図の左箇所には、被検者5の等価回路(つまり、心電図信号の信号源5a)も併せて図示されている。
【0038】
信号処理回路12は、電極11(測定電極11a及び参照電極11b)、バッファアンプ30a及び30b、ハイパスフィルタ31a及び31b、差動増幅器32、ローパスフィルタ33、A/D変換器34、及び、生体電位処理部35を備える。
【0039】
測定電極11a及び参照電極11bは、それぞれ、測定用の電極、及び、基準電位を測定するための電極である。
【0040】
バッファアンプ30a及び30bは、それぞれ、測定電極11a及び参照電極11bで検出された信号(つまり、電位)をインピーダンス変換する回路であり、例えば、ボルテージフォロワ等である。つまり、バッファアンプ30a及び30bは、高入力インピーダンスをもち、かつ、低出力インピーダンスをもち、電圧増幅はしない(電圧増幅率は1である)。本明細書で「アンプ」(又は、「増幅器」)との用語は、必ずしも1よりも大きな電圧増幅率をもつアンプだけに限られず、インピーダンス変換だけをする(電圧増幅率が1である)アンプも含まれる。なお、測定電極11aとバッファアンプ30aとは、一体化され、アクティブ電極を構成している。参照電極11bとバッファアンプ30bとについても同様である。また、バッファアンプ30a及び30bは、1よりも大きな電圧増幅率を有してもよい。
【0041】
ハイパスフィルタ31a及び31bは、それぞれ、バッファアンプ30a及び30bからの出力信号に対して不要な低周波成分を除去するフィルタであり、例えば、CRフィルタ又はオペアンプを用いたアクティブフィルタ等である。
【0042】
差動増幅器32は、ハイパスフィルタ31aからの出力信号からハイパスフィルタ31bからの出力信号を差し引き、得られた差分を増幅する増幅器であり、例えば、オペアンプ等で構成される。この差動増幅器32は、測定電極11aで検出された信号と参照電極11bで検出された信号との差を増幅する回路の一例である。つまり、差動増幅器32からの出力信号は、参照電極11bでの電位を基準とする測定電極11aでの電位を示す心電図信号となる。
【0043】
ローパスフィルタ33は、差動増幅器32からの出力信号に対して不要な高周波成分を除去するフィルタであり、例えば、CRフィルタ又はオペアンプを用いたアクティブフィルタ等である。
【0044】
A/D変換器34は、ローパスフィルタ33からの出力信号をサンプリングしてデジタル信号に変換する変換器であり、例えば、1kHzサンプリングで12ビットのデジタル信号に変換する。このA/D変換器34は、差動増幅器32から出力された信号をデジタル信号に変換するA/D変換器の一例である。
【0045】
生体電位処理部35は、A/D変換器34からの出力信号(つまり、デジタルの心電図信号)に対して心臓鼓動パターンにおけるP波、Q波、R波、S波、T波のピークを検知するピーク検知部35aを有する。心臓鼓動パターンは、
図8に示される通りである。具体的には、ピーク検知部35aは、A/D変換器34から出力された心電図信号に含まれる心臓鼓動パターンのP波、Q波、R波、S波、T波のピークに関する情報(つまり、ピークのタイミング及び振幅を示す信号)を生成する。そして、生成したピークに関する情報を同相信号生成回路13の周波数決定部40a及び振幅決定部40bに出力する。
【0046】
なお、生体電位処理部35は、基本的には、A/D変換器34からの出力信号(つまり、デジタルの心電図信号)を、そのまま、通信部14を介して、情報処理装置20に送信する。ただし、事前の設定(入力装置(図示せず)による指示等)によっては、生体電位処理部35は、心電図信号に加えて、ピーク検知部35aで検知されたピークに関する情報についても、特徴量として、通信部14を介して情報処理装置20に送信する。
【0047】
