(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
《樹脂配管の補修方法》
本発明にかかる樹脂配管の補修方法の第一実施形態は、酸素バリア性を有する最外層と、前記最外層よりも内側に配置された樹脂層と、を備えた樹脂配管を補修する方法であって、前記最外層の損傷部に、酸素バリア性を有するパッチシートを貼付することによって、前記損傷部を覆う方法である。
以下、損傷部を補修する方法について説明するが、本発明のパッチシートとしては損傷部以外に用いても良く、例えば、酸素バリア性を有する樹脂配管と、酸素バリア性を有さない継手や短管を接合した場合に、酸素バリア性を有さない継手や短管の表面に対して本発明のパッチシートを貼付して酸素バリア性を付与しても良い。
【0012】
[樹脂配管]
補修対象である樹脂配管は、その管壁の最外面に酸素バリア性を有する最外層(以下、「最外バリア層」ということがある。)を備えたものであれば特に限定されない。
ここで「酸素バリア性を有する」とは、20℃、65%RH条件下でJIS K 7126(等圧法)によって測定された酸素透過度が、5.0[cc・20μm/m
2・day・atm]以下であることを意味する。酸素透過度としては、1.0[cc・20μm/m
2・day・atm]以下であることが好ましい。
【0013】
最外バリア層は、上記基準を満たすことが可能な材料によって形成されており、例えば、金属、金属酸化物、無機酸化物、及び酸素バリア性を有する樹脂(バリア樹脂)からなる群から選ばれる何れか1つ以上によって形成されていることが好ましい。なかでも、本実施形態の補修方法によって容易に補修することが可能である観点から、最外バリア層はバリア樹脂によって形成されていることがより好ましい。
【0014】
好適なバリア樹脂としては、例えば、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリロニトリル(PAN)等が挙げられる。最外バリア層を構成するバリア樹脂は1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0015】
樹脂配管の管壁の積層構造は、酸素バリア性を有する最外層(最外バリア層)と、その最外層よりも内側に配置された樹脂層と、を備えている。
前記樹脂層は単層であってもよいし、複数の層からなる複層であってもよい。
前記複層の構成としては、例えば、樹脂配管の内面をなす内層、配管の構造的強度を高めるガラス繊維を含む中間層、及びこの中間層を覆う外層からなる三層構造が挙げられる。
前記樹脂層と、前記バリア層との間には、両層をつなぐ接着層がさらに設けられていてもよい。
【0016】
樹脂配管の具体例としては、例えば
図1に示す樹脂配管1が挙げられる。樹脂配管1は、液体が流通する中空部を構成する内層2と、内層2よりも熱伸縮率が小さい中間層3と、中間層3よりも外側に配置され、熱融着可能に形成された外層4と、外層4よりも外側に配置され、酸素バリア性を有するバリア層(最外バリア層)6と、外層4と最外バリア層6との間に配置され、外層4と最外バリア層6とを接着する接着層5と、を備えている。
【0017】
内層2及び外層4の樹脂材料としては、公知の樹脂配管を形成する樹脂材料が適用され、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが挙げられる。
内層2と外層4の樹脂材料は同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0018】
中間層3は、強化繊維を含むコンポジット樹脂からなる層であることが好ましい。
強化繊維としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維等が挙げられる。コンポジット樹脂の総質量に対する強化繊維の含有量は、例えば10〜50質量%が好ましい。