また、本実施の形態では、生体電位処理部35は、心電図信号処理装置10に設けられているが、この形態に限られず、これに代えて、あるいは、これに加えて、情報処理装置20に設けられてもよい。その場合には、A/D変換器34からの出力信号は、通信部14を介して情報処理装置20に送信され、情報処理装置20に設けられた生体電位処理部35が有するピーク検知部35aにおいて、ピークに関する情報が生成される。そして、生成されたピークに関する情報は、情報処理装置20の通信部21及び心電図信号処理装置10の通信部14を介して心電図信号処理装置10に伝送され、周波数決定部40a及び振幅決定部40bで利用される。
【0048】
同相信号生成回路13は、周波数決定部40a、振幅決定部40b、信号生成部41、及び、カップリングコンデンサ42を備える。
【0049】
周波数決定部40aは、第1モードでは、心電図波形におけるP波のピークとR波のピークとの時間差に対応する周波数を決定し、第2モードでは、心電図波形におけるQ波又はS波のピークとT波のピークとの時間差に対応する周波数を決定する。具体的には、第1モードでは、周波数決定部40aは、ピーク検知部35aで検知されたピークに関する情報を用いて、P波のピークとR波のピークとの時間差を算出し、算出した時間差を周期とする周波数を決定する。第2モードでは、周波数決定部40aは、ピーク検知部35aで検知されたピークに関する情報を用いて、Q波又はS波のピーク(例えば、振幅の大きいピーク)とT波のピークとの時間差を算出し、算出した時間差を周期とする周波数を決定する。なお、第1モード及び第2モードについては、事前の設定(入力装置(図示せず)による指示等)により、決定される。
【0050】
振幅決定部40bは、心電図波形におけるピークの振幅に基づいて、生成する同相信号の振幅を決定する。具体的には、振幅決定部40bは、ピーク検知部35aで検知されたピークに関する情報を用いて、ピークの中で振幅が最大となるR波のピークの振幅(例えば、R波波高値の平均値)を算出する。そして、算出したR波のピークの振幅が小さいほど、同相信号の振幅として、より大きな値に決定する。例えば、振幅決定部40bは、予め、R波のピークの振幅についての複数の振幅区間のそれぞれと、決定すべき同相信号の振幅とを対応づけたテーブルを保持している。そして、振幅決定部40bは、そのテーブルを参照することで、心電図波形におけるR波のピークの振幅に対応する同相信号の振幅を決定する。
【0051】
信号生成部41は、周波数決定部40aで決定された周波数をもち、かつ、振幅決定部40bで決定された振幅をもつ信号を同相信号として生成する。具体的には、信号生成部41は、周波数決定部40aで決定された周波数をもち、かつ、振幅決定部40bで決定された振幅をもつサンプルデータ列を生成し、内蔵のD/A変換器でアナログ信号に変換した後に、内蔵のローパスフィルタを通過させる。これにより、心電図波形におけるピークの振幅を大きくするための同相信号として、周波数決定部40aで決定された周波数をもち、かつ、振幅決定部40bで決定された振幅をもつサイン波信号(例えば、3Hzで100mVppのサイン波信号)を生成する。なお、同相信号と心電図波形とは同期している(同相信号のサイン波のピークと心電図波形におけるピークとが重なる)必要はない。
【0052】
カップリングコンデンサ42は、信号生成部41の出力端子と、参照電極11bとの間に接続されたコンデンサであり、信号生成部41からの出力信号のAC成分だけを通過させて参照電極11bに印加する。カップリングコンデンサ42は、例えば、100pFのコンデンサである。
【0053】
なお、生体電位処理部35、周波数決定部40a、振幅決定部40b、及び、信号生成部41におけるデジタル信号処理は、専用の論理回路でハードウェア的に実現されてもよいし、プログラムを用いてソフトウェア的に実現されてもよい。ソフトウェア的に実現すある場合には、例えば、プログラムを保持するROM等の不揮発性メモリ、一時的に情報を保持するRAM、プログラムを実行するプロセッサ、周辺回路と接続するための入出力ポート等を有するマイクロコンピュータによって実現される。
【0054】
次に、以上のように構成された本実施の形態に係る個人認証装置100の動作について説明する。
【0055】
図9は、本実施の形態に係る個人認証装置100の心電図信号処理装置10の処理(心電図信号処理方法)を示すフローチャートである。
【0056】
信号処理回路12は、生体に装着された電極11(測定電極11a及び参照電極11b)によって検出された心電図信号を取得する(信号取得ステップS10)。
【0057】
具体的には、測定電極11aで検知された信号は、バッファアンプ30aでインピーダンス変換され、ハイパスフィルタ31aで不要な低周波成分が除去された後に差動増幅器32のプラス入力端子に入力される。一方、参照電極11bで検知された信号は、バッファアンプ30bでインピーダンス変換され、ハイパスフィルタ31bで不要な低周波成分が除去された後に差動増幅器32のマイナス入力端子に入力される。差動増幅器32において、プラス入力端子に入力された信号とマイナス入力端子に入力された信号の差が増幅される。増幅後の信号は、ローパスフィルタ33で不要な高周波成分が除去された後に、A/D変換器34でデジタルの心電図信号に変換されて生体電位処理部35に入力される。生体電位処理部35では、A/D変換器34から出力された心電図信号に含まれる心臓鼓動パターンのP波、Q波、R波、S波、T波のピークに関する情報(つまり、ピークのタイミング及び振幅を示す信号)が生成され、同相信号生成回路13(周波数決定部40a及び振幅決定部40b)に出力される。
【0058】
次に、信号取得ステップS10で取得された心電図信号が示す心電図波形におけるピークの振幅を大きくするための同相信号を生成し、生成した同相信号を参照電極11bに印加する(同相信号生成ステップS20)。
【0059】
より詳しくは、周波数決定部40aは、第1モードでは、心電図波形におけるP波のピークとR波のピークとの時間差に対応する周波数を決定し、第2モードでは、心電図波形におけるQ波又はS波のピークとT波のピークとの時間差に対応する周波数を決定する(S21)。具体的には、第1モードでは、周波数決定部40aは、ピーク検知部35aで検知されたピークに関する情報を用いて、P波のピークとR波のピークとの時間差を算出し、算出した時間差を周期とする周波数を決定する。第2モードでは、周波数決定部40aは、ピーク検知部35aで検知されたピークに関する情報を用いて、Q波又はS波のピーク(例えば、振幅の大きいピーク)とT波のピークとの時間差を算出し、算出した時間差を周期とする周波数を決定する。
【0060】
続いて、振幅決定部40bは、心電図波形におけるピークの振幅に基づいて、生成する同相信号の振幅を決定する(S22)。具体的には、振幅決定部40bは、ピーク検知部35aで検知されたピークに関する情報を用いて、R波のピークの振幅を算出し、算出したR波のピークの振幅が小さいほど、同相信号の振幅として、より大きな値に決定する。
【0061】
最後に、信号生成部41は、周波数決定部40aで決定された周波数をもち、かつ、振幅決定部40bで決定された振幅をもつ信号を同相信号として生成し、カップリングコンデンサ42を介して参照電極11bに印加する(S23)。
【0062】
なお、上記信号取得ステップS10及び同相信号生成ステップS20は、一定周期で繰り返し、同時並行に行われる。よって、一旦、同相信号生成ステップS20において同相信号が生成されて参照電極11bに印加された後は、信号取得ステップS10では、同相信号が参照電極11bに印加された状態で、つまり、同相信号が重畳された状態で、心電図信号が取得される。
【0063】
図10は、本実施の形態に係る個人認証装置100の情報処理装置20の処理(個人認証方法)を示すフローチャートである。
図11は、情報処理装置20による個人認証が行われているときの表示部25による表示例を示す図である。
【0064】
個人認証が開始されると、認証部22は、まず、表示部25の測定情報表示部25aに「心電図波形測定中」と表示し(S41)、続いて、表示部25に電極位置を示す電極図示部25cを表示する(S42)。
【0065】