コンポジット樹脂の樹脂成分としては、公知の樹脂材料が適用され、層間の接着性を高める観点から、内層2、外層4の樹脂材料と同じであることが好ましい。
【0019】
接着層5の樹脂材料は、外層4及び最外バリア層6の樹脂材料に応じて適宜選択される。例えば、外層4がポリオレフィンであり、最外バリア層6がエチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)である場合、接着層5の好適な樹脂材料としては、例えば、ポリオレフィンに無水マレイン酸をグラフト重合してなる無水マレイン酸変性ポリオレフィンや、ゴム系ホットメルト接着剤等が挙げられる。
最外バリア層6の説明は、前述の最外バリア層の説明と同じであるため省略する。
【0020】
内層2の厚みは、内層2、中間層3及び外層4の合計の厚みに対して、例えば0.1〜0.4倍が好ましい。
中間層3の厚みは、内層2、中間層3及び外層4の合計の厚みに対して、例えば0.3〜0.8倍の厚みが好ましい。
外層4の厚みは、内層2、中間層3及び外層4の合計の厚みに対して、例えば0.1〜0.4倍が好ましい。
【0021】
内層2、中間層3及び外層4の合計の厚みとしては、給湯設備、空調等の冷水や温水を通す冷温水管の用途であれば、例えば、1.5mm〜60mmが好ましい。
接着層5の厚みとしては、接着性と経済性を勘案して、例えば、50〜200μmが挙げられる。
最外バリア層6の厚みとしては、酸素バリア性と経済性を勘案して、例えば、75〜200μmが挙げられる。
樹脂配管1の呼び径(外径)としては、給湯設備、空調等の冷水や温水を通す冷温水管の用途であれば、例えば、呼び径50mm(外径60mm)〜200mm(外径216mm)が挙げられる。
【0022】
最外バリア層6と接着層5は互いに異なる色で着色されていることが好ましい。最外バリア層6が剥がれて接着層5が露出した損傷部を容易に発見することができる。これと同様の観点から、最外バリア層6と外層4は互いに異なる色で着色されていることが好ましい。
【0023】
[パッチシート]
本実施形態の補修方法で使用するパッチシートは、酸素バリア性を有する。
パッチシートは、酸素バリア性を有するバリア層(以下、パッチバリア層ということがある。)を備えていることが好ましい。
補修する樹脂配管の最外バリア層とパッチバリア層は、互いに同じ材料によって形成されていてもよいし、異なる材料によって形成されていてもよいが、補修後の酸素バリア性を損傷前と同等にする観点から、同じ材料によって形成されていることが好ましい。
【0024】
パッチバリア層は、金属、金属酸化物、無機酸化物、及び酸素バリア性を有するバリア樹脂からなる群から選ばれる何れか1つ以上によって形成されていることが好ましい。
【0025】
前記金属としては、例えば、アルミニウムが挙げられる。
前記金属酸化物としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム等が挙げられる。
前記無機酸化物としては、例えば、酸化ケイ素が挙げられる。
前記バリア樹脂としては、例えば、前述した最外バリア層の樹脂材料として説明したバリア樹脂と同じものが挙げられる。
【0026】
上記の金属、金属酸化物、無機酸化物及びバリア樹脂は、単独でパッチシートを構成してもよいし、後述する基材シートに成膜された状態でパッチバリア層を構成していてもよい。基材シートにパッチバリア層を成膜する方法としては、例えば、公知の物理蒸着法が挙げられる。
【0027】
パッチバリア層の厚みは、酸素バリア性が確保される厚みであれば特に限定されず、成型性と経済性を勘案して、例えば、50μm〜5mmが好ましく、100μm〜1mmがより好ましく、100μm〜500μmがさらに好ましい。
【0028】
樹脂配管の損傷部にパッチシートを貼付する操作を容易にする観点から、パッチシートの剛性は、パッチシートを単独で取り扱うことが可能な程度に高く、樹脂配管の最外バリア層の曲面に沿わせることが可能な程度に低いことが好ましい。