次に、認証部22は、通信部21を介して心電図信号処理装置10に指示することで、心電図信号処理装置10に心電図信号の測定を開始させ、心電図信号処理装置10の通信部21を介して心電図信号を取得する(S43)。そして、認証部22は、取得した心電図信号に対して、心電図波形として意味のある情報を抽出するために、特定の周波数成分を抽出し、抽出した周波数成分のパワースペクトル密度を算出することで、心電図波形を調整する(S44)。
【0066】
次に、認証部22は、調整した心電図波形を表示部25に心電図波形表示部25bとして表示し(S45)、これと並行して、個人認証を行う(S51〜S57)。
【0067】
個人認証(S51〜S57)において、認証部22は、まず、表示部25の測定情報表示部25aに「心電図波形認証中」と表示する(S51)。そして、認証部22は、調整後の心電図波形に対して微分等することで心臓鼓動パターンにおける各ピークを検知し(S52)、各ピークの相対波高値を算出することで心電図波形の振幅を正規化する(S53)。
【0068】
次に、認証部22は、正規化した心電図波形から、
図12に示されるような心臓鼓動パターンの特徴量をシグニチャとして生成する(S54)。
図12では、特徴量として、P波の高さを示す「P波高さ」、Q波の高さを示す「Q波高さ」、R波の高さを示す「R波高さ」S波の高さを示す「S波高さ」、T波の高さを示す「T波高さ」、R波とQ波との高さの差を示す「Rq波高値」、P波とQ波との高さの差を示す「Pq波高値」、T波とS波との高さの差を示す「Ts波高値」、R波とS波との高さの差を示す「Rs波高値」、R波からS波への傾きを示す「Rs傾き」、S波のピークの後半での傾きを示す「Ss傾き」が示されている。
【0069】
次に、認証部22は、記憶部23に保存されている登録情報を取得し(S55)、取得した登録情報を参照して、ステップS54で生成したシグニチャと対応するユーザを認証する(S56)。つまり、登録情報に登録された特徴量の中から、シグニチャに最も類似する特徴量を特定し、特定した特徴量に対応するユーザ(ユーザ識別子)を個人認証の結果として出力する。
【0070】
最後に、認証部22は、個人認証の結果を、認証結果表示部25dとして表示部25に表示する(S57)。
図11に示される認証結果表示部25dの表示例では、3人分のユーザ識別子に対する個人認証の結果(確率)が表示されている。なお、3人分のユーザ識別子は、シグニチャに最も類似するものから上位3位までのユーザ識別子、あるいは、予め登録されたユーザ識別子等である。
【0071】
図13〜
図16は、本実施の形態に係る個人認証装置100の特徴を説明するための図である。より詳しくは、
図13は、心電図信号処理装置10において同相信号を重畳させない場合の心電図信号(登録データAとする)の波形例(つまり、元波形)を示す図である。
図14は、心電図信号処理装置10において同相信号を重畳させた場合の心電図信号(登録データBとする)の波形例(つまり、登録・認証用波形)を示す図である。
図15は、心電図信号処理装置10において同相信号を重畳させない場合の別の心電図信号(登録データCとする)の波形例(つまり、登録・認証用波形)を示す図である。
図16は、上記登録データA〜Cの心電図波形の特徴量を登録情報として記憶部23に登録した後、認証部22が各波形で個人認証をした場合の結果(正解率)を示す図である。
【0072】
図16から分るように、心電図信号処理装置10において同相信号を重畳させた場合の心電図信号(登録データB)を用いて心電図波形を登録して個人認証をした場合に、最も高い正解率(100%)を得ることができている。これは、心電図信号に同相信号を重畳させることで、心電図波形における各ピークの振幅が大きく強調される頻度が上昇し、心電図波形の特徴量が明確化されたためと考えられる。
【0073】
以上のように、本実施の形態に係る心電図信号処理装置10は、生体に装着される電極11によって検出される心電図信号を増幅して出力する信号処理回路12と、信号処理回路12で増幅された心電図信号を用いて、心電図信号が示す心電図波形におけるピークの振幅を大きくするための同相信号を生成し、生成した同相信号を電極11に印加する同相信号生成回路13とを備える。
【0074】
これにより、心電図信号が示す心電図波形におけるピークの振幅を大きくするための同相信号が電極11に印加されるので、心電図信号における心臓鼓動パターンのピークが強調され、外乱ノイズが存在する状況下であっても安定した個人認証が可能になる。つまり、電極11と生体との接触インピーダンスが高い場合であっても、安定して心電図信号を測定できる心電図信号処理装置が提供される。
【0075】
また、同相信号生成回路13は、心電図波形におけるP波のピークとR波のピークとの時間差に対応する周波数を決定する周波数決定部40aと、周波数決定部40aで決定された周波数をもつ信号を同相信号として生成する信号生成部41とを有する。
【0076】
これにより、心電図波形におけるP波のピークとR波のピークとの時間差に対応する周波数をもつ同相信号が電極11に印加されるので、被検者の特徴を示す心臓鼓動パターンにおけるP波及びR波のピークの振幅が大きくなる。よって、心臓鼓動パターンにおけるP波及びR波のピークを用いた個人認証の処理が安定化され、精度が向上する。
【0077】
あるいは、同相信号生成回路13は、心電図波形におけるQ波又はS波のピークとT波のピークとの時間差に対応する周波数を決定する周波数決定部40aと、周波数決定部40aで決定された周波数をもつ信号を同相信号として生成する信号生成部41とを有する。
【0078】
これにより、心電図波形におけるQ波又はS波のピークとT波のピークとの時間差に対応する周波数をもつ同相信号が電極11に印加されるので、被検者の特徴を示す心臓鼓動パターンにおけるQ波又はS波のピークとT波のピークの振幅が大きくなる。よって、心臓鼓動パターンにおけるQ波又はS波のピークとT波のピークを用いた個人認証の処理が安定化され、精度が向上する。
【0079】
また、同相信号生成回路13は、さらに、心電図波形におけるピークの振幅に基づいて、生成する同相信号の振幅を決定する振幅決定部40bを有し、信号生成部41は、振幅決定部40bで決定された振幅をもつ信号を同相信号として生成する。
【0080】
これにより、心電図波形におけるピークの振幅に基づいて決定された振幅をもつ同相信号が電極11に印加されるので、心電図波形におけるピークの振幅が不十分な場合には振幅を大きくすることができる。よって、心電図信号の心臓鼓動パターンを用いた個人認証の処理が安定化され、精度が向上する。
【0081】
また、生体に装着された電極11には、測定電極11a及び参照電極11bが含まれ、信号処理回路12は、測定電極11aで検出された信号と参照電極11bで検出された信号との差を増幅する差動増幅器32と、差動増幅器32から出力された信号をデジタル信号に変換するA/D変換器34とを有し、同相信号生成回路13は、A/D変換器34から出力されたデジタル信号を用いて、参照電極11bに同相信号を印加する。
【0082】
これにより、測定電極11aで検出された信号と参照電極11bで検出された信号との差の信号に基づいて生成された同相信号が参照電極11bに印加されるので、両信号に重畳した同相ノイズが除去され、外乱ノイズの影響が少ない安定した心電図信号が生成される。
【0083】
また、本実施の形態に係る個人認証装置100は、上記心電図信号処理装置10と、心電図信号処理装置10が備える信号処理回路12が出力する心電図信号が示す心電図波形の特徴量を複数のユーザのそれぞれごとに対応づけた登録情報を保持する記憶部23と、被検者について、心電図信号処理装置10が備える信号処理回路12が出力する心電図信号が示す心電図波形の特徴量と、記憶部23に保持された登録情報とを照合することで、被検者が複数のユーザのいずれであるかを識別する認証部22とを備える。
【0084】
これにより、心臓鼓動パターンのピークが強調された心電図信号を用いた個人認証が可能となり、電極11と生体との接触インピーダンスが高い場合であっても、安定して高い精度で個人認証が行われる。