上記の観点から、パッチシートの厚みは、例えば、0.1〜5mmが好ましく、0.2〜2mmがより好ましく、0.3〜1mmがさらに好ましい。
【0029】
パッチシートは、パッチバリア層のみから構成されていてもよいし、パッチバリア層を支持する基材シートをさらに備えていてもよい。
基材シートは、酸素バリア性を有していてもよいし、有していなくてもよい。
基材シートは、取り扱い性が容易である観点から樹脂シートであることが好ましい。樹脂シートの材料樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリオレフィン等の熱可塑性樹脂が挙げられる。
基材シートの厚みは、上記の好適な剛性を得る観点から、例えば、50μm〜2mmが好ましく、100μm〜1mmがより好ましい。
【0030】
パッチシートは、パッチバリア層に加えて、又は、パッチバリア層及び基材シートに加えて、さらに粘着層を備えていてもよい。粘着層を備えている場合、当該粘着層の粘着性(粘着力)を利用して樹脂配管の損傷部にパッチシートを貼付することができる。
粘着層の材料としては、公知の粘着剤が適用可能である。
粘着層の厚みは特に限定されず、例えば10μm〜500μm程度が挙げられる。
粘着層を備えたパッチシートの使用前(貼付前)の粘着面を保護するために、パッチシートにはさらに離型シートが備えられていてもよい。
【0031】
本実施形態の一例として、
図2にパッチシート10の断面図を示す。パッチシート10は、パッチバリア層11と、粘着層12とを備えている。
【0032】
樹脂配管に温水又は冷水を流した場合や、樹脂配管が設置された環境の温度が変化した場合等において、樹脂配管の温度が変化することによって、管壁が膨張したり(伸びたり)、収縮したりする。管壁が伸縮する際に、樹脂配管の損傷部に貼付したパッチシートが管壁に追従して、パッチシートと管壁が一体的に伸縮することが好ましい。
上記の一体性を容易に得る観点から、パッチシートの線膨張係数と、樹脂配管の線膨張係数とは同等であることが好ましい。
【0033】
また、上記のように両者の線膨張係数が同等であると、樹脂配管の損傷部及びその損傷部に当接させたパッチシートを加熱して、当該損傷部にパッチシートを貼付する場合に、パッチシートに皺が形成され難く、損傷部が目立たないように綺麗に補修することができる。
【0034】
本明細書及び特許請求の範囲において、「パッチシートの線膨張係数と、樹脂配管の線膨張係数とが同等である」とは、パッチシートの線膨張係数と、樹脂配管の線膨張係数との差が、±10×10
−5/℃以内であることをいう。
前記差は、±5×10
−5/℃以内であることが好ましい。
【0035】
樹脂配管の線膨張係数は、12×10
−5/℃以下が好ましく、6×10
−5/℃以下がより好ましく、4×10
−5/℃以下がさらに好ましい。線膨張係数が低いほど、樹脂配管の熱伸縮が生じ難いため好ましい。
【0036】
ここで、パッチシート及び樹脂配管の線膨張係数は、下記式(1)によって求められる。下記式(1)における寸法は、樹脂配管についてはその長手方向の長さ寸法(単位:mm)であり、パッチシートについては、その平面形状とその平面形状を含む最小の円との接点のうち、最も長い距離をなす2つの接点を結ぶ線分の寸法(単位:mm)である。
線膨張係数=
{(60℃の寸法)−(5℃の寸法)}÷(5℃の寸法)÷温度差(60−5)℃ …式(1)
【0037】
パッチシートの平面形状は特に限定されず、任意の形状でよく、例えば、矩形、三角形、台形、その他の多角形、円形、楕円形等が挙げられる。
また、パッチシートの形状として、テープ形状(ロール形状)を採用してもよい。テープ形状のパッチシートをパッチテープと呼んでもよい。使用前(貼付前)のテープ形状のパッチシートの状態として、芯に巻き回した巻回状態を採用してもよい。巻回状態のパッチシートの層構成として、中心側に粘着層が配置され、外側に基材シートが配置され、その粘着層と基材シートの間にパッチバリア層が配置された層構成が挙げられる。この層構成において、基材シートの外側を向く表面には、巻回しによって重ねられた粘着層の前記表面に対する粘着力を低減する目的で、エンボス加工や粗面加工等の表面加工が施されていてもよい。