【0085】
また、本実施の形態に係る心電図信号処理方法は、生体に装着された電極11(測定電極11a及び参照電極11b)によって検出された心電図信号を取得する信号取得ステップS10と、信号取得ステップS10で取得された心電図信号が示す心電図波形におけるピークの振幅を大きくするための同相信号を生成し、生成した同相信号を参照電極11bに印加する同相信号生成ステップS20とを含む。
【0086】
これにより、心電図波形におけるピークの振幅を大きくするための同相信号が電極11に印加されるので、心電図信号における心臓鼓動パターンのピークが強調され、外乱ノイズが存在する状況下であっても安定した個人認証が可能になる。つまり、電極11と生体との接触インピーダンスが高い場合であっても、安定して心電図信号を測定できる心電図信号処理方法が実現される。
【0087】
なお、本発明は、上記心電図信号処理方法に含まれるステップをコンピュータに実行させるプログラム、あるいは、上記情報処理装置20による個人認証方法に含まれるステップをコンピュータに実行させるプログラム、あるいは、それらのプログラムを記録したCD−ROM等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体として、実現してもよい。
【0088】
次に、上記実施の形態の変形例に係る心電図信号処理装置を説明する。
【0089】
図17は、上記実施の形態の変形例に係る心電図信号処理装置10aの構成を示すブロック図である。この心電図信号処理装置10aは、上記実施の形態に係る心電図信号処理装置10において、同相信号生成回路13に代えて、位相決定部40cが追加され、かつ、信号生成部41が新たな信号生成部41aに置き換えられた同相信号生成回路13aを設けたものに相当する。
【0090】
位相決定部40cは、生成する同相信号において一時的に位相をずらす、又は、一時的に振幅を小さくするための制御信号を生成する。具体的には、位相決定部40cは、ピーク検知部35aで検知されたピークに関する情報を用いて、T波の誤検知を防ぐために、
図17に図示される波形例のような同相信号を生成する。ここでは、1Hzで、3つのピークのうちの中央のピークの振幅が小さくなるような3つのピークが100mVppで繰り返されるような波形を同相信号として生成する。
【0091】
信号生成部41aは、位相決定部40cで生成された制御信号に基づいて、一時的に位相をずらした、又は、一時的に振幅を小さくした箇所を含む信号を同相信号として生成する。具体的には、信号生成部41aは、周波数決定部40aで決定された周波数をもち、かつ、振幅決定部40bで決定された振幅をもち、かつ、位相決定部40cで決定された一時的に位相をずらした、又は、一時的に振幅を小さくした箇所を含む同相信号を生成する。つまり、そのようなサンプルデータ列を生成し、内蔵のD/A変換器でアナログ信号に変換した後に、内蔵のローパスフィルタを通過させる。
【0092】
なお、位相決定部40c及び信号生成部41aにおけるデジタル信号処理は、専用の論理回路でハードウェア的に実現されてもよいし、プログラムを用いてソフトウェア的に実現されてもよい。ソフトウェア的に実現すある場合には、例えば、プログラムを保持するROM等の不揮発性メモリ、一時的に情報を保持するRAM、プログラムを実行するプロセッサ、周辺回路と接続するための入出力ポート等を有するマイクロコンピュータによって実現される。
【0093】
図18は、本変形例に係る心電図信号処理装置10aにおいて同相信号を重畳させた場合の心電図信号(登録データB’とする)の波形例(つまり、登録・認証用波形)を示す図である。上記実施の形態1における
図14に示された登録データBの波形例と比較して分かるように、S波とT波との間に存在する不要なピーク(
図18の破線枠)の波高が減少している。これにより、個人認証における正解率が向上する。
【0094】
以上のように、本変形例に係る心電図信号処理装置10aによれば、同相信号生成回路13aは、生成する同相信号において一時的に位相をずらす、又は、一時的に振幅を小さくするための制御信号を生成する位相決定部40cを有し、信号生成部41aは、位相決定部40cで生成された制御信号に基づいて、一時的に位相をずらした、又は、一時的に振幅を小さくした箇所を含む信号を同相信号として生成する。
【0095】
これにより、一時的に位相をずらした、又は、一時的に振幅を小さくした箇所を含む同相信号が電極11に印加されるので、心電図信号における心臓鼓動パターンを特徴づけるピークだけに対して振幅を大きくすることができる。よって、心電図信号の心臓鼓動パターンを用いた個人認証の処理が安定化され、精度が向上する。
【0096】
以上、本発明に係る心電図信号処理装置、個人認証装置及び心電図信号処理方法について、実施の形態及び変形例に基づいて説明したが、本発明は、これらの実施の形態及び変形例に限定されるものではない。本発明の主旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施の形態及び変形例に施したものや、実施の形態及び変形例における一部の構成要素を組み合わせて構築される別の形態も、本発明の範囲内に含まれる。
【0097】
例えば、上記実施の形態及び変形例において、生体電位処理部35は、心電図信号処理装置10に設けられたが、この形態に限られず、これに代えて、あるいは、これに加えて、情報処理装置20に設けられてもよい。生体電位処理部35が情報処理装置20に設けられる場合には、生体電位処理部35のピーク検知部35aによって生成されたピークに関する情報は、認証部22におけるシグニチャの生成に利用される。
【0098】
さらに、生体電位処理部35が情報処理装置20に設けられる場合には、心電図信号処理装置10の周波数決定部40a、振幅決定部40b及び位相決定部40cも情報処理装置20に設けられてもよい。この場合には、周波数決定部40a、振幅決定部40b及び位相決定部40cで決定された周波数、振幅及び制御信号は、情報処理装置20の通信部21及び心電図信号処理装置10の通信部14を介して心電図信号処理装置10の信号生成部41及び41aに伝送され、同相信号の生成に利用される。
【0099】
また、上記実施の形態において、心電図信号処理装置10には、周波数決定部40a及び振幅決定部40bが設けられたが、いずれかだけが設けられてもよい。その場合には、周波数決定部40a及び振幅決定部40bのいずれかからの情報に基づいて、信号生成部41は、同相信号を生成する。
【0100】
同様に、上記変形例において、心電図信号処理装置10aには、周波数決定部40a、振幅決定部40b及び位相決定部40cが設けられたが、これらのうちの少なくとも一つが設けられてもよい。その場合には、周波数決定部40a、振幅決定部40b及び位相決定部40cの少なくとも一つからの情報に基づいて、信号生成部41aは、同相信号を生成する。
【0101】
また、上記実施の形態に係る心電図信号処理装置10aは、上記実施の形態に係る情報処理装置20及び表示部25とともに個人認証装置を構成してもよい。これにより、一時的に位相をずらした、又は、一時的に振幅を小さくした箇所を含む同相信号が電極11に印加されるので、心電図信号における心臓鼓動パターンを特徴づけるピークだけに対して振幅を大きくすることができる。よって、心電図信号の心臓鼓動パターンを用いた個人認証の処理が安定化され、精度が向上する。
【0102】
また、上記実施の形態及び変形例では、心電図信号処理装置10及び10aは、参照電極11bで検出された電位を基準として測定電極で検出された信号を処理したが、これに限られない。参照電極で検出された電位を基準として、複数の測定電極のそれぞれで検出された信号を処理してもよい。このように心電図信号処理装置において多チャネルの信号が処理される場合には、それらの多チャネルの信号で得られた複数の心電図波形を平均化する等して個人認証に用いてもよい。また、参照電極は必ずしも必要ではない。グランド電位を基準として測定電極の信号だけが処理されてもよい。この場合には、同相信号は、測定電極に印加される。