【0038】
パッチシートの任意の層を構成する樹脂材料には、任意成分として、酸化防止剤、架橋剤、滑材、光安定剤、難燃剤、充填剤、顔料、色素等の樹脂シート分野における公知の添加剤が含まれていてもよい。例えば、パッチバリア層を構成するバリア樹脂に顔料が添加されて、補修する樹脂配管の最外バリア層の色と、パッチバリア層の色とが同じであると、補修した形跡が目立たず、綺麗に補修することができる。
【0039】
[補修方法の手順]
本実施形態の補修方法によって、
図3に例示した樹脂配管1の最外バリア層(外面)6の剥がれた損傷部Sを補修することができる。その手順は、使用するパッチシートの貼付方法に依存する。
【0040】
(貼付方法1)
パッチシート10が粘着層を備えている場合、まず、損傷部Sよりも大きな面積のパッチシート10を準備する。パッチシート10が粘着層を保護する離型シートを備える場合は、貼付作業の直前に離型シートを取り除く。
次いで、露出した粘着層を樹脂配管1の外面に沿わせながら、樹脂配管1の最外バリア層(外面)6とパッチシート10の間に空気がなるべく入らないように貼付して、
図4に例示するように、損傷部Sをパッチシート10によって完全に覆う。この際、損傷部Sがパッチシート10の中央に位置するように貼付することが好ましく、これによりパッチシート10のパッチバリア層11と樹脂配管1の最外バリア層6とが積層する様に設けられ、損傷部Sがこのパッチバリア層11と最外バリア層6との積層構造によって周囲を囲われる。以上の手順により損傷部Sが補修される。
【0041】
(貼付方法2)
パッチシート10が粘着層を備えておらず、熱可塑性のバリア樹脂からなるパッチバリア層のみを備えている場合、まず、損傷部Sよりも大きな面積のパッチシート10を準備して、パッチシート10を樹脂配管1の最外バリア層(外面)6に沿わせた状態で、なるべく空気が入らないように保持する。
次いで、パッチシート10を加熱することにより、軟化して粘着性が付与されたパッチシート10を損傷部Sに貼付し、損傷部Sを完全に覆う。この際、損傷部Sがパッチシート10の中央に位置するように貼付することが好ましい。その後、パッチシート10を冷却すると、硬化したバリア層が形成され、損傷部Sが補修される。
【0042】
(貼付方法3)
パッチシート10が粘着層を備えておらず、熱可塑性樹脂からなる基材シートと、パッチバリア層とを備えている場合、まず、損傷部Sよりも大きな面積のパッチシート10を準備して、パッチシート10を樹脂配管1の最外バリア層(外面)6に沿わせた状態で、なるべく空気が入らないように保持する。この際、基材シートを外面6に接触させる。
次いで、パッチシート10を加熱することにより、軟化して粘着性が付与された基材シートを損傷部Sに貼付し、損傷部Sを完全に覆う。この際、損傷部Sがパッチシート10の中央に位置するように貼付することが好ましい。その後、パッチシート10を冷却すると、硬化した基材シートが損傷部Sに接着し、その基材シートを介してパッチバリア層が損傷部Sを覆い、損傷部Sは補修される。
【0043】
パッチシート10を加熱する方法は特に限定されず、例えば、工業用ドライヤーから熱風を吹き付ける方法が挙げられる。
パッチシート10を冷却する方法は特に限定されず、例えば、自然に空冷させる方法が挙げられる。
【0044】
<作用効果>
本発明の樹脂配管の補修方法及びパッチシートによれば、樹脂配管の酸素バリア性が破れた損傷部を、酸素バリア性を有するパッチシートによって覆うことにより、損傷部から樹脂配管内への酸素の透過を遮断することができる。また、樹脂配管を配管システムから取り外さずに補修できるので、配管システムが稼働している現場で補修することができる